説明

アクスルハウジングのチューブエンド分離方法とこれに使用するチューブエンド分離装置

【課題】アクスルハウジングの車軸ケース部先端に溶接されたチューブエンドを作業性良好に分離することができる。
【解決手段】ディファレンシャルギアを収容する本体部H1から左右に延出する筒状の車軸ケース部H21,H22を備え、各車軸ケース部H21,H22の先端開口に筒状のチューブエンドT1,T2を溶接固定したアクスルハウジングHにおいて、車軸ケース部H21とチューブエンドT1の間の溶接ビード部を除去した後、車軸ケース部H21を位置固定した状態でチューブエンドT1に対しその軸に交差する方向から荷重を加えて車軸ケース部H21と前記チューブエンドT1の間の溶接部を破壊し、その後、チューブエンドT1を抜き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクスルハウジングのチューブエンド分離方法等に関し、特にアクスルハウジングの車軸ケース部先端に溶接されたチューブエンドを作業性良好に分離することができるチューブエンド分離方法とこれに使用する分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはアクスルハウジングが開示されており、これと同様の構造のアクスルハウジングの略半部の一例を部分断面平面図として図5に示す。図5において、アクスルハウジングHはディファレンシャルギアを収容する円形半容器状の本体部H1と、当該本体部H1から左右に延出する円筒状の車軸ケース部H21(一方のみ示す)を備えている。
【0003】
各車軸ケース部H21には先端開口に円筒状のチューブエンドT1が装着されている。すなわち、チューブエンドT1の基端部は小径となって車軸ケース部H21の先端部内に嵌め込まれている。この嵌め込みは圧入によって強固に行われている。加えて、車軸ケース部H21の開口端面とチューブエンドT1の基端部とは全周に亘って溶接されている。この溶接は例えば特許文献2に開示されており、図6に示すように、十分な接合強度を有する110%以上の溶接溶込のあるV開先溶接Wとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−281729
【特許文献2】実開平4−91501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車軸ケース部とチューブエンドの溶接に欠陥を生じることがあり、検査によって溶接欠陥が判明した場合には車軸ケース部からチューブエンドを分離して、車軸ケース部に新たなチューブエンドを再度溶接するようにしている。しかし、チューブエンドは既述のようにV開先溶接によって強固に車軸ケース部に結合されているため、旋削加工で溶接ビード部WB(図6の破線)を除去した後、チューブエンドT1のフランジT11やチューブエンドT1の内端面T12を、治具を介してハンマーで分離方向へ叩いて衝撃を加えるという従来の分離方法ではその作業に難渋を極めるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、アクスルハウジングの車軸ケース部先端に溶接されたチューブエンドを作業性良好に分離することができるチューブエンド分離方法とこれに使用する分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明のアクスルハウジングのチューブエンド分離方法では、ディファレンシャルギアを収容する本体部(H1)から左右に延出する筒状の車軸ケース部(H21,H22)を備え、各車軸ケース部(H21,H22)の先端開口に筒状のチューブエンド(T1,T2)を溶接固定したアクスルハウジング(H)において、前記車軸ケース部(H21)と前記チューブエンド(T1)の間の溶接ビード部(WB)を除去した後、前記車軸ケース部(H21)を位置固定した状態で前記チューブエンド(T1)に対しその軸に交差する方向から荷重を加えて前記車軸ケース部(H21)と前記チューブエンド(T1)の間の溶接部(W)を破壊し、その後、前記チューブエンド(T1)を抜き出すことを特徴とする。なお、荷重を加えて溶接部(W)を破壊することを周方向の複数個所で繰り返すとさらに好ましい。
【0008】
本第1発明によれば、チューブエンドに対しその軸に交差する方向から荷重を加えることによってチューブエンドと車軸ケース部との間の溶接部を破壊するようにしたから、治具を介してハンマーで分離方向へ叩いて衝撃を加えるという従来の分離方法に比して、アクスルハウジングの車軸ケース部先端に溶接されたチューブエンドを作業性良好に分離することができる。
