説明

ねじ溝内の金属切削屑を捕獲でき且つ雄ねじを雌ねじ溝に固着できる被覆材層の形成に用いる雄ねじ溝塗着用組成物とその応用

【課題】 部材(ワークピース)に予じめ設けた雌ねじ溝なしの下穴に雄ねじをねじ込む時に、雄ねじを円滑にねじ込みできる上に、その時に発生する切削成形屑などが下穴下方の開孔部を落下して脱落するのを防止できる作用・機能をもつと共に、ねじの締付け後は、振動、衝撃に抗する高い戻しトルクを維持できて緩みを止める固着力を発揮できる性能を持つ雄ねじを作製する。
【解決手段】 感圧性接着剤として配合される弾性体(エラストマー)と、エポキシ樹脂用の硬化剤とを、含有するか、もしくは粘弾性を示してエラストマーとして作用でき且つエポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤としても作用できるポリアミドと粘着付与剤とを含有するところの有機溶媒溶液または含水エマルジョン液中に、液状潤滑剤のみを内包するマイクロカプセルとエポキシ樹脂系接着剤を内包するマイクロカプセルとを分散させて作られる粘稠な粘着性分散液の形の液状組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感圧接着剤用のエラストマー、もしくは該エラストマーと粘着性付与剤との両者をエポキシ接着剤用硬化剤と共に粘着性の有機溶液中または粘着性の水性分散液中に含み且つエポキシ接着剤内包のマイクロカプセルと潤滑財内包のマイクロカプセルとを分散状態で含むねじ溝塗着用液状組成物であって、各種の装置でそれぞれの部材を組立てるのに用いられる雄ねじのねじ溝に塗着でき、しかも金属屑片を結着して取り込み、捕獲できる被覆材層をねじ山のフランク面、溝谷底に形成することのできる性質をもち、しかも雄ねじを締付け挿設した後には雄ねじを雌ねじ溝面に固着できる性質をもつ雄ねじ溝に塗着用の液状組成物に関する。
【0002】
詳しくは、この発明の第1の発明は、電子回路を保有する電子機器などの各種の機器を含めて、各種の用途の装置を組立てるのに用いる構成要素を構成する、もしくは取付け用部品を構成する軽金属または軽合金製の比較的軟質な部材(ワークピースとも言う)について、部材(ワークピース)の2個を互いに結合する際に、もしくは部材に、取付け用の別の付属部品または他の取付け部品を取付けて固定する際に、結合の手段として雄ねじを用いる場合に、比較的軟質な該部材(ワークピース work piece)を貫通するように該部材に予じめ開孔されたねじ溝無し素通しに貫通した下穴内に、別個の部材、もしくは該取付け用の付属部品または他の取付け用部品に予じめ開孔させた穴を通して、有頭のタッピングねじ(雄ねじ)をねじ込み、該タッピングねじの回動と前進との螺入により該下穴に雌ねじ溝を切削、成形しながらタッピングねじを螺入させ、そして締込みして挿設し、これにより、1個の部材(ワークピース)(加工体または加工物ともいう)に別個の部材、もしくは取付け用の付属部品または他の取付け用部品を取付け、その雄ねじで固定し締め付けて締結することから成る2個の部材の締結技術またはその他の締結技術において用いられるところの雄ねじであって、該雄ねじのねじ溝の溝谷底部と溝山フランク面に塗着できる性質をもつと共に、挿設後の雄ねじの緩みを防止する機能をもつねじ溝塗着用の新規な粘稠な粘着性の液状組成物に関する。
【0003】
しかも、第1の発明に係るねじ溝塗着用の液状組成物は、概略的に言えば、感圧接着剤の主成分として常用されるエラストマー物質と、エポキシ接着剤(詳しくは、エポキシ樹脂系の反応性接着剤)の硬化に用いられて反応性アミノ基をもつ硬化剤との両者、あるいは該エラストマーと該硬化剤と粘着性付与剤との三者を有機溶媒に溶かして作られた粘着性の有機溶液の中に、もしくは該エラストマー物質と該硬化剤との両者、あるいは該エラストマー物質と該硬化剤と該粘着性付与剤との三者を水性媒質の中に分散して作られた粘着性の水性エマルジョンまたは水性分散液の中に、潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、エポキシ接着剤内包のマイクロカプセルとを均一に分散させることにより形成された粘稠で接着性の液状混合物の形のものである。
【0004】
さらに、本発明の第2の発明は、第1の発明に係るねじ溝塗着用液状組成物と同様の用途、性質および機能をもつ組成物であるが、概略的に言えば、エポキシ接着剤の硬化に用いられて反応性アミノ基をもつ硬化剤として、該エポキシ接着剤に反応できて且つ粘弾性をもつ即ちエラストマー性質をもつポリアミドよりなるエラストマー物質と粘着性付与剤との両者を有機溶媒に溶かして作られる粘着性の有機溶液の中に、もしくは該ポリアミド・エラストマー物質と該粘着性付与剤との両者を水性媒質の中に分散させて作られる粘着性の水性エマルジョンまたは水性分散液の中に、前記の潤滑剤内包のマイクロカプセルと前記のエポキシ接着剤内包のマイクロカプセルとを均一に分散させることにより形成された粘稠で粘着性の液状混合物の形である、ねじ溝塗着用の液状組成物に関する。
【0005】
本発明の第1の発明と第2の発明とに係るねじ溝塗着用の粘稠な液状組成物をねじ溝内に塗着した塗着層を乾燥または半乾燥すると、固体状または半固体状の被覆材層がねじ溝の溝谷底部とフランク面を含めてねじ溝内に形成でき、かかる被覆材層をねじ溝内に設けられた雄ねじは、これを前記の部材(ワークピース)内に貫通するよう予じめ開孔された溝無しの素通し貫通した下穴にねじ込む時に、潤滑剤成分の作用に基づき、該雄ねじを下穴中に円滑に小さい締込みトルク力でねじ込むことができる利点をもち、その上に、ねじ込み螺入の作業中に下穴にタッピングで切削、成形される雌ねじ溝の壁から剥離されて発生する切削成形屑片、または他の原因で下穴の雌ねじ溝に在る固形屑を、粘着し結合し、取り込み、捕獲できる機能を発揮できるものであり、その機能によって、該成形屑片または他の原因の固形屑が下穴の下方に残る開孔部内を落下して下穴の出口から脱落、飛散することを防止できる効果を前記の被覆材層の働きにより奏することができる利点を有する。更に、本発明の粘稠な液状組成物を塗着、乾燥して形成された被覆材層をもつ雄ねじは、雄ねじの挿設後にその被覆材層中のエポキシ接着剤が共存の硬化剤硬化反応を起こすので硬化して雌ねじ溝に固着でき、ねじの緩み止め効果を十分に発揮することができる利点も有している。
【0006】
さらに、本発明に係わる第3〜第6の発明は、本発明の第1または第2の発明の前記のねじ溝塗着用の粘稠な液状組成物の塗着層を乾燥することでそれぞれ形成された前記の固体状または半固体状の被覆材層をねじ溝内に有すると共に、所望に応じて、カップリング剤よりなる下地被覆層をも有し得ることを特徴とするねじに関する。
【背景技術】
【0007】
最近、パソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、ミニディスク等の電子機器を成す装置を組立てるのに用いる構成要素として、基板、支持枠、ハウジングまたはその他の部品などを成す部材(ワークピース)、あるいはこれに取付ける取付け用の部品の構成材料は、軽量化とリサイクル性を配慮して軽合金、たとえばアルミニウム合金、マグネシウム合金が使用されている。これらの軽合金製の前記部材(ワークピース)の2個を互いに結合して固定する時、もしくは該部材への取付け用の別の付属部品または他の取付け用部品を取付けて固定する時には、締結手段としてねじが使用されることが多い。この場合、互いに結合される2個の部材のうちの一方の部材の中に、または取付け用の付属部品または取付け用の他の部品が取付けられるべき部材(ワークピース)の中に、溝なしの素通し貫通の下穴を予じめ開孔してから、有頭タッピングねじを、片方の部材の中に設けた、または取付け用の付属部品または他の部品の中に設けた1つのねじ溝なしに開孔した穴を通して該部材中の下穴にねじ込み、締め込み、下穴壁面に雌ねじ溝をタッピングで切削成形しながら、タッピングねじをねじ込み挿設することによって、2個の部材を結合するか、または取付け用部品を部材(ワークピース)に取り付けて固定することよりなる締結方法が一般的に行われている。
【0008】
このような締結方法では、有頭タッピングねじを前記部材(ワークピース)の貫通した下穴にねじ込み、下穴に雌ねじ溝を切削、成形しながら締め込むことによって、該ねじで該部材に取付け用部品を取付けて固定するに当って、または2個の部材を結合するに当たって、タッピングねじのねじ込み時の剪断力と摩擦力と降伏点をこえて起る部材(ワークピース)下穴周壁の変形とにより下穴で雌ねじ溝の切削成形が行われる。このため、該部材(ワークピース)の下穴の周壁から摩擦粉や切削成形の剥離片として切削成形屑が発生し、これが脱離して該部材の下穴の下部に残る開孔部内を落下して下穴の出口から脱落したり、飛散したりして電子機器の作動部内に入り込む。また、一旦締め込んだタッピングねじを取りはずす時には、ねじ溝谷、ねじ山に付着して残った切削成形屑または他の固形屑が脱落し落下することがある。これら成形屑または他の固形屑が電子機器の電子回路のプリント基板上に落下すると電子回路がショートすることになり、電子機器全体の装置の機能を故障または破壊させる障害が起る恐れがある。
【0009】
前記したように、各種の装置の構成要素をなす部材(ワークピース)に貫通するように開孔したねじ溝なし下穴に、別個の部材もしくは取付け用部品に設けた貫通開孔の穴を通して、有頭タッピングねじ(雄ねじ)をねじ込みながら、下穴に雌ねじ溝を切削および成形する作業を行う場合には、発生する切削成形屑または磨耗粉が前記部材中を貫通していて雌ねじ溝成形を受けた下穴の下方に残る開孔部内を落下して脱落、飛散する有害な現象が起り、これにより、脱落した切削成形屑または他の固形屑が装置の作動部に侵入すると、装置の機能に前記した種々な障害が生ずる。
【0010】
このように有頭タッピングねじのねじ込みの作業の際に、1個の部材または取付け用部品を、装置の各種の構成要素をなす部材(ワークピース)に予じめ貫通して開孔させた溝なし下穴中に有頭タッピングねじをねじ込むことで発生した前記の切削成形屑または他の固形屑が雌ねじ溝成形を受けた前記下穴の下方の開孔部内を落下して脱落、飛散する前記の有害な現象を防止できる技術を開発することが一つの第1の技術的課題として要望されており、このことは、従来、知られている。
【0011】
もう一つの第2の技術的課題は、パソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、ミニディスク等の電子機器が携帯用である場合が多く、振動、衝撃等を受けることが多いが、その締結部材として一旦挿設したねじが振動、衝撃により巻き戻って緩む場合もあるから、挿設されたねじは高い緩み止め防止機能をもつことが要望されている点である。
【0012】
前記の第1の課題の解決を計る一つの手段として、前記の部材(ワークピース)中の下穴を前記の切削成形屑または他の固形屑が落下、脱落する現象を防止できる機能をもつ被覆材をねじ溝内に有するタッピングねじが提案された。これの一例として、エボキシ系接着剤を内包するマイクロカプセルを含む樹脂質接着剤の塗布層を、タッピングねじのねじ溝付きねじ脚部に設けたねじ山フランク面およびねじ溝の溝谷底部を覆う被覆層の形で設けてあるところの雌ねじ成形タッピングねじが知られる(特許文献1:特開2002-70824号公報)。
【0013】
特許文献1の明細書の段落[0009]および[0012]の記載によれば、前記の雌ねじ成形タッピングねじのねじ山フランク面と溝谷底部に付着した樹脂質接着剤の塗布層は、マイクロカプセルに封入されたエポキシ系接着剤を主成分とする接着性物質から成るものである。そして、該ねじを装置部材(ワークピース)の溝なし下穴にねじ込み、雌ねじを切削成形する時に生じる圧力により該マイクロカプセルを破壊させ、放出されたエポキシ系接着剤で接着効果を発揮させると記載される。このように発揮された接着効果により、雌ねじ溝成形時の切削成形屑をねじ山に接着、保持させる作用効果が奏せられると特許文献1の明細書に記載される。
【0014】
しかしながら、前記のマイクロカプセルに封入されたエポキシ系接着剤は、マイクロカプセルの破壊により樹脂質接着剤の塗布層内に放出されて該塗布層内を浸透すると推測されるけれども、その浸透は瞬時に起ることができるとは想定できない。従って、マイクロカプセル破壊後のエポキシ系接着剤を主成分とした樹脂質接着剤の塗布層は、その層全体としては、タッピングねじのねじ込み作業中の間には、十分に有効な接着作用を急速に獲取できず発揮できない性質をもつものであり、それ故に、ねじ込み作業中に、発生した切削成形屑の全部を落下、脱落しないように完全に防止するために完全に接着、保持、捕獲できる能力を発揮できない欠陥を有する。
【0015】
更に、特許文献1に記載のねじでは、エポキシ系接着剤は単に粘着機能を得るためにのみ用いられており、別途に硬化剤が配合されてないから雌ねじ溝に固着する機能を発揮できるものではない。
【0016】
また、別の例としては、タッピングねじのねじ山付き脚部のねじ山を含むねじ溝のフランク面と溝谷底部が覆われるように、40〜100センチポアズ(mPa・s)以内の粘度をもつ吸収・吸着剤を主成分として内包するマイクロカプセルを含有する被覆材が塗布されてある雌ねじ成形屑吸着ねじが知られる(特許文献2:特開2002-257121号公報と特許文献3:特開2002-257120号公報)。特許文献2の特許出願(特願2001-398032号)は特許文献3の特許出願(特願2001-55646号)の分割出願である。
【0017】
特開2002-257121号公報明細書(特許文献2)の段落[0006]、[0009]、[0017]の記載によれば、前記の雌ねじ成形屑吸着ねじに設けた被覆材は、主成分としての吸収・吸着剤と、該吸収・吸着剤を接合する接着剤とから成る溶液であって、しかも長時間の流動性(濡れ性)を有する液状の前記溶液を内包するマイクロカプセルを含有すると記載される。その主成分としての吸収・吸着剤とは、40〜100 mPa・sの高い粘度をもち、100℃以下の外気温で流動性(濡れ性)を長時間維持する性状の液体であると特許文献2の明細書に定義されてあるけれども、そのような性状の液体を構成する具体的な化学物質の例は全く明示されていない。
【0018】
前記の被覆材がねじ脚部に塗布された雌ねじ成形屑吸着ねじを、装置部材(ワークピース)の下穴にねじ込み、雌ねじ切削成形時に生じる圧力によりマイクロカプセルが破壊されると、吸収・吸着剤がマイクロカプセルから漏れだし、切削成形屑がねじ山に吸着されて保持される作用が奏せられる旨の説明が特許文献2の明細書に記載される。ここで切削成形屑が吸着・吸収されると記載されるけれども、その「吸着・吸収される」と表現される現象の意味は該明細書の中で一義的に明確に定義されてない。
【0019】
さらに、別例としては、タッピングねじのねじ山付き脚部のねじ山およびねじ溝のフランク面と谷底部が覆われるように、200〜500 mPa・sの高い粘度をもち且つ長時間の流動性(濡れ性)を有する液状の吸着液を内包するマイクロカプセルを含有する被覆剤が塗布されてある雌ねじ成形屑吸着ねじが知られる(特許文献4:特開2004-36733号公報の請求項1と段落[0009]、[0010]参照)。
【0020】
前記の特開2002-257121号公報(特許文献2)と特開2002-257120号公報(特許文献3)とに記載される雌ねじ成形屑吸着ねじにおいて、該ねじに塗布された被覆材は、40〜100 mPa・sの高い粘度の液体よりなる吸着・吸収剤を内包するマイクロカプセルを含有するものであると記載されるが、そのマイクロカプセルそれ自体は外観が固体微粉末の性状を有するものである。そのマイクロカプセル単独だけでは、ねじのフランク面に付着、結合できないから、特許文献2〜3の明細書に開示されないけれども、該マイクロカプセルと結合剤樹脂との混和された混合物の形でねじ溝のフランク面と谷底部に塗布されて前記の被覆材をねじ溝内に結合して形成するのであろうと推測できる。
【0021】
また、前記の特開2004-36733号公報(特許文献4)に記載される雌ねじ成形屑吸着ねじにおいて、該ねじに塗布された被覆材は、200〜500 mPa・sの高い粘度をもち且つ流動性をもつ液状の吸着液を内包するマイクロカプセルを含有するものと記載される。ここで言われる被覆材に含有される吸着液内包マイクロカプセルも、それ自体は微粉末状であるので、それ自体だけではねじ溝フランク面に付着、結合できないから、その明細書に開示されてあるように(特許文献4の[0010]参照)、前記と同様の理由から、前記の被覆材も、吸着液内包マイクロカプセルと結合剤樹脂との混合物の形で塗布されて、被覆材がねじ溝内に結合して形成されてあることが知られる。
【0022】
従って、前記の特許文献2、3および4に記載された雌ねじ成形屑吸着ねじににおいては、前記マイクロカプセルと結合剤樹脂との混合物よりなる被覆材がねじ溝内に塗布、結合されてあると想定できる。このように塗布された被覆材を有するねじを下穴にねじ込む作業中には、前記マイクロカプセルがねじ込みの圧力で破壊され、そしてそのマイクロカプセル内の高粘度の液体よりなる前記の吸着・吸着剤もしくは吸着液が被覆材中に放出できることは推測できる。
【0023】
しかしながら、破壊された前記マイクロカプセルから放出された高い粘度の前記の吸着・吸収剤もしくは吸着液は、それのもつ高い粘度の故に、被覆材の全体の塗布層の中を急速に浸透できないから、被覆材層内において破壊したマイクロカプセル皮膜壁材の付近に局在できるにすぎない。従って、そのような被覆材の塗布層をもつねじを下穴にねじ込む作業の過程において、ねじの被覆材の塗布層の全体、もしくはその表面層が十分に高い粘着性を瞬時に急速に獲得できるとは推測できないのであって、またそのような理由から、ねじ込み作業中に発生する成形屑の全部を完全に粘着し結合し、取り込み、捕獲する効果を果たすことができない欠陥をもつと推測できる。
【0024】
さらに、前記の知られた雌ねじ成形屑吸着ねじに塗布された被覆材は、前記マイクロカプセルと結合剤樹脂との混合物から成ると推測できるものであって、該被覆材をなす混合物(マイクロカプセルと結合剤樹脂を含有)は潤滑性に欠ける。従って、かかる潤滑性のない被覆材をねじ溝内にもつねじは、これを下穴にねじ込む際には、きわめて大きなねじ込みトルク力を必要とするものであり、円滑にはねじ込むことができない欠陥をもつ上に、そして下穴で雌ねじの切削、成形に当って多量の摩擦粉と成形屑の発生を招く欠陥も有する。
【0025】
さらにまた、タッピングねじのねじ山付き脚部のねじ溝内に塗布された乾燥状態の被覆材であって、油性または水性の液状潤滑成分を主剤とし且つ該潤滑成分を接合するバインダを含むマイクロカプセルであるところの、しかも該液状潤滑成分と該バインダとからなる液状の溶液を内包するマイクロカプセルを含有することを特徴とする被覆材が知られており、またタッピングねじのねじ山付き脚部のねじ溝内に前記のマイクロカプセル含有の被覆材が塗布されてあり、しかもこれにより、下穴を有する部材(ワークピース)にタッピングねじのねじ込みにより該下穴に雌ねじを切削、成形する際に成形屑が発生しないよう潤滑性をもたせたことを特徴とする該被覆材を塗着された潤滑性ねじが知られる(特許文献5:特開2002-295430号公報、およびその請求項1、請求項3、段落[0001]、[0004]、[0006]、[0009]、[0010]、[0015]の記載、参照)。
【0026】
この特開2002-295430号公報(特許文献5)の請求項1に記載される被覆材に含有されたマイクロカプセルは、それ自体では微粉末性状のものであるから、ねじ溝フランク面に付着、結合できないはづであるので明細書に記載がないけれども、前記の被覆材には何らかの結合剤樹脂を配合されてあり、これによって被覆材がねじ溝面に塗着できるものと推測される。また、前記のマイクロカプセルに含有されたところの、液状潤滑成分とこれを接合するバインダとからなる液状の溶液は、必要な潤滑性状を有する液体状の潤滑剤であるとは記載される(特許文献5の段落[0009]参照)。しかし、前記のバインダを構成する物質は、これの化学名が特許文献5には開示されてないので、どのような物質であるか全く不明である。
