説明

ろ過材料及び浄化装置

【課題】高濃度から極低濃度までの鉛イオンのみならず各種の重金属イオンやアルミニウムイオンを、長期間にわたって除去できる機能を有するろ過材料を提供する。
【解決手段】溶液中の金属イオンを除去するろ過材料が、層状結晶構造を具備する結晶性無機材料であって、前記結晶性無機材料は、前記金属イオンとイオン交換されるカチオン成分とを前記層状結晶構造間に含有し、且つそのX線回折パターンにおいて、全回折線中で最高強度の第1回折線に対して80%以上の強度の回折線から成る高回折線群内で最低強度の回折線の強度が、前記高回折線群に属しない低回折線群内での最高強度回折線に対して1.5倍以上の相対強度となるように、前記第1回折線に相当する結晶面が他の結晶面よりも発達している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はろ過材料及び浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水銀、鉛、カドミウム、マンガン、鉄、ニッケル等の重金属イオンやアルミニウムイオンが人体に取り込まれた場合、人体に対して悪影響を与える。かかる重金属イオンやアルミニウムイオンは飲料水を経由して人体に取り込まれる場合がある。ところで、近年の水道水量の著しい増加に伴って、良質の水資源の確保が困難になりつつある。このため、水道水中に混入した重金属イオンを除去すべく、イオン交換能を有するチタンケイ酸塩等の無機吸着剤を含む吸着体と中空糸膜モジュールとを具備する浄水装置が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−232361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された浄水装置によれば、水道水中に混入している鉛イオンのような重金属イオンを微多孔体の吸着体によって除去できる。しかし、更に高濃度から極低濃度までの鉛イオンのみならず各種の重金属イオンやアルミニウムイオンを、長期間にわたって除去し続けることができるように、その性能が更に一層向上された浄水装置が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、高濃度から極低濃度までの鉛イオンのみならず各種の重金属イオンやアルミニウムイオンを、長期間にわたって除去できる機能を有するろ過材料及び浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたろ過材料は、溶液中の金属イオンを除去するろ過材料が、層状結晶構造を具備する結晶性無機材料であって、前記結晶性無機材料は、前記金属イオンとイオン交換されるカチオン成分とを前記層状結晶構造間に含有し、且つそのX線回折パターンにおいて、全回折線中で最高強度の第1回折線に対して80%以上の強度の回折線から成る高回折線群内で最低強度の回折線の強度が、前記高回折線群に属しない低回折線群内での最高強度回折線に対して1.5倍以上の相対強度となるように、前記第1回折線に相当する結晶面が他の結晶面よりも発達している。
【0007】
請求項2に記載の結晶性無機材料は、請求項1に記載されたものであって、チタン酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、タングステン酸塩、モリブデン酸塩及びバナジン酸塩から成る群から選ばれた少なくとも一種である。
【0008】
請求項3に記載のカチオン成分は、請求項1に記載されたものであって、前記カチオン成分には、金属イオンとイオン交換される水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、鉄、マグネシウム、マンガン、ガリウム及びランタンから成る群から選ばれた少なくとも一種が含まれている。
【0009】
請求項4に記載の結晶性無機材料は、請求項1に記載されたものであって、ウィスカー状、チューブ状、板状又はバルク状である。
【0010】
請求項5に記載の結晶性無機材料は、請求項1に記載されたものであり、チタン酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、格子定数をa>c>bとしたとき、第1回折線に相当する結晶面が、(100)面、(001)面、(−101)面、(101)面、(200)面、(002)面、(−102)面、(201)面、(102)面、(011)面、(−202)面、(111)面、(−301)面、(300)面、(210)面、(−211)面、(012)面、(−112)面、(202)面、(−302)面、(301)面、(211)面、(−203)面、(112)面、(−212)面、(103)面、(−311)面、(310)面、(−204)面、(401)面、(020)面、(−214)面、(006)面及び(421)面のうちの少なくとも一面である。尚、ここで言う「格子定数a,b及びc」とは、単位格子の稜の長さを表し、格子定数aは前後方向の稜の長さ、格子定数bは左右方向の稜の長さ、格子定数cは上下方向の稜の長さを各々表す。
