説明

アイソタクチック3,4−イソプレン系重合体

本発明は、高立体規則性、特に高アイソタクチシティーを有する3,4−イソプレン系重合体を提供する。
具体的には、一般式(I)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、ペンタッド表示による該構造単位のアイソタクチシティーが99%mmmm以上であることを特徴とする重合体が提供される。また、下記一般式(A)で表される錯体を含む重合触媒の存在下で、イソプレン系化合物を重合させることを特徴とする、該イソプレン系重合体の製造方法が提供される。


(一般式(I)中、R1は低級アルキル基を示し、
一般式(A)中、Mは希土類金属原子を示し、R3〜R6はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を示し、R7はアルキル基を示し、R8はアリール基またはアルキル基を示し、THFはテトラヒドロフラン配位子を示し、nは0から2の整数を示し、XはN、PまたはAsを示し、Zはジアルキルシリレン基、ジアルキルゲルマニウム架橋基、またはエチレン基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイソプレン系重合体、特に位置選択的であって、かつ高いタクチシティーを有するイソプレン系重合体、好ましくはイソプレン重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
イソプレン重合体は、以下の4つの異なる構造単位を有する可能性がある。すなわち、一般式(I')で表される3,4結合型構造単位、下記一般式(II')で表されるトランス1,4結合型構造単位、一般式(III')で表されるシス1,4結合型構造単位、及び一般式(IV')で表される1,2結合型構造単位である。
【0003】
【化1】

【0004】
上記の構造単位のうち、一般式(I')で表される構造単位を選択的に有するイソプレン重合体の製造について、以下の二つの報告がされている。一つは、アルミニウムアルキル−チタニウムアルコキシド(AlEt3-Ti(OC3H7-n)4)系の触媒を重合触媒として用いてイソプレンを重合させて、上記重合体を製造するという報告である(非特許文献1参照)。もう一つは、FeCl2にスパルテイン(sparteine) が配位した錯体を重合触媒として用いてイソプレンを重合させて、上記重合体を製造するという報告である(非特許文献2)。
【0005】
一方、上記一般式(I')で表される構造単位を選択的に有するイソプレン重合体は、該構造単位の配列のタクチシティーによって物性が大きく異なると考えられる。一般式(I')で表される構造単位からなるイソプレン重合体のように、主鎖原子に相異なる二つの側鎖置換基をもつ高分子には2種類の立体異性が生じ得る。タクチシティーとはこの立体異性を示す部分の高分子主鎖中での配列の仕方あるいは秩序を意味する。相違なる二つの側鎖置換基の一方が、高分子主鎖のつくる平面に対して片方にのみ結合している高分子をアイソタクチック重合体(下記一般式(V)で表される)と称し、平面に対して交互に両方向に結合している高分子をシンジオタクチック重合体(下記一般式(VI)で表される)と称する。また、このような規則性のない高分子をアタクチック重合体と称する。
【0006】
【化2】

【0007】
上記した非特許文献1では、得られたイソプレン重合体についてアタクチック重合体であると記載されており、また非特許文献2では、得られたイソプレン重合体のタクチシティーに関して記載がされていない。したがって、上記一般式(I')を選択的に有するイソプレン重合体であって、かつ高いタクチシティーを有するイソプレン重合体が求められている。
【非特許文献1】Makromolekulare Chem (1964), 77, pp.126-138.
【非特許文献2】Macromolecules (2003), 36, pp.7953-7958.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況下でなされたものであり、下記一般式(I)で表される構造単位を選択的に有するイソプレン系重合体であって、かつ該構造単位の配列のタクチシティーが高いイソプレン系重合体(特にアイソタクチックリッチなイソプレン系重合体)という、新規な重合体を提供することを課題とする。また、該重合体を製造する方法を提供することを課題とする。
【0009】
【化3】

【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は以下の通りである。
(1) 一般式(I)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、該構造単位の配列のアイソタクチシティーが、トリアッド表示で60%mm以上であることを特徴とする重合体。
【0011】
【化4】

