説明

アクリル樹脂フィルム、およびこれを積層した積層成形品

【課題】 インサート成形、インモールド成形に用いることのできる表面硬度、耐擦傷性、耐熱性を有し、かつ、良好な印刷適性を有し、かつ、良好な意匠性を有するアクリル樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】 ゴム含有重合体(I)、およびメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする重合体の還元粘度が0.15L/g以下の熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物(A)100質量部に対して、コアシェル重合体(III)0.5〜50質量部を添加したアクリル樹脂組成物(B)を構成成分とし、20℃における熱可塑性重合体(II)の屈折率(n)とコアシェル重合体(III)のコア層重合体(III−A)の屈折率(n’)が式(i)を満たすアクリル樹脂フィルム。
式(i): 0≦|n−n’|≦0.003

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂フィルム、およびこれを積層した積層成形品に関する。特に本発明は、印刷等の加飾を施した後にインモールド成形等により成形品に意匠性を付与するのに適したアクリル樹脂フィルム、およびこれを積層した積層成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
低コストで成形品に意匠性を付与する方法として、インサート成形法、インモールド成形法がある。インサート成形法は、印刷等の加飾を施したポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などのフィルムまたはシートを、あらかじめ真空成形等によって三次元の形状に成形し、不要なフィルムまたはシート部分を除去した後、射出成形金型内に移し、基材となる樹脂を射出成形することにより一体化させた成形品を得るものである。一方、インモールド成形法は、印刷等の加飾を施したポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などのシート、あるいはフィルムを射出成形金型内に設置し、真空成形を施した後、同じ金型内で基材となる樹脂を射出成形することにより一体化させた成形品を得るものである。
【0003】
特に、このインモールド成形法によれば、シート、あるいはフィルムと基材とを生産性良く一体化したり、印刷部のみを転写したりすることができる。このようにして得られた、表層にアクリル樹脂フィルムを有する部材が、車輌用途の部品として用いられている。
【0004】
近年、メタリック調などの高輝度印刷が施されたアクリル樹脂フィルムの表面を艶消し状態として、高級感や深み感等の意匠性や加飾性を付加することが求められてきている。このような要求は、艶消しアクリル樹脂フィルムに印刷を施すことによって実現できる。
【0005】
従来の熱可塑性樹脂の艶消し方法は、大別して(1)紋付け加工、艶消し加工による方法、(2)無機物または有機物の艶消し材を添加する方法、に分けられる。上記(1)の方法は、一般に物性の低下が少ない利点はあるものの、生産性は悪く加工賃が嵩む上、艶消し効果も不十分であり、多くの場合二次加工でフィルムを加熱する用途では艶が戻ってしまい、艶消し効果が消えるなどの問題点を有しており、該用途には不向きである。一方、上記(2)の方法は、生産性はそれほど低下せずに、艶消しの程度のコントロールも可能であり、二次加工を施す用途にも適用できるが、表面物性等の物性低下という大きな問題を含んでいる。
【0006】
そこで、こうした問題を解決するために、艶消し効果の十分な艶消し材を配合した樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0007】
一方、艶消し効果とは異なり、透過光の散乱性を改良するため、有機粒子を配合したアクリル系樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献5,6参照)。
【特許文献1】特開2000−53841号公報
【特許文献2】特開平11−335511号公報
【特許文献3】特開2001−81266号公報
【特許文献4】特開2002−254495号公報
【特許文献5】特公平7−37579号公報
【特許文献6】特開2001−294631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの特許文献1〜6には、艶消し剤あるいは散乱粒子として、コアシェル重合体を含有した樹脂組成物、フィルム状またはシート状樹脂組成物または成形品が開示されている。
【0009】
このうち、特許文献5および6には光散乱性樹脂組成物が開示され、コアシェル重合体のコア層重合体の屈折率とマトリクス樹脂となる熱可塑性重合体の屈折率との間に明確な差が存在することにより光散乱性を発現している。特許文献5では、屈折率差が±0.05単位以内で、±0.003より近接していないことを特徴とし、特許文献6では、その差の絶対値が0.01以上0.1以下であることが好ましいと記載されている。しかしながら、これらの公報には、成形品に印刷を施すことは想定されておらず、これらの公報で規定されているように、コアシェル重合体のコア層重合体とマトリクス樹脂となる熱可塑性重合体との間に明確な屈折率差が存在する場合、フィルム状またはシート状に成形加工したときの内部ヘーズが顕著となり、このフィルム状またはシート状樹脂組成物の片面に印刷加工した後、インモールド成形等を施した場合には、印刷層の意匠を損なうものとなってしまい、工業的利用価値は低くなる。
【0010】
一方、特許文献1〜4には、コアシェル重合体のコア層重合体の屈折率とマトリクス樹脂となる熱可塑性重合体の屈折率差についての記載がなされていないが、本発明者らが、これらの公報の実施例に記載されているフィルム状またはシート状樹脂組成物を実際に作成したところ、内部ヘーズの高いものとなった。なお、後述する屈折率算出方法により算出した場合、いずれの実施例に記載されている樹脂組成物も0.003を超えるものとなる。
【0011】
さらに、これらの公報には得られたフィルムのインモールド成形等に関する記載はなく、表面硬度、耐擦傷性、耐熱性に関する記載もない。このため、本発明者らがこれらの公報の実施例に記載されているフィルム状またはシート状樹脂組成物を作成したものを用いて、インモールド成形を施したところ、成型加工工程中で、擦傷による外観不良が発生した。また、これらフィルムまたはシートを積層した積層成形品の表面硬度、耐擦傷性、および耐熱性は、いずれも車輌用途に必要なレベルに達していなかった。
【0012】
また、特許文献1〜2には、得られたフィルム状またはシート状樹脂組成物または成形品に印刷加工を施すことについての記載がなされていない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、インサート成形、インモールド成形に用いることのできる表面硬度、耐擦傷性、耐熱性を有し、かつ、良好な印刷適性を有し、かつ、良好な意匠性を有するアクリル樹脂フィルム、ならびにこのフィルムを積層した積層成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、以下の本発明により解決できる。
【0015】
[1] 下記に示すゴム含有重合体(I)、およびメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする重合体の還元粘度が0.15L/g以下の熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物(A)100質量部に対し、下記に示すコアシェル重合体(III)0.5〜50質量部を添加してなるアクリル樹脂組成物(B)を構成成分とし、20℃における熱可塑性重合体(II)の屈折率(n)とコアシェル重合体(III)のコア層重合体(III−A)の屈折率(n’)が下記の式(i)を満たすアクリル樹脂フィルム。
ゴム含有重合体(I):
アクリル酸アルキルエステルを主成分として得た1層または2層以上の構造を有する最内層としての弾性重合体(I−A)の存在下に、少なくとも、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体をグラフト重合して1層または2層以上の構造を有する最外層重合体(I−C)を成形してなる、質量平均粒子径が0.01〜0.5μmの2層以上の多層構造を有するゴム含有重合体
コアシェル重合体(III):
コア層重合体(III−A)と、シェル層重合体(III−B)と、がこの順で積層されてなり、各重合体層が下記に示す単量体成分からなる、質量平均粒子径が0.5〜20μmであるコアシェル重合体
(1)コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分
(III−A1)アクリル酸アルキルエステル 10〜90質量%
(III−A2)メタクリル酸アルキルエステル 10〜90質量%
(III−A3)共重合可能な二重結合を有する他の単量体 0〜50質量%
(III−A4)多官能性単量体 0〜20質量%
(III−A5)グラフト交叉剤 0.1〜20質量%
コアシェル重合体(III)中のコア層重合体(III−A)の含有量 25〜85質量%
(2)シェル層重合体(III−B)を構成するための単量体成分
(III−B1)メタクリル酸アルキルエステル 60〜100質量%
(III−B2)アクリル酸アルキルエステル 0〜40質量%
(III−B3)共重合可能な二重結合を有する他の単量体 0〜40質量%
コアシェル重合体(III)中のシェル層重合体(III−B)の含有量 15〜75質量%
式(i):
0≦|n−n’|≦0.003
【0016】
[2] 上記樹脂組成物を溶融押出後、鏡面ロールとゴムロールまたはシボ入りロールで挟持して製膜することにより製造される[1]記載のアクリル樹脂フィルム。
[3] アクリル樹脂フィルムの片面に印刷を施した[2]記載のアクリル樹脂フィルム。
[4] 上記[1]〜[3]記載のいずれかのアクリル樹脂フィルムを、基材に積層したアクリル樹脂積層成形品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特定のゴム含有重合体(I)、およびメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物(A)100質量部に対し、20℃における熱可塑性重合体(II)の屈折率(n)とコアシェル重合体(III)のコア層重合体(III−A)の屈折率(n’)が特定の範囲内であることを満たすコアシェル重合体(III)0.5〜50質量部を添加してなるアクリル樹脂組成物(B)を構成成分とするアクリル樹脂フィルムを採用することで、インサート成形、インモールド成形に用いることのできる表面硬度、耐擦傷性、耐熱性を有し、かつ、良好な印刷適性を有し、かつ、良好な意匠性を有するアクリル樹脂フィルム、ならびにこのフィルムを積層した積層成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、ゴム含有重合体(I)、およびメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする熱可塑性重合体(II)(以下、単に「熱可塑性重合体(II)ともいう」)からなるアクリル樹脂組成物(A)100質量部に対し、コアシェル重合体(III)0.5〜50質量部を添加してなるアルキル樹脂組成物(B)から構成される。
【0019】
本発明で使用するゴム含有重合体(I)は、アクリル酸アルキルエステルを主成分として得た1層または2層以上の構造を有する最内層としての弾性重合体(I−A)の存在下に、少なくともメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体をグラフト重合して1層または2層以上の構造を有する最外層重合体(I−C)を形成してなる、2層以上の多層構造を有するゴム含有重合体である。
【0020】
具体的には、下記に示すゴム含有重合体(I)[(I’)または(I”)]である。なお、本発明において「ゴム」とは、室温(25℃)でゴム弾性を示す重合体を意味し、具体的には重合体のガラス転移温度(Tg)が25℃未満、より好ましくは10℃以下、最も好ましくは0℃以下の重合体である。なお、Tgは、ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook (J.Brandrup, Interscience, 1989)〕に記載されている値を用いてFOXの式から算出することができる。
【0021】
《ゴム含有重合体(I’)》
最内層重合体(I’−A)に用いるアクリル酸アルキルエステルとしては、従来より知られる各種のアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。このうち、特に、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。このアクリル酸アルキルエステルは、最内層重合体(I’−A)を構成する単量体のうちの主成分として用いられるものである。具体的には、アクリル酸アルキルエステルの使用量は、全単量体中35〜99.9質量%が好ましい。使用量が35質量%以上の場合、得られる樹脂は弾性体となり、フィルムの成形性が良好となる。さらに好ましい使用量は50質量%以上である。これらの使用量の各範囲は、最内層重合体(I’−A)が2層以上の構造を有する場合は、最内層重合体(I’−A)の全体としてのアクリル酸アルキルエステルの使用量を示すものである。また、最内層重合体(I’−A)は、ハード芯構造にすることもでき、その場合、1層目(芯部)のアクリル酸アルキルエステルの使用量を35質量%未満であってもよい。このとき、例えば、1層目(芯部)のTgは105℃以下が好ましく、25℃以下がより好ましい。2層目のTgは25℃未満、より好ましくは10℃以下、最も好ましくは0℃以下であり、とりわけ−30℃未満であることが好ましい。
【0022】
最内層重合体(I’−A)を構成する単量体として、アクリル酸アルキルエステルと共に、これと共重合可能な他のビニル単量体を使用することができる。他のビニル単量体を使用する場合、その使用量は、全単量体中64.9質量%以下が好ましい。他のビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が好ましい。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
最内層重合体(I’−A)を構成する単量体の一部として、多官能性単量体を用いることが好ましい。多官能性単量体としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も使用可能である。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。多官能性単量体の使用量は、全単量体中0.1〜10質量%が好ましい。
【0024】
ゴム含有重合体(I’)は、以上説明した最内層重合体(I’−A)の存在下に、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体をグラフト重合して最外層重合体(I’−C)を形成してなる2層以上の多層構造のゴム含有重合体である。即ち、最内層重合体(I’−A)が内層を構成し、最外層重合体(I’−C)が外層を構成する。
【0025】
特に限定されないが、最外層重合体(I’−C)を構成するための単量体成分のみの重合体のTgが60℃以上となるものが好ましい。Tgが60℃以上の場合、車輌用途に適した表面硬度、および耐熱性を有するフィルムが得られるため、好ましい。より好ましくは80℃以上、最も好ましくは90℃以上である。また、凝固性および得られるゴム含有重合体(I’)の取り扱い性の観点から、105℃以下が好ましい。
【0026】
最外層重合体(I’−C)を得るためのグラフト重合では、メタクリル酸アルキルエステルを主成分として用いる。具体的には、メタクリル酸アルキルエステルの使用量は、グラフト重合に用いる全単量体中50質量%以上が好ましい。メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0027】
最外層重合体(I’−C)を得るためのグラフト重合に用いる単量体として、メタクリル酸アルキルエステルと共に、これと共重合可能な他のビニル単量体を使用することもできる。他のビニル単量体を使用する場合、その使用量は、全単量体中50質量%以下が好ましい。他のビニル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が好ましい。これら1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