【0011】
請求項6に記載の結晶性無機材料は、請求項1に記載されたものであり、ニオブ酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(010)面、(120)面、(131)面、(031)面、(211)面、(320)面、(121)面、(011)面、(140)面、(001)面、(051)面、(371)面、(151)面、(311)面、(261)面、(041)面、(110)面、(130)面、(112)面、(241)面、(032)面、(013)面、(113)面、(101)面、(210)面、(301)面、(122)面、(201)面、(312)面、(001)面、(403)面、(204)面及び(313)面のうちの少なくとも一面である。
【0012】
請求項7に記載の結晶性無機材料は、請求項1に記載されたものであり、タンタル酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(001)面、(103)面、(105)面、(110)面、(101)面、(100)面、(215)面、(213)面、(118)面、(111)面、(511)面、(531)面、(331)面、(311)面、(211)面、(112)面、(107)面、(217)面、(103)面、(116)面、(104)面、(114)面、(107)面、(013)面、(113)面、(102)面、(122)面、(201)面、(312)面、(403)面、(011)面、(115)面及び(010)面のうちの少なくとも一面である。
【0013】
請求項8に記載の結晶性無機材料は、請求項1に記載されたものであり、タングステン酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(131)面、(001)面、(018)面、(016)面、(118)面、(301)面、(302)面、(312)面、(212)面、(011)面、(122)面、(102)面、(210)面、(120)面、(223)面、(201)面、(012)面、(217)面、(103)面、(116)面、(104)面、(114)面、(107)面及び(013)面のうちの少なくとも一面である。
【0014】
請求項9に記載の結晶性無機材料は、請求項1に記載されたものであり、モリブデン酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(100)面、(110)面、(201)面、(001)面、(010)面、(112)面、(011)面、(111)面、(101)面、(310)面、(401)面、(311)面、(511)面、(221)面、(312)面、(421)面、(301)面、(121)面、(103)面、(501)面、(210)面、(102)面、(123)面、(106)面、(212)面、(203)面、(304)面、(113)面、(105)面、(021)面、(125)面、(141)面、(331)面、(104)面及び(012)面のうちの少なくとも一面である。
【0015】
請求項10に記載の結晶性無機材料は、請求項1に記載されたものであり、バナジン酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(010)面、(110)面、(221)面、(101)面、(100)面、(021)面、(201)面、(111)面、(123)面、(401)面、(121)面、(431)面、(152)面、(432)面、(130)面、(131)面、(312)面、(511)面、(031)面、(112)面、(211)面、(301)面、(321)面、(103)面、(210)面、(102)面、(001)面、(011)面、(310)面、(212)面、(012)面、(013)面、(301)面、(023)面及び(113)面のうちの少なくとも一面である。
【0016】
請求項11に記載の結晶性無機材料は、請求項1に記載されたものであって、フラックス法、ゾル・ゲル法、固相反応法又はプラズマ法によって得られた結晶性無機材料である。
【0017】
請求項12に記載された浄化装置は、溶液中の金属イオンを除去する浄化装置であって、前記浄化装置内に設けられた前記溶液のろ過経路途中には、請求項1記載のろ過材料が、前記溶液と接触するように配設されている。
【0018】
請求項13に記載の浄化装置は、請求項12に記載されたものであって、溶液のろ過経路途中には、請求項1記載のろ過材料が、単独、活性炭と混合、或いは活性炭若しくはろ過膜の表面に付着した状態で配設されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るろ過材料と重金属イオンを含有する溶液とを接触することによって、溶液中に含有されている高濃度から極低濃度までの鉛イオンを除去でき、同時にアルミニウムイオン、銅イオン等の有害な重金属イオンも長期間にわたって除去できる。この様に、本発明に係るろ過材料を用いることによって、溶液中の種々の重金属イオンを除去できる理由は以下のように推察される。
