説明

めっき方法及びめっき装置

【課題】基板の表面に泡が残る泡かみを防止しつつ、液入れ時間を短縮して、めっき初期に基板の全めっき領域に亘るより均一なめっきを行うことができるようにする。
【解決手段】アノード30を浸漬させためっき液を、弾性を有する保水性材料からなるめっき液保持体40の内部に保持し、めっき液保持体40を基板Wの表面に接触させて該めっき液保持体40で保持しためっき液Qを基板Wの表面に供給して、めっき液Qを基板Wの表面に供給して全めっき領域に行き渡させる液入れを、好ましくは、0.5秒以内に完了させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はめっき方法及びめっき装置に係り、特に半導体ウェーハなどの基板に形成された配線パターンに銅等の金属(配線材料)を埋込んで配線を形成するのに使用されるめっき方法及びめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板上に配線回路を形成するための金属材料として、アルミニウムまたはアルミニウム合金に代えて、電気抵抗率が低くエレクトロマイグレーション耐性が高い銅(Cu)を用いる動きが顕著になっている。この種の銅配線は、基板の表面に設けた微細凹部の内部に銅を埋込むことによって一般に形成される。この銅配線を形成する方法としては、CVD、スパッタリング及びめっきといった手法があるが、いずれにしても、基板のほぼ全表面に銅を成膜し、化学的機械的研磨(CMP)により不要の銅を除去するようにしている。
【0003】
図1は、この種の銅配線基板Wの製造例を工程順に示す。先ず、図1(a)に示すように、半導体素子を形成した半導体基材1上の導電層1aの上にSiOやLow−k材等からなる絶縁膜2を堆積し、リソグラフィ・エッチング技術によりビアホール3と配線溝4を形成し、その上にTaN等からなるバリア層5、更にその上に電解めっきの給電層としてシード層7を形成する。
【0004】
そして、図1(b)に示すように、基板Wの表面に銅めっきを施すことで、基板Wのビアホール3及び配線溝4内に銅を充填するとともに、絶縁膜2上に銅膜6を堆積する。その後、化学的機械的研磨(CMP)により、絶縁膜2上の銅膜6、シード層7及びバリア層5を除去して、ビアホール3及び配線溝4内に充填させた銅膜6の表面と絶縁膜2の表面とをほぼ同一平面にする。これにより、図1(c)に示すように、絶縁膜2の内部に銅膜6からなる配線を形成する。
【0005】
この種の基板の表面に銅めっきを行う電解めっき装置としては、シード層を形成した表面(被めっき面)を下向きにして基板を保持し、基板の下面に銅めっきを行うようにした、いわゆるフェースダウン方式のめっき装置と、表面(被めっき面)を上向きして基板を保持し、基板の上面に銅めっきを行うようにした、いわゆるフェースアップ方式のめっき装置が一般に知られている。
【0006】
フェースダウン方式のめっき装置では、一般に、アノードを浸漬させ、内部に基板に向けて下から上に流れるめっき液の噴流(上昇流)を形成しためっき浴を保持しためっき槽の内部に、表面を下向きのままの基板を入槽させてめっきを開始するようにしている。この時、基板の入槽角度、基板の速度、またはめっき液の噴流の状態等を調整することにより、めっきの最適化を図ることができる。一方、フェースアップ方式のめっき装置では、一般に、アノードを下降させて基板に近づけ、基板の上面にめっき液を入れ、基板の上面(表面)とアノードとの間をめっき液で満たしてめっきを開始するようにしている。
【0007】
フェースアップ方式のめっき装置として、アノード及び高抵抗構造体(多孔質構造体)を保持した電極ホルダ(電極ヘッド)を水平面に対して傾斜させながら、水平に保持した基板に向けて下降させたり、基板の上面にめっき液を供給するめっき液注入口の数を増やしたりすることで、基板の表面に泡が残る泡かみを防止するようにしためっき装置が知られている(特許文献1参照)。また、多孔質体(多孔質構造体)を基板の上面(表面)に接触させながらめっきを行うようにしためっき装置が知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−250785号公報
【特許文献2】特開2004−353014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フェースダウン方式のめっき装置の場合、アノードの下降速度や、基板表面の全めっき領域がめっき液に接するまでの時間(液入れ時間)を調整して、めっきの最適化を図るようにしている。しかし、フェースダウン方式のめっき装置は、フェースアップ方式のめっき装置と比較して、液入れ時間が長くかかるという問題がある。これは、いずれの調整方法でも、基板とアノード等との間に泡が残る泡かみが起こる現象を防止する事と、液入れ時間を短縮する事とは、トレードオフの関係になりやすいからである。
