がんバイオマーカー
患者におけるがんの再発リスクを予測するためのバイオマーカーおよび該バイオマーカーを使用する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国仮特許出願第61/143,077号(2009年1月7日出願)、同第61/179,650号(2009年5月19日出願)、同第61/185,901号(2009年6月10日出願)、同第61/241,748号(2009年9月11日出願)、同第61/256,443号(2009年10月30日出願)の優先権の恩典を主張し、これらの仮特許出願はそれぞれ参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、概して疾患の分子分類に関し、特に、がんの分子マーカーおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
がんは、米国における総死亡のおよそ25%の原因となる大きな公衆衛生問題である。さまざまながんに対して数多くの処置が考案されてきたが、これらの処置は副作用の重症度が一様でないことが多い。臨床家にとって、患者のがんがどれくらい侵攻性(aggressive)であるかを知ることは、どれくらい攻撃的にがんを処置すべきかを決定するのに役立つ。
【0004】
例えば、早期無症候性前立腺がんを有する患者は大半が、前立腺全摘出術または放射線療法と、任意でアジュバント療法(例えばホルモン療法または化学療法)とによって処置されるが、これらは全て重篤な副作用を有する。しかし、これらの患者の多くにとって、これらの処置と、それに付随する副作用および費用は、不必要なものである。なぜなら、これらの患者におけるがんは侵攻性ではない(すなわち、ゆっくり成長し、患者の生存中にそれが死亡または重大な病的状態を引き起こす可能性は低い)からである。他の患者では、がんが毒性(virulent)であり(すなわち、再発する可能性が高く)、患者の命を救うには攻撃的処置(aggressive treatment)が必要である。
【0005】
どの患者が攻撃的処置を必要とし、どの患者がそうでないかを、医師が判断する際の助けになるように、いくつかのツールが考案されている。実際、いくつかの臨床的パラメータが現在、多種多様ながんで、この目的に使用されている。例えば前立腺がんでは、そのような臨床的パラメータに、血清中前立腺特異抗原(PSA)、グリーソン分類、病理学的病期、および外科的縁(surgical margin)が含まれる。近年、臨床的パラメータは、患者ががんの進行/再発を起こす確率を計算する連続多変数術後ノモグラムにそれらを組み入れることにより、より役立つものになっている。例えばKattan et al., J. Clin. Oncol. (1999) 17:1499-1507;Stephenson et al., J. Clin. Oncol. (2005) 23:7005-7012(非特許文献1および2)を参照されたい。しかし、これらの進歩にも関わらず、多くの患者には不適切ながん処置が施行されており、がん再発を予測するための新規で改良されたツールが、今なお真摯に求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kattan et al., J. Clin. Oncol. (1999) 17:1499-1507
【非特許文献2】Stephenson et al., J. Clin. Oncol. (2005) 23:7005-7012
【発明の概要】
【0007】
本発明は、一部には、その発現が細胞周期を厳密にたどっている遺伝子(「細胞周期遺伝子」または「CCG」)が、特定のがんを分類するためのとりわけ強力な遺伝子であるという決定に基づいている。事実、多くの予後シグネチャー(prognostic signature)における予測力(predictive power)の(全てではないとしても)大半は、CCGが与えることを、本発明者らは見いだした。例えばCCGパネルは、前立腺がん、膀胱がん、脳がん、乳がんおよび肺がんの侵攻性を予測できることを、本明細書において示す。
【0008】
したがって本発明の一局面は、がんを分類する方法であって、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が特定のがん分類を示す方法を提供する。いくつかの態様では、判定されるべき状態が遺伝子発現レベルである。いくつかの態様では、異常な状態が、がんが侵攻性であること(これは、予後不良であること、再発または進行の可能性が増加していることなどを含み得る)を示す。いくつかの態様において、本発明は、患者のがんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの発現レベルを測定する工程を含み、増加した発現が、がんの再発もしくは進行の高い可能性、または攻撃的処置の必要を示す方法を提供する。
【0009】
アッセイされるCCGの数は、例えば技術的制約、費用検討、行われる分類、試験されるがん、所望する予測力のレベルなどに依存して変動し得る。しかし、一定最小数のCCGがロバストで有意に改善された予測を与えることが決定された。したがって、本発明のいくつかの態様では、少なくとも5つのCCGを含むパネルの状態が判定される。いくつかの態様では、パネルが、少なくとも6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50個、またはそれ以上のCCGを含む。いくつかの態様では、パネルが、少なくとも10、15、20個、またはそれ以上のCCGを含む。
【0010】
いくつかの態様では、CCGが、遺伝子のパネルの少なくとも一定の比率を占める。したがって、いくつかの態様では、パネルが、少なくとも25%、30%、40%、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、より好ましくは少なくとも75%、80%、85%、そして最も好ましくは90%、95%、96%、97%、98%、または99%のCCGを含む。
【0011】
いくつかの態様では、CCGが、表1およびパネルA〜Gに含まれる遺伝子からなる群より選択される。いくつかの態様では、パネルが、表1またはパネルA〜Gのいずれかに掲載されている遺伝子の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、110、120個、またはそれ以上を含む。
【0012】
CCGは特定のがんにおいてとりわけ予測的であることが見いだされた。例えば、CCGのあるパネルが、前立腺がんにおける再発の予測に関して正確であると判定されている。さらに、CCGは、膀胱がん、脳がん、乳がんおよび肺がんにおける予後を判定することもできる。したがって本発明は、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法を提供する。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群より選択される少なくとも2つの遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群から選択される少なくとも10個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群から選択される少なくとも15個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の全てを含む。本発明は、少なくとも2つのCCG(例えば、パネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態は予後不良を示す、膀胱がんの予後を判定する方法も提供する。本発明は、少なくとも2つのCCG(例えば、パネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態は予後不良を示す、脳がんの予後を判定する方法も提供する。本発明はさらに、少なくとも2つのCCG(例えば、パネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態は予後不良を示す、乳がんの予後を判定する方法を提供する。本発明は、少なくとも2つのCCG(例えば、パネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態は予後不良を示す、肺がんの予後を判定する方法も提供する。
【0013】
さらに、CCG状態は、がんの予後判定において、臨床的パラメータ(例えば臨床ノモグラム)を相乗的に増強することも見いだされた。前立腺がんの場合、パネルA〜Fのいずれか内の遺伝子の任意の一つの高レベルな遺伝子発現は、その臨床ノモグラムスコアが比較的低い再発または進行のリスクを示す患者における、がん再発またはがん進行の高いリスクと関連することが見いだされた。例えば実施例3および5を参照されたい。脳がんの場合、パネルB、CまたはFのいずれか内の遺伝子の任意の一つの高レベルな遺伝子発現は、腫瘍悪性度とは無関係に、がん再発またはがん進行の高いリスクと関連することが見いだされた。肺がんの場合、パネルB、CまたはFのいずれか内の遺伝子の任意の一つの高レベルな遺伝子発現は、腫瘍病期とは無関係に、がん再発またはがん進行の高いリスクと関連することが見いだされた。乳がんの場合、パネルB、CまたはFのいずれか内の遺伝子の任意の一つの高レベルな遺伝子発現は、ノッティンガム予後指標(Nottingham Prognostic Index;NPI)ノモグラムスコアとは無関係に、がん再発またはがん進行の高いリスクと関連することが見いだされた。このように、CCG発現レベルを評価することにより、臨床的パラメータを単独で使用しても検出されない高いリスクを検出することができるので、本発明は、一般に、少なくとも一つの臨床的パラメータを評価する工程を少なくとも一つのCCGの状態を評価する工程と組み合わせる方法を提供する。
【0014】
したがって、本発明の一局面は、あるがん患者に関して少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。いくつかの態様では、複数のCCG(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50個またはそれ以上)の状態が判定される。いくつかの態様では、異常な状態が、再発または進行の高い可能性を示す。いくつかの態様では、患者が前立腺がんを有する。いくつかの態様では、患者が肺がんを有する。多くの場合、臨床的パラメータは少なくともある程度は独立して再発または進行を予測し、CCG状態の付加は予測力を改善する。例示的なCCGには、パネルA〜Gに記載されるものが含まれる。いくつかの態様では、2つ以上の臨床的パラメータが、少なくとも一つのCCGの発現レベルと共に査定される。いくつかの態様では、2つ以上の臨床的パラメータが査定され、そのパラメータの組合せが、少なくとも一つのCCGの発現レベルと共に、がん再発またはがん進行の可能性を予測する。
【0015】
臨床的パラメータは、多くの場合、組み合わされて、がん再発またはがん進行のリスクを予測するためのノモグラムに組み入れられる。したがって、本発明のもう一つの局面は、あるがん患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。多くの場合、臨床ノモグラムは、高いスコアが高い再発リスクと相関するように設計される。同様に、高いCCG状態(例えば増加した発現または活性)は、高いリスクと相関する。したがって、いくつかの態様において、本発明は、あるがん患者が再発または進行の高い可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者について臨床ノモグラムスコアを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含み、高いノモグラムスコアおよび/または高いCCG状態が、その患者が再発または進行の高い可能性を有することを示す方法を提供する。いくつかの態様では、がんが前立腺がんである。いくつかの態様では、がんが乳がんである。
【0016】
ある局面において、本発明は、ある患者に関して少なくとも一つの臨床的パラメータ(またはノモグラムスコア)を決定する工程と、CCGのパネルの状態を判定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。アッセイされるCCGの数は、例えば技術的制約、費用検討、行われる分類、試験されるがん、所望する予測力のレベルなどに依存して変動し得る。一例として、本発明は、ある患者に関してノモグラムスコアを決定する工程と、表1またはパネルA〜Gに掲載されている遺伝子の2つ以上の発現レベルを決定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。CCG(表1またはパネルA〜Gに掲載されているものはいずれも含む)の任意の組合せを使用して本発明を実施することができる。ある態様では、表1またはパネルA〜Gに掲載されているCCGの全てをアッセイする。
【0017】
PTEN状態が侵攻性前立腺がんを予測することも見いだされた。PTEN状態は、臨床的パラメータとCCGの両方を増強する。CCG状態と組み合わされたPTEN状態は、臨床前立腺ノモグラムより良い予測因子(predictor)である。PTEN状態を評価することにより、臨床的パラメータ(例えば臨床ノモグラム)またはCCG発現レベルを単独でまたは組み合わせて使用しても検出されない高いリスクを検出することができるので、本発明のいくつかの局面は、臨床的パラメータまたはCCG発現レベルをPTENの状態の評価と組み合わせる方法に関する。
【0018】
したがって、本発明の一局面は、PTEN状態を判定する工程と、患者から得られる試料におけるCCGのパネルの状態を判定する工程(および任意で、その患者に関して一つまたは複数の臨床的パラメータ(例えば臨床ノモグラム)を決定する工程)とを含む、インビトロ診断法を提供する。複数の技法の異なる組合せを使って、さまざまなマーカーの状態を判定することができる。例えば、ある態様では、PTEN状態が免疫組織化学(IHC)によって判定され、一方、複数のCCGの状態は、定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR(商標))、例えばTaqMan(商標)によって判定される。
【0019】
PTEN状態およびCCG状態は前立腺がんの再発または進行のリスクと独立して相関することが示されたので、いくつかの態様は、前立腺がん患者の再発の可能性を決定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTEN状態を判定する工程を含み、低いまたは陰性のPTEN状態が、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。PTEN状態およびCCG状態は前立腺がんの再発または進行のリスクの予測に関して相加的でもあるので、いくつかの態様は、前立腺がん患者の再発の可能性を決定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTEN状態を判定する工程と、その患者から得られる試料における複数のCCGの状態を判定する工程とを含み、低いもしくは陰性のPTEN状態および/または高いCCG状態が、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。
【0020】
PTEN状態は、前立腺再発の予測において、臨床的パラメータに適中度(predictive value)を追加することができる。したがって、本発明のもう一つの局面は、ある前立腺がん患者に関してPTEN状態を判定する工程と少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。多くの場合、臨床的パラメータは少なくともある程度は独立して再発を予測し、PTEN状態の付加は予測力を改善する。いくつかの態様において、本発明は、あるがん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程と、その患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程とを含み、低いまたは陰性のPTEN状態および高いノモグラムスコアは、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。いくつかの態様において、本発明は、あるがん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程と、その患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含み、低いまたは陰性のPTEN状態、高いノモグラムスコアおよび高いCCG状態は、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。
【0021】
3つのマーカーの全てを組み合わせると、さらに大きな予測力が得られることが、下記の実施例で示された。したがって、いくつかの態様は、PTEN状態を判定する工程と、少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程と、少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程とを含む、インビトロ法を提供する。
【0022】
遺伝子の状態には、その遺伝子の任意の物理的、化学的、または遺伝学的特徴が含まれる。例として、発現レベル、活性レベル、突然変異、コピー数などが挙げられる。再発または進行のリスクを予測するためのCCGとの関連でいえば、発現レベルおよび活性レベルは、多くの場合、CCGの状態を判定する際に査定されるべき最も有用な特徴である。いくつかの態様では、ある遺伝子(例えばCCGまたはPTEN)の発現レベルを決定する工程が、
(a)その遺伝子によってコードされるポリペプチドの量を決定すること;
(b)その遺伝子によってコードされるRNAの量を決定すること;または
(c)その遺伝子を調節する任意のmiRNAの発現レベルおよび/または活性レベルを決定すること
の少なくとも一つを含む。いくつかの態様では、活性レベルを決定することが、例えば遺伝子によってコードされるポリペプチドの酵素活性のレベルを決定することや、ポリペプチドと結合パートナーの間の相互作用のレベルを決定することなどを含み得る。
【0023】
ある局面において、本発明は、上記の方法で使用するための組成物、マイクロアレイおよびキットを提供する。そのような組成物は、PTENまたはCCG(またはそれがコードする任意の核酸もしくはそれに相補的な任意の核酸)にハイブリダイズする核酸プローブ;PTENまたはCCGまたはそれがコードする任意の核酸の全部または一部を増幅するのに適した核酸プライマーおよびプライマー対;PTENまたはCCGがコードするポリペプチドに免疫学的に結合する抗体;複数の前記核酸プローブ、核酸プライマー、抗体、および/またはポリペプチドを含むプローブセット;これらのいずれかを含むマイクロアレイ;これらのいずれかを含むキットなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの局面において、本発明は、上記の方法において使用するためのコンピュータ手法、システム、ソフトウェアおよび/またはモジュールを提供する。
【0024】
別段の定義づけがない限り、本明細書において使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が関係する技術分野における当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験には、本明細書に記載するものと類似する、または等価な、方法および材料を使用することができるが、以下に適切な方法と材料を説明する。万一、矛盾が生じる場合は、定義を含めて本明細書が優先される。また、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、限定を意図しない。
【0025】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明白であるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】サイズが異なるCCGパネルに関する、ノモグラムを踏まえた予測力の図解である。
【図2】再発までの時間を予測するCCGの図解である。
【図3】再発までの時間を予測するノモグラムの図解である。
【図4】ノモグラムおよびCCGシグネチャーによって予測される重複しない(non-overlapping)再発の図解である。
【図5】ノモグラムおよび/またはCCG状態によって定義されるいくつかの患者集団に関する再発までの時間の図解である。
【図6】本発明の特定の局面および態様において有用なシステムの一例の図解である。
【図7】本発明のコンピュータにより実現される(computer-implemented)方法の一例を図解するフローチャートである。
【図8】実施例5から、再発の予測因子としての臨床的パラメータとCCGスコアとを比較する散布図である。
【図9】実施例5から、トレーニングコホート(training cohort)の解析によって導き出したCCG閾を、検証データセットに対して図解しており、CCGシグネチャースコアは、臨床的パラメータを使って低リスクと同定された患者を、極めて低い再発率を有する患者と、より高い再発リスクを有する患者とに効果的に細分している。
【図10】実施例5の検証コホート中の患者に関して、予測再発率対CCGスコアを図解している。
【図11】実施例5の検証コホート中の患者に関して、予測再発率対CCGスコアを図解している。
【図12】実施例5において調べた443人の患者における臨床的リスクスコアの分布を図解している。濃い垂直線は、低リスク患者と高リスク患者とを分割するために、KM平均法(KM means)によって選ばれ、この試験の全体を通して使用された、閾を表す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
本発明は、一つには、その発現が細胞周期を厳密に追う遺伝子(「細胞周期遺伝子」または「CCG」)は、特定のがんを分類するためのとりわけ強力な遺伝子であるという発見に基づいている。
【0028】
本明細書にいう「細胞周期遺伝子」および「CCG」は、その発現レベルが細胞周期に沿った細胞の進行を厳密に追う遺伝子を指す。例えばWhitfield et al., Mol. Biol. Cell (2002) 13:1977-2000を参照されたい。より具体的には、CCGは、細胞周期の特定の位相と符合する発現量の周期的な増加および減少を示し、例えばSTK15およびPLKはG2/Mにピーク発現を示す。前掲書参照。多くの場合、CCGは、例えばDNA合成またはDNA修復、染色体凝縮、細胞分裂などにおいて、明確な、一般に認められた、細胞周期関連機能を有する。しかし、一部のCCGは、細胞周期において明白な直接的役割を有することなく、細胞周期を追う発現レベルを有する。例えば、UBE2Sはユビキチン結合酵素をコードするが、その発現は細胞周期を厳密に追う。したがって、本発明のCCGが、細胞周期において認められた役割を持つ必要はない。例示的なCCGを表1、2、3、および4に列挙する。
【0029】
ある特定の遺伝子がCCGであるかどうかは、Whitfield et al., Mol. Biol. Cell (2002) 13:1977-2000において教示されているものを含む、当技術分野において公知である任意の技法によって決定することができる。例えば、細胞の試料(例えばHeLa細胞)は、それらの全てが細胞周期の異なる位相を同時に進行するように、同調させることができる。一般にこれは、各位相で細胞を停止させることによって行われる。例えば、細胞は、二重チミジンブロックを使ってS期で停止させるか、チミジンノコダゾールブロックによって分裂期で停止させることができる。例えばWhitfield et al., Mol. Cell. Biol. (2000) 20:4188-4198を参照されたい。各位相における停止後に細胞からRNAを抽出し、例えば発現マイクロアレイ(ゲノムワイドまたは関心対象の特異的遺伝子)、リアルタイム定量PCR(商標)(RTQ-PCR)など、任意の適切な技法を使って、遺伝子発現を定量する。最後に、統計解析(例えばフーリエ変換)を応用して、特定の細胞周期位相中にどの遺伝子がピーク発現を示すかを決定する。遺伝子は、その遺伝子の発現がどれぐらい厳密に細胞周期を追うかを記述する周期性スコア(periodicity score)に従って、ランク付けすることができ、例えば高いスコアは、極めて厳密に細胞周期を追う遺伝子を示す。最後に、所定の閾レベルを超える周期性スコアを有する遺伝子(Whitfield et al., Mol. Biol. Cell (2002) 13:1977-2000参照)を、CCGと呼ぶことができる。CCGと関連する核酸(例えば遺伝子、EST、cDNAクローンなど)の大きい(ただし網羅的ではない)リストを、表1に示す。Whitfield et al., Mol. Biol. Cell (2002) 13:1977-2000参照。下記の表2に記載されているCCGの全てが、本発明の方法に有用なCCGのパネル(「パネルA」)を形成する。
【0030】
(表2)
*本発明に役立つCCGの124遺伝子サブセット(「パネルB」)。ABIアッセイIDは、その特定遺伝子用にApplied Biosystems Inc.(カリフォルニア州フォスターシティー)から市販されている遺伝子発現アッセイのカタログID番号を意味する。
【0031】
いかなる理論にも束縛されることは望まないが、迅速に増殖する細胞を比較的高濃度に含有する組織試料は、全体として、比較的高いCCGの発現を示すであろうと考えられる。これは、細胞増殖中は(すなわち細胞周期の特定の位相中は)いくつかのCCGがアップレギュレートされるためであると考えられる。そしてまた、迅速に増殖する細胞を高濃度に含む腫瘍は、より侵攻性になる傾向があり、そのような腫瘍を有する患者は予後が悪くなる傾向がある。事実、CCGは大半の予後がんシグネチャーにおいて予測力の(全てではないにしても)大半を与えると、本発明者らは判定しているた。例えば、CCGを含むパネルは、前立腺がん、脳がん、乳がんおよび肺がんの侵攻性を予測することができる。
【0032】
本発明の一局面は、がんを分類する方法であって、患者から得られる組織または細胞試料、特に腫瘍試料において、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態がネガティブがん分類(negatigve cancer classification)を示す方法を提供する。本明細書において、ある遺伝子の「状態を判定する」とは、その遺伝子またはその発現産物の何らかの物理的、化学的、または遺伝学的特徴の存在、非存在、または程度/レベルを判定することを指す。そのような特徴には、発現レベル、活性レベル、突然変異、コピー数、メチル化状態などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0033】
がん再発もしくはがん進行のリスクまたは攻撃的処置の必要を判定するために使用されるCCGに関して、とりわけ有用な特徴には、発現レベル(例えばmRNAまたはタンパク質レベル)および活性レベルが含まれる。特徴は(例えばCCGの発現レベルをアッセイすることなどにより)直接アッセイするか、(例えばそのCCGの発現レベルと相関する発現レベルを有する遺伝子または遺伝子群のレベルをアッセイすることなどにより)間接的に判定することができる。したがって、本発明のいくつかの態様は、がんを分類する方法であって、腫瘍試料における、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの発現レベル、特にmRNAレベルを決定する工程を含み、高い発現が、ネガティブがん分類、またはがん再発もしくはがん進行の高いリスク、または攻撃的処置の必要を示す方法を提供する。
【0034】
当業者は、組織試料または細胞試料における遺伝子またはタンパク質の状態を判定するためのさまざまな技法、例えば、限定するわけではないが、(例えばmRNAまたはマイクロRNA発現、コピー数などをアッセイするための)マイクロアレイ解析、定量リアルタイムPCR(商標)(「qRT-PCR(商標)」、例えばTaqMan(商標))、免疫分析(例えばELISA、免疫組織化学)などに精通している。遺伝子がコードするポリペプチドの活性レベルは、その遺伝子またはポリペプチドの発現レベルとほとんど同じように使用することができる。多くの場合、活性レベルが高いほど、発現レベルが高いことを示し、活性レベルが低いほど、発現レベルが低いことを示す。したがって、いくつかの態様において、本発明は、CCGの発現レベルではなく、またはCCGの発現レベルに加えて、CCGによってコードされるポリペプチドの活性レベルが決定される、上述した方法のいずれかを提供する。当業者は、表1、2、3、および4に掲載されている遺伝子がコードするものを含む種々のそのようなタンパク質の活性を測定するための技法に精通している。本発明の方法は使用される特定の技法とは独立して行われ得る。
【0035】
「異常な状態」とは、平均的試料(例えば健常試料または平均的罹患試料)において一般に見いだされる状態とは異なる、ある特定試料におけるマーカーの状態を意味する。例として、突然変異した、高い、低い、存在、非存在などが挙げられる。「高い状態」とは、上記の特徴の一つまたは複数(例えば発現またはmRNAレベル)が正常レベルより高いことを意味する。一般にこれは、指標値と比較したその特徴(例えば発現またはmRNAレベル)の増加を意味する。逆に「低い状態」とは、上記の特徴の一つまたは複数(例えば遺伝子発現またはmRNAレベル)が正常レベルより低いことを意味する。一般にこれは、指標値と比較したその特徴(例えば発現)の減少を意味する。これに関連して、「陰性の状態(negative status)」とは、一般に、その特徴が存在しないか検出できないことを意味する。例えばPTEN状態は、PTEN核酸および/またはタンパク質が試料中に存在しないか検出できなければ、陰性である。しかし、陰性のPTEN状態には、PTENにおける突然変異またはコピー数減少も含まれる。
【0036】
本発明の方法における指標値の取得および使用方法は、当業者には理解されるであろう。例えば指標値は、関心対象の患者から得られる正常試料中に見いだされる遺伝子発現レベルを表してもよく、その場合、この指標値より有意に高い腫瘍試料中の発現レベルは、例えば予後不良、または高いがん再発可能性、または攻撃的処置の必要などを示すだろう。
【0037】
あるいは、指標値は、多様ながん集団またはその集団のサブセットから選ばれた一組の個体についての平均発現レベルを表してもよい。例えば、がん(例えば、前立腺がん、膀胱がん、脳がん、乳がん、または肺がん)を有する患者の無作為抽出における、ある遺伝子または遺伝子パネルの平均発現レベルを決定することができる。この平均発現レベルは、「閾指標値」と呼ぶことができ、この値より高いCCG発現を有する患者は、この値より低い発現を有する患者よりも予後不良であると予想される。
【0038】
あるいは、指標値は、疾患転帰(例えば再発または予後)によってその患者を定義づけ、カテゴリー化するのに十分であるような臨床データおよび経過観察データを入手することができる、類似する転帰を有する複数のトレーニング患者(training patient)(例えば前立腺がん患者)における、ある特定遺伝子マーカーの平均発現レベルであってもよい。例えば下記の実施例参照。例えば「予後良好指標値」は、「良好な転帰」を有すると特徴づけられる複数のトレーニングがん患者(例えば最初の処置の5年(または10年もしくはそれ以上)後にがん再発がなかった患者、または最初の診断の5年(または10年もしくはそれ以上)後にそのがんの進行がなかった患者)から作成することができる。「予後不良指標値」は、「不良転帰」を有すると定義される複数のトレーニングがん患者(例えば最初の処置から5年以内(または10年以内など)にがんの再発があった患者、または最初の診断から5年以内(または10年以内など)にがんの進行があった患者)から作成することができる。したがって、ある特定遺伝子の予後良好指標値が「良好な転帰」を有する患者におけるその特定遺伝子の発現の平均レベルを表し得るのに対し、ある特定遺伝子の予後不良指標値は、「不良転帰」を有する患者におけるその特定遺伝子の発現の平均レベルを表す。
【0039】
本発明のいくつかの態様では、本方法が、一つまたは複数のCCGの発現を決定する工程を含み、この発現が「増加」している場合、その患者は予後不良である。本発明に関して、CCGの「増加した」発現とは、その患者の発現レベルが、正常指標値または閾指標よりも(例えば少なくとも何らかの閾量だけ)上昇しているか、「予後良好指標値」よりも「予後不良指標値」に近いことを意味する。
【0040】
したがって、ある関連遺伝子マーカーに関して、決定された発現のレベルが、その遺伝子の予後不良指標値よりもその遺伝子の予後良好指標値に近ければ、その患者は予後良好である可能性が高い、すなわちがん再発の可能性が低い(または高くない)と、結論することができる。これに対し、ある関連遺伝子マーカーに関して、決定された発現のレベルが、その遺伝子の予後良好指標値よりもその遺伝子の予後不良指標値に近ければ、その患者は予後不良である可能性が高い、すなわちがん再発の可能性が増加していると結論することができる。
【0041】
あるいは、指標値を次のように決定することができる。患者を各リスク群に割り当てるために、細胞周期平均(cell cycle mean)に関して、閾値が設定される。最適な閾値は、感度を(1-特異度)に対してプロットする受信者動作特性(ROC)曲線に基づいて選択される。細胞周期平均の各増分について、その値を閾として使用して、試験の感度および特異度を算出する。実際の閾は、当業者の要求(例えば、どの程度の感度または特異度を所望するかなど)に応じて、これらの測定基準を最適化する値になる。実施例5に、実験的に決定され検証された閾値の決定を例示する。
【0042】
いくつかの態様では、ある特定遺伝子(特にCCG)の発現のレベルが、特定の組織試料または細胞におけるmRNAの絶対コピー数として得られる。別の態様では、ある特定遺伝子(特にCCG)の発現のレベルが、関心対象の特定遺伝子の発現産物の量を規格化遺伝子(例えば一つまたは複数のハウスキーピング遺伝子)産物の発現量に対して規格化することによって得られる。規格化は、指標値を作成するために行うか、または単に、関心対象の遺伝子の発現レベルを決定する際の背景ノイズの低減を助けるために行うことができる。例えば、ある態様では、本発明に従って関連遺伝子の発現のレベルを決定するにあたって、その遺伝子の発現産物(例えばmRNA、cDNA、タンパク質)の量を一つまたは複数の細胞内、特に腫瘍細胞内で測定し、それを、同じ一つまたは複数の細胞内の、ある規格化遺伝子または一組の規格化遺伝子の発現産物の量に対して規格化することにより、その関連マーカー遺伝子の発現のレベルを得る。例えば、単一遺伝子を規格化遺伝子として使用する場合は、その発現が前立腺がんの転帰/予後とは無関係であると判定されているか、正常前立腺細胞とがん性前立腺細胞との間で変動がないと判定されているハウスキーピング遺伝子を使用することができる。遺伝子発現解析では、一組のそのようなハウスキーピング遺伝子を使用して、複合規格化遺伝子セットとすることもできる。ハウスキーピング遺伝子は当技術分野において周知であり、その例には、GUSB(グルクロニダーゼ、ベータ)、HMBS(ヒドロキシメチルビランシンターゼ)、SDHA(コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体、サブユニットA、フラボタンパク質)、UBC(ユビキチンC)およびYWHAZ(チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質、ゼータ・ポリペプチド)などがあるが、これらに限定されるわけではない。複合規格化遺伝子セットを規格化に使用する場合は、そのような規格化遺伝子の遺伝子発現の量を平均し、単純な加算によって、または所定のアルゴリズムによって、一つにまとめることができる。ハウスキーピング遺伝子以外の遺伝子も規格化遺伝子として使用することができる。本発明の方法および組成物において使用するためのとりわけ有用なハウスキーパー遺伝子(housekeeper gene)の他の例には、下記の表Aに列挙するものが含まれる。
【0043】
(表A)
*例えば実施例5において使用したハウスキーピング遺伝子のサブセット
【0044】
実施例3に示すように、CCGのパネル(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個またはそれ以上のCCG)は、予後を正確に予測することができる。当業者は、遺伝子のパネル(すなわち複数の遺伝子)の発現を決定するさまざまな方法に精通している。ある特定患者から得られた試料中の(試料全体にわたる、または試料から得られる細胞のサブセットもしくは単一の細胞における)全てのパネル遺伝子の平均発現レベル(規格化されたレベルまたは絶対レベル)を決定することによって、遺伝子のパネルの発現を決定することができる。この場合、増加した発現とは、平均発現レベルが正常患者におけるこれらの遺伝子の平均発現レベルより高いこと(または同じがんを有する患者などといった基準集団における平均発現レベルを表すと判定された何らかの指標値よりも高いこと)を意味する。あるいは、パネル中の遺伝子の少なくとも一定の数(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30個またはそれ以上)または少なくとも一定の比率(例えば10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、100%)の平均発現レベル(規格化されたレベルまたは絶対レベル)を決定することによって、遺伝子のパネルの発現を決定することもできる。あるいは、パネル中の全ての遺伝子のmRNA(またはタンパク質)の絶対コピー数を決定し、それらを遺伝子全体にわたって合計するか平均することによって、遺伝子パネルの発現を決定することもできる。
【0045】
本明細書において「がんを分類する」および「がん分類」とは、あるがんの一つまたは複数の臨床関連特質を判定すること、および/またはそのがんを有する患者の特定の予後を判定することを指す。したがって、「がんを分類する」には、(i)転移能、特異的器官への転移能、再発のリスク、および/または腫瘍の経過を評価すること;(ii)腫瘍病期を評価すること;(iii)がんの処置がない場合の患者予後を判定すること;(iv)処置(例えば化学療法、放射線療法、手術による腫瘍の切除など)に対する患者応答の予後(例えば腫瘍収縮または無進行生存)を判定すること;(v)現在および/または過去の処置に対する実際の患者応答の診断;(vi)その患者に関して好ましい処置コースを決定すること;(vii)処置(処置全般または何らかの特定処置)後の患者再燃に関する予後;(viii)患者余命の予後(例えば全生存に関する予後)などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0046】
したがって、「ネガティブ分類(negative classification)」とは、がんの好ましくない臨床的特質(例えば予後不良)を意味する。例として、(i)高い転移能、特異的器官への転移能、および/または再発のリスク;(ii)進行した腫瘍病期;(iii)がんの処置がない場合の患者予後不良;(iv)特定の処置(例えば化学療法、放射線療法、手術による腫瘍の切除など)に対する患者応答の予後(例えば腫瘍収縮または無進行生存)の不良;(v)処置(処置全般または何らかの特定処置)後の患者再燃に関する予後不良;(vi)患者余命の予後(例えば全生存に関する予後)の不良などが挙げられる。いくつかの態様では、再発関連臨床的パラメータ(または高いノモグラムスコア)および増加したCCG発現が、がんにおけるネガティブ分類(例えば、再発または進行の高い可能性)を示す。