【0020】
通常の無機結晶体に見られるトンネル型、食塩型、ペロブスカイト型等の結晶構造では、結晶骨格中に金属イオンとイオン交換されるカチオン成分が含有されたとしても、イオン交換成分に対して、四方から押さえる力(分子間力)が作用するため、イオン交換成分が動き難く充分にイオン交換性能を発揮できなかった。これに対し、本発明に係るろ過材料は、特定の結晶面が他の結晶面に比較して発達している層状結晶構造であって、金属イオンとイオン交換されるカチオン成分が層状結晶構造間に含有されているため、カチオン成分に対しては二方からの押さえる力(分子間力)が作用するのみである。このため、カチオン成分が動き易くなってイオン交換性能が高まった。
【0021】
更に、本発明に係るろ過材料は、特性の結晶面が他の結晶面よりも発達した層状結晶構造を具備するため、比表面積を大きくでき、イオン交換を短時間で効果的に行うことができる。その結果、本発明に係るろ過材料を用いた浄化装置によれば、材料容積の低下を図ることができ、浄化性能を保持した状態で装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るろ過材料の一実施例を示す走査型電子顕微鏡写真及びX線回折パターンである。
【図2】本発明に係るろ過材料の他の一実施例を示す走査型電子顕微鏡写真及びX線回折パターンである。
【図3】本発明に係るろ過材料の他の一実施例を示す走査型電子顕微鏡写真及びX線回折パターンである。
【図4】本発明に係るろ過材料の他の一実施例を示す走査型電子顕微鏡写真及びX線回折パターンである。
【図5】本発明に係るろ過材料に対する比較例を示す走査型電子顕微鏡写真及びX線回折パターンである。
【図6】本発明に係る浄化装置の一実施例についての性能評価結果を示すグラフである。
【図7】本発明に係る浄化装置の一例を説明するための配管図及び断面図である。
【図8】本発明に係る浄化装置の他の例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るろ過材料は、特定の結晶面が他の結晶面よりも発達した層状構造を具備する結晶性無機材料である。このため、重金属イオンやアルミニウムイオンを含有する溶液との接触面積を大きくできる。かかる本発明に係る結晶性無機材料は、そのX線回折パターンにおいて、図4(c)に示す様に、全回折線中で最高強度の第1回折線に対して80%以上の強度の回折線から成る高回折線群内で最低強度の回折線Aの強度が、高回折線群に属しない低回折線群内での最高強度回折線Bに対して1.5倍以上(好ましくは2倍以上)の相対強度となるものである。ここで、この高回折線群内には、第1回折線のみが存在している場合、すなわち、図1(c)に示す様に、第1回折線よりも低強度で且つ第1回折線に対して80%以上の強度の回折線が存在しない場合であってもよい。この場合、第1回折線と最低強度の回折線とは一致する。かかる結晶性無機材料としては、チタン酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、タングステン酸塩、モリブデン酸塩及びバナジン酸塩から成る群から選ばれた少なくとも一種を用いることができる。また、この結晶性無機材料を、ウィスカー状、チューブ状、板状又はバルク状とすることによって、重金属イオンやアルミニウムイオンを含有する溶液との接触面積を更に拡大できる。
【0024】
ここで、結晶性無機材料として、チタン酸塩を用いたとき、そのX線回折パターンにおいて、格子定数をa>c>bとしたとき、第1回折線に相当する結晶面が、(100)面、(001)面、(−101)面、(101)面、(200)面、(002)面、(−102)面、(201)面、(102)面、(011)面、(−202)面、(111)面、(−301)面、(300)面、(210)面、(−211)面、(012)面、(−112)面、(202)面、(−302)面、(301)面、(211)面、(−203)面、(112)面、(−212)面、(103)面、(−311)面、(310)面、(−204)面、(401)面、(020)面、(−214)面、(006)面及び(421)面のうちの少なくとも一面であるものが好ましい。
【0025】
また、結晶性無機材料として、ニオブ酸塩を用いたとき、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(010)面、(120)面、(131)面、(031)面、(211)面、(320)面、(121)面、(011)面、(140)面、(001)面、(051)面、(371)面、(151)面、(311)面、(261)面、(041)面、(110)面、(130)面、(112)面、(241)面、(032)面、(013)面、(113)面、(101)面、(210)面、(301)面、(122)面、(201)面、(312)面、(001)面、(403)面、(204)面及び(313)面のうちの少なくとも一面であるものが好ましい。
