はり構造起歪体および荷重測定法
【課題】荷重位置に関りなく、被計量物の荷重位置によってもたらされる偶力の影響(偏置誤差)を消去し、どのような位置に荷重されてもその実荷重のみを知ることができ、また、必要であれば、その荷重位置を知ることも、その両方(荷重と荷重位置)を同時に知ることも可能であるはり構造起歪体および荷重測定法を提供する。
【解決手段】はり構造起歪体が、両端部を各々荷重側端部および支点側端部として有し、両端部の間に平行平板はり構造、H溝形状の断面を持つ平行はり構造(H溝型平行はり)、単純な単板はり構造、または、単板はりに複数の凹部もしくは凸部を有するはり構造から成る。このはり構造起歪体の起歪部の変形に起因する複数箇所の応力あるいは変位を電気信号として取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、その荷重値と荷重位置とを同時に取得する。
【解決手段】はり構造起歪体が、両端部を各々荷重側端部および支点側端部として有し、両端部の間に平行平板はり構造、H溝形状の断面を持つ平行はり構造(H溝型平行はり)、単純な単板はり構造、または、単板はりに複数の凹部もしくは凸部を有するはり構造から成る。このはり構造起歪体の起歪部の変形に起因する複数箇所の応力あるいは変位を電気信号として取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、その荷重値と荷重位置とを同時に取得する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力センサに用いられるはり構造起歪体および荷重測定法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、力センサとして多く用いられているダブルビーム型ロードセルは、平行平板はり構造を採りながらも、その2枚のはりの間隔(はり間距離)が狭い場合には、その変形様の効果を十分に生かすことができなかった。このことから、電子てんびんなどの起歪部に用いられた場合、荷重位置によってもたらされる偶力の影響(偏置誤差)を完全に消去できないという課題を残している。
【0003】
一方、ロボットハンドによる物体の把持作業などでは、力センサを用いて把持力を知ることが多く行われているが、ロードセル単体での把持位置情報の取得は困難である。
【0004】
偏置誤差の問題を解決するためには、例えば平行平板はり構造を採るダブルビーム型ロードセルにおいて、ビームの一方を薄くするなどして平行平板はり構造の基本的な変形機構を崩す、という措置を採っている例がある(例えば、非特許文献1、特許文献1または2参照)。しかし、経験による個体毎の調整であることから、個々における偏置誤差を小さくすることはできても、その影響の完全な消去はできていない。また、このような起歪体の重要な要素である捩れに対する抗力を下げることになる。
【0005】
把持位置を知る問題を解決するためには、物体の把持力と把持位置情報とを別々のセンサを用いて得ることが多い。多方向の力情報を用いることで位置情報を知ることも試みられているが、用いる機器数も多く、処理すべき情報も多くなる(例えば、非特許文献2参照)。加えて、このような力覚センサの起歪部は、ひずみ信号値の方向分離性から複雑な形状を持つものが多く、マイクロマシン技術などを用いて作られるような微小構造体には向かない(例えば、非特許文献3参照)。また、簡便な方法も試されているが、力の測定・制御はできていない(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−47118号公報
【特許文献2】特開2002−365125号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】小島之夫、「ビーム型ロードセルの偏値荷重誤差」、日本機械学会論文集、1986年、Vol.52、No.474、p.746-749
【非特許文献2】津村稔、「F/TセンサNANOによる接触位置検出(指先装着型6軸力覚センサ)」、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会論文集、1995年、Vol.(B)、p.1164-1165
【非特許文献3】小野耕三、「6軸力センサ」、精密工学会誌、1986年、Vol.54、No.4、p.33-36
【非特許文献4】原真悟他、「微小物体の把持を対象としたロボットハンドシステムの試作」、計測自動制御学会東北支部第225回研究集会資料集、2005年、資料番号225-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、単純な弾性はり構造、あるいは平行はり構造をもつ力センサ(ロードセル)用起歪体を用いて、その実荷重を精度よく求める測定手法について提案をすることを課題とする。
【0009】
また、必要によっては荷重位置を知る目的に用いる事ができること、その双方(実荷重と荷重位置)を同時に知ることも可能とする測定法について示すことを課題とする。
【0010】
本発明の手法によれば、単純な弾性はり、あるいは平行はりの変形によって生ずる複数箇所のひずみ信号を、事前に取得している校正曲線と比較演算することで、その実荷重と荷重位置情報を同時に、また精度よく知る事ができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する手段としての本発明に係るはり構造起歪体は、両端部を各々荷重側端部および支点側端部として有し、両端部の間に平行平板はり構造、H溝形状の断面を持つ平行はり構造(H溝型平行はり)、単純な単板はり構造、または、単板はりに複数の凹部もしくは凸部を有するはり構造から成ることを、特徴とする。
【0012】
本発明に係る荷重測定法は、本発明に係るはり構造起歪体において、起歪部の変形に起因する複数箇所の応力あるいは変位を電気信号として取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、その荷重値と荷重位置とを同時に取得することを、特徴とする。
【0013】
また、これらのはり構造起歪体において、はりの複数の変形部(起歪部)で発生した変位信号(ひずみ信号)を各はりの変形機構にもとづいた信号処理法によって、事前に取得した校正データをもとにした演算処理を行うことで、荷重位置の影響を取り除いた実荷重と荷重位置情報の提示が可能であってもよい。
【0014】