【0009】
ここで、液入れ時間が長くなると、基板表面の各箇所により、めっき膜が付き始めるタイミングに大きなずれが生じる。そして、例えば近年のより薄膜化したシード層を持った基板や、高抵抗シード層を持った基板に対してめっきを行う時に、めっき膜が付き始めるタイミングに大きなずれが生じると、めっき膜の面内均一性や配線埋込み性に対して大きな悪影響を与えてしまう。このため、特に、シード層の溶解の影響を受けやすい銅薄膜シード層を有する基板や、めっき膜の面内均一性の確保が一般に難しいルテニウム等の高抵抗シード層を持つ基板に対してめっきを行う場合には、液入れ時間を短縮することが強く望まれている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みて為されたもので、基板の表面に泡が残る泡かみを防止しつつ、液入れ時間を短縮して、めっき初期に基板の全めっき領域に亘るより均一なめっきを行うことができるようにしためっき方法及びめっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、アノードを浸漬させためっき液を、弾性を有する保水性材料からなるめっき液保持体の内部に保持し、前記めっき液保持体を基板の表面に接触させて該めっき液保持体で保持しためっき液を基板の表面に供給することを特徴とするめっき方法である。
【0012】
これにより、めっき液保持体で保持しためっき液を、該めっき液保持体と基板との接触に伴って、基板表面に素早く供給し、泡かみが生じることなく、めっき液が基板表面の全めっき領域に素早く拡がるようにして、めっき初期に基板の全めっき領域に亘るより均一なめっきを行うことができる。めっき液保持体として、基板よりも柔らかいものを使用することが好ましく、これにより基板へのダメージをより少なくすることができる。
【0013】
このめっき液の液入れ方法で泡かみが起こるケースは、(1)めっき液保持体を基板に接触させた時、両者の間に挟まれて逃げ場を失った気泡がめっき時も基板上に滞在するケースと、(2)めっき液保持体自体に含まれている気泡が基板上に押出されるケース、が考えられる。ここで、(1)については、めっき液保持体として保水性に優れた材料を使用し、接触に伴って基板上に流れ出るめっき液の量を増やして気泡をめっき液と共に外方に押出すことにより、(2)については、めっき液保持体を電極ヘッドに組む前にめっき液保持体の脱気を行い、めっき時も泡がかむことがないようにしてめっき液保持体を使用することにより、めっき液の液入れ時に泡かみが生じることを防止することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、基板表面の全めっき領域を前記めっき液保持体から供給されるめっき液に接触させるめっき液の液入れを、0.5秒以内に完了することを特徴とする請求項1記載のめっき方法である。
【0015】
めっき液を保持しためっき液保持体を、基板に接触させた後、更に基板に向けて押付けて、めっき液保持体の基板に対する密着度を高めることで、めっき液の液入れ速度を高めることができる。めっき液保持体を基板に向けて押圧する場合は、基板へのダメージを小さくするために、押付け圧力は、一般には3psi(約207hPa)以下で、1psi(約69hPa)以下であることが好ましい。押付け速度(めっき液保持体の移動(下降)速度)は、5mm/sec以上であることが好ましく、これによって、めっき液の液入れを、0.5秒以内に完了することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記アノードと基板との間に電圧を印加しながら、前記めっき液保持体を基板に接触させることを特徴とする請求項1または2記載のめっき方法である。
【0017】
例えば、シード層が銅からなり、このシード層の表面にめっきを行う場合、銅シード層は、めっき液に接触すると溶解するが、アノードと基板(シード層)との間に電圧を印加しながら、つまりめっきを行いながらめっき液保持体を基板に接触させることで、銅シード層がめっき液保持体から供給されるめっき液に接触して溶解することを防止できる。このアノードと基板との間に印加する電圧は、定電圧でも、アノードと基板との間を一定の電流が流れるような電圧でもよい。シード層がめっき液に溶解しないルテニウムからなる場合、このような必要はない。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記めっき液保持体を基板に接触させた後、基板から離してめっきを行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のめっき方法である。