【0027】
前記の特許文献5に示された被覆材の付着した潤滑性ねじを、下穴を有する部材(ワークピース)の下穴にねじ込む作業においては、マイクロカプセルの破壊で放出される前記の液体状潤滑剤の働きによって、下穴に雌ねじを切削、成形する際の成形屑は発生しないか、もしくは少量しか発生しないと推測できる。しかしながら、該マイクロカプセルの破壊後には、放出された液体状の潤滑剤(これは潤滑成分とバインダとからなる溶液から構成されると記載される)は、乾燥状態の被覆材内を浸透できるから、被覆材は多少とも潤滑性を獲得するけれども、切削成形屑を結合できるに十分な粘着性、接着性を獲得することができない。従って、マイクロカプセルの破壊後に放出された液体状潤滑剤で浸透された被覆材は、タッピングねじのねじ込み作業により下穴周壁の切削で多少でも発生することが避けられない切削成形屑を粘着、結合、取り込み、捕獲する作用を示すことができないのみならず、その被覆材それ自体から磨耗粉を発生するという欠陥を有し、そして下穴の下方の開孔部から切削成形屑またはその他の固形屑が落下、脱落、飛散する現象を完全には防止できない欠点を有する。
【0028】
特許文献1から5に記載の発明に係るねじは、いずれにも、切削成形屑の吸着と捕獲については明細書で言及しているが、振動、衝撃を受ける場合が多くて、一旦挿設したねじの緩みを止める性能が要求される場合のねじ型の締結部材において、雌ねじ側面への固着力をもつことによって、緩み止め効果を発揮させる技術的課題について全く言及していない。その結果として、特許文献1〜5は切削成形屑の吸着、捕獲の効果と高い緩み止め効果を両立させ得るねじを創作するという着想について全く言及していない。
【0029】
他方、各種の液状物質を内包するマイクロカプセルを作製する既知の方法には、in situ重合法、界面重合法、液中硬化法、コアセルベーション(coacervation)法、界面沈殿法またはスプレイドライ法などがある(非特許文献1:近藤保ら著、「マイクロカプセル」pp.34〜75、pp.157〜171、1977年10月15日、三共出版株式会社発行)。マイクロカプセルの壁材には、尿素樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、ゼラチン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリアミドまたはその他の重合体が使用できることが知られる(例えば特許文献6:日本特許第3124163号明細書1〜2頁)。
【0030】
また、互いに接触しながら摺動する2つの固体部材の間の摩擦、磨耗を減少させる潤滑作用をもつ潤滑剤には、常温で液状の潤滑剤、例えば石油系潤滑剤と常温で半固体状の潤滑剤、例えばグリースとがあることは周知である。
【0031】
さらに、日常生活で例えば物品の包装材の封止に使われる粘着テープは周知である。粘着テープに塗布されると言われる粘着剤は、接着剤の一種であるけれども、粘着剤とは、明確に定義されて組成が特定できる配合製剤でない。他方、感圧接着剤はその組成を明らかに説明できる配合組成物(配合製剤)である。感圧接着剤をなす配合製剤の中の主成分としては、粘弾性をもつ弾性体すなわちエラストマー物質、例えば天然ゴム、合成ゴム、特にブチルゴム、ポリイソブチレン、ポリビニルエーテル、ポリアクリル酸アルキルエステルまたは各種の重合体、共重合体が用いられることは周知である(例えば非特許文献2:「接着ハンドブック」pp.396〜399、pp.400〜402、1989年8月30日、第2版、日刊工業新聞社発行)。
【0032】
感圧接着剤に配合されて粘着性を高める補助成分としては、粘着性付与剤(tacktifier)(単に粘着付与剤ともいう)と言われる粘稠な樹脂、例えばポリテルペン、フェノール変性ポリテルペン、油溶性フェノール、ロジン、ロジン誘導体、フエノール樹脂、クマロンインデン、石油系炭化水素樹脂あるいは粘稠な液状有機物質などが知られて使用され、また可塑剤、例えば鉱油、液状ポリブテン、液状ポリアクリレートなどが配合できることが知られており、また、感圧接着剤には充てん剤、老化防止剤も配合できることは周知である(例えば、非特許文献2のpp.398〜399参照)。感圧接着剤には、大別すると、ゴム系感圧接着剤とアクリル系感圧接着剤があることは周知である。
【0033】
なお、ネジ、ナットのようなねじ式締結具を器具の所要部に取付けた後に、この締結具が巻き戻って緩むのを防止する緩み止めの目的で、これらのねじ螺合面に予め塗布、乾燥してプレコートされるのに用いられるための、接着剤を含む緩み止め剤は知られており、これは広く機械、自動車、電気、電子器具の組立て時に用いられている。そのような緩み止め剤組成物は、大別して、接着剤成分を内包するマイクロカプセルを含む接着剤型の組成物と、摩擦抵抗性の被膜を螺合面に形成できる非接着剤型の組成物とに分けられる。
【0034】
反応性接着剤を内包するマイクロカプセルを含む接着剤型の緩み止め剤組成物としては、該マイクロカプセルの破れた時に放出された反応性接着剤に反応して、これを硬化させる作用をもつ硬化剤と、該マイクロカプセルを含む緩み止め剤組成物をねじ溝面に塗着した時に、その塗膜ならびに該マイクロカプセルをねじ溝面に結合させる作用をもつバインダー(結合剤)用の樹脂とを有機溶媒に溶解して作られる溶液の中に、該マイクロカプセルを分散して成る緩み止め剤組成物が知られる(特許文献7:特開平2-308876号公報)。
【0035】
さらに、有機溶剤を含有しないもので、均一な膜厚をもち且つ固着性、接着性、強靭性が高いねじ緩み止め用被膜をねじの溝面に形成できる性能を有する安定な水性分散液の形のプレコート用緩み止め剤としては合成樹脂製の壁材をもつマイクロカプセル中に、反応性接着剤としてのエポキシ樹脂、あるいは該エポキシ樹脂と反応性希釈剤との混合物を内包してなるマイクロカプセルを分散状態で含有し;さらに該エポキシ樹脂(反応性接着剤)用の硬化剤として作用すると共に、該マイクロカプセルのためのバインダー(結合剤)としても作用する反応性アミノ基含有の液体状または半固体状のポリアミドが、乳化剤または分散剤を溶解して含む水性分散媒としての水あるいは水と低級アルカノールとの混合液の中に乳化または分散されてなる水性エマルジョンまたは分散液である液相を有し;しかも該エマルジョンまたは分散液の液相中に前記のマイクロカプセルが分散され含まれることを特徴とする、マイクロカプセル型接着剤を含む水性分散液の形のねじ緩み止め剤組成物が知られる(特許文献8:特開2003-194032号公報)。
【0036】
他方、エポキシ樹脂よりなる反応性接着剤は、反応性アミノ基をもつポリアミド、あるいは反応性チオール基をもつポリチオールよりなる硬化剤、あるいはアミンアダクト(ポリアミンエポキシ樹脂アダクト)と反応すると、硬化できることが知られる(非特許文献3:垣内著、「新エポキシ樹脂」例えば、pp. 183〜186, pp. 208〜216, pp. 534〜536, pp. 588〜589を含む全文、昭和60年5月10日、昭晃堂発行)。ポリアミドは、ダイマー酸にジエチレントリアミンやトリエチレンテトラアミンなどのポリアミンを反応させて生成される重合体であり、粘稠な液体または半固体または固体の形の物質である。例えばジエチレントリアミンとダイマー酸との反応で生成されたポリアミドであって、分子量2800〜3000のポリアミドは150°Cで950〜1200 mPa・sの粘度をもつと言われて、市販の主なポリアミドには、商品名でトーマイド(富士化成製)、バーサミド(ヘンケル白水製)、ラッカマイド(大日本インキ製)およびその他の市販品がある(非特許文献3のpp. 208〜211参照)。
【0037】
一般的には、高分子固体と高分子液体とは、粘性と弾性とをもつ粘弾性体(エラストマー)であることが知られる(非特許文献4:「化学便覧応用編」pp. 768〜771、日本化学会編、丸善、昭和57年2月25日、第2刷発行)。粘稠な液体の形または半固体の形のポリアミドも粘弾性をもち、エラストマーの一種であることが知られる。
【特許文献1】特開2002-70824号公報(全文)
【特許文献2】特開2002-257121号公報(全文)
【特許文献3】特開2002-257120号(全文)
【特許文献4】特開2004-36733号公報(全文)
【特許文献5】特開2002-295430号公報(全文)
【特許文献6】日本特許第3124163号明細書(全文)
【特許文献7】特開平2-308876号公報(全文)
【特許文献8】特開2003-194032号公報(全文)
【非特許文献1】「マイクロカプセル」pp.34〜75、pp.157〜171、 (1977年10月15日、三共出版株式会社発行)
【非特許文献2】「接着ハンドブック」pp.396〜399、pp.400〜402、 (1989年8月30日、第2版、日刊工業新聞社発行)
【非特許文献3】「新エポキシ樹脂」垣内著、(昭晃堂、昭和60年5月10日発行)(全文)
【非特許文献4】「化学便覧応用編」pp. 768〜771、日本化学会編、丸善、昭和57年2月25日、第2刷発行) なお、「接着」と「粘着」とでは意味が多少とも異なるが、その相違点は、例えば中前ら著の「接着・粘着の化学と応用」(日本化学会編集、1998年2月5日、大日本図(株))発行に説明される。
【0038】
因みに、前述した第1の課題の解決について、すなわち部材(ワークピース)に予じめ設けた雌ねじ溝なしの下穴に雄ねじをねじ込む時に、雄ねじを円滑にねじ込みできるのみならず、その時に発生する切削成形屑などが下穴下方に残る開孔部を落下して脱落するのを防止できる作用・機能をもつ雄ねじを作製する目的のために、この目的に適する被覆材層をねじ溝内に形成できるねじ溝塗着用液状組成物を提供することの課題について、先に、本発明者は感圧接着剤の主成分として配合される弾性体(エラストマー)を含有する有機溶媒溶液または含水エマルジョン液中に、液状潤滑剤だけを内包するマイクロカプセルを分散、含有させて作られる粘稠な粘着性分散液の形のねじ溝塗着用の新規な液状組成物を開発している(特願2004-380013号明細書参照、平成16年12月28日特許出願)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
前記ですでに説明したように、電子機器を含めて、電子回路を含む各種用途の装置を組立てるのに用いる構成要素である軽金属製または軽合金製の比較的軽質な金属部材(ワークピース)中に、ねじ溝のない下穴を予じめ開孔して設け、しかもねじ溝なしの貫通開孔またはねじ溝付きの貫通開孔を予じめ設けて有する取付け用部品を、前記の部材(ワークピース)にねじ手段で取付け固定する組立て作業を行う場合には、有頭タッピングねじ(雄ねじ)を、取付け用部品の前記の貫通開孔を通して該部材のねじ溝のない下穴にねじ込み、該下穴周壁に雌ねじ溝を切削成形しながらタッピングねじを該部材(ワークピース)に締込み、これによって、該部材に取付け用部品をねじ手段で取付け、固定する工程において、雌ねじ溝が切削成形された下穴の下部に残る開孔部中を、剥離した切削成形屑またはその他の固形屑が落下して該開孔部の出口から外に、脱落、飛散するという前述の有害な現象が起ることが多い。
【0040】
前記の下穴から落下、脱落した切削成形屑またはその他の固形屑は、電子機器などの装置の電気的作動部に侵入すれば、装置の機能を故障または破壊させる障害を起す危険性をもつ。
【0041】
従って、取付け用部品を固定するために、タッピングねじで装置の部材(ワークピース)の前記の下穴にねじ込む作業中に発生する前記の切削成形屑またはその他の固形屑がねじ溝を切削成形された下穴の下部に残る開孔部中を落下して開孔部から外に、脱落する前記の現象を完全に防止できる技術的手段を開発することは、従来から提案された一つの課題である。
【0042】
さらに、タッピングねじを前記のねじ溝なし下穴にねじ込む工程では、タッピングねじと下穴周壁との間で大きい摩擦熱が生ずることが多い。この摩擦熱により、ねじ込み作業の途中でタッピングねじが下穴周壁に焼き付き易い。下穴で焼き付き、ねじが凝着した時には、タッピングねじのねじ溝つき脚部の全体が取付け用部品内の開孔の中と、これを取付けられる部材(ワークピース)の下穴との中には完全に貫入、定置できないことになる。その結果として、タッピングねじの頭部座面(ねじ頭部の下向き面とねじ溝つき脚部の上部との間の境界部の下向き表面)が取付け用部品内の開孔の入口の周囲にある部材表面壁、または該開孔の受けラッパ状口の壁に完全に密着した状態で定置できないかまたは完全にかん合できないという所謂、ねじ浮きの状態が起る。このねじ浮きの状態が起ると、タッピングねじによって、取付け用部品とこれを取付けられる部材(ワークピース)との間のねじ手段による固定は、完全に達成できないという障害が起る。それ故、焼き付きによりねじ浮きの状態が起ることを防止できる機能をもつタッピングねじを開発することも、従来知られた一つの技術的課題である。
【0043】
有頭タッピングねじの脚部における雄ねじ溝を下穴にねじ込む工程中に、該雄ねじ溝山フランク面が十分な潤滑性を発揮または保有できるように工夫することによって、タッピングねじと下穴壁との間に起るタッピングねじの焼き付き、凝着を防止できる一つの解決策として潤滑性ねじがすでに提案された(特許文献5:前記の特開2002-295430号公報)けれども、前記のタッピングねじの凝着防止の課題は未だ完全に解決できていない。
【0044】
他方、電子機器(パソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、ミニディスク等)が携帯用である場合が多く、持ち運び時の振動、衝撃等によって挿設したねじが緩むことがないように、その締結部材のねじは高い緩み止め防止機能をもつことが要望されており、これを満たすことが前述した第2の技術的課題である。
【0045】
本発明の一つの第1の目的は、取付け用部品もしくは片方の部材を、予じめ開孔されたねじ溝なし下穴を有する部材(ワークピース)の下穴にタッピングねじの捻じ込みによって取付け、固定するのに用いられるタッピングねじであって、しかもタッピングねじにより下穴周壁のねじ溝の切削成形で発生した切削成形屑が下穴の下部に残る開孔部中を落下して該開孔部から外に脱落する現象を完全に防止できる機能と特性を有するのみならず、ねじ込まれたタッピングねじが下穴のねじ溝に焼き付き、凝着する現象も完全に防止できる機能と特性をも有し、更にねじを締め付け後は、雄ねじを雌ねじ溝面にを強固に固着できる特性を有するところの、前記の三つの機能・特性を兼備した新規な有頭タッピングねじを提供することにある。
【0046】
本発明の第2の目的は、取付け用部品もしくは片方の部材を、予じめ開孔された下穴であって且つ雌ねじ溝を刻まれた下穴を有する部材(ワークピース)に、普通の雄ねじのねじ込みによって取付け、固定するのに用いる雄ねじであって、前記のねじ溝つき下穴に残留していた切削成形屑またはその他の固形屑が雄ねじのねじ込み工程中に下穴の下方開孔部中を落下して外に脱落する現象を完全に防止できる機能と特性、ならびに、ねじ込まれた雄ねじが下穴のねじ溝に焼き付き、凝着する現象も完全に防止できる機能と特性、更には、ねじを締め付け後は、締結部材同志を、すなわち雄ねじを雌ねじ溝面に強固に固着できる機能と特性を兼備した新規な雄ねじ(タッピングねじ型でない雄ねじ)を提供することである。
【0047】
さらに、本発明の第3の目的は、本発明の第1の目的を達成できる前述した三つの機能・特性を兼備したタッピングねじ、もしくは本発明の第2の目的を達成できる前述した三つの機能・特性を兼備した雄ねじを作製できる技術を開発する目的のために、雄ねじ(タッピングねじを含めて)のねじ溝内に浸漬法またはロールコーター法などにより塗着できるねじ溝塗着用の粘稠な粘着性の液体状組成物であって、ねじ溝内でねじ溝の谷底面および溝山フランク面上に該液体状組成物を塗着、被覆させ、得られた該液体状組成物の塗着層を乾燥または半乾燥させ、こうしてねじ溝内に固体状または半固体状の被覆材層を形成させることができる液体状組成物であるのみならず、しかもそのようにねじ溝内に形成された固体状または半固体状の被覆材層の発揮する種々な有用な性能に基づいて、下穴にねじ込まれる雄ねじの焼き付き、凝着を防止できる十分な潤滑性を雄ねじ溝の被覆表面に付与でき、且つその上に、発生する雌ねじ溝の切削成形屑またはその他の固形屑を該被覆材層中で粘着し、結合し、すなわち粘着して取り込み、捕獲する作用をねじ込み作業中に急速に即時に発揮することができ、これによって成形屑、固形屑の落下、脱落を完全に防止でき粘着性および感圧接着性を発揮でき、そしてねじの締め付け後は、配合された接着剤成分の硬化反応により締結部材を強固に固着できるという有利な諸性質を同時に有する塗着被覆材層を雄ねじ溝内に形成できるところの、新規なねじ溝塗着用の粘稠な粘着性の液体状組成物を提供することにある。
【0048】
本発明のその他の目的は、本明細書に後述される諸説明から明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0049】
従来から問題にされた前記の多くの技術的課題を一挙に解決できる有用な性質と性能を有するタッピングねじまたは別用途の雄ねじを作製できる新しい技術を開発する目的で、本発明者らは種々の研究と実験を重ねた。
【0050】
その研究のうちの第1の実験において、先づ、既知の配合組成をもつ市販の感圧接着剤において既知の主成分として配合されるエラストマー(弾性体)である高い粘着性、接着性をもつアクリル酸アルキルエステル共重合体(アクリル系粘着剤として知られる)の適当量を、トルエンと酢酸エチルとの1:1(重量比)の混合物よりなる混合有機溶媒中に1:1の重量比で溶かして、粘稠な粘着性の有機溶液A(粘着性エラストマー溶液)を調製した。その後に、次のように試験を行った。すなわち、上記のように調製されたアクリル酸エステル共重合体(アクリル系粘着性エラストマー)の粘稠な粘着性有機溶液Aを、スチール基板にはけ塗り法で約100ミクロンの膜厚で塗着し、次に乾燥または半乾燥し、固体状または半固体状の被覆材層を該スチール基板上に形成させた。この形成された被覆材層は、これに対してアルミニウム薄板を軽い圧力下に接触して押圧すると、該被覆材層は良好な感圧接着力を示すことが実験上で知見できた。
【0051】
更に、第2の実験では、前記のように調製されたアクリル酸エステル共重合体(アクリル系粘着剤として知られる)をトルエン−酢酸エチル(1:1重量比)の混合有機溶媒中にとかした粘稠な粘着性の有機溶液A(前記の粘着性エラストマー溶液と同じ)の中に、別途に調製されたところの真空ポンプ油(潤滑剤の一種)を内包するマイクロカプセル(マイクロカプセルの平均粒径は70μであり、マイクロカプセル壁材はユレアーレゾルシン共重合体からなるマイクロカプセル)を分散させて、粘稠で粘着性の分散液Bを調製した。この分散液中のマイクロカプセルの割合は、分散液液相をなす有機溶液が40重量部であるとみなして、マイクロカプセルが7重量部であるような混合比率にした。
【0052】
上記のように調製した真空ポンプ油内包のマイクロカプセルを含有した粘稠な粘着性分散液Bは、これを前記と同じ要領でスチール基板に塗着し、次に乾燥または半乾燥し、密着した固体状または半固体状の被覆材層をスチール基板上に形成させた。このように形成した被覆材層は、これに対してアルミニウム薄板を軽い圧力下に接触して押圧すると、良好な感圧接着力を発揮することが知見できた。さらに、接触されたアルミニウム薄板に加える押圧力を、スチール板上の被覆材層中のマイクロカプセルが破壊されて内包の真空ポンプ油が放出できる程度の高い圧力にまで増大させ、次いでアルミニウム薄板を剥離させた。スチール基板上に残る被覆材層は、その表面が若干の粘着性を示すと共に、良好な潤滑性を有すること、すなわち該表面に別のアルミニウム個片を置いて接触させながら移動させると、アルミニウム個片が円滑に摺動できるという良好な潤滑性をもつことが知見できた。
