説明

がんまたは炎症を治療するための表面ヌクレオリンの多価合成リガンドの使用

本発明は、細胞増殖及び/又は血管形成の調節解除を含む疾患の治療を意図した医薬、好ましくは表面ヌクレオシドリガンドとして作用する医薬、または炎症性疾患の治療のための医薬の製造のための、少なくとも3つの疑似ペプチド単位が支持体にグラフト (graft)した多価合成化合物の使用に関し、この化合物は下記式(I)を有し、
Ψ
〔(X)n −Y1 −(Z)i −Y2 −(X)m k −支持体 (I)
式中、各Xは独立に任意のアミノ酸を表し;Y1 およびY2 は塩基性側鎖を有するアミノ酸から独立に選択され;Zはγ、βまたはδ位で置換されていてもよいプロリン、天然もしくは非天然アミノ酸のN−アルキル化物、ジアルキルアミノ酸、環状ジアルキルアミノ酸、ピペコリン酸もしくはその誘導体から選択され;nおよびiは独立に0または1であり;mは0〜3の整数であり;kは3以上の整数であり、Ψは、少なくとも1種のプロテアーゼに対して正規のペプチド結合よりも有意に抵抗性である修飾ペプチド結合を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞増殖及び/又は血管形成の調節解除(deregulation) を含む疾患の治療を意図した医薬、好ましくは表面ヌクレオシドリガンドとして作用する医薬の製造のための、少なくとも3つの疑似ペプチド単位が支持体にグラフト (graft)した多価合成化合物の使用に関し、この化合物は下記式(I)を有し、
Ψ
〔(X)n −Y1 −(Z)i −Y2 −(X)m k −支持体 (I)
式中、各Xは独立に任意のアミノ酸を表し;Y1 およびY2 は塩基性側鎖を有するアミノ酸から独立に選択され;Zはγ、βまたはδ位で置換されていてもよいプロリン、天然または非天然N−アルキルアミノ酸、ジアルキルアミノ酸、環状ジアルキルアミノ酸、ピペコリン酸またはその誘導体から選択され;nおよびiは独立に0または1であり;mは0〜3の整数であり;kは3以上の整数であり、Ψは、少なくとも1種のプロテアーゼに対して正規のペプチド結合よりも有意に抵抗性である修飾ペプチド結合を表す。
【背景技術】
【0002】
細胞分裂、即ち有糸分裂は、組織を修復または再生して死細胞に代わるために、細胞を増殖させることを可能にするプロセスである。がん細胞においては、このプロセスの調節に欠陥があり、このことが、これらの細胞が無秩序に分裂し腫瘍を生じる理由である。従って、がんの進展を防止する1つの効果的な治療経路は、抗有糸分裂(anti-mitotic)特性を有する分子を用いるがん細胞の分裂の阻止にある。
【0003】
しかし、現在の抗有糸分裂性の分子(例えば、パクリタキセル−これはタクソールという名でより知られている−またはコルチシン)は区別なくすべての細胞に対して細胞特異性なしで作用するため、多くの望ましくない副作用を引き起こす。従って、有害な作用のより少ない抗有糸分裂性分子を開発することが必要である。
【0004】
どの腫瘍も成長するためには栄養と酸素を必要とする。これらの要素は、血管形成として知られる機構から生じる腫瘍内血管により提供される。事実、これらの血管がないと、腫瘍細胞は細胞壊死過程を経て、腫瘍成長は遅くなり、次いで停止する。従って、がんと闘う別の治療経路の一例は、この機構を調節する分子を阻害することにより血管形成を阻止することにある。
【0005】
現在の抗血管形成性分子の多くは、1種類の血管形成因子に特異的である。このモノ特異性は抵抗現象を生じさせる。1類種の血管形成因子の阻害は、血管形成の補償機構により別の種類の発現を生じる。従って、関係する因子に対して広い活性スペクトルを有する抗血管形成分子を利用できるのが有利である。
【0006】
しかし、血管形成過程だけの阻害は一般的に、腫瘍成長を有効に阻止するのに不十分であることが分かっている。さらに、これは転移の形成を阻止することはない。
従って、腫瘍細胞増殖および腫瘍における血管形成過程の両方を阻害しうる新規な抗がん性分子を利用できるのが極めて有用である。事実、最近の研究は、2種類の治療用分子、即ち抗有糸分裂分子および抗血管形成分子の組み合わせが相乗効果を生じ、これらの分子の1種類のみによる治療に比べ全体の治療効率を著しく向上させることを示している。
【0007】
これら両方の効果、即ち抗有糸分裂性および抗血管形成性をもつ分子はまだ報告されていない。
さらに、現在の抗がん剤の大多数は実際には腫瘍細胞に特異的ではなく、従って、健康な細胞も標的とし、多くの、時には重篤な副作用を生じる。この問題は、ある種の腫瘍の表面分子を標的とする抗体の開発により、解決された例もあった。しかし、抗体の使用は、その他の重大な問題を引き起こし、非毒性の有効な治療用抗体の開発は、時間がかかり、不確実で高コストの操作である。さらに、大規模での、そして厳格な健康的かつ安全な条件下での抗体の製造は特に困難である。その結果、特異的抗体に基づく治療は依然として極めてまれで非常に高コストである。
【0008】
パクリタキセルなどの従来の抗がん剤に関連する別の問題は、これらの分子は高度に疎水性であることが多く、これにより、in vivo での許容しうる生物学的利用能を達成するには複雑で高価な薬剤処方を開発することが必要となる。核酸を用いる治療の場合には、それらを効果的かつ特異的方法でその標的細胞に到達させるのは極めて難しいので、in vivo での生物学的利用能の問題はますます深刻となる。
【0009】
従って、下記の性質を示す抗がん性分子を利用できるようにすることは非常に有用であろう:
−従来の化学療法または放射線療法を併用せず、従ってこれらの種類の治療法に関連する副作用を制限し、単独で有効でありうるように、腫瘍増殖および血管形成に対する二重の阻害作用の結果としての大いに改善された効果、
−治療への抵抗性を防止するための血管形成因子に対するかなり広範な活性スペクトル、−腫瘍細胞へのより大きい特異的の結果としての非常に少ない副作用、
−工業的規模に容易に適合しうる合成プロセス、
−水性媒体中での良好な溶解性および改善されたin vivo 分解過程に対する抵抗性による、特に、より良好な生物学的利用能及び/又はより長いin vivo 半減期の結果としての、とりわけ、腫瘍細胞に対する直接的特異性の結果としての、より使用し易いこと。
【0010】
ヌクレオリン(図1Aの構造参照)は大多数の真核細胞に存在する核タンパク質として最初報告された。より最近には、細胞膜への結合を可能にする膜貫通ドメインが存在しないにもかかわらず、このタンパク質の別の分子形態が細胞表面上にも存在することが示された(1〜4)。この表面ヌクレオリンは細胞内アクチンマイクロフィラメントと密接に関連している。この関連は多分、膜貫通パートナーを介して間接的に生じている。
【0011】
休止細胞では、ヌクレオリンは主に核小体に見られ、また部分的に細胞質および細胞表面にも見られる。細胞増殖の活性化の後、細胞質のヌクレオリンは、小胞体およびゴルジ体と無関係の、通常の機構ではない能動輸送により膜表面へ移動される(1)。
【0012】
従って、表面ヌクレオリンの発現の度合いは、細胞の活性化後、特に細胞増殖の活性化後に大きく増加する。よって、表面ヌクレオリンは増殖相における活性化細胞のマーカーとなる。活性化細胞を標的とするヒト免疫不全ウイルス(HIV)のある特定の場合に、表面ヌクレオリンがHIVによる細胞感染に関与しているかもしれないことが示された(2、5)
さらに、表面ヌクレオリンは、肝臓がん(6)、T−リンパ球性白血病(7および8)および子宮がん細胞(7)由来の腫瘍細胞などの腫瘍細胞の表面、並びに活性化内皮細胞(9)、血管形成過程に関与する細胞の表面で発現することも示された。さらに、表面ヌクレオリンは、各種リガンド、特にミドカイン(midkine)(MK)、ヘバリン結合性調節ペプチド(heparin affin regulatory peptide:HARP:プレイオトロフィンとしても知られる:PTN)およびラクトフェリンなどの数種の成長因子に対して弱い親和性を有する受容体を構成する(10〜12)。
【0013】
最近、特許出願WO 2005/035579において、抗ヌクレオリン抗体、抗ヌクレオリン干渉RNAまたはアンチセンス抗ヌクレオリンオリゴヌクレオチドなどのヌクレオリン結合性薬剤を用いてがんを治療することが可能であることが示唆された。提示された主な結果から、表面ヌクレオリンはがん細胞のマーカーと考えることができ、これはそれ自身は良好な標的にならないことが分かる。マウスにおける予備的結果のみから、抗ヌクレオリン抗体がタクソールによる腫瘍退縮を改善しうることが示される。しかし、かかる抗体単独の効果を証明する結果は何ら報告されておらず、そしてタクソールとの組み合わせによりこの改善を得るために必要とされる用量は示されていない。さらに、前述のように、ヒトでの抗体のin vivo の使用は投与の点で重大な問題を提起する。
【0014】
抗ヌクレオリン剤は種々の経路で作用しうる。特に、かかる剤はタンパク質ヌクレオリンに結合することによって作用したり作用しないかもしれない。干渉性RNA型の剤、即ちアンチセンス抗ヌクレオリンオリゴヌクレオチドについては、多分これらの剤は細胞内核酸のレベルで作用し、ヌクレオリンへの結合のレベルでは作用しない。例えば、米国特許出願US2005/0026860では、アンチセンスヌクレオリンオリゴヌクレオチドがマウスモデルにおいてin vivo での腫瘍退縮に正の効果を有すると報告されている。それにもかかわらず、マウスで観察された効果は部分的であり、より小さい腫瘍が生じており、そして血管形成に対する効果は何ら報告も示唆もされていない。これらの結果は、ヌクレオリンががんの治療において標的であると考えることができることを示唆するが、抗ヌクレオリン剤単独での治療の可能性に導くのではなく、むしろ従来の化学療法に加え単に補助的治療としての平均的効果を示唆する。さらに、前述のように、in vivo でのオリゴヌクレオチドの使用は重大な生物学的利用能の問題を生じる。
【0015】
抗ヌクレオリン剤はまたヌクレオリンタンパク質に直接結合しうる。各種のヌクレオリンリガンドが文献に記載されている:
−ペプチドF3(または腫瘍ホーミングペプチド)は、各種の腫瘍の血管の活性化内皮細胞に結合するタンパク質HMG2Nの34アミノ酸断片に相当するペプチドである。最近、ペプチドF3が内皮細胞において発現するヌクレオリンに結合し、次いで内在化され、能動プロセスによって核に輸送されることが示された。ヌクレオリンへの結合および内在化は抗ヌクレオリン抗体により阻止される。ペプチドF3はいくつかのアミノ酸に富む領域を含むヌクレオリンのN末端領域に結合することが報告された(9)。この出願において、発明者らは、ペプチドF3が、増殖因子HARPにより引き起こされるNIH-3T3 細胞の細胞増殖を阻止できないことを示した(実施例1.1.1 参照)。従って、単に表面ヌクレオリンへ結合し、内在化されるだけでは、このペプチドに腫瘍細胞増殖を阻害する能力を付与するのに十分でない;
−本発明者らにより合成され報告された多価化合物HB19(図2A参照)もまた、RGGドメイン(図1B参照)と相互作用する表面ヌクレオリンのリガンドである(7、8、13、14)。この化合物はHIVにより活性化された細胞の感染(13)、およびヌクレオリンへのその他の天然リガントの結合(10〜12)を阻害するのを可能にするかもしれないことが示された。しかし、腫瘍成長または血管形成を低下及び/又は阻害しうるその能力を証明する結果は報告されていない;
−特許出願WO00/61597号はグアニンに富むオリゴヌクレオチド(GRO)をヌクレオリンと思われるタンパク質に結合し、そして15μM 以上の用量においてin vitroで腫瘍細胞の増殖を阻害するとして記載している(15)。in vivo では、従来の化学療法治療と併用したある種の相乗効果の存在が述べられているだけである。血管形成に対する効果は記載も示唆もない。さらに、GROは主に細胞内ヌクレオリンに結合するようである;
−WO00/61597が特許登録されたグループにより発行された論文において、同じセンス鎖にGROなどのGおよびT塩基を、またAおよびC塩基を含む、MIX1と称される別の混合オリゴヌクレオチドが、GROと同じ効率で、しかし細胞増殖には影響せずにヌクレオリンに結合するとして記載されており、これはヌクレオリンへの結合だけでは細胞増殖を阻害する能力を付与するのに十分でないことを再び示唆する(15);
−最近、あるグループにより、抗ヌクレオリンポリクローナル抗体を含む製剤を用いてVEGFにより誘導される血管形成を阻害することができることが示された(16)。しかし、抗ヌクレオリンポリクローナル抗体製剤は内皮細胞による細管の形成を阻止するにもかかわらず、内皮細胞の増殖は阻止しない。さらに、VEGEにより誘導される血管形成のみが試験されているが、血管形成に関与する因子はその他多数存在し、そして細胞増殖の阻害を示す結果は記載も示唆もされていない。
【0016】
上記より、ヌクレオリンのリガンドがすべて抗腫瘍活性を示すわけではなく、上記で引用したどの文献も、これらのリガンドのいずれかが全般的な腫瘍細胞の増殖および各種因子により引き起こされる血管形成の両方を阻害するようであることを示唆していないことは明らかである。
【0017】
さらに、示された結果は、単独でまたは組み合わせ考慮しても、これらのリガンドが通常の抗がん治療(放射線療法、または特にタクソールなどの通常の化学療法)と組み合わせることなしに単独で使用するのに十分な活性を有するかもしれないことは決して示唆していない。
【発明の開示】
【0018】
しかし、本発明者らは意外にも、5価ペプチド化合物HB19、または同じ種類の少なくとも3つの疑似ペプチド単位が支持体上にグラフトされたその他の化合物が、足場依存性でも非依存性でも(トランスフォームされた細胞に特徴的な増殖)、また各種増殖因子により引き起こされようが、全般的に腫瘍細胞の増殖を阻害すること、および各種因子により引き起こされる血管形成を阻害することを可能にすることを示した。さらに、そしてより重要なことに、本発明者らはマウスモデルにおいて、5価化合物HB19が腫瘍増殖および血管形成の両方のin vivo 阻害を可能にし、また、ペプチドについての通常の用量(5mg/kg)での化合物HB19の抗腫瘍効果は10mg/kgでのタクソールの効果よりも大きいことを示す。タクソールは抗腫瘍治療で使用される標準的分子の1つである。
【0019】
従って、表面ヌクレオリンのその他の上記リガンドが補助的な種類の治療に導くような部分的効果しかもたないようであるのに対し、化合物HB19はマウスにおいてin vivo で標準的抗がん分子であるタクソールよりも大きい効果を示し、これは通常の化学療法分子との組み合わせでなく単独で用いる可能性を示唆している。特に、タクソールの投与量は腫瘍の退縮を生じるが、腫瘍を見つけマウスを致死させてから秤量しているので、退縮は完全ではない。これに対し、2倍低い用量で5価リガンドHB19を用いると、マウスにおいてその致死後腫瘍は見つからず、従って完全な退縮を実証している。
【0020】
従って、多価化合物HB19は、非常に強力な抗がん剤であるようである。この効果はおそらく、本発明者らにより実証されたように、いくつかの異なる増殖因子により引き起こされようが、足場非依存性であろうが、腫瘍細胞の増殖を阻害し、かつ2種類の異なる血管形成因子による血管形成過程を阻害するという二重の能力に関連している。
【0021】
さらに、化合物HB19の存在下で数週間in vitro培養した細胞上でも、また化合物HB19で処置したマウスにおいてin vivo でも、本発明者らにより毒性は何ら見出されなかった。さらに、in vivo 投与後の多価化合物HB19に結合したタンパク質の精製により90%超の表面ヌクレオリンを得ることが可能となり、これは多価化合物HB19とヌクレオリンの間の相互作用の高い特異的を示唆している。これは、副作用の発生の可能性を大きく制限する。本発明者らはまた、ペプチドHB19が表面ヌクレオリンに結合後内在化されうるにもかかわらず、核に到達しないことを示したが、これは健全な細胞にとって毒性がないことを説明する重要な事実である。
【0022】
化合物HB19およびその誘導体もしくは類似体はまた、容易に制御可能な健全で安全な条件下で、工業的規模でさえも容易に合成される。
