説明

びびり振動検出装置

【課題】びびり振動の検出を確実にできるびびり振動検出装置を提供する。
【解決手段】加工中に振動測定手段80を用いて、第1の振動測定の所定時間後に第2の振動を測定し、パワースペクトル演算手段82により第1の振動のパワースペクトルである第1パワースペクトルと、第2の振動の第2パワースペクトルを演算する。所定周波数帯域における第1パワースペクトルの振動の大きさに対する、第2パワースペクトルの振動の大きさの増加度合いを増加度合い演算手段83で演算し、増加度合いが所定値以上に大きい場合に、びびり振動が発生したと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械を用いて工作物を加工するときに発生するびびり振動を検出するびびり振動検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
びびり振動検出装置として、所定周波数帯域の振動の大きさが基準値を超え、かつ一定時間内における振動速度の変化の度合いが基準値を超えた場合に所定周波数帯域のびびり振動が発生していると判定している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−233368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では所定周波数帯域の振動の大きさを基準値と比較することが判定条件となっているため、工具や工作物の組合せに応じてびびり振動の発生する可能性のある所定周波数帯域を設定し、さらに、夫々の周波数帯域に対して適正な基準値を設定する必要がある。同一工具でも工具の磨耗による切味の変化で振動状況は異なるので、全ての工具のいかなる状態においても適正な基準値を設定することは煩雑で困難である。このため適正な基準値を設定できない場合にびびり振動の発生を検出できない恐れがある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易なびびり振動の検出を確実にできるびびり振動検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するための請求項1に係る発明の特徴は、工具を用いて工作物を加工するときに発生するびびり振動の発生を検出するびびり振動検出装置であって、
工作機械の第1の振動と前記第1の振動の測定から所定時間後に第2の振動を測定する振動測定手段と、
前記振動の時間領域のフーリエ解析を行い所望の周波数領域の一定周波数帯域における振動の大きさであるパワースペクトルを演算するパワースペクトル演算手段と、
前記第1の振動のパワースペクトルである第1パワースペクトルと、前記第2の振動のパワースペクトルである第2パワースペクトルを記録する記録手段と、
前記第1パワースペクトルの所定周波数帯域における振動の大きさに対する、前記第2パワースペクトルの前記所定周波数帯域における振動の大きさの増加度合いを演算する増加度合演算手段と、
第1の所定値以上の前記増加度合いを備えた前記所定周波数帯域である増加周波数帯域が存在する場合に、前記増加周波数帯域の周波数のびびり振動が発生したと判定するびびり振動判定手段と、
前記びびり振動判定手段によりびびり振動が発生したと判定された場合に、びびり振動が発生したことと、びびり振動の周波数を出力する出力手段を備えることである。
【0006】
上記の課題を解決するための請求項2に係る発明の特徴は、前記第1の所定値が前記周波数領域の全ての周波数帯域における前記増加度合いの平均値に対して第2の所定値だけ大きい値であることである。
【0007】
上記の課題を解決するための請求項3に係る発明の特徴は、前記増加周波数帯域が複数存在する場合には、前記びびり振動判定手段が、
前記増加周波数帯域の前記増加度合いの平均値に対して第3の所定値以上の前記増加度合いを備えた、前記増加周波数帯域である超増加周波数帯域が存在する場合に、前記超増加周波数帯域の周波数のびびり振動が発生したと判定することである。
【0008】
上記の課題を解決するための請求項4に係る発明の特徴は、前記増加度合い、前記第1の所定値、前記第2の所定値および前記第3の所定値の少なくとも1つが倍率であることである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、所望の周波数領域における全ての周波数帯域において、第1パワースペクトルと第2パワースペクトルの振動の大きさを比較することでびびり振動発生の有無を検出できる。このため、所望の周波数領域についてはびびり振動の発生の検出漏れを起こすことがないびびり振動検出装置を実現できる。
このびびり振動検出装置を工作機械に用いた場合には、このびびり振動検出装置のびびり振動有無とびびり振動の周波数の出力を利用して、びびり振動による加工不良の防止や、びびり振動の発生しない加工条件の選定などが可能となる。
【0010】
請求項2および請求項3に係る発明によれば、びびり振動以外の原因による振動の大きさの増加があっても、びびり振動を分離検出できる。このため、所望の周波数領域についてはびびり振動の発生の検出間違いを起こすことがないびびり振動検出装置を実現できる。
このびびり振動検出装置を工作機械に用いた場合には、より正確なびびり振動の検出が可能で、検出ミスによる不要な加工の中断が少ない工作機械を提供できる。
【0011】
