説明

アクチュエータ

【課題】支持部材の2方向の駆動を同時に実現できるアクチュエータを提供する。
【解決手段】座席1を前後及び上下方向に駆動する装置として駆動ユニット部DUとして設けているので、コンパクトな構成を提供できる。又、駆動ユニット部DUに平行なねじ軸12,22を設けており、更に第1のリンク部材L1と第2のリンク部材L2の上端を、駆動軸30に枢動可能に取り付け同一の枢動軸線回りに枢動可能となるようにしたので、座席1の複合的な移動を単一のユニットで実現でき、簡素且つコンパクトな構成を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両の座席など、乗員を支持する支持部材を、車体に対して少なくとも2方向に駆動調整するアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の座席は乗員の体格や体型、嗜好にあわせ、座席の前後位置や座や背の角度が調整できる機構を有している場合が多い。特に近年は、快適性・高級化のために手動での調整より、電動による調整が好まれる傾向にある。
【0003】
特許文献1には、複数のモータを用いてシートの位置を調整可能なパワーシートが開示されている。
【特許文献1】特開平8−216745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1のパワーシートは、シートの一方向の調整を1つのモータで担っており、例えばシートを前方に移動して上昇させる場合、前方移動と上昇とを順次的に行うようにしているため、移動時間が長くかかるという問題がある。又、一方の方向に移動させたときにシートに当接する障害物があるような場合、かかる障害物を回避すべく、前方移動と上昇とを段階的に小刻みに行わなくてはならない場合もある。又、単一のモータで一方向に駆動するのみであるため、大きな容量のモータが必要になり、構造も複雑になる。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、支持部材の2方向の駆動を同時に実現でき、これによりモータを小型化、低容量化出来、且つ構成もコンパクトとなるアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアクチュエータは、車両において乗員を支持する支持部材を、車体に対して少なくとも2方向に位置調整可能に駆動するアクチュエータにおいて、
車体に対して取り付けられた第1のモータと、
前記第1のモータに連結された第1の軸と、
前記支持部材に対して一端を枢動可能に連結された第1のリンク部材と、
前記第1の軸の回転運動を前記第1のリンク部材の他端の軸線方向運動に変換する第1の変換機構と、
車体に対して取り付けられた第2のモータと、
前記第1の軸に並行し、前記第2のモータに連結された第2の軸と、
前記支持部材に対して一端を枢動可能に連結された第2のリンク部材と、
前記第2の軸の回転運動を前記第2のリンク部材の他端の軸線方向運動に変換する第2の変換機構と、を有し、
前記第1のリンク部材の他端と前記第2のリンク部材の他端とを逆方向に移動させることで、前記支持部材は第1の方向に移動可能となっており、
前記第1のリンク部材の他端と前記第2のリンク部材の他端とを同一方向に移動させることで、前記支持部材は前記第1の方向と交差する第2の方向に移動可能となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば前記支持部材を第1の方向に移動させたいときは、前記第1のモータと前記第2のモータとを駆動して、前記第1のリンク部材の他端と前記第2のリンク部材の他端とを逆方向に移動させればよく、或いは前記支持部材を第2の方向に移動させたいときは、前記第1のモータと前記第2のモータとを駆動して、前記第1のリンク部材の他端と前記第2のリンク部材の他端とを同一方向に移動させればよい。即ち、前記第1のモータと前記第2のモータとの駆動方向及び駆動量を調整することで、前記支持部材を任意の位置に移動させることができる。
【0008】
前記第1のモータと、前記第1の軸と、前記第1の変換機構と、前記第2のモータと、前記第2の軸と、前記第2の変換機構とは駆動ユニットを構成していると好ましい。
【0009】
前記第1の軸と前記第2の軸とは平行に延在していると、よりコンパクトな構成を提供できる。
【0010】
前記第1のリンク部材の一端と前記第2のリンク部材の一端とを同一軸線回りに枢動すると、よりコンパクトな構成を提供できる。
【0011】
