説明

アクリルゴム用可塑剤、それを用いたアクリルゴム組成物及びその成形品

【課題】アクリルゴムとの相溶性に優れており、熱による物性低下が少なく、加熱減量も少なく物性の長期安定性が確保できるアクリルゴム用可塑剤、それを用いたアクリルゴム組成物及びその成形品である自動車用の潤滑油ホース、燃料ホース、パッキン、Oリング、ガスケット、オイルシール、タイミングベルト等の各種ベルト類、ダイヤフラムなどの長期にわたって高い耐熱性が要求される各種部材を提供する。
【解決手段】脂肪族ジカルボン酸とポリプロピレングリコールとをエステル化反応させて得られたエステル化合物のうち、数平均分子量が1,500〜3,000の範囲にあるエステル化合物を、アクリルゴム用可塑剤として用いることで、上記課題を解決したアクリルゴム組成物を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴムに配合されるアクリルゴム用可塑剤、それを用いたアクリルゴム組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、耐熱性、耐油性に優れることから、自動車用の潤滑油ホース、燃料ホース、パッキン、Oリング、ガスケット、オイルシール、ベルト、ダイヤフラム等の各種部材に使用されている。これらの部材は、自動車の使用環境に応じて、低温から高温下において、優れた柔軟性を有する必要がある。近年、エンジン出力の増大、静粛性を目的とした防音材の設置等の要因から、エンジンルーム内の高温化が進んでおり、従来以上に耐熱性が求められている。アクリルゴムには、ゴム硬度の調整、加工性の向上、耐寒性の改良等を行うため、通常、可塑剤が用いられるが、可塑剤のアクリルゴムへの相溶性不足している場合や可塑剤の分子量の低い場合、高温環境下で少しずつブリードアウトする問題があった。このブリードアウトにより、アクリルゴムから可塑剤が徐々に抜けるため、数か月単位では目立った問題は生じないものの、数年単位で割れや亀裂の発生し、ゴム物性の長期安定性を低下する。
【0003】
従来から用いられているアクリルゴム用可塑剤としては、アジピン酸ジブトキシエトキシエチルやグルタル酸ジブトキシエトキシエトキシエチル等のエーテルエステル系(例えば、特許文献1参照。)、ジオクチルフタレート(DOP)等のフタル酸ジエステル系、トリオクチルトリメリテート(TOTM)等のトリメリット酸トリエステル系などが知られている。これらの可塑剤の分子量は300〜500程度であり、高温下では揮発し易いため、ブリードアウトを生じて高温下の使用で物性が著しく低下する問題があった。
【0004】
また、アクリルゴム用可塑剤として、ポリエチレングリコールの脂肪酸エステルを用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この可塑剤を配合したアクリルゴムは耐熱性及び耐寒性を有するが、ゴム物性の長期安定性は不十分であった。さらに、アクリルゴム用可塑剤として、アルコキシポリオキシエチレンアルコールと脂肪族ジカルボン酸とを縮合させたポリエーテル系可塑剤と、芳香環を含まない線状ポリエステル系可塑剤の混合物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この可塑剤を配合したアクリルゴムは耐熱性、耐寒性、耐油性を有するが、該可塑剤中に分子量1000程度の化合物を多く含むため、高温下ではわずかながら揮発し、初期においては良好な物性であっても、長期間にわたる経時変化により、ゴムに亀裂や割れが生じる問題があった。
【0005】
上記のように、従来のアクリルゴム用可塑剤では、近年要求されている物性、特に高温環境で長期間使用される状況下での物性の安定性を満足できるものはなく、高温下でも優れた長期安定性を有するアクリルゴム用可塑剤が求められている。このアクリルゴムの物性の長期安定性を実現するためには、従来の可塑剤と比較して、加熱による揮発が少ない、すなわち加熱減量が少ない材料が不可欠となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭53−10645号公報
【特許文献2】特開平5−230288号公報
