説明

アカパンカビ由来のγ−ブチロベタインヒドロキシラーゼ

本発明は、アカパンカビ(Neurospora crassa)由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ(γ−BBH)をコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む組み換えベクター、該組み換えベクターで形質転換された形質転換体、該ポリヌクレオチドによりコードされるγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ、及びγ-ブチロベタインを、該ポリヌクレオチドによりコードされるγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼでヒドロキシル化して、L−カルニチンを製造する方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、アカパンカビ(Neurospora crassa)由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ(γ−BBH)に関するものである。より具体的には、本発明は、アカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む組み換えベクター、該組み換えベクターで形質転換された形質転換体、該ポリヌクレオチドによりコードされるγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ、及びγ-ブチロベタインを、該ポリヌクレオチドによりコードされるγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼでヒドロキシル化して、L−カルニチンを製造する方法に関するものである。
【0002】
〔背景技術〕
ビタミンBTと呼ばれているL−カルニチン(3−ヒドロキシ−4−トリメチルアミノ酪酸)は、1905年、最初に、ロシアの科学者であるGulewitschとKrimbergによりウシの筋肉組織から分離され、その化学構造が1932年に確認された、人体代謝において極めて重要な天然のビタミン様物質である。L−カルニチンは、通常、生体内に存在し、ミトコンドリアの内膜を通過して、活性長鎖遊離脂肪酸の運搬体としての役割を行うようになる。ミトコンドリアの内膜は、アシル−CoA誘導体に対しては不透過性であるため、L−カルニチンとのエステル化反応が生じた場合に限って長鎖遊離脂肪酸を通過させる。人体内に骨格筋、肝臓、心臓、腎臓におけるL−カルニチンの数値が低いと、長鎖遊離脂肪酸をエネルギー源として利用しにくくなるので、成長遅延、心筋症、筋衰弱等のカルニチン代謝異常症にかかる恐れがある。若し、体内でL−カルニチンが適当量に合成されなければ、欠乏症状を避けるために、これを食品から吸収しなければならない。特に、L−カルニチンを自ら生合成できない幼児にとっては、L−カルニチンは必須栄養素である。
【0003】
L−カルニチンは、医薬品の活性成分として用いられる。カルニチン欠乏及びその他の治療学的療法、特に、心疾患の場合は、L−カルニチンの補充が必要である。最近、このような治療用としてのL−カルニチンの使用が重要なものと知られている(R.A.Frenkel and J.D.Mc Garry,“Carnitine biosyntheis,metabolism and functions”,Academic Press,1980)。
【0004】
生体内でのL−カルニチンの作用は、極めて重要なものと明らかになっているが、これらを大量生産するためには、生物学的抽出法は適当でない。これを容易に得るためには、光学異性体を含むDL−カルニチンを用いる方法がある。この方法は、D−カルニチンを含有しているため、生体内での作用に際して副作用を引き起こす(Curr.Ther.Res.28,195−198,1980)。多くの場合、D−カルニチンは、生体内でL−カルニチンと競争的に作用し、長鎖遊離脂肪酸のミトコンドリア内でのβ-酸化を妨害するようになり、これは、腎臓の機能が著しく低下した患者の場合、さらに深刻な阻害を誘発するものと知られている。
【0005】
光学的に純粋なL−カルニチンを得る方法として、化学的光学分割方法(US Patent No.5,166,426)、微生物や酵素を用いた生物学的方法(US Patent No.5,187,093)、キラル化合物を出発物質としてL−カルニチンを得る方法(US Patent No.6,420,599 B2)のような様々な方法が試みられている。
【0006】
L−カルニチンを得るための様々な方法のうち、微生物や酵素を用いた生物学的方法において、γ-ブチロベタインから光学的に純粋なL−カルニチンを得るために用いられる酵素が、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼである。この酵素は、マウスとヒトから分離され(Rebouche and Engel,J Biol Chem 255:8700−8705,1980)、既に遺伝子配列は明からになっている。哺乳類等の高等生物体内でのL−カルニチンの生合成は、前駆物質として蛋白質の一部であるリシンを用いるのに対して、アカパンカビは、遊離リシンから光学的に純粋なL−カルニチンを産生することができるものと知られている(Fraenkel,Biol Bull,104:359−371,1953)。これについてのメカニズムをみると、S−アデノシルメチオニンがリシンにメチル基供与体として作用して、ε−N−トリメチルリシンを合成し、これは、β−ヒドロキシ−トリメチルリシンを合成する。合成されたβ−ヒドロキシ−トリメチルリシンは、トリメチルアミノブチルアルデヒドを経て、γ-ブチロベタインが合成される。
【0007】
本発明の前に、上述したようなメカニズムにより生成されたγ-ブチロベタインを前駆物質としてL−カルニチンを産生するアカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子配列が確認されたことはない。
【0008】
〔発明の開示〕
