説明

アオコ抑制材およびその使用方法ならびにアオコ抑制装置

【課題】環境水中のアオコの発生を効率的に抑制すること、あるいはアオコの増殖を抑制することができるアオコ抑制材を提供する。
【解決手段】アオコ抑制材が炭素繊維と鉄鋼材とからなり、該鉄鋼材と該炭素繊維との容積比率(鉄鋼材/炭素繊維)が、0.1〜99.9容積%であって、該炭素繊維と該鉄鋼材との少なくとも一部が接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境水中のアオコの発生を効率的に抑制する、あるいはアオコの増殖を抑制するための抑制材およびその使用方法ならびにアオコ抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リンは植物の三大栄養素の一つであり、植物の成長にとっては不可欠な元素である。リンは、農業のみならず産業等においても重要な資源であるが、枯渇が懸念されている。さらに、人口の増加や資源作物(食用ではなくエネルギー源や製品材料とすることを主目的に栽培される植物)の増産等の状況を鑑みると極めて重要な物質である。
【0003】
日本は、全てのリンを輸入に依存している。昨今、世界各国に対してリン鉱石の安定供給を続けてきたアメリカは、資源保護を理由に1996年以降事実上輸出を禁止しているのが現状である。
【0004】
日本におけるリンの収支をみると、1998年には、飼料や食料、水産物、石油・石炭などの輸入品目に含まれるリンも合わせて、68.3万トンのリンを輸入している。このうち、13.8万トンを河川等の水域へ排出している。この量はリン鉱石、リン酸アンモニウム(リン安)の輸入量23.4万トンの約60%に相当する。また、生活排水として排出されるリン量(1人1日1グラム)は、人口1億2千6百万人では年間4.38万トンとなり、リン鉱石、リン安の輸入リン量の約20%に相当する。
【0005】
一方、リンは、環境水(湖沼池、河川、ため池、湾、海域等に存在する水)汚染の原因元素でもある。リンは資源として重要であるが、湖沼や内湾などの水質の汚れの原因という面も有している。
河川などでは工業排水や農薬の使用によって、水中にリンが多く含まれるようになってきた。リンは、肥料としても大量に農地に散布されている。畜産業からは、家畜のし尿や糞からも、大量のリンが環境水に流れ込んでいる。また、公共下水処理場では、リンを汚泥中に濃縮しているが、処理水の中にも高濃度のリンが含まれている。
家庭では洗濯洗剤中にもリンは含まれており、それらが河川などの環境水中に流出している。特に、湖沼・内湾等の閉鎖性水域となる環境水中での富栄養化問題は未だに残っており、環境水の再生が大きな課題となっている。これを解決するには、生活排水からのリンの排出削減または高度処理化等の対応が必要である。
【0006】
また、リンの揮発性物質は、安定な化学種としては存在することができないことから、微生物による分解で水中からリンを取り除くことはできない。そこで、上記したとおり、公共の下水処理場では、リンは活性汚泥中に濃縮され、濃縮物を廃棄することで除去しているのが現状である。
ただし、これまでも、環境水中のリンを除去する研究は、数多く進められている。例えば、リンを除去する方法として、環境水中に鉄化合物を溶解させ、水に対して不溶性のリン酸鉄に変化させて、リン酸イオン濃度を低減する方法である。しかし、鉄化合物を加える場合には、環境にとって不要な別のイオンを加えることも伴う。例えば、塩化鉄であるならば塩化物イオン、硫酸鉄であれば、硫酸イオンがそれに該当する。
【0007】
すでに、独立行政法人、科学技術振興機構の実施する地域結集型研究開発プログラム事業で多孔質水酸化鉄吸着剤を利用したパイロットプラントを設置して、工場排水中のリン酸イオンの除去・回収実験を行い、リン酸塩の結晶として回収することに成功している。
従来のリン除去方法は、凝集沈殿法であるが、この方法で排水から除去したリンは再資源化することなく埋立処分していた。これに対し、上述した方法で得られるリン酸塩は、清缶剤、金属洗浄剤、工業用アルカリ性クリーナー、革なめし剤の原料等として再利用できることから、リン資源として十分利用価値があるといわれている。
【0008】
ここで、内水面の環境に目を転じてみると、緑色の藻が大量に発生し問題となっている。緑色の藻はアオコと呼ばれている。アオコは、水中の窒素およびリン濃度が高くなることに起因して発生するが、海では、赤潮や青潮となり、それによって魚介類が死滅することにもなる。