前記第1のリンク部材の一端から他端までの距離は、前記第2のリンク部材の一端から他端までの距離に等しいと好ましい。
【0012】
前記第1のモータと前記第1の軸、及び前記第2のモータと前記第2の軸の少なくとも一方は、カップリングを介して互いに連結されていると好ましい。但し、両者は直接連結されていても良い。
【0013】
前記第1のモータと前記第1の軸、及び前記第2のモータと前記第2の軸の少なくとも一方は、減速機構を介して連結されていると好ましい。但し、両者は直接連結されていても良い。
【0014】
前記第1の軸及び前記第2の軸の少なくとも一方の回転方向及び回転角度を検出するセンサを有すると好ましい。かかるセンサは、前記第1のモータ、前記第1の軸(その間に減速機構を含む場合には減速機構)、第1の変換機構(ナット)、第1のリンク部材、第1のリンク部材の支持点(一端)、前記第2のモータ、前記第2の軸(その間に減速機構を含む場合には減速機構)、第2の変換機構(ナット)、第2のリンク部材、第2のリンク部材の支持点(駆動軸)もしくはそれらと連動する要素部材のいずれか1つ以上に設けられ、回転、角度、位置、速度などを検出することができる。
【0015】
前記第1のモータ又はそれに連動する要素部材及び前記第2のモータ又はそれに連動する要素部材のいずれかの変位部に、移動量、移動方向、移動速度のいずれか少なくとも1つを検出するセンサを有すると好ましい。「前記第1のモータに連動する要素部材」とは、前記第1の軸(その間に減速機構を含む場合には減速機構)、第1の変換機構(ナット)、第1のリンク部材、第1のリンク部材の支持点(一端)がある。「前記第2のモータに連動する要素部材」とは、前記第2の軸(その間に減速機構を含む場合には減速機構)、第2の変換機構(ナット)、第2のリンク部材、第2のリンク部材の支持点(駆動軸)がある。但し、これに限られない。
【0016】
前記センサの信号を用いて前記支持部材の位置を検出もしくは算出し、その位置を記憶しておき、所定の操作により、記憶された位置に前記支持部材を移動させると好ましい。
【0017】
前記センサは、前記第1のモータ又はそれに連動する要素部材の変位量に応じた数のパルスを含む第1センサ信号として出力し、前記第2のモータ又はそれに連動する要素部材のいずれかの変位部の変位量に応じた数のパルスを含む第2センサ信号として出力し、前記第1センサ信号のパルス数と前記第2センサ信号のパルス数の和及び差に基づいて、前記第1のモータと前記第2のモータの回転方向及び回転角度を制御すると好ましい。
【0018】
前記第1のモータの回転方向及び回転角度と、前記第2のモータの回転方向及び回転角度を記憶し、所定の操作に応じて、記憶された回転方向及び回転角度で前記第1のモータ及び前記第2のモータがそれぞれ駆動されるようになっているので、例えば運転者がイグニッションスイッチをオフ操作したことに応じて、乗員が乗降するのに容易となる位置に支持部材を退避させ、イグニッションスイッチをオン操作したことに応じて、適切なドライビングポジションをとれる位置に支持部材を駆動することができる。尚、モータの回転方向や回転角度に限らず、前記第1の軸(その間に減速機構を含む場合には減速機構)、第1の変換機構(ナット)、第1のリンク部材、第1のリンク部材の支持点(一端)、前記第2の軸(その間に減速機構を含む場合には減速機構)、第2の変換機構(ナット)、第2のリンク部材、第2のリンク部材の支持点(駆動軸)もしくはそれらと連動する要素部材のいずれか1つ以上に変位センサを設け、その検出値を記憶するようにすると安価に構成できる。
【0019】
前記支持部材の変位を制限するストッパを設けていると好ましい。かかるストッパは、前記第1のモータ、前記第1の軸(その間に減速機構を含む場合には減速機構)、第1の変換機構、第1のリンク部材もしくはそれらと連動する要素部材、前記第2のモータ、前記第2の軸(その間に減速機構を含む場合には減速機構)、第2の変換機構、第2のリンク部材もしくはそれらと連動する要素部材のいずれか1つ以上に設けられて良い。
【0020】
前記支持部材が所定の位置に変位したことを検出するセンサを設けていると好ましい。
【0021】
前記支持部材は、前記車体に対して枢動軸回りに枢動可能となっており、前記第1のリンク部材の他端と前記第2のリンク部材の他端とに連結された座席であり、前記第1の方向は前記座席の上下方向であり、前記第2の方向は前記座席の前後方向であると好ましい。
【0022】
