説明

アクティブなワットリンク機構を備えた懸架装置

本発明は、質量体(3)を下部構造(1)に対して相対的に、たとえば貨物自動車の運転席キャビン(3)を車両シャーシ(1)に対して相対的に、ばね弾性的に懸架するための懸架装置に関する。当該懸架装置は、質量体(3)と下部構造(1)との間に配置された、衝撃もしくは振動を減衰するためのばね/ダンパ装置(2)を有しており、当該懸架装置は、平行に配置された2つのワットリンク機構(4,5)を備えたワットリンク機構装置を有している。一方のワットリンク機構(4)の複数のリンクのうちの少なくとも1つのリンク(6)が、長さ可変であり、しかも長さ変化が、アクチュエータによって行われる。本発明による懸架装置は、保守が少なくかつ遊びなしに形成されていて、たとえば運転席の運動自由度を規定し、かつキャビンの望ましくない運動を減衰するか、もしくは阻止するために適している。それと同時に、キャビンのローリング運動は、下部構造もしくはシャーシのローリング励起の場合でも、アクティブに阻止され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載の形式の、質量体、たとえば貨物自動車(トラック)の運転席キャビン(キャブ)をばね弾性的もしくは衝撃緩衝的に懸架するための懸架装置、すなわち当該懸架装置が、質量体と下部構造との間に配置された、衝撃もしくは振動を減衰するためのばね/ダンパ装置を有しており、当該懸架装置が、下部構造に対する質量体の運動自由度を減少させるためのワットリンク機構装置を有しており、該ワットリンク機構装置が、質量体と下部構造とを相対運動可能に結合する、平行に配置された2つのワットリンク機構(Wattgestaenge)を備えている形式の懸架装置に関する。
【0002】
冒頭で述べた形式の懸架装置は、たとえば貨物自動車および類似の大型トラックにおいて(ただし必ずしもこれに限定されるものではない)、運転席のキャビンを振動および運動に関して車両シャーシから分離するために使用される。大型トラックにおいては、走行機構のばね/ダンパユニットのばね・ダンパ定数(Feder-und Daempferrate)が、高い車両荷重ならびに走行機構における、ばね支持されていない高い質量に基づいて、不可避に高くなるので、路面凹凸、あるいは車軸およびパワートレーンからの振動も、かなりの部分がなおアクスルサスペンションを介してシャーシへ伝達され、さらにシャーシからキャビンへ伝達される。
【0003】
運転手のためのエルゴノミ(人間工学)および労働保護の目的で、このような衝撃および振動の、運転席キャビンへの伝達、ひいては運転手の仕事場への伝達を最小限に抑えるために、キャビンもしくはキャブが、固有の懸架システムの使用下に車両シャーシに支持されるキャビン懸架装置が開発されている。キャビンのためのこのような懸架システムは、キャビンの質量が車両に比べてはるかに小さいため、アクスルサスペンションよりも著しく低いばね率もしくはばね定数を持って設計され得る。それゆえに、路面凹凸や、車両のパワートレーンまたは車軸から発生した振動は、このようなキャビン懸架システムにより、運転手の仕事場から著しく良好に遮断され得るか、もしくは離隔され得る。
【0004】
このような弾性的なキャビン懸架装置において、たとえば斜路走行時またはカーブ走行時、あるいはまた、たとえば片側の路面凹凸の場合に、車両シャーシに対して相対的なキャビンの望ましくない側方ローリングを制限するために、キャビンとシャーシとの間にワットリンク機構装置が配置されているような懸架装置が開発されている。ワットリンク機構装置の働きにより、キャビンとシャーシとの間のバウンド運動は実質的に線状に行われるようになり、すなわちキャビンとシャーシとの間の運動自由度はワットリンク機構装置によって鉛直なバウンド運動に低減されるようになる。
【0005】
このような懸架装置は、たとえばドイツ連邦共和国特許出願公開第102005043998号明細書に基づき公知である。この公知の懸架装置は、1実施形態においては平行に配置された2つのワットリンク機構を有している。これらのワットリンク機構により、貨物自動車のキャビンとシャーシとは、貨物自動車の長手方向軸線を中心としたローリング運動に関して互いに連結されるようになり、それに対して、シャーシばねストローク内での鉛直軸線に沿ったキャビンとシャーシとの間での線状のバウンド運動は、制限されずに可能となる。
【0006】
この公知の懸架装置におけるキャビンとシャーシとの間でのローリング運動に関する十分に強固な連結は、たしかに、シャーシに対して相対的なキャビンの独自のローリング運動が阻止されるという利点をもたらすが、しかし他方においてこのことは、キャビンが、シャーシを起点としたあらゆるローリング励起に否応なしに従うことを招いてしまう。この場合、キャビンのローリング角度は少なくとも同じ大きさとなるが、しかしたいていはキャビン取付け部およびワットリンク機構における弾性に基づいて、シャーシを起点としたローリング励起の角度よりも大きくなってしまう。
