説明

アクリルゴム組成物、成形体及び自動車・電気・電子用部品

【課題】 本発明は、機械物性に非常に優れ、且つ低温特性を併せ持つアクリルゴム組成物を提供する。
【解決手段】 本発明は、(A)アクリルゴム、(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体、(C)少なくとも2種の充填剤を含有することを特徴とする、アクリルゴム組成物、該組成物からなる成形体、並びに該成形体を含んで構成される自動車・電気・電子用部品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械物性に優れ、且つ低温特性を併せ持つアクリルゴム組成物、該組成物からなる成形体、および該成形体を含んで構成される自動車・電気・電子用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、アクリル酸エステルを主成分とする重合体であって、一般に耐熱性、耐油性に優れたエラストマー材料として知られており、オイルシール、Oリングやパッキンなどのシール材の成形材料として使用されている。しかし、一般に、アクリルゴムは低温での脆化という問題があり、低温特性の更なる改善が望まれていた(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このような課題に対して、本発明者らは、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体の添加により、アクリルゴムの低温特性の改良が可能となることを見出している(特願2004−282819号参照)。該発明では、カーボンブラックなどのフィラーの使用が開示されているが、特に引張り強度が必要な用途などでは、大量のカーボンブラックを入れなくてはならず、そのような配合では、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体の添加が若干の強度低下を招く場合があった。
【非特許文献1】自動車用高分子材料の開発、シーエムシー出版、1989年、p.219
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、機械物性に非常に優れ、且つ低温特性を併せ持つアクリルゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、(A)アクリルゴム、(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体、(C)少なくとも2種の充填剤、を含有するアクリルゴム組成物が、機械強度と低温特性を併せ持つことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の構成によるものである。
【0006】
(A)アクリルゴム、(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体、(C)少なくとも2種の充填剤を含有することを特徴とする、アクリルゴム組成物(請求項1)。
【0007】
(A)アクリルゴム100重量部に対して、(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体0.1〜100重量部、(C)少なくとも2種の充填剤0.1〜200重量部(充填剤の総量)を含有することを特徴とする、請求項1記載のアクリルゴム組成物(請求項2)。
【0008】
アクリルゴムが、アクリルゴム全体中、架橋性単量体単位を0.01〜20重量%含有することを特徴とする、請求項1または2に記載のアクリルゴム組成物(請求項3)。
【0009】
(A)アクリルゴム100重量部に対して、架橋剤(E)を0.005〜10重量部含有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のアクリルゴム組成物(請求項4)。
【0010】
(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体が、グラフト成分含有量5〜50重量%とポリオルガノシロキサン含有量95〜50重量%からなるポリオルガノシロキサン系グラフト重合体であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のアクリルゴム組成物(請求項5)。
【0011】
(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体のグラフト成分全体中におけるメタアクリル酸アルキルエステル単位の含量が5〜99.5重量%、アクリル酸アルキルエステル単位の含量が95〜0.5重量%であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のアクリルゴム組成物(請求項6)。
【0012】
ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)がシード重合により得られることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載のアクリルゴム組成物(請求項7)。
【0013】
(C)少なくとも2種の充填剤のうち1種がカーボンブラックであることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載のアクリルゴム組成物(請求項8)。
【0014】
(C)少なくとも2種の充填剤のうち、1種がカーボンブラック、もう1種がシリカであることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載のアクリルゴム組成物(請求項9)。
【0015】
請求項1乃至9のいずれかに記載のアクリルゴム組成物からなる成形体(請求項10)。
【0016】
請求項10に記載の成形体を含んで構成される自動車・電気・電子用部品(請求項11)。
【発明の効果】
【0017】
本発明におけるアクリルゴム組成物は、低温特性、機械特性にとくに優れることから、自動車用部品、電気・電子用部品に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の組成物について詳細に説明する。本発明のアクリルゴム組成物は、(A)アクリルゴム、(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体、(C)少なくとも2種の充填剤、を含有することを特徴とする。
【0019】
<(A)アクリルゴム>
本発明におけるアクリルゴム(A)は、公知のものであれば特に限定されないが、例えば、炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび炭素数2〜8のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分とするアクリル酸エステル系単量体単位であることが好ましく、さらにはこれに少量の水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、反応性ハロゲン基、アミド基または不飽和基等の架橋性基を有する不飽和単量体を共重合させたものがより好ましく用いられうる。
【0020】