本発明に係る荷重測定法は、前記平行平板はり構造、あるいは前記H溝型平行はりの前記荷重側端部側に負荷された荷重を、前記荷重側端部側および前記支点側端部側の付け根付近の応力集中部に設けられたセンサによって変位信号として取得し、4点の信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得してもよい。
【0015】
本発明に係る荷重測定法は、前記単板はりに複数の凹部もしくは凸部を有するはり構造の前記荷重側端部側に負荷された荷重を、複数のセンシング箇所における変位信号をセンサで取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得してもよい。
【0016】
本発明に係る荷重測定法は、前記単純な単板はり構造の前記荷重側端部側に負荷された荷重を、前記支点側端部側の任意の位置に設けられた複数のセンサを用い、各センサ位置における変位信号として取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るはり構造起歪体および荷重測定法は、その荷重位置に関りなく、被計量物の荷重位置によってもたらされる偶力の影響(偏置誤差)を消去し、どのような位置に荷重されてもその実荷重のみを知る事を可能とする。
【0018】
また、必要であれば、その荷重位置を知ることも、その両方(荷重と荷重位置)を同時に知ることも可能とする。
【0019】
これまで多く用いられている、H溝型平行はり構造,平行平板はり構造、単板はり構造などの起歪体において、偏置誤差を取り除いた精度の高い実荷重の測定を可能とする。
【0020】
加えて、本手法で対象とする起歪部は単純なはり構造でも可能であることから、マイクロマシン技術を用いた微小構造体における負荷力および負荷位置の測定などにも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、(a)平行平板はり構造、(b)H溝型平行はりの構造概念を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、単純な単板はりにおける信号取得位置と荷重位置との関係を説明する側面図である。
【図3】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、溝付き単板はりにおける信号取得位置と荷重位置との関係を説明する側面図である。
【図4】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、平行平板はり構造における変形機構を説明する正面図である。
【図5】本発明の実施の形態のはり構造起歪体のH溝型平行はりにおいて、はり中間の剛体部を逆側に持ってきた正面図である。
【図6】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、H溝型平行はりにおける各溝部の発生ひずみが、荷重位置によって受ける影響を説明する正面図である。
【図7】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、ロバーバル機構における荷重点の影響相殺原理を説明する原理図である。
【図8】本発明の実施の形態のはり構造起歪体のH溝型平行はりにおける、各溝部の発生ひずみと荷重点との関係を説明するグラフおよび正面図である。
【図9】本発明の実施の形態のはり構造起歪体のH溝型平行はりモデルにおける、荷重位置と発生ひずみとの関係を示す正面図および検証グラフである。
【図10】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の溝付き単板はりモデルにおける、荷重位置と信号取得位置との関係を説明する側面図である。
【図11】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、溝付き単板はりをロボットの把持指とした場合の(a)モデルを示す斜視図、(b)(c)(d)その発生ひずみ値解析結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、H溝型平行はりを荷重計用ロードセルとした場合のモデルを示す正面図、および、その解析結果を示すグラフである。
【図13】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、H溝型平行はりを荷重計用ロードセルとした場合のモデルにおいて、はり間距離が狭い場合の影響を説明するグラフである。
【図14】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、溝付き単板はりを荷重計用ロードセルとして複列に配置したモデルを示す側面図、および、その解析結果を示すグラフである。
【図15】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、2組の異方向の起歪部を持つH溝型平行はりを、ロボットの把持指としたモデルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1(a)に示すように、本発明の実施の形態のはり構造起歪体は、両端部を各々荷重点側端部及び支点側端部として有し、両端部の間にH溝型平行はり構造を持つ起歪部として構成し、その平行はりを成す2枚のはり間距離を適切に取ることができない場合でも、その各溝部における互いのひずみ信号値を比較演算処理することによって、その負荷された実荷重および荷重位置の双方を知ることができる。
【0023】
図1(a)に示す平行平板はり型ロードセルでは、支点側となる部位(1)と荷重点側となる部位(2)の間の、平行な2枚のはりを起歪部とする。図1(a)中の溝部(4a1)(4b1)あるいは(4c1)(4d1)あるいは(4a1)(4b1)(4c1)(4d1)における発生ひずみを合計することで、荷重位置によらず実荷重を知る事ができる。また、(4a1)(4c1)あるいは(4b1)(4d1)のひずみ値を個別に、あるいは合わせて取得することで、荷重位置情報を知る事ができる。
【0024】
図1(b)に示すように、はり構造起歪体は、溝部のない単純な平行平板はり構造であってもよい。この場合のひずみ信号の取得は、応力値の高くなる各平板はりの付け根側近傍とする。図1(b)に示すH溝型平行はりは、平行平板はり構造の進展型で、その捩れ剛性を高めることと変形の応力を溝部(4a2)(4b2)(4c2)(4d2)に限定する目的から、平行はりの中央部分に剛体部(3a)(3b)を持つものである。この変形様からもわかるように、H溝型平行はりの場合にも平行平板はりと同様の荷重情報の取得が可能である。