【特許文献3】特開平7−331015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、アクリルゴムとの相溶性に優れており、熱による物性低下が少なく、加熱減量も少なく物性の長期安定性が確保できるアクリルゴム用可塑剤、それを用いたアクリルゴム組成物及びその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、脂肪族ジカルボン酸とポリプロピレングリコールとをエステル化反応して得られたエステル化合物をアクリルゴム用可塑剤として用いることにより、課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、脂肪族ジカルボン酸とポリプロピレングリコールとをエステル化反応させて得られた数平均分子量が1,000〜4,000であるエステル化合物からなることを特徴とするアクリルゴム用可塑剤、該可塑剤を含有するアクリルゴム組成物及びその成形品に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアクリルゴム用可塑剤は、アクリルゴムとの相溶性に優れており、熱による物性低下が少なく、加熱減量も少なく物性の長期安定性が確保できるため、本発明のアクリルゴム用可塑剤を配合したアクリルゴムは、高温環境下で使用される自動車用の潤滑油ホース、燃料ホース、吸排気ホース、電装用ホース、エアコン用ホース、パワーステアリング用ホース、各種チューブ類、イグニッション・ワイヤー、パッキン、Oリング、ガスケット、オイルシール、タイミングベルト等の各種ベルト類、ダイヤフラムなどの各種成形品に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のアクリルゴム用可塑剤は、脂肪族ジカルボン酸とポリプロピレングリコールとをエステル化反応させて得られたエステル化合物である。
【0012】
本発明で用いる脂肪族ジカルボン酸は、アルキレン基の両末端に2つのカルボキシル基を有する化合物である。この脂肪族ジカルボン酸の中でも、耐ブリード性をより向上できることから、炭素原子数5〜10の脂肪族系ジカルボン酸が好ましい。このような脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらの具体例の中でも、アクリルゴムとの相溶性が高くなることから、アジピン酸がより好ましい。これらの脂肪族ジカルボン酸は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0013】
本発明で用いるポリプロピレングリコールは、プロピレンオキサイドをアニオン開環重合反応して得られる重合物である。このポリプロピレングリコールは、その構造中にメチル基とエーテル結合とを有するため、親水親油のバランスが良好であるため、前記脂肪族ジカルボン酸とエステル化反応して得られるエステル化合物は、極性基を有するアクリルゴムに対して極めて良好な相溶性を有する。このポリプロピレングリコールの中でも、耐ブリード性、耐熱性がより向上できることから、プロピレンオキサイドが3〜20モル付加したものが好ましく、4〜16モル付加したものがより好ましい。
【0014】
本発明のアクリルゴム用可塑剤は、前記脂肪族ジカルボン酸と前記ポリプロピレングリコールとを反応器に仕込み、通常のエステル化反応させることにより製造することができる。また、このエステル化反応を促進する目的で、エステル化触媒を用いることが好ましい。
【0015】
前記エステル化触媒としては、周期律表2族、3族、12族、13族及び14族からなる群より選ばれる少なくとも1種類の金属や有機金属化合物が挙げられる。より具体的には、例えば、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、ジルコニウム、マグネシウム、ハフニウム、ゲルマニウム等の金属;チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンオキシアセチルアセトナート、オクタン酸スズ、2−エチルヘキサンスズ、アセチルアセトナート亜鉛、4塩化ジルコニウム、4塩化ジルコニウムテトラヒドロフラン錯体、4塩化ハフニウム、4塩化ハフニウムテトラヒドロフラン錯体、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム等の金属化合物などが挙げられる。これらの中でも、反応性、取扱いやすさ、エステル化反応により得られたエステル化合物の保存安定性が良好であるチタンアルコキサイド類、具体的にはチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンオキシアセチルアセトナート等を用いるのが好ましい。
【0016】