【0007】
カーブ走行時、斜路走行時または片側の路面凹凸の場合に、このことは、キャビンが少なくとも車両シャーシと同じくらい強力に、またはそれどころか車両シャーシよりも強力に傾くことを招く恐れがある。しかし、乗り心地および安全性の理由から、あらゆる走行条件下でのキャビンの側方傾斜を阻止するか、または少なくとも減少させることが望ましい。
【0008】
このような背景技術に鑑み、本発明の課題は、公知先行技術の上記不都合を克服することのできるような、質量体をばね弾性的に懸架するための懸架装置、特に貨物自動車(トラック)における車両キャビンを懸架するための懸架装置を提供することである。特に、当該懸架装置は、下部構造もしくはシャーシのローリング励起の場合でも、質量体もしくは車両キャビンの望ましくないローリング運動を阻止することを可能にすることが望ましい。
【0009】
この課題は、請求項1の特徴部に記載の特徴を有する懸架装置、すなわち一方のワットリンク機構の複数のリンクのうちの少なくとも1つのリンクが、長さ可変であり、しかも長さ変化が、アクチュエータによって行われることを特徴とする、アクティブなワットリンク機構を備えた懸架装置により解決される。
【0010】
本発明の有利な実施態様は請求項2以下に記載されている。
【0011】
本発明による懸架装置は自体公知の形式で、下部構造に対して相対的に質量体をばね弾性的に懸架するために働き、すなわちたとえば車両シャーシに対して貨物自動車(トラック)の運転席キャビンを懸架するために働く。
【0012】
やはり自体公知の形式で、当該懸架装置は、質量体と下部構造との間に配置された、衝撃もしくは振動を緩衝するためのばね/ダンパ装置ならびにさらにワットリンク機構装置を有しており、該ワットリンク機構装置は、質量体と下部構造とを相対運動可能に結合する、平行に配置された2つのワットリンク機構を備えている。ワットリンク機構は下部構造に対する質量体の運動自由度を減少させるために働き、特に下部構造の主衝撃方向に沿って質量体をほぼ線状に案内するために働く。
【0013】
しかし、本発明によれば、当該懸架装置は、一方のワットリンク機構の複数のリンクのうちの少なくとも1つのリンクが、長さ可変に形成されていることにより特徴付けられている。この場合、ワットリンク機構のリンクの長さ変化は、アクチュエータによって行われる。
【0014】
本発明によれば、当該懸架装置の一方のワットリンク機構の複数のリンクのうちの少なくとも1つのリンクが長さ調節可能であることにより、質量体の望ましくないローリング角度、すなわちたとえば貨物自動車のキャビンの望ましくない側方傾斜を、アクティブに阻止することができるようになる。この場合、一方のワットリンク機構の複数のリンクのうちの1つのリンクの長さが、アクチュエータにより変えられる。
【0015】
言い換えれば、このことは、こうして質量体と下部構造との間の角度、つまりたとえばキャビンとシャーシとの間の角度をアクティブに変えることができ、これにより、たとえば側方のシャーシ傾斜の場合でもキャビンの鉛直方向の位置を維持するか、または少なくともキャビンの側方傾斜を、シャーシの側方傾斜よりも小さく保持することができることを意味する。
【0016】
本発明はさしあたり、相応するアクチュエータによって、その都度の使用事例において必要となる力が付与され得る限りは、リンクの長さ変化がどのように行われるのかとは無関係に実現され得る。すなわち、たとえば圧縮空気によるリンクの長さ変化または電気的な駆動装置を用いたリンクの長さ変化が考えられる。しかし、本発明の特に有利な実施態様では、リンクの長さ変化が、ハイドロリック式のアクチュエータにより行われる。ハイドロリック式のアクチュエータには、小さなスペースに高い運動力を発生させることができ、かつリンクの所望の長さ変化を、ハイドロリックオイルの非圧縮性に基づいて正確に制御しかつ維持することができるという利点がある。
【0017】
本発明にとっては、予想され得る負荷が吸収され得る限り、そしてワットリンク機構の間隔に基づいて、発生したローリングトルクを伝達するために適したレバーアームもしくはてこ腕が形成されている限りは、2つの平行なワットリンク機構が構造的にどのように形成され、かつ下部構造と質量体との間に配置されているのかは、さしあたり重要ではない。
【0018】
しかし、本発明の別の有利な実施態様では、両ワットリンク機構のジョイントが、ほぼ同一の運動平面に位置している。このことは言い換えれば、全てのジョイントの位置が前記運動平面を形成するか、もしくは両ワットリンク機構の全てのジョイントが、ほぼ同一の平面に位置するように、両ワットリンク機構のジョイントが配置されていることを意味する。