アオコ、赤潮および青潮は、いずれもリンに基因した現象で、プランクトンの発生による。アオコおよび赤潮が発生すると、プランクトンの持つ毒素が発生したり、プランクトンの分解に酸素が消費され水中の溶存酸素不足が生じたりして、魚介類が大量死するなど大きな被害が発生する。
【0009】
また、植物プランクトン(ミクロキステイス)の大量発生により、水表面が緑色になる、さらに、アオコが積み重なって硬い層となる現象があり、水環境を著しく悪化することになる。
アオコの発生は、水中に溶解している窒素およびリンの過剰存在、富栄養化に基因する。特に、リンは細胞にとっては不可欠の元素であり、この元素が環境水中に存在すると、アオコが大量に発生する。特に、太陽光の存在下では、光合成が活発化し、酸素ガスの発生によって、アオコが浮上し、水表面に集積する。
【0010】
上記したように、アオコの発生を抑制する技術は、種々提案されているが、決定的な方法のないのが実情である。ここに、近年提案されている技術としては、次のものがある。
【0011】
例えば、特許文献1には、「藻類(主に植物プランクトン)の大量増殖(アオコや赤潮など)を抑制する技術」が提案されている。
特許文献1では、重金属捕集剤(キレート剤)を散布して水中の植物プランクトン(藻類)の増殖を抑制する技術が提案されている。具体的には、散布する場所が池、堀、湖など閉鎖性水域に限られ、重金属捕集剤の使用濃度は1〜5mg/Lの範囲で使用し、重金属捕集剤(キレート剤)としては、ジチオカルバミド酸形、チオ尿素形、イミノ二酢酸形、ポリアミン形、アミドキシム形、アミノリン酸形などを使用する、というものである。
【0012】
また、特許文献2には、「水処理材および水浄化方法」として、金属銅成分を含有する綿状金属繊維が網体に収納されてなる水質処理部材が提案されている。
【0013】
さらに、別のアオコ発生防止に関するものとしては、特許文献3「金属入りマット」がある。
この特許文献3では、活性汚泥処理等の排水中の無機リンの除去、及び貯水池等でのアオコの発生防止、並びに魚介類の養殖種付用にそれぞれ好適な金属入りマットが提案されている。
具体的には、排水中の無機リンの除去のためには鉄線入りマット又は鉄粉付着マットを用い、貯水池等でのアオコ発生防止のためには銅線入りマット又は銅粉付着マットよりなる濾材を用い、又、養殖種付用床材にはフェライト粒付着マットを用いるようにした、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−66549号公報
【特許文献2】特開2008−229573号公報
【特許文献3】特開平9−308876号公報
【特許文献4】特願2009−18798号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1は、キレート剤を環境水に散布するもので、環境水汚染になることから好ましい方法とはいえない。
【0016】
また、特許文献2で使用する金属銅は、環境汚染物質であり、この方法も好ましい方法とはいえない。
【0017】
さらに、特許文献3は、金属鉄のみの使用で、鉄イオンの溶け出し速度が小さく、アオコ発生防止に対して顕著な効果は得られないという問題があった。
【0018】
これらの問題に対し、発明者らは、水中のリンを除去する技術として、不溶性物質である鉄のリン酸化合物、リン酸鉄を利用する技術を検討した。この時、炭素繊維と金属鉄とを接触させて、鉄イオンを溶出させ、リン酸鉄を生成する技術を開発し、水中、特にし尿中のリン濃度は検出限界以下になることを見いだし、特許文献4を提案した。
【0019】
ついで、発明者らは、環境水中のアオコの発生を抑制するには、水中に溶解しているリンを減らすこと、すなわち、水中に溶解しているリンの濃度を減少させることが有効であると考えた。
そこで、特許文献4の提案後も研究を行い、上掲した技術がし尿だけでなく環境水でも適用できるかを検討した。その結果、特許文献4の技術をさらに改良することで、環境水でも適用でき、アオコの発生が抑制できることを見出した。
さらに、上記した炭素繊維と鉄鋼材とを接触させた鉄イオン溶出材によって生成した鉄イオンは、水中に浮遊している微粒子を合体させる凝集効果を持っている。そのため、アオコの微粒子は浮遊できなくなり、結果、アオコが沈下除去されて、アオコの増殖が抑制できることを見出した。
