説明

めっき外観に優れた電気亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】 めっき浴中に新たな成分を添加することなく、明度を高めることができる電気亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】 複数のめっき槽で鋼板に複数回電気亜鉛めっきをして亜鉛めっき付着量が10〜40g/m2の電気亜鉛めっき鋼板を製造する際に、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板電気亜鉛めっきを施す前段めっき工程、および、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板電気亜鉛めっきを施す後段めっき工程を有し、さらに前記前段めっき工程と前記後段めっき工程の間に、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板を亜鉛めっき液へ無通電で浸漬通板させる浸漬工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気亜鉛めっき鋼板の製造方法、より具体的にはめっき外観に優れた電気亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気亜鉛めっき鋼板は、その優れた耐食性を活かし、塗装下地用として使用されること多かった。近年、ユーザー側での塗装工程省略化等の点から、電気亜鉛めっき鋼板に、クロメート処理や透明樹脂コーティング等の化成処理を施して、耐食性、耐指紋性等の所要の特性を付与し、裸(未塗装)のままで使用する傾向が増加している。
【0003】
電気亜鉛めっき鋼板は、めっき原板を、脱脂・酸洗して表面を清浄化・活性化した後、複数のめっき槽を用いて、亜鉛イオンを含むめっき液中で鋼板を陰極として亜鉛を電気めっきして製造され、必要に応じて、電気めっき後さらに化成処理が施される。
【0004】
化成処理後の鋼板の表面外観は、めっき外観に依存するので、めっき外観が良好であることが必要である。めっき外観は、原板性欠陥、めっき性欠陥がないだけでなく、外観色調が良好であることも重要である。電気亜鉛めっき皮膜はほぼ無彩色であるため、めっき外観の色調は明度に依存する。外観色調は、明るい外観が好まれることが多い。そのため、明度を高くできることが望ましい。
【0005】
特許文献1には、亜鉛めっき浴中にTlを0.01〜10ppm含有させることで、めっき後の鋼板表面の明度を向上させることが提案されている。
【特許文献1】特開平9−195082号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば明度を大幅に上昇させることが可能であるが、Tl含有量のわずかの変動で明度が大きく変動するため、明度変動を小さくできないという問題がある。さらにめっき浴中に新たな成分を添加することにより、めっき浴の管理が煩雑になるだけでなく、めっき薬液コストを上昇させるという問題もある。また、めっき浴中に新たな成分を含有させることで、色調以外の品質に影響を与えるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記問題点を考慮し、めっき浴中に新たな成分を添加することなく、明度を高めることができる電気亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
第1発明は、複数のめっき槽で鋼板に複数回電気亜鉛めっきをして亜鉛めっき付着量が10〜40g/m2の電気亜鉛めっき鋼板を製造する際に、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板電気亜鉛めっきを施す前段めっき工程、および、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板電気亜鉛めっきを施す後段めっき工程を有し、さらに前記前段めっき工程と前記後段めっき工程の間に、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板を亜鉛めっき液へ無通電で浸漬通板させる浸漬工程を有することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0010】
第2発明は、第1発明において、前記前段めっき工程の亜鉛めっき付着量w1(g/m2)、前記後段めっき工程の亜鉛めっき付着量(g/m2)w2は、1≦w1/w2≦5を満足することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0011】
第3発明は、第1発明において、前記前段めっき工程のめっき通電時間t1、前記後段めっき工程の通電時間t2は、1≦t1/t2≦5を満足することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0012】
第4発明は、第1発明〜第3発明において、前記浸漬工程は、めっきされた亜鉛を0.1〜5.0g/m2溶解することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0013】