また、前記エステル化触媒の使用量は、エステル化反応を制御でき、かつ得られるエステル化合物の着色を抑制できる範囲の量であればよく、前記脂肪族ジカルボン酸と前記ポリプロピレングリコールとの合計量に対し、10〜1,000ppmの範囲が好ましく、20〜500ppmの範囲がより好ましく、30〜300ppmの範囲が特に好ましい。
【0017】
本発明のアクリルゴム用可塑剤を製造する際、前記エステル化触媒を添加する時期は、前記脂肪族ジカルボン酸と前記ポリプロピレングリコールとを反応器に仕込むのと同時に添加してもよく、昇温途中に添加してもよく、エステル化触媒を分割して添加してもよい。
【0018】
本発明のアクリルゴム用可塑剤を製造する際の反応温度は、原料となる前記脂肪族ジカルボン酸及び前記ポリプロピレングリコールが蒸発や昇華することを抑制しつつ反応を促進し、反応により生成するエステル化合物の熱分解、着色を抑制できることから、120℃〜300℃の範囲が好ましく、150℃〜280℃の範囲がより好ましい。また、アクリルゴム用可塑剤を製造する際の反応時間は、2時間以上であることが好ましく、4〜100時間の範囲であることがより好ましい。
【0019】
本発明のアクリルゴム用可塑剤の分子量は、加熱による揮発を効果的に抑制できることから、数平均分子量が1,000〜4,000の範囲である。また、アクリルゴム組成物をより柔軟にするためには、数平均分子量が1,500〜3,000の範囲が好ましい。
【0020】
なお、本発明のアクリルゴム用可塑剤の数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用して、ゲルパーミュエ−ションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定したもので、標準ポリスチレンに換算した値として得ることができる。測定条件は、下記の通りである。
【0021】
[アクリルゴム用可塑剤の数平均分子量(Mn)の測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製ガードカラム「HLC−8330」
カラム:東ソー株式会社製「TSK SuperH−H」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35mL/分
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
標準試料:前記「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0022】
(標準試料:単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0023】
本発明のアクリルゴム用可塑剤の酸価は、エポキシ系アクリルゴムにおいては加硫阻害や自己加水分解の防止から、1以下が好ましい。
【0024】
本発明のアクリルゴム用可塑剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の可塑剤を配合してもよい。配合できる他の可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジブトキシエトキシエチル、グルタル酸ジブトキシエトキシエトキシエチル等のエーテルエステル、ジオクチルフタレート(DOP)等のフタル酸ジエステル、トリオクチルトリメリテート(TOTM)等のトリメリット酸トリエステル、ポリエチレングリコールジオクタノエート等のポリエチレングリコールジエステルなどが挙げられる。これらは、単独で用いることも2種以上併用することもできる。ただし、本発明の効果を損なわない範囲とするためには、これらの可塑剤の配合量は、本発明のアクリルゴム用可塑剤中に50質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
本発明のアクリルゴム組成物のベース樹脂となるアクリルゴムとしては、例えば、アクリル酸アルキル及びアクリル酸アルコキシアルキルの一種以上を重合した重合体、アクリル酸アルキル及びアクリル酸アルコキシアルキルの一種以上と2−クロロエチルビニルエーテル又はアクリロニトリルとを重合した共重合体、アクリル酸アルキル及びアクリル酸アルコキシアルキルの一種以上と酢酸ビニル又はエチレンとを重合した共重合体が挙げられる。前記アクリル酸アルキルのアルキル成分としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブチルアルコール等のアルコール残基が挙げられる。また、アクリル酸アルコキシアルキルのアルコキシアルキル成分としては、メトキシメタノール、エトキシメタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール等のアルコキシアルコール残基が挙げられる。
