説明

たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜を用いた乳清たんぱくの分離回収方法

【課題】α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン及びラクトフェリン等の乳清たんぱくを、乳清から、熱処理を施すことなく、有効にかつ迅速に分離回収する、工業的に有用な方法を提供することを目的とする。
【解決手段】たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜を用いた乳清たんぱくの分離回収方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜を用いて、乳清(ホエー)から乳清たんぱくを分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛乳には多くの有用なたんぱく質が含有されているが、これらの中でもカゼインを凝固することにより得られるチーズの生産過程で副生する、乳清(ホエー)に含まれる乳清たんぱくは、さまざまな免疫機能を発現することがあることから注目されている。しかしながら、乳清はチーズ生産過程での副生成物であり、かつそこに含まれる各種の乳清たんぱく質を有効に分離することが工業的に容易ではないことから、多くの場合は活用されることなく廃棄されている。
【0003】
乳清たんぱくの中で主要な成分は、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン及びラクトフェリンの3種類であり、これら以外にも血清アルブミン並びに免疫グロブリンであるIgG、IgA、IgMなどが含まれる。α−ラクトアルブミンは腫瘍細胞を致死させる作用があり、気道上部の細菌を殺菌したり、消化管粘膜を保護することに有効である。β−ラクトグロブリンは抗原性が高く、アレルゲンとして作用するため、アレルギー発症防止のために牛乳から除去することが求められることがあるが、一方ではレチナール(ビタミンA)を結合し、腸管からレチナールの取り込みを促進する作用があり、また長鎖脂肪酸への結合性が高いため、単離して機能性たんぱく質としての活用が期待される。ラクトフェリンは腸管から鉄の吸収を収集し、種々の細菌の増殖を抑制する効果があり、好中球などが破壊した菌体から放出された遊離鉄と結合し、組織などの酸化を防止し、免疫担当細胞の免疫応答を調節する作用がある。
そのため、牛乳あるいはチーズ生産の副生物である乳清から乳清たんぱくを工業的に回収、分離することが求められており、多くの試みがなされている。
【0004】
乳清からα−ラクトアルブミンを回収する方法として、特許文献1には乳清のpHを4.0〜7.5に調整した後、85℃以上で熱処理を施し、β−ラクトグロブリンを会合凝集させてから限外濾過膜または精密ろ過膜により、α−ラクトアルブミンを分離回収する方法が記載されている。この方法により凝集したβ−ラクトグロブリンとα−ラクトアルブミンを分離し、α−ラクトアルブミンの含有量が高い溶液を回収する方法が開示されている。
特許文献2には乳清たんぱくを脱塩し、pHと温度を調整することで乳清からα−ラクトアルブミンを凝集回収し、β−ラクトグロブリンを上清液として回収する方法が開示されている。
特許文献3では、乳清をpH4〜6に調整した後に、アニオン交換樹脂に接触させることにより、β−ラクトグロブリンを乳清から除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−236883号公報
【特許文献2】特開平7−123927号公報
【特許文献3】特許第2652260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された方法では、熱処理を用いるためにたんぱく質の変性が生じる可能性があり、またβ−ラクトグロブリンの少量の混入を防ぐことは困難である。また、回収された溶液中のα−ラクトアルブミンの濃度は原液の乳清と同程度の0.1%程度であり、高濃度での回収はできない。上記特許文献2に開示された方法では、高温での熱処理を伴わないためたんぱく質の変性の可能性はないが、工程が多段に渡る事、および遠心分離工程が必要とされることから迅速かつ効率的な処理が困難であり、工業的な乳清たんぱくの分離回収用途としては応用が難しい。上記特許文献3に開示された方法では、β−ラクトグロブリンはアニオン交換樹脂に吸着されるため、高度に除去された乳清を得ることが出来るが、β−ラクトグロブリンとともに、α−ラクトアルブミンも同時に除去され、これらを分離するためには別の分離方法が必要となる。
かかる状況から本発明は、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン及びラクトフェリン等の乳清たんぱくを、乳清から、熱処理を施すことなく、有効にかつ迅速に分離回収する、工業的に有用な方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜を用いることにより、従来チーズ生産などの副産物として生成し、有用な成分を含有しながら、廃棄物として処理されることが多かった乳清(ホエー)から、免疫機能を有するα−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン及びラクトフェリン等の乳清たんぱくを熱処理することなく工業レベルで、効率的かつ迅速に分離回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜を用いた乳清たんぱくの分離回収方法、