このように、めっき液保持体を基板に接触させた後、基板から離してめっきを行うことで、基板の全めっき領域に膜質が良く均一な膜厚のめっき膜を形成することができる。このめっき液保持体を基板に接触させる時間は、例えば3秒程度であることが好ましく、これによって、めっき膜の膜質が悪化したり、めっき液保持体がめっきされたりすることを防止できる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記めっき液保持体を基板に接触させた後、基板の表面にめっき液を更に供給することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のめっき方法である。
めっき液の液入れのためにめっき液保持体から供給されるめっき液の量は僅かで良く、めっき液保持体を基板に接触させた後、更にめっき液を供給することで、めっきに必要な十分な量のめっき液を確保することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、基板を保持する基板保持部と、前記基板保持部で保持した基板の表面の周縁部に当接して該周縁部をシールするシール材と、前記基板保持部で保持した基板と接触して通電させるカソード接点と、前記基板保持部で保持した表面に対向する位置に配置されるアノードと、前記アノードと前記基板保持部で保持した基板の表面との間に配置され、前記アノードを浸漬させためっき液を内部に保持する弾性を有する保水性材料からなるめっき液保持体と、前記めっき液保持体を基板に接離させる駆動機構を有することを特徴とするめっき装置である。
【0021】
請求項7に記載の発明は、前記めっき液保持体の基板側表面は、基板に向けて突出する凸状面、または基板の表面と平行な平坦面であることを特徴とする請求項8記載のめっき装置である。
【0022】
めっき液保持体の基板側表面を、基板に向けて、例えば球面状に突出する凸状面にすることで、めっき液保持体を基板に接触させてめっき保持体で保持しためっき液を基板の表面に供給する時、めっき液保持体と基板との接触面が中央部から同心円状に徐々に外方に拡がるようにして、逃げ場を失った気泡が基板上に残ってしまうことをより確実に防止することができる。このめっき液保持体の基板側表面は、例えば基板の直径が300mmの時、曲率半径が8000mm以下の球面状で、基板の直径が450mmの時、曲率半券が20000mm以下の球面状であることが好ましい。
【0023】
請求項8に記載の発明は、前記めっき液保持体の平均厚さは、10mm以内であることを特徴とする請求項6または7記載のめっき装置である。
これにより、例えば、下記のように、めっき液保持体とアノードとの間に多孔質構造体を介在させた時、多孔質構造体と基板との距離が拡がって、めっき膜厚の面内均一性に悪影響を与えることを防止することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明は、前記めっき液保持体は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、PVCまたはテフロン(登録商標)からなることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載のめっき装置である。
【0025】
請求項10に記載の発明は、前記アノードと前記めっき液保持体との間に多孔質構造体を有することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載のめっき装置である。
これにより、多孔質構造体に保持されるめっき液によって、基板とアノードとの間のめっき液による抵抗値を上げることで、基板表面の全面に亘る電解分布をより均一にして、めっき膜厚の面内均一性を更に向上させることができる。
【0026】
請求項11に記載の発明は、前記多孔質構造体の基板側表面は、基板に向けて突出する凸状面、または基板の表面と平行な平坦面であることを特徴とする請求項10記載のめっき装置である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、めっき液の液入れを、泡かみが生じることを防止しつつ、例えば0.5秒以内で素早く行って、めっき初期におけるめっき膜の成長を全めっき領域に亘ってより均一にすることができる。液入れ後は、めっき液保持体を基板から直ぐに離すことが好ましく、これにより、膜質が良く、膜厚の優れた面内均一性を有するめっき膜を成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。以下の例では、図1(a)に示す、配線溝4等を含む全表面にシード層7を形成した基板Wを用意し、電解銅めっきによって、シード層7の表面に、図1(b)に示すように、配線材料としての銅膜6を形成するようにした例を示す。
【0029】