アクリルゴム中のアクリル酸エステル系単量体単位の含有量は50重量%以上であれば良く、特に限定されない。例えば、前記アクリル酸エステル系単量体単位以外の単位として、架橋性単量体単位を含有していると、後述の架橋剤と併用することで、機械的強度や圧縮永久歪みを特に改善することができる。架橋性単量体単位の含有量としては、アクリルゴム全体中、0.01〜20重量%であることが好ましく、さらには、0.02〜15重量%であることが好ましい。架橋性単量体単位の含有量が0.01重量%よりも少ないと、架橋後の物性の向上が十分でない場合があり、20重量%よりも多いと、架橋密度が高くなりすぎて脆くなるなど、かえって物性低下を招く場合がある。
【0021】
アクリル酸エステル系単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ポリアルキレングリコールアクリル酸エステルなどアクリル酸エステル系単量体;メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレートなどのアルキルアルコキシ基を有するアクリル酸エステル系単量体、などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0022】
架橋性単量体としては、公知の架橋性成分を広く使用することができるが、例えば、活性ハロゲンを有する単位、不飽和二重結合を有する単位、エポキシ基を有する単位、等の架橋性成分を含有する、前記アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な単量体であることが好ましい。
【0023】
さらに具体的には、活性ハロゲンを有する単量体としては、(1)2−クロロエチルビニルエ−テル、2−クロロエチルアクリレ−ト、ビニルベンジルクロライド、(2)ビニルクロロアセテート、アリルクロロアセテート、(3)グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエステルなどのグリシジル化合物とモノクロロ酢酸との付加反応生成物、あるいは(4)α−またはβ−ハロゲン置換脂肪族モノカルボン酸のアルケニルエステル、(メタ)アクリル酸のハロアルキルエステル、ハロアルキルアルケニルエステル、ハロアルキルアルケニルケトンまたはハロアセトキシアルキルエステル、ハロアセチル基含有不飽和化合物等のハロゲン含有単量体等が例示されうる。なお、本発明において(メタ)アクリルとは、特に断らない限り、アクリルおよび/またはメタアクリルを意味するものとする。
【0024】
また、不飽和二重結合を有する単位としては、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエンなどの共役ジエン系単量体、エチリデンノルボルネン、ビニリデンノルボルネンなどの不飽和ノルボルネン系単量体、2−ブテニル(メタ)アクリレート、3−メチル−2−ブテニル(メタ)アクリレート、3−メチル−2−ペンチル(メタ)アクリレート、3−メチル−2−ヘキセニル(メタ)アクリレートなどのアルケニル(メタ)アクリレート等が例示されうる。
【0025】
また、エポキシ基を有する単位としては、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等が例示されうる。
【0026】
本発明におけるアクリルゴムにおいては、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲で、上記単量体単位以外に、アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な単量体単位を含有していてもよい。その具体例としては、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、アクリルアミド、塩化ビニル、アクリル酸、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、メタクリロニトリル、塩化ビニリデンなどのビニル系単量体、などが挙げられる。アクリルゴムの製造方法は特に限定されず、公知の方法で重合すればよい。
【0027】
<(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体>
本発明におけるポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)について説明する。ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体は、本発明に係る組成物のマトリックス樹脂であるアクリルゴムに配合し分散される。マトリックス樹脂であるアクリルゴム単独の脆化温度以下であっても、脆化による破壊は起こらず、良好な低温特性を発現させることを可能とする。また、低温での弾性回復特性(TR特性)や低温ねじり特性(ゲーマンねじり特性)といった低温特性についても、その改善効果を発現させることができ、低温弾性回復温度や低温での引張り永久歪み特性を改善することが可能である。更には、本来、ポリオルガノシロキサンが発現し得る種々の特性(金型離型性などの成形加工性、摺動性、難燃性など)を付与し得るものである。
【0028】
ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)は、組成等に特に限定はないが、ポリオルガノシロキサン(d1)50〜95重量%の存在下に、単量体(d2)0〜10重量%を重合し、さらにビニル系単量体(d3)5〜50重量%((d1)、(d2)および(d3)合わせて100重量%)を重合してなる共重合体であることが好ましい。単量体(d2)は、分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体(x)50〜100重量%、およびその他の前記多官能性単量体と共重合可能なビニル系単量体(y)0〜50重量%からなる単量体であることが好ましい。
【0029】
さらには、単量体(d2)とビニル系単量体(d3)をあわせたグラフト成分の含有量5〜50重量%に対し、ポリオルガノシロキサンの含有量が95〜50重量%、特には95〜75重量%である、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体が好ましい。
【0030】
前記のポリオルガノシロキサン(d1)は、特にその製造方法に限定は無く、通常の乳化重合でも得ることができる。例えば、オルガノシロキサン、水、乳化剤等をホモジナイザー等で乳化し、この乳化物を酸により重合する方法などが例示されうる。
【0031】
前記のポリオルガノシロキサンの重合は、ラテックス状態での粒子径分布が狭くできる利点などからもシード重合を利用することが好ましい。上記シード重合に用いるシードポリマーはアクリル酸ブチルゴム、ブタジエンゴム、ブタジエン−スチレンゴムやブタジエン−アクリロニトリルゴム等のゴム成分に限定されるものではなく、例えば、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体やスチレン−アクリロニトリル共重合体等の重合体でも問題ない。また、シードポリマーを形成するための重合には連鎖移動剤を用いてもよい。ポリオルガノシロキサンの製造の際、シードを用いることによって得られるポリオルガノシロキサンの粒子径分布を小さくコントロールでき、これから得られるポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体を本願発明の組成物に用いた場合、成形体の物性、例えば、低温特性や引張り特性などを向上させることができる。またポリオルガノシロキサン(d1)の重合には、グラフト交叉剤、必要によっては架橋剤を使用することができる。シード重合の際のシードポリマー使用量は、使用するオルガノシロキサンに対して0.1〜10重量%であることが好ましい。
