説明

くん煙剤組成物およびくん煙方法

【課題】間接加熱方式により薬剤を効率よく空気中に揮散させることができ、しかも安全性および実用性に優れたくん煙剤組成物およびくん煙方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の有害生物駆除用薬剤(A)と、少なくとも1種の発熱性基剤(B)とを含有し、間接的に加熱して使用されるくん煙剤組成物であって、前記発熱性基剤(B)が、グアニジン誘導体および硝酸塩類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(b1)を含有し、当該くん煙剤組成物中、前記有害生物駆除用薬剤(A)の含有量が0.1〜35質量%であり、前記化合物(b1)の含有量が30〜80質量%であることを特徴とするくん煙剤組成物。該くん煙剤組成物を間接的に加熱することを特徴とするくん煙方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、くん煙剤組成物およびくん煙方法に関する。
【背景技術】
【0002】
くん煙剤(燻蒸剤ともいう。)は、使用時に加熱して使用されるものであり、くん煙剤の加熱方式としては、製剤の一部分を直接加熱することで自己燃焼反応を起こさせる直接加熱方式と、製剤を間接的に加熱して熱分解させる間接加熱方式とがある。
くん煙剤としては、従来、発熱性基剤と、有効成分である有害生物駆除用薬剤等を主成分とする組成物が用いられている。
くん煙剤を加熱すると、発熱性基剤が燃焼または分解し、これにより生じる燃焼熱または分解熱で薬剤(有効成分)が気化する。このとき、発熱性基剤より発生するガスおよび煙粒子が推進の働きをするため、気化した薬剤(有効成分)を短時間のうちに空気中に揮散させることができる。そのため、くん煙剤は、有害生物の防除等を効果的に行うことのできる優れた製剤として従来より汎用されている。
【0003】
これまで、くん煙剤の発熱性基剤としては、有機発泡剤、発熱剤、燃焼剤等の種々のものが用いられている。これら発熱性基剤としては、ニトロセルロース、アゾジカルボンアミド、p・p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等が一般的である。これらの中でも、有機発泡剤であるアゾジカルボンアミドは、分解温度が約200℃であり、くん煙剤の薬剤として汎用されているピレスロイド系等の殺虫剤を揮散させるのに適していること、大量の分解ガスを発生し、拡散性に優れること等の理由から、くん煙剤(燻蒸剤)の発熱性基剤として現在最もよく使用されている。
このようなくん煙剤を用いたくん煙方法としては、たとえば、有害生物駆除用薬剤にアゾジカルボンアミドを混合した組成物を酸化カルシウムの水和熱などを利用した間接加熱方式により加熱し、分解生成ガスの作用により薬剤を蒸散させる方法(たとえば特許文献1〜2参照。)等が開発され、実用に供されている。
【0004】
しかし、アゾジカルボンアミドを主とした発熱性基剤を用いたくん煙剤組成物は、薬剤含量が高くなると、薬剤の揮散に伴う吸熱によりくん煙速度が緩慢となり、薬剤の揮散量が低下するため、薬剤の高含量化が困難であるという問題があった。
これに対し、特許文献3では、アゾジカルボンアミドにニトロセルロースを5〜20%の割合で混合した組成物を、酸化カルシウムの水和熱による間接加熱する燻蒸方法が提案されている。
【特許文献1】特公昭58−28842号公報
【特許文献2】特公昭59−49201号公報
【特許文献3】特許第3941893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ニトロセルロースのような発熱量の大きい燃焼剤を配合する場合、以下のような問題が生じる。すなわち、これらの燃焼剤は火気等に対し危険性が高く、その取扱いや、くん煙剤の製造の際に、安全性を充分に配慮することが必要である。そのため、生産コストも高くなる。また、これらの組成物を間接加熱によりくん煙させる場合には、燃焼剤から発生する熱に加え、周囲からも多量の熱が供給されることから、くん煙時に急激な発煙や、屋内の汚染、くん煙ガスの臭気等、実用性に問題もある。そのため、効率よく薬剤を空気中に揮散させることができるように、薬剤揮散性をさらに向上させるとともに、実用性についても改善することが求められる。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、間接加熱方式により薬剤を効率よく空気中に揮散させることができ、しかも安全性および実用性に優れたくん煙剤組成物およびくん煙方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、発熱性基剤として特定の化合物を特定量配合することにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の態様を有する。