【0019】
このような実施形態は、これによって歪みが回避されるか、もしくはこうして、両ワットリンク機構の運動平面の間に間隔が存在している場合に発生し得る二次モーメントの発生が阻止されるという点で有利である。
【0020】
本発明の別の有利な実施態様では、2つのワットリンク機構が、その共通の直線案内方向に関して側方にずらされて配置されている。この実施態様は、ワットリンク機構の特にスペース節約的でかつコンパクトな配置を可能にし、さらにワットリンク機構の形状付与および配置に関する構造上の設計自由度を増大させる。
【0021】
本発明のさらに別の有利な実施態様では、第1のワットリンク機構に所属する中央のワットのリンク(Watt'sch. Lenker)の取付け点もしくは支承点が、質量体に結合されており、それに対して、第2のワットリンク機構に所属するワットのリンクの取付け点もしくは支承点が、下部構造に結合されている。
【0022】
こうして、ワットリンク機構もしくはワットリンク機構を構成するリンクは、一層コンパクトに、かつそれどころかある程度互いに内外に入り組んで配置可能となる。このことは、ワットリンク機構装置の特にコンパクトな構成と共に、提供されている構成スペースの一層良好な利用をもたらす。
【0023】
本発明のさらに別の有利な実施態様では、両中央のワットのリンクの旋回支点の間隔が、両ワットリンク機構の、ワットリンク機構横方向スラストロッドに対応する外側の枢着点の各間隔よりも大きく形成されている。このことは言い換えれば、両ワットリンク機構の6つの枢着点の間を結ぶ仮想結合線が、もはや前記実施形態の場合のように1つの平行四辺形を形成するのではなく、それどころか二重にされた台形に近似していることを意味する。なぜならば、両ワットリンク機構の外側の枢着点の間の間隔が、この実施態様では、両中央の枢着点の間隔よりも小さく形成されているからである。
【0024】
これによって、この実施態様は、中央の両ワットのリンクの旋回支点の間隔により形成されたレバーアームもしくはてこ腕の延長をもたらす。しがたって、この延長されたレバーアームもしくはてこ腕は、トルク、たとえばキャビンのローリングトルクを吸収するために一層良好に利用され得る。
【0025】
このことは、次のような利点をもたらす。すなわち、所定のトルクもしくはローリングトルクにおいて、低減された力を、中央のレバーアームの増大された長さに対して逆比例して、ワットリンク装置を介して伝達するだけで済む。こうして、ワットリンク機構の小さな寸法設定、ひいては質量の少ない寸法設定が可能となるが、しかしそれと同時に、たとえばキャビンのローリング支持部からの著しいトルクが、不変の規模でワットリンク機構装置を介して伝達されて、下部構造、たとえば貨物自動車のシャーシに導入され得る。さらに、こうして、たとえばワットリンク機構の範囲、質量体もしくは下部構造におけるワットリンク機構の枢着部の範囲における不可避の弾性に基づいた、あるいはまた場合によっては使用されるエラストマ軸受けのフレキシブル性に基づいた残留ローリング運動も、伝達されるべき力の低減に基づいて減じられる。
【0026】
本発明のさらに別の特に有利な実施態様では、両ワットリンク機構の横方向スラストロッドに対応する外側の枢着点が、それぞれペアになって、両ワットリンク機構に共通の1つの旋回軸線に位置している。このことは言い換えれば、両ワットリンク機構の間の外側の枢着点の間隔が、この実施態様では、前記実施態様の場合とは異なり、ある程度だけ減じられているだけではなく、この間隔がゼロに等しくなることを意味する。これにより、両ワットリンク機構の横方向スラストロッドの外側の枢着点は、前で述べたような4つのジョイント軸線を必要とするのではなく、合計で2つのジョイント軸線を共有し合う。
【0027】
こうして、構成要素が節約され、ひいてはコストが節約される。さらに、ワットリンク機構装置はこうして特にコンパクトにかつ構成スペース節約的に構成され、構造的には前の実施態様におけるような4つのフレーム側の結合点の代わりに、2つの結合点しか必要とされない。両ワットのリンクにより生ぜしめられた、フレーム側の結合点に作用する力は、この配置形式では、ベクトルの加算に基づいて部分的に相互に相殺されるので、フレーム側の結合部分を一層軽量に、ひいては一層廉価に設計することができる。さらに、エラストマ軸受けの使用時では、エラストマ軸受けのために低減られた剛性を使用することができる。このことは改善された遮音を約束する。
【0028】