図2は、本発明の実施の形態のめっき装置の概要を示す。図2に示すように、めっき装置は、揺動アーム(図示せず)に取付けられ、駆動機構(図示せず)を介して上下動自在な電極ヘッド10を有している。電極ヘッド10の下方に位置して、シード層7を形成した表面(被めっき面)を上向きにして基板Wを保持する基板保持部12が上下動自在に配置され、この基板保持部12の上方には、該基板保持部12の周縁部を囲繞するようにカソード部14が配置されている。基板保持部12は、例えば、真空吸着によって、基板Wを着脱自在に保持するようになっている。
【0030】
この例では、電極ヘッド10として、下記の多孔質構造体24の径が基板保持部12の径より僅かに小さい径を有するものを使用し、電極ヘッド10と基板保持部12との相対位置を変化させることなく、基板保持部12で保持した基板Wの表面(被めっき面)のほぼ全面に亘ってめっきを行えるようにした例を示している。
電極ヘッド10の駆動機構は、例えばサーボモータからなる上下動モータとボールねじとを介して、電極ヘッド10を上下動させるように構成されているが、モータの代わりに空気圧アクチュエータを使用しても良い。
【0031】
カソード部14は、この例では6分割されたカソード接点16と、このカソード接点16の上方を覆うように取付けた環状のシール材18を有しており、シール材18の周囲は、めっき液の流出を堰き止める円筒状のめっき液堰20で包囲されている。シール材18は、その内周縁部が内方に向け下方に傾斜し、かつ徐々に薄肉となって、内周端部が下方に垂下するように構成されている。
【0032】
これにより、基板保持部12が上昇した時に、この基板保持部12で保持した基板Wのシード層7の周縁部にカソード接点16が押付けられて通電し、同時にシール材18の内周端部が基板Wの周縁部上面に圧接し、ここを水密的にシールして、基板Wの上面(被めっき面)に供給されためっき液が基板Wの端部から染み出すのを防止するとともに、めっき液がカソード接点16を汚染することを防止するようになっている。
この例において、カソード部14は、上下動不能で基板保持部12と一体に回転するようになっているが、上下動自在で、下降した時にシール材18が基板Wの被めっき面に圧接するように構成しても良い。
【0033】
電極ヘッド10は、下方に開口した有底円筒状のハウジング22と、このハウジング22の下端開口部を塞ぐように配置された多孔質構造体24とを有している。すなわち、ハウジング22の下部には、内方に突出した内方突出部22aが、多孔質構造体24の上部にはフランジ部24aがそれぞれ設けられ、このフランジ部24aをハウジング22の内方突出部22aに引っ掛けることで、ハウジング22に多孔質構造体24が保持されている。これによって、ハウジング22の内部に、多孔質構造体24で閉塞された中空のアノード室26が区画形成されている。
【0034】
多孔質構造体24は、アルミナ、SiC、ムライト、ジルコニア、チタニア、コージライト等の多孔質セラミックスまたはポリプロピレンやポリエチレンの焼結体等の硬質多孔質体、あるいはこれらの複合体、更には織布や不織布で構成される。例えば、アルミナ系セラミックスにあっては、ポア径30〜200μm、SiCにあっては、ポア径30μm以下、気孔率20〜95%、厚み1〜20mm、好ましくは5〜20mm、更に好ましくは8〜15mm程度のものが使用される。この例では、例えば気孔率30%、平均ポア径100μmでアルミナ製の多孔質セラミックス板から構成されている。そして、この内部にめっき液を含有させることで、つまり多孔質セラミックス板自体は絶縁体であるが、この内部にめっき液を複雑に入り込ませ、厚さ方向にかなり長い経路を辿らせることで、めっき液の電気伝導率より小さい電気伝導率を有するように構成されている。
【0035】
このように多孔質構造体24を備え、この多孔質構造体24によって大きな抵抗を発生させることで、シード層7(図1(a)参照)の抵抗の影響を無視できる程度となし、基板Wの表面の電気抵抗による電流密度の面内差を小さくして、めっき膜の面内均一性を向上させることができる。多孔質構造体24の外周部には、ここを電気的にシールするゴム製のシールドリング28が配置されている。
【0036】
アノード室26の内部には、平板状のアノード30が水平に配置されている。 アノード30は、例えば、銅めっきを行う場合にあっては、スライムの生成を抑制するため、含有量が0.03〜0.05%のリンを含む銅(含リン銅)で構成されているが、白金、チタン等の不溶解性金属あるいは金属上に白金等をめっきした不溶解性電極であってもよく、交換等が不要なことから、不溶解性金属あるいは不溶解性電極であることが好ましい。更に、めっき液の流通のしやすさ等から、網状であってもよい。
【0037】
ハウジング22には、アノード室26内にめっき液Qを導入して該アノード室26内をめっき液Qで満たすめっき液導入管32と、アノード室26内のめっき液Qを外部に排出するめっき液排出管34が接続されている。
【0038】
