説明

ねじ締め用下穴

【課題】タッピンねじの下穴へのねじ込み時における雌ねじ成形屑の発生を少なくし且つ下穴に対してタッピンねじの傾斜を容易に修正可能にした形状のねじ締め用下穴を得る。
【解決手段】ワ−ク8の下穴10であって、入口側にタッピンねじ1の外径より僅かに大きい内径を有する入口部11を形成し、これより奥にねじ山5が雌ねじを形成しながらねじ込まれる雌ねじ部12を設け、しかも、入口部11と雌ねじ部12との間にガイド穴部13を形成したねじ締め用下穴であるので、タッピンねじのリード角に相当する傾斜角を備えた下穴傾斜底面を形成する必要がなく、下穴形成全体のコストが低減される。また、自動ねじ締め機によりねじ締めを行っても簡単にその傾きの修正ができ、下穴とねじとがほぼ同一軸心になるので、ねじ浮き状態の発生が減少する。しかも、雌ねじ形成時に余肉の破断が生じにくく、雌ねじ成形屑の発生も減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの下穴にタッピンねじで雌ねじを形成しながらねじ込む際に摩擦による剥離や押し退けられた余肉潰れによる破断等の雌ねじ成形屑の発生を極力少なくし且つ下穴軸心に対するタッピンねじの傾斜を修正可能にするねじ締め用下穴に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークにあらかじめ設けた下穴にタッピンねじをねじ込み、雌ねじを形成しながらワークに締め付ける作業において、その下穴の入口側には通常、タッピンねじの先端が嵌りやすいようにあらかじめ90°の面取りが形成してあり、これによりタッピンねじの先端はねじ締め個所の位置決めがなされるようになっている。この下穴にタッピンねじを締め付けた場合は、一般的には図6及び図7に示すようになっており、下穴110の入口側にある面取り部111に先端が嵌ったタッピンねじ101は、ねじ締めが開始されると、ねじ山105が下穴110に雌ねじを形成しながらねじ込まれる。このとき、ねじ山105が最初に食い込む面取り部111には余肉114が変形しながら盛り上がるが、これはねじ山食い込み初期には面取り角度とねじ山角との関係で余肉が比較的薄く、徐々に破断されて下穴表面から剥離して雌ねじ成形屑となっている。
【0003】
また、タッピンねじがワークの下穴の軸心線に対して一致し、ほぼ同一線上となった状態、例えば、図7に示すように、ねじ山頂点から脚部に直交するよう延長した垂線(イ)に対するねじ山105の追い側及び進み側フランク角(α)が等しく且つ下穴に対して同一軸心状態でねじ込まれると、これにより退けられる余肉114の盛り上がり角(A)はほぼ均等に盛り上がり、ねじ山105のフランク面106、107に沿い下穴110が連続して変形されて雌ねじのねじ山として形成され、均一な雌ねじが形成される。そして、この余肉の盛り上がりにより、下穴部分では比較的成形屑の発生は少ない。
【0004】
一方、図8に示すように、一般的な面取り即ち、90°の面取り部111が施された下穴110であると、タッピンねじ101の先端はこの面取り部111に嵌るが、タッピンねじ101の脚部103はねじ込み初期にはふらつきが生じ、ワーク108の下穴110の中心線に対してタッピンねじ101の中心線が傾斜することが多い。このため、ワーク108の下穴110に対してねじ101はそのねじ込み初期の傾斜状態で下穴110に食い付くことになり、例えば、図9に示すように、前記と同様に追い側及び進み側フランク角(α)が等しい等角ねじ山105の場合では、ねじ山105の頂点から下穴110の軸心線に直交するよう延長した垂線(イ)と追い側及び進み側フランク面107、106とがなす角は夫々(β)、(γ)となり、進み側のフランク面106により形成される下穴形成時の余肉114の盛り上がりはその盛り上がり角度(B)が前記盛り上がり角度(A)に対してA>Bとなり、この余肉114は倒れやすくなり剥がれが生じやすい。しかも、傾斜した状態でねじ込まれると、成形屑の発生が生じやすいとともにねじは所定ねじ締めトルクに達しても、完全にねじ込まれずにねじ浮き状態となることも多い。
【0005】