【0047】
上述のように、高いCCG発現は、迅速に増殖する(したがって侵攻性の高い)がん細胞に付随すると考えられる。患者におけるそのようながんは、多くの場合、処置後に、患者が高い再発可能性を有する(例えば処置によって殺されなかったまたは除去されなかったがん細胞が迅速に成長して元通りになる)ことを意味する。そのようながんは、患者が高い進行の可能性を有し、より迅速に進行することも意味し得る(例えば迅速に増殖する細胞は、あらゆる腫瘍の迅速な成長、ビルレンスの増進、および/または転移を引き起こすであろう)。そのようながんは、その患者が、比較的に、より攻撃的な処置を必要とし得ることも意味し得る。したがって、いくつかの態様において、本発明は、がんを分類する方法であって、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態は再発または進行の高い可能性を示す方法を提供する。上述のように、いくつかの態様では、判定されるべき状態が遺伝子発現レベルである。したがって、いくつかの態様において、本発明は、患者のがんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの発現レベルを決定する工程を含み、高い発現ががん再発またはがん進行の高い可能性を示す方法を提供する。
【0048】
「再発」および「進行」は当技術分野において周知の用語であり、本明細書においては、それらの公知の意味に従って使用される。一例として、「進行」の意味は、がんタイプ依存的であって、肺がんにおける進行は前立腺がんにおける進行とは異なるものを意味し得る。しかし、各がんタイプおよびがんサブタイプ内では、「進行」は当業者には明確に理解される。ある患者の何らかの臨床的特質または転帰(例えば再発または進行)を有する確率が、何らかの基準確率または基準値を上回る場合、本明細書において、その患者は、その特質または転帰の「高い可能性」を有するという。基準確率は、一般関連患者集団全体にわたるその特質または転帰の確率であることができる。例えば、一般前立腺がん集団における再発の確率がX%であり、ある特定患者が本発明の方法によりY%という再発の確率を有すると判定されたとして、Y>Xならば、その患者は再発の「高い可能性」を有する。あるいは、上述のように、閾値または基準値を決定し、ある特定患者の再発の確率をその閾または基準と比較してもよい。再発を予測することおよび進行を予測することは予後のための努力であるから、本明細書においては、その一方または両方を指して、「予後を予測する」という表現をしばしば使用する。これらの場合、「予後不良」は一般に、高い、再発、進行、またはその両方の可能性を指すことになる。
【0049】
実施例3で示すように、個々のCCGは、予後を極めてよく予測することができる。したがって本発明は、予後を予測する方法であって、表1またはパネルA〜Gに掲載されている少なくとも一つのCCGの発現を判定する工程を含む方法を提供する。
【0050】
実施例3は、CCGのパネル(例えば2、3、4、5、または6個のCCG)が、予後を正確に予測できることも示している。したがって、いくつかの局面において本発明は、がんを分類する方法であって、複数のCCGを含む遺伝子のパネル(すなわち複数の遺伝子)の状態を判定する工程を含む方法を提供する。例えば、遺伝子のパネルにおける増加した発現とは、ある特定患者における全てのパネル遺伝子の平均発現レベルが、正常患者におけるそれらの遺伝子の平均発現レベルよりも高いこと(または正常平均発現レベルを表すと判定された何らかの指標値よりも高いこと)を指し得る。あるいは、遺伝子のパネルにおける増加した発現とは、平均正常発現レベルと比較した、そのパネル内の遺伝子の少なくとも一定の数(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30個またはそれ以上)または少なくとも一定の比率(例えば10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、100%)における増加した発現も指し得る。
【0051】
いくつかの態様では、パネルが、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、70、80、90、100、200個、またはそれ以上のCCGを含む。いくつかの態様では、パネルが、少なくとも10、15、20個、またはそれ以上のCCGを含む。いくつかの態様では、パネルが、5〜100個のCCG、7〜40個のCCG、5〜25個のCCG、10〜20個のCCG、または10〜15個のCCGを含む。いくつかの態様では、CCGが、パネルの少なくとも一定の比率を占める。したがっていくつかの態様では、パネルが、少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%のCCGを含む。いくつかの好ましい態様では、パネルが、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、70、80、90、100、200個、またはそれ以上のCCGを含み、それらのCCGは、そのパネル中の遺伝子の総数の少なくとも50%、60%、70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、より好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%またはそれ以上を構成する。いくつかの態様では、CCGが、表1およびパネルA〜Gに含まれる遺伝子からなる群より選択される。いくつかの態様では、パネルが、表1およびパネルA〜Gのいずれか内の遺伝子の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30個、またはそれ以上を含む。いくつかの態様において、本発明は、予後を予測する方法であって、パネルA〜Gに記載されているCCGの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法を提供する。
【0052】
これらの態様の一部において、高い発現は、再発または進行の高い可能性を示す。したがって、好ましい一態様において、本発明は、患者におけるがん再発またはがん進行のリスクを予測する方法であって、遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、該パネルが約10〜約15個のCCGを含み、それらのCCGがパネルの少なくとも90%を構成し、CCGに関して高い状態が再発または進行の高い可能性を示す方法を提供する。
【0053】
数種類のCCGパネル(前掲の表2、および下記の表3および4)を、いくつかの異なるがんにおいて、予後を予測するそれらの能力について評価した。これらの研究の結果を下記の実施例1〜6に記載する。
【0054】
(表3)実施例1〜4で評価した「パネルC」
*これらの遺伝子は、実施例2に記載する実験の検証アームにおいて、26遺伝子サブセットパネル(「パネルD」)として使用した。
【0055】
(表4)「パネルE」
*これらの遺伝子は、実施例5に記載する実験において、31遺伝子サブセットパネル(「パネルF」)として使用した。
【0056】
あるパネルの個々のCCGの選択は、多くの場合、比較的恣意的であってよいと判定されている。言い換えると、大半のCCGは、互いに極めて良い代用物であることがわかった。特定のCCGが本発明の方法および組成物において十分に役立つかどうかを査定する方法の一つは、それらとCCG(例えば全ての公知CCG、特殊なCCGセットなど)の平均発現との相関関係を査定することによる。平均ととりわけよく相関するCCGは、例えば、それらはアッセイにおけるノイズを低減するであろうから、本発明のアッセイにおいて、上手く機能すると予想される。選ばれたCCGをそれらの平均CCG発現との相関関係によってランク付けしたものを、表23に示す。
【0057】
CCGシグネチャーにおいて、どの特定CCGがアッセイされるかは、多くの場合、CCGの総数ほど重要ではない。アッセイされるCCGの数は、例えば技術的制約、費用検討、行われる分類、試験されるがん、所望する予測力のレベルなど、数多くの因子に依存して変動し得る。本発明のパネルにおいてアッセイされるCCGの数を増加させることは、例えばアッセイされるmRNAのプールが大きければ外れ値によって引き起こされる「ノイズ」が少なくなり、アッセイ誤差が試験の総合的予測力を乱す可能性も低下するので、一般論として有利である。しかし、費用その他の検討によってこの数は一般に制限され、あるシグネチャーにとって最適なCCG数を見つけることが望ましい。
【0058】
CCGシグネチャーの予測力は、多くの場合、特定のCCG数を超えると有意に増加しなくなることが見いだされた(図1;実施例1参照)。より具体的には、次式が真である場合はいつでも、あるシグネチャーにおけるCCGの最適な数(nO)を見つけることができる:
(Pn+1-Pn)<CO
式中、Pは予測力であり(すなわち、Pnはn個の遺伝子によるシグネチャーの予測力であり、Pn+1はn個の遺伝子+1個によるシグネチャーの予測力である)、COは何らかの最適化定数である。予測力は、例えば限定するわけではないがシグネチャーのp値など、当業者に公知である数多くの方法で定義することができる。COは、当業者が各自の特別な制約に基づいて、選ぶことができる。例えば費用は重要な要素ではなく、極めて高レベルの感度および特異度が望ましい場合には、ごく些細な予測力上昇が無視されるように、COを極めて低く設定することができる。これに対し、費用が重要であり、中程度のレベルの感度および特異度が許容できる場合には、予測力の著しい増加によってしかそのシグネチャー中の遺伝子の数を増加させることが認可されないように、COをより高く設定することができる。
【0059】
あるいは、遺伝子数の関数としての予測力のグラフを(図1のように)プロットし、そのプロットの二次導関数を求めてもよい。その二次導関数が、何らかの予め決定しておいた値(CO')まで減少する点を、そのシグネチャーにおける最適な遺伝子数とすることができる。
【0060】
実施例1および3ならびに図1は、本発明のCCGパネルにおける最適なCCG数の実験的決定を例証するものである。表3に掲載されている31個のCCGのランダムに選択されたサブセットを、別個のCCGシグネチャーとして試験し、それぞれについて、予測力(すなわちp値)を決定した。図1が示すように、約10個のCCGと約15個のCCGの間で、p値が著しく改善することはなくなったので、予後パネル中のCCGの最適な数は約10個から約15個までであることが示された。したがって、本発明のいくつかの態様は、前立腺がんを有する患者における予後を予測する方法であって、遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、そのパネルが約10〜約15個のCCGを含み、それらCCGに関して高い状態が予後不良を示す方法を提供する。いくつかの態様では、パネルが約10〜約15個のCCGを含み、CCGがそのパネルの少なくとも90%を構成する。別の態様では、パネルがCCGと、パネルの予測力を有意に増大させる(すなわち、パネルがCCGだけからなる場合よりも予測力を有意に向上させる)一つまたは複数の追加マーカーとを含む。本発明の実施には、CCGの他の任意の組合せ(表1またはパネルA〜Gに掲載されているものはいずれも含む)を使用することができる。
【0061】
CCGは特定のがんにおいてとりわけ予測的であることが見いだされた。例えば、CCGのパネルは、前立腺がんにおける再発の予測に関して正確であると判定された(実施例1〜5)。さらに、後述の実施例6ならびに表21および22に要約するように、CCGは、膀胱がん、脳がん、乳がんおよび肺がんにおける予後を判定することもできる。
【0062】
したがって本発明は、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含む方法であって、異常な状態が予後不良を示す方法を提供する。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群から選択される少なくとも10個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群から選択される少なくとも15個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の全てを含む。本発明は、膀胱がんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCG(例えばパネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法も提供する。本発明は、脳がんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCG(例えばパネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法も提供する。本発明はさらに、乳がんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCG(例えばパネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法を提供する。本発明は、肺がんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCG(例えばパネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法も提供する。
【0063】
いくつかの態様では、パネルが、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50個またはそれ以上のCCGを含む。いくつかの態様では、パネルが、5〜100個のCCG、7〜40個のCCG、5〜25個のCCG、10〜20個のCCG、または10〜15個のCCGを含む。いくつかの態様では、CCGが、パネルの少なくとも一定の比率を占める。したがって、いくつかの態様では、パネルが、少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%のCCGを含む。いくつかの態様では、CCGが、表1およびパネルA〜Gに掲載されている遺伝子からなる群より選択される。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gのいずれか内の遺伝子の群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gのいずれか内の遺伝子の群から選択される少なくとも10個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gのいずれか内の遺伝子の群から選択される少なくとも15個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gのいずれか内の遺伝子の全てを含む。
【0064】
さらに、CCG状態は、がんの予後判定において、臨床的パラメータを相乗的に増強することが見いだされた。例えば、前立腺がんの場合、パネルC〜Fのいずれか内の遺伝子の任意の一つの高レベルな遺伝子発現は、その臨床ノモグラムスコアが再発または進行の比較的低いリスクを示す患者における、がん再発またはがん進行の高いリスクと関連することが見いだされた。このように、CCG発現レベルを評価することにより、臨床的パラメータを単独で使用しても検出されない高いリスクを検出することができるので、本発明は、一般に、少なくとも一つの臨床的パラメータを評価する工程を少なくとも一つのCCGの状態を評価する工程と組み合わせる方法を提供する。
【0065】
実施例3が示すように、個々のCCGでさえ、がん再発の予測において、臨床的パラメータを増強する。したがって本発明の一局面は、あるがん患者に関して少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。しかし、多数のCCGの状態を査定することにより、予測力はさらに改善される(実施例1にも示す)。したがって、いくつかの態様では、複数のCCG(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50個またはそれ以上)の状態が判定される。いくつかの態様では、異常な状態が再発または進行の高い可能性を示す。いくつかの態様では、患者が前立腺がんを有する。いくつかの態様では、患者が肺がんを有する。多くの場合、臨床的パラメータは少なくともある程度は独立して再発または進行を予測し、CCG状態の付加は予測力を改善する。本明細書にいう「臨床的パラメータ」および「臨床的尺度」とは、典型的に疾患経過を査定しかつ/または転帰を予測するために応用される疾患または患者特徴を指す。がんにおける例には、一般に、腫瘍病期、腫瘍悪性度、リンパ節状態、組織像、パフォーマンスステータス、外科手術のタイプ、外科的縁、処置のタイプ、および発病年齢が含まれる。前立腺がん臨床家は、術前血中PSAレベル、病期(腫瘍のサイズと転移の証拠によって定義される)、およびグリーソンスコア(悪性度の概念と類似する)を、しばしば使用する。外科的介入後、前立腺がんにおいて重要な臨床的パラメータには、縁(margin)およびリンパ節状態が含まれる。乳がんの場合、臨床家は、インデックス病変(index lesion)のサイズ(単位cm)、浸潤、転移リンパ節(lymph nodes involved)の数、および悪性度を、しばしば使用する。
【0066】
多くの場合、特定の臨床的パラメータは、ある特定の疾患特徴と相関する。例えばがん全般においても、個別のがんにおいても、特定の臨床的パラメータは、例えば再発または転移の可能性、ある一定期間の生存に関する予後、処置全般またはある具体的処置に対する応答の可能性などと相関する。前立腺がんにおいて、いくつかの臨床的パラメータは、その状態(存在、非存在、レベルなど)が高い再発可能性と関連するようなパラメータである。そのような再発関連パラメータの例(全てではないが一部は前立腺がんに特異的である)には、高い(例えば4ng/mlを超える)PSAレベル、高いグリーソンスコア、大きい腫瘍サイズ、転移の証拠、進行した腫瘍病期、核異型度、リンパ節転移(lymph node involvment)、早い発病年齢が含まれる。他のタイプのがんは、再発または進行の可能性に相関する異なるパラメータを有することができ、増殖活性の尺度としてのCCG状態は、これらのがんにおいて予後を予測する際に、これらのパラメータを増強する。本明細書にいう「再発関連臨床的パラメータ」は、個々のがんごとに、当業者がよく精通している従来の意味を有する。事実、当業者は、本明細書に列挙するものの他にも、さまざまな再発関連臨床的パラメータに精通している。
【0067】
多くの場合、医師は、1人の患者における2つ以上の臨床的パラメータを査定し、関心対象の疾患特徴について、より包括的な評価を行う。実施例5は、前立腺がんにおいて再発のリスクを判定するために使用される臨床的パラメータの一つの特定グループを、CCG状態がどのように増強することができるかを示す。実施例5における臨床的パラメータには、臓器内限局疾患(organ-confined disease)と6以下のグリーソンスコアに関する2値変数、および対数PSAに関する連続変数が含まれる(表14)。このモデルは、RPの年(Year of RP)とグリーソンスコアの2つの構成要素を除けば、RP後ノモグラム(すなわちKattan-Stephensonノモグラム)に組み込まれている臨床的パラメータの全てを含む。したがって、いくつかの態様では、少なくとも2つの臨床的パラメータ(例えば上に列挙したパラメータの2つ)が、少なくとも一つのCCGの発現レベルと共に査定される。
【0068】
単一の、より多くの場合は多数の、臨床的パラメータを医師が利用する方法の一つは、ノモグラムの助けを借りることである。臨床現場において、ノモグラムは、一つまたは複数のパラメータと一つまたは複数の患者または疾患特徴との間の相関関係の表現(多くの場合、視覚的表現)である。前立腺がん患者の再発の可能性を判定する際に使用される普及した臨床ノモグラムの一例が、Kattan et al., J. Clin. Oncol. (1999) 17:1499-1507に記載され、Stephenson et al., J. Clin. Oncol. (2005) 23:7005-7012において改訂されている(「Kattan-Stephensonノモグラム」)。このノモグラムは、数個の臨床的パラメータ(RPの年、外科的縁、被膜外進展、精嚢浸潤、リンパ節転移、優勢型(primary)グリーソンスコア、従属型(secondary)グリーソンスコア、および術前PSAレベル)のそれぞれにポイント値を割り当て、1人の患者に関してそれらのポイントを合計して一つのノモグラムスコアとした後、そのノモグラムスコアに基づいて、その患者がさまざまな時間間隔(最長10年)において無再発である可能性を予測することによって、患者を評価する。乳がん患者の生存に関する予後を判定する際に使用される普及している臨床ノモグラムの一例は、ノッティンガム予後指標(NPI)である。例えばGalea et al., Breast Cancer Res. & Treat. (1992) 22:207-19を参照されたい。
【0069】
前立腺がん患者から得た試料におけるCCGの状態を、その患者のKattan-Stephensonノモグラムスコアと共に判定することは、ノモグラムスコア単独よりも良い、10年無再発生存の予測因子であることが見いだされた。例えば下記の実施例2および5を参照されたい。具体的には、Kattan-StephensonノモグラムにCCG状態を加えることにより、ノモグラムだけでは検出されない再発のリスクが有意に増加している患者が検出される。上記の表3に、前立腺がん予後においてKattan-Stephensonノモグラムとの予測的相乗作用を示すことが実施例2で決定された、31CCGの例示的パネル(パネルC)および26CCGのサブセットパネル(パネルD、*を付けて示したもの)を記載する。乳がん患者から得た試料におけるCCGの状態を、その患者のNPIスコアと共に判定することが、NPIスコア単独よりも良い予後予測因子であることも見いだされた。例えば下記の実施例6を参照されたい。具体的には、NPIノモグラムにCCG状態を加えることにより、ノモグラムだけでは検出されない再発のリスクが有意に増加している患者が検出される。パネルB、CおよびDは、乳がん予後においてNPIノモグラムとの予測的相乗作用を示すことが、実施例2で判定された。
【0070】
したがって、本発明のもう一つの局面は、あるがん患者について臨床ノモグラムスコア(例えばKattan-StephensonノモグラムスコアまたはNPIノモグラムスコア)を決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含む、インビトロ法を提供する。実施例3は、Kattan-Stephensonノモグラムを踏まえた、個々のCCGおよびさまざまなサイズを有する数個のCCGパネルの予測力の実験的決定を例証するものである。表3に掲載されている31個のCCGのランダムに選択されたサブセットを別々のCCGシグネチャーとして試験し、それぞれについて予測力(すなわちp値)を決定した。図1が示すように、2、3、4、5、6、10、15、20、25、および26遺伝子のCCGシグネチャーはそれぞれノモグラムに予測力を追加する。したがって、本発明は、前立腺がん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、少なくとも2、3、4、5、6、10、15、20、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、60、70、80、90、もしくは100個またはそれ以上のCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、CCGに関して高い状態(例えば増加した発現)が高い再発可能性を示す方法を提供する。いくつかの態様では、本方法がさらに、その患者の臨床ノモグラムスコアを決定する工程を含む。本発明はさらに、乳がん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、少なくとも2、3、4、5、6、10、15、20、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、60、70、80、90、もしくは100個またはそれ以上のCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、CCGに関して高い状態(例えば増加した発現)が高い再発可能性を示す方法を提供する。いくつかの態様では、本方法がさらに、その患者の臨床ノモグラムスコアを決定する工程を含む。
【0071】
多くの場合、がんに関する臨床ノモグラムは、特定の値(例えば高いスコア)が高い再発リスクと相関するように設計される。高いCCG状態(例えば増加した発現または活性)も、高いリスクと相関する。したがって、いくつかの態様において、本発明は、あるがん患者が再発または進行の高い可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含み、高いノモグラムスコアおよび/または高いCCG状態は、その患者が再発または進行の高い可能性を有することを示す方法を提供する。いくつかの態様では、がんが前立腺がんである。いくつかの態様では、がんが肺がんである。
【0072】
いくつかの態様ではこの査定が前立腺全摘出術前に(例えば前立腺生検試料を使って)行われ、いくつかの態様では、これが前立腺全摘出術後に(例えば切除された前立腺試料を使って)行われる。いくつかの態様では、本発明の解析を行うために、処置の前または後に、一つまたは複数の細胞の試料を前立腺がん患者から得る。当技術分野において現在適用されている前立腺がん処置には、例えば前立腺切除術、放射線療法、ホルモン療法(例えばGnRHアンタゴニスト、GnRHアゴニスト、抗アンドロゲンを用いる処置)、化学療法、および高密度焦点式超音波療法が含まれる。いくつかの態様では、前立腺がん組織に由来する一つまたは複数の前立腺腫瘍細胞を、生検中または前立腺切除術中に前立腺がん患者から取得し、それを本発明の方法における解析に使用する。
【0073】
本発明は、PTEN状態が侵攻性前立腺がんを予測するという発見にも基づいている。PTEN状態は、臨床的パラメータ(例えばKattan-Stephensonノモグラム)とCCG(例えば表1またはパネルA〜Gに含まれる遺伝子)の両方を増強する。下記の実施例4で詳述するように、臨床歴データとCCGシグネチャーデータが付属している191の前立腺がん患者試料において、PTEN状態を判定した。陰性のPTEN状態は、再発のリスクに関して有意な予測因子であることがわかった(p値0.031)。PTENは、術後臨床的パラメータおよび表3に示すCCGシグネチャーについて調整した後も、依然として、再発の有意な予測因子だった(p値0.026)。また、重要なことに、PTENとCCGシグネチャーとの組合せは、術後臨床的パラメータよりも良い、再発の予測因子であると思われる(p値0.0002)。
【0074】
PTENは前立腺がん再発の独立した予測因子であるから、本発明の一局面は、患者の前立腺がん再発の可能性を予測する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTEN状態を判定する工程を含み、低いまたは陰性のPTEN状態は、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。PTEN状態は、当技術分野において公知である任意の技法によって、例えば限定するわけではないが、本明細書において議論する技法によって、判定することができる。
【0075】
PTENは前立腺がん再発の予測に関してCCG状態を増強するので、本発明のもう一つの局面は、患者から得られる試料において、PTEN状態を判定する工程と、複数のCCGの状態を判定する工程とを含む、インビトロ法を提供する。複数の技法の異なる組合せを使って、さまざまなマーカーの状態を判定することができる。例えば、ある態様では、PTEN状態が免疫組織化学(IHC)によって判定され、一方、複数のCCGの状態は定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR(商標))、例えばTaqMan(商標)によって判定される。本発明のいくつかの態様は、前立腺がん患者の再発の可能性を判定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTEN状態を判定する工程、その患者から得られる試料における複数のCCGの状態を判定する工程を含み、低いもしくは陰性のPTEN状態および/または高いCCG状態は、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。
【0076】
PTEN状態は、前立腺再発の予測において、臨床的パラメータに適中度を追加することができるので、本発明のさらにもう一つの局面は、あるがん患者に関して、PTEN状態を判定する工程と少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程とを含む、インビトロ法を提供する。多くの場合、臨床的パラメータは少なくともある程度は独立して再発を予測し、PTEN状態の付加は予測力を改善する。いくつかの態様において、本発明は、あるがん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程と、その患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程とを含み、低いもしくは陰性のPTEN状態および/または高いノモグラムスコアは、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。
【0077】
上記のマーカーは3つ全てが相加的であるから、本発明のいくつかの態様は、あるがん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程、その患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程、およびその患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程を含み、低いまたは陰性のPTEN状態、高いノモグラムスコアおよび高いCCG状態は、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。
【0078】
本発明による任意の解析の結果は、多くの場合、医師、遺伝カウンセラー、および/または患者(または研究者などの他の当事者)に、前記関係者のいずれかに通信または伝達され得る伝達可能な形式で通信されるであろう。そのような形式はさまざまであることができ、有形または無形であることができる。結果は、記述的陳述(descriptive statement)、図式(diagram)、写真、図表(chart)、画像(image)または他の任意の視覚的形式で体現することができる。例えば、結果の説明には、さまざまな遺伝子に関する発現レベルもしくは活性レベルまたは配列変異情報を示すグラフを使用することができる。いくつかの試験結果を示す際には、追加ターゲット遺伝子に関するそのような情報を示す図式も有用である。陳述および視覚的形式は、紙、コンピュータ可読媒体、例えばフロッピーディスク、コンパクトディスクなどといった有形媒体上に記録するか、無形媒体上に、例えば電子媒体に、電子メールの形で、またはインターネット上もしくはイントラネット上のウェブサイトの形で、記録することができる。また、結果を、音声形式で記録して、任意の適切な媒体、例えばアナログまたはデジタルケーブル回線、光ファイバーケーブルなどを介して、電話、ファクシミリ、無線移動電話、インターネット電話などによって伝達することもできる。
【0079】
したがって、試験結果に関する情報およびデータは、世界中どこでも作成することができ、異なる場所に伝達することができる。説明的な例として、発現レベル、活性レベル、または配列決定(もしくは遺伝子タイピング)アッセイを米国外で行う場合は、試験結果に関する情報およびデータを作成し、上述のような伝達可能な形式に成形(cast)した後、米国に輸入する。したがって本発明は、少なくとも一つの患者試料に関して(a)発現レベルまたは(b)活性レベルの少なくとも一方に関する伝達可能な形式の情報を作成するための方法も包含する。本方法は、(1)本発明の方法に従って上記(a)または(b)の少なくとも一方を決定する工程、および(2)決定工程の結果を伝達可能な形式で体現する工程を含む。伝達可能な形式はそのような方法の産物である。
【0080】
そのような発現、活性、および/または配列データ(実際には本発明に従って得られる任意のデータ)を解析するための技法は、多くの場合、一つまたは複数のコンピュータシステム、またはそのような解析を達成することができる他の処理システムで、ハードウェア、ソフトウェアまたはその組合せを使って実行されるであろう。
【0081】
コンピュータベースの解析機能は、任意の適切な言語および/またはブラウザで実行することができる。例えばC言語で、好ましくはVisual Basic、SmallTalk、C++などのオブジェクト指向高級プログラミング言語を使って実行することができる。アプリケーションは、Windows(商標)98、Windows(商標)2000、Windows(商標)NTなどを含むMicrosoft Windows(商標)環境などといった環境に適合するように書くことができる。また、アプリケーションは、Macintosh(商標)、SUN(商標)、UNIXまたはLINUX環境用に書くこともできる。また、機能ステップは、ユニバーサルプログラミング言語またはプラットフォーム非依存的プログラミング言語を使って実行することもできる。そのようなマルチプラットオフォームプログラミング言語には、HTML(hypertext markup language))、JAVA(商標)、JavaScript(商標)、Flashプログラミング言語、CGI/SQL(common gateway interface/structured query language)、PERL(practical extraction report language)、AppleScript(商標)および他のシステムスクリプト言語、PL/SQL(programming language/structured query language)などがあるが、これらに限定されるわけではない。HotJava(商標)、Microsoft(商標)Explorer(商標)、またはNetscape(商標)などのJava(商標)またはJavaScript(商標)対応ブラウザを使用することができる。アクティブコンテンツウェブページを使用する場合、それらは、Java(商標)アプレットもしくはActiveX(商標)コントロール、または他のアクティブコンテンツ技術を含むことができる。
【0082】
解析機能をコンピュータプログラム製品に体現し、上述のシステムまたは他のコンピュータベースもしくはインターネットベースのシステムで使用することもできる。したがって、本発明のもう一つの局面は、プロセッサが遺伝子状態解析を行うことを可能にするためにコンピュータ可読プログラムコードまたはプログラム命令がそこに体現されているコンピュータ使用可能媒体を含むコンピュータプログラム製品に関する。これらのコンピュータプログラム命令は、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置に読み込んで、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置上で遂行される命令が、上述の機能またはステップを実行するための手段になるように機械を作ることができる。これらのコンピュータプログラム命令は、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置を特定の方法で機能するように指図することができるコンピュータ可読メモリまたは媒体に保存して、コンピュータ可読メモリまたは媒体に保存された命令が解析を実行する命令手段を含む製造物を作り出すようにすることもできる。コンピュータプログラム命令は、一連の操作工程がコンピュータまたは他のプログラム可能な装置上で行われて、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置上で遂行される命令が上述の機能または工程を実行するための工程を与えるような形で、コンピュータ実行プロセスを生成することになるように、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置に読み込まれてもよい。
【0083】
したがって、本発明の一局面は、患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定するためのシステムを提供する。一般論として、本システムは、(1)患者の遺伝子状態データ(例えば発現レベル、活性レベル、変異体)と、任意で、臨床的パラメータデータ(例えばグリーソンスコア、ノモグラムスコア)とを受け取り、保存し、かつ/または検索するためのコンピュータ手段;(2)この患者データを問い合わせるためのコンピュータ手段;(3)この患者データに基づいて高い再発可能性があるかどうかを結論づけるためのコンピュータ手段;および(4)この結論を出力/表示するためのコンピュータ手段を含む。いくつかの態様では、結論を出力するためのこの手段が、結論を医療専門家に通知するためのコンピュータ手段を含み得る。
【0084】
そのようなシステムの一例が、図6に図解するコンピュータシステム[600]である。コンピュータシステム[600]は、患者データをコンピュータシステム[600]に登録するための少なくとも一つの入力モジュール[630]を含むことができる。コンピュータシステム[600]は、ある患者が増加したまたは減少した応答の可能性を有するかどうかを表示するための、および/またはコンピュータシステム[600]が決定した処置案を表示するための、少なくとも一つの出力モジュール[624]を含むことができる。コンピュータシステム[600]は、少なくとも一つの入力モジュール[630]および少なくとも一つの出力モジュール[624]と通信する少なくとも一つの記憶モジュール[606]を含むことができる。
【0085】
少なくとも一つの記憶モジュール[606]は、例えば着脱可能な記録ドライブ[608](これは、例えば限定するわけではないが磁気テープドライブ、フロッピーディスクドライブ、VCDドライブ、DVDドライブ、光ディスクドライブなどを含むさまざまな形態をとり得る)を含むことができる。着脱可能な記録ドライブ[608]は、着脱可能な記録ユニット[610]から読出しかつ/またはそこに書き込むことができるように、着脱可能な記録ユニット[610]と適合することができる。着脱可能な記録ユニット[610]は、そこにコンピュータ可読プログラムコードもしくはプログラム命令および/またはコンピュータ可読データが記録されたコンピュータ使用可能な記録媒体を含むことができる。例えば、着脱可能な記録ユニット[610]は、患者データを記録することができる。着脱可能な記録ユニット[610]の例は当技術分野において周知であり、例えばフロッピーディスク、磁気テープ、光ディスクなどがあるが、これらに限定されるわけではない。少なくとも一つの記憶モジュール[606]は、コンピュータ可読プログラムコードもしくはプログラム命令および/またはコンピュータ可読データを記録するために使用することができるハードディスクドライブ[612]も含むことができる。
【0086】