【0025】
その起歪部は、図2に示すような単板はりでもよい。図2中では、自由端(Free)側となる荷重位置(5c)の負荷(F)を、固定端(Fix)側となる任意の複数の部位に配置されたセンサ(図2中では(5a)、(5b)の2点のひずみゲージ)によって変位の電気信号として取得し、その各センサ部における信号値を比較演算処理することによって、その負荷された実荷重および荷重位置の双方を知ることができる。
【0026】
この場合、図3に示すように、単板はりの信号取得部分に窪みなどを設けて変形しやすくした構造でもよく、この場合にはその信号の分離性が、図2の場合より高くなり測定精度をあげられる。図3は、通常の単板はりに2ヶ所の溝(5a)(5b)を設け、その先となる自由端側の部位(5c)に荷重Fを負荷したものである。この場合の各溝部の応力は、荷重Fと荷重点から各溝部までの距離との積によって求められことから、各溝部における応力の差をとることで、その値は荷重に比例する。このことから、事前に校正曲線を求めておけば、出力された溝部におけるひずみ信号の差から実荷重が求められる。同様に、実荷重がわかれば荷重点までの距離も求められることから、その荷重位置も求められる。
【0027】
本発明の実施の形態のはり構造起歪体および荷重測定法の、荷重位置に起因する偶力の影響の相殺機構、および荷重位置を知る手法について、図4〜図15を用いて説明する。
【0028】
図4は、平行平板はりの横断面形状で、はり長さ(l)に比較して変形部の板厚(t)は十分に薄いものとする。このようなはりの自由端(2)に荷重(F)を加えると、上はりの支点側(1)の表面(a)には引張応力が生じ、自由端側(b)には圧縮応力が生ずる。また、下はりの支点側表面(c)には圧縮応力が生じ、自由端側(d)には引張応力が生ずる。このことによって、端面は、はりの可変形方向に対しほぼ平行に変位する。このことは公知となっている。
【0029】
同様に、図4において、平行平板はりの端面を平行に変位させる偶力(M)は、両はりのはり間隔(h)によってもたらされることから、はり間隔(h)の小さい段階では、単板はりと同様の変形様を併せて持つこととなる。このことが、ロードセルにおいて偏置誤差となって表れる。
【0030】
このような図4における現象は、図1(b)のH溝型平行はりにおいても同じであり、このことは公知である。このH溝型平行はり構造は、図5に示すように、その中間の剛体部(5a)(5b)を平行はりの逆側に設けた場合でも同様である。
【0031】
図6は、H溝型平行はりの各溝部を、前述の4節リンク機構の回転節になぞらえ、H溝型はりに重ねて検討を行ったものである。はりの自由端(2)に荷重した場合の各溝部(a)(b)(c)(d)における応力は平行平板はりと同様の変形となることから、図6中に示すように、溝部(a)では溝の外側には引張応力が生じ、内側には圧縮応力が生ずる。同様に溝部(b)では溝の外側には圧縮力、内側には引張力、溝部(c)では溝の外側には圧縮力、内側には引張力、溝部(d)では溝の外側には引張力、内側には圧縮力による応力が生ずる。このH溝型平行はりの自由端側(溝部(c)と溝部(d)の間のリンク)に設けた腕木に荷重した場合、ロバーバル機構の例と同じく、溝部(b)と溝部(d)の間のリンク((2)の部位)には、時計回りの偶力が働くこととなる。
【0032】
図7は、上皿天秤における荷重位置相殺機構(ロバーバルのバランス機構)を説明するための4節リンク機構モデルである。平行四辺形を形作るリンクにおいて、自由端側のリンク(b−d)に腕木(larm)を伸ばし、任意の位置に荷重(F)を加えたとする。このモデルにおいて回転節(a)(b)(c)(d)の回転に抵抗がない場合には、腕木長さによる偶力(Mbd)によって引き起こされる上側リンク(l1)と下側リンク(l2)とにかかる力(Mb1)(Md1)が、互いに向きの違う等しい大きさであることから相殺され、リンク(b−d)には、(Fy)方向の力のみ加わることになる。つまり、ロバーバル機構の場合には、回転節に摩擦がないことから、Fxによって引き起こされる影響がFyに比べて無視できるほど小さかったのが、H溝型平行はりの場合には、回転節となる溝部に回転抵抗があることから、図6のように、上はりには引張力、下はりには圧縮力が加わることになる。
【0033】
このことから、図8のような腕木の先に荷重位置を持ったH溝型平行はり構造の溝部における応力は、はり外側の溝部(a)においては平行平板はりの変形様によってもたらされた引張応力に腕木長さによって加わる引張力が加わることから、その応力は増大する。溝部(b)においては,平行平板はりの変形様によってもたらされた圧縮応力に腕木長さによって引張力が加わることから、その応力は減少する。下側はり外側の溝部(c)においては、平行平板はりの変形様によってもたらされた圧縮応力に腕木長さによって加わる圧縮力が加わることから、その応力は増大する。溝部(d)においては、平行平板はりの変形様によってもたらされた引張応力に腕木長さによって圧縮力が加わることから、その応力は減少する。はり溝部の内側(a‘)(b’)(c‘)(d’)においては、応力の向きが逆となることから傾向は逆となるが、表れる現象は同じである。このことは、図8中の解析結果によっても明らかである。
【0034】
図9は、H溝型平行はりの自由端側に腕木を取り付け、起歪部からの距離を10mmから50mmまで変えた場合の、各溝部(a)(b)(c)(d)における発生ひずみと、上はりの溝部(a)(b)におけるひずみの合計(a−b)と、下はりの溝部(c)(d)におけるひずみの合計(c−d)とを、FEAを用いたシミュレーションによって得た結果である。この結果より、支点側の溝部(a)(c)における発生ひずみは、荷重点が起歪部より離れるに従って増加し、反対に、自由端側の(b)(d)における発生ひずみは、荷重点が起歪部より離れるに従って減少している。しかし、これらのひずみ値を合計することで、荷重位置の影響をうけずに実荷重を知る事ができる。このことは、上記の図8での現象を証明するものである。
【0035】
図8および図9の結果より、図1における平行平板はり(あるいはH溝型平行はり)において、実荷重を知りたいときには、上はりの溝部(4a)(4b)あるいは(4c)(4d)のひずみの合計値を、荷重との校正曲線として用いる。また、この場合、溝部(4a)(4b)(4c)(4d)におけるひずみの合計値を用いるのでも可能である。
【0036】
