説明

ころ軸受

【課題】合成樹脂製保持器を備えたころ軸受において、使用時に保持器が大きく膨張して外輪軌道面と接触した場合でも、保持器に破損が生じないようにする。
【解決手段】保持器4の柱部43の外径面43aを、大径側環状部41および小径側環状部42の外周面より凹ませ、保持器4を、両環状部41,42の外周面と外輪2の軌道面2aとの接触で案内する。保持器4の大径側環状部41および小径側環状部42で、外周面と外輪2の軌道面2aとの間隔を同じか略同じにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂製の保持器を備えたころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
円錐ころ軸受は、内輪および外輪の軌道面ところをなす円錐の頂点が、軸受中心軸上の一点に集まるように設計されている。そのため、図4に示すように、円錐ころ軸受の内輪1および外輪2の軌道面1a,2aは軸方向に傾斜し、内輪1の外周面の傾斜した軌道面1aの小径側に小鍔部11が形成され、大径側に大鍔部12が形成されている。
また、ころ3を保持する保持器4は、大径側環状部41と小径側環状部42と両環状部41,42を連結する柱部43とからなり、周方向で隣り合う柱部43と両環状部41,42とで、ころ3を保持するポケット44が形成されている。
特許文献1には、合成樹脂製で図3に示す形状の保持器4を用いた円錐ころ軸受が記載されている。この円錐ころ軸受においては、外輪2の軌道面2aの軸線に対する傾斜角度θ1 が、保持器4の柱部43の外径面の軸線に対する傾斜角度θ2 より大きく形成されている。
【0003】
また、合成樹脂製の保持器4を軸方向に分割する金型(2枚の型板)によって射出成形すると、大径側環状部41側の型板の形状に伴って、図5に示すように、柱部43の外径面431に欠損面432が生じることが記載されている。なお、図4および5に、柱部43の外径面431と欠損面432との角度をθ3 で示す。
特許文献2には、円錐ころ軸受の合成樹脂製保持器に、円錐ころの大径側端面および小径側端面を各端面の中心で支持する突起部を設けることで、円錐ころの端面と保持器との接触部に生じる摩擦抵抗を低減することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−57038号公報
【特許文献2】特開2009−41651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
合成樹脂製保持器を備えた円錐ころ軸受は、合成樹脂の線膨張係数が金属よりも大きいため、高温または高湿条件で使用した場合に、保持器が大きく膨張して外輪軌道面に接触する可能性がある。
その場合、特許文献1および2に記載された形状の保持器では、柱部の外径面が外輪軌道面に接触することになり、柱部が外輪の軌道面ところの転動面との間に挟まれる恐れがある。これに伴って、ころが保持器の柱部に乗り上がると保持器に損傷が生じる可能性がある。
この発明の課題は、合成樹脂製保持器を備えたころ軸受において、使用時に保持器が大きく膨張して外輪軌道面と接触した場合でも、保持器に破損が生じないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明のころ軸受は、外輪および内輪の軌道面が軸方向に傾斜し、内輪の外周面の前記傾斜した軌道面の小径側に小鍔部が形成され、大径側に大鍔部が形成され、大径側環状部と小径側環状部と両環状部を連結する複数の柱部とからなり、周方向で隣り合う柱部と前記両環状部とで、ころを保持するポケットが形成されている合成樹脂製保持器を有するころ軸受であって、前記保持器は、前記柱部の外径面が前記両環状部の外周面より凹み、前記両環状部の外周面と前記外輪の軌道面との接触で案内されることを特徴とする。
【0007】
この発明のころ軸受によれば、保持器が、柱部ではなく、大径側環状部および小径側環状部の外周面と外輪の軌道面との接触により案内される。よって、保持器の柱部が外輪の軌道面と接触せず、外輪の軌道面ところの転動面との間に挟まれることがないため、ころが保持器の柱部に乗り上げることが防止される。
また、前記保持器の大径側環状部および小径側環状部で、外周面と前記外輪の軌道面との間隔を同じか略同じにすることで、保持器外周面の偏摩耗を防止することができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、合成樹脂製保持器を備えたころ軸受において、使用時に保持器が大きく膨張して外輪軌道面と接触した場合でも、保持器に破損が生じないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の第1実施形態に相当する円錐ころ軸受を示す断面図である。
【図2】第1実施形態の円錐ころ軸受を示す構成する保持器の一部を示す斜視図である。
【図3】この発明の第2実施形態に相当する円錐ころ軸受を示す断面図である。
【図4】従来例の円錐ころ軸受を示す断面図である。
【図5】図4の円錐ころ軸受を構成する保持器の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、第1実施形態の円錐ころ軸受は、内輪1、外輪2、円錐状のころ3、および、保持器4からなる。内輪1の外周面の軸方向中央部に、軸方向に傾斜した軌道面1aが形成されている。内輪1の外周面の軸方向両端部には、軌道面1aの小径側に小鍔部11が形成され、大径側に大鍔部12が形成されている。
