説明

ねじ締め装置および制御方法

【課題】 ステッピングモータを用いて高精度のねじ締めを実現できるねじ締め装置およびその制御方法を提供する。
【解決手段】 この装置は、ビット10と、ステッピングモータ11と、入力されるPWM信号によりステッピングモータ11を駆動させる駆動回路12と、ステッピングモータ11の回転方向の位置または回転角度を検出する位置検出器13と、検出された情報から得られる回転速度が、設定された回転速度になるようにPWM信号を調整し、PWM信号により与えられる電流値から得られたステッピングモータ11のトルクが、設定されたトルクに達したか否かを判断し、達した場合に、設定されたトルクを超えないトルクを発生させる一定のPWM信号を駆動回路12に入力する制御回路14とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッピングモータを用いて高精度のねじ締めを実現することができるねじ締め装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物同士を締結し、接合するための部材として、ねじが広範な用途に使用されている。そのねじのねじ締め作業には、ドライバーといった工具が使用される。そのドライバーとして、迅速かつ容易にねじ締めを行うために電動ドライバーが用いられている。
【0003】
電動ドライバーは、図1に示すように、先端がねじの頭部の溝や穴に嵌合可能な形状とされたビット1と、回転力を発生させるモータ2と、モータ2が発生させた回転力を伝達するギア3と、その回転力を伝達したり、切り離したりするクラッチ機構4とを含んで構成される。
【0004】
ビット1の先端の形状は、ねじの頭部の溝や穴の形状に合わせて、マイナスやプラス等の形状とされる。図1には、プラスドライバーの先端形状の一例が示されている。モータ2は、一般に、DCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ、ACサーボモータが使用される。
【0005】
DCモータは、直流電流で動作し、優れた回転特性を有する。例えば、大きな起動トルク、電圧変化に対するリニアな回転特性、入力電流に対する出力トルクの直線性、高い出力効率を有している。トルクは、モータの回転力である。このDCモータは、回転子の回転角に応じてコイルに流れる電流の向きを変えて、磁束方向を変化させるために機械的なスイッチとしてブラシを用いる。しかしながら、ブラシは、電気的、機械的な接触を要することから、スパークが発生し、消耗し、雑音が発生する。このため、DCモータに代えて、ブラシの機能を半導体スイッチで置き換えたDCブラシレスモータが使用されるようになってきている。
【0006】
ACモータは、電流の向きが変わる交流電流で動作するため、ブラシが不要である。その一方で、ACモータは、回転数が電源周波数とモータ極数で決定されることから自動制御することができない。しかしながら、近年では、インバータを用いることで自由に回転数を制御することができるようになってきている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
ACサーボモータも交流電流で動作するが、その動作をフィードバックするためのエンコーダやレゾルバ等の検出装置を備えている。このACサーボモータは、出力を監視してその出力を入力へフィードバックする閉ループ方式を採用するため、停止精度が高く、高回転での運用が可能で、瞬時に定格トルク以上の力を出すことができる。ただし、高価である。
【0008】
ギア3は、モータ2で発生した回転力をビット1に伝達するが、所定のトルクを得るために用いられる。このギア3は、回転数を減少させて大きなトルクを得ることができる。
【0009】
クラッチ機構4は、ギア3から伝達される回転力をビット1へ伝達し、またはその伝達を切り離す。このクラッチ機構4を用いることで、瞬時にビット1を回転させ、または停止させることを可能にしている。
【0010】
このように従来の電動ドライバーは、ギア3を備えるため、高トルクで締め付けることが可能である。また、クラッチ機構4を備えるため、回転力の伝達、その切り離しにより、締め付けトルクを安価に制限することができる。
【0011】
その一方で、クラッチ機構4を備えると、例えばM2以下といった小さいねじの微小トルクでの締め付けトルクの安定性に欠けるという欠点がある。また、ビット1を高速で回転させるため、ねじの頭部にある溝や穴をつぶしてしまうという欠点もある。さらに、ギア3が介在するため、モータ2をトルク制御したとしても、バックラッシュや摩擦があり、締め付けトルクが安定せず、クラッチ機構4によりトルクの制御を頼らざるを得ないという問題がある。また、クラッチ機構4を使用せず、ロードセルで締め付けトルクを制御する場合もあるが、それでは高価となり、汎用性に乏しい。