2.以下の工程を含む1.に記載の乳清たんぱくの分離回収方法、
(A)乳清を、アニオン交換基又はカチオン交換基を有する多孔膜に透過させることにより、乳清たんぱくの一部を該多孔膜に吸着させ、透過液を回収する工程、
(B)前記多孔膜に吸着した乳清たんぱくを、塩を含む水溶液を通液して溶出回収する工程、
(C)前記工程(A)でカチオン交換基を有する多孔膜を透過した溶液又は、前記工程(B)でアニオン交換基を有する多孔膜から溶出回収した溶液を、疎水性基を有する多孔膜に透過することにより、該溶液中の乳清たんぱくの一部を該疎水性基を有する多孔膜に吸着させ、透過液を回収する工程、
(D)前記疎水性基を有する多孔膜に吸着した乳清たんぱくを、溶出回収する工程。
【0008】
3.前記(A)工程におけるアニオン交換基を有する多孔膜で吸着される乳清たんぱくが、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンであり、
前記(C)工程における疎水性基を有する多孔膜に吸着される乳清たんぱくがβ−ラクトグロブリンである、1.又は2.に記載の乳清たんぱくの分離回収方法。
4.前記(A)工程におけるカチオン交換基を有する多孔膜で吸着される乳清たんぱくがラクトフェリンであり、
前記(C)工程における疎水性基を有する多孔膜に吸着する乳清たんぱくがβ−ラクトグロブリンである、1.又は2.に記載の乳清たんぱくの分離回収方法。
5.アニオン交換基がグラフト鎖を介して表面に固定されている多孔膜を用いた、1.〜3.のいずれかに記載の乳清たんぱくの分離回収方法。
6.カチオン交換基がグラフト鎖を介して表面に固定されている多孔膜を用いた、1.、2.、4.のいずれかに記載の乳清たんぱくの分離回収方法。
7.疎水性基がグラフト鎖を介して表面に固定されている多孔膜を用いた、1.〜4.のいずれかに記載の乳清たんぱくの分離回収方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の乳清たんぱくの分離回収方法を用いることにより、乳清(ホエー)から、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン及びラクトフェリン等の乳清たんぱくを、熱処理を施すことなく工業レベルで、効率的かつ迅速に分離回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施の形態は、たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜を用いた乳清たんぱくの分離回収方法である。たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜はpHおよび塩濃度を制御することにより、たんぱく質の種類によって、選択的な吸着および非吸着の性質を有し、この特性を利用することにより、特定のたんぱく質のみを非吸着な透過成分として回収する、あるいは、特定のたんぱく質のみを吸着し、その後溶出画分として回収することにより、乳清たんぱくを分離回収することができる。
【0011】
本実施の形態における「乳清」とはホエーとも呼ばれ、主に牛乳からカゼインを凝固してチーズを生産した際に、上澄み液として得られる副生物であるが、ヨーグルト生産時あるいはヨーグルトを静置した際に生成する上澄み液も同様に乳清であり、これらに限定されない。
本実施の形態における「乳清たんぱく」とは、乳清中に含まれるα−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、ラクトフェリン、血清アルブミン、免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンA(IgA)、免疫グロブリンM(IgM)、ラクトペルオキシターゼ、リゾチーム等であり、これらの中でも特に、免疫機能を有するα−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン及びラクトフェリンを分離回収の目的たんぱくとすることが好ましい、これらに限定されない。
【0012】
本実施の形態において用いられる「たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜」とは、基材となる多孔質体及びその細孔の表面に、官能基である、アニオン交換基、カチオン交換基、疎水性基が固定されている、多孔膜である。
pH及び塩濃度などの条件を制御することにより、たんぱく質の選択的な吸着あるいは非吸着の性質を発現するものであれば、同一の多孔膜に複数の官能基が固定されていても構わない。
多孔膜の基材は、特に限定はされないが、機械的性質の保持という観点から、ポリオレフィン系重合体から構成されていることが好ましい。ポリオレフィン系重合体の例としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびフッ化ビニリデンなどのオレフィンの単独重合体、前記オレフィンの2種以上の共重合体、または1種もしくは2種以上の前記オレフィンとパーハロゲン化オレフィンとの共重合体などが挙げられる。これらの重合体の2種以上の混合物であってもよい。パーハロゲン化オレフィンの例としては、テトラフルオロエチレンおよびクロロトリフルオロエチレンなどが挙げられる。