【0053】
また、スチール基板上に塗着された前記の固体状または半固体状の被覆材層の粘着性のある表面の上に、少量のアルミニウム金属粉を散布し、金属粉に圧力を加えると、該表面に金属粉が良く粘着接着できて被覆材層の表面層中に取り込まれて捕獲できたことが確認できた。
【0054】
別途、前記のように調製されたところの、真空ポンプ油内包のマイクロカプセルを含有する前記の粘稠な粘着性分散液Bを、浸漬法により、タッピングねじのねじ溝内に塗着した。その後に、常温で空気中で自然にねじの乾燥を行うと、タッピングねじのねじ構内には、前記の分散液Bから形成されたマイクロカプセル含有の被覆材層が形成されたことが認められた。ここで得られた被覆材層は、乾燥した固体状であり、しかもねじ溝の谷底面とねじ山フランク面の下方領域とを覆う凹レンズ状の横断面輪郭をもち、その被覆層の膜厚は全体では均一でないことが認められた。
【0055】
前記の乾燥した被覆材層をねじ溝内に有したタッピングねじaを用い、また溝なし開孔を予じめ設けて有するマグネシウム合金の板状の取付け用部品を用い且つ溝なし下穴を予じめ開孔して設けてあるマグネシウム合金の板状部材(ワークピース)を用い、そして前記のタッピングねじaを取付け用部品の開孔を通して、取付け用部品の下面上に置かれた前記の板状部材(ワークピース)の下穴の中にねじ込む作業を行った。該タッピングねじaのねじ込み作業中は、軽いトルク締め込み力でも円滑に下穴にねじ込むことができてねじの潤滑性が良いことが認められた。下穴に切削成形された雌ねじ溝の下方で下穴に残る開孔部中から切削成形屑が脱落する現象は全く観察されなかった。
【0056】
第3の実験では、上記のアクリル酸エステル共重合体(エラストマー)とポリアミドG535(硬化剤、東都化成製)とをトルエン−酢酸エチル(1:1)混合有機溶媒中に溶かした粘稠な有機溶液Cを作った。また、真空ポンプ油内包のマイクロカプセルとエポキシ接着剤内包カプセルとをトルエン−酢酸エチル(1:1)混合有機溶媒に分散して分散液Dを作った。前記の有機溶液Cと分散液Dとを混和することによって、粘着性分散液の形のねじ塗着用液状組成物(イ)を作った。この組成物(イ)の中に含まれたアクリル酸エステル共重合体と、真空ポンプ油内包マイクロカプセルと、商品名「エピコート828」のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとポリアミドとの重量比が18:3:12:12であるように調整した。
【0057】
この粘着性の分散液の形の組成物(イ)を浸漬法により、タッピングねじのねじ溝内に塗着した。その後に、常温で空気中で自然にねじの乾燥を行うと、タッピングねじbのねじ溝内には、前記の組成物(イ)から形成されたマイクロカプセル含有の被覆材層が形成されたことが認められた。ここで得られた被覆材層は、乾燥した固体状であり、しかもねじ溝の谷底面とねじ山フランク面の下方領域とを覆う凹レンズ状の横断面輪郭をもち、その被覆層の膜厚は全体では不均一であることが認められた。
【0058】
前記の乾燥した被覆材層をねじ溝内に有した前記タッピングねじbを用い、また溝なし開孔を予じめ設けて有するマグネシウム合金の板状の取付け用部品を用い且つ溝なし下穴を予じめ開孔して設けてあるマグネシウム合金の板状部材(ワークピース)を用い、そして前記のタッピングねじbを取付け用部品の開孔を通して、取付け用部品の下面上に置かれた前記の板状部材(ワークピース)の下穴の中にねじ込む作業を行った。該タッピングねじbのねじ込み作業中は、軽いトルク締め込み力でも円滑に下穴にねじ込むことができたので、該ねじの潤滑性が良いことが認められた。下穴に切削成形された雌ねじ溝の下方で下穴に残る開孔部中からは、切削成形屑が脱落する現象は全く観察されなかった。
【0059】
このようにねじ込んだタッピングねじを更に、強い締付けトルクで締め付けた後、2日間放置した。この間にエポキシ接着剤はポリアミドと硬化反応した。ここで、挿設ねじの戻しトルクを測定したところ、必要な戻しトルク値は締め付けトルク以上の高い値を示して、優れた固着特性を示しました。
【0060】
一方、上記の組成物(イ)でのエポキシ接着剤内包カプセルと、ポリアミド(硬化剤)との配合を省略した場合の比較の組成物として作られた粘着性分散液は、これを雄ねじに塗着、乾燥してから前記と同様の条件で試験したが、この時の測定した必要な戻しトルク値は、締め付けトルクの70%程度と小さくて十分とはいえない結果を示した。
【0061】
上記のように一旦ねじ込んだ前記タッピングねじbを取外した後に、取外したねじbのねじ溝の谷底面の所で被覆層を横断するように切断し、その切断された被覆層横断面を拡大鏡下で観察した。その観察の結果、ねじ溝内に在る被覆材層の中に含有されたマイクロカプセルはタッピングねじのねじ込み圧力の下で破壊されたこと、またマイクロカプセル内包の真空ポンプ油は被覆材層の内部全体にわたって浸透していたこと、さらにマイクロカプセル破壊後の被覆材層の全体は、粘着力と高い感圧接着力とを保持すること、さらにまたその被覆材層の内部には、下穴の雌ねじ溝の切削成形で生じた金属粉が取り込まれて分散状態で捕獲されたことが確認できた。
【0062】
また、第4の実験においては、市販の感圧接着剤に配合される既知の主成分として知られるエラストマー(弾性体)である粘着性のアクリロニトリル−ブタジエン共重合体をアセトン溶媒にほぼ42:31の重量比で溶かし、これによって粘稠な粘着性の有機溶液E(アセトン溶液)を調製した。この有機溶液E(アセトン溶液)はそれの粘着力が少し不足していたので、この有機溶液中に粘着性付与剤(単に粘着付与剤とも言う)として知られるポリテルペン(市販の感圧接着剤中に補助成分として配合できることが知られている)を、該有機溶液Eのほぼ73重量部に対してポリテルペンのほぼ19重量部の比率で溶解させた。これで得られたポリテルペン含有の粘着性の有機溶液Fは十分に高い粘着力を有するものであって、アルミニウム板に塗着すると被覆層を形成できた。
【0063】
前記のポリテルペン含有の粘稠な粘着性有機溶液F(アセトン溶液)に、前記の第2の実験で用いた真空ポンプ油内包のマイクロカプセルを分散させ、これによって粘稠な粘着性分散液Gを調製した。
【0064】
この調製された真空ポンプ油内包マイクロカプセルを含む、粘稠な粘着性分散液Gを用いて、前記第2の実験と同様な一連の試験を行った。タッピングねじのねじ溝内に付着した該分散液Gの塗着層から形成された被覆材層をねじ溝内に有したタッピングねじcは、第2の実験にて作製した被覆材層付きのタッピングねじbと同様な所望の性能の一つとして、切削成形屑を捕獲できる効果を達成できることが実験上で確認できた。
【0065】
第5の実験では、第4の実験で調製されたところの有機溶液Fに真空ポンプ油内包マイクロカプセルを分散させて得た粘稠な粘着性分散液Gに、商品名「ポリアミドG623」で市販されるポリアミド(東都化成製)と商品名「チオコールCP−3」(東レ製)で市販されるポリチオールとの(3:1重量比)混合物よりなる硬化剤を溶かすことにより、粘稠な液状混合物Hを作った。また、別に、第13の実験で用いたエポキシ系接着剤(詳しくは、後記の実施例2、(a)で用いた商品名、エピコート828で市販のエポキシ樹脂)を内包のマイクロカプセルをアセトンに分散させて分散液Iを作った。この分散液Iを上記の粘稠な液状混合物Hと混和することにより、2種のマイクロカプセルを含む粘稠で粘着性の分散液の形のねじ塗着用液状組成物(ロ)を調製した。この組成物(ロ)の中のエラストマーと、ポリテルペンと、真空ポンプ油内包マイクロカプセルと、エポキシ接着剤内包マイクロカプセルと硬化剤との重量比が16:5:4:10:10になるように調整してある。
【0066】
このように作った粘着性の分散液の形の液状組成物(ロ)を浸漬法により、タッピングねじのねじ溝内に塗着した。その後に、常温で空気中で自然にねじの乾燥を行うと、タッピングねじのねじ構内には、前記の分散液の形の液状組成物(ロ)から形成されたマイクロカプセル含有の被覆材層が形成されてあるねじdが得られた。ここで得られた被覆材層は、乾燥した固体状であり、しかもねじ溝の谷底面とねじ山フランク面の下方領域とを覆う凹レンズ状の横断面輪郭をもち、その被覆層の膜厚は全体では均一でないことが認められた。
【0067】
前記の乾燥した被覆材層をねじ溝内に有したタッピングねじdを用い、また溝なし開孔を予じめ設けて有するマグネシウム合金の板状の取付け用部品を用い且つ溝なし下穴を予じめ開孔して設けてあるマグネシウム合金の板状部材(ワークピース)を用い、そして前記のタッピングねじdを取付け用部品の開孔を通して、取付け用部品の下面上に置かれた前記の板状部材(ワークピース)の下穴の中にねじ込む作業を行った。該タッピングねじdのねじ込み作業中は、軽いトルク締め込み力でも円滑に下穴にねじ込むことができたので、該ねじの潤滑性が良いことが認められた。下穴に切削成形された雌ねじ溝の下方で下穴に残る開孔部中から切削成形屑が脱落する現象は全く観察されなかった。
【0068】
このようにねじ込んだタッピングねじdを更に、強い締付けトルクで締め付けた後、1日間放置した。この間に、エポキシ接着剤は硬化反応を起こした。ここでねじの戻しトルクを測定したところ、締め付けトルク以上の高い力の戻しトルクを要して、優れた固着特性を示した。
【0069】
一方、上記の組成物(ロ)でのエポキシ接着剤内包カプセルとポリアミド/ポリチオール硬化剤との配合を省略した場合の比較の組成物として作られた粘稠性分散液は、これをねじに塗着、乾燥してから、同様の条件で試験したが、この時の測定したねじ戻しトルクは、締め付けトルクの70%程度と小さくて十分とはいえない結果を示した。
【0070】
また、第6の実験においては、感圧接着剤に配合される既知の主成分として知られるエラストマー(弾性体)は全く用いず、その代わりに、粘弾性の高いポリアミドである商品名「ポリアミドG623」の市販されたポリアミド(後記の実施例3、(e)参照)を用意した。
【0071】
このポリアミドG623を混合有機溶剤(トルエン/エタノール=1/1重量比)に5:10の重量比で溶解すると共に、その溶液へ粘着性付与剤としてのポリテルペンをポリアミド:ポリテルペン=5:4の重量比で溶液中に添加して溶解した。これで得られたポリアミドとポリテルペン含有の粘着性の有機溶液Jは十分に高い粘着力を有するものであって、第1の実験と同様に試験すると、アルミニウム板に塗着すると、密着した被覆層を形成できた。
【0072】
第7の実験では、前記のポリアミドとポリテルペン含有の粘稠な粘着性有機溶液Jに、前記の第2の実験で用いた真空ポンプ油内包のマイクロカプセルを分散させ、これによって粘稠な粘着性分散液Kを調製した。
【0073】
この調製された真空ポンプ油内包マイクロカプセルを含む粘稠な粘着性分散液Kを用いて、第2の実験と同様な一連の試験を行った。タッピングねじのねじ溝内に付着した該分散液Kの塗着層から形成された被覆材層をねじ溝内に有したタッピングねじeは、第2の実験にて作製した被覆材層付きのタッピングねじaと同様な所望の性能の一つとして、切削成形屑を捕獲する効果を達成できることが実験上で確認できた。
【0074】
第8の実験では、第7の実験で作った前記の真空ポンプ油内包マイクロカプセルを分散して含む粘稠な粘着性分散液Kに対して、実験5で用いた商品名「エピコート828」のエポキシ接着剤を内包のマイクロカプセルをトルエン−エタノール(1:1重量比)混合有機溶媒に分散してなる分散液Lを混和した。これによって、粘稠で粘着性分散液の形のねじ溝塗着用液状組成物(ハ)が調製された。この組成物(ハ)の中のポリアミドG623(エラストマーを兼ねる硬化剤)と、エポキシ接着剤内包マイクロカプセルと、真空ポンプ油内包マイクロカプセルと、ポリテルペンと有機溶剤との重量比が4:4:1:3:12になるように調整した。
【0075】
第9の実験においては、第8の実験で作ったところの粘着性分散液の形のねじ溝塗着用液状組成物(ハ)を、浸漬法により、タッピングねじのねじ溝内に塗着した。その後に、常温で空気中で自然にねじの乾燥を行うと、タッピングねじのねじ構内には、前記の組成物(ハ)から形成されたマイクロカプセル含有の被覆材層を形成されて有するねじfが得られた。ここで得られた被覆材層は、乾燥した固体状であり、しかもねじ溝の谷底面とねじ山フランク面の下方領域とを覆う凹レンズ状の横断面輪郭をもち、その被覆層の膜厚は全体では均一でないことが認められた。
【0076】
前記の乾燥した被覆材層をねじ溝内に有したタッピングねじfを用い、また溝なし開孔を予じめ設けて有するマグネシウム合金の板状の取付け用部品を用い且つ溝なし下穴を予じめ開孔して設けてあるマグネシウム合金の板状部材(ワークピース)を用い、そして前記のタッピングねじfを取付け用部品の開孔を通して、取付け用部品の下面上に置かれた前記の板状部材(ワークピース)の下穴の中にねじ込む作業を行った。該タッピングねじのねじ込み作業中は、軽いトルク締め込み力でも円滑に下穴にねじ込むことができたので、ねじの潤滑性が良いことが認められた。下穴に切削成形された雌ねじ溝の下方で下穴に残る開孔部中から切削成形屑が脱落する現象は全く観察されなかった。
【0077】
このようにねじ込んだタッピングねじfを更に、強い締付けトルクで締め付けた後、2日間放置した。その後に、挿設したねじfの戻しトルクを測定したところ、締め付けトルク以上の高い戻しトルク力を要して、優れた固着特性を示した。
【0078】
一方、前記の組成物(ハ)中のエポキシ接着剤内包カプセルとポリアミドとの配合を省略した場合の組成をもつ粘稠な分散液は、これをねじに塗着、乾燥してから、実験9と同様の条件で試験すると、測定した戻しトルクは、締め付けトルクの70%程度と小さくて、十分とはいえない結果を示した。
【0079】
さらに、第10の実験においては、市販の感圧接着剤に主成分として配合されるエラストマーである粘着性の酢酸ビニル−アクリル酸アルキルエステル共重合体を、58%(重量)の共重合体濃度で少量の界面活性剤を含む水に分散させてなる粘稠な粘着性の水性エマルジョン型粘着剤(例えば、エマルジョン型粘着剤として市販されるニカゾールTS-590Bの商品名の粘着剤、日本カーバイト株式会社製として入手できる)を用意した。この粘着性の水性エマルジョン型粘着剤と、水とを54:360重量比で混合した。これで粘稠な粘着性エマルジョン液Mを調製した。
【0080】
この調製された粘稠な粘着性エマルジョン液Mは、比較的良い粘着力を有して、アルミニウム板に塗着して乾燥すると、密着した被覆層を形成できた。
【0081】
前記の粘稠な粘着性エマルジョン液M(含水エマルジョンの形の)中に前記の第2の実験に用いたと同じ真空ポンプ油内包のマイクロカプセルを分散させた。これで粘稠な粘着性分散液Oを調製した。この粘稠な分散液O中のマイクロカプセルの割合は、前記の粘着性エマルジョン液M(含水エマルジョン)が90重量部であるとみなして、マイクロカプセルが7重量部の混合比率にした。
【0082】
この調製された粘稠な粘着性分散液Oを用いて、第2の実験と同様な一連の試験を行った。タッピングねじのねじ溝に浸漬法で塗布された前記の粘着性分散液Oの塗着層から形成された被覆材層をねじ溝内に有したタッピングねじgは、第2の実験にて作製した被覆材層付きのタッピングねじaと同様な所望の性能の一つとして、切削屑を捕獲できる作用を有することが確認できた。
【0083】
第11の実験において、上記の第10の実験で調製された粘稠な粘着性エマルジョン液M(含水エマルジョンの形の)を、直接にアルミニウム板に塗着して乾燥した。これでアルミニウム板上に密着した固体状被覆層を形成できることは、前述のように認められた。しかし、その固体状被覆層と下方のアルミニウム板との間の結合性が余り強くなかった。従って、その固体状被覆層は、強い外力ではアルミニウム板から剥離され易いことが知見された。その固体状被覆層が下方のアルミニウム板から剥離されることを防止することが望まれた。この防止の目的のために、次の予備処理をした。すなわち、金属板と、この上に塗布される有機質の被覆層との結合性を増強する用途をもつことがねじ業界で知られたカップリング剤(金属に対する親和性をもつまたは化学的反応による結合力をもつ官能基と、有機質物質に対する親和力をもつまたは化学的反応による結合力をもつ官能基との両方を保有したシラン系重合体(または共重合体)を主成分とする商品名「シランカップリング剤KBE 903」、信越化学(株)製、として入手できるカップリング剤がその一例である)と、エタノールとの1:2(容量比)の溶液状混合物を作り、これを予じめアルミニウム板に塗布して乾燥させた。これによって、上記のカップリング剤よりなる固体状のカップリング剤下地層をアルミニウム板上に形成した。
【0084】
アルミニウム板に予じめ形成されたカップリング剤下地層の上に、第10の実験で調製したところの、前記の粘稠な粘着性エマルジョン液M(含水エマルジョンの形の)中に前記の真空ポンプ油内包のマイクロカプセルを90:10の重量比で混入して得られた前記の粘着性分散液Oを塗付し、乾燥した。これで前記のカップリング剤下地層上に、前記の酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体(粘着性エラストマー)と前記の真空ポンプ油内包マイクロカプセルとを含有する固体状被覆層を形成させた。この形成された固体状被覆層は、アルミニウム板から剥離できない高い結合力をアルミニウム板について有することが認められた。
【0085】
第12の実験では、真空ポンプ油内包のマイクロカプセルと粘着性エラストマーを含有する第10の実験で調製された粘着性エマルジョン液Mに対して、商品名「エピコート828」のエポキシ接着剤を内包のマイクロカプセルの水性エマルジョンと、商品名「ポリアミドG623」のポリアミド(硬化剤)の水性エマルジョンとを混和した。これによって、2種のマイクロカプセルを含む粘着性の水性エマルジョン液の形のねじ溝塗着用の液状組成物(ニ)を調製した。この組成物(ニ)の中の粘着性エラストマーと、エポキシ接着剤内包カプセルと、真空ポンプ油内包カプセルと、ポリアミドG623(硬化剤)との重量比が14:10:4:10になるように調整してある。
【0086】
第13の実験では、第12の実験で得られたエマルジョン型の液状組成物(ニ)を、浸漬法により、タッピングねじのねじ溝内に塗着した。その後に、常温で空気中で自然にねじの乾燥を行うと、タッピングねじのねじ構内には、前記の組成物(ニ)から形成されたマイクロカプセル含有の被覆材層を形成されて有するねじhが得られた。ここで得られた被覆材層は、乾燥した固体状であり、しかもねじ溝の谷底面とねじ山フランク面の下方領域とを覆う凹レンズ状の横断面輪郭をもち、その被覆層の膜厚は全体では均一でないことが認められた。
【0087】
前記の乾燥した被覆材層をねじ溝内に有したタッピングねじhを用い、また溝なし開孔を予じめ設けて有するマグネシウム合金の板状の取付け用部品を用い且つ溝なし下穴を予じめ開孔して設けてあるマグネシウム合金の板状部材(ワークピース)を用い、そして前記のタッピングねじhを取付け用部品の開孔を通して、取付け用部品の下面上に置かれた前記の板状部材(ワークピース)の下穴の中にねじ込む作業を行った。該タッピングねじのねじ込み作業中は、軽いトルク締め込み力でも円滑に下穴にねじ込むことができたので該ねじの潤滑性が良いことが認められた。下穴に切削成形された雌ねじ溝の下方で下穴に残る開孔部中から切削成形屑が脱落する現象は全く観察されなかった。
【0088】
このようにねじ込んだタッピングねじhを更に、強い締付けトルクで締め付けた後、2日間放置した。その後にねじhの戻しトルクを測定したところ、締め付けトルク以上の高い高い戻しトルク力を要して、優れた固着特性を示した。
【0089】