【0012】
ところで、モータには、上記のモータのほか、パルス電力に同期して動作するステッピングモータ(パルスモータとも呼ばれる。)がある。このステッピングモータは、簡単な回路構成で、正確な位置決め制御を実現することができるので、装置の位置決めに使用される。その特徴として、運動量が駆動パルス数に比例し、フィードバック回路を必要としないというメリットを有し、安価である。
【0013】
このステッピングモータを使用した電動ドライバーも提案されている。例えば、受光装置により計測された変位量に応じた電気信号をパルスモータに出力させ、電動ドライバーを所定量、変位を解消する方向に回転させるものが提案されている(特許文献2参照)。
【0014】
また、供給空気圧に比例したトルク値で動力を断続できるように構成したクラッチ機構を装備したネジ締めドライバーと、動力用にステッピングモータと、減速機としてハーモニックドライブ(登録商標)機構とを備えたネジ締めドライバーが提案されている(特許文献3参照)。ステッピングモータを用いることで回転速度変化に伴う慣性力差による出力トルク値のばらつきをなくし、ブラシ等の電気的摺動部を持たない構造であるため、耐久性に富むという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−15986号公報
【特許文献2】特開平9−268740号公報
【特許文献3】特開平7−24746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ステッピングモータは、回転角度と回転速度が、与えるパルス信号の数と周期によって決まり、その結果、定格負荷内であればフィードバック制御することなく、思い通りの動作を実現できる。このため、上述した従来の電動ドライバーでも、フィードバック制御を行っていない。
【0017】
ねじ締めを行うと、ある程度回転させたところで、回りにくくなる。それでも一定の回転速度になるように速度指令を与え続けると、トルクが大きくなり、あるトルク(トルクリミット)を超えてしまうと、ねじの頭部にあるドライバーの先端を挿入し、嵌合させるための嵌合溝をつぶしてしまう場合がある。特に、PC、デジタルカメラ、スマートフォン、タブレット端末等の精密機器の製造で使用される微細ねじでは、多少つぶれただけで回せなくなってしまうので重大な問題となる。また、ねじ自体は金属であるが、そのねじが螺合される締め付けられる側がプラスチック樹脂であるとき、その締め付けられる側が有するねじ溝をつぶしてしまうという問題もある。
【0018】
ACサーボモータを使用すれば、フィードバック制御によりトルクを制御することができる。しかしながら、高価となる。したがって、安価なステッピングモータを用い、このような問題を生じることなく、ねじの確実な締め付けを実現することができる装置や方法の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、上記課題は、本発明のねじ締め装置およびその制御方法を提供することにより解決することができる。
【0020】
本発明のねじ締め装置は、ねじに嵌合させるためのビットと、前記ビットを回転させるために動力を与えるステッピングモータと、入力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号により前記ステッピングモータを駆動させる駆動手段と、前記ステッピングモータの回転方向の位置または回転角度を検出する位置検出手段と、検出された前記位置または回転角度の情報から得られる回転速度が、設定された回転速度になるように前記PWM信号を調整し、前記PWM信号により与えられる電流値から得られた前記ステッピングモータのトルクが、設定されたトルクに達したか否かを判断し、達した場合に、前記設定されたトルクを超えないトルクを発生させる一定のPWM信号を前記駆動手段に入力する制御手段とを含む。
【0021】
前記ステッピングモータは、前記ビットに直接動力を与えて当該ビットを回転させる。したがって、ビットとステッピングモータとの間には、クラッチ機構やギアは存在しない。
【0022】
前記制御手段は、前記設定されたトルクに達し、一定時間が経過した後、前記一定のPWM信号の入力を停止する。この停止により、ステッピングモータを停止する。
【0023】
前記制御手段は、検出された前記位置または回転角度の情報から得られる前記ステッピングモータの回転する回数(回転回数)が設定された第1回数に達するまで第1回転速度で回転させ、前記設定された第1回数に達した後、設定された第2回数に達するまで前記第1回転速度より低い第2回転速度で回転させるように前記PWM信号を調整する。これにより、可変速制御を実現することができる。例えば、制御手段は、位置または回転角度を表すパルス信号の入力を受け付け、当該パルス信号から回転速度およびステッピングモータの回転回数を算出する。