【0009】
本第1発明のチューブエンド分離方法に使用する本第2発明のアクスルハウジングのチューブエンド分離装置では、前記車軸ケース部(H21,H22)を支持固定する支持部材(3,4)と、前記チューブエンド(H21)に対しその軸に交差する方向の上方から進退可能に設けられ、その先端(8)を前記チューブエンド(H21)の側面に当接させてこれを押圧する第1押圧手段(7)と、前記車軸ケース部(H21)の先端開口内に嵌め込まれた前記チューブエンド(T1)の内端面(T12)を押圧してこれを前記車軸ケース部(H21)から抜き出す第2押圧手段(6)とを備える。ここで、第1ないし第2押圧手段としては、油圧や空圧のシリンダや各種アクチュエータ、手動によるねじ式押圧機構等が使用できる。
【0010】
本第2発明においては、第1押圧手段と第2押圧手段を設けることにより、車軸ケース部とチューブエンド間の溶接部の破壊と車軸ケース部からのチューブエンドの抜き出しを効率的に行うことができる。
【0011】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、アクスルハウジングの車軸ケース部先端に溶接されたチューブエンドを作業性良好に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明方法を実施するチューブエンド分離装置の一例を示す全体正面図である。
【図2】図1のB方向から見たチューブエンド分離装置の部分断面側面図である。
【図3】図1のC方向から見たチューブエンド分離装置の部分断面側面図である。
【図4】棒状治具の平面図である。
【図5】アクスルハウジングの略半部を示す部分断面平面図である。
【図6】アクスルハウジングの車軸ケース部とチューブエンドとの溶接部分を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1には本発明方法を実施するチューブエンド分離装置の全体正面図を示し、図2には図1のB方向から見たチューブエンド分離装置の部分断面側面図を示す。また、図3には図1のC方向から見た部分断面側面図を示す。チューブエンド分離装置は、平面視で略長方形の、型鋼で構成された台車1を備えている。台車1の四隅下端にはキャスタ11が設けられて移動可能となっている。台車1の一端部上には詳細を後述する押圧装置2が設けられるとともに、押圧装置2の近傍には支持架台3が設けられている。支持架台3は板体31を起立させたもので、その上端面は中央部が山形に切り欠かれて支持溝32となっている(図2)。
【0015】
上記台車1の長手方向中間部には図1の手前側と奥側の型鋼上に長手方向へ延びるレール部材12が設けられ、これらレール部材12間に支持架台4の下端が架設されて(図3)台車1の長手方向へ一定範囲で移動可能となっている。支持架台4は支持溝42を形成した板体41を備える点で上記支持架台3と同一構造であるとともに、支持溝42の開口上には抑え板43が横架されている。抑え板43の両端部にはボルト4が上下方向へ貫通しており、一方のボルト44先端にはフラットテンションレバー45が、他方のボルト44先端には固定ナット46が装着されている。
【0016】
上記台車1の他端部には型鋼を立設した架台5が設けられ(図1)、当該架台5には、基端をこれに固定されて支持架台4の方向へ水平姿勢に第2押圧手段としての油圧シリンダ6が設けられている。
【0017】
押圧装置2は側面視で逆L字形(図2)の架台21を備えており、当該架台21の上端水平部には下方へ向けて第1押圧手段としての油圧シリンダ7が設けられている。油圧シリンダ7のロッド71先端には係止部材8が設けてある。係止部材8は上下一対の係止片81,82が衝合されて中央に円形の開口83(図2)が形成されている。
【0018】
このような構造のチューブエンド分離装置を使用してアクスルハウジングHの車軸ケース部H21先端からチューブエンドT1を分離する場合には、上記分離装置を使用するのに先立って、旋削加工によって図6の破線で示すように溶接ビード部WBを除去しておく。また、図4に示すような棒状治具9を予めアクスルハウジングH内に挿置しておく。治具9は棒体91の先端に脱着可能に大径の円柱状押圧体92をねじ込んだもので、押圧体92の直径dはチューブエンドT1の内端面T12の直径D(図5)よりもやや小さい程度にしておく。