【0012】
(2) 前記一般式(I)におけるR1がメチル基であることを特徴とする、(1)に記載の重合体。
(3) 前記アイソタクチシティーが、ペンタッド表示で99%mmmm以上であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の重合体。
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載のイソプレン系重合体であって、ミクロ構造における前記一般式(I)で表される構造単位の割合が95%以上であることを特徴とする重合体。
(5) 数平均分子量が5,000〜6,000,000であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の重合体。
(6) 下記一般式(X)で表されるイソプレン系化合物を、下記一般式(A)で表される錯体を含む重合触媒の存在下で重合させることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載のイソプレン系重合体の製造方法。
【0013】
【化5】

【0014】
【化6】

【0015】
(7) 前記一般式(X)におけるR2がメチル基であることを特徴とする(6)に記載の製造方法。
(8) 前記重合が溶液重合であって、重合反応温度が0℃以下であることを特徴とする、(6)または(7)に記載の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られた重合体の1H-NMRスペクトルの測定チャートである。
【図2】実施例1で得られた重合体の13C-NMRスペクトルの測定チャートである。
【図3】実施例4で得られた重合体の1H-NMRスペクトルの測定チャートである。
【図4】実施例4で得られた重合体の13C-NMRスペクトルの測定チャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のイソプレン系重合体は、下記一般式(I)、(II)、(III)又は(IV)で表される構造単位(以下、それぞれについて、単に「構造単位(I)、(II)、(III)または(IV)」とも称する)を任意の比率で含みうる。構造単位(I)〜(IV)におけるR1はアルキル基またはアルケニル基である。例えば、炭素数1〜10(好ましくは炭素数1〜6)のアルキル基またはアルケニル基であり、最も好ましくはメチル基を示す。すなわち、最も好ましい重合体はイソプレン重合体である。また、R1として4−メチル−3−ペンテニル基も好ましく例示され、すなわち、好ましい重合体としてミルセン重合体が挙げられる。
【0018】
【化7】

【0019】
本発明のイソプレン系重合体に含まれる構造単位(I)の、該重合体のミクロ構造における割合は、通常は60%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上である。なお、本発明のイソプレン系重合体は、構造単位(I)以外に、構造単位(II)〜(IV)を任意の比率で含みうる。構造単位(I)のミクロ構造における割合は、得られるイソプレン系重合体のNMRスペクトルを測定し、各構造単位に帰属されるピークの積分値を求めて、それを比較することで算出することができる。該算出については、本願明細書において後に説明されている。
【0020】
本発明のイソプレン系重合体に含まれる構造単位(I)は通常、頭−尾(head to tail)結合して配列しているが、その配列において下記するような2つの立体異性が生じ得る。すなわち、高分子主鎖がつくる平面に対する1- アルキルビニル基もしくは1-アルケニルビニル基(-C(R1)=CH2)、または水素原子の結合の方向により、2つの立体異性が生じ得る。本発明のイソプレン系重合体に含まれる構造単位(I)は、立体規則性をもって配列しており、好ましくは高アイソタクチックに配列している。高アイソタクチックに配列しているとは、一般式(I)における1- アルキルビニル基もしくは1-アルケニルビニル基(または水素原子)が、高分子主鎖がつくる平面に対して一方の面側に選択的に配置されていることをいう。
【0021】
【化8】

【0022】
具体的には、本発明のイソプレン系重合体に含まれる構造単位(I)の配列のアイソタクチシティーは、トリアッド表示で少なくとも60%mm以上、通常は80%mm以上、好ましくは90%mm以上、より好ましくは95%mm以上、さらに好ましくは99%mm以上、最も好ましくはペンタット表示で99%mmmm以上である。
【0023】
ここで、トリアッド表示について簡単に説明する。イソプレン系重合体中の、構造単位(I)の三連鎖(「トリアッド」という)は、以下のように、アイソタクチックトリアッド、ヘテロタクチックトリアッド、シンジオタクチックトリアッドの3種類が考えられる。トリアッド表示によるアイソタクチシティーとは、重合体中における「アイソタクチックトリアッド、ヘテロタクチックトリアッド及びシンジオタクチックトリアッドの合計」に対する「アイソタクチックトリアッド」の割合を意味し、その割合の百分率が‘%mm’で表示される。
【0024】
【化9】