このような背景のもとで、本発明は、アカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子を新たに明らかにしており、このような遺伝子により発現されたγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼを用いて、γ-ブチロベタインからL−カルニチンを生物学的方法で産生することが可能となった。
【0009】
本発明の上記並びにその他の目的と新規な特徴は本明細書の以下の記述と添付図面から明らかにされるであろう。
【0010】
〔発明を実施するための最良の形態〕
一態様として、本発明は、アカパンカビ由来の配列番号1のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼをコードする遺伝子を提供する。
【0011】
本発明者は、糸状菌のアカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子を確保するために、異種由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼをコードする遺伝子を比較分析し、保存領域を確認した後、これに基づいてデータベースに登録されたアカパンカビの全体の遺伝子配列と比較し、部分一致を示す遺伝子から、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの機能を示す候補遺伝子を決定し、その遺伝子を確保可能なプライマーを合成した。アカパンカビからcDNAライブラリーを作製し、既に決定されたプライマーを用いて、標的遺伝子のcDNAを得た。得られたcDNAを大腸菌内へ形質転換するための組み換えベクターを構築し、構築された組み換えベクターを大腸菌へ形質転換し、形質転換体から挿入された遺伝子を決定した。挿入された遺伝子の蛋白質発現のために、IPTGで発現を誘導した後、SDS−PAGEを用いて、蛋白質の発現を確認した。対照群に比べて、蛋白質の特異的発現が確認された大腸菌に対して、γ-ブチロベタインを基質として、L−カルニチンが産生されることを確認した(表1)。
【0012】
本発明は、上述のように確認された、本発明の以前には明らかになったことがないアカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子配列の確認に基づいており、本発明者らにより新たに明らかになったアカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼのポリヌクレオチド配列を配列番号1で表わした。
【0013】
本発明は、上記した配列番号1のポリヌクレオチド配列を有する遺伝子を含んで発現される場合、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの活性を有するポリペプチドをコードする前記配列番号1のポリヌクレオチドの断片、誘導体のような変異体も、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
他の態様として、本発明は、前記配列番号1のポリヌクレオチドと70%以上の相同性を有し、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0015】
本発明において、ポリヌクレオチド遺伝子、またはこのようなポリヌクレオチド遺伝子によりコードされる蛋白質、またはポリペプチドについて用いられた用語の「相同性」とは、野生のアミノ酸配列、及び野生の核酸配列との類似した程度を示すためのものであり、蛋白質の場合、本発明のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ蛋白質のアミノ酸配列と75%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、同一であってもよいアミノ酸配列を含む。一般に、蛋白質相同物は、標的蛋白質と同一の活性部位を含んでいる。遺伝子の場合、本発明のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ蛋白質をコードするポリヌクレオチド配列と75%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、同一であってもよい遺伝子配列を含む。このような相同性の比較は、目視、または市販の比較プログラムを用いて行う。市販のコンピュータプログラムは、二つ以上の配列間の相同性を百分率(%で計算することができる。相同性(%)は、隣接した配列について計算されてもよい。
【0016】
また他の態様として、本発明は、配列番号1の配列と75%、好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%以上の相同性を有し、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0017】
また他の態様として、本発明は、配列番号2に記載されたγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0018】
本発明により、前記アカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼをコードするポリヌクレオチド遺伝子をベクターに挿入し、これを発現させることにより、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼを多量に得ることができる。
【0019】
したがって、また他の態様として、本発明は、アカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼをコードするポリヌクレオチド遺伝子を含む組み換えベクターを提供する。
【0020】
本発明における「ベクター」は、適当な宿主細胞において蛋白質の発現を調節可能な調節配列に動作可能に連結されたDNA配列及びその他の遺伝子操作を容易にし、または、蛋白質の発現を最適化するために導入される配列を含有するDNA構築物のことをいう。このような調節配列には転写を調節するためのプロモータ、転写を調節するために選択的に加えられたオペレーター、適切なmRNAリボソーム結合部位及び転写/翻訳の終了を調節する配列が含まれる。外来遺伝子を挿入するためのベクターとしては、プラスミド、ウイルス、コスミッド等の様々な形態のベクターを用いることができる。