一方、上記の組成物(ニ)でのエポキシ接着剤内包カプセルとポリアミド硬化剤の配合をしなかった場合の比較の粘調な水性エマルジョン液は、これをねじに塗着、乾燥してから、同様の条件で試験すると、測定したねじ戻しトルクは、締め付けトルクの70%程度と小さくて十分とはいえない結果を示した。
【0090】
さらにまた、別の一連の実験を行った。すなわち、これら別の一連の実験では、前記の第2の実験で用いた真空ポンプ油に代えて、下記の各種の潤滑剤を用いても実験して検討した。すなわち、強い外力で下穴に雌ねじを切削成形する時に生じる大きい摩擦力を、低減させるため、化学便覧応用編、pp. 954〜959に示される油の吸着膜をつくる油性剤(0〜20重量部)、または反応による固体膜をつくる極圧剤(0〜20重量部)を含む切削油、ギア油を内包するマイクロカプセル(平均径が50〜100μであり且つマイクロカプセル壁材がゼラチンとアラビアゴムとの混合物あるいは尿素−レゾルシン樹脂またはメラミン樹脂であるマイクロカプセル)の各種サンプルを作製した。また、潤滑剤として知られるマシーン油またはシリコーン油を内包するマイクロカプセル、ならびに半固体状のグリースを内包するマイクロカプセル、あるいはグリースを軽油またはケロシンと混合、希釈した流動性の液状潤滑剤を内包するマイクロカプセルを含めて、潤滑剤内包のマイクロカプセルの各種サンプルも作製した。
【0091】
また、既知の粘着性エラストマーを溶解できる有機溶剤または混合有機溶剤、例えばトルエン、キシレン、トルエンとキシレンの混合物、トルエンと酢酸エチルの混合物をそれぞれ内包する有機溶剤内包のマイクロカプセルの各種サンプルを作製した。
【0092】
さらに、前記の第1の実験で用いたエラストマーである粘着性アクリル酸エステル共重合体に代えて、天然ゴム、合成イソプレンゴム、SBRまたはポリイソブチレンを用い、そしてそれらゴムを各種の有機溶媒または混合有機溶剤に溶かし、これで粘稠な粘着性のエラストマー溶液の各種サンプルを調製した。また、各種の粘着性エラストマーをそれぞれ水に分散、含有する各種の水性エマルジョンの各種サンプル、ならびに各種の粘着性エラストマーを水と水混和性有機溶媒(例えば酢酸エチル)との混合物中に分散、含有する水性エマルジョンの各種サンプルを調製した。
【0093】
そのように調製された潤滑剤内包マイクロカプセルの各種サンプルと、粘着性エラストマーを含有する溶液または水性エマルジョンの各種サンプルと、所望に応じて適量で追加できる既知の粘着性付与剤(tacktifier)(または粘着付与剤という)とを用いて、それらを2種またはそれ以上の多種多様な組合わせで混合した。それによって、マイクロカプセルを含有して種々な混合組成をもつ粘稠で粘着性の液状組成物の多数のサンプル品を調製した。
【0094】
これらの多数の粘着性液状組成物サンプル品を、それぞれタッピングねじのねじ溝内に浸漬法で塗着し、さらに空気中で乾燥させた。こうして、上記の液状組成物サンプル品からそれぞれ生成された固体状または半固体状の被覆材層をねじ溝内にもつ被覆材層付きのタッピングねじの各種の試作物を作製した。
【0095】
このように作製された被覆材層付きタッピングねじ試作物の各々を、前記の第1、第2、第3〜第13の実験と同じ要領で試験した。それぞれ試験によって、上記の第1、第2、第3〜第13の実験で得られたと同じまたは実質的に同じ技術的知見と実験成果が前記のタッピングねじ試作物で得られることが判明した。
【0096】
従って、前記した一連の多数の試験と、これで得られた技術的知見に基づいて、本発明を完成できた。
【0097】
それ故に、本発明の第1の発明としては、感圧接着剤の主成分であるエラストマー物質とエポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤とを、粘着性付与剤と共に、または該粘着性付与剤の添加なしで有機溶媒にまたは水混和性有機溶媒と水との混合溶媒に溶かして作られた粘着性の溶液である液相の中に、もしくは前記のエラストマー物質と前記の硬化剤とを粘着性付与剤と共に、または該粘着性付与剤の添加なしで水または水性媒質に分散させて作られた粘着性の水性エマルジョンまたは粘着性の水性分散液である液相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包するマイクロカプセルと常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包するマイクロカプセルとを均一に分散させて形成される粘稠な粘着性の液状組成物から構成されたことを特徴とするねじ溝塗着用液状組成物であって、しかも、該液状組成物を雄ねじ溝のフランク面と谷部に塗着してから、塗着された該液状組成物の塗着層を乾燥または半乾燥した時に雄ねじ溝内でねじ溝山フランク面と溝谷底部に形成された固体状または半固体状の被覆材層は、該被覆材層へ雄ねじの螺入時に生じる圧力を加えた場合に、該被覆材層内に在る潤滑剤内包のマイクロカプセルが破壊されて該マイクロカプセル内包の潤滑剤を放出でき、該被覆材層内に潤滑剤が浸透し、これにより前記の被覆材層の少くとも表面または全体が潤滑性、粘着性、感圧接着性を呈し得る性質を保有するものであること且つ該接着剤内包のマイクロカプセルが破壊されて放出された内包のエポキシ樹脂系接着剤がその被覆材層中に共存する該硬化剤と反応して硬化し、挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる性質を有することを特徴としており、さらに前記の固体状または半固体状の被覆材層をねじ溝内にもつ雄ねじを、ねじ溝なし素通しの下穴を予じめ設けた被加工部材の該下穴にねじ込み螺入する時に該下穴に切削成形される雌ねじ溝の壁から剥離される切削成形屑片、または雌ねじ溝に既存する他の固形屑片を粘着して結合し且つ該被覆材層中に取り込んで捕獲できる機能を該被覆材層は有し、またこの機能により、該切削成形屑片または他の固形屑が下穴内を落下、脱落するのを防止できる作用をもち、また該接着剤と硬化剤との硬化反応により挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる作用をもつ前記の固体状または半固体状の被覆材層を塗着された本組成物から形成できる性質を有することを特徴とする、雄ねじの螺入時に生ずる固形屑片を捕獲できて且つ挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる機能をもつねじ溝塗着用液状組成物が提供される。
【0098】
前記の第1の発明によるねじ溝塗着用液状組成物に配合されるエラストマー(弾性体)は、ゴム系、アクリル系、シリコーン系またはポリビニルエーテル系のエラストマーであることができる。
【0099】
第1の本発明のねじ溝塗着用液状組成物からねじ溝内に形成される被覆材層は指先で押す弱い圧力下でも、十分に金属の被着面になじみ、被着面に対する真の接触面積が大きくなるように若干の粘着性をもつと共に引きはがし、ずれで加えられる外力に耐えることのできる弾性をもつことが好ましい。これらのことに適するエラストマーの使用が望ましい。
【0100】
第1の発明のねじ溝塗着用液状組成物で使用されるエポキシ接着剤は、マイクロカプセルに封入、内包された形で配合される。そのようなエポキシ接着剤内包のマイクロカプセルは、加圧下で破壊すると、エポキシ接着剤を放出して予め組成物中に含有してあって、ねじ溝内の前記の被覆材層中に共存した硬化剤と反応して硬化反応を起こす。その結果、前記の被覆層材をもつ雄ねじは被着面に対して強い固着性を示す。
【0101】
第1の本発明組成物で用いられる液状又は半固体状のエポキシ樹脂型接着剤(単にエポキシ接着剤ともいう)として、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンを反応することによりグリシジルエーテル化して得たビスフェノールA型エポキシ樹脂が使用でき、あるいはビスフェノールFにエピクロルヒドリンを反応することによりグリシジルエーテル化して得たビスフェノールF型エポキシ樹脂も使用できる。また、ノボラック樹脂にエピクロルヒドリンを反応することによりオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂も適している。接着剤としてのエポキシ樹脂はいずれも液状又は半固体状のものが好ましい。
【0102】
又、マイクロカプセル中に封入しに際してエポキシ接着剤の粘度を下げるため、あるいは液状化を補助するため、反応性希釈剤、例えばモノエポキシド、ジエポキシド、トリエポキシドを0〜40wt%程度の割合で接着剤のエポキシ樹脂に混合してもよい。使用できるモノエポキシドの例には、n−ブチルグリシジルエーテル(BGE);フェニルグリシジルエーテル(PGE);3級カルボル酸グリシジルエステル(カージュラE)がある。
【0103】
また、第1の本発明組成物で用いられる硬化剤はエポキシ樹脂用の硬化剤として種々のものが考えられるが、本組成物液をねじに塗着、乾燥後には、粘着性が弱いのでパサパサするため固形粉体屑となるような性質の硬化剤は第1の本発明の主旨から好ましくない。むしろ硬化剤作用をもつのみでなく、粘着性を有するエラストマー弾性体としての性質も有している硬化剤物質が適する。硬化剤としてはポリアミド樹脂、ポリチオール樹脂、アミンアダクト樹脂等が適しており、特に粘弾性を持ったポリアミドが好ましい。このような硬化剤作用をもち且つ粘弾性体として働く硬化剤は常温度で100〜10,000mPa・sの粘度(ブルックフィールド回転粘度計で測定)をもつ硬化剤が好ましい。100mPa・sよりも小さい粘度をもつ硬化剤であると、粘弾性が低くなり、10,000mPa・s以上だと粘着性が劣り、且つ粘弾性が強すぎるので、ねじの締込み時の固形物屑の原因となりやすい。
【0104】
なお、硬化剤の粘度が10,000mPa・s以上だと分子量が大きくなり、硬化剤のアミン価は小さくなる。従ってエポキシ接着剤マイクロカプセルに対応して、エポキシ接着剤のもつエポキシ価に応じて考慮しながら、反応性アミノ基を持つ硬化剤の当量値を合わせようと配合するとすると、硬化剤の添加量が非常に多くなり、そのため、形成される被覆材層が厚くなりすぎて、ねじの締め込み時に生ずる成形物屑の一因となる。
【0105】
第1の発明の液状組成物に配合できるエラストマーとして好ましいアクリル系エラストマーは、その単独でも弾性体、粘着性付与剤および可塑剤の機能を合わせて有する良いエラストマーであると知られる。炭素数2〜12の脂肪族アルコールとアクリル酸とのアルキルエステルを、小さい割合量のアクリル酸および(または)アクリルアミドなどの極性モノマーと共に共重合させて作られたアクリル系共重合体よりなるエラストマーが使用に有利である。
【0106】
ゴム系エラストマーには、天然ゴム、合成イソプレンゴム、SBR、ボリイソブチレン、NBR等が適する。但しゴム系エラストマーでは、粘着性付与剤を追加するのが好ましく、また老化防止剤も配合するのが好ましい。
【0107】
シリコーン系エラストマーを用いる場合は、ゴム状ポリシロキサンと樹脂状ポリシロキサンとの混合物を用いて、これを過酸化物で架橋反応にかけた反応生成物が適する。これは、金属、テフロン(登録商標)、ポリイミドなどの基材にもよく接着でき、しかも耐老化性、耐熱性、耐溶剤性に優れる。
【0108】
ポリビニルエーテル系エラストマーには、ビニルエチルエーテルポリマー、ビニルブチルエーテルポリマー、ビニルイソブチルエーテルポリマーを使用でき、これらポリマーは、それの分子量の調節によりポリマーの粘着性、濡れ性を加減できる。
【0109】
第1の本発明の液状組成物では、その発明の一つの実施態様として、使用されるエラストマーは、水、もしくは水と水混和性溶媒、例えば酢酸エチルもしくはエタノール、アセトンまたはMEKとの混合物中に分散してなる水性エマルジョン液の形でも配合できる。アクリル系エラストマーを含む粘着性の水性エマルジョンが適する。エラストマーの水性エマルジョンは、乳化安定剤、増粘剤を配合された場合には金属に対して接着性が余り良くない。この場合、金属物質と有機物質との両方にそれぞれ親和性または化学反応性をもつ複数の官能基を保有するシラン系重合体または共重合体よりなる公知のカップリング剤から成る下地被覆層をねじ溝のねじ面に予じめ被着して置く対応策で対処できる。
【0110】
第1の発明の液状組成物で使用される潤滑剤はマイクロカプセル内に封入、内包された形で配合される。そのような潤滑剤内包のマイクロカプセルは、加圧下で破壊すると、潤滑剤を放出してねじ溝内の被覆材層に潤滑性を発現できる。ねじ締込み時に必要なトルクが低減でき、またねじ溝での摩擦発熱を減少できる作用効果がある。
【0111】
前記の潤滑剤としては、液状の石油系潤滑剤、例えば真空ポンプ油、切削油、ギア油、マシーン油を使用でき、あるいはねじの用途に応じて、シリコーン油、ポリフェニルエーテル、ニ塩基酸エステル、フルオロエステルなどを使用できる。
【0112】
第1の発明の組成物に用いるエポキシ接着剤、詳しく言えば、エポキシ樹脂型の反応性接着剤を内包のマイクロカプセル及び潤滑剤内包のマイクロカプセルは、in situ重合法、界面重合法、液中硬化法、コアセルベーション法、界面沈殿法あるいはスプレイドライ法の公知技法で作製できる。マイクロカプセルの壁材には、尿素樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、あるいはゼラチン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリアミドもしくはこれらの2種またはそれ以上の混合物よりなる公知の壁材を用い得る。マイクロカプセルの粒径は50〜300ミクロンの範囲であることができる。
【0113】
第1の発明の液状組成物では、その発明の別の一つの実施態様として、前記のエラストマーを含む粘着性のエラストマーの有機溶液が該組成物の液相として、含有され得る。このエラストマー有機溶液を作るには、使用エラストマーを溶解できる適当な有機溶媒、例えばトルエン、またはトルエン−酢酸エチル混合溶剤に、使用エラストマーを溶解するが、得られたエラストマー有機溶液がその塗着に必要で所望とされる粘稠度と粘着性との両方を収得できるのに適するエラストマーの添加量または濃度でエラストマーを溶解させるのがよい。
【0114】
上記の粘着性のエラストマー有機溶液には、市販の感圧接着剤中に補助成分として慣用的に配合される粘着性付与剤、可塑剤、着色料の少なくとも1つを追加的に配合してもよい。これら補助成分である粘着性付与剤、可塑材の種類、配合の添加量は、得られる第1の本発明の液状組成物で所望とされる物性、ならびに該組成物から形成された被覆材層(ねじ溝内の塗着乾燥された被覆材層)で所望とされる物性を考慮することにより適当に選択、調整できる。
【0115】
粘着性付与剤としては、ポリテルペン、フェノール変性ポリテルペン、油溶性フェノール、クマロンインデン、ロジン並びにその誘導体が適している。着色料が配合されると、ねじ溝内に塗着された被覆層の存在が識別できるから便利である。
【0116】
尚、一般に接着剤内包マイクロカプセルを含むねじ用緩み止め剤の場合、加圧時に該マイクロカプセルを破壊しやすくする目的で、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク等の微粒子が充填剤として加えられる。しかし、第1の本発明においては、微粒子が固体屑発生源として悪影響を与える可能性があるので、添加しないのがよいけれども、添加するにしても、粘着性組成物の全体に対して高々3重量%以下にするのが好ましい。元来、本発明の組成物の場合は、ねじ溝なしの下穴にねじ込んでねじ溝の切削成形する雄ねじに用いるので、このねじ込み時かなり強い圧力が加わって、この圧力がマイクロカプセルを破壊する手助けをすると考えられる。この意味からも、充填剤微粒子を添加するにしても、その量は0〜3重量%がよい。
【0117】
さらに、第1の発明の液状組成物では、その発明の一つの実施態様として、前記のエラストマーを、水媒質、もしくは水と水混和性溶剤とよりなる水性媒質中に分散、含有させて作られる粘着性の水性エマルジョン液を該組成物の液相として、含有し得る。該水性エマルジョン液に配合されるエラストマーの添加量または濃度は、該水性エマルジョン液をねじ溝の内面に塗着するのに必要であり且つ所望とされる粘稠度と粘着性との両方を該水性エマルジョン液に与えるように加減ができる。また、前述したと同様な理由から、補助成分として、前記の粘着性付与剤、可塑性、着色料、充填剤の少くとも1つを適当量で前記の水性エマルジョン液に追加的に配合してもよい。
【0118】
第1の発明のねじ溝塗着用組成物は、ねじ溝の内面に塗着、結合されて液状の塗着層を形成させることに足る十分な粘稠性と粘着性との両方を有することが必要であるから、その組成物それ自体が適度の粘稠性と粘着性との両方をもつことも必要とされる。しかし、本発明組成物をなす液相中に溶解して含まれた有機溶媒が必要以上の過剰量で存在するならば、その組成物の全体自体が初めに、過度に高い粘稠性をもち、ベトツキという過度の粘着性をもつ。それで、このような性質をもつ液状組成物をねじ溝に塗着すると、ねじのねじ溝全体がベトツキ状態になり、ベトツキ状態の塗着層をねじ面にもつねじは、それらの複数が互いに団結して1つの塊になる障害が起り易い。
【0119】
そのような理由から、第1の発明の液状組成物に含まれた液相に溶解、含有された有機溶媒の含量(濃度)は、必要以上に過剰にならないように加減することを要する。そのように溶解した有機溶媒の含量を加減する目的で、所要量の有機溶媒を、その有機溶媒を内包するマイクロカプセルの形で第1の発明の組成物の中の液相内に配合することが可能である。この有機溶媒内包のマイクロカプセルは、前記したエポキシ接着剤内包のマイクロカプセルと、潤滑剤内包のマイクロカプセルと同じ要領で作製できる。
【0120】
上記の有機溶媒内包のマイクロカプセルを含有した時の第1の発明の液状組成物の場合、この組成物をねじ溝の内面に塗着、乾燥することでねじ溝内に形成された被覆材層は、その中に有機溶媒内包のマイクロカプセルを分散して含有することになる。このような有機溶媒内包のマイクロカプセルを含有する被覆材層をねじ溝内に形成されてもつタッピングねじを、ワークピースの下穴にねじ込む時には、そのねじ込みの圧力で有機溶媒内包のマイクロカプセルは破壊され、有機溶媒が放出される。放出された有機溶媒は、被覆材層の内部を浸透する。このように浸透した有機溶媒は、被覆材層全体の粘着性を高めると共に、エポキシ接着剤内包のマイクロカプセル、潤滑剤内包のマイクロカプセルの破壊で放出されたエポキシ接着剤、潤滑剤の浸透、拡散を促進できる有利な効果を有する。
【0121】
第1の発明の液状組成物は、これの液相が全体として前記した有機溶液の型である場合にも、水性エマルジョン液の型である場合にも、該組成物をねじのねじ溝の内面に塗着し、得られた塗着層を溶媒または(および)の水の蒸発により乾燥または半乾燥させると、固体状または半固体状の被覆材層がねじ溝の谷底面とねじ山フランク面との上に形成される。この形成された被覆材層の内部には、本発明組成物中に含まれていた感圧性接着剤の主成分のエラストマー物質と、硬化剤とから由来する固体または半固体状の連続相、もしくは該エラストマー物質と粘着性付与剤との混合物が由来する固体または半固体状の連続相が在り、しかも、エポキシ接着剤マイクロカプセルと潤滑剤内包マイクロカプセルとが分散状態で該エラスマー物質と硬化剤とを含有の前記の固体または半固体状連続相に含有されている状態を示す。
【0122】
第1の本発明による液状組成物に含まれる各成分の好ましい配合割合の例は下記の通りである。
【0123】
エポキシ接着剤内包のマイクロカプセル 5〜14 重量部
潤滑剤内包のマイクロカプセル 2〜 8 重量部
硬化剤 5〜18 重量部
粘着性エラストマー 2〜15 重量部
粘着付与剤 0〜10 重量部
溶解用の溶媒または水性の分散媒質 20〜70 重量部
その他の成分として着色剤、充填剤、
可塑剤および(または)老化防止剤 0〜10 重量部