[1]少なくとも1種の有害生物駆除用薬剤(A)と、少なくとも1種の発熱性基剤(B)とを含有し、間接的に加熱して使用されるくん煙剤組成物であって、
前記発熱性基剤(B)が、グアニジン誘導体および硝酸塩類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(b1)を含有し、
当該くん煙剤組成物中、前記有害生物駆除用薬剤(A)の含有量が0.1〜35質量%であり、前記化合物(b1)の含有量が30〜80質量%であることを特徴とするくん煙剤組成物。
[2]前記化合物(b1)が硝酸グアニジンである[1]に記載のくん煙剤組成物。
[3]前記発熱性基剤(B)が、さらに、有機発泡剤を含有する[1]または[2]に記載のくん煙剤組成物。
[4]前記有機発泡剤がアゾジカルボンアミドである[3]に記載のくん煙剤組成物。
[5][1]〜[4]のいずれか一項に記載のくん煙剤組成物を間接的に加熱することを特徴とするくん煙方法。
[6]前記加熱を、酸化カルシウムと水との反応熱を利用して行う[5]に記載のくん煙方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、間接加熱方式により薬剤を効率よく空気中に揮散させることができ、しかも安全性および実用性に優れたくん煙剤組成物およびくん煙方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のくん煙剤組成物は、少なくとも1種の有害生物駆除用薬剤(A)(以下、(A)成分ということがある。)と、少なくとも1種の発熱性基剤(B)(以下、(B)成分ということがある。)とを含有する。
【0009】
(A)成分としては、特に限定されず、駆除対象とする有害生物に応じて、殺虫剤、殺菌剤、忌避剤等の各種薬剤が使用できる。
例えば、代表的な殺虫剤としては、これらに限定されるものではないが、ペルメトリン、アレスリン、レスメトリン、プラレスリン、フェノトリン、エトフェンプロックス、d,d−T−シフェノトリン等のピレスロイド系薬剤;フェニトロチオン、ジクロルボス(DDVP)、ダイアジノン等の有機リン系薬剤;プロポクスル等のカーバメイト系薬剤;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系薬剤などが挙げられる。
殺菌剤としては、これらに限定されるものではないが、イソフタロニトリル、プロシミドン、バイレトン、モレスタン等の農薬用殺菌剤;サイアベンダゾール、3−ヨード2−プロピニルブチルカーバメート(IPBC)、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)等の環境衛生用殺菌剤などが挙げられる。
これらの薬剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0010】
本発明のくん煙剤組成物中、(A)成分の含有量は、当該くん煙剤組成物の総質量に対し、0.1〜35質量%であり、0.1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。(A)成分の含有量が0.1質量%未満の場合は、くん煙時に薬剤に対して過剰な熱量が加わり、薬剤の分解が生じて揮散効率の低下を招くおそれがある。また、該含有量が35質量%を超える場合は、当該組成物を顆粒剤等に製剤化しにくくなるなど、くん煙剤製造上の点で問題があり、実用的でない。
【0011】
本発明のくん煙剤組成物は、(B)成分として、グアニジン誘導体および硝酸塩類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(b1)を含有する。
グアニジン誘導体としては、グアニジンと、硝酸、炭酸、リン酸等の酸との塩;グアニジンの水素原子の一部または全部がニトロ基、シアノ基等の置換基で置換された化合物;等が挙げられる。具体的には、硝酸グアニジン、炭酸グアニジン、硝酸アミノグアニジン、ニトログアニジン、ジシアンジアミド等が挙げられる。
硝酸塩類としては、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム等が挙げられる。
これらの化合物は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
化合物(b1)としては、安価であること、くん煙時における発熱量の調整や製造上での取扱いの点で優れていることから、硝酸グアニジンが特に好ましい。
本発明のくん煙剤組成物中、化合物(b1)の含有量は、当該くん煙剤組成物の総質量に対し、30〜80質量%であり、30〜70質量%が好ましく、50〜60質量%がより好ましい。化合物(b1)の含有量が30質量%以上であると、薬剤の揮散効率が高く、たとえば(A)成分の含有量が20質量%を超えるような高含量であっても、充分に当該薬剤を揮散させることができる。一方、化合物(b1)の含有量が80質量%を超えると、くん煙剤製造上および実用性の点で問題が生じるおそれがある。