これらの中でも、機械的強度に特に優れ、かつ高い吸着容量が得られる素材であるという観点から、多孔膜の基材として、ポリエチレンまたはポリフッ化ビニリデンが好ましく、ポリエチレンがより好ましい。
【0013】
多孔膜の形態は、溶液を通液することが可能な形態であれば特に限定されず、例えば、平膜、不織布、中空糸膜、モノリス、キャピラリー、円板または円筒状などの形態が挙げられる。これらの形態の中でも、製造のし易さ、スケールアップ性、モジュール成型した際の膜のパッキング性などの観点からは、中空糸膜が好ましい。
本実施の形態において、中空糸多孔膜とは、中空部分を有する円筒状または繊維状の多孔膜であり、中空糸の内層と外層が貫通孔である細孔によって連続しており、その細孔によって内層から外層、あるいは外層から内層に、液体または気体が透過する性質を有する多孔体を意味する。中空糸の外径および内径は、物理的に多孔膜が形状を保持することができ、かつモジュール成型可能であれば、特に限定されない。
また、基材となる多孔質体及びその細孔の表面に、グラフト鎖が固定され、さらにグラフト鎖にたんぱく質と相互作用する官能基が固定されている多孔膜を用いると、多孔膜に吸着するたんぱく質の量が増加するため、より好ましい。
【0014】
アニオン交換基の多孔膜への固定の方法は、特に制限されないが、一般に、エポキシまたはアミンのような反応性の高い官能基を多孔膜の基材表面に導入し、その後、該官能基にアニオン交換基を有する化合物を結合させる方法によって行うことができる。
また、上記のアニオン交換基が表面に固定された多孔膜として、例えばセルロースを基材としたSartorius社製のSartobindQ及びSartobindD、ポリエーテルスルホンを基材としたPall社製のMusrangQなど、市販の多孔膜も用いることができる。
カチオン交換基の多孔膜への固定の方法は、特に制限されないが、エポキシまたはアミンのような反応性の高い官能基を多孔膜の基材表面に導入し、その後該官能基にカチオン交換基を有する化合物を結合させる方法によって行うことができる。
また、上記カチオン交換基を有する多孔膜としては、Sartorius社製のSartobindS、またはPall社製のMustangSなど、市販の多孔膜を用いることができる。
疎水性基の多孔膜への固定の方法は、特に制限されないが、エポキシまたはアミンのような反応性の高い官能基を多孔膜の基材表面に導入し、その後、該官能基に疎水性基を有する化合物を結合させる方法によって行うことができる。
また、上記疎水性基を有する多孔膜としては、Sartorius社製のSartobind Phenylなど、市販の多孔膜も用いることができる。
【0015】
官能基がグラフト鎖を介して固定されている多孔膜の製法とその性質は、特許文献及び非特許文献に多数報告されている。例えば特開平2−132132号公報及びJournal of Chromatography A, 689(1995) 211−218に記載されているアニオン交換基がグラフト鎖を介して固定されている多孔膜は、多孔質体およびその細孔の表面にグラフト鎖が固定され、さらに該グラフト鎖にアニオン交換基が固定されていることを特徴とする。このような多孔膜は、アニオン交換基がグラフト鎖を介して、多孔膜表面に固定されていることで、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンの吸着量が著しく増加するため、本実施の形態における乳清たんぱくの分離回収方法に特に好ましく用いることができることを本発明者は見出した。
【0016】
また、特開平2−160845号公報及びBiotechnol. Prog.1994, 10, 76−81に記載されているカチオン交換基がグラフト鎖を介して固定されている多孔膜は、カチオン交換基がグラフト鎖を介して固定されている多孔膜は、多孔質体およびその細孔の表面にグラフト鎖が固定され、さらに該グラフト鎖にカチオン交換基が固定されていることを特徴とする。このような多孔膜は、カチオン交換基がグラフト鎖を介して、多孔膜表面に固定されていることで、ラクトフェリンの吸着量が著しく増加するため、本実施の形態における乳清たんぱくの分離回収方法に特に好ましく用いることができる。
加えてBiotechnol. Prog. 1994, 13, 89−95に記載されている疎水性基がグラフト鎖を介して固定されている多孔膜は、多孔質体およびその細孔の表面にグラフト鎖が固定され、さらに該グラフト鎖に疎水性基が固定されていることを特徴とする。このような多孔膜は、疎水性基がグラフト鎖を介して、多孔膜表面に固定されていることで、β−ラクトグロブリンの吸着量が著しく増加するため、本実施の形態における乳清たんぱくの分離回収方法に特に好ましく用いることができる。
【0017】
アニオン交換基はpH6.0〜8.0において、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンを吸着する性質があれば特に制限されないが、例えば、ジエチルアミノ基(DEA、EtN−)、四級アンモニウム基(Q、R−)、四級アミノエチル基(QAE、R−(CH−)、ジエチルアミノエチル基(DEAE、EtN−(CH−)、ジエチルアミノプロピル基(DEAP、EtN−(CH−)などが挙げられる。ここで、Rは、特に限定されず、同一のNに結合するRが同一または異なっていてもよく、好適には、アルキル基、フェニル基、アラルキル基などの炭化水素基を表す。四級アンモニウム基としては、例えば、トリメチルアミノ基(トリメチルアンモニウム基、Me−)などが挙げられる。多孔膜への化学的な固定が容易であり、高い吸着容量が得られるという観点からは、DEAおよびQが好ましく、DEAがより好ましい。