前記支持部材は、前記車体に対して枢動軸回りに枢動可能となっており、前記第1のリンク部材の他端と前記第2のリンク部材の他端とに連結された背もたれであり、前記第1の方向は前記背もたれの傾動方向であり、前記第2の方向は前記座席の前後方向であると好ましい。
【0023】
ステアリングホイールの位置を制御するコラムユニットに対して情報を伝達可能に連結されており、前記コラムユニットにより駆動されるステアリングホイールに連動して、前記支持部材を所定位置に移動させると好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態に係るパワーシート装置に用いるアクチュエータを図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施の形態に係るパワーシート装置の側面図である。図で右方が車両前方側であり、左方が車両後方側になる。
【0025】
パワーシート装置は、支持部材としての座席1と、背もたれ2と、座席1を駆動する駆動ユニット部DUとからなる。車体VBの床面には、座席1の両側に沿って一対のガイドレールGRが取り付けられ、各ガイドレールGR上を複数のスライダSDが滑動可能に配置されている。各スライダSDと座席1とは、紙面に垂直な軸回りに回動可能な等しい長さの支持リンクLKにより連結され、これによりガイドレールGRに対して座席1は平行移動可能となっている。座席1と車体VBの床面との間において、アクチュエータである駆動ユニット部DUの筐体10が、その床面に固定されている。
【0026】
図2は、駆動ユニット部DUの斜視図である。図2において、筐体10の一端には、第1のモータ11と第2のモータ21とが固定されている。第1のモータ11の回転軸は、不図示のカップリング(又は減速機構)を介して第1のねじ軸12に連結されており、第2のモータ21の回転軸は、不図示のカップリング(又は減速機構)を介して第2のねじ軸22に連結されている。第1のねじ軸12と第2のねじ軸22とは、互いに平行に延在し、筐体10に対して不図示の軸受により回転自在に支持されている。
【0027】
第1のねじ軸12には、第1のナット13が螺合している。第1のナット13は、第1のねじ軸12の回転角に応じて軸線方向に移動するようになっている。第1のねじ軸12と第1のナット13とで第1の変換機構(すべりねじ機構)を構成する。
【0028】
第1のナット13には、2本のアーム片14,15の下端が枢動可能に連結されている。アーム片14,15の上端は、駆動軸30に枢動可能に係合している。アーム片14,15が、第1のリンク部材L1を構成する。
【0029】
一方、第2のねじ軸22には、第2のナット23が螺合している。第2のナット23は、第2のねじ軸22の回転角に応じて軸線方向に移動するようになっている。第2のねじ軸22と第2のナット23とで第2の変換機構(すべりねじ機構)を構成する。
【0030】
第2のナット23には、2本のアーム片24,25の下端が枢動可能に連結されている。アーム片24,25の上端は、駆動軸30に枢動可能に係合している。アーム片24,25が、第2のリンク部材L2を構成する。第1のリンク部材L1の両端枢動端間の距離Aは、第2のリンク部材L2の両端枢動端間の距離Aに等しくなっている(図2)。
【0031】
駆動軸30は、座席1(図1)の下面に取り付けられている。第1のモータ11と第2のモータ12は、不図示のスイッチを介して電力を供給され、それぞれ独立して回転可能となっている。
【0032】
図3、4は、本実施の形態にかかる駆動ユニット部DUの側面図であるが、図2に対して簡略化して図示している。ここで、座席1を上下方向(第1の方向)に移動させる場合、運転者のスイッチの操作により、第1のモータ11と第2のモータ12とを逆方向に回転させる。すると、第1のねじ軸12と第2のねじ軸22が、互いに逆方向に回転するため、図3の矢印に示すように、第1のナット13と第2のナット23(図3で不図示)とは、例えば近接する方向に移動する。
【0033】
かかる場合、第1のナット13と第2のナット23の移動量が等しければ、第1のリンク部材L1と第2のリンク部材L2とが駆動軸30に対して枢動しながら接近しても、駆動軸30は前後方向に移動しない。従って、座席1は軸線に直交する方向にのみ押し上げられ、これにより座席1は、図1の支持リンクLKにより水平に支持されながら上方に移動するが、それと共にスライダSDも変位するので前後方向には移動しない。尚、明らかであるが、第1のナット13と第2のナット23とが、離れる方向に移動するように、第1のモータ11と第2のモータ12とを回転させれば、座席1の下方側への移動が行われることとなる。
【0034】
