説明

もろみ酢のろ過処理方法及びもろみ酢を含む飲料

【課題】 もろみ酢の沈殿物を効率的に除去するろ過処理方法及び長期保存し
ても沈殿物を生じにくいもろみ酢を含む飲料を提供する。
【解決手段】 もろみ酢のろ過処理方法において、ろ過処理する液のpHを3
.2以下に調整することを特徴とするもろみ酢のろ過処理方法。ろ過処理方法
により得られるもろみ酢を含む飲料。ろ材が積層セルタイプフィルターである
もの、又は更に円筒状フィルターを併用したものが好ましい。
【効果】 長期保存(例えば、20℃、6ヵ月保存)をしても沈殿物を生じに
くいもろみ酢を含む飲料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、もろみ酢のろ過処理方法及びもろみ酢を含む飲料に関し、詳細には、もろみ酢の沈殿物を効率的に除去するろ過処理方法及び長期保存しても沈殿物を生じにくいもろみ酢を含む飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
もろみ酢は、沖縄の特産品である泡盛や焼酎のもろみからできる天然醸造酢である。原料に麹菌を加え、更に酵母で発酵させてからアルコール分を取除いてできるもろみ酢には、その過程で生成されるクエン酸やアミノ酸を豊富に含んでいる。一般の食酢は、酸味の主成分が酢酸なのに対し、もろみ酢は、クエン酸が主成分なので、刺激が少ない、さわやかな飲みやすい酸味が特徴である。酢酸の刺すような酸味がなく、旨みを感じる理由は麹菌由来のクエン酸が圧倒的に多く含まれているからであるが、それ以外の理由として、糖化されたデンプン(ぶどう糖)が残っていること、米に含まれていたタンパク質が発酵菌の働きで細かな分子に切られて、多様なアミノ酸となっていることがもろみ酢の複雑な味わいを醸し出し、健康効果の一翼を担っている。
一方、醸造の立場から、もろみ酢は、泡盛や焼酎といった蒸留酒を製造する際に生じる蒸留残渣、蒸留廃液である。従来、この蒸留残渣は、もろみ酢としての利用が考えられる以前は、濃縮処理を行い廃棄する、焼却処理を行う、メタン発酵等による微生物処理を行う、あるいは飼料としての利用を行うなどとされていた。
【0003】
もろみ酢の効果効能の特徴は、成分に疲労回復効果や抗酸化作用があるといわれるクエン酸、脂肪燃焼効果があるといわれるアミノ酸を豊富に含んでいることであり、ダイエット効果や美肌効果も期待でき、近年のもろみ酢ブームにより、さまざまな製品が出回っている。また、もろみ酢に関連した技術開発として、泡盛の醪粕の有効成分をそのままに、特有の酸味を改善し、摂取しやすい健康食品の製造方法(特許文献1)やカリウム含量の高い黒糖発酵飲料及びその製造方法(特許文献2)といった検討が行われている。
【0004】
しかしながら、もろみ酢は、その多成分がゆえに、製造直後は清澄であるが、経時的に凝集物を生じ、飲料そのもの又は飲料用原料として使用する際に、問題となっていた。
もろみ酢の凝集物を除去する方法として、ケイソウ土ろ過があるが、コーティング等の準備に時間を要するので、作業性が悪く、生産効率が低くなるという問題点があった。
食品・飲料等の原液のろ過に適した複数のフィルターカートリッジをパック化して一体(モジュール)にしたフィルターハウジングが提案されている(特許文献3)。しかしながら、もろみ酢を単にフィルターろ過で処理するだけでは、フィルターろ過で得られるもろみ酢を配合した飲料に沈殿物が生じるという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−250498公報
【特許文献2】特開2002−10773公報
【特許文献3】特開2000−33209公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、もろみ酢そのもの又はもろみ酢を原料とした飲料に生じる沈殿物の発生を防止するために、もろみ酢の沈殿物を効率的に除去するろ過処理方法及び長期保存しても沈殿物を生じにくいもろみ酢を含む飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、もろみ酢のろ過処理方法において、ろ過処理する液のpHを3.2以下に調整するもろみ酢のろ過処理方法に関する。本発明の第2の発明は、ろ過処理のろ材が、積層セルタイプフィルターである第1の発明に記載のもろみ酢のろ過処理方法に関する。本発明の第3の発明は、ろ過処理のろ材が、積層セルタイプフィルター及び円筒状フィルターである第1の発明又は第2の発明に記載のもろみ酢のろ過処理方法に関する。本発明の第4の発明は、第1〜第3の発明のいずれか一つの発明に記載のろ過処理方法により得られるもろみ酢を含む飲料に関する。