【0024】
前記制御手段は、前記PWM信号のパルス幅を調整して、前記設定された回転速度になるように制御する回転速度制御および前記設定されたトルクになるように制御するトルク制限制御を行う。
【0025】
また、このねじ締め装置は、前記設定されたトルク、前記設定された回転回数、前記設定された回転速度を記憶するための記憶手段を含み、前記制御手段は、前記ステッピングモータの駆動により得られた回転速度、回転回数およびトルクを前記記憶手段に記憶させることができる。
【0026】
本発明の制御方法は、上記ねじ締め装置の制御手段が実行する処理を処理ステップとして含む。すなわち、設定された回転速度に基づきPWM信号を生成して駆動手段に入力するステップと、位置検出手段により検出されたステッピングモータの回転方向の位置または回転角度の情報から得られる回転速度が前記設定された回転速度になるように前記PWM信号を調整するステップと、前記PWM信号により与えられる電流値から得られた前記ステッピングモータのトルクが設定されたトルクに達したか否かを判断するステップと、達したと判断された場合、前記設定されたトルクを超えないトルクを発生させる一定のPWM信号を前記駆動手段に入力するステップとを含む。
【0027】
前記調整するステップは、検出された前記位置または回転角度の情報から得られる回転回数が設定された第1回数に達するまで第1回転速度になるように前記PWM信号を調整するステップと、前記設定された第1回数に達した後、設定された第2回数に達するまで前記第1回転速度より低い第2回転速度で回転させるように前記PWM信号を調整するステップとを含む。
【発明の効果】
【0028】
本発明のねじ締め装置を提供することにより、安価なステッピングモータを用い、ギアやクラッチ機構を用いることなく、安価で提供することができる。また、本発明のねじ締め装置およびその制御方法を提供することにより、トルク制限制御を実行することができ、直接ねじの締め付けトルクを制御することができる。このため、特に微細ねじの締め付けに対して、嵌合溝をつぶすことなく、高速で、かつ確実に所定トルクでねじ締めを実現することができる。また、締め付けられる側が樹脂である場合においても、その締め付けられる側のねじ溝をつぶすことがなくなる。
【0029】
また、可変速制御によって、最初は高速で締め付けを行い、最後は減速して締め付けを行うことにより、高速で、かつより確実に嵌合溝をつぶすことなく所定トルクでねじ締めを実現することができる。この場合も、締め付けられる側が樹脂であるとき、その締め付けられる側のねじ溝をつぶすことがなくなる。
【0030】
さらに、記憶手段に得られたトルクや回数を記録することで、その後、トレースすることができ、間違った長さのねじを使用した場合や、斜めに挿入され所定の回転回数より少ない回転回数で締め付けられた場合等の締め付け異常を検出することが可能となる。そして、トルクカーブを記録しトレースすることも可能となり、これらの情報を記録管理することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来のねじ締め装置の構成例を示した図。
【図2】本発明のねじ締め装置の構成例を示した図。
【図3】ねじ締め装置が備える駆動回路の回路構成図。
【図4】ねじ締め装置が備える制御回路の機能ブロック図。
【図5】ねじ締め制御におけるモータのトルク波形を示した図。
【図6】ねじ締め制御の1つの流れを示したフローチャート図。
【図7】ねじ締め制御の別の流れを示したフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図2は、本発明のねじ締め装置の構成例を示した図である。図2に示した実施形態は、1つの構成例であるので、本発明は、この実施形態に限定されるものでない。本発明のねじ締め装置は、様々な種類やサイズのねじに適用可能であるが、好適には、例えばM2以下の微細ねじに適用することができる。
【0033】
ねじは、その要素として、巻き方向、条数、ねじ溝の形状、径、ピッチ、山数等がある。条数は、1つのねじに何本のねじ溝が切ってあるかを示すものである。これらの要素の情報から何回転させれば締め付けることができるかを想定することができる。
【0034】
また、ねじは、雄ねじと雌ねじがあり、雄ねじは、頭部、座面、軸、ねじ先を有している。頭部頂面には、工具で回すための嵌合溝が形成され、嵌合溝としては、一文字の溝であるすりわり、十文字の穴である十字穴等がある。
【0035】
本発明のねじ締め装置は、図2に示すように、この嵌合溝に挿入し、嵌合させるためのビット10と、そのビット10を回転させるために動力を与えるステッピングモータ11と、入力されるPWM信号によりステッピングモータ11を駆動させる駆動回路12とを含んで構成される。また、ねじ締め装置は、位置検出手段としての位置検出器13と、制御手段としての制御回路14とをさらに含んで構成される。