【0019】
棒状治具9は最初に棒体91のみを、分離すべきチューブエンドT1とは反対側のチューブエンドT2からアクスルハウジングH内に挿入し、本体部H1内で、押圧体92を棒体91の先端にねじ込む。押圧体92がチューブエンドT1の内端面T12に当接した状態で、棒体91の基端部はチューブエンドT2から露出して油圧シリンダ6のロッド61(図1)近くへ至っている。
【0020】
旋削加工を終え、棒状治具9を内部に挿置したアクスルハウジングHは図1に示すように、左右の車軸ケース部H21,H22の先端部が支持架台3,4の支持溝32,42上に載置され、チューブエンドT2側の車軸ケース部H22は抑え板43によって下方へ押し付けられて位置決めされる。この際、チューブエンドT1の先端部は油圧シリンダ7のロッド71先端に設けた係止部材8の円形開口83内に挿入される。なお、アクスルハウジングHの大きさに応じて支持架台4をスライド移動させることによって支持位置を調整することができる(図1の鎖線)。
【0021】
この状態で油圧シリンダ7のロッド71を下方へ伸長させると、開口縁がチューブエンドT1の上側周面に当接して、チューブエンドT1に対しその軸と交差する略軸直方向から荷重を加える。これにより、チューブエンドT1と車軸ケース部H21との間の全周溶接部(W)が応力によって破壊される。なお、油圧シリンダ7のロッド71を戻し、抑え板43を緩めてアクスルハウジングHを軸周りに適当角度回転させ、チューブエンドT1の別の周面に荷重を加えることを繰り返して、上記溶接部を全周に亘って十分に破壊するようにしても良い。
【0022】
溶接部を破壊した後は、油圧シリンダ6のロッド61を伸長させて(図1の鎖線)、これの前方に位置する棒状治具9の棒体91の基端面を押圧する。これにより、棒状治具9先端の押圧体92を介してチューブエンドT1の内端面が押しやられ、車軸ケース部H21の先端部内に嵌め込まれたチューブエンドT1が押し出され分離される。チューブエンドT2の分離を行う場合にも、チューブエンドT1の場合と同様の手順で行う。
【0023】
このように、本実施形態のチューブエンド分離装置によれば、チューブエンドに対しその軸に交差する略軸直方向から荷重を加えることによってチューブエンドと車軸ケース部との間の溶接部を破壊するようにしたから、治具を介してハンマーで分離方向へ叩いて衝撃を加えるという従来の分離方法に比して、アクスルハウジングの車軸ケース部先端に溶接されたチューブエンドを作業性良好に分離することができる。
【符号の説明】
【0024】
3,4…支持架台(支持部材)、6…油圧シリンダ(第2押圧手段)、7…油圧シリンダ(第1押圧手段)、8…係止部材(先端)、H…アクスルハウジング、H1…本体部、H21,H22…車軸ケース部、T1,T2…チューブエンド、W…溶接部、WB…溶接ビード部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディファレンシャルギアを収容する本体部から左右に延出する筒状の車軸ケース部を備え、各車軸ケース部の先端開口に筒状のチューブエンドを溶接固定したアクスルハウジングにおいて、前記車軸ケース部と前記チューブエンドの間の溶接ビード部を除去した後、前記車軸ケース部を位置固定した状態で前記チューブエンドに対しその軸に交差する方向から荷重を加えて前記車軸ケース部と前記チューブエンドの間の溶接部を破壊し、その後、前記チューブエンドを抜き出すことを特徴とするアクスルハウジングのチューブエンド分離方法。
【請求項2】
前記車軸ケース部を支持固定する支持部材と、前記チューブエンドに対しその軸に交差する方向の上方から進退可能に設けられ、その先端を前記チューブエンドの側面に当接させてこれを押圧する第1押圧手段と、前記車軸ケース部の先端開口内に嵌め込まれた前記チューブエンドの内端面を押圧してこれを前記車軸ケース部から抜き出す第2押圧手段とを備える請求項1に記載のチューブエンド分離方法に使用するアクスルハウジングのチューブエンド分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−247765(P2010−247765A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101552(P2009−101552)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】