【0025】
また、ペンタッド表示によるアイソタクチシティーとは、構造単位(I)の五連鎖(「ペンタッド」という)に注目して、トリアッド表示と同様にして、ペンタッドのうちのアイソタクチックペンタッドの割合を示したものであり、その割合の百分率は‘%mmmm’で表示される。
【0026】
本発明のイソプレン系重合体に含まれる構造単位(I)の配列のアイソタクチシティーは、上記のとおりトリアッド表示またはペンタッド表示により表され得る。なお、本発明のイソプレン系重合体のトリアッド表示またはペンタッド表示によるアイソタクチシティーは、得られるイソプレン系重合体のNMRスペクトルデータ(好ましくは13C−NMR)から算出することができる。この算出については、本願明細書において後に説明されている。
【0027】
本発明のイソプレン系重合体の平均分子量は任意であるが、数平均分子量で、少なくとも5千以上、通常5万以上、好ましくは20万以上、より好ましくは30万以上である。なお数平均分子量の上限は特に限定されないが、目安として600万以下であり得る。該数平均分子量は、GPC法により測定した数平均分子量を意味し、例えばGPC測定装置(TOSOH HLC 8220 GPC)を用いて測定することができる。
【0028】
本発明のイソプレン系重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、通常は6以下、好ましくは3以下、より好ましくは1.7以下である。該分子量分布は、GPC法により測定した分子量分布を意味し、例えばGPC測定装置(TOSOH HLC 8220 GPC)を用いて測定することができる。
【0029】
本発明のイソプレン系重合体は、炭素二重結合を含む1- アルキルビニル基または1- アルケニルビニル基を側鎖として有している。該ビニル基の炭素二重結合はヒドロシリル化やヒドロホウ素化することができる。
【0030】
本発明のイソプレン系重合体は、単独重合体は勿論のこと、共重合体も含みうる。この様な共重合体としては、例えばイソプレンとイソプレン以外のイソプレン系化合物との共重合体や、イソプレンと共役ジエンとの共重合体であり得る。また、イソプレン系化合物と極性モノマー(ラクトン、アクリル酸エステルなどを含む)との共重合体でもあり得る。
【0031】
<本発明のイソプレン系重合体の製造方法>
本発明のイソプレン系重合体は、下記一般式(X)で表されるイソプレン系化合物を重合させることにより製造することができる。一般式(X)におけるR2は任意の基であり得るが、好ましくはアルキル基またはアルケニル基である。例えば炭素数1〜10(より好ましくは炭素数1〜6)のアルキル基またはアルケニル基、最も好ましくはメチル基である。すなわち、最も好ましい化合物はイソプレンである。また、R2として4−メチル−3−ペンテニル基も好ましく例示され、すなわち、ミルセンも好ましいイソプレン系化合物である。
【0032】
【化10】

【0033】
本発明の製造方法においてイソプレン系化合物を重合する方法は、付加重合法、重縮合法、重付加法、又はその他の方法であり得るが、好ましくは重合触媒を用いた付加重合法である。該重合触媒は、好ましくはメタロセン錯体を含む触媒である。さらに該触媒は、非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を含むことが好ましく、さらに選択的にその他の成分を含んでいてもよい。
【0034】
前記メタロセン錯体は好ましくは希土類金属元素を中心金属とする希土類金属メタロセン錯体である。ここで希土類金属元素とは、スカンジウムSc、イットリウムYまたはランタノイド15元素のいずれかを意味する。メタロセン錯体とは、置換されていてもよいシクロペンタジエニル環、インデニル環またはフルオレニル環が中心金属元素に配位している化合物をいう。
【0035】
前記メタロセン錯体は、より具体的には下記一般式(A)で表される錯体が好ましい。
【0036】
【化11】