【0036】
ビット10は、ねじと同様の炭素鋼やステンレス鋼等から製造され、その先端部がねじの嵌合溝に嵌合する形状とされる。このため、ビット10をねじの嵌合溝に挿入し、嵌合させた後、ビット10を回転させることにより、ねじを回転させ、締め付けることができる。
【0037】
ステッピングモータ11は、パルスモータとも呼ばれ、PWM信号が入力されることにより、決められたステップ単位でモータ軸が回転する。ステッピングモータ11は、パルスが1回送られるたびに一定角度だけ回転することから、正確な回転制御を実現することができる。
【0038】
ステッピングモータ11は、シャフトに連結される回転子と、回転子の周囲に離間して設けられる電線が巻かれた固定子とを含んで構成される。シャフトの一端は、上記のビット10を着脱するためのチャック等が連結され、回転子の回転によりシャフトおよびチャックを介してビット10を回転させることができる。回転子は、磁化されており、対向する固定子に巻かれた電線に電流が供給され、固定子が同じ磁極に磁化すると、吸引力や反発力を生じて一定方向へ一定角度だけ回転する。ステッピングモータ11は、電流を流す方向を切り替えて、この吸引力や反発力を順次発生させることにより回転子を回転させる。ちなみに、ステッピングモータ11には、PM(永久磁石)型、VR(歯車状鉄心)型、HB(複合)型の3種類があるが、VR型は吸引力のみを生じて回転子を回転させ、PM型およびHB型は吸引力および反発力を生じて回転子を回転させる。
【0039】
ステッピングモータ11では、回転子とそれに対向する固定子の2つの磁極で1つの相を形成する。この相が2組あるものを2相ステッピングモータといい、ステッピングモータには、そのほか、3相ステッピングモータや5相ステッピングモータがある。本発明ではいずれの相のステッピングモータでも採用することができる。
【0040】
本発明では、後述する制御回路14により起動、停止、トルク制限制御を行うことができるので、ギアやクラッチ機構は必要なく、ステッピングモータ11が直接ビット10に動力を与えてビット10を回転させ、また、停止させることができる。
【0041】
駆動回路12は、制御回路14により生成され、入力されたPWM信号によりステッピングモータ11を駆動させる。また、制御回路14がPWM信号の入力を停止させたことを受けて、駆動回路12は、ステッピングモータ11を停止させる。駆動回路12は、2相ステッピングモータの場合、例えば、8つのFET(電界効果トランジスタ)と、2つのコイルとを備え、FETで電流をオンオフし、2つのコイルに交互に電流を供給して交互にコイルを磁化することにより、回転子を回転させ、ステッピングモータ11を駆動させる。
【0042】
駆動回路12は、一例として、図3に示すような8つのFET20〜27と、2つのコイル28、29と、2つの電流検出器30、31とから構成することができる。制御回路14は、8つのFETゲート信号を出力し、各FET20〜27のゲートへ入力される。電流検出器30、31は、コイル28、29に流れる電流を検出し、各相の電流の電圧変換信号VSa、VSbとして制御回路14へフィードバックする。
【0043】
再び図2を参照して、位置検出器13は、ステッピングモータ11の回転方向の位置あるいは回転角度を検出する。したがって、位置検出器13は、ステッピングモータ11の回転子がどの程度の角度だけ回転したかを検出することができる。具体的には、1°や2°といった角度である。この位置や回転角度を検出するための装置としては、エンコーダやレゾルバ等を挙げることができる。この位置検出器13は、その位置または回転角度を表すパルス信号として出力することができる。
【0044】
制御回路14は、位置検出器13から出力されたパルス信号の入力を受け付け、そのパルス数から回転速度および回転子が回転する回数(以下、単に回数とする。)を算出する。そして、制御回路14は、その得られた回転速度が、外部の管理サーバ等に設定され、その管理サーバ等から与えられた回転速度あるいは内部のメモリに予め設定された回転速度になるように、駆動回路12に入力するPWM信号を調整する。
【0045】
例えば、設定された回転速度と得られた回転速度との差を求め、その差の分だけ回転速度を上げる、または下げるように調整して、その設定された回転速度になるように制御することができる。具体的には、駆動回路12へ入力するPWM信号のパルス幅を変えて電線に与える電流量を変えることにより調整する。これにより、回転子の単位時間当たりの回転角度が変わり、その結果、その設定された回転速度へ変わる。このようにして、制御回路14は回転速度制御を行う。
【0046】