このことは、特に、両ワットリンク機構の、外側の枢着点と合流するそれぞれ2つの横方向スラストロッドの支承は、ベクトルの力加算の目的で、1つの共通の旋回軸において非弾性的に行われ、そしてこの共通の旋回軸自体が、相応するフレーム側の結合点に弾性的に結合される場合に云える。
【0029】
本発明のさらに別の実施態様では、両ワットリンク機構の、外側の枢着点の範囲において共通の1つの旋回軸に枢着された両横方向スラストロッドが、それぞれ一体となって、たとえばV字形のコンビネーションロッドの形に形成されている。この実施態様では、共通に枢着された2つの横方向スラストロッドが、たとえば三角形リンクに似たそれぞれ1つの構成部分を形成しており、このような実施態様は、必要となる構成部分の点数がさらに十分に減じられることにより、さらに一層の構造上の単純化をもたらす。
【0030】
特に、横方向スラストロッドの外側の枢着点を結合するために、前で挙げた実施態様の場合のように4つの旋回支承部はもはや必要とされず、2つの旋回支承部しか必要とされない。さらに、こうして、このようにまとめられたワットリンク機構装置の両ワットリンク機構を、ほぼ同一の平面に問題なく配置することができる。このことは、再び構成スペースを節約する。この実施態様においても、車両シャーシに設けられた相応する結合部分に導入された力は、部分的なベクトルの力加算に基づいて一層小さくなり、その結果、やはり重量およびコストもしくは可能な遮音のためのエラストマ軸受けの使用に関する、上で挙げた利点が得られる。
【0031】
本発明のさらに別の実施態様では、ワットリンク機構装置の複数の支承点のうちの少なくとも1つの支承点、有利には複数の支承点もしくは全ての支承点が、エラストマ軸受けとして形成されているか、もしくは共通に枢着されたが、または一体に形成された横方向スラストロッドペアの旋回軸が、質量体もしくは下部構造に弾性的に結合されている。
【0032】
ワットリンク機構装置の1つまたは複数の支承点、あるいはそれどころか全ての支承点がエラストマ軸受けとして形成されていることにより、特に次のような利点が得られる。すなわち、こうして当該懸架装置が特に頑丈にかつ抵抗力のあるように形成され得るようになり、しかしそれと同時に、保守の必要性も最小限に抑えられる。さらに、こうして、マイクロ領域での付加的な振動減衰も得られ、このような振動減衰は軸受け負荷および材料負荷を減少させると同時に、特に車両領域における使用事例では、当該懸架装置が特を用いて達成可能な乗り心地を一層改善する。
【0033】
共通に枢着された横方向スラストロッドペアの旋回軸の弾性的な結合は、既にさらに上で述べた付加的な利点をもたらす。すなわち、こうして、横方向スラストロッドペアの共通の枢着部を介して、まず横方向スラストロッドに生ぜしめられる引張力もしくは圧縮力の部分的にベクトルの増大が行われ得るようになり、そのあとで、まだ残っている、量的には極めて小さな残留力が下部構造もしくは質量体に弾性的に導入されるだけで済む。
【0034】
さらに、エラストマ軸受けの使用により、特定のバウンド条件下にワットリンク機構において構造的な歪みが生じ、そして製作中の公差もしくは運転中に生じるひっかかりが一層良好に受け止められ得る。
【0035】
本発明のさらに別の実施態様では、当該懸架装置が、1つのワットリンク機構装置だけでなく、複数のワットリンク機構装置を有している。これによって、さしあたり、ワットリンク機構の具体的な構造上の構成および配置とは無関係に、一層改善された案内精度、一層高い負荷耐性ならびに特に車両構造における使用事例における安全性の向上を得ることができる。
【0036】
この場合、これらのワットリンク機構装置のうちの1つのワットリンク機構装置のジョイントにより形成された運動平面が、別のワットリンク機構装置のジョイントにより形成された運動平面に対して直角に配置されていると有利である。このことは言い換えれば、各ワットリンク機構が、互いに直角に位置する平面に配置されているような少なくとも2つのワットリンク機構装置が使用されることを意味する。こうして、質量体、たとえば車両キャビンの運動自由度を、1つの空間方向にのみ沿った(たとえばシャーシの鉛直な主衝撃方向に沿った)運動に効果的に制限することができ、それに対して、別の2つの空間方向に沿った運動は排除されている。こうして、デカルト座標系の少なくとも2つの軸線を中心とした質量体の望ましくない回転も、すなわちたとえば車両キャビンのローリング運動も屈曲運動も、信頼性良く阻止され得る。
【0037】
以下に、本発明の実施形態を図面につき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による懸架装置の第1の実施形態をニュートラル位置で示す概略図である。
【図2】図1に示した懸架装置を、ローリング運動時のアクティブ化位置で示す、図1に相当する図である。