最後に、この化合物のヌクレオリンに対する、並びに腫瘍細胞および活性化内皮細胞に対する特異性、疑似ペプチド性および水性媒体中での高い溶解性は、それがin vivo での非常に良好な生物学的利用能を有することを意味する。化合物HB19の表面ヌクレオリンに対する特異性は標的分子との結合を必要としない。さらに、HB19の場合に示される各KPR単位のリシンとプロリンの間の修飾ペプチド結合(HB19の場合には還元)の存在は、in vivo でのプロテアーゼに対する良好な抵抗性および24時間超のin vivo 半減期を与え、これはin vivo での半減期が30分を超えない従来のペプチドとは異なる。さらに、化合物HB19は完全に水性媒体に可溶であり、これによって、in vivo での循環および標的化に特定の製剤形態が必要ないため、その投与がさらにより容易になる。
【0023】
従って、5価化合物HB19は、以下のような新規な抗がん性化合物を供給するという、各種技術的課題を解決するのに必要な特性をすべて示す:
−腫瘍増殖および血管形成に対する二重の効果、即ち、タクソールなどの従来の化学療法分子と併用することなく単剤治療を考えることを可能にする効果の結果、単独で高い抗腫瘍効果をもちうる;
−特定の種類のがんに対する特異性を有さず、むしろ腫瘍細胞および活性化内皮細胞に対する広い活性スペクトルを有する;
−健全な細胞に比べた腫瘍細胞および活性化内皮細胞に対する特異性の結果、in vivo での副作用が極めて少ない;
−工業規模に容易に適合させうる合成プロセスをもつ;
−特定の製剤形態の開発を必要としないようにin vivo での十分な生物学的利用能を有する。
【0024】
従って、本発明は、少なくとも3つの疑似ペプチド単位がグラフトした支持体を含む、またはそれから構成された多価合成化合物の、細胞増殖及び/又は血管形成の調節解除を含む疾患の治療を意図する医薬の製造のための使用に関し、該化合物は下記式(I)を有する:
Ψ
〔(X)n −Y1 −(Z)i −Y2 −(X)m k −支持体 (I)
式中、
各Xは独立に任意のアミノ酸を表し;
1 およびY2 は独立に塩基性側鎖アミノ酸から選ばれ;
Zは以下から選ばれ:
−プロリン、ここでプロリンはγ、βもしくはδにおいてヒドロキシル、アミン、C1 −C10アルキル、C1 −C10アルケニル、C1 −C10アルキニル、C5 −C12アリール、C5 −C14アラルキル、C5 −C12ヘテロアリール (有利にはC5 ヘテロアリール) 基により置換されていてもよく、これらの基はそれ自身ハロゲン原子、NO2 、OH、C1 −C4 アルキル、NH2 、CN、トリハロメチル、C1 −C4 アシルオキシ、C1 −C4 ジアルキルアミノ、グアニジノ基、チオール基から選ばれる1〜6個の置換基で置換されていてもよい;
−天然もしくは非天然のアミノ酸のN−アルキル化物;
−ジアルキルアミノ酸;
−環状ジアルキルアミノ酸;または
−ピペコリン酸もしくはその誘導体;
nおよびiは独立に0または1であり;
mは0〜3の整数であり;
kは3以上の整数であり;そして
Ψは少なくとも1種のプロテアーゼに対して正規のペプチド結合よりも有意に抵抗性である修飾ペプチド結合を表す。
【0025】
好ましくは、かかる多価合成化合物は表面ヌクレオリンのリガンドとして作用する。
本発明において、「支持体」なる用語は任意の薬剤的に許容しうる分子、即ち固有の毒性をもたない分子を意味し、これに式(I)の少なくとも3つの疑似ペプチド単位がグラフトしうる。従って、許容しうる支持体は、少なくとも3個の式(I)の疑似ペプチド単位、好ましくは3〜8個の式(I)の疑似ペプチド単位がそれにグラフトするのに十分な大きさを有していなければならない。好ましくは、かかる許容しうる支持体は、少なくとも3個、好ましくは3〜8個の式(I)の疑似ペプチド単位が一緒になって1または2以上のヌクレオリン分子のRGGドメインに相互作用しうるのに十分な大きさであるべきでもある。さらに、支持体は免疫原性であってはならない。
【0026】
かかる支持体は、直鎖ペプチドもしくは環状ペプチド、直鎖もしくは環状のペプトイド (peptoid)(N−置換グリシンオリゴマー)、フォルダマー(foldamer) (溶液中でコンパクトで明確かつ予測可能なコンフォメーションをとる強い傾向をもつオリゴマーもしくはポリマー)、直鎖ポリマーまたは球状デンドロマー(dendromer)(多官能性の中心核の周囲に樹木様プロセスにより結合するポリマーからなる巨大分子)、糖またはナノ粒子から選択しうる。有利には、この支持体は直鎖もしくは環状ペプチドから、または直鎖もしくは環状ペプトイドから選ばれる。
【0027】
直鎖ペプチド(図2A中のHB19の構造参照)の使用は、支持体の合成を容易にし、化合物HB19を用いた本発明者らにより得られた結果から、かかる支持体は本願により提起された技術的課題を実質的に解決することが分かる。本発明において支持体として働く直鎖ペプチドは、有利には25%より多い割合のリシンを含みうる。より正確には、直鎖ペプチドが本発明において支持体として用いられる場合、疑似ペプチド単位は好ましくはリシンのε位にグラフトしている。従って、直鎖ペプチドを本発明において支持体として用いる場合、これはグラフトされるべき疑似ペプチド単位の数と少なくとも同じ数のリシンを好ましくは含有する。
【0028】
例えば、支持体の直鎖ペプチドは、KKKGPKEKGC(SEQ ID NO:1)、KKKKGC(SEQ ID NO:2)、KKKKGPKKKKGA(SEQ ID NO:3)またはKKKGPKEKAhxCONH2(SEQ ID NO:4)から選ばれた配列を有することができ、ここでAhx はヘキサノアミノ酸(hexanoic amino acid)を表し、CONH2 は酸基がアミン基で置換されていることを表し、AhxCONH2は(2S)-2- アミノヘキサンアミドを表し、あるいは2〜4個の単位(KAKPG 、SEQ ID NO:12)からなる直鎖配列、即ち配列AcKAKPGKAKPGKAKPGCONH2(SEQ ID NO:13、ここでAcはアセチル基、CH3-CO- を表し、そしてCONH2 はグリシンの酸基COOHがアミド基CONH2 で置換されていることを意味する)を有することができる。有利には、直鎖ペプチド支持体はKKKGPKEKAhxCONH2(例えば図2AのHB19、SEQ ID NO:5参照。これはこの直鎖ペプチドを支持体として有する)、またはAcKAKPGKAKPGKAKPGCONH2(SEQ ID NO:4、ここでAcはアセチル基、CH3-CO- を表し、そしてCONH2 はグリシンの酸基COOHがアミド基CONH2 で置換されていることを意味する。例えば、図2F中のNucant7、SEQ ID NO:17。これはこの直鎖ペプチドを支持体として有する)。
【0029】
直鎖ペプチドの中で、いくつかはらせん形構造をとることが知られている。これらの直鎖ペプチドも本発明において支持体として使用できる。らせん形構造を形成するかかる直鎖ペプチド支持体には、配列Aib-Lys-Aib-Gly (SEQ ID NO:6)またはLys-Aib-Gly (SEQ ID NO:7)(ここでAib は2−アミノ−イソ酪酸を意味する)のペプチド単位の3以上の整数、特に3〜8の繰り返しからなる支持体がある。これらの単位のそれぞれはリシン残基(Lys)を1個含むので、式(I)の疑似ペプチド単位にグラフトすべき数と同じ数のこれらの単位の繰り返しが必要である。
【0030】
例えば、式(I)の疑似ペプチド単位5個を有する5価化合物を得るには、支持体は、式Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly (SEQ ID NO: 8)またはLys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly (SEQ ID NO:9)のらせん構造を形成する直鎖ペプチドであるうる。有利には、SEQ ID NO:8および9由来の式を有するらせん構造を形成する直鎖ペプチドが使用される。この式は、Ac-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-CONH2(SEQ ID NO:18、ここでAcはアセチル基、CH3-CO- を表し、そしてCONH2 はグリシンの酸基COOHがアミド基CONH2 で置換されていることを意味する。例えば、図2C中のNucant2、SEQ ID NO:20参照。これはこのペプチドを支持体として有する)、またはAc-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-CONH2(SEQ ID NO:19、ここでAcはアセチル基、CH3-CO- を表し、そしてCONH2 はグリシンの酸基COOHがアミド基CONH2 で置換されていることを意味する。例えば、図2D中のNucant3、SEQ ID NO:21参照。これはこのペプチドを支持体として有する)から選択される。
【0031】
あるいは、式(I)の疑似ペプチド単位6個を有する6価化合物を得るには、使用する支持体は、式Ac-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-Aib-Lys-Aib-Gly-CONH2(SEQ ID NO:14、ここでAcはアセチル基、CH3-CO- を表し、そしてCONH2 はグリシンの酸基COOHがアミド基CONH2 で置換されていることを意味する)、またはAc-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-Lys-Aib-Gly-CONH2(SEQ ID NO:15、ここでAcはアセチル基、CH3-CO- を表し、そしてCONH2 はグリシンの酸基COOHがアミド基CONH2 で置換されていることを意味する。例えば、図2E中のNucant6、SEQ ID NO:17参照。これはこのペプチドを支持体として有する)の、らせん構造を形成する直鎖ペプチドでありうる。
【0032】
環状ペプチドまたはペプトイドもまた支持体として有利に使用できる。特に、これにより構造の可動性を制限できる。環状ペプチドまたはペプトイド支持体は、ヘキサ−、オクタ−、デカ−またはドデカ−環状ペプチド、好ましくは交互にL(左旋性)およびD(右旋性)の立体配置のアミノ酸残基からなるペプチド(D,L−環状ペプチド)、またはN−アルキルグリシン残基の鎖(環状ペプトイド)から主に選択できる。かかる支持体を有する化合物の例は、図2B(化合物Nucant01)に示されるように、KとPとの間にΨ(Ψ=(CH2N- ))結合をもつ3個のKPR単位を有する、立体配置Dのアラニン(A)残基および立体配置Lのリシン(K)残基の交互からなる環状ヘキサペプチドである。
【0033】
有利には、本発明の式(I)の化合物のための支持体は、立体配置Dのアラニン(A)残基および立体配置Lのリシン(K)残基の交互からなる環状ヘキサペプチド、または配列SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:18もしくはSEQ ID NO:19の直鎖ペプチドから選択された支持体である。
【0034】
本発明においては、疑似ペプチド単位に関し、「グラフトした(grafted)」なる用語は、直接あるいは疑似ペプチドと支持体との間にスペーサー化合物という中間物を介して、共有結合によって支持体に結合していることを意味する。この結果、ある特定の態様において疑似ペプチド単位は、疑似ペプチド単位と支持体との間のスペーサー化合物なしに支持体に直接グラフトしている。別の態様では、疑似ペプチド単位はスペーサーの中間物を介して支持体にグラフトしている。許容しうるスペーサーの例としては、エチレングリコール型の化合物、ピペラジンまたはアミノヘキサン酸もしくはβ−アラニン型のアミノ酸がある。
【0035】
支持体が直鎖または環状ペプチドであり、疑似ペプチド単位がペプチドに直接グラフトしている場合は、好ましくはペプチドと疑似ペプチド単位の間の結合は、ペプチド支持体のリシン残基においてリシンのαもしくはε位のアミノ基、好ましくはε位のアミノ基(側鎖上)で行われる。従って、ペプチド支持体上の疑似ペプチド単位の直接グラフト結合は有利には、疑似ペプチド単位のC末端位のアミノ酸の酸基COOHと、リシン残基のアミノ基、好ましくはリシンのε位のアミノ基(側鎖上)との間のアミド結合により行われる。
【0036】
本発明の化合物においては少なくとも3個の疑似ペプチド単位が支持体にグラフトしている。事実、本発明者らの結果は、化合物HB19、誘導化合物もしくは類似体の格別の抗腫瘍効果についてヌクレオリンのRGGドメイン(図1参照)への結合の重要性を示している。ヌクレオリンのRGGドメインへの結合は、式(I)に取り込んだものなど、いくつかの疑似ペプチド単位の多価提示により得られる。支持体が配列KKKGPKEKGC、KKKKGC、KKKKGPKKKKGAまたはKKKGPKEKAhxCONH2の直鎖ペプチドである化合物について、本発明者らは、3単位より少ない(k<3)とヌクレオリンへの結合の効率はより低くなり、抗腫瘍効果はおそらく少なくなることを示した。従って、本発明の化合物は支持体にグラフトした少なくとも3個の疑似ペプチド単位を含み、kは3以上の整数である。よって本発明の化合物は有利には支持体上にグラフトした3〜8個の疑似ペプチド単位(3≦k≦8)を提示する。さらに、本発明者らは、疑似ペプチド単位の数が多くなるに従いヌクレオリンへの結合の効率が増加することはないため、活性は、支持体上にグラフトした疑似ペプチド単位が5または6(k=5)で最適となることを示した。従って有利には、式(I)の化合物においてkは3〜8、好ましくは4〜7、4〜6、4〜5、または5〜6である。さらに有利には、式(I)の化合物においてkは5であるかより良くは6である。
【0037】
本発明において、「任意のアミノ酸」なる用語は、1または2以上の置換基の存在により修飾されていてもよい、任意の天然または合成アミノ酸を意味する。より正確には、アミノ酸なる用語は下記の一般構造を有するαアミノ化アミノ酸を意味する:
【0038】
【化1】

【0039】
式中、Rはアミノ酸の側鎖を表す。よって、本発明においてRは天然または非天然のアミノ酸の側鎖を表す。「天然アミノ酸」なる用語は生体においてin vivo で天然に見出される任意のアミノ酸を意味する。従って、天然アミノ酸には、タンパク質に翻訳されるmRNAによりコードされるアミノ酸だけでなく、代謝過程の産物または副産物である、in vivo で天然に見出されるその他のアミノ酸も含まれる。例えば、L−アルギニンからアルギナーゼにより尿素産生過程で生成するオルニチンがある。よって、本発明において、使用されるアミノ酸は天然でも非天然でもよい。特に、天然アミノ酸は一般にLの立体配置をもつが、本発明によればアミノ酸はLまたはDの立体配置をもちうる。さらに、Rは当然、天然アミノ酸の側鎖に限定されることはなく、自由に選択されうる。
【0040】
式(I)の化合物の疑似ペプチド単位において、Zは存在しないか(i=0)または存在し(i=1)、以下から選ばれる:
−プロリン、これはγ、βまたはδにおいてヒドロキシル基、アミン、C1 −C10アルキル、C1 −C10アルケニル、C1 −C10アルキニル、C5 −C12アリール、C5 −C14アラルキル、C5 −C12ヘテロアリール (有利にはC5 ヘテロアリール) 基により置換されていてもよく、これらの基はそれ自身ハロゲン原子、NO2 、OH、C1 −C4 アルキル、NH2 、CN、トリハロメチル、C1 −C4 アシルオキシ、C1 −C4 ジアルキルアミノ、グアニジノ基、チオール基から選ばれる1〜6個の置換基で置換されていてもよい;
−天然もしくは非天然のアミノ酸のN−アルキル化物;
−ジアルキルアミノ酸( 例えばイソブチルアミノ酸) ;
−環状ジアルキルアミノ酸;または
−ピペコリン酸もしくはその誘導体;