これに対し、座席1を前後方向(第2の方向)に移動させる場合、運転者のスイッチの操作により、第1のモータ11と第2のモータ12とを同一方向に回転させる。すると、第1のねじ軸12と第2のねじ軸22が、互いに同一方向に回転するため、図4の矢印に示すように、第1のナット13と第2のナット23(図4で不図示)とは一体で、例えばステアリングホイール側に移動する。
【0035】
かかる場合、第1のナット13と第2のナット23の移動量が等しければ、第1のリンク部材L1と第2のリンク部材L2とは、その姿勢(傾き)を維持したまま移動するため,駆動軸30に対する相対位置関係は不変であり、従って座席1は押し上げ又は押し下げられることなく軸線方向にのみ移動する。このとき、図1の支持リンクLKにつれて、スライダSDはガイドレールGR上を滑動するため、座席1の移動を阻害することがない。これにより、座席1は、枢動軸1aが長孔3aにガイドされつつ前方に移動する。尚、明らかであるが、第1のナット13と第2のナット23とが以上とは逆に移動するように、第1のモータ11と第2のモータ12とを回転させれば、座席1の車両後方側への移動が行われることとなる。
【0036】
更に、明らかであるが、第1のナット13と第2のナット23の移動量や速度を異なるように調整して駆動すれば、座席1の任意の方向への直線的移動や曲線を描く複合移動を適宜行うことができる。また、第1のナット13や第2のナット23の移動量や速度を前記センサにより検出し、その信号をもとにモータへの駆動信号を制御すれば、座席1の単一方向移動もしくは前記複合移動をより安定させることができ望ましい。これにより、単一移動方向に障害物があった場合でも、これを回避して移動が可能となる。
【0037】
本実施の形態によれば、座席1を前後及び上下方向に駆動する装置としてモジュール化された駆動ユニット部DUを設けているので、コンパクトな構成を提供でき、車体への組み付けも容易になる。又、2個のモータを用いて所定の方向への駆動を実現できるので、モータの容量を低く抑えることで、駆動ユニット部DUの小型化・軽量化を図ることができる。更に、駆動ユニット部DUに、平行なねじ軸12,22を設けており、更に第1のリンク部材L1と第2のリンク部材L2の上端を、駆動軸30に枢動可能に取り付け同一の枢動軸線回りに枢動可能となるようにしたので、座席1の単一方向移動又は複合的な移動を単一のユニットで実現でき、部品点数が少なく、簡素且つコンパクトな構成を実現できる。リンクの一端(駆動軸30)を、何らかの部材を介して間接的に座席1に連結しても良い
【0038】
尚、本実施の形態において、ねじ軸12,22の双方に、回転方向及び回転角度をそれぞれ検出するセンサを設けることができる。例えば、運転者が座席1に座り、イグニッションスイッチをオン操作した状態で、第1のモータ11と第2のモータ12とを駆動して、その運転者の体格、体型、好みに合った予め記憶された運転位置に、座席1を移動させることができる。ここで、運転者がイグニッションスイッチをオフ操作すると、車両は運転者が降車すると判断し、乗降が容易となるように座席1を車両後方の降車位置へと駆動する。このとき、センサはねじ軸12,22の回転方向及び回転角度を検出して、その値(又は座席の位置に対応する換算値でも良い)不揮発性のメモリに記憶する。その後、運転者が再度乗車してイグニッションスイッチをオン操作すれば、メモリに記憶された回転方向及び回転角度が読み出され、それに基づいてねじ軸12,22が元の回転位置になるまで第1のモータ11と第2のモータ12とを退避動作時とは逆に駆動する。これにより、座席1が元の運転位置に復帰することとなる。
【0039】
或いは、図1において、点線で示すように、車両のECUが、駆動ユニットDUと、ステアリングホイールSWの位置を制御するコラムユニットCUとを統括制御するようにしても良い。かかる場合、ECUは、コラムユニットCUにより駆動されるステアリングホイールSWの位置に連動して、座席1を最適なドライビングポジションがとれる位置に移動させることができる。
【0040】
加えて、このようなセンサが、第1のモータ11(又はそれに連動する要素部材の)回転変位量に応じた数のパルスを含む第1センサ信号として出力し、第2のモータ21(又はそれに連動する要素部材のいずれかの変位部)の回転変位量に応じた数のパルスを含む第2センサ信号として出力し、第1センサ信号のパルス数と第2センサ信号のパルス数の和及び差に基づいて、第1のモータ11と第2のモータ21の回転方向及び回転角度を制御するようにしても良い。
【0041】