多孔質構造体24の下面には、弾性を有する保水性材料からなり、内部にめっき液を保持するめっき液保持体40が貼着等により取付けられている。この例では、アノード室26内に供給されてアノード30を浸漬させためっき液Qが、多孔質構造体24の内部を通過してめっき液保持体40内に流入して該めっき液保持体40に保持されるようになっている。例えば、めっき液保持体40に設けためっき液供給孔から、めっき液保持体40の内部にめっき液を直接供給するようにしてもよい。
【0039】
このめっき液保持体40は、めっき液を保持して電気を通す、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、PVCまたはテフロン等の連続気孔を有する多孔質体からなり、基板Wに接触させ、必要に応じて、基板Wに向けて押付けることで、内部に保持しためっき液を基板Wの表面に供給するためのものである。めっき液保持体40は、十分な量のめっき液を保持し、基板Wとの接触に伴って、保持しためっき液を基板Wの表面に素早く供給できるように、優れた保水性と弾性を有し、基板にダメージを与えることを防止するため、基板より柔らかい素材からなることが好ましい。なお、連続気孔を有していない場合には、上下に連通する多数の細孔を設けることで、めっき液をめっき液保持体で保持し、電流が流れるようにしてもよい。
【0040】
このめっき液保持体40の基板側表面40aは、基板Wに向けて球面状に突出する凸状面となっている。これにより、めっき液保持体40を基板Wに接触させてめっき液保持体40で保持しためっき液を基板Wの表面に供給する時、めっき液保持体40と基板Wとの接触面が中央部から徐々に同心円状に外方に拡がるようにして、逃げ場を失った気泡が基板上に残ってしまうことをより確実に防止することができる。このめっき液保持体40の基板側表面40aは、例えば基板Wの直径が300mmの時、曲率半径が8000mm以下の球面状で、基板Wの直径が450mmの時、曲率半券が20000mm以下の球面状であることが好ましい。また、めっき液保持体40の基板側表面40aは、基板Wへのダメージを少なくし、かつめっき膜に欠陥が発生するのを防止するため、平滑性を有していることが好ましい。
【0041】
めっき液保持体40の平均厚さは、10mm以内であることが好ましい。これにより、めっき時に、多孔質構造体24と基板Wとの距離が拡がって、めっき膜厚の面内均一性に悪影響を与えることを防止することができる。
【0042】
なお、この例では、めっき液保持体40の外径は、基板Wの外径より小さく設定されている。つまり、例えば300mmの基板Wに対して、めっき液保持体40の外径は、カソード接点16がシール材18でシールされていることを考慮して、約296mmに設定され、これによって、基板Wの表面の約296mmφの範囲がめっき領域となるようになっている。
【0043】
基板保持部12で保持された基板Wの外周部上方に位置して、電極ヘッド10とシール材18との間に向けてめっき液Qを注入するめっき液注入ノズル42が配置されている。このめっき液注入ノズル42は、めっき液Qを溜めためっき液タンク44から延び、内部にめっき液注入ポンプ46を介装しためっき液供給路48に接続されている。
そして、電解めっきを行うときには、めっき電源50の陽極をアノード30に、陰極をカソード接点16にそれぞれ接続して、アノード30と基板Wの表面のシード層7との間にめっき電圧を印加する。
【0044】
次に、このめっき装置でめっきを行う時の操作について説明する。
先ず、基板保持部12の上面に、表面(被めっき面)を上向きにして基板Wを吸着等で保持した状態で、基板保持部12を上昇させて、基板Wのシード層7の周縁部をカソード接点16に接触させて通電可能な状態となし、更に上昇させ、基板Wの周縁部上面にシール材18を圧接させて基板Wの周縁部を水密的にシールする。
【0045】
一方、電極ヘッド10にあっては、アイドリングを行ってめっき液の置換及び泡抜き等を行っている位置(アイドリング位置)から、めっき液Qをアノード室26の内部に保持した状態で、所定の位置(プロセス位置)に位置させる。つまり、揺動アームを一旦上昇させ、更に旋回させることで、電極ヘッド10を基板保持部12の直上方位置に位置させ、しかる後、下降させて、図2に示すように、電極ヘッド10が所定の位置(プロセス位置)に達した時に停止させる。この時、アノード室26内に導入されてアノード30を浸漬させためっき液Qの一部は、多孔質構造体24を通過してめっき液保持体40に流入し該めっき液保持体40で保持される。
【0046】
次に、めっき電源50を介して、アノード30と基板Wの表面のシード層7との間に電圧を印加しながら、駆動機構を介して、電極ヘッド10を所定の速度で降下させて、図3に示すように、めっき液保持体40を基板Wの表面に接触させ、更に、必要に応じて、基板Wに向けて押付ける。これによって、めっき液保持体40を弾性変形させて、この内部に保持しためっき液Qを基板Wの表面に素早く供給する。この例によれば、めっき液保持体40で保持されためっき液Qが基板Wの中心部から同心円状に外周に向かって基板上を押出されて通電が始まり、めっき液Qが基板Wの全めっき領域に接してめっき液の液入れが完了する。