【0020】
本発明は、上記した知見に基づき開発されたもので、環境水中のアオコの発生を効率的に抑制すること、あるいはアオコの増殖を抑制することができるアオコ抑制材を、それを用いたアオコの抑制方法およびアオコ抑制装置と共に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.炭素繊維と鉄鋼材との混合材からなり、該混合材中の該鉄鋼材と該炭素繊維との容積比率(鉄鋼材/炭素繊維)が、0.1〜99.9容積%であって、該炭素繊維と該鉄鋼材との少なくとも一部が接触していることを特徴とするアオコ抑制材。
【0022】
2.前記鉄鋼材は、炭素含有量が10質量%以下であることを特徴とする前記1に記載のアオコ抑制材。
【0023】
3.前記鉄鋼材の形状が、メッシュ状、網状、板状、貫通孔を保有している板状、線状、筒状、箔状およびフィルム状のうちから選んだいずれかの形状であることを特徴とする前記1または2に記載のアオコ抑制材。
【0024】
4.前記炭素繊維の形状が、織物状、不織布状、マット状、シート状、フィルム状、板状、ストランド状および束状のうちから選んだいずれかの形状であることを特徴とする前記1〜3いずれかに記載のアオコ抑制材。
【0025】
5.前記1〜4のいずれかに記載のアオコ抑制材を、水面または水中に水平に張り渡したロープに吊下させて使用することを特徴とするアオコ抑制材の使用方法。
【0026】
6.前記1〜4のいずれかに記載のアオコ抑制材を、水底あるいは水表面あるいは水中に水平に設置することを特徴とするアオコ抑制材の使用方法。
【0027】
7.環境水中のリン酸イオン濃度を指標とし、該リン酸イオン濃度が0.01mg/L未満となった際には、前記アオコ抑制材を該環境水中から引き上げ、該リン酸イオン濃度が0.01mg/L以上になった際には、該環境水中に浸漬することを特徴とする前記5または6に記載のアオコ抑制材の使用方法。
【0028】
8.前記アオコ抑制材の表面に生成した生成物を、該抑制材の外周を包み込む、生成物回収袋で捕集することを特徴とする前記5〜7いずれかに記載のアオコ抑制材の使用方法。
【0029】
9.前記1〜4のいずれかに記載のアオコ抑制材を、アオコの発生した環境水中に適用し、該抑制材から生成する鉄イオンの凝集効果により、アオコを合体させて、該環境水中から沈下除去することを特徴とするアオコ抑制材の使用方法。
【0030】
10.前記1〜4のいずれかに記載のアオコ抑制材を備えるアオコ抑制装置であって、環境水中のリン濃度測定器と、該アオコ抑制材の昇降手段とを備えることを特徴とするアオコ抑制装置。
【0031】
11.前記アオコ抑制材の振動装置を備えることを特徴とする前記10に記載のアオコ抑制装置。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、不要なイオンや成分を水中に添加することなく、環境水中のアオコの発生を迅速かつ効率的に抑制することができる。また、本発明によれば、すでにアオコの発生した環境水中のアオコも迅速かつ効率的に除去し、抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に従うアオコ抑制装置の構成を示した図である。
【図2】本発明に従うアオコ抑制材の模式図である。
【図3】本発明に従うアオコ抑制材を固定用ロープに取り付ける要領を示した図である。
【図4】本発明に従うアオコ抑制材にろ布を取付ける要領を示した図である。
【図5】本発明に従うアオコ抑制材の池への取付け要領を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、鉄鋼材と炭素繊維とを接触させることでアオコ抑制材とする。この時、鉄鋼材と炭素繊維との容積比率(鉄鋼材/炭素繊維)は、0.1〜99.9容積%の範囲であって、少なくとも一部が接触していることが必要である。
というのは、上記比率が0.1容積%より小さい場合は、鉄イオンの発生速度が十分ではなく、アオコの微粒子が浮遊できなくなる程度の鉄イオンの量を確保することができないという問題があり、一方、上記比率が99.9容積%より大きい場合は、鉄鋼材がすぐになくなってしまうという問題があるからである。好ましくは、5〜50容積%の範囲であって、より好ましくは、10〜30容積%の範囲である。なお、上記した炭素繊維の容積とは、以下に示す種々の形状の炭素繊維の見かけの容積を意味する。