「C1 −Ci アルキル」なる用語は、式−Cj 2j+ 1 の直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素基を意味し、ここで1≦j≦iである。よって、C1 −C10アルキルにはC1 アルキル(メチル)、C2 (エチル)、C3 (n−プロピルもしくはイソプロピル)、C4 (n−ブチル、イソブチル、sec−ブチルもしくはtert−ブチル)、C5 (例:n−ペンチル、ネオペンチル、イソペンチル、tert−ペンチル)およびC6 −C10アルキルが含まれる。「C1 −C10アルケニル」なる用語は、1〜10の炭素原子からなる直鎖もしくは分岐の不飽和炭化水素基を意味し、少なくとも1つのC=C二重結合を含む。「C1 −C10アルキニル」なる用語は、1〜10の炭素原子および少なくとも1つのC≡C三重結合を有する直鎖もしくは分岐の不飽和炭化水素基を意味する。「C5 −C12アリール」なる用語は、炭素数5〜12の芳香族多環式または単環式炭化水素基を意味する。「C5 −C14アラルキル」なる用語は、合計炭素数5〜14のアルキルとアリールとの組み合わせを意味する。「C5 −C12ヘテロアリール」なる用語は、通常炭素数5〜12の炭化水素鎖上の少なくとも1個の炭素原子が、N、OまたはSから選択された別の原子により置換されているアリール基を意味する。従って、「C5 ヘテロアリール」なる用語は、炭化水素鎖上の5個の炭素原子のうち少なくとも1個の炭素原子が、N、OまたはSから選択された別の原子により置換されているアリール基を意味する。「C1 −C4 アシルオキシ」なる用語は、式−O(O)C−(C1 −C4 アルキル)、−O(O)C−(C4 −C12シクロアルキル)、−O(O)C−(C4 −C12アリール)、−O(O)C−(C4 −C12アリールアルキル)または、−O(O)C−(C4 −C12ヘテロアリール)の基を意味する。有利には、式(I) の化合物において、かかる「C1 −C4 アシルオキシ」は、式−O(O)C−(C1 −C4 アルキル)、−O(O)C−(C4 シクロアルキル)、−O(O)C−(C4 アリール)、−O(O)C−(C4 アリールアルキル)または、−O(O)C−(C4 ヘテロアリール)から選択される。「C1 −C4 ジアルキルアミノ」なる用語は、式−N(C1 −C4 アルキル)2 の基を意味し、ここで各アルキルは同じでも異なっていてもよい。
【0041】
「N−アルキルアミノ酸」なる用語は、アミン基の水素原子の1個がC1 −C10アルキル鎖またはC5 −C14、好ましくはC5 −C10、特にC10アリールアルキル基 (置換されていてもよい) で置換されている任意のアミノ酸である。N−アルキルアミノ酸の例には、N−メチルグリシン、即ちサルコシン、N−メチルイソロンシン酸、N−メチルバリン酸などがある。「ジアルキルアミノ酸」なる用語は、2個の水素原子(中央の炭素またはアミン基上の)がC1 −C10アルキル鎖またはC5 −C14、好ましくはC5 −C10、特にC10アリールアルキル基 (置換されていてもよい) で置換されている任意のアミノ酸である。ジアルキルアミノ酸の例には、2−アミノイソブチル酸(Aib)、アミノシクロプロパンカルボン酸などがある。
【0042】
有利にはZは存在し、i=1である。また有利には、Zが存在する(i=1)場合、Zはプロリンであり、これは前述のようにγ、βまたはδにおいて置換されていてもよい。
式(I)の化合物の疑似ペプチド単位において、Y1 およびY2 は塩基性側鎖を有するアミノ酸から選択される。「塩基性側鎖を有するアミノ酸」なる用語は、側鎖Rが7より大きいpKa値を有する(pKa(R)>7)任意の天然または非天然のアミノ酸を意味する。従って、側鎖が7より大きい、好ましくは7.5より大きい、8より大きい、8.5より大きい、または9より大きいpKa値を有する限り、任意のアミノ酸がY1 およびY2 について使用できる。特に、側鎖が7より大きいpKa値を有する天然のアミノ酸には、リシン(K、pKa(R)≒10.5)、アルギニン(R、pKa(R)≒12.5)、オルニチン(リシンの低級類似体、pKa(R)≒10.8)があり、一般に天然の塩基性アミノ酸と考えられる。従って、有利な態様においては、Y1 およびY2 はアルギニン(R)、リシン(K)およびオルニチンから独立に選ばれる。より有利には、Y1 はリシン(K)でありY2 がアノギニン(R)である。しかし、側鎖RのpKa値が7より大きい、好ましくは7.5より大きい、8より大きい、8.5より大きい、または9より大きければ、その他の非天然アミノ酸が代わりに使用できる。
【0043】
本発明の化合物において、ヌクレオリンのRGGドメインに結合するために必須の疑似ペプチド単位は式(II)を有するサブユニットである:
Ψ
1 −(Z)i −Y2 (II)
式中、Y1 およびY2 は上記定義の通りである。しかし、上記に定義した複数のアミノ酸の、この必須のサブユニットの一方または他方における存在はヌクレオリンへの結合を妨げるようなものではない。これは、式(II)の必須のサブユニットが一端及び/又は他端に、式(I)においてそれぞれ(X)n および(X)m (ここでnは0または1、mは0〜3の整数である)により表される任意のアミノ酸を0〜3個含有することができる理由である。有利には、式(II)の必須サブユニットの一端及び/又は他端に存在するアミノ酸の数は少ない、即ち、nは有利には0であり、mは有利には0〜2の整数、有利には0または1、有利には0である。よって、有利な態様ではnおよびmは0である。
【0044】
本発明の化合物において、式(II)のサブユニットは、少なくとも1種のプロテアーゼに対して正規のペプチド結合より有意に抵抗性である修飾ペプチド結合Ψを含有する。
「正規のペプチド結合」なる用語は、天然のタンパク質中の2つのアミノ酸間に通常存在する式(−CONH−)のアミド結合を意味する。かかる結合はプロテアーゼの作用に対して感受性である。「修飾ペプチド結合Ψ」なる用語は、式(−CONH−)を有する正規のペプチド結合とは異なる化学式をもつ、2つのアミノ酸間の化学結合を意味する。この修飾結合Ψは、少なくとも1種のプロテアーゼに対して式(−CONH−)の正規ペプチド結合よりも有意に抵抗性であるようなものである。「ペプチダーゼ」または「タンパク質分解酵素」としても知られる「プロテアーゼ」とは、タンパク質中の正規ペプチド結合を開裂させる任意の酵素である。この過程はタンパク質分解として知られる。これは水分子の使用を含み、そのためプロテアーゼは加水分解酵素に分類される。プロテアーゼには特に、タンパク質のN末端の開裂を行うN−ペプチダーゼとして知られるプロテアーゼがある。これらのプロテアーゼは修飾ペプチド結合をもたないペプチドのin vivo での安定性の点で特に不都合である。これは、ヌクレオリンへの結合に必須である、式(II)のサブユニットの、特にこれらのN−ペプチダーゼに対する抵抗性が有意に増加するように、式(I)の化合物の疑似ペプチド単位が、Y1 およびZの間(i=1の場合)、またはY1 およびY2 の間(i=0の場合)の修飾結合Ψを含有する理由である。従って、Ψ結合は少なくとも1種のN−ペプチダーゼに対する抵抗性を有意に増加させることを可能にするべきである。これによって、in vivo およびin vitroでの式(I)の化合物の半減期を有意に増加させることが可能となる。特に、修飾結合Ψを含有するHB19化合物は37℃でヒト血清またはウシ胎仔血清において24時間より長い半減期を有し、一方、Ψ結合の代わりに正規ペプチド結合を有する同じ化合物はこれらの同じ条件下で1時間の半減期を有するだけである。
【0045】
さらに、本発明者らは、この修飾結合Ψの存在がヌクレオリンへの結合効率も有意に向上させうることも見出した。この現象は、これが化合物HB19がヌクレオリンと非可逆的複合体を形成することを可能にするという事実によるかもしれない。
【0046】
少なくとも1種のプロテアーゼに対する抵抗性を大きく向上させるような各種化学結合は既知である。従って、有利な態様において、Ψは、還元された結合(−CH2 NH−)(または、結合がプロリンとの結合の場合のように第二アミン基のレベルで生じる場合には、(−CH2 N−))、レトロ−インバーソ (retro-inverso)結合(−NHCO−)、メチレンオキシ結合(−CH2 −O−)、チオメチレン(−CH2 −S−)、カルバ (carba)結合(−CH2 −CH2 −)、ケトメチレン結合(−CO−CH2 −)、ヒドロキシエチレン結合(−CHOH−CH2 −)、(−N−N−)結合、E−アルケン結合、または(−CH=CH−)結合を表す。特に、本発明者らは、還元された結合(−CH2 NH−)を用いると少なくとも1種のプロテアーゼに対する抵抗性を有意に向上させうることを見出した。従って有利には、Ψは還元された結合(−CH2 NH−)を表す。
【0047】
1 とZの間(i=1の場合)、またはY1 とY2 の間(i=0の場合)のΨのみが式(I)の化合物中に意図的に存在するにもかかわらず、疑似ペプチド単位の他のペプチド結合が上述のように修飾されることも可能である。特に、本発明において、特定されないアミノ酸間の結合は正規ペプチド結合であっても上記の修飾結合Ψであってもよい。追加のΨ結合の存在は、式(I)の化合物のプロテアーゼに対する抵抗性をさらに増すことができる。しかし、Y1 とZの間(i=1の場合)、またはY1 とY2 の間(i=0の場合)の最初のΨ結合の存在による増加は既に高度に有意であり、他のΨ結合の追加は疑似ペプチド単位、従って式(I)の化合物の合成を面倒にする。よって、追加のΨ結合の存在は可能であるが、任意である。
【0048】
本発明において使用できる化合物の例には、特に以下の化合物(図2および実施例1、2、3および4参照)がある:
−HB19(図2A、SEQ ID NO:5。5つの疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)が5つのリシン残基のそれぞれのεアミノ基に共有結合しているSEQ ID NO:4の直鎖ペプチドを支持体として有する化合物)、
−Nucant01(図2B。立体配置Dのアラニン残基(A)と立体配置Lのリシン残基(K)が交互に存在する環状ヘキサペプチドを支持体として有する化合物、ここで3つの疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)は3つのリシン残基(K)のそれぞれのεアミノ基に共有結合している、SEQ ID NO:2参照)、
−Nucant2(図2C、SEQ ID NO:20。配列SEQ ID NO:18のらせん構造を有する直鎖ペプチドを支持体として有する化合物、ここで5つの疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)は5つのリシン残基のそれぞれのεアミノ基に共有結合している)、
−Nucant3(図2D、SEQ ID NO:21。配列SEQ ID NO:19のらせん構造を有する直鎖ペプチドを支持体として有する化合物、ここで5つの疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)は5つのリシン残基(K)のそれぞれのεアミノ基に共有結合している)、
−Nucant6(図2E、SEQ ID NO:16。配列SEQ ID NO:15のらせん構造を有する直鎖ペプチドを支持体として有する化合物、ここで6つの疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)は6つのリシン残基(K)のそれぞれのεアミノ基に共有結合している)、
−Nucant7(図2F、SEQ ID NO:17。配列SEQ ID NO:13の直鎖ペプチドを支持体として有する化合物、ここで6つの疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)は6つのリシン残基(K)のそれぞれのεアミノ基に共有結合している)、
上記化合物は、細胞増殖及び/又は血管形成の調節解除を含む疾患の治療に使用する医薬の製造に用いられる。「細胞増殖及び/又は血管形成の調節解除を含む疾患」なる用語は、本発明において、1または2以上の細胞、細胞もしくは組織の集団の異常な増殖現象、及び/又は異常な血管新生が観察される、1または2以上の器官を冒すヒトもしくは動物の任意の疾患を意味する。明らかに、かかる疾患には腺腫、肉腫、がん腫、リンパ腫などのすべての種類のがん、特に、卵巣、乳房、膵臓、リンパ節、皮膚、血液、肺、脳、腎臓、肝臓、鼻咽頭、腔、甲状腺、中枢神経系、前立腺、結腸、直腸、子宮頸、精巣または膀胱のがんが含まれる。それらには表皮もしくは皮膚の嚢胞、乾癬、血管腫などの非がん性疾患;加齢黄斑変性(ARMD)、糖尿病性網膜症もしくは血管新生緑内障などの眼の疾患;多発性硬化症、パーキンソン病およびアルツハイマー病などの神経変性疾患、または狼瘡やリウマチ性多発関節炎などの自己免疫疾患、およびアテローム硬化症に関連する疾患も含まれる。
【0049】
有利には、細胞増殖及び/又は血管形成の調節解除を含む前記疾患は、がん、特に上記したうちの1つである。
本発明はまた、下記からなる、細胞増殖および血管形成の両方を阻害する分子のスクリーニング方法にも関する:
a)表面ヌクレオリンを発現している細胞を試験分子と共に置き、そして
b)該試験分子の、ヌクレオリンのRGGドメインに結合する能力を測定する。
【0050】
ヌクレオリンの60アミノ酸の合成RGGドメインを、化学合成、またはその核酸DNA配列の発現を介した遺伝子工学を用いて生産することが可能である。次いで、該試験分子の、ヌクレオリンのRGGドメインに結合する能力の測定は当業者に既知の各種技術により行うことができる。
【0051】
特に、この測定は、表面プラズモン共鳴法、殊にBiacore TR3000の装置を用いて60アミノ酸の合成RGGドメインへの結合を測定することにより行うことができる。Biacore TRシステムは、表面プラズモン共鳴(SPR) の物理的原理を用いるバイオセンサーである。これはリアルタイムで、特異的な標識なしに、生体特異的 (biospecific)な表面における2つの分子の間の相互作用の動的定数 (KaおよびKd) の測定を可能にする。このためには、分子の1つ(リガンド)をセンサー表面に固定化し、他方(検体)を注入する。SPRによる検出の原理は、分子複合体の形成および分離によるバイオセンサー表面での質量の変化に関連する、表面近くの屈折率における変化の定量である。単色の偏光が異なる屈折率を有する2つの媒体間の界面に到達し、この界面が金属の薄い層で被覆されていると、反射光の強度は特定の入射角については明らかに減少する。これは、光の1電磁成分、一過性の波が界面に垂直に1μmまで広がるという事実に由来する。共鳴角は特に表面近くに位置する分子の重量の関数として変動する。その結果、時間の関数としてのSPR角をモニターすることにより、リガンドと検体の結合と分離をリアルタイムで観察できる。得られたシグナルを記録する(センソグラム、sensogram)。これは共鳴単位(RU)で定量化される。1000RUの変化は角度で0.1 °のずれに相当し、mm2 当たり1ngのタンパク質の結合に匹敵する。従って、この技術によれば試験分子のRGGドメインへの結合能だけでなく、ヌクレオリンのRGGへの該分子の結合効率(親和性定数)を確認することができる。
【0052】
ビオチンで標識された、またはGST(グルタチオンS-トランスフェラーゼ) などのペプチドもしくはタンパク質に融合した合成RGGドメインを製造することも可能である。ビオチンまたはGSTが存在すると、標識アビジン/ストレプトアビジンリガンド(蛍光性、発光性、放射性など)によって、RGGドメインがビオチニル化されているかどうか、及び/又はRGGドメインがGSTに融合している場合には抗GST抗体が存在するかどうかを検出することが可能となる。正確さは低いが、これらの技術は、ヌクレオリンのRGGドメインへの結合能について多数の分子のより速く容易なスクリーニングを可能にし、その後、ヌクレオリンのRGGドメインへの結合効率のより正確な決定を上述の表面プラズモン共鳴法を用いて行うことができる。
【0053】
このように、まず、ヌクレオリンのRGGドメインへの結合能の迅速かつ簡便なスクリーニングを行うことが好ましい。次いで、表面プラズモン共鳴法によりRGGドメインへ結合しうる候補の、RGGドメインへの結合効率を決定することにより、検体を精製することができる。しかし、少数の化合物しか試験されない場合には、RGGドメインの結合効率は表面プラズモン共鳴法を用いて直接測定できる。
【0054】
本発明はさらに、上記で定義した化合物に関するが、但し、その支持体が、KPG、KGP、KGC、またはKX1 KX4 KX1 K(ここでX1 は任意であり、リシン(K)、バリン(V)、アラニン(A)、グルタミン酸(E)およびイソロイシン(I)から選ばれ、X4 は任意であり、バリン(V)、アラニン(A)、グルタミン酸(E)およびイソロイシン(I)から選ばれる)から選ばれるアミノ酸配列を含む非環状ペプチドである化合物を除く。
【0055】