このような問題点を解消することを目的として、最近では多くの解決策が考えられており、例えば、特開2007−187305号公報に示すものが使用されつつある。これは、図10に示すように、下穴210の軸心に対するタッピンねじ201の傾きを小さく押さえて、傾いた状態でねじ込んだ際のねじ込みトルクの異常な増大や、下穴210を押し広げようとする応力が大きくなり、ボス208に亀裂を発生させることを防止でき、また、タッピンねじ201を繰り返しねじ込んでも常にねじ込み開始位置が変わらずに、下穴210に形成された雌ねじ部が破壊されることがない下穴形状を得るものである。そのために、下穴形状の入口部211をタッピンねじ201のねじ山205の1ピッチ分の高さにおいては大径に形成し、この大径部の底面を螺旋傾斜させ、螺旋傾斜面の傾斜角度をタッピンねじ201のねじ山205の傾斜角度(リード角に相当)と等しい形状としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−187305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような形状の下穴にあっては、下穴の入口部がねじ山の傾斜角度に等しい角度で傾斜しているからねじ込み時のタッピンねじのねじ山はこれに沿い移動し、下穴軸線に沿い傾斜することなく雌ねじを成形しながらねじ込まれることになるが、ワークの下穴にはその入口の底面を前記のようにねじ山の傾斜角度だけ傾斜させねばならず、この下穴形成のための加工が複雑になっているとともにコストも上昇している。また、タッピンねじのピッチが異なったねじを使用する場合は、ねじ山の傾斜角も変わるからこの角度に合わせて下穴形状も変更せねばならず、タッピンねじに合わせてその都度、傾斜角を変更する必要がある。更に、このように大径部の底面をねじのリード角に合わせた下穴入口の傾斜面に形成することで、コストが上昇することになり、安価な製品への使用には適していない。一方、製品のコストを低減するために従前の下穴即ち、下穴入口に90°の面取りを施した構成では、ねじ込み初期にタッピンねじが下穴軸心に対して同一軸心となるようねじの傾きを補正する必要があり、そのためにねじ締め初期工程における傾斜修正手段を配置する等の補助手段を設けねばならず、依然として自動ねじ締め機等の設備が高価になる等の課題がある。
【0008】
本発明の目的は、このような課題を解消するとともにタッピンねじの下穴へのねじ込み時における雌ねじ成形屑の発生を少なくし且つ下穴に対してタッピンねじの傾斜を容易に修正可能にした形状のねじ締め用下穴を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、タッピンねじ1で雌ねじが成形されながらねじ込まれるワ−ク8の下穴10であって、入口側にこれにねじ込まれるタッピンねじ1の外径より僅かに大きい内径を有するストレート形状の入口部11を形成し、この入口部11より奥に前記タッピンねじ1のねじ山外径より小径でタッピンねじ1のねじ山5が雌ねじを形成しながらねじ込まれる雌ねじ部12を設け、しかも、前記入口部11と雌ねじ部12との間にタッピンねじ1の先端ねじ山5のテーパ角(θ)に相当する角度を有するテーパ穴形状のガイド穴部13を形成したねじ締め用下穴を提供することで達成される。
【0010】
前記ねじ締め用下穴において、入口部はその深さがねじ込まれるねじ1の1ピッチ分に相当する長さかそれ以下の長さであり、このようにすることで、ねじ締め初期において、ねじの脚部が下穴に傾斜して進入しても入口部でその傾斜は修正されるので、ドライバビットの操作だけで簡単にねじ締め初期のタッピンねじの傾斜を容易に修正することが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タッピンねじの脚部のねじ山のリード角に相当する傾斜角を備えた下穴傾斜底面を形成する必要がなく、下穴傾斜底面の形成に必要な工数が不要になり、下穴形成全体のコストが低減される。また、このような傾斜底面を形成するための複雑な加工が不要になり、簡単に下穴加工を行うことができる。更に、タッピンねじのピッチが変更されてもこの下穴はねじのピッチに関係がないので、使用されるタッピンねじのピッチを下穴設定条件として考慮する必要もない。しかも、下穴設定条件として考慮する必要がないことから、どのような製品にでも採用することができるとともに従前の90°の面取りを施す下穴のこの面取りに変えて本発明を採用することに何らの制限も受けず、採用が容易になる。一方、本発明を採用することで、従来の面取りを施した下穴形状に比べてねじ込み初期のタッピンねじの傾斜が容易に修正されるから自動ねじ締め機によりねじ締めを行っても簡単にその傾きを修正することができ、特別な傾斜修正のための補助手段を必要としない。そのため、自動ねじ締め機等の設備機械に要する費用も低減される。