【0035】
本発明に用いる鉄鋼材は、純鉄、軟鉄、鋼鉄、銑鉄および鋳鉄など、炭素含有量が10質量%以下の鉄鋼材であれば、使用可能である。また、炭素含有量が10質量%以下の鉄を50質量%以上含む鉄基合金であれば、上記した炭素繊維との容積比率を満たすことで使用可能である。
また、鉄鋼材の形状は、メッシュ状、網状、板状、貫通孔を保有している板状、線状、筒状、箔状およびフィルム状などから選択される。特に、環境水中に設置する場合、水の抵抗を少なくするような構造、メッシュ状、網状、貫通孔をもつ板状、線状などが好ましい。
【0036】
本発明に用いる炭素繊維は、織物状、不織布状、ペーパー状、フィルム状あるいは炭素繊維フィラメントをまき付けたものなどが好適に使用できる。特に、鉄鋼材と炭素繊維とが、接触しやすい構造であることが重要である。
また、この炭素繊維の形状は、織物状、不織布状、マット状、シート状、フィルム状、板状、ストランド状および束状などが好ましい。
【0037】
ここで、リン酸鉄および水酸化鉄が生成して、鉄鋼材と炭素繊維の間に堆積した場合、両者間の距離が増大して鉄イオンの発生速度が低下する。そのため、本発明のアオコ抑制材は、固定状態ではなく、水中で移動できる状態とすることが好ましい。例えば、水中において、風や波で揺らすこと、または振動装置で動かすこと等が望ましい。
このように、アオコ抑制材は、動かすことによって、上述したリン酸鉄や水酸化鉄が剥離、分離され、アオコを抑制する作用を維持することになる。
【0038】
例えば、湖沼・内湾等の閉鎖性水域となる環境水中に、上記した炭素繊維と鉄鋼材とからなるアオコ抑制材を設置する。
本発明のアオコ抑制材を環境水中で使用する際には、ロープにつり下げて使用することが好ましいが、アオコ抑制材のつり下げ位置は、環境水の存在する池等の水面付近、水面下、水底部のいずれの場所でもよい。その他、平面状のアオコ抑制材を水平状態で水面付近に設置しても効果を発揮する。その際、平面状のアオコ抑制材を設置する位置は、水底部または水中であっても、水面付近と同様の効果を発揮する。
また、炭素繊維と鉄鋼材とを接触させたアオコ抑制材は、固定式よりも左右、前後、上下に移動できるようにする方が、水との接触効率が促進されることや、生成物が剥離および脱離しやすくなることから好ましい。
アオコ抑制材は、水の流れに対して直交するように取り付けることが好ましい。水の流れ抵抗を少なくするためには、水の流れに対して、平行に配置してもよい。また、両者を適宜、組み合わせて配置してもよい。
【0039】
炭素繊維と鉄鋼材を接触して水中に浸けておくことで、溶解しているリンの除去は行われる。しかし、リン濃度がゼロとなっても、鉄イオンは溶出を続ける。このことは環境水にとっては好ましいことではない。
そこで、アオコの発生が停止した場合、あるいは水中のリン濃度が低下した場合には、炭素繊維と鉄鋼材とからなるアオコ抑制材を水中から引き上げることが望ましい。
一方、水中のリン濃度が高くなった場合、あるいはアオコの発生が顕著になった場合には、再度、炭素繊維と鉄鋼材を接触させたアオコ抑制材を水中に浸漬させることとなる。
具体的には、環境水中のリン酸イオンが0.01mg/L未満となった際には、アオコ抑制材を該環境水中から引き上げ、環境水中のリン酸イオンが0.01mg/L以上になった際には、環境水中に浸漬させることが好ましい。
【0040】
このような機能を持たせるには、環境水中のリン濃度測定器と、アオコ抑制材の昇降手段が必要となる。また、図1に示すように、アオコ抑制材の自動振動装置や、全窒素濃度測定器、さらにはアオコ抑制材の自動昇降手段が付加された構成とすることがより有利である。
上記のようなシステムは、次の工程を、順次繰返し行うことで実施できる。
・全窒素濃度測定器による窒素濃度の監視工程、
・リン濃度測定器による水中リン濃度の測定工程、
測定の結果、
(a) リン濃度:0.01mg/L以上の場合、
・自動昇降手段が稼働して、アオコ抑制材を水中に浸漬させる工程、
・アオコ抑制材の自動振動装置を定期的に作動する工程、
(b) リン濃度:0.01mg/L未満の場合、
・アオコ抑制材の自動振動装置を停止する工程、
・自動昇降手段が稼働して、アオコ抑制材を水中から引き上げる工程。
【0041】
本発明のアオコ抑制材の設置数量は、適用する環境水によって異なる。それらは水量、水深、リン濃度(全リン)、流れの有無等によって決められる。アオコ抑制材の設置は、池全体に、常時、設置すればリン除去効果は大きいが、設置経費や材料費、流れの問題、景観、アオコ発生時期などを考慮して決めることが望ましい。