【0018】
カチオン交換基はpH4.0〜8.0において、ラクトフェリンを吸着する性質があれば特に制限されないが、例えば、スルフォプロピル基(SP、SO−(CH−)、スルホン基(−SOH)、カルボキシル基(COOH−)などが挙げられる。
疎水性基としては0.5M〜1.0Mの塩を含む水溶液中のβ−ラクトグロブリンを吸着する性質があれば特に制限されないが、例えば、フェニル基、オクチル基、ブチル基などが挙げられる。
【0019】
本実施の形態は、上記のたんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜に有用な乳清たんぱくを含む乳清を通液することで、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン及びラクトフェリン等の乳清たんぱくを分離回収する。この際、多孔膜の官能基とたんぱく質との電荷相互作用並びに疎水性相互作用を利用して、上記たんぱく質を選択的に吸着あるいは非吸着することにより、分離回収を行うことが好ましい。このようなたんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔体としては、多孔膜以外にカラムクロマトグラフィーで用いるビーズも使用可能であるが、通液速度が速く、迅速に処理ができることから、多孔膜を用いることが望ましい。
【0020】
電荷相互作用によりたんぱく質の選択的な吸着及び非吸着を制御する場合、そのたんぱく質の等電点(pI)により、分離回収の条件を検討する。例えばα−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン及びラクトフェリン等の乳清たんぱくの場合、それぞれのpIは、α−ラクトアルブミンはpI=4.9、β−ラクトグロブリンはpI=5.1、及びラクトフェリンはpI=8.2〜8.9であり、これより、pH5.0〜8.0のpH範囲においては、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンはアニオン交換膜に選択的に吸着され、一方、ラクトフェリンはカチオン交換膜に選択的に吸着される。また同時に、ラクトフェリンはアニオン交換膜に選択的に非吸着で透過し、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンはカチオン交換膜に選択的に非吸着で透過する。このような電荷相互作用による選択的な吸着、非吸着の性質を利用して、ラクトフェリンのみを、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンから分離することが可能となる。
牛乳のpHはほぼ中性であるが、一般にカゼインを凝固しチーズを生産するには、弱酸性のpH領域において行うため、チーズ生産後に副生する乳清のpHもこのpH範囲にあり、従って電荷相互作用により乳清たんぱくを分離するためには、乳清をpH5.0〜8.0の範囲に調整することが好ましい。この際、pHの調整に用いるアルカリ成分は特に限定しないが、水酸化ナトリウム水溶液により調整するのが容易である。
【0021】
pIの値に差が小さい、α−ラクトアルブミンとβ−ラクトグロブリンを分離するためには、電荷相互作用では達成できないため、疎水性相互作用の差を用いることが好ましい。一般に、グロブリンたんぱく質はアルブミンたんぱく質より疎水性が強く、その傾向はpI近傍でより顕著となる。即ち、pHが4.0〜6.0の範囲にある水溶液中に存在するβ−ラクトグロブリンはα−ラクトアルブミンより、強い疎水性を有することになり、この際水溶液の塩濃度が高いと、β−ラクトグロブリンは疎水性基に吸着することで、よりエントロピー的に自由エネルギーの低い状態になるが、α−ラクトアルブミンは水溶液中に留まることによりエンタルピー的に自由エネルギーの低い状態になることで、それぞれ安定化する。このような疎水性相互作用による選択的な吸着、非吸着の性質を利用して、α−ラクトアルブミンとβ−ラクトグロブリンとを分離することが可能となる。
上記の性質は、官能基が細孔の表面に固定されている多孔膜よりも、官能基がグラフト鎖に固定され、そのグラフト鎖が細孔の表面に固定されている多孔膜の場合により顕著となり、選択的な吸着、非吸着が実現しやすい傾向がある。これは官能基が表面に固定されている前者の場合より、官能基がグラフト鎖を介して多孔膜に固定されている後者の場合の方が、たんぱく質と官能基との吸着点の数が多くなることが理由と考えられる。
【0022】
本実施の形態において、たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜に通液する乳清の液量は、液中に含有される乳清たんぱく質の濃度と、使用する多孔膜の各乳清たんぱくに対する吸着量から適切に決定することができる。
【0023】
本実施の形態において、アニオン交換基又はカチオン交換基を有する多孔膜と疎水性基を有する多孔膜を用いて、乳清たんぱくを分離回収する場合、
(A)乳清を、アニオン交換基又はカチオン交換基を有する多孔膜に透過させることにより、乳清たんぱくの一部を該多孔膜に吸着させ、透過液を回収する工程、
(B)前記多孔膜に吸着した前記乳清たんぱくを、塩を含む水溶液を通液して溶出回収する工程、