さらに、荷重位置を知りたい場合には、溝部(4a)(4b)(4c)(4d)における、それぞれの発生ひずみ値と荷重値との校正曲線を用いる。この場合、支点側(4a)(4c)、荷重端側(4b)(4d)を合わせて用いることでも可能である。
【0037】
しかし、2枚のはり間距離(h)が狭い場合には、荷重位置によってもたらされる偶力の影響を強く受け、溝部(a)(b)(c)(d)のひずみの合計値が荷重位置に伴って変化をする。このような場合には、荷重位置からの演算による補正で実荷重を推定することとなる。
【0038】
図10は、単純な矩形断面を持つ弾性はりの任意の位置に2個の溝を構成し、その部位にひずみゲージ(S1)(S2)を貼った場合のモデルである。このような単板はりの自由端側に、F1あるいはF2の荷重を加えると、2個の溝部(S1)(S2)には偶力(M1)(M2)が生じ、時計方向に回転する。つまり、荷重(F1)あるいは(F2)と、荷重点からの距離(l1f1)(l2f1)あるいは(l1f2)(l2f2)との積により変形する。この時の2個の溝部における発生ひずみ値の差をとることで、実荷重と荷重位置とを知る事ができる。
【0039】
つまり、このことを荷重(F1)について考えれば、
−M1 =F1×l2f1
=F1×(L+l1f1)
−M2 =F1×l1f1
(−M1)−(−M2)=F1×L ・・・・・(1)
次に、(F2)について考えれば、
−M1 =F2×l2f2
=F2×(L+l1f2)
−M2 =F2×l1f2
(−M1)−(−M2)=F2×L ・・・・・(2)
となる。そこで、F1とF2とが同じ値であれば(1)(2)式がつりあうことから、F1とF2とが同じ値であれば、荷重点に関りなく実荷重を知る事ができる。なお、この場合、はりの断面形状は、矩形以外の円形状、楕円形状など何でも良い。
【0040】
また、この場合、その可変形部の溝部の代わりに、可変形部以外の部位を剛体とした形状も可能である。また同様に、溝部のない単純なはり形状でも良い。この場合には、その信号分離性が劣る。
【0041】
図11は、図10に示すはりを、図11(a)のようなロボットハンドの指部にみたてたモデルの、FEAによるシミュレーションの解析結果である。図11(b)は、このモデルの指部における荷重位置を変えた場合の、荷重0.1N時の解析結果であり、図11(c)は同様に、0.6N時のものである。この結果より、荷重位置によってその発生ひずみ値は変化をするが、ひずみ値を取得する溝部間の距離が変わらないことから、双方の溝部の発生ひずみの差には変化がない。図11(d)は、荷重を変えた場合の溝部の、このひずみ値の差をとったもので、その変化は十分に線形である。このことから、事前に校正曲線として得ておくことで、このような単純な形状のロードセルにおいても、偏値荷重の影響を取り除き、実荷重を知る事ができる。
【0042】
また、図11において、信号取得をする(S1)と(S2)の位置関係(L)が既知であれば、実荷重といっしょに荷重位置も知る事ができる。
【0043】
図12は、平行はりを荷重計のロードセルとして用いた場合についての、モデルにおける解析結果である。図12中のモデルは、アルミニウム合金(A2018)製のH溝型平行はり起歪体(はり長さ×30mm、溝部厚さ0.5mm、溝部長さ5mm、はり間距離10mm)である。この起歪部の中央より±100mmの張り出しを持った荷重用上皿に、10Nの負荷(F)を、位置を変えながら荷重し、その発生ひずみ値の変化をみたもので、その解析結果は図8と同様となっている。
【0044】
図13は、図12のモデル(はり間隔10mm)において、そのはり間距離を10mm、20mm、30mm、40mmとした場合の、溝部4点におけるひずみ値の平均をとったものである。図8では、この溝部4点の平均値がほぼ同一値に見えるが、発生ひずみ値のスケールを拡大してみると、偶力の影響を受けた偏置誤差が大きく表れている。この結果より、はり間距離(h)を大きくすることによって、その影響を小さくできる事がわかる。
【0045】
図8において、はり間距離を大きくできない場合には、事前に取得した各溝部の校正用ひずみ曲線を用いて荷重位置を知ることができることから、その荷重位置をもとに偏置誤差の影響を受けた荷重値(各溝部のひずみの合計値)を補正する事ができる。このことにより、はり間距離(h)の小さな場合でも、その実荷重の正しい値を推定できることになる。なお、この場合、図8の解析結果から判るように、各溝部における荷重位置の変化の値が、全ての溝部合計の変化に比べて格段に大きいことから、その位置情報の精度は高い。このことから、位置情報を用いることによって精度の高い実荷重の推定が可能となる。
【0046】
図14は、図10の荷重計用単純はりモデルを並列に用いた場合の、モデル例および解析結果(この場合は、荷重を1Nから5Nまで変えた場合の、溝部(a)と(d)とにおける発生ひずみ値の合計値)である。並列にすることで感度の向上と同時に、捩れ剛性の向上も期待できる。
【0047】
図15は、H溝型平行はりを2方向に構成したロボット用把持指のモデル例である。この構成では、図15中のA方向およびB方向の力の検出が可能となることから、把持物体の把持荷重、把持位置に加え、把持物体の重さも知る事ができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、力センサに用いられるはり構造起歪体および荷重測定法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、力センサとして多く用いられているダブルビーム型ロードセルは、平行平板はり構造を採りながらも、その2枚のはりの間隔(はり間距離)が狭い場合には、その変形様の効果を十分に生かすことができなかった。このことから、電子てんびんなどの起歪部に用いられた場合、荷重位置によってもたらされる偶力の影響(偏置誤差)を完全に消去できないという課題を残している。
【0003】
一方、ロボットハンドによる物体の把持作業などでは、力センサを用いて把持力を知ることが多く行われているが、ロードセル単体での把持位置情報の取得は困難である。
【0004】
偏置誤差の問題を解決するためには、例えば平行平板はり構造を採るダブルビーム型ロードセルにおいて、ビームの一方を薄くするなどして平行平板はり構造の基本的な変形機構を崩す、という措置を採っている例がある(例えば、非特許文献1、特許文献1または2参照)。しかし、経験による個体毎の調整であることから、個々における偏置誤差を小さくすることはできても、その影響の完全な消去はできていない。また、このような起歪体の重要な要素である捩れに対する抗力を下げることになる。