更に、本発明者らは、別途の研究を進めた。すなわち、第1の本発明のねじ溝塗着用液状組成物では、エラストマー物質とエポキシ接着剤用の硬化剤とが、それぞれに別々の成分物質として併用、配合されたけれども、エポキシ接着剤に対して反応性のアミノ基を含有し且つ25°Cで300〜8000 mPa・sの粘度(ブルツクフィールド回転粘度計で測定した粘度)を示すほどに高い分子量をもち、従って粘弾性を有してエラストマー物質としての性質をも有するポリアミド、例えば前記第6の実験で用いた商品名「ポリアミドG623」の市販ポリアミド(東都化成製)、を用いる場合には、エラストマー物質と硬化剤とを別々の成分物質としてねじ溝塗着用組成物内に第1の本発明の如くに配合することの必要性があるかを検討する一連の試験を行った。
【0124】

これらの一連の試験においては、(i)前記した第1の実験で用いたアクリル酸エステル共重合体(アクリル系粘着剤として知られる)に代えて、25°Cで2500 mPa・sの粘度をもつ前記の商品名「ポリアミドG623」のポリアミド(粘稠な液体状)をトルエン−エタノールの1:1(重合比)混合有機溶剤にほぼ65%(重量)の濃度で溶かして粘稠な有機溶液を作った。この有機溶液を、前記の第1の実験と同様に、スチール基板にはけ塗り法で塗着し、次に半乾燥して半固体状の被覆材層を基板上に形成した。この被覆材層に対して、第1の実験と同様に、アルミニウム薄板を軽い圧力下で接触、押圧すると、該被覆材はアルミニウム薄板に対して十分には良好な感圧接着力を余り発揮できないことが実験上でまづ知見できた。
【0125】

(ii)次に、前記のポリアミドG623を65重量%の濃度でトルエン−エタノール(1:1重量比)混合有機溶剤にとかした前記の粘稠な有機溶液に対して、ポリテルペン(粘着付与剤)をポリテルペン濃度がほぼ32%(重量)になるように追加、溶解して、粘着性の高い有機溶液を作った。この粘着性の高い有機溶液を、上記の(i)と同様にして、スチール基板にはけ塗り法で塗着し、次に半乾燥して半固体状の被覆材層を基板上に形成した。この被覆材層に対して、第1の実験と同様に、アルミニウム薄板を軽い圧力下で接触、押圧すると、該被覆材はアルミニウム薄板に対して良好な感圧接着力を発揮できたことが実験上で知見できた。
【0126】
(iii)さらに、上記の(ii)で得られたポリアミドG623とポリテルペンを含む粘着性の高い有機溶液に対して、前記の第2の実験で用いた真空ポンプ油内包のマイクロカプセルと、前記の第3の実験で用いたエポキシ接着剤内包のマイクロカプセル(すなわち、前記の第5の実験で用いた商品名「エピコート828」の市販のエポキシ樹脂型接着剤を内包のマイクロカプセル)とを均一に分散させ、これにより、ポリアミドG623とポリテルペンとを溶解状態で含み且つ前記の2種のマイクロカプセルを分散状態で含むねじ溝塗着用の粘稠で粘着性液状組成物(ホ)を調製した。
【0127】
(iv)上記の(iii)で調製したねじ溝塗着用組成物(ホ)を用いて、これを前記の第9の実験と同様にして、タッピングねじ溝内に塗着し、その塗着層を乾燥し、これで形成された被覆材層をねじ溝内に有するタッピングねじiを、第9の実験と同じ手法で試験した。第9の実験で得られたものと同様な実験結果が得られることが認められた。
【0128】
(v)前記の実験10で用いた商品名「ニカゾールTS−590B」で市販される粘着剤としての酢酸ビニル−アクリル酸アルキルエステル共重合体を分散状態で含む水性エマルジョン液Mに代えて、上記の(i)で用いたポリアミドG623を乳化剤としてのポリビニルアルコールの存在下に水に分散させて作られるポリアミドG623の水性エマルジョン液を調製して用意した。この水性エマルジョン液に対して、ポリテルペン(粘着付与剤)の乳化した水性エマルジョンを混和し、また、前記の真空ポンプ油内包のマイクロカプセルと、前記のエポキシ接着剤(エピコート828)内包のマイクロカプセルとを均一に分散させ、これにより、粘稠で粘着性の水性エマルジョンの形のねじ溝塗着用液状組成物(ヘ)を調製した。
【0129】
この水性エマルジョン型の液状組成物(ヘ)を、前記の第10の実験および第11の実験に示された各種の試験と同じ手法で試験した。その結果として、前記の液状組成物(ヘ)をねじ溝に塗着し、その塗着層を乾燥して形成された被覆層材をねじ溝内に有するタッピングねじjは、本発明の諸目的を達成できる三つの性能を満足に有することが知見された。
【0130】
その他、前記のポリアミドG623を、硬化剤を兼ねるエラストマー物質として含有するが、別段の硬化剤を含有しない各種の組成をもつ種々なねじ溝塗着用液状組成物を調製し、これらを前記と同様に試験したが、上記の(i)〜(v)で得られたと同様な試験結果を得ることができた。
【0131】
結局のところ、第2の本発明においては、エポキシ樹脂系接着剤に硬化剤として反応でき且つ粘弾性をもつポリアミドからなるエラストマー物質と、粘着性付与剤とを有機溶媒にまたは水混和性有機溶媒と水との混合溶媒に溶かして作られた粘着性の溶液である液相の中に、もしくは前記のポリアミドからなるエラストマー物質と粘着性付与剤とを水または水性媒質に分散させて作られた粘着性の水性エマルジョンまたは粘着性の水性分散液である液相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包するマイクロカプセルと常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包するマイクロカプセルとを均一に分散させて形成される粘稠な粘着性の液状組成物から構成されたことを特徴とするねじ溝塗着用液状組成物であって、しかも、該液状組成物を雄ねじ溝のフランク面と谷部に塗着してから、塗着された該液状組成物の塗着層を乾燥または半乾燥した時に雄ねじ溝内でねじ溝山フランク面と溝谷底部に形成された固体状または半固体状の被覆材層は、該被覆材層へ雄ねじの螺入時に生じる圧力を加えた場合に、該被覆材層内に在る潤滑剤内包のマイクロカプセルが破壊されて該マイクロカプセル内包の潤滑剤を放出でき、該被覆材層内に潤滑剤が浸透し、これにより前記の被覆材層の少くとも表面または全体が潤滑性、粘着性、感圧接着性を呈し得る性質を保有するものであること且つ該接着剤内包のマイクロカプセルが破壊されて放出された内包のエポキシ樹脂系接着剤がその被覆材層中に共存する該硬化剤と反応して硬化し、挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる性質を有することを特徴としており、さらに前記の固体状または半固体状の被覆材層をねじ溝内にもつ雄ねじを、ねじ溝なし素通しの下穴を予じめ設けた被加工部材の該下穴にねじ込み螺入する時に該下穴に切削成形される雌ねじ溝の壁から剥離される切削成形屑片、または雌ねじ溝に既存する他の固形屑片を粘着して結合し且つ該被覆材層中に取り込んで捕獲できる機能を該被覆材層は有し、またこの機能により、該切削成形屑片または他の固形屑が下穴内を落下、脱落するのを防止できる作用をもち、また該接着剤と硬化剤との硬化反応により挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる作用をもつ前記の固体状または半固体状の被覆材層を塗着された本組成物から形成できる性質を有することを特徴とする、雄ねじの螺入時に生ずる固形屑片を捕獲できて且つ挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる機能をもつねじ溝塗着用液状組成物が提供される。
【0132】
第2の本発明の塗着用組成物では、ポリアミドよりなるエラストマー物質は常温で粘稠な液体状または半固体状のものであることができる。該ポリアミドよりなるエラストマー物質は25°Cで300〜8000 mPa・sの粘度をもつ粘稠な液体状のポリアミドであることが好ましい。
【0133】
また、第2の本発明のねじ溝塗着用液状組成物の液相中には、有機溶媒を内包するマイクロカプセルが追加的に配合できるし、さらに該液相中には、可塑剤、着色剤、老化防止剤、充填剤の少くとも一つを追加的に配合することもできることは、第1の本発明の場合と同様である。
【0134】
第2の本発明による液状組成物に含まれる各成分の好ましい配合割合の例は下記の通りである。
【0135】

エポキシ接着剤内包のマイクロカプセル 7〜18 重量部
潤滑剤内包のマイクロカプセル 2〜 8 重量部
硬化剤を兼ねるエラストマーとしてのポリアミド 7〜24 重量部
粘着付与剤 2〜22 重量部
溶解用の有機溶媒または水性の分散媒質 20〜70 重量部
その他の成分として着色剤、充填剤、
可塑剤および(または)老化防止剤 0〜10 重量部

なお、第1または第2の本発明による液状組成物に配合されるエポキシ接着剤と硬化剤との好ましい配合比率は、基本的には、前記の非特許文献3の垣内著「新エポキシ樹脂」の588頁以降に説明されるように、硬化剤のもつアミン当量と、エポキシ樹脂接着剤のもつエポキシ当量との相対関係比を勘案して適当に加減される。けれども、理論的に、前記の配合比率の最適値を推定することは、かなり難しい。従って、実際には予備的な実験によりその配合比率の適当な値を選択することが好ましい。本発明の組成物のように複合的に種々な成分が配合されて複雑である。エポキシ接着剤内包マイクロカプセル、硬化剤、潤滑剤内包マイクロカプセル、その他、粘弾性エラストマー、粘着付与剤、充填剤、その他の成分には、反応性の官能基がかなり含まれるのでそれら各成分の配合割合の適当な値は予備の実験により決めるのがよい。例えば、後記の実施例1〜5で示すエポキシ樹脂としてのエピコート819またはエピコート828(各々のエポキシ当量は200と189である)を用いながら、ポリアミドG623(アミン価310、活性水素当量110)の硬化剤を用いた場合には、第1の本発明の組成物では、硬化剤量とエポキシ接着剤との比率は1.8:1〜1:1.2の範囲にあるのが実際上は好ましい。第2の発明の組成物では、ポリアミド・エラストマー物質の量に比べエポキシ接着剤の量は小さくする。
【0136】
さらに、第1の本発明の液状組成物でも、第2の本発明の液状組成物でも、これらを雄ねじ溝に塗着し、その塗着層を乾燥または半乾燥する時には、ねじ溝内に得られた固体または半固体状の被覆材層は、該組成物中に溶解および(または)分散されたエラストマー物質、硬化剤、粘着付与剤、その他の成分の混合物よりなる固体または半固体状の連続相の内部に、該組成物に分散されてあった各種のマイクロカプセルが分散状態で含有されてある固体または半固体状の組成物の形態を有するようになることが明らかであろう。
【0137】
従って、第3の本発明においては、第1の発明について記載されてあって、感圧接着剤用のエラストマー物質とエポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤とを、粘着性付与剤の添加と共にまたは添加なしで、有機溶媒、または水混和性有機溶媒と水との混合溶媒に溶かして作られた粘着性溶液である液相を含有する場合のねじ溝塗着用液状組成物を、ねじ溝に塗着した後に、該組成物の塗着層を有機溶媒、水の蒸発により乾燥または半乾燥することにより形成された固体状または半固体状の被覆材層であって、該被覆材層は、感圧接着剤の主成分である該エラストマー物質と、エポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相、もしくは該エラストマー物質と該硬化剤と該粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとが分散状態で配合されてなる該固体状または半固体状の組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層であり、そして前記の固体状または半固体状の被覆材層を、ねじ溝内に有することを特徴とするねじが提供される。
【0138】
第3の本発明のねじが有する被覆材層中には、有機溶媒を内包するマイクロカプセル、可塑剤、着色剤、老化防止剤および充填剤のうちの少なくとも一つが追加的に配合できる。
【0139】
第4の発明では、第1の本発明について記載されてあって、感圧接着剤用のエラストマー物質とエポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤とを、粘着性付与剤の添加と共にまたは添加なしで、水または水性媒質に分散させて作られた粘着性の水性エマルジョンまたは水性分散液である液相を含有する場合のねじ溝塗着用液状組成物を、ねじ溝に塗着した後に、該組成物の塗着層を水の蒸発により乾燥または半乾燥することにより形成された固体状または半固体状の被覆材層であって、該被覆材層は、感圧接着剤の主成分である該エラストマー物質と、エポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相、もしくは該エラストマー物質と該硬化剤と該粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとが分散状態で配合されてなる固体状または半固体状の組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層であり、そして前記の固体状または半固体状の被覆材層を、ねじ溝内に有することを特徴とするねじが提供される。
【0140】
第4の発明のねじにおいては、感圧接着剤の主成分であるエラストマー物質とエポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤との混合物よりなる固体または半固体状連続固体相、もしくは該エラストマー物質と該硬化剤と粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとが分散状態で配合されてなる固体状または半固体状組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層を、ねじ溝内に有すると共に、さらに該被覆材層の下方においてねじ溝壁面の上に、金属物質に親和性をもつかまたは化学的反応で結合力をもつ官能基と、有機質物質に親和性をもつかまたは化学的反応で結合力をもつ官能基とを保有するシラン系重合体または共重合体を含むカップリング剤よりなる下地被覆層も有することを特徴とするねじでありうる。
【0141】
第5の本発明においては、第2の本発明について記載されてあって、エポキシ樹脂系接着剤に硬化剤として反応でき且つ粘弾性をもつポリアミドからなるエラストマー物質と粘着性付与剤とを、有機溶媒にまたは水混和性有機溶媒と水との混合溶媒に溶かして作られた粘着性の溶液である液相を含有する場合のねじ溝塗着用液状組成物を、ねじ溝に塗着した後に、該組成物の塗着層を有機溶媒、水の蒸発により乾燥または半乾燥することにより形成された固体状または半固体状の被覆材層であって、該被覆材層は、前記ポリアミドよりなるエラストマー物質と該粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとが分散状態で配合されてなる固体状または半固体状組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層であり、そして前記の固体状または半固体状の被覆材層を、ねじ溝内に有することを特徴とするねじが提供される。
【0142】
第6の本発明において、第2の本発明に記載されてエポキシ樹脂系接着剤に硬化剤として反応でき且つ粘弾性をもつポリアミドからなるエラストマー物質と粘着性付与剤とを、水または水性媒質に分散して作られた粘着性の水性エマルジョンまたは粘着性の水性分散液である液相を含有する場合のねじ溝塗着用液状組成物を、ねじ溝に塗着した後に、該組成物の塗着層を水の蒸発により乾燥または半乾燥することにより形成された固体状または半固体状の被覆材層であって、該被覆材層は、前記ポリアミドよりなるエラストマー物質と該粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとが分散状態で配合されてなる固体状または半固体状組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層であり、該被覆材層を、ねじ溝内に有することを特徴とするねじでありうる。
【0143】
第6の本発明のねじでは、エポキシ樹脂系接着剤に硬化剤として反応でき且つ粘弾性をもつポリアミドからなるエラストマー物質と粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルを分散状態で配合させてなる固体状または半固体状組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層を、ねじ溝内に有すると共に、さらに該被覆材層の下方において、ねじ溝壁面の上に、金属物質に親和性をもつかまたは化学的反応で結合力をもつ官能基と、有機質物質に親和性をもつかまたは化学的反応で結合力をもつ官能基とを保有するシラン系重合体または共重合体を含むカップリング剤よりなる下地被覆層も有することを特徴とするねじでありうる。
【0144】
さらに、第4〜第6の本発明に記載のねじが有する被覆材層中には、有機溶媒を内包するマイクロカプセル、可塑剤、着色剤、老化防止剤および充填剤のうちの少なくとも一つが追加的に配合できる。
【0145】
第1または第2の発明のねじ溝塗着用組成物を塗着される雄ねじは、JIS規格で規定されたタッピングねじ(1種、2種、3種、4種、またAB型、B型の種々な型のねじでありうる)であることができ、タップタイトねじであることもできる。タップタイトねじにも、ねじ頭部がほぼ半球状のナベねじと、ねじ頭部がほぼ円錐形のサラねじがある。
【0146】
本発明のねじ塗着用組成物を塗着できる雄ねじの一例として、ナベねじの側面図解図を添付図面の図に示す。
【0147】
図1に示されたナベねじ(1)は、ほぼ半球状でねじ頭部(2)をもち、その頭部の下面は平らな座面(3)である。ねじ頭部(2)の頂面には、ねじドライバーと係合用の駆動穴(2´)をもつ。ねじ(1)の足は、雄ねじ溝つき脚部(4)であり、その雄ねじ溝はねじ山頂部(5)、フランク面(6)、ねじ溝谷底面(7)を有する。
【0148】
図1のナベねじのねじ込みにより、部材(ワークピース)(8)に、取付け用部品(10)を取付け、固定して得られた組立体の部分的縦断面の図解図を図2に示す。図2では、取付け用部品(10)に予じめ設けた溝なし開孔(11)を通して、ねじ(1)を、部材(ワークピース)(8)に設けた溝なし下穴(9)にねじ込む作業を行うことで、下穴(9)に雌ねじ溝を切削成形しながら、取付け用部品をワークピースに固定し、その取付け作業が終了した時の状態が図解的に示される。ねじ(1)の脚部のねじ溝の内に塗着された被覆材層は、図2では図示されない。使用したねじの(1)の脚部は、下穴全体をつきぬけるほどの長さをもたないから、ねじ込み終了後のねじの脚部より下方では、下穴(9)内に開いたまま残る開孔部(引出し線9の先端の個所)がある。
【0149】
図3は、サラねじ(1´)の側面図解図を示す。
【発明の効果】
【0150】
本発明の第1または第2の発明のねじ溝塗着用組成物は、ねじ溝の内面に塗布して乾燥後は、溶媒が揮発して固体状または半固体状被覆材層を形成できる。その被覆材層をねじ溝内にもつ雄ねじで、取付け部品を下穴付きワークピースに締結する場合に、下穴の雌ねじ溝の切削成形で発生する成形屑を即座にかつ完全に粘結して取り込み、捕獲できる。第1または第2の本発明組成物に含まれた潤滑剤内包のマイクロカプセルは、該組成物の塗着、乾燥で形成された被覆材層をもつねじのねじ込み時に、圧力が加わると、潤滑剤内包マイクロカプセルが破壊し、潤滑剤が流出し、被覆材層の表面の潤滑性を向上できる。その結果として、ワークピースの下穴に雌ねじ溝の切削が効率よくでき、切削成形屑の発生もきわめて少なくなる。従って、ねじのねじ込みに要するトルクも減少でき、かつ切削成形屑の発生を減少できる。たとえ、下穴の中に切削成形屑が発生したとしても、これを粘着、付着、取込み、捕獲できるので、これが下穴の下方の開孔部出口から脱落、飛散、落下することがない有利な効果が得られる。
【0151】
更に、ねじの締込み後の締め付けにより、第1または第2の本発明組成物から形成された被覆材層中に配合されたエポキシ接着剤内包のマイクロカプセルは、ねじ込み圧力下に破壊し、エポキシ接着剤が硬化剤と硬化反応を起こすので、ねじ締結部材が強固に固着されることができ、そして強い振動、衝撃に対して、該ねじが非常に優れた緩み止め効果を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0152】
以下に、本発明を実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0153】
第1の本発明によるねじ溝塗着用組成物の調製例と該組成物の性能試験例を下記の実施例1〜2で説明する。
【実施例1】
【0154】
(a) エポキシ樹脂よりなる反応性接着剤を内包するマイクロカプセルの作製
表題の接着剤内包マイクロカプセルをin situ法で作製する工程を行うために、まづ、メラミン8g、マレイン酸系界面活性剤2gを適当量の水に入れて完全に溶解した。得られた水溶液の中に反応性接着剤のエポキシ樹脂の一種として商品名、エピコート819(ジャパンエポキシレジン社製)のエポキシ樹脂の75gをディスペンサーを通して少量づつ滴下し、乳化分散させた。得られたエマルジョン液に重縮合触媒として37%ホルマリン15gを加え混合した。得られた反応混合物を加熱して65℃にした時点で、反応混合物を10%塩化アンモニウム液で、pH4.5に調整し、重縮合反応を進行させた。反応液中には、エポキシ樹脂型接着剤を内包の平均粒径60ミクロンのマイクロカプセルが生成したので、次後の工程に用いた。
【0155】
(b) 潤滑油を内包のマイクロカプセルの作製
表題の潤滑油内包マイクロカプセルをin situ法で作製する工程を行うために、まづ、ユレア42g、レゾルシン3g、塩化アンモニウム3g、マレイン酸系界面活性剤30gを適当量の水に入れて完全に溶解した。得られた水溶液の中に潤滑油の一種である、真空ポンプ油(74CSt)の300gを、ディスペンサーを通して少量づつ滴下し、乳化しながら分散させた。得られたエマルジョン液に重縮合触媒としてのホルマリン(37%水溶液)の120gを加えて良く混合した。得られた反応混合物を加熱して40℃にした時点で、反応混合物を塩酸の添加でpH2.5に調整し、さらに重縮合反応を40℃で3時間続けた。
【0156】
反応液中には、マイクロカプセルが生成した。反応終了後に、水酸化ナトリウム水溶液で反応液を中和し、水で希釈してから、マイクロカプセルを分け取り、遠心分離で脱水し、さらに風乾した。得られたマイクロカプセルは、壁材がユレア−レゾルシン共重合体からなり、内包材が真空ポンプ油であり、70ミクロンの平均粒径を有した。
【0157】
このように作製された真空ポンプ油内包のマイクロカプセルは、次後の工程で用いた。
【0158】
(c) 有機溶媒としてのトルエンを内包のマイクロカプセルの作製
上記の(a)の工程で用いた真空ポンプ油の代りに、トルエンの300gを用いたこと、および界面活性剤の使用量を0.5gに減らしたこと以外は、上記の(a)の工程と同じ手法により、in situ法でトルエン内包マイクロカプセルを作った。得られたトルエンを内包のマイクロカプセルは100ミクロンの粒径を有した。
【0159】
(d) 粘着性付与能と粘弾性をもつアクリル系共重合体よりなるエラストマーの製造
モノマーの形で、アクリル酸ブチルの20重量部、アクリル酸2エチルヘキシルの20重量部、アクリル酸の9重量部、メチルメタアクリレート(MMA)の30重量部、および酢酸ビニルの20重量部を、ベンゼン−酢酸エチル−トルエン−エタノールの3:2:2:3(容量比)の混合溶媒の適当量の中に完全に溶解した。得られたモノマー溶液に、重合開始剤としてアゾビスイソブチルニトリルと過酸化ベンゾイルとの1:1(重量比)の混合物を、1%(重量)の濃度に添加して溶解した。得られた反応混合物を加熱して70℃で7時間にわたり溶液重合で反応を行った。
【0160】
生成されたアクリル系共重合体よりなるエラストマーを含有する粘着性のエラストマー溶液(以下、粘着性エラストマー溶液Aという)が得られた。
【0161】
(e) 挿設したねじを固着できるねじ溝塗着用の液状組成物の調製
上記の各工程で作製したエポキシ樹脂接着剤(以下、単にエポキシ接着剤という)を内包のマイクロカプセル、潤滑油内包のマイクロカプセル、トルエン内包のマイクロカプセル、粘着性エラストマー溶液Aを下記の重量部の量で用いた。エポキシ接着剤用の硬化剤として市販されるポリアミドG535(粘稠な液体状、粘度300センチポイズ)の14重量部と、黄色着色剤FPGK-Yの2重量部を、トルエン−酢酸エチルの1:1(重量比)の混合有機溶剤の18重量部に溶解して、34重量部の粘稠な有機溶液を作った。前記の混合有機溶剤の別量20重量部に前記の3種のマイクロカプセルとエラストマー溶液Aを混合して得られた分散液を作った。この分散液を前記の粘稠な有機溶液と撹拌下に混合した。これによって、下記の組成をもつねじ溝塗着用の液状組成物Iを作製した。
【0162】