【0032】
具体的に使用されるオルガノシロキサンは、一般式RmSiO(4-m)/2(式中、Rは置換または非置換の1価の炭化水素基であり、mは0〜3の整数を示す)で表される構造単位を有するものであり、直鎖状、分岐状または環状構造を有するが、入手のし易さやコストの観点から環状構造を有するオルガノシロキサンを使用することが好ましい。このオルガノシロキサンの有する置換または非置換の1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、およびそれらをシアノ基などで置換した置換炭化水素基などをあげることができる。オルガノシロキサンの具体例としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサンなどの環状化合物のほかに、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサンを挙げることができる。これらオルガノシロキサンは、少なくとも1種使用することができる。
【0033】
前記において用いることができるグラフト交叉剤は、例えば、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン、p−ビニルフェニルエチルジメトキシシラン、2−(p−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、3−(p−ビニルベンゾイロキシ)プロピルメチルジメトキシシラン、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、テトラビニルテトラメチルシクロシロキサン、アリルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等があげられる。このグラフト交叉剤の使用割合は、オルガノシロキサンに対して0.1〜10重量%が好ましい。グラフト交叉剤の使用量が10重量%より多いと最終成形体の耐衝撃性が低下する場合があり、グラフト交叉剤の使用量が0.1重量%より少ないと凝固・熱処理時に大きな塊ができてまともな樹脂粉末が得られなかったり、最終成形体の成形性が低下する場合がある。
【0034】
本発明に用いるポリオルガノシロキサン(d1)の合成の際に、必要なら架橋剤を添加することもできる。この架橋剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランなどの3官能性架橋剤、テトラエトキシシラン、1,3ビス〔2−(ジメトキシメチルシリル)エチル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(ジメトキシメチルシリル)エチル〕ベンゼン、1,3−ビス〔1−(ジメトキシメチルシリル)エチル〕ベンゼン、1,4−ビス〔1−(ジメトキシメチルシリル)エチル〕ベンゼン、1−〔1−(ジメトキシメチルシリル)エチル〕−3−〔2−(ジメトキシメチルシリル)エチル〕ベンゼン、1−〔1−(ジメトキシメチルシリル)エチル〕−4−〔2−ジメトキシメチルシリル〕エチル〕ベンゼンなどの4官能性架橋剤を挙げることができる。これら架橋剤は、少なくとも1種用いることができる。この架橋剤の添加量は、オルガノシロキサン100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましい。架橋剤の添加量が10重量部より多いと、ポリオルガノシロキサン(d1)の柔軟性が損なわれるため、アクリルゴム組成物から得られるゴム材料の低温での耐衝撃性が低下する場合がある。
【0035】
ラテックス状態のポリオルガノシロキサン(d1)の体積平均粒子径は0.008〜0.6μmが好ましいが、0.08〜0.4μmにするとさらに好ましい。体積平均粒子径が0.008μm未満のものを安定的に得ることは難しく、逆に0.6μmを越えると最終成形体の耐衝撃性が悪くなる場合がある。
【0036】
前記の分子内に重合性不飽和結合を2つ以上含む多官能性単量体(x)の具体例としては、例えば、メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジビニルベンゼンなどがあげられる。これらは少なくとも1種用いることができる。
【0037】
その他の多官能性単量体と共重合可能なビニル系単量体(y)の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、メタクリル酸グリシジルなどの分子中にエポキシ基を含むビニル単量体などがあげられる。これらは少なくとも1種用いることができる。
【0038】
前記の多官能性単量体(x)と共重合可能な単量体(y)からなる単量体(d2)は、特に、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)におけるポリシロキサン(d1)の含有量が75重量%以上となるような高い場合において、グラフト重合体樹脂の粉体化を可能にする働きを有している。さらに、(d1)成分に用いられるグラフト交叉剤として、一般に、後述のビニル系単量体(d3)のグラフト重合時におけるグラフト効率が不十分とされているグラフト交叉剤、具体的には、例えば、特開昭60−252613号公報に記載のメルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基含有化合物を用いた場合では、(d2)成分の使用により、ビニル系単量体(d3)のうち、グラフトに関与しない重合体成分(フリーポリマー成分)を大きく低減することが可能となり、より効率的なグラフト重合が可能となる。このような効果により、本発明によるゴム組成物から得られる成形体の物性、例えば、低温特性や引張り特性を、効果的に改善することが可能となる。
【0039】
単量体(d2)としては、多官能性単量体(x)が好ましくは50〜100重量%、更には90〜100重量%であることがより好ましく、その他の多官能性単量体と共重合可能な単量体(y)が、好ましくは0〜50重量%、更には0〜10重量%からなることがより好ましい。
【0040】
単量体(d2)の使用量はポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)中、0〜10重量%、更には0.5〜10重量%であることが好ましい。使用量が多いほど得られる紛体の状態はよくなるが、10重量%を越えると最終成形体の低温特性(特に耐衝撃性)が低下する場合がある。
【0041】