【0037】
前記一般式(A)におけるMは任意の希土類金属元素であるが、好ましくはスカンジウムSc、イットリウムYまたはランタノイド元素(プロメチウムPm及びユウロピウムEuを除く)であり、より好ましくはイットリウム又はルテチウムであり、最も好ましくはイットリウムである。
【0038】
一般式(A)におけるR3〜R6は水素原子またはアルキル基であるが、それぞれの置換基は同一でも異なっていてもよい。該アルキル基としては例えば炭素原子数1〜6程度、好ましくは炭素原子数1〜4程度の直鎖または分枝鎖基が挙げられ、さらに好ましくはメチル基が挙げられる。R3〜R6はそれぞれ同一でも異なっていてもよいが、好ましくはすべて同一の基であり、さらに好ましくは全てメチル基である。
【0039】
一般式(A)におけるR7はアルキル基であるが、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、トリアルキルシリルメチル基などが挙げられる。R7は好ましくはモノ(トリアルキルシリル)メチル基またはジ(トリアルキルシリル)メチル基であり、該シリル元素上の3個のアルキル基は、上記R3〜R6のアルキル基と同義である。該トリアルキルシリルとしては、たとえばトリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリルなどが挙げられる。
【0040】
一般式(A)におけるZはジアルキルシリレン基、ジアルキルゲルマニウム架橋基(−Ge(alkyl)2−)、またはエチレン基であるが、該ジアルキルシリレン基またはジアルキルゲルマニウム架橋基のジアルキルとしては、ジ低級アルキル(例えばジメチル)などが好ましい。
【0041】
一般式(A)におけるXは、窒素原子(N)、リン原子(P)、ヒ素原子(As)のいずれかを示すが、好ましくはリン原子である。X上の置換基であるR8は、置換基を有していてもよいアリール基又はアルキル基を示す。該アリール基としてはフェニル基が好ましい。該アリール上の置換基は、その個数、種類、置換位置は特に限定されないが、種類はアルキル基であることが好ましく、1〜3個程度置換していることが好ましい。該アリールとして好ましいのは無置換のフェニル、1〜3個程度のアルキル基を有するフェニル基である。
また、R8が示すアルキル基としては、炭素数1〜12程度の直鎖、分枝鎖、環状のアルキル基が挙げられる。好ましくは環炭素数5〜7程度の環状アルキル基であり、たとえばシクロヘキシル基が挙げられる。
【0042】
一般式(A)におけるn、すなわちTHF配位子の個数は0〜2であり得るが、中心金属Mの種類、R6の種類によって適宜選択される。例えば、R8がシクロヘキシルの場合にnは0であることがある。また、R8がフェニル基の場合はnが1または2であることがある。
【0043】
上記一般式(A)で表される錯体は、単核錯体として存在してもよいが、二核錯体として、すなわち下記一般式(B)のようにして存在することもある。すなわち、本発明のイソプレン系重合体の重合方法に用いられる錯体(A)は、(B)のような二核錯体として存在するものを含む。二核錯体のような多核錯体は、単核錯体とは異なる性質を有することがある。例えば、一の中心金属が配位部位として作用するとともに、他の中心金属が活性化部位として作用することが可能なため、単核錯体では達成されない特異な反応を実現することができると考えられる。
【0044】
【化12】

【0045】
一般式(A)で表される錯体は、例えば下記のスキームに従って製造することが可能である。一般式(A)中、R3〜R6が全てメチル基、R7がトリメチルシリルメチル基、かつZがジメチルシリレン基である錯体の製造例を示し、M、R8は上記と同義である。当業者は下記に示す一般的合成スキームを参照しつつ、出発原料、反応試薬、反応条件などを適宜選択し、必要に応じてこれらの方法に適宜の修飾ないし改変を加えることにより、一般式(A)で表される錯体を容易に製造することができる。なお、一般式(A)で表される錯体の合成については、Tetrahedron, 59, 10525 (2003)や特開2003−190806号公報に記載の内容を参照することもできる。
【0046】
【化13】