エポキシ接着剤内包のマイクロカプセル 12 重量部
真空ポンプ油内包のマイクロカプセル 3 重量部
トルエン内包のマイクロカプセル 6 重量部
硬化剤ポリアミドG535(粘度300CPS、東都化成製) 14 重量部
粘着性エラストマー溶液A 25 重量部
着色剤FPGK−Y(大日精化製) 2 重量部
有機溶剤(トルエン/酢酸エチル=1/1) 38 重量部

これによって、上記の液状組成物Iが外観が均一に見える粘稠な分散液型液体混合物の形でが総計100重量部の量で収得できた。この分散液型液体状混合物はアルミニウム板に塗着できる適度の粘度と付着性をもち、有色の、粘稠で粘着性の高い液状組成物(以下、ねじ塗着用組成物Iという)であった。この組成物Iは、アルミニウム板に塗付して乾燥すると、有機溶剤が揮発してアルミニウム板に良く結合した均一な膜厚の固体状の被覆材層を形成できた。その被覆材層は、これの断面を観察すると、エラストマー、ポリアミドおよび着色剤を含む固体状連続相よりなる母材組織(マトリックス)の中に、上記の3種のマイクロカプセル粒子が散在して含有されたことが認められた。
【0163】
(f) 雄ねじのねじ溝への塗着用液状組成物Iの塗着と、ねじ溝内での被覆材層の作製
タップタイトねじM3×6(ねじAという)と、普通の雄ねじM3×6(ねじBという)とを用意した。これらの2種のねじA、ねじBのそれぞれ複数本のねじ脚部のねじ溝内に、上記の(e)の工程で得た粘着性の高い液状組成物(すなわち、前記の塗着用組成物I)を浸漬法で塗着し、さらに空気中で風乾し、さらに60℃に加熱して有機溶剤を気化させて20分間乾燥した。ねじAに塗着された塗着用組成物Iから形成された乾燥した固体状被覆材層をねじ溝内にもつねじ試作品A−1が得られた。ねじ試作品A−1のねじ溝内の被覆材層は、ねじ溝の谷底面を完全に埋めて、しかもねじ山フランク面のうちの溝谷底隣接の一部領域を覆う形であると観察された。ねじBにも、同様に塗着用組成物Iを塗着し、次で前記と同様に後処理して、固体状被覆材層をねじ溝内にもつねじ試作品B−1を得た。
【0164】
(g) ねじ溝内に被覆材層をもつねじ試作品A−1およびB−1の性能の試験
(i) ねじ溝なしの下穴(口径2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのアルミニウム板をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(f)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−1を、直接に(すなわちワークピースへの取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝をタッピングで切削成形した。
【0165】
ねじ試作品A−1をワークピース下穴にねじ込むに要した締め込みトルクは、ほぼ約4.5kgf-cmの低い値で済んだ。ねじ込み作業中には、ワークピース下穴の下方出口から脱落した切削成形屑の量がきわめて少ないことが認められたので、ねじ込んだねじ試作品A−1のねじ溝内に形成された被覆材層が、タッピングで発生した切削成形屑の大部分と粘着、結合でき、そして被覆材層内部に取り込み、捕獲できたと推定できる。
【0166】
(ii) ワークピース下穴に一旦ねじ込み終わった上記のねじ試作品A−1を、ねじ戻すことによりワークピースから外した。取り外されたねじ試作品A−1のねじ溝内にある被覆層を切断したが、その被覆層の横断面中に散在した切削成形屑の金属粒子を観察できたが、マイクロカプセルは破壊されたので観察できない。従って、前記の被覆材層付きのねじ試作品A−1のねじ溝内にある被覆材層は、ワークピース下穴の中でタッピングで切削成形された雌ねじ溝から発生した成形屑を確実に取り込み捕獲できる機能を有効に発揮したことが認められた。
【0167】
(iii) ねじ溝なしの下穴(口径2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのアルミニウム板をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(f)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−1を、直接に(すなわちワークピースへの取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝をタッピングで切削成形した。それに続いてねじを10kgf・cmのトルク力で締め付けた後に、2日間放置した。この間に破壊したマイクロカプセルから放出されたエポキシ接着剤とポリアミドとの硬化反応が起り、ねじが固着した。固着したねじの巻き戻しトルクを測定したところエポキシ接着剤と、ポリアミドの硬化反応にともない生じた雄ねじ、雌ねじ面の間の固着力に由因して、戻しトルク値は10.5 kgf・cmと高い値を示した。従って、ねじの緩み止め機能を奏したことが認められた。
【0168】
尚、比較のため、前記(e)の液状組成物Iからエポキシ接着剤内包のマイクロカプセルとポリアミド硬化剤とを除いた組成をもつ比較の液状組成物I´をねじAに塗着してねじ試作品C−1を作成した。同様にワークピース下穴中にねじ試作品C−1をねじ込み、雌ねじのタッピング成形後に、10 kgf・cmの力でねじをで締め付けた。2日間放置後に、ねじの戻しトルクを測定したところ必要な戻しトルク値は7.5 kgf・cmであって、締め付けトルクより低い値を示したので、ねじの固着力が低いと認められた。
【0169】
(iv) また、別の比較のため、前記の(f)の工程で用意されたままのねじA(そのねじ溝内に前記の塗着用組成物Iを塗着する処理を受けなかった未加工のねじである)を、前記したアルミニウム板ワークピースの下穴(口径2.7mm)に直接にねじ込む作業を行った。この際、ねじ込みに要した締め込みトルクは、ほぼ24kgf-cmというきわめて高い値になり、しかも下穴の下方出口から脱落した切削成形屑の量は多量であったことが観察された。
【0170】
(v) 雌ねじ溝M3を切削成形された5mmのアルミニウム板をワークピースとして用意した。そのワークピースの雌ねじ溝M3を成形された下穴の中に、直接に、上記の(g)の工程で作製された被覆材層つきのねじ試作品B−1をねじ込む作業を行った。その下穴にねじ試作品B−1をねじ込み、締め込むのに要したトルクは、最大でもほぼ250gf-cmという小さい値であったので、円滑にねじ込み作業が進行した。また、すでに雌ねじ溝M3が成形ずみであることから当然にも、ワークピース下穴から脱落する固形屑を見ることができなかった。
【0171】
なお、ねじ込みして2日間放置後に、ワークピースの雌ねじ溝M3をもつ下穴から、一旦ねじ込んだねじ試作品B−1をねじ戻して外した。取り外されたねじ試作品B−1のねじ溝内にある被覆層の切断横断面を観察すると、その中に少量の金属粉が取り込まれ、捕獲されて散在するのが認められた。そのように取り込まれた少量の金属粉は、ワークピースに雌ねじ溝を切削成形した時に発生した切削成形屑の残渣として、ワークピースの雌ねじ溝の内面に付着、残留していた金属粉に由来したと推測できた。
【0172】
(vi) さらに、上記の(iv)で用意された雌ねじ溝M3を予じめ開孔されたアルミニウム板のワークピースの該雌ねじ溝に、また別の比較のため、上記の(f)の工程で用意したままの雄ねじM3×6(すなわち、ねじBであって、被覆層をねじ溝内に設けられなかったねじ)に、直接にねじ入れた。そのワークピース内の雌ねじ溝M3の出口から、少量の固形屑が脱落したのが認められた。
【実施例2】
【0173】
(a) エポキシ接着剤を内包するマイクロカプセルの作製
表題の接着剤内包マイクロカプセルをin situ法で作製する工程を行うために、まづ、ユレア35g、レゾルシン5g、塩化アンモニウム1g、マレイン酸系界面活性剤20gを適当量の水に入れて完全に溶解した。得られた水溶液の中にエポキシ接着剤として、商品名、エピコート828で市販のエポキシ樹脂の250gをディスペンサーを通して少量づつ滴下し、乳化しながら分散させた。得られたエマルジョン液に重縮合触媒としてホルマリン(37%水溶液)の70gを加えて良く混合した。得られた反応混合物を加熱して45℃にした時点で、反応混合物を5%塩酸を添加しpH2.5に調整し、さらに重縮合反応を45℃で3時間続行した。反応液中にはエポキシ接着剤内包のマイクロカプセルが生成した。反応終了後、水酸化ナトリウムで中和し、さらに脱水して乾燥した。得られたマイクロカプセルは、壁材がユレア−レゾルシン共重合体からなり、内包材がエポキシ接着剤であり、50ミクロンの平均粒径を有しており、これを次後の工程で用いた。
【0174】
(b) 潤滑油としての切削油を内包するマイクロカプセルの作製
表題の切削油マイクロカプセルをコアセルベーション法で作製する工程を行うために、まづ、ゼラチンの10%水溶液との200gと、アラビアゴムの10%水溶液200gとを良く混合した。得られた液状混合物の中に潤滑油の一種としての切削油(30CSt)の60gを、ディスペンサーを通して少量づつ滴下し、乳化しながら分散させた。得られたエマルジョン液に必要量の水を加えて良く混合したところ、コアセルベーションの反応が起きた。得られた反応混合物をほぼ+2℃に冷却し、硬化剤としてホルマリンを加えた。
【0175】
得られた液状混合物を、水酸化ナトリウム水溶液の添加でpH9.0に調整すると、ゼラチンとアラビアゴムとの硬化により生成したマイクロカプセル壁材をもち且つ切削油を内包したマイクロカプセルが生成した。
【0176】
こうして得られたマイクロカプセル含有のスラリー状混合物を、1〜2℃/分の昇温速度で加熱して50℃の温度に加熱した。その後、加温されたスラリー液をスプレイドライ法で乾燥すると、マイクロカプセルを収得できた。得られたマイクロカプセルは、壁材がゼラチン−アラビアゴムの硬化物からなり、内包材が切削油であり、90ミクロンの平均粒径を有した。
【0177】
このように作製された切削油内包のマイクロカプセルは、次後の工程で用いた。
【0178】
(c) 粘着性付与能と粘弾性をもつアクリロニトリル系共重合体のエラストマーの溶液の調製
市販された粘着剤である商品名「EC-776」の粘着剤(住友3M(株)製品)を用意した。この市販粘着剤は、粘着性のアクリロニトリル−ブタジエン共重合体を主成分とし、これとフェノール樹脂をメチルエチルケトン−アルコール混合溶剤に溶かしてある溶液であり、それの固形物含量が24%(重量)のものである。
【0179】
この市販粘着剤(EC-776)の約43重量部を、アセトンの約31重量部と混和することにより、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体を主剤とするエラストマーを含有する粘着性のエラストマー溶液(以下、粘着性エラストマー溶液Bという)が得られた。
【0180】
(d) 挿設後のねじを固着できるねじ溝塗着用の液状組成物の調製
上記の各工程で作製したエポキシ接着剤を内包するマイクロカプセルの11.0重量部と、切削油を内包するマイクロカプセルの3.0重量部とを、前記の混合有機溶剤(MEK−アセトン−トルエン)の別量、20重量部に分散させて分散液を作った。この分散液を前記の粘稠な粘着性エラストマー溶液Bと、硬化剤と、ポリテルペンと、着色剤と混合有機溶剤と共に撹拌下に混合した。これで下記の組成のねじ溝塗着用の液状組成物IIを調製した。
【0181】

エポキシ接着剤内包のマイクロカプセル 11.0 重量部
切削油内包のマイクロカプセル 3.0 重量部
硬化剤としてのポリアミド/ポリチオールの
(3:1 重量比)混合物 11.0 重量部
粘着性エラストマー溶液B 27.5 重量部
粘着付与剤(ポリテルペン) 5.4 重量部
青色着色剤ET Blue(大日精化製) 0.8 重量部
混合有機溶剤(MEK/アセトン/トルエンの
1:1:1混合物) 41.3 重量部