(C)前記工程(A)でカチオン交換基を有する多孔膜を透過した溶液又は、前記工程(B)でアニオン交換基を有する多孔膜から溶出回収した溶液を、疎水性基を有する多孔膜に透過することにより、該溶液中の乳清たんぱくの一部を該疎水性基を有する多孔膜に吸着させ、透過液を回収する工程、
(D)前記疎水性基を有する多孔膜に吸着した乳清たんぱくを、溶出回収する工程、
を含む工程を含むことが好ましい。
前記(A)工程においてアニオン交換基を有する多孔膜を用いる場合、当該多孔膜に吸着される乳清たんぱくはα−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンであり、
前記(C)工程において疎水性基を有する多孔膜を用いる場合、当該多孔膜に吸着される乳清たんぱくはβ−ラクトグロブリンである。
【0024】
本実施の形態において、より具体的にアニオン交換基を有する多孔膜と疎水性基を有する多孔膜を用いて、乳清たんぱくを分離回収する場合、まず(a)乳清をアニオン交換基を有する多孔膜に通液し、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンを該多孔膜に吸着させ、ラクトフェリンが高含有量で含まれる透過液を回収する。このとき乳清は好ましくはpH5.0〜8.0、より好ましくはpH6.0〜8.0、さらに好ましくはpH6.0〜7.0に調整する。この工程(a)により、乳清からα−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンが吸着除去され、ラクトフェリンのみが高含有量で含まれる溶液を透過液として回収することが出来る。
【0025】
続いて(b)アニオン交換基に吸着したα−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンを溶出するために、高濃度の塩を含む溶液を該多孔膜に通液し、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンの混合液を溶出液として回収する。溶出に用いる塩は特に限定しないが、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、硫酸アンモニウムから選ばれるいずれかの塩を用いるのが好ましく、塩化ナトリウムあるいは硫酸アンモニウムがより好ましい。また塩濃度は0.5M〜1.0Mが好ましく、より好ましくは0.7M〜1.0Mである。溶出の際の溶液のpHは特に限定しないが、たんぱく質の変性が生じないpH4.0〜8.5が好ましく、より好ましくはpH6.0〜8.0である。
α−ラクトアルブミンとβ−ラクトグロブリンとを分離するために続く工程(c)において、(b)で得られた混合溶液を、疎水性基を有する多孔膜に通液する。このとき混合溶液は、β−ラクトグロブリンの疎水性を高めるために、pH4.0〜6.0に調整する。塩濃度は工程(b)の塩濃度のままで通液する。この工程(c)において、β−ラクトグロブリンは多孔膜の疎水性基に吸着し、α−ラクトアルブミンが高含有量で含まれる透過液が回収される。
【0026】
続いて、工程(d)においてβ−ラクトグロブリンが吸着した疎水性基を有する多孔膜に、pH6.0〜8.5、低い塩濃度である0M〜0.3Mの塩を含む水溶液を通液して、β−ラクトグロブリンが高含有量で含まれる溶出画分を回収する。ここで、塩の種類は特に限定しない。
以上(a)から(d)の工程により、アニオン交換基を有する多孔膜及び疎水性基を有する多孔膜を用いて、乳清から有用な乳清たんぱくである、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン及びラクトフェリンを、分離回収することが出来る。
【0027】
一方、本実施の形態において、カチオン交換基を有する多孔膜と疎水性基を有する多孔膜を用いて、乳清たんぱくを分離回収する場合、まず(a’)乳清をカチオン交換基を有する多孔膜に通液し、ラクトフェリンを該多孔膜に吸着させ、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンが高含有量で含まれる透過液を回収する。このとき乳清は好ましくはpH5.0〜8.0、より好ましくはpH6.0〜8.0、さらに好ましくはpH6.0〜7.0に調整する。
【0028】
続いて(b’)カチオン交換基に吸着したラクトフェリンを溶出するために、高濃度の塩を含む溶液を該多孔膜に通液し、これらのたんぱくの混合液を溶出液として回収する。溶出に用いる塩は特に限定しないが、塩化ナトリウムを用いるのが好ましい。また塩濃度は0.3M〜1.0Mが好ましく、より好ましくは0.5M〜1.0Mである。溶出の際の溶液のpHは特に限定しないが、たんぱく質の変性が生じないpH4.0〜8.5が好ましく、より好ましくはpH6.0〜8.0である。
α−ラクトアルブミンとβ−ラクトグロブリンとを分離するために続く工程(c’)において、(a’)で得られた混合溶液を、疎水性基を有する多孔膜に通液する。このとき混合溶液は、β−ラクトグロブリンの疎水性を高めるために、pH4.0〜6.0、0.5M〜1.0Mの塩を含む水溶液に調整する。用いる塩は塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、硫酸アンモニウムから選ばれるいずれかの塩を用いるのが好ましく、硫酸ナトリウムあるいは硫酸アンモニウムがより好ましい。(c’)において、β−ラクトグロブリンは多孔膜の疎水性基に吸着し、α−ラクトアルブミンが高含有量で含まれる透過液が回収される。