図5〜7は、別な変形例にかかる駆動ユニット部DUを示す図である。図10に示す本変形例においては、駆動軸30の両端が、筐体10の両側壁に形成された矩形状の開口10a内に配置されており、更に駆動軸30の両端外周には、ゴムや樹脂からなる筒状の緩衝部材32を取り付けると好ましい。それ以外の構成については、上述した実施の形態と同様である。緩衝部材32の代わりに近接スイッチ(不図示)を設け、近接スイッチがオンすることに応じてモータを停止させると更に好ましい。尚、予め複数の運転者毎に最適な座席位置を記憶しておき、セレクトスイッチや個人認証エントリーシステムと連動させて、設定を行った運転者が座席1に座る毎に、記憶された座席位置に移動するようにすると好ましい。
【0042】
例えば、第1のモータ11と第2のモータ12とを同一方向に回転させると、駆動軸30は図6の左右方向(ここでは右方)に変位するが、緩衝部材32が筐体10の開口10aの右縁に衝接することで、それ以上の変位を制限するようになっている。即ち、開口10aがストッパとして機能し、前後方向の変位制限を行うことができる。このとき、緩衝部材32がゴム又は樹脂から形成されているので、開口10aに衝接しても打音が小さく衝撃力を低減できる。一方、第1のモータ11と第2のモータ12とを逆方向に回転させると、駆動軸30は図6の上下方向に変位するが、緩衝部材32が筐体10の開口10aの上下縁に衝接することで、それ以上の変位を制限するようになっている。即ち、開口10aがストッパとして機能し、上下方向の変位制限を行うことができる。
【0043】
座席1の初期原点設定時や、その後原点設定が必要になった場合における限定設定手順について説明する。図7は、座席1を原点に変位させた状態を示している。図7に示す状態では、上下位置が最も下側であり、前後位置が最も車両後方側である。駆動方法としては、まず、第1のモータ11と第2のモータ12とを逆方向に回転させ、駆動軸30を上下方向に移動させて開口10aの上縁に当接させて駆動を停止し、次に第1のモータ11と第2のモータ12とを同一方向に回転させ、前後方向に移動させて開口10aの左縁に当接させ前後移動を停止し、原点位置への移動を行うことができる。
【0044】
次に、パワーシートにおいて、背もたれを移動させる実施の形態について説明する。図8は、本実施の形態に係るパワーシート装置の側面図である。図9は、本実施の形態に用いる駆動ユニット部DUの斜視図である。本実施の形態においては、駆動軸30に、一対のアングル部材40の水平部40aの端部が相対枢動可能に連結されている。アングル部材40の交差部40bは、座席1に固定された固定軸41に対して枢動可能に連結されている。アングル部材40の上方延在部40cは、背もたれ2(図8)に固定されている。
【0045】
駆動ユニット部DUの両側には、図8に示すように、前後方向に延在する一対のガイドレール42が車体VBに固定されている。座席1の下面には、ガイドレール42に沿って移動可能なスライダ43が取り付けられている。従って、座席1は、背もたれ2と共に前後方向に移動可能となっている。尚、駆動ユニット部DUの構成は、上述した実施の形態と同様である。
【0046】
ここで、背もたれ2を傾動方向(第1の方向)に移動させる場合、運転者のスイッチの操作により、第1のモータ11と第2のモータ12とを逆方向に回転させる。すると、第1のねじ軸12と第2のねじ軸22が、互いに逆方向に回転するため、第1のナット13と第2のナット23とは、例えば近接する方向に移動する。
【0047】
かかる場合、第1のナット13と第2のナット23の移動量が等しければ、第1のリンク部材L1と第2のリンク部材L2とが駆動軸30に対して枢動しながら接近する。これによりアングル部材40が、固定軸41回りに回動し、背もたれ2は、倒れる方向に傾動するが、座席1はアングル40を介して駆動ユニット部DUに固定されているので、前後方向に移動することはない。尚、明らかであるが、第1のナット13と第2のナット23とが、離れる方向に移動するように、第1のモータ11と第2のモータ12とを回転させれば、背もたれ2の起き上がる方向への傾動が行われることとなる。
【0048】
これに対し、座席全体を前後方向(第2の方向)に移動させる場合、運転者のスイッチの操作により、第1のモータ11と第2のモータ12とを同一方向に回転させる。すると、第1のねじ軸12と第2のねじ軸22が、互いに同一方向に回転するため、第1のナット13と第2のナット23とは一体で、例えばステアリングホイール側に移動する。
【0049】