【0047】
前述のように、本発明のイソプレン系重合体の製造方法に用いられる重合触媒は、非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を含むことが好ましい。該イオン性化合物は、錯体(A)と反応してカチオン性の錯体を生成させることができると考えられる。
【0048】
前記触媒に含まれるイオン性化合物の非配位性アニオンとしては、例えば、4価のホウ素アニオンが好ましく、テトラ(フェニル)ボレート、テトラキス(モノフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トリル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、[トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル]ボレート、トリデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレートなどが挙げられる。
【0049】
前記触媒に含まれるイオン性化合物のカチオンとしては、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプタトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオンなどを挙げることができる。カルボニウムカチオンの具体例としては、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ置換フェニルカルボニウムカチオンなどの三置換カルボニウムカチオンを挙げることができる。トリ置換フェニルカルボニウムカチオンの具体例としては、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)カルボニウムカチオンを挙げることができる。アンモニウムカチオンの具体例としては、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン、トリ(n-ブチル)アンモニウムカチオンなどのトリアルキルアンモニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオンなどのN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン、ジ(イソプロピル)アンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオンなどのジアルキルアンモニウムカチオンを挙げることができる。ホスホニウムカチオンの具体例としては、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオンなどのトリアリールホスホニウムカチオンを挙げることができる。
【0050】
すなわち、前記イオン性化合物として、前記した非配位性アニオンおよびカチオンからそれぞれ選ばれるものを組み合わせたものを用いることができる。好ましくは例えば、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1,1'-ジメチルフェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが例示される。イオン性化合物は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、遷移金属化合物と反応してカチオン性遷移金属化合物を生成できるルイス酸として、B(C6F5)3、Al(C6F5)3などを用いることができ、これらを前記のイオン性化合物と組み合わせて用いてもよい。
さらに、本発明のイソプレン系重合体の製造方法に用いられる重合触媒は、有機アルミ系化合物やアルミノキサンなど第三成分を含んでいてもよい。有機アルミ系化合物やアルミノキサンを加えると、反応系内の不純物の除去や連鎖移動が促進されると考えられるので、触媒活性や得られたポリマーの分子量などがかわることが予想される。
【0051】
本発明の重合体の製造において、前記希土類メタロセン錯体は任意の量を用いることができる。好ましくは、モノマーのイソプレン系化合物に対して1/300モル当量〜1/1200モル当量の該錯体を用いる。イソプレンに対して該錯体の量を減らせば得られるイソプレン系重合体の分子量を大きくすることができ、逆に該錯体の量を増やせばイソプレン系重合体の分子量を小さくすることができる。
【0052】
本発明のイソプレン系重合体の製造における重合触媒に含まれるイオン性化合物の量は、二核錯体のメタロセン錯体(B)に対して、1モル当量以下であることが好ましい。
前述のように、該イオン性化合物はメタロセン錯体(B)と反応してカチオン性の錯体を生成することができると考えられるが、錯体(B)は二核錯体であるため、錯体(B)に対して1モル当量のイオン性化合物があれば、該二核錯体のうちの一の中心金属上にカチオンを発生させることができる。そして、二核錯体のうちのもう一方の中心金属上のアルキル基は活性化部位として作用する(モノマーへ挿入する)ことができると考えられる。従って、本願発明の製造方法は、一般的にメタロセン錯体を用いた重合反応において必要とされる助触媒(有機アルミ系化合物やアルミノキサンなど)を、必ずしも必要としないという特徴を有する。
【0053】
