説明

ろ過膜の洗浄方法および洗浄剤

【課題】 ろ過膜の洗浄を短時間で効果的に行い、ろ過膜に付着した微粒子、その他の汚染物を高度に除去することができ、これにより使用開始後に汚染物が出ない清浄なろ過膜を迅速に得ることが可能なろ過膜の洗浄方法および洗浄剤を得る。
【解決手段】 超純水製造に使用されるろ過膜を、超純水製造工程での使用に先立って予備的に洗浄する方法において、前記ろ過膜に対する溶解性を有し、かつ水との相溶性を有する有機溶媒の水溶液からなる洗浄剤によってろ過膜を洗浄するか、あるいはさらに有機性アルカリの水溶液によってろ過膜を洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限外ろ過膜等のろ過膜を洗浄する方法、特に超純水製造に使用されるろ過膜を、超純水製造工程での使用に先立って予備的に洗浄する方法、およびその洗浄剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程等において洗浄用に使用される超純水については、極めて高純度の水質が求められており、その純度は今後ますます向上させていくことが求められている。また、半導体製造工場等の建設においては、水質の迅速な立ち上がりによる工期の短縮が求められており、より高度な水質をより短期間内に実現する要求が極めて強い。このような要求に対応するためには、超純水製造装置において、最終段の処理を行う水処理ユニットの清浄度を向上させることが必須である。
【0003】
超純水製造工程では、限外ろ過膜、MF膜、ナノろ過膜等のろ過膜を用いるろ過装置が設けられている。このうち半導体用の超純水製造装置の最終段にはろ過膜として、限外ろ過膜が使用されているが、新品のろ過膜でも微粒子、その他の汚染物が付着しているため、使用前の予備的な洗浄を効果的に行うことが重要である。
【0004】
従来、限外ろ過膜の洗浄法として、超純水通水による洗浄が行われていたが、超純水は電気伝導性が低いため静電気の除去効果が弱く、むしろ超純水自身が静電気を帯びることがあり、超純水による洗浄では微粒子を除去する効果は期待できない。
【0005】
特許文献1(特開2002−52322号)には、超純水製造に使用されるろ過膜を、塩基性溶液や界面活性剤含有水で洗浄することが記載されている。
特許文献2(特開2002−361052号)には、超純水製造に使用されるろ過膜を使用に先立って予備的に洗浄する方法として、塩酸などの酸や過酸化水素などを用いて洗浄することが記載されている。
また特許文献3(特開2004−74091号)には、超純水の製造に使用されるろ過膜の洗浄剤として、鉱酸、カルボン酸、スルホン酸やNaOHなどの鉱物系アルカリまたはテトラメチルアンモニウムハイドロオキシド(TMAH)などの有機系アルカリ、或いはアルコール類などの有機溶媒を用いることが記載されている。
【0006】
しかし、これら特許文献1〜3のいずれの方法を採用しても、ろ過膜を十分に洗浄することはできなかった。また、酸、アルカリ、有機溶媒含有水や界面活性剤の適用なども提案されているが、これらは洗浄後のろ過膜に残留し易く、残留した洗浄剤の成分は徐々に溶出して、超純水の汚染限となりうるので、実用化されるには至っていない。
【0007】
このためこれらの工程で用いられるろ過膜の予備的な洗浄を短時間で効率よく行い、ろ過膜に付着した微粒子、その他の汚染物を高度に除去し、清浄度を向上させることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−52322号
【特許文献2】特開2002−361052号
【特許文献3】特開2004−74091号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、前記のような従来の問題点を解決するため、ろ過膜の洗浄を短時間で効果的に行い、ろ過膜に付着した微粒子、その他の汚染物を高度に除去することができ、これにより使用開始後に汚染物が出ない清浄なろ過膜を迅速に得ることが可能なろ過膜の洗浄方法および洗浄剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は次のろ過膜の洗浄方法および洗浄剤である。
(1) 超純水製造に使用されるろ過膜を、超純水製造工程での使用に先立って予備的に洗浄する方法であって、
前記ろ過膜に対する溶解性を有し、かつ水との相溶性を有する有機溶媒の水溶液により、前記ろ過膜を洗浄することを特徴とするろ過膜の洗浄方法。