請求項4に係る発明によれば、前記増加度合いを倍率で判定するので、振動の大きさが小さくても判定できる。このため、振動の大きさが小さいびびり振動発生初期にもびびり振動発生を検出可能な、びびり振動検出装置を実現できる。
このびびり振動検出装置を工作機械に用いた場合には、不良品を発生する前に加工を停止できる工作機械を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態の工作機械とびびり検出手段を示す全体図である。
【図2】本実施形態のびびり振動検出のフローチャートである。
【図3】本実施形態の第1パワースペクトルを示す図である。
【図4】本実施形態の第2パワースペクトル(増加周波数帯域が複数存在する場合)を示す図である。
【図5】本実施形態の第2パワースペクトル(増加周波数帯域が1つ存在する場合)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
工作機械1に本発明のびびり振動検出装置8を接続した実施形態に基づき説明する。
図1に示すように、工作機械1はベッド5により可動に保持された、工具2を回転保持する主軸3と工作物4を相対運動させて所望の加工を行う。主軸3の回転、主軸3の送りなどの運動制御はNC装置6により制御される。びびり振動検出装置8は、主軸3に設置される振動センサ801を備えた振動測定手段80、振動測定手段80の検出データや演算結果などのデータを記録する記録手段81、フーリエ解析によりパワースペクトルの演算を行うパワースペクトル演算手段82、振動の大きさの増加度合いを演算する増加度合い演算手段83、びびり振動の発生の有無を判定するびびり振動判定手段84、びびり振動の発生とびびり振動の周波数を出力する出力手段85を備えている。
【0014】
びびり振動は、特定の周波数においてその振動の大きさが時間経過とともに急激に大きくなる特性を備えている。本発明はこの特性を利用して、工作物の加工中に、びびり振動の大きさが検出可能になるまで大きくなる時間である所定の時間の差を設けて振動を測定し、周波数帯域毎の振動の大きさを比較して、時間の経過につれて振動の大きさが増加する周波数帯域が存在すれば、その周波数帯域の周波数を備えたびびり振動が発生したと判定してびびり振動を検出するものである。
【0015】
図3〜図5のパワースペクトルは、測定された振動をフーリエ解析して、横軸に示す周波数帯域毎にその周波数帯域における振動の大きさを示したものである。振動の大きさとしては、振動の振幅、振動の速度、振動の加速度等のいずれを用いてもよい。
【0016】
以下、図2のフローチャートに基づき、図3〜図5のパワースペクトルを参照して、周波数領域が1〜nHzで周波数帯域が1Hzの場合の例でびびり振動を検出する工程を説明する。
始めに工具が工作物に接触した加工開始直後に、振動測定手段80に接続された振動センサ801を用いて主軸の振動を測定し、振動データWを記録手段81へ記録する(S1)。振動データWをフーリエ解析し、図3に示すように1〜nHzまでの周波数帯域毎の振動の大きさV11〜V1nを表す第1パワースペクトルとして記録手段81へ記録する(S2)。所定の時間t待機する。所定時間tは0.1秒〜1秒が好適である(S3)。振動測定手段80に接続された振動センサ801を用いて主軸の振動を測定し、振動データWを記録手段81へ記録する(S4)。振動データWをフーリエ解析し、図4に示すような1〜nHzまでの周波数帯域毎の振動の大きさV21〜V2nを表す第2パワースペクトルとして記録手段81へ記録する(S5)。カウンタCの値を0にする(S6)。カウンタCに1を加算する(S7)。周波数帯域Cにおける、第1パワースペクトルに対する第2パワースペクトルの振動の大きさの増加度合いを演算する。具体的には、増加の倍率sVc1を式sVc1=V2c1/V1c1を用いて、増加度合い演算手段83で演算し、記録手段81へ記録する(S8)。倍率sVc1が所定値K以上か否か(sVC1≧K?)を判定する。sVC1≧KであればステップS10へ移動、そうでなければステップS11へ移動する(S9)。周波数Cの増加周波数が発生しているとして、周波数Cと倍率sVC1を記録手段81へ記録する(S10)。n個の周波数の判定が終わったか判定する。C=nならステップS12へ、そうでないならステップS7へ移動する(S11)。
ここで所定値Kの値を1.3として、ステップS8からS11までを繰り返した結果、図2と図3における周波数aHzにおいてsV=V2a/V1a=1.33となるため、周波数aHzは増加周波数となる。以下同様にしてsV=1.35、sV=1.32、sV=2.17、sV=1.38となり、aHz〜eHzまでの周波数の5つの増加周波数が発生しているとする。
【0017】
増加周波数の数Nが2以上か否か判定する。N>2ならステップS15へ移動、そうでなければステップS13へ移動する(S12)。増加周波数の数Nが1か否か判定する。N=1ならステップS14へ移動、そうでなければ終了する(S13)。びびり振動周波数Cを出力し終了する(S14)。N個の増加周波数の増加倍率の平均値sVHを演算する。具体的には、sVH=ΣsVc1/Nを用いて、増加度合い演算手段83で演算する。この例では5個の増加周波数の増加倍率の平均値sVHを演算するとsVH=1.51となる(S15)。カウンタCの値を0とする(S16)。カウンタCに1を加算する(S17)。増加倍率の平均値sVHに対する増加倍率sVc1の比率が所定値K以上か判定する。sVc1/sVH≧KならばステップS19へ移動し、そうでないならステップS20へ移送する(S18)。びびり振動周波数Cを出力し終了する(S19)。N個の周波数の判定が終わったか判定する。C=Nなら終了、そうでないならステップS17へ移動する(S20)。