【0021】
ベクターは、クローニング・ベクター及び発現ベクターを含み、クローニング・ベクターは、外来DNAが挿入されて複製可能なプラスミドであって、形質転換の際に宿主バクテリア細胞に外来DNAを伝達させる。発現ベクターは、通常、外来DNAの断片が挿入されたキャリアであって、二本鎖のDNAの断片を意味する。ここで、外来DNAは、宿主細胞において自然発生しないDNAである異種のDNAを意味する。発現ベクターは、一旦、宿主細胞内にあれば、宿主染色体DNAと無関係に複製することができ、挿入された外来DNAが生成されることが可能である。当業界に周知のように、宿主細胞における移入遺伝子の発現量を高めるためには、当該遺伝子が選択された発現宿主内において機能を発揮する転写及び翻訳発現調節配列に動作可能に連結されなければならない。
【0022】
本発明により作製されたアカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼをコードするポリヌクレオチドを発現させるためのベクターpT7−BBH2(Eshcherichia coli DH5α CJ2004)は、2004年1月27日付で寄託機関の韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganism:KCCM)に寄託番号KCCM−10557で寄託された。
【0023】
また他の態様として、本発明は、前記遺伝子を含む組み換えベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
【0024】
本願の明細書に用いられた用語の「形質転換」は、DNAを宿主に導入し、DNAが染色体外要素として、または染色体の統合により、複製可能になることを意味する。本発明による形質転換に用いられる宿主細胞は、原核または真核細胞の全てを含むことができる。通常は、DNAの導入効率が高く、導入されたDNAの発現量が高い宿主が用いられる。細菌、例えば、エシェリキア、シュードモナス、バシラス、ストレプトミセス、真菌、酵母のような周知の真核及び原核宿主、Spodoptera frugiperda(SF9)のような昆虫細胞、CHO、COS 1、COS 7、BSC 1、BSC 40、BMT 10等の動物細胞が用いられる宿主細胞の例である。好ましくは、大腸菌が用いられる。
【0025】
上記した配列番号1のポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を配列番号2に示され、一つの態様として、本発明は、配列番号2のアミノ酸配列を有するアカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼを提供する。
【0026】
また他の態様として、本発明は、配列番号2の配列と75%、好ましくは85%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の相同性を有し、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ活性を有する変異体からなる群より選ばれる、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼを提供する。
【0027】
本発明によるγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼを、図5に示すように、γ-ブチロベタインをL−カルニチンを提供するのに用いることができ、これにより光学的に純粋なL−カルニチンを得ることができる。
【0028】
したがって、また他の態様として、本発明は、γ-ブチロベタインを上記したγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼでヒドロキシル化して、L−カルニチンを製造する方法を提供する。
【0029】
かくして得られたL−カルニチンは、カルニチン欠乏及びその他の治療学的療法において、L−カルニチンの補充に用いられ得る。
【0030】
以下、本発明を、下記の実施例により、さらに詳述する。但し、下記の実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0031】
実施例1:アカパンカビcDNAライブラリーの作製
アカパンカビのcDNAを得るために、先ず、アカパンカビからmRNAを分離し、polyTプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、cDNAを作製した。cDNAは、AD5クローニング・ベクターのEcoRI、XhoIに挿入されており、プラスミド化したcDNAプールを得るために、下記の過程を行った。Escherichia coli BNN322菌株を、LB km(kanamycin)+0.2%マルトースで一晩培養し、遠心分離を用いて、菌株細胞を収穫した後、1mlの10mM−MgSO溶液に懸濁した。この菌株をcDNAプールを保有した3.5×10λと共に30℃で30分間撹拌せずに培養した。2mlのLB培地を加え、感染した菌株を30℃で1時間の間振盪培養した。これを、LB+アンピシリン(75μl/ml)培地に塗り浸けた。生成したコロニーからプラスミドを分離し、cDNAライブラリーの作製した。
【0032】
実施例2:γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子獲得のためのプライマーの作製
アカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼと、ヒト、ラット、シュードモナスからのγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼとの、アミノ酸配列を比較した(図3)。
【0033】
