説明

アクリル樹脂成形品の成形方法

【課題】大型のアクリル樹脂成形品であっても、樹脂型による常温成形が可能となって温度制御が容易となり成形が容易となるばかりか、大きな設備を必要としないことから設備コスト・製品コストも抑えられるアクリル樹脂成形品の成形方法を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂板P1を用いて表面1aが成形しようとする成形品の表面と同じ形状をなす表側成形板1を成形する工程と、アクリル樹脂板P2を用いて裏面2bが成形しようとする成形品の裏面と同じ形状をなす裏側成形板2を成形する工程と、雄型G1内と雌型G2内にそれぞれ表側成形板1と裏側成形板2を配置し、雄型G1及び雌型G2を合致させ互いに合わさる表側成形板1と裏側成形板2とにより囲まれるように形成される隙間4にアクリル樹脂を注入し、これらを重合し一体化させる工程と、を備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂を用いて透明成形品を成形する成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、アクリル樹脂板は、その透明性に優れていることから、例えば大型水槽、商品ディスプレイ、携帯電話の部材といったように広い分野で利用されている。このアクリル樹脂板の成形方法には、通常、セルキャスト法と押出し法とが有る。この内、セルキャスト法についてその概略を説明すると、次の工程からなる。すなわち、まずアクリル樹脂セルキャスト板の原料に、重合させるための触媒を混合する。次に、このようにして配合された樹脂液を平行に並置された一対のガラス板間に流し込むと共に、所望の板厚製品を得るため両ガラス板間をクランプで規制する。次に、これを温度制御された温水中に漬浸し、前記樹脂液を重合させる。更に、前記樹脂液の入った一対のガラス板を、温水から取り出し熱処理して重合を完結させる。その後、これを冷却し両ガラス板を取り外して成形品を得る(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「カナセ工業株式会社:アクリル事業」、「カナセライト製造工程」、[online]、[平成21年10月9日検索]、インターネット<http://www.kanase.co.jp/product/acrylic/sheet.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に示されるセルキャスト法は一般に比較的肉厚の厚い大型樹脂成形品にも対応可能であるが、このような大型樹脂成形品にあっては微妙な温度調整を必要として細かい温度制御を強いられ、その成形が難しくなる。また、水槽自体が大型化し、しかも、その後に重合を完結させるために必要とする乾燥処理装置も大型化する。このため、これら設備が肥大化するばかりか設備コストも嵩み、引いては製品コストも高くなるといった課題が有った。
【0005】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされたもので、大型で比較的厚いアクリル樹脂成形品であっても、樹脂型による常温成形が可能となって温度制御が容易となり成形が容易となるばかりか、大きな設備を必要としないことから設備コスト・製品コストも抑えられるアクリル樹脂成形品の成形方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、本発明のアクリル樹脂成形品の成形方法は、アクリル樹脂板を用いて表面が成形しようとする成形品の表面と同じ形状をなす表側成形板を成形する工程と、アクリル樹脂板を用いて裏面が成形しようとする成形品の裏面と同じ形状をなす裏側成形板を成形する工程と、雄型内と雌型内にそれぞれ前記表側成形板と裏側成形板を配置し、前記雄型及び雌型を合致させ互いに合わさる前記表側成形板と裏側成形板とにより囲まれるように形成される隙間にアクリル樹脂を注入し、これらを重合し一体化させる工程と、を備えてなることを特徴とする。
【0007】
この際、前記裏側成形板の裏面に着色されたゲルコート樹脂層を形成するようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るアクリル樹脂成形品の成形方法は、アクリル樹脂板を用いて表面が成形しようとする成形品の表面と同じ形状をなす表側成形板を成形する工程と、アクリル樹脂板を用いて裏面が成形しようとする成形品の裏面と同じ形状をなす裏側成形板を成形する工程と、雄型内に前記表側成形板を配置すると共に雌型内に前記裏側成形板を配置し、雄型及び雌型を合致させ、互いに合わさる表側成形板と裏側成形板とにより囲まれるようにして形成される隙間にアクリル樹脂を注入し、これらを重合し一体化させる工程と、を備えてなる。そこで、注入され溶融したアクリル樹脂は、表側・裏側成形板の内面に接触して重合反応を起こし、これらは一体化される。よって、比較的厚いアクリル樹脂成形品であっても、樹脂型による常温成形が可能となって温度制御が容易となり成形し易い。しかも、簡便な真空成形型と樹脂型で済むことから、設備コストが大幅に軽減でき製品コストも低廉になし得るという効果を奏する。
【0009】