また、図1に示すように、少なくとも一つの記憶モジュール[606]はさらに、ソフトウェア、コンピュータ可読コードまたは命令を、着脱可能な記録ユニット[616]からコンピュータシステム[600]へと転送することができるように、インターフェース[614]と、インターフェース[614]に適合する着脱可能な記録ユニット[616]とを含むことができる。インターフェース[614]と着脱可能な記録ユニット[616]のペアの例には、例えば着脱可能なメモリチップ(例えばEPROMまたはPROM)とそれと連携するソケット、プログラムカートリッジとカートリッジインターフェースなどが含まれる。コンピュータシステム[600]は、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの二次記憶モジュール[618]も含むことができる。
【0087】
コンピュータシステム[600]は、少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]を含むことができる。少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]は任意の数のデバイスからなり得ると理解すべきである。少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]は、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラまたは中央処理装置などのデータ処理デバイスを含むことができる。少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]は、DMA(直接メモリアクセス)プロセッサ、統合通信プロセッサデバイス、カスタムVLSI(超大規模集積回路)デバイスまたはASIC(特定用途向け集積回路)デバイスなどといった、もう一つの論理デバイスを含むことができる。また、少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]は、本明細書に記載する処理機能を実施するために設計された他の任意のタイプのアナログまたはデジタル回路構成を含むことができる。
【0088】
図6に示すように、コンピュータシステム[600]では、少なくとも一つの記憶モジュール[606]、少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]、および二次記憶モジュール[618]が全て、通信バス、システムボード、クロスバーなどであることができる通信インフラ[620]を介して、機能的に一つに連結される。通信インフラ[620]を介して、コンピュータプログラムコードもしくはプログラム命令またはコンピュータ可読データを転送し、差し替えることができる。入力インターフェース[626]は、少なくとも一つの入力モジュール[626]を通信インフラ[620]に、作動可能に接続することができる。同様に、出力インターフェース[622]は、少なくとも一つの出力モジュール[624]を通信インフラ[620]に、作動可能に接続することができる。
【0089】
少なくとも一つの入力モジュール[630]は、例えばキーボード、マウス、タッチスクリーン、スキャナ、および当技術分野において公知の他の入力デバイスを含むことができる。少なくとも一つの出力モジュール[624]は、例えば、コンピュータモニタ、TVモニタ、または少なくとも一つの入力モジュール[630]のタッチスクリーンなどといった表示画面;プリンタ;および音声スピーカーを含むことができる。コンピュータシステム[600]は、モデム、通信ポート、Ethernetカードなどのネットワークカード、およびイントラネットまたはインターネットにアクセスするための新たに開発されたデバイスも含むことができる。
【0090】
少なくとも一つの記憶モジュール[606]は、少なくとも一つの入力モジュール[630]によって登録され少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]によって処理される患者データを記録するように構成することができる。本発明に関連する患者データには、PTENおよび/またはCCGに関する発現レベル、活性レベル、コピー数および/または配列情報を含めることができる。本発明に関連する患者データには、その患者の疾患に関連する臨床的パラメータも含めることができる。処置決定/推奨を行うのに役立つことを医師が見いだすかもしれない他の任意の患者データ、例えば限定するわけではないが、年齢、性別、および人種/民族、ならびに食事情報などの生活様式データ生活なども、システムに登録することができる。他の考え得るタイプの患者データには、現在経験しているまたは以前経験した症状、患者の病歴、投薬、および医療処置が含まれる。
【0091】
少なくとも一つの記憶モジュール[606]は、そこに記録されたコンピュータにより実現される方法を含むことができる。少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]は、ソフトウェアまたはコンピュータにより実現される方法のコンピュータ可読命令コードを遂行するために使用することができる。コンピュータにより実現される方法は、患者データに基づいて、その患者が、増加した再発、進行または任意の特定処置に対する応答の可能性を有するかどうかを示し、考え得る処置のリストを作成するなどするように構成することができる。
【0092】
特定の態様では、ある患者が再発または進行の高い可能性を有するまたは有さないと認定されるように、コンピュータにより実現される方法を構成することができる。例えばコンピュータにより実現される方法は、ある特定患者が高い再発可能性を有することを医師に通知するように構成することができる。あるいは、または上記に加えて、コンピュータにより実現される方法は、さまざまな問い合わせに対する回答/結果に基づいて、ある特定処置コースを実際に提案するように構成することができる。
【0093】
図7に、本発明のコンピュータシステム[600]で実行することができる本発明のコンピュータにより実現される方法[700]の一態様を図解する。方法[700]は、3つの問い合わせ([710]、[711]、[712])の一つから、逐次的にまたは実質上同時に始まる。これらの問い合わせのいずれかに対する回答/結果が「はい(Yes)」である場合[720]、本方法は、その患者が高い再発可能性を有すると結論づける[730]。これらの問い合わせの全てに対して回答/結果が「いいえ(No)」である場合[721]、本方法は、その患者が高い再発可能性を有さないと結論づける[731]。次に、本方法[700]は、さらなる問い合わせに進んで、特定処置の推奨([740]、[741])を行うか、単に終了することができる。
【0094】
問い合わせを逐次的に行う場合、それらは、図7に提案されている順序で行ってもよいし、他の任意の順序で行ってもよい。その後の問い合わせをするかどうかは、先の問い合わせに対する結果/回答にも依存し得る。例えば、図7に図解する方法のいくつかの態様では、方法が、臨床的パラメータ[712]について質問し、患者が再発に関して高いリスクがあると認定する一つまたは複数の臨床的パラメータを患者が有する場合には、そのように結論づけるか[730]、または任意で、CCG状態を問い合わせることによって確認し、一方、患者がそのような臨床的パラメータを有さない場合には、CCG状態に関する質問に移る[711]。任意で、CCG状態が高くない場合には、本方法は続いてPTEN状態に関して質問することができる[710]。上述のように、上記の問い合わせ順序は変更することができる。いくつかの態様では、一つの問い合わせ(例えば[712])に対する「はい」の回答が、その患者が高い再発リスクを有するかどうかを確認するために、残りの問い合わせの一つまたは複数を促す。
【0095】
いくつかの態様では、本発明のコンピュータにより実現される方法[700]が拡張可能(open-ended)である。言い換えると、図7における見掛けの第1ステップ[710、711、および/または712]は、実際には、より大きなプロセスの一部を形成することができ、その大きなプロセスにおいて、最初のステップ/問い合わせである必要はない。追加のステップを、上述の中心的(core)方法に加えることもできる。それらの追加ステップには、到達した結論を医療専門家(または患者自身)に通知するステップ;図解した方法[700]によって到達した結論を、他の事実または結論と組み合わせることにより、その患者の診断、予後、処置などに関して、何らかの追加のまたは洗練された結論に達するステップ;処置に関する推奨(例えば「患者が前立腺全摘出術を受けるべき/受けるべきでない」)を行うステップ;追加のバイオマーカー、臨床的パラメータ、または他の有用な患者情報(例えば、診断時の年齢、患者の全身的健康状態など)に関する追加の問い合わせなどが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0096】
上記のコンピュータにより実現される方法[700]に関して、問い合わせに対する回答は、その方法が、回答を得るために患者データの検索を行うことによって判定することができる。例えば、それぞれの問い合わせ[710、711、712]に回答するために、患者データを、PTEN状態(例えばPTEN IHCまたは突然変異スクリーニング)、CCG状態(例えば、CCG発現レベルデータ)、または臨床的パラメータ(例えばグリーソンスコア、ノモグラムスコアなど)について検索することができる。そのような比較が既に行われていない場合、本方法は、その患者が異常な(例えば高い、低い、陰性の)状態を有するかどうかを判定するために、これらのデータを何らかの基準と比較することができる。上記に加えて、または上記に代えて、本方法は、問い合わせ[710、711、712]の一つまたは複数を、コンピュータシステム[100]の使用者(例えば医師)に提示してもよい。例えば、問い[710、711、712]は、出力モジュール[624]を介して提示することができる。次に、使用者は入力モジュール[630]を介して「はい」または「いいえ」と回答することができる。次に、本方法は、受け取った回答に基づいて、進行することができる。同様に、結論[730、731]も、本コンピュータにより実現される方法の使用者に、出力モジュール[624]を介して提示することができる。
【0097】
したがって、いくつかの態様において、本発明は、以下の工程を含む方法を提供する:コンピュータ可読媒体に記録された患者のCCG状態、臨床的パラメータおよび/またはPTEN状態に関する情報にアクセスする工程;この情報に問い合わせをして、その患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示すかどうか、その患者が再発関連臨床的パラメータを有するかどうか、および/またはその患者が低い/陰性のPTEN状態を有するかどうかの少なくとも一つを判定する工程;その試料のCCG発現状態、その患者の再発関連臨床的パラメータ状態、および/またはその試料のPTEN状態を出力[または表示]する工程。本発明のコンピュータにより実現される態様に関連して本明細書にいう「表示する(displaying)」とは、任意の知覚手段によって任意の情報を通信することを意味する。例として、コンピュータ画面またはコンピュータの指令で印刷される紙片などにおける視覚的表示、および音声表示、例えばコンピュータが生成または記録する患者の遺伝子型の音声表現が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0098】
上で詳しく説明したように、高いCCG状態と組み合わされた再発関連臨床的パラメータまたはPTEN状態は、有意に高い再発可能性を示す。したがって、いくつかの態様は、ある患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定するコンピュータにより実現される方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:コンピュータ可読媒体に記録された患者のPTEN状態(例えばその患者から得られる腫瘍試料から得られるもの)または臨床的パラメータに関する情報とCCG状態(例えばその患者から得られる腫瘍試料から得られるもの)に関する情報とにアクセスする工程;この情報に問い合わせをして、その患者が低い/陰性のPTEN状態を有するかどうか、またはその患者が再発関連臨床的パラメータを有するかどうかの少なくとも一方を判定する工程;この情報に問い合わせをして、その患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示すかどうかを判定する工程;その患者が低い/陰性のPTEN状態を有するか再発関連臨床的パラメータを有し、かつ試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示す場合、その患者は高い再発可能性を有するという指摘を出力(または表示)する工程。いくつかの態様はさらに、PTEN、臨床的パラメータ(またはそれらの値)および/またはCCGとそれらの状態(例えば発現レベルを含む)を、任意でそれらPTENもしくはCCG状態および/または臨床的パラメータが高いリスクの可能性を示しているかどうかの指摘と一緒に、表示する工程を含む。
【0099】
本発明の実施では、従来の生物学的方法、ソフトウェアおよびシステムを使用することもできる。本発明のコンピュータソフトウェア製品は、典型的には、本発明の方法の論理工程を実行するためのコンピュータ遂行可能な命令を有するコンピュータ可読媒体を含む。適切なコンピュータ可読媒体には、フロッピーディスク、CD-ROM/DVD/DVD-ROM、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ、ROM/RAM、磁気テープなどがある。基本的な計算生物学の方法は、例えばSetubal et al. "Introduction to Computational Biology Methods"(PWS Publishing Company、ボストン、1997);Salzberg et al.編"Computational Methods in Molecular Biology"(Elsevier、アムステルダム、1998);RashidiおよびBuehler"Bioinformatics Basics: Application in Biological Science and Medicine"(CRC Press、ロンドン、2000);ならびにOueletteおよびBzevanis"Bioinformatics: A Practical Guide for Analysis of Gene and Proteins"(Wiley & Sons, Inc.、第2版、2001)に記載されている。また、米国特許第6,420,108号も参照されたい。
【0100】
本発明では、さまざまな目的で、例えばプローブ設計、データの管理、解析、および機器操作のために、さまざまなコンピュータプログラム製品およびソフトウェアを利用することもできる。例えば米国特許第5,593,839号、同第5,795,716号、同第5,733,729号、同第5,974,164号、同第6,066,454号、同第6,090,555号、同第6,185,561号、同第6,188,783号、同第6,223,127号、同第6,229,911号および同第6,308,170号を参照されたい。また、本発明は、米国特許出願第10/197,621号(米国特許出願公開第20030097222号)、同第10/063,559号(米国特許出願公開第20020183936号)、同第10/065,856号(米国特許出願公開第20030100995号);同第10/065,868号(米国特許出願公開第20030120432号);同第10/423,403号(米国特許出願公開第20040049354号)に示されているように、インターネットなどのネットワーク越しに、遺伝情報を提供するための方法を含む態様も有し得る。
【0101】
ある局面において、本発明は、がん患者を処置する方法であって、CCG状態情報(例えば表1またはパネルA〜Gに含まれるCCG)を取得する工程、およびそのCCG状態に基づいて、そのがん患者のための処置を推奨し、指示し、または施行する工程を提供する。いくつかの態様において、本方法はさらに、臨床的パラメータ情報を取得する工程、および/またはその患者から得られる試料からPTEN状態情報を取得する工程と、そのCCG状態、臨床的パラメータおよび/またはPTEN状態情報に基づいて、特定の処置で患者を処置する工程とを含む。例えば本発明は、がん患者を処置する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(1)少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程;
(2)少なくとも一つの臨床的パラメータの状態を判定する工程;
(3)その患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程;および
(4)(a)その患者が、CCGの増加した発現、再発関連臨床的パラメータ、または低い/陰性のPTEN状態の少なくとも一つを有する場合には、積極的処置(攻撃的処置を含む)を、または
(b)その患者が、CCGの増加した発現、再発関連臨床的パラメータ、または低い/陰性のPTEN状態をいずれも有さない場合には、消極的(または攻撃性の低い)処置を
推奨、指示または施行する工程。
【0102】
処置が攻撃的であるか攻撃的でないかは、一般に、がんタイプ、患者の年齢などに依存するであろう。例えば乳がんの場合、アジュバント化学療法は、外科的治療およびホルモン療法という攻撃性の低い標準処置を補完するために施される一般的な攻撃的処置である。当業者は、がんの各タイプに関し、他のさまざまな攻撃的処置および攻撃性の低い処置に精通している。前立腺がんにおける「積極的処置」は当業者にはよく理解されており、本明細書において使用するこの用語は、当技術分野における従来の意味を有する。一般論として、前立腺がんにおける積極的処置は、「監視的待機(watchful waiting)」以外のあらゆる処置である。前立腺がん処置の技術分野において現在適用されている積極的処置には、例えば前立腺切除術、放射線療法、ホルモン療法(例えばGnRHアンタゴニスト、GnRHアゴニスト、抗アンドロゲン)、化学療法、高密度焦点式超音波療法(「HIFU」)などがある。各処置選択肢は、それぞれに、特定のリスクと、さまざまな重篤度の副作用、例えばインポテンス、尿失禁などがある。したがって、前立腺がんと診断された男性の年齢と全身の健康状態に依存して、「監視的待機」のレジメンを推奨するのが、医師にとって一般的である。
【0103】
「監視的待機」は、「積極的監視(active surveillance)」とも呼ばれ、やはり、当技術分野におけるその従来の意味を持つ。これは一般に、観血的処置を伴わない観察と定期的モニタリングを意味する。監視的待機は、例えば早期の、成長が遅い前立腺がんが高齢の男性に見つかった場合などに、時折使用される。監視的待機は、外科手術、放射線療法またはホルモン療法のリスクが、考え得る利益を上回る場合にも、提案され得る。症状が発生した場合、またはがんの成長が加速している徴候(例えばPSAの急速上昇、反復生検時のグリーソンスコアの増加など)がある場合には、他の処置を開始することができる。
【0104】
監視的待機を選択した男性では外科手術や放射線のリスクは回避されるが、監視的待機には、それ自体のリスク、例えば高い転移リスクがある。若い男性の場合、積極的監視は、処置を完全に回避することを意味するのではなくて、数年またはそれ以上の遅延を合理的に許すことであってもよく、その間は、積極的処置が生活の質に与える影響を回避することができる。現在までに公表されたデータは、注意深く選択された男性は、このアプローチで治療ウインドウ(window for cure)を逃すことがないであろうということを示唆している。観察期間中に歳を取るに伴って発生する追加の健康上の問題により、外科手術および放射線療法を受けることが、より困難になる可能性もある。したがって、どの前立腺がん患者が監視的待機の良い候補であって、どの患者が積極的処置を受けるべきかを注意深く判定することが、臨床上重要である。
【0105】
したがって本発明は、前立腺がん患者を処置する方法または患者の処置に対して指針を与える方法を提供する。この方法では、少なくとも一つのCCG(例えば表1またはパネルA〜Gに含まれるもの)の状態、少なくとも一つの再発関連臨床的パラメータ、および/またはPTENの状態を判定し、(a)患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGに関して高い状態を有し、患者が少なくとも一つの再発関連臨床的パラメータ、および/または低い/陰性のPTEN状態を有する場合、積極的処置を推奨、開始または継続し、または(b)患者が少なくとも一つのCCGに関して高い状態も、再発関連臨床的パラメータも、低い/陰性のPTEN状態も有さない場合、監視的待機を推奨/開始/継続する。特定の態様では、CCG状態、臨床的パラメータおよびPTEN状態が、積極的処置が推奨されることを示すだけでなく、その患者にとっては特定の積極的処置(RPおよび/またはアジュバント療法などの比較的攻撃的な処置を含む)が好ましいことも示す。
【0106】
一般に、アジュバント療法(例えば、前立腺切除術または放射線療法後の化学療法、放射線療法、HIFU、ホルモン療法など)は、前立腺がんにおける標準治療(standard of care)ではない。しかし本発明によれば、医師は、どの前立腺がん患者がとりわけ侵攻性の高い疾患を有し、したがってアジュバント療法を受けるべきであるかを判定することが可能になり得る。したがって、ある態様において、本発明は、患者(例えば前立腺がん患者)を処置する方法であって、少なくとも一つのCCG(例えば表1またはパネルA〜Gに含まれるもの)の状態、少なくとも一つの再発関連臨床的パラメータの状態、および/またはPTENの状態を判定する工程と、患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGに関して高い状態を有し、患者が少なくとも一つの再発関連臨床的パラメータを有し、かつ/または患者が低い/陰性のPTEN状態を有する場合、前立腺切除術または放射線療法後にアジュバント療法を開始する工程とを含む方法を提供する。
【0107】
ある局面において、本発明は、上記の方法において使用するための組成物を提供する。そのような組成物には、PTENまたはCCG(またはそれによってコードされるもしくはそれに相補的な任意の核酸)にハイブリダイズする核酸プローブ;PTENまたはCCGまたはそれによってコードされる任意の核酸の全部もしくは一部を増幅するのに適した核酸プライマーおよびプライマー対;PTENまたはCCGによってコードされるポリペプチドに免疫学的に結合する抗体;複数の前記核酸プローブ、核酸プライマー、抗体、および/またはポリペプチドを含むプローブセット;これらのいずれかを含むマイクロアレイ;これらのいずれかを含むキットなどが含まれるが、これらに限定されるわけではない。いくつかの局面において、本発明は、上記の方法において使用するためのコンピュータ方法、システム、ソフトウェアおよび/またはモジュールを提供する。
【0108】
いくつかの態様において、本発明は、PTENまたは表1もしくはパネルA〜Gに含まれる遺伝子の少なくとも一つに選択的にハイブリダイズする能力を持つ単離されたオリゴヌクレオチドを含むプローブを提供する。核酸に関連して使用される用語「プローブ」および「オリゴヌクレオチド」(「オリゴ」ともいう)は、互換的に、比較的短い核酸フラグメントまたは核酸配列を指す。本発明は、本発明の方法において有用なプライマーも提供する。「プライマー」は、適正な条件下で適正なコンパニオン試薬(companion reagent)と共に、ターゲット核酸(例えばターゲット遺伝子)を選択的に増幅する能力を持つプローブである。プライマーは一般にプローブとしても役立ち得るので、核酸に関連して本明細書にいう「プローブ」は、「プライマー」を包含するものとする。
【0109】
プローブは一般に任意の適切なサイズ/長さを有することができる。いくつかの態様では、プローブが、約8〜200、15〜150、15〜100、15〜75、15〜60、または20〜55塩基長の長さを有する。それらは、放射性同位元素、フルオロフォア、ビオチン、酵素(例えばアルカリホスファターゼ)、酵素基質、リガンドおよび抗体など(ただしこれらに限定されるわけではない)を含む任意の適切な検出マーカーを使って、検出可能マーカーで標識することができる。Jablonski et al., Nucleic Acids Res. (1986) 14:6115-6128;Nguyen et al., Biotechniques (1992) 13:116-123;Rigby et al., J. Mol. Biol. (1977) 113:237-251を参照されたい。実際、プローブは、さまざまな分子生物学的応用のために、任意の従来法で修飾することができる。そのようなオリゴヌクレオチドプローブを作製し使用するための技法は、当技術分野においては常法である。
【0110】
本発明のプローブは、上述のハイブリダイゼーション/増幅/検出技法に使用することができる。したがって本発明のいくつかの態様は、PTENおよび/または複数のCCGの検出、増幅および/または定量において、マイクロアレイで使用するのに適したプローブセットを含む。いくつかの態様において、プローブセットは、CCGに対するプローブを一定の比率で含む。例えば、プローブセットは、10%、20%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%がCCGに特異的なプローブからなる。いくつかの態様では、プローブセットが、表1またはパネルA〜Gに含まれる遺伝子のうち、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250、300、350、400、450、500、600、700、もしくは800個またはそれ以上、または全てに対するプローブを含む。そのようなプローブセットは、5,000、10,000、20,000、50,000、100,000、200,000、300,000、400,000、500,000、600,000、700,000、800,000、900,000、もしくは1,000,000個またはそれ以上の異なるプローブを含む高密度アレイに組み入れることができる。別の態様では、プローブセットが、PTENの少なくとも一部または表1もしくはパネルA〜Gに含まれるCCGの一つもしくはそれ以上の少なくとも一部を含む核酸を増幅するためのプライマー(例えばプライマー対)を含む。
【0111】
本発明のもう一つの局面では、本発明の予後を実施するためのキットが提供される。本キットは、キットのさまざまな構成要素のための保持具(carrier)を含むことができる。保持具は、例えば袋、箱、管、ラックなどの形態をした容器または支持体であることができ、区画化されていてもよい。保持具は、輸送中および貯蔵中の安全のために、密閉された封じ込め区画を定めることができる。キットは、上述した検出技法を使って一つまたは複数のCCGおよび一つまたは複数のハウスキーピング遺伝子マーカーの状態を判定するのに役立つさまざまな構成要素を含む。例えば、キットは、表1またはパネルA〜Gに含まれる遺伝子のmRNAまたはcDNAに、高いストリンジェンシーの下で、特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含むことができる。そのようなオリゴヌクレオチドは、RT-PCR反応におけるPCRプライマーとして、またはハイブリダイゼーションプローブとして、使用することができる。いくつかの態様では、キットが、遺伝子のパネル(少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、75%、80%、90%、95%、99%、または100%のCCG(例えば表1またはパネルA〜Gのいずれか内のCCG)を含むもの)の発現レベルを決定するための試薬(例えばプローブ、プライマー、および/または抗体)を含む。いくつかの態様では、キットが、2500個以下の遺伝子(これらの遺伝子のうち、少なくとも5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、150、200、250個、またはそれ以上がCCG(例えば表1またはパネルA〜Gのいずれか内のCCG)であるもの)の発現レベルを決定するための試薬(例えばプローブ、プライマー、および/または抗体)からなる。
【0112】
検出キット中のオリゴヌクレオチドは、放射性同位元素、フルオロフォア、ビオチン、酵素(例えばアルカリホスファターゼ)、酵素基質、リガンドおよび抗体など(ただしこれらに限定されるわけではない)、任意の適切な検出マーカーで標識することができる。Jablonski et al., Nucleic Acids Res., 14:6115-6128 (1986);Nguyen et al., Biotechniques, 13:116-123 (1992);Rigby et al., J. Mol. Biol., 113:237-251 (1977)を参照されたい。あるいは、キットに含まれるオリゴヌクレオチドは標識されておらず、その代わりに、使用者が使用時にオリゴヌクレオチドを標識できるように、一つまたは複数のマーカーがキット中に用意される。
【0113】
本発明のもう一つの態様では、検出キットが、PTENまたは一つもしくはそれ以上のCCGによってコードされる一つまたは複数のタンパク質と選択的に免疫反応する一つまたは複数の抗体、または任意で任意の追加マーカーを含有する。例として、PTENまたは表1もしくはパネルA〜Gに含まれる遺伝子によってコードされるタンパク質に免疫学的に結合する抗体が挙げられる。そのような抗体を作製し使用するための方法は、上に詳述した。
【0114】
検出技法に役立つ他のさまざまな構成要素も、本発明の検出キットに含めることができる。そのような構成要素の例には、Taqポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオチド、ジデオキシリボヌクレオチド、ターゲットDNA配列の増幅に適した他のプライマー、RNase Aなどがあるが、これらに限定されるわけではない。また、本検出キットは、好ましくは、ヒト試料を使って本発明の予後方法を実施するためのキットの使用に関する説明書を含む。
【0115】
ある具体的実施形態では、
【実施例】
【0116】
実施例1
前立腺全摘出術後の化学的再発(chemical recurrence)までの時間を予測するために、以下の細胞周期遺伝子(CCG)シグネチャーを調べた。
【0117】
Splus 7.1(Insightful, Inc.、ワシントン州シアトル)で、コックス比例ハザードモデルを使って、上記31個のCCGに関する平均mRNA発現を、440個の前立腺腫瘍FFPE試料で調べた。尤度比検定のp値は3.98×10-5だった。
【0118】
CCG発現の平均は、測定誤差および遺伝子間の個別変動に対してロバストである。シグネチャーにとって最適な細胞周期遺伝子の数を決定するために、上に列挙したCCGのうちの1〜30個のランダムに選択されたセットについて、平均の予測力を調べた。この模擬実験により、有意に改善された予測力を与えるパネル中のCCGの閾数があることが示された。
【0119】
実施例2
一変数解析において、31CCGのセット(表3)は、前立腺がん患者におけるRP後の生化学的再発の有意な予測因子であることがわかった(p値=1.8×10-9)。これが前立腺がん再発に関する確立された臨床ノモグラム(Kattan-Stephensonノモグラム)を増強するかどうかを決定するために、このシグネチャーをさらに評価した。要約すると、ノモグラムは高度に有意な再発の予測因子であり(p値1.6×10-10)、ノモグラムに関する調整後に、CCGシグネチャーは生化学的再発の有意な予測因子だった(p値4.8×10-5、表6)。
【0120】
患者および方法
804人の連続RP患者を中央値9.5年にわたって追跡した。全コホートの患者特徴および処置転帰は以前に報告されている(Swanson et al., Urol Oncol. (2007) 25:110-114)。分析に十分な組織を含む最後の病理学的評価からの組織ブロックおよび/またはスライドは、430人の患者について入手可能だった。コホートを、トレーニングに利用した212人の患者と、検証セットとしての199人の患者試料とに、ランダムに分割した。
【0121】
遺伝子発現(統計手法):
生化学的再発とCCG発現の間の関連を、再発までの時間に関して、Cox PHモデルを使って評価した。この試験で報告するp値は全て、ヌルモデルを試験変数を含むモデルと比較する尤度比検定から導かれた。31CCGのセット(上記の表3)をランダムに選択した。アッセイを使って、トレーニングセット中の212人の患者から発現データを作成した。発現データは全て三重に作成した。26個のCCGに関する平均発現レベルを算出することにより、発現データを組み合わせて一つのシグネチャーにした。生化学的再発とCCG発現との関連を、再発までの時間に関して、Cox PHモデルを使って評価した。
【0122】
試料調製および試験計画:
RPで処置された411人の前立腺がん患者に由来するFFPE腫瘍切片からRNAを単離した。代表的な10μm厚の腫瘍切片を使ってRNAを単離した。必要な場合は、RNAを単離する前に、病理学者の指導の下で行われる(pathologist guided)試料のマクロダイセクションまたはマイクロダイセクションを使って、腫瘍組織を濃縮した。検証コホートの試料はいずれもマイクロダイセクションを行わなかった。あらゆる解析に先だって、コホートを、シグネチャーの最初の特徴付けのための212患者(「トレーニングセット」)と、検証用の199患者とに分割した。トレーニングコホートおよび検証コホートの臨床的特徴を表5に掲載する。
【0123】
(表5)
【0124】
結果
CCG発現シグネチャー(上記の表3)は、一変数解析において疾患再発を予測した(p値=1.8×10-9、表6)。シグネチャースコアの分布は高い値(低い発現)に偏った。シグネチャースコアの中央値を使って、トレーニングコホートを、高いCCG発現または低いCCG発現を有する試料を含有する2つの群に分割した。両群について生存率対時間を図2に示す。
【0125】
術後ノモグラム(Kattan-Stephensonノモグラム)に典型的に含まれる臨床的変数を考慮した後のCCGシグネチャーの予測力も評価した。ノモグラムは、再発の高度に有意な予測因子だった(p値 1.6×10-10)。ノモグラムに関する調整後に、CCGシグネチャーは、発見(discovery)コホート(p値 0.03)および臨床検証コホート(p値 4.8×10-5)において、生化学的再発の有意な予測因子だった(図3)。
【0126】
(表6)
*欠測値を補完した細胞周期遺伝子発現の平均、コックス比例ハザードモデルの尤度比検定
【0127】
ノモグラムとCCG発現シグネチャーの間の交互作用の理解を助けるために、これらの予測因子を比較する散布図(図4)を作製した(明灰色の星印はがんが再発した患者を表し、黒い星印はがんが再発しなかった患者を表す)。KM平均法による散布図の解析は、ノモグラムスコアのみに基づいて、試料を3つのクラスターに分割した。次に、それらのクラスターは、よく理解されている臨床的パラメータに基づくことが見いだされた。最低スコアクラスターの患者(116/117)は、臓器内限局疾患を有した。中スコアクラスターの患者(48/60)は、不良転帰と関連することが知られている少なくとも一つの術後パラメータ(すなわち、被膜を超えた疾患、疾患陽性リンパ節、および/または疾患陽性精嚢)と低い術前PSA(<10ng/ml)とを有した。最高スコアクラスターの患者は、少なくとも一つの好ましくない術後パラメータと高い術前PSAとを有した。次に、低および中スコアクラスターの患者を、CCGスコアの平均によって分割した。最高スコアクラスターの患者に関する転帰は、ノモグラムによって十分に予測することができるので、さらに分割することはしなかった。結果として、散布図は、2%、40%(2つの群)、65%、および80%の疾患再発率を有する5つの患者群を規定した(表7)。時間に対する5群全ての再発率を図5に示す。
【0128】
(表7)
【0129】
図4に示す散布図は、CCGシグネチャーと術後ノモグラムの間に非線形交互作用があることを示唆している。すなわち、CCGシグネチャーは、低いノモグラムスコアを有する患者における、より良い予測因子である。したがって、この研究では、疾患再発の予測に関して、多変数モデルでこれらの変数間の交互作用の統計学的証拠を調べた(表8)。トレーニング試験でも検証試験でも有利な交互作用を示す有意な証拠があった。モデルに交互作用項を含めることにより、ノモグラムについて調整した後のCCGシグネチャーの予後有意性が激的に改善した(トレーニングコホートにおいて0.0015および検証コホートにおいて1.2×10-8のp値)。
【0130】
(表8)統計的概要
【0131】
実施例3
以下の研究ではシグネチャーに含めるべきCCGの最適な数を決定することを目指した。上述のように、CCG発現レベルは互いに相関するので、疾患転帰を予測するには少数の遺伝子を測定すれば十分である可能性があった。事実、表3に記載されている31遺伝子のセット(パネルC)から選ばれた単一CCGは、下記の表9に示すように(ノモグラムおよびノモグラムとCCG発現の間の交互作用項についての調整後に)Kattan-Stephensonノモグラムを有意に増強する。
【0132】
(表9)
*時間対再発の完全(RP後ノモグラムスコア+細胞周期発現+ノモグラム:細胞周期)対簡約(RP後ノモグラムスコアのみ)Cox PHモデルの尤度比検定に関するp値。
【0133】
大きなCCGセットの小さなサブセット(すなわち小さなCCGパネル)がどの程度機能するか評価するために、この試験では、シグネチャーがどのくらいよく転帰を予測するかも、そのシグネチャーに含まれるCCGの数の関数として比較した(図1)。前立腺手術後の化学的再発までの時間を、RP後ノモグラムスコアによって調整したCCG平均に回帰した。データは、199のFFPE前立腺腫瘍試料と26のCCGに関するデルタCTとして表されたTLDAアッセイからなり、CoxPH多変数モデルによって解析した。p値は、完全モデル(交互作用を含むノモグラム+細胞周期平均)対簡約モデル(ノモグラムのみ)の尤度比検定に関する。下記の表10および図1に示すように、小さいCCGシグネチャー(例えば2、3、4、5、6個のCCGなど)は、Kattan-Stephensonノモグラムを有意に増強する。
【0134】
(表10)
*細胞周期遺伝子の無作為抽出したサブセット(サイズ1〜6)1000個について
【0135】
実施例4
この実験の目的は、前立腺全摘出術後の前立腺がん患者におけるPTEN突然変異と生化学的再発との関連を評価することだった。PTENにおける体細胞突然変異は、再発と有意に関連することがわかり、重要なことに、これは、前立腺がん再発に関する確立された臨床ノモグラム(Kattan-Stephensonノモグラム)とCCGシグネチャースコア(上記実施例1および2で説明したもの)の両方を超える予後情報を追加した。
【0136】
患者および方法
804人の連続RP患者を中央値9.5年にわたって追跡した。全コホートの患者特徴および処置転帰は以前に報告されている(Swanson et al., Urol Oncol. (2007) 25:110-114)。分析に十分な組織を含む最後の病理学的評価からの組織ブロックおよび/またはスライドは、430人の患者について入手可能だった。これらのうち、利用できる腫瘍の量に基づいて、191人をPTEN突然変異スクリーニングのために選択した。
【0137】
QIAamp DNA FFPE組織キット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)をキットプロトコールに従って使用することにより、PTENの突然変異スクリーニング用に、ゲノムDNAを、FFPE腫瘍試料から単離した。FFPEスライドをまず最初にヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、病理学者が調べることにより、腫瘍領域を同定した。脱パラフィン後に、腫瘍組織をスライドから剃刀の刃で切り出した。数個の試料については、腫瘍細胞の離散ゆえに、レーザーキャプチャー顕微鏡法(LCM)によってダイセクションを支援した。