【0012】
また、タッピンねじの先端テーパ部と下穴のガイド穴部とがほぼ同じ傾斜角度であることから下穴へタッピンねじを嵌め込んだ際に下穴とねじとがほぼ同一軸心になるので、ねじが下穴に対して傾斜状態となったねじ込みがなくなり、このため、ねじ締め完了時においてねじ浮き状態が発生することも減少する。更に、ねじ込み初期に雌ねじを形成することから生じる余肉の盛り上がりにおいて、この盛り上がり角が大きくなるので、余肉の破断が生じにくく、そのため、雌ねじ成形屑の発生も減少する等の特有の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態を示す要部断面正面図である。
【図2】本発明にねじ込まれるタッピンねじの正面図である。
【図3】タッピンねじのねじ込み開始時を示す要部断面図である。
【図4】図3の拡大要部断面図である。
【図5】本発明の下穴とタッピンねじとの嵌り状態を示す拡大要部断面図である。
【図6】本発明の従来例のねじ込み開始状態を示す要部断面図である。
【図7】図6の拡大要部断面図である。
【図8】従来例の下穴とタッピンねじとの嵌り状態を示す拡大要部断面図である。
【図9】従来例の斜め締め状態を示す拡大要部断面図である。
【図10】もう一つの従来例を示す一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について最良の実施の形態を図1乃至図5に基づき説明する。図2において、1は頭部2とこれに一体形成された脚部3とからなるタッピンねじである。このねじ1の頭部2にはねじ締め時にドライバビット(図示せず)に係合する十字穴形状の駆動穴4が形成してあり、頭部2と一体の脚部3にはその外周にねじ山5が螺旋状に形成されている。このタッピンねじ1の脚部先端側はねじ山高さが先端に達するにつれて徐々に低くなった形状になっており、即ち、ワーク8に形成された下穴10への嵌り込みが容易なように脚部3の先端部の外観形状は角度(θ)だけ傾斜したテーパ状となっている。
【0015】
この実施例では、この脚部3のねじ山5はねじ1の軸心からの垂線(イ)と進み側フランク面6及び追い側フランク面7の夫々との間で形成される進み側フランク角及び追い側フランク角は等角(α)となっており、タッピンねじ1で雌ねじが成形されながらねじ込まれる下穴10に対してその軸心が傾斜しなければ、ねじ込み時に形成される雌ねじも等角山形状に形成されるものである。
【0016】
一方、前記ワーク8に形成される下穴10は図1に示すような形状を有しており、タッピンねじ1がねじ込まれる下穴10の入口側にはタッピンねじ1の脚部外径より直径の大きい穴径で且つストレート形状の入口部11が形成されている。この入口部11は下穴10にねじ込まれるタッピンねじ1の外径より僅かに大きい内径を有しており、例えば、タッピンねじ1の外径から有効径を除いた数値だけタッピンねじ1の外径より大きい内径であってもよい。具体的には、この内径はねじ山外径より0.1〜0.2mm程度大きな直径となっている。また、この入口部11の深さはこの下穴10にねじ込まれるねじ1の1ピッチ分に相当する長さかこれ以下の長さに通常は設定されており、これにより、ねじ込み初期において、ねじ1の脚部3を下穴10に嵌め合わせたときに生じるねじ1の傾きが低減される。即ち、ねじ1の脚部3が下穴10に傾斜して進入しても入口部11でその傾斜量は抑制されるので、ドライバビットの操作だけで簡単にねじ締め初期のタッピンねじ1の傾斜を修正することが可能になる。
【0017】