【0026】
若しくは、結晶性無機材料として、タンタル酸塩を用いたとき、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(001)面、(103)面、(105)面、(110)面、(101)面、(100)面、(215)面、(213)面、(118)面、(111)面、(511)面、(531)面、(331)面、(311)面、(211)面、(112)面、(107)面、(217)面、(103)面、(116)面、(104)面、(114)面、(107)面、(013)面、(113)面、(102)面、(122)面、(201)面、(312)面、(001)面、(403)面、(2011)面、(115)面及び(010)面のうちの少なくとも一面であるものが好ましい。
【0027】
更に、結晶性無機材料として、タングステン酸塩を用いたとき、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(131)面、(001)面、(018)面、(016)面、(118)面、(301)面、(302)面、(312)面、(212)面、(011)面、(122)面、(102)面、(210)面、(120)面、(223)面、(201)面、(012)面、(217)面、(103)面、(116)面、(104)面、(114)面、(107)面及び(013)面のうちの少なくとも一面であるものが好ましい。
【0028】
或いは、結晶性無機材料として、モリブデン酸塩を用いたとき、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(100)面、(110)面、(201)面、(001)面、(010)面、(112)面、(011)面、(111)面、(101)面、(310)面、(401)面、(311)面、(511)面、(221)面、(312)面、(421)面、(301)面、(121)面、(103)面、(501)面、(210)面、(102)面、(123)面、(106)面、(212)面、(203)面、(304)面、(113)面、(105)面、(021)面、(125)面、(141)面、(331)面、(104)面及び(012)面のうちの少なくとも一面であるものが好ましい。
【0029】
また、結晶性無機材料として、バナジン酸塩を用いたとき、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(010)面、(110)面、(221)面、(101)面、(100)面、(021)面、(201)面、(111)面、(123)面、(401)面、(121)面、(431)面、(152)面、(432)面、(130)面、(131)面、(312)面、(511)面、(031)面、(112)面、(211)面、(301)面、(321)面、(103)面、(210)面、(102)面、(001)面、(011)面、(310)面、(212)面、(012)面、(013)面、(301)面、(023)面及び(113)面のうちの少なくとも一面であるものが好ましい。
【0030】
この様に、特定の結晶面が他の結晶面よりも発達した層状結晶構造を具備する本発明に係る結晶性無機材料においては、その層状結晶構造間に、除去する金属イオンとイオン交換するカチオン成分が含有されている。かかる本発明の結晶性無機材料では、層状結晶構造間のカチオン成分には、二方からの押さえる力(分子間力)が作用するのみある。このため、本発明の結晶性無機材料では、トンネル型、食塩型、ペロブスカイト型等の通常の無機結晶体の結晶骨格内に導入されて四方から押さえる力(分子間力)が作用するカチオン成分に比較して、カチオン成分が動き易くなってイオン交換性能が高まっているものと推測される。このカチオン成分としては、金属イオンとイオン交換する水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、鉄、マグネシウム、マンガン、ガリウム及びランタンから成る群から選ばれる少なくとも一種が含まれているものを好適に用いることができる。特に、アルカリ金属類に属するリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが好ましい。
【0031】
かかる本発明に係るろ過材料は、フラックス法によって得ることができる。かかるフラックス法では、例えば酸化ニオブや酸化チタンと炭酸カリウムや炭酸ナトリウムに、フラックスとして塩化ナトリウムや硝酸ナトリウムを添加した後、加熱溶融しつつ所定温度に昇温してから所定時間保持し、次いで、所定の冷却速度で冷却することによって得ることができる。冷却の過程で過飽和状態を通過する際に、この過飽和状態を駆動力として、層状結晶構造を構成する金属酸化物シートが形成され、形成された金属酸化物シートとカチオン成分とが交互に積み重なると考えられる。この保持時間や冷却速度の調整によって、層状であって、ウィスカー状、チューブ状、板状又はバルク状の結晶性無機材料を得ることができる。尚、本発明に係るろ過材料は、ゾル・ゲル法、固相反応法又はプラズマ法によっても得ることができる。