【0005】
把持位置を知る問題を解決するためには、物体の把持力と把持位置情報とを別々のセンサを用いて得ることが多い。多方向の力情報を用いることで位置情報を知ることも試みられているが、用いる機器数も多く、処理すべき情報も多くなる(例えば、非特許文献2参照)。加えて、このような力覚センサの起歪部は、ひずみ信号値の方向分離性から複雑な形状を持つものが多く、マイクロマシン技術などを用いて作られるような微小構造体には向かない(例えば、非特許文献3参照)。また、簡便な方法も試されているが、力の測定・制御はできていない(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−47118号公報
【特許文献2】特開2002−365125号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】小島之夫、「ビーム型ロードセルの偏値荷重誤差」、日本機械学会論文集、1986年、Vol.52、No.474、p.746-749
【非特許文献2】津村稔、「F/TセンサNANOによる接触位置検出(指先装着型6軸力覚センサ)」、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会論文集、1995年、Vol.(B)、p.1164-1165
【非特許文献3】小野耕三、「6軸力センサ」、精密工学会誌、1986年、Vol.54、No.4、p.33-36
【非特許文献4】原真悟他、「微小物体の把持を対象としたロボットハンドシステムの試作」、計測自動制御学会東北支部第225回研究集会資料集、2005年、資料番号225-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、単純な弾性はり構造、あるいは平行はり構造をもつ力センサ(ロードセル)用起歪体を用いて、その実荷重を精度よく求める測定手法について提案をすることを課題とする。
【0009】
また、必要によっては荷重位置を知る目的に用いる事ができること、その双方(実荷重と荷重位置)を同時に知ることも可能とする測定法について示すことを課題とする。
【0010】
本発明の手法によれば、単純な弾性はり、あるいは平行はりの変形によって生ずる複数箇所のひずみ信号を、事前に取得している校正曲線と比較演算することで、その実荷重と荷重位置情報を同時に、また精度よく知る事ができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する手段としての本発明に係るはり構造起歪体は、両端部を各々荷重側端部および支点側端部として有し、両端部の間に平行平板はり構造、H溝形状の断面を持つ平行はり構造(H溝型平行はり)、単純な単板はり構造、または、単板はりに複数の凹部もしくは凸部を有するはり構造から成ることを、特徴とする。
【0012】
本発明に係る荷重測定法は、本発明に係るはり構造起歪体において、起歪部の変形に起因する複数箇所の応力あるいは変位を電気信号として取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、その荷重値と荷重位置とを同時に取得することを、特徴とする。
【0013】
また、これらのはり構造起歪体において、はりの複数の変形部(起歪部)で発生した変位信号(ひずみ信号)を各はりの変形機構にもとづいた信号処理法によって、事前に取得した校正データをもとにした演算処理を行うことで、荷重位置の影響を取り除いた実荷重と荷重位置情報の提示が可能であってもよい。
【0014】
本発明に係る荷重測定法は、前記平行平板はり構造、あるいは前記H溝型平行はりの前記荷重側端部側に負荷された荷重を、前記荷重側端部側および前記支点側端部側の付け根付近の応力集中部に設けられたセンサによって変位信号として取得し、4点の信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得してもよい。
【0015】
本発明に係る荷重測定法は、前記単板はりに複数の凹部もしくは凸部を有するはり構造の前記荷重側端部側に負荷された荷重を、複数のセンシング箇所における変位信号をセンサで取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得してもよい。
【0016】
本発明に係る荷重測定法は、前記単純な単板はり構造の前記荷重側端部側に負荷された荷重を、前記支点側端部側の任意の位置に設けられた複数のセンサを用い、各センサ位置における変位信号として取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るはり構造起歪体および荷重測定法は、その荷重位置に関りなく、被計量物の荷重位置によってもたらされる偶力の影響(偏置誤差)を消去し、どのような位置に荷重されてもその実荷重のみを知る事を可能とする。
【0018】
また、必要であれば、その荷重位置を知ることも、その両方(荷重と荷重位置)を同時に知ることも可能とする。
【0019】
これまで多く用いられている、H溝型平行はり構造,平行平板はり構造、単板はり構造などの起歪体において、偏置誤差を取り除いた精度の高い実荷重の測定を可能とする。
【0020】
加えて、本手法で対象とする起歪部は単純なはり構造でも可能であることから、マイクロマシン技術を用いた微小構造体における負荷力および負荷位置の測定などにも応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、(a)平行平板はり構造、(b)H溝型平行はりの構造概念を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、単純な単板はりにおける信号取得位置と荷重位置との関係を説明する側面図である。
【図3】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、溝付き単板はりにおける信号取得位置と荷重位置との関係を説明する側面図である。
【図4】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、平行平板はり構造における変形機構を説明する正面図である。
【図5】本発明の実施の形態のはり構造起歪体のH溝型平行はりにおいて、はり中間の剛体部を逆側に持ってきた正面図である。