【0029】
続いて、工程(d’)においてβ−ラクトグロブリンが吸着した疎水性基を有する多孔膜に、pH6.0〜8.5、低い塩濃度である0M〜0.3Mの塩を含む水溶液を通液して、β−ラクトグロブリンが高含有量で含まれる溶出画分を回収する。ここで、塩の種類は特に限定しない。
以上(a’)から(d’)の工程により、カチオン交換基を有する多孔膜及び疎水性基を有する多孔膜を用いて、乳清から有用な乳清たんぱくである、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン及びラクトフェリンを、分離回収することが出来る。
また、分離回収して得られた乳清たんぱくは、一般にクロマトグラフィーの原理を用いて、必要に応じてさらに高純度に精製することが出来る。例えば工程(a)により得られたラクトフェリンの回収液中には微量のリゾチームが含まれる場合があり、その除去のために、トランスフェリン回収液をpH9に調整して、カチオン交換基への吸着が発現しないような条件にした上で、カチオン交換基を有する多孔膜あるいはカチオン交換クロマトグラフィーカラムに通液してリゾチームのみを吸着除去し、透過液を回収することにより、より高度に精製されたラクトフェリンを得ることが出来る。
【実施例】
【0030】
以下、参考例、実施例に基づいて本実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例のみに限定されない。
【0031】
[参考例1] たんぱく質と相互作用する官能基がグラフト鎖を介して表面に固定された多孔膜モジュールの作成
(i)中空糸多孔膜へのグラフト鎖の導入
外径3.0mm、内径2.0mm、下記(viii)に記載のバブルポイント法で測定した最大細孔径が0.3μmのポリエチレン製中空糸多孔膜を密閉容器に入れて、容器内の空気を窒素で置換した。その後、容器の外側からドライアイスで冷却しながら、γ線200kGyを照射し、ラジカルを発生させた。得られたラジカルを有するポリエチレン製中空糸多孔膜をガラス反応管に入れて、200Pa以下に減圧することにより、反応管内の酸素を除いた。ここに40℃に調整したグリシジルメタクリレート(GMA)3体積部、メタノール97体積部よりなる反応液を、中空糸多孔膜の20質量部に注入した後、12分間密閉状態で静置してグラフト重合反応を施し、中空糸多孔膜にグラフト鎖を導入した。なお、GMAおよびメタノールよりなる反応液は予め窒素でバブリングして、反応液内の酸素を窒素置換した。
【0032】
グラフト重合反応後、反応管内の反応液を捨てた。次いで、反応管内にジメチルスルホキシドを入れて中空糸多孔膜を洗浄することにより、残存したグリシジルメタクリレート、そのオリゴマーおよび中空糸多孔膜に固定されなかったグラフト鎖を除去した。洗浄液を捨てた後、さらにジメチルスルホキシドを入れて2回洗浄を行った。次いでメタノールを用いて同様にして洗浄を3回行った。洗浄後の中空糸多孔膜を乾燥し、重量を測定したところ、中空糸多孔膜の重量はグラフト鎖導入前の138%であり、基材重量に対するグラフト鎖の重量の比として定義されるグラフト率は38%であった。
【0033】
(ii)アニオン交換基(3級アミノ基)のグラフト鎖への固定
乾燥したグラフト鎖を導入した中空糸多孔膜をメタノールに10分以上浸漬して膨潤させた後、純水に浸漬して水置換した。ジエチルアミン50体積部、純水50体積部の混合溶液よりなる反応液を、ガラス反応管にグラフト反応後の中空糸多孔膜に対して20質量部を入れ、30℃に調整した。ここにグラフト鎖を導入した中空糸多孔膜を挿入し、210分間静置して、グラフト鎖のエポキシ基をジエチルアミノ基に置換することにより、アニオン交換基としてジエチルアミノ基を有する中空糸多孔膜を得た。得られた中空糸多孔膜は外径3.3mm、内径2.1mmであり、中空糸多孔膜においてグラフト鎖の有するエポキシ基の80%がジエチルアミノ基によって置換されていた。
置換率Tはエポキシ基のモル数Nのうち、ジエチルアミノ基に置換されたモル数Nとして下記式(I)を用いて算出した。
【0034】
T=100×N/N
=100×{(w−w)/M}/{w(dg/(dg+100))/M
・・・(I)
【0035】
式(I)中、Mはジエチルアンモニウムの分子量(73.14)、wはグラフト重合反応後の中空糸多孔膜の重量、wはジエチルアミノ基置換反応後の中空糸多孔膜の重量、dgはグラフト率、MはGMAの分子量(142)である。
【0036】
(iii)カチオン交換基(スルホン基)のグラフト鎖への固定
乾燥したグラフト鎖を導入した中空糸多孔膜をメタノールに10分以上浸漬して膨潤させた後、純水に浸漬して水置換した。亜硫酸ナトリウム10質量部、2−プロパノール15質量部、純水75質量部の混合溶液よりなる反応液を、ガラス反応管にグラフト反応後の中空糸多孔膜に対して20質量部を入れ、80℃に調整した。ここにグラフト鎖を導入した中空糸多孔膜を挿入し、10分間静置して、グラフト鎖のエポキシ基をスルホン基に置換することにより、カチオン交換基としてスルホン基を有する中空糸多孔膜を得た。得られた中空糸多孔膜は外径3.3mm、内径2.1mmであり、中空糸多孔膜においてグラフト鎖の有するエポキシ基の3%がスルホン基によって置換されていた。
置換率Tはエポキシ基のモル数Nのうち、スルホン基に置換されたモル数Nとして下記式(II)を用いて算出した。