【0032】
この様にして得られた本発明に係るろ過材料は浄化装置に用いることができる。かかる浄化装置では、その内部に設けられた、除去すべき金属イオンが含有されている溶液のろ過経路途中に、前述したろ過材料が、金属イオン含有の溶液と接触するように配設されている。この浄化装置の一例を図7(a)に示す。図7(a)に示す浄化装置10は、除去すべき金属イオンが含有されている溶液が通過する配管の途中に、ろ過材料が単独で充填されたケーシング20aと活性炭が単独で充填されたケーシング20bとが配設されている。また、ろ過材料12と活性炭14とが、図7(b)に示す浄化装置10の様に、一個のケーシング20内に充填されていてもよい。図7(b)に示す浄化装置10には、ケーシング20内に配設された外筒21aと内筒21bとの間に形成された溶液のろ過経路が不織布16、16によって仕切られてろ過材料12と活性炭14との各々が単独で充填されている。更に、外筒21aと内筒21bとの間のろ過経路を通過した溶液が供給される内筒21b内には、中空糸膜18が内挿されている。かかる図7(b)に示す浄化装置10では、ケーシング20に供給された溶液は、外筒21aと内筒21bとの間に充填されたろ過材料12と活性炭14とを通過して金属イオンが除去された溶液が、内筒21b内の中空糸膜18を通過してケーシング20から吐出する。
【0033】
図7に示す浄化装置10では、ろ過材料12と活性炭14との各々が溶液のろ過経路に単独で充填されていたが、図8(a)に示す浄化装置10の様に、そのろ過経路の途中(外筒21aと内筒21bとの間のろ過経路)にろ過材料12と活性炭14とが混合されて充填されていてもよい。また、図8(b)に示す浄化装置10の様に、そのろ過経路の途中(外筒21aと内筒21bとの間のろ過経路)に、ろ過材料12が表面に付着した活性炭14を充填していてもよい。更に、図8(c)に示す浄化装置10の様に、内筒21b内の中空糸膜18の表面にろ過材料12を付着させてもよい。図8(c)の浄化装置10では、外筒21aと内筒21bとの間のろ過経路に、ろ過材料12を充填することは要しない。
【0034】
本発明に係るろ過材料をろ過経路途中に設けた浄化装置によれば、ろ過経路に供給する溶液中に、鉛イオン、アルミニウムイオン、マンガンイオン、銅イオン、鉄イオン、クロムイオン、亜鉛イオン、カドミニウムイオン等の種々の金属イオンが存在していても除去できる。また、市販されているイオン交換樹脂と比較しても、本発明に係るろ過材料をろ過経路途中に設けた浄化装置は、その寿命を長くすることが可能である。
【実施例1】
【0035】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
溶質としての酸化ニオブ(Nb)15.5gと炭酸カリウム(KCO)5.4gとの混合物[化学量論比(Nb:KCO=3:1)]に、フラックスとしての塩化カリウム(KCl)5.0gを添加し、45℃/hrの加熱速度で昇温して溶融した後、800℃まで昇温して5時間保持した。次いで、溶融物を300℃/hrの速度で500℃に冷却した後に放冷し、白色結晶を得た。得られた白色結晶の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1(a)(b)に示す。図1(a)は倍率10,000倍のSEM鏡写真であり、図1(b)は倍率50,000倍のSEM写真である。図1(a)(b)に示す結晶体は、層状で且つ板状の結晶体である。得られた白色結晶のX線回折パターンを図1(c)に示す。かかるパターンから明らかなように、全回折線中で最高強度の第1回折線に対して80%以上の強度の回折線から成る高回折線群内には、第1回折線のみしか存在しない。この図1(c)のパターンでは、高回折線群に属しない低回折線群のうち、最高の回折線である回折線Bと第1回折線との相対強度が問題となる。この点、本実施例では、図1(c)から明らかな様に、第1回折線の強度は、回折線Bの強度の2倍以上の相対強度を示している。この第1回折線は(010)面に相当する。かかるX線回折パターンから白色結晶はKNb17である。
【0037】
(実施例2)
溶質としての酸化チタン(TiO)9.0gと炭酸カリウム(KCO)4.0gとの混合物[化学量論比(TiO:KCO=3:1)]に、フラックスとしての塩化ナトリウム(NaCl)8.7gを添加し、45℃/hrの加熱速度で昇温して溶融した後、800℃まで昇温して5時間保持した。次いで、溶融物を5℃/hrの速度で500℃に冷却した後に放冷し、白色結晶を得た。得られた白色結晶の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2(a)(b)に示す。図2(a)は倍率5,000倍のSEM鏡写真であり、図2(b)は倍率10,000倍のSEM写真である。図2(a)(b)に示す結晶体は、層状で且つ柱状の結晶体である。得られた白色結晶のX線回折パターンを図2(c)に示す。かかるパターンから明らかなように、実施例1の図1に示すX線回折パターンと同様に、全回折線中で最高強度を示す第1回折線の強度は、図2(c)に示す回折線Bに対して2倍以上の相対強度を示している。この第1回折線は(001)面に相当する。かかるX線回折パターンから白色結晶はNaTiである。