【図6】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、H溝型平行はりにおける各溝部の発生ひずみが、荷重位置によって受ける影響を説明する正面図である。
【図7】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、ロバーバル機構における荷重点の影響相殺原理を説明する原理図である。
【図8】本発明の実施の形態のはり構造起歪体のH溝型平行はりにおける、各溝部の発生ひずみと荷重点との関係を説明するグラフおよび正面図である。
【図9】本発明の実施の形態のはり構造起歪体のH溝型平行はりモデルにおける、荷重位置と発生ひずみとの関係を示す正面図および検証グラフである。
【図10】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の溝付き単板はりモデルにおける、荷重位置と信号取得位置との関係を説明する側面図である。
【図11】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、溝付き単板はりをロボットの把持指とした場合の(a)モデルを示す斜視図、(b)(c)(d)その発生ひずみ値解析結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、H溝型平行はりを荷重計用ロードセルとした場合のモデルを示す正面図、および、その解析結果を示すグラフである。
【図13】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、H溝型平行はりを荷重計用ロードセルとした場合のモデルにおいて、はり間距離が狭い場合の影響を説明するグラフである。
【図14】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、溝付き単板はりを荷重計用ロードセルとして複列に配置したモデルを示す側面図、および、その解析結果を示すグラフである。
【図15】本発明の実施の形態のはり構造起歪体の、2組の異方向の起歪部を持つH溝型平行はりを、ロボットの把持指としたモデルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1(a)に示すように、本発明の実施の形態のはり構造起歪体は、両端部を各々荷重点側端部及び支点側端部として有し、両端部の間にH溝型平行はり構造を持つ起歪部として構成し、その平行はりを成す2枚のはり間距離を適切に取ることができない場合でも、その各溝部における互いのひずみ信号値を比較演算処理することによって、その負荷された実荷重および荷重位置の双方を知ることができる。
【0023】
図1(a)に示す平行平板はり型ロードセルでは、支点側となる部位(1)と荷重点側となる部位(2)の間の、平行な2枚のはりを起歪部とする。図1(a)中の溝部(4a1)(4b1)あるいは(4c1)(4d1)あるいは(4a1)(4b1)(4c1)(4d1)における発生ひずみを合計することで、荷重位置によらず実荷重を知る事ができる。また、(4a1)(4c1)あるいは(4b1)(4d1)のひずみ値を個別に、あるいは合わせて取得することで、荷重位置情報を知る事ができる。
【0024】
図1(b)に示すように、はり構造起歪体は、溝部のない単純な平行平板はり構造であってもよい。この場合のひずみ信号の取得は、応力値の高くなる各平板はりの付け根側近傍とする。図1(b)に示すH溝型平行はりは、平行平板はり構造の進展型で、その捩れ剛性を高めることと変形の応力を溝部(4a2)(4b2)(4c2)(4d2)に限定する目的から、平行はりの中央部分に剛体部(3a)(3b)を持つものである。この変形様からもわかるように、H溝型平行はりの場合にも平行平板はりと同様の荷重情報の取得が可能である。
【0025】
その起歪部は、図2に示すような単板はりでもよい。図2中では、自由端(Free)側となる荷重位置(5c)の負荷(F)を、固定端(Fix)側となる任意の複数の部位に配置されたセンサ(図2中では(5a)、(5b)の2点のひずみゲージ)によって変位の電気信号として取得し、その各センサ部における信号値を比較演算処理することによって、その負荷された実荷重および荷重位置の双方を知ることができる。
【0026】
この場合、図3に示すように、単板はりの信号取得部分に窪みなどを設けて変形しやすくした構造でもよく、この場合にはその信号の分離性が、図2の場合より高くなり測定精度をあげられる。図3は、通常の単板はりに2ヶ所の溝(5a)(5b)を設け、その先となる自由端側の部位(5c)に荷重Fを負荷したものである。この場合の各溝部の応力は、荷重Fと荷重点から各溝部までの距離との積によって求められことから、各溝部における応力の差をとることで、その値は荷重に比例する。このことから、事前に校正曲線を求めておけば、出力された溝部におけるひずみ信号の差から実荷重が求められる。同様に、実荷重がわかれば荷重点までの距離も求められることから、その荷重位置も求められる。
【0027】
本発明の実施の形態のはり構造起歪体および荷重測定法の、荷重位置に起因する偶力の影響の相殺機構、および荷重位置を知る手法について、図4〜図15を用いて説明する。
【0028】
図4は、平行平板はりの横断面形状で、はり長さ(l)に比較して変形部の板厚(t)は十分に薄いものとする。このようなはりの自由端(2)に荷重(F)を加えると、上はりの支点側(1)の表面(a)には引張応力が生じ、自由端側(b)には圧縮応力が生ずる。また、下はりの支点側表面(c)には圧縮応力が生じ、自由端側(d)には引張応力が生ずる。このことによって、端面は、はりの可変形方向に対しほぼ平行に変位する。このことは公知となっている。
【0029】
同様に、図4において、平行平板はりの端面を平行に変位させる偶力(M)は、両はりのはり間隔(h)によってもたらされることから、はり間隔(h)の小さい段階では、単板はりと同様の変形様を併せて持つこととなる。このことが、ロードセルにおいて偏置誤差となって表れる。
【0030】
このような図4における現象は、図1(b)のH溝型平行はりにおいても同じであり、このことは公知である。このH溝型平行はり構造は、図5に示すように、その中間の剛体部(5a)(5b)を平行はりの逆側に設けた場合でも同様である。
【0031】