これらの各単量体を、最内層重合体(I’−A)の存在下に1段以上でグラフト重合することにより、外層である最外層重合体(I’−C)を形成して、ゴム含有重合体(I’)が得られる。ゴム含有重合体(I’)中の最外層重合体(I’−C)の量は、最内層重合体(I’−A)100質量部に対して、好ましくは10〜400質量部、より好ましくは20〜200質量部である。
【0029】
ゴム含有重合体(I’)の質量平均粒子径は、0.01〜0.5μmである。0.08〜0.3μmがより好ましい。特に、製膜性の観点では、その粒子径は0.08μm以上が好ましい。なお、質量平均粒子径は、大塚電子(株)製の光散乱光度計「DLS−700」(商品名)を用い、動的光散乱法で測定することができる。
【0030】
次に、ゴム含有重合体(I’)の製造方法について説明する。
【0031】
ゴム含有重合体(I’)の製造法としては、乳化重合法による逐次多段重合法が最も適した重合法であるが、特にこれに制限されることはなく、例えば、乳化重合後、最外層重合体(I’−C)の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法によっても行うことができる。
【0032】
乳化重合に使用する乳化剤としては、アニオン系、カチオン系、およびノニオン系の界面活性剤が使用できるが、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。
【0033】
アニオン系界面活性剤としては、ロジン石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸芳香族エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸脂肪族エステル塩等が挙げられる。このうち、特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸脂肪族エステル塩が好ましい。
【0034】
上記界面活性剤の好ましい市販品の例としては、三洋化成工業社製の「エレミノールNC−718」、東邦化学工業社製の「フォスファノールLS−529」、「フォスファノールRS−610NA」、「フォスファノールRS−620NA」、「フォスファノールRS−630NA」、「フォスファノールRS−640NA」、「フォスファノールRS−650NA」、「フォスファノールRS−660NA」、花王社製の「ラテムルP−0404」、「ラテムルP−0405」、「ラテムルP−0406」、「ラテムルP−0407」等(以上いずれも商品名)が挙げられる。
【0035】
一方、本発明の好ましいゴム含有重合体(I’)を構成する最内層重合体(I’−A)および最外層重合体(I’−C)を形成する際に使用する重合開始剤は公知のものが使用でき、その添加方法は、水相、単量体相のいずれか片方、または双方に添加する方法を用いることができる。特に好ましい重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。レドックス系開始剤が好ましく、特に、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0036】
上述の最内層重合体(I’−A)を与える単量体成分を界面活性剤と混合して調製したものを反応器に供給し、重合した後、最外層重合体(I’−C)を与える単量体成分を反応器に供給し、重合する方法においては、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリットを含む水溶液を重合温度まで昇温した後、調製した乳化液を反応器に供給して重合し、次いで過酸化物等の重合開始剤を含む最外層重合体(I’−C)を与える単量体成分を反応器に供給し、重合する方法が、本発明のゴム含有重合体(I’)を得る方法としては最も好ましい。
【0037】
なお、重合温度は用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは60〜95℃である。
【0038】
上記の方法で得られる好ましいゴム含有重合体(I’)を含むポリマーラテックスを必要に応じて濾材を配した濾過装置を用いて処理することができる。この濾過処理は、重合中に発生するスケールのラテックスからの除去、あるいは重合原料中、また重合中に外部から混入する夾雑物を除去するためのものであり、ゴム含有重合体(I’)を得るためにより好ましい方法である。
【0039】
ゴム含有重合体(I’)は、上述の方法で製造した重合体ラテックスから回収することによって製造することができる。重合体ラテックスからゴム含有重合体(I’)を回収する方法としては、特に限定はされないが、塩析または酸析凝固、あるいは噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられ、粉状で回収される。
【0040】
このうち、金属塩を用いて塩析処理する場合、最終的に得られたゴム含有重合体(I’)中への残存金属含有量を800ppm以下にすることが好ましい。特に、マグネシウム、ナトリウム等の水との親和性の強い金属塩を塩析剤として使用する際は、その残存金属含有量を極力少なくしないと、最終的に得られたゴム含有重合体(I’)を原料の一部としたアクリル樹脂フィルムを沸騰水中に浸漬する際、白化現象を生じ、実用上大きな問題となる。なお、カルシウム系、硫酸系凝固を行うと、比較的良好な傾向を示すが、いずれにしても優れた耐水白化性を与えるためには、残存金属量を800ppm以下にすることが必要であり、微量であるほどよい。
【0041】
《ゴム含有重合体(I”)》
ゴム含有重合体(I”)は、内側から順に、最内層重合体(I”−A)、中間層重合体(I”−B)、最外層重合体(I”−C)を基本構造とする多層構造を有する。
【0042】
以下に、上述のゴム含有重合体(I”)の構成について具体的に説明する。
【0043】
[最内層重合体(I”−A)]
最内層重合体(I”−A)は、上記多層構造を有する重合体の中心部分を構成するものであって、アクリル酸アルキルエステル(I”−A1)、メタクリル酸アルキルエステル(I”−A2)、これらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I”−A3)、多官能性単量体(I”−A4)及びグラフト交叉剤(I”−A5)を構成成分とする単量体成分を重合してなる重合体である。なお、この単量体成分において、成分(I”−A1)及び成分(I”−A5)は必須成分であり、成分(I”−A2)、成分(I”−A3)及び成分(I”−A4)は任意成分である。
【0044】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分に含まれる成分(I”−A1)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独または二種以上を混合して使用することができる。これらのうち、好ましいものはアクリル酸n−ブチルである。
【0045】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I”−A2)のメタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0046】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I”−A3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは単独で、または、二種以上を混合して使用することができる。
【0047】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I”−A4)の多官能性単量体とは、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義する。その具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も使用可能である。これらは単独で、または、二種以上を混合して使用することができる。これらのうち、好ましいものは1,3−ブチレングリコールジメタクリレートである。また、多官能性単量体が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤(I”−A5)が存在する限り、かなり安定なゴム含有重合体(I”)を与える。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて任意に行えばよい。
【0048】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分に含まれるグラフト交叉剤(I”−A5)とは、基本的には、異なる共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義する。その具体例としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸またはジカルボン酸のアリル、メタリルまたはクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸またはフマル酸のアリルエステルが好ましい。これらのうち、メタクリル酸アリルエステルが優れた効果を奏し、好ましい。グラフト交叉剤(I”−A5)は、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基またはクロチル基よりはるかに速く反応し、重合される。この間、アリル基、メタリル基、またはクロチル基の実質上、かなりの部分は、次層の重合体を重合する間に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与えるその他、上記多官能性単量体のトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等もグラフト交叉剤として有効である。本発明では、上記例示されたグラフト交叉剤(I”−A5)を用いず、代わりにこれらシアヌレート誘導体が有効にグラフト交叉剤として作用する場合、これらシアヌレート誘導体はグラフト交叉剤(I”−A5)と見なす。
【0049】
なお、重合は連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
【0050】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(I”−A1)とメタクリル酸アルキルエステル(I”−A2)との合計の含有量は、80〜99.9質量%が好ましい。
【0051】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(I”−A1)の含有量は、50〜99.9質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、より好ましくは55質量%以上、最も好ましくは60質量%以上である。また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の表面硬度の観点から、より好ましくは79.9質量%以下、最も好ましくは69.9質量%以下である。
【0052】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分における、メタクリル酸アルキルエステル(I”−A2)の含有量は、0〜49.9質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の表面硬度の観点から、より好ましくは20質量%以上、最も好ましくは30質量%以上である。また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、より好ましくは44.9質量%以下、最も好ましくは39.9質量%以下である。
【0053】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分における、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I”−A3)の含有量は、0〜20質量%が好ましい。より好ましくは15質量%以下である。
【0054】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分における、多官能性単量体(I”−A4)の含有量は、0〜10質量%が好ましい。より好ましくは0.1質量%以上であり、6質量%以下である。
【0055】
最内層重合体(I”−A)を構成するための単量体成分における、グラフト交叉剤(I”−A5)の含有量は、0.1〜10質量%が好ましい。0.1質量%以上の含有量では、得られるゴム含有重合体(I”)を、透明性等の光学的物性を低下させずに成形することができる。また、10質量%以下の含有量では、ゴム含有重合体(I”)に十分な柔軟性、強靭さを付与することができるため、好ましい。より好ましくは0.5質量%以上であり、2質量%以下である。
【0056】
特に限定されないが、最内層重合体(I”−A)単独のTgは、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐衝撃性および耐成形白化性の観点から、後述の中間層重合体(I”−B)単独のTg未満であることが好ましい。より好ましくは25℃未満、さらに好ましくは10℃以下、最も好ましくは0℃以下である。
【0057】
特に限定されないが、ゴム含有重合体(I”)中の最内層重合体(I”−A)の含有量は15〜50質量%が好ましい。15質量%以上の場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性を付与することができ、さらに、アクリル樹脂をフィルム状に成形するときの製膜性、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルムをインサート成形およびインモールド成形するのに可能な靭性を両立させることができる。より好ましくは20質量%以上である。また、50質量%以下の場合、車輌用途に必要な表面硬度および耐熱性が得られるため、好ましい。より好ましくは35質量%以下である。
【0058】
最内層重合体(I”−A)は、単層でも多層でも良いが、より好ましくは2層である。特に限定はされないが、最内層重合体(I”−A)中の2層の単量体構成比は異なることが好ましい。
【0059】
最内層重合体(I”−A)が2層からなる場合、内側層(I”−A1)のTgと外側層(I”−A2)のTgは、同一でも構わないが、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、耐衝撃性、および表面硬度の観点から、内側層(I”−A1)のTgは外側層(I”−A2)のTgよりも低いほうが好ましい。具体的には、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性および耐衝撃性の観点から、内側層(I”−A1)のTgは−30℃未満が好ましく、外側層(I”−A2)のTgは10℃以下が好ましい。特に、表面硬度の観点からは、外側層(I”−A2)のTgは−15℃以上が好ましい。この時、得られる表面硬度の観点から、最内層重合体(I”−A)中の内側層(I”−A1)の含有量は1質量%以上、20質量%以下が好ましく、外側層(I”−A2)の含有量は80質量%以上、99質量%以下が好ましい。
【0060】
[中間層重合体(I”−B)]
中間層重合体(I”−B)は、上記最内層重合体(I”−A)の存在下に、アクリル酸アルキルエステル(I”−B1)、メタクリル酸アルキルエステル(I”−B2)、これらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I”−B3)、多官能性単量体(I”−B4)及びグラフト交叉剤(I”−B5)を構成成分とする単量体成分を重合してなる重合体である。好ましくは、最内層重合体のTgよりもここでの単量体成分での重合体のTgが高い、重合体である。なお、この単量体成分において、成分(I”−B1)、成分(I”−B2)及び成分(I”−B5)は必須成分であり、成分(I”−B3)及び成分(I”−B4)は任意成分である。
【0061】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分に含まれる成分(I”−B1)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはアクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチルである。
【0062】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分に含まれる成分(I”−B2)のメタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0063】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I”−B3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。