本発明のアオコ抑制材は、例えば、図2に示すように、2枚の炭素繊維織物の間に挟み込んだ形で使用するのが効果的である。この際、図3に示すように、50cm間隔で、つり下げる、あるいは配置するのが好ましい。また、深さ方向にも50cm間隔で配置するのが好ましい。
【0042】
ここで、池の面積約1200m2(楕円形、長辺は40m、短辺は30m)、水深は、1.5m、水容量は1800m3の場合における、アオコ抑制材の設置枚数を推定する。
【0043】
上記のアオコ抑制材を30枚使用する場合を考える。この場合、アオコ抑制材の全表面積は、30枚×0.25m2×2であるから、全表面積は15m2となる。
ここで、池中央部の断面積は、水深:1.5m、池幅:30mとすると、45m2となる。アオコ抑制材の表面積は、15m2なので、断面積全体に相当するリンを除去するためには、45m2/15m2=3の計算から、現状の3倍、90枚を設置すれば、より効果は発揮される。
しかし、池の断面積全体にアオコ抑制材を配置すると、水が流れなくなるので、間隔を離して設置する方がよい。これまでの実験結果から、1m程度の間隔で配置すると水流を阻害しない。この間隔で設置した場合、3m幅の水域(3m×15m2=45m3)で池の断面積相当分のアオコ抑制材が設置できる。
【0044】
また、配置するアオコ抑制材の枚数を増やせば、アオコの発生が抑制できる水域は大となる。この場合は、断面積×3、断面積×4、あるいは断面積×5などとすればよい。断面積×3の場合、リンを除去出来る容積は、45m2×3=135m3となり、同様に、断面積×4の場合は180m3、断面積×5の場合は225m3となる。
【0045】
本発明のアオコ抑制材を、アオコの発生した環境水中に適用すると、抑制材から生成する鉄イオンの凝集効果により、アオコを合体させて、環境水中から沈下除去することができる。
例えば、前記した池水の容量は、1800m3である。この池水に一定量の水が流れ込んで、出て行く場合を考える。この時、アオコの除去推定日数は、上記のリン除去容積から算出することができる。すなわち、リン除去容積が断面積×3の場合、池水の容量をリン除去容積で除すると、池水は13日で除去が可能であると推定できる。同様に、アオコの除去推定日数は、断面積×4(180m3)では10日、断面積×5(225m3)では8日となる。
【0046】
アオコ抑制材からの生成物は、必要に応じて回収する。生成物は、リン酸鉄、水酸化鉄などである。アオコ抑制材の外周に、容器、袋、筒、ビン状物などを配置することで可能となる。また、繊維からなる織物、不織布などを使用した生成物回収袋でもよい。
なお、使用する繊維は、強度、耐水性、耐光性、耐候性などを考慮して決めることが望ましく。設置場所の景観の問題から、色は黒、緑、青系統が望ましい。
【実施例】
【0047】
〔実施例1〕
アオコの発生を抑制する実験を実施した池は面積約1200m2の楕円形である。池の長辺は40m、短辺は30m、水深は1.5m、水容量は1200m3であった。周辺にはその他にも多くの池があり、いずれも夏場になるとアオコが発生し、その対策に苦慮していた。
【0048】
アオコ抑制材の設置直前に池水の水質分析を行った。その結果、pH:9.9、COD:14.9mg/L、全窒素:0.8mg/L、全リン:0.45mg/Lであった。
織物状炭素繊維(幅:50cm、長さ:100cm、片端袋筒状)を二つ折りにした。図4に示すように、織物状炭素繊維の間に、鉄製の金網(40cm×40cm)を1枚、挟み入れアオコ抑制材を製作した。使用した金網は、東邦ラサ工業(株)製、TXS32であった。金網を構成している鉄線の太さは、1辺が1.6mm、他の一辺が2.0mm、マス目の大きさは長片:30.5mm、短片:12.0mm、重量:約545gであった。
【0049】
アオコ抑制材を、50cm間隔でロープに取り付けた。1本のロープに取り付けたアオコ抑制材の枚数は10枚とした。このようなロープを3本用意し、これを、図5に示すように、池の中央部、楕円形の中心部の短辺方向に1m間隔で設置した。設置後、定期的にアオコの発生状況の観察、水質分析を行った。
設置14日後、他の池にはアオコが発生したが、本発明に従うアオコ抑制措置を行った池では、アオコの発生は認められなかった。また、その水質分析結果は、pH:10.3、COD:13.2mg/L、全窒素:1.1mg/L、全リン:0.31mg/Lであった。