本発明の重合体の製造に用いられる重合方法は、気相重合法、溶液重合法、スラリー重合法などの任意の方法であり得る。溶液重合法による場合、用いられる溶媒は重合反応において不活性であり、イソプレン系化合物及び触媒を溶解させ得る溶媒であれば特に限定されない。例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の飽和脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロルエチレン、パークロルエチレン、1,2-ジクロロエタン、クロルベンゼン、ブロムベンゼン、クロルトルエン等のハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル類が挙げられる。これらの溶媒のうち、0℃より低い融点を有するものが好ましく、−20℃より低い融点を有するものがより好ましい。また、生体に対する毒性を有さない溶媒が好ましい。具体的には、芳香族炭化水素、特にクロロベンゼンが好ましい。溶媒は1種を単独で用いてもよいが、2種以上組み合わせた混合溶媒を用いてもよい。
また、用いられる溶媒の量は、重合触媒に含まれる錯体の濃度を0.001〜0.005Mとすることができる量とすることが好ましい。
【0054】
本発明の重合を溶液重合で行う場合の重合温度は、任意の温度、例えば−100〜100℃の範囲で行いうる。通常は25℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは−10℃以下、さらに好ましくは−20℃以下であり得る。重合温度を低下させることで、得られるイソプレン系重合体に含まれる構造単位(I)の配列のタクチシティー(アイソタクチシティー)を高めることができる。つまり、重合温度を調整することによって該アイソタクチシティーを調整することができる。
【0055】
重合時間は、例えば10分〜100時間程度であり、通常は1時間以上、2〜5時間程度である。もっとも、これらの反応条件は、重合反応温度、モノマーの種類やモル量、触媒組成物の種類や量などに応じて、適宜選択することが可能であり、上記に例示した範囲に限定されることはない。本発明は上記のようにより低温で重合させることが好ましいので、温度を下げることによって反応性が下がる場合には重合時間を長くすることが好ましい。
【0056】
重合反応は、反応系中に錯体(A)、イソプレン化合物(X)および好ましくはイオン性化合物、ならびにその他の化合物を任意の順序で添加して実施すればよいが、通常は錯体(A)とイソプレン系化合物(X)の混合物中に、イオン性化合物を添加して実施する。一方、錯体(A)とイオン性化合物の混合物中に、イソプレン系化合物(X)を添加して重合反応を行うと、得られるイソプレン系重合体の分子量分布曲線は、複数のピークを有することがある(すなわち、分子量分布のピークが互いに異なるイソプレン系重合体の混合物が得られることがある)。
【0057】
重合反応が所定の重合率に達した後、公知の重合停止剤(例えばBHT(2,6- ビス(t- ブチル)- 4- メチルフェノールを含有するメタノール))を重合系に加えて停止させ、次いで通常の方法に従い生成した重合体を反応系から分離することができる。
【0058】
本発明のイソプレン系重合体は、1H−NMR分析、13C−NMR分析、GPC法による平均分子量および分子量分布の測定、IR測定、質量分析などにより同定することができる。なお、本願明細書において「NMR分析」とは、400MHzの周波数における核磁気共鳴分光法による分析を意味する。例えばNMR分析装置であるJEOL製JNM-AL-400RNを用いて該分析を行うことができる。また「NMRスペクトルデータ」とは該分析により得られたスペクトルデータを意味する。なお測定溶媒はCDCl3、測定温度は25℃である。
【0059】
本発明のイソプレン系重合体の、一般式(I)で表される構造単位(3,4-構造)のミクロ構造における割合は、以下の既知文献(W. M. Dong, T. Masuda, J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 40, 1838(2002)、A. S. Khatchaturov, E. R. Dolinskaya, L. K. Prozenko, E. L. Abramenko and V. A. Kormer, Polymer, 18, 871, (1976))の記載に基づき、NMRスペクトルデータから求めることができる。
【0060】
また、本発明のイソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される構造単位(構造単位(I))の配列のアイソタクチシティーは、NMRスペクトルデータから求めることができる。例えば、図3及び図4は、イソプレン重合体であって、ミクロ構造における構造単位(I)の割合が99.3%であって、かつ構造単位(I)の配列のアイソタクチシティーが80%mmである重合体の1H-NMR及び13C−NMRの測定チャートである。図3及び図4においては、アイソタクチックトリアッド(mm)に帰属されるピークの他、ヘテロタクチックトリアッド(mr)に帰属されるピークやシンジオタクチックトリアッド(rr)に帰属されるピークが認められる。一方、図1及び図2は、イソプレン重合体であって、ミクロ構造における構造単位(I)の割合が99.9%であって、かつ構造単位(I)の配列のアイソタクチシティーが>99%mmmmである重合体の1H-NMR及び13C-NMRの測定チャートである。図1及び図2においては、図3及び図4において観察された、ヘテロタクチックトリアッド(mr)に帰属されるピークやシンジオタクチックトリアッド(rr)に帰属されるピークがほぼ消失していることがわかる。さらに、アイソタクチックトリアッド(mm)に帰属されるピークも、選択的にアイソタクチックペンタッド(mmmm)に帰属されることがわかる。したがって、これらのピークの積分値を比較することにより、本発明のイソプレン系重合体に含まれる構造単位(I)の配列のアイソタクチシティーを求めることができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例により限定されることはない。