なお、前記の硬化剤としてのポリアミドは、市販のポリアミドG623(25°Cで2500 mPa・sの粘稠な液体、東都化成製)であり、ポリチオールは市販のポリチオールCP−3(25°Cで1200 mPa・sの粘稠な液体、東レ製)である。
【0182】
これによって、上記の液状組成物IIが外観で均一に見える粘稠な分散液型液体混合物の形として総計100重量部の量で取得できた。この分散液型の液体状混合物はアルミニウム板に塗着できる適度の粘度と付着性をもち、有色の粘調で粘着性の高い液状組成物(以下、ねじ塗着用組成物IIという)であった。この組成物IIは、アルミニウム板に塗付して乾燥すると、有機溶剤が気化してアルミニウム板によく結合した均一な膜厚の固体状の被覆材層を形成できた。その被覆材層は、その断面を観察すると、エラストマー、硬化剤、ポリテルペンおよび着色剤を含む固体状連続相よりなる母材組織(マトリックス)の中に、前記2種のマイクロカプセル粒子が散在して含有されたことが認められる。
【0183】
(e) 雄ねじのねじ溝への塗着用液状組成物IIの塗着と、ねじ溝内での被覆材層の作製
タップタイトねじM3×6(ねじAという)を用意した。このねじAの複数本のねじ脚部のねじ溝内に、上記の(d)の工程で得た粘着性の高い液状組成物(すなわち、前記の塗着用組成物II)を浸漬法で塗着し、さらに空気中で風乾し、さらに60℃に加熱して有機溶剤を気化させ、20分間乾燥した。ねじAに塗着された塗着用組成物IIから形成された乾燥した固体状被覆材層をねじ溝内にもつねじ試作品A−2が得られた。ねじ試作品A−2のねじ溝内の被覆材層は、ねじ溝の谷底面を完全に埋めて、しかもねじ山フランク面のうちの溝谷底隣接の一部領域を覆う形であると観察された。
【0184】
(f) ねじ溝内に被覆材層をもつねじ試作品A−2の性能の試験
(i) ねじ溝なしの下穴(口径2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのマグネシウム合金をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(e)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−2を、直接に(ワークピースへの取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝をタッピングで切削成形した。
【0185】
ねじ試作品A−2を下穴にねじ込むに要した締め込みトルクは、ほぼ約6kgf-cmの低い値で済んだ。ねじ込み作業中には、ワークピース下穴の下方出口から脱落した切削成形屑の量がきわめて少ないことが認められたので、ねじ込んだねじ試作品A−2のねじ溝内に形成された被覆材層が、発生した切削成形屑の大部分を粘着、結合できて被覆材層内部に取り込み、捕獲できたと推定できる。
【0186】
(ii) ワークピース下穴に一旦ねじ込み終わった上記のねじ試作品A−2を、ねじ戻すことによりワークピースから外した。取り外されたねじ試作品A−2のねじ溝内にある被覆層を切断したが、その被覆層横断面中に散在した切削成形屑の金属粒子を観察できたが、マイクロカプセルは破壊されたので観察できない。従って、前記の被覆材層付きのねじ試作品A−2のねじ溝内にある被覆材層は、ワークピース下穴の切削成形された雌ねじ溝から発生した成形屑を確実に取り込み捕獲できる機能を有効に発揮したことが認められた。
【0187】
(iii) ねじ溝なしの下穴(口径2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのマグネシウム合金をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(e)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−2を、直接に(ワークピースへの取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝をタッピングで切削成形した。それに続いてねじを10kgf-cmのトルク力で締め付けた。1日間放置した。この間に、マイクロカプセルから放出されたエポキシ接着剤が硬化剤と反応した。その後、ねじの巻き戻しトルクを測定したところエポキシ接着剤の硬化反応で生じたねじ溝面間の固着力に由因して、戻しトルク値は10.5kgf-cmと高い値を示した。
【0188】
尚、比較のため、(d)の塗着用組成物IIからエポキシ接着剤内包マイクロカプセルと硬化剤とを除いた組成をもつ液状組成物II´をねじAに塗着して、ねじ試作品C−2を作った。これを同様にワークピース下穴中にねじ込み、雌ねじ成形を行い、さらにねじC−2を10kgf-cmのトルク力で締め付けた。1日間放置後に、ねじの戻しトルクを測定したところ7.8 kgf-cmであって、締め付けトルクより低い値を示したので、ねじの固着力が弱いと認められた。
【0189】
(iv) 他方、前記の(e)の工程で用意されたままのねじA(そのねじ溝内に前記の組成物Aを塗着する処理を受けなかった未加工のねじである)を、前記したアルミニウム板ワークピースの下穴(口径2.7mm)に直接にねじ込む作業を行った。この際、ねじ込みに要した締め込みトルクは、ほぼ22kgf-cmというきわめて高い値になり、しかも下穴の下方出口から脱落した切削成形屑の量は多量であったことが観察された。
【0190】
第2の本発明によるねじ塗着用組成物の調製例と該組成物の性能試験例を下記の実施例3と実施例5で示す。
【実施例3】
【0191】
(a) エポキシ樹脂よりなる接着剤を内包するマイクロカプセルの作製
実施例2、(a)で作製したと同様にして、エポキシ接着剤を内包するマイクロカプセルを作製して用いた。
【0192】
(b) 潤滑油としての切削油を内包するマイクロカプセルの作製
実施例2、(b)で作製したと同様にして、切削油を内包するマイクロカプセルを作製して用いた。
【0193】
(c) 挿設後のねじを固着できるねじ溝塗着用の液状組成物の調製
本実施例3においては、実施例1または2で用いた感圧接着剤用のエラストマー(弾性体)を全く用いず、その代りに、エラルトマー性をもつ、すなわち粘弾性をもつポリアミドとして、市販のポリアミドG623(25°Cで粘度2500 mPa・sの粘稠液体、東都化成製)を、硬化剤を兼ねるエラストマー物質として準備して用いた。
【0194】
市販のポリアミドG623の16重量部と、ポリテルペン(粘着付与剤)の13重量部と、赤色着色剤の2重量部とをトルエン−エタノールの1:1(重量比)の混合有機溶剤の25重量部に溶かして粘稠な有機溶液を作った。
【0195】
上記の(a)、(b)で作製、準備したエポキシ接着剤を内包するマイクロカプセルの16重量部と、切削油を内包するマイクロカプセルの4重量部を、前記の混合有機溶剤の別量、24重量部に分散して分散液を作った。この分散液を前記の粘稠な有機溶液と撹拌下に混合して、下記の組成をもつねじ溝塗着用の液状組成物IIIを調製した。
【0196】

エポキシ接着剤内包のマイクロカプセル 16 重量部
切削油内包のマイクロカプセル 4 重量部
硬化剤を兼ねるエラストマーとしての
市販のポリアミドG623 16 重量部
粘着付与剤(ポリテルペン) 13 重量部
赤色着色剤FPGK−RED(大日精化製) 2 重量部
混合有機溶剤 トルエン−エタノールの
(1:1)混合物 49 重量部

これによって、上記の液状組成物IIIが外観で均一に見える粘稠な分散液型液体混合物の形として総計100重量部の量で取得できた。この分散液型の液体状混合物はアルミニウム板に塗着で切る適度の粘度と付着性をもち、有色の粘調で粘着性の高い液状組成物(以下、ねじ塗着用組成物IIIという)であった。この組成IIIは、アルミニウム板に塗付して乾燥すると、有機溶剤が気化してアルミニウム板によく結合した均一な膜厚の固体状の被覆材層を形成できた。その被覆材層は、それの断面を観察すると、前記のポリアミド、ポリテルペンおよび着色剤を含む固体状連続相のよりなる母材組織(マトリックス)の中に、前記の2種のマイクロカプセル粒子が散在して含有されたことが認められる。
【0197】
(d) 雄ねじのねじ溝への塗着用液状組成物IIIの塗着と、ねじ溝内での被覆材層の作製
タップタイトねじM3×6(ねじAという)を用意した。このねじAの複数本のねじ脚部のねじ溝内に、上記の(e)の工程で得た粘着性の高い液状組成物(すなわち、前記の塗着用組成物III)を浸漬法で塗着し、さらに空気中で風乾し、さらに60℃に加熱して有機溶剤を気化させ、20分間乾燥した。ねじAに塗着された塗着用組成物IIIから形成された乾燥した固体状被覆材層をねじ溝内にもつねじ試作品A−3が得られた。ねじ試作品A−3のねじ溝内の被覆材層は、ねじ溝の谷底面を完全に埋めて、しかもねじ山フランク面のうちの溝谷底隣接の一部領域を覆う形であると観察された。
【0198】
(e) ねじ溝内に被覆材層をもつねじ試作品A−3の性能の試験
(i) ねじ溝なしの下穴(口径2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのマグネシウム合金板をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(d)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−3を、直接に(ワークピースへの取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝を切削成形した。
【0199】
ねじ試作品A−3を下穴にねじ込むに要した締め込みトルクは、ほぼ約5kgf-cmの低い値で済んだ。ねじ込み作業中には、ワークピース下穴の下方出口から脱落した切削成形屑の量がきわめて少ないことが認められたので、ねじ込んだねじ試作品A−3のねじ溝内に形成された被覆材層が、発生した切削成形屑の大部分を粘着、結合できて被覆材層内部に取り込み、捕獲できたと推定できる。
【0200】
(ii) ワークピース下穴に一旦ねじ込み終わった上記のねじ試作品A−3を2日間放置後に、ねじ戻すことによりワークピースから外した。取り外されたねじ試作品A−3のねじ溝内にある被覆層を切断したが、その被覆層横断面中に散在した切削成形屑の金属粒子を観察できたが、マイクロカプセルは破壊されて観察できない。従って、前記の被覆材層付きのねじ試作品A−3のねじ溝内にある被覆材層は、ワークピース下穴の切削成形された雌ねじ溝から発生した成形屑を確実に取り込み捕獲できる機能を有効に発揮したことが認められた。
【0201】
(iii) ねじ溝なしの下穴(口径2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのマグネシウム合金板をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(d)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−3を、直接に(取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝をタッピングで切削成形した。それに続いてねじを10kgf-cmのトルク力で締め付けた。その後、2日間放置した。破壊されたマイクロカプセルから放出されたエポキシ接着剤はポリアミドと硬化反応を起こした。その後、ねじの戻しトルクを測定したところ、エポキシ接着剤の硬化反応で生じたねじ溝面間の固着力に由因して、高い戻しトルク値が生じ11.0kgf-cmの高い値を示した。
【0202】
尚、比較のため(c)の塗着用液状組成物IIIからエポキシ接着剤内包マイクロカプセルとポリアミドとを除いた組成をもつ液状組成物III´を調製し、これをねじAに塗着した試作品C−3を作った。これを前記と同様にワークピース下穴中にねじ込み、雌ねじ成形をタッピングで行った。それから、ねじC−3を10kgf-cmの力で締め付けた。その後に、2日間放置してから戻しトルクを測定したところ、必要な戻しトルク値は7.8 kgf-cmであって、締め付けトルクより低い値を示した。
【0203】
(iv) 他方、前記の(d)の工程で用意されたままのねじA(そのねじ溝内に前記の塗着用組成物IIIを塗着する処理を受けなかった未加工のねじである)を、前記したマグネシウム合金板ワークピースの下穴(口径2.7mm)に直接にねじ込む作業を行った。この際、ねじ込みに要した締め込みトルクは、ほぼ22kgf-cmというきわめて高い値になり、しかも下穴の下方出口から脱落した切削成形屑の量は多量であったことが観察された。
【0204】
さらに、第1の本発明による、分散媒として水を含む場合のねじ溝塗着用組成物の調製例と該組成物の性能試験例を下記の実施例4〜5で示す。
【実施例4】
【0205】
(a) エポキシ接着剤を内包するマイクロカプセルの作製
表題の接着剤内包マイクロカプセルをin situ法で作製する工程を行うために、まづ、実施例2、(a)と同条件で、ユレア35g、レゾルシン5g、塩化アンモニウム1.0gマレイン酸系界面活性剤20gを適当量の水に入れ完全に溶解した。得られた水溶液の中にエポキシ接着剤として、商品名、エピコート828で市販されるエポキシ樹脂の250gをディスペンサーを通して少量づつ滴下し、乳化しながら分散させた。得られたエマルジョン液に重縮合触媒としてホルマリン(37%水溶液)の70gを加えて良く混合した。得られた反応混合物を加熱して45℃にした時点で、反応混合物を5%塩酸を添加しpH2.5に調整し、さらに重縮合反応を45℃で3時間続行した。反応液中にはエポキシ接着剤内包のマイクロカプセルが生成した。反応終了後、水酸化ナトリウムで中和し、遠心分離で脱水し、乾燥した。得られたマイクロカプセルは、壁材がユレア−レゾルシン共重合体からなり、内包材がエポキシ接着剤であり、50ミクロンの平均粒径を有しており、次後の工程で用いた。
【0206】
(b) 潤滑油としての真空ポンプ油を内包するマイクロカプセルの作製
表題の真空ポンプ油内包のマイクロカプセルをin situ法で作製する工程を行うために、まづ、メラミン6g、マレイン酸系界面活性剤1.4gを適当量の水に入れて完全に溶解した。得られた水溶液の中に潤滑油の一種としての、真空ポンプ油(80CSt)の60gを、ディスペンサーを通して少量づつ滴下し、乳化しながら分散させた。得られたエマルジョン液に重縮合触媒として37%ホルマリン16gを加えて良く混合した。得られた反応混合物を加熱して65℃にした時点で、反応混合物を塩化アンモニウム1.6gの添加でpH4.5に調整し、さらに重縮合反応を続けた。反応液中には、マイクロカプセルが生成した。
【0207】
反応終了後に、水酸化ナトリウム水溶液で反応液を中和し、水で希釈してから、マイクロカプセルを分け取り、遠心分離で脱水し、さらに風乾した。得られたマイクロカプセルは、壁材がメチロールメラミン重合体からなり、内包材が真空ポンプ油であり、60ミクロンの平均粒径を有した。
【0208】
このように作製された真空ポンプ油内包のマイクロカプセルは、次後の工程で用いた。
【0209】
(c) 粘着性付与能と粘弾性をもつ酢酸ビニル−アクリル酸アルキルエステル共重合体のエラストマーを分散粒子として含む水性エマルジョン液の調製
市販されたエマルジョン型粘着剤である商品名「ニカゾール TS-590B」の粘着剤(日本カーバイト(株)製品)を用意した。この市販粘着剤は、粘着性の酢酸ビニル−アクリル酸アルキルエステル共重合体を主成分とし、これを分散粒子として含み且つ界面活性剤を水に溶かしてなる水性エマルジョンの形であり、それの固形物含量が58%(重量)のものである。
【0210】
この市販粘着剤(ニカゾール TS-590B)の約54重量部を、水の約36重量部と混和することにより、前記の共重合体を主剤とするエラストマーの分散粒子を含有する粘着性の水性エマルジョン液(以下、粘着性エラストマーエマルジョンAという)が得られた。
【0211】
(d) 硬化剤としてのポリアミドの分散粒子を含む水性エマルジョンの調製
ポリビニルアルコール(乳化剤)の10%水溶液10重量部の中に、エポキシ接着剤用の硬化剤として市販のポリアミド樹脂(商品名G623、東都化成製)の10重量部を滴下し、さらに攪拌乳化することにより、硬化剤としてのポリアミドの分散粒子を含む水性エマルジョンを作成した。
【0212】
(e) 挿設後のねじを固着できるねじ溝塗着用の液状組成物の調製
上記の各工程で作製したエポキシ接着剤を内包するマイクロカプセル、真空ポンプ油内包のマイクロカプセル、粘着性エラストマーエマルジョンA及び硬化剤ポリアミドの水性エマルジョンを下記の量で用いて、しかも青色着色料と若干の水を加えた上で十分に混合、分散させることにより、下記の組成をもつねじ溝塗着用の液状組成物IVを調製した。
【0213】

エポキシ接着剤内包のマイクロカプセル 10 重量部
硬化剤としてポリアミドの
分散粒子を含む水性エマルジョン 20 重量部
真空ポンプ油内包のマイクロカプセル 4 重量部
粘着性エラストマーエマルジョンA 40 重量部
青色着色剤 EP Blue(大日精化製) 2 重量部
水 24 重量部

これによって、上記の液状組成物IVが外観で均一に見える粘稠な液体混合物の形として総計100重量部の量で収得できた。この液体状混合物はアルミニウム板に塗着できる適度の粘度と付着性をもち、有色の、粘稠で粘着性の高い液状組成物(以下、ねじ塗着用組成物IVという)であった。この組成物IVは、アルミニウム板に塗付して水分の蒸発により乾燥すると、アルミニウム板に良く結合した均一な膜厚の固体状の被覆材層を形成できた。その被覆材層は、それの断面を観察すると、前記エラストマー、ポリアミドおよび着色剤を含む固体相よりなる母材(マトリックス)の中に、前記の2種のマイクロカプセル粒子が散在して含有されたことが認められた。
【0214】
(f) 雄ねじのねじ溝への塗着用液状組成物IVの塗着と、ねじ溝内での被覆材層の作製
タップタイトねじM3×6(ねじAという)の複数本のねじ脚部のねじ溝内に、上記の(e)の工程で得た粘着性の高い液状組成物(すなわち、前記のねじ溝塗着用組成物IV)を浸漬法で塗着し、さらに空気中で風乾し、さらに60℃に加熱して20分間乾燥した。ねじAに塗着された塗着用組成物IVから形成された乾燥した固体状被覆材層をねじ溝内にもつねじ試作品A−4が得られた。ねじ試作品A−4のねじ溝内の被覆材層は、ねじ溝の谷底面を完全に埋めて、しかもねじ山フランク面のうちの溝谷底隣接の一部領域を覆う形であると観察された。
【0215】
(g) ねじ溝内に被覆材層をもつねじ試作品A−4の性能の試験
(i) ねじ溝なしの下穴(口径2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのアルミニウム板をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(d)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−4を、直接に(取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝をタッピングで切削成形した。
【0216】
ねじ試作品A−4を下穴にねじ込むに要した締め込みトルクは、ほぼ約4kgf-cmの低い値で済んだ。ねじ込み作業中には、ワークピース下穴の下方出口から脱落した切削成形屑の量がきわめて少ないことが認められたので、ねじ込んだねじ試作品A−4のねじ溝内に形成された被覆材層が、発生した切削成形屑の大部分と粘着、結合できて被覆材層内部に取り込み、捕獲できたと推定できる。
【0217】
(ii) ワークピース下穴に一旦ねじ込み終わった上記のねじ試作品A−4を、ねじ戻すことによりワークピースから外した。外されたねじ試作品A−4のねじ溝内にある被覆層を切断したが、その被覆層横断面中に散在した切削成形屑の金属粒子を観察できたが、マイクロカプセルは破壊されて観察できない。従って、前記の被覆材層付きのねじ試作品A−4のねじ溝内にある被覆材層は、ワークピース下穴の切削成形されたねじ溝から発生した成形屑を確実に取り込み捕獲できる機能を有効に発揮したことが認められた。
【0218】
(iii) ねじ溝なしの下穴口径(2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのアルミニウム板をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(f)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−4を、直接に(取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝をタッピングで切削成形した。それに続いてねじを10kgf・cmの力で締め付けた。その後2日間放置した。破壊されたマイクロカプセルから放出されたエポキシ接着剤は、ポリアミドとの反応で硬化した。その後に、ねじの戻しトルクを測定したところエポキシ接着剤−ポリアミドの硬化反応で生じた雄ねじ、雌ねじ間の固着力に由因して、10.2 kgf・cmと高い値の戻しトルク力を要した。
【0219】
比較のため、(e)の塗着用組成物IVからエポキシ接着剤内包のマイクロカプセルと硬化剤ポリアミドのエマルジョンとを除いた組成をもつ液状組成物IV´を作った。これをねじAに塗着した試作品C−4を作った。これを前記と同様にワークピース下穴中にねじ込み、雌ねじ成形後にねじを10 kgf・cmの力で締め付けた。その後2日間放置した。固着したねじ試作品C−4の戻しトルクを測定したところ、7.0 kgf・cmであって、締め付けトルクより低い値を示しねじの固着力が弱いものであった。
【0220】
(iv) また、別の比較のため、前記の(f)の工程で用意されたままのねじA(そのねじ溝内に前記の組成物IVを塗着する処理を受けなかった未加工のねじである)を、前記したアルミニウム板ワークピースの下穴(口径2.7mm)に直接にねじ込む作業を行った。この際、ねじ込みに要した締め込みトルクは、ほぼ25kgf-cmというきわめて高い値になり、しかも下穴の下方出口から脱落した切削成形屑の量は多量であったことが観察された。
【0221】
(h) なお、前記の(f)の工程に用いたねじM3×6(ねじA)の雄ねじ溝内に、市販のシランカップリング剤KBE903(信越化学(株)製品)とエタノールとの1:2の重量比の液状混合物を塗着し、次いでほぼ10分間自然間乾燥し、カップリング剤下地層を設ける予備処理を行った。このようにカップリング剤下地層をねじ溝内にもつねじA´に対して、上記の(f)工程と同様にして、(f)工程で用いた塗着用組成物IVを浸漬法で塗着した。
【0222】
さらに、塗着用組成物IVをこのように上塗り塗着されたねじA´を、前記の(f)工程と同様にさらに処理をした。これによりねじ試作品A−5(第4の発明によるねじ)を作製した。
【0223】
このねじ試作品A−5を、前記ねじ試作品A−4での試験を示す前記の(g)の性能試験と同様のねじの性能試験にかけた。この場合に、ねじ試作品A−5は、ねじ試作品A−4に比べて塗膜の密着力が優れ、成形屑の吸着、捕獲力及びねじ固着力はA−4と同様の性能を有することが認められた。
【実施例5】
【0224】
(a) エポキシ接着剤を内包するマイクロカプセルの作製
実施例4、(a)に記載されると同じ要領にて、エポキシ接着剤として、商品名、エピコート828で市販されるエポキシ樹脂を内包のマイクロカプセルを調製した。得られたマイクロカプセルは、壁材がユレア−レゾルミン共重合体からなり、内包材がエポキシ接着剤であり、50ミクロンの平均粒径を有しており、次後の工程で用いた。
【0225】
(b) 潤滑油としての真空ポンプ油を内包するマイクロカプセルの作製
実施例4、(b)に記載されると同じ要領にて表題の潤滑油内包マイクロカプセルを調製した。得られたマイクロカプセルは、壁材がメチロールメラミン重合体からなり、内包材が真空ポンプ油であり、60ミクロンの平均粒径を有した。このように作製された真空ポンプ油内包のマイクロカプセルは、次後の工程で用いた。
【0226】
(c) エポキシ接着剤用の硬化剤としての作用も兼備するポリアミドエラストマーを分散粒子として含む水性エマルジョン液の調製
実施例3、(c)で用いた市販のポリアミドG623(東都化成製)の10重量部をポリビニルアルコール(乳化剤)の10%水溶液の10重量部と撹拌下に混和することにより、該ポリアミドエラストマーの分散粒子を含有する粘着性の水性エマルジョン液(以下、粘着性エラストマー・エマルジョンB”という)が得られた。
【0227】
(d) 粘着付与剤としてのポリテルペンの分散粒子を含む水性エマルジョンの調製
粘着付与剤としてポリテルペンを乳化剤と共に含むエマルジョン型粘着付与剤として、市販の商品名ナノレットR−1050の水性エマルジョン(固形分50重量%)(ヤスハラケミカル社製)を準備した。該水性エマルジョンに等量の水を加え希釈して、ポリテルペン水性エマルジョンを調製した。
【0228】
(e) 挿設後のねじを固着できるねじ溝塗着用の液状組成物の調製
(i) 上記の各工程で作製したエポキシ接着剤を内包するマイクロカプセルの10重量部と、真空ポンプ油内包のマイクロカプセルの4重量部とを水の20重量部と撹拌下に混和し、これによって、前記2種のマイクロカプセルの水性分散液を調製した。
【0229】
(ii) 前記の(c)で調製したポリアミドG623のエラストマーエマルジョンBの20重量部と、(d)で調製した粘着付与剤(ポリテルペン)のエマルジョン(ナノレットR−1050)を水で希釈したポリテルペン水性エマルジョンの40重量部と着色剤Blue(大日精化製)の2重量部を水の4重量部とよく撹拌下に混和し、これにより着色した複合エマルジョン液を調製した。
【0230】
(iii) 上記の(e)、(i)で得たマイクロカプセル水性分散液を、上記の(e)、(ii)で得た複合エマルジョン液と撹拌下に混和することにより、第2の本発明のねじ溝塗着用の液状組成物Vを作製した。得られたねじ溝塗着用の液状組成物Vは下記の組成を有した。
【0231】

エポキシ接着剤内包のマイクロカプセル 10 重量部
硬化剤を兼ねるエラストマーとして
ポリアミドG623の分散粒子を含む
水性エマルジョンB 20 重量部
真空ポンプ油内包のマイクロカプセル 4 重量部
ポリテルペンの水性エマルジョン 40 重量部
青色着色剤 EP Blue(大日精化製) 2 重量部
水 24 重量部

これによって、上記の液状組成物Vが外観で均一に見える粘稠な液体混合物の形として総計100重量部の量で収得できた。この液体状混合物はアルミニウム板に塗着できる適度の粘度と付着性をもち、有色の、粘稠で粘着性の高い液状組成物(以下、ねじ塗着用組成物Vという)であった。この組成物Vは、アルミニウム板に塗付して水分の蒸発により乾燥すると、アルミニウム板に良く結合した均一な膜厚の固体状の被覆材層を形成できた。その被覆材層は、それの断面を観察すると、前記のポリアミド、ポリテルペンおよび着色剤を含む固体相よりなる母材組織(マトリックス)の中に、前記の2種のマイクロカプセル粒子が散在して含有されたことが認められた。
【0232】
(f) 雄ねじのねじ溝への塗着用液状組成物Vの塗着と、ねじ溝内での被覆材層の作製
タップタイトねじM3×6(ねじAという)の複数本のねじ脚部のねじ溝内に、上記の(e)の工程で得た粘着性の高い液状組成物(すなわち、前記のねじ溝塗着用組成物V)を浸漬法で塗着し、さらに空気中で風乾し、さらに60℃に加熱して20分間乾燥した。ねじAに塗着された塗着用組成物Vから形成された乾燥した固体状被覆材層をねじ溝内にもつねじ試作品A−6が得られた。ねじ試作品A−6のねじ溝内の被覆材層は、ねじ溝の谷底面を完全に埋めて、しかもねじ山フランク面のうちの溝谷底隣接の一部領域を覆う形であると観察された。
【0233】
(g) ねじ溝内に被覆材層をもつねじ試作品A−6の性能の試験
(i) ねじ溝なしの下穴(口径2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのアルミニウム板をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(d)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−6を、直接に(取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝をタッピングで切削成形した。
【0234】
ねじ試作品A−6を下穴にねじ込むに要した締め込みトルクは、ほぼ約4kgf-cmの低い値で済んだ。ねじ込み作業中には、ワークピース下穴の下方出口から脱落した切削成形屑の量がきわめて少ないことが認められたので、ねじ込んだねじ試作品A−6のねじ溝内に形成された被覆材層が、発生した切削成形屑の大部分と粘着、結合できて被覆材層内部に取り込み、捕獲できたと推定できる。
【0235】
(h) なお、前記の(f)の工程に用いたねじM3×6(ねじA)の雄ねじ溝内に、市販のシランカップリング剤KBE903(信越化学(株)製品)とエタノールとの1:2の重量比の液状混合物を塗着し、次いでほぼ10分間自然間乾燥し、カップリング剤下地層を設ける予備処理を行った。このようにカップリング剤下地層をねじ溝内にもつねじA´に対して、上記の(f)工程と同様にして、(f)工程で用いた塗着用組成物Vを浸漬法で塗着した。
【0236】
さらに、塗着用組成物Vをこのように上塗り塗着されたねじA´を、前記の(f)工程と同様にさらに処理をした。これによりねじ試作品A−7(第6の発明によるねじ)を作製した。
【0237】
(i) ねじ溝内に被覆材層をもつねじ試作品A−7の性能の試験
(イ) ねじ溝なしの下穴(口径2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのアルミニウム板をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(g)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−7を、直接に(取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝をタッピングで切削成形した。
【0238】
ねじ試作品A−7を下穴にねじ込むに要した締め込みトルクは、ほぼ約4kgf-cmの低い値で済んだ。ねじ込み作業中には、ワークピース下穴の下方出口から脱落した切削成形屑の量がきわめて少ないことが認められたので、ねじ込んだねじ試作品A−7のねじ溝内に形成された被覆材層が、発生した切削成形屑の大部分と粘着、結合できて被覆材層内部に取り込み、捕獲できたと推定できる。
【0239】
(ロ) ワークピース下穴に一旦ねじ込み終わった上記のねじ試作品A−7を、ねじ戻すことによりワークピースから外した。外されたねじ試作品A−7のねじ溝内にある被覆層を切断したが、その被覆層横断面中に散在した切削成形屑の金属粒子を観察できたが、マイクロカプセルは破壊されて観察できない。従って、前記の被覆材層付きのねじ試作品A−7のねじ溝内にある被覆材層は、ワークピース下穴の切削成形されたねじ溝から発生した成形屑を確実に取り込み捕獲できる機能を有効に発揮したことが認められた。
【0240】
(ハ) ねじ溝なしの下穴口径(2.7mm)が予じめ開孔された厚さ5mmのアルミニウム板をワークピースとして用意した。そのワークピースの下穴中に、上記の(g)の工程で作製された被覆材層付きのねじ試作品A−7を、直接に(取付け用部品の開孔を通さずに)ねじ込む作業を行って、ワークピース下穴の周壁に雌ねじ溝をタッピングで切削成形した。それに続いてねじを10kgf・cmの力で締め付けた。その後2日間放置した。破壊されたマイクロカプセルから放出されたエポキシ接着剤は、ポリアミドとの反応で硬化した。その後に、ねじの戻しトルクを測定したところエポキシ接着剤−ポリアミドの硬化反応で生じた雄ねじ、雌ねじ間の固着力に由因して、10.3 kgf・cmと高い値の戻しトルク力を要した。
【0241】
比較のため、前項(e)の塗着用組成物Vからエポキシ接着剤内包のマイクロカプセルとポリアミドのエマルジョンとを除いた組成をもつ液状組成物V´を作った。これをねじAに塗着した試作品C−5を作った。これを前記と同様にワークピース下穴中にねじ込み、雌ねじ成形後にねじを10 kgf・cmの力で締め付けた。その後2日間放置した。固着したねじ試作品C−5の戻しトルクを測定したところ、7.0 kgf・cmであって、締め付けトルクより低い値を示しねじの固着力が弱いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0242】
【図1】図1は、本発明のねじ溝塗着用組成物を塗着できる雄ねじの一例として、ナベねじの側面図解図を示す。
【図2】図2は、本発明のねじ溝塗着用組成物から形成された被覆材層(図示しない)をねじ溝内にもつナベねじのねじ込みにより、下穴をもつワークピースに開孔をもつ取付け用部品を取り付け、固定した状態にした組立体の部分的縦断面の図解図を示す。
【図3】図3は、本発明のねじ溝塗着用組成物を塗着できる雄ねじの一例であるサラねじの側面図解図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感圧接着剤の主成分であるエラストマー物質とエポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤とを、粘着性付与剤と共に、または該粘着性付与剤の添加なしで有機溶媒にまたは水混和性有機溶媒と水との混合溶媒に溶かして作られた粘着性の溶液である液相の中に、もしくは前記のエラストマー物質と前記の硬化剤とを粘着性付与剤と共に、または該粘着性付与剤の添加なしで水または水性媒質に分散させて作られた粘着性の水性エマルジョンまたは粘着性の水性分散液である液相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包するマイクロカプセルと常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包するマイクロカプセルとを均一に分散させて形成される粘稠な粘着性の液状組成物から構成されたことを特徴とするねじ溝塗着用液状組成物であって、しかも、該液状組成物を雄ねじ溝のフランク面と谷部に塗着してから、塗着された該液状組成物の塗着層を乾燥または半乾燥した時に雄ねじ溝内でねじ溝山フランク面と溝谷底部に形成された固体状または半固体状の被覆材層は、該被覆材層へ雄ねじの螺入時に生じる圧力を加えた場合に、該被覆材層内に在る潤滑剤内包のマイクロカプセルが破壊されて該マイクロカプセル内包の潤滑剤を放出でき、該被覆材層内に潤滑剤が浸透し、これにより前記の被覆材層の少くとも表面または全体が潤滑性、粘着性、感圧接着性を呈し得る性質を保有するものであること且つ該接着剤内包のマイクロカプセルが破壊されて放出された内包のエポキシ樹脂系接着剤がその被覆材層中に共存する該硬化剤と反応して硬化し、挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる性質を有することを特徴としており、さらに前記の固体状または半固体状の被覆材層をねじ溝内にもつ雄ねじを、ねじ溝なし素通しの下穴を予じめ設けた被加工部材の該下穴にねじ込み螺入する時に該下穴に切削成形される雌ねじ溝の壁から剥離される切削成形屑片、または雌ねじ溝に既存する他の固形屑片を粘着して結合し且つ該被覆材層中に取り込んで捕獲できる機能を該被覆材層は有し、またこの機能により、該切削成形屑片または他の固形屑が下穴内を落下、脱落するのを防止できる作用をもち、また該接着剤と硬化剤との硬化反応により挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる作用をもつ前記の固体状または半固体状の被覆材層を塗着された本組成物から形成できる性質を有することを特徴とする、雄ねじの螺入時に生ずる固形屑片を捕獲できて且つ挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる機能をもつねじ溝塗着用液状組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のねじ溝塗着用液状組成物の液相中には、有機溶媒を内包するマイクロカプセルが追加的に含有されてある、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のねじ溝塗着用液状組成物の液相中には、可塑剤、着色剤、老化防止剤、充填剤の少くとも一つが追加的に配合されてある、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の硬化剤がエポキシ樹脂系の反応性接着剤用の硬化剤として常用される粘稠な液体状または半固体状のポリアミド物質よりなることを特徴とする、請求項1に記載のねじ溝塗着用液状組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の硬化剤がエポキシ樹脂系の反応性接着剤用の硬化剤として常用されるポリアミド又はポリチオールであるか、あるいはこれら両者の混合物である、請求項1に記載のねじ溝塗着用液状組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂系接着剤に硬化剤として反応でき且つ粘弾性をもつポリアミドからなるエラストマー物質と、粘着性付与剤とを有機溶媒にまたは水混和性有機溶媒と水との混合溶媒に溶かして作られた粘着性の溶液である液相の中に、もしくは前記のポリアミドからなるエラストマー物質と粘着性付与剤とを水または水性媒質に分散させて作られた粘着性の水性エマルジョンまたは粘着性の水性分散液である液相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包するマイクロカプセルと常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包するマイクロカプセルとを均一に分散させて形成される粘稠な粘着性の液状組成物から構成されたことを特徴とするねじ溝塗着用液状組成物であって、しかも、該液状組成物を雄ねじ溝のフランク面と谷部に塗着してから、塗着された該液状組成物の塗着層を乾燥または半乾燥した時に雄ねじ溝内でねじ溝山フランク面と溝谷底部に形成された固体状または半固体状の被覆材層は、該被覆材層へ雄ねじの螺入時に生じる圧力を加えた場合に、該被覆材層内に在る潤滑剤内包のマイクロカプセルが破壊されて該マイクロカプセル内包の潤滑剤を放出でき、該被覆材層内に潤滑剤が浸透し、これにより前記の被覆材層の少くとも表面または全体が潤滑性、粘着性、感圧接着性を呈し得る性質を保有するものであること且つ該接着剤内包のマイクロカプセルが破壊されて放出された内包のエポキシ樹脂系接着剤がその被覆材層中に共存する該硬化剤と反応して硬化し、挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる性質を有することを特徴としており、さらに前記の固体状または半固体状の被覆材層をねじ溝内にもつ雄ねじを、ねじ溝なし素通しの下穴を予じめ設けた被加工部材の該下穴にねじ込み螺入する時に該下穴に切削成形される雌ねじ溝の壁から剥離される切削成形屑片、または雌ねじ溝に既存する他の固形屑片を粘着して結合し且つ該被覆材層中に取り込んで捕獲できる機能を該被覆材層は有し、またこの機能により、該切削成形屑片または他の固形屑が下穴内を落下、脱落するのを防止できる作用をもち、また該接着剤と硬化剤との硬化反応により挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる作用をもつ前記の固体状または半固体状の被覆材層を塗着された本組成物から形成できる性質を有することを特徴とする、雄ねじの螺入時に生ずる固形屑片を捕獲できて且つ挿設後の雄ねじを雌ねじ溝に固着できる機能をもつねじ溝塗着用液状組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のねじ溝塗着用液状組成物の液相中には、有機溶媒を内包するマイクロカプセルが追加的に含有されてある、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
請求項6に記載のねじ溝塗着用液状組成物の液相中には、可塑剤、着色剤、老化防止剤、充填剤の少くとも一つが追加的に配合されてある、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
請求項6に記載のポリアミドよりなるエラストマー物質が常温で粘稠な液体状または半固体状のものであることを特徴とする、請求項6に記載のねじ溝塗着用液状組成物。
【請求項10】
請求項6に記載のポリアミドよりなるエラストマー物質が25°Cで300〜8000 mPa・s(ミリパスカル・秒)の粘度をもつ粘稠な液体状のポリアミドであることを特徴とする、請求項6に記載のねじ溝塗着用液状組成物。
【請求項11】
請求項1に記載されてあって、感圧接着剤用のエラストマー物質とエポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤とを、粘着性付与剤の添加と共にまたは添加なしで、有機溶媒、または水混和性有機溶媒と水との混合溶媒に溶かして作られた粘着性溶液である液相を含有する場合のねじ溝塗着用液状組成物を、ねじ溝に塗着した後に、該組成物の塗着層を有機溶媒、水の蒸発により乾燥または半乾燥することにより形成された固体状または半固体状の被覆材層であって、該被覆材層は、感圧接着剤の主成分である該エラストマー物質と、エポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相、もしくは該エラストマー物質と該硬化剤と該粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとが分散状態で配合されてなる該固体状または半固体状の組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層であり、そして前記の固体状または半固体状の被覆材層を、ねじ溝内に有することを特徴とするねじ。
【請求項12】
請求項11に記載のねじが有する被覆材層中には、有機溶媒を内包するマイクロカプセル、可塑剤、着色剤、老化防止剤および充填剤のうちの少なくとも一つが追加的に配合されてある、請求項11に記載のねじ。
【請求項13】
請求項1に記載されてあって、感圧接着剤用のエラストマー物質とエポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤とを、粘着性付与剤の添加と共にまたは添加なしで、水または水性媒質に分散させて作られた粘着性の水性エマルジョンまたは水性分散液である液相を含有する場合のねじ溝塗着用液状組成物を、ねじ溝に塗着した後に、該組成物の塗着層を水の蒸発により乾燥または半乾燥することにより形成された固体状または半固体状の被覆材層であって、該被覆材層は、感圧接着剤の主成分である該エラストマー物質と、エポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相、もしくは該エラストマー物質と該硬化剤と該粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとが分散状態で配合されてなる固体状または半固体状の組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層であり、そして前記の固体状または半固体状の被覆材層を、ねじ溝内に有することを特徴とするねじ。
【請求項14】
感圧接着剤の主成分であるエラストマー物質とエポキシ樹脂系接着剤用の硬化剤との混合物よりなる固体または半固体状連続固体相、もしくは該エラストマー物質と該硬化剤と粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとが分散状態で配合されてなる固体状または半固体状組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層を、ねじ溝内に有すると共に、さらに該被覆材層の下方においてねじ溝壁面の上に、金属物質に親和性をもつかまたは化学的反応で結合力をもつ官能基と、有機質物質に親和性をもつかまたは化学的反応で結合力をもつ官能基とを保有するシラン系重合体または共重合体を含むカップリング剤よりなる下地被覆層も有することを特徴とする請求項13に記載のねじ。
【請求項15】
請求項6に記載されてあって、エポキシ樹脂系接着剤に硬化剤として反応でき且つ粘弾性をもつポリアミドからなるエラストマー物質と粘着性付与剤とを、有機溶媒にまたは水混和性有機溶媒と水との混合溶媒に溶かして作られた粘着性の溶液である液相を含有する場合のねじ溝塗着用液状組成物を、ねじ溝に塗着した後に、該組成物の塗着層を有機溶媒、水の蒸発により乾燥または半乾燥することにより形成された固体状または半固体状の被覆材層であって、該被覆材層は、前記ポリアミドよりなるエラストマー物質と該粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとが分散状態で配合されてなる固体状または半固体状組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層であり、そして前記の固体状または半固体状の被覆材層を、ねじ溝内に有することを特徴とするねじ。
【請求項16】
請求項6に記載されてあって、エポキシ樹脂系接着剤に硬化剤として反応でき且つ粘弾性をもつポリアミドからなるエラストマー物質と粘着性付与剤とを、水または水性媒質に分散して作られた粘着性の水性エマルジョンまたは粘着性の水性分散液である液相を含有する場合のねじ溝塗着用液状組成物を、ねじ溝に塗着した後に、該組成物の塗着層を水の蒸発により乾燥または半乾燥することにより形成された固体状または半固体状の被覆材層であって、該被覆材層は、前記ポリアミドよりなるエラストマー物質と該粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体状連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと、常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルとが分散状態で配合されてなる固体状または半固体状組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層であり、該被覆材層をねじ溝内に有することを特徴とするねじ。
【請求項17】
エポキシ樹脂系接着剤に硬化剤として反応でき且つ粘弾性をもつポリアミドからなるエラストマー物質と粘着性付与剤との混合物よりなる固体または半固体連続相の中に、常温で液状または半固体状の潤滑剤を内包のマイクロカプセルと常温で液状又は半固体状のエポキシ樹脂系接着剤を内包のマイクロカプセルを分散状態で配合させてなる固体状または半固体状組成物から構成された固体状または半固体状の被覆材層を、ねじ溝内に有すると共に、さらに該被覆材層の下方において、ねじ溝壁面の上に、金属物質に親和性をもつかまたは化学的反応で結合力をもつ官能基と、有機質物質に親和性をもつかまたは化学的反応で結合力をもつ官能基とを保有するシラン系重合体または共重合体を含むカップリング剤よりなる下地被覆層も有することを特徴とする請求項16に記載のねじ。
【請求項18】
請求項13、14、15、16または17に記載のねじが有する被覆材層中には、有機溶媒を内包するマイクロカプセル、可塑剤、着色剤、老化防止剤および充填剤のうちの少なくとも一つが追加的に配合されてある、請求項13、14、15、16または17に記載のねじ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−127202(P2007−127202A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320898(P2005−320898)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(591091593)株式会社ニッセイテクニカ (3)
【Fターム(参考)】