特に、支持体(上記段落において除外したもの以外)、疑似ペプチド単位が支持体にグラフトされる様式、およびアミノ酸X、Y1 およびY2 、nおよびmまたはYは上記任意の態様における形態でありうる。
【0056】
本発明はまた、支持体が直鎖ペプチドである化合物を除いた上記化合物にも関する。特に、支持体(直鎖ペプチド以外)、疑似ペプチド単位が支持体にグラフトされる様式、およびアミノ酸X、Y1 およびY2 、nおよびmまたはYは上記任意の態様における形態でありうる。
【0057】
特に、支持体は、Aib−K−Aib−G(SEQ ID NO:6)もしくはK−Aib−G(SEQ ID NO:7)から選択されたアミノ酸からなる直鎖ペプチド、環状ペプチド、直鎖もしくは環状ペプトイド、フォルダマー、直鎖ポリマーもしくは球状デンドリマー、糖またはナノ粒子から選択されうる。
【0058】
有利ないくつかの例では、支持体はSEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15SEQ ID NO:18およびSEQ ID NO:19から選ばれるアミノ酸配列からなる直鎖ペプチドでありうる。
【0059】
本発明の化合物は、特に、支持体が上記のNucant01(図2B)などの環状ペプチド、またはNucant2(SEQ ID NO:20、図2C)およびNucant3(SEQ ID NO:21、図2D)などのらせん構造を有する直鎖ペプチドである化合物を含みうる。これらはまた、化合物Nucant6(SEQ ID NO:16、実施例4および図2E参照)も含みうる。
【0060】
本発明はまた、化合物としての、化合物Nucant7(SEQ ID NO:17、図2F)にも関する。
本発明はさらに、医薬としての使用のための、支持体がKPG、KGP、KGC、またはKX1 KX4 KX1 K(ここでX1 は任意であり、リシン(K)、バリン(V)、アラニン(A)、グルタミン酸(E)およびイソロイシン(I)から選ばれ、X4 は任意であり、バリン(V)、アラニン(A)、グルタミン酸(E)およびイソロイシン(I)から選ばれる)から選ばれるアミノ酸配列を含む非環状ペプチドである化合物を除く、上記化合物に関する。
【0061】
特に、支持体(上記段落において除外したもの以外)、疑似ペプチド単位が支持体にグラフトされる様式、およびアミノ酸X、Y1 およびY2 、nおよびmまたはYは上記任意の態様における形態でありうる。
【0062】
本発明はまた、医薬としての使用のための、支持体が直鎖ペプチドである化合物を除いた上記化合物に関する。特に、支持体(直鎖ペプチド以外)、疑似ペプチド単位が支持体にグラフトされる様式、およびアミノ酸X、Y1 およびY2 、nおよびmまたはYは上記任意の態様における形態でありうる。
【0063】
特に、支持体は、Aib−K−Aib−G(SEQ ID NO:6)もしくはK−Aib−G(SEQ ID NO:7)から選択されたアミノ酸配列からなる直鎖ペプチド、環状ペプチド、直鎖もしくは環状ペプトイド、フォルダマー、直鎖ポリマーもしくは球状デンドリマー、糖またはナノ粒子から選択されうる。
【0064】
有利ないくつかの例では、支持体はSEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:18およびSEQ ID NO:19から選ばれるアミノ酸配列からなる直鎖ペプチドでありうる。
【0065】
医薬としての使用のためのかかる化合物は、特に、支持体が上記のNucant01(図2B)などの環状ペプチド、またはNucant2(SEQ ID NO:20、図2C)およびNucant3(SEQ ID NO:21、図2D)などのらせん構造を有する直鎖ペプチドである化合物を含む。これらはまた、化合物Nucant6(SEQ ID NO:16、実施例4および図2E参照)も含みうる。
【0066】
本発明はまた、医薬としての使用のための、化合物Nucant7(SEQ ID NO:17、図2F)にも関する。
本発明はさらに、支持体がKPG、KGP、KGC、またはKX1 KX4 KX1 K(ここでX1 は任意であり、リシン(K)、バリン(V)、アラニン(A)、グルタミン酸(E)およびイソロイシン(I)から選ばれ、X4 は任意であり、バリン(V)、アラニン(A)、グルタミン酸(E)およびイソロイシン(I)から選ばれる)から選ばれるアミノ酸配列を含む非環状ペプチドである化合物を除く上記化合物を含む薬剤組成物に関する。
【0067】
特に、支持体(上記段落において除外したもの以外)、疑似ペプチド単位が支持体にグラフトされる様式、およびアミノ酸X、Y1 およびY2 、nおよびmまたはYは上記任意の態様における形態でありうる。
【0068】
本発明はまた、支持体が直鎖ペプチドである化合物を除いた上記化合物を含む薬剤組成物に関する。特に、支持体(直鎖ペプチド以外)、疑似ペプチド単位が支持体にグラフトされる様式、およびアミノ酸X、Y1 およびY2 、nおよびmまたはYは上記任意の態様における形態でありうる。
【0069】
特に、支持体は、Aib−K−Aib−G(SEQ ID NO:6)もしくはK−Aib−G(SEQ ID NO:7)から選択されたアミノ酸配列からなる直鎖ペプチド、環状ペプチド、直鎖もしくは環状ペプトイド、フォルダマー、直鎖ポリマーもしくは球状デンドリマー、糖またはナノ粒子から選択されうる。
【0070】
有利ないくつかの例では、支持体はSEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:18およびSEQ ID NO:19から選ばれるアミノ酸配列からなる直鎖ペプチドでありうる。
【0071】
本発明の薬剤組成物は、特に、支持体が上記のNucant01(図2B)などの環状ペプチド、またはNucant2(SEQ ID NO:20、図2C)およびNucant3(SEQ ID NO:21、図2D)などのらせん構造を有する直鎖ペプチドである化合物を含みうる。これらはまた、化合物Nucant6(SEQ ID NO:16、実施例4および図2E参照)も含みうる。
【0072】
本発明はまた、化合物Nucant7(SEQ ID NO:17、図2F)を含む薬剤組成物にも関する。
かかる薬剤組成物は、本発明の化合物と、薬剤的に許容しうる支持体とを混合する。
【0073】
本発明はまた、少なくとも3個の疑似ペプチド単位がグラフトした支持体を含むまたはそれから構成される合成多価化合物の、炎症性疾患の治療を意図する医薬の製造のための使用に関し、該化合物は式(I)を有し:
Ψ
〔(X)n −Y1 −(Z)i −Y2 −(X)m k −支持体 (I)
式中、
各Xは独立に任意のアミノ酸を表し;
1 およびY2 は独立に塩基性側鎖アミノ酸から選ばれ;
Zは以下から選ばれ:
−プロリン、ここでプロリンはγ、βもしくはδにおいて置換されていてもよく;
−天然もしくは非天然のアミノ酸のN−アルキル化物;
−ジアルキルアミノ酸;
−環状ジアルキルアミノ酸;または
−ピペコリン酸もしくはその誘導体;
nおよびiは独立に0または1であり;
mは0〜3の整数であり;
kは3以上の整数であり;そして
Ψは少なくとも1種のプロテアーゼに対して正規ペプチド結合よりも有意に抵抗性である修飾ペプチド結合を表す。
【0074】
現在、慢性炎症性疾患、特に細胞媒介による自己免疫疾患は一部はサイトカインにより引き起こされることは確立されている。各種実験動物モデルで得られる結果は、疾患の病因論においてサイトカインが果たす役割を明らかにした(17)。例えば、腫瘍壊死因子α (TNF-α) 、インタロイキン1(IL-1) 、IL-6、IL-15 およびIL-18 などの前炎症性(proinflammatory)サイトカインは、リウマチ性多発関節炎の患者において免疫および炎症反応を調節する。特に、TNF-αおよびIL-1βは軟骨および骨髄の破壊を促進する。
【0075】
さらに、炎症過程において、血管内皮は炎症巣における白血球の補充に関与する種々のケモカインおよび接着分子を発現する (18) 。
IL-8 は炎症の部位である組織において白血球の活性化および選択的補充を引き起こすC-X-C ケモカインである。高いレベルで発現されると、IL-8は生体にとって病的結果をもたらす。リポ多糖類 (LPS)およびTNF-αやIL-1などの前炎症性サイトカインは、man y 細胞種、特に内皮細胞によるIL-18 の分泌を生じさせる (19) 。
【0076】
細胞間接着分子-1 (Intercellular Adhesion Molecule-1, ICAM-1)は、内皮細胞および免疫応答に関与する細胞を含むいくつかの細胞種の表面において発現される免疫グロブリン型タンパク質である。これは、炎症の部位への白血球の接着および遊走に重要な役割を果たす (20) 。
【0077】
前炎症性サイトカインはまた、細菌感染により生じる全身の炎症反応 (敗血症性ショック) にも関与する。リポ多糖類 (LPS) はグラム陰性細菌の外側の膜の必須成分である。この免疫刺激分子は、グラム陰性細菌感染にしばしば伴う、敗血症性ショックと称される全身の炎症反応を引き起こす一因となる。LPS はリンパ性網皮細胞によるTNF-α、IL-1およびIL-6などのサイトカインの産生を刺激するという生物学的性質を有する。これらのサイトカインの誘導は敗血症症候群の進展において中心的役割を担う、というのはTNF-αはin vivo においてIL-1およびIL-6の産生を引き起こしうるので、TNF-α単独の投与は敗血症症状と死亡に至らしめうるからである。さらに、動物モデルにおいて抗TNF-α抗体およびIL-1受容体アゴニストでの予備処置により、動物をLPS の致死的影響から防御することが可能になる (21) 。
【0078】
重篤な敗血症は、攻撃的炎症反応と器官不全を伴う。これはしばしば高い死亡率につながる。これは、細菌、真菌またはウイルス感染により生じるうる。この反応は前炎症性サイトカイン、次いで炎症性のサイトカインの連続的分泌を特徴とする。最も重要な前炎症性サイトカインにTNF-αおよびIL- βがある。現在まで、抗LPS または抗サイトカイン薬を含む臨床試験は成功していない (22、23) 。
【0079】
前炎症性サイトカインはまた、心内膜の炎症(心内膜炎)、心膜の炎症(心膜炎)または心筋の炎症(心筋炎)の形で現れる、心炎、即ち心臓の炎症に罹患した患者において生理病理学的役割も果たしているようである。例えば、特にスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)感染により生じうる感染性心内膜炎の患者においてはIL-6の血清レベルが有意により高い。このように、IL-6の高い血清レベルは、感染性心膜炎の存在を示唆することができ、この疾患の診断および治療の経過観察の手段として使用できる (24、25) 。
【0080】
炎症性疾患におけるTNF-α、IL-1およびIL-6などの前炎症性サイトカインの役割の重要さを考え、抗TNF-α、抗IL-1および抗IL-6薬を含む抗炎症性サイトカイン療法が、炎症性疾患に罹患した患者の治療のために開発されてきた (26) 。
【0081】
リウマチ性関節炎や腹部炎症性疾患などの慢性の炎症性疾患の治療における抗炎症性サイトカイン薬を含む各種の臨床試験はいくつか成功した:Etanercept (TNF 受容体-P75 Fc 融合タンパク質) 、Infliximab (キメラヒト抗TNF-αモノクローナル抗体) 、Adalimumab (組換えヒト抗TNF-αモノクローナル抗体) およびAnakinra (ヒトIL-1β受容体アンタゴニストの組換え形態) (22)。
【0082】
それにもかかわらず、現在まで利用可能な抗炎症性サイトカイン薬はすべてタンパク質であり、従ってタンパク質医薬に伴う欠点、特に生産の高コストおよび大規模生産に関連する問題がある。
【0083】
従って、前炎症性サイトカインの合成経路を特異的に標的としうる低分子量の分子が真に必要とされている。
意外にも、本発明者らは、上記したような式(I) の化合物が抗炎症性活性を有すること、特に、LPS に刺激された各種細胞種によるTNF-α、IL-6およびIL-8の産生およびICAM-1の発現を阻害することを見出した。上述のようにこれらの化合物は非常に興味深い、というのは:
−これらの化合物の毒性は、本発明者らによりin vitroでもin vivo でも観察されていない、
−これらの化合物は、容易に調節される条件下で工業的規模でさえも合成が容易である、
−これらの化合物はin vivo での十分な生物学的利用能を有し、特定の剤型を開発する必要がない。
【0084】
従って、本発明はまた、上記の任意の態様において定義した、式(I) の合成多価化合物の、炎症性疾患の治療を意図した医薬の製造のための使用に関する。
特に、式(I) において、支持体、疑似ペプチド単位の数k、疑似ペプチドが支持体にグラフトする様式、アミノ酸X、Y1 、Y2 ;nおよびmまたはΨは上記任意の態様の形態でありうる。
【0085】
「炎症性疾患」なる用語は、炎症性の反応が生体に対して病理的結果を有する任意の疾患を意味する。特に、本発明における炎症性疾患には、自己免疫疾患(狼瘡やリウマチ性多発関節炎)、敗血症、敗血症性ショック、心臓の炎症性疾患(心炎、殊に心内膜炎、心膜炎、心筋炎、特にStaphylococcus aureus による炎症などの感染性炎症)、移植片拒絶、外傷、関節の炎症性疾患 (特に、各種形態の関節炎) 、胃腸系の炎症性疾患 (特に、結腸炎、腸炎、胃炎、胃腸炎、およびクローン病や出血性直腸結腸炎 (HRC)などの腸の慢性炎症性疾患) 、皮膚の炎症性疾患 (湿疹、アレルギー性接触皮膚炎、乾癬、皮膚病) 、呼吸器系の炎症性疾患、殊に慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、およびアレルギーがある。
【0086】
有利な態様において、炎症性疾患は自己免疫疾患、特に狼瘡またはリウマチ性多発関節炎である。別の有利な態様において、炎症性疾患は敗血症性ショックである。さらに別の有利な態様において、炎症性疾患は心内膜炎、殊にStaphylococcus aureus を原因とする炎症などの感染性心内膜炎である。
【0087】
本発明の利点を以下に示す図および実施例において説明する。
図1Aはヌクレオリンタンパク質の構造を示す。ヒトヌクレオリンは707アミノ酸からなる。ヌクレオリンは2つの主要部分に分けられる(3、4):N−末端(aa 1-308) およびC−末端 (309-706)。N−末端ドメインはグルタミン酸とアスパラギン酸の連続した繰り返しからなる長い酸ドメイン4個からなる(A1、2A、A3、A4)。C−末端ドメインは、RBDと称されるRNAに結合する4つの領域(RNA結合ドメイン (RNA Binding Domain) に関して:I、II、 III 、 IV)を形成する、疎水性領域と親水性領域の繰り返しからなり、その端部(aa 644-707) はArg-Gly-Gly の反復から構成される高度に塩基性のRGGドメインを有する。Bは化合物HB19のヌクレオリンへの結合ドメイン:RGGドメインの同定。N−およびC−末端領域に対応するヌクレオリン構造をウサギ網状赤血球の溶解物を用いる系においてin vitro転写/翻訳により得た。このようにして、[35S Met/Cys で標識された、それぞれアミノ酸1-707 、1-308 および309-707 を含む全ヌクレオリンおよびN−およびC−末端部分を作製した。次いで標識粗生成物をビオチニル化HB19と共にインキュベートし、複合体をアビジン−アガロースカラムで精製した。期待通り、全ヌクレオリンはHB19と相互作用する。他方、酸残基に富むヌクレオリンのN−末端部分は化合物と全く相互作用しないのに対し、ヌクレオリンのC−末端部分はHB19に対する標的を含有する (14) 。ヌクレオリンのC−末端部分がHB19に対する標的を含有することを同定したので、この領域の各種構築物(N°1〜9)を作製した。第1の構築物は4つのRBDとRGGドメインを含むヒトヌクレオリンのC−末端部分をコードするcDNAに対応し、GSTタンパク質(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)と融合して抗GST抗体の検出を可能にする。その他の構築物も、GSTと融合し、この同じ部分であるが1または2以上ドメインが少ないものに対応する。これらのタンパク質はすべてE.coliにより産生される。各構築物と相互作用するHB19の能力を、異なるヌクレオリン構築物を発現する細菌粗抽出物をビオチニル化HB19とインキュベートし、次いで、これをアビジン−アガロースへの固定化により精製することにより試験した。次いで、これらの検体をポリアクリルアミドゲルおよびGSTにより分析し、抗GST抗体を用いた免疫検出(ウエスタンブロット)により明らかにした。結果は、RGGドメインの存在がHB19とヌクレオリンのC−末端部分との相互作用に必要であることを示す。さらに、この相互作用にはRGGドメイン単独で十分である。