【0026】
前記アクリルゴムは、ポリマー構造内に、架橋点となり得る塩素基、活性塩素基、エポキシ基、不飽和基、カルボキシル基等を有するものが好ましい。これらのアクリルゴムとしては、ユニマテック株式会社製「ノックスタイト PA−401、PA−401L、PA−402、PA−402K、PA−402L、PA−403、PA−404N、PA−404K」、JSR株式会社製「AR14、AR12、AREX210」、日本ゼオン株式会社製「Nipol AR31、AR51、AR71、AR32、AR42W、AR53L、AR12、AR54、AR74X、AR14」、株式会社トウペ製「トアアクロン」、電気化学工業株式会社製「デンカER」等の市販品を用いることができる。
【0027】
本発明のアクリルゴム組成物は、前記アクリルゴムに、本発明のアクリルゴム用可塑剤を配合したものである。本発明のアクリルゴム用可塑剤の前記アクリルゴムへの配合量は、十分にアクリルゴムを可塑化でき、ブリードアウトを抑制できることから、アクリルゴム100質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがより好ましい。
【0028】
本発明のアクリルゴム組成物には、本発明のアクリルゴム用可塑剤を、他の添加剤と一緒に配合することが好ましい。本発明のアクリルゴム用可塑剤以外の添加剤としては、カーボン等のゴム補強剤、老化防止剤、ゴム加硫剤・架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、スコーチ防止剤、紫外線防止剤、素練り促進剤、充填剤、滑剤などが挙げられる。また、これらの添加剤を含め、ラバーダイジェスト社発行の「便覧ゴム・プラスチック配合薬品」(改訂第二版:1993年10月30日)に記載されている添加剤を用いることができる。
【0029】
本発明のアクリルゴム組成物は、前記アクリルゴム、本発明のアクリルゴム用可塑剤及びその他の添加剤を同時に配合し、この配合物をオープンロール、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー、二本ロール等の混練機を用いて混練することにより得ることができる。また、混練温度は、活性塩素の脱離の防止、混練時の粘度低下による加工性の低下防止の観点から、70〜90℃が好ましく、75〜85℃がより好ましい。なお、混練時にはせん断熱により発熱を伴うため、通常は、流水やチラー等で混練機を冷却しながら混練することが好ましい。
【0030】
また、本発明の成形品は、アクリルゴム組成物を通常の成形方法、例えば、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、射出ブロー成形法、圧縮成形法、回転成形法等の成形方法によって成形したものである。これらの成形方法は、成形品の種類、大きさ、特性等に応じて、適宜選択することができる。
【0031】
本発明の成形品としては、例えば、自動車用の潤滑油ホース、燃料ホース、吸排気ホース、電装用ホース、エアコン用ホース、パワーステアリング用ホース、各種チューブ類、イグニッション・ワイヤー、パッキン、Oリング、ガスケット、オイルシール、タイミングベルト等の各種ベルト類、ダイヤフラムなどの各種部材が挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、分子量及び酸価の測定は、下記の条件により行った。
【0033】
[分子量の測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製ガードカラム「HLC−8330」
カラム:東ソー株式会社製「TSK SuperH−H」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35mL/分
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
標準試料:前記「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0034】
(標準試料:単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0035】
[酸価の測定条件]
JIS K 0070−1992に準じて測定した。
【0036】