【0138】
PTENゲノム配列をインタロゲート(interrogate)するようにシークエンスプライマーを設計することにより、突然変異を検出した。プライマーは、配列決定が容易になるように、M13フォワードおよびリバーステールを含有した。増幅後に、Frank et al., J. Clin. Oncol. (2002) 20:1480-1490に記載の色素-プライマー化学を使って、DNA配列を、Mega BASE 4500(GE healthcare)で決定した。FFPE材料に由来するDNAの配列決定に付随する技術的困難ゆえに、各突然変異を、少なくとも2回の独立した増幅およびシークエンス反応によって検出した。
【0139】
統計手法:
別段の指定がない限り、生化学的再発とPTEN突然変異との関係を、再発までの時間に関してCox PHモデルを使って評価した。結果として得られるp値は、ヌルモデルを試験片数を含有するモデルと比較する尤度比検定から導き出された。この実施例(実施例4)では、CCGシグネチャーを26個のCCG(上記の表2中のパネルD)から導き出した。発現データは全て三重に作成した。26個のCCGに関する平均発現レベルを算出することにより、発現データを組み合わせて一つのシグネチャーとした。臨床データは、Kattan-Stephensonノモグラムに含まれる変数とした。
【0140】
結果
PTEN突然変異が13個体(13/191)に見つかった。191患者のこのサブセットでは、PTENが生化学的再発の有意な予測因子だった(p値=0.031)。突然変異保因者における再発率は69%(9/13)だったのに比して、非突然変異患者では36%(64/178)だった。再発率の差は、フィッシャーの直接検定でも有意だった(p値=0.034)。臨床的パラメータデータ、CCGシグネチャースコア、およびPTEN突然変異を有する患者のサブセットにおいて、PTEN状態は、臨床的パラメータとCCGシグネチャーの両方について調整した後に、生化学的再発の有意な予測因子だった(p値0.024)。最後に、PTEN突然変異とCCGシグネチャーの組合せは、臨床的パラメータについて調整した後に、臨床的パラメータについて調整した後のCCGシグネチャーを使用した場合よりも良い転帰の予測因子だった(組合せの場合、p値=0.0002であるのに対し、CCGのみの場合は0.0028)。これらの結果は、PTEN突然変異が、臨床的パラメータまたはCCGシグネチャーと相関しない再発の可能性に関する情報を提供すること、および3つのパラメータを全て使って再発リスクを評価することにより、今までに可能であった推定よりも正確な再発確率の推定が得られることを示している。
【0141】
実施例5
この実施例では、本発明のCCGシグネチャーのいくつかの態様を検証し洗練するためのさらなる研究を説明する。
【0142】
患者および方法
804人の連続前立腺全摘出術患者を中央値9.5年にわたって追跡した。中央年齢は67歳だった。臨床病期はT1が34%、T2が66%およびT3が<1%だった。中央術前PSAは6.6ng/mlで、72%は<10ng/ml、28%は>10ng/mlだった。標本にインクを塗布し、臨床的パラメータを陽性膀胱頚部または尿道断端、被膜への浸潤、被膜を超えた進展、陽性断端、および精嚢への転移について記録した。生化学的再発をPSA>0.3ng/mlと定義した。この研究のために、本発明者らは690人の患者について臨床データを利用することができた。分析に十分な組織を含む最後の病理学的評価からの組織ブロックおよび/またはスライドは、442人の患者について入手可能だった。コホートを、トレーニングコホート用の195患者と、検証用の247患者とに分割した。
【0143】
遺伝子の選択
126個のCCGおよび47のHK(ハウスキーピング)遺伝子のアッセイを、転帰または他の臨床データを伴わない96の市販されている匿名前立腺腫瘍FFPE試料に対して行った。作業仮説は、基礎にある同じ現象(CCGについては腫瘍内での細胞周期増殖、HK遺伝子については試料濃度)を、アッセイがさまざまな精度で測定するであろうということだった。アッセイを、個々の遺伝子と、候補遺伝子全ての平均(これは、利用可能な生物学的活性の推定値のなかで最善のものである)との間のピアソンの相関係数によってランク付けした。126個のCCGのそれぞれと平均との相関関係についての結果を表23に報告する。平均発現量が低いCCGまたは試料欠如(sample failure)を起こすアッセイを含めずに、約半分のCCGが0.58未満の相関関係を有し、HKの4分の1が0.95未満の相関関係を有した。これらのアッセイは、基礎にある現象を反映していないと解釈して除外した結果、56個のCCG(パネルG)と36個のHK候補遺伝子のサブセットが残った(表11および12)。このサブセットで相関係数を再計算し、ランク付けしたリストから最終的な選択を行った。
【0144】
(表11)評価したCCGの完全なリスト(「パネルG」)
【0145】
(表12)15個のハウスキーピング(HK)遺伝子のリスト
【0146】
遺伝子発現
代表的な5μM厚のFFPE腫瘍切片から全RNAを抽出した。キシレン浴を使って試料を脱パラフィンした後、一連の段階的エタノール浴で水和した。その後、病理学者の指示に従い、剃刀の刃を使って、腫瘍領域をスライドから切離(dissect)した。あるいは、腫瘍領域をエッペンドルフチューブ中に直接切離し、キシレンを使ってパラフィンを除去し、エタノールで洗浄した。次に、試料を、55℃におけるプロテイナーゼK消化により、一晩処理した。RNeasy FFPEまたはmiRNeasy(Qiagen)を製造者が記載するとおりに使用して(上述の長いプロテイナーゼK消化が唯一の例外である)、全RNAを抽出した。cDNA合成に先だって、単離された全RNAをDNase I(Sigma)で処理した。次に、本発明者らはHigh-capacity cDNA Archive Kit(Applied Biosystems)を使って、製造者が記載するとおりに、全RNAを一本鎖cDNAに変換した。RT反応には最低200ngのRNAが必要だった。
【0147】
発現レベルの測定に先だって、cDNAをTaqMan(商標)アッセイを含有するプール反応でプレ増幅(pre-amplify)した。プレ増幅反応条件は、95℃で15秒および60℃で4分を14サイクルとした。第1サイクルは95℃における10分間のインキュベーションを含むように変更した。1×TE緩衝液を使って増幅反応を1:20に希釈してから、TaqMan(商標)Low Density Arrays(TLDA、Applied Biosystems)にローディングして、遺伝子発現を測定した。
【0148】
CCGスコア
CCGスコアは、15個のハウスキーパー遺伝子(HK)によって規格化された31個のCCG(パネルF)のRNA発現から算出される。CCGスコアの分散が最小になるように、CCG(31個)とHK遺伝子(15個)の相対数を最適化した。CCGスコアは、CCG発現に関するCT値の非加重平均をHK遺伝子の非加重平均で規格化したものであるので、高い値ほど増加した発現を示す。1単位は発現の2倍変化に相当する。欠測値は、質の良い試料だけを使ってトレーニングセットで決定された各遺伝子に関する平均発現を使って補完した。同様にトレーニングセットで決定された平均値によって、CCGスコアの中心を決めた。
【0149】
4つの市販前立腺試料で希釈実験を行って、CCGスコアの測定誤差(se=0.10)および欠測値の影響を見積もった。CCGスコアは、合計31個のCCGのうち5個が欠如する点まで濃度を減少させても安定なままであることがわかった。この結果に基づいて、欠測値が4つを超える試料にはCCGスコアを割り当てなかった。
【0150】
低リスクを決定するためのCCGスコア閾は、トレーニングセットにおける再発の最低CCGスコアに基づいた。次に、試験の陰性適中度を最適化するために、その閾を1標準偏差分、下方に調節した。
【0151】
臨床的リスクのモデル
コックス比例ハザードモデルを使って、利用可能な臨床的パラメータデータを要約し、各患者について生化学的再発の先験的臨床的リスクを見積もった。データセットは、トレーニングセットからの195例と、臨床的パラメータ情報は有するがRNA発現を測定するには試料が十分でない他の248例とからなった。転帰と関連することがわかっている臨床的パラメータに対して一変数検定を行った(下記の表13参照)。有意でないパラメータはモデルから除外した。浸潤を、外科的縁、被膜外進展、または精嚢、膀胱頚部/尿道断端、もしくはリンパ節のいずれかへの転移と定義して、臓器内限局疾患について合成変数を作成した。臓器内限局疾患に関する合成変数は、その5つの構成要素(そのうちのいくつは相関し、または優勢でない)のどれよりも、このモデルにおいて有意であることがわかった。術後共変数についてAIC基準を使ってモデル当てはめを行った。
【0152】
(表13)臨床的パラメータの一変数解析および生化学的再発との関連
*尤度比検定に関するコックスPH p値
【0153】
最終モデル(すなわちノモグラム)は、臓器内限局疾患および6以下のグリーソンスコアに関する二値変数と、対数PSAに関する連続変数を有する(表14)。このモデルは、RPの年とグリーソンスコアの2つの構成要素を除けば、RP後ノモグラム(すなわちKattan-Stephensonノモグラム)に組み込まれている臨床的パラメータの全てを含む。先験的臨床的リスクの分布は、3つの異なるノード(node)を示す(図8)。3中心のk平均クラスタリングを使って、試料の約50%を含む低リスククラスターについての閾を設定した。
【0154】
(表14)臨床モデル
*尤度比検定に関するコックスPH p値
【0155】
統計解析
トレーニングセットと検証セットの間で、連続パラメータについてはスチューデントのt検定を使って、またカテゴリーパラメータについてはフィッシャー直接検定を使って、臨床的パラメータを比較した。手術後の生化学的再発に関する患者の先験的臨床的リスクを、7つの共変数を要約するRP後ノモグラムスコアによって見積もった。ノモグラムスコアのk平均クラスタリングを使って、患者を、低先験的臨床的リスクまたは高先験的臨床的リスクとしてカテゴリー化した。発現データは、15個のハウスキーパー遺伝子(上記の表12)の平均によって規格化された各CCGのCT(蛍光強度が所定の閾を超えるPCRサイクル数)として表した。
【0156】
低いCCG発現を有する試料を間違って除外することによってシグネチャーの完全性を損なうことなく低品質試料または疑わしい読みを排除するために、低品質試料を解析から除外した。したがって、データをクリーニングまたはフィルタリングするための閾は、保守的(conservatively)に設定した。各試料に関するHK遺伝子の平均発現レベルであって、CCGのそれよりも高いものを使って、低品質試料を同定した。増幅効率に関する技術的測定基準と、レプリケートの過剰に高い標準偏差とを使って、信頼できないCT測定値を同定した。HK遺伝子の欠如がないこと、およびCCGに関する3つのレプリケートのうち一つを超える欠如がないことを許容した。
【0157】
臨床的パラメータによって予測される臨床的リスクに関する調整後の生化学的再発とCCG発現の間の関連を、再発までの時間に関してコックス比例ハザードモデルを使って評価した。時間依存性なしの比例ハザード仮説を、交互作用項を含むCCGシグネチャー+二値臨床的パラメータスコアの完全モデル、およびCCGシグネチャーのみについて、臨床的リスクサブセットで検定した。トレーニングまたは検証において有意でなかったことから、時間依存性に関する証拠はないことが示された。報告されるp値は全て、簡約モデルまたはヌルモデルを試験変数を含むモデルと比較する尤度比検定からのものである。カプラン-マイヤープロットを使って患者のサブセットについて推定される生存確率を示すが、p値は変数の連続値に関してコックス尤度比検定から得られるものである。全ての統計的解析をS+Version 8.1.1 for Linux(TIBCO Spotfire)またはR2.9.0(http://www.r-project.org)で行った。
【0158】
結果
本発明者らは、RPによる処置を受けた442人の前立腺がん患者から得られたFFPE腫瘍切片からRNAを単離した。このコホートを、シグネチャーの最初の特徴付けのための195人(「トレーニングセット」)と、検証用の247人とに分割した。トレーニングコホートと検証コホートの臨床的パラメータを表15に掲載する。多重比較に関する調整後に有意差はなかった。
【0159】
(表15)トレーニング患者コホートおよび検証患者コホートの臨床的パラメータ
【0160】
この研究のためのCCGシグネチャーを解析するために、本発明者らは、96の前立腺腫瘍から得られたRNAについて、126個のCCGを調べた(表11)。腫瘍試料は匿名であり、臨床データを伴わなかった。この遺伝子セットから、本発明者らは31個の遺伝子(パネルF)を選択して、本発明者らのシグネチャーに含めた(表16)。これらの遺伝子は、96の匿名試料における、その技術的性能に基づいて、また各遺伝子がCCGセット全体の平均発現レベルとどの程度よく相関するかによって、選択された。
【0161】
(表16)トレーニングセットから得たCCGシグネチャー(パネルF)
【0162】
CCGシグネチャーの予後有用性を評価するために、本発明者らは、トレーニングセット中の195人の患者について、発現データを作成した。個々の遺伝子発現レベルは相関したので、本発明者らは、15個のハウスキーパー(表12)によって規格化された31遺伝子(パネルF)のセット全体に関する平均発現を計算することにより、それらを組み合わせて一つのシグネチャースコアにした。CCGスコア分布の中心を0に置いた。各スコア単位は発現レベルの2倍変化に対応する。ハウスキーピング遺伝子の低い発現または許容されない数のCCG欠如を観察することによって低品質試料を同定し、それらを解析から除外した。本発明者らの除外規則の適用後に、解析に利用できる試料は140あった。生化学的再発とCCG発現の間の関連を、再発までの時間に関してコックスPHモデルを使って評価した。高いCCG発現値は、一変数解析において、疾患再発を予測する(p値=0.01、表17)。
【0163】
次に本発明者らは、RP後の再発と関連することが知られている臨床的パラメータを考慮した後のCCGシグネチャーの予後有用性を評価した。本発明者らの解析における臨床的尺度を考慮するために、本発明者らは、術前PSA、グリーソンスコア、および前立腺外の疾患を示す証拠(すなわち、被膜外進展、またはリンパ節、断端、膀胱頚部、尿道断端もしくは精嚢上の陽性術後病変のいずれか)を含むモデル/ノモグラムを作成した。このモデルは、本発明者らが臨床データを有したが検証セットに含まれなかった全ての患者を含む443人の患者において最適化され(表13および14)、トレーニングコホートにおいて再発の高度に有意な予測因子だった(p値=2.5×10-11)。この臨床モデルからのスコアの分布はいくつかのモード(mode)を含み(図8)、高リスク患者群と低リスク患者群を分別する。したがって、以後は、このスコアを二値変数(高リスクまたは低リスク)として使用した。低リスククラスターは臨床的パラメータの一貫したセットと相関した。具体的には、圧倒的多数(215/218)が臓器内限局疾患と7未満のグリーソンスコアを有した。また、80%は、低い術前PSA(<10ng/ml)を有した。高リスククラスター中の患者(N=225)は、より不均一であったが、不良転帰と関連することが知られている臨床的特徴(例えばグリーソン>6および/または被膜を超えた疾患)を有する傾向があった。
【0164】
本発明者らの二値臨床モデルを組み入れたトレーニングセットの多変数解析は、発現シグネチャーと臨床的パラメータの間の非線形交互作用の証拠を示した(表17)。この交互作用の性質の理解を助けるために、本発明者らは、これらの予測因子を比較する散布図を作成した(図8)。図から明らかなように、CCGスコアは、臨床的パラメータによって低リスクと定義された患者における再発リスクを評価するのに役立つことが判明した。実際、低リスク患者内での臨床モデルに関する調整後でさえ、CCGシグネチャーは生化学的再発の強い予測因子だった(p値=0.0071)。
【0165】
(表17)統計的概要
【0166】
本発明者らは、散布図に本発明者らのトレーニングデータを使って、CCGシグネチャーについて-0.16という最適化された閾スコアを確立した(平均CCGスコアはゼロである)。図12は、この実施例で調べた443人の患者に適用されたこの閾を表す。低リスク患者の40%がこの閾未満に属し、RPの10年後に再発がないように選択された(すなわち陰性適中度(NPV)100%)。臨床モデルとCCGスコアの両方について閾値を確立した結果として、散布図が、低リスク患者に関して0%(低CCG)および26%(高CCG)の再発率、ならびに高リスク患者に関して60%(低CCG)および50%の再発率を有する4つの区画に分割された。
【0167】
次に、本発明者らは、本発明者らの検証コホート中の247人の患者に関して、CCG発現データを作成した。トレーニングコホートで開発した除外規則に従って、32の試料をさらなる解析から排除した。パネルFは、一変数解析において、生化学的再発の有意な予測因子だった(p値=5.8×10-8、表17)。二値臨床モデルに関する調整後に、CCGシグネチャーは、検証コホートにおいて、再発を高度に予測し(p値8.3×10-7)、トレーニングセットの場合と同様に、変数間の非線形交互作用を示す有意な証拠があった。CCGシグネチャーは、臨床的に定義されたリスクの全てのスペクトルにわたって、情報価値があった(表17)。トレーニング結果の検証に関して、低リスク患者における再発とCCGシグネチャーの間の関連に関するp値は、1.9×10-4だった。
【0168】
本発明者らは、本発明者らによるトレーニングコホートの解析によって導き出したCCG閾を、本発明者らの検証データセットに適用した(図9)。閾未満のCCGスコアを有する低リスク患者は、5%の10年予測再発率を有した(0.95の検証されたNPVに等しい)。全体として、CCGスコアと臨床的パラメータの組合せは、コホートを、5%、22%、36%および70%の10年予測再発率を有する4つの群に分割した(表18)。検証コホート内の患者に関する予測再発率対CCGスコアを図10および11に示す。
【0169】
(表18)臨床的リスクとCCGスコアによって定義された検証コホートにおける再発率の要約
【0170】
本発明者らは、本発明者らの検証された閾を低リスク患者のさまざまな定義に対して、検定した(表19)。シグネチャースコアは、さまざまな低リスク臨床定義において有意な予後インジケーター(prognostic indicator)であり、定義に依存して0.05〜0.10の10年予測再発率をもたらした。
【0171】
(表19)低リスク患者の他の定義におけるCCGシグネチャーのNPV
*-検証された閾による定義
**-カプラン-マイヤー推定値
***-グリーンウッド分散(Greenwood variance)によって調整した低および高リスクについてのKM推定値間の相違に関して。
【0172】
コメント
本発明者らは、前立腺がんに関する予後分子シグネチャーを開発し、検証した。このシグネチャーは、細胞周期遺伝子(CCG)のmRNA発現レベルを測定することに基づく。定義上、CCGの発現は細胞周期段階の関数として調節される。すなわち、それらは特異的細胞周期段階でオンになるので、活発に成長している細胞は静止細胞より高いCCGの発現レベルを有する。おそらくこの事実が、がん進行を予測するというシグネチャーの能力の基礎をなしているのだろう。理論に束縛されることは望まないが、CCGの発現レベルを測定することにより、本発明者らは、最終的には前立腺切除術後の前立腺がん再発の可能性に影響を及ぼす腫瘍の成長速度および固有の侵攻性を、間接的に測定しているのだと考えられる。
【0173】
この研究と、予後分子シグネチャーを作成しようと試みた他の多くの研究との間には、重要な相違がある。多くの場合、類似する研究は、非常に多数の候補バイオマーカー(時には数千を超える遺伝子)から開始し、次に、関心対象の臨床表現型との関連について、それらを評価する。このアプローチは、時として、固有の多重検定に悩まされる場合があり、それが得られたシグネチャーの有意性を不明確にし得る。ここに本発明者らは、CCGが前立腺がんにおいて予後の根拠になるという、一つの仮説を検定した(実際には、本発明者らは、遺伝子を、再発との関連に基づいてではなく、CCG発現とのそれらの相関関係に基づいて選択した)。そして、CCG発現は相関するので、本発明者らは、シグネチャー中の全ての遺伝子の平均発現値を決定することにより、発現データを組み合わせて一つの予測的シグネチャーにした。このアプローチの単純性は、この研究の核心的主張が非常にロバストであり、今後の研究において再現される可能性が高いという見解を、生物学的にもコンピュータ的にも裏付けている。
【0174】
CCGシグネチャー(パネルF)は、独立して予測的であり、手術後の疾患再発を予測するために典型的に使用される臨床的パラメータの予測力を有意に増強する。これは、本発明者らのトレーニングコホートにおいても、検証コホートにおいても真である。
【0175】
本シグネチャーは、低リスク臨床的パラメータを呈する患者のリスクを定義するのに、直ちに役立つ。ここで本発明者らは、本質的に、低リスクをグリーソン<7、PSA<10および臓器内限局疾患と定義した。CCGシグネチャースコアは、その低リスク群を、極めて低い再発率(5%)を有する患者と、より高い再発リスク(22%)を有する患者に、効果的に細分した(図9および表18)。これは、臨床的パラメータに基づいて低リスクと先に定義された患者のリスクを正確に再定義するという、この分子シグネチャーの最も劇的な効果である。この患者部分集団(すなわち臨床的パラメータに基づいて低リスクと定義された患者)内では、臨床的パラメータが特に予後の根拠となるわけではないことは、注目に値する(表17参照)。したがって、診断検査として、本シグネチャーは、多数の患者にとって有用であるだろう。この研究では、コホートのほぼ60%が低リスクと特徴づけられ、その40%が低CCGスコアを有すると予想される。したがってCCGシグネチャーは、以前は高リスクと同定されていた(そして、それゆえに前立腺全摘出術の候補と同定されていた)患者の4分の1における緩徐進行型の疾患を予測することができる。最後に、検証データは特に、CCGシグネチャーが全ての患者におけるリスクを定義するのに役立ち得ることを示唆している。具体的には、これは、臨床的パラメータに従って高リスクと定義された患者を、再発率30%の患者と再発率70%の患者に分割するのに役立った(表18)。
【0176】
臨床的パラメータとCCGシグネチャーの組合せにより、医師は、外科手術不成功(surgical failure)のリスクをより正確に予測し、それゆえに、適当な治療的介入のコースを同定することが可能になる。本発明者らが示したように、本シグネチャーは、非侵攻性疾患の一般的な臨床的パラメータを呈する患者に関する再発予測を劇的に改善する(表19)。この臨床サブグループにおいて低いCCGスコアを有する患者は、さらなる処置の適応がないことの絶対的再保証によって利益を得るだろう。逆に、高CCG群は、即時的介入の正当な理由になり得る。好ましくない術後臨床的パラメータを有する患者は、アジュバント放射線療法の利益を受ける。したがって、CCGシグネチャーは、低リスクな臨床的特徴と高いCCGスコアとを有する患者に関するアジュバント放射線照射の効力を予測するはずである。検証コホートにおいて、高いCCGスコアと前立腺外に達する疾患とを有する患者は70%の再発率を有し、これは、アジュバント放射線照射の良い候補である患者を明確に同定するはずである。このように、臨床的パラメータとCCGシグネチャーの組合せは、より正確に定義された患者リスクに、明らかにつながり、それが、さらなる処置の必要性のより理知的な査定を可能にするはずである。
【0177】
実施例6
本明細書に記載するCCGパネルのいくつかを、他のがんを予後判定するその能力について、さらに評価した。パネルC、D、およびFは、膀胱がん、脳がん、乳がん、および肺がんにおいて、さまざまな程度に、予後の根拠になることがわかった。
【0178】
方法
遺伝子発現および患者データは公に入手可能な以下のデータセットから得た:GSE7390(Desmedt et al., Clin. Cancer Res. (2007) 13:3207-14;PMID 17545524);GSE11121(Schmidt et al., Cancer Res. (2008) 68:5405-13;PMID 18593943);GSE8894(Son et al.;未公表);Shedden(Shedden et al., Nature Med. (2008) 14:822;PMID 18641660);GSE4412(Freije et al., Cancer Res. (2004) 64:6503-10;PMID 15374961);GSE4271(Phillips et al., Cancer Cell (2006) 9:157-73;PMID 16530701);GSE5287(Als et al., Clin. Cancer Res. (2007) 13:4407-14;PMID 17671123)。これらのデータセットのそれぞれには、発現および患者データを集める際に使用した実験手法の詳細な説明が付属している。各データセットを作成するために使用された発現マイクロアレイを下記の表20に要約する。
【0179】
(表20)
【0180】
パネルC、DおよびFに含まれる遺伝子のそれぞれについての発現データをこれらのデータセットから集め、その臨床転帰がわかっている(例えば再発、進行、無進行生存、全生存など)各患者について、各パネルの平均発現レベルを決定した。CCGスコアは、あるパネル中の遺伝子の平均発現である。ある遺伝子がアレイ上の2つ以上のプローブセットによって表される場合、遺伝子発現は、その遺伝子を表す全てのプローブセットの平均発現である。CCGスコアと生存または疾患再発の関連を、一変数および多変数コックス比例ハザードモデルを使って検定した。関連臨床的パラメータ(脳がんにおける悪性度、肺がんにおける病期、乳がんにおけるNPI)を利用できる場合は、多変数解析を行った。
【0181】
結果
下記の表21に示すように、各パネルは、一変数解析において、解析したがんのそれぞれにおける予後因子であった。
【0182】
(表21)
【0183】
下記の表22に示すように、各パネルは、少なくとも一つの臨床的パラメータ(またはノモグラム)と組み合わせた場合に、多変数解析でも予後の根拠になった。
【0184】
(表22)
【0185】
下記の表23に、選ばれたCCGについて、それらと平均CCG発現との相関関係によるランキングを記載する。
【0186】
(表23)
【0187】
下記の表1にCCGの大きい(ただし網羅的ではない)リストを記載する。
【0188】
(表1)
【0189】
本明細書において言及した刊行物および特許出願はいずれも、本発明が属する技術分野における当業者の水準を示す。全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願について参照により組み込まれることを個別に明記した場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み入れられる。刊行物および特許出願への単なる言及は、それらが本願にとって先行技術であることの自白を、必ずしも構成しない。
【0190】
以上、明解に理解できるように図解と実施例を挙げて、本発明をいくらか詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲内で一定の改変および変更を実施できることは、明白であるだろう。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国仮特許出願第61/143,077号(2009年1月7日出願)、同第61/179,650号(2009年5月19日出願)、同第61/185,901号(2009年6月10日出願)、同第61/241,748号(2009年9月11日出願)、同第61/256,443号(2009年10月30日出願)の優先権の恩典を主張し、これらの仮特許出願はそれぞれ参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、概して疾患の分子分類に関し、特に、がんの分子マーカーおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
がんは、米国における総死亡のおよそ25%の原因となる大きな公衆衛生問題である。さまざまながんに対して数多くの処置が考案されてきたが、これらの処置は副作用の重症度が一様でないことが多い。臨床家にとって、患者のがんがどれくらい侵攻性(aggressive)であるかを知ることは、どれくらい攻撃的にがんを処置すべきかを決定するのに役立つ。
【0004】
例えば、早期無症候性前立腺がんを有する患者は大半が、前立腺全摘出術または放射線療法と、任意でアジュバント療法(例えばホルモン療法または化学療法)とによって処置されるが、これらは全て重篤な副作用を有する。しかし、これらの患者の多くにとって、これらの処置と、それに付随する副作用および費用は、不必要なものである。なぜなら、これらの患者におけるがんは侵攻性ではない(すなわち、ゆっくり成長し、患者の生存中にそれが死亡または重大な病的状態を引き起こす可能性は低い)からである。他の患者では、がんが毒性(virulent)であり(すなわち、再発する可能性が高く)、患者の命を救うには攻撃的処置(aggressive treatment)が必要である。
【0005】
どの患者が攻撃的処置を必要とし、どの患者がそうでないかを、医師が判断する際の助けになるように、いくつかのツールが考案されている。実際、いくつかの臨床的パラメータが現在、多種多様ながんで、この目的に使用されている。例えば前立腺がんでは、そのような臨床的パラメータに、血清中前立腺特異抗原(PSA)、グリーソン分類、病理学的病期、および外科的縁(surgical margin)が含まれる。近年、臨床的パラメータは、患者ががんの進行/再発を起こす確率を計算する連続多変数術後ノモグラムにそれらを組み入れることにより、より役立つものになっている。例えばKattan et al., J. Clin. Oncol. (1999) 17:1499-1507;Stephenson et al., J. Clin. Oncol. (2005) 23:7005-7012(非特許文献1および2)を参照されたい。しかし、これらの進歩にも関わらず、多くの患者には不適切ながん処置が施行されており、がん再発を予測するための新規で改良されたツールが、今なお真摯に求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kattan et al., J. Clin. Oncol. (1999) 17:1499-1507
【非特許文献2】Stephenson et al., J. Clin. Oncol. (2005) 23:7005-7012
【発明の概要】
【0007】
本発明は、一部には、その発現が細胞周期を厳密にたどっている遺伝子(「細胞周期遺伝子」または「CCG」)が、特定のがんを分類するためのとりわけ強力な遺伝子であるという決定に基づいている。事実、多くの予後シグネチャー(prognostic signature)における予測力(predictive power)の(全てではないとしても)大半は、CCGが与えることを、本発明者らは見いだした。例えばCCGパネルは、前立腺がん、膀胱がん、脳がん、乳がんおよび肺がんの侵攻性を予測できることを、本明細書において示す。
【0008】
したがって本発明の一局面は、がんを分類する方法であって、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が特定のがん分類を示す方法を提供する。いくつかの態様では、判定されるべき状態が遺伝子発現レベルである。いくつかの態様では、異常な状態が、がんが侵攻性であること(これは、予後不良であること、再発または進行の可能性が増加していることなどを含み得る)を示す。いくつかの態様において、本発明は、患者のがんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの発現レベルを測定する工程を含み、増加した発現が、がんの再発もしくは進行の高い可能性、または攻撃的処置の必要を示す方法を提供する。
【0009】
アッセイされるCCGの数は、例えば技術的制約、費用検討、行われる分類、試験されるがん、所望する予測力のレベルなどに依存して変動し得る。しかし、一定最小数のCCGがロバストで有意に改善された予測を与えることが決定された。したがって、本発明のいくつかの態様では、少なくとも5つのCCGを含むパネルの状態が判定される。いくつかの態様では、パネルが、少なくとも6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50個、またはそれ以上のCCGを含む。いくつかの態様では、パネルが、少なくとも10、15、20個、またはそれ以上のCCGを含む。
【0010】
いくつかの態様では、CCGが、遺伝子のパネルの少なくとも一定の比率を占める。したがって、いくつかの態様では、パネルが、少なくとも25%、30%、40%、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、より好ましくは少なくとも75%、80%、85%、そして最も好ましくは90%、95%、96%、97%、98%、または99%のCCGを含む。
【0011】
いくつかの態様では、CCGが、表1およびパネルA〜Gに含まれる遺伝子からなる群より選択される。いくつかの態様では、パネルが、表1またはパネルA〜Gのいずれかに掲載されている遺伝子の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、110、120個、またはそれ以上を含む。
【0012】
CCGは特定のがんにおいてとりわけ予測的であることが見いだされた。例えば、CCGのあるパネルが、前立腺がんにおける再発の予測に関して正確であると判定されている。さらに、CCGは、膀胱がん、脳がん、乳がんおよび肺がんにおける予後を判定することもできる。したがって本発明は、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法を提供する。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群より選択される少なくとも2つの遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群から選択される少なくとも10個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群から選択される少なくとも15個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の全てを含む。本発明は、少なくとも2つのCCG(例えば、パネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態は予後不良を示す、膀胱がんの予後を判定する方法も提供する。本発明は、少なくとも2つのCCG(例えば、パネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態は予後不良を示す、脳がんの予後を判定する方法も提供する。本発明はさらに、少なくとも2つのCCG(例えば、パネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態は予後不良を示す、乳がんの予後を判定する方法を提供する。本発明は、少なくとも2つのCCG(例えば、パネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態は予後不良を示す、肺がんの予後を判定する方法も提供する。
【0013】
さらに、CCG状態は、がんの予後判定において、臨床的パラメータ(例えば臨床ノモグラム)を相乗的に増強することも見いだされた。前立腺がんの場合、パネルA〜Fのいずれか内の遺伝子の任意の一つの高レベルな遺伝子発現は、その臨床ノモグラムスコアが比較的低い再発または進行のリスクを示す患者における、がん再発またはがん進行の高いリスクと関連することが見いだされた。例えば実施例3および5を参照されたい。脳がんの場合、パネルB、CまたはFのいずれか内の遺伝子の任意の一つの高レベルな遺伝子発現は、腫瘍悪性度とは無関係に、がん再発またはがん進行の高いリスクと関連することが見いだされた。肺がんの場合、パネルB、CまたはFのいずれか内の遺伝子の任意の一つの高レベルな遺伝子発現は、腫瘍病期とは無関係に、がん再発またはがん進行の高いリスクと関連することが見いだされた。乳がんの場合、パネルB、CまたはFのいずれか内の遺伝子の任意の一つの高レベルな遺伝子発現は、ノッティンガム予後指標(Nottingham Prognostic Index;NPI)ノモグラムスコアとは無関係に、がん再発またはがん進行の高いリスクと関連することが見いだされた。このように、CCG発現レベルを評価することにより、臨床的パラメータを単独で使用しても検出されない高いリスクを検出することができるので、本発明は、一般に、少なくとも一つの臨床的パラメータを評価する工程を少なくとも一つのCCGの状態を評価する工程と組み合わせる方法を提供する。
【0014】
したがって、本発明の一局面は、あるがん患者に関して少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。いくつかの態様では、複数のCCG(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50個またはそれ以上)の状態が判定される。いくつかの態様では、異常な状態が、再発または進行の高い可能性を示す。いくつかの態様では、患者が前立腺がんを有する。いくつかの態様では、患者が肺がんを有する。多くの場合、臨床的パラメータは少なくともある程度は独立して再発または進行を予測し、CCG状態の付加は予測力を改善する。例示的なCCGには、パネルA〜Gに記載されるものが含まれる。いくつかの態様では、2つ以上の臨床的パラメータが、少なくとも一つのCCGの発現レベルと共に査定される。いくつかの態様では、2つ以上の臨床的パラメータが査定され、そのパラメータの組合せが、少なくとも一つのCCGの発現レベルと共に、がん再発またはがん進行の可能性を予測する。
【0015】
臨床的パラメータは、多くの場合、組み合わされて、がん再発またはがん進行のリスクを予測するためのノモグラムに組み入れられる。したがって、本発明のもう一つの局面は、あるがん患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。多くの場合、臨床ノモグラムは、高いスコアが高い再発リスクと相関するように設計される。同様に、高いCCG状態(例えば増加した発現または活性)は、高いリスクと相関する。したがって、いくつかの態様において、本発明は、あるがん患者が再発または進行の高い可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者について臨床ノモグラムスコアを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含み、高いノモグラムスコアおよび/または高いCCG状態が、その患者が再発または進行の高い可能性を有することを示す方法を提供する。いくつかの態様では、がんが前立腺がんである。いくつかの態様では、がんが乳がんである。
【0016】