【図3】本発明の第2の実施形態による懸架装置を示す、図1および図2に相当する図である。
【図4】本発明の第3の実施形態による懸架装置を示す、図1〜図3に相当する図である。
【図5】本発明の第4の実施形態による懸架装置を示す、図1〜図4に相当する図である。
【図6】一体の横方向スラストロッドペアを備えた本発明の第5の実施形態による懸架装置を示す、図1〜図5に相当する図である。
【0039】
図1には、本発明の1実施形態による懸架装置を極めて概略的に示す概略図が示されている。まず判るように、図面には、下部構造1と、この下部構造1にばね/ダンパ装置2を介して結合された質量体3とが図示されている。下部構造1は図示の実施形態では、貨物自動車(トラック)のシャーシ1の前側の範囲を成していることが望ましい。それに対して、図示の質量体は貨物自動車の運転席キャブもしくはキャビン3を成している。走行方向はこの場合、図平面に対して垂直に延びている。
【0040】
図1から判るように、キャビン3とシャーシ1との間の結合部は、2つのばね/ダンパ装置2の他に、2つのワットリンク機構(Wattgestaenge)4,5を有している。図1から判るように、各ワットリンク機構4,5は、文字「A」、「B」、「C」、「D」、「E」によって示された5つのジョイントを有している。これらのジョイントA〜Eのうち、図示の実施形態では、ジョイントAおよびジョイントEがフレームに取り付けられている。それに対して、ジョイントCはそれぞれキャビンに取り付けられている。各ワットリンク機構4,5の枢着点を成すジョイントA〜Eは、2つの横方向スラストロッド(Querschubstreben)6,7,8と1つのセンタのワットのリンク(Watt'schen Lenker)9とから成るアッセンブリによって互いに結合されている。
【0041】
図1に示したワットリンク機構4;5の、それ自体公知の特別な運動特性に基づき、シャーシ1に対して相対的なキャビン3の側方の横方向運動は、それぞれ両ワットリンク機構4,5のジョイントA,C,Eを介して支持され、それに対して、鉛直線に沿ったキャビン3とシャーシ1との相対運動は、ワットリンク機構4,5によりスムーズに可能にされる。
【0042】
このことは、各ワットのリンク9の中心の旋回支点を成すジョイントCが、このワットのリンク9に対応する両横方向スラストロッド6;7,8による案内に基づいて、図1に破線12により示した鉛直な運動軌道から離れることができないことに関連している。このためには、両横方向スラストロッド6;7,8が同じ長さを有していなければならず、そして両横方向スラストロッド6;7,8の外側の枢着点を成すジョイントA,Eは、ワットのリンク9の長さに相当する鉛直方向の間隔11を有していなければならない。これにより、キャビン3とシャーシ1とは、さしあたり常時、図示された互いに上下にセンタリングされた位置に保持される。シャーシ1に対して相対的なキャビン3の相対的な横方向運動は行われない。
【0043】
したがって、発生した静的または動的な横方向力は、直接に横方向スラストロッド6;7,8と、ワットのリンク9と、キャビン3とシャーシ1との間のジョイントA〜Eとを介して伝達されるので、いずれにせよワットリンク機構4;5の範囲において、つまり本実施形態ではたとえばキャビン3の後側の範囲において、キャビン3の別の側方の案内または支持は必要とならない。したがって、キャビン3とシャーシ1との間の鉛直運動は、各ワットのリンク9の自由な鉛直方向可動性に基づき、完全に妨げられないままとなり、予め意図されたように、ばね/ダンパ装置2によってのみ吸収されるか、もしくは受け止められる。
【0044】
図示のワットリンク機構装置は、それぞれ2つの別個のワットリンク機構4,5を有しており、これらのワットリンク機構4,5の各直線案内方向12(図1の破線)は互いに合致しており、ワットリンク機構4,5の、各リンク6,7,8の位置もしくは枢着点となるジョイントA〜Eの位置により規定された2つの運動平面は互いに平行に延びていて、これによって図示の実施形態では、両運動平面が図平面とほぼ整合している。
【0045】
鉛直方向で間隔を置いて配置された2つのワットリンク機構4,5を備えた、このようなワットリンク機構装置は、特に次のような利点を持っている。すなわち、シャーシ1に対して相対的なキャビン3の直線案内が実現され得るだけでなく、こうして回転運動、すなわち図2に示したローリング運動Wに対する安定化も行われ得る。
【0046】
その理由は、図1〜図5に示したようにシャーシ1とキャビン3との間の鉛直方向の相互間隔10を持って配置された両ワットリンク機構4,5が、単独のワットリンク機構の場合とは異なり、横方向力を伝達し得るだけでなく、それどころか、こうして両ワットリンク機構4,5の間のレバーアーム(てこ腕)として働く鉛直方向の間隔10に基づいて、車両の長手方向軸線を中心にして作用するトルク、すなわち図2〜図5に示したローリングトルクWも伝達され得ることにある。