【0047】
特に、めっき液保持体40を、基板Wに接触させた後、更に基板Wに向けて押付けて、めっき液保持体40の基板Wに対する密着度を高めることで、めっき液の液入れ速度を高めることができる。めっき液保持体40を基板Wに向けて押圧する場合は、基板Wへのダメージを小さくするために、押付け圧力は、一般には3psi(約207hPa)以下で、1psi(約69hPa)以下であることが好ましい。押付け速度(めっき液保持体40の下降速度)は、5mm/sec以上であることが好ましく、これによって、めっき液の液入れを、0.5秒以内で完了することができる。
【0048】
例えば、めっき液保持体40としてポリウレタン製のパッドを使用し、押当て圧力0.25psi(約17hPa)で押当て速度50mm/secの条件(1)と、押当て圧力0.25psiで押当て速度5mm/secの条件(2)でめっき液の液入れを行ったところ、図6に示すように、条件(1)では液入れ時間が0.1秒で、条件(2)では液入れ時間が0.4秒であった。これにより、めっき液の液入れを素早く終わらせることができることが判る。
【0049】
シード層7が銅からなる場合、アノード30とシード層7との間に電圧を印加しながらめっき液保持体40を基板Wに接触させることで、シード層7がめっき液保持体40から供給されるめっき液Qに接触して溶解することを防止できる。このアノード30とシード層7との間に印加する電圧は、定電圧でも、アノードとシード層7との間を一定の電流が流れるような電圧でもよい。シード層7がめっき液に溶解しないルテニウムからなる場合、このような必要はなく、めっき液の液入れが完了した後に、アノード30と基板Wの表面のシード層7との間にめっき電圧を印加するようにしてもよい。
【0050】
次に、めっき液注入ポンプ46を作動させて、図4に示すように、めっき液タンク44内のめっき液Qを、基板保持部12で保持された基板Wの外周部上方に配置されためっき液注入ノズル42から基板Wとめっき液保持体40の外周部に注入する。この時、シール材18の上面に保持されるめっき液は、めっき液堰20によって、外方への流出が堰き止められる。
【0051】
次に、めっき液保持体40を基板Wから離し、図5に示すように、めっき液注入ノズル42から注入されためっき液Qを基板Wの上面に導き、基板Wと多孔質構造体24との間をめっき液Qで満たして、そのまま連続してめっきを行う。この時、必要に応じて、基板保持部12を基板Wと共に回転させる。
【0052】
このように、めっき液保持体40を基板Wに接触させた後、基板Wから離してめっきを行うことで、基板Wの全めっき領域に膜質が良く均一な膜厚のめっき膜を形成することができる。このめっき液保持体40を基板にW接触させる時間は、例えば3秒程度であることが好ましく、これによって、めっき膜の膜質が悪化したり、めっき液保持体40がめっきされたりすることを防止できる。
【0053】
めっき液の液入れのためにめっき液保持体40から供給されるめっき液の量は僅かで良く、めっき液保持体40を基板Wに接触させた後、更にめっき液Qを供給することで、めっきに必要な十分な量のめっき液を確保することができる。しかも、基板保持部12で保持された基板Wの外周部上方に配置されためっき液注入ノズル42から基板Wとめっき液保持体40の外周部にめっき液を注入することで、めっき液保持体40が空気を吸込むことを防止することができる。
【0054】
そして、所定時間めっきを行って、シード層7の表面に所定の膜厚の銅膜6(図1(b)参照)を成膜した後、アノード30と基板Wのシード層7との間の電圧の印加を解き、電極ヘッド10を上昇させる。そして、基板Wの上面に残っためっき液Qを吸引等によって除去し、基板保持部12で保持しためっき後の基板Wを、必要に応じて純水等でリンスし水切りを行って次工程に搬送する。
【0055】
なお、この例では、液入れ用のめっき液と、その後にめっき液注入ノズル42から基板Wと多孔質構造体24との間に供給されるめっき液として、同じ組成のものを用いているが、異なる組成のものを使用しても良い。また、ハウジング22に設けためっき液導入管32を通して、液入れ後に、基板Wと多孔質構造体24との間にめっき液を供給するようにしてもよい。
【0056】
また、この例では、多孔質構造体24として、その基板側表面が平坦面の平板状のものを使用しているが、その基板側表面が、前述のめっき液保持体40の基板側表面40aと同様に、基板に向けて突出する凸状面としたものを使用してもよい。この場合、厚さが一定のめっき液保持体を使用することが好ましい。
【0057】