ある局面において、本発明は、ある患者に関して少なくとも一つの臨床的パラメータ(またはノモグラムスコア)を決定する工程と、CCGのパネルの状態を判定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。アッセイされるCCGの数は、例えば技術的制約、費用検討、行われる分類、試験されるがん、所望する予測力のレベルなどに依存して変動し得る。一例として、本発明は、ある患者に関してノモグラムスコアを決定する工程と、表1またはパネルA〜Gに掲載されている遺伝子の2つ以上の発現レベルを決定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。CCG(表1またはパネルA〜Gに掲載されているものはいずれも含む)の任意の組合せを使用して本発明を実施することができる。ある態様では、表1またはパネルA〜Gに掲載されているCCGの全てをアッセイする。
【0017】
PTEN状態が侵攻性前立腺がんを予測することも見いだされた。PTEN状態は、臨床的パラメータとCCGの両方を増強する。CCG状態と組み合わされたPTEN状態は、臨床前立腺ノモグラムより良い予測因子(predictor)である。PTEN状態を評価することにより、臨床的パラメータ(例えば臨床ノモグラム)またはCCG発現レベルを単独でまたは組み合わせて使用しても検出されない高いリスクを検出することができるので、本発明のいくつかの局面は、臨床的パラメータまたはCCG発現レベルをPTENの状態の評価と組み合わせる方法に関する。
【0018】
したがって、本発明の一局面は、PTEN状態を判定する工程と、患者から得られる試料におけるCCGのパネルの状態を判定する工程(および任意で、その患者に関して一つまたは複数の臨床的パラメータ(例えば臨床ノモグラム)を決定する工程)とを含む、インビトロ診断法を提供する。複数の技法の異なる組合せを使って、さまざまなマーカーの状態を判定することができる。例えば、ある態様では、PTEN状態が免疫組織化学(IHC)によって判定され、一方、複数のCCGの状態は、定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR(商標))、例えばTaqMan(商標)によって判定される。
【0019】
PTEN状態およびCCG状態は前立腺がんの再発または進行のリスクと独立して相関することが示されたので、いくつかの態様は、前立腺がん患者の再発の可能性を決定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTEN状態を判定する工程を含み、低いまたは陰性のPTEN状態が、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。PTEN状態およびCCG状態は前立腺がんの再発または進行のリスクの予測に関して相加的でもあるので、いくつかの態様は、前立腺がん患者の再発の可能性を決定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTEN状態を判定する工程と、その患者から得られる試料における複数のCCGの状態を判定する工程とを含み、低いもしくは陰性のPTEN状態および/または高いCCG状態が、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。
【0020】
PTEN状態は、前立腺再発の予測において、臨床的パラメータに適中度(predictive value)を追加することができる。したがって、本発明のもう一つの局面は、ある前立腺がん患者に関してPTEN状態を判定する工程と少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。多くの場合、臨床的パラメータは少なくともある程度は独立して再発を予測し、PTEN状態の付加は予測力を改善する。いくつかの態様において、本発明は、あるがん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程と、その患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程とを含み、低いまたは陰性のPTEN状態および高いノモグラムスコアは、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。いくつかの態様において、本発明は、あるがん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程と、その患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含み、低いまたは陰性のPTEN状態、高いノモグラムスコアおよび高いCCG状態は、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。
【0021】
3つのマーカーの全てを組み合わせると、さらに大きな予測力が得られることが、下記の実施例で示された。したがって、いくつかの態様は、PTEN状態を判定する工程と、少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程と、少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程とを含む、インビトロ法を提供する。
【0022】
遺伝子の状態には、その遺伝子の任意の物理的、化学的、または遺伝学的特徴が含まれる。例として、発現レベル、活性レベル、突然変異、コピー数などが挙げられる。再発または進行のリスクを予測するためのCCGとの関連でいえば、発現レベルおよび活性レベルは、多くの場合、CCGの状態を判定する際に査定されるべき最も有用な特徴である。いくつかの態様では、ある遺伝子(例えばCCGまたはPTEN)の発現レベルを決定する工程が、
(a)その遺伝子によってコードされるポリペプチドの量を決定すること;
(b)その遺伝子によってコードされるRNAの量を決定すること;または
(c)その遺伝子を調節する任意のmiRNAの発現レベルおよび/または活性レベルを決定すること
の少なくとも一つを含む。いくつかの態様では、活性レベルを決定することが、例えば遺伝子によってコードされるポリペプチドの酵素活性のレベルを決定することや、ポリペプチドと結合パートナーの間の相互作用のレベルを決定することなどを含み得る。
【0023】
ある局面において、本発明は、上記の方法で使用するための組成物、マイクロアレイおよびキットを提供する。そのような組成物は、PTENまたはCCG(またはそれがコードする任意の核酸もしくはそれに相補的な任意の核酸)にハイブリダイズする核酸プローブ;PTENまたはCCGまたはそれがコードする任意の核酸の全部または一部を増幅するのに適した核酸プライマーおよびプライマー対;PTENまたはCCGがコードするポリペプチドに免疫学的に結合する抗体;複数の前記核酸プローブ、核酸プライマー、抗体、および/またはポリペプチドを含むプローブセット;これらのいずれかを含むマイクロアレイ;これらのいずれかを含むキットなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの局面において、本発明は、上記の方法において使用するためのコンピュータ手法、システム、ソフトウェアおよび/またはモジュールを提供する。
【0024】
別段の定義づけがない限り、本明細書において使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が関係する技術分野における当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験には、本明細書に記載するものと類似する、または等価な、方法および材料を使用することができるが、以下に適切な方法と材料を説明する。万一、矛盾が生じる場合は、定義を含めて本明細書が優先される。また、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、限定を意図しない。
【0025】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明白であるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】サイズが異なるCCGパネルに関する、ノモグラムを踏まえた予測力の図解である。
【図2】再発までの時間を予測するCCGの図解である。
【図3】再発までの時間を予測するノモグラムの図解である。
【図4】ノモグラムおよびCCGシグネチャーによって予測される重複しない(non-overlapping)再発の図解である。
【図5】ノモグラムおよび/またはCCG状態によって定義されるいくつかの患者集団に関する再発までの時間の図解である。
【図6】本発明の特定の局面および態様において有用なシステムの一例の図解である。
【図7】本発明のコンピュータにより実現される(computer-implemented)方法の一例を図解するフローチャートである。
【図8】実施例5から、再発の予測因子としての臨床的パラメータとCCGスコアとを比較する散布図である。
【図9】実施例5から、トレーニングコホート(training cohort)の解析によって導き出したCCG閾を、検証データセットに対して図解しており、CCGシグネチャースコアは、臨床的パラメータを使って低リスクと同定された患者を、極めて低い再発率を有する患者と、より高い再発リスクを有する患者とに効果的に細分している。
【図10】実施例5の検証コホート中の患者に関して、予測再発率対CCGスコアを図解している。
【図11】実施例5の検証コホート中の患者に関して、予測再発率対CCGスコアを図解している。
【図12】実施例5において調べた443人の患者における臨床的リスクスコアの分布を図解している。濃い垂直線は、低リスク患者と高リスク患者とを分割するために、KM平均法(KM means)によって選ばれ、この試験の全体を通して使用された、閾を表す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
本発明は、一つには、その発現が細胞周期を厳密に追う遺伝子(「細胞周期遺伝子」または「CCG」)は、特定のがんを分類するためのとりわけ強力な遺伝子であるという発見に基づいている。
【0028】
本明細書にいう「細胞周期遺伝子」および「CCG」は、その発現レベルが細胞周期に沿った細胞の進行を厳密に追う遺伝子を指す。例えばWhitfield et al., Mol. Biol. Cell (2002) 13:1977-2000を参照されたい。より具体的には、CCGは、細胞周期の特定の位相と符合する発現量の周期的な増加および減少を示し、例えばSTK15およびPLKはG2/Mにピーク発現を示す。前掲書参照。多くの場合、CCGは、例えばDNA合成またはDNA修復、染色体凝縮、細胞分裂などにおいて、明確な、一般に認められた、細胞周期関連機能を有する。しかし、一部のCCGは、細胞周期において明白な直接的役割を有することなく、細胞周期を追う発現レベルを有する。例えば、UBE2Sはユビキチン結合酵素をコードするが、その発現は細胞周期を厳密に追う。したがって、本発明のCCGが、細胞周期において認められた役割を持つ必要はない。例示的なCCGを表1、2、3、および4に列挙する。
【0029】
ある特定の遺伝子がCCGであるかどうかは、Whitfield et al., Mol. Biol. Cell (2002) 13:1977-2000において教示されているものを含む、当技術分野において公知である任意の技法によって決定することができる。例えば、細胞の試料(例えばHeLa細胞)は、それらの全てが細胞周期の異なる位相を同時に進行するように、同調させることができる。一般にこれは、各位相で細胞を停止させることによって行われる。例えば、細胞は、二重チミジンブロックを使ってS期で停止させるか、チミジンノコダゾールブロックによって分裂期で停止させることができる。例えばWhitfield et al., Mol. Cell. Biol. (2000) 20:4188-4198を参照されたい。各位相における停止後に細胞からRNAを抽出し、例えば発現マイクロアレイ(ゲノムワイドまたは関心対象の特異的遺伝子)、リアルタイム定量PCR(商標)(RTQ-PCR)など、任意の適切な技法を使って、遺伝子発現を定量する。最後に、統計解析(例えばフーリエ変換)を応用して、特定の細胞周期位相中にどの遺伝子がピーク発現を示すかを決定する。遺伝子は、その遺伝子の発現がどれぐらい厳密に細胞周期を追うかを記述する周期性スコア(periodicity score)に従って、ランク付けすることができ、例えば高いスコアは、極めて厳密に細胞周期を追う遺伝子を示す。最後に、所定の閾レベルを超える周期性スコアを有する遺伝子(Whitfield et al., Mol. Biol. Cell (2002) 13:1977-2000参照)を、CCGと呼ぶことができる。CCGと関連する核酸(例えば遺伝子、EST、cDNAクローンなど)の大きい(ただし網羅的ではない)リストを、表1に示す。Whitfield et al., Mol. Biol. Cell (2002) 13:1977-2000参照。下記の表2に記載されているCCGの全てが、本発明の方法に有用なCCGのパネル(「パネルA」)を形成する。
【0030】
(表2)
*本発明に役立つCCGの124遺伝子サブセット(「パネルB」)。ABIアッセイIDは、その特定遺伝子用にApplied Biosystems Inc.(カリフォルニア州フォスターシティー)から市販されている遺伝子発現アッセイのカタログID番号を意味する。
【0031】
いかなる理論にも束縛されることは望まないが、迅速に増殖する細胞を比較的高濃度に含有する組織試料は、全体として、比較的高いCCGの発現を示すであろうと考えられる。これは、細胞増殖中は(すなわち細胞周期の特定の位相中は)いくつかのCCGがアップレギュレートされるためであると考えられる。そしてまた、迅速に増殖する細胞を高濃度に含む腫瘍は、より侵攻性になる傾向があり、そのような腫瘍を有する患者は予後が悪くなる傾向がある。事実、CCGは大半の予後がんシグネチャーにおいて予測力の(全てではないにしても)大半を与えると、本発明者らは判定しているた。例えば、CCGを含むパネルは、前立腺がん、脳がん、乳がんおよび肺がんの侵攻性を予測することができる。
【0032】
本発明の一局面は、がんを分類する方法であって、患者から得られる組織または細胞試料、特に腫瘍試料において、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態がネガティブがん分類(negatigve cancer classification)を示す方法を提供する。本明細書において、ある遺伝子の「状態を判定する」とは、その遺伝子またはその発現産物の何らかの物理的、化学的、または遺伝学的特徴の存在、非存在、または程度/レベルを判定することを指す。そのような特徴には、発現レベル、活性レベル、突然変異、コピー数、メチル化状態などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0033】
がん再発もしくはがん進行のリスクまたは攻撃的処置の必要を判定するために使用されるCCGに関して、とりわけ有用な特徴には、発現レベル(例えばmRNAまたはタンパク質レベル)および活性レベルが含まれる。特徴は(例えばCCGの発現レベルをアッセイすることなどにより)直接アッセイするか、(例えばそのCCGの発現レベルと相関する発現レベルを有する遺伝子または遺伝子群のレベルをアッセイすることなどにより)間接的に判定することができる。したがって、本発明のいくつかの態様は、がんを分類する方法であって、腫瘍試料における、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの発現レベル、特にmRNAレベルを決定する工程を含み、高い発現が、ネガティブがん分類、またはがん再発もしくはがん進行の高いリスク、または攻撃的処置の必要を示す方法を提供する。
【0034】
当業者は、組織試料または細胞試料における遺伝子またはタンパク質の状態を判定するためのさまざまな技法、例えば、限定するわけではないが、(例えばmRNAまたはマイクロRNA発現、コピー数などをアッセイするための)マイクロアレイ解析、定量リアルタイムPCR(商標)(「qRT-PCR(商標)」、例えばTaqMan(商標))、免疫分析(例えばELISA、免疫組織化学)などに精通している。遺伝子がコードするポリペプチドの活性レベルは、その遺伝子またはポリペプチドの発現レベルとほとんど同じように使用することができる。多くの場合、活性レベルが高いほど、発現レベルが高いことを示し、活性レベルが低いほど、発現レベルが低いことを示す。したがって、いくつかの態様において、本発明は、CCGの発現レベルではなく、またはCCGの発現レベルに加えて、CCGによってコードされるポリペプチドの活性レベルが決定される、上述した方法のいずれかを提供する。当業者は、表1、2、3、および4に掲載されている遺伝子がコードするものを含む種々のそのようなタンパク質の活性を測定するための技法に精通している。本発明の方法は使用される特定の技法とは独立して行われ得る。
【0035】
「異常な状態」とは、平均的試料(例えば健常試料または平均的罹患試料)において一般に見いだされる状態とは異なる、ある特定試料におけるマーカーの状態を意味する。例として、突然変異した、高い、低い、存在、非存在などが挙げられる。「高い状態」とは、上記の特徴の一つまたは複数(例えば発現またはmRNAレベル)が正常レベルより高いことを意味する。一般にこれは、指標値と比較したその特徴(例えば発現またはmRNAレベル)の増加を意味する。逆に「低い状態」とは、上記の特徴の一つまたは複数(例えば遺伝子発現またはmRNAレベル)が正常レベルより低いことを意味する。一般にこれは、指標値と比較したその特徴(例えば発現)の減少を意味する。これに関連して、「陰性の状態(negative status)」とは、一般に、その特徴が存在しないか検出できないことを意味する。例えばPTEN状態は、PTEN核酸および/またはタンパク質が試料中に存在しないか検出できなければ、陰性である。しかし、陰性のPTEN状態には、PTENにおける突然変異またはコピー数減少も含まれる。
【0036】
本発明の方法における指標値の取得および使用方法は、当業者には理解されるであろう。例えば指標値は、関心対象の患者から得られる正常試料中に見いだされる遺伝子発現レベルを表してもよく、その場合、この指標値より有意に高い腫瘍試料中の発現レベルは、例えば予後不良、または高いがん再発可能性、または攻撃的処置の必要などを示すだろう。
【0037】
あるいは、指標値は、多様ながん集団またはその集団のサブセットから選ばれた一組の個体についての平均発現レベルを表してもよい。例えば、がん(例えば、前立腺がん、膀胱がん、脳がん、乳がん、または肺がん)を有する患者の無作為抽出における、ある遺伝子または遺伝子パネルの平均発現レベルを決定することができる。この平均発現レベルは、「閾指標値」と呼ぶことができ、この値より高いCCG発現を有する患者は、この値より低い発現を有する患者よりも予後不良であると予想される。
【0038】
あるいは、指標値は、疾患転帰(例えば再発または予後)によってその患者を定義づけ、カテゴリー化するのに十分であるような臨床データおよび経過観察データを入手することができる、類似する転帰を有する複数のトレーニング患者(training patient)(例えば前立腺がん患者)における、ある特定遺伝子マーカーの平均発現レベルであってもよい。例えば下記の実施例参照。例えば「予後良好指標値」は、「良好な転帰」を有すると特徴づけられる複数のトレーニングがん患者(例えば最初の処置の5年(または10年もしくはそれ以上)後にがん再発がなかった患者、または最初の診断の5年(または10年もしくはそれ以上)後にそのがんの進行がなかった患者)から作成することができる。「予後不良指標値」は、「不良転帰」を有すると定義される複数のトレーニングがん患者(例えば最初の処置から5年以内(または10年以内など)にがんの再発があった患者、または最初の診断から5年以内(または10年以内など)にがんの進行があった患者)から作成することができる。したがって、ある特定遺伝子の予後良好指標値が「良好な転帰」を有する患者におけるその特定遺伝子の発現の平均レベルを表し得るのに対し、ある特定遺伝子の予後不良指標値は、「不良転帰」を有する患者におけるその特定遺伝子の発現の平均レベルを表す。
【0039】
本発明のいくつかの態様では、本方法が、一つまたは複数のCCGの発現を決定する工程を含み、この発現が「増加」している場合、その患者は予後不良である。本発明に関して、CCGの「増加した」発現とは、その患者の発現レベルが、正常指標値または閾指標よりも(例えば少なくとも何らかの閾量だけ)上昇しているか、「予後良好指標値」よりも「予後不良指標値」に近いことを意味する。
【0040】
したがって、ある関連遺伝子マーカーに関して、決定された発現のレベルが、その遺伝子の予後不良指標値よりもその遺伝子の予後良好指標値に近ければ、その患者は予後良好である可能性が高い、すなわちがん再発の可能性が低い(または高くない)と、結論することができる。これに対し、ある関連遺伝子マーカーに関して、決定された発現のレベルが、その遺伝子の予後良好指標値よりもその遺伝子の予後不良指標値に近ければ、その患者は予後不良である可能性が高い、すなわちがん再発の可能性が増加していると結論することができる。
【0041】
あるいは、指標値を次のように決定することができる。患者を各リスク群に割り当てるために、細胞周期平均(cell cycle mean)に関して、閾値が設定される。最適な閾値は、感度を(1-特異度)に対してプロットする受信者動作特性(ROC)曲線に基づいて選択される。細胞周期平均の各増分について、その値を閾として使用して、試験の感度および特異度を算出する。実際の閾は、当業者の要求(例えば、どの程度の感度または特異度を所望するかなど)に応じて、これらの測定基準を最適化する値になる。実施例5に、実験的に決定され検証された閾値の決定を例示する。
【0042】
いくつかの態様では、ある特定遺伝子(特にCCG)の発現のレベルが、特定の組織試料または細胞におけるmRNAの絶対コピー数として得られる。別の態様では、ある特定遺伝子(特にCCG)の発現のレベルが、関心対象の特定遺伝子の発現産物の量を規格化遺伝子(例えば一つまたは複数のハウスキーピング遺伝子)産物の発現量に対して規格化することによって得られる。規格化は、指標値を作成するために行うか、または単に、関心対象の遺伝子の発現レベルを決定する際の背景ノイズの低減を助けるために行うことができる。例えば、ある態様では、本発明に従って関連遺伝子の発現のレベルを決定するにあたって、その遺伝子の発現産物(例えばmRNA、cDNA、タンパク質)の量を一つまたは複数の細胞内、特に腫瘍細胞内で測定し、それを、同じ一つまたは複数の細胞内の、ある規格化遺伝子または一組の規格化遺伝子の発現産物の量に対して規格化することにより、その関連マーカー遺伝子の発現のレベルを得る。例えば、単一遺伝子を規格化遺伝子として使用する場合は、その発現が前立腺がんの転帰/予後とは無関係であると判定されているか、正常前立腺細胞とがん性前立腺細胞との間で変動がないと判定されているハウスキーピング遺伝子を使用することができる。遺伝子発現解析では、一組のそのようなハウスキーピング遺伝子を使用して、複合規格化遺伝子セットとすることもできる。ハウスキーピング遺伝子は当技術分野において周知であり、その例には、GUSB(グルクロニダーゼ、ベータ)、HMBS(ヒドロキシメチルビランシンターゼ)、SDHA(コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体、サブユニットA、フラボタンパク質)、UBC(ユビキチンC)およびYWHAZ(チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質、ゼータ・ポリペプチド)などがあるが、これらに限定されるわけではない。複合規格化遺伝子セットを規格化に使用する場合は、そのような規格化遺伝子の遺伝子発現の量を平均し、単純な加算によって、または所定のアルゴリズムによって、一つにまとめることができる。ハウスキーピング遺伝子以外の遺伝子も規格化遺伝子として使用することができる。本発明の方法および組成物において使用するためのとりわけ有用なハウスキーパー遺伝子(housekeeper gene)の他の例には、下記の表Aに列挙するものが含まれる。
【0043】
(表A)
*例えば実施例5において使用したハウスキーピング遺伝子のサブセット
【0044】
実施例3に示すように、CCGのパネル(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個またはそれ以上のCCG)は、予後を正確に予測することができる。当業者は、遺伝子のパネル(すなわち複数の遺伝子)の発現を決定するさまざまな方法に精通している。ある特定患者から得られた試料中の(試料全体にわたる、または試料から得られる細胞のサブセットもしくは単一の細胞における)全てのパネル遺伝子の平均発現レベル(規格化されたレベルまたは絶対レベル)を決定することによって、遺伝子のパネルの発現を決定することができる。この場合、増加した発現とは、平均発現レベルが正常患者におけるこれらの遺伝子の平均発現レベルより高いこと(または同じがんを有する患者などといった基準集団における平均発現レベルを表すと判定された何らかの指標値よりも高いこと)を意味する。あるいは、パネル中の遺伝子の少なくとも一定の数(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30個またはそれ以上)または少なくとも一定の比率(例えば10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、100%)の平均発現レベル(規格化されたレベルまたは絶対レベル)を決定することによって、遺伝子のパネルの発現を決定することもできる。あるいは、パネル中の全ての遺伝子のmRNA(またはタンパク質)の絶対コピー数を決定し、それらを遺伝子全体にわたって合計するか平均することによって、遺伝子パネルの発現を決定することもできる。
【0045】
本明細書において「がんを分類する」および「がん分類」とは、あるがんの一つまたは複数の臨床関連特質を判定すること、および/またはそのがんを有する患者の特定の予後を判定することを指す。したがって、「がんを分類する」には、(i)転移能、特異的器官への転移能、再発のリスク、および/または腫瘍の経過を評価すること;(ii)腫瘍病期を評価すること;(iii)がんの処置がない場合の患者予後を判定すること;(iv)処置(例えば化学療法、放射線療法、手術による腫瘍の切除など)に対する患者応答の予後(例えば腫瘍収縮または無進行生存)を判定すること;(v)現在および/または過去の処置に対する実際の患者応答の診断;(vi)その患者に関して好ましい処置コースを決定すること;(vii)処置(処置全般または何らかの特定処置)後の患者再燃に関する予後;(viii)患者余命の予後(例えば全生存に関する予後)などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0046】
したがって、「ネガティブ分類(negative classification)」とは、がんの好ましくない臨床的特質(例えば予後不良)を意味する。例として、(i)高い転移能、特異的器官への転移能、および/または再発のリスク;(ii)進行した腫瘍病期;(iii)がんの処置がない場合の患者予後不良;(iv)特定の処置(例えば化学療法、放射線療法、手術による腫瘍の切除など)に対する患者応答の予後(例えば腫瘍収縮または無進行生存)の不良;(v)処置(処置全般または何らかの特定処置)後の患者再燃に関する予後不良;(vi)患者余命の予後(例えば全生存に関する予後)の不良などが挙げられる。いくつかの態様では、再発関連臨床的パラメータ(または高いノモグラムスコア)および増加したCCG発現が、がんにおけるネガティブ分類(例えば、再発または進行の高い可能性)を示す。
【0047】
上述のように、高いCCG発現は、迅速に増殖する(したがって侵攻性の高い)がん細胞に付随すると考えられる。患者におけるそのようながんは、多くの場合、処置後に、患者が高い再発可能性を有する(例えば処置によって殺されなかったまたは除去されなかったがん細胞が迅速に成長して元通りになる)ことを意味する。そのようながんは、患者が高い進行の可能性を有し、より迅速に進行することも意味し得る(例えば迅速に増殖する細胞は、あらゆる腫瘍の迅速な成長、ビルレンスの増進、および/または転移を引き起こすであろう)。そのようながんは、その患者が、比較的に、より攻撃的な処置を必要とし得ることも意味し得る。したがって、いくつかの態様において、本発明は、がんを分類する方法であって、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態は再発または進行の高い可能性を示す方法を提供する。上述のように、いくつかの態様では、判定されるべき状態が遺伝子発現レベルである。したがって、いくつかの態様において、本発明は、患者のがんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの発現レベルを決定する工程を含み、高い発現ががん再発またはがん進行の高い可能性を示す方法を提供する。
【0048】
「再発」および「進行」は当技術分野において周知の用語であり、本明細書においては、それらの公知の意味に従って使用される。一例として、「進行」の意味は、がんタイプ依存的であって、肺がんにおける進行は前立腺がんにおける進行とは異なるものを意味し得る。しかし、各がんタイプおよびがんサブタイプ内では、「進行」は当業者には明確に理解される。ある患者の何らかの臨床的特質または転帰(例えば再発または進行)を有する確率が、何らかの基準確率または基準値を上回る場合、本明細書において、その患者は、その特質または転帰の「高い可能性」を有するという。基準確率は、一般関連患者集団全体にわたるその特質または転帰の確率であることができる。例えば、一般前立腺がん集団における再発の確率がX%であり、ある特定患者が本発明の方法によりY%という再発の確率を有すると判定されたとして、Y>Xならば、その患者は再発の「高い可能性」を有する。あるいは、上述のように、閾値または基準値を決定し、ある特定患者の再発の確率をその閾または基準と比較してもよい。再発を予測することおよび進行を予測することは予後のための努力であるから、本明細書においては、その一方または両方を指して、「予後を予測する」という表現をしばしば使用する。これらの場合、「予後不良」は一般に、高い、再発、進行、またはその両方の可能性を指すことになる。
【0049】
実施例3で示すように、個々のCCGは、予後を極めてよく予測することができる。したがって本発明は、予後を予測する方法であって、表1またはパネルA〜Gに掲載されている少なくとも一つのCCGの発現を判定する工程を含む方法を提供する。
【0050】
実施例3は、CCGのパネル(例えば2、3、4、5、または6個のCCG)が、予後を正確に予測できることも示している。したがって、いくつかの局面において本発明は、がんを分類する方法であって、複数のCCGを含む遺伝子のパネル(すなわち複数の遺伝子)の状態を判定する工程を含む方法を提供する。例えば、遺伝子のパネルにおける増加した発現とは、ある特定患者における全てのパネル遺伝子の平均発現レベルが、正常患者におけるそれらの遺伝子の平均発現レベルよりも高いこと(または正常平均発現レベルを表すと判定された何らかの指標値よりも高いこと)を指し得る。あるいは、遺伝子のパネルにおける増加した発現とは、平均正常発現レベルと比較した、そのパネル内の遺伝子の少なくとも一定の数(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30個またはそれ以上)または少なくとも一定の比率(例えば10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、100%)における増加した発現も指し得る。
【0051】
いくつかの態様では、パネルが、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、70、80、90、100、200個、またはそれ以上のCCGを含む。いくつかの態様では、パネルが、少なくとも10、15、20個、またはそれ以上のCCGを含む。いくつかの態様では、パネルが、5〜100個のCCG、7〜40個のCCG、5〜25個のCCG、10〜20個のCCG、または10〜15個のCCGを含む。いくつかの態様では、CCGが、パネルの少なくとも一定の比率を占める。したがっていくつかの態様では、パネルが、少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%のCCGを含む。いくつかの好ましい態様では、パネルが、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、70、80、90、100、200個、またはそれ以上のCCGを含み、それらのCCGは、そのパネル中の遺伝子の総数の少なくとも50%、60%、70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、より好ましくは少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%またはそれ以上を構成する。いくつかの態様では、CCGが、表1およびパネルA〜Gに含まれる遺伝子からなる群より選択される。いくつかの態様では、パネルが、表1およびパネルA〜Gのいずれか内の遺伝子の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30個、またはそれ以上を含む。いくつかの態様において、本発明は、予後を予測する方法であって、パネルA〜Gに記載されているCCGの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法を提供する。
【0052】
これらの態様の一部において、高い発現は、再発または進行の高い可能性を示す。したがって、好ましい一態様において、本発明は、患者におけるがん再発またはがん進行のリスクを予測する方法であって、遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、該パネルが約10〜約15個のCCGを含み、それらのCCGがパネルの少なくとも90%を構成し、CCGに関して高い状態が再発または進行の高い可能性を示す方法を提供する。
【0053】
数種類のCCGパネル(前掲の表2、および下記の表3および4)を、いくつかの異なるがんにおいて、予後を予測するそれらの能力について評価した。これらの研究の結果を下記の実施例1〜6に記載する。
【0054】
(表3)実施例1〜4で評価した「パネルC」
*これらの遺伝子は、実施例2に記載する実験の検証アームにおいて、26遺伝子サブセットパネル(「パネルD」)として使用した。
【0055】
(表4)「パネルE」
*これらの遺伝子は、実施例5に記載する実験において、31遺伝子サブセットパネル(「パネルF」)として使用した。
【0056】
あるパネルの個々のCCGの選択は、多くの場合、比較的恣意的であってよいと判定されている。言い換えると、大半のCCGは、互いに極めて良い代用物であることがわかった。特定のCCGが本発明の方法および組成物において十分に役立つかどうかを査定する方法の一つは、それらとCCG(例えば全ての公知CCG、特殊なCCGセットなど)の平均発現との相関関係を査定することによる。平均ととりわけよく相関するCCGは、例えば、それらはアッセイにおけるノイズを低減するであろうから、本発明のアッセイにおいて、上手く機能すると予想される。選ばれたCCGをそれらの平均CCG発現との相関関係によってランク付けしたものを、表23に示す。
【0057】
CCGシグネチャーにおいて、どの特定CCGがアッセイされるかは、多くの場合、CCGの総数ほど重要ではない。アッセイされるCCGの数は、例えば技術的制約、費用検討、行われる分類、試験されるがん、所望する予測力のレベルなど、数多くの因子に依存して変動し得る。本発明のパネルにおいてアッセイされるCCGの数を増加させることは、例えばアッセイされるmRNAのプールが大きければ外れ値によって引き起こされる「ノイズ」が少なくなり、アッセイ誤差が試験の総合的予測力を乱す可能性も低下するので、一般論として有利である。しかし、費用その他の検討によってこの数は一般に制限され、あるシグネチャーにとって最適なCCG数を見つけることが望ましい。
【0058】
CCGシグネチャーの予測力は、多くの場合、特定のCCG数を超えると有意に増加しなくなることが見いだされた(図1;実施例1参照)。より具体的には、次式が真である場合はいつでも、あるシグネチャーにおけるCCGの最適な数(nO)を見つけることができる:
(Pn+1-Pn)<CO
式中、Pは予測力であり(すなわち、Pnはn個の遺伝子によるシグネチャーの予測力であり、Pn+1はn個の遺伝子+1個によるシグネチャーの予測力である)、COは何らかの最適化定数である。予測力は、例えば限定するわけではないがシグネチャーのp値など、当業者に公知である数多くの方法で定義することができる。COは、当業者が各自の特別な制約に基づいて、選ぶことができる。例えば費用は重要な要素ではなく、極めて高レベルの感度および特異度が望ましい場合には、ごく些細な予測力上昇が無視されるように、COを極めて低く設定することができる。これに対し、費用が重要であり、中程度のレベルの感度および特異度が許容できる場合には、予測力の著しい増加によってしかそのシグネチャー中の遺伝子の数を増加させることが認可されないように、COをより高く設定することができる。
【0059】
あるいは、遺伝子数の関数としての予測力のグラフを(図1のように)プロットし、そのプロットの二次導関数を求めてもよい。その二次導関数が、何らかの予め決定しておいた値(CO')まで減少する点を、そのシグネチャーにおける最適な遺伝子数とすることができる。
【0060】
実施例1および3ならびに図1は、本発明のCCGパネルにおける最適なCCG数の実験的決定を例証するものである。表3に掲載されている31個のCCGのランダムに選択されたサブセットを、別個のCCGシグネチャーとして試験し、それぞれについて、予測力(すなわちp値)を決定した。図1が示すように、約10個のCCGと約15個のCCGの間で、p値が著しく改善することはなくなったので、予後パネル中のCCGの最適な数は約10個から約15個までであることが示された。したがって、本発明のいくつかの態様は、前立腺がんを有する患者における予後を予測する方法であって、遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、そのパネルが約10〜約15個のCCGを含み、それらCCGに関して高い状態が予後不良を示す方法を提供する。いくつかの態様では、パネルが約10〜約15個のCCGを含み、CCGがそのパネルの少なくとも90%を構成する。別の態様では、パネルがCCGと、パネルの予測力を有意に増大させる(すなわち、パネルがCCGだけからなる場合よりも予測力を有意に向上させる)一つまたは複数の追加マーカーとを含む。本発明の実施には、CCGの他の任意の組合せ(表1またはパネルA〜Gに掲載されているものはいずれも含む)を使用することができる。
【0061】
CCGは特定のがんにおいてとりわけ予測的であることが見いだされた。例えば、CCGのパネルは、前立腺がんにおける再発の予測に関して正確であると判定された(実施例1〜5)。さらに、後述の実施例6ならびに表21および22に要約するように、CCGは、膀胱がん、脳がん、乳がんおよび肺がんにおける予後を判定することもできる。
【0062】