【0047】
このことは言い換えれば、図示の実施形態ではキャビン3が、シャーシ1に対して相対的な破線12に沿った(望ましい)鉛直方向の補償運動しか実施し得ず、シャーシ1に対するキャビン3の側方の相対運動もしくは回転Wは図示のワットリンク機構装置4,5によって阻止されることを意味する。
【0048】
しかし、このことは、冒頭で説明したように、シャーシ1とキャビン3とがローリングトルクもしくはローリング運動Wに関して互いに十分に固く連結されてしまって、シャーシ1が傾斜位置をとった場合にこの傾斜位置がキャビン3にも伝達されてしまう(たいてい望ましくない)ことを招く。
【0049】
しかし、この問題は、本発明によれば、ワットリンク機構装置のリンクのうちの少なくとも1つのリンクが、アクチュエータにより長さ調節可能に形成されていることにより解決される。図示の実施形態では、このことはそれぞれ上側のワットリンク機構4のリンク6である。図1〜図5の概略図から判るように、この長さ調節可能なリンク6はハイドロリックエレメントを有しており、このハイドロリックエレメントは、リンク6の有効長さを調節することを可能にする。
【0050】
図2には、シャーシ1とキャビン3とから成るアッセンブリに対するリンク6の長さ調節がどのような効果を有しているのかが示されている。図2の状態では、シャーシ1が、たとえば斜路走行またはカーブ走行に基づいて傾斜位置に位置している。シャーシ1の傾斜位置にもかかわらずキャビン3を、真っ直ぐな水平方向の位置に保持するためには、上側のワットリンク機構4のハイドロリック式に長さ調節可能なリンク6が、相応して制御され、長さ調節可能なリンク6の有効長さが、適宜に増大される。これにより、図2に示した状態が生ぜしめられる。この場合、シャーシ1とキャビン3との間で両ワットリンク機構4,5によって形成された平行案内が、シャーシ1の傾斜位置に相当する角度だけ追従される。
【0051】
こうして、シャーシ1が傾斜位置をとった場合でもキャビン3がその水平な位置を維持することを確保することができる。なぜならば、ワットのリンクの中央の枢着点を成すジョイントCがこの場合、シャーシ1の傾斜位置においてもその鉛直方向の重なり合い位置を維持し得るからである(図2の破線12参照)。
【0052】
図3には、2つのワットリンク機構4,5を備えた本発明による懸架装置の別の実施形態が示されている。図3に示した懸架装置は以下の点で、図1および図2に示した懸架装置とは異なっている。すなわち、図3に示した実施形態では、両ワットリンク機構4,5が側方にずらされているか、もしくは車両横方向にずらされて配置されている。さらに、図3に示した実施形態では、図面で見て上側のワットリンク機構4のワットのリンク9は、図1および図2に示した実施形態においてもそうであったように、その旋回支点を成すジョイントCによってキャビン3に結合されているが、しかし下側のワットリンク機構5のワットのリンク9はこの場合、シャーシ1に結合されている。図1および図2に示した実施形態に対するこれら2つの相違点に基づき、図3に示した実施形態では、ワットリンク機構4,5が互いに内外に入り組んでおり、これによって特にスペース節約型に配置され得る。
【0053】
図4および図5には、たとえば運転席のキャビンに用いられる懸架装置のさらに別の実施形態が図示されている。図4および図5に図示した実施形態は、原理的には図1および図2に示した実施形態をベースとしているが、しかし図4および図5に図示した実施形態は、以下の点で図1および図2に示した実施形態とは異なっている。すなわち、図4および図5に図示した実施形態では、両ワットのリンク9の旋回支点を成すジョイントCの間隔10が、両ワットリンク機構4,5の、横方向スラストロッド6,7,8に対応する外側の枢着点を成すジョイントA,Eの各間隔11(図4)よりも大きく形成されている。
【0054】
本出願人が見い出したように、図5もしくは図6に示した実施形態において、このような特別なジオメトリ的(幾何学的)な特性はワットリンク機構の機能を決して損なわない。このことは特に、ワットのリンク9の所望の直線案内もしくはワットのリンク9の中央の枢着点を成すジョイントCの直接案内がこの実施形態においても完全に維持されたままとなることを意味する。
【0055】
しかし、他方においては、両ワットのリンク9の中央の枢着点を成すジョイントCの、この場合に増大された間隔10により形成されたレバーアーム(てこ腕)10が、前記両枢着点もしくは両ジョイントCの間隔10の増大に対して比例して延長されるという利点が得られる。その結果、シャーシ1またはキャビン3を介して導入されたローリングトルクWも、同じく比例して減じられた反動力しか生ぜしめなくなる。このことはワットリンク機構4,5内部で作用する力にも、枢着点Cを介してキャビン3に導入された力にも云える。
