説明

めっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】Si含有量が多い場合でも、優れためっき密着性および摺動特性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化処理し、還元焼鈍を経て製造される。酸化処理は、Oを1000ppm以上含み、残部がN、CO、CO、HOおよび不可避的不純物からなる雰囲気で鋼板を鋼板温度が600℃以上まで加熱し、次いで、酸素Oを1000ppm未満含み、残部がN、CO、CO、HOおよび不可避的不純物からなる雰囲気で鋼板温度が700℃以上になるまで鋼板を加熱する。還元焼鈍は、露点が5℃以上で、1〜15体積%のHを含み、残部がNおよび不可避的不純物からなる雰囲気で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si含有高強度鋼板を母材とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野において素地鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも防錆性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。また、自動車の燃費向上および自動車の衝突安全性向上の観点から、車体材料の高強度化によって薄肉化を図り、車体そのものを軽量化かつ高強度化するために高強度鋼板の自動車への適用が促進されている。
【0003】
一般的に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、スラブを熱間圧延や冷間圧延した薄鋼板を母材として用い、母材鋼板をCGLの焼鈍炉で再結晶焼鈍し、溶融亜鉛めっき処理後、さらに合金化処理を行い、製造される。
【0004】
また、鋼板の強度を高めるためには、Siの添加が有効である。しかし、連続焼鈍の際にSiは、Feの酸化が起こらない(Fe酸化物を還元する)還元性のN+Hガス雰囲気でも酸化し、鋼板最表面にSi酸化物(SiO)の薄膜を形成する。これがめっき処理時に溶融亜鉛と下地鋼板との濡れ性を低下させるために不めっきが多発するようになる。また、不めっきに至らなかった場合でも、めっき密着性が悪いという問題がある。
【0005】
Siを多量に含む高強度鋼板を母材とした溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法として、特許文献1には鋼板表面酸化膜を形成させた後に還元焼鈍を行う技術が開示されている。しかし、特許文献1では、効果が安定して得られない問題がある。
【0006】
安定した効果を得ることを目的とした技術としては、例えば、酸化速度や還元量を規定したり、酸化帯での酸化膜厚を実測し、これから酸化条件や還元条件を制御する技術が特許文献2〜9などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−122865号公報
【特許文献2】特開平4−202630号公報
【特許文献3】特開平4−202631号公報
【特許文献4】特開平4−202632号公報
【特許文献5】特開平4−202633号公報
【特許文献6】特開平4−254531号公報
【特許文献7】特開平4−254532号公報
【特許文献8】特開平7−34210号公報
【特許文献9】特開2007−291498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが検討した結果、特許文献1〜8のいずれの製造方法を適用した場合でも、なお十分なめっき密着性が必ずしも得られないことが分かった。
また、特許文献9に記載される製造方法を適用した場合には、十分なめっき密着性は得られるものの、酸化処理時の酸化量ムラによって、合金化度のムラが発生する場合がある。合金化度のムラが発生した場合、めっき層に摺動特性の劣るζ相が部分的に形成するために良好な摺動特性を得ることが難しい。また、ζ相をなくすために合金化温度を高くして製造すると、Γ相がめっき相と鋼板の界面に厚く形成するためにめっき密着性に劣ってしまう。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、Si含有量が多い場合でも、優れためっき密着性および摺動特性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、検討を重ねた結果、酸化処理において酸化膜厚のみならず酸化皮膜の種類を制御し、更にその後に行われる還元焼鈍の雰囲気を制御することで、酸化処理後の還元焼鈍工程で形成する還元鉄の被覆率を向上させ、不めっきを伴うことなく、また、合金化度のムラもなく、めっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られることが分かった。
【0011】
上記課題を解決する本発明の手段は、下記の通りである。