【0064】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I”−B4)の多官能性単量体は、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も使用可能である。これらのうち、好ましいものは1,3−ブチレングリコールジメタクリレートである。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。
【0065】
多官能性単量体が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤が存在する限り、かなり安定なゴム含有重合体(I”)を与える。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて任意に行えばよい。
【0066】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分に含まれるグラフト交叉剤(I”−B5)としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸またはジカルボン酸のアリル、メタリル、またはクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、またはフマル酸のアリルエステルが好ましい。これらのうち、メタクリル酸アリルエステルが優れた効果を奏し、好ましい。グラフト交叉剤(I”−B5)は、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基、またはクロチル基よりはるかに早く反応し、化学的に結合する。この間、アリル基、メタリル基、またはクロチル基の実質上、かなりの部分は、次層重合体の重合中に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。その他、上記多官能性単量体のトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等もグラフト交叉剤として有効である。本発明では、上記例示されたグラフト交叉剤(I”−B5)を用いず、代わりにこれらシアヌレート誘導体が有効にグラフト交叉剤として作用する場合、これらシアヌレート誘導体はグラフト交叉剤(I”−B5)と見なす。
【0067】
なお、ここでの重合も連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
【0068】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(I”−B1)とメタクリル酸アルキルエステル(I”−B2)との合計の含有量は、19.8〜99.9質量%が好ましい。
【0069】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(I”−B1)の含有量は、9.9〜90質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、表面硬度、耐熱性等の観点から、より好ましくは19.9質量%以上、最も好ましくは29.9質量%以上である。また、より好ましくは60質量%以下、最も好ましくは50質量%以下である。
【0070】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分における、メタクリル酸アルキルエステル(I”−B2)の含有量は、9.9〜90質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、表面硬度、耐熱性等の観点から、より好ましくは39.9質量%以上、最も好ましくは49.9質量%以上である。また、より好ましくは80質量%以下、最も好ましくは70質量%以下である。
【0071】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分における、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I”−B3)の含有量は、0〜20質量%が好ましい。より好ましくは15質量%以下である。
【0072】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分における、多官能性単量体(I”−B4)の含有量は、0〜10質量%が好ましい。より好ましくは6質量%以下である。
【0073】
中間層重合体(I”−B)を構成するための単量体成分における、グラフト交叉剤(I”−B5)の含有量は、0.1〜10質量%が好ましい。0.1質量%以上の含有量では、得られるゴム含有重合体(I”)を、光学的物性を低下させずに成形することができる。また、5質量%以下の含有量では、ゴム含有重合体(I”)に十分な柔軟性、強靭さを付与することができるため、好ましい。より好ましくは0.5質量%以上であり、2質量%以下である。
【0074】
ここで、中間層重合体(I”−B)の組成は、最内層重合体(I”−A)の組成と異なることが好ましい。これらの重合体の組成が異なることで、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐衝撃性、および耐成形白化性を同時に満足することができる。なお、本発明で言う「異なる組成」の定義とは、各重合体を形成するアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、共重合可能な二重結合を有する他の単量体、多官能性単量体、およびグラフト交叉剤の、種類および/または量が異なることである。
【0075】
特に限定はされないが、中間層重合体(I”−B)を構成する単量体成分のみを重合した時に得られる重合体単独のTgが、25〜100℃となるものが好ましい。Tgが25℃以上の場合、表面硬度および耐熱性が車輌用途に必要なレベルとなる。より好ましくは40℃以上、最も好ましくは50℃以上である。またTgが100℃以下の場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性良好で、アクリル樹脂をフィルム状に成形するときの製膜性が良好となる。より好ましくは80℃以下、最も好ましくは70℃以下である。
【0076】
このように、特定の組成およびTgの中間層重合体(I”−B)を設けることで、これまで必要物性を満たすのに適したゴム含有重合体(I”)、あるいは樹脂が設計されてこなかったために実現困難であった、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、表面硬度、耐熱性等を両立させることができる。
【0077】
特に限定されるわけではないが、好ましいゴム含有重合体(I”)中の中間層重合体(I”−B)の含有量は、5〜35質量%が好ましい。この範囲内であれば、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性と、表面硬度、耐熱性等を両立するために重要な中間層重合体(I”−B)の機能を発現させることができるとともに、得られるフィルムのその他の物性、例えば、アクリル樹脂をフィルム状に成形するときの製膜性、得られるアクリル樹脂フィルム及び加飾アクリル樹脂フィルムをインサート成形およびインモールド成形するのに可能な靭性を付与することができるため好ましい。より好ましくは、20質量%以下である。
【0078】
[最外層重合体(I”−C)]
最外層重合体(I”−C)は、上記の中間層まで形成した重合体の存在下に、メタクリル酸アルキルエステル(I”−C1)、アクリル酸アルキルエステル(I”−C2)、及びこれらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I”−C3)を構成成分とする単量体成分をグラフト重合して形成する。最外層重合体(I”−C)は、少なくとも1段以上で重合して得ることができ、1層または2層以上の構造とすることができる。なお、この単量体成分において、成分(I”−C1)は必須成分であり、成分(I”−C2)及び成分(I”−C3)は任意成分である。
【0079】
最外層重合体(I”−C)を構成するための単量体成分に含まれる成分(I”−C1)のメタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0080】
最外層重合体(I”−C)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I”−C2)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはアクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチルである。
【0081】
最外層重合体(I”−C)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(I”−C3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは単独で、または二種以上を混合して使用できる。
【0082】
最外層重合体(I”−C)を構成するための単量体成分における、メタクリル酸アルキルエステル(I”−C1)の含有量は、51〜100質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルムの表面硬度、耐熱性等の観点から、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは93質量%以上である。また、より好ましくは99質量%以下である。
【0083】
最外層重合体(I”−C)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(I”−C2)の含有量は、0〜20質量%が好ましい。より好ましくは1質量%以上である。また、より好ましくは10質量%以下、最も好ましくは7質量%以下である。
【0084】
最外層重合体(I”−C)を構成するための単量体成分における、共重合可能な二重結合を有する単量体(I”−C3)の含有量は、0〜49質量%が好ましい。より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0085】
特に限定されないが、最外層重合体(I”−C)の重合時に連鎖移動剤を使用し、最外層重合体(I”−C)の分子量を調整することができる。この連鎖移動剤は通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いるのが好ましく、具体例としては、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられ、これらは単独、または二種以上を混合して使用できる。連鎖移動剤の含有量は、重合体(I”−C)を構成するための単量体成分に含まれる単量体((I”−C1)〜(I”−C3))100質量%に対して、0.01〜5質量%が好ましい。より好ましくは0.2質量%以上、最も好ましくは0.4質量%以上である。
【0086】
特に限定されないが、最外層重合体(I”−C)を構成するための単量体成分のみの重合体のTgが、60℃以上となるものが好ましい。Tgが60℃以上の場合、車輌用途に適した表面硬度、および耐熱性を有するフィルムが得られるため、好ましい。より好ましくは80℃以上、最も好ましくは90℃以上である。また、凝固性および得られるゴム含有重合体(I”)の取り扱い性の観点から、105℃以下が好ましい。
【0087】
特に限定されないが、ゴム含有重合体(I”)中の最外層重合体(I”−C)の含有量は10〜80質量%が好ましい。表面硬度、耐熱性の観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは45質量%以上である。また含有量が80質量%以下の場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体に耐成形白化性、得られるアクリル樹脂フィルム及び加飾アクリル樹脂フィルムにインモールド成形するのに可能な靭性を付与することができ、より好ましくは70質量%以下である。
【0088】
本発明のゴム含有重合体(I”)は、上述した各(I”−A)、(I”−B)および(I”−C)の重合体層から構成されるものであるが、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体において、さらに優れた耐成形白化性を得るためには、ゴム含有重合体(I”)はゲル含有率が50%以上であることが好ましい。より好ましくは60%以上である。この場合のゲル含有率(%)とは、ゴム含有重合体(I”)の所定量(抽出前質量:W0(g))をアセトン溶媒中還流下で抽出処理し、遠心分離によりアセトン可溶分を除去し、残ったアセトン不溶分を乾燥した後、質量(抽出後質量:W1(g))を測定し、下記式にて算出したものである。
【0089】
ゲル含有率=抽出後質量W1/抽出前質量W0×100
【0090】
得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の点から述べると、ゲル含有率は大きい程有利であるが、易成形性の点からは、ある量以上のフリーポリマーの存在が必要であり、ゲル含有率は80%以下が好ましい。
【0091】
なお、ゴム含有重合体(I”)の質量平均粒子径は0.01〜0.5μmである。好ましくは、0.05〜0.3μmの範囲にあるものである。得られるアクリル樹脂フィルムの機械的特性の観点から、より好ましくは0.07μm以上、最も好ましくは0.09μm以上である。また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、より好ましくは0.15μm以下、最も好ましくは0.13μm以下である。なお、質量平均粒子径は、大塚電子(株)製の光散乱光度計「DLS−700」(商品名)を用い、動的光散乱法で測定することができる。
【0092】
次に、ゴム含有重合体(I”)の製造方法について説明する。
【0093】
ゴム含有重合体(I”)の製造法としては、乳化重合法による逐次多段重合法が最も適した重合法であるが、特にこれに制限されることはなく、例えば、乳化重合後、最外層重合体(I”−C)の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法によっても行うことができる。
【0094】
また、特に限定されるわけではないが、ゴム含有重合体(I”)を乳化重合により製造する場合は、ゴム含有重合体(I”)中の最内層重合体(I”−A)を与える単量体成分を、あらかじめ水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し重合した後、中間層重合体(I”−B)および最外層重合体(I”−C)を与える単量体成分をそれぞれ順に反応器に供給し、重合する方法が好ましい。
【0095】
最内層重合体(I”−A)を与える単量体成分を、あらかじめ水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し、重合させることにより、特にアセトン中に分散させた際に、その分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数がゴム含有重合体(I”)100gあたり0〜50個であるゴム含有重合体(I”)を容易に得ることができる。こうして得られたゴム含有重合体(I”)を原料に用いたフィルムは、フィルム中のフィッシュアイ数が少ないという特性を有し、特に印刷抜けが発生しやすい印圧の低い淡色の木目柄やメタリック調、漆黒調等のベタ刷りのグラビア印刷を施した場合でも、印刷抜けが少なく、高いレベルでの印刷性を有するため、好ましい。
【0096】
乳化液を調製する際に使用される界面活性剤としては、前記ゴム含有重合体(I’)の乳化液を調製する際に使用される界面活性剤と同様に、アニオン系、カチオン系、およびノニオン系の界面活性剤が使用できるが、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。また、アニオン系界面活性剤の例および好ましい市販品の例も前記ゴム含有重合体(I’)の乳化液を調製する際に使用される界面活性剤と同様のものが挙げられる。
【0097】
また、乳化液を調製する方法としては、水中に単量体成分を仕込んだ後、界面活性剤を投入する方法、水中に界面活性剤を仕込んだ後、単量体成分を投入する方法、単量体成分中に界面活性剤を仕込んだ後、水を投入する方法等が挙げられる。このうち、水中に単量体成分を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法、および水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体成分を投入する方法、がゴム含有重合体(I”)を得る方法としては好ましい。
【0098】
