説明

アクチュエータ

【課題】可動電極の厚さを厚くすることなく、可動電極の可動範囲を大きくできるようにする。
【解決手段】基板101の上に離間して配列された4つ以上の固定電極からなる固定電極部102と、隣り合う固定電極の間に各々配置され、隣り合う固定電極の間に入り込んで基板101の法線方向に変位可能とされて隣り合う固定電極に接触しない範囲の幅とされた複数の櫛歯部131を備えた可動電極103とを少なくとも備える。本実施の形態では、固定電極部102は、6個の固定電極121〜123から構成している。加えて、固定電極121〜123は、配列の中央ほど低く形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロマシン技術による静電力により動作するアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの製造技術を応用したマイクロマシン技術の進歩により、様々な形態のマイクロマシンが開発されている。例えば、固定電極で発生させた静電力により可動電極を駆動させることで、電力を機械的な運動に変換する微細なアクチュエータがある(非特許文献1〜4参照)。例えば、このようなアクチュエータを用いて微細なミラーを駆動するミラー素子がある。このミラー素子を用いることで、光スイッチが実現できる。
【0003】
このアクチュエータは、図4に示すように、いわゆる櫛歯状の固定電極部401および可動電極部402を備える。このアクチュエータは、静電引力により、固定電極部401の側に可動電極部402を引き寄せるようにしている。このとき、図5に示すように、可動電極521が、2つの固定電極511,512の間に入り込むように移動する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】W.Piyawattanametha et al. , "Surface- and Bulk- Micromachined Two-Dimensional Scanner Driven by Angular Vertical Comb Actuators", Journal of Microelectromechanical Systems, vol.14, no.6, pp.1329-1338, 2005.
【非特許文献2】D. Hah et al. , "Low-Voltage, Large-Scan Angle MEMS Analog Micromirror Arrays With Hidden Vertical Comb-Drive Actuators", Journal of Microelectromechanical Systems, vol.13, no.2, pp.279-289, 2004.
【非特許文献3】J. Tsai et al. , "Two-axis MEMS scanners with radial vertical combdrive actuators.design, theoretical analysis, and fabrication", J. Opt. A: Pure Appl. Opt. , vol.10 , 044006, 2008.
【非特許文献4】Ming C. Wu , "Micromachining for Optical and Optoelectronic Systems", Proceedings of the IEEE, vol.85, no.11, pp.1833-1856, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したアクチュエータでは、可動電極の可動範囲をあまり大きくすることができないという問題がある。まず、可動電極521の厚さは、共振周波数の低下を避けるために、より薄い方がよい。ところが、上述したアクチュエータは電極間の静電容量が最大となる位置で止まってしまうので、上述したアクチュエータでは、可動電極521の固定電極511,512の方向への可動範囲は、可動電極521の上端が固定電極511,512の上端に一致する程度のところまでが最大可動範囲となる。このため、可動電極521の可動距離は、可動電極521の可動方向の断面の長さ(厚さ)に依存し。可動電極521の厚さが薄いと、可動電極521の可動範囲は狭いものとなる。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、可動電極の厚さを厚くすることなく、可動電極の可動範囲を大きくできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアクチュエータは、基板の上に離間して配列された4つ以上の固定電極と、隣り合う固定電極の間に各々配置され、少なくとも一端がばね部で支持されて隣り合う固定電極の間に入り込んで基板の法線方向に変位可能とされて隣り合う固定電極に接触しない範囲の幅とされた複数の櫛歯部を備えた可動電極とを少なくとも備え、固定電極は、各々異なる高さに形成され、可動電極は、固定電極に電圧を印加することで発生する静電引力により変位する。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したことにより、本発明によれば、可動電極の厚さを厚くすることなく、可動電極の可動範囲を大きくできるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態におけるアクチュエータの構成を示す構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態におけるアクチュエータの他の構成を示す構成図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態におけるアクチュエータの動作に関して印加電圧と変位の関係を示す特性図である。
【図4】図4は、櫛歯型のアクチュエータの構成を示す斜視図である。