[1]鋼板を酸化処理し、還元焼鈍を経て製造される合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記酸化処理は、Oを1000体積ppm以上含み、残部がN、CO、CO、HOおよび不可避的不純物からなる雰囲気で鋼板を鋼板温度が600℃以上まで加熱し、次いで、Oを1000体積ppm未満含み、残部がN、CO、CO、HOおよび不可避的不純物からなる雰囲気で鋼板を鋼板温度が700℃以上になるまで加熱し、前記還元焼鈍は、露点が5℃以上で、1〜15体積%のHを含み、残部がNおよび不可避的不純物からなる雰囲気で行うことを特徴とするめっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[2]前記[1]において、前記酸化処理は鋼板温度が850℃以下で行うことを特徴とするめっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[3]前記[1]または[2]において、前記酸化処理を行う炉が直火バーナーを備えた直火方式の炉であることを特徴とするめっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記鋼板のSi含有量が0.5〜3.0質量%であることを特徴とするめっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、めっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
本発明では、酸化処理後の酸化量、酸化物および還元焼鈍後に表面に形成される還元鉄の被覆率を制御することが重要であり、それを実現するために、酸化処理時の雰囲気の酸素濃度を制御する製造方法を適用することで、Siを0.5質量%以上含有する高Si高強度溶融亜鉛めっき鋼板においてもめっき密着性の優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することが出来る。更には、還元焼鈍工程における雰囲気の露点を制御することで、合金化処理後の合金化度のムラを抑制し、摺動特性の良好な合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】動摩擦係数測定装置を示す概略正面図
【図2】図1中のビードの形状・寸法を示す概略斜視図
【発明を実施するための形態】
【0014】
酸化処理後の酸化量、酸化物および還元焼鈍後に表面に形成される還元鉄の被覆率について説明する。
【0015】
酸化処理を行った後に還元焼鈍を行った場合、酸化処理によって形成された鉄酸化物が還元焼鈍工程にて還元され、還元鉄として素地鋼板を被覆する。このときに形成される還元鉄は、Siなどのめっき密着性を阻害する元素の含有率が低いために、良好なめっき密着性を得るために非常に有効である。そして、この還元焼鈍後に形成される還元鉄の被覆率が高く、好ましくは40%以上で素地鋼板表面に存在する場合に、良好なめっき密着性を得ることができる。
【0016】
還元鉄の被覆率は、溶融めっきを施す前の鋼板について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて反射電子像を観察することで測定することが可能である。反射電子像は、原子番号の大きい元素ほど白いコントラストで観察できる特徴があるので、還元鉄に覆われている部分は白いコントラストで観察される。また、還元鉄で覆われていない部分については、Siを0.5質量%以上含有する高強度鋼板では、Siなどが表面に酸化物として形成するために、黒いコントラストとして観察される。よって、白いコントラスト部分の面積率を画像処理によって求めることで、還元鉄の被覆率を求めることが可能である。
【0017】
還元鉄の被覆率を高くするためには、酸化処理後に形成される素地鋼板表面の酸化量および酸化物の種類を制御することが重要である。好ましくは酸化物が酸素量として0.1g/m以上形成することで、良好なめっき密着性を得ることができる。ここで形成される鉄の酸化物については特に限定しないが、ウスタイト(FeO)が主に形成される。また、酸化量を測定する方法についても特に限定しないが、標準物質を用いた蛍光X線元素分析法などが有効である。
【0018】
更に、Siを0.5質量%以上含有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板の場合では、Siを含んだ酸化物が鉄の酸化物と同時に形成される。このSiを含んだ酸化物は主にSiOおよび/または(Fe、Mn)SiOであり、主に鉄酸化物と素地鋼板の界面に形成される。そして、メカニズムは明確になっていないが、酸化処理後に(Fe、Mn)SiOが生成された場合には、還元焼鈍後の還元鉄の被覆率が高い状態になることが分かった。SiOしか生成していない場合には、還元鉄の被覆率は低くなり、十分なめっき密着性を得るための被覆率を得ることができなくなってしまうことも分かった。また、(Fe、Mn)SiOさえ生成していれば、同時にSiOが存在していても還元鉄の被覆率は高くなり、十分な被覆率を得ることが可能であることもわかった。
【0019】