また、制御回路14は、回転速度制御を行いながらPWM信号を駆動回路12へ入力するが、そのPWM信号により与えられる電流値から得られたステッピングモータ11のトルクが、外部の管理サーバ等に設定され、その管理サーバ等から与えられたトルクあるいは内部のメモリに予め設定されたトルクに達したか否かを判断する。制御回路14は、設定されたトルクに達していないと判断した場合、そのまま回転速度制御を続ける。
【0047】
これに対し、達したと判断した場合、その設定されたトルクを超えないトルクを発生させる一定のPWM信号を駆動回路12へ入力する。一定のPWM信号は、一例では、その設定されたトルクを発生させるための電流値を与えるPWM信号である。このため、その設定されたトルク以上のトルクになることはなく、このようにして、制御回路14はトルクを制限するトルク制限制御を行う。
【0048】
制御回路14としては、マイクロコントローラ(マイコン)を挙げることができる。マイコンは、CPUコア、上記の処理を実現するためのプログラム等を格納するメモリ、タイマー、I/Oインタフェースを備えることができる。また、マイコンは、後述する管理サーバ等と通信するための通信インタフェースを備えていてもよい。
【0049】
図4に示す制御回路14の機能ブロック図を参照して、制御回路14の詳細な構成および各機能部が行う処理について説明する。制御回路14は、速度検出部40、速度演算部41、リミット処理部42、電流演算部43、A/Dコンバータ44、第1座標変換部45、第2座標変換部46、PWM電圧変換部47、リミット時間計数部48、モータ停止処理部49、回数検出部50、回数判断部51、警告部52を含んで構成される。
【0050】
速度検出部40は、位置検出器13から入力されたパルス信号から回転速度を算出することにより回転速度を検出する。位置検出器13がパルス信号へ変換する際、任意の回転角度につき1つのパルスを発生させるようにパルス信号を生成するので、回転速度は、1回転するパルス数を用いて算出することができる。
【0051】
速度演算部41は、外部の管理サーバ等に設定され、その管理サーバ等から与えられる回転速度指令値、あるいは内部のメモリに予め設定された回転速度指令値を用い、速度検出部40で検出された回転速度が、その回転速度指令値に設定された回転速度になるように、現在、コイル28、29に与えている電流値に対して一定の電流値を増加あるいは減少させる指示を速度演算の結果としてリミット処理部42に対して出力する。なお、図4では、一例として、外部の管理サーバ等から回転速度指令値が与えられる場合について示している。
【0052】
リミット処理部42は、その結果を受け付け、外部の管理サーバ等に設定され、その管理サーバ等から与えられる電流リミット値あるいは内部のメモリに予め設定された電流リミット値を参照し、駆動回路12で現在コイル28、29に与えている電流値に、一定の電流値を増加あるいは減少させた値が、その電流リミット値に達するか否かを判断する。図4では、一例として、外部の管理サーバ等から電流リミット値が与えられる場合について示している。
【0053】
ちなみに、モータのトルクTMは、下記式1から計算することができる。式1中、IMはコイル28、29に与える電流値、KTはモータのトルク定数である。
【0054】
【数1】

【0055】
上記式1を参照すると、モータのトルクTMは、電流値IMに比例しており、電流値IMが電流リミット値に達したか否かを判断することにより、トルクTMが設定されたトルクに達したか否かを判断することができる。この判断は、モータのトルクを制限し、ねじに過度なトルクがかからないようにするために行われるものである。
【0056】
ここで、図5に、時間とトルクとの関係を示す。トルクは、モータの起動により発生し、ある程度ねじが挿入されるまではほぼ一定のトルクで、ねじがある程度挿入されたところで急激にトルクが上昇することがわかる。このまま回転速度制御を行い、モータを回転し続けると、さらにトルクが上昇し、ねじの嵌合溝がつぶれない最大トルクであるトルクリミットを超えてしまう。
【0057】
そこで、本発明では、このトルクリミットを上限として設定し、その上限を超えるトルクが生じないようにトルク制限を行う。また、上限に達したところですぐに停止させるのではなく、ある一定時間その上限のトルクを維持する。その上限に達したところでは、ある程度ねじ締めが完了したことを示し、一定時間増し締めを行うことで、確実なねじ締めを実現することができるからである。したがって、図5では、トルクリミットとして参照される締め付けトルクに達したところで、その締め付けトルクに、一定時間として増し締め時間だけ制御され、一定時間が経過後、モータが停止されている。
【0058】