本実施例における重合反応は、グローブボックス(Mbraun glovebox)中で、アルゴンまたは窒素雰囲気下で行った。アルゴンはドライクリーンカラム(4A molecular sieves, Nikka Seiko Co.)とガスクリーンGC-XRカラム(Nikka Seiko Co.)を通して精製した。グローブボックス中の水分および酸素はO2/H2O Combi-Analyzer (Mbraun)により常に1ppm以下に保った。NMRチューブはJ Young valve NMR tube (Wilmad 528-Y)を使用した。本実施例で用いた溶媒(Hexane, THF, Et2O, Toluene, Benzene)はアルゴン気流下、Naとベンゾフェノンを用いて蒸留した後、液体窒素で凍結脱気したものを使用した。生成物は1H- NMR, 13C- NMR(JEOL製JNM-AL 400RN)、GPC(TOSOH HLC-8220)、UV(SHIMAZDZU CORPRATION UV-PC SERIES UV-2400PC/UV-2500PC)、X線結晶構造解析により同定した。元素分析は、理化学研究所化学分析室により分析された。なお、実施例中、Cyはシクロヘキシル基、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量、分子量分布の指標はMw/Mnである。
【0062】
<実施例1>
窒素雰囲気下、 [Me2Si(C5Me4)(PCy)YCH2SiMe3]2 (0.024 mg, 0.025 mmol) およびイソプレン (1.022 g, 15 mmol 600 eq.) のクロロベンゼン (10 ml) 溶液に、[Ph3C][B(C6F5)4] (0.023 mg, 0.025 mmol) のクロロベンゼン (5 ml) 溶液を、−20℃で、激しく撹拌しながら滴下した。反応を−20℃で24時間行った。その後、メタノールを加えて重合を止め、これを少量の塩酸およびBHT (butylhydroxyltoluene)を含む大量のメタノール溶液に加えた。沈殿したポリマーをデカンテーションにより分離し、メタノールで洗浄し、24時間、減圧下で50℃にて乾燥させた。
得られたポリマーの収量:0.41g(収率:40%)
3,4−付加構造単位の選択率:99.9%
アイソタクチシティー:>99%mmmm
数平均分子量:7.4×105
分子量分布:1.6
実施例1で得られた共重合体の1H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルチャートを、図1及び図2に示す。
【0063】
<実施例2>
実施例1における反応温度を−20℃から−10℃に変更し、反応時間を24時間から16時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリマーを得た。
得られたポリマーの収量:0.61g(収率:60%)
3,4−付加構造単位の選択率:99.9%
アイソタクチシティー:96%mm
数平均分子量:3.7×105
分子量分布:1.6
【0064】
<実施例3>
実施例1における反応温度を−20℃から0℃に変更し、反応時間を24時間から16時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリマーを得た。
得られたポリマーの収量:0.77g(収率:77%)
3,4−付加構造単位の選択率:99.7%
アイソタクチシティー:96%mm
数平均分子量:5.7×105
分子量分布:1.6
【0065】
<実施例4>
実施例1における反応温度を−20℃から25℃に変更し、反応時間を24時間から2時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリマーを得た。
得られたポリマーの収量:1.02g(収率:100%)
3,4−付加構造単位の選択率:99.3%
アイソタクチシティー:80%mm
数平均分子量:1.6×105
分子量分布:1.7
実施例4で得られた重合体の1H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルチャートを、図3及び図4に示す。
【0066】
<実施例5>
実施例1における反応温度を−20℃から25℃に変更し、反応時間を24時間から2時間に変更し、イソプレンを1.022 gから2.044 gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリマーを得た。
得られたポリマーの収量:2.04g(収率:100%)
3,4−付加構造単位の選択率:99.3%
アイソタクチシティー:80%mm
数平均分子量:3.0×105
分子量分布:1.8