(実施例1)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量1Lの四つ口フラスコに、アジピン酸(旭化成ケミカルズ株式会社製;以下、「AA」と略記する。)を124.1gと、ポリプロピレングリコール(以下、「PPG」と略記する。)(日油株式会社製「ユニオールD−250」;プロピレンオキサイドの平均付加モル数:4)を320.9gとを仕込んだ後、窒素ガスを塔頂温度100℃以下に維持するように100〜500ml/分の範囲で吹き込みながら、180℃まで1時間で昇温し、さらに3時間かけて230℃まで昇温した。230℃到達後、触媒としてチタンテトライソプロポキシド(以下、「TiPT」と略記する。)を0.022g加えた。次いで、230℃で生成する水分を除去しながら、反応生成物の酸価が1以下になるまで脱水エステル化反応を行った。反応生成物の酸価が1以下になったことを確認後、85質量%リン酸水溶液を0.0088g加え、反応生成物を珪藻土で濾過して取り出し、エステル化合物を得た。このエステル化合物の数平均分子量(Mn)は1,700、重量平均分子量(Mw)は3,800、酸価は0.4であった。
【0037】
(実施例2)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量1Lの四つ口フラスコに、AAを94.9gと、PPG(日油株式会社製「ユニオールD−400」;プロピレンオキサイドの平均付加モル数:7)を392.6gとを仕込んだ後、窒素ガスを塔頂温度100℃以下に維持するように100〜500ml/分の範囲で吹き込みながら、180℃まで1時間で昇温し、さらに3時間かけて230℃まで昇温した。230℃到達後、触媒としてTiPTを0.026g加えた。次いで、230℃で生成する水分を除去しながら、反応生成物の酸価が1以下になるまで脱水エステル化反応を行った。反応生成物の酸価が1以下になったことを確認後、85質量%リン酸水溶液を0.011g加え、反応生成物を珪藻土で濾過して取り出し、エステル化合物を得た。このエステル化合物の数平均分子量(Mn)は1,900、重量平均分子量(Mw)は3,800、酸価は0.4であった。
【0038】
(実施例3)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量1Lの四つ口フラスコに、AAを43.8gと、PPG(日油株式会社製「ユニオールD−1000」;プロピレンオキサイドの平均付加モル数:16)を453gとを仕込んだ後、窒素ガスを塔頂温度100℃以下に維持するように100〜500ml/分の範囲で吹き込みながら、180℃まで1時間で昇温し、さらに3時間かけて230℃まで昇温した。230℃到達後、触媒としてTiPTを0.025g加えた。次いで、230℃で生成する水分を除去しながら、反応生成物の酸価が1以下になるまで脱水エステル化反応を行った。反応生成物の酸価が1以下になったことを確認後、85質量%リン酸水溶液を0.014g加え、反応生成物を珪藻土で濾過して取り出し、エステル化合物を得た。このエステル化合物の数平均分子量(Mn)は2,700、重量平均分子量(Mw)は6,400、酸価は0.9であった。
【0039】
(比較例1)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量3Lの四つ口フラスコに、AAを146gと、ヘキサオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテル(青木油脂工業株式会社製「ブラウノンEH−6」;以下、「EH−6」と略記する。)を946gと、トルエンを33.0gと、TiPTを0.1gとを仕込んだ後、窒素ガスを塔頂温度100℃以下に維持するように100〜500ml/分の範囲で吹き込みながら、230℃まで昇温した。次いで、230℃で生成する水分を除去しながら、脱水エステル化反応を行った。反応生成物の酸価が2以下になった時点で減圧を開始し、230℃の状態で0.67kPa以下に減圧して、トルエン及び未反応アルコールを除去した。トルエン及び未反応アルコールの流出がなくなった後、減圧を解除し降温して、反応生成物を珪藻土で濾過して取り出し、エステル化合物を得た。このエステル化合物の数平均分子量(Mn)は1,400、重量平均分子量(Mw)は1,800、酸価は0.7であった。
【0040】