最内層重合体(I”−A)を与える単量体成分を水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を調製するための混合装置としては、攪拌翼を備えた攪拌機およびホモジナイザー、ホモミキサー等の各種強制乳化装置、膜乳化装置等が挙げられる。
【0099】
調製する乳化液としては、単量体成分の油中に水滴が分散したW/O型、水中に単量体成分の油滴が分散したO/W型のいずれの分散構造でも使用することができるが、特に水中に単量体成分の油滴が分散したO/W型で、分散相の油滴の直径が100μm以下であることが好ましい。
【0100】
一方、本発明の好ましいゴム含有重合体(I”)を構成する最内層重合体(I”−A)、中間層重合体(I”−B)および最外層重合体(I”−C)を形成する際に使用する重合開始剤は公知のものが使用でき、その添加方法は、水相、単量体相のいずれか片方、または双方に添加する方法を用いることができる。特に好ましい重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。レドックス系開始剤が好ましく、特に、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0101】
上述の最内層重合体(I”−A)を与える単量体成分を水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し、重合した後、中間層重合体(I”−B)および最外層重合体(I”−C)を与える単量体成分をそれぞれ順に反応器に供給し、重合する方法においては、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリットを含む水溶液を重合温度まで昇温した後、調製した乳化液を反応器に供給して重合し、次いで過酸化物等の重合開始剤を含む中間層重合体(I”−B)および最外層重合体(I”−C)を与える単量体成分を順次反応器に供給し、重合する方法が、本発明のゴム含有重合体(I”)を得る方法としては最も好ましい。
【0102】
なお、重合温度は用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは60〜95℃である。
【0103】
上記の方法で得られる好ましいゴム含有重合体(I”)を含むポリマーラテックスを必要に応じて濾材を配した濾過装置を用いて処理することができる。この濾過処理は、重合中に発生するスケールのラテックスからの除去、あるいは重合原料中、また重合中に外部から混入する夾雑物を除去するためのものであり、ゴム含有重合体(I”)を得るためにより好ましい方法である。
【0104】
なお、その際使用される濾材を配した濾過装置としては、袋状のメッシュフィルターを利用したISPフィルターズ・ピーテーイー・リミテッド社の「GAFフィルターシステム」や円筒型濾過室内の内側面に円筒型の濾材を配し、該濾材内に攪拌翼を配した遠心分離型濾過装置、あるいは濾材が該濾材面に対して水平の円運動および垂直の振幅運動をする振動型濾過装置が好ましい。
【0105】
ゴム含有重合体(I”)は、上述の方法で製造した重合体ラテックスから回収することによって製造することができる。重合体ラテックスからゴム含有重合体(I”)を回収する方法としては、特に限定はされないが、塩析または酸析凝固、あるいは噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられ、粉状で回収される。
【0106】
このうち、金属塩を用いて塩析処理する場合、最終的に得られたゴム含有重合体(I”)中への残存金属含有量を800ppm以下にすることが好ましい。特に、マグネシウム、ナトリウム等の水との親和性の強い金属塩を塩析剤として使用する際は、その残存金属含有量を極力少なくしないと、最終的に得られたゴム含有重合体(I”)を原料としたアクリル樹脂フィルムを沸騰水中に浸漬する際、白化現象を生じ、実用上大きな問題となる。なお、カルシウム系、硫酸系凝固を行うと、比較的良好な傾向を示すが、いずれにしても優れた耐水白化性を与えるためには、残存金属量を800ppm以下にすることが必要であり、微量であるほどよい。
【0107】
《熱可塑性重合体(II)》
熱可塑性重合体(II)は、メタクリル酸アルキルエステルが50〜100質量%、アクリル酸アルキルエステルが0〜50質量%、これらと共重合可能な二重結合を有する単量体が0〜49質量%である単量体成分を重合した重合体であって、重合体の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mLに溶解し、25℃で測定)が0.15L/g以下の熱可塑性重合体である。
【0108】
熱可塑性重合体(II)の還元粘度が0.15L/g以下であることにより、アクリル樹脂をフィルム状に加工するときの溶融時に適度な伸びが生じ、製膜性が良好となる。0.1L/g以下であることがより好ましい。また、この還元粘度の下限値については、0.05L/g以上であることが好ましい。0.05L/g以上であれば、脆さに起因するアクリル樹脂のフィルム状製膜時およびフィルムへの印刷時のフィルム切れの問題が生じ難くなる。
【0109】
熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分に使用するメタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。この中で、メタクリル酸メチルが最も好ましい。熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分中に、メタクリル酸アルキルエステルは50〜100質量%の範囲とするが、好ましくは、85〜99.9質量%の範囲であり、より好ましくは92〜99.9質量%の範囲である。該範囲とすることで、例えば、車輌部材等は、高温にさらされやすく、手や物の触れやすい部材であるが、アクリル樹脂を最表層に有する積層体を車輌部材に適用した場合に必要な耐熱性と高い硬度を発揮することができる。
【0110】
熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分に必要に応じて使用するアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル等が挙げられる。熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分中に、アクリル酸アルキルエステルは0〜50質量%の範囲とするが、好ましくは0.1〜40質量%の範囲であり、より好ましくは、0.1〜15質量%の範囲であり、最も好ましくは0.1〜8質量%の範囲である。該範囲とすることで、例えば、車輌部材等は、高温にさらされやすく、手や物の触れやすい部材であるが、アクリル樹脂を最表層に有する積層体を車輌部材に適用した場合に必要な耐熱性と高い硬度を発揮することができる。
【0111】
熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分に必要に応じて使用する共重合可能な二重結合を有する単量体としては、従来より知られる各種の単量体が使用可能で、例えば、スチレンやα−メチルスチレン等のスチレン類、N−フェニルマレイミドやN−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類、マレイン酸、無水マレイン酸、およびアクリロニトリル等である。
【0112】
熱可塑性重合体(II)は、これらの単量体成分を重合して成るものである。その重合方法は特に限定されず、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等により行うことができる。重合体の還元粘度を所定の範囲内にするには、連鎖移動剤を使用するとよい。連鎖移動剤としては、従来より知られる各種のものが使用できるが、特にメルカプタン類が好ましい。連鎖移動剤の使用量は、単量体の種類および組成により適宜決めれば良い。
【0113】
本発明のアクリル樹脂フィルムで使用するゴム含有重合体(I)と熱可塑性重合体(II)との比率を変えることで、容易にフィルムの耐熱性や硬度を調整することができる。例えば、車輌部材等のように、高温にさらされやすく手や物の触れやすい部材に、アクリル樹脂フィルムを最表層に有する積層体に適用した時に、十分な耐熱性を発揮させることができる。
【0114】
ゴム含有重合体(I)と熱可塑性重合体(II)の配合比は、ゴム含有重合体(I)および熱可塑性重合体(II)の合計100質量部を基準として、ゴム含有重合体(I)1〜99質量部および熱可塑性重合体(II)1〜99質量部とするのが好ましい。
【0115】
耐熱性および表面硬度の観点から、ゴム含有重合体(I’)を使用する場合は、耐熱性および表面硬度の観点から、ゴム含有重合体(I’)および熱可塑性重合体(II)の合計を100質量部とした時に、熱可塑性重合体(II)は60質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましい。一方、ゴム含有重合体(I’)は40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0116】
一方、ゴム含有重合体(I”)を使用する場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、ゴム含有重合体(I”)、熱可塑性重合体(II)の合計を100質量部とした時に、ゴム含有重合体(I”)は50質量部以上がより好ましく、65質量部以上がさらに好ましい。
熱可塑性重合体(II)は50質量部以下がより好ましく、35質量部以下がさらに好ましい。また、耐熱性、硬度の観点から、熱可塑性重合体(II)は5質量部以上が好ましく、20質量部以上が好ましい。そうすることで、本発明のアクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層体を車輌部材に適用した場合に、それに耐えうる耐熱性と高い硬度を発揮することができる上に、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性も損なわれない積層成形品を提供することができる。
【0117】
本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物(A)(ゴム含有重合体(I)および熱可塑性重合体(II))のゲル含有率は、アクリル樹脂組成物(B)をフィルム状に成形する時の製膜性の観点、および得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、アクリル樹脂組成物をフィルム状に成形する時の製膜性の観点から、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0118】
本発明のアクリル樹脂フィルムの表面光沢は、その意匠効果により適宜選択可能である。使用するコアシェル重合体(III)の含有量は、目的のフィルム表面光沢により上記範囲内において適宜選択可能である。アクリル樹脂組成物(A)100質量部に対して、0.5質量部以上の場合、優れた艶消し効果を発現する。アクリル樹脂フィルム中のコアシェル重合体(III)の含有量は、さらに良好な艶消し性を得る観点から、前記アクリル樹脂組成物(A)100質量部に対して、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上が最も好ましい。また、50質量部以下の場合、良好な製膜性が得られ、さらに、インサート成形、およびインモールド成形性を可能とする良好なフィルム機械特性の観点から好ましい。より好ましくは15質量部以下である。なお、フィルムの表面光沢度は、グロスメーター(ムラカミカラーリサートラボラトリー製、GM−26D型)を用い、鏡面ロールとゴムロールまたはシボ入りロールで挟持して製膜する場合には得られたフィルムのゴムロールまたはシボ入りロールに接していた面を、一方、鏡面ロールとシリコーン鏡面ゴムロールで挟持して製膜する場合には得られたフィルムの鏡面ロールに接していた面を60°の角度で測定して得られる。
【0119】
《コアシェル重合体(III)》
コアシェル重合体(III)は、内側から順に、コア層重合体(III−A)、シェル層重合体(III−B)を基本構造とする多層構造を有する。
【0120】
以下に、上述のコアシェル重合体(III)の構成について具体的に説明する。
【0121】
[コア層重合体(III−A)]
コア層重合体(III−A)は、上記多層構造を有する重合体の中心部分を構成するものであって、アクリル酸アルキルエステル(III−A1)、メタクリル酸アルキルエステル(III−A2)、これらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−A3)、多官能性単量体(III−A4)、グラフト交叉剤(III−A5)を構成成分とする単量体成分を重合してなる重合体である。なお、この単量体成分において、成分(III−A1)、(III−A2)及び成分(III−A5)は必須成分であり、成分(III−A3)及び(III−A4)は任意成分である。
【0122】
コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分に含まれる成分(III−A1)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独または二種以上を混合して使用することができる。
【0123】
コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分に含まれる成分(III−A2)のメタクリル酸アルキルエステルは、エステル基が直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基のいずれでも良い。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。
【0124】
コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(III−A3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル等の(III−A1)および(III−A2)以外の(メタ)アクリル酸エステル、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは単独で、または、二種以上を混合して使用することができる。
【0125】
コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(III−A4)の多官能性単量体とは、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義する。その具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も使用可能である。これらは単独で、または、二種以上を混合して使用することができる。これらのうち、好ましいものは1,3−ブチレングリコールジメタクリレートである。また、多官能性単量体が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤(III−A5)が存在する限り、かなり安定なコアシェル重合体(III)を与える。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて任意に行えばよい。
【0126】
コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分に含まれるグラフト交叉剤(III−A5)とは、異なる共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義する。その具体例としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸またはジカルボン酸のアリル、メタリルまたはクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸またはフマル酸のアリルエステルが好ましい。これらのうち、メタクリル酸アリルエステルが優れた効果を奏し、好ましい。グラフト交叉剤(III−A5)は、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基またはクロチル基よりはるかに速く反応し、重合される。この間、アリル基、メタリル基、またはクロチル基の実質上、かなりの部分は、次層の重合体を重合する間に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。その他、上記多官能性単量体のトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等もグラフト交叉剤として有効である。本発明では、上記例示されたグラフト交叉剤(III−A5)を用いず、代わりにこれらシアヌレート誘導体が有効にグラフト交叉剤として作用する場合、これらシアヌレート誘導体はグラフト交叉剤(III−A5)と見なす。