【0088】
図2Aは化合物HB19の構造を示す。Bは、支持体として、立体配置Dのアラニン残基(A)と立体配置Lのリシン残基(K)が交互にある環状ヘキサペプチド有する3価化合物Nucant01の構造を示す。3個の疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)が各リシン残基のεアミノ基に共有結合している。Cは、5個の疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)が5個の各リシン残基のεアミノ基に共有結合している、支持体として配列SEQ ID NO:8のらせん構造をもつ直鎖ペプチドを有する5価化合物Nucant2(SEQ ID NO:10)の構造を示し、AcはCH3 −CO−基を表す。Dは、5個の疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)が5個の各リシン残基のεアミノ基に共有結合している、支持体として配列SEQ ID NO:9のらせん構造をもつ直鎖ペプチドを有する5価化合物Nucant3(SEQ ID NO:11)の構造を示し、AcはCH3 −CO−基を表す。Eは、6個の疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)が6個の各リシン残基のεアミノ基に共有結合している、支持体として配列SEQ ID NO:15のらせん構造をもつ直鎖ペプチドを有する6価化合物Nucant6(SEQ ID NO:16)の構造を示し、AcはCH3 −CO−基を表す。Fは、6個の疑似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −N)が6個の各リシン残基のεアミノ基に共有結合している、支持体として配列SEQ ID NO:13のらせん構造をもつ直鎖ペプチドを有する6価化合物Nucant7(SEQ ID NO:17)の構造を示し、AcはCH3 −CO−基を表す。
【0089】
図3は、A.抗ヌクレオリン(抗Nu)、B.アイソタイプIgG、C.ペプチドF3およびD.HB19が、HARPにより刺激されたNIH−3T3細胞の増殖に及ぼす影響を示す。静止状態のNIH−3T3細胞を、表記した濃度でHB19の存在下または不在下において4nMのHARPで刺激するか、またはしない。24時間のインキュベーション後、細胞増殖をトリチウムチミジンの取り込みを測定することにより定量した。結果はHARPで刺激された対照(100%)に対する%で示す。MSD(閾値)、(**p <0.01、 ***p <0.001)。
【0090】
図4は、HB19でのNIH−3T3細胞の1時間予備処理が、HARPで誘導された増殖に及ぼす影響を示す。NIH−3T3細胞をHB19で1時間処理し、次いで洗浄し、3.6nMのHARPで刺激するか、またはしなかった。24時間のインキュベーション後、細胞増殖をトリチウムチミジンの取り込みを測定することにより定量した。結果はHARPで刺激された対照(100%)に対する%で示す。MSD(閾値)、(**p <0.01、 ***p <0.001)。
【0091】
図5は、HB19が、0.2nMのFGF−2(A)または5%のウシ胎仔血清(B)により刺激されたNIH−3T3細胞の増殖に及ぼす影響を示す。静止状態のNIH−3T3細胞を、表記した濃度のHB19の存在下または不在下でFGF−2または5%血清で刺激する。24時間のインキュベーション後、細胞増殖をトリチウムチミジンの取り込みを測定することにより定量した。結果はHARPで刺激された対照(100%)に対する%で示す。MSD(閾値)、(**p <0.01、 ***p <0.001)。
【0092】
図6は、抗ヌクレオリン(抗Nu)(A)、アイソタイプIgG(B)およびHB19(C)が、湿寒天上でのMDA−MB231の増殖に及ぼす影響を示す。MDA−MB231細胞を0.6%寒天マトリックス上の0.35%寒天含有培地で培養する。培養10日後、50μmより大きい直径を有するコロニーを計測した。ウェル当たり5つの領域および各点3回実施する(**p <0.01) 。
【0093】
図7は、抗ヌクレオリン(抗Nu)(A)およびHB19(B)が、湿寒天上でのB16−BL6 の増殖に及ぼす影響を示す。B16−BL6 細胞を0.6%寒天マトリックス上の0.35%寒天含有培地で培養する。培養10日後、50μmより大きい直径を有するコロニーを計測した。ウェル当たり5つの領域および各点3回実施する( *p <0.05、 ** p <0.01) 。
【0094】
図8は、HB19の血管形成に及ぼす影響を示す。A.HB19のHUVEC細胞のin vitro増殖に及ぼす影響を示す。20000個のHUVEC細胞をウェル中で培養し、化合物HB19を各日異なる濃度で添加した。処理の6日後に細胞を計測した。B.HB19(1μM)の、HARP血管形成因子(1nM)の存在下で培養した3次元コラーゲンゲル中のHUVEC細胞の分化に及ぼす影響を示す;VEGF(1nM)およびFGF−2(3nM)も試験した。4日後に管状の網目構造を計測した。結果は任意単位で示す。C.HB19の、in vivo での血管形成モデル(/matrigel <plug assay>) におけるHARPまたはFGF−2により生じる血管形成に及ぼす影響を示す。表示した分子を含有するマトリゲル(300μL )をマウスに皮下注射する。1週間後マウスを致死させ、マトリゲルを除いた。8μm厚の切断を行った。染色後、内皮細胞の数を画像解析により評価する。各マトリゲルについて各実験点につき5つの断面および4匹のマウスを分析した。 図9は、MDA−MB231異種移植モデルにおける腫瘍増殖に及ぼすHB19の影響を示す。ヒト乳房がんMDA−MB231細胞を無胸腺マウス(ヌード)に皮下注射した。腫瘍が200mm3 に達した時に、グラフAに示すようにマウスを皮下経路により処置した。B.40日目で致死させたマウスにおける腫瘍の観察および測定を示す。C.40日目で致死させたマウスにおける腫瘍重量を示す。
【0095】
図10はMDA−MB231異種移植モデルにおける腫瘍増殖に及ぼすHB19の影響を示す。腫瘍増殖における変化。腹腔内(IP)または皮下(SC)注射。
図11はMDA−MB231異種移植モデルにおける転移腫瘍増殖に及ぼすHB19の影響を示す。HB19で処置または処置しない異種移植マウスの血液中のMDA−MB231細胞の検討を、抗HLA−DR抗体を用いるフローサイトメトリー(FACS)により行った。HLA−DR+ 細胞は囲まれ、血球中のHLA−DR+ 細胞の割合を表示する。A. 未処置のMDA−MB231異種移植していないマウスの血液、末梢血球中のHLA−DR+ 細胞の割合:0.36%、B. 未処置のMDA−MB231異種移植したマウスの血液、末梢血球中のHLA−DR+ 細胞の割合:22.2%、C. 皮下経路でHB19で処置したMDA−MB231異種移植マウスの血液、末梢血球中のHLA−DR+ 細胞の割合:0.1 %、D. 腹腔内経路でHB19で処置したMDA−MB231異種移植マウスの血液、末梢血球中のHLA−DR+ 細胞の割合:0.31%。
【0096】
図12は、HB19およびNucant01の、HARPで刺激されたNIH−3T3細胞の増殖に及ぼす影響を示す。静止状態のNIH−3T3細胞を、表示した濃度のHB19またはNucant01の存在下で4nMのHARPで刺激するか、またはしなかった。24時間のインキュベーション後、細胞増殖をトリチウムチミジンの取り込みを測定することにより定量した。結果(3点の平均)はHB19およびまたはNucant01の不在下でHARPで刺激された対照(100%細胞増殖)に対する細胞増殖の割合 (%) として示す。
【0097】
図13は、HB19、Nucant2およびNucant3の、HARPで刺激されたNIH−3T3細胞の増殖に及ぼす影響を示す。静止状態のNIH−3T3細胞を、表示した濃度(0.1、0.25および0.5≧M)のHB19、Nucant2またはNucant3の存在下で4nMのHARPで刺激するか、またはしなかった。24時間のインキュベーション後、NIH−3T3細胞の細胞増殖をトリチウムチミジンの取り込みを測定することにより定量した。結果(3点の平均)はHARPで刺激された対照(100%細胞増殖)に対する細胞増殖の割合 (%) として示す。IC50濃度 (HARPで刺激された対照に対して細胞増殖を50%阻害する濃度) も示す。
【0098】
図14 は、Nucant3 、6 および7の、5 %FCSで刺激されたNIH−3T3細胞の増殖に及ぼす影響を示す。NIH−3T3細胞を血清欠乏により静止状態とし、0.125〜2μM の範囲の各種濃度のNucant3、6および7の存在下または不在下で5%のFCSで刺激する。24時間のインキュベーション後、細胞増殖をトリチウムチミジンの取り込みを測定することにより定量した。結果は5%のFCSで刺激された対照に対する割合 (%) として示す。IC50を点線で示す。
【0099】
図15:Nucant6およびNucant7はHB19よりも良好な抗表面ヌクレオリン活性を示す。ID50:表面ヌクレオリンを50%阻害するμM での濃度。ID95:表面ヌクレオリンを95%阻害するμM での濃度。
【0100】
図16は、MDA−MB231細胞によるヌクレオリンの細胞発現に及ぼすHB19、Nucant3、Nucant6およびNucant7の阻害効果を示す。MDA−MB231細胞をウシ胎仔血清を10%含有するDMEM75cm2 中で培養した。培養2日後、サブコンフルエント細胞(約3×106 細胞/バイアル)を10μM のHB19(ライン1)、Nucant3(ライン2)、Nucant6(ライン3)またはNucant7(ライン4)で24または48時間処理した。ラインCは未処理細胞を表す。処理の24または48時間後、細胞をPBSで洗浄し、1%ウシ胎仔血清およびビオチニル化HB19(5μM )を含むDMEM10mLを用いて室温で45分間インキュベートした。1mMのEDTAを含有するPBS(PBS−EDTA)中で強く洗浄した後、20mM Tris HCl 、pH7.6 、150mM NaCl、5mM MgCl2、0.2mM フェニルメチルスルホニルフルオリド、5mM β- メルカプトエタノール、アプロチニン (1000 U/ml)および0.5 % Triton X-100 を含む溶菌パッファーを用いて細胞質抽出物を調製した。表面ヌクレオリンとビオチニル化HB19の間に形成された複合体を、PBS-EDTA中のアビジン−アガロース (100 μL ;ImmunoPure Immobilized Avidine, Pierce Chemical 社, 米国) を用いた抽出物の精製により分離した。4℃での2時間のインキュベーション後、アビジン−アガロース試料をPBS-EDTAで十分に洗浄した。精製表面ヌクレオリン (A;2×106 細胞に対応する材料) および細胞粗抽出物 (BおよびC;4×105 細胞に対応する材料) を含有するこれらの試料を、SDS 含有電気泳動バッファー中で加熱することにより変性させ、SDS-PAGEにより解析した。表面ヌクレオリンの存在は、D3モノクローナル抗体を用いた免疫ブロット法により明らかにされた (AおよびB) 。クーマシーブルーで染色後の電気泳動分析をCに示す。ラインMは分子量マーカーに相当する。
【0101】
図17は、ex vivo CAM モデルでの血管形成の阻害を示す。HB19 (10μM ;0.6 μg) またはNucant7(10μM ;0.8 μg) を含む、または含まない (対照) 水20μL をCAM の表面に置く。インキュベーション48時間後に血管の観察を行う。
【0102】
図18は、各種LPS 調製物により刺激された初代ヒト単核末梢血細胞 (PBMC) によるTNF-α産生の、HB19による阻害を示す。PBMCをヒト全血EDTA- カリウムを用いてFicoll密度勾配上で遠心分離することにより分離し、1%ヒト血清AB (Invitrogen) を含むRPMI 1640 に再懸濁した。HB19の不在下 (0)または存在下 (1および5μM ) の106 細胞/0.5mL濃度の細胞を、Esherichia coli 0111:B4 および055:B5型由来のLPS 、およびSalmonella enterica セロタイプRe 595由来のLPS 100ng/mlで刺激した。同じPBMCを20ng/ml : 1μM のPMA :イオノマイシン (ホルボール12- ミリステート13- アセテート) で刺激した。PBMC培養物を CO25%のインキュベーター中37℃でインキュベートした。20時間のインキュベーション後に集めた培養上清中で、ELIZA によりTNF-αタンパク質濃度を測定した。
【0103】
図19は、各種LPS 調製物により刺激された初代マウス腹膜マクロフォージによるTNF-αおよびIL-6産生の、HB19による阻害を示す。4μM HB19の不在下 (−)または存在下 (+) のマウス腹膜マクロファージを、刺激しないか (B4 0) 、またはEsherichia coli 0111:B4 型由来のLPS 100 ng/ml (B4 100)、および1000 ng/ml (B4 1000)で刺激した。培養物を CO25%のインキュベーター中37℃で20時間インキュベートし、ELIZA によりTNF-α (A)およびIL-6 (B)の濃度を測定した。
【0104】
図20は、各種LPS により刺激された初代マウス腹膜マクロフォージによるTNF-αおよびIL-6産生の、Nucant7による阻害を示す。10μM Nucant7の不在下 (−)または存在下 (+)のマウス腹膜マクロフォージを、刺激しないか (−) 、またはEsherichia coli 0111:B4 型由来のLPS 10 ng/ml、100 ng/ml 、および1000 ng/mlで刺激した (+) 。培養物を CO25%のインキュベーター中37℃で20時間インキュベートし、ELIZA によりTNF-α (A)およびIL-6 (B)の濃度を測定した。
【0105】
図21は、LPS により刺激されたヒト臍血管内皮細胞 (HUVEC)によるIL-8産生およびICAM-1発現の、HB19による阻害を示す。10000 細胞/cm2のHUVEC 細胞を、ウシ胎仔血清を2%含有するEBM-2 培地中96- ウェルプレートにおいて培養した。5μM HB19の不在下または存在下の細胞を、Esherichia coli セロタイプ055:B5型由来のLPS 100ng/mlで刺激した。細胞培養物を CO25%のインキュベーター中37℃で20時間インキュベートし、ELIZA によりIL-8産生およびICAM-1タンパク質濃度を測定した。5μM HB19の存在下または不在下のHUVEC 細胞を基準濃度用の対照として用いた。
【0106】
図22は、熱で不活化したStaphylococcus aureus (HKSA, heat-killed Staphylococcus aureus) により刺激された初代ヒト単核末梢血細胞 (PBMC) によるTNF-αおよびIL-6産生の、HB19による阻害を示す。PBMCをヒト全血EDTA- カリウムを用いてFicoll密度勾配上で遠心分離することにより分離し、1%ヒト血清AB (Invitrogen) を含むRPMI 1640 に再懸濁した。HB19、Nucant3 、Nucant6 もしくはNucant7 (10 μM ) 、またはデキサメタゾン (Dex.1μg/mL) の不在下 (対照) または存在下の106 細胞/0.5mL濃度の細胞を、108 HKSA/mL粒子 (InvivoGen,サンディエゴ、米国) で刺激した。PBMC培養物をCO2 5%のインキュベーター中37℃でインキュベートし、20時間のインキュベーション後に集めた培養上清中で、ELIZA によりTNF-α (A)およびIL-6(B) の濃度を測定した。
【実施例】
【0107】
(実施例1)
5価化合物HB19の抗腫瘍活性