本発明に用いるビニル系単量体(d3)は、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)とアクリルゴム(A)との相溶性を確保して、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)を均一に分散させるために使用される成分である。具体的な単量体としては、前記その他の共重合可能な単量体(y)と同じものが挙げられる。具体的には、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、メタクリル酸グリシジルなどの分子中にエポキシ基を含むビニル単量体、メタクリル酸、アクリル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸などがあげられ、これらを少なくとも1種用いることができる。
【0042】
ここで、ビニル系単量体(d3)は、ビニル系単量体(d3)を重合して得られる重合体の溶解度パラメータ値を、マトリックス樹脂であるアクリルゴムの溶解度パラメータ値と近くなるよう選択することが好ましい。アクリルゴムの溶解度パラメータに対して、ビニル系単量体(d3)を重合して得られる重合体の溶解度パラメータの値が近くなるように選択することで、アクリルゴム中でのポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体の分散状態が優れ、成形体の低温特性を大きく向上させることが可能となる。一方、溶解度パラメータの値が大きく異なりすぎると、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体の分散状態が優れず、また、一度分散させたポリオルガノシロキサン系グラフト重合体が再凝集する恐れもあり、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体による優れた低温特性を付与することが困難になる場合がある。
【0043】
上記(d3)成分として、(メタ)アクリル酸エステル系単量体類を使用する場合においては、メタアクリル酸アルキルエステル含量が5〜99.5重量%、さらには5〜97重量%であることが好ましく、アクリル酸アルキルエステル含量が95〜0.5重量%、さらには95〜3重量%であることが好ましい。メタアクリル酸アルキルエステル含量が99.5重量%より多い場合、熱分解により耐熱性が低下する場合がある。また、耐熱性を要求される場合には、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体のグラフト成分全体中メタアクリル酸またはアクリル酸0.5〜10重量%を含有することが好ましい。
【0044】
本発明のポリオルガノシロキサン(d1)の製造に用いるラジカル重合開始剤の具体例としては、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどの有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられる。この重合を硫酸第一鉄−ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ−エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩、硫酸第一鉄−グルコース−ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄−ピロリン酸ナトリウム−リン酸ナトリウムなどのレドックス系で行うと低い重合温度でも重合を完了することができる。
【0045】
乳化重合によって得られたポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)ラテックスからポリマーを分離する方法としては、特に限定は無いが、たとえばラテックスに塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩を添加することによりラテックスを凝固、分離、水洗、脱水し、乾燥する方法などがあげられる。また、スプレー乾燥法も使用できる。
【0046】
ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)の使用量については、アクリルゴム(A)100重量部に対して、0.1〜100重量部が好ましく、さらには1〜80重量部がより好ましい。ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)の含有量が100重量部より多いと、耐油性が低下する場合があり、0.1重量部より少ないと、低温特性改善が不十分になる場合がある。
【0047】
<(C)充填剤>
本発明における(C)成分は、(A)アクリルゴムおよび(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体を含有する組成物、並びにそれから得られる成形体を補強するためのものであり、通常ゴム工業で使用されている補強剤である、酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、クレー、カオリン、シリカ、雲母粉、アルミナ、ガラス繊維、金属繊維、チタン酸カリウィスカー、アスベスト、ウォラストナイト、マイカ、タルク、ガラスフレーク、ミルドファイバー、金属粉末の中から選択される。
【0048】
本発明においては、少なくとも2種の充填剤を使用することにより目的が達成される。例えば、補強効果、加工性、コストなどの点で、カーボンブラックを使用することが好ましいが、カーボンブラック単独では、脆化温度改良に優れるものの機械強度改良不足である。一方、シリカ単独では、機械強度改良に優れるものの脆化温度改良不足である。これに対し、カーボンブラックとシリカを併せて使用すると、それぞれ両方の改良効果を付与することができ、特に機械強度に優れるため、好ましい。
【0049】
本発明における(C)成分について、使用する充填剤の総量は、アクリルゴム(A)100重量部に対して、0.1〜200重量部、さらに好ましくは1〜100重量部である。使用量が200重量部を越えると加工性が悪くなり、0.1重量部未満であると補強効果が不十分となる場合がある。
【0050】
<(E)架橋剤>
本発明における架橋剤(E)は、アクリルゴム(A)の架橋性単量体単位を基点に架橋させ、より良好なゴム弾性を発現するために使用される成分である。
【0051】
架橋剤(E)は、アクリルゴムの架橋性単位の種類によって使い分けることで効率的な架橋が可能となり、圧縮永久歪みに優れる架橋ゴムをより得やすくすることが可能となる。本発明においては、広く公知の架橋剤を使用することができる。例えば、アクリルゴムの架橋性単位が活性ハロゲンを有する場合、ポリアミンカーバメイト類、有機カルボン酸アンモニウム塩、有機カルボン酸アルカリ金属塩、硫黄化合物を、エポキシ基を有する場合は、ポリアミンカーバメイト類、有機カルボン酸アンモニウム塩、ジチオカルバミン酸塩類、有機カルボン酸アルカリ金属塩、硫黄化合物を、不飽和二重結合を有する単位の場合は、硫黄や有機過酸化物等を好適に使用することができるが、これらに限定されるわけではない。
【0052】
本発明における架橋剤(E)の添加量は、アクリルゴム100重量部に対して、0.005〜10重量部が好ましく、さらには、0.1〜5重量部であることがより好ましい。添加量が0.005重量部より少ないと、架橋が十分に進行せず物性向上の効果が発現されない場合があり、10重量部より多いと、残留する架橋剤成分の影響で物性低下を招く場合がある。