再び図4を参照して、リミット処理部42は、電流リミット値に達していないと判断した場合、その結果を電流指令として電流演算部43へ送る。A/Dコンバータ44は、駆動回路12の電流検出器30、31により検出された電流の電圧変換信号(アナログ)を電圧変換信号(デジタル)へ変換する。第1座標変換部45は、それら2つの電圧変換信号(デジタル)を受け付け、電流演算部43で電流演算処理を行うための信号へ変換するべく、固定座標から回転座標へ座標変換し、座標変換値を得る。
【0059】
電流演算部43は、その電流指令を受け、得られた座標変換値を用いて、駆動回路12でコイル28、29に流す電流値を計算する。電流演算部43は、一定の電流値だけ増加させる旨の指示を受け付けた場合、座標変換値に一定の電流値を加算して、コイル28、29に流すべき電流値とする。これに対し、一定の電流値だけ減少させる旨の指示を受け付けた場合、電流演算部43は、座標変換値から一定の電流値を減算して、コイル28、29に流すべき電流値とする。
【0060】
電流演算部43は、得られた電流値の情報を第2座標変換部46へ送付し、第2座標変換部46が、2つの相への電圧指令に振り分けるための戻し座標変換処理を行う。具体的には、第2座標変換部46は回転座標から固定座標へ戻す座標変換を行う。PWM電圧変換部47は、第2座標変換部46から受け付けた電圧指令をパルス電圧に変換し、PWM信号を生成する。PWM信号は、G〜Gとして参照されるFETゲート信号として駆動回路12へ与えられる。
【0061】
リミット処理部42が、電流リミット値に達したと判断した場合、その電流リミット値の電流値にするように指示し、電流演算部43がその電流値の情報を第2座標変換部46へ送り、PWM電圧変換部47がその電流値を与えるPWM信号を生成し、駆動回路12へ入力する。
【0062】
その一方で、リミット処理部42は、リミット時間計数部48へ通知し、一定時間計測させる。リミット時間計数部48は、図5に示される増し締め時間として設定された時間を計測し、その時間に達したところでモータ停止処理部49へ通知する。モータ停止処理部49は、その通知を受けてすぐ、PWM電圧変換部47から駆動回路12へのPWM信号の入力を停止させることにより、ステッピングモータ11を停止させる。
【0063】
回数検出部50は、位置検出器13の出力信号からステッピングモータ11の回転子が回転した回数を検出する。図4では、制御回路14内で分岐して速度検出部40と回数検出部50へ入力されているが、位置検出器13の出力信号が外部で分岐され、速度検出部40と回数検出部50とに別個に入力される構成であってもよい。なお、この回数検出部50も、位置検出器13がパルス信号へ変換する際、任意の回転角度につき1つのパルスを発生させるようにパルス信号を生成するので、回数は、パルス数を用いて算出することができる。また、回数検出部50は、トルクリミットに達し、一定時間経過するまで回数をカウントし、経過した時点の回数を回数情報として回数判断部51へ送付する。
【0064】
回数判断部51は、回数検出部50から得られた回数情報を用い、外部の管理サーバ等に設定され、その管理サーバ等から与えられる回数値、あるいは内部のメモリに予め設定された回数値と比較して、同じ回数であるかどうかを判断する。上述したように、ねじを締め付けるために必要とされる回数は、予め想定されるため、回数値として設定することができ、その設定された回数値と同じ回数であるかどうかを判断することにより、正しく締め付けられたかどうかを判断することができる。
【0065】
回数判断部51は、両者が一致する場合、正しく締め付けられていることを示しているので、何ら指示することなく、処理を終了することができる。ねじ締め装置が表示部を備えている場合、回数判断部51は、表示部に対し、正しく締め付けられた旨を表示させることも可能である。これに対し、回数判断部51は、両者が一致しない場合、斜めに挿入されている等、正しく締め付けられていないことを示しているので、警告部52へ指示し、警告部52がエラー音を鳴らしたり、表示部を備える場合にはその表示部に対し、エラーが発生した旨を表示させる。
【0066】
本発明のねじ締め装置を用いて、ねじ締めを行う場合、最初から最後まで一定の回転速度で行うこともできるし、途中で回転速度を変える可変速で行うことも可能である。特に、可変速で行うと、最初に短時間である程度まで締め付け、その後は回転速度をゆるめ、所定のトルクでゆっくり締め付けることができるため、高速で、かつより確実にねじの嵌合溝をつぶすことなく締め付けることができる。また、締め付けられる側が樹脂である場合においても、その締め付けられる側のねじ溝をつぶすことがなくなる。
【0067】
これらの処理を、図6および図7に示すフローチャートを参照して詳細に説明する。まず、図6を参照して、一定の回転速度で締め付ける場合について説明する。ステップ600から処理を開始し、まず最初に、ステップ610で、ねじ締めを開始したかどうかを判断する。例えば、モータの電源がONにされたかどうかにより判断を行う。開始するまでステップ610の判断を行う。なお、ねじ締めは、制御回路14から駆動回路12へPWM信号を入力することにより開始する。