【図5】図5は、アクチュエータの動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるアクチュエータの構成を示す断面図である。
【0011】
このアクチュエータは、基板101の上に離間して配列された4つ以上の固定電極からなる固定電極部102と、隣り合う固定電極の間に各々配置され、隣り合う固定電極の間に入り込んで基板101の法線方向に変位可能とされて隣り合う固定電極に接触しない範囲の幅とされた複数の櫛歯部131を備えた可動電極103とを少なくとも備える。本実施の形態では、固定電極部102は、6個の固定電極121〜123から構成している。加えて、固定電極121〜123は、配列の中央ほど低く形成されている。本実施の形態では、固定電極121より固定電極122が低く形成され、固定電極122より固定電極123が低く形成されている。
【0012】
このようにすることで、静電力の働いていない初期状態においては、固定電極121および固定電極122の間の櫛歯部131が、固定電極121に最も近く、静電力を働かせると、これらの間の静電引力が強く働き、可動電極103が基板101の方へ変位する。ここで、櫛歯部131が固定電極121の上端部まで変位すると、固定電極121および固定電極122の間における櫛歯部131に対する引き下げる力は弱くなる。
【0013】
しかしながら、固定電極122および固定電極123は、固定電極121より低く形成されているので、固定電極122および固定電極123の間における櫛歯部131に対する引き下げる力は、まだ強く働く状態である。このため、可動電極103は、さらに基板101の方へ変位する。次に、櫛歯部131が固定電極122の上端部まで変位すると、固定電極122および固定電極123の間における櫛歯部131に対する引き下げる力は弱くなる。
【0014】
しかしながら、固定電極123は、固定電極122より低く形成されているので、2つの固定電極123の間における櫛歯部131に対する引き下げる力は、まだ強く働く状態である。このため、可動電極103は、さらに基板101の方へ変位する。結果として、2つの固定電極123の間における櫛歯部131が、固定電極123の上端部に重なるまで、可動電極103は変位することができる。
【0015】
以上に説明したように、本実施の形態によれば、可動電極103を、より基板301に近づける状態に変位させることが可能となり、可動電極103の可動範囲を大きくできる。また、本実施の形態によれば、可動電極103(櫛歯部131)の基板101の法線方向の長さ(厚さ)を大きくすることなく、可動範囲を大きくすることができる。上述した例では、固定電極が配列の中央ほど低くなるように形成されているが、高さが異なる固定電極をどのような配列で形成しても、同様の機能を得ることが可能である。
【0016】
また、図2に示すように、8個の固定電極221〜224から固定電極部202を構成してもよい。固定電極221より固定電極222が低く形成され、固定電極222より固定電極223が低く形成され、固定電極223より固定電極224が低く形成されている。ここで、各固定電極と櫛歯部231との間隔gを8μm、固定電極221の高さを30μm、固定電極222の高さを24μm、固定電極223の高さを18μm、固定電極224の高さを12μmとする。また、可動電極203の櫛歯部231の厚さtを8μmとする。また、櫛歯部231から構成される可動電極203に連結されている梁部(不図示)は、幅20μm長さ1200μm、厚さ8μm程度としている。
【0017】
上述した構成のアクチュエータの固定電極部202と可動電極203との間に電圧を印加すると、図3の白三角に示すように可動電極203が変位し、最大で24μm程度の変位が得られる。これに対し、上述した固定電極の高さを全て30μmに均一に形成した構成では、図3の白丸に示すように、変位が8μm程度に達した時点で、これ以上変位しない状態となり、変位が可動電極203の厚さで制限される。これらのことから明らかなように、複数の固定電極を、配列の中央に向かって高さが異なるように形成することで、可動電極をより大きく変位させることができる。
【0018】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述した実施の形態では、4つ以上の固定電極と、櫛歯部を備えた可動電極とを備える構成において、固定電極が配列の中央ほど低く形成されている場合を例に説明したが、これに限るものではない。複数の固定電極が、各々異なる高さに形成されていればよい。
【0019】
また、前述では、可動電極を板状の片持ち梁の構造とした場合について説明したが、これに限るものではなく、可動電極は、少なくとも一端がばね部により支持されて変位可能とされていればよい。ばね部は、変形可能な弾性部材から構成されてればよく、どの様な形状であってもよい。例えば、可動電極とは別体の弾性部材からなる連結部(ばね部)により、可動電極と支持構造体とを連結する構造としてもよい。
【符号の説明】
【0020】
101…基板、102…固定電極部、103…可動電極、121,122,123…固定電極、131…櫛歯部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に離間して配列された4つ以上の固定電極と、
隣り合う前記固定電極の間に各々配置され、少なくとも一端がばね部で支持されてとなり合う前記固定電極の間に入り込んで前記基板の法線方向に変位可能とされてとなり合う前記固定電極に接触しない範囲の幅とされた複数の櫛歯部を備えた可動電極と
を少なくとも備え、
前記固定電極は、各々異なる高さに形成され、
前記可動電極は、前記固定電極に電圧を印加することで発生する静電引力により変位することを特徴とするアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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