また、設置20日後、他の池にはアオコが発生していたが、本発明に従うアオコ抑制措置を行った池では、アオコの発生はなかった。また、その水質分析を行ったところ、pH:10.0、COD:14.8mg/L、全窒素:1.1mg/L、全リン:0.30mg/Lであった。
さらに、設置67日後、他の池はアオコが発生したままであったが、本発明に従うアオコ抑制措置を行った池では、アオコの発生はなかった。また、その水質分析を行ったところ、pH:8.6、COD:16.0mg/L、全窒素:0.8mg/L、全リン:0.31mg/Lであった。この池の周辺では、リンを含む薬剤が散布されており、池水にはリンが供給されている。しかし、池水に溶けているリン濃度に変化は見られていないのは、アオコ抑制材を設置したことで、水中に溶けているリンの濃度が増加しないことによるものであり、リン濃度の低減化効果も発揮されたことによる。
【0050】
このように、炭素繊維と鉄鋼材とを接触させたアオコ抑制材を池水に浸けることによって、鉄イオンが発生し、水中に溶解しているリン酸イオンと反応させてリン酸鉄を生成することで、水中のリン濃度を減少させることができ、その結果、植物性プランクトンの発生を抑制していることが分かる。
【0051】
〔実施例2〕
アオコ抑制材を、毎年アオコが大量発生する池へ設置し、その発生状況を検証した。実験を行った池は、上池と下池とから構成され、両者の間には30cmの水位差があった。
この池は、上池から下池へ水を流下させ、さらに下池から上池へ水を循環させる構造となっている。池の大きさは、上池が50m×20m(100m2)であり、下池が150m×20m(300m2)である。両者合わせた池の面積は400m2、水深はともに40cmである。
【0052】
水源は、水道水と雨水であって、その他に流れ込む水はない。水替えは1年間に1回程度である。池には鯉が多数遊泳し、餌が与えられていることから、富栄養化の状態となりやすく、水質は極めて悪くなっている。また、流れ込む水が無いことに加えて、夏場になると、池水が蒸発するため、リン濃度はさらに高くなる。そのため、アオコが極めて発生しやすい状況となっている。因みに、夏場の水質は、pH:9.5、COD:20〜30mg/L、全窒素:5mg/L、全リン:1mg/Lであった。
【0053】
この池にアオコ抑制材を設置し、一旦発生したアオコの増殖の抑制が可能かどうかを検証した。アオコ抑制材を取り付ける前に水質分析を行った。その結果を表1に示す。CODは20mg/L、全窒素は1.2 mg/Lと極めて高い。全リンは小さいが、アオコの発生は顕著であった。
【0054】
【表1】

【0055】
池中へのアオコ抑制材の設置は、水質を調べた日と同日に行った。
アオコ抑制材は、炭素繊維織物(幅:50cm、長さ:100cm、両端筒状)を二つ折りにし、その中に鉄製メッシュ(40cm×40cm、重さ:約545g)1枚を挿入した。メッシュが抜け落ちないように、炭素繊維織物とはインシュロックタイを用いて固定した。
二つ折りにしたアオコ抑制材の両端の筒中にロープ(直径:10mm)を通し、アオコ抑制材を50cm間隔で取り付けた。また、ロープ1本には、10枚のアオコ抑制材を付け、炭素繊維織物とロープとの固定は、インシュロックタイを使用した。なお、鉄メッシュは、取り付け前に、サンドペーパーで、表面を粗くしておいた。
アオコ抑制材を取り付けたロープは、両岸に打ち込んだ杭に縛り付け固定した。ロープの取り付け位置は、水表面から2cm程度下であり、設置したアオコ抑制材は、ロープ2本分で20枚とした。
【0056】
アオコ抑制材の設置後は、次の観察および測定を行った。 池概況(色、濁り、におい、生物の有無)、透視度、水温、アオコ抑制材の重量および表面撮影、また、水質につき、pH、COD、全窒素および全リンを測定した。測定は、1ヶ月に2回、指定場所から採水して行った。
アオコ抑制材の設置後、3ヶ月が経過した時の水の色は、設置前とかわらず緑色であった。しかし、例年大量に発生するアオコの集合体は生成しなかった。これはきわめて顕著な効果である。この時の池水の透視度および水質分析結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示したとおり、全リンは、本発明のアオコ抑制材を設置したことで、検出限界以下になった。CODは当初22mg/Lであったが、2ヶ月後には13mg/Lにまで低下した。アオコ抑制材中に取り付けた鉄メッシュの重量は、設置前は545gであったが、日数経過とともに減少し、3ヶ月後には427gとなり、118g溶け出した。この数字はアオコ抑制材1枚からの鉄の溶け出しであるので、全使用量からは2360gが溶け出したと推定される。