これらの酸化物の存在状態を判断する方法は特に限定しないが、赤外分光法(IR)が有効である。SiOの特徴である1245cm−1付近、および(Fe、Mn)SiOの特徴である980cm−1付近に現れる吸収ピークを確認することで酸化物の存在状態を判断することができる。
【0020】
以上より、本発明では、酸化処理後に(Fe、Mn)SiOを生成させ、還元焼鈍後に還元鉄の被覆率が高い状態とすることで、良好なめっき密着性を得ることとする。
【0021】
次に、良好なめっき密着性を得るために必要な酸化処理後の酸化量、酸化物および還元焼鈍後に表面に形成される還元鉄の被覆率を制御するための製造方法について説明する。
本発明では、鋼を熱間圧延し、引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し鋼板を得る。次いで、得られた鋼板に対して酸化処理を施した後に還元焼鈍する。酸化処理前までの冷延鋼板の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることが出来る。
【0022】
酸化処理は、Oを1000体積ppm以上含み、残部がN、CO、CO、HOおよび不可避的不純物からなる雰囲気で鋼板を鋼板温度が600℃以上まで加熱し、次いで、Oを1000体積ppm未満含み、残部がN、CO、CO、HOおよび不可避的不純物からなる雰囲気で鋼板を鋼板温度が700℃以上になるまで加熱する。
この時の雰囲気中に、N、CO、CO、HOおよび不可避的不純物などが含まれていても、O濃度が本発明で規定される範囲内であれば、十分な効果を得ることができる。これにより、鋼板表面には十分な鉄酸化物が形成され、更に鉄酸化物と共に(Fe、Mn)SiOを生成させることが出来る。
【0023】
酸化処理前段のO濃度が1000体積ppm以上の雰囲気での加熱は、高酸素濃度雰囲気での酸化反応を促進させる効果があり、鋼板温度が600℃以上になるまで鋼鈑を加熱することが必要である。更には鋼板温度が650℃以上になるまで鋼板を加熱することが望ましい。また、後述する後段での加熱工程を実施するために、後段での加熱温度よりも30℃以上低い温度で終了する必要がある。この時のO濃度1000体積ppm未満では、十分な酸化量を確保することが困難となるため、O濃度は1000体積ppm以上とする。
【0024】
酸化処理後段のO濃度が1000体積ppm未満の雰囲気での加熱は、高温、低酸素濃度雰囲気で(Fe、Mn)SiOの生成を促進させる効果がある。この時のO濃度が1000体積ppm以上では、(Fe、Mn)SiOの生成が起こらずに、結果として還元鉄の被覆率が低下してしまうことになる。また、温度が低い場合にも(Fe、Mn)SiOの生成が起こらない。さらに酸化量を確保する観点から、鋼板温度が700℃以上となるまで加熱する必要がある。
【0025】
しかし、過度に酸化させると、次の還元焼鈍工程において還元性雰囲気炉でFe酸化物が剥離し、ピックアップの原因となるので、上記酸化処理は鋼板温度が850℃以下で行うことが好ましい。
【0026】
ここで、酸化処理に用いる加熱炉には、直火バーナーを備えた直火方式の加熱炉を用いることが好ましい。直火バーナとは、製鉄所の副生ガスであるコークス炉ガス(COG)等の燃料と空気を混ぜて燃焼させたバーナ火炎を直接鋼板表面に当てて鋼板を加熱するものである。直火バーナは、輻射方式の加熱よりも鋼板の昇温速度が速いため、加熱炉の炉長を短くしたり、ラインスピードを速く出来る利点がある。さらに、直火バーナは空気比を0.95以上とし、燃料に対する空気の割合を多くすると、未燃の酸素が火炎中に残存し、その酸素で鋼板の酸化を促進することが可能となる。そのため、空気比を調整すれば、雰囲気の酸素濃度を制御することが可能である。また、直火バーナの燃料は、COG、液化天然ガス(LNG)等を使用できる。
【0027】
鋼板に上記のような酸化処理を施した後、還元焼鈍を施す。
還元焼鈍は、露点が5℃以上で、1〜15体積%のHを含み、残部がNおよび不可避的不純物からなる雰囲気で行うこととする。
雰囲気ガスのHを1〜15体積%に限定したのは、1体積%未満では鋼板表面のFe酸化物を還元するのにHが不足し、15体積%を超えるとFe酸化物の還元は飽和するため過分のHが無駄になるからである。このとき、還元によりFeと分離された酸素が、一部鋼板内部に拡散し、Siと反応することにより、Siが鋼板内部で酸化し、溶融めっきと接触する鋼板最表面の酸化物が減少するため、めっき密着性は良好となる。
【0028】
酸化処理を行った後還元焼鈍を行う場合、少なからず鋼板の酸化ムラが発生し、その後の合金化処理時に合金化のムラが発生する場合がある。特に高Si含有鋼ではムラが発生しやすい特徴がある。そのため、本発明では、還元焼鈍時の雰囲気を制御することで合金化度のムラが発生し難くする。
【0029】
具体的には、焼鈍工程の雰囲気の露点を5℃以上に制御することが必要である。焼鈍雰囲気の露点が5℃未満の場合には、酸化処理で形成した酸化鉄が還元された後にSiが鋼板表面に酸化物として形成してしまう。つまり、酸化処理時の酸化ムラによって、比較的、酸化量が低い領域においては、酸化鉄の還元が早く完了してしまい、Siの酸化物が鋼板表面に形成し易くなる。すると、この酸化物が合金化反応を抑制し、結果として合金化のムラとなってしまう。一方で、焼鈍雰囲気の露点が5℃以上の場合では、酸化鉄が還元された後も、Siの酸化物は鋼板表面ではなく、鋼板の内部に酸化物として形成する。そのために、鋼板表面には合金化反応を阻害する酸化物が存在せずに合金化度のムラは発生し難くなる。