(比較例2)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量1Lの四つ口フラスコに、AAを146gと、ポリエチレングリコール(以下、「PEG」と略記する。)(日油株式会社製「PEG#200」;エチレンオキサイドの平均付加モル数:4)を292.9とを仕込んだ後、窒素ガスを塔頂温度100℃以下に維持するように100〜500ml/分の範囲で吹き込みながら、180℃まで1時間で昇温し、さらに3時間かけて230℃まで昇温した。230℃到達後、触媒としてTiPTを0.022g加えた。次いで、230℃で生成する水分を除去しながら、反応生成物の酸価が1以下になるまで脱水エステル化反応を行った。反応生成物の酸価が1以下になったことを確認後、85質量%リン酸水溶液を0.013g加え、反応生成物を珪藻土で濾過して取り出し、エステル化合物を得た。このエステル化合物の数平均分子量(Mn)は1,400、重量平均分子量(Mw)は3,300、酸価は0.2であった。
【0041】
(比較例3)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量1Lの四つ口フラスコに、AAを58.4gと、ポリテトラメチレングリコール(以下、「PTMG」と略記する。)(三菱化学株式会社製「テトラメチレングリコール650」;平均分子量:650)を392.6gとを仕込んだ後、窒素ガスを塔頂温度100℃以下に維持するように100〜500ml/分の範囲で吹き込みながら、180℃まで1時間で昇温し、さらに3時間かけて230℃まで昇温した。230℃到達後、触媒としてTiPTを0.023g加えた。次いで、230℃で生成する水分を除去しながら、反応生成物の酸価が1以下になるまで脱水エステル化反応を行った。反応生成物の酸価が1以下になったことを確認後、85質量%リン酸水溶液を0.012g加え、反応生成物を珪藻土で濾過して取り出し、エステル化合物を得た。このエステル化合物の数平均分子量(Mn)は1,900、重量平均分子量(Mw)は3,500、酸価は0.9であった。
【0042】
(比較例4)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量1Lの四つ口フラスコに、AAを65.7gと、ポリブチレングリコール(以下、「PBG」と略記する。)(日油株式会社製「ユニオールPB−500」;ブチレンオキサイドの平均付加モル数:7)を354.7gとを仕込んだ後、窒素ガスを塔頂温度100℃以下に維持するように100〜500ml/分の範囲で吹き込みながら、180℃まで1時間で昇温し、さらに3時間かけて230℃まで昇温した。230℃到達後、触媒としてTiPTを0.021g加えた。次いで、230℃で生成する水分を除去しながら、反応生成物の酸価が1以下になるまで脱水エステル化反応を行った。反応生成物の酸価が1以下になったことを確認後、85質量%リン酸水溶液を0.011g加え、反応生成物を珪藻土で濾過して取り出し、エステル化合物を得た。このエステル化合物の数平均分子量(Mn)は1,900、重量平均分子量(Mw)は3,400、酸価は1.0であった。
【0043】
(比較例5)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量1Lの四つ口フラスコに、AAを189.8gと、ジプロピレングリコール(以下、「DPG」と略記する。)(和光純薬工業株式会社製)を263gとを仕込んだ後、窒素ガスを塔頂温度100℃以下に維持するように100〜500ml/分の範囲で吹き込みながら、180℃まで1時間で昇温し、さらに3時間かけて230℃まで昇温した。230℃到達後、触媒としてTiPTを0.023g加えた。次いで、230℃で生成する水分を除去しながら、反応生成物の酸価が1以下になるまで脱水エステル化反応を行った。反応生成物の酸価が1以下になったことを確認後、85質量%リン酸水溶液を0.014g加え、反応生成物を珪藻土で濾過して取り出し、エステル化合物を得た。このエステル化合物の数平均分子量(Mn)は1,100、重量平均分子量(Mw)は2,000、酸価は0.2であった。
【0044】
(比較例6)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量1Lの四つ口フラスコに、AAを160.6gと、PPG(日油株式会社製「ユニオールD−250」;プロピレンオキサイドの平均付加モル数:4)を316.8gとを仕込んだ後、窒素ガスを塔頂温度100℃以下に維持するように100〜500ml/分の範囲で吹き込みながら、180℃まで1時間で昇温し、さらに3時間かけて230℃まで昇温した。230℃到達後、触媒としてTiPTを0.024g加えた。次いで、230℃で生成する水分を除去しながら、反応生成物の酸価が1以下になるまで脱水エステル化反応を行った。反応生成物の酸価が1以下になったことを確認後、85質量%リン酸水溶液を0.01g加え、反応生成物を珪藻土で濾過して取り出し、エステル化合物を得た。このエステル化合物の数平均分子量(Mn)は6,300、重量平均分子量(Mw)は10,300、酸価は1.0であった。