(2) 有機溶媒の水溶液による洗浄後、有機性アルカリの水溶液により透過膜を洗浄する上記(1)記載の方法。
(3) ろ過膜が相転換法により製造された多孔質膜である上記(1)または(2)記載の方法。
(4) ろ過膜が限外ろ過膜である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) ろ過膜に対する溶解性を有し、かつ水との相溶性を有する有機溶媒の水溶液からなることを特徴とするろ過膜の洗浄剤。
(6) ろ過膜に対する溶解性を有し、かつ水との相溶性を有する有機溶媒の水溶液、ならびに有機性アルカリの水溶液からなることを特徴とするろ過膜の洗浄剤。
【0011】
本発明において洗浄の対象となるろ過膜は、超純水製造において膜分離を行うために使用される透過膜であり、限外ろ過膜、MF膜、ナノろ過膜等の一般のろ過膜が対象になるが、特に超純水製造の最終段において使用される限外ろ過膜が洗浄の対象として適している。これらのろ過膜は、ろ過膜を処理装置に組み込み、その使用に先立って行われる予備的な洗浄の対象となるろ過膜である。
【0012】
洗浄対象となるろ過膜の材質としては特に制限はなく、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、セルロース系等の材料からなるものがあり、いずれも本発明の洗浄の対象となる。このうちポリスルフォン製の限外ろ過膜が透過膜として広く用いられているので、ポリスルフォン製のろ過膜が洗浄の対象として適している。
【0013】
本発明におけるろ過膜の洗浄は、このようなろ過膜を、膜分離装置のモジュールに装備された状態で、またはモジュールに装備されない状態のろ過膜に対して行われる。モジュールの形式については特に制限はなく、例えば、管状膜モジュール、平面膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュール、プリーツ状モジュールなどに適用することができる。
【0014】
本発明では、洗浄対象のろ過膜に対する溶解性を有し、かつ水との相溶性を有する有機溶媒の水溶液を洗浄剤とし、この水溶液により前記ろ過膜を洗浄するか、あるいは上記有機溶媒の水溶液からなる洗浄剤による洗浄後、さらに有機性アルカリの水溶液によりろ過膜を洗浄する。
【0015】
このような洗浄対象となるろ過膜としては、例えば特開平6−350号に示された相転換法により製造された多孔質膜が好ましい。相転換法はポリスルフォン等のろ過膜のポリマー材質となるポリマーを、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキサイドなどの極性溶媒に均一に溶解し、この液を水、アルコール、グリセリンなどの上記した高分子に対して貧溶媒である凝固液中に押出して、前記溶媒と相転換して多孔質膜を析出させる方法である。
【0016】
この方法では、限外ろ過膜等のろ過膜、例えばポリスルフォン製の限外ろ過膜は、ろ過膜の材質に対する溶解性を有し、かつ水との相溶性を有する有機溶媒例えばN−メチル−2−ピロリドンにポリスルフォン樹脂(ポリマー)を溶解させ、この溶液を水中に押し出すことによって溶媒が水に置換し、このときポリスルフォンが析出して多孔質の膜が形成されることを利用して製造される。
【0017】
このようにして製造されるろ過膜は、製造過程において大部分のポリマーは析出して膜を形成するが、ごく一部のポリスルフォンは膜と一体の形状にならず、膜から離れて粒子状になって液中に浮遊し、その一部は形成される膜の基材に弱い力で付着し、その後ろ過膜として使用される時に付着した粒子が流れによって剥離して水中に浮遊し、微粒子として検知されるものがあると考えられる。
【0018】
超純水中に検出される微粒子の材質は、その大きさが微小であるために材質が不明であるが、上記のように考えると超純水製造装置の建設直後に超純水中に検出される微粒子は限外ろ過膜製造時に生じる膜材質の破片粒子からなるものが大部分であると推測される。このような超純水の水質を短期間に、より高度な水質とするためには、最終段に使用されている限外ろ過膜の透過水側表面に付着している膜と同じ材質の微粒子を完全に除去することが重要な鍵になる。
【0019】
固体表面に付着した微粒子を除去する時、粒子と固体表面間に働く付着力を弱める必要がある。一般的にはこの目的で界面活性剤を添加することが行われている。この場合、水中におけるポリスルフォンのような有機物表面には、界面活性剤は疎水基を表面に、親水基を水側に向けて吸着する。これにより見かけ上固体表面と微粒子表面の両方が親水性となってその接触面に水が浸透しやすくなって付着力が弱まり、粒子が脱落するものと考えられる。