【0011】
外輪2は、軌道面2aである内周面全体が軸方向に傾斜している。また、外輪2の軸方向寸法が従来品よりも大きく形成されている。よって、保持器4に保持されているころ3は、外輪2の軌道面2aの軸方向両端部を除いた軸方向中央部に実質的に接触する。
保持器4は、大径側環状部41と小径側環状部42と両環状部41,42を連結する柱部43とからなり、周方向で隣り合う柱部43と両環状部41,42とで、ころ3を保持するポケット44が形成されている。保持器4の柱部43の外径面43aが、大径側環状部41および小径側環状部42の外周面より凹んでいる。
【0012】
また、保持器4の大径側環状部41および小径側環状部42で、外周面と外輪2の軌道面2aとの間隔を同じか略同じにしている。すなわち、大径側環状部41および小径側環状部42の外周面に沿ったラインLK と、外輪2の軌道面2aに沿ったラインLG を平行か略平行にしている。
その結果、柱部43の外径面43aと外輪2の軌道面2aとの間隔(ラインLH とLG との距離)が、大径側環状部41および小径側環状部42の外周面と外輪2の軌道面2aとの間隔(ラインLK とLG との距離)より大きくなっている。そのため、保持器4は、大径側環状部41および小径側環状部42の外周面が、外輪2の軌道面2aの軸方向両端部に接触することで案内される。よって、保持器4の柱部43は、外輪2の軌道面2aと接触せず、外輪2の軌道面2aところ3の転動面との間に挟まれることがないため、ころ3が保持器4の柱部43に乗り上げることが防止される。
【0013】
また、保持器4の大径側環状部41および小径側環状部42で、外周面と外輪2の内周面2aとの間隔が同じか略同じになっているため、保持器4の外周面の偏摩耗が防止できる。
さらに、保持器4の柱部43の外径面43aは、小径側環状部42および大径側環状部41の外周面より凹んでいる。外径面43aの小径側環状部42側に傾斜面43bが存在し、大径側環状部41側に傾斜面43cが存在する。また、図2に示すように、柱部43の大径側環状部41側には、図3および4に示す合成樹脂製の保持器4と同様に、欠損面432が存在する。
【0014】
そして、図1に示すように、保持器4の傾斜面43bと小径側環状部42の外周面(ラインLK )とのなす角度αと、柱部43の欠損面432と大径側環状部41の外周面(ラインLK )とのなす角度βとの関係をα≦βに設定している。また、傾斜面43bの最大外径D43b は柱部43の欠損面432の径D432 より小さい。
これにより、保持器4は、図3および4に示す合成樹脂製の保持器4と同様に、軸方向に分割する金型(2枚の型板)を用いた射出成形法で作製することができる。
【0015】
第2実施形態の円錐ころ軸受は、図2に示すように、保持器4の柱部43の内径面43dを第1実施形態の保持器4の内径面43eより径方向内側にずらして、第1実施形態の保持器4よりも柱部43の厚さを厚くしている。それ以外は第1実施形態の円錐ころ軸受と同じである。これにより、第2実施形態の円錐ころ軸受は、第1実施形態の円錐ころ軸受と比較して保持器4の強度が向上できる効果を有する。
【0016】
なお、この発明は、外輪および内輪の軌道面が軸方向に傾斜し、内輪の外周面の前記傾斜した軌道面の小径側に小鍔部が形成され、大径側に大鍔部が形成され、大径側環状部と小径側環状部と両環状部を連結する複数の柱部とからなり、周方向で隣り合う柱部と前記両環状部とで、ころを保持するポケットが形成されている合成樹脂製保持器を有するころ軸受であれば、円錐ころ軸受に相当しないころ軸受にも適用できる。
【符号の説明】
【0017】
1 内輪
1a 軌道面
11 小鍔部
12 大鍔部
2 外輪
2a 軌道面
3 ころ
4 保持器
41 大径側環状部
42 小径側環状部
43 柱部
43a 柱部の外径面
43b 小径側環状部側の斜面
43c 大径側環状部側の斜面
43d 柱部の内径面
43e 柱部の内径面
431 柱部の外径面
432 欠損面
44 ポケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪および内輪の軌道面が軸方向に傾斜し、内輪の外周面の前記傾斜した軌道面の小径側に小鍔部が形成され、大径側に大鍔部が形成され、
大径側環状部と小径側環状部と両環状部を連結する複数の柱部とからなり、周方向で隣り合う柱部と前記両環状部とで、ころを保持するポケットが形成されている合成樹脂製保持器を有するころ軸受であって、
前記保持器は、前記柱部の外径面が前記両環状部の外周面より凹み、前記両環状部の外周面と前記外輪の軌道面との接触で案内されることを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記保持器の大径側環状部および小径側環状部で、外周面と前記外輪の軌道面との間隔を同じか略同じである請求項1記載のころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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