【0045】
(比較例7)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量3Lの四つ口フラスコに、2−エチルヘキサン酸(以下、「2−EHA」と略記する。)(協和発酵ケミカル株式会社製「オクチル酸」)を633.6gと、PEG(日油株式会社製「PEG#600」;エチレンオキサイドの平均付加モル数:13)を1200gと、TiPTを0.18gとを仕込んだ後、窒素ガスを塔頂温度100℃以下に維持するように100〜500ml/分の範囲で吹き込みながら、230℃まで昇温した。次いで、230℃で生成する水分を除去しながら、脱水エステル化反応を行った。反応生成物の酸価が2以下になった時点で減圧を開始し、230℃の状態で0.67kPa以下に減圧して、トルエン及び未反応アルコールを除去した。トルエン及び未反応アルコールの流出がなくなった後、減圧を解除し降温して、反応生成物を珪藻土で濾過して取り出し、エステル化合物を得た。このエステル化合物の数平均分子量(Mn)は1,110、重量平均分子量(Mw)は1,190、酸価は0.9であった。
【0046】
[アクリルゴム組成物の調製及び評価用シートの作製]
アクリルゴム(JSR株式会社製「AREX210」;活性塩素系アクリルゴム)100質量部、可塑剤として上記の実施例1〜3及び比較例1〜7で得られたエステル化合物10質量部、カーボン(東海カーボン株式会社製「シースト116」;MAFカーボン)75質量部、滑剤としてステアリン酸(和光純薬工業株式会社製)1質量部、酸化防止剤(大内新興化学工業株式会社製「ノクラックCD」)2質量部、加硫促進剤としてステアリン酸ナトリウム(日油株式会社製「ノンサールSN−1」)2.5質量部とステアリン酸カリウム日油株式会社製「ノンサールSK−1」)0.5質量部、及び加硫剤(鶴見化学工業株式会社製「サルファックスPMC」;硫黄分97.5質量%)0.3質量部を配合し、この配合物を二本ロールで混練し、アクリルゴム組成物を調製した。なお、混練は、ロールをチラーで冷却して配合物の温度が75〜85℃の温度範囲となるように制御しながら行った。
【0047】
[評価用シートの作製]
上記で得られたアクリルゴム組成物を加熱プレス機にセットし、170℃で20分、175℃×4時間加熱して十分に加硫を行い、評価用シートを作製した。
【0048】
上記で得られた評価用シートを用いて、下記の評価を行った。
【0049】
[アクリルゴムとの相溶性の評価]
上記で得られた評価用シートの外観を目視で観察して、均一か否かを確認し、下記の基準にしたがってアクリルゴムとの相溶性を評価した。
○:外観が均一である。
△:外観がやや均一でないところがある。
×:外観が不均一である。
【0050】
[耐ブリード性の評価]
上記で得られた評価用シートの表面を目視で観察して、可塑剤のしみ出しの有無を確認し、下記の基準にしたがって耐ブリード性を評価した。
○:しみ出し無し。
△:ややしみ出し有り。
×:しみ出し有り。
【0051】
[100%モデュラス及び引張伸び率の測定]
上記で得られた評価用シートを用いて、下記条件にて引張試験を実施し、100%モディラス(伸び100%時の引張応力)及び引張伸び率を測定した。なお、引張伸び率は、評価用シートが引張破断した時のチャック間距離から初期のチャック間距離20mmを引いた値をチャック間距離20mmで除して百分率で表したものである。
測定機器:株式会社オリエンテック社製「テンシロン万能材料試験機」
サンプル形状:ダンベル状3号型
チャック間距離:20mm
引張速度:500mm/分
測定雰囲気:温度23℃、湿度50%
【0052】
[加熱減量率の測定]
引張伸びの測定で用いた試験片(ダンベル状3号型)と同様のものをギア老化試験機(株式会社東洋精機製作所製の型式「ACRギアー・オーブン」;内容積60×60×60cm)に入れ、175℃で330時間加熱した。加熱前後の質量を用いて下式(1)より、加熱減量率を算出した。
加熱減量率(%)=(加熱前質量−加熱後質量)/加熱前質量×100 (1)
【0053】
[熱老化後の100%モデュラス及び引張伸び率の測定]
上記の加熱減量率の測定に用いた加熱後の試験片を用いて、上記と同様に100%モデュラス及び引張伸び率を測定した。また、加熱前の測定値と加熱後の測定値を用いて下式(2)より、100%モデュラス及び引張伸びの変化率を算出した。