第5発明は、第1発明〜第3発明において、前記浸漬工程は、鋼板を、pH:1〜3の亜鉛めっき液中に1〜20秒浸漬することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、めっき鋼板表面の明度を、生産性を低下させることなく、効果的に上昇させることができる。また、本発明では、めっき浴中に新たな成分を添加しないので黒変性等のめっき品質に影響を与えるおそれがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、電気亜鉛めっきラインにおける操業条件のめっき鋼板の明度に及ぼす影響を詳細に調査した。その結果、電気亜鉛めっき工程の途中に、通電しないで鋼板をめっき液に浸漬通板させる工程を設けることで明度が上昇することを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0016】
以下、本発明の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0017】
通常、電気亜鉛めっき鋼板のめっき付着量は10〜40g/m2である。本発明では、このようなめっき付着量範囲にある電気亜鉛めっき鋼板の明度を向上させる方法を検討した。
【0018】
通常、電気亜鉛めっき鋼板は、複数のめっき槽を備える連続電気めっき設備を用いて、複数回電気亜鉛めっきが施されて所望亜鉛めっき付着量とされる。従来の製造方法では、複数のめっき槽の各槽のめっき電流密度をほぼ同一にして電気めっきが行われている。本発明では、複数のめっき槽で鋼板に複数回電気亜鉛めっきをして亜鉛めっき付着量が10〜40g/m2の電気亜鉛めっき鋼板を製造する際に、めっき工程の途中に、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板を亜鉛めっき液へ無通電で浸漬通板させる浸漬工程を有する。すなわち、めっき工程は、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板電気亜鉛めっきを施す前段めっき工程、および、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板電気亜鉛めっきを施す後段めっき工程の間に、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板を亜鉛めっき液へ無通電で浸漬通板させる浸漬工程を有する。前段めっき工程と後段めっき工程の間に鋼板を亜鉛めっき液に無通電で浸漬通板させる浸漬工程を設けることで、めっき表面の明度を上昇させることができる。
【0019】
めっき工程の途中に、鋼板を亜鉛めっき液に無通電で浸漬通板させる浸漬工程を設けることで表面の明度が上昇する理由は明確でないが、以下のように推定される。
【0020】
高電流密度で亜鉛めっきすると、形成される亜鉛結晶は粗い結晶となる。複数のめっき槽で高電流密度のめっきを繰り返すと、前述の粗い亜鉛結晶が層状に積層される結果、より粗い亜鉛結晶が生成され、これによって表面の明度が低下する。
【0021】
めっき工程の途中に、亜鉛めっき液へ無通電浸漬する浸漬工程を設けることで、前段めっき工程において生成した粗い亜鉛結晶の最表層部分が溶解してその凹凸を緩和する。後段めっき工程は、凹凸が緩和されためっき表面にめっきを行うことで微細な結晶が生成し、表面の明度が向上する。
【0022】
前段めっき工程で生成させる亜鉛めっき量が多すぎると、生成する亜鉛結晶が粗くなりすぎて、次の浸漬工程において、粗い亜鉛結晶の最表層部分を溶解してその凹凸を緩和する作用が不十分となり、後段めっき工程で微細な結晶が生成されず、明度を向上させる効果が低下する。また、浸漬工程において、前段めっき工程で生成した粗い亜鉛結晶の凹凸を緩和しても、後段めっき工程で生成させる亜鉛付着量が多すぎると、再び粗い結晶が生成されるようになり、明度を向上させる効果が低下する。このような理由から、明度を向上させるためには、前段めっき工程の亜鉛めっき付着量w1(g/m2)、後段めっき工程の亜鉛めっき付着量w2(g/m2)は、1≦w1/w2≦5を満足させることが好ましい。
【0023】
通常、各めっき槽の電流密度はほぼ同じ電流密度に設定されることが多い。めっき付着量は通電時間と対応関係があるので、前段,後段の各めっき付着量に代えて、各々の工程の通電時間に基いて規定してもよい。すなわち、前段めっき工程での通電時間が長すぎると、前段めっき工程で生成した亜鉛結晶が粗くなりすぎるため、次の浸漬工程において、粗い亜鉛結晶の最表層部分を溶解してその凹凸を緩和する作用が不十分となり、後段めっき工程後での明度を向上させる効果が低下する。また、浸漬工程において、前段めっき工程で生成した粗い亜鉛結晶の凹凸を緩和しても、後段めっき工程でのめっき時間が長すぎると、再び粗い結晶が生成されるようになり、明度を向上させる効果が低下する。このような理由から、明度を向上させるためには、浸漬工程前の前段めっき工程のめっき通電時間t1、浸漬工程後の後段めっき工程の通電時間t2は、1≦t1/t2≦5を満足させることが好ましい。
【0024】