【0038】
(実施例3)
実施例2において、得られた白色結晶体を1N塩酸中で3日間攪拌した後、NaCOで中和した。得られた結晶体は、そのSEM写真から層状であって、柱状とウィスカー状との結晶体との混合物であった。また、この結晶体のX線回折パターンでは、実施例1の図1に示すX線回折パターンと同様に、全回折線中で最高強度を示す第1回折線の強度は、高回折線群に属しない低回折線群のうち、最高の回折線である回折線Bに対して2倍以上の相対強度を示しているものであった。かかるX線回折パターンから結晶体は、(001)面が発達した柱状とウィスカー状とのNaTiと、(100)面が発達した柱状とウィスカー状とのHTiとの混合物である。
【0039】
(実施例4)
溶質としての酸化チタン(TiO)10.9gと炭酸ナトリウム(NaCO)2.4gとの混合物[化学量論比(TiO:NaCO=6:1)]に、フラックスとしての硝酸ナトリウム(NaNO)7.7gを添加し、45℃/hrの加熱速度で昇温して溶融した後、800℃まで昇温して5時間保持した。次いで、溶融物を5℃/hrの速度で500℃に冷却した後に放冷し、白色結晶を得た。得られた白色結晶の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3(a)(b)に示す。図3(a)は倍率1,000倍のSEM鏡写真であり、図3(b)は倍率4,000倍のSEM写真である。図3(a)(b)に示す結晶体は、層状で且つ板状の結晶体である。得られた白色結晶のX線回折パターンを図3(c)に示す。かかるパターンから明らかなように、実施例1の図1に示すX線回折パターンと同様に、全回折線中で最高強度を示す第1回折線の強度は、図3(c)に示す回折線Bに対して2倍以上の相対強度を示している。この第1回折線は(001)面に相当する。かかるX線回折パターンから白色結晶はNaTiである。
【0040】
(実施例5)
溶質としての酸化チタン(TiO)10.9gと炭酸ナトリウム(NaCO)2.4gとの混合物[化学量論比(TiO:NaCO=6:1)]に、フラックスとしての硝酸ナトリウム(NaNO)7.7gを添加し、45℃/hrの加熱速度で昇温して溶融した後、600℃まで昇温して10時間保持した。次いで、溶融物を5℃/hrの速度で500℃に冷却した後に放冷し、白色結晶を得た。得られた白色結晶の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4(a)(b)に示す。図4(a)は倍率3,000倍のSEM写真であり、図4(b)は倍率10.000倍のSEM写真である。図4(a)(b)に示す結晶体は、層状で且つ板状の結晶体である。得られた白色結晶のX線回折パターンを図4(c)に示す。かかるパターンには、全回折線中で最高強度の第1回折線に対して80%以上の強度となる回折線A(第1回折線に対する強度比:80.2%)が存在する。このため、第1回折線及び回折線Aによって高回折線群が構成される。この高回折線群内で最低強度となる回折線Aの強度は、高回折線群に属しない低回折線群内での最高強度となる回折線Bに対して2倍以上の相対強度を示す。この第1回折線は(001)面に相当し、回折線Aは(−101)面に相当する。かかるX線回折パターンから白色結晶はNaTiである。
【0041】
(比較例)
溶質としての酸化チタン(TiO)9.0gと炭酸ナトリウム(NaCO)4.0gとの混合物[化学量論比(TiO:NaCO=3:1)]に、フラックスとしての塩化ナトウム(NaCl)8.7gを添加し、45℃/hrの加熱速度で昇温して溶融した後、800℃まで昇温して10時間保持した。次いで、溶融物を5℃/hrの速度で500℃に冷却した後に放冷し、白色結晶を得た。得られた白色結晶の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図5(a)(b)に示す。図5(a)は倍率5,000倍のSEM鏡写真であり、図5(b)は倍率10,000倍のSEM写真である。図5(a)(b)に示す結晶体は、ウィスカー状で且つ柱状の結晶体であったが、層状の結晶体ではなくトンネル型の結晶体であった。また、得られた白色結晶のX線回折パターンを図5(c)に示す。かかるパターンから明らかなように、実施例1の図1に示すX線回折パターンと同様に、全回折線中で最高強度を示す第1回折線は、図5(c)に示す回折線Bに対して2倍以上の相対強度を示している。この第1回折線は(100)面に相当する。かかるX線回折パターンから白色結晶はNaTi13である。
【0042】