図6は、H溝型平行はりの各溝部を、前述の4節リンク機構の回転節になぞらえ、H溝型はりに重ねて検討を行ったものである。はりの自由端(2)に荷重した場合の各溝部(a)(b)(c)(d)における応力は平行平板はりと同様の変形となることから、図6中に示すように、溝部(a)では溝の外側には引張応力が生じ、内側には圧縮応力が生ずる。同様に溝部(b)では溝の外側には圧縮力、内側には引張力、溝部(c)では溝の外側には圧縮力、内側には引張力、溝部(d)では溝の外側には引張力、内側には圧縮力による応力が生ずる。このH溝型平行はりの自由端側(溝部(c)と溝部(d)の間のリンク)に設けた腕木に荷重した場合、ロバーバル機構の例と同じく、溝部(b)と溝部(d)の間のリンク((2)の部位)には、時計回りの偶力が働くこととなる。
【0032】
図7は、上皿天秤における荷重位置相殺機構(ロバーバルのバランス機構)を説明するための4節リンク機構モデルである。平行四辺形を形作るリンクにおいて、自由端側のリンク(b−d)に腕木(larm)を伸ばし、任意の位置に荷重(F)を加えたとする。このモデルにおいて回転節(a)(b)(c)(d)の回転に抵抗がない場合には、腕木長さによる偶力(Mbd)によって引き起こされる上側リンク(l1)と下側リンク(l2)とにかかる力(Mb1)(Md1)が、互いに向きの違う等しい大きさであることから相殺され、リンク(b−d)には、(Fy)方向の力のみ加わることになる。つまり、ロバーバル機構の場合には、回転節に摩擦がないことから、Fxによって引き起こされる影響がFyに比べて無視できるほど小さかったのが、H溝型平行はりの場合には、回転節となる溝部に回転抵抗があることから、図6のように、上はりには引張力、下はりには圧縮力が加わることになる。
【0033】
このことから、図8のような腕木の先に荷重位置を持ったH溝型平行はり構造の溝部における応力は、はり外側の溝部(a)においては平行平板はりの変形様によってもたらされた引張応力に腕木長さによって加わる引張力が加わることから、その応力は増大する。溝部(b)においては,平行平板はりの変形様によってもたらされた圧縮応力に腕木長さによって引張力が加わることから、その応力は減少する。下側はり外側の溝部(c)においては、平行平板はりの変形様によってもたらされた圧縮応力に腕木長さによって加わる圧縮力が加わることから、その応力は増大する。溝部(d)においては、平行平板はりの変形様によってもたらされた引張応力に腕木長さによって圧縮力が加わることから、その応力は減少する。はり溝部の内側(a‘)(b’)(c‘)(d’)においては、応力の向きが逆となることから傾向は逆となるが、表れる現象は同じである。このことは、図8中の解析結果によっても明らかである。
【0034】
図9は、H溝型平行はりの自由端側に腕木を取り付け、起歪部からの距離を10mmから50mmまで変えた場合の、各溝部(a)(b)(c)(d)における発生ひずみと、上はりの溝部(a)(b)におけるひずみの合計(a−b)と、下はりの溝部(c)(d)におけるひずみの合計(c−d)とを、FEAを用いたシミュレーションによって得た結果である。この結果より、支点側の溝部(a)(c)における発生ひずみは、荷重点が起歪部より離れるに従って増加し、反対に、自由端側の(b)(d)における発生ひずみは、荷重点が起歪部より離れるに従って減少している。しかし、これらのひずみ値を合計することで、荷重位置の影響をうけずに実荷重を知る事ができる。このことは、上記の図8での現象を証明するものである。
【0035】
図8および図9の結果より、図1における平行平板はり(あるいはH溝型平行はり)において、実荷重を知りたいときには、上はりの溝部(4a)(4b)あるいは(4c)(4d)のひずみの合計値を、荷重との校正曲線として用いる。また、この場合、溝部(4a)(4b)(4c)(4d)におけるひずみの合計値を用いるのでも可能である。
【0036】
さらに、荷重位置を知りたい場合には、溝部(4a)(4b)(4c)(4d)における、それぞれの発生ひずみ値と荷重値との校正曲線を用いる。この場合、支点側(4a)(4c)、荷重端側(4b)(4d)を合わせて用いることでも可能である。
【0037】
しかし、2枚のはり間距離(h)が狭い場合には、荷重位置によってもたらされる偶力の影響を強く受け、溝部(a)(b)(c)(d)のひずみの合計値が荷重位置に伴って変化をする。このような場合には、荷重位置からの演算による補正で実荷重を推定することとなる。
【0038】
図10は、単純な矩形断面を持つ弾性はりの任意の位置に2個の溝を構成し、その部位にひずみゲージ(S1)(S2)を貼った場合のモデルである。このような単板はりの自由端側に、F1あるいはF2の荷重を加えると、2個の溝部(S1)(S2)には偶力(M1)(M2)が生じ、時計方向に回転する。つまり、荷重(F1)あるいは(F2)と、荷重点からの距離(l1f1)(l2f1)あるいは(l1f2)(l2f2)との積により変形する。この時の2個の溝部における発生ひずみ値の差をとることで、実荷重と荷重位置とを知る事ができる。
【0039】
つまり、このことを荷重(F1)について考えれば、
−M1 =F1×l2f1
=F1×(L+l1f1)
−M2 =F1×l1f1
(−M1)−(−M2)=F1×L ・・・・・(1)
次に、(F2)について考えれば、
−M1 =F2×l2f2
=F2×(L+l1f2)
−M2 =F2×l1f2
(−M1)−(−M2)=F2×L ・・・・・(2)
となる。そこで、F1とF2とが同じ値であれば(1)(2)式がつりあうことから、F1とF2とが同じ値であれば、荷重点に関りなく実荷重を知る事ができる。なお、この場合、はりの断面形状は、矩形以外の円形状、楕円形状など何でも良い。
【0040】
また、この場合、その可変形部の溝部の代わりに、可変形部以外の部位を剛体とした形状も可能である。また同様に、溝部のない単純なはり形状でも良い。この場合には、その信号分離性が劣る。
【0041】
図11は、図10に示すはりを、図11(a)のようなロボットハンドの指部にみたてたモデルの、FEAによるシミュレーションの解析結果である。図11(b)は、このモデルの指部における荷重位置を変えた場合の、荷重0.1N時の解析結果であり、図11(c)は同様に、0.6N時のものである。この結果より、荷重位置によってその発生ひずみ値は変化をするが、ひずみ値を取得する溝部間の距離が変わらないことから、双方の溝部の発生ひずみの差には変化がない。図11(d)は、荷重を変えた場合の溝部の、このひずみ値の差をとったもので、その変化は十分に線形である。このことから、事前に校正曲線として得ておくことで、このような単純な形状のロードセルにおいても、偏値荷重の影響を取り除き、実荷重を知る事ができる。
【0042】
また、図11において、信号取得をする(S1)と(S2)の位置関係(L)が既知であれば、実荷重といっしょに荷重位置も知る事ができる。