また、前記裏側成形板の裏面に着色されたゲルコート樹脂層を形成するようにすれば、所望の色、模様が透明な表側・裏側成形板を通して見られることになり、デザイン性に優れるという効果も有る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る成形方法により成形された浴槽の端面図。
【図2】(イ)〜(ニ)は表側成形板の成形工程を示す概略斜視図。
【図3】(イ)〜(ニ)は裏側成形板の成形工程を示す概略斜視図。
【図4】(イ)〜(ハ)は本発明に係る浴槽の成形工程を示す概略断面図。
【図5】裏面にゲルコート樹脂層を形成した裏側成形板の端面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るアクリル樹脂成形品の成形方法の最良の実施の形態について説明する。成形品としては、例えば、浴槽、浴槽用カウンター、便器、カウンター式洗面器等の大型成形品があるが、この内、その一例として浴槽について説明する。図1は本発明に係る成形方法により成形された浴槽の端面図、図2(イ)〜(ニ)は表側成形板の成形工程を示す概略斜視図、図3(イ)〜(ニ)は裏側成形板の成形工程を示す概略斜視図である。
【0012】
成形品である浴槽Aは、後で詳しく説明する表側成形板1、裏側成形板2及びその間に注入されたアクリル樹脂層5の三層が重なって成形されている。表側成形板1も裏側成形板2も、共にアクリル樹脂を素材としている。ここで、表側成形板1とは、その表面1aが成形しようとする成形品である浴槽Aの表面と同じ形状をなすようにして成形されたものである。また、裏側成形板2とは、その裏面2bが成形しようとする成形品である浴槽Aの裏面と同じ形状をなすようにして成形されたものである。よって、表側成形板1と裏側成形板2を上下に重ね合わせると、成形品である浴槽Aが出来上がることになる。また、この際、表側成形板1と裏側成形板2との間には後記するように隙間4が形成される。
【0013】
そこで、まず、表側成形板1を成形するため図2(イ)に示すように透明なアクリル樹脂板P1を用意する。該アクリル樹脂板P1は、例えば、1〜5mmの間で選定され、しかも、長方形状であって所定の大きさからなる。そして、図2(ロ)に示すように該アクリル樹脂板P1の上下に加熱ヒータH,Hを配置し、該アクリル樹脂板P1を所定の温度で加熱する。次に、図2(ハ)に示すように所定温度に加熱されたアクリル樹脂板P1を真空成形型枠D1の上面に載置し内部を密閉した状態で、該内部の空気を吸引し所謂真空成形法により所定形状に屈曲させる。これにより、図2(ニ)に示すように表側成形板1が成形される。
【0014】
同様に、裏側成形板2を成形するため、図3(イ)に示すように透明なアクリル樹脂板P2を用意する。該アクリル樹脂板P2も、例えば1〜5mmの間で選定され、しかも、長方形状であって所定の大きさからなる。そして、図3(ロ)に示すように該アクリル樹脂板P2の上下に加熱ヒータH,Hを配置し、該アクリル樹脂板P2を所定の温度で加熱する。次に、図3(ハ)に示すように、所定温度で加熱されたアクリル樹脂板P2を真空成形型枠D2の上面に載置し内部を密閉した状態で、該内部の空気を吸引し真空成形法により所定形状に屈曲させる。これにより、図3(ニ)に示すように裏側成形板2が成形される。このようにして、表側・裏側成形板1,2が成形され、共に周囲の不要な部分を切除して、表側成形板1を裏側成形板2の上に重ね合わせれば、成形しようとしている浴槽Aとなる。
【0015】
次に、このようにして成形された表側成形板1を図4(イ)に示すように樹脂型3である雄型G1の上面に被せるようにして配置し、しっかりと固定する。また、樹脂型3である雌型G2の下面に前記表側成形板1に対応するようにして裏側成形板2を配置し、しっかりと固定する。この状態で、図4(ロ)に示すように雄型G1と雌型G2を重ね合わせ、表側成形板1の周囲の上端面と裏側成形板2の周囲の下端面との間にシール部材Cを介入させ密着した状態で固定する。この際、表側成形板1と裏側成形板2との間に、密閉された隙間4が形成されている。
【0016】
この状態で、前記表側成形板1と裏側成形板2との間の隙間4に、溶融した透明なアクリル樹脂を注入口Kから注入する。注入されたアクリル樹脂は、表側成形板1の裏面1b及び裏側成形板2の表面2aに接触する。これにより、アクリル樹脂層5と同質素材のアクリル樹脂からなる表側成形板1及び裏側成形板2の接触面1b,2aで重合反応が起こり、アクリル樹脂が表側・裏側成形板1,2に融着し一体化される。この際、接触するものは同じアクリル樹脂であるので、少しの温度変化が生じても接触面が曇ってしまうといったことがない。図中、Rは空気抜き孔である。
【0017】
そして、注入したアクリル樹脂層5が硬化した後に、雄型G1と雌型G2とを開いて浴槽Aを取り出す。該浴槽Aは、図4(ハ)に示すように本来その断面が表側成形板1、裏側成形板2及びアクリル樹脂層5との三層構造になっているが、外側からはすべて透明であってそれらの区別は分からない。前記したような各工程を経ることによって、浴槽Aが成形される。
【0018】
このように、本発明に係るアクリル樹脂成形品である浴槽Aの成形方法は、真空成形法により表側・裏側成形板1,2を成形する工程を経て樹脂型3内に浴槽Aの形状と合致するように表側成形板1と裏側成形板2とをそれぞれ重ね合わせて配置し、これら表側成形板1と裏側成形板2とにより囲まれるようにして形成される隙間4にアクリル樹脂を注入するのみで浴槽Aが成形できる。よって、浴