実施例1〜4及び比較例で得られた結晶体について、金属イオンの除去性能について評価した。その評価方法は、鉛、アルミニウム、マンガン、銅、鉄、クロム、亜鉛、カドミニウム及びニッケルを混合し、各金属イオン濃度を100μg/Lに調整した水溶液を作製した。この水溶液1Lに得られた結晶体1.0gを投入し、10時間攪拌した後、水溶液中に残留している各金属イオン濃度を誘導結合プラズマ(ICP)分析によって分析し、除去率を求めた。その結果を、下記表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から明らかな様に、実施例1〜4の結晶体による金属イオンの除去率は、比較例の結晶体による金属イオンの除去率よりも良好である。実施例1〜4の結晶体は、層状であるため、層間に配置されたイオン交換能を有するカチオンと金属イオンとが接触できる。一方、比較例の結晶体は、層状構造を有しておらず、結晶構造中のカチオンは、金属酸化物多面体(多くは八面体である)に囲まれており、金属イオンが侵入できないため、置換されないものと推察される。尚、実施例1〜4の結晶体のうち、実施例4の結晶体による金属イオンの除去率は特に良好である。
【0045】
(実施例6)
実施例で得られた結晶体を浄化装置に用いた場合の性能評価を、JIS S3201に準拠して行った。具体的には、実施例4で得られた結晶体1gを蒸留水中に分散した分散液を作製した。この分散液を、市販されている中空糸膜(膜面積0.4m)の外周面から内周面方向に通水し、結晶体が膜表面に厚さ約4μmの厚さとなるように付着させた。次いで、結晶体が付着した中空糸膜に、鉛、アルミニウム、マンガンの各金属イオン濃度が50μg/Lとなるように調整した試験溶液を通水した。試験溶液は、中空糸膜の外周面から内周面方向に、2.5L/minの通水量となるように調整した。中空糸膜から吐出された処理水中の金属イオン濃度を誘導結合プラズマ(ICP)分析によって分析し、除去率の経時変化を求めた。その結果を図6に示す。また、図6には、比較例として、市販されている中空繊維状のイオン交換樹脂を用いた結果も併せて示す。尚、図6(a)〜(c)において、実施例4と示す水準は、実施例4で得られた結晶体を中空糸膜の膜表面に付着したものである。
【0046】
図6(a)〜(c)に示す様に、鉛、アルミニウム、マンガンのいずれの金属イオンの除去率においても、本実施例がイオン交換樹脂を用いた場合よりも良好である。特に、マンガンイオンについては、JIS S3201において規定する浄水装置の寿命の目安である除去率が80%となる時間を、本実施例ではイオン交換樹脂よりも大幅に延長できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るろ過材料は、水道水、下水処理水、工場廃液処理水等の浄化装置に利用できる。
【符号の説明】
【0048】
10は浄化装置、12はろ過材料、14は活性炭、16は不織布、18は中空糸膜、20,20a,20bはケーシング、21aは外筒、21bは内筒である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の金属イオンを除去するろ過材料が、層状結晶構造を具備する結晶性無機材料であって、
前記結晶性無機材料は、前記金属イオンとイオン交換されるカチオン成分とを前記層状結晶構造間に含有し、
且つそのX線回折パターンにおいて、全回折線中で最高強度の第1回折線に対して80%以上の強度の回折線から成る高回折線群内で最低強度の回折線の強度が、前記高回折線群に属しない低回折線群内での最高強度回折線に対して1.5倍以上の相対強度となるように、前記第1回折線に相当する結晶面が他の結晶面よりも発達していることを特徴とするろ過材料。
【請求項2】
前記結晶性無機材料が、チタン酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、タングステン酸塩、モリブデン酸塩及びバナジン酸塩から成る群から選ばれた少なくとも一種である請求項1に記載のろ過材料。
【請求項3】
前記カチオン成分には、金属イオンとイオン交換される水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、鉄、マグネシウム、マンガン、ガリウム及びランタンから成る群から選ばれる少なくとも一種が含まれている請求項1に記載のろ過材料。
【請求項4】
前記結晶性無機材料が、ウィスカー状、チューブ状、板状又はバルク状である請求項1に記載のろ過材料。
【請求項5】
前記結晶性無機材料が、チタン酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、格子定数をa>c>bとしたとき、第1回折線に相当する結晶面が、(100)面、(001)面、(−101)面、(101)面、(200)面、(002)面、(−102)面、(201)面、(102)面、(011)面、(−202)面、(111)面、(−301)面、(300)面、(210)面、(−211)面、(012)面、(−112)面、(202)面、(−302)面、(301)面、(211)面、(−203)面、(112)面、(−212)面、(103)面、(−311)面、(310)面、(−204)面、(401)面、(020)面、(−214)面、(006)面及び(421)面のうちの少なくとも一面である請求項1に記載のろ過材料。