1.1 in vitro での腫瘍細胞の増殖に及ぼす5価化合物HB19の影響
1.1.1 足場依存性細胞増殖における表面ヌクレオリンの役割およびこの増殖に及ぼすHB19の阻害効果
HARP分子の生物学的活性におけるヌクレオリンの役割を一連の実験で検討した:NIH 3T3 細胞によるトリチウムチミジンの取り込みの測定により試験されるHARPの分裂促進活性を、ヌクレオリンを特異的に認識するモノクローナル抗体の存在下または不在下で評価した。結果は、この抗体がNIH 3T3 細胞中で用量依存的にHARPの分裂促進活性を阻害することを示す (図3A)。
【0108】
抗ヌクレオリン抗体の50nMの添加は、4nM HARP による分裂促進活性を完全に阻害するのに対し、同じアイソタイプのヌクレオリンに非特異的な抗体はHARPにより誘導される増殖に対して何の影響も及ぼさない。これは、どのような免疫グロブリン濃度を使用した場合でも同じであり、従って観察された阻害の特異的を実証している。
【0109】
ペプチドF3および化合物HB19はヌクレオリンの2種類のリガンドである。ヌクレオリンのC末端部分に位置するRGGドメインに結合する化合物HB19(図1参照)に対し、ペプチドF3は、多数のアミノ酸領域を含むヌクレオリンのN末端部分に結合する (9)。化合物HB19の細胞表面への特異的結合がペプチドF3の存在に影響されないことも示された(FACSを用いた本発明者らにより行われた実験) 。
【0110】
本発明者らは、ペプチドF3および5価化合物HB19が増殖因子HARPにより生じるNIH-3T3T3 細胞の細胞増殖を阻害しうるかどうかを検討した。従って、同じ系列の実験において、表面ヌクレオリンに特異的に結合する化合物HB19およびペプチドF3の影響を試験した。
【0111】
ペプチドF3での結果を図3Cの1a に示し、これは、ペプチドF3がIgG のように、HARPにより生じるNIH 3T3 増殖の阻害には導かないことを明らかに示す。
HB19での結果を図3Dに示し、これは、HB19がHARPにより生じるNIH 3T3 増殖の用量依存的阻害に導くことを示す。0.5 μM のHB19の添加により、4MのHARPにより生じる効果の81%を阻害する結果となる。これは明らかに、ヌクレオリンリガンドを内在化して増殖の阻害をもたらしうるようにするのでは十分でないことを示し、そして有効であるためにはヌクレオリンリガンドは多価であり、1または2以上のヌクレオリン分子のC末端ドメインにおける1または2以上のRGG単位に結合しなければならないことを示唆する。
【0112】
さらに、細胞を種々のHB19の濃度で1時間予備処理し、洗浄し、次いでHARPで刺激した場合に同様の阻害がみられることに注意するのは興味深い (図4) 。この結果は、HB19がNIH 3T3 上に存在する表面ヌクレオリンに結合し、そして1時間後にHARPにより誘導される細胞増殖を阻止することを示す。
【0113】
細胞増殖の阻害に及ぼすHB19の影響がHARPなどの所定の増殖因子に特異的であるかどうかを検討するために、下記により刺激されたNIH 3T3 細胞に対するHB19の影響を検討することからなる2系列の実験を行った:
−別の増殖因子であるFGF-2 、または
−各種増殖因子の混合物を含む5%ウシ胎仔血清。
【0114】
これらの実験の結果を図5に示し、これは0.5 μM 濃度のHB19がFGF-2 (A) またはウシ胎仔血清(B) により刺激された細胞の増殖を阻害しうることを示す。
このように、結果は、全般的にHB19は腫瘍細胞の増殖のin vitro阻害が可能であることを示す。これは、細胞増殖を引き起こすのに用いる試薬が何でなろうと同じである。
1.1.2 足場非依存性細胞増殖におけるヌクレオリンの役割およびこの増殖に及ぼすHB19の阻害効果
細胞増殖に関するこれらの検討と並行して、足場非依存性増殖に対するヌクレオリンの役割、形質転換細胞の表現型特性を、ヒト乳がん系MDA-MB-2312 およびマウス黒色腫系B16-BL6 を用いた湿寒天上の増殖モデルにおいて試験した。
【0115】
これらの実験においては、細胞を各種濃度の対照抗ヌクレオリン抗体、対照免疫グロブリンまたは化合物HB19の存在下または不在下で寒天ゲル上で培養した。37℃でのインキュベーション10日後、各培養皿中に存在するコロニーの数を計測した。図6に示すように、0.1 μM 抗ヌクレオリン(A) で処理した培養物ではコロニー数が60%低下したのに対し、同じアイソタイプの免疫グロブリン(B) で培養物を処理した場合何ら影響は見られなかった。
【0116】
さらに詳しくは、対照に対するコロニー数の阻害は、HB19で処理した培養物でも見られ、これは用量依存的であった。1μM のHB19で処理した培養物でコロニー数の59%の減少が見られた (図6C) 。
【0117】
同様の結果が、標的細胞としてB16-BL6 などのマウス黒色腫を用いても得られた。これらの結果は図7に示す。結果の考察より、抗ヌクレオリン抗体(A) およびHB19分子(B) の両方とも用量依存的に湿寒天上のB16-BL6 の増殖を阻害することが分かる。クローン数の50%より高い阻害が1μM のHB19の存在下で見られる。
【0118】
この結果を組み合わせると、化合物HB19が足場非依存性細胞増殖に阻害効果を有することが実証される。これはヒト乳がんおよびマウス黒色腫の両方の細胞モデルにおい言える。
1.2 血管形成因子により生じる血管形成に及ぼす5価化合物HB19の影響
表面ヌクレオリンが活性化内皮細胞の表面に存在するとして(9) 、HB19の、内皮細胞の分化に及ぼす影響を試験した。
【0119】
まず、この影響を内皮細胞 (HUVEC:ヒト臍血管内皮細胞、Human umbilical vein endothelial cells) のin vitro増殖に対して試験した。ウェル当たり20000 個のHUVEC 細胞を培養し、化合物HB19を各日、種々の濃度で添加した。処理の6日後に細胞を計測した。結果は図8Aに示され、これはHaung et al.による論文(16)で使用された抗ヌクレオリンポリクローナル抗体製剤とは反対に、HB19が内皮細胞の増殖の阻害を導くことを示す。
【0120】
HARPアンギオゲン (1nM)、VEGF (1 nM) およびFGF-2 (3 nM)の存在下で培養された三次元コラーゲンゲル中のHUVEC 細胞の分化に対するHB19(1μM ) の存在の影響も試験した。4日後、血管網状構造を計測した。結果は図8Bに任意単位で示され、これは、HB19がアンギオゲン因子の存在下で培養された三次元コラーゲンゲル中のHUVEC 細胞の分化を阻害することも示す。
【0121】
最後に、内皮細胞の分化に対するHB19の影響をin vivo 血管形成モデルにおいて試験した。この試験は、血管の形成に導く過程の最初の段階を模している。
この血管形成実験モデルは、血管形成の刺激または阻害特性について解析すべき物質を含むマトリゲルをマウスに皮下注射することを含む。1週間後マトリゲルを除き、組織学的切開を行い、免疫組織化学法の後の画像解析により、内皮細胞 (CD31+、因子VIII+) の数を定量した。図8から明らかなように、HB19単独ではマトリゲル中の内皮細胞の増加に何ら影響がない。これに対し、これはHARPまたはFGF-2 により引き起こされる血管形成は阻害する。
【0122】
結果の分析により、HB19がFGF-2 またはHARPなどの前血管形成因子により引き起こされる血管形成を阻害しうることが示される。これは、血管形成に関与する内皮細胞を特異的に標的とするHB19の全般的血管静止 (angiostatic)効果を示す。
【0123】
このように、化合物HB19は、HARP、VEGFおよびFGF-2 により生じるHUVEC 細胞の増殖および分化を劇的に阻害する。従って、これは、Huang et al.の論文(16)で使用された抗ヌクレオリンモノクローナル抗体よりもさらに著しい効果を有する。
【0124】
抗がん標的細胞として内皮細胞を使用するのにはいくつかの利点がある。遺伝的不安定性を示す腫瘍細胞とは反対に、内皮細胞は遺伝的に極めて安定であり、従って抵抗性のメカニズムを制限する。さらに、分子標的は表面ヌクレオリンであるので、HB19は原理的に活性化内皮細胞、従って新生血管形成相に入ったものを標的とする。腫瘍性内皮細胞は正常な内皮細胞により70倍速く分裂し、このことが、腫瘍性内皮細胞が主要な標的であり、こうして可能な副作用を制限する理由である。
1.3 5価化合物HB19のin vivo 抗腫瘍作用
5価化合物HB19のin vivo での腫瘍増殖に及ぼす影響を無胸腺マウスにおける腫瘍増殖モデルで試験した。この実験において、標的細胞はヒト乳腺のがん由来である:MDA-MB231 。
【0125】
4匹の無胸腺マウス (ヌード/ヌード) の群に2×106 細胞を側腹部に注射した。腫瘍体積が少なくとも200 mm3 に達した場合に、マウスを100 μL のPBS 溶液 (対照群) またはHB19溶液 (5 mg/kg)、または従来の臨床試薬、タモキシフェン (タクソールともいう、10mg/kg)を2日毎に腫瘍に注射 (腫瘍周囲または皮下経路) することによって処置するか処置しなかった。腫瘍サイズはカリパー (calliper) を用いて7、14、21、28、34および40日目に測定した。
【0126】
結果は図8に示され、これは5mg/kg の用量で用いたペプチドHB19が、7倍の大きさの腫瘍をもつ未処置の対照に比べ、腫瘍増殖を阻害する結果を生じることを示す。
さらに、タモキシフェンで処置したマウスにおける腫瘍体積は処置の開始から有意には変化しなかったのに対し、HB19で処置したマウスの腫瘍は処置の21日後は検出できなかった (図9A)。10mg/kg でのタモキシフェンのみで腫瘍体積の安定化または部分的退縮という結果となったが、5 mg/kg での5価化合物HB19は実際に、明らかに完全な腫瘍の退縮に至った。
【0127】
これらの結果を確認するために、マウスを処置の40日後に致死させ、腫瘍を取り出し、次いで重量を計測した。未処置のマウスにおける腫瘍の平均重量は0.22g (分布0.083 〜0.34g) であり、タモキシフェン10mg/kg で処置したマウスでは0.06g (分布0.006 〜0.22g) であり、そしてHB19で処置したマウスでは腫瘍は見られず (図9BおよびC)、こうして、体外での大きさの測定により、実施した腫瘍体積の見積もりを確認した。
【0128】
別の実験では、HB19 (5mg/kg) を腹腔内経路 (IP) および腫瘍周囲の経路 (SC) で投与した (図10) 。結果は、HB19の抗腫瘍作用は腹腔内経路 (IP) および腫瘍周囲の経路 (SC) で同じように有効であり、これは5価化合物HB19の予想外の効果だけでなく、全身投与の場合を含む腫瘍部位でのin vivo 生物学的利用能を実証している。
【0129】
HB19による処置の過程で、異種移植されたマウスにおいて異常な生理学的または挙動の徴候は何ら観察されなかったことに留意すべきである。さらに、実験の終わりの器官の解剖学的検査によっても、組織毒性の目に見える徴候も、また血液組成や血小板数における何らの変化も見られなかった。
【0130】
さらに、HB19で処置した異種移植マウスの末梢血細胞においてHLA-DR+ ヒト細胞 (従ってMDA-MB231 腫瘍細胞) を検出することはできなかった (図11)。事実、MDA-MB231 細胞 (HLA-DR+ ) の割合が末梢血細胞の22.3%を示す未処置のマウス (PBS)とは反対に、皮下または腹腔内経路によりHB19で処置したマウスでは、この割合は0.1 %〜0.31%にすぎない。これらの結果から、HB19は血液における腫瘍細胞の循環の防止、従って転移現象の防止も可能であることが示唆される。
1.4 結論
実施例2に示される結果から、5価化合物HB19は、腫瘍増殖および血管形成の二重の作用の結果としての細胞増殖の強力な阻害剤であることが分かる。これらの観察は、無胸腺マウスでのPC3 細胞移植モデルにおいて、HB19の腫瘍周辺への注射による処置が、腫瘍の阻害および退縮を誘導することができ、そして組織毒性のないことを示すin vivo モデルにおいて確認された。
【0131】
がん療法におけるタキソールなどの慣用の治療法に比べ、使用した実験モデルにおけるHB19はより効果的であるようである。タモキシフェンに比べたHB19のこのより大きい効果は、腫瘍成長および腫瘍増殖に必要な血管形成の両方に対するHB19の阻害的効果の結果であるかもしれない。腫瘍細胞の場合でも活性化内皮細胞の場合でも、HB19はこれら2種類の細胞の増殖を標的とし阻止する。
【0132】
腫瘍細胞の増殖を阻害する性質を有する分子は多数存在する。これらの分子は実際には細胞標的をもたずに作用することが多い。事実、多数の化学療法薬剤について、腫瘍細胞に存在する分子標的は正常細胞にも見出され、これはかかる治療の多数の副作用を説明している。標的化生物製剤は、正常細胞には存在しないか極めて少ししか存在しない標的を阻止するので、副作用はほとんどもたない。活性化細胞の表面に存在するヌクレオリンはこの性質に応答し、従って、がんの治療において理想的な治療上の標的となる。我々は腫瘍細胞だけでなく活性化内皮細胞も標的とすることに注目することも重要である。さらに、表面ヌクレオリンは特定の種類のがんに限定されないようである。
【0133】
二重の標的化 (腫瘍細胞自身と活性化内皮細胞) の効果は、無作為の治験で抗血管形成剤 (アバスチン) と抗増殖性薬剤 (5-フルオロウラシル) との併用がヒト結腸直腸がんの患者に非常に有効である (28) ことを示したGenentech により行われた検討の結果と比べるべきである。第3相治験において、化学療法 (イリノテカン/5-フルオロウラシル/ロイコボリン) の補完としてのアバスチン治療は、その前には未処置の転移結腸がんの患者において生存率を平均で5ヶ月 (15.6ヶ月に対し20.3ヶ月) と非常に大きく延ばした。これらの患者において、腫瘍が増殖しなかった期間は、化学療法のみを受けた患者に比べて6.2 ヶ月から10.6ヶ月に増加した (29) 。
【0134】
腫瘍細胞および内皮細胞に対するこの二重の効果により、HB19はがんの治療における選択分子となる。
【0135】
(実施例2)
3価化合物Nucant 01 の抗腫瘍活性
2.1 3価化合物Nucant 01 の合成
3価化合物Nucant 01 の化学構造を図2Bに示す。この化合物は、交互の立体配置Dのアラニン残基( A) と立体配置Lのリシン残基( K) とからなる環式ヘキサペプチドを支持分子として有する。3個の擬似ペプチド単位KΨPR(Ψ=CH2 −NH)が3個のリシン残基( K) のそれぞれのεアミノ基に共有結合している。
【0136】
化合物Nucant 01 の合成は、KΨPR単位をC3対称環式≪コア≫分子に共有結合させることを含む。このコア分子の合成は、S. Fournel et al. (30)に記載されている。保護されたKΨPR単位をFmoc型化学反応に従って標準的な固相合成法を用いてクロロトリチル型樹脂上で組み立て、次いで弱酸性条件下で樹脂から切り離した。次に、保護されたKΨPR単位をコア分子の各リシン残基( K) のε-NH2基に、KΨPR1. 1/環式分子1の化学量論比の基準で結合させた。結合はBOP /HoBt活性化手法に従って48時間行った。この反応の終了後、KΨPRを保護している基をトリフルオロ酢酸中で脱離させ、最終化合物をエーテル中で沈殿させた。この手順の最後に得られたNucant 01 分子をHPLCで精製し、質量分析法により完全に特性決定した。
【0137】
2.2 Nucant 01 のin vitro腫瘍細胞増殖に対する阻害活性
HARPにより刺激されたNIH-3T3 細胞の増殖に及ぼすNucant 01 の効果を、5価化合物であるHB-19 のそれと比較した。静止NIH-3T3 細胞を、所定濃度 (0.1 、0.2 、0.4 、1、2、及び4μM)のHB-19 又はNucant 01 の存在下で、4 nMのHARPによって刺激し、又は刺激しなかった。24時間のインキュベーション後、前述したようなトリチウム化チミジン取り込みを測定することによってNIH-3T3 細胞の細胞増殖を求めた。
【0138】