【0030】
還元焼鈍は、材質調整の観点から、鋼板温度が700℃から900℃の範囲内で行われ、均熱時間は10秒から300秒が好ましい。
【0031】
還元焼鈍後、440〜550℃の温度域の温度に冷却した後、溶融亜鉛めっきを施す。溶融亜鉛めっきは、0.08〜0.18質量%の溶解Al量のめっき浴で、板温440〜550℃で鋼板をめっき浴中に浸入させて行い、ガスワイピングなどで付着量を調整する。溶融亜鉛めっき浴温度は通常行われる440〜500℃の範囲であればよく、さらに鋼板を460〜600℃に加熱して合金化処理することが望ましい。600℃超になるとめっき密着性が劣化し、460℃未満では合金化が進行しない。
【0032】
合金化処理は、合金化度(皮膜中Fe質量%)が7〜15質量%になるように処理を行う。7質量%未満は合金化ムラが生じ外観性が劣化したり、いわゆるζ相が生成して摺動性が劣化する。15質量%超えは硬質で脆いΓ相が多量に形成しめっき密着性が劣化する。
【0033】
本発明を適用する鋼成分としては、Si含有量が0.5〜3.0質量%であることが望ましい。Siは鋼を強化して良好な材質を得るのに有効な元素であるが、0.5質量%未満では本発明を適用しなくてもめっき密着性に問題がなく、3.0質量%を超えるとめっき密着性の改善が困難となるためである。また、その他の成分としては、C、Mn、Al、S、P等が含有される。Cは0.01〜0.25質量%、Mnは0.1〜3.0質量%、Alは0.01〜1.0質量%、SとPは各々0.03質量%以下含有される。B、Nb、Ti、Mo、Cu、Ni、Cr等を適量添加しても良い。
【実施例1】
【0034】
Siを1.5質量%含有する鋼を公知の方法により熱間圧延、酸洗、冷間圧延して厚さ1.5mmの鋼板を製造した。その他の成分はC:0.12質量%、Mn:1.9質量%、Al:0.04質量%、S:0.002質量%、P:0.01質量%である。得られた鋼板に対して、直火式の加熱炉を用いて表1に示す条件で酸化処理を行った。直火バーナは燃料にCOGを使用し、空気比を種々変更することで雰囲気のO濃度を調整した。炉出側の鋼板温度はサンプルに事前に取り付けた熱電対を用いて測定した。また、このときに形成された酸化量を、標準物質と蛍光X線分析法を用いて測定した。また、赤外分光法によって、鉄酸化物とともに形成されたSiを含む酸化物の分析を行った。(Fe、Mn)SiOの特徴である980cm−1付近にピークの有無によって(Fe、Mn)SiOの存在を判断した。
その後、赤外加熱炉を用いて表1に示す条件で還元焼鈍し、続いて、Al:0.13質量%を含有する460℃の亜鉛めっき浴でめっきを施した。一部はめっきを施さない状態で取り出して還元鉄の被覆率を測定した。還元鉄の被覆率は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、反射電子像の観察によって行った。このときの加速電圧は5kVで、300倍で任意の5視野を観察した。観察された画像を画像処理によって2値化して、白色の部分の面積率を還元鉄の被覆率とした。めっきを施した後に、更に表1に示した合金化温度で20秒間の合金化処理を施した。
【0035】
得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき後外観とめっき密着性を評価した。めっき後外観は、合金化処理後の外観を目視観察し、合金化ムラ、不めっきがないものを○、合金化ムラ、不めっきがあるものは×とした。また密着性は、めっき鋼板にセロテープ(登録商標)を貼りテープ面を90°曲げ曲げ戻しをしたときの単位長さ当たりの剥離量を蛍光X線によりZnカウント数を測定し、下記の基準に照らしてランク1、2のものを良好(○)、3以上のものを不良(×)と評価した。
蛍光X線カウント数 ランク
0−500未満 :1(良好)
500−1000未満 :2(良好)
1000−2000未満:3(不良)
2000−3000未満:4(不良)
3000以上 :5(不良)
本実施例での酸化処理、還元焼鈍の条件および評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
本発明例では、良好なめっき後外観とめっき密着性が得られている。一方、比較例は、めっき後外観、めっき密着性のいずれかが劣る。
【実施例2】
【0038】
実施例1と同様の鋼を公知の方法により熱間圧延、酸洗、冷間圧延して厚さ1.5mmの鋼板を製造した。得られた鋼板を、予熱炉、直火バーナを備える加熱炉、ラジアントチューブタイプの焼鈍炉、冷却炉、溶融めっき装置、合金化炉を備える連続溶融めっきラインに通して、酸化処理、還元焼鈍を施し溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