【0127】
なお、重合は連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
【0128】
コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(III−A1)の含有量は10〜90質量%である。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、および製膜性の観点から、より好ましくは30質量%以上である。また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の表面硬度の観点から、より好ましくは85質量%以下である。
【0129】
コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分における、メタクリル酸アルキルエステル(III−A2)の含有量は10〜90質量%である。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の表面硬度の観点から、より好ましくは15質量%以上である。また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、および製膜性の観点から、より好ましくは70質量%以下である。
【0130】
コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分における、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−A3)の含有量は、0〜50質量%である。
【0131】
コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分における、多官能性単量体(III−A4)の含有量は、0〜20質量%である。
【0132】
コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分における、グラフト交叉剤(III−A5)の含有量は、0.1〜20質量%である。
【0133】
コアシェル重合体(III)中のコア層重合体(III−A)の含有量は25〜85質量%である。25質量%以上の場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性を付与することができ、さらに、アクリル樹脂をフィルム状に成形するときの製膜性、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルムをインサート成形およびインモールド成形するのに可能な靭性を両立させることができる。より好ましくは45質量%以上である。また、85質量%以下の場合、車輌用途に必要な表面硬度および耐熱性が得られるため、好ましい。より好ましくは75質量%以下である。
【0134】
コア層重合体(III−A)は、単層でも多層でも良い。
【0135】
本発明では、20℃におけるコア層重合体(III−A)の屈折率(n’)と 熱可塑性重合体(II)の屈折率(n)とが、0≦|n−n’|≦0.003の関係式を満たすことが重要である。
【0136】
なお、20℃における屈折率は、"PROPERTIES OF POLYMERS 3rd Edition"(ELSEVIER、1990)に記載されている値を用いた。また、共重合体の屈折率についてはその体積比率により算出することができる。
【0137】
20℃におけるコア層重合体(III−A)の屈折率(n’)と熱可塑性重合体(II)の屈折率(n)との差の絶対値が0.003以下の場合、このコアシェル重合体を含むアクリル樹脂フィルムは内部ヘーズが低く、透明性に優れ、片面に印刷加工を施した後、インモールド成形等を施した場合、印刷層の意匠性を損なうことなく成形品を得ることが出来るため、工業的利用価値は極めて高い。
【0138】
なお、内部ヘーズは、得られたアクリル樹脂フィルムを130℃に加熱した鏡面SUS板に3MPaの条件で熱プレスを施し、表面を鏡面化した後のフィルムを、JIS K7136(曇化の測定方法)の試験方法に準拠して測定することが出来る。
【0139】
[シェル層重合体(III−B)]
シェル層重合体(III−B)は、上記のコア層重合体(III−A)を形成した重合体の存在下に、メタクリル酸アルキルエステル(III−B1)、アクリル酸アルキルエステル(III−B2)、及びこれらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(III−B3)を構成成分とする単量体成分をグラフト重合して形成する。シェル層重合体(III−B)は、少なくとも1段以上で重合して得ることができ、1層または2層以上の構造とすることができる。なお、この単量体成分において、成分(III−B1)は必須成分であり、成分(III−B2)及び成分(III−B3)は任意成分である。
【0140】
シェル層重合体(III−B)を構成するための単量体成分に含まれる成分(III−B1)のメタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。これらは、単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0141】
シェル層重合体(III−B)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(III−B2)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでも良い。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独で、または二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはアクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチルである。
【0142】
シェル層重合体(III−B)を構成するための単量体成分に必要に応じて含まれる成分(III−B3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは単独で、または二種以上を混合して使用できる。
【0143】
シェル層重合体(III−B)を構成するための単量体成分における、メタクリル酸アルキルエステル(III−B1)の含有量は、60〜100質量%である。70〜100質量%がより好ましい。
【0144】
シェル層重合体(III−B)を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステル(III−B2)の含有量は、0〜40質量%である。0〜30質量%がより好ましい。
【0145】
シェル層重合体(III−B)を構成するための単量体成分における、共重合可能な二重結合を有する単量体(III−B3)の含有量は、0〜(40質量%)である。
【0146】
特に限定されないが、シェル層重合体(III−B)の重合時に連鎖移動剤を使用し、シェル層重合体(III−B)の分子量を調整することができる。この連鎖移動剤は通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いるのが好ましく、具体例としては、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられ、これらは単独、または二種以上を混合して使用できる。連鎖移動剤の含有量は、重合体(III−B)を構成するための単量体成分に含まれる単量体((III−B1)〜(III−B3))100質量%に対して、0〜5質量%が好ましい。
【0147】
コアシェル重合体(III)中のシェル層重合体(III−B)の含有量は15〜75質量%である。表面硬度、耐熱性の観点から、好ましくは25質量%以上である。また含有量が75質量%以下の場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体に耐成形白化性、得られるアクリル樹脂フィルム及び加飾アクリル樹脂フィルムにインモールド成形するのに可能な靭性を付与することができ、より好ましくは55質量%以下である。
【0148】
コアシェル重合体(III)の質量平均粒子径は0.5〜20μmである。得られるアクリル樹脂フィルムの良好な艶消し性発現の観点から、より好ましくは1μm以上である。また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐衝撃性、耐成形白化性等の機械的特性の観点から、より好ましくは10μm以下、最も好ましくは8μm以下である。なお、質量平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−910)を用いて測定することができる。また、本発明で使用するコアシェル重合体(III)、該重合体粒子の質量平均粒子径をDwとすると、粒子径が10×Dwμm以上の粒子を含まないことが好ましい。使用するコアシェル重合体(III)に、粒子径が10×Dwμm以上の粗大粒子を含まない場合、フィルム表面が凹んだ欠陥の発生が無くなり、極めて良好な表面外観を有するフィルムが得られる。特に、該表面欠陥が非常に目立つシルバーメタリック調などの高輝度印刷を施した場合でも、良好な表面外観を有する加飾フィルムを得ることが出来るため好ましい。また、フィルム製造時に鏡面ロールとゴムロールで挟持することにより得たフィルムの場合に、インモールド成形等の二次加工工程で該フィルムに熱がかかった際、凹んだ表面欠陥を発現することなく良好な表面外観を維持したまま積層成形品を得ることが出来るため好ましい。これらの観点から、本発明のアクリル樹脂フィルムは工業的利用価値が非常に高い。なお、コアシェル重合体中の粗大粒子の有無には、所定フィルム面積中に配合される艶消し材の質量分を走査型電子顕微鏡にて観察する。つまり、所定フィルム面積中に配合される有機系架橋粒子または無機系粒子に粗大粒子がごく少量しか存在しない場合、レーザー光散乱法では、特定(10×Dwμm)の質量平均粒子径領域が質量換算で0%と評される場合があり、このような場合にはフィルム状に成形した際に表面が凹んだ欠陥が発生していまい、表面外観の不良な工業的利用価値の低いフィルムとなってしまうからであり、走査型電子顕微鏡にて観察することで、極少量の粗大分子を見逃さずに済むからである。
【0149】
次に、コアシェル重合体(III)の製造方法について説明する。
【0150】
コアシェル重合体(III)の製造方法としては、公知の製造方法で可能であるが、この中でも懸濁重合による重合法が好ましい。懸濁液における重合性単量体の濃度や、懸濁液の調製方法は、公知の方法を採用することができるが、本発明のコアシェル重合体(III)を得るためには、まず、分散安定剤を溶解または懸濁させた水と、重合開始剤を含むコア層重合体(III−A)を形成する重合性単量体とを混合し、この混合物に機械的せん断を与えることによって所望の液滴径をもつO/W型エマルションを調製し、次いで重合するのが好ましい。
【0151】
懸濁液の安定化を図るために、該懸濁液に、必要に応じて、分散安定剤を添加することが好ましい。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース等の水溶性高分子、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸エステルナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ラウリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤等、公知のものを使用することができる。
【0152】
重合開始剤としては、通常懸濁重合に用いられる油溶性の過酸化物系またはアゾ系の開始剤を利用することができる。具体的には、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物系、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。
【0153】
重合温度は用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは50〜95℃である。
【0154】
コア層重合体(III−A)を反応させ、得られたコア層重合体粒子懸濁液にシェル層重合体(III−B)となる単量体混合物を添加する。添加方法としては、前述の分散安定剤と共に懸濁液を調製し、一括もしくは所定の時間をかけて供給する方法が好ましい。
【0155】
コアシェル重合体粒子を懸濁液から取り出す方法としては、濾別する方法や遠心分離機等の分離機を用いる方法または噴霧乾燥が簡便であるが、特に限定されるものではない。懸濁液から取り出した後のコアシェル重合体粒子は、必要に応じて、洗浄・乾燥させればよいが、乾燥温度や乾燥方式は特に限定されるものではない。
【0156】
乾燥して得られたコアシェル重合体粒子を分級することにより、特定の粗大粒子を取り除くことが好ましい。分級方法は特に限定されないが、その分級能力、処理量のバランスから風力分級機が好ましい。
【0157】
本発明のアクリル樹脂フィルム用主原料であるゴム含有重合体(I)、熱可塑性重合体(II)、コアシェル重合体(III)のうち、ゴム含有重合体(I)とコアシェル重合体(III)の形状は粉体状である。一方で使用する熱可塑性重合体(II)に、予め溶融押出し、形状をペレット状に成形したものを用いた場合、フィルム用原料を混合した後、押出機ホッパーへ投入すると、ホッパー内で、その形状の違いから分級を起こしてしまい、生産中、特に艶消し性等のフィルム品質差が極めて大きくなるという問題が発生する。このため、熱可塑性重合体(II)の形状は、ビーズ状または粉体状であることが好ましい。つまり、本発明のアクリル樹脂フィルム用主原料に用いる、ゴム含有重合体(I)、熱可塑性重合体(II)、コアシェル重合体(III)の形状は、すべて粉体状あるいはビーズ状であることが好ましい。フィルム用主原料がすべて粉体状あるいはビーズ状である場合、フィルム用原料を混合した後、押出機ホッパー内で分級を起こすことなく、特に艶消し性等のフィルム品質を安定化させることが可能となる。
【0158】
本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物(B)では、上述の熱可塑性重合体(II)とは別に、添加剤として重合体の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mLに溶解し、25℃で測定)0.15L/gを越える熱可塑性重合体(IV)を使用することができる。
【0159】
《熱可塑性樹脂(IV)》
必要に応じて上記重合体に配合する熱可塑性重合体(IV)は、メタクリル酸メチルが50〜100質量%と、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体が0〜50質量%である単量体成分を重合した重合体であって、重合体の還元粘度が0.15L/gを超える熱可塑性重合体である。
【0160】
熱可塑性重合体(IV)を使用すると、アクリル樹脂組成物(B)をフィルムに成形する時の製膜性が向上するので、特に高いレベルの厚み精度や製膜速度が必要となる場合に有用である。特に、熱可塑性重合体(IV)の還元粘度が0.15L/gを超えた範囲であることによって、厚み精度の良好なフィルムが得られる。この還元粘度は、通常0.15L/gを超えて、2L/g以下、好ましくは1.2L/g以下である。
【0161】
熱可塑性重合体(IV)を得るための単量体成分に必要に応じて使用する、メタクリル酸メチルと共重合可能な二重結合を有する他の単量体としては、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル化合物、ビニルシアン化合物等が挙げられる。
【0162】
熱可塑性重合体(IV)は、これらの単量体成分を重合して成るものである。その重合方法は、乳化重合法が好ましく、通常の乳化重合法および後処理方法により、重合体を粉末状で回収することができる。
【0163】
熱可塑性重合体(IV)の使用量は、アクリル樹脂組成物(A)100質量部に対して、0〜10質量部であることが好ましい。該熱可塑性重合体(IV)を使用することで、アクリル樹脂をフィルム状に成形する時の製膜性が向上し、一方、10質量部以下にすることにより、アクリル樹脂の粘度上昇を抑え、アクリル樹脂をフィルム状に成形する時の製膜性の低下を防止することができる。