HB-19 及びNucant 01 の不存在下でHARPにより刺激された対照 (100 %細胞増殖) と比べて、KPR単位に関して3価の化合物にすぎないNucant 01 でも、2μM 濃度でHARP刺激されたNIH-3T3 細胞の細胞増殖の50%阻害を生じることが認められる。従って、この結果は、環式ペプチド上にグラフトされた一般式( I) の少なくとも3個の擬似ペプチド単位をもつ合成多価化合物でも、支持分子が線状ペプチドである5価化合物のHB-19 と同様に、HARPにより発動された腫瘍細胞増殖を阻害することができることを実証している。
【0139】
必要な濃度は、HB-19 で同レベルの阻害を得るのに必要な濃度 (0.2 μM)より10倍高いが、化合物Nucant 01 は一般式( I) の擬似ペプチド単位を3個しか有していないのに対し、化合物HB-19 が有するのは5個である。
【0140】
従って、Nucant 01 で使用する種類の環式ペプチドにグラフトされる一般式( I) の擬似ペプチド単位の数を4又は5に増やすと、化合物の効力が恐らく100 倍までさらに増大すると見込まれる。
【0141】
2.3 結論
これらの結果は、本発明で使用する化合物の活性に対する、一般式( I) で示される多価形態の擬似ペプチドの重要性を、多様な支持分子の使用の可能性と共に、明らかに実証しており、本化合物の効力に影響を及ぼさずに線状ペプチド又は環式ペプチドを使用することができる。
【0142】
従って、他の許容できる支持分子も、それらの上に少なくとも3個、好ましくは3〜8個、好ましくは4〜6個、好ましくは5又は6個の一般式( I) で示される擬似ペプチド単位をグラフトすることが可能である限り、等しく使用することができる。
【0143】
(実施例3)
5価化合物Nucant 2及びNucant 3の抗腫瘍活性
3.1 5価化合物Nucant 2及びNucant 3の合成
その上にKΨPR単位が固定されるらせん構造をとることが知られている2つのペプチド支持分子を固相合成により組み立てた。これらの支持分子は、Nucant 2についてはAib-Lys-Aib-Gly 配列、Nucant 3についてはLys-Aib-Gly 配列を5回一体に連結した反復単位から構成されていた。ここで、Aib は2−アミノ−イソ酪酸を表す。組み立てはBoc 型化学反応によって行った。次いで、リシン残基側鎖のFmoc保護基を、DMF 中でのピペリジン処理 (5分間を3回) によって脱離させた。次に、リシンの5個のε-NH2をKΨPR単位 (Ψ=CH2-N)に対するアンカー (固定部) として作用させた。フッ化水素酸中で最後の酸開裂を行った。エーテル中でペプチドを沈殿させた後、水条件で溶解させ、凍結乾燥した後、Nucant 2及びNucant 3アナログをHPLCにより精製し、質量分析法で分析してから、凍結乾燥した。
【0144】
3.2 Nucant 2及びNucant 3のin vitro腫瘍細胞増殖に対する阻害活性
HARPにより発動されたNIH-3T3 細胞の増殖に及ぼすNucant 2及びNucant 3の効果を、5価化合物であるHB-19 のそれと比較した。静止NIH-3T3 細胞を、所定濃度 (0.1 、0.25及び0.5 μM)のHB-19 、Nucant 2、又はNucant 3の存在下で、4 nMのHARPによって刺激し、又は刺激しなかった。24時間のインキュベーション後、前述したようなトリチウム化チミジン取り込みを測定することによってNIH-3T3 細胞の細胞増殖を求めた。
【0145】
本実験では、HB-19 は0.1 μM のIC50で阻害する。Nucant 2及びNucant 3は1.5 μM のIC50で用量依存性のある細胞増殖阻害を示す。
従って、5価化合物Nucant 2およびNucant 3は、化合物HB19と非常に似たIC50 (細胞増殖の50%阻害を生じる濃度) で用量依存的に細胞増殖を阻害しうる。
【0146】
5 %のFCS で処理されたNIH-3T3 細胞の増殖に及ぼすNucant 3の効果もHB-19 のそれと比較した。血清剥奪によって静止状態にしたNIH-3T3 細胞を、0.125 〜2μM の範囲内の異なる濃度のNucant 3、 6又は7 の存在下又は不存在下で5 % FCSにより刺激した。24時間のインキュベーション後、前述したようなトリチウム化チミジンの取り込みを測定することによって細胞増殖を求めた。
【0147】
結果を図14に、5 % FCSにより刺激された対照細胞に対する%として示す。この結果は、Nucant 3が細胞増殖に対して阻害効果を有することを示している。グラフの解析から、Nucant 3はHB-19 分子と同等であるが、わずかにより低いID50値 (50%での阻害用量) を有し、従ってHB-19 よりわずかに効果が小さいことがわかる。刺激されなかった細胞に対しては、Nucant 3では効果が認められなかった。これは、これらの分子に毒性がないことを示している。
【0148】
3.3 結論
これらの結果は、本発明で使用する化合物の活性に対する、一般式( I) で示される多価形態の擬似ペプチドの重要性をやはり実証しており、等しく十分に使用される支持分子は、構造要素 (βフォールド、βシート) を含み、若しくは含んでいない線状ペプチド、らせん構造の線状ペプチド、さらには環式化合物であり、これが構造の効力に影響することはない。
【0149】
従って、各種の許容できる支持分子も、それらの上に少なくとも3個、好ましくは3〜8個、好ましくは4〜6個、好ましくは5又は6個の一般式( I) で示される擬似ペプチド単位をグラフトすることが可能である限り、交替可能に使用することができる。
【0150】
(実施例4)
6価化合物Nucant 6及びNucant 7の抗腫瘍活性
4.1 6価化合物Nucant 6及びNucant 7の合成
これらの6価化合物は、5価化合物であるNucant 2及び3 について用いたのと同じ合成法を用いて得た。
【0151】
4.2 Nucant 6及びNucant 7のin vitro腫瘍細胞増殖に対する阻害活性
5 %FCS により発動されたNIH-3T3 細胞の増殖に及ぼす6価化合物Nucant 6及びNucant 7の効果を、5価化合物であるHB-19 のそれと比較した。血清剥奪により静止状態にされたNIH-3T3 細胞を、0.125 〜2μM の範囲内の異なる濃度のNucant 3、 6又は7 の存在下で5 % FCSにより刺激した。24時間のインキュベーション後、前述したようなトリチウム化チミジンの取り込みを測定することによって細胞増殖を求めた。
【0152】
結果を図14に、5 % FCSにより刺激された対照細胞に対する%として示す。この結果は、Nucant 6及び7 が細胞増殖に対する阻害効果を有することを示している。Nucant 6及び7 のID50値 (50%での阻害用量) は、HB-19 分子のそれと同等であるが、わずかにより低く、従ってHB-19 よりわずかに効果が小さい。刺激されなかった細胞に対しては、Nucant 6及び7 では効果が認められず、これらの分子に毒性がないことがわかる。
【0153】
4.3 結論
これらの結果は、本発明で使用する化合物の活性に対する、一般式( I) で示される多価形態の擬似ペプチドの重要性をさらに実証している。等しく十分に使用される支持分子は、構造要素 (βフォールド、βシート) を含み、若しくは含んでいない線状ペプチド、らせん構造の線状ペプチド、さらには環式化合物であり、これが構造の効力に影響することはない。
【0154】
特に、6個の擬似ペプチド単位を持つ形態は、所望の抗増殖及び抗血管形成効果を得るのに非常に有効であるようである。
【0155】
(実施例5)
Nucant 6及びNucant 7はHB-19 より強力な表面ヌクレオリン阻害剤である
5.1 Nucant 6及びNucant 7はHB-19 より強力な阻害剤であって、表面ヌクレオリンの活性を阻害する
表面ヌクレオリンの活性を、我々が既に述べた技法 (13) も用いてHeLa P4 細胞において試験した。
【0156】
図15に示した結果は、Nucant 3による表面ヌクレオリン活性の阻害がHB-19 のそれに匹敵することを示している。これに対し、Nucant 6及びNucant 7は、HB-19 より大きな表面抗ヌクレオリン活性を有する。HB-19 とNucant 3のID50値 (50%での阻害用量) は、0.1 〜0.2 μM であるのに対し、Nucant 6及びNucant 7のID50値は0.1 μM より小さい。さらに、0.8 μM で使用されたNucant 6及びNucant 7は、表面ヌクレオリン活性の95%以上の阻害を生ずる。
【0157】
5.2 HB-19 、Nucant 3、 6、及び 7は、ヒト乳がん細胞MDA-MB 231における表面ヌクレオリンの阻害を生ずる
表面ヌクレオリンは腫瘍の増殖と血管形成に重要な役割を果たす。HB-19 並びに関連分子のNucant 3、Nucant 6及びNucant 7は、表面ヌクレオリンに特異的に結合し、こうして腫瘍の成長と血管形成を阻止する。これらの擬似ペプチドが表面ヌクレオリンに結合した後、[ 擬似ペプチド−ヌクレオリン] 複合体は活発なプロセスによって急速に内部移行される。これらの結果は図16Aに示され、HB-19 ( ライン1)、Nucant 3 (ライン2)、Nucant 6 (ライン3)、又はNucant 7 (ライン4)による細胞の処理は、未処理の細胞に比べて表面ヌクレオリンの存在の減少を生ずることを示している。この減少は、24時間の処理後に観察されるが、ヌクレオリンが検出されなくなる48時間の処理後も認められる。
【0158】
細胞を擬似ペプチドのNucant 6及びNucant 7で24時間処理した時の表面ヌクレオリンの減少 (ライン3 及び4)が、HB-19 及びNucant 3で処理された細胞 (ライン1 及び2)に比べてかなり大きくなることを知ることは興味深い。同じことが48時間の処理後も認められる。表面ヌクレオリンの減少は表面ヌクレオリンの細胞内の量の減少の結果ではないことを知ることは重要である。実際、HB-19 や各種のNucantで処理された細胞、又は未処理の細胞の細胞抽出物中に認められるヌクレオリンの量は同じである (図16B)。同様に、細胞がHB-19 や異なる種類のNucantで処理されたか、又は未処理であるかにかかわらず、細胞から抽出されたタンパク質の電気泳動図の間に違いがないことも認められている。この結果は、タンパク質合成がHB-19 又は試験した異なる種類のNucantにより影響されないことを例証している。さらに、HB-19 又は試験した異なる種類のNucantが、細胞毒性効果を有しておらず、これは表面ヌクレオリンの観察された減少を説明するかもしれないことを知ることも興味深い。
【0159】
5.3 結論
これらの結果は下記を示す:
a) ヌクレオリンは、例えばヒト乳がん細胞 (MDA-MB 231) において、腫瘍細胞の表面に多量に発現する。
【0160】
b) HB-19 、Nucant 3、Nucant 6及びNucant 7による処理は、細胞の表面に存在するヌクレオリン≪プール≫の著しい減少を引き起こす。
c) 擬似ペプチドNucant 6及びNucant 7は、細胞の表面に存在するヌクレオリン≪プール≫の減少を生ずる効果、並びに表面ヌクレオリンの活性を阻害する効果がより高い。
【0161】
(実施例6)
HB-19 及びNucant 7の血管形成に及ぼす効果
方法
HB-19 及びNucant 7が血管形成に及ぼす効果を、血管形成のex vivo モデルであるニワトリ胚の漿尿膜 (CAM)において試験した。
【0162】
HB-19 (10 μM; 0.6μg)又はNucant 7 (10μM; 0.8μg)を含有し、又は含有しない (対照) 20μl の水をCAM の表面に置いた。48時間のインキュベーション後に血管の観察を行った。
【0163】
結果
結果を図17に示すが、48時間のインキュベーション後にHB-19 及びNucant 7はあきらかに血管形成の阻害を生じていることが見られる。毛管長さのみならず、枝部の数も考慮に入れた画像解析の検討から、対照に比べて50%の領域における阻害が示唆される。
【0164】
(実施例7)
化合物HB-19 及びNucant 7の抗炎症活性
7.1 LPS で刺激されたヒト初代PBMCによるTNF-α産生のHB-19 による阻害
方法
PBMCは、ヒト全血EDTA- カリウムを用いてフィコール密度勾配遠心分離により単離し、1 %ヒト血清AB (Invitrogen社) を含有するRPMI 1640 中に再懸濁させた。HB-19 の不存在下 (0)又は存在下 (1 及び5 μM)における106 個/0.5 mlの濃度の細胞を、大腸菌 (Escherichia coli) タイプ0111 :B4及び055 :B5 由来のLPD 、並びにサルモネラ・エンテリカ (Salmonella enterica)セロタイプ Re 595 由来のLPS 100 ng/ml で刺激した。同じPBMCを、20 ng/ml : 1μM のPMA : イオノマイシン (フォルボール・12- ミリステート・13- アセテート :イオノマイシン) で刺激した。PBMC培養液をCO2 5 %のインキュベータ内で、37℃でインキュベーションした。TNF-αタンパク質の濃度を、20時間のインキュベーション後に集めた培養液上清中でELISA により測定した。
【0165】
結果
結果 (図18を参照) は、単離したばかりのPBMCがTNF-αを産生し、このTNF-αの構成的産生はHB-19 による影響を受けない。他方、HB-19 は、大腸菌又はサルモネラ・エンテリカ由来の各種LPS 調製物による刺激に反応したPBMCによるTNF-α産生を用量依存的に阻害する。この効果は特異的である。なぜなら、HB-19 は、PMA −イオノマイシンによる刺激に反応したPBMCによるTNF-α産生には効果を示さないからである。
【0166】
5 μM のHB-19 では、各種LPS 調製物による刺激に反応したヒトPBMCによるTNF-α産生は、LPS による刺激の不存在下で認められたベースレベルと同じ程度まで阻害される。
7.2 LPS で刺激された初代腹膜由来マウスマクロファージによるTNF-α及びIL-6の産生のHB-19 及びNucant 7による阻害
方法
刺激されたマクロファージを得るために、7 〜8 週齢のbalb/cマウスに、実験の4日前に、1.5 mlのチオグリコレート溶液 (3 %食塩水溶液) を用いて腹腔内注射を行った。ウシ胎児血清1 %を含有するRPMI培地5 mlで腹腔を洗浄することにより、腹腔内のマクロファージを集めた。次いで、RPMI 1640 培地中106 個/0.5 mlの濃度で細胞をプレートに載せ、CO2 5 %のインキュベータ内で、37℃でインキュベーションし、2時間後に付着していない細胞を除去した。
【0167】
4 μM のHB-19 又は10μM のNucant 7の不存在下( −) 又は存在下( +) で、10 ng/ml、100 ng/ml 及び1000 ng/mlの大腸菌セロタイプ0111 : B4 由来のLPS によりマクロファージを刺激し、又は刺激しなかった。細胞培養液をCO2 5 %のインキュベータ内で、37℃で20時間インキュベーションした。TNF-α及びIL-6タンパク質濃度をELISA により測定した。
【0168】
結果
HB-19 について得られた結果を図19に示す。4 μM のHB-19 で、LPS による刺激に反応したマウス腹腔マクロファージによるTNF-α及びIL-6の産生は著しく阻害される。LPS による刺激の不存在下で認められたベースレベルを考慮すると、正味の阻害率はTNF-αに対しては72〜75%、IL-6に対しては68〜71%である。
【0169】
Nucant 7で得られた結果を図20に示す。10μM のNucant 7で、LPS による刺激に反応したマウス腹腔マクロファージによるTNF-α及びIL-6の産生は、ほぼ完全に阻害される。なぜなら、LPS による刺激に反応しNucant 7で処理された培養液で認められたサイトカイン産生レベルはLPS の不存在下で認められたものに似ているからである。
【0170】
LPS による刺激の不存在下で認めらたベースレベルを考慮すると、10μM のNucant 7での阻害率は、10、100 及び1000 ng/mlのLPS により刺激された培養液中では95%を超えている。100 倍も高いLPS 濃度の存在下でも阻害率が変化しないことは、Nucant 7による阻害のメカニズムが主に表面ヌクレオリンへの結合に起因することを示唆している。実際、もしNucant 7による阻害のメカニズムがLPS との相互作用の結果であったなら、LPS 10 ng/mlよりLPS 100 ng/ml では阻害効果がより低くなる筈である。