【0020】
しかし超純水製造装置に使用するろ過膜の洗浄に界面活性剤を適用すると、表面に付着した界面活性剤が洗浄後も残留して徐々に溶出することになり、水質を汚染させることになる。従って超純水用の膜においては界面活性剤以外で、膜材質表面に親和性の強い物質を適用することにより、膜と付着粒子の間の付着力を弱めることが期待できる。
【0021】
限外ろ過膜の製造時にポリマーの溶解に用いられた有機溶媒は、ポリマーに対して強い親和力をもっており、しかも水にもよく溶解する。したがって製造したろ過膜の材質を溶解できる有機溶媒と水とを混合した水溶液を作成し、これを洗浄剤としてろ過膜に接触させると、膜表面および付着した粒子表面のいずれにも強い親和力を示し、その間に浸透して微粒子の付着力を弱め、その微粒子をろ過膜から離脱させ、洗浄液側に移行させて除去することができる。
【0022】
洗浄剤として用いる有機溶媒は、ろ過膜に対する溶解性を有し、かつ水との相溶性を有する有機溶媒であり、ろ過膜の材質によって異なるが、それぞれのろ過膜の製造時にポリマーの溶解に用いられた有機溶媒を用いることができる。ろ過膜の材質がポリスルフォンの場合は、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルアセトアミド(DMA)などをあげることができる。洗浄剤として用いる有機溶媒と水との割合は、有機溶媒水溶液中の有機溶媒濃度として、1〜20重量%、好ましくは5〜15重量%程度である。洗浄剤には有機溶媒と水の他に、アルコール、グリセリンなどの他の溶媒を加えてもよい。
【0023】
ろ過膜の洗浄方法は、ろ過膜を上記洗浄剤と接触させることにより洗浄を行う。接触方法はろ過膜を上記洗浄剤に浸漬して攪拌し、モジュールの場合はモジュールに洗浄剤を通液し、ろ過膜に沿って流すとともに、膜を通過させる。これによりろ過膜の表面および内部に付着した微粒子を、ろ過膜から離脱させて洗浄液側に移行させ、除去することができる。ろ過膜と洗浄剤の接触時間は、ろ過膜および有機溶媒の種類、濃度、微粒子の付着状況等によって異なるが、一般的には0.5〜10時間、好ましくは1〜3時間程度である。
【0024】
本発明では、上記有機溶媒の水溶液からなる洗浄剤による洗浄後、さらに有機性アルカリの水溶液によりろ過膜を洗浄するのが好ましい。有機性アルカリとしては、テトラメチルアンモニウムハイドロオキシド(TMAH)などがあげられる。有機性アルカリ水溶液は、pH11以上、好ましくはpH11〜11.5、有機性アルカリ水溶液中の有機性アルカリ濃度は、100〜200mg/L、好ましくは130〜150mg/L程度である。ろ過膜と有機性アルカリ水溶液の接触方法は、上記洗浄剤の場合と同様である。ろ過膜と有機性アルカリ水溶液接触時間は、一般的には0.5〜5時間、好ましくは1〜2時間程度である。有機性アルカリ水溶液により洗浄することにより、全体をアルカリ雰囲気にすることができ、これによりろ過膜や機材表面の電位を増大させ、静電反発により残留する付着微粒子を剥離させ、除去することができる。
【0025】
洗浄剤および有機性アルカリ水溶液による洗浄操作中、超音波照射、その他の洗浄促進手段を併用することができる。洗浄剤による洗浄後、あるいはさらに有機性アルカリ水溶液による洗浄後、ろ過膜を超純水で洗浄するのが好ましい。超純水による洗浄により、ろ過膜に付着し残留する洗浄剤および有機性アルカリ水溶液は洗い流され、ろ過膜に残留して使用後の処理水中に流出し、水質を悪化させることが防止される。
【0026】
本発明において、有機溶媒水溶液からなる洗浄剤によりろ過膜を洗浄することにより、ろ過膜に付着している微粒子、その他の汚染物がろ過膜から剥離して除去される。これにより未洗浄およびテトラメチルアンモニウムハイドロオキシド(TMAH)洗浄に比べて、ろ過膜に通水後の透過水中の微粒子濃度を迅速に低下させ、超純水水質を従来よりも速く立ち上げることができる。このような有機性アルカリ水溶液による洗浄によっても除去されないで、電荷等によりろ過膜に付着して残留する微粒子、その他の汚染物に対しては、さらに有機性アルカリの水溶液によりろ過膜を洗浄することにより、除去することができる。このような洗浄剤や有機性アルカリは、その後の超純水洗浄により除去され、ろ過膜に付着して残留することはない。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、超純水製造に使用されるろ過膜を、超純水製造工程での使用に先立って予備的に洗浄する方法において、前記ろ過膜に対する溶解性を有し、かつ水との相溶性を有する有機溶媒の水溶液によってろ過膜を洗浄することにより、ろ過膜の洗浄を短時間で効果的に行い、ろ過膜に付着した微粒子、その他の汚染物を高度に除去することができ、これにより使用開始後に汚染物が出ない清浄なろ過膜を迅速に得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0029】