【0053】
<組成物>
本発明のアクリルゴム組成物には、滑剤や熱可塑性樹脂を、(A)アクリルゴム100重量部に対して、0.1〜100重量部の範囲で配合することができる。
【0054】
滑剤としては、たとえばステアリン酸、パルミチン酸などの脂肪酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウムなどの脂肪酸金属塩、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタン酸系ワックスなどのワックス類、低分子量ポリエチレンや低分子量ポリプロピレンなどの低分子量ポリオレフィン、ジメチルポリシロキサンなどのポリオルガノシロキサン、ククタデシルアミン、リン酸アルキル、脂肪酸エステル、エチレンビスステアロアミドなどのアミド系滑剤、4−フッ化エチレン樹脂などのフッ素樹脂粉末、二硫化モリブデン粉末、シリコーン樹脂粉末、シリコーンゴム粉末、シリカなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも樹脂表面の低摩擦性、加工性に優れる点から、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリルアミドが好ましい。
【0055】
熱可塑性樹脂としては、たとえばポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状オレフィン共重合樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびイミド化ポリメチルメタクリレート樹脂などがあげられる。これらは単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
本発明の組成物には、さらに必要特性に応じて、安定剤(老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤など)、柔軟性付与剤、難燃剤、離型剤、帯電防止剤、抗菌抗カビ剤などを添加してもよい。これらの添加剤は、必要とされる物性や、加工性などに応じて、適宜適したものを選択して適量使用すればよい。
【0057】
安定剤(老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤など)としては、つぎの化合物があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
老化防止剤としては、フェニルα−ナフチルアミン(PAN)、オクチルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(DPPD)、N,N’−ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン(DNPD)、N−(1,3−ジメチル−ブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン(IPPN)、N,N’−ジアリル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン誘導体、ジアリル−p−フェニレンジアミン混合物、アルキル化フェニレンジアミン、4,4’−α、α−ジメチルベンジルジフェニルアミン、p,p−トルエンスルフォニルアミノジフェニルアミン、N−フェニル−N’−(3−メタクリロイロキシ−2−ヒドロプロピル)−p−フェニレンジアミン、ジアリルフェニレンジアミン混合物、ジアリル−p−フェニレンジアミン混合物、N−(1−メチルヘプチル)−N−フェニル−p−フェニレンジアミン、ジフェニルアミン誘導体などのアミン系老化防止剤、2−メルカプトベンゾイミダゾール(MBI)などのイミダゾール系老化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどのフェノール系老化防止剤、ニッケルジエチル−ジチオカーバメイトなどのジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、トリフェニルホスファイトなどの2次老化防止剤などがあげられる。
【0059】
また、光安定剤や紫外線吸収剤としては、4−t−ブチルフェニルサリシレート、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−ジアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−ヒドロキシ−5−クロルベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、モノグリコールサリチレート、オキザリック酸アミド、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどがあげられる。これら安定剤は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
柔軟性付与剤としては、たとえば熱可塑性樹脂やゴムに通常配合される可塑剤、軟化剤、オリゴマー、油分(動物油、植物油など)、石油留分(灯油、軽油、重油、ナフサなど)などがあげられるが、アクリルゴム(A)やポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)との親和性に優れたものを用いるのが好ましい。なかでも、低揮発性で加熱減量の少ない可塑剤であるアジピン酸誘導体、フタル酸誘導体、グルタル酸誘導体、トリメリト酸誘導体、ピロメリト酸誘導体、ポリエステル系可塑剤、グリセリン誘導体、エポキシ誘導体ポリエステル系重合型可塑剤、ポリエーテル系重合型可塑剤などが好適に使用されうる。
【0061】
軟化剤としては、たとえばパラフィン系オイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどの石油系プロセスオイル等のプロセスオイルなどがあげられる。
【0062】
可塑剤としては、たとえばフタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジ−(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジシクロヘキシルなどのフタル酸誘導体;ジメチルイソフタレートのようなイソフタル酸誘導体;ジ−(2−エチルヘキシル)テトラヒドロフタル酸のようなテトラヒドロフタル酸誘導体;アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ−n−ヘキシル、アジピン酸ジ−(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸イソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジブチルジグリコールなどのアジピン酸誘導体;アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸誘導体;セバシン酸ジブチルなどのセバシン酸誘導体;ドデカン二酸誘導体;マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのマレイン酸誘導体;フマル酸ジブチルなどのフマル酸誘導体;p−オキシ安息香酸2−エチルヘキシルなどのp−オキシ安息香酸誘導体、トリメリト酸トリス−2−エチルヘキシルなどのトリメリト酸誘導体;ピロメリト酸誘導体;クエン酸アセチルトリブチルなどのクエン酸誘導体;イタコン酸誘導体;オレイン酸誘導体;リシノール酸誘導体;ステアリン酸誘導体;その他の脂肪酸誘導体;スルホン酸誘導体;リン酸誘導体;グルタル酸誘導体;アジピン酸、アゼライン酸、フタル酸などの2塩基酸とグリコールおよび1価アルコールなどとのポリマーであるポリエステル系可塑剤、グルコール誘導体、グリセリン誘導体、塩素化パラフィンなどのパラフィン誘導体、エポキシ誘導体ポリエステル系重合型可塑剤、ポリエーテル系重合型可塑剤、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート誘導体、N−ブチルベンゼンアミドなどのベンゼンスルホン酸誘導体などがあげられるが、これらに限定されるものではなく、ゴム用または熱可塑性樹脂用可塑剤として広く市販されているものなどの種々の可塑剤を用いることができる。
【0063】
市販されている可塑剤としては、チオコールTP(モートン社製)、アデカサイザーO−130P、C−79、UL−100、P−200、RS−735(旭電化工業(株)製)、サンソサイザーN−400(新日本理化(株)製)、BM−4(大八化学工業(株)製)、EHPB(上野製薬(株)製)、UP−1000(東亞合成化学(株)製)などがあげられる。
【0064】
油分としては、たとえばひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、パインオイル、トール油、ゴマ油、ツバキ油などの植物油などがあげられる。
【0065】
そのほかの柔軟性付与剤としては、ポリブテン系オイル、スピンドル油、マシン油、トリクレジルホスフェートなどがあげられる。
【0066】
難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、デカブロモビフェニル、デカブロモビフェニルエーテル、三酸化アンチモンなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。これら難燃剤は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
また、アクリルゴム(A)、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)、充填剤(C)の相溶性を良好にするために、相溶化剤として種々のグラフトポリマーやブロックポリマーを添加してもよい。
【0068】
前記相溶化剤としては、クレイトンシリーズ(シェルジャパン(株)製)、タフテックシリーズ(旭化成工業(株)製)、ダイナロン(日本合成ゴム(株)製)、エポフレンド(ダイセル化学工業(株)製)、セプトン(クラレ(株)製)、ノフアロイ(日本油脂(株)製)、レクスパール(日本ポリオレフィン(株)製)、ボンドファースト(住友化学工業(株)製)、ボンダイン(住友化学工業(株)製)、アドマー(三井化学(株)製)、ユーメックス(三洋化成工業(株)製)、VMX(三菱化学(株)製)、モディーパー(日本油脂(株)製)、スタフィロイド(武田薬品工業(株)製)、レゼタ(東亜合成(株)製)などの市販品をあげることができる。これらは、アクリルゴム(A)の物性を補うために用いるポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)の組み合わせに応じて適宜選択して使用することができる。
【0069】
本発明におけるアクリルゴム組成物は、各成分の所定量を一般のゴム混練用に使用されるバンバリーミキサー、ニーダー、インターミキサー、二本ロール、プラストミル等の混合機にて混練することにより容易に製造することが可能である。
【0070】
このようにして得られたアクリルゴム組成物は、例えば、射出成形や熱プレス成形といった成形方法で、成形目的に応じた形状に成形され、必要に応じて加硫されて成形品となる。加硫温度としては通常120℃以上の温度が適しており、好ましくは140〜200℃であり、この温度において1〜30分間程度加硫が行われる。また、必要に応じて約140〜200℃の温度で1〜48時間程度の後加硫を行い、物性の改善をはかることができる。
【0071】
本発明のアクリルゴム組成物は、成形体として使用することができる。成形としては、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形、発泡成形、射出成形などの任意の成形加工法を例示することができる。
【0072】
本発明から得られるゴム材料は、ガスケット、パッキン、シーリング材、防振、防水、運動具類の用途を中心に広く使用することができる。これら用途として例えば自動車、電気、電子、建築、スポーツ用品類、特に自動車、電気、電子部品用に好適に用いられる。
【0073】
例えば自動車分野ではボディ部品として、気密保持のためのシール材、ガラスの振動防止材、車体部位の防振材、特にウインドシールガスケット、ドアガラス用ガスケットに使用することができる。シャーシ部品として、防振、防音用のエンジンおよびサスペンジョンゴム、特にエンジンマウントラバーに使用することができる。エンジン部品としては、冷却用、燃料供給用、排気制御用などのホース類、エンジンオイル用シール材などに使用することができる。また、排ガス清浄装置部品、ブレーキ部品にも使用できる。
【0074】
電気、電子用部品としては、パッキン、Oリング、ベルトなどに使用できる。具体的には、照明器具用の飾り類、防水パッキン類、防振ゴム類、防虫パッキン類、クリーナ用の防振・吸音と空気シール材、電気温水器用の防滴カバー、防水パッキン、ヒータ部パッキン、電極部パッキン、安全弁ダイアフラム、酒かん器用のホース類、防水パッキン、電磁弁、スチームオーブンレンジ及びジャー炊飯器用の防水パッキン、給水タンクパッキン、吸水バルブ、水受けパッキン、接続ホース、ベルト、保温ヒータ部パッキン、蒸気吹き出し口シールなど燃焼機器用のオイルパッキン、Oリング、ドレインパッキン、加圧チューブ、送風チューブ、送・吸気パッキン、防振ゴム、給油口パッキン、油量計パッキン、送油管、ダイアフラム弁、送気管など、音響機器用のスピーカーガスケット、スピーカーエッジ、ターンテーブルシート、ベルト、プーリー等が挙げられる。
【0075】
建築分野では、構造用ガスケット(ジッパーガスケット)、空気膜構造屋根材、防水材、定形シーリング材、防振材、防音材、セッティングブロック、摺動材等に使用できる。
【0076】
スポーツ分野では、スポーツ床として全天候型舗装材、体育館床等、スポーツシューズとして靴底材、中底材等、球技用ボールとしてゴルフボール等に使用できる。
【0077】
防振ゴム分野では、自動車用防振ゴム、鉄道車両用防振ゴム、航空機用防振ゴム、防舷材等に使用できる。
【0078】
海洋・土木分野では、構造用材料として、ゴム伸縮継手、支承、止水板、防水シート、ラバーダム、弾性舗装、防振パット、防護体等、工事副材料としてゴム型枠、ゴムパッカー、ゴムスカート、スポンジマット、モルタルホース、モルタルストレーナ等、工事補助材料としてゴムシート類、エアホース等、安全対策商品としてゴムブイ、消波材等、環境保全商品としてオイルフェンス、シルトフェンス、防汚材、マリンホース、ドレッジングホース、オイルスキマー等に使用できる。その他、板ゴム、マット、フォーム板等にも使用できる。