【0164】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物(B)は、必要に応じて、一般の配合剤、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、本発明のコアシェル重合体(III)以外の公知の艶消し剤、光拡散剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、着色剤、抗菌剤、防かび剤、離型剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を含むことができる。
【0165】
基材を保護する観点から、耐候性を付与するために本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物(B)に紫外線吸収剤を添加することが好ましい。この紫外線吸収剤の分子量は、300以上が好ましく、400以上がより好ましい。この分子量が300以上であれば、射出成形金型内で真空成形または圧空成形を施す際に揮発し難く、金型汚れを発生し難い。紫外線吸収剤の種類は、特に限定されないが、分子量400以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、分子量400以上のトリアジン系紫外線吸収剤が特に好ましい。前者の市販品としては、例えば、チバスペシャリティケミカルズ社の商品名「チヌビン234」、旭電化工業社の商品名「アデカスタブLA−31」、後者の市販品としては、例えば、チバスペシャリティケミカルズ社の商品名「チヌビン1577」等が挙げられる。
【0166】
生産安定化の観点から、本発明のアクリル樹脂フィルムの構成成分であるアクリル樹脂組成物(B)に、質量平均粒子径が100nm以下のシリカ粒子を添加することが好ましい。
【0167】
アクリル樹脂組成物(B)に対して質量平均粒子径が100nm以下のシリカ粒子を添加した場合、上述のフィルム品質を安定させる目的でアクリル樹脂フィルム用主原料をすべて粉体状あるいはビーズ状にした場合に発生しやすい、原料粉体の固結を防止し、押出機ホッパー内での流動性を向上させ、良好な押出機への供給が実現できるため好ましい。好ましくは、アクリル樹脂組成物(B)100質量部に対して、0.2質量部以上である。また、該シリカ粒子を1質量部以下添加した場合、得られるフィルムの透明性等の光学特性、および、破断伸度等の機械物性の低下程度が小さいため好ましい。より好ましくは0.8質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。
【0168】
本発明のアクリル樹脂フィルムの製造法としては、溶融流延法や、Tダイ法、インフレーション法などの溶融押出法、カレンダー法等の公知の方法が挙げられるが、経済性の点からTダイ法が好ましい。
【0169】
本発明のアクリル樹脂フィルム用原料である樹脂組成物をTダイ法等の溶融押出法によりフィルム形状に成形した後、鏡面ロールとゴムロールまたはシボ入りロールとで挟持して製膜する方法が好ましい。鏡面ロールとゴムロールまたはシボ入りロールとで挟持することにより、印刷抜けの原因となる異物による表面突起を著しく減らすことができ、得られたフィルムに印刷を施した際、その印刷抜けを著しく低減することができる。特に、鏡面ロールとゴムロールで挟持する方法は、鏡面ロールとシボ入りロールで挟持する方法と比較して、50μm程度の比較的薄い膜厚のフィルムの製造が可能となる点でより好ましい。また、カレンダー法において、最後にフィルムが挟まれる2本の鏡面ロールの片側をゴムロールまたはシボ入りロールに換えて製膜することもできる。あるいは、公知の方法により一旦フィルム形状に成形した後、再びアクリル樹脂フィルムをガラス転移温度以上に加熱し、鏡面ロールとゴムロールまたはシボ入りロールで挟み込んで製造することもできる。鏡面ロールとしては、従来より知られる各種のものを用いることができる。特に、クロムメッキ加工を施した表面粗度が0.5S以下のロールが好ましい。ゴムロールとしては、従来より知られる各種のものを用いることができる。耐熱性の観点から、ゴムロールの材質はシリコーンゴムが好ましい。
【0170】
フィルム製造の際に、一般的なゴムロールまたはシボ入りロールを用いる場合、鏡面ロールの温度が高いと、ゴムロールまたはシボ入りロールへの追従性が良好となり、ゴムロールまたはシボ入りロールに接するフィルム面に良好な艶消し性が発現し、同様に、鏡面ロールのアクリル樹脂フィルムへの鏡面転写性が良好となり、鏡面ロールに接していた面の平滑性が増し、印刷抜けが軽減する。ただし、温度が高すぎると、アクリル樹脂フィルムの鏡面ロールからの剥離性が不良となったり、アクリル樹脂フィルムが鏡面ロールへ巻きつくことがある。また、鏡面ロールの温度が低すぎると、鏡面ロールのアクリル樹脂フィルムへの鏡面転写性が不良となり、印刷抜け軽減効果が不十分となったり、フィルムに皺が入りやすくなる。アクリル樹脂フィルムのガラス転移温度にもより、特に限定されないが、20〜140℃の範囲内で鏡面ロールを温調することが好ましい。その温度範囲は、50〜120℃が好ましく、60〜100℃がより好ましい。
【0171】
また、良好な艶消し性を得るためには、ゴムロールとしては、砂あるいはアルミナ入りのシリコーンゴムが好ましい。アクリル樹脂フィルムでは、用途によって好ましい艶消し外観が異なるため、シリコーンゴムに添加される砂あるいはアルミナの粒度・形状や添加量は用途に応じて変更することもできる。具体的には、例えば、平均粒度が40μmのアルミナが50質量%添加されているシリコーンゴム製ロール等を用いることができる。また、ゴムロールの代わりに、シボ入りロールを用いることもできる。シボ入りロールとしては、従来より知られる各種のものを用いることができる。この場合、製造されたフィルムの鏡面ロールに接していた面が印刷加工を施す面となる。
【0172】
また、フィルム製造の際、特に、研磨等により表面を鏡面仕上げにしたシリコーンゴムロール(以下、単に「シリコーン鏡面ゴムロール」ともいう)を用いる場合、片方の面を鏡面ロール、他方の面をシリコーン鏡面ゴムロールで挟持することで、シリコーン鏡面ゴムロール接触面を平滑面に、鏡面ロール接触面を艶消し面とすることができ、特に、本発明のフィルムのような、フィルム表面の最大高さが5μm以下の微細な凹凸形状を有するフィルム原料本来の表面粗度、即ち艶消し程度を保持しつつ製造することが可能となる。シリコーン鏡面ゴムロールとしては、具体的には、「IT68Sシリコーンミラーロール」(商品名、硬度=A87、表面粗さRMAX=2μm、持田商工社製)等がある。また、特に限定されないが、20〜140℃の範囲内で鏡面ロールを温調することが好ましい。その温度範囲は、50〜120℃が好ましく、60〜100℃がより好ましい。鏡面ロールがこの温度範囲の場合、アクリル樹脂フィルムの鏡面ロールからの剥離性が良好である等の良製膜性を維持しつつ、鏡面ロール接触面を艶消し面、シリコーン鏡面ゴムロール接触面を平滑面とする良外観なフィルムが得られる。この場合、製造されたフィルムのシリコーン鏡面ゴムロールに接していた面が印刷加工を施す面となる。
【0173】
また、樹脂組成物を溶融押出する場合には、80メッシュ以上のスクリーンメッシュで溶融状態にある樹脂組成物をろ過しながら押出することが好ましい。
【0174】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、特に限定されないが、鉛筆硬度(JIS K5400に基づく測定)が2B以上(2Bを含めて、より高硬度)であることが好ましい。さらにHB以上が好ましく、最も好ましくはF以上である。鉛筆硬度が2B以上のアクリル樹脂フィルムを用いると、インサート成形またはインモールド成形を施す工程中で、アクリル樹脂フィルム、および加飾アクリル樹脂フィルムに傷がつきにくく、さらにこれらを積層した積層成形品の耐擦傷性も良好である。
【0175】
例えば車輌用途に使用される場合、本発明のアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度はHB以上であることが好ましい。鉛筆硬度はHB以上のアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム、およびこれらを積層した積層成形品は、ドアウエストガーニッシュ、フロントコントロールパネル、パワーウィンドウスイッチパネル、エアバッグカバーなど、各種車輌用部材に好適に使用することができる。用途拡大の観点から工業上非常に有用である。さらに、鉛筆硬度がF以上であると、ガーゼなど表面の粗い布で擦傷しても傷が目立たなく、鉛筆硬度が2Hのアクリル樹脂フィルムを用いた成形品と同等の実用上の耐擦傷性能を付与することができるため、工業的利用価値は極めて高くなる。
【0176】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が80℃以上であることが好ましい。熱変形温度(以下、単にHDTともいう。)が80℃以上のアクリル樹脂フィルムの場合、該フィルムを製膜する際にフィルム用樹脂組成物の溶融粘度が適度に高くなり、鏡面ロールからの剥離性が良好となり、鏡面ロールに巻きつく等の問題を防止できる。また、例えば車輌用途において、本発明のアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム、およびこれらを含む積層成形品は、フロントコントロールパネルなど、車内で直射日光を受ける部分にも使用することができる。用途がさらに拡大するという観点から、熱変形温度が90℃以上であることが好ましい。また、本発明のアクリル樹脂フィルムの熱変形温度が130℃以下であることが好ましい。なお、上記熱変形温度の測定は、アクリル樹脂フィルムの原料ペレットを射出成形にて成形後、60℃で4時間アニールした熱変形温度測定試片により行うものであり、測定される熱変形温度は、通常、アクリル樹脂フィルムの熱変形温度と同じとされる。
【0177】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、各種基材に意匠性を付与するために、必要に応じて適当な印刷法により印刷を施して使用することが特に有用である。この場合、アクリル樹脂フィルムに片側印刷処理を施して、片面に印刷層(絵柄層)を有するフィルムとして用いることが好ましい。本発明のアクリル樹脂フィルムの場合、フィルム本来の表面の微細な凹凸形状を保持しつつ製造することが好ましく、その製造法としては、上述のとおりTダイから溶融押出された樹脂組成物を鏡面ロールとゴムロールまたはシボ入りロールとで挟持することが好ましい。得られたアクリル樹脂フィルムの内、印刷層を配するのに好ましい面は上述のとおりである。また、成形時には、印刷層面を基材樹脂との接着面に配することが、加飾を施した面(印刷層面)の保護や高級感の付与の観点から、好ましい。印刷法としては、従来公知の印刷法、コート法によりインクを塗布する方法が挙げられる。具体的には、グラビア印刷法、フレキソグラフ印刷法、シルクスクリーン印刷法、オフセット印刷法、ロールコート法、グラビアコート法、コンマコート法などである。
【0178】
印刷層で使用するインキとしては、アクリル系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂など公知の熱可塑性樹脂をバインダ−として用いることができる。また、本発明のゴム含有重合体(I)および熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物(A)を熱可塑性樹脂バインダーとして用いることもできる。特に、本発明のゴム含有重合体(I”)および熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物(A”)を熱可塑性樹脂バインダーとして用いると、後述するインモールド成形時にゲート付近で印刷層の消失を抑制する印刷層を付与することができるため、好ましい。
【0179】
メタリック調印刷の場合、インキ中には高輝度顔料を必須成分として含む。例えば、ノンリーフィングアルミニウムペースト(昭和アルミパウダー社製)等のアルミ顔料、「イリオジン」(メルク社登録商標)等のパール顔料など公知の高輝度顔料を用いる。また、適当な色の顔料または染料を着色剤として含有することができる。
【0180】
また、印刷法、コート法以外の方法として、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等の公知の方法でメタリック調の印刷層を形成することができる。公知の金属を印刷層として用いることができるが、展性に優れたアルミニウム、インジウム、あるいはこれらを含有する合金を用いることがインモールド成形性の観点から好ましい。
【0181】
アクリル樹脂フィルムに印刷を施した面における印刷抜けの個数は、意匠性、加飾性の観点から、10個/m2以下が好ましい。印刷抜けの個数を10個/m2以下とすることにより、このフィルムの積層成形品の外観がより良好となる。印刷を施した面における印刷抜けの個数は、5個/m2以下がより好ましい。
【0182】
印刷抜けの個数が10個/m2以下の場合、印刷抜けが明らかな欠陥として分かるメタリック調の印刷柄の場合でも、意匠性、表面外観が低下することがない、さらに、製造時の歩留まりが低下することないため好ましく、工業的利用価値は極めて高い。
【0183】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムに着色加工したものを用いることができる。
【0184】
さらに、印刷層以外に、基材となる樹脂との接着性を高めるために、接着層を設けることが好ましい。接着層は印刷層の上に設けても良く、印刷層とは反対側のフィルム表面に設けても良い。印刷層を持たないアクリル樹脂フィルムの表面に接着層を設けることも可能である。
【0185】
本発明のアクリル樹脂フィルムの厚みは、10〜500μmが好ましい。アクリル樹脂フィルムの厚みを500μm以下とすることにより、インサート成形およびインモールド成形に適した剛性が得られ、より安定にフィルムを製造することができる。また、アクリル樹脂フィルムの厚みを10μm以上とすることにより、基材の保護性とともに、得られる成形品に深み感をより十分に付与することができる。アクリル樹脂フィルムの厚みは、30μm以上がより好ましい。また、アクリル樹脂フィルムの厚みは、200μm以下がより好ましい。
【0186】
通常、成形品に塗装によって十分な厚みの塗膜を形成するためには、十数回の重ね塗りが必要になることがあり、この場合、コストがかかり、生産性があまりよくない。それに対して、本発明の積層成形品は、アクリル樹脂フィルム自体が塗膜となるため、容易に非常に厚い塗膜を形成することができ、工業的利用価値が高い。
【0187】
本発明の積層成形品は、本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層したことを特徴とするものである。特に、前記アクリル樹脂フィルムを射出成形金型内で真空成形または圧空成形を施し、その後、該射出成形金型内で前記基材となる樹脂を射出成形して一体化するインモールド成形法により得られる積層成形品とすることが好ましい。また、真空成形または圧空成形などの予備成形を施し、予備成形品を別の金型内に挿入した後、基材である樹脂を射出成形して積層成形品を得るインサート成形法により得られる積層成形品とすることもできる。このインサート成形法の場合、本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを熱可塑性樹脂層上に積層した積層シートまたはフィルムを用いることが好ましい。積層シートまたはフィルムに用いる熱可塑性樹脂層としては、公知の熱可塑性樹脂フィルムまたはシートを用いることができる。例えば、アクリル樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。中でも、印刷性、積層フィルムまたはシートの二次成形性の観点から、アクリル樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂が好ましい。加飾アクリル樹脂フィルムを熱可塑性樹脂層上に積層した積層シートまたはフィルムにおける印刷層の位置は特に限定されないが、積層成形品に所望する絵柄の意匠性を付与する観点から、熱可塑性樹脂層とアクリル樹脂層の間に配することが好ましい。これにより、加飾層を保護でき、かつ深みのある意匠性を実現することができる。
【0188】
さらに、基材となる樹脂との接着性を高めるために、接着層を設けることが好ましい。接着層は熱可塑性樹脂層の上に設けても良く、あるいは基材となる樹脂の熱可塑性樹脂層に対向する面に設けても良い。
【0189】
本発明の積層成形品における基材となる樹脂は、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムと溶融接着可能なものであることが好ましい。例えば、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂、あるいはこれらを主成分とする樹脂が挙げられる。接着性の点でABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、あるいはこれらを主成分とする樹脂が好ましく、特にABS樹脂、ポリカーボネート樹脂あるいはこれらを主成分とする樹脂がより好ましい。ただし、ポリオレフィン樹脂等の熱融着しない基材樹脂でも接着性の層を用いることでアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムと基材とを成形時に接着させることは可能である。