更に、この入口部11より奥にはタッピンねじ1のねじ山外径より小径でタッピンねじ1のねじ山5が雌ねじを形成しながらねじ込まれる雌ねじ部12が設けてあり、この入口部11と雌ねじ部12との間にはタッピンねじ1の先端ねじ山5の前記テーパ状に傾斜した角度(θ)に相当する角度を有して傾斜しているテーパ穴形状のガイド穴部13が形成されている。この角度(θ)は一般的には10°〜40°の間となっている。このように、本発明の実施の形態における下穴10は前記入口部11、ガイド穴部13及び雌ねじ部12から構成されているが、この構成における前記入口部11は必ずしも必要ではなく、タッピンねじ1の先端部をガイド穴部13に合わせることで、入口部11がなくても十分に下穴10の軸心とねじ1の軸心との一致は可能である。
【0018】
このように構成したねじ締め用の下穴10をワーク8にあらかじめ形成してからタッピンねじ1をこれに嵌めると、図3及び図4に示すように、タッピンねじ1の脚部3の先端部は下穴10のガイド穴部13に接するまで進入する。そして、先端部がガイド穴部13に接すると、タッピンねじ1は下穴10とほぼ同一軸心線上になり、続いて、ドライバビット(図示せず)が回転駆動することで、ねじ1は雌ねじを形成しながら下穴10にねじ込まれる。このとき、ガイド穴部13にはねじ山5が食い込みを開始し、余肉14の盛り上がりが始まる。この盛り上がりはガイド穴部13のテーパ角が僅かであるので、従来の余肉よりその角度は大きく鈍角に近くなり、厚みも大きいので、ねじ込み作業中に余肉14が剥離したり切断される等の現象が低減される。これにより、雌ねじ成形屑の発生は減少する。
【0019】
尚、この実施例では、進み側フランク角(α)と追い側フランク角(α)とが等しい等角山としたが、進み側フランク角が大きく追い側フランク角の小さい、所謂不等角山のタッピンねじ1のねじ山3であっても、ねじ込み時に圧力が大きく加わる進み側フランク角が等角山と同様の大きさであるので、これにより形成される雌ねじの余肉14は薄くならず、そのため、等角山のねじ山5と同様の作用が得られるものである。
【0020】
また、タッピンねじ1が図5の実線で示されたように、ワーク8の下穴10の軸心に対して所定角度(Ε)だけ傾斜して進入した場合においては、ガイド穴部13にタッピンねじ1の先端が接し且つねじ1の頭部2の駆動穴4に先端が係合している状態のドライバビットを作業者が操作するだけで、傾斜状態のねじ1を図5の二点鎖線で示すように、即ち、下穴10の軸心に沿うように修正することができ、ねじ1の斜め締めが解消される。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、ワーク8に形成された下穴10にタッピンねじ1で雌ねじを形成しながらねじ込むねじ締め作業において、斜め締めの発生を解消するのに好適で、ワーク8へのねじ締め不良による不良品の減少を向上させることで製品の品質向上への適用が可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1 タッピンねじ
2 頭部
3 脚部
4 駆動穴
5 ねじ山
6 進み側フランク面
7 追い側フランク面
8 ワーク
10 下穴
11 入口部
12 雌ねじ部
13 ガイド穴部
14 余肉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タッピンねじ(1)で雌ねじが成形されながらねじ込まれるワ−ク(8)の下穴(10)であって、入口側にこれにねじ込まれるタッピンねじの外径より僅かに大きい内径を有するストレート形状の入口部(11)を形成し、この入口部より奥に前記タッピンねじのねじ山外径より小径でタッピンねじのねじ山(5)が雌ねじを形成しながらねじ込まれる雌ねじ部(12)を設け、しかも、前記入口部と雌ねじ部との間にタッピンねじの先端ねじ山のテーパ角(θ)に相当する角度を有するテーパ穴形状のガイド穴部(13)を形成したことを特徴とするねじ締め用下穴。
【請求項2】
入口部はその深さがねじ込まれるねじの1ピッチ分に相当する長さかそれ以下の長さであることを特徴とする請求項1記載のねじ締め用下穴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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