浸漬工程は、めっきされた亜鉛を0.1〜5.0g/m2溶解させることが好ましい。亜鉛溶解量が0.1g/m2未満になると、前段めっき工程で生成した粗い亜鉛結晶の最表層部分を溶解して表面の凹凸を緩和する作用が不十分となり、後段めっき工程で生成する亜鉛結晶を微細化する作用が低下する。亜鉛溶解量が5.0g/m2を超えても明度向上効果が少なく、まためっき電力使用量が多くなるだけでなく、鋼板表面にめっきムラが発生し、外観が劣る場合がある。
【0025】
浸漬工程における亜鉛溶解量は、めっき液浸漬条件、例えば、めっき液pH、浸漬時間等の条件を変えて、対応する亜鉛溶解量を調査することで求めることができ、したがって前記亜鉛溶解量を確保するのに適して浸漬条件も容易に決定できる。例えば、硫酸酸性亜鉛めっき液の場合、pH:1〜3の亜鉛めっき液中に1〜20秒の範囲内とすることで前述の亜鉛溶解量とすることができる。
【実施例1】
【0026】
冷間圧延後、焼鈍、調質圧延を施して製造した厚さ0.8mm×幅1219mmの極低炭素鋼板(めっき原板)を準備した。該鋼板を、複数のめっき槽を備える電気めっき設備、およびその下流に鋼板通板方向に2基のロールコータ(第1ロールコータ、第2ロールコータ)を備える連続電気亜鉛めっきラインに装入して、通常の方法で脱脂・酸洗した後に、硫酸亜鉛400g/l、硫酸ナトリウム50g/lを含み、温度:60℃、pH:1.4の硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いて、無通電浸漬させる中間のめっき槽の数を変えて、後段めっき工程後の亜鉛めっき量が20g/m2になるように亜鉛めっきを行った。通電めっき槽の電流密度は、後段めっき工程後の亜鉛めっき量が20g/m2となるように各めっき槽の電流密度を同一電流密度に設定した。浸漬時の亜鉛溶解量は、予め浸漬時間と亜鉛溶解量の関係から算出した。鋼板厚さ、ライン速度、めっき槽の使用条件、めっき条件を表1に記載する。
【0027】
引き続き、第1ロールコータで、第一リン酸、コロイダルシリカ及びMgをそれぞれ0.01mol/l含有する下層皮膜用処理液を、P換算の基準付着量が45mg/m2となるように塗布した後加熱乾燥して下層のリン酸含有皮膜を形成し、次いで、第2ロールコータでエポキシ系樹脂を含有する有機樹脂溶液を乾燥時の基準膜厚が1μmとなるように塗布した後加熱乾燥して上層の有機樹脂含有皮膜を形成した。
【0028】
前記で製造した電気亜鉛めっき層と、その上に、下層にリン酸含有皮膜、その上層に樹脂皮膜からなる複層皮膜を形成させた表面処理鋼板の明度を測定した。明度は、JIS Z 8722に規定される方法(条件d、ハンター方式)で測定した明度指数L値で評価した。測定結果を表1に併せて記載した。
【0029】
【表1】

【0030】
本発明例は、全めっき槽でめっきした従来例に比べて、明度(L値)が高く、外観色調が改善されている。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、明度の高い電気亜鉛めっき鋼板の製造方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のめっき槽で鋼板に複数回電気亜鉛めっきをして亜鉛めっき付着量が10〜40g/m2の電気亜鉛めっき鋼板を製造する際に、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板電気亜鉛めっきを施す前段めっき工程、および、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板電気亜鉛めっきを施す後段めっき工程を有し、さらに前記前段めっき工程と前記後段めっき工程の間に、少なくとも1槽以上のめっき槽で鋼板を亜鉛めっき液へ無通電で浸漬通板させる浸漬工程を有することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記前段めっき工程の亜鉛めっき付着量w1(g/m2)、前記後段めっき工程の亜鉛めっき付着量(g/m2)w2は、1≦w1/w2≦5を満足することを特徴とする請求項1記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記前段めっき工程のめっき通電時間t1、前記後段めっき工程の通電時間t2は、1≦t1/t2≦5を満足することを特徴とする請求項1記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記浸漬工程は、めっきされた亜鉛を0.1〜5.0g/m2溶解することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記浸漬工程は、鋼板を、pH:1〜3の亜鉛めっき液中に1〜20秒浸漬することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかの項に記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2006−206928(P2006−206928A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16592(P2005−16592)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】