【0067】
<実施例6>
実施例1における反応温度を−20℃から25℃に変更し、反応時間を24時間から2時間に変更し、イソプレンを1.022 gから4.088 gに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリマーを得た。
得られたポリマーの収量:3.00g(収率:75%)
3,4−付加構造単位の選択率:99.3%
アイソタクチシティー:80%mm
数平均分子量:5.0×105
分子量分布:1.8
【0068】
<実施例7>
窒素雰囲気下、 [Me2Si(C5Me4)(PCy)YCH2SiMe3]2 (0.024 mg, 0.025 mmol)と[Ph3C][B(C6F5)4] (0.023 mg, 0.025 mmol)のクロロベンゼン (10 ml) 溶液に、イソプレン (0.511 g, 7.5 mmol, 300 eq.) のクロロベンゼン (5 ml) 溶液を、−20℃で、激しく撹拌しながら滴下した。反応を−20℃で16時間行った。その後、メタノールを加えて重合を止め、これを少量の塩酸およびBHT (butylhydroxyltoluene)を含む大量のメタノール溶液に加えた。沈殿したポリマーをデカンテーションにより分離し、メタノールで洗浄し、24時間、減圧下で50℃にて乾燥させた。
得られたポリマーの収量:0.169g(収率:33%)
3,4−付加構造単位の選択率:99.9%
アイソタクチシティー:99%mmmm
GPCでは以下の三つのピークが観測された。
数平均分子量:1.9×106 (分子量分布:1.3)、 2.3×105 (分子量分布:1.5)、1.3×104 (分子量分布:1.3)
【0069】
<実施例8>
窒素雰囲気下、 [Me2Si(C5Me4)(PCy)YCH2SiMe3]2 (0.024 mg, 0.025 mmol)とミルセン(myrcene) (2.044 g, 15.0 mmol, 600 eq.)のクロロベンゼン(10 ml) 溶液に、[Ph3C][B(C6F5)4] (0.023 mg, 0.025 mmol)のクロロベンゼン (5 ml) 溶液を、室温で激しく撹拌しながら滴下した。反応を室温で3時間行った。その後、メタノールを加えて重合を止め、これを少量の塩酸およびBHT (butylhydroxyltoluene)を含む大量のメタノール溶液に加えた。沈殿したポリマーをデカンテーションにより分離し、メタノールで洗浄し、24時間、減圧下で50℃にて乾燥させた。
得られたポリマーの収量:1.980(収率:97%)
3,4−付加構造単位の選択率:100%
アイソタクチシティー:99%mm
数平均分子量:8.0×105
分子量分布:1.7
【産業上の利用の可能性】
【0070】
本発明のイソプレン系重合体はアイソタクチシティーが高く、力学的または熱的な耐久力に優れた特徴を示すと考えられる。そのため、プラスチック材料として利用されることが期待される。また本発明の重合体は、側鎖に炭素二重結合を含む1-アルキルビニル基または1-アルケニルビニル基を有するので、その二重結合を化学的に修飾することで、新規な機能性ポリマーの開発に寄与するものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、該構造単位の配列のアイソタクチシティーが、トリアッド表示で60%mm以上であることを特徴とする重合体。
【化1】

【請求項2】
前記一般式(I)中のR1がメチル基であることを特徴とする、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
前記アイソタクチシティーが、ペンタッド表示で99%mmmm以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の重合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のイソプレン系重合体であって、ミクロ構造における前記一般式(I)で表される構造単位の割合が95%以上であることを特徴とする重合体。
【請求項5】
数平均分子量が5,000〜6,000,000であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項6】
下記一般式(X)で表されるイソプレン系化合物を、下記一般式(A)で表される錯体を含む重合触媒の存在下で重合させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のイソプレン系重合体の製造方法。
【化2】

【化3】

【請求項7】
前記一般式(X)におけるR2がメチル基であることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記重合が溶液重合であって、重合反応温度が0℃以下であることを特徴とする、請求項6または7に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/085306
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510747(P2006−510747)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003782
【国際出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】