【実施例】
【0079】
つぎに、本発明の組成物を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0080】
<試験方法>
(引張特性(機械強度))
JIS K7113に記載の方法に準じて、(株)島津製作所製のオートグラフAG−10TB型を用いて測定した。測定はn=3で行い、試験片が破断したときの強度(MPa)および伸び(%)の平均値を採用した。試験片は2(1/3)号形の形状で、厚さが約2mm厚のものを用いた。試験は、23℃、500mm/分の試験速度で行った。試験片は、原則として、試験前に温度23±2℃、相対湿度50±5%で48時間以上、状態調節したものを用いた。
【0081】
(低温脆化性)
JIS K7216に準拠し、2mm厚の成形体シートを38×6mmに切り出して低温脆化温度測定器「標準モデルS型(ドライアイス式)」(東洋精機(株)製)を用い、ドライアイスとメタノール混合物を冷媒として低温脆化温度を測定した。
【0082】
<評価用成形体作製法>
所定量のアクリルゴム、カーボンブラック、滑剤及び酸化防止剤を、ニーダー「DS1−5MHB−E」((株)モリヤマ製)を用いて所定の条件(試料量:700g、チャンバー設定温度:50℃、予熱時間:無し、前ブレード回転数:20rpm、後ブレード回転数:14.7rpm、チャンバー容量:1L、混練時間:8分)で混練した。その後、前ブレード回転数:34rpm、後ブレード回転数:24.9rpmに変更し、4分間混練し、塊状のサンプルを得た。このようにして得られた所定量の塊状のサンプルとシリカを、プラストミル「MODEL20C200」(東洋精機(株)製)を用いて所定の条件(試料量:45g、チャンバー設定温度:80℃、予熱時間:無し、スクリュー回転数:26rpm、ブレード:ローラ型R60B2軸、チャンバー容量:60CC、ミキサー:チッカ耐磨耗ローラミキサーR60HT、混練時間:2分間)で混練した。さらに、ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体粒子を添加し、7分間混練を続けた。混練を停止して、樹脂温度を60℃まで冷却した後、架橋剤として、安息香酸アンモニウムをアクリルゴム100重量部に対して1.5重量部添加し、所定の条件で8分間混練し、塊状のサンプルを得た。このようにして得られた塊状のサンプルを、プレス機「NSF−50」(神藤金属工業所(株)製)を用いて所定の条件(プレス温度:170℃、プレス圧力:5MPaで35分間プレス後、2MPaで30℃まで冷却)に従ってプレス成形し、厚さ2mmのシート状成形体を得た。さらに、該シート状成形体を170℃で所定の時間アニールし、得られたシート状成形体を用いて表1記載の各評価を行った。
【0083】
<ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体の製造例>
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水400重量部及び10重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ水溶液を12重量部(固形分)を混合したのち50℃に昇温し、液温が50℃に達した後、窒素置換を行った。その後、ブチルアクリレート10重量部、t−ドデシルメルカプタン3重量部を加えた。30分後、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.01重量部(固形分)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.3重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム(EDTA)0.01重量部、硫酸第一鉄0.0025重量部を添加し、1時間撹拌した。ブチルアクリレート90重量部、t−ドデシルメルカプタン27重量部、及びパラメンタンハイドロパーオキサイド0.09重量部(固形分)の混合液を3時間かけて連続追加した。その後、2時間の後重合を行い、シードポリマーを含むラテックスを得た。
【0084】
次に、撹拌機、還流冷却水、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、上述のシードポリマーを2重量部(固形分)仕込んだ。その後、別途純水300重量部(シードポリマーを含むラテックスからの持ち込み分を含む)、15重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ水溶液0.49重量部(固形分)、オクタメチルシクロテトラシロキサン98重量部、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン2.94重量部の成分からなる混合物をホモミキサーにて7000rpmで5分間撹拌してポリオルガノシロキサン形成成分のエマルジョンを調製し、一括で添加した。
【0085】
次に、10重量%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液1.5重量部(固形分)を添加した後、系を撹拌しながら窒素気流下で80℃まで昇温させた。80℃到達後、80℃で9時間撹拌を続けた後、25℃に冷却して18時間放置した。その後、水酸化ナトリウムでpHを6.5にして重合を終了し、ポリオルガノシロキサン粒子を含むラテックスを得た。
【0086】
つづいて撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口および温度計を備えた5口フラスコに、純水340重量部(オルガノシロキサン粒子を含むラテックスからの持ち込み分を含む)、および上記ポリオルガノシロキサン粒子80重量部(固形分)を仕込み、系を撹拌しながら窒素気流下で40℃まで昇温させた。40℃到達後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.39重量部、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム(EDTA)0.0048重量部、硫酸第一鉄0.0012重量部を添加した後、メタクリル酸メチル15重量部、アクリル酸エチル5重量部、及びクメンハイドロパーオキサイド0.073重量部(固形分)の混合物を1時間かけて滴下追加し、追加終了後さらに1時間撹拌を続けることによってポリオルガノシロキサン系グラフト重合体のラテックスを得た。
【0087】
つづいて、ラテックスを純水で希釈し、固形分濃度を15重量%にしたのち、25重量%塩化カルシウム水溶液4重量部(固形分)を添加して、凝固スラリーを得た。凝固スラリーを75℃まで加熱した後、50℃まで冷却して脱水後、乾燥させてポリオルガノシロキサン系グラフト重合体の粉体を得た。
【0088】
(実施例1)