【0043】
図12は、平行はりを荷重計のロードセルとして用いた場合についての、モデルにおける解析結果である。図12中のモデルは、アルミニウム合金(A2018)製のH溝型平行はり起歪体(はり長さ×30mm、溝部厚さ0.5mm、溝部長さ5mm、はり間距離10mm)である。この起歪部の中央より±100mmの張り出しを持った荷重用上皿に、10Nの負荷(F)を、位置を変えながら荷重し、その発生ひずみ値の変化をみたもので、その解析結果は図8と同様となっている。
【0044】
図13は、図12のモデル(はり間隔10mm)において、そのはり間距離を10mm、20mm、30mm、40mmとした場合の、溝部4点におけるひずみ値の平均をとったものである。図8では、この溝部4点の平均値がほぼ同一値に見えるが、発生ひずみ値のスケールを拡大してみると、偶力の影響を受けた偏置誤差が大きく表れている。この結果より、はり間距離(h)を大きくすることによって、その影響を小さくできる事がわかる。
【0045】
図8において、はり間距離を大きくできない場合には、事前に取得した各溝部の校正用ひずみ曲線を用いて荷重位置を知ることができることから、その荷重位置をもとに偏置誤差の影響を受けた荷重値(各溝部のひずみの合計値)を補正する事ができる。このことにより、はり間距離(h)の小さな場合でも、その実荷重の正しい値を推定できることになる。なお、この場合、図8の解析結果から判るように、各溝部における荷重位置の変化の値が、全ての溝部合計の変化に比べて格段に大きいことから、その位置情報の精度は高い。このことから、位置情報を用いることによって精度の高い実荷重の推定が可能となる。
【0046】
図14は、図10の荷重計用単純はりモデルを並列に用いた場合の、モデル例および解析結果(この場合は、荷重を1Nから5Nまで変えた場合の、溝部(a)と(d)とにおける発生ひずみ値の合計値)である。並列にすることで感度の向上と同時に、捩れ剛性の向上も期待できる。
【0047】
図15は、H溝型平行はりを2方向に構成したロボット用把持指のモデル例である。この構成では、図15中のA方向およびB方向の力の検出が可能となることから、把持物体の把持荷重、把持位置に加え、把持物体の重さも知る事ができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部を各々荷重側端部および支点側端部として有し、両端部の間に平行平板はり構造、H溝形状の断面を持つ平行はり構造(H溝型平行はり)、単純な単板はり構造、または、単板はりに複数の凹部もしくは凸部を有するはり構造から成ることを、特徴とするはり構造起歪体。
【請求項2】
請求項1に記載のはり構造起歪体において、起歪部の変形に起因する複数箇所の応力あるいは変位を電気信号として取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、その荷重値と荷重位置とを同時に取得することを、特徴とする荷重測定法。
【請求項3】
前記平行平板はり構造、あるいは前記H溝型平行はりの前記荷重側端部側に負荷された荷重を、前記荷重側端部側および前記支点側端部側の付け根付近の応力集中部に設けられたセンサによって変位信号として取得し、4点の信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得することを、特徴とする請求項2記載の荷重測定法。
【請求項4】
前記単板はりに複数の凹部もしくは凸部を有するはり構造の前記荷重側端部側に負荷された荷重を、複数のセンシング箇所における変位信号をセンサで取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得することを、特徴とする請求項2記載の荷重測定法。
【請求項5】
前記単純な単板はり構造の前記荷重側端部側に負荷された荷重を、前記支点側端部側の任意の位置に設けられた複数のセンサを用い、各センサ位置における変位信号として取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得することを、特徴とする請求項2記載の荷重測定法。
【請求項1】
両端部を各々荷重側端部および支点側端部として有し、両端部の間に平行平板はり構造、H溝形状の断面を持つ平行はり構造(H溝型平行はり)、単純な単板はり構造、または、単板はりに複数の凹部もしくは凸部を有するはり構造から成ることを、特徴とするはり構造起歪体。
【請求項2】
請求項1に記載のはり構造起歪体において、起歪部の変形に起因する複数箇所の応力あるいは変位を電気信号として取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、その荷重値と荷重位置とを同時に取得することを、特徴とする荷重測定法。
【請求項3】
前記平行平板はり構造、あるいは前記H溝型平行はりの前記荷重側端部側に負荷された荷重を、前記荷重側端部側および前記支点側端部側の付け根付近の応力集中部に設けられたセンサによって変位信号として取得し、4点の信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得することを、特徴とする請求項2記載の荷重測定法。
【請求項4】
前記単板はりに複数の凹部もしくは凸部を有するはり構造の前記荷重側端部側に負荷された荷重を、複数のセンシング箇所における変位信号をセンサで取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得することを、特徴とする請求項2記載の荷重測定法。
【請求項5】
前記単純な単板はり構造の前記荷重側端部側に負荷された荷重を、前記支点側端部側の任意の位置に設けられた複数のセンサを用い、各センサ位置における変位信号として取得し、互いの信号値を比較演算処理することによって、前記負荷された荷重とその荷重位置とを同時に取得することを、特徴とする請求項2記載の荷重測定法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−247658(P2011−247658A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118938(P2010−118938)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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