【0068】
ステップ610で開始したと判断した場合、制御回路14が回転速度指令値で設定された回転速度になるPWM信号を生成し、それを駆動回路12へ入力することによりモータを起動し、ステップ620で、位置検出器13で位置または回転角度の検出を行い、その位置または回転角度の情報を制御回路14へ送り、制御回路14が、その位置または回転角度の情報を用いてPWM信号のパルス幅を調整することにより回転速度制御を行う。算出された回転速度が、設定された回転速度より小さい場合、回転速度を上げるべく、パルス幅を短くし、パルス数を増加させる。一方、設定された回転速度より大きい場合、回転速度を下げるべく、パルス幅を長くし、パルス数を減少させる。
【0069】
ステップ630では、駆動回路12から得られた電流値が、電流リミット値に達したかどうかを判断することにより、トルクリミットとして設定されたトルク、すなわち図5に示す締め付けトルクに達したかどうかを判断する。達してしない場合、達するまで、ステップ630の判断を繰り返す。また、達するまで、ステップ620の回転速度制御を続ける。
【0070】
ステップ630で達したと判断した場合、その締め付けトルクにトルク制限制御を行い、ステップ640へ進み、増し締め時間に達したかを判断する。すなわち、達したと判断してから一定時間が経過したかを判断する。この増し締め時間内は、トルク制限制御が行われる。トルク制限制御は、電流リミット値を与えるPWM信号に調整し、駆動回路12に入力することにより行われる。ステップ640で経過していないと判断した場合、経過するまでこのステップ640の判断を行う。
【0071】
経過したと判断した場合は、ステップ650へ進み、モータへのPWM信号の入力を停止させ、モータを停止させる。これにより、ステップ660で処理を終了する。
【0072】
次に、図7を参照して、可変速で締め付ける場合について説明する。ここでは、ねじ締めの全回数を、例えば20回転とし、そのうちの18回転(第1回数)を高速で回転させ、残りの2回転(第2回数)を低速で回転させて締め付ける場合を例示する。
【0073】
ステップ700から処理を開始し、まず最初に、ステップ710で、ねじ締めを開始したかどうかを判断する。開始するまでステップ710の判断を行う。
【0074】
ステップ710で開始したと判断した場合、ステップ720で、位置検出器13で位置または回転角度の検出を行い、その位置または回転角度の情報を制御回路14へ送り、制御回路14が、その位置または回転角度の情報を用いてPWM信号のパルス幅を調整することにより回転速度制御を行う。
【0075】
ステップ730では、回数が設定された第1回数である18回転に達したかを判断する。達していない場合、達するまで、ステップ730の判断を行う。達した場合、ステップ740へ進み、ステップ720と同様の回転速度制御を行うが、ここではステップ720のときの回転速度より低い回転速度に制御する。
【0076】
ステップ750では、駆動回路12から得られた電流値が、電流リミット値に達したかどうかを判断することにより、締め付けトルクに達したかどうかを判断する。達してしない場合、達するまで、ステップ750の判断を繰り返す。また、達するまで、ステップ740の回転速度制御を続ける。
【0077】
ステップ750で達したと判断した場合、その締め付けトルクにトルク制限制御を行い、ステップ760へ進み、残りの2回転し、増し締め時間に達したかを判断する。すなわち、達したと判断してから一定時間が経過したかを判断する。この増し締め時間内は、トルク制限制御が行われる。ステップ760で経過していないと判断した場合、経過するまでこのステップ760の判断を行う。
【0078】
経過したと判断した場合は、ステップ770へ進み、モータへのPWM信号の入力を停止させ、モータを停止させる。これにより、ステップ780で処理を終了する。
【0079】
制御回路14が制御途中で算出した回転速度、トルク、回数等は、制御回路14が備えるメモリや、外部の管理サーバ等が備える記憶手段に記憶させることができ、それによって、その後トレースを行うことができ、間違った長さのねじを使用した場合や、斜めに挿入され所定の回数より少ない回数で締め付けられた場合等の異常を検出することができる。また、トルクカーブも記録することができ、これらの情報の記録管理が可能となる。
【0080】
これまで本発明のねじ締め装置およびその制御方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。したがって、制御方法を実現するためのプログラムを提供することもでき、このプログラムは、記憶媒体に格納して、あるいはダウンロード形式で提供することも可能である。
【符号の説明】
【0081】