【0012】
本発明のくん煙剤組成物は、(B)成分として、さらに、有機発泡剤を含有してもよい。有機発泡剤を含有すると、ガスの噴出量、薬剤の揮散性並びに拡散性が向上する。
有機発泡剤としては、特に限定されず、従来公知のものを利用できる。一般には、加熱により熱分解して多量の熱を発生するとともに炭酸ガスや窒素ガスなどを発生するものが用いられており、具体的には、アゾジカルボンアミド、p・p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
これらの有機発泡剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明においては、分解温度、ガス発生量等の点から、特にアゾジカルボンアミドが好ましい。
本発明のくん煙剤組成物中、有機発泡剤の含有量は、薬剤の揮散効率の点から、当該くん煙剤組成物の総質量に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
有機発泡剤の含有量の下限値は特に限定されず、0質量%であってもよい。つまりを含有しなくてもよい。
有機発泡剤を配合する場合には、当該くん煙剤組成物の総質量に対し、0質量%超であればよく、有機発泡剤を配合することによる効果を充分に得るためには、10質量%以上が好ましい。
【0013】
本発明のくん煙剤組成物中、(B)成分の含有量は、本発明の効果を考慮すると、当該くん煙剤組成物の総質量に対し、40〜90質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましく、60〜75質量%がより好ましい。
【0014】
本発明のくん煙剤組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)成分および(B)成分以外の他の成分を含有してもよい。
該他の成分としては、従来、くん煙剤組成物に配合されている各種添加剤が利用でき、たとえば結合剤、燃焼助剤、安定化剤、賦形剤、香料等が挙げられ、これらはそれぞれ公知のものが利用できる。
結合剤としては、一般に使用されるものであればいかなるものでも良く、たとえばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースとそのCa塩およびNa塩、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系化合物;デンプン、α化デンプン、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチNa塩等のデンプン系化合物;アラビアゴム、アルギン酸Na、トラガント、ゼラチン等の天然物系化合物;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子系化合物等が挙げられる。
燃焼助剤としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、尿素、メラミン、メラミン誘導体(工業用メラミン、硝酸メラミン、メラミンホルマリン樹脂など)等が挙げられる。
安定化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、エポキシ化合物(エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油など)等が挙げられる。
賦形剤としては、クレー、タルク、珪藻土、カオリン、ベントナイト、ホワイトカーボン、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0015】
本発明のくん煙剤組成物は、通常、(A)成分、(B)成分、結合剤、さらに必要に応じて各種添加剤を混合して、顆粒状等の固形製剤とされる。
固形製剤の形態としては、顆粒状が好ましいが、薬剤の種類、使用場面、使用する容器形状等に応じて、粉状、タブレット状、棒状、ペースト状等の形態とすることも可能である。
固形製剤の製造方法としては一般的に用いられている方法が利用できる。たとえば顆粒状の製剤(顆粒剤)とする場合は、たとえば押出し造粒法、圧縮造粒法、撹拌造粒法、転動造粒法、流動層造粒法等の、一般的な造粒物の製造方法により製造できる。
押出し造粒法による製造方法の具体例を挙げると、組成物各成分を、ニーダー等により混合し、適量の水を加えて練合し、得られた練合物を、一定面積の開孔を有するダイスを用い、前押し出しあるいは横押し出し造粒機を用い造粒する。該造粒物は、さらにカッター等を用いて一定の大きさに切断し乾燥してもよい。
【0016】
本発明のくん煙剤組成物は、間接的に加熱して使用される。つまり本発明のくん煙剤組成物は、くん煙剤組成物を間接的に加熱するくん煙方法に用いられる。
