説明

はんだ層形成部材の製造方法

【課題】 本発明の目的は、従来とは異なる方法で、酸化表面に対して十分な接合強度を得ることができる、はんだ層形成部材の製造方法を提供することである。
【解決手段】 本発明は酸化表面を有する部材の該表面に過酸化水素水を供給し、次いで前記過酸化水素水の供給位置に溶融はんだを供給して、前記表面にはんだ層を形成するはんだ層形成部材の製造方法である。前記過酸化水素水の過酸化水素濃度は、0.1質量%〜10質量%であることが好ましい。また、本発明で用いる溶融はんだは、SnAgAl系合金であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガラス等の酸化物よりなる酸化表面にはんだ層を形成した、はんだ層形成部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス等の酸化表面を有する部材を接合する分野には、特許文献1に開示されるように、一対のガラス基板を接合するために、予めそれぞれのガラス基板にはんだ層を形成することが行われている。そして、具体的なはんだ層形成には、溶融はんだに超音波を印加する方法が開示されている。
【0003】
はんだ層をガラス基板等に形成させようとする時に超音波を印加すると、表面に存在する気泡や異物が超音波により除去され、はんだとガラス基板等との接合界面における接合性は向上するという利点がある。
【0004】
また、特許文献2には、2枚の板状体の広い面積をはんだによって接合する技術が開示されている。特許文献2は、2枚の板状体の各々片面のはんだ付けすべき領域全体に溶融したはんだによる被覆を形成し、この被覆の端縁同志を接触させ、被覆同士を摺り合わせて接触合体させて冷却し、はんだを凝固させることにより板状体同士をはんだ付けする方法が開示されている。
この方法によれば、溶融はんだ材で構成された被覆同士の摺り合わせ合体動作により、当該被覆表面を覆っていた酸化物層を扱き出し、酸化物を含まない清浄なはんだによる板状体同士の接合を実現することができるため、健全な接合界面を得ることができるという利点がある。
【0005】
また、ガラスやセラミックスといった酸化表面を有する部材を接合するのに適した酸化物接合用のはんだ合金として、本出願本はSnを主成分とし、AgとAlを添加した酸化物接合用はんだ合金を提案している(特許文献3)。
【特許文献1】特開2002−184313号公報
【特許文献2】特開平6−114549号公報
【特許文献3】WO2007−007840公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるはんだに超音波を印加する方法は有効であるが、単に超音波を印可するだけでは酸化表面と形成したはんだ層との間に十分な接合強度を得ることができない場合があり、より確実な方法の開発が望まれている。
また、特許文献2に開示される接合方法では、工業上の生産性の点では、板状体を摺り合わせる際のはんだの取扱いが難しいという問題がある。加えて、摺り合わせて接触合体するために、接合する部材の形状が限られる上、接合するために多大な工数が必要となるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、従来とは異なる方法で、酸化表面に対して十分な接合強度を得ることができるはんだ層形成部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、はんだ層形成の前処理として酸化表面にあらかじめ過酸化水素水を供給しておくことで、飛躍的に接合強度を高めることができることを見出し本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、酸化表面を有する部材の該表面に過酸化水素水を供給し、次いで前記過酸化水素水の供給位置に溶融はんだを供給して、前記表面にはんだ層を形成するはんだ層形成部材の製造方法である。
前記過酸化水素水の過酸化水素濃度は、0.1質量%〜10質量%であることが好ましい。
また、本発明で用いる溶融はんだは、SnAgAl系合金であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来にない新しい方法により、酸化表面に対して十分な接合強度を有するはんだ層を形成できるため、酸化表面を有する部材の接合における溶融はんだの取扱いと接合工数の削減を飛躍的に改善することができ、たとえばガラスやセラミックスといった酸化表面を有する部材の接合にとって欠くことのできない技術となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の重要な要件は、はんだ層形成の前処理として酸化表面に、あらかじめ過酸化水素水を供給しておくことにある。その理由を以下に説明する。
【0012】
酸化表面のはんだ接合において、はんだとの接合機構としては、はんだと酸化表面に酸素を媒介とした化学結合が寄与しているものと予想される。したがって、接合時の酸素の存在は良好な接合を行うための重要な要素である。加熱によって分解され酸素を生じる過酸化水素水であれば、溶融はんだと酸化表面へ酸素を供給することができる。
加えて、過酸化水素水は加熱により分解すると水と酸素になる。水は、はんだ接合部が沸点以上に加熱されるため、蒸発し、酸化表面に残渣を残さない。酸素は、はんだ接合に寄与しないものが気体になり、接合部および酸化物表面に残らない。さらに、分解時に生じるオゾンは酸化物表面の不純物である有機成分とも反応しクリーニング効果も期待できる。
【0013】
過酸化水素水が加熱により発生する酸素量は、過酸化水素の濃度に比例する。したがって、濃度は0.1質量%未満であれば充分な酸素発生量が得られず、充分な接続強度が得られないため、0.1質量%以上が好ましい。さらに好ましくは1.0質量%以上である。
しかしながら、過酸化水素水は強い腐食性を持つため、高い濃度であると溶融はんだやはんだ供給装置などを腐食する。したがって、10質量%を超える濃度であれば、過酸化水素水の持つ腐食性の影響が避けられないため、10質量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは5.0質量%以下である。
【0014】