Sequence 1をアカパンカビ、Sequence 2をヒト、 Sequence 3をラット、 Sequence 4をシュードモナスからの配列とすると、以下のような配列相同性を示した(Start of Pairwise alignments):
Sequences(1:2)Aligned.Sorce:11%
Sequences(1:3)Aligned.Sorce:11%
Sequences(1:4)Aligned.Sorce:10%
Sequences(2:3)Aligned.Sorce:88%
Sequences(2:4)Aligned.Sorce:29%
Sequences(3:4)Aligned.Sorce:29%
このように、アカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼは、ヒトのγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼとは11%の相同性を示した。
【0034】
上記したように、アカパンカビの遺伝体情報を探索し、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼのクローニングのためのプライマーを以下のように作製した。
プライマー1:
5’-ATG AAT TCC ATA TGA TGG CCA CGG CAG CGG TTC AG-3’(配列番号3)
プライマー2:
5’-ATT AGT CGA CTC AAT ACC CTC CCC CAC CCT G -3’(配列番号4)
【0035】
実施例3:γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの暗号化遺伝子の獲得
実施例1から獲得したアカパンカビcDNAライブラリーから、実施例2で作製されたプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子を増幅し、アガロース電気泳動の結果、約1.4kbpでバンドを確認し、自動の塩基配列分析を通じて、遺伝子の塩基配列を確認した。また、分析された塩基配列をNCBI BLASTの検索エンジンを用いて、塩基配列上の類似した情報を検索した結果、アカパンカのゲノム配列が全く同一の遺伝子が検索され、その遺伝子の機能予測は、仮定的蛋白質とのみ命名された状態であることを確認した。ポリメラーゼ連鎖反応の産物をEcoRIとSalIで切断し、同じ制限酵素で切断したpUC19に結合して、Eshcherichia coli DH5へ形質転換し、ブルー・ホワイトスクリーニングにより分離された形質転換体から、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子が挿入されたプラスミドを確認した。
【0036】
実施例4:プラスミドpT7−BBH2の構築
得られたγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子が含有されたプラスミドから、NdeIとSalIの制限酵素で切断した後、低融点アガロースゲルに電気泳動し、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子DNAのみを分離精製した後、NdeIとSalIで処理されたpT7−7に挿入した(図4)。結合混合物をEshcherichia coli DH5菌株へ形質転換した後、アンピシリンが含有された固体平板培地で形質転換体を分離した。分離された形質転換体から組み換えプラスミドを分離し、NdeIとSalIで切断して、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子の挿入を確認し、これをpT7−BBH2と命名した。このような組み換えプラスミドをEshcherichia coli DH5αに導入し、寄託名をEshcherichia coli DH5α CJ2004として、2004年1月27日付で、韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganism:KCCM)に寄託番号KCCM−10557で寄託した。
【0037】
実施例5:プラスミドpT7−BBH2の発現菌株のEshcherichia coli BL21(DE3)への形質転換
アンピシリン選択マーカーを有しているpT7−BBH2プラスミドを発現菌株のEshcherichia coli BL21(DE3)へ形質転換した。Eshcherichia coli BL21(DE3)は、乳糖またはIPTGにより、T7 RNAポリメラーゼを産生する菌株であって、この際に産生されたT7ポリメラーゼにより、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子の転写が誘発される。アンピシリンが含有された固体平板培地に塗り付けて選別された形質転換体からプラスミドを精製し、NdeIとSalIの制限酵素で切断して、挿入された遺伝子とプラスミドの大きさを確認することにより、構築されたpT7−BBH2プラスミドが導入されたことを確認した。
【0038】
実施例6:γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの発現
γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの発現を確認するために、Eshcherichia coli BL21(DE3)にpT7−BBH2が形質転換された形質転換体のBL21(DE3)/pT7−BBH2を培養した。50mlのLB培地またはアンピシリンが加えられたLB培地を入れた250mlバッフル付きフラスコにおいて、OD600値が0.6となるまで培養した後、1mMのIPTGを入れ、さらに4時間の間培養した。4,000xgで15分間遠心分離して菌株を収穫し、1mlの溶解溶液(10mM リン酸ナトリウム緩衝液pH7.4に140mM NaCl、200g/リットル グリセロール、及び1mM DTT)に再懸濁した。細胞を氷中に浸漬した後、超音波粉砕機を用いて、10秒ずつ5回繰り返して細胞を破砕した。破砕後、4℃、10,000xgで約20〜30分間遠心分離し、細胞残屑は除去し、上澄み液のみを集めた。SDS−PAGEを行い、約46kDaのγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼを確認した。必要に応じて、ブラッドフォード溶液を用いて蛋白質量を測定した。