したがって本発明は、少なくとも2つのCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含む方法であって、異常な状態が予後不良を示す方法を提供する。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群から選択される少なくとも10個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の群から選択される少なくとも15個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gの少なくとも一つに含まれる遺伝子の全てを含む。本発明は、膀胱がんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCG(例えばパネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法も提供する。本発明は、脳がんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCG(例えばパネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法も提供する。本発明はさらに、乳がんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCG(例えばパネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法を提供する。本発明は、肺がんの予後を判定する方法であって、少なくとも2つのCCG(例えばパネルB、CおよびFのいずれか内の遺伝子の少なくとも2つ)を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な状態が予後不良を示す方法も提供する。
【0063】
いくつかの態様では、パネルが、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50個またはそれ以上のCCGを含む。いくつかの態様では、パネルが、5〜100個のCCG、7〜40個のCCG、5〜25個のCCG、10〜20個のCCG、または10〜15個のCCGを含む。いくつかの態様では、CCGが、パネルの少なくとも一定の比率を占める。したがって、いくつかの態様では、パネルが、少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%のCCGを含む。いくつかの態様では、CCGが、表1およびパネルA〜Gに掲載されている遺伝子からなる群より選択される。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gのいずれか内の遺伝子の群から選択される少なくとも2つの遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gのいずれか内の遺伝子の群から選択される少なくとも10個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gのいずれか内の遺伝子の群から選択される少なくとも15個の遺伝子を含む。いくつかの態様では、パネルが、パネルA〜Gのいずれか内の遺伝子の全てを含む。
【0064】
さらに、CCG状態は、がんの予後判定において、臨床的パラメータを相乗的に増強することが見いだされた。例えば、前立腺がんの場合、パネルC〜Fのいずれか内の遺伝子の任意の一つの高レベルな遺伝子発現は、その臨床ノモグラムスコアが再発または進行の比較的低いリスクを示す患者における、がん再発またはがん進行の高いリスクと関連することが見いだされた。このように、CCG発現レベルを評価することにより、臨床的パラメータを単独で使用しても検出されない高いリスクを検出することができるので、本発明は、一般に、少なくとも一つの臨床的パラメータを評価する工程を少なくとも一つのCCGの状態を評価する工程と組み合わせる方法を提供する。
【0065】
実施例3が示すように、個々のCCGでさえ、がん再発の予測において、臨床的パラメータを増強する。したがって本発明の一局面は、あるがん患者に関して少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含む、インビトロ診断法を提供する。しかし、多数のCCGの状態を査定することにより、予測力はさらに改善される(実施例1にも示す)。したがって、いくつかの態様では、複数のCCG(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50個またはそれ以上)の状態が判定される。いくつかの態様では、異常な状態が再発または進行の高い可能性を示す。いくつかの態様では、患者が前立腺がんを有する。いくつかの態様では、患者が肺がんを有する。多くの場合、臨床的パラメータは少なくともある程度は独立して再発または進行を予測し、CCG状態の付加は予測力を改善する。本明細書にいう「臨床的パラメータ」および「臨床的尺度」とは、典型的に疾患経過を査定しかつ/または転帰を予測するために応用される疾患または患者特徴を指す。がんにおける例には、一般に、腫瘍病期、腫瘍悪性度、リンパ節状態、組織像、パフォーマンスステータス、外科手術のタイプ、外科的縁、処置のタイプ、および発病年齢が含まれる。前立腺がん臨床家は、術前血中PSAレベル、病期(腫瘍のサイズと転移の証拠によって定義される)、およびグリーソンスコア(悪性度の概念と類似する)を、しばしば使用する。外科的介入後、前立腺がんにおいて重要な臨床的パラメータには、縁(margin)およびリンパ節状態が含まれる。乳がんの場合、臨床家は、インデックス病変(index lesion)のサイズ(単位cm)、浸潤、転移リンパ節(lymph nodes involved)の数、および悪性度を、しばしば使用する。
【0066】
多くの場合、特定の臨床的パラメータは、ある特定の疾患特徴と相関する。例えばがん全般においても、個別のがんにおいても、特定の臨床的パラメータは、例えば再発または転移の可能性、ある一定期間の生存に関する予後、処置全般またはある具体的処置に対する応答の可能性などと相関する。前立腺がんにおいて、いくつかの臨床的パラメータは、その状態(存在、非存在、レベルなど)が高い再発可能性と関連するようなパラメータである。そのような再発関連パラメータの例(全てではないが一部は前立腺がんに特異的である)には、高い(例えば4ng/mlを超える)PSAレベル、高いグリーソンスコア、大きい腫瘍サイズ、転移の証拠、進行した腫瘍病期、核異型度、リンパ節転移(lymph node involvment)、早い発病年齢が含まれる。他のタイプのがんは、再発または進行の可能性に相関する異なるパラメータを有することができ、増殖活性の尺度としてのCCG状態は、これらのがんにおいて予後を予測する際に、これらのパラメータを増強する。本明細書にいう「再発関連臨床的パラメータ」は、個々のがんごとに、当業者がよく精通している従来の意味を有する。事実、当業者は、本明細書に列挙するものの他にも、さまざまな再発関連臨床的パラメータに精通している。
【0067】
多くの場合、医師は、1人の患者における2つ以上の臨床的パラメータを査定し、関心対象の疾患特徴について、より包括的な評価を行う。実施例5は、前立腺がんにおいて再発のリスクを判定するために使用される臨床的パラメータの一つの特定グループを、CCG状態がどのように増強することができるかを示す。実施例5における臨床的パラメータには、臓器内限局疾患(organ-confined disease)と6以下のグリーソンスコアに関する2値変数、および対数PSAに関する連続変数が含まれる(表14)。このモデルは、RPの年(Year of RP)とグリーソンスコアの2つの構成要素を除けば、RP後ノモグラム(すなわちKattan-Stephensonノモグラム)に組み込まれている臨床的パラメータの全てを含む。したがって、いくつかの態様では、少なくとも2つの臨床的パラメータ(例えば上に列挙したパラメータの2つ)が、少なくとも一つのCCGの発現レベルと共に査定される。
【0068】
単一の、より多くの場合は多数の、臨床的パラメータを医師が利用する方法の一つは、ノモグラムの助けを借りることである。臨床現場において、ノモグラムは、一つまたは複数のパラメータと一つまたは複数の患者または疾患特徴との間の相関関係の表現(多くの場合、視覚的表現)である。前立腺がん患者の再発の可能性を判定する際に使用される普及した臨床ノモグラムの一例が、Kattan et al., J. Clin. Oncol. (1999) 17:1499-1507に記載され、Stephenson et al., J. Clin. Oncol. (2005) 23:7005-7012において改訂されている(「Kattan-Stephensonノモグラム」)。このノモグラムは、数個の臨床的パラメータ(RPの年、外科的縁、被膜外進展、精嚢浸潤、リンパ節転移、優勢型(primary)グリーソンスコア、従属型(secondary)グリーソンスコア、および術前PSAレベル)のそれぞれにポイント値を割り当て、1人の患者に関してそれらのポイントを合計して一つのノモグラムスコアとした後、そのノモグラムスコアに基づいて、その患者がさまざまな時間間隔(最長10年)において無再発である可能性を予測することによって、患者を評価する。乳がん患者の生存に関する予後を判定する際に使用される普及している臨床ノモグラムの一例は、ノッティンガム予後指標(NPI)である。例えばGalea et al., Breast Cancer Res. & Treat. (1992) 22:207-19を参照されたい。
【0069】
前立腺がん患者から得た試料におけるCCGの状態を、その患者のKattan-Stephensonノモグラムスコアと共に判定することは、ノモグラムスコア単独よりも良い、10年無再発生存の予測因子であることが見いだされた。例えば下記の実施例2および5を参照されたい。具体的には、Kattan-StephensonノモグラムにCCG状態を加えることにより、ノモグラムだけでは検出されない再発のリスクが有意に増加している患者が検出される。上記の表3に、前立腺がん予後においてKattan-Stephensonノモグラムとの予測的相乗作用を示すことが実施例2で決定された、31CCGの例示的パネル(パネルC)および26CCGのサブセットパネル(パネルD、*を付けて示したもの)を記載する。乳がん患者から得た試料におけるCCGの状態を、その患者のNPIスコアと共に判定することが、NPIスコア単独よりも良い予後予測因子であることも見いだされた。例えば下記の実施例6を参照されたい。具体的には、NPIノモグラムにCCG状態を加えることにより、ノモグラムだけでは検出されない再発のリスクが有意に増加している患者が検出される。パネルB、CおよびDは、乳がん予後においてNPIノモグラムとの予測的相乗作用を示すことが、実施例2で判定された。
【0070】
したがって、本発明のもう一つの局面は、あるがん患者について臨床ノモグラムスコア(例えばKattan-StephensonノモグラムスコアまたはNPIノモグラムスコア)を決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含む、インビトロ法を提供する。実施例3は、Kattan-Stephensonノモグラムを踏まえた、個々のCCGおよびさまざまなサイズを有する数個のCCGパネルの予測力の実験的決定を例証するものである。表3に掲載されている31個のCCGのランダムに選択されたサブセットを別々のCCGシグネチャーとして試験し、それぞれについて予測力(すなわちp値)を決定した。図1が示すように、2、3、4、5、6、10、15、20、25、および26遺伝子のCCGシグネチャーはそれぞれノモグラムに予測力を追加する。したがって、本発明は、前立腺がん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、少なくとも2、3、4、5、6、10、15、20、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、60、70、80、90、もしくは100個またはそれ以上のCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、CCGに関して高い状態(例えば増加した発現)が高い再発可能性を示す方法を提供する。いくつかの態様では、本方法がさらに、その患者の臨床ノモグラムスコアを決定する工程を含む。本発明はさらに、乳がん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、少なくとも2、3、4、5、6、10、15、20、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、60、70、80、90、もしくは100個またはそれ以上のCCGを含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、CCGに関して高い状態(例えば増加した発現)が高い再発可能性を示す方法を提供する。いくつかの態様では、本方法がさらに、その患者の臨床ノモグラムスコアを決定する工程を含む。
【0071】
多くの場合、がんに関する臨床ノモグラムは、特定の値(例えば高いスコア)が高い再発リスクと相関するように設計される。高いCCG状態(例えば増加した発現または活性)も、高いリスクと相関する。したがって、いくつかの態様において、本発明は、あるがん患者が再発または進行の高い可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程と、その患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程とを含み、高いノモグラムスコアおよび/または高いCCG状態は、その患者が再発または進行の高い可能性を有することを示す方法を提供する。いくつかの態様では、がんが前立腺がんである。いくつかの態様では、がんが肺がんである。
【0072】
いくつかの態様ではこの査定が前立腺全摘出術前に(例えば前立腺生検試料を使って)行われ、いくつかの態様では、これが前立腺全摘出術後に(例えば切除された前立腺試料を使って)行われる。いくつかの態様では、本発明の解析を行うために、処置の前または後に、一つまたは複数の細胞の試料を前立腺がん患者から得る。当技術分野において現在適用されている前立腺がん処置には、例えば前立腺切除術、放射線療法、ホルモン療法(例えばGnRHアンタゴニスト、GnRHアゴニスト、抗アンドロゲンを用いる処置)、化学療法、および高密度焦点式超音波療法が含まれる。いくつかの態様では、前立腺がん組織に由来する一つまたは複数の前立腺腫瘍細胞を、生検中または前立腺切除術中に前立腺がん患者から取得し、それを本発明の方法における解析に使用する。
【0073】
本発明は、PTEN状態が侵攻性前立腺がんを予測するという発見にも基づいている。PTEN状態は、臨床的パラメータ(例えばKattan-Stephensonノモグラム)とCCG(例えば表1またはパネルA〜Gに含まれる遺伝子)の両方を増強する。下記の実施例4で詳述するように、臨床歴データとCCGシグネチャーデータが付属している191の前立腺がん患者試料において、PTEN状態を判定した。陰性のPTEN状態は、再発のリスクに関して有意な予測因子であることがわかった(p値0.031)。PTENは、術後臨床的パラメータおよび表3に示すCCGシグネチャーについて調整した後も、依然として、再発の有意な予測因子だった(p値0.026)。また、重要なことに、PTENとCCGシグネチャーとの組合せは、術後臨床的パラメータよりも良い、再発の予測因子であると思われる(p値0.0002)。
【0074】
PTENは前立腺がん再発の独立した予測因子であるから、本発明の一局面は、患者の前立腺がん再発の可能性を予測する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTEN状態を判定する工程を含み、低いまたは陰性のPTEN状態は、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。PTEN状態は、当技術分野において公知である任意の技法によって、例えば限定するわけではないが、本明細書において議論する技法によって、判定することができる。
【0075】
PTENは前立腺がん再発の予測に関してCCG状態を増強するので、本発明のもう一つの局面は、患者から得られる試料において、PTEN状態を判定する工程と、複数のCCGの状態を判定する工程とを含む、インビトロ法を提供する。複数の技法の異なる組合せを使って、さまざまなマーカーの状態を判定することができる。例えば、ある態様では、PTEN状態が免疫組織化学(IHC)によって判定され、一方、複数のCCGの状態は定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR(商標))、例えばTaqMan(商標)によって判定される。本発明のいくつかの態様は、前立腺がん患者の再発の可能性を判定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTEN状態を判定する工程、その患者から得られる試料における複数のCCGの状態を判定する工程を含み、低いもしくは陰性のPTEN状態および/または高いCCG状態は、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。
【0076】
PTEN状態は、前立腺再発の予測において、臨床的パラメータに適中度を追加することができるので、本発明のさらにもう一つの局面は、あるがん患者に関して、PTEN状態を判定する工程と少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程とを含む、インビトロ法を提供する。多くの場合、臨床的パラメータは少なくともある程度は独立して再発を予測し、PTEN状態の付加は予測力を改善する。いくつかの態様において、本発明は、あるがん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程と、その患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程とを含み、低いもしくは陰性のPTEN状態および/または高いノモグラムスコアは、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。
【0077】
上記のマーカーは3つ全てが相加的であるから、本発明のいくつかの態様は、あるがん患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定する方法であって、その患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程、その患者に関して臨床ノモグラムスコアを決定する工程、およびその患者から得られる試料における少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程を含み、低いまたは陰性のPTEN状態、高いノモグラムスコアおよび高いCCG状態は、その患者が高い再発可能性を有することを示す方法を提供する。
【0078】
本発明による任意の解析の結果は、多くの場合、医師、遺伝カウンセラー、および/または患者(または研究者などの他の当事者)に、前記関係者のいずれかに通信または伝達され得る伝達可能な形式で通信されるであろう。そのような形式はさまざまであることができ、有形または無形であることができる。結果は、記述的陳述(descriptive statement)、図式(diagram)、写真、図表(chart)、画像(image)または他の任意の視覚的形式で体現することができる。例えば、結果の説明には、さまざまな遺伝子に関する発現レベルもしくは活性レベルまたは配列変異情報を示すグラフを使用することができる。いくつかの試験結果を示す際には、追加ターゲット遺伝子に関するそのような情報を示す図式も有用である。陳述および視覚的形式は、紙、コンピュータ可読媒体、例えばフロッピーディスク、コンパクトディスクなどといった有形媒体上に記録するか、無形媒体上に、例えば電子媒体に、電子メールの形で、またはインターネット上もしくはイントラネット上のウェブサイトの形で、記録することができる。また、結果を、音声形式で記録して、任意の適切な媒体、例えばアナログまたはデジタルケーブル回線、光ファイバーケーブルなどを介して、電話、ファクシミリ、無線移動電話、インターネット電話などによって伝達することもできる。
【0079】
したがって、試験結果に関する情報およびデータは、世界中どこでも作成することができ、異なる場所に伝達することができる。説明的な例として、発現レベル、活性レベル、または配列決定(もしくは遺伝子タイピング)アッセイを米国外で行う場合は、試験結果に関する情報およびデータを作成し、上述のような伝達可能な形式に成形(cast)した後、米国に輸入する。したがって本発明は、少なくとも一つの患者試料に関して(a)発現レベルまたは(b)活性レベルの少なくとも一方に関する伝達可能な形式の情報を作成するための方法も包含する。本方法は、(1)本発明の方法に従って上記(a)または(b)の少なくとも一方を決定する工程、および(2)決定工程の結果を伝達可能な形式で体現する工程を含む。伝達可能な形式はそのような方法の産物である。
【0080】
そのような発現、活性、および/または配列データ(実際には本発明に従って得られる任意のデータ)を解析するための技法は、多くの場合、一つまたは複数のコンピュータシステム、またはそのような解析を達成することができる他の処理システムで、ハードウェア、ソフトウェアまたはその組合せを使って実行されるであろう。
【0081】
コンピュータベースの解析機能は、任意の適切な言語および/またはブラウザで実行することができる。例えばC言語で、好ましくはVisual Basic、SmallTalk、C++などのオブジェクト指向高級プログラミング言語を使って実行することができる。アプリケーションは、Windows(商標)98、Windows(商標)2000、Windows(商標)NTなどを含むMicrosoft Windows(商標)環境などといった環境に適合するように書くことができる。また、アプリケーションは、Macintosh(商標)、SUN(商標)、UNIXまたはLINUX環境用に書くこともできる。また、機能ステップは、ユニバーサルプログラミング言語またはプラットフォーム非依存的プログラミング言語を使って実行することもできる。そのようなマルチプラットオフォームプログラミング言語には、HTML(hypertext markup language))、JAVA(商標)、JavaScript(商標)、Flashプログラミング言語、CGI/SQL(common gateway interface/structured query language)、PERL(practical extraction report language)、AppleScript(商標)および他のシステムスクリプト言語、PL/SQL(programming language/structured query language)などがあるが、これらに限定されるわけではない。HotJava(商標)、Microsoft(商標)Explorer(商標)、またはNetscape(商標)などのJava(商標)またはJavaScript(商標)対応ブラウザを使用することができる。アクティブコンテンツウェブページを使用する場合、それらは、Java(商標)アプレットもしくはActiveX(商標)コントロール、または他のアクティブコンテンツ技術を含むことができる。
【0082】
解析機能をコンピュータプログラム製品に体現し、上述のシステムまたは他のコンピュータベースもしくはインターネットベースのシステムで使用することもできる。したがって、本発明のもう一つの局面は、プロセッサが遺伝子状態解析を行うことを可能にするためにコンピュータ可読プログラムコードまたはプログラム命令がそこに体現されているコンピュータ使用可能媒体を含むコンピュータプログラム製品に関する。これらのコンピュータプログラム命令は、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置に読み込んで、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置上で遂行される命令が、上述の機能またはステップを実行するための手段になるように機械を作ることができる。これらのコンピュータプログラム命令は、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置を特定の方法で機能するように指図することができるコンピュータ可読メモリまたは媒体に保存して、コンピュータ可読メモリまたは媒体に保存された命令が解析を実行する命令手段を含む製造物を作り出すようにすることもできる。コンピュータプログラム命令は、一連の操作工程がコンピュータまたは他のプログラム可能な装置上で行われて、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置上で遂行される命令が上述の機能または工程を実行するための工程を与えるような形で、コンピュータ実行プロセスを生成することになるように、コンピュータまたは他のプログラム可能な装置に読み込まれてもよい。
【0083】
したがって、本発明の一局面は、患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定するためのシステムを提供する。一般論として、本システムは、(1)患者の遺伝子状態データ(例えば発現レベル、活性レベル、変異体)と、任意で、臨床的パラメータデータ(例えばグリーソンスコア、ノモグラムスコア)とを受け取り、保存し、かつ/または検索するためのコンピュータ手段;(2)この患者データを問い合わせるためのコンピュータ手段;(3)この患者データに基づいて高い再発可能性があるかどうかを結論づけるためのコンピュータ手段;および(4)この結論を出力/表示するためのコンピュータ手段を含む。いくつかの態様では、結論を出力するためのこの手段が、結論を医療専門家に通知するためのコンピュータ手段を含み得る。
【0084】
そのようなシステムの一例が、図6に図解するコンピュータシステム[600]である。コンピュータシステム[600]は、患者データをコンピュータシステム[600]に登録するための少なくとも一つの入力モジュール[630]を含むことができる。コンピュータシステム[600]は、ある患者が増加したまたは減少した応答の可能性を有するかどうかを表示するための、および/またはコンピュータシステム[600]が決定した処置案を表示するための、少なくとも一つの出力モジュール[624]を含むことができる。コンピュータシステム[600]は、少なくとも一つの入力モジュール[630]および少なくとも一つの出力モジュール[624]と通信する少なくとも一つの記憶モジュール[606]を含むことができる。
【0085】
少なくとも一つの記憶モジュール[606]は、例えば着脱可能な記録ドライブ[608](これは、例えば限定するわけではないが磁気テープドライブ、フロッピーディスクドライブ、VCDドライブ、DVDドライブ、光ディスクドライブなどを含むさまざまな形態をとり得る)を含むことができる。着脱可能な記録ドライブ[608]は、着脱可能な記録ユニット[610]から読出しかつ/またはそこに書き込むことができるように、着脱可能な記録ユニット[610]と適合することができる。着脱可能な記録ユニット[610]は、そこにコンピュータ可読プログラムコードもしくはプログラム命令および/またはコンピュータ可読データが記録されたコンピュータ使用可能な記録媒体を含むことができる。例えば、着脱可能な記録ユニット[610]は、患者データを記録することができる。着脱可能な記録ユニット[610]の例は当技術分野において周知であり、例えばフロッピーディスク、磁気テープ、光ディスクなどがあるが、これらに限定されるわけではない。少なくとも一つの記憶モジュール[606]は、コンピュータ可読プログラムコードもしくはプログラム命令および/またはコンピュータ可読データを記録するために使用することができるハードディスクドライブ[612]も含むことができる。
【0086】
また、図1に示すように、少なくとも一つの記憶モジュール[606]はさらに、ソフトウェア、コンピュータ可読コードまたは命令を、着脱可能な記録ユニット[616]からコンピュータシステム[600]へと転送することができるように、インターフェース[614]と、インターフェース[614]に適合する着脱可能な記録ユニット[616]とを含むことができる。インターフェース[614]と着脱可能な記録ユニット[616]のペアの例には、例えば着脱可能なメモリチップ(例えばEPROMまたはPROM)とそれと連携するソケット、プログラムカートリッジとカートリッジインターフェースなどが含まれる。コンピュータシステム[600]は、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの二次記憶モジュール[618]も含むことができる。
【0087】
コンピュータシステム[600]は、少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]を含むことができる。少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]は任意の数のデバイスからなり得ると理解すべきである。少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]は、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラまたは中央処理装置などのデータ処理デバイスを含むことができる。少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]は、DMA(直接メモリアクセス)プロセッサ、統合通信プロセッサデバイス、カスタムVLSI(超大規模集積回路)デバイスまたはASIC(特定用途向け集積回路)デバイスなどといった、もう一つの論理デバイスを含むことができる。また、少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]は、本明細書に記載する処理機能を実施するために設計された他の任意のタイプのアナログまたはデジタル回路構成を含むことができる。
【0088】
図6に示すように、コンピュータシステム[600]では、少なくとも一つの記憶モジュール[606]、少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]、および二次記憶モジュール[618]が全て、通信バス、システムボード、クロスバーなどであることができる通信インフラ[620]を介して、機能的に一つに連結される。通信インフラ[620]を介して、コンピュータプログラムコードもしくはプログラム命令またはコンピュータ可読データを転送し、差し替えることができる。入力インターフェース[626]は、少なくとも一つの入力モジュール[626]を通信インフラ[620]に、作動可能に接続することができる。同様に、出力インターフェース[622]は、少なくとも一つの出力モジュール[624]を通信インフラ[620]に、作動可能に接続することができる。
【0089】
少なくとも一つの入力モジュール[630]は、例えばキーボード、マウス、タッチスクリーン、スキャナ、および当技術分野において公知の他の入力デバイスを含むことができる。少なくとも一つの出力モジュール[624]は、例えば、コンピュータモニタ、TVモニタ、または少なくとも一つの入力モジュール[630]のタッチスクリーンなどといった表示画面;プリンタ;および音声スピーカーを含むことができる。コンピュータシステム[600]は、モデム、通信ポート、Ethernetカードなどのネットワークカード、およびイントラネットまたはインターネットにアクセスするための新たに開発されたデバイスも含むことができる。
【0090】
少なくとも一つの記憶モジュール[606]は、少なくとも一つの入力モジュール[630]によって登録され少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]によって処理される患者データを記録するように構成することができる。本発明に関連する患者データには、PTENおよび/またはCCGに関する発現レベル、活性レベル、コピー数および/または配列情報を含めることができる。本発明に関連する患者データには、その患者の疾患に関連する臨床的パラメータも含めることができる。処置決定/推奨を行うのに役立つことを医師が見いだすかもしれない他の任意の患者データ、例えば限定するわけではないが、年齢、性別、および人種/民族、ならびに食事情報などの生活様式データ生活なども、システムに登録することができる。他の考え得るタイプの患者データには、現在経験しているまたは以前経験した症状、患者の病歴、投薬、および医療処置が含まれる。
【0091】
少なくとも一つの記憶モジュール[606]は、そこに記録されたコンピュータにより実現される方法を含むことができる。少なくとも一つのプロセッサモジュール[602]は、ソフトウェアまたはコンピュータにより実現される方法のコンピュータ可読命令コードを遂行するために使用することができる。コンピュータにより実現される方法は、患者データに基づいて、その患者が、増加した再発、進行または任意の特定処置に対する応答の可能性を有するかどうかを示し、考え得る処置のリストを作成するなどするように構成することができる。
【0092】
特定の態様では、ある患者が再発または進行の高い可能性を有するまたは有さないと認定されるように、コンピュータにより実現される方法を構成することができる。例えばコンピュータにより実現される方法は、ある特定患者が高い再発可能性を有することを医師に通知するように構成することができる。あるいは、または上記に加えて、コンピュータにより実現される方法は、さまざまな問い合わせに対する回答/結果に基づいて、ある特定処置コースを実際に提案するように構成することができる。
【0093】
図7に、本発明のコンピュータシステム[600]で実行することができる本発明のコンピュータにより実現される方法[700]の一態様を図解する。方法[700]は、3つの問い合わせ([710]、[711]、[712])の一つから、逐次的にまたは実質上同時に始まる。これらの問い合わせのいずれかに対する回答/結果が「はい(Yes)」である場合[720]、本方法は、その患者が高い再発可能性を有すると結論づける[730]。これらの問い合わせの全てに対して回答/結果が「いいえ(No)」である場合[721]、本方法は、その患者が高い再発可能性を有さないと結論づける[731]。次に、本方法[700]は、さらなる問い合わせに進んで、特定処置の推奨([740]、[741])を行うか、単に終了することができる。
【0094】
問い合わせを逐次的に行う場合、それらは、図7に提案されている順序で行ってもよいし、他の任意の順序で行ってもよい。その後の問い合わせをするかどうかは、先の問い合わせに対する結果/回答にも依存し得る。例えば、図7に図解する方法のいくつかの態様では、方法が、臨床的パラメータ[712]について質問し、患者が再発に関して高いリスクがあると認定する一つまたは複数の臨床的パラメータを患者が有する場合には、そのように結論づけるか[730]、または任意で、CCG状態を問い合わせることによって確認し、一方、患者がそのような臨床的パラメータを有さない場合には、CCG状態に関する質問に移る[711]。任意で、CCG状態が高くない場合には、本方法は続いてPTEN状態に関して質問することができる[710]。上述のように、上記の問い合わせ順序は変更することができる。いくつかの態様では、一つの問い合わせ(例えば[712])に対する「はい」の回答が、その患者が高い再発リスクを有するかどうかを確認するために、残りの問い合わせの一つまたは複数を促す。
【0095】
いくつかの態様では、本発明のコンピュータにより実現される方法[700]が拡張可能(open-ended)である。言い換えると、図7における見掛けの第1ステップ[710、711、および/または712]は、実際には、より大きなプロセスの一部を形成することができ、その大きなプロセスにおいて、最初のステップ/問い合わせである必要はない。追加のステップを、上述の中心的(core)方法に加えることもできる。それらの追加ステップには、到達した結論を医療専門家(または患者自身)に通知するステップ;図解した方法[700]によって到達した結論を、他の事実または結論と組み合わせることにより、その患者の診断、予後、処置などに関して、何らかの追加のまたは洗練された結論に達するステップ;処置に関する推奨(例えば「患者が前立腺全摘出術を受けるべき/受けるべきでない」)を行うステップ;追加のバイオマーカー、臨床的パラメータ、または他の有用な患者情報(例えば、診断時の年齢、患者の全身的健康状態など)に関する追加の問い合わせなどが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0096】
上記のコンピュータにより実現される方法[700]に関して、問い合わせに対する回答は、その方法が、回答を得るために患者データの検索を行うことによって判定することができる。例えば、それぞれの問い合わせ[710、711、712]に回答するために、患者データを、PTEN状態(例えばPTEN IHCまたは突然変異スクリーニング)、CCG状態(例えば、CCG発現レベルデータ)、または臨床的パラメータ(例えばグリーソンスコア、ノモグラムスコアなど)について検索することができる。そのような比較が既に行われていない場合、本方法は、その患者が異常な(例えば高い、低い、陰性の)状態を有するかどうかを判定するために、これらのデータを何らかの基準と比較することができる。上記に加えて、または上記に代えて、本方法は、問い合わせ[710、711、712]の一つまたは複数を、コンピュータシステム[100]の使用者(例えば医師)に提示してもよい。例えば、問い[710、711、712]は、出力モジュール[624]を介して提示することができる。次に、使用者は入力モジュール[630]を介して「はい」または「いいえ」と回答することができる。次に、本方法は、受け取った回答に基づいて、進行することができる。同様に、結論[730、731]も、本コンピュータにより実現される方法の使用者に、出力モジュール[624]を介して提示することができる。
【0097】
したがって、いくつかの態様において、本発明は、以下の工程を含む方法を提供する:コンピュータ可読媒体に記録された患者のCCG状態、臨床的パラメータおよび/またはPTEN状態に関する情報にアクセスする工程;この情報に問い合わせをして、その患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示すかどうか、その患者が再発関連臨床的パラメータを有するかどうか、および/またはその患者が低い/陰性のPTEN状態を有するかどうかの少なくとも一つを判定する工程;その試料のCCG発現状態、その患者の再発関連臨床的パラメータ状態、および/またはその試料のPTEN状態を出力[または表示]する工程。本発明のコンピュータにより実現される態様に関連して本明細書にいう「表示する(displaying)」とは、任意の知覚手段によって任意の情報を通信することを意味する。例として、コンピュータ画面またはコンピュータの指令で印刷される紙片などにおける視覚的表示、および音声表示、例えばコンピュータが生成または記録する患者の遺伝子型の音声表現が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0098】
上で詳しく説明したように、高いCCG状態と組み合わされた再発関連臨床的パラメータまたはPTEN状態は、有意に高い再発可能性を示す。したがって、いくつかの態様は、ある患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定するコンピュータにより実現される方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:コンピュータ可読媒体に記録された患者のPTEN状態(例えばその患者から得られる腫瘍試料から得られるもの)または臨床的パラメータに関する情報とCCG状態(例えばその患者から得られる腫瘍試料から得られるもの)に関する情報とにアクセスする工程;この情報に問い合わせをして、その患者が低い/陰性のPTEN状態を有するかどうか、またはその患者が再発関連臨床的パラメータを有するかどうかの少なくとも一方を判定する工程;この情報に問い合わせをして、その患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示すかどうかを判定する工程;その患者が低い/陰性のPTEN状態を有するか再発関連臨床的パラメータを有し、かつ試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示す場合、その患者は高い再発可能性を有するという指摘を出力(または表示)する工程。いくつかの態様はさらに、PTEN、臨床的パラメータ(またはそれらの値)および/またはCCGとそれらの状態(例えば発現レベルを含む)を、任意でそれらPTENもしくはCCG状態および/または臨床的パラメータが高いリスクの可能性を示しているかどうかの指摘と一緒に、表示する工程を含む。