【0190】
本発明の積層成形品は、二次元形状に成形する場合、熱融着できる基材に対しては、熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。熱融着しない基材に対しては、接着剤を介して貼り合せることは可能である。また、三次元形状に成形する場合は、インサート成形法やインモールド成形法等の公知の方法を用いることができ、生産性の点からインモールド成形法が好ましい。インモールド成形法は、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを加熱した後、真空引き機能を持つ型内で真空成形を行う。この方法は、フィルムの成形と射出成形を一工程で行えるため、作業性、経済性の点から好ましい。
【0191】
なお、印刷層を有するアクリル樹脂フィルムを用いてインモールド成形を行った場合、金型の形状、射出成形の条件によっては、ゲート付近の印刷層が消失することがある。ゲートには、ゲート部で樹脂経路が狭められない非制限ゲートと、樹脂経路が狭められる制限ゲートとの大別される。後者の代表例として、ピンポイントゲート、サイドゲート、サブマリンゲート等がある。これらのゲート形状は、ゲート付近の残留応力は小さくなるものの、ゲート通過樹脂の温度上昇を伴ったり、ゲート付近のアクリル樹脂フィルム面にかかる単位面積当たりの射出樹脂圧力が大きくなったりするために、アクリル樹脂フィルム面の印刷層が消失しやすい傾向にある。
【0192】
本発明のアクリル樹脂フィルムのうち、特に、ゴム含有重合体(I”)と熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物(A”)を構成成分とするアクリル樹脂フィルムを用いることにより、従来のアクリル樹脂フィルムを用いた場合と比較して、絵柄の消失を軽減することができる。なお、積層シートまたはフィルムを用いてインサート成形を行うことは、熱可塑性樹脂層が存在することにより、熱量の伝達を抑制し、印刷層の消失をより軽減することができる点から、好ましい。
【0193】
インモールド成形時の加熱温度は、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムが軟化する温度以上が望ましい。具体的にはフィルムの熱的性質あるいは成形品の形状に左右されるが、通常70℃以上である。また、あまり温度が高いと、表面外観が悪化したり、離型性が悪くなったりする傾向にある。これもフィルムの熱的性質あるいは成形品の形状に左右されるが、通常は170℃以下が好ましい。
【0194】
さらに、エネルギー効率の観点からは、真空成形時の予備加熱温度は低い方が好ましい。具体的には135℃以下が好ましい。また、予備加熱温度が低くても成形ができるフィルムは、予備加熱温度を低くする代わりに予備加熱時間を短くすることもできる。この場合は、真空成形のハイサイクル化が可能となり、工業的利用価値が高い。
【0195】
インモールド成形を行う際の発生する印刷層が消失する問題を成形条件から抑制する方法として、真空成形時の予備加熱温度を高くすることがある。これは、熱架橋反応性成分を有する印刷層を用い、熱を通常成形時より多く加えることで、印刷層をアクリル樹脂フィルムに強固に固定化したのち成形することを目的としている。この方法は、当然のことながら成形のサイクルを低下させるものである。本発明のアクリル樹脂フィルムのうち、特に、ゴム含有重合体(I”)と熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物(A”)を構成成分とするアクリル樹脂フィルムを用いると、このような方法を採用せずに、良好な外観を有する積層成形品を得ることができるため、成形のハイサイクル化を可能とし、工業的利用価値は非常に高い。
【0196】
このように、真空成形によりフィルムに三次元形状を付与する場合、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムは高温時の伸度に富んでおり、非常に有利である。
【0197】
本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層成形品は、必要に応じて各種機能付与のための表面処理をフィルム表面に施すことができる。例えば、シルク印刷、インクジェット印刷等の印刷処理、金属調付与あるいは反射防止のための金属蒸着・スパッタリング・湿式メッキ処理、表面硬度向上のための表面硬化処理、汚れ防止のための撥水化処理あるいは光触媒層形成処理、塵付着防止あるいは電磁波カットを目的とした帯電防止処理、防眩処理等が挙げられる。
【0198】
本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層成形品は、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装用途、ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロントグリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール等、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装用途、AV機器や家具製品のフロントパネル、ボタン、エンブレム、表面化粧材等の用途、携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等の用途、さらには家具用外装材用途、壁面、天井、床等の建築用内装材用途、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途、窓枠、扉、手すり、敷居、鴨居、家具類等の建築用内装材の表面化粧材用途、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途、あるいは電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用途、瓶、化粧品容器、小物入れ等の各種包装容器および材料、景品や小物等の雑貨等のその他各種用途等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0199】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の「部」とあるのは「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。また、実施例中の略号は以下の通りである。
【0200】
MMA: メチルメタクリレート
BzMA: ベンジルメタクリレート
PhMA: フェニルメタクリレート
MA: メチルアクリレート
n−BA: n−ブチルアクリレート
St: スチレン
ED: エチレングリコールジメタクリレート
1,3−BD: 1,3−ブチレングリコールジメタクリレート
AMA: アリルメタクリレート
CHP: クメンハイドロパーオキサイド
LPO: ラウリルパーオキサイド
t−BH: t−ブチルハイドロパーオキサイド
n−OM: n−オクチルメルカプタン
EDTA: エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
【0201】
ゴム含有重合体(I)[(I’)および(I”)]、熱可塑性重合体(II)、熱可塑性重合体(IV)、コアシェル重合体(III)[(III−1)〜(III−22)]、アクリル樹脂フィルム、および積層成形品については、以下の試験法により諸物性を測定した。
【0202】
ゴム含有重合体(I)の各重合体層のガラス転移温度
ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook (J.Brandrup, Interscience, 1989)〕に記載されている値を用い、FOXの式から算出した。
【0203】
ゴム含有重合体(I)のゲル含有率G(%)
ゴム含有重合体(I)の所定量(抽出前質量:W0(g))をアセトン溶媒中還流下で抽出処理し、遠心分離によりアセトン可溶分を除去し、残ったアセトン不溶分を乾燥した後、質量(抽出後質量:W1(g))を測定し、下記式にて算出した。
ゲル含有率G=(抽出後質量W1/抽出前質量W0)×100
【0204】
ゴム含有重合体(I)の質量平均粒子径
乳化重合にて得られたゴム含有重合体(I)のポリマーラテックスの質量平均粒子径を光散乱光度計(大塚電子(株)製、「DLS−700」(商品名))を用い、動的光散乱法で測定した。
【0205】
コアシェル重合体(III)[(III−1)〜(III−22)]の質量平均粒子径
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、「LA−910」(商品名))を用いて測定した。
【0206】
コア層重合体(III−A)および熱可塑性重合体(II)の20℃における屈折率
"PROPERTIES OF POLYMERS 3rd Edition"(ELSEVIER、1990)に記載されている値を用いた。また、共重合体の屈折率についてはその体積比率により算出した。
【0207】
熱可塑性重合体(II)および熱可塑性重合体(IV)の還元粘度
サン電子工業製「AVL−2C」(商品名)自動粘度計を使用して、溶媒にはクロロホルムを用い、25℃で測定した。還元粘度の測定ではクロロホルム100mLにサンプル0.1gを溶かしたものを使用した。
【0208】
フィルムの表面光沢度
グロスメーター(ムラカミカラーリサーチラボラトリー製、GM−26D型)を用い、鏡面ロールとシリコーン鏡面ロールで挟持して製膜して得られたフィルムの鏡面ロールに接していた面を60°の角度で測定した。
【0209】
フィルムの内部ヘーズ
厚み3mm、表面粗度が0.5Sの2枚の鏡面SUS板にアクリル樹脂フィルムを挟み、130℃、3MPAの条件下で3分保持し熱プレス成形した後、室温以下に冷却して調製したフィルムを、JIS K7164に従って測定した。
【0210】
フィルムのHDT
樹脂組成物のペレットを、射出成形にてASTM D648に基づく熱変形温度測定試片に成形し、60℃で4時間アニールした。そして、この試験片を使用し、低荷重(0.45MPa)で、ASTM D648に従って測定した。
【0211】
フィルムの鉛筆硬度
JIS K5400に従って測定した。
【0212】
印刷抜け個数
アクリル樹脂フィルムの片面に、絵柄をグラビア印刷し、5m2の目視検査を行い、印刷抜け個数を計測して1m2当たりに換算した。
【0213】
積層成形品の意匠性
インモールド成形品の表面外観を目視で観察し、以下のように評価した。
○:印刷層がクリアに見える。
×:印刷層がくすんで見える。
【0214】
<1.ゴム含有重合体(I’)の製造>
窒素雰囲気下、還流冷却器付き反応容器内に脱イオン水244部を入れ、80℃に昇温した。そして、以下に示す(イ)を添加し、撹拌しながら、以下に示す重合体(I’−A1)用の原料(ロ)の1/15を仕込み、15分間保持した。次いで、残りの原料(ロ)を、水に対する単量体混合物[原料(ロ)]の増加率8%/時間で、連続的に添加した後、60分間保持し、重合体(I’−A1)のラテックスを得た。なお、重合体(I’−A1)単独のTgは24℃であった。
【0215】
続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.6部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、以下に示す重合体(I’−A2)用の原料(ハ)を、水に対する単量体混合物[原料(ハ)]の増加率4%/時間で、連続的に添加した後、120分間保持し、重合体(I’−A2)の重合を行って、最内層重合体(I’−A)[(I’−A1)+(I’−A2)]のラテックスを得た。なお、重合体(I’−A2)単独のTgは−38℃であった。
【0216】
続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、以下に示す最外層重合体(I’−C)用の原料(ニ)を、水に対する単量体混合物[原料(ニ)]の増加率10%/時間で、連続的に添加した後、60分間保持し、最外層重合体(I’−C)の重合を行って、ゴム含有重合体(I’)の重合体ラテックスを得た。なお、最外層重合体(I’−C)単独のTgは99℃であった。
【0217】
得られたゴム含有重合体(I’)の重合体ラテックスに対し、酢酸カルシウムを用いて凝析、凝集、固化反応を行い、ろ過、水洗後、乾燥してゴム含有重合体(I’)を得た。得られたゴム含有重合体(I’)の質量平均粒子径は0.28μmであった。また、ゴム含有重合体(I’)のゲル含有率は90%であった。
【0218】
(イ)ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.6部、
硫酸第一鉄 0.00012部、
EDTA 0.0003部。
【0219】
(ロ)MMA 22.0部、
n−BA 15.0部、
St 3.0部、
AMA 0.4部、
1,3−BD 0.14部、
t−BH 0.18部、
モノ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸40%と
ジ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸60%との
水酸化ナトリウムの混合物の部分中和物 1.0部。
【0220】
(ハ)n−BA 50.0部、
St 10.0部、
AMA 0.4部、
1,3−BD 0.14部、
t−BH 0.2部、
モノ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸40%と
ジ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸60%との
水酸化ナトリウムの混合物の部分中和物 1.0部。
【0221】
(ニ)MMA 57.0部、
MA 3.0部、
n−OM 0.3部、
t−BH 0.06部。
【0222】
<2.ゴム含有重合体(I”)の製造>
攪拌機を備えた容器に脱イオン水10.8部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD0.2部、AMA0.05部およびCHP0.025部からなる単量体混合物を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業社製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.3部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
【0223】
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水139.2部を投入し、75℃に昇温した。さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部およびEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を該重合容器内に一度に投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって該重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、重合体(I”−A1)の重合を完結した。
【0224】
続いて、MMA9.6部、n−BA14.4部、1,3−BD1.0部およびAMA0.25部からなる単量体混合物を、CHP0.016部と共に、90分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、重合体(I”−A2)の重合を完結させ、最内層重合体(I”−A)を得た。
【0225】
なお、重合体(I”−A1)単独のTgは−48℃、重合体(I”−A2)単独のTgは−10℃であった。
【0226】
続いて、MMA6部、MA4部およびAMA0.075部からなる単量体混合物を、CHP0.0125部と共に、45分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間層重合体(I”−B)を形成させた。なお、中間層重合体(I”−B)単独のTgは60℃であった。
【0227】
続いて、MMA57部、MA3部、n−OM0.264部およびt−BH0.075部からなる単量体混合物を140分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外層重合体(I”−C)を形成して、ゴム含有重合体(I”)の重合体ラテックスを得た。なお、最外層重合体(I”−C)単独のTgは99℃であった。