【0039】
実施例7:L−カルニチンの分析法
アカパンカビの粗抽出物を500ulのアッセイバッファ(20mM リン酸カリウム緩衝液pH7.0に20mM KCl、3mM−ケトグルタル酸、10mM−アスコルビン酸ナトリウム、2g/リットル Triton X−100、0.25mM (NHFe(SO、及び0.2mM−ブチロベタイン)に入れた後、37℃で1時間の間処理した。500μlの上澄み液を取って、1.2Mの過塩素酸500μlと混ぜた。混合した溶液を室温で10分間培養した後、5分間遠心分離した。上澄み液600μlと0.7MのKPO320μlを混合し、氷浴で20分間放置した。混合液を5分間遠心分離し、750μlの上澄み液を採取し、250μlの滅菌蒸留水と混合して希釈させた。この溶液に100μlのDNTB/Hを入れ、室温で10分間放置した。50μlのカタラーゼ溶液を入れ、30分間室温で待機した後、遠心分離して、上澄み液1mlを得た。1mlに50μlのアセチルCoAを入れ、室温で5分間放置した。2.26μlのカルニチンアセチルトランスフェラーゼを入れ、常温で10分間放置した。405nmで吸光度を測定した後、L−カルニチンの量を計算した。
【0040】
実施例8:発現されたγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼの遺伝子をγ-ブチロベタインを基質としたL−カルニチン生成能の確認
実施例5で構築されたγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ遺伝子へ形質転換された大腸菌を、50mlのLBまたはアンピシリンが加えられたLB培地を入れた250mlバッフル付きフラスコにおいて、OD600値が0.6となるまで培養した後、1mMのIPTGを入れ、正確な酵素の三次構造の形成を成しながら、封入体の形成を防止するために、25℃で8時間以上培養した。4,000(xg)で15分間遠心分離して発現菌株を収穫し、蛋白質の粗抽出物を実施例6の方法で得た。蛋白質1.0mg/mlを含有する粗抽出物、及びγ-ブチロベタイン0.5mg/mlを含む反応液を4時間反応させた後、実施例7の方法でL−カルニチンの含量を下記の表1のように確認した。
【0041】
【表1】

【0042】
〔産業上利用可能性〕
本発明により、アカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼを暗号化する新規な遺伝子を明らかにすることにより、γ-ブチロベタインから光学的に純粋なL−カルニチンを産生するのに用いることができる。

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ(γ−BBH)を含まない大腸菌(E.coli)と、γ-ブチロベタインヒドロキシラーゼを含む大腸菌とを、IPTG(Isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)で発現を誘導した後、菌体を破砕し、上澄み液をSDS−PAGE(polyacrylamide gel electrophoresis)により分析した図である。
【図2】図2は、増幅したγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼcDNA遺伝子をpT7−7にクローニングした後、これを、0.8%アガロースゲル上で分析した図である。
【図3】図3は、アカパンカビ由来のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼと、ヒト、ラット、シュードモナスから分離されたγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼとの、核酸塩基配列の比較を示す図である。
【図4】図4は、プラスミドpT7−BBH2の構成を示す図である。
【図5】図5は、γ-ブチロベタインからL−カルニチンを産生する機序を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表わされるポリヌクレオチドまたは配列番号2に記載されたγ−ブチロベタインヒドロキシラーゼをコードするポリヌクレオチドの中から選ばれる遺伝子。
【請求項2】
請求項1に記載の遺伝子を含む組み換えベクター。
【請求項3】
寄託番号KCCM−10557である請求項2に記載の組み換えベクター。
【請求項4】
請求項1に記載の遺伝子を含む組み換えベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項5】
Eshcherichia coliである請求項4に記載の形質転換体。
【請求項6】
配列番号1のポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列または配列番号2のアミノ酸配列の中から選ばれるアミノ酸配列を有するγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼ。
【請求項7】
γ-ブチロベタインを、請求項6に記載のγ-ブチロベタインヒドロキシラーゼでヒドロキシル化して、L−カルニチンを製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−525221(P2007−525221A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500687(P2007−500687)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【国際出願番号】PCT/KR2005/000532
【国際公開番号】WO2005/083089
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(502172696)シージェイ コーポレイション (8)
【Fターム(参考)】