本発明における過酸化水素水の層は、酸化表面とはんだとの接合を助ける役割を担う。したがって、用いるはんだ合金は、たとえばSnAgAl合金のような、酸化表面を有する部材と接合が容易なはんだを適用することが、工数削減という意味で望ましい。
また、たとえばガラス表面にはんだ層を供給しようとする場合に、はんだの融点が高すぎるとヒートショックによりガラスが割れる可能性もある。本発明に適用するはんだは、酸化表面を有する部材の特性に合わせたものを選択することが望ましい。
【0015】
また、過酸化水素水は、沸点が150℃以下であるため、融点の高いはんだを用いると、過酸化水素水中で溶融状態を保てなくなる場合もある。したがって、本発明において、好ましいはんだとしては、溶け出し温度が少なくとも300℃以下である。
SnAgAl合金(Ag:2.0〜15.0質量%、Al:0.1〜6.0質量%、残部Snおよび不可避的不純物)であれば、はんだの溶け出し温度が200〜300℃であり、本発明のはんだ層形成部材の製造方法に最適である。
また、上記SnAgAl合金に、その他の添加元素として、Y:0.50質量%以下やGe:0.50質量%以下を添加してもよい。
【0016】
なお、本発明は、従来の酸化表面へのはんだ層形成技術とは別の視点からの技術開発であって、従来方法と組み合わせることを否定するものではない。たとえば、超音波を印可したり、酸化表面を有する部材を加熱したりする方法を組み合わせることもできる。
また、本発明は過酸化水素水からの酸素供給という原理に基づいた酸化表面とはんだとの接合強度の改善であり、本発明でいう酸化表面を有する部材としては、各種ガラスやセラミックスだけでなく、金属表面に酸化層を形成するアルミニウム、ステンレス等への適用も期待できる。
【実施例1】
【0017】
酸化表面を有する部材として、エタノールで脱脂し純水で洗浄した後乾燥させた50mm角、厚さ3mmのソーダガラス基板を準備した。また、使用するはんだとして、直径1mmの線材形状を有するSnAgAlはんだ合金(8.5質量%Ag、0.35質量%Al、残部Snおよび不可避的不純物)を準備した。
本実施例において、はんだ層形成部材を製造する装置として、超音波はんだ付け装置(サンボンダー、形式USM−III、黒田テクノ(株)製)を用い、超音波を印可しない条件で適用した。
【0018】
先ず、常温においてソーダガラス基板2の表面に過酸化水素濃度3質量%の過酸化水素水をスポイトでソーダガラス基板2の表面に液滴が連なるように塗布した。
次いで、図1aに示すように、加熱したはんだこて3の先端ではんだ線4を溶融させ、図1bに示すように、溶融はんだとはんだこて3の先端をソーダガラス基板2の表面に接触させるように過酸化水素水の層1へ漬け、図1cに示すように、はんだ線4とはんだこて3の先端を移動させながらはんだを供給し、はんだ層5を形成した。
【0019】
ソーダガラス基板にはんだ層が確実に形成されているかを確かめるために、ニチバン(株)製のセロハンテープをはんだ表面に貼り付け、引き剥がし試験を行なった。
はんだ層形成部材の引き剥がし試験を実施した結果、接合部は強固に密着しており、はんだ層は引き剥がすことができなかった。このとき、はんだ表面は酸化物の発生が抑制されており、金属光沢が観察された。
本発明のはんだ層形成部材の製造方法によれば、充分な接合が可能で、かつ、はんだ表面の酸化物生成抑制を実現することが確認できた。
【0020】
一方、比較例として、過酸化水素水の塗付を行なわず、常温においてソーダガラス基板表面へはんだ付けを実施し、本発明例と同様にニチバン(株)製のセロハンテープをはんだ表面に貼り付け、引き剥がし試験を行なった。
はんだ層形成部材の引き剥がし試験を実施した結果、はんだ層は容易に引き剥がすことができた。
【実施例2】
【0021】
直径1mmの線材形状を有するSnAgAlYGeはんだ合金(8.5質量%Ag、0.35質量%Al、0.075質量%Y、0.03質量%Ge、残部Snおよび不可避的不純物)を使用して、実施例1と同じ条件で、酸化表面を有する部材にはんだ層を形成した。酸化表面を有する部材には、実施例1と同じ30mm角、厚さ5mmのソーダガラス基板を使用した。
【0022】
実施例1と同様の引き剥がし試験を行なった結果、本発明例では、接合部は強固に密着しており、はんだ層を引き剥がすことができなかった。このとき、はんだ表面は酸化物の発生が抑制されており、金属光沢が観察された。
【0023】
さらに、ガラス基板上のはんだ層の接合度合を確認するために、ピンセットを用いて引き剥がし試験を実施した結果、はんだ層を引き剥がすことができたが、ソーダガラス基板表面には、はんだが残っており、ソーダガラス基板と強固に接合していたことが確認できた。これにより、本発明のはんだ層形成部材の製造方法によれば、はんだ組成を替えても充分な接合が可能で、かつ、はんだ表面の酸化物生成抑制を実現することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のはんだ層形成部材の製造方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1.過酸化水素水、2.ガラス基板、3.はんだこて、4.はんだ線、5.はんだ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化表面を有する部材の該表面に過酸化水素水を供給し、次いで前記過酸化水素水の供給位置に溶融はんだを供給して、前記表面にはんだ層を形成することを特徴とするはんだ層形成部材の製造方法。
【請求項2】
前記過酸化水素水の過酸化水素濃度が、0.1質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1に記載のはんだ層形成部材の製造方法。
【請求項3】
前記はんだが、SnAgAl系合金であることを特徴とする請求項1または2に記載のはんだ層形成部材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−72827(P2009−72827A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214480(P2008−214480)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(507285968)サンワ化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】