本発明は、現世代の300mmの他に、次世代の450mmの基板にも適用することができる。シード層7は、銅からなる場合は、シード層が連続しているか不連続であるかを問わず、その厚みが10nm以下であってもよく、ルテニウムからなる場合には、シード層が連続している、厚みが10nm以下であってもよい。また、配線幅が100nm以下の微細配線にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】半導体装置における配線形成例を工程順に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態のめっき装置の電極ヘッドがプロセス位置に位置する時の概要図である。
【図3】本発明の実施の形態のめっき装置のめっき液保持体を基板に接触させた時の要部を示す概要図である。
【図4】本発明の実施の形態のめっき装置のめっき液保持体を基板に接触させたまま、めっき液を注入した時の要部を示す概要図である。
【図5】本発明の実施の形態のめっき装置のめっき液保持体を基板から離した時の要部を示す概要図である。
【図6】めっき液保持体としてポリウレタン製のパッドを使用し、押当て圧力0.25psi(約17hPa)で押当て速度50mm/secの条件(1)と、押当て圧力0.25psiで押当て速度5mm/secの条件(2)でめっき液の液入れを行った時の液入れ時間を示すグラフである。
【符号の説明】
【0059】
4 配線溝
6 銅膜
7 シード層
10 電極ヘッド
12 基板保持部
14 カソード部
16 カソード接点
18 シール材
22 ハウジング
24 多孔質構造体
26 アノード室
28 シールドリング
30 アノード
32 めっき液導入管
34 めっき液排出管
40 めっき液保持体
40a 基板側表面
42 めっき液注入ノズル
50 めっき電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードを浸漬させためっき液を、弾性を有する保水性材料からなるめっき液保持体の内部に保持し、
前記めっき液保持体を基板の表面に接触させて該めっき液保持体で保持しためっき液を基板の表面に供給することを特徴とするめっき方法。
【請求項2】
基板表面の全めっき領域を前記めっき液保持体から供給されるめっき液に接触させるめっき液の液入れを、0.5秒以内に完了することを特徴とする請求項1記載のめっき方法。
【請求項3】
前記アノードと基板との間に電圧を印加しながら、前記めっき液保持体を基板に接触させることを特徴とする請求項1または2記載のめっき方法。
【請求項4】
前記めっき液保持体を基板に接触させた後、基板から離してめっきを行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のめっき方法。
【請求項5】
前記めっき液保持体を基板に接触させた後、基板の表面にめっき液を更に供給することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のめっき方法。
【請求項6】
基板を保持する基板保持部と、
前記基板保持部で保持した基板の表面の周縁部に当接して該周縁部をシールするシール材と、
前記基板保持部で保持した基板と接触して通電させるカソード接点と、
前記基板保持部で保持した表面に対向する位置に配置されるアノードと、
前記アノードと前記基板保持部で保持した基板の表面との間に配置され、前記アノードを浸漬させためっき液を内部に保持する弾性を有する保水性材料からなるめっき液保持体と、
前記めっき液保持体を基板に接離させる駆動機構を有することを特徴とするめっき装置。
【請求項7】
前記めっき液保持体の基板側表面は、基板に向けて突出する凸状面、または基板の表面と平行な平坦面であることを特徴とする請求項8記載のめっき装置。
【請求項8】
前記めっき液保持体の平均厚さは、10mm以内であることを特徴とする請求項6または7記載のめっき装置。
【請求項9】
前記めっき液保持体は、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、PVCまたはテフロンからなることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載のめっき装置。
【請求項10】
前記アノードと前記めっき液保持体との間に多孔質構造体を有することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載のめっき装置。
【請求項11】
前記多孔質構造体の基板側表面は、基板に向けて突出する凸状面、または基板の表面と平行な平坦面であることを特徴とする請求項10記載のめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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