かかる場合、第1のナット13と第2のナット23の移動量が等しければ、第1のリンク部材L1と第2のリンク部材L2とは、その姿勢(傾き)を維持したまま移動するため,駆動軸30に対する相対位置関係は不変であり、従ってアングル部材40は角度を保ったまま、前後方向に移動するので、背もたれ2は傾動することなく座席1と共に前方にのみ移動する。尚、明らかであるが、第1のナット13と第2のナット23とが以上とは逆に移動するように、第1のモータ11と第2のモータ12とを回転させれば、背もたれ2は傾動することなく座席1と共に車両後ろ方側への移動が行われることとなる。
【0050】
更に、明らかであるが、第1のナット13と第2のナット23の移動量や速度を異なるように調整して駆動すれば、背もたれ2の傾動と座席1の前後移動を複合的に行うことができる。また、第1のナット13や第2のナット23の移動量や速度を前記センサにより検出し、その信号をもとにモータへの駆動信号を制御すれば、背もたれ2の傾動と座席1の前後移動をより安定させることができ望ましい。
【0051】
図10は、別な実施の形態にかかる駆動ユニット部DUの要部を示す上面図であり、図11は、図10の構成を矢印XI-XI線で切断して矢印方向に見た図であり、図12は、図11の構成の斜視図である。かかる駆動ユニット部DUは、図1又は図8のパワーシートに用いることができ、その作用は上述した実施の形態と同様であるため説明を省略する。
【0052】
図10において、互いに平行して延在する第1のねじ軸12と第2のねじ軸22は、筐体10内で不図示の軸受により回転自在に支持されている。第1のねじ軸12と第2のねじ軸22との間において、第1のモータ11と第2のモータ21とが筐体10に固定されている。第1のモータ11と第2のモータ21の軸線は一致しており、また第1のねじ軸12と第2のねじ軸22の軸線に平行している。
【0053】
第1のモータ11の回転軸11aは、第1のモータギヤG11に連結され、第1のモータギヤG11は、第1の中間大ギヤG12に噛合している。第1の中間大ギヤG12は、筐体10内で不図示の軸受により回転自在に支持された第1の中間軸S1の一端に結合されており、第1の中間軸S1の他端には第1の中間小ギヤG13が結合されている。更に、第1の中間小ギヤG13は、第1のねじ軸12の一端に結合された第1のねじ軸ギヤG14に噛合している。第1のモータギヤG11,第1の中間大ギヤG12、第1の中間軸S1、第1の中間小ギヤG13、第1のねじ軸ギヤG14により、第1のモータ11のトルクを減速して第1のねじ軸12に伝達する第1の伝達機構を構成する。
【0054】
一方、第2のモータ21の回転軸21aは、第1のモータギヤG11に対して外側で対向する位置で、第2のモータギヤG21に連結され、第2のモータギヤG21は、第2の中間大ギヤG22に噛合している。第2の中間大ギヤG22は、筐体10内で不図示の軸受により回転自在に支持された第2の中間軸S2の一端に結合されており、第2の中間軸S2の他端には第2の中間小ギヤG23が結合されている。更に、第2の中間小ギヤG23は、第2のねじ軸22の一端に結合された第2のねじ軸ギヤG24に噛合している。第2のモータギヤG21,第2の中間大ギヤG22、第2の中間軸S2、第2の中間小ギヤG23、第2のねじ軸ギヤG24により、第2のモータ21のトルクを減速して第2のねじ軸22に伝達する第2の伝達機構を構成する。
【0055】
第1のねじ軸12には、第1のナット13が螺合している。第1のナット13は、第1のねじ軸12の回転角に応じて軸線方向に移動するようになっている。第1のねじ軸12と第1のナット13とで第1の変換機構(すべりねじ機構)を構成する。
【0056】
第1のナット13には、クランク板状のリンク部材14の下端が枢動可能に連結されている。リンク部材14の上端は、駆動軸30に枢動可能に係合している。
【0057】
一方、第2のねじ軸22には、第2のナット23が螺合している。第2のナット23は、第2のねじ軸22の回転角に応じて軸線方向に移動するようになっている。第2のねじ軸22と第2のナット23とで第2の変換機構(すべりねじ機構)を構成する。
【0058】
第2のナット23には、クランク板状のリンク部材24の下端が枢動可能に連結されている。リンク部材24の上端は、駆動軸30に枢動可能に係合している。第1のリンク部材14の両端枢動端間の距離は、第2のリンク部材24の両端枢動端間の距離に等しくなっている。
【0059】