くん煙剤組成物を間接的に加熱する手段としては、当該組成物を燃焼させることなく該組成物中の(B)成分の熱分解を起こさせ得る温度(熱エネルギー)を当該組成物に供給できるものであればよく、一般的に間接加熱方式のくん煙剤に用いられている手段が利用できる。
かかる手段としては、たとえば、水と接触して発熱する物質を水と接触させ、その反応熱を利用する方法;鉄粉と酸化剤(塩素酸アンモニウム等)との混合、金属と該金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物又は酸化剤との混合など酸化反応を利用する方法等が挙げられる。
水と接触して発熱する物質としては、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化鉄等が挙げられる。
これらの中でも、実用性の点から、水と接触して発熱する物質を水と接触させ、その反応熱を利用する方法が好ましく、なかでも、酸化カルシウムと水との反応熱を利用する方法が好ましい。
【0017】
本発明のくん煙剤組成物を用いてくん煙を行う際の当該くん煙剤組成物の使用量は、(A)成分の種類、くん煙処理を行う空間の容積等に応じて適宜設定すればよい。通常、空間1mあたり、0.2〜2gが好ましく、0.5〜1.5gがより好ましい。
くん煙処理の処理時間(燻煙開始後、当該空間を密閉する時間)は、特に限定されないが、通常、2〜3時間である。
【0018】
上記本発明のくん煙剤組成物およびくん煙方法は、薬剤揮散性に優れており、間接加熱方式によって薬剤を充分に揮散させることができる。そのため、薬剤を高含量で含み、薬剤が揮散しにくい場合でも、たとえばアゾジカルボンアミド等の有機発泡剤やニトロセルロース等の燃焼剤を使用しなくても、間接加熱方式により薬剤を効率良く空気中に揮散させることができる。
また、薬剤を高含量で含む場合以外にも、その組成によっては薬剤の揮散量が低下する場合がある。たとえば、上述したように、アゾジカルボンアミドは、薬剤としてピレスロイド系等、くん煙用途として現在汎用されている殺虫剤を用いる場合には適しているが、それらよりも低揮散性の薬剤(たとえば高沸点並びに低蒸気圧等の薬剤)を用いた場合には、うまく揮散しないおそれがある。本発明は、薬剤揮散性に優れていることから、このような薬剤を用いる場合でも、薬剤を効率良く空気中に揮散させることができる。
また、本発明によれば、上記とは逆に有効成分含量が少ない場合でも、有効成分を分解することなく、効率よく空気中に揮散させることができる。
さらに、本発明のくん煙剤組成物およびくん煙方法は、取扱い上の安全性、使用時の汚染、くん煙ガスの臭気等、実用性の面でも優れている。
これらの効果が得られる理由は、定かではないが、化合物(b1)が、薬剤の揮散に必要な熱を発生する発熱剤として機能するほか、発生する熱量を、薬剤の揮散に適した範囲内に制御する発熱調整剤として機能し、加熱時に発生する熱量を適度な範囲内に維持するためではないかと推測される。
【実施例】
【0019】
以下、実施例、試験例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例、試験例に制約されるものではない。
[実施例1〜7、比較例1〜4]
表1に示す組成のくん煙剤組成物を以下の手順で製造した。ペルメトリンとしては、住友化学株式会社製のエクスミン(商品名)を使用した。表1中、「バランス」は、当該組成物の全量が100質量%となる量を示す。
表1に示す各成分を所定量秤りとり、ニーダーに入れて混合撹拌した後、水を加えて練合し、直径2mmの開孔を有するダイスの前押し出し造粒機を用い造粒した。さらに、この造粒物を所定の長さ(2〜5mm程度)に切断し、70℃に設定した乾燥機により乾燥させて顆粒状のくん煙剤組成物(くん煙顆粒剤)を得た。
【0020】
上記実施例1〜7および比較例1〜4においては、各成分を混合撹拌し、水を加えて練合した際に得られた練合物の状態及び造粒時の成型性を観察して製造適性(造粒性)を評価した。すなわち、練合物が造粒に適した状態であり、成型性が良好な場合を○、練合物にベタツキがあり、造粒しにくい状態である他、造粒時のまとまりが悪く成型性が不良な場合等を△、造粒できない状態である場合を×として評価した。その結果を表1に示す。
【0021】
また、実施例1〜7および比較例1〜4で得られたくん煙顆粒剤を用いて以下の試験例1〜2を行った。
[試験例1:有効成分の揮散率]
くん煙顆粒剤200mgを入れたアルミカップを、約350℃に設定したホットプレート上に置き、くん煙顆粒剤を加熱くん煙させた。このとき発生した煙の全量を、真空ポンプを用いて、クロマト用シリカゲルを充填したガラス管内に通過させ、有効成分(ペルメトリン)をシリカゲルに吸着させた。次いで、吸着した有効成分をアセトンにより溶出、回収し、ガスクロマトグラフ法により定量することにより、捕集した煙中の有効成分量を求めた。