【請求項6】
前記結晶性無機材料が、ニオブ酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(010)面、(120)面、(131)面、(031)面、(211)面、(320)面、(121)面、(011)面、(140)面、(001)面、(051)面、(371)面、(151)面、(311)面、(261)面、(041)面、(110)面、(130)面、(112)面、(241)面、(032)面、(013)面、(113)面、(101)面、(210)面、(301)面、(122)面、(201)面、(312)面、(001)面、(403)面、(204)面及び(313)面のうちの少なくとも一面である請求項1に記載のろ過材料。
【請求項7】
前記結晶性無機材料が、タンタル酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(001)面、(103)面、(105)面、(110)面、(101)面、(100)面、(215)面、(213)面、(118)面、(111)面、(511)面、(531)面、(331)面、(311)面、(211)面、(112)面、(107)面、(217)面、(103)面、(116)面、(104)面、(114)面、(107)面、(013)面、(113)面、(102)面、(122)面、(201)面、(312)面、(403)面、(011)面、(115)面及び(010)面のうちの少なくとも一面である請求項1に記載のろ過材料。
【請求項8】
前記結晶性無機材料が、タングステン酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(131)面、(001)面、(018)面、(016)面、(118)面、(301)面、(302)面、(312)面、(212)面、(011)面、(122)面、(102)面、(210)面、(120)面、(223)面、(201)面、(012)面、(217)面、(103)面、(116)面、(104)面、(114)面、(107)面及び(013)面のうちの少なくとも一面である請求項1に記載のろ過材料。
【請求項9】
前記結晶性無機材料が、モリブデン酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(100)面、(110)面、(201)面、(001)面、(010)面、(112)面、(011)面、(111)面、(101)面、(310)面、(401)面、(311)面、(511)面、(221)面、(312)面、(421)面、(301)面、(121)面、(103)面、(501)面、(210)面、(102)面、(123)面、(106)面、(212)面、(203)面、(304)面、(113)面、(105)面、(021)面、(125)面、(141)面、(331)面、(104)面及び(012)面のうちの少なくとも一面である請求項1に記載のろ過材料。
【請求項10】
前記結晶性無機材料が、バナジン酸塩であって、そのX線回折パターンにおいて、第1回折線に相当する結晶面が、(010)面、(110)面、(221)面、(101)面、(100)面、(021)面、(201)面、(111)面、(123)面、(401)面、(121)面、(431)面、(152)面、(432)面、(130)面、(131)面、(312)面、(511)面、(031)面、(112)面、(211)面、(301)面、(321)面、(103)面、(210)面、(102)面、(001)面、(011)面、(310)面、(212)面、(012)面、(013)面、(301)面、(023)面及び(113)面のうちの少なくとも一面である請求項1に記載のろ過材料。
【請求項11】
前記結晶性無機材料が、フラックス法、ゾル・ゲル法、固相反応法又はプラズマ法によって得られた結晶性無機材料である請求項1に記載のろ過材料。
【請求項12】
溶液中の金属イオンを除去する浄化装置であって、前記浄化装置内に設けられた前記溶液のろ過経路途中には、請求項1記載のろ過材料が、前記溶液と接触するように配設されていることを特徴する浄化装置。
【請求項13】
前記溶液のろ過経路途中には、請求項1記載のろ過材料が、単独、活性炭と混合、或いは活性炭若しくはろ過膜の表面に付着した状態で配設されている請求項12に記載の浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−200779(P2011−200779A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69292(P2010−69292)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(392008529)ヤマハリビングテック株式会社 (349)
【Fターム(参考)】