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、もろみ酢のろ過処理方法において、ろ過処理する液のpHを3.2以下に調整後、フィルターろ過を行うことにより、もろみ酢そのもの又はもろみ酢を原料とした飲料に生じる沈殿物の発生を防止できることを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、もろみ酢の沈殿物を効率的に除去するろ過処理方法を提供することができる。また、長期保存(例えば、20℃、6ヵ月保存)をしても沈殿物を生じにくいもろみ酢を含む飲料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明では、もろみ酢のろ過処理方法において、ろ過処理する液のpHを3.2以下に調整することが特徴である。pHを3.2超としてろ過処理すると、製品保存中、例えば、室温(20℃程度)で1週間静置しただけで、細かい沈殿が発生してしまい好ましくない。pHを3.2以下に調整して、例えば積層セルタイプフィルターを用いてろ過処理するのが肝要であり、通常の飲料でのpHの許容範囲内である2.6〜3.2、好ましくは2.8〜3.2に適宜調整してろ過処理を行えばよい。
pHを下げる方法としては、例えば、レモン果汁、りんご果汁、シークァーサー果汁等の果汁、クエン酸、リンゴ酸等の酸味料や、りんご酢、ぶどう酢等の果実酢などを適宜添加すればよい。
【0011】
本発明では、もろみ酢をろ過処理するときのろ材は、積層セルタイプフィルターを使用することが好ましい。円筒状フィルターを組合せて使用することもできる。
積層セルタイプフィルターとしては、商品名「ゼータプラスフィルター」〔キュノ(株)製〕等が挙げられる。これは、機械的ろ過とゼータ電位による吸着作用とにより粒子捕捉力が極めてよく、従来のフィルターでは除去し難かったコロイド粒子、サブミクロン粒子等が効果的に除去できる。
積層セルタイプフィルターのうち、例えば、前記した「ゼータプラスフィルター」〔キュノ(株)製〕は、セルロース繊維が主要素材であり、ケイソウ土、パーライトの機械的ろ過能力と、ゼータ電位による吸着ろ過能力を併せ持ったデプスタイプフィルターである。ゼータ電位とは、液体中の懸濁粒子の表面付近で発生する電気的な現象の一つであり、多くの場合、液体中に懸濁する粒子はマイナスの電荷を持つため、粒子の界面付近では中性に保とうとしてプラスのイオン層が発生する。「ゼータプラスフィルター」は、液体中でプラスのゼータ電位を示し、このプラスのゼータ電位を持つろ材とマイナスの電荷を持つ粒子が電気二重層で吸着されることになる。もろみ酢の沈殿物は、デンプン質が主成分であり、圧搾後にタンパク質と絡んで沈殿しているものと推定されるので、もろみ酢のろ過処理には、ゼータ電位による吸着ろ過能力を併せ持った「ゼータプラスフィルター」を用いてろ過処理するのが好ましい。
円筒状フィルターとしては、オールプロピレン製積層タイプ・フィルターカートリッジ、商品名「ポリネット」、「ポリプロ・クリーン」〔いずれもキュノ(株)製〕等が挙げられる。「ポリプロ・クリーン」は、ろ過特性の異なる多種類のポリプロピレン製不織布を積層して構成され、最適な密度勾配を持たせてあるので、より多くの原液中の粒子を確実に捕捉でき、精度、ライフ及び流量のバランスが取れたフィルターである。
積層セルタイプフィルターと円筒状フィルターとを併用してろ過する場合には、ろ過処理する液のpHを3.2以下に調整して、「ポリプロ・クリーン」での前ろ過処理、次いで「ゼータプラスフィルター」でのろ過処理を行うというのが、好適な例として挙げられる。
【0012】