〔比較例1〕:
相転換法により製造されたポリスルフォン製中空糸限外ろ過膜を内蔵する新品のモジュール1本(定格4m/H)に対して、超純水を4m/Hで供給して3時間後、10時間後、1日後の透過水中の0.1μm以上の微粒子数をリオン株式会社製パーティクルセンサKS−16により測定した。
【0030】
〔比較例2〕:
比較例1と同様のモジュールに、テトラメチルアンモニウムハイドロオキシド(TMAH)を150mg/L超純水に溶解した水溶液を、流量0.5m/Hで供給して1時間循環後、超純水を4m/Hで1時間通水して洗浄し、比較例1と同様に超純水を通水して微粒子数を測定した。
【0031】
〔実施例1〕:
比較例1と同様のモジュールに、N−メチル−2−ピロリドンを超純水に10重量%の濃度で溶解した水溶液を0.5m/Hで供給して1時間循環後、超純水を4m/Hで1時間通水して洗浄し、比較例1と同様に超純水を通水して微粒子数を測定した。
【0032】
〔実施例2〕:
比較例1と同様のモジュールに、N−メチル−2−ピロリドンを超純水に10重量%の濃度で溶解した水溶液を0.5m/Hで供給して1時間循環後、液を交換し、比較例2と同様のテトラメチルアンモニウムハイドロオキシド(TMAH)水溶液を流量0.5m/Hで供給して1時間循環後、超純水を4m/Hで1時間通水して洗浄し、比較例1と同様に超純水を通水して微粒子数を測定した。
【0033】
上記各例で測定した微粒子数(単位:個/mL)の結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果より、実施例1のN−メチル−2−ピロリドン水溶液による洗浄後、超純水を通水した後の透過水中の微粒子数が、比較例1の未洗浄、ならびに比較例2のテトラメチルアンモニウムハイドロオキシド水溶液による洗浄の場合よりも速く低下しており、実施例2のN−メチル−2−ピロリドン水溶液およびテトラメチルアンモニウムハイドロオキシド水溶液による洗浄の場合はさらに速く低下しており、洗浄超純水水質の立ち上がりが従来よりも早くなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、限外ろ過膜、MF膜、ナノろ過膜等の超純水製造に使用されるろ過膜を、超純水製造工程での使用に先立って予備的に洗浄する方法、およびその洗浄に用いる洗浄剤に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水製造に使用されるろ過膜を、超純水製造工程での使用に先立って予備的に洗浄する方法であって、
前記ろ過膜に対する溶解性を有し、かつ水との相溶性を有する有機溶媒の水溶液により、前記ろ過膜を洗浄することを特徴とするろ過膜の洗浄方法。
【請求項2】
有機溶媒の水溶液による洗浄後、有機性アルカリの水溶液によりろ過膜を洗浄する請求項1記載の方法。
【請求項3】
ろ過膜が相転換法により製造された多孔質膜である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ろ過膜が限外ろ過膜である請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ろ過膜に対する溶解性を有し、かつ水との混和性を有する有機溶媒の水溶液からなることを特徴とするろ過膜の洗浄剤。
【請求項6】
ろ過膜に対する溶解性を有し、かつ水との混和性を有する有機溶媒の水溶液、ならびに有機性アルカリの水溶液からなることを特徴とするろ過膜の洗浄剤。

【公開番号】特開2011−72859(P2011−72859A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224386(P2009−224386)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】