【0037】
T=100×N/N
=100×{(w−w)/M}/{w(dg/(dg+100))/M
・・・(II)
【0038】
式(II)中、Mは亜硫酸ナトリウムの分子量(103.05)、wはグラフト重合反応後の中空糸多孔膜の重量、wはスルホン基置換反応後の中空糸多孔膜の重量、dgはグラフト率、MはGMAの分子量(142)である。
【0039】
(iv)疎水性基(フェニル基)のグラフト鎖への固定
乾燥したグラフト鎖を導入した中空糸多孔膜をメタノールに10分以上浸漬して膨潤させた後、純水に浸漬して水置換した。アニリン3質量部、水酸化ナトリウム0.4質量部、純水97質量部の混合溶液よりなる反応液を、ガラス反応管にグラフト反応後の中空糸多孔膜に対して20質量部を入れ、30℃に調整した。ここにグラフト鎖を導入した中空糸多孔膜を挿入し、20時間静置して、グラフト鎖のエポキシ基をフェニル基に置換することにより、疎水性基としてフェニル基を有する中空糸多孔膜を得た。得られた中空糸多孔膜は外径3.3mm、内径2.1mmであり、中空糸多孔膜においてグラフト鎖の有するエポキシ基の78%がフェニル基によって置換されていた。
置換率Tはエポキシ基のモル数Nのうち、フェニル基に置換されたモル数Nとして下記式(III)を用いて算出した。
【0040】
T=100×N/N
=100×{(w−w)/M}/{w(dg/(dg+100))/M
・・・(III)
【0041】
式(III)中、Mはアニリンの分子量(93.13)、wはグラフト重合反応後の中空糸多孔膜の重量、wはフェニル基置換反応後の中空糸多孔膜の重量、dgはグラフト率、MはGMAの分子量(142)である。
【0042】
(v)たんぱく質と相互作用する官能基がグラフト鎖を介して固定された中空糸多孔膜モジュールの作製
(ii)〜(iv)で得られた、アニオン交換基、カチオン交換基及び疎水性基をグラフト鎖を介して固定した、それぞれの中空糸多孔膜3本ずつを束ね、中空糸多孔膜の中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をポリスルホン酸製モジュールケースに固定して、それぞれの官能基がグラフト鎖を介して固定された、3種類の中空糸多孔膜モジュールを作製した。得られたモジュールの内径は0.9cm、長さは約3.3cm、モジュールの内容積は約2mL、モジュール内に占める中空糸多孔膜の有効体積は0.85mL、中空部分を除いた中空糸多孔膜のみの体積は0.53mLであった。これらの得られたモジュールを純水200mLを通液して洗浄し、それぞれアニオン交換膜モジュール、カチオン交換膜モジュール及び疎水性膜モジュールとして、以下の実施例等において、評価モジュールとして用いた。
【0043】
(vi)乳清(ホエー)の作成
市販の未加工牛乳1Lを65℃にて30分間静置し殺菌した後、室温にまで冷却し、そこに攪拌しながら乳酸を加えてpH5.0に調整し、攪拌を停止してそのまま60分間静置した。牛乳中のカゼインが凝固したチーズ成分を濾紙(ワットマン製、40)で濾すことによって取り出し、濾紙を通過した乳清をさらに0.45μmの精密ろ過膜(ザルトリウス製、ミニザルトプラスSW17829K)によって濾過することにより、清澄な乳清を得た。
(vii)ゲルろ過クロマトグラフィーによる乳清たんぱくの同定と定量
GEヘルスケアバイオサインス社製、AKTAexplorer100にゲルろ過カラムとして、GEヘルスケアバイオサイエンス社製、Hiprep 16/60 Sephacryl S−200HRを取り付け、サンプル添加量1mL、バッファーとして50mMリン酸ナトリウムpH7.0を用いて、流速0.5mL/minで通液することにより分子量分画した。
【0044】
(viii)バブルポイント法 基材としての中空糸多孔膜の最大細孔径を、バブルポイント法を用いて測定した。長さ8cmの中空糸多孔膜の一方の末端を閉塞し、他方の末端に圧力計を介して窒素ガス供給ラインを接続した。この状態で窒素ガスを供給してライン内部を窒素に置換した後、中空糸多孔膜をエタノールに浸漬した。この時、エタノールがライン内に逆流しないように極僅かに窒素で圧力をかけた状態で、中空糸多孔膜を浸漬した。中空糸多孔膜を浸漬した状態で、窒素ガスの圧力をゆっくりと増加させ、中空糸多孔膜から窒素ガスの泡が安定して出始めた圧力Pを記録した。これより、最大細孔径をd、表面張力をγとして、下記式(V)に従って、中空糸多孔膜の最大細孔径を算出した。
【0045】
d=Cγ/P・・・(IV)
【0046】
式(IV)中、Cは定数である。エタノールを浸漬液としたときのCγ=0.632(kg/cm)であり、上式にP(kg/cm)を代入することにより、最大細孔径d(μm)を求めた。
【0047】
[実施例1]
(vi)で得られた乳清200mLをpH7.5に調整した後、(v)で作成したアニオン交換膜モジュールに通液し、透過液を回収した(工程(a))。得られた回収液を(vii)に従いゲルろ過クロマトグラフィーにより分析したところ、ラクトフェリンに相当する分子量83000の位置に最も強いピークが現れ、ピーク面積から透過液中の全たんぱく質の93%がラクトフェリンでることが確認された。