1、10…ビット、2…モータ、3…ギア、4…クラッチ機構、11…ステッピングモータ、12…駆動回路、13…位置検出器、14…制御回路、20〜27…FET、28、29…コイル、30、31…電流検出器、40…速度検出部、41…速度演算部、42…リミット処理部、43…電流演算部、44…A/Dコンバータ、45…第1座標変換部、46…第2座標変換部、47…PWM電圧変換部、48…リミット時間計数部、49…モータ停止処理部、50…回数検出部、51…回数判断部、52…警告部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじに嵌合させるためのビットと、
前記ビットを回転させるために動力を与えるステッピングモータと、
入力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号により前記ステッピングモータを駆動させる駆動手段と、
前記ステッピングモータの回転方向の位置または回転角度を検出する位置検出手段と、
検出された前記位置または回転角度の情報から得られる回転速度が、設定された回転速度になるように前記PWM信号を調整し、前記PWM信号により与えられる電流値から得られた前記ステッピングモータのトルクが、設定されたトルクに達したか否かを判断し、達した場合に、前記設定されたトルクを超えないトルクを発生させる一定のPWM信号を前記駆動手段に入力する制御手段とを含む、ねじ締め装置。
【請求項2】
前記ステッピングモータは、前記ビットに直接動力を与えて当該ビットを回転させる、請求項1に記載のねじ締め装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記設定されたトルクに達し、一定時間が経過した後、前記一定のPWM信号の入力を停止する、請求項1または2に記載のねじ締め装置。
【請求項4】
前記制御手段は、検出された前記位置または回転角度の情報から得られる前記ステッピングモータの回転する回数が設定された第1回数に達するまで第1回転速度で回転させ、前記設定された第1回数に達した後、設定された第2回数に達するまで前記第1回転速度より低い第2回転速度で回転させるように前記PWM信号を調整する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のねじ締め装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記PWM信号のパルス幅を調整して、前記設定された回転速度になるように制御する回転速度制御および前記設定されたトルクになるように制御するトルク制限制御を行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載のねじ締め装置。
【請求項6】
前記設定されたトルクおよび前記設定された回転速度を記憶するための記憶手段を含み、前記制御手段は、前記ステッピングモータの駆動により得られた回転速度およびトルクを前記記憶手段に記憶させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のねじ締め装置。
【請求項7】
ねじ締め装置が備える制御手段により実行される制御方法であって、
設定された回転速度に基づきPWM信号を生成して前記ねじ締め装置の駆動手段に入力するステップと、
前記ねじ締め装置の位置検出手段により検出されたステッピングモータの回転方向の位置または回転角度の情報から得られる回転速度が、前記設定された回転速度になるように前記PWM信号を調整するステップと、
前記PWM信号により与えられる電流値から得られた前記ステッピングモータのトルクが、設定されたトルクに達したか否かを判断するステップと、
達したと判断された場合、前記設定されたトルクを超えないトルクを発生させる一定のPWM信号を前記駆動手段に入力するステップとを含む、制御方法。
【請求項8】
前記調整するステップは、検出された前記位置または回転角度の情報から得られる前記ステッピングモータの回転する回数が設定された第1回数に達するまで第1回転速度になるように前記PWM信号を調整するステップと、前記設定された第1回数に達した後、設定された第2回数に達するまで前記第1回転速度より低い第2回転速度で回転させるように前記PWM信号を調整するステップとを含む、請求項7に記載の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−107172(P2013−107172A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254648(P2011−254648)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(507123981)株式会社ハイピーテック (3)
【Fターム(参考)】