本発明でいうもろみ酢を含む飲料には、必要に応じて様々なものを添加することができる。この例として、呈味成分、着色料、ビタミン類、香料、果汁等を挙げることができる。呈味成分の例としては甘味料及び酸味料が好適に用いることができ、甘味料の例として、黒糖、果糖ぶどう糖液糖、上白糖、グラニュー糖、果糖、ぶどう糖、オリゴ糖等の糖質及び/又はアセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、ステビア、フコース、ミラクリン、ラカンカ等を挙げることができる。酸味料の例としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸、フィチン酸等を挙げることができる。着色料としては赤キャベツ、アナトー、カロチノイド、フラボノイド、アントシアニン等を、ビタミン類としてはビタミンA、カロチン、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC等を挙げることができる。添加することができる果汁としては特に限定はなく、好適な例としてはりんご果汁、レモン果汁、シークァーサー果汁等を挙げることができる。これらの他に食品素材から、デンプン、タンパク質等の加水分解、抽出、発酵、ろ過、及びこれらを組合せたもの等により得られるものも添加することができる。
【0013】
本発明のもろみ酢のろ過処理方法は、もろみ酢の沈殿物を効率的に除去するろ過処理方法であり、本発明のもろみ酢のろ過処理方法により得られるもろみ酢そのもの又はもろみ酢を含む飲料は、長期保存(例えば、20℃、6ヵ月保存)をしても沈殿物を生じにくいものとなる。
【0014】
以下、検討例によって更に具体的に説明する。
検討例1
もろみ酢〔(有)高嶺酒造所製〕のpHを、クエン酸により種々調整し、ゼータプラスフィルター60C〔ろ過精度0.2〜0.5μm相当、キュノ(株)製〕を用いてフィルターろ過試験を行った。沈殿物の発生の有無は、20℃で1週間静置して、官能検査と共に確認を行った。なお、pH未調整のもろみ酢のろ過処理前後の濁度(660nm、10mmセルでの吸光度)は、ろ過処理前0.578、ろ過処理後0.035であったが、20℃、1週間後に細かい沈殿物の発生が認められた。
結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1より、もろみ酢のpHを3.2以下に調整し、ゼータプラスフィルターを用いたろ過処理を行うことにより、20℃で1週間静置しても沈殿物の発生は認められなかった。pHを2.5としても沈殿物の発生は認められなかったが、つんとした臭いを感じることになり、官能的に不良であった。pHは、2.6〜3.2、好ましくは2.8〜3.2に調整してろ過処理を行えばよいことがわかった。
【0017】
検討例2
検討例1と同様にして、もろみ酢のpHを3.2に調整してろ過処理を行い、積層セルタイプフィルターと円筒状フィルターとを併用することによる効果を確認した。ろ過処理のろ材は、積層セルタイプフィルターとしてゼータプラスフィルター60C〔ろ過精度0.2〜0.5μm相当、キュノ(株)製〕、円筒状フィルターとしてポリネット〔ろ過精度1.0μm相当、キュノ(株)製〕、ポリプロ・クリーン〔ろ過精度10μm相当、キュノ(株)製〕を用いた。積層セルタイプフィルターと円筒状フィルターとを併用する場合には、円筒状フィルター、次いで積層セルタイプフィルターの順とした。
沈殿物の発生の有無は、20℃で1週間静置、その後最終6ヵ月後まで静置して、官能検査とともに確認を行った。
結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
表2より、積層セルタイプフィルターであるゼータプラスフィルターを用いたろ過処理を行うことにより、20℃で1週間静置しても沈殿物の発生は認められなかった。また、長期保存(20℃、6ヵ月保存)では、細かい沈殿浮遊物の発生が凝視してはじめて認められたが、ゼータプラスフィルターを用いたろ過処理直後と比べてもほとんど変化しておらず、安定なものであった。積層セルタイプフィルターと円筒状フィルターとを併用してろ過処理を行えばよいことがわかった。
【0020】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