【0056】
したがって、言い換えれば、図4および図5に示した実施形態により、ワットリンク機構4,5も、車両のキャビン3におけるワットリンク機構4,5の懸吊部であるジョイントCも、より弱く寸法設定され、ひいてはより質量少なく寸法設定され得るわけである。
【0057】
図5に示した実施形態は、さらに以下の点で、図4に示した実施形態とは異なっている。すなわち、両ワットリンク機構4,5の横方向スラストロッド6,7,8に対応する外側の枢着点を成すジョイントA´,E´が、それぞれペアになって両ワットリンク機構4,5にとって共通の旋回軸線に位置している。このことは言い換えれば、両ワットリンク機構4,5の間の外側の枢着点ペアAもしくはEの間隔が、この実施形態では、図4に示した実施形態の場合のように所定の寸法だけ(間隔11にまで)減じられているのではなく、この間隔が図5の実施形態ではゼロに等しくなっていることを意味する。こうして、両ワットリンク機構4,5の横方向スラストロッド6,7,8の外側の枢着点ペアAもしくはEは、図1〜図4に示した実施形態におけるように4つのジョイント軸線(2×A、2×E)を必要とする代わりに、合計して2つのジョイント軸線A´;E´を共有している。
【0058】
したがって、こうして構成エレメント、この場合には特にフレーム側もしくはシャーシ側の枢着部ならびに支承軸が節約され、ひいてはコストも節約される。さらに、ワットリンク機構装置はこうして特にコンパクトに形成され得るので、高価な構成スペースを節約する。
【0059】
図6には、ワットリンク機構装置4,5を備えた本発明による懸架装置のさらに別の実施形態が示されている。図6に示したワットリンク機構装置は、大体においては図5に示したワットリンク機構装置をベースとしているが、しかし図6に示した実施形態は、以下の点で図5に示した実施形態とは異なっている。すなわち、図5に示した実施形態では、両ワットリンク機構4,5の横方向スラストロッド6,7,8が、それぞれ1つの共通の旋回軸線A´;E´に枢着されているが、しかし横方向スラストロッド6,7,8自体はそれぞれ別個に形成されているのに対して、図6に示したワットリンク機構装置では、それぞれ1つの共通の旋回軸線A´;E´に枢着されている横方向スラストロッド6,7,8が、それぞれペア毎に一体となって1つのコンビネーションロッド13;14の形に形成されている。
【0060】
したがって、共通に枢着された横方向スラストロッドがそれぞれ、三角形リンク13,14に類似したV字形の構成部分を形成している前記実施形態は、別の構造上の単純化ならびに付加的な利点をもたらす。まず第1に、必要となる構成部分の点数がさらに著しく減じられる。特にこの場合、もはや4つの横方向スラストロッドのための4つの外側の旋回支承部は必要とされず、両コンビネーションロッド13;14の外側の枢着点A´,E´の結合のための2つの支承部しか必要とされない。さらに、こうして統合された両ワットリンク機構4,5は、実質的に同一の空間平面に配置され得る。このことは再度、構成スペースを節約する。こうして、ワットリンク機構装置内部に生ぜしめられる引張力もしくは圧縮力も、これらの力が、まずシャーシもしくはキャビンにおける結合部を経由した迂回路を通る必要なしに、部分的に互いに相殺される。
【0061】
長さ調節可能なリンク6に基づいたアクティブなローリング抑制は、図3〜図6に示した実施形態においても、図1および図2につき説明したように不変のまま維持される。
【0062】
その結果これによって、本発明によれば、キャビンの所望の、特に鉛直方向の運動自由度をスペース節約的にかつ構造的に丈夫に規定することのできる、質量体、たとえば貨物自動車のキャビンもしくはキャブをばね弾性的に懸架するための懸架装置が提供されることが明らかとなる。それと同時に、質量体もしくはキャビンの望ましくないローリング運動を、下部構造もしくはシャーシのローリング励起の場合でも阻止することができる。これによって、本発明は、特に車両キャビンおよびこれに類するもののための構造的に単純なアクティブなローリング抑制を可能にする。
【符号の説明】
【0063】
1 下部構造、シャーシ
2 ばね/ダンパ装置
3 質量体、キャビン
4,5 ワットリンク機構
6 横方向スラストロッド、アクチュエータにより調節可能なリンク
7,8 横方向スラストロッド
9 ワットのリンク
A〜E ジョイント、枢着点
A´,E´ 枢着点、旋回軸線
W ローリング運動、ローリングトルク
10 間隔、レバーアーム
11 間隔
12 直線案内方向