【0059】
例年であれば、上記した池はアオコの集合体の発生が顕著に見られるのに、本発明のアオコ抑制材を設置したことで、その発生が無くなった。
この結果より、本発明のアオコ抑制材を使用することによって、リンが効果的に除去されるのみならず、鉄イオンによる凝集効果によってアオコの微粒子も効果的に沈下除去できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に従うアオコ抑制材を利用することにより、アオコの発生を効果的に抑制できるだけでなく、発生したアオコを除去することによるアオコの増殖の抑制も可能となり、もって環境の維持に大きく貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と鉄鋼材との混合材からなり、該混合材中の該鉄鋼材と該炭素繊維との容積比率(鉄鋼材/炭素繊維)が、0.1〜99.9容積%であって、該炭素繊維と該鉄鋼材との少なくとも一部が接触していることを特徴とするアオコ抑制材。
【請求項2】
前記鉄鋼材は、炭素含有量が10質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のアオコ抑制材。
【請求項3】
前記鉄鋼材の形状が、メッシュ状、網状、板状、貫通孔を保有している板状、線状、筒状、箔状およびフィルム状のうちから選んだいずれかの形状であることを特徴とする請求項1または2に記載のアオコ抑制材。
【請求項4】
前記炭素繊維の形状が、織物状、不織布状、マット状、シート状、フィルム状、板状、ストランド状および束状のうちから選んだいずれかの形状であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のアオコ抑制材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアオコ抑制材を、水面または水中に水平に張り渡したロープに吊下させて使用することを特徴とするアオコ抑制材の使用方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のアオコ抑制材を、水底あるいは水表面あるいは水中に水平に設置することを特徴とするアオコ抑制材の使用方法。
【請求項7】
環境水中のリン酸イオン濃度を指標とし、該リン酸イオン濃度が0.01mg/L未満となった際には、前記アオコ抑制材を該環境水中から引き上げ、該リン酸イオン濃度が0.01mg/L以上になった際には、該環境水中に浸漬することを特徴とする請求項5または6に記載のアオコ抑制材の使用方法。
【請求項8】
前記アオコ抑制材の表面に生成した生成物を、該抑制材の外周を包み込む、生成物回収袋で捕集することを特徴とする請求項5〜7いずれかに記載のアオコ抑制材の使用方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のアオコ抑制材を、アオコの発生した環境水中に適用し、該抑制材から生成する鉄イオンの凝集効果により、アオコを合体させて、該環境水中から沈下除去することを特徴とするアオコ抑制材の使用方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載のアオコ抑制材を備えるアオコ抑制装置であって、環境水中のリン濃度測定器と、該アオコ抑制材の昇降手段とを備えることを特徴とするアオコ抑制装置。
【請求項11】
前記アオコ抑制材の振動装置を備えることを特徴とする請求項10に記載のアオコ抑制装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−50878(P2011−50878A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202778(P2009−202778)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(508174687)石井商事株式会社 (8)
【Fターム(参考)】