説明

ほつれ防止剤およびほつれ防止加工布素材

【課題】 加工の際に特殊な設備を必要とせず、常温で加工可能であり、加工部分が硬化しない布素材のほつれ防止剤および当該ほつれ防止剤によりほつれ防止加工を施した布素材を提供する。
【解決手段】 有機溶媒と、ポリ塩化ビニル系樹脂またはポリウレタン樹脂と、可塑剤と、を含む混合物からなることを特徴とする布素材のほつれ防止剤ならびに、当該ほつれ防止剤を、布素材の切断面を含む端部に含浸させることを特徴とするほつれ防止加工布素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布素材のほつれ防止剤およびほつれ防止剤によりほつれ防止加工を施した布素材に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66およびアラミド樹脂などのポリアミド系樹脂や、ポリエステルおよびビニロンなどの樹脂からなる繊維は、強度が高く、種々の布素材に用いられているが、とくに、ヘルメットのあごひも、シートベルト、チャイルドシートのベルトおよびリュックサックや鞄の肩ひもなどの細幅織物や細幅編物(以下、ベルトとよぶ)として多く用いられている。これらのベルトは、必要な長さに切断され、また穴開け加工などが施されるが、この切断面が毛羽立ち、ほつれや亀裂が生じることが問題であった。そこで従来、端部を折り返して縫製したり、カシメやハトメなどの金属部品を取り付けたりして切断面を保護していた。しかし、これらの加工は非常に手間が掛かり、費用が高くなるという問題があった。
【0003】
そこで、文献1において、切断面を超音波溶融した織布素材が提案されている。また、文献2において、超音波振動により熱可塑性樹脂を発熱溶融せしめて布に含浸させるほつれ止め加工方法が提案されている。さらに、文献3において、水−エマルジョン系のシリコン樹脂を端面に被覆したシート状ベルトが提案されている。
【特許文献1】実公平3−3596号公報
【特許文献2】特開平9−59866号公報
【特許文献3】特開平8−85645号公報
【0004】
しかしながら、文献1および2の発明は、溶融した部分が硬化して、経時とともに割れを生じるという問題があり、また、超音波加工機などの特殊な設備が必要であった。さらに、文献3の発明は、加熱炉による焼結が必要であるため、ナイロンなど耐熱性に難点がある素材には適用することが困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、加工の際に特殊な設備を必要とせず、常温で加工可能であり、さらに加工部分が硬化しないほつれ防止剤および当該ほつれ防止剤によりほつれ防止加工を施した布素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1の発明は、有機溶媒と、ポリ塩化ビニル系樹脂またはポリウレタン樹脂と、可塑剤と、を含む混合物からなることを特徴とする。このうち有機溶媒はどのようなものであってもよいが、請求項2の発明のように、メチルエチルケトン、トルエンまたはメチルイソブチルケトンのいずれかもしくはこれらの混合物であることが好ましい。さらに、本ほつれ防止剤は、請求項3の発明のように、メチルエチルケトンを30〜40質量%、トルエンを27質量%、メチルイソブチルケトンを10〜20質量%およびポリ塩化ビニル系樹脂を10〜20質量%含むものであればなお好ましい。
【0007】
また、請求項4の発明は、有機溶媒と、ポリ塩化ビニル系樹脂またはポリウレタン樹脂と、可塑剤と、を含む混合物からなるほつれ防止剤を、布素材の切断面を含む端部に含浸させたことを特徴とする。このうち有機溶媒は、メチルエチルケトン、トルエンまたはメチルイソブチルケトンのいずれかもしくはこれらの混合物であることが好ましく、さらに、ほつれ防止剤が、メチルエチルケトンを30〜40質量%、トルエンを27質量%、メチルイソブチルケトンを10〜20質量%およびポリ塩化ビニル系樹脂を10〜20質量%含むものであればなお好ましい。ここで、基材となる布素材はどのようなものであってもよいが、請求項5の発明のように、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂またはビニロン樹脂のいずれかよりなる繊維からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のほつれ防止剤によれば、溶媒として有機溶媒を含むことで、ナイロンやポリエステルなどの撥水性を有する合成繊維にも容易に含浸させることができる。また、含浸後は焼結などの処理が不要で、常温乾燥させられるので、耐熱性に難点がある素材にも使用することができ、さらに製造に要する時間や費用を削減することができる。また、乾燥後は、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐薬品性、耐候性、耐炎性に優れる。さらに、着色が容易である。
【0009】
また、本発明のほつれ防止加工布素材によれば、基材である布素材そのものを溶融させたもののように加工部分が硬化することがなく、布素材の柔軟性を保つことができ、経時により割れを生じることがない。さらに、硬化しないので通常のカッターやポンチで切断や穴開けなどの追加加工を施すことができる。この際、ほつれ防止剤は布素材の内部にまで含浸しているので、新たな切断面からほつれを生じることもない。また、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性、耐薬品性、耐候性、耐炎性に優れるため、種々の環境下で使用可能である。さらに、着色が容易であるので、複数のベルトを色分けすることで間違いを防ぐといった使用が可能であり、しかも脱色することがない。また、ほつれ防止剤に含まれる有機溶媒は揮発するため、臭いは残らない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のほつれ防止剤は、有機溶媒であるメチルエチルケトン、トルエンおよびメチルイソブチルケトンならびにポリ塩化ビニル系樹脂ならびに可塑剤の混合物からなる。これらの各成分の含有比率は自由に設定できるが、とくに、メチルエチルケトンを30〜40質量%、トルエンを27質量%、メチルイソブチルケトンを10〜20質量%、ポリ塩化ビニル系樹脂を10〜20質量%および適量の可塑剤を含むものが好ましい。また、ポリ塩化ビニル系樹脂に換えて、ポリウレタン樹脂を用いてもよい。