直火バーナを備える加熱炉を用いて表2に示す条件で酸化処理を行った。直火バーナを備える加熱炉は4ゾーンに分かれ、各ゾーン長は同じである。直火バーナは燃料にCOGを使用し、加熱炉の前段(1〜3ゾーン)と後段(4ゾーン)の空気比を種々変更することで雰囲気のO濃度を調整した。酸化処理後の炉出側鋼板温度は放射温度計で測定した。次いで、表2に示す条件で還元焼鈍した後に、460℃の亜鉛めっき浴でめっきを施し、次いで、合金化処理を施した。さらに、得られた鋼板に対して0.3%の調質圧延を施した。
【0039】
得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき後外観とめっき密着性を評価した。測定方法および評価方法は実施例1に記載の方法と同一である。
また、外観上の合金化ムラだけでなく、実質的な合金化ムラについて調べるために摺動特性の評価を行った。摺動特性の評価は下記の条件における摩擦係数の測定を行い摩擦係数により評価した。
なお、めっき密着性および摺動特性は、鋼板の幅方向の3箇所(鋼板の1/4部、中央部、3/4部)について測定し評価した。
【0040】
図1は摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押し上げることによりビード6による摩擦係数測定用試料1への押し付け荷重Nを測定するための第1ロードセル7がスライドテーブル支持台5に取り付けられている。上記押し付け力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するために第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部に取り付けられている。なお、潤滑油としてスギムラ化学社製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを摩擦係数測定用試料1の表面に塗布して試験を行った。
図2は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード6の下面が試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図2に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。このビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):100cm/minとし、摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。上記によって測定された摩擦係数が0.20以下のものを良好(○)、0.20を超えるものを不良(×)とした。
【0041】
本実施例での連続溶融めっきラインでの酸化処理、還元焼鈍の条件および評価結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
本発明例では、良好なめっき後外観とめっき密着性が得られている。一方、比較例はめっき後外観、幅方向でのめっき密着性および摺動特性のいずれかが劣る。
【符号の説明】
【0044】
1 摩擦係数測定用試料
2 試料台
3 スライドテーブル
4 ローラ
5 スライドテーブル支持台
6 ビード
7 第1ロードセル
8 第2ロードセル
9 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を酸化処理し、還元焼鈍を経て製造される合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
前記酸化処理は、Oを1000体積ppm以上含み、残部がN、CO、CO、HOおよび不可避的不純物からなる雰囲気で鋼板を鋼板温度が600℃以上まで加熱し、次いで、Oを1000体積ppm未満含み、残部がN、CO、CO、HOおよび不可避的不純物からなる雰囲気で鋼板を鋼板温度が700℃以上になるまで加熱し、
前記還元焼鈍は、露点が5℃以上で、1〜15体積%のHを含み、残部がNおよび不可避的不純物からなる雰囲気で行うことを特徴とするめっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記酸化処理は鋼板温度が850℃以下で行うことを特徴とする請求項1に記載のめっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記酸化処理を行う炉が直火バーナーを備えた直火方式の炉であることを特徴とする請求項1または2に記載のめっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼板のSi含有量が0.5〜3.0質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のめっき密着性および摺動特性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−149307(P2012−149307A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9412(P2011−9412)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】