【0099】
本発明の実施では、従来の生物学的方法、ソフトウェアおよびシステムを使用することもできる。本発明のコンピュータソフトウェア製品は、典型的には、本発明の方法の論理工程を実行するためのコンピュータ遂行可能な命令を有するコンピュータ可読媒体を含む。適切なコンピュータ可読媒体には、フロッピーディスク、CD-ROM/DVD/DVD-ROM、ハードディスクドライブ、フラッシュメモリ、ROM/RAM、磁気テープなどがある。基本的な計算生物学の方法は、例えばSetubal et al. "Introduction to Computational Biology Methods"(PWS Publishing Company、ボストン、1997);Salzberg et al.編"Computational Methods in Molecular Biology"(Elsevier、アムステルダム、1998);RashidiおよびBuehler"Bioinformatics Basics: Application in Biological Science and Medicine"(CRC Press、ロンドン、2000);ならびにOueletteおよびBzevanis"Bioinformatics: A Practical Guide for Analysis of Gene and Proteins"(Wiley & Sons, Inc.、第2版、2001)に記載されている。また、米国特許第6,420,108号も参照されたい。
【0100】
本発明では、さまざまな目的で、例えばプローブ設計、データの管理、解析、および機器操作のために、さまざまなコンピュータプログラム製品およびソフトウェアを利用することもできる。例えば米国特許第5,593,839号、同第5,795,716号、同第5,733,729号、同第5,974,164号、同第6,066,454号、同第6,090,555号、同第6,185,561号、同第6,188,783号、同第6,223,127号、同第6,229,911号および同第6,308,170号を参照されたい。また、本発明は、米国特許出願第10/197,621号(米国特許出願公開第20030097222号)、同第10/063,559号(米国特許出願公開第20020183936号)、同第10/065,856号(米国特許出願公開第20030100995号);同第10/065,868号(米国特許出願公開第20030120432号);同第10/423,403号(米国特許出願公開第20040049354号)に示されているように、インターネットなどのネットワーク越しに、遺伝情報を提供するための方法を含む態様も有し得る。
【0101】
ある局面において、本発明は、がん患者を処置する方法であって、CCG状態情報(例えば表1またはパネルA〜Gに含まれるCCG)を取得する工程、およびそのCCG状態に基づいて、そのがん患者のための処置を推奨し、指示し、または施行する工程を提供する。いくつかの態様において、本方法はさらに、臨床的パラメータ情報を取得する工程、および/またはその患者から得られる試料からPTEN状態情報を取得する工程と、そのCCG状態、臨床的パラメータおよび/またはPTEN状態情報に基づいて、特定の処置で患者を処置する工程とを含む。例えば本発明は、がん患者を処置する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
(1)少なくとも一つのCCGの状態を判定する工程;
(2)少なくとも一つの臨床的パラメータの状態を判定する工程;
(3)その患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程;および
(4)(a)その患者が、CCGの増加した発現、再発関連臨床的パラメータ、または低い/陰性のPTEN状態の少なくとも一つを有する場合には、積極的処置(攻撃的処置を含む)を、または
(b)その患者が、CCGの増加した発現、再発関連臨床的パラメータ、または低い/陰性のPTEN状態をいずれも有さない場合には、消極的(または攻撃性の低い)処置を
推奨、指示または施行する工程。
【0102】
処置が攻撃的であるか攻撃的でないかは、一般に、がんタイプ、患者の年齢などに依存するであろう。例えば乳がんの場合、アジュバント化学療法は、外科的治療およびホルモン療法という攻撃性の低い標準処置を補完するために施される一般的な攻撃的処置である。当業者は、がんの各タイプに関し、他のさまざまな攻撃的処置および攻撃性の低い処置に精通している。前立腺がんにおける「積極的処置」は当業者にはよく理解されており、本明細書において使用するこの用語は、当技術分野における従来の意味を有する。一般論として、前立腺がんにおける積極的処置は、「監視的待機(watchful waiting)」以外のあらゆる処置である。前立腺がん処置の技術分野において現在適用されている積極的処置には、例えば前立腺切除術、放射線療法、ホルモン療法(例えばGnRHアンタゴニスト、GnRHアゴニスト、抗アンドロゲン)、化学療法、高密度焦点式超音波療法(「HIFU」)などがある。各処置選択肢は、それぞれに、特定のリスクと、さまざまな重篤度の副作用、例えばインポテンス、尿失禁などがある。したがって、前立腺がんと診断された男性の年齢と全身の健康状態に依存して、「監視的待機」のレジメンを推奨するのが、医師にとって一般的である。
【0103】
「監視的待機」は、「積極的監視(active surveillance)」とも呼ばれ、やはり、当技術分野におけるその従来の意味を持つ。これは一般に、観血的処置を伴わない観察と定期的モニタリングを意味する。監視的待機は、例えば早期の、成長が遅い前立腺がんが高齢の男性に見つかった場合などに、時折使用される。監視的待機は、外科手術、放射線療法またはホルモン療法のリスクが、考え得る利益を上回る場合にも、提案され得る。症状が発生した場合、またはがんの成長が加速している徴候(例えばPSAの急速上昇、反復生検時のグリーソンスコアの増加など)がある場合には、他の処置を開始することができる。
【0104】
監視的待機を選択した男性では外科手術や放射線のリスクは回避されるが、監視的待機には、それ自体のリスク、例えば高い転移リスクがある。若い男性の場合、積極的監視は、処置を完全に回避することを意味するのではなくて、数年またはそれ以上の遅延を合理的に許すことであってもよく、その間は、積極的処置が生活の質に与える影響を回避することができる。現在までに公表されたデータは、注意深く選択された男性は、このアプローチで治療ウインドウ(window for cure)を逃すことがないであろうということを示唆している。観察期間中に歳を取るに伴って発生する追加の健康上の問題により、外科手術および放射線療法を受けることが、より困難になる可能性もある。したがって、どの前立腺がん患者が監視的待機の良い候補であって、どの患者が積極的処置を受けるべきかを注意深く判定することが、臨床上重要である。
【0105】
したがって本発明は、前立腺がん患者を処置する方法または患者の処置に対して指針を与える方法を提供する。この方法では、少なくとも一つのCCG(例えば表1またはパネルA〜Gに含まれるもの)の状態、少なくとも一つの再発関連臨床的パラメータ、および/またはPTENの状態を判定し、(a)患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGに関して高い状態を有し、患者が少なくとも一つの再発関連臨床的パラメータ、および/または低い/陰性のPTEN状態を有する場合、積極的処置を推奨、開始または継続し、または(b)患者が少なくとも一つのCCGに関して高い状態も、再発関連臨床的パラメータも、低い/陰性のPTEN状態も有さない場合、監視的待機を推奨/開始/継続する。特定の態様では、CCG状態、臨床的パラメータおよびPTEN状態が、積極的処置が推奨されることを示すだけでなく、その患者にとっては特定の積極的処置(RPおよび/またはアジュバント療法などの比較的攻撃的な処置を含む)が好ましいことも示す。
【0106】
一般に、アジュバント療法(例えば、前立腺切除術または放射線療法後の化学療法、放射線療法、HIFU、ホルモン療法など)は、前立腺がんにおける標準治療(standard of care)ではない。しかし本発明によれば、医師は、どの前立腺がん患者がとりわけ侵攻性の高い疾患を有し、したがってアジュバント療法を受けるべきであるかを判定することが可能になり得る。したがって、ある態様において、本発明は、患者(例えば前立腺がん患者)を処置する方法であって、少なくとも一つのCCG(例えば表1またはパネルA〜Gに含まれるもの)の状態、少なくとも一つの再発関連臨床的パラメータの状態、および/またはPTENの状態を判定する工程と、患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGに関して高い状態を有し、患者が少なくとも一つの再発関連臨床的パラメータを有し、かつ/または患者が低い/陰性のPTEN状態を有する場合、前立腺切除術または放射線療法後にアジュバント療法を開始する工程とを含む方法を提供する。
【0107】
ある局面において、本発明は、上記の方法において使用するための組成物を提供する。そのような組成物には、PTENまたはCCG(またはそれによってコードされるもしくはそれに相補的な任意の核酸)にハイブリダイズする核酸プローブ;PTENまたはCCGまたはそれによってコードされる任意の核酸の全部もしくは一部を増幅するのに適した核酸プライマーおよびプライマー対;PTENまたはCCGによってコードされるポリペプチドに免疫学的に結合する抗体;複数の前記核酸プローブ、核酸プライマー、抗体、および/またはポリペプチドを含むプローブセット;これらのいずれかを含むマイクロアレイ;これらのいずれかを含むキットなどが含まれるが、これらに限定されるわけではない。いくつかの局面において、本発明は、上記の方法において使用するためのコンピュータ方法、システム、ソフトウェアおよび/またはモジュールを提供する。
【0108】
いくつかの態様において、本発明は、PTENまたは表1もしくはパネルA〜Gに含まれる遺伝子の少なくとも一つに選択的にハイブリダイズする能力を持つ単離されたオリゴヌクレオチドを含むプローブを提供する。核酸に関連して使用される用語「プローブ」および「オリゴヌクレオチド」(「オリゴ」ともいう)は、互換的に、比較的短い核酸フラグメントまたは核酸配列を指す。本発明は、本発明の方法において有用なプライマーも提供する。「プライマー」は、適正な条件下で適正なコンパニオン試薬(companion reagent)と共に、ターゲット核酸(例えばターゲット遺伝子)を選択的に増幅する能力を持つプローブである。プライマーは一般にプローブとしても役立ち得るので、核酸に関連して本明細書にいう「プローブ」は、「プライマー」を包含するものとする。
【0109】
プローブは一般に任意の適切なサイズ/長さを有することができる。いくつかの態様では、プローブが、約8〜200、15〜150、15〜100、15〜75、15〜60、または20〜55塩基長の長さを有する。それらは、放射性同位元素、フルオロフォア、ビオチン、酵素(例えばアルカリホスファターゼ)、酵素基質、リガンドおよび抗体など(ただしこれらに限定されるわけではない)を含む任意の適切な検出マーカーを使って、検出可能マーカーで標識することができる。Jablonski et al., Nucleic Acids Res. (1986) 14:6115-6128;Nguyen et al., Biotechniques (1992) 13:116-123;Rigby et al., J. Mol. Biol. (1977) 113:237-251を参照されたい。実際、プローブは、さまざまな分子生物学的応用のために、任意の従来法で修飾することができる。そのようなオリゴヌクレオチドプローブを作製し使用するための技法は、当技術分野においては常法である。
【0110】
本発明のプローブは、上述のハイブリダイゼーション/増幅/検出技法に使用することができる。したがって本発明のいくつかの態様は、PTENおよび/または複数のCCGの検出、増幅および/または定量において、マイクロアレイで使用するのに適したプローブセットを含む。いくつかの態様において、プローブセットは、CCGに対するプローブを一定の比率で含む。例えば、プローブセットは、10%、20%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%がCCGに特異的なプローブからなる。いくつかの態様では、プローブセットが、表1またはパネルA〜Gに含まれる遺伝子のうち、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、40、45、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250、300、350、400、450、500、600、700、もしくは800個またはそれ以上、または全てに対するプローブを含む。そのようなプローブセットは、5,000、10,000、20,000、50,000、100,000、200,000、300,000、400,000、500,000、600,000、700,000、800,000、900,000、もしくは1,000,000個またはそれ以上の異なるプローブを含む高密度アレイに組み入れることができる。別の態様では、プローブセットが、PTENの少なくとも一部または表1もしくはパネルA〜Gに含まれるCCGの一つもしくはそれ以上の少なくとも一部を含む核酸を増幅するためのプライマー(例えばプライマー対)を含む。
【0111】
本発明のもう一つの局面では、本発明の予後を実施するためのキットが提供される。本キットは、キットのさまざまな構成要素のための保持具(carrier)を含むことができる。保持具は、例えば袋、箱、管、ラックなどの形態をした容器または支持体であることができ、区画化されていてもよい。保持具は、輸送中および貯蔵中の安全のために、密閉された封じ込め区画を定めることができる。キットは、上述した検出技法を使って一つまたは複数のCCGおよび一つまたは複数のハウスキーピング遺伝子マーカーの状態を判定するのに役立つさまざまな構成要素を含む。例えば、キットは、表1またはパネルA〜Gに含まれる遺伝子のmRNAまたはcDNAに、高いストリンジェンシーの下で、特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含むことができる。そのようなオリゴヌクレオチドは、RT-PCR反応におけるPCRプライマーとして、またはハイブリダイゼーションプローブとして、使用することができる。いくつかの態様では、キットが、遺伝子のパネル(少なくとも25%、30%、40%、50%、60%、75%、80%、90%、95%、99%、または100%のCCG(例えば表1またはパネルA〜Gのいずれか内のCCG)を含むもの)の発現レベルを決定するための試薬(例えばプローブ、プライマー、および/または抗体)を含む。いくつかの態様では、キットが、2500個以下の遺伝子(これらの遺伝子のうち、少なくとも5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、150、200、250個、またはそれ以上がCCG(例えば表1またはパネルA〜Gのいずれか内のCCG)であるもの)の発現レベルを決定するための試薬(例えばプローブ、プライマー、および/または抗体)からなる。
【0112】
検出キット中のオリゴヌクレオチドは、放射性同位元素、フルオロフォア、ビオチン、酵素(例えばアルカリホスファターゼ)、酵素基質、リガンドおよび抗体など(ただしこれらに限定されるわけではない)、任意の適切な検出マーカーで標識することができる。Jablonski et al., Nucleic Acids Res., 14:6115-6128 (1986);Nguyen et al., Biotechniques, 13:116-123 (1992);Rigby et al., J. Mol. Biol., 113:237-251 (1977)を参照されたい。あるいは、キットに含まれるオリゴヌクレオチドは標識されておらず、その代わりに、使用者が使用時にオリゴヌクレオチドを標識できるように、一つまたは複数のマーカーがキット中に用意される。
【0113】
本発明のもう一つの態様では、検出キットが、PTENまたは一つもしくはそれ以上のCCGによってコードされる一つまたは複数のタンパク質と選択的に免疫反応する一つまたは複数の抗体、または任意で任意の追加マーカーを含有する。例として、PTENまたは表1もしくはパネルA〜Gに含まれる遺伝子によってコードされるタンパク質に免疫学的に結合する抗体が挙げられる。そのような抗体を作製し使用するための方法は、上に詳述した。
【0114】
検出技法に役立つ他のさまざまな構成要素も、本発明の検出キットに含めることができる。そのような構成要素の例には、Taqポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオチド、ジデオキシリボヌクレオチド、ターゲットDNA配列の増幅に適した他のプライマー、RNase Aなどがあるが、これらに限定されるわけではない。また、本検出キットは、好ましくは、ヒト試料を使って本発明の予後方法を実施するためのキットの使用に関する説明書を含む。
【0115】
ある具体的実施形態では、
【実施例】
【0116】
実施例1
前立腺全摘出術後の化学的再発(chemical recurrence)までの時間を予測するために、以下の細胞周期遺伝子(CCG)シグネチャーを調べた。
【0117】
Splus 7.1(Insightful, Inc.、ワシントン州シアトル)で、コックス比例ハザードモデルを使って、上記31個のCCGに関する平均mRNA発現を、440個の前立腺腫瘍FFPE試料で調べた。尤度比検定のp値は3.98×10-5だった。
【0118】
CCG発現の平均は、測定誤差および遺伝子間の個別変動に対してロバストである。シグネチャーにとって最適な細胞周期遺伝子の数を決定するために、上に列挙したCCGのうちの1〜30個のランダムに選択されたセットについて、平均の予測力を調べた。この模擬実験により、有意に改善された予測力を与えるパネル中のCCGの閾数があることが示された。
【0119】
実施例2
一変数解析において、31CCGのセット(表3)は、前立腺がん患者におけるRP後の生化学的再発の有意な予測因子であることがわかった(p値=1.8×10-9)。これが前立腺がん再発に関する確立された臨床ノモグラム(Kattan-Stephensonノモグラム)を増強するかどうかを決定するために、このシグネチャーをさらに評価した。要約すると、ノモグラムは高度に有意な再発の予測因子であり(p値1.6×10-10)、ノモグラムに関する調整後に、CCGシグネチャーは生化学的再発の有意な予測因子だった(p値4.8×10-5、表6)。
【0120】
患者および方法
804人の連続RP患者を中央値9.5年にわたって追跡した。全コホートの患者特徴および処置転帰は以前に報告されている(Swanson et al., Urol Oncol. (2007) 25:110-114)。分析に十分な組織を含む最後の病理学的評価からの組織ブロックおよび/またはスライドは、430人の患者について入手可能だった。コホートを、トレーニングに利用した212人の患者と、検証セットとしての199人の患者試料とに、ランダムに分割した。
【0121】
遺伝子発現(統計手法):
生化学的再発とCCG発現の間の関連を、再発までの時間に関して、Cox PHモデルを使って評価した。この試験で報告するp値は全て、ヌルモデルを試験変数を含むモデルと比較する尤度比検定から導かれた。31CCGのセット(上記の表3)をランダムに選択した。アッセイを使って、トレーニングセット中の212人の患者から発現データを作成した。発現データは全て三重に作成した。26個のCCGに関する平均発現レベルを算出することにより、発現データを組み合わせて一つのシグネチャーにした。生化学的再発とCCG発現との関連を、再発までの時間に関して、Cox PHモデルを使って評価した。
【0122】
試料調製および試験計画:
RPで処置された411人の前立腺がん患者に由来するFFPE腫瘍切片からRNAを単離した。代表的な10μm厚の腫瘍切片を使ってRNAを単離した。必要な場合は、RNAを単離する前に、病理学者の指導の下で行われる(pathologist guided)試料のマクロダイセクションまたはマイクロダイセクションを使って、腫瘍組織を濃縮した。検証コホートの試料はいずれもマイクロダイセクションを行わなかった。あらゆる解析に先だって、コホートを、シグネチャーの最初の特徴付けのための212患者(「トレーニングセット」)と、検証用の199患者とに分割した。トレーニングコホートおよび検証コホートの臨床的特徴を表5に掲載する。
【0123】
(表5)
【0124】
結果
CCG発現シグネチャー(上記の表3)は、一変数解析において疾患再発を予測した(p値=1.8×10-9、表6)。シグネチャースコアの分布は高い値(低い発現)に偏った。シグネチャースコアの中央値を使って、トレーニングコホートを、高いCCG発現または低いCCG発現を有する試料を含有する2つの群に分割した。両群について生存率対時間を図2に示す。
【0125】
術後ノモグラム(Kattan-Stephensonノモグラム)に典型的に含まれる臨床的変数を考慮した後のCCGシグネチャーの予測力も評価した。ノモグラムは、再発の高度に有意な予測因子だった(p値 1.6×10-10)。ノモグラムに関する調整後に、CCGシグネチャーは、発見(discovery)コホート(p値 0.03)および臨床検証コホート(p値 4.8×10-5)において、生化学的再発の有意な予測因子だった(図3)。
【0126】
(表6)
*欠測値を補完した細胞周期遺伝子発現の平均、コックス比例ハザードモデルの尤度比検定
【0127】
ノモグラムとCCG発現シグネチャーの間の交互作用の理解を助けるために、これらの予測因子を比較する散布図(図4)を作製した(明灰色の星印はがんが再発した患者を表し、黒い星印はがんが再発しなかった患者を表す)。KM平均法による散布図の解析は、ノモグラムスコアのみに基づいて、試料を3つのクラスターに分割した。次に、それらのクラスターは、よく理解されている臨床的パラメータに基づくことが見いだされた。最低スコアクラスターの患者(116/117)は、臓器内限局疾患を有した。中スコアクラスターの患者(48/60)は、不良転帰と関連することが知られている少なくとも一つの術後パラメータ(すなわち、被膜を超えた疾患、疾患陽性リンパ節、および/または疾患陽性精嚢)と低い術前PSA(<10ng/ml)とを有した。最高スコアクラスターの患者は、少なくとも一つの好ましくない術後パラメータと高い術前PSAとを有した。次に、低および中スコアクラスターの患者を、CCGスコアの平均によって分割した。最高スコアクラスターの患者に関する転帰は、ノモグラムによって十分に予測することができるので、さらに分割することはしなかった。結果として、散布図は、2%、40%(2つの群)、65%、および80%の疾患再発率を有する5つの患者群を規定した(表7)。時間に対する5群全ての再発率を図5に示す。
【0128】
(表7)
【0129】
図4に示す散布図は、CCGシグネチャーと術後ノモグラムの間に非線形交互作用があることを示唆している。すなわち、CCGシグネチャーは、低いノモグラムスコアを有する患者における、より良い予測因子である。したがって、この研究では、疾患再発の予測に関して、多変数モデルでこれらの変数間の交互作用の統計学的証拠を調べた(表8)。トレーニング試験でも検証試験でも有利な交互作用を示す有意な証拠があった。モデルに交互作用項を含めることにより、ノモグラムについて調整した後のCCGシグネチャーの予後有意性が激的に改善した(トレーニングコホートにおいて0.0015および検証コホートにおいて1.2×10-8のp値)。
【0130】
(表8)統計的概要
【0131】
実施例3
以下の研究ではシグネチャーに含めるべきCCGの最適な数を決定することを目指した。上述のように、CCG発現レベルは互いに相関するので、疾患転帰を予測するには少数の遺伝子を測定すれば十分である可能性があった。事実、表3に記載されている31遺伝子のセット(パネルC)から選ばれた単一CCGは、下記の表9に示すように(ノモグラムおよびノモグラムとCCG発現の間の交互作用項についての調整後に)Kattan-Stephensonノモグラムを有意に増強する。
【0132】
(表9)
*時間対再発の完全(RP後ノモグラムスコア+細胞周期発現+ノモグラム:細胞周期)対簡約(RP後ノモグラムスコアのみ)Cox PHモデルの尤度比検定に関するp値。
【0133】
大きなCCGセットの小さなサブセット(すなわち小さなCCGパネル)がどの程度機能するか評価するために、この試験では、シグネチャーがどのくらいよく転帰を予測するかも、そのシグネチャーに含まれるCCGの数の関数として比較した(図1)。前立腺手術後の化学的再発までの時間を、RP後ノモグラムスコアによって調整したCCG平均に回帰した。データは、199のFFPE前立腺腫瘍試料と26のCCGに関するデルタCTとして表されたTLDAアッセイからなり、CoxPH多変数モデルによって解析した。p値は、完全モデル(交互作用を含むノモグラム+細胞周期平均)対簡約モデル(ノモグラムのみ)の尤度比検定に関する。下記の表10および図1に示すように、小さいCCGシグネチャー(例えば2、3、4、5、6個のCCGなど)は、Kattan-Stephensonノモグラムを有意に増強する。
【0134】
(表10)
*細胞周期遺伝子の無作為抽出したサブセット(サイズ1〜6)1000個について
【0135】
実施例4
この実験の目的は、前立腺全摘出術後の前立腺がん患者におけるPTEN突然変異と生化学的再発との関連を評価することだった。PTENにおける体細胞突然変異は、再発と有意に関連することがわかり、重要なことに、これは、前立腺がん再発に関する確立された臨床ノモグラム(Kattan-Stephensonノモグラム)とCCGシグネチャースコア(上記実施例1および2で説明したもの)の両方を超える予後情報を追加した。
【0136】
患者および方法
804人の連続RP患者を中央値9.5年にわたって追跡した。全コホートの患者特徴および処置転帰は以前に報告されている(Swanson et al., Urol Oncol. (2007) 25:110-114)。分析に十分な組織を含む最後の病理学的評価からの組織ブロックおよび/またはスライドは、430人の患者について入手可能だった。これらのうち、利用できる腫瘍の量に基づいて、191人をPTEN突然変異スクリーニングのために選択した。
【0137】
QIAamp DNA FFPE組織キット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)をキットプロトコールに従って使用することにより、PTENの突然変異スクリーニング用に、ゲノムDNAを、FFPE腫瘍試料から単離した。FFPEスライドをまず最初にヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、病理学者が調べることにより、腫瘍領域を同定した。脱パラフィン後に、腫瘍組織をスライドから剃刀の刃で切り出した。数個の試料については、腫瘍細胞の離散ゆえに、レーザーキャプチャー顕微鏡法(LCM)によってダイセクションを支援した。
【0138】
PTENゲノム配列をインタロゲート(interrogate)するようにシークエンスプライマーを設計することにより、突然変異を検出した。プライマーは、配列決定が容易になるように、M13フォワードおよびリバーステールを含有した。増幅後に、Frank et al., J. Clin. Oncol. (2002) 20:1480-1490に記載の色素-プライマー化学を使って、DNA配列を、Mega BASE 4500(GE healthcare)で決定した。FFPE材料に由来するDNAの配列決定に付随する技術的困難ゆえに、各突然変異を、少なくとも2回の独立した増幅およびシークエンス反応によって検出した。
【0139】
統計手法:
別段の指定がない限り、生化学的再発とPTEN突然変異との関係を、再発までの時間に関してCox PHモデルを使って評価した。結果として得られるp値は、ヌルモデルを試験片数を含有するモデルと比較する尤度比検定から導き出された。この実施例(実施例4)では、CCGシグネチャーを26個のCCG(上記の表2中のパネルD)から導き出した。発現データは全て三重に作成した。26個のCCGに関する平均発現レベルを算出することにより、発現データを組み合わせて一つのシグネチャーとした。臨床データは、Kattan-Stephensonノモグラムに含まれる変数とした。
【0140】
結果
PTEN突然変異が13個体(13/191)に見つかった。191患者のこのサブセットでは、PTENが生化学的再発の有意な予測因子だった(p値=0.031)。突然変異保因者における再発率は69%(9/13)だったのに比して、非突然変異患者では36%(64/178)だった。再発率の差は、フィッシャーの直接検定でも有意だった(p値=0.034)。臨床的パラメータデータ、CCGシグネチャースコア、およびPTEN突然変異を有する患者のサブセットにおいて、PTEN状態は、臨床的パラメータとCCGシグネチャーの両方について調整した後に、生化学的再発の有意な予測因子だった(p値0.024)。最後に、PTEN突然変異とCCGシグネチャーの組合せは、臨床的パラメータについて調整した後に、臨床的パラメータについて調整した後のCCGシグネチャーを使用した場合よりも良い転帰の予測因子だった(組合せの場合、p値=0.0002であるのに対し、CCGのみの場合は0.0028)。これらの結果は、PTEN突然変異が、臨床的パラメータまたはCCGシグネチャーと相関しない再発の可能性に関する情報を提供すること、および3つのパラメータを全て使って再発リスクを評価することにより、今までに可能であった推定よりも正確な再発確率の推定が得られることを示している。
【0141】
実施例5
この実施例では、本発明のCCGシグネチャーのいくつかの態様を検証し洗練するためのさらなる研究を説明する。
【0142】
患者および方法
804人の連続前立腺全摘出術患者を中央値9.5年にわたって追跡した。中央年齢は67歳だった。臨床病期はT1が34%、T2が66%およびT3が<1%だった。中央術前PSAは6.6ng/mlで、72%は<10ng/ml、28%は>10ng/mlだった。標本にインクを塗布し、臨床的パラメータを陽性膀胱頚部または尿道断端、被膜への浸潤、被膜を超えた進展、陽性断端、および精嚢への転移について記録した。生化学的再発をPSA>0.3ng/mlと定義した。この研究のために、本発明者らは690人の患者について臨床データを利用することができた。分析に十分な組織を含む最後の病理学的評価からの組織ブロックおよび/またはスライドは、442人の患者について入手可能だった。コホートを、トレーニングコホート用の195患者と、検証用の247患者とに分割した。
【0143】
遺伝子の選択
126個のCCGおよび47のHK(ハウスキーピング)遺伝子のアッセイを、転帰または他の臨床データを伴わない96の市販されている匿名前立腺腫瘍FFPE試料に対して行った。作業仮説は、基礎にある同じ現象(CCGについては腫瘍内での細胞周期増殖、HK遺伝子については試料濃度)を、アッセイがさまざまな精度で測定するであろうということだった。アッセイを、個々の遺伝子と、候補遺伝子全ての平均(これは、利用可能な生物学的活性の推定値のなかで最善のものである)との間のピアソンの相関係数によってランク付けした。126個のCCGのそれぞれと平均との相関関係についての結果を表23に報告する。平均発現量が低いCCGまたは試料欠如(sample failure)を起こすアッセイを含めずに、約半分のCCGが0.58未満の相関関係を有し、HKの4分の1が0.95未満の相関関係を有した。これらのアッセイは、基礎にある現象を反映していないと解釈して除外した結果、56個のCCG(パネルG)と36個のHK候補遺伝子のサブセットが残った(表11および12)。このサブセットで相関係数を再計算し、ランク付けしたリストから最終的な選択を行った。
【0144】
(表11)評価したCCGの完全なリスト(「パネルG」)
【0145】
(表12)15個のハウスキーピング(HK)遺伝子のリスト
【0146】
遺伝子発現
代表的な5μM厚のFFPE腫瘍切片から全RNAを抽出した。キシレン浴を使って試料を脱パラフィンした後、一連の段階的エタノール浴で水和した。その後、病理学者の指示に従い、剃刀の刃を使って、腫瘍領域をスライドから切離(dissect)した。あるいは、腫瘍領域をエッペンドルフチューブ中に直接切離し、キシレンを使ってパラフィンを除去し、エタノールで洗浄した。次に、試料を、55℃におけるプロテイナーゼK消化により、一晩処理した。RNeasy FFPEまたはmiRNeasy(Qiagen)を製造者が記載するとおりに使用して(上述の長いプロテイナーゼK消化が唯一の例外である)、全RNAを抽出した。cDNA合成に先だって、単離された全RNAをDNase I(Sigma)で処理した。次に、本発明者らはHigh-capacity cDNA Archive Kit(Applied Biosystems)を使って、製造者が記載するとおりに、全RNAを一本鎖cDNAに変換した。RT反応には最低200ngのRNAが必要だった。
【0147】
発現レベルの測定に先だって、cDNAをTaqMan(商標)アッセイを含有するプール反応でプレ増幅(pre-amplify)した。プレ増幅反応条件は、95℃で15秒および60℃で4分を14サイクルとした。第1サイクルは95℃における10分間のインキュベーションを含むように変更した。1×TE緩衝液を使って増幅反応を1:20に希釈してから、TaqMan(商標)Low Density Arrays(TLDA、Applied Biosystems)にローディングして、遺伝子発現を測定した。
【0148】
CCGスコア
CCGスコアは、15個のハウスキーパー遺伝子(HK)によって規格化された31個のCCG(パネルF)のRNA発現から算出される。CCGスコアの分散が最小になるように、CCG(31個)とHK遺伝子(15個)の相対数を最適化した。CCGスコアは、CCG発現に関するCT値の非加重平均をHK遺伝子の非加重平均で規格化したものであるので、高い値ほど増加した発現を示す。1単位は発現の2倍変化に相当する。欠測値は、質の良い試料だけを使ってトレーニングセットで決定された各遺伝子に関する平均発現を使って補完した。同様にトレーニングセットで決定された平均値によって、CCGスコアの中心を決めた。
【0149】
4つの市販前立腺試料で希釈実験を行って、CCGスコアの測定誤差(se=0.10)および欠測値の影響を見積もった。CCGスコアは、合計31個のCCGのうち5個が欠如する点まで濃度を減少させても安定なままであることがわかった。この結果に基づいて、欠測値が4つを超える試料にはCCGスコアを割り当てなかった。
【0150】
低リスクを決定するためのCCGスコア閾は、トレーニングセットにおける再発の最低CCGスコアに基づいた。次に、試験の陰性適中度を最適化するために、その閾を1標準偏差分、下方に調節した。
【0151】
臨床的リスクのモデル
コックス比例ハザードモデルを使って、利用可能な臨床的パラメータデータを要約し、各患者について生化学的再発の先験的臨床的リスクを見積もった。データセットは、トレーニングセットからの195例と、臨床的パラメータ情報は有するがRNA発現を測定するには試料が十分でない他の248例とからなった。転帰と関連することがわかっている臨床的パラメータに対して一変数検定を行った(下記の表13参照)。有意でないパラメータはモデルから除外した。浸潤を、外科的縁、被膜外進展、または精嚢、膀胱頚部/尿道断端、もしくはリンパ節のいずれかへの転移と定義して、臓器内限局疾患について合成変数を作成した。臓器内限局疾患に関する合成変数は、その5つの構成要素(そのうちのいくつは相関し、または優勢でない)のどれよりも、このモデルにおいて有意であることがわかった。術後共変数についてAIC基準を使ってモデル当てはめを行った。
【0152】
(表13)臨床的パラメータの一変数解析および生化学的再発との関連
*尤度比検定に関するコックスPH p値
【0153】
最終モデル(すなわちノモグラム)は、臓器内限局疾患および6以下のグリーソンスコアに関する二値変数と、対数PSAに関する連続変数を有する(表14)。このモデルは、RPの年とグリーソンスコアの2つの構成要素を除けば、RP後ノモグラム(すなわちKattan-Stephensonノモグラム)に組み込まれている臨床的パラメータの全てを含む。先験的臨床的リスクの分布は、3つの異なるノード(node)を示す(図8)。3中心のk平均クラスタリングを使って、試料の約50%を含む低リスククラスターについての閾を設定した。
【0154】
(表14)臨床モデル
*尤度比検定に関するコックスPH p値
【0155】
統計解析
トレーニングセットと検証セットの間で、連続パラメータについてはスチューデントのt検定を使って、またカテゴリーパラメータについてはフィッシャー直接検定を使って、臨床的パラメータを比較した。手術後の生化学的再発に関する患者の先験的臨床的リスクを、7つの共変数を要約するRP後ノモグラムスコアによって見積もった。ノモグラムスコアのk平均クラスタリングを使って、患者を、低先験的臨床的リスクまたは高先験的臨床的リスクとしてカテゴリー化した。発現データは、15個のハウスキーパー遺伝子(上記の表12)の平均によって規格化された各CCGのCT(蛍光強度が所定の閾を超えるPCRサイクル数)として表した。
【0156】
低いCCG発現を有する試料を間違って除外することによってシグネチャーの完全性を損なうことなく低品質試料または疑わしい読みを排除するために、低品質試料を解析から除外した。したがって、データをクリーニングまたはフィルタリングするための閾は、保守的(conservatively)に設定した。各試料に関するHK遺伝子の平均発現レベルであって、CCGのそれよりも高いものを使って、低品質試料を同定した。増幅効率に関する技術的測定基準と、レプリケートの過剰に高い標準偏差とを使って、信頼できないCT測定値を同定した。HK遺伝子の欠如がないこと、およびCCGに関する3つのレプリケートのうち一つを超える欠如がないことを許容した。
【0157】
臨床的パラメータによって予測される臨床的リスクに関する調整後の生化学的再発とCCG発現の間の関連を、再発までの時間に関してコックス比例ハザードモデルを使って評価した。時間依存性なしの比例ハザード仮説を、交互作用項を含むCCGシグネチャー+二値臨床的パラメータスコアの完全モデル、およびCCGシグネチャーのみについて、臨床的リスクサブセットで検定した。トレーニングまたは検証において有意でなかったことから、時間依存性に関する証拠はないことが示された。報告されるp値は全て、簡約モデルまたはヌルモデルを試験変数を含むモデルと比較する尤度比検定からのものである。カプラン-マイヤープロットを使って患者のサブセットについて推定される生存確率を示すが、p値は変数の連続値に関してコックス尤度比検定から得られるものである。全ての統計的解析をS+Version 8.1.1 for Linux(TIBCO Spotfire)またはR2.9.0(http://www.r-project.org)で行った。
【0158】
結果