13,14 コンビネーションロッド、三角形リンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量体(3)、特に貨物自動車の運転席キャビンを、下部構造(1)に対して相対的に、特に車両シャーシに対して相対的に、ばね弾性的に懸架するための懸架装置であって、当該懸架装置が、質量体(3)と下部構造(1)との間に配置された、衝撃もしくは振動を減衰するためのばね/ダンパ装置(2)を有しており、当該懸架装置が、下部構造(1)に対する質量体(3)の運動自由度を減少させるためのワットリンク機構装置を有しており、該ワットリンク機構装置が、質量体(3)と下部構造(1)とを相対運動可能に結合する、平行に配置された2つのワットリンク機構(4,5)を備えている形式のものにおいて、一方のワットリンク機構(4)の複数のリンクのうちの少なくとも1つのリンク(6)が、長さ可変であり、しかも長さ変化が、アクチュエータによって行われることを特徴とする、アクティブなワットリンク機構を備えた懸架装置。
【請求項2】
アクチュエータが、ハイドロリック式のアクチュエータである、請求項1記載の懸架装置。
【請求項3】
アクチュエータが、ニューマチック式のアクチュエータである、請求項1記載の懸架装置。
【請求項4】
アクチュエータが、電気的に駆動されるアクチュエータである、請求項1記載の懸架装置。
【請求項5】
ワットリンク機構(4,5)のジョイント(A,B,C,D,E)が、ワットリンク機構(4,5)に共通のほぼ同一の運動平面に位置している、請求項1から4までのいずれか1項記載の懸架装置。
【請求項6】
ワットリンク機構(4,5)が、その共通の直線案内方向に関して車両横方向にずらされて配置されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の懸架装置。
【請求項7】
第1のワットリンク機構(4)のワットのリンク(9)の取付け点が、質量体(3)に、第2のワットリンク機構(5)のワットのリンク(9)の取付け点が、下部構造(1)に、それぞれ結合されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の懸架装置。
【請求項8】
両ワットのリンク(9)の旋回支点(C)の間隔(10)が、両ワットリンク機構(4,5)の、横方向スラストロッド(6,7,8)に対応する外側の枢着点(A,E)の間隔(11)よりも大きく形成されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の懸架装置。
【請求項9】
両ワットリンク機構(4,5)の横方向スラストロッド(6,7,8)に対応する外側の枢着点が、それぞれペアになって、両ワットリンク機構(4,5)に共通の1つの旋回軸線(A´,E´)に位置している、請求項1から8までのいずれか1項記載の懸架装置。
【請求項10】
両ワットリンク機構(4,5)の、共通の1つの旋回軸線に枢着された横方向スラストロッドが、それぞれペア毎に一体となってコンビネーションロッド(13,14)の形に形成されている、請求項9記載の懸架装置。
【請求項11】
ワットリンク機構装置の支承点(A,B,C,D,E)のうちの少なくとも1つの支承点が、エラストマ軸受けとして形成されている、請求項1から10までのいずれか1項記載の懸架装置。
【請求項12】
共通に枢着されているか、もしくは一体に形成されている横方向スラストロッドペアの旋回軸線(A´,E´)が、質量体(3)もしくは下部構造(1)に弾性的に結合されている、請求項10または11記載の懸架装置。
【請求項13】
当該懸架装置が、複数のワットリンク機構装置を有しており、1つのワットリンク機構装置の運動平面が、別のワットリンク機構装置の運動平面に対して直角に配置されている、請求項1から12までのいずれか1項記載の懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−525451(P2011−525451A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515104(P2011−515104)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/DE2009/050032
【国際公開番号】WO2009/155912
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(506054589)ツェットエフ フリードリヒスハーフェン アクチエンゲゼルシャフト (151)
【氏名又は名称原語表記】ZF Friedrichshafen AG
【住所又は居所原語表記】D−88038 Friedrichshafen,Germany
【Fターム(参考)】