【0228】
重合後に測定したゴム含有重合体(I”)の質量平均粒子径は0.11μmであった。
【0229】
得られたゴム含有重合体(I”)の重合体ラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い、濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有重合体(I”)を得た。ゴム含有重合体(I”)のゲル含有率は、70%であった。
【0230】
また、得られたゴム含有重合体(I”)214.3gを目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン1500mLに投入し、3時間攪拌して、ゴム含有重合体(I”)のアセトン分散液を調製した。次いで、この分散液を目開き32μmのナイロンメッシュで濾過した後、ナイロンメッシュごとクロロホルム中で15分間超音波洗浄することでメッシュ上の捕捉物をクロロホルム洗浄した。次いで、目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン150mLに上記超音波洗浄後の捕捉物をナイロンメッシュごと投入し、この液を15分間超音波処理した後、ナイロンメッシュを除去して、メッシュ上の捕捉物のアセトン分散液150mLを調製した。次いで、この分散液70mLをリオン株式会社製、自動式液中微粒子計測器(型式:KL−01)にて25℃下で測定し、直径55μm以上の粒子の数を求めたところ、10個であった。
【0231】
<3.コアシェル重合体粒子の製造>
攪拌機を備えた容器に、分散安定剤として5%ポリビニルアルコール水溶液30部を溶解させた脱イオン水200部を仕込み、そこに予め調製しておいた、表1に示すコア層重合体(III−A)用原料を添加した。その後、この混合液をT.Kホモミキサー(特殊機化工業社製)にて所定の液滴径の均一な懸濁液を調製した。次に、70℃に昇温し、窒素雰囲気下で2時間撹拌しながら重合反応しコア層重合体(III−A)粒子懸濁液を得た。次に、このコア層重合体(III−A)粒子懸濁液を60℃に冷却し、表1に示すシェル層重合体(III−B)用原料を、水に対する単量体混合物の増加率10%/時間で、連続的に添加した後、重合が始まり発熱ピークが観測された時点で80℃に昇温し、3時間撹拌しながら反応を終了させた。懸濁液を冷却、濾別、乾燥して重合体粒子を得た。得られた重合体粒子を風力分級機(日清エンジニアリング社製;商品名「TC−15N」)にて分級し、該コアシェル重合体粒子の質量平均粒子径Dwに対して、10×Dwμm以上の粗大粒子を取り除いてコアシェル重合体粒子を得た。なお、コアシェル構造重合体1.78g(125μmフィルム0.125m2当りの樹脂量が17.8gであり、該コアシェル構造重合体を10質量%添加することを想定したときの質量)について、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製;商品名「S570」)を用いて観察し、10×Dwμm以上の粗大粒子が存在しないことを確認した。
【0232】
<4.熱可塑性重合体(IV)の製造>
反応容器に窒素置換したイオン交換水200部を仕込み、乳化剤として「ラテムルASK」(商品名;花王社製)1部、過硫酸カリウム0.15部を仕込んだ。続いて、MMA40部、n−BA2部、n−OM0.004部を仕込み、窒素雰囲気下65℃にて3時間撹拌し重合を完結させた。引き続いて、MMA44部、n−BA14部からなる単量体混合物を2時間にわたり滴下し、その後、2時間保持し重合を完結した。得られたラテックスを0.25%硫酸水溶液に添加し、重合体を酸析後、脱水、水洗、乾燥し粉体状で重合体を回収した。得られた共重合体の還元粘度0.38L/gであった。
【0233】
(実施例1)
上記で得たゴム含有重合体(I’)23部、熱可塑性重合体(II)(MMA/MA共重合体、MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度0.06L/g、屈折率(20℃)1.4897、ビーズ形状)67部、コアシェル重合体(III−1)10部、配合剤としてチバスペシャリティケミカルズ社製;商品名「チヌビン234」1.4部、旭電化工業社製;商品名「アデカスタブAO−60」0.1部、旭電化工業社製「LA−67」0.3部、城北化学工業社製;商品名「JP333E」0.3部、日本アエロジル社製;商品名「アエロジルR972」0.3部、熱可塑性重合体(IV)6部をヘンシェルミキサーにて混合した。この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)社製;商品名「PCM−30」)に供給し、混練してペレットを得た。なお、得られたペレットのHDTは90℃であった。
【0234】
このペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm巾のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いて、シリンダー温度180〜240℃、Tダイ温度240℃の条件で、100メッシュの金属フィルター、Tダイを介して溶融押出を行った。押出した樹脂は、75℃に温調した冷却用の鏡面ロール(クロムメッキ加工した表面粗度が0.2Sのロール)と、シリコーン鏡面ゴムロールとで挟み込み、125μm厚みのアクリル樹脂フィルムを製膜した。なお、フィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0235】
得られたアクリル樹脂フィルムのシリコーン鏡面ゴムロール接触面側に、アクリル系樹脂をMEKとトルエン(=1/1 vol/vol)に固形分25%で溶解したグラビアインキ10部に対し、鱗片状のアルミ顔料を2部含有するインキを用いて、シルバーメタリック調の印刷をグラビア印刷にて実施した。なお、印刷層の厚みは5μmであった。印刷抜けは発生しなかった。
【0236】
次に、基材樹脂に耐熱性ABS樹脂「バルクサムTM25B」(商品名;UMGABS社製)、および印刷を施したアクリル樹脂フィルムを用いて、真空引き機能を有し、金型(成形品形状:縦150mm×横120mm×厚み2mm、深さ10mmの箱型、ゲート位置:成形品中央に1箇所と、中央ゲートの上下(成形品縦方向)40mmの位置に各1箇所の計3箇所、ゲート形状:直径1mmのピンポイントゲート)を用いて、J85ELII型射出成形機(商品名;日本製鋼所社製)およびホットパックシステム(日本写真印刷社製)を組み合わせたインモールド成形装置により、インモールド成形(フィルム真空成形条件:ヒーター温度260℃、加熱時間15秒、ヒーターとフィルムの距離15mm、射出成形条件:シリンダー〜ノズル温度250℃、射出速度30%、射出圧力43%、金型温度60℃、非加飾面が金型と接する向きに真空成形し、加飾面側から基材樹脂を射出した)を行って積層成形品を得た。
【0237】
(実施例2)
ゴム含有重合体(I’)と熱可塑性重合体(II)とコアシェル重合体(III−1)の配合比率を、23/62/15(部/部/部)とする以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは89℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0238】
(実施例3)
ゴム含有重合体(I)と熱可塑性重合体(II)とコアシェル重合体(III−1)の配合比率を、23/72/5(部/部/部)とする以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは91℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0239】
(実施例4〜21)
実施例1において、コアシェル重合体の組成を表1に示すようにそれぞれ変更した(コアシェル重合体(III−2)〜(III−19))以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTはいずれも90℃、また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0240】
(実施例22)
ゴム含有重合体(I”)65部、熱可塑性重合体(II)(MMA/MA共重合体、MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度0.06L/g、屈折率(20℃)1.4897、ビーズ形状)25部、コアシェル重合体(III−1)10部、配合剤としてチバスペシャリティケミカルズ社製;商品名「チヌビン234」1.4部、旭電化工業社製;商品名「アデカスタブAO−60」0.1部、旭電化工業社製LA−67」0.3部、城北化学工業社製;商品名「JP333E」0.3部、日本アエロジル社製;商品名「アエロジルR972」0.3部、熱可塑性重合体(IV)3部をヘンシェルミキサーにて混合した。この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)社製;商品名「PCM−30」)に供給し、混練してペレットを得た。この樹脂組成物のペレットを用いる以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは88℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0241】
(実施例23)
ゴム含有重合体(I”)と熱可塑性重合体(II)とコアシェル重合体(III−1)の配合比率を、65/20/15(部/部/部)とする以外は実施例22と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは88℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0242】
(実施例24)
ゴム含有重合体(I”)と熱可塑性重合体(II)とコアシェル重合体(III−1)の配合比率を、65/30/5(部/部/部)とする以外は実施例22と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは89℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0243】
(比較例1〜3)
実施例1において、コアシェル重合体の組成を表1に示すようにそれぞれ変更した(コアシェル重合体(III−20)〜(III−22))以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTはいずれも90℃、また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0244】
【表1】

【0245】
以上で得られたアクリル樹脂フィルム、加飾フィルム、および積層成形品における各評価結果を表2にまとめて示す。
【0246】
【表2】

【0247】
20℃における熱可塑性重合体(II)の屈折率(n)とコアシェル重合体(III)のコア層重合体(III−A)の20℃における屈折率(n’)の差(絶対値)が0.003以下である実施例1〜24のアクリル樹脂フィルムを用いて、フィルムの片面に印刷を施した後、インモールド成形を行って得られた積層成形品は、該印刷層の見え方がクリアで意匠性に優れたものとなった。
【0248】
一方で、20℃における熱可塑性重合体(II)の屈折率(n)とコアシェル重合体(III)のコア層重合体(III−A)の20℃における屈折率(n’)の差の絶対値が0.003を超える比較例1〜3のアクリル樹脂フィルムを用いた場合、印刷層がくすんで見え、意匠的に劣るものであり、工業的利用価値は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0249】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、インサート成形、インモールド成形に用いることのできる表面硬度、耐擦傷性、耐熱性を有し、かつ、良好な印刷適性を有し、かつ、良好な意匠性を有するものである。
【0250】
本発明のアクリル樹脂フィルムを積層した積層成形品は、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装用途、ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロントグリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール等、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装用途、AV機器や家具製品のフロントパネル、ボタン、エンブレム、表面化粧材等の用途、携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等の用途、さらには家具用外装材用途、壁面、天井、床等の建築用内装材用途、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途、窓枠、扉、手すり、敷居、鴨居、家具類等の建築用内装材の表面化粧材用途、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途、あるいは電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用途、瓶、化粧品容器、小物入れ等の各種包装容器および材料、景品や小物等の雑貨等のその他各種用途等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示すゴム含有重合体(I)、およびメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする重合体の還元粘度が0.15L/g以下の熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物(A)100質量部に対し、下記に示すコアシェル重合体(III)0.5〜50質量部を添加してなるアクリル樹脂組成物(B)を構成成分とし、20℃における熱可塑性重合体(II)の屈折率(n)とコアシェル重合体(III)のコア層重合体(III−A)の屈折率(n’)が下記の式(i)を満たすアクリル樹脂フィルム。
ゴム含有重合体(I):
アクリル酸アルキルエステルを主成分として得た1層または2層以上の構造を有する最内層としての弾性重合体(I−A)の存在下に、少なくとも、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体をグラフト重合して1層または2層以上の構造を有する最外層重合体(I−C)を成形してなる、質量平均粒子径が0.01〜0.5μmの2層以上の多層構造を有するゴム含有重合体
コアシェル重合体(III):
コア層重合体(III−A)と、シェル層重合体(III−B)と、がこの順で積層されてなり、各重合体層が下記に示す単量体成分からなる、質量平均粒子径が0.5〜20μmであるコアシェル重合体
(1)コア層重合体(III−A)を構成するための単量体成分
(III−A1)アクリル酸アルキルエステル 10〜90質量%
(III−A2)メタクリル酸アルキルエステル 10〜90質量%
(III−A3)共重合可能な二重結合を有する他の単量体 0〜50質量%
(III−A4)多官能性単量体 0〜20質量%
(III−A5)グラフト交叉剤 0.1〜20質量%
コアシェル重合体(III)中のコア層重合体(III−A)の含有量 25〜85質量%
(2)シェル層重合体(III−B)を構成するための単量体成分
(III−B1)メタクリル酸アルキルエステル 60〜100質量%
(III−B2)アクリル酸アルキルエステル 0〜40質量%
(III−B3)共重合可能な二重結合を有する他の単量体 0〜40質量%
コアシェル重合体(III)中のシェル層重合体(III−B)の含有量 15〜75質量%
式(i):
0≦|n−n’|≦0.003
【請求項2】
前記樹脂組成物を溶融押出後、鏡面ロールとゴムロールまたはシボ入りロールで挟持して製膜することにより製造される請求項1記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
アクリル樹脂フィルムの片面に印刷を施した請求項2記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3記載のいずれかのアクリル樹脂フィルムを、基材に積層したアクリル樹脂積層成形品。

【公開番号】特開2006−299038(P2006−299038A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121212(P2005−121212)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】