また、くん煙前のくん煙顆粒剤についても、当該顆粒剤中の有効成分量をガスクロマトグラフ法により常法にて求めた。
これらの値から、次式により揮散率(%)を算出した。その結果を表1に示す。
【0022】
【数1】

【0023】
[試験例2:汚染性]
底面が不織布で構成された円筒状の筐体からなる発熱剤充填部と、該発熱剤充填部の内側に配置されたくん煙剤充填部とを備えた加熱用容器を用意し、該容器内のくん煙顆粒充填部にくん煙顆粒剤12.5gを充填し、同容器内の発熱剤充填部に酸化カルシウム37gを充填してくん煙装置を作製した。
次に、縦3.42m×横3.82m×高さ2.40mの試験室内中央に、23mLの水を入れた給水用プラスチック容器を設置し、該プラスチック容器内に前記で作製したくん煙装置を入れ、くん煙を開始させた。くん煙試験は室内を密閉した状態で行い、2時間処理後に、試験室の床面に設置しておいたフローリング板および塩化ビニル板(黒色)を取出し、その表面状態を目視により観察した。このとき、くん煙暴露されていない各板材と比較して、表面状態にほとんど差が確認されない場合を○、若干の汚染は見られるが差が分かり難い場合を△、容易に汚染が判別でき、差が明らかである場合を×とした。その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示すとおり、組成物中に硝酸グアニジンを30〜80質量%含有することにより、有効成分(ペルメトリン)含量が多い場合(実施例1〜3、7)でも、効率よく空気中に揮散させることが可能であることが確認された。同じく有効成分含量が少ない場合(実施例4〜6)でも、有効成分を分解することなく、効率よく空気中に揮散させることが可能であることが確認された。
また、実施例1〜7は、汚染が目立ちやすい黒色の塩化ビニル板については若干の汚染が見られる例もあったが、フローリング板についてはすべての例で汚染がほとんど観察されなかった。
また、ペルメトリンの配合量が30質量%以下の実施例1〜6は、製造適性も良好であった。
一方、アゾジカルボンアミドを主とした発熱性基剤を用いた比較例1〜2は、有効成分の量および発熱性基剤の総量(アゾジカルボンアミドと硝酸グアニジンとの合計量)が同じ実施例1〜3よりも揮散率が大幅に低かった。
また、硝酸グアニジンを85質量%配合した比較例3は、汚染性及び製造適性に問題があった。
また、発熱性基剤としてアゾジカルボンアミドとニトロセルロースとを配合した比較例4は、汚染性が非常に悪かった。
なお、上記で用いたペルメトリンを、ペルメトリンよりも低揮散性の薬剤であるエトフェンプロックス(三井化学株式会社製、トレボン(商品名))に変更したところ、同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明のくん煙剤組成物およびくん煙方法によれば、間接加熱方式により薬剤を効率良く空気中に揮散させることができる。本発明は、特に、(A)成分の含有量が多い場合(たとえば20〜35質量%)や、(A)成分として、比較的揮散させにくい薬剤(たとえば高沸点並びに低蒸気圧等の薬剤)を用いる場合に有用性が高い。
また、本発明のくん煙剤組成物およびくん煙方法は、取扱い上の安全性や使用時の汚染等、実用性の面でも優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の有害生物駆除用薬剤(A)と、少なくとも1種の発熱性基剤(B)とを含有し、間接的に加熱して使用されるくん煙剤組成物であって、
前記発熱性基剤(B)が、グアニジン誘導体および硝酸塩類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(b1)を含有し、
当該くん煙剤組成物中、前記有害生物駆除用薬剤(A)の含有量が0.1〜35質量%であり、前記化合物(b1)の含有量が30〜80質量%であることを特徴とするくん煙剤組成物。
【請求項2】
前記化合物(b1)が硝酸グアニジンである請求項1に記載のくん煙剤組成物。
【請求項3】
前記発熱性基剤(B)が、さらに、有機発泡剤を含有する請求項1または2に記載のくん煙剤組成物。
【請求項4】
前記有機発泡剤がアゾジカルボンアミドである請求項3に記載のくん煙剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のくん煙剤組成物を間接的に加熱することを特徴とするくん煙方法。
【請求項6】
前記加熱を、酸化カルシウムと水との反応熱を利用して行う請求項5に記載のくん煙方法。

【公開番号】特開2009−215181(P2009−215181A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57846(P2008−57846)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】