アクリルゴム(日本ゼオン製、商品名AR31)100重量部と製造例で得られたポリオルガノシロキサン系グラフト重合体45重量部、酸化防止剤1重量部(白石カルシウム製、商品名ナウガード445)、無機充填剤としてカーボンブラック(シースト3、東海カーボン製)43.5重量部、シリカ(アエロジル200、日本アエロジル製)7.25重量部、滑剤としてステアリン酸1重量部、および安息香酸アンモニウム1.5重量部を、所定の方法に従い、プラストミル「MODEL20C200」(東洋精機(株)製)を用いて塊状のサンプルを得た。このようにして得られた塊状のサンプルを所定の方法に従ってプレス成形し、厚さ2mmのシート状成形体を得た。さらに、該シート状成形体を170℃で8時間アニールし、得られたシート状成形体を用いて引張り特性および低温脆化温度を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例2)
実施例1において、シリカは、アエロジルRY200(日本アエロジル製)を使用し、あとは同様に評価用のシート状成形体を作成し、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例3)
実施例1において、シリカは、アエロジルR972(日本アエロジル製)を使用し、あとは同様に評価用のシート状成形体を作成し、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例4)
実施例1において、シリカは、アエロジルR974(日本アエロジル製)を使用し、あとは同様に評価用のシート状成形体を作成し、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例5)
実施例1に記載の方法において、無機充填剤としてカーボンブラック(シースト3、東海カーボン製)36.25重量部、シリカ(アエロジルR974、日本アエロジル製)7.25重量部使用し、あとは同様に評価用のシート状成形体を作成し、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例1)
アクリルゴム(日本ゼオン製、商品名AR31)100重量部と製造例で得られたポリオルガノシロキサン系グラフト重合体粒子45重量部、酸化防止剤1重量部(白石カルシウム製、商品名ナウガード445)、無機充填剤としてカーボンブラック(シースト3、東海カーボン製)72.5重量部、滑剤としてステアリン酸、および、安息香酸アンモニウム1.5重量部を、所定の方法に従い、プラストミル「MODEL20C200」(東洋精機(株)製)を用いて塊状のサンプルを得た。このようにして得られた塊状のサンプルを所定の方法に従ってプレス成形し、厚さ2mmのシート状成形体を得た。さらに、該シート状成形体を170℃で8時間アニールし、得られたシート状成形体を用いて各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例2)
比較例1に記載の方法において、カーボンブラックを43.5重量部使用し、あとは同様に評価用のシート状成形体を作成し、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例3)
比較例1に記載の方法において、無機充填剤としてシリカ(アエロジル200、日本アエロジル製)を43.5重量部使用し、あとは同様に評価用のシート状成形体を作成し、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1から明らかなように、カーボンブラックに少量のシリカを添加することにより、比較例2(カーボンブラック43.5重量部使用)と同量のカーボンブラックの使用で、比較例1(カーボンブラック72.5重量部使用)と同等の破断強度に改善可能である。また、実施例5(カーボンブラック36.25重量部、シリカ7.25重量部使用)のように、比較例2(カーボンブラック43.5重量部使用)の充填剤の一部をシリカに変更することにより、低温脆化温度改良効果を維持したまま、引張り特性を改善可能である。このことから、カーボンブラックにシリカを併用添加することにより、低温脆化温度を大きく低下させることなく、引張り特性を改善可能であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アクリルゴム、(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体、(C)少なくとも2種の充填剤を含有することを特徴とする、アクリルゴム組成物。
【請求項2】
(A)アクリルゴム100重量部に対して、(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体0.1〜100重量部、(C)少なくとも2種の充填剤0.1〜200重量部(充填剤の総量)を含有することを特徴とする、請求項1記載のアクリルゴム組成物。
【請求項3】
アクリルゴムが、アクリルゴム全体中、架橋性単量体単位を0.01〜20重量%含有することを特徴とする、請求項1または2に記載のアクリルゴム組成物。
【請求項4】
(A)アクリルゴム100重量部に対して、架橋剤(E)を0.005〜10重量部含有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のアクリルゴム組成物。
【請求項5】
(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体が、グラフト成分含有量5〜50重量%とポリオルガノシロキサン含有量95〜50重量%からなるポリオルガノシロキサン系グラフト重合体であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のアクリルゴム組成物。
【請求項6】
(B)ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体のグラフト成分全体中におけるメタアクリル酸アルキルエステル単位の含量が5〜99.5重量%、アクリル酸アルキルエステル単位の含量が95〜0.5重量%であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のアクリルゴム組成物。
【請求項7】
ポリオルガノシロキサン系グラフト重合体(B)がシード重合により得られることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載のアクリルゴム組成物。
【請求項8】
(C)少なくとも2種の充填剤のうち1種がカーボンブラックであることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載のアクリルゴム組成物。
【請求項9】
(C)少なくとも2種の充填剤のうち、1種がカーボンブラック、もう1種がシリカであることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載のアクリルゴム組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載のアクリルゴム組成物からなる成形体。
【請求項11】
請求項10に記載の成形体を含んで構成される自動車・電気・電子用部品。

【公開番号】特開2006−316088(P2006−316088A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136929(P2005−136929)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】