図13は、別な実施の形態にかかる駆動ユニット部DUを示す図10と同様な図である。本実施の形態においては、図10〜12の実施の形態に対し、モータ11,21を、モータギヤ11a、21aが紙面垂直方向に延在するように配置し、更にモータギヤ11a、21aにそれぞれ連結したウォームG11,G21を、ねじ軸12,22の端部に連結したウォームホイールG14,G24に噛合させている点が異なっている。本実施の形態によれば、多段の減速機構を用いることなく、ウォームホイール機構により大きな減速比を確保できるので、コンパクトな駆動ユニット部DUを提供できる。
【0060】
以上、実施の形態を参照して本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきでなく、その趣旨を損ねない範囲で適宜変更、改良可能であることはもちろんである。例えば、駆動ユニット部DUは、ステアリングコラムの位置や、ミラーの位置に応じて、最適な位置に座席又は背もたれを移動させることができる。又、本発明のアクチュエータは、車両の座席又は背もたれの移動のみならず、航空機や列車の座席や背もたれの移動に用いることができるほか、ソファやベッド等の移動にも用いることができる。両ねじ軸の螺旋溝巻き方向を逆にすれば、モータの回転方向を同一方向とすることで第1の方向への移動を実現し、逆方向とすることで第2の方向への移動を実現できる。更に、すべりねじ機構の代わりにボールねじ機構を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本実施の形態に係るパワーシートの側面図である。
【図2】駆動ユニット部DUの斜視図である。
【図3】本実施の形態にかかる駆動ユニット部DUの側面図であり、上方移動時の状態を示している。
【図4】本実施の形態にかかる駆動ユニット部DUの側面図であり、前方移動時の状態を示している。
【図5】変形例にかかる駆動ユニット部DUを示す斜視図である。
【図6】別な変形例にかかる駆動ユニット部DUを示す側面図である。
【図7】別な変形例にかかる駆動ユニット部DUを示す側面図である。
【図8】別な実施の形態に係るパワーシートの側面図である。
【図9】駆動ユニット部DUの斜視図である。
【図10】別な実施の形態にかかる駆動ユニット部DUの要部を示す上面図である。
【図11】図10の構成を矢印XI-XI線で切断して矢印方向に見た図である。
【図12】図11の構成の斜視図である。
【図13】別な実施の形態にかかる駆動ユニット部DUを示す図10と同様な図である。
【符号の説明】
【0062】
1 座席
1a 枢動軸
2 背もたれ
3 支持ブラケット
3a 長孔
10 筐体
11 第1のモータ
12 第1のねじ軸
13 第1のナット
14,15 アーム片
21 第2のモータ
22 第2のねじ軸
23 第2のナット
24,25 アーム片
30 駆動軸
40 アングル部材
40a 水平部
40b 交差部
40c 上方延在部
41 固定軸
42 ガイドレール
43 スライダ
BRG 軸受
L1 第1のリンク部材
L2 第2のリンク部材
DU 駆動ユニット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両において乗員を支持する支持部材を、車体に対して少なくとも2方向に位置調整可能に駆動するアクチュエータにおいて、
車体に対して取り付けられた第1のモータと、
前記第1のモータに連結された第1の軸と、
前記支持部材に対して一端を枢動可能に連結された第1のリンク部材と、
前記第1の軸の回転運動を前記第1のリンク部材の他端の軸線方向運動に変換する第1の変換機構と、
車体に対して取り付けられた第2のモータと、
前記第1の軸に並行し、前記第2のモータに連結された第2の軸と、
前記支持部材に対して一端を枢動可能に連結された第2のリンク部材と、
前記第2の軸の回転運動を前記第2のリンク部材の他端の軸線方向運動に変換する第2の変換機構と、を有し、
前記第1のリンク部材の他端と前記第2のリンク部材の他端とを逆方向に移動させることで、前記支持部材は第1の方向に移動可能となっており、