もろみ酢にpHを低下させる原材料(りんご果汁、レモン果汁、りんご酢、酸味料、L−アスコルビン酸)を加え、更に脱イオン水を加えて、調合液250gとした。この調合液のpHは3.0であった。調合液を、積層セルタイプフィルターであるゼータプラスフィルター50C〔ろ過精度0.4〜0.8μm相当、キュノ(株)製〕を用いてろ過処理を行った後、表3の仕込配合表の他の原料を配合した。これを98℃で殺菌し、200mlのPETボトルに充填した(本発明1)。一方、もろみ酢(pH3.6)を、同様にゼータプラスフィルター50C〔キュノ(株)製〕を用いてろ過処理を行った後、表3の仕込配合表の他の原料を配合した。これを98℃で殺菌し、200mlのPETボトルに充填した(比較例1)。本発明1と比較例1を、室温(20℃)で1週間静置して沈殿物の発生の有無を確認した。結果を表4に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
表4より、比較例1では細かい沈殿物の発生が認められたが、本発明1では沈殿物の発生は認められなかった。また、本発明1は、味のバランスがよく、官能的にも良好な酸味を有するものであった。
【実施例2】
【0025】
もろみ酢(pH3.5)にpHを低下させる原材料(りんご果汁、レモン果汁、りんご酢、酸味料、L−アスコルビン酸)を加え、更に脱イオン水を加えて、調合液5,000kgとした。この調合液のpHは、2.88であった。円筒状フィルターであるポリプロ・クリーン〔ろ過精度10μm相当、キュノ(株)製〕と、積層セルタイプフィルターであるゼータプラスフィルター50C〔ろ過精度0.4〜0.8μm相当、キュノ(株)製〕とを直列に接続し、調合液のフィルターろ過処理を行った。フィルターろ過処理には、準備を含めて1時間を要した。ろ過処理を行った後、表5の仕込配合表の他の原料を配合した。これを101℃で殺菌し、900mlのPETボトルに充填した(本発明2)。一方、前記と同様にして調合液5,000kgを調製し、調合液のケイソウ土ろ過処理を行った。ケイソウ土ろ過処理には、コーティング等の準備に時間がかかり2時間を要した。ろ過処理を行った後、表5の仕込配合表の他の原料を配合した。これを101℃で殺菌し、900mlのPETボトルに充填した(比較例2)。本発明2と比較例2を、室温(20℃)で1週間静置して沈殿物の発生の有無を確認した。結果を表6に示す。
【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
表6より、本発明2、比較例2ともに沈殿物の発生は認められなかった。しかし、ろ過処理に要する作業時間は、比較例2の2時間に対して、本発明2では1時間であり、2倍の生産効率の改善が認められた。なお、本発明2は、長期保存(20℃、6ヵ月保存)をしても沈殿物の発生は認められず、また、官能的にも良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のもろみ酢のろ過処理方法によれば、もろみ酢の沈殿物を効率的に除去することができる。
本発明のろ過処理方法により得られるもろみ酢そのもの又はもろみ酢を原料とした飲料に生じる沈殿物の発生を防止することができ、長期保存しても沈殿物を生じにくいもろみ酢を含む飲料を得ることができる。
本発明のろ過処理方法は、もろみ酢の沈殿物のみならず、デンプン質が主成分の他の液種の沈殿物においても効果のあるろ過処理方法であるので、本発明は有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
もろみ酢のろ過処理方法において、ろ過処理する液のpHを3.2以下に調整することを特徴とするもろみ酢のろ過処理方法。
【請求項2】
ろ過処理のろ材が、積層セルタイプフィルターであることを特徴とする請求項1記載のもろみ酢のろ過処理方法。
【請求項3】
ろ過処理のろ材が、積層セルタイプフィルター及び円筒状フィルターであることを特徴とする請求項1又は2記載のもろみ酢のろ過処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のろ過処理方法により得られるもろみ酢を含む飲料。


【公開番号】特開2007−267661(P2007−267661A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96603(P2006−96603)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(302026508)宝酒造株式会社 (38)
【Fターム(参考)】