変化率(%)=(加熱後測定値−加熱前測定値)/加熱前測定値×100 (2)
【0054】
上記の測定及び評価の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示した結果から、実施例1〜3の本発明のアクリルゴム用可塑剤は、アクリルゴムとの相溶性が良好で、アクリルゴム組成物中からの可塑剤のしみ出しが少なく、耐ブリード性に優れることが分かった。また、実施例1〜3の本発明のアクリルゴム用可塑剤を配合したアクリルゴム組成物は、熱老化前後の100%モデュラス及び引張伸びの変化率が小さく、加熱減量率も小さいことから、高温環境下の使用でも物性の低下が少なく、長期間にわたっての耐熱性に優れていることが分かった。
【0057】
比較例1は、PPGではなく水酸基を1つ有するアルコールを用いたエステル化合物を可塑剤とした例であるが、アクリルゴム組成物中からの可塑剤のしみ出しがやや多く、耐ブリード性が十分でないことが分かった。また、この可塑剤を配合したアクリルゴム組成物は、熱老化前後で100%モデュラスの変化率が大きく、より硬くなっており、加熱減量率も大きいことから、耐熱性が不十分であることが分かった。
【0058】
比較例2は、PPGではなくPEGを用いたエステル化合物を可塑剤とした例であるが、アクリルゴム組成物中からの可塑剤のしみ出しが多く、耐ブリード性が十分でないことが分かった。また、この可塑剤を配合したアクリルゴム組成物は、熱老化前後で100%モデュラス及び引張伸びの変化率が大きく、より硬くなっており、耐熱性が不十分であることが分かった。
【0059】
比較例3は、PPGではなくPTMGを用いたエステル化合物を可塑剤とした例であるが、この可塑剤を配合したアクリルゴム組成物は、熱老化前後で100%モデュラス及び引張伸びの変化率が非常に大きく、より硬くなっており、加熱減量率も大きいことから、耐熱性が不十分であることが分かった。
【0060】
比較例4は、PPGではなくPBGを用いたエステル化合物を可塑剤とした例であるが、この可塑剤を配合したアクリルゴム組成物は、熱老化前後で100%モデュラス及び引張伸びの変化率が大きく、より硬くなっており、耐熱性が不十分であることが分かった。
【0061】
比較例5は、PPGではなくDPGを用いたエステル化合物を可塑剤とした例であるが、この可塑剤を配合したアクリルゴム組成物は、熱老化前後で100%モデュラス及び引張伸びの変化率が大きく、より硬くなっており、加熱減量率も大きいことから、耐熱性が不十分であることが分かった。
【0062】
比較例6は、本発明のアクリルゴム用可塑剤の上限の数平均分子量である3,000を超えたエステル化合物を可塑剤とした例であるが、この可塑剤を配合したアクリルゴム組成物は、熱老化前後で100%モデュラス及び引張伸びの変化率が大きく、より硬くなっており、加熱減量率も大きいことから、耐熱性が不十分であることが分かった。
【0063】
比較例7は、2−エチルヘキサン酸とPEGとを反応させて得られたエステル化合物を可塑剤とした例であるが、アクリルゴム組成物中からの可塑剤のしみ出しがやや多く、耐ブリード性が十分でないことが分かった。また、この可塑剤を配合したアクリルゴム組成物は、加熱減量率が大きいことから、長期間にわたっての耐熱性が不十分であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ジカルボン酸とポリプロピレングリコールとをエステル化反応させて得られた数平均分子量が1,000〜4,000であるエステル化合物からなることを特徴とするアクリルゴム用可塑剤。
【請求項2】
前記脂肪族ジカルボン酸が、炭素原子数5〜10の脂肪族ジカルボン酸である請求項1記載のアクリルゴム用可塑剤。
【請求項3】
前記ポリプロピレングリコールが、プロピレンオキサイドの付加モル数3〜20である請求項1又は2記載のアクリルゴム用可塑剤。
【請求項4】
アクリルゴム100質量部に対して、請求項1〜3のいずれか1項記載のアクリルゴム用可塑剤を1〜30質量部含有することを特徴とするアクリルゴム組成物。
【請求項5】
請求項4記載のアクリルゴム組成物を成形したことを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2011−173950(P2011−173950A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37233(P2010−37233)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】