ここで所定値Kの値を1.2として、ステップS17からステップS20までを繰り返した結果、sV/sVH=1.33/1.51=0.88<1.2となり、以下同様にしてsV/sVH<1.2、sV/sVH<1.2、sV/sVH>1.2、sV/sVH<1.2となる。これより、周波数dHzのびびり振動が発生していると出力される。
【0018】
図5に示すように第2パワースペクトルにおいてsV=V2d/V1d=1.82のみが増加周波数となる場合は、ステップS13、ステップS14を経由して周波数dHzのびびり振動が発生していると出力される。
【0019】
以上のように、本発明のびびり振動検出装置によれば所望周波数領域の全ての周波数帯域の振動について、1Hz間隔でびびり振動の発生を検出できる。増加倍率で増加度合いを判定するので、びびり振動発生直後のびびり振動が小さなときにも比率で比較することによりびびり振動を正確に検出できる。
さらに、加工能率が増加することにより複数の周波数の振動の大きさが増加するような場合にも、複数の周波数の増加倍率の平均値より所定値以上に大きな増加倍率を備えた周波数の振動をびびり振動として検出することで、びびり振動を正確に検出できる。
【0020】
上記の実施形態では、増加度合いを第1パワースペクトルに対する第2パワースペクトルの振動の大きさの増加倍率により比較したが、第1パワースペクトルに対する第2パワースペクトルの振動の大きさの差で比較してもよい。
また、加工開始直後における振動測定とパワースペクトル演算を所定時間間隔をあけて1回のみの比較にびびり振動の有無を判定した例ついて説明したが、この測定とパワースペクトル演算を所定時間の間隔をあけて連続して繰り返し、その前後における振動の大きさの変化を比較することでびびり振動を長持間に渡り判定してもよい。
振動の測定を工具2を回転させる主軸3に設置した振動センサ801により測定したが、工作物側に振動センサ801を設置してもよい。また、振動センサ801に代えてマイクロホンなどの音センサを用いて振動に起因する音波を測定しても良い、この場合は測定場所の制約が少なくなり、容易にびびり振動を測定できる。
判定周波数の最小値を1Hzとし、1Hz間隔とした事例で説明したが、所望の周波数範囲と所望の間隔で判定すればよく、20〜2000Hz程度の範囲で、5Hz程度の間隔で判定してもよい。
【符号の説明】
【0021】
1:工作機械 2:工具 3:主軸 4:工作物 5:ベッド 6:NC装置 8:びびり振動検出装置 80:振動測定手段 81:記録手段 82:パワースペクトル演算手段 83:増加度合い演算手段 84:びびり振動判定手段 85:出力手段 801:振動センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を用いて工作物を加工するときに発生するびびり振動の発生を検出するびびり振動検出装置であって、
工作機械の加工中の第1の振動と前記第1の振動の測定から所定時間後に第2の振動を測定する振動測定手段と、
前記第1の振動と前記第2の振動のフーリエ解析を行い所望の周波数領域の一定周波数帯域における振動の大きさであるパワースペクトルを演算するパワースペクトル演算手段と、
前記第1の振動のパワースペクトルである第1パワースペクトルと、前記第2の振動のパワースペクトルである第2パワースペクトルを記録する記録手段と、
前記第1パワースペクトルの所定周波数帯域における振動の大きさに対する、前記第2パワースペクトルの前記所定周波数帯域における振動の大きさの増加度合いを演算する増加度合演算手段と、
第1の所定値以上の前記増加度合いを備えた前記所定周波数帯域である増加周波数帯域が存在する場合に、前記増加周波数帯域の周波数のびびり振動が発生したと判定するびびり振動判定手段と、
前記びびり振動判定手段によりびびり振動が発生したと判定された場合に、びびり振動が発生したことと、びびり振動の周波数を出力する出力手段を備えるびびり振動検出装置。
【請求項2】
前記第1の所定値が前記周波数領域の全ての周波数帯域における前記増加度合いの平均値に対して第2の所定値だけ大きい値である、請求項1に記載のびびり振動検出装置。
【請求項3】
前記増加周波数帯域が複数存在する場合には、前記びびり振動判定手段が、
前記増加周波数帯域の前記増加度合いの平均値に対して第3の所定値以上の前記増加度合いを備えた、前記増加周波数帯域である超増加周波数帯域が存在する場合に、前記超増加周波数帯域の周波数のびびり振動が発生したと判定する、請求項1または請求項2に記載のびびり振動検出装置。
【請求項4】
前記増加度合い、前記第1の所定値、前記第2の所定値および前記第3の所定値の少なくとも1つが倍率である、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のびびり振動検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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