【0171】
7.3 LPS で刺激されたHUVEC 細胞によるIL-8の産生及びICAM-1の発現のHB-19 による阻害
方法
10,000個/cm2 の濃度のHUVEC 細胞を、96ウェルプレートを用いて2 %のウシ胎仔血清を含有するEBM-2 培地中で培養した。5 μl のHB-19 の存在下又は不存在下での細胞を、大腸菌セロタイプ055 : B5由来のLPS 100 ng/ml により刺激した。細胞培養液をCO2 5 %のインキュベータ内で、37℃で20時間インキュベーションした。IL-8及びICAM-1の濃度をELISA により測定した。5 μM のHB-19 の不存在下又は存在下でのHUVEC 細胞を、ベースレベルを示すための対照として使用した。
【0172】
結果
LPS による刺激の不存在下で認められたベースレベルを考慮すると、5 μM のHB-19 によるIL-8及びICAM-1産生の阻害率はほぼ50%である。従って、これらの結果は、IL-8及びICAM-1の産生の阻害剤としての、HB-19 及び関連Nucant型化合物の潜在的な効力を実証する (図21を参照) 。
【0173】
7.4 不活化黄色ブドウ球菌で刺激されたヒト初代PBMCによるTNF-α産生のHB-19 による阻害
黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus)への感染は心内膜炎の主な原因の1つであることが示されている (24, 25) 。
【0174】
従って、本発明者らは、10μM の化合物HB-19 、Nucant 3、Nucant 6又はNucant 7の不存在下 (対照) 又は存在下での、熱により不活化した黄色ブドウ球菌 (HKSA, <heat-killed Staphylococcus aureus>)に反応したヒト初代PBMC培養液中のTNF-α及びIL-6濃度を測定した。陽性対照 (Dex.) として、既知の抗炎症及び免疫抑制活性を有するグルココルチコステロイドであるデキサメタゾンでもPBMCを処理した。
【0175】
方法
PBMCは、ヒト全血EDTA- カリウムを用いてフィコール密度勾配遠心分離により単離し、1 %ヒト血清AB (Invitrogen社) を含有するRPMI 1640 中に再懸濁させた。HB-19 、Nucant 3、Nucant 6、Nucant 7、及びデキサメタゾン (1 μg/ml) の不存在下 (対照) 又は存在下 (10μM)における106 個/0.5 mlの濃度の細胞を、108 HKSA/ml粒子 (InvivoGen 社, 米国サンディエゴ) で刺激した。PBMC培養液をCO2 5 %のインキュベータ内で、37℃でインキュベーションした。TNF-α及びIL-6タンパク質の濃度を、20時間のインキュベーション後に集めた培養液上清中でELISA により測定した。
【0176】
結果
結果を図22に示すが、試験した全ての擬似ペプチド (HB-19 、Nucant 3、Nucant 6、及びNucant 7) で、熱不活化黄色ブドウ球菌による刺激に反応したTNF-α及びIL-6産生の著しい阻害を得ることができる。これらの擬似ペプチドはデキサメタゾンのような標準的な抗炎症処置と同程度に有効である。
【0177】
従って、HB-19 、Nucant 3、Nucant 6、及びNucant 7のような一般式( I) で示される擬似ペプチドは、心臓炎症の治療剤、特に感染性の心内膜炎の治療剤として使用できる。
7.5 結論
よって、本発明者らが得た結果は、化合物HB-19 及びNucant 7が、LPS による刺激に応答した各種細胞タイプによる、TNF-α及びIL-6のような前炎症性サイトカインの産生と、ケモカインIL-8及び接着分子ICAM-1の産生とを阻害することができることを示している。
【0178】
さらに、これらの化合物はまた、多くの形態の感染性心内膜炎の原因病原体の1つである黄色ブドウ球菌による刺激に応答したTNF-α及びIL-6のような前炎症性サイトカインの産生の著しい阻害を生ずる。
【0179】
従って、これらの化合物並びに本発明において説明する一般式( I) で示される関連化合物は、前炎症性サイトカイン及び炎症部位への白血球の補充に関与する分子の産生を阻害することができる。これらの化合物は従って抗炎症用途、特に概説において述べた各種疾患の治療に使用することができる。
【0180】
(参考文献)
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【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】Aはヌクレオリンタンパク質の構造を示し、Bは化合物HB19のヌクレオリンへの結合ドメイン:RGGドメインの同定を示す。
【図2】Aは化合物HB19の、Bは3価化合物Nucant01の、Cは5価化合物Nucant 2の、Dは5価化合物Nucant 3の、Eは6価化合物Nucant 6の、Fは6価化合物Nucant 7の構造を示す。
【図3】A.抗ヌクレオリン(抗Nu)、B.アイソタイプIgG、C.ペプチドF3およびD.HB19が、HARPにより刺激されたNIH−3T3細胞の増殖に及ぼす影響を示す。
【図4】HB19でのNIH−3T3細胞の1時間予備処理が、HARPで誘導された増殖に及ぼす影響を示す。
【図5】HB19が、0.2nMのFGF−2(A)または5%のウシ胎仔血清(B)により刺激されたNIH−3T3細胞の増殖に及ぼす影響を示す。
【図6】抗ヌクレオリン(抗Nu)(A)、アイソタイプIgG(B)およびHB19(C)が、湿寒天上でのMDA−MB231の増殖に及ぼす影響を示す。
【図7】抗ヌクレオリン(抗Nu)(A)およびHB19(B)が、湿寒天上でのB16−BL6 の増殖に及ぼす影響を示す。
【図8】HB19の血管形成に及ぼす影響を示す。A.HB19のHUVEC細胞のin vitro増殖に及ぼす影響を示す。B.HB19(1μM)の、HARP血管形成因子(1nM)の存在下で培養した3次元コラーゲンゲル中のHUVEC細胞の分化に及ぼす影響を示す。C.HB19の、in vivo での血管形成モデル(/matrigel <plug assay>) におけるHARPまたはFGF−2により生じる血管形成に及ぼす影響を示す。
【図9】MDA−MB231異種移植モデルにおける腫瘍増殖に及ぼすHB19の影響を示す。
【図10】MDA−MB231異種移植モデルにおける腫瘍増殖に及ぼすHB19の影響を示す。
【図11】MDA−MB231異種移植モデルにおける転移腫瘍増殖に及ぼすHB19の影響を示す。
【図12】HB19およびNucant01の、HARPで刺激されたNIH−3T3細胞の増殖に及ぼす影響を示す。
【図13】HB19、Nucant2およびNucant3の、HARPで刺激されたNIH−3T3細胞の増殖に及ぼす影響を示す。
【図14】Nucant3 、6 および7の、5 %FCSで刺激されたNIH−3T3細胞の増殖に及ぼす影響を示す。
【図15】Nucant6およびNucant7がHB19よりも良好な抗表面ヌクレオリン活性を示す図である。
【図16】MDA−MB231細胞によるヌクレオリンの細胞発現に及ぼすHB19、Nucant3、Nucant6およびNucant7の阻害効果を示す。
【図17】ex vivo CAM モデルでの血管形成の阻害を示す。
【図18】各種LPS 調製物により刺激された初代ヒト単核末梢血細胞 (PBMC) によるTNF-α産生の、HB19による阻害を示す。
【図19】各種LPS 調製物により刺激された初代マウス腹膜マクロフォージによるTNF-αおよびIL-6産生の、HB19による阻害を示す。
【図20】各種LPS により刺激された初代マウス腹膜マクロフォージによるTNF-αおよびIL-6産生の、Nucant7による阻害を示す。
【図21】LPS により刺激されたヒト臍血管内皮細胞 (HUVEC)によるIL-8産生およびICAM-1発現の、HB19による阻害を示す。
【図22】熱で不活化したStaphylococcus aureus (HKSA, heat-killed Staphylococcus aureus) により刺激された初代ヒト単核末梢血細胞 (PBMC) によるTNF-αおよびIL-6産生の、HB19による阻害を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つの疑似ペプチド単位がグラフトした支持体を含む、またはそれからなる多価合成化合物の、細胞増殖及び/又は血管形成の調節解除を含む疾患の治療を意図する医薬の製造のための使用であり、該化合物は下記式(I)を有する前記使用:
Ψ
〔(X)n −Y1 −(Z)i −Y2 −(X)m k −支持体 (I)
式中、
各Xは独立に任意のアミノ酸を表し;
1 およびY2 は独立に塩基性側鎖を有するアミノ酸から選ばれ;
Zは以下から選ばれ:
−プロリン、ここでプロリンはγ、βもしくはδにおいてヒドロキシル、アミン、C1 −C10アルキル、C1 −C10アルケニル、C1 −C10アルキニル、C5 −C12アリール、C5 −C14アラルキル、C5 −C12ヘテロアリール基により置換されていてもよく、これらの基はそれ自身ハロゲン原子、NO2 、OH、C1 −C4 アルキル、NH2 、CN、トリハロメチル、C1 −C4 アシルオキシ、C1 −C4 ジアルキルアミノ、グアニジノ基、チオール基から選ばれる1〜6個の置換基で置換されていてもよい;
−天然もしくは非天然のアミノ酸のN−アルキル化物;
−ジアルキルアミノ酸;
−環状ジアルキルアミノ酸;または
−ピペコリン酸もしくはその誘導体;
nおよびiは独立に0または1であり;
mは0〜3の整数であり;
kは3以上の整数であり;そして
Ψは少なくとも1種のプロテアーゼに対して正規のペプチド結合よりも有意に抵抗性である修飾ペプチド結合を表す。
【請求項2】
前記支持体が、直鎖ペプチドもしくは環状ペプチド、直鎖ペプトイドもしくは環状のペプトイド、フォルダマー、直鎖ポリマーもしくは球状デンドロマー、糖またはナノ粒子から選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記支持体が直鎖ペプチドまたは環状ペプチドから選ばれる、請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記支持体が、交互の立体配置Dのアラニン(A)残基および立体配置Lのリシン(K)残基からなる環状ヘキサペプチド、または配列SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:18もしくはSEQ ID NO:19の直鎖ペプチドから選択される、請求項3記載の使用。
【請求項5】
前記疑似ペプチド単位が前記支持体に直接グラフトしている、請求項1〜4のいずれかの項記載の使用。
【請求項6】
前記疑似ペプチド単位が前記支持体にスペーサーによってグラフトしている、請求項1〜4のいずれかの項記載の使用。
【請求項7】
kが3〜8である、請求項1〜6のいずれかの項記載の使用。
【請求項8】
kが5〜6である、請求項7記載の使用。
【請求項9】
iが1であり、Zがプロリン(P)である、請求項1〜8のいずれかの項記載の使用。
【請求項10】
1 およびY2 が独立にアルギニン(R)およびリシン(K)から選択される、請求項1〜9のいずれかの項記載の使用。
【請求項11】
1 がリシン(K)であり、Y2 がアルギニン(R)である、請求項10記載の使用。
【請求項12】
nおよびmが0である、請求項1〜11のいずれかの項記載の使用。
【請求項13】
Ψが、還元された結合(−CH2 NH−)、レトロ−インバーソ結合(−NHCO−)、メチレンオキシ結合(−CH2 −O−)、チオメチレン(−CH2 −S−)、カルバ結合(−CH2 −CH2 −)、ケトメチレン結合(−CO−CH2 −)、ヒドロキシエチレン結合(−CHOH−CH2 −)、(−N−N−)結合、E−アルケン結合、または(−CH=CH−)結合を表す、請求項1〜10のいずれかの項記載の使用。
【請求項14】
化合物が、図2A(SEQ ID NO:5)、図2B、図2C(SEQ ID NO:20)、図2D(SEQ ID NO:21)、図2E(SEQ ID NO:16)または図2F(SEQ ID NO:17)に構造が記載されている化合物から選択される、請求項1記載の使用。
【請求項15】
前記疾患が、細胞増殖及び/又は血管形成の調節解除を含む、請求項1〜14のいずれかの項記載の使用。
【請求項16】
下記を含む、細胞増殖および血管形成の両方を阻害する分子のスクリーニング方法:
a)表面ヌクレオリンを発現している細胞を試験分子と共に置き、そして
b)該分子の、ヌクレオリンのRGGドメインに結合する能力を測定する。
【請求項17】
支持体が、KPG、KGP、KGC、またはKX1 KX4 KX1 K(ここでX1 は任意であり、リシン(K)、バリン(V)、アラニン(A)、グルタミン酸(E)およびイソロイシン(I)から選ばれ、X4 は任意であり、バリン(V)、アラニン(A)、グルタミン酸(E)およびイソロイシン(I)から選ばれる)から選ばれるアミノ酸配列を含む非環状ペプチドである化合物を除く、請求項1〜14のいずれかの項において定義した化合物。
【請求項18】
支持体が、Aib−K−Aib−G(SEQ ID NO:6)もしくはK−Aib−G(SEQ ID NO:7)から選択されたアミノ酸を含む直鎖ペプチド、環状ペプチド、直鎖もしくは環状ペプトイド、フォルダマー、直鎖ポリマーもしくは球状デンドリマー、糖またはナノ粒子から選択される、請求項17記載の化合物。
【請求項19】
支持体が、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:18およびSEQ ID NO:19から選ばれるアミノ酸配列からなる直鎖ペプチドである、請求項18記載の化合物。
【請求項20】
図2B、図2C(SEQ ID NO:20)、図2D(SEQ ID NO:21)および図2E(SEQ ID NO:16)に構造が記載されている化合物から選択される、請求項19記載の化合物。
【請求項21】
図2F(SEQ ID NO:17)に構造が記載されている、請求項1〜14のいずれかの項に定義された化合物。
【請求項22】
医薬として使用するための、請求項17〜21のいずれかの項記載の化合物。
【請求項23】
請求項17〜21のいずれかの項記載の化合物を含む薬剤組成物。
【請求項24】
炎症性疾患の治療を意図した医薬の製造のための、請求項1〜14のいずれかの項記載の化合物の使用。
【請求項25】
前記炎症性疾患が、自己免疫疾患、敗血症、敗血症性ショック、心臓の炎症性疾患、移植片拒絶、外傷、関節の炎症性疾患、胃腸系の炎症性疾患、皮膚の炎症性疾患、呼吸器系の炎症性疾患、およびアレルギーから選択される、請求項24記載の使用。
【請求項26】
前記炎症性疾患が自己免疫疾患である、請求項25記載の使用。
【請求項27】
前記自己免疫疾患が狼瘡またはリウマチ性多発関節炎である、請求項26記載の使用。
【請求項28】
前記炎症性疾患が敗血症性ショックである、請求項25記載の使用。
【請求項29】
前記炎症性疾患が心内膜炎である、請求項25記載の使用。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【公表番号】特表2009−534451(P2009−534451A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507119(P2009−507119)
【出願日】平成19年4月22日(2007.4.22)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000730
【国際公開番号】WO2007/125210
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(505179971)サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィーク(セーエヌエールエス) (18)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【Fターム(参考)】