本発明者らは、RPによる処置を受けた442人の前立腺がん患者から得られたFFPE腫瘍切片からRNAを単離した。このコホートを、シグネチャーの最初の特徴付けのための195人(「トレーニングセット」)と、検証用の247人とに分割した。トレーニングコホートと検証コホートの臨床的パラメータを表15に掲載する。多重比較に関する調整後に有意差はなかった。
【0159】
(表15)トレーニング患者コホートおよび検証患者コホートの臨床的パラメータ
【0160】
この研究のためのCCGシグネチャーを解析するために、本発明者らは、96の前立腺腫瘍から得られたRNAについて、126個のCCGを調べた(表11)。腫瘍試料は匿名であり、臨床データを伴わなかった。この遺伝子セットから、本発明者らは31個の遺伝子(パネルF)を選択して、本発明者らのシグネチャーに含めた(表16)。これらの遺伝子は、96の匿名試料における、その技術的性能に基づいて、また各遺伝子がCCGセット全体の平均発現レベルとどの程度よく相関するかによって、選択された。
【0161】
(表16)トレーニングセットから得たCCGシグネチャー(パネルF)
【0162】
CCGシグネチャーの予後有用性を評価するために、本発明者らは、トレーニングセット中の195人の患者について、発現データを作成した。個々の遺伝子発現レベルは相関したので、本発明者らは、15個のハウスキーパー(表12)によって規格化された31遺伝子(パネルF)のセット全体に関する平均発現を計算することにより、それらを組み合わせて一つのシグネチャースコアにした。CCGスコア分布の中心を0に置いた。各スコア単位は発現レベルの2倍変化に対応する。ハウスキーピング遺伝子の低い発現または許容されない数のCCG欠如を観察することによって低品質試料を同定し、それらを解析から除外した。本発明者らの除外規則の適用後に、解析に利用できる試料は140あった。生化学的再発とCCG発現の間の関連を、再発までの時間に関してコックスPHモデルを使って評価した。高いCCG発現値は、一変数解析において、疾患再発を予測する(p値=0.01、表17)。
【0163】
次に本発明者らは、RP後の再発と関連することが知られている臨床的パラメータを考慮した後のCCGシグネチャーの予後有用性を評価した。本発明者らの解析における臨床的尺度を考慮するために、本発明者らは、術前PSA、グリーソンスコア、および前立腺外の疾患を示す証拠(すなわち、被膜外進展、またはリンパ節、断端、膀胱頚部、尿道断端もしくは精嚢上の陽性術後病変のいずれか)を含むモデル/ノモグラムを作成した。このモデルは、本発明者らが臨床データを有したが検証セットに含まれなかった全ての患者を含む443人の患者において最適化され(表13および14)、トレーニングコホートにおいて再発の高度に有意な予測因子だった(p値=2.5×10-11)。この臨床モデルからのスコアの分布はいくつかのモード(mode)を含み(図8)、高リスク患者群と低リスク患者群を分別する。したがって、以後は、このスコアを二値変数(高リスクまたは低リスク)として使用した。低リスククラスターは臨床的パラメータの一貫したセットと相関した。具体的には、圧倒的多数(215/218)が臓器内限局疾患と7未満のグリーソンスコアを有した。また、80%は、低い術前PSA(<10ng/ml)を有した。高リスククラスター中の患者(N=225)は、より不均一であったが、不良転帰と関連することが知られている臨床的特徴(例えばグリーソン>6および/または被膜を超えた疾患)を有する傾向があった。
【0164】
本発明者らの二値臨床モデルを組み入れたトレーニングセットの多変数解析は、発現シグネチャーと臨床的パラメータの間の非線形交互作用の証拠を示した(表17)。この交互作用の性質の理解を助けるために、本発明者らは、これらの予測因子を比較する散布図を作成した(図8)。図から明らかなように、CCGスコアは、臨床的パラメータによって低リスクと定義された患者における再発リスクを評価するのに役立つことが判明した。実際、低リスク患者内での臨床モデルに関する調整後でさえ、CCGシグネチャーは生化学的再発の強い予測因子だった(p値=0.0071)。
【0165】
(表17)統計的概要
【0166】
本発明者らは、散布図に本発明者らのトレーニングデータを使って、CCGシグネチャーについて-0.16という最適化された閾スコアを確立した(平均CCGスコアはゼロである)。図12は、この実施例で調べた443人の患者に適用されたこの閾を表す。低リスク患者の40%がこの閾未満に属し、RPの10年後に再発がないように選択された(すなわち陰性適中度(NPV)100%)。臨床モデルとCCGスコアの両方について閾値を確立した結果として、散布図が、低リスク患者に関して0%(低CCG)および26%(高CCG)の再発率、ならびに高リスク患者に関して60%(低CCG)および50%の再発率を有する4つの区画に分割された。
【0167】
次に、本発明者らは、本発明者らの検証コホート中の247人の患者に関して、CCG発現データを作成した。トレーニングコホートで開発した除外規則に従って、32の試料をさらなる解析から排除した。パネルFは、一変数解析において、生化学的再発の有意な予測因子だった(p値=5.8×10-8、表17)。二値臨床モデルに関する調整後に、CCGシグネチャーは、検証コホートにおいて、再発を高度に予測し(p値8.3×10-7)、トレーニングセットの場合と同様に、変数間の非線形交互作用を示す有意な証拠があった。CCGシグネチャーは、臨床的に定義されたリスクの全てのスペクトルにわたって、情報価値があった(表17)。トレーニング結果の検証に関して、低リスク患者における再発とCCGシグネチャーの間の関連に関するp値は、1.9×10-4だった。
【0168】
本発明者らは、本発明者らによるトレーニングコホートの解析によって導き出したCCG閾を、本発明者らの検証データセットに適用した(図9)。閾未満のCCGスコアを有する低リスク患者は、5%の10年予測再発率を有した(0.95の検証されたNPVに等しい)。全体として、CCGスコアと臨床的パラメータの組合せは、コホートを、5%、22%、36%および70%の10年予測再発率を有する4つの群に分割した(表18)。検証コホート内の患者に関する予測再発率対CCGスコアを図10および11に示す。
【0169】
(表18)臨床的リスクとCCGスコアによって定義された検証コホートにおける再発率の要約
【0170】
本発明者らは、本発明者らの検証された閾を低リスク患者のさまざまな定義に対して、検定した(表19)。シグネチャースコアは、さまざまな低リスク臨床定義において有意な予後インジケーター(prognostic indicator)であり、定義に依存して0.05〜0.10の10年予測再発率をもたらした。
【0171】
(表19)低リスク患者の他の定義におけるCCGシグネチャーのNPV
*-検証された閾による定義
**-カプラン-マイヤー推定値
***-グリーンウッド分散(Greenwood variance)によって調整した低および高リスクについてのKM推定値間の相違に関して。
【0172】
コメント
本発明者らは、前立腺がんに関する予後分子シグネチャーを開発し、検証した。このシグネチャーは、細胞周期遺伝子(CCG)のmRNA発現レベルを測定することに基づく。定義上、CCGの発現は細胞周期段階の関数として調節される。すなわち、それらは特異的細胞周期段階でオンになるので、活発に成長している細胞は静止細胞より高いCCGの発現レベルを有する。おそらくこの事実が、がん進行を予測するというシグネチャーの能力の基礎をなしているのだろう。理論に束縛されることは望まないが、CCGの発現レベルを測定することにより、本発明者らは、最終的には前立腺切除術後の前立腺がん再発の可能性に影響を及ぼす腫瘍の成長速度および固有の侵攻性を、間接的に測定しているのだと考えられる。
【0173】
この研究と、予後分子シグネチャーを作成しようと試みた他の多くの研究との間には、重要な相違がある。多くの場合、類似する研究は、非常に多数の候補バイオマーカー(時には数千を超える遺伝子)から開始し、次に、関心対象の臨床表現型との関連について、それらを評価する。このアプローチは、時として、固有の多重検定に悩まされる場合があり、それが得られたシグネチャーの有意性を不明確にし得る。ここに本発明者らは、CCGが前立腺がんにおいて予後の根拠になるという、一つの仮説を検定した(実際には、本発明者らは、遺伝子を、再発との関連に基づいてではなく、CCG発現とのそれらの相関関係に基づいて選択した)。そして、CCG発現は相関するので、本発明者らは、シグネチャー中の全ての遺伝子の平均発現値を決定することにより、発現データを組み合わせて一つの予測的シグネチャーにした。このアプローチの単純性は、この研究の核心的主張が非常にロバストであり、今後の研究において再現される可能性が高いという見解を、生物学的にもコンピュータ的にも裏付けている。
【0174】
CCGシグネチャー(パネルF)は、独立して予測的であり、手術後の疾患再発を予測するために典型的に使用される臨床的パラメータの予測力を有意に増強する。これは、本発明者らのトレーニングコホートにおいても、検証コホートにおいても真である。
【0175】
本シグネチャーは、低リスク臨床的パラメータを呈する患者のリスクを定義するのに、直ちに役立つ。ここで本発明者らは、本質的に、低リスクをグリーソン<7、PSA<10および臓器内限局疾患と定義した。CCGシグネチャースコアは、その低リスク群を、極めて低い再発率(5%)を有する患者と、より高い再発リスク(22%)を有する患者に、効果的に細分した(図9および表18)。これは、臨床的パラメータに基づいて低リスクと先に定義された患者のリスクを正確に再定義するという、この分子シグネチャーの最も劇的な効果である。この患者部分集団(すなわち臨床的パラメータに基づいて低リスクと定義された患者)内では、臨床的パラメータが特に予後の根拠となるわけではないことは、注目に値する(表17参照)。したがって、診断検査として、本シグネチャーは、多数の患者にとって有用であるだろう。この研究では、コホートのほぼ60%が低リスクと特徴づけられ、その40%が低CCGスコアを有すると予想される。したがってCCGシグネチャーは、以前は高リスクと同定されていた(そして、それゆえに前立腺全摘出術の候補と同定されていた)患者の4分の1における緩徐進行型の疾患を予測することができる。最後に、検証データは特に、CCGシグネチャーが全ての患者におけるリスクを定義するのに役立ち得ることを示唆している。具体的には、これは、臨床的パラメータに従って高リスクと定義された患者を、再発率30%の患者と再発率70%の患者に分割するのに役立った(表18)。
【0176】
臨床的パラメータとCCGシグネチャーの組合せにより、医師は、外科手術不成功(surgical failure)のリスクをより正確に予測し、それゆえに、適当な治療的介入のコースを同定することが可能になる。本発明者らが示したように、本シグネチャーは、非侵攻性疾患の一般的な臨床的パラメータを呈する患者に関する再発予測を劇的に改善する(表19)。この臨床サブグループにおいて低いCCGスコアを有する患者は、さらなる処置の適応がないことの絶対的再保証によって利益を得るだろう。逆に、高CCG群は、即時的介入の正当な理由になり得る。好ましくない術後臨床的パラメータを有する患者は、アジュバント放射線療法の利益を受ける。したがって、CCGシグネチャーは、低リスクな臨床的特徴と高いCCGスコアとを有する患者に関するアジュバント放射線照射の効力を予測するはずである。検証コホートにおいて、高いCCGスコアと前立腺外に達する疾患とを有する患者は70%の再発率を有し、これは、アジュバント放射線照射の良い候補である患者を明確に同定するはずである。このように、臨床的パラメータとCCGシグネチャーの組合せは、より正確に定義された患者リスクに、明らかにつながり、それが、さらなる処置の必要性のより理知的な査定を可能にするはずである。
【0177】
実施例6
本明細書に記載するCCGパネルのいくつかを、他のがんを予後判定するその能力について、さらに評価した。パネルC、D、およびFは、膀胱がん、脳がん、乳がん、および肺がんにおいて、さまざまな程度に、予後の根拠になることがわかった。
【0178】
方法
遺伝子発現および患者データは公に入手可能な以下のデータセットから得た:GSE7390(Desmedt et al., Clin. Cancer Res. (2007) 13:3207-14;PMID 17545524);GSE11121(Schmidt et al., Cancer Res. (2008) 68:5405-13;PMID 18593943);GSE8894(Son et al.;未公表);Shedden(Shedden et al., Nature Med. (2008) 14:822;PMID 18641660);GSE4412(Freije et al., Cancer Res. (2004) 64:6503-10;PMID 15374961);GSE4271(Phillips et al., Cancer Cell (2006) 9:157-73;PMID 16530701);GSE5287(Als et al., Clin. Cancer Res. (2007) 13:4407-14;PMID 17671123)。これらのデータセットのそれぞれには、発現および患者データを集める際に使用した実験手法の詳細な説明が付属している。各データセットを作成するために使用された発現マイクロアレイを下記の表20に要約する。
【0179】
(表20)
【0180】
パネルC、DおよびFに含まれる遺伝子のそれぞれについての発現データをこれらのデータセットから集め、その臨床転帰がわかっている(例えば再発、進行、無進行生存、全生存など)各患者について、各パネルの平均発現レベルを決定した。CCGスコアは、あるパネル中の遺伝子の平均発現である。ある遺伝子がアレイ上の2つ以上のプローブセットによって表される場合、遺伝子発現は、その遺伝子を表す全てのプローブセットの平均発現である。CCGスコアと生存または疾患再発の関連を、一変数および多変数コックス比例ハザードモデルを使って検定した。関連臨床的パラメータ(脳がんにおける悪性度、肺がんにおける病期、乳がんにおけるNPI)を利用できる場合は、多変数解析を行った。
【0181】
結果
下記の表21に示すように、各パネルは、一変数解析において、解析したがんのそれぞれにおける予後因子であった。
【0182】
(表21)
【0183】
下記の表22に示すように、各パネルは、少なくとも一つの臨床的パラメータ(またはノモグラム)と組み合わせた場合に、多変数解析でも予後の根拠になった。
【0184】
(表22)
【0185】
下記の表23に、選ばれたCCGについて、それらと平均CCG発現との相関関係によるランキングを記載する。
【0186】
(表23)
【0187】
下記の表1にCCGの大きい(ただし網羅的ではない)リストを記載する。
【0188】
(表1)
【0189】
本明細書において言及した刊行物および特許出願はいずれも、本発明が属する技術分野における当業者の水準を示す。全ての刊行物および特許出願は、個々の刊行物または特許出願について参照により組み込まれることを個別に明記した場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み入れられる。刊行物および特許出願への単なる言及は、それらが本願にとって先行技術であることの自白を、必ずしも構成しない。
【0190】
以上、明解に理解できるように図解と実施例を挙げて、本発明をいくらか詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲内で一定の改変および変更を実施できることは、明白であるだろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの細胞周期遺伝子を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な細胞周期遺伝子状態が予後不良を示す、がんを分類するための方法。
【請求項2】
患者から得られる試料における、少なくとも2つの細胞周期遺伝子を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含む、インビトロ診断法。
【請求項3】
がん患者について少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程と、該患者から得られる試料における少なくとも一つの細胞周期遺伝子の状態を判定する工程とを含む、インビトロ診断法。
【請求項4】
前記細胞周期遺伝子が表1またはパネルA〜Gのいずれかに列挙された遺伝子から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
がん患者について少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程と、該患者から得られる試料における少なくとも一つの細胞周期遺伝子の状態を判定する工程とを含み、再発関連臨床的パラメータまたは異常な細胞周期遺伝子状態が予後不良を示す、がんを分類するための方法。
【請求項6】
2つ以上の臨床的パラメータを決定する工程を含む、請求項3または5記載の方法。
【請求項7】
前記2つ以上の臨床的パラメータがノモグラムを形成するか、またはノモグラムの一部である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ノモグラムが、Kattan-Stephensonノモグラムの臨床的パラメータまたはノッティンガム予後指標の臨床的パラメータを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程をさらに含む、請求項2または3記載の方法。
【請求項10】
前記患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程をさらに含み、異常な細胞周期遺伝子状態または異常なPTEN状態のどちらか一方が予後不良を示す、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程をさらに含み、異常な細胞周期遺伝子状態、再発関連臨床的パラメータまたは異常なPTEN状態のいずれか一つが予後不良を示す、請求項5記載の方法。
【請求項12】
前記がんが、前立腺がん、膀胱がん、脳がん、乳がん、および肺がんからなる群より選択される、請求項1、3、5、または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記がんが前立腺がんであり、前記パネルが、パネルA〜Gのいずれか一つ内の遺伝子からなる群より選択される2つ以上の遺伝子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記がんが、膀胱がん、脳がん、乳がん、および肺がんから選択され、前記パネルが、パネルB、CおよびFのいずれか一つ内の遺伝子からなる群より選択される2つ以上の遺伝子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記がんが前立腺がんであり、前記ノモグラムが前記Kattan-Stephensonノモグラムの臨床的パラメータを含む、請求項8記載の方法。
【請求項16】
前記がんが乳がんであり、前記ノモグラムが前記ノッティンガム予後指標の臨床的パラメータを含む、請求項8記載の方法。
【請求項17】
前記臨床的パラメータが、腫瘍病期、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、リンパ節状態、組織像、パフォーマンスステータス、外科手術のタイプ、外科的縁(surgical margin)、処置のタイプ、発病年齢、PSAレベル、およびグリーソンスコアからなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項18】
前記パネルが、表1またはパネルA〜Gのいずれか内の遺伝子からなる群より選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、請求項1、2または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記パネルが少なくとも10個の細胞周期遺伝子を含む、請求項1、2または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
前記パネルが、表1またはパネルA〜Gのいずれか内の遺伝子からなる群より選択される少なくとも10個の遺伝子を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記10個の遺伝子が、前記パネル内の遺伝子の少なくとも75%を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記パネルが少なくとも15個の細胞周期遺伝子を含む、請求項1、2または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記パネルが、表1またはパネルA〜Gのいずれか内の遺伝子からなる群より選択される少なくとも15個の遺伝子を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記15個の遺伝子が、前記パネル内の遺伝子の少なくとも75%を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記パネルが少なくとも20個の細胞周期遺伝子を含む、請求項1、2または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記パネルが、表1またはパネルA〜Gのいずれか内の遺伝子からなる群より選択される少なくとも20個の遺伝子を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
26個の遺伝子が、前記パネル内の遺伝子の少なくとも75%を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記パネルがパネルA〜Gからなる群より選択される、請求項1、2または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
少なくとも一つの細胞周期遺伝子の状態を判定する前記工程が、
(a)該細胞周期遺伝子によってコードされる核酸のレベルを決定すること;
(b)該細胞周期遺伝子によってコードされるポリペプチドのレベルを決定すること;
(c)該細胞周期遺伝子によってコードされるポリペプチドの活性を決定すること;
(d)該細胞周期遺伝子のメチル化状態を判定すること;または
(e)該細胞周期遺伝子の発現を調節するmiRNAの発現および/もしくは活性のレベルを決定すること
の少なくとも一つを含む、請求項1、5または10のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
前記異常な細胞周期遺伝子状態が、
(a)前記細胞周期遺伝子によってコードされる核酸の増加した発現レベル;
(b)該細胞周期遺伝子によってコードされるポリペプチドの増加した発現レベル;または
(c)該細胞周期遺伝子によってコードされるポリペプチドの増加した活性
の少なくとも一つを含む、請求項1、5または10のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
前立腺がん患者を処置するための方法であって、該患者について少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程、該患者から得られる試料における少なくとも一つの細胞周期遺伝子の状態を判定する工程、および(a)該患者が少なくとも一つのリスク関連臨床的パラメータと、該細胞周期遺伝子に関して高い状態とを有する場合、積極的処置を推奨、指示または開始し、または(b)該患者がリスク関連臨床的パラメータも該細胞周期遺伝子に関して高い状態も有さない場合、監視的待機を推奨、指示または開始する工程を含む、方法。
【請求項32】
前記患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程をさらに含み、少なくとも一つのリスク関連臨床的パラメータ、前記細胞周期遺伝子に関して高い状態、および/または低いもしくは陰性のPTEN状態の存在が、該患者が高い再発可能性を有することを示す、請求項19記載の方法。
【請求項33】
(a)コンピュータ可読媒体に記録された患者のCCG状態、臨床的パラメータおよび/またはPTEN状態に関する情報にアクセスする工程;
(b)この情報に問い合わせをして、該患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示すかどうか、該患者が再発関連臨床的パラメータを有するかどうか、および/または該患者が低い/陰性のPTEN状態を有するかどうか、のうち少なくとも一つを判定する工程;および
(c)該試料のCCG発現状態、該患者の再発関連臨床的パラメータ状態、および/または該試料のPTEN状態を出力する工程
を含む、コンピュータにより実現される処置方法。
【請求項34】
(a)コンピュータ可読媒体に記録された患者のPTEN状態または臨床的パラメータに関する情報とCCG状態に関する情報とにアクセスする工程;
(b)この情報に問い合わせをして、該患者が低い/陰性のPTEN状態を有するかどうか、または該患者が再発関連臨床的パラメータを有するかどうかの少なくとも一方を判定する工程;
(c)この情報に問い合わせをして、該患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示すかどうかを判定する工程;および
(d)該患者が低い/陰性のPTEN状態または再発関連臨床的パラメータを有し、かつ該試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示す場合、該患者が高い再発可能性を有するという指摘を出力する工程
を含む、患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定するためのコンピュータにより実現される方法。
【請求項35】
少なくとも75%の細胞周期遺伝子を含む遺伝子のパネルの発現レベルを決定するための、複数のオリゴヌクレオチドを含むキット。
【請求項36】
前記細胞周期遺伝子が、表1またはパネルA〜Gのいずれか内の細胞周期遺伝子からなる群より選択される、請求項35記載のキット。
【請求項37】
前記遺伝子のパネルが少なくとも6個の細胞周期遺伝子を含む、請求項35または36記載のキット。
【請求項38】
前記遺伝子のパネルが、少なくとも10個の、ただし2500個を超えない、細胞周期遺伝子を有する、請求項35または36記載のキット。
【請求項39】
前記細胞周期遺伝子が、パネル内の遺伝子の総数の少なくとも90%を構成する、請求項35〜38のいずれか一項記載のキット。
【請求項40】
前記オリゴヌクレオチドがPCRプライマーまたはハイブリダイズ用プローブである、請求項35〜39のいずれか一項記載のキット。
【請求項41】
患者におけるがんの予後または再発の可能性を判定するのに有用な診断製品を製造するための、少なくとも75%の細胞周期遺伝子を含む遺伝子のパネルの発現レベルを決定するための、複数のオリゴヌクレオチドの使用。
【請求項42】
前記複数のオリゴヌクレオチドが、請求項35〜40のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチドである、請求項41記載の使用。
【請求項1】
少なくとも2つの細胞周期遺伝子を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含み、異常な細胞周期遺伝子状態が予後不良を示す、がんを分類するための方法。
【請求項2】
患者から得られる試料における、少なくとも2つの細胞周期遺伝子を含む遺伝子のパネルの状態を判定する工程を含む、インビトロ診断法。
【請求項3】
がん患者について少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程と、該患者から得られる試料における少なくとも一つの細胞周期遺伝子の状態を判定する工程とを含む、インビトロ診断法。
【請求項4】
前記細胞周期遺伝子が表1またはパネルA〜Gのいずれかに列挙された遺伝子から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
がん患者について少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程と、該患者から得られる試料における少なくとも一つの細胞周期遺伝子の状態を判定する工程とを含み、再発関連臨床的パラメータまたは異常な細胞周期遺伝子状態が予後不良を示す、がんを分類するための方法。
【請求項6】
2つ以上の臨床的パラメータを決定する工程を含む、請求項3または5記載の方法。
【請求項7】
前記2つ以上の臨床的パラメータがノモグラムを形成するか、またはノモグラムの一部である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ノモグラムが、Kattan-Stephensonノモグラムの臨床的パラメータまたはノッティンガム予後指標の臨床的パラメータを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程をさらに含む、請求項2または3記載の方法。
【請求項10】
前記患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程をさらに含み、異常な細胞周期遺伝子状態または異常なPTEN状態のどちらか一方が予後不良を示す、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程をさらに含み、異常な細胞周期遺伝子状態、再発関連臨床的パラメータまたは異常なPTEN状態のいずれか一つが予後不良を示す、請求項5記載の方法。
【請求項12】
前記がんが、前立腺がん、膀胱がん、脳がん、乳がん、および肺がんからなる群より選択される、請求項1、3、5、または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記がんが前立腺がんであり、前記パネルが、パネルA〜Gのいずれか一つ内の遺伝子からなる群より選択される2つ以上の遺伝子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記がんが、膀胱がん、脳がん、乳がん、および肺がんから選択され、前記パネルが、パネルB、CおよびFのいずれか一つ内の遺伝子からなる群より選択される2つ以上の遺伝子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記がんが前立腺がんであり、前記ノモグラムが前記Kattan-Stephensonノモグラムの臨床的パラメータを含む、請求項8記載の方法。
【請求項16】
前記がんが乳がんであり、前記ノモグラムが前記ノッティンガム予後指標の臨床的パラメータを含む、請求項8記載の方法。
【請求項17】
前記臨床的パラメータが、腫瘍病期、腫瘍悪性度、腫瘍サイズ、リンパ節状態、組織像、パフォーマンスステータス、外科手術のタイプ、外科的縁(surgical margin)、処置のタイプ、発病年齢、PSAレベル、およびグリーソンスコアからなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項18】
前記パネルが、表1またはパネルA〜Gのいずれか内の遺伝子からなる群より選択される少なくとも2つの遺伝子を含む、請求項1、2または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記パネルが少なくとも10個の細胞周期遺伝子を含む、請求項1、2または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
前記パネルが、表1またはパネルA〜Gのいずれか内の遺伝子からなる群より選択される少なくとも10個の遺伝子を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記10個の遺伝子が、前記パネル内の遺伝子の少なくとも75%を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記パネルが少なくとも15個の細胞周期遺伝子を含む、請求項1、2または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
前記パネルが、表1またはパネルA〜Gのいずれか内の遺伝子からなる群より選択される少なくとも15個の遺伝子を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記15個の遺伝子が、前記パネル内の遺伝子の少なくとも75%を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記パネルが少なくとも20個の細胞周期遺伝子を含む、請求項1、2または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記パネルが、表1またはパネルA〜Gのいずれか内の遺伝子からなる群より選択される少なくとも20個の遺伝子を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
26個の遺伝子が、前記パネル内の遺伝子の少なくとも75%を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記パネルがパネルA〜Gからなる群より選択される、請求項1、2または9のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
少なくとも一つの細胞周期遺伝子の状態を判定する前記工程が、
(a)該細胞周期遺伝子によってコードされる核酸のレベルを決定すること;
(b)該細胞周期遺伝子によってコードされるポリペプチドのレベルを決定すること;
(c)該細胞周期遺伝子によってコードされるポリペプチドの活性を決定すること;
(d)該細胞周期遺伝子のメチル化状態を判定すること;または
(e)該細胞周期遺伝子の発現を調節するmiRNAの発現および/もしくは活性のレベルを決定すること
の少なくとも一つを含む、請求項1、5または10のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
前記異常な細胞周期遺伝子状態が、
(a)前記細胞周期遺伝子によってコードされる核酸の増加した発現レベル;
(b)該細胞周期遺伝子によってコードされるポリペプチドの増加した発現レベル;または
(c)該細胞周期遺伝子によってコードされるポリペプチドの増加した活性
の少なくとも一つを含む、請求項1、5または10のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
前立腺がん患者を処置するための方法であって、該患者について少なくとも一つの臨床的パラメータを決定する工程、該患者から得られる試料における少なくとも一つの細胞周期遺伝子の状態を判定する工程、および(a)該患者が少なくとも一つのリスク関連臨床的パラメータと、該細胞周期遺伝子に関して高い状態とを有する場合、積極的処置を推奨、指示または開始し、または(b)該患者がリスク関連臨床的パラメータも該細胞周期遺伝子に関して高い状態も有さない場合、監視的待機を推奨、指示または開始する工程を含む、方法。
【請求項32】
前記患者から得られる試料におけるPTENの状態を判定する工程をさらに含み、少なくとも一つのリスク関連臨床的パラメータ、前記細胞周期遺伝子に関して高い状態、および/または低いもしくは陰性のPTEN状態の存在が、該患者が高い再発可能性を有することを示す、請求項19記載の方法。
【請求項33】
(a)コンピュータ可読媒体に記録された患者のCCG状態、臨床的パラメータおよび/またはPTEN状態に関する情報にアクセスする工程;
(b)この情報に問い合わせをして、該患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示すかどうか、該患者が再発関連臨床的パラメータを有するかどうか、および/または該患者が低い/陰性のPTEN状態を有するかどうか、のうち少なくとも一つを判定する工程;および
(c)該試料のCCG発現状態、該患者の再発関連臨床的パラメータ状態、および/または該試料のPTEN状態を出力する工程
を含む、コンピュータにより実現される処置方法。
【請求項34】
(a)コンピュータ可読媒体に記録された患者のPTEN状態または臨床的パラメータに関する情報とCCG状態に関する情報とにアクセスする工程;
(b)この情報に問い合わせをして、該患者が低い/陰性のPTEN状態を有するかどうか、または該患者が再発関連臨床的パラメータを有するかどうかの少なくとも一方を判定する工程;
(c)この情報に問い合わせをして、該患者から得られる試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示すかどうかを判定する工程;および
(d)該患者が低い/陰性のPTEN状態または再発関連臨床的パラメータを有し、かつ該試料が少なくとも一つのCCGの増加した発現を示す場合、該患者が高い再発可能性を有するという指摘を出力する工程
を含む、患者が高い再発可能性を有するかどうかを判定するためのコンピュータにより実現される方法。
【請求項35】
少なくとも75%の細胞周期遺伝子を含む遺伝子のパネルの発現レベルを決定するための、複数のオリゴヌクレオチドを含むキット。
【請求項36】
前記細胞周期遺伝子が、表1またはパネルA〜Gのいずれか内の細胞周期遺伝子からなる群より選択される、請求項35記載のキット。
【請求項37】
前記遺伝子のパネルが少なくとも6個の細胞周期遺伝子を含む、請求項35または36記載のキット。
【請求項38】
前記遺伝子のパネルが、少なくとも10個の、ただし2500個を超えない、細胞周期遺伝子を有する、請求項35または36記載のキット。
【請求項39】
前記細胞周期遺伝子が、パネル内の遺伝子の総数の少なくとも90%を構成する、請求項35〜38のいずれか一項記載のキット。
【請求項40】
前記オリゴヌクレオチドがPCRプライマーまたはハイブリダイズ用プローブである、請求項35〜39のいずれか一項記載のキット。
【請求項41】
患者におけるがんの予後または再発の可能性を判定するのに有用な診断製品を製造するための、少なくとも75%の細胞周期遺伝子を含む遺伝子のパネルの発現レベルを決定するための、複数のオリゴヌクレオチドの使用。
【請求項42】
前記複数のオリゴヌクレオチドが、請求項35〜40のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチドである、請求項41記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2012−514474(P2012−514474A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545437(P2011−545437)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/020397
【国際公開番号】WO2010/080933
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
2.UNIX
3.Linux
4.ETHERNET
【出願人】(500086515)ミリアド・ジェネティックス・インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/020397
【国際公開番号】WO2010/080933
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
2.UNIX
3.Linux
4.ETHERNET
【出願人】(500086515)ミリアド・ジェネティックス・インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】
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