【0011】
次に、本発明のほつれ防止加工布素材の具体的な構成について、図面に基づいて説明する。図1に示すのは、ナイロン製のベルト1の、切断面3を含む端部にほつれ防止剤を含浸させ、ほつれを防止するための加工部2を設けたものである。
【0012】
このように形成すると、切断面3がほつれ防止剤に含まれるポリ塩化ビニル系樹脂により保護され、ほつれることがない。また、本ほつれ防止剤は布素材を硬化させず、ナイロンの柔軟性が保たれるので、摩擦や衝撃によって割れを生じることがない。
【0013】
本布素材は様々な用途が考えられるが、例えば、ナイロンやアラミド樹脂からなる繊維を用いたものを、ヘルメットのあごひもとして使用することができる。ヘルメットのあごひもは、安全性の点から高い強度が求められる。ナイロンやアラミド樹脂からなる繊維はそれ自体強い繊維であるが、本発明のほつれ防止剤により加工を施すことで、より強度を増すことができ、さらに耐水性も高いため、汗や雨が浸透することもない。また、あごひもには、長さ調整のための金具を取り付けたり、穴を開けたりする必要があるが、ほつれ防止加工部分であれば、これらの追加加工を通常のカッターやポンチにより行うことができ、さらに、加工後の切断面からほつれを生じることもなく、十分な強度が保たれる。
【0014】
また、上記ヘルメットのあごひものほか、シートベルト、チャイルドシートのベルトおよびリュックサックや鞄の肩ひもなどにも使用できる。
【0015】
次に、本発明のほつれ防止加工布素材の加工方法について示す。まず、第一工程として、布素材にほつれ防止剤を含浸させる。本ほつれ防止剤は有機溶媒を含むことから、非常に含浸しやすく、短時間で加工することができる。実際に布素材にほつれ防止剤を含浸させる方法としては、ほつれ防止剤の槽に布素材を浸漬させる方法がある。浸漬は、手作業で行ってもよいし、風車型やコンベア型の装置により行ってもよい。上記のとおり本ほつれ防止剤は非常に含浸しやすいので、数秒程度の浸漬を一度行えば十分である。また、その他の方法として、ロールコーターを用いる方法、刷毛により塗る方法、スプレーする方法などがある。
【0016】
続いて、第二工程として、ほつれ防止剤を含浸させた布素材を、乾燥させる。本ほつれ防止剤に含まれる有機溶媒は揮発しやすいので、常温で乾燥させることができるが、とくに早く乾燥させたい場合には温風により乾燥してもよい。なお、ほつれ防止剤の含浸後、切断面が下方になるように布素材を保持しておくと、ほつれ防止剤が流動して切断面により多く集中するため、好ましい。
【0017】
本発明のほつれ防止剤およびほつれ防止加工布素材は、上記実施例に限定されるものではない。例えば、布素材を構成する繊維はどのようなものであってもよく、撥水性が高い繊維であっても、有機溶媒を含む本ほつれ防止剤であれば容易に含浸させることができる。また、ほつれ防止剤の組成は、さらに別の成分が追加されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のほつれ防止加工布素材を示す斜視図。
【符号の説明】
【0019】
1 ベルト
2 加工部
3 切断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒と、ポリ塩化ビニル系樹脂またはポリウレタン樹脂と、可塑剤と、を含む混合物からなることを特徴とする、布素材のほつれ防止剤。
【請求項2】
前記有機溶媒が、メチルエチルケトン、トルエンまたはメチルイソブチルケトンのいずれかもしくはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載のほつれ防止剤。
【請求項3】
メチルエチルケトンを30〜40質量%、トルエンを27質量%、メチルイソブチルケトンを10〜20質量%およびポリ塩化ビニル系樹脂を10〜20質量%含むものであることを特徴とする請求項2記載のほつれ防止剤。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のほつれ防止剤を、布素材の切断面を含む端部に含浸させたことを特徴とするほつれ防止加工布素材。
【請求項5】
前記布素材が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂またはビニロン樹脂のいずれかよりなる繊維からなることを特徴とする請求項4記載のほつれ防止加工布素材。

【図1】
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【公開番号】特開2008−214799(P2008−214799A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52894(P2007−52894)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(304048584)丸和ケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】