続いてアニオン交換膜モジュールに0.7Mの塩化ナトリウムを含む50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH5.0を20mL通液し、アニオン交換膜モジュールに吸着したたんぱく質を溶出回収した(工程(b))。得られた溶出液を疎水性膜モジュールに通液して透過液を回収し(工程(c))、これを(vii)に従ってゲルろ過クロマトグラフィーによる分析を行ったところ、α−ラクトアルブミンに相当する分子量14200の位置に最も強いピークが現れ、ピーク面積から透過液中の全たんぱく質の95%がα−ラクトアルブミンであることが確認された。
【0048】
次に疎水性膜モジュールに50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0を20mL通液し、吸着したたんぱく質を溶出した(工程(d))。これを(vii)に従ってゲルろ過クロマトグラフィーによる分析を行ったところ、β−ラクトグロブリンに相当する分子量18300の位置に最も強いピークが現れ、ピーク面積から全たんぱく質の89%がβ−ラクトグロブリンであることが確認された。
【0049】
[実施例2]
(vi)で得られた乳清200mLをpH7.0に調整した後、(v)で作成したカチオン交換膜モジュールに通液し、透過液を回収した(工程(a’))。続いて、0.7Mの塩化ナトリウムを含む20mM Trisバッファー、pH8.0を20mL通液し、カチオン交換膜モジュールに吸着したたんぱく質を溶出回収した(工程(b’))。得られた回収液を(vii)に従いゲルろ過クロマトグラフィーにより分析したところ、ラクトフェリンに相当する分子量83000の位置に最も強いピークが現れ、ピーク面積から透過液中の全たんぱく質の95%がラクトフェリンでることが確認された。
【0050】
次に工程(a’)において得られたカチオン交換膜モジュールの透過回収液に硫酸アンモニウムを濃度が0.7Mとなるように添加し、pH5.0に調整した。これを疎水性膜モジュールに通液し、透過液を回収した(工程(c’))。得られた回収液を(vii)に従ってゲルろ過クロマトグラフィーによる分析を行ったところ、α−ラクトアルブミンに相当する分子量14200の位置に最も強いピークが現れ、ピーク面積から透過液中の全たんぱく質の91%がα−ラクトアルブミンであることが確認された。
次に疎水性膜モジュールに50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH7.0を20mL通液し、吸着したたんぱく質を溶出した(工程(d’))。これを(vii)に従ってゲルろ過クロマトグラフィーによる分析を行ったところ、β−ラクトグロブリンに相当する分子量18300の位置に最も強いピークが現れ、ピーク面積から全たんぱく質の87%がβ−ラクトグロブリンであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のたんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜による、乳清たんぱくの分離回収方法によって、通常は廃棄されるチーズ生産後の乳清などから、有用な乳清たんぱくを効率的に、高い精度で分離回収されるという産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
たんぱく質と相互作用する官能基を有する多孔膜を用いた乳清たんぱくの分離回収方法。
【請求項2】
以下の工程を含む請求項1に記載の乳清たんぱくの分離回収方法、
(A)乳清を、アニオン交換基又はカチオン交換基を有する多孔膜に透過させることにより、乳清たんぱくの一部を該多孔膜に吸着させ、透過液を回収する工程、
(B)前記多孔膜に吸着した乳清たんぱくを、塩を含む水溶液を通液して溶出回収する工程、
(C)前記工程(A)でカチオン交換基を有する多孔膜を透過した溶液又は、前記工程(B)でアニオン交換基を有する多孔膜から溶出回収した溶液を、疎水性基を有する多孔膜に透過することにより、該溶液中の乳清たんぱくの一部を該疎水性基を有する多孔膜に吸着させ、透過液を回収する工程、
(D)前記疎水性基を有する多孔膜に吸着した乳清たんぱくを、溶出回収する工程。
【請求項3】
前記(A)工程におけるアニオン交換基を有する多孔膜で吸着される乳清たんぱくが、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンであり、
前記(C)工程における疎水性基を有する多孔膜に吸着される乳清たんぱくがβ−ラクトグロブリンである、請求項1又は2に記載の乳清たんぱくの分離回収方法。
【請求項4】
前記(A)工程におけるカチオン交換基を有する多孔膜で吸着される乳清たんぱくがラクトフェリンであり、
前記(C)工程における疎水性基を有する多孔膜に吸着する乳清たんぱくがβ−ラクトグロブリンである、請求項1又は2に記載の乳清たんぱくの分離回収方法。
【請求項5】
アニオン交換基がグラフト鎖を介して表面に固定されている多孔膜を用いた、請求項1〜3のいずれかに記載の乳清たんぱくの分離回収方法。
【請求項6】
カチオン交換基がグラフト鎖を介して表面に固定されている多孔膜を用いた、請求項1、2、4のいずれかに記載の乳清たんぱくの分離回収方法。
【請求項7】
疎水性基がグラフト鎖を介して表面に固定されている多孔膜を用いた、請求項1〜4のいずれかに記載の乳清たんぱくの分離回収方法。

【公開番号】特開2010−193833(P2010−193833A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44646(P2009−44646)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】