前記第1のリンク部材の他端と前記第2のリンク部材の他端とを同一方向に移動させることで、前記支持部材は前記第1の方向と交差する第2の方向に移動可能となっていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記第1のモータと、前記第1の軸と、前記第1の変換機構と、前記第2のモータと、前記第2の軸と、前記第2の変換機構とは駆動ユニットを構成していることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記第1の軸と前記第2の軸とは平行に延在していることを特徴とする請求項1又は2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記第1のリンク部材の一端と前記第2のリンク部材の一端とは同一軸線回りに枢動することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記第1のリンク部材の一端から他端までの距離は、前記第2のリンク部材の一端から他端までの距離に等しいことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記第1のモータと前記第1の軸、及び前記第2のモータと前記第2の軸の少なくとも一方は、カップリングを介して互いに連結されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記第1のモータと前記第1の軸、及び前記第2のモータと前記第2の軸の少なくとも一方は、減速機構を介して連結されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記第1の軸及び前記第2の軸の少なくとも一方の回転方向及び回転角度を検出するセンサを有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記第1のモータ又はそれに連動する要素部材及び前記第2のモータ又はそれに連動する要素部材のいずれかの変位部に、移動量、移動方向、移動速度のいずれか少なくとも1つを検出するセンサを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記センサの信号を用いて前記支持部材の位置を検出もしくは算出し、その位置を記憶しておき、所定の操作により、記憶された位置に前記支持部材を移動させることを特徴とする請求項9に記載のアクチュエータ。
【請求項11】
前記センサは、前記第1のモータ又はそれに連動する要素部材の変位量に応じた数のパルスを含む第1センサ信号として出力し、前記第2のモータ又はそれに連動する要素部材のいずれかの変位部の変位量に応じた数のパルスを含む第2センサ信号として出力し、前記第1センサ信号のパルス数と前記第2センサ信号のパルス数の和及び差に基づいて、前記第1のモータと前記第2のモータの回転方向及び回転角度を制御することを特徴とする請求項9又は10に記載のアクチュエータ。
【請求項12】
前記第1のモータの回転方向及び回転角度と、前記第2のモータの回転方向及び回転角度を記憶し、所定の操作に応じて、記憶された回転方向及び回転角度で前記第1のモータ及び前記第2のモータがそれぞれ駆動されるようになっていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項13】
前記支持部材の変位を制限するストッパを設けていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項14】
前記支持部材が所定の位置に変位したことを検出するセンサを設けていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項15】
前記支持部材は、前記車体に対して枢動軸回りに枢動可能となっており、前記第1のリンク部材の他端と前記第2のリンク部材の他端とに連結された座席であり、前記第1の方向は前記座席の上下方向であり、前記第2の方向は前記座席の前後方向であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項16】
前記支持部材は、前記車体に対して枢動軸回りに枢動可能となっており、前記第1のリンク部材の他端と前記第2のリンク部材の他端とに連結された背もたれであり、前記第1の方向は前記背もたれの傾動方向であり、前記第2の方向は前記座席の前後方向であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項17】
ステアリングホイールの位置を制御するコラムユニットに対して情報を伝達可能に連結されており、前記コラムユニットにより駆動されるステアリングホイールに連動して、前記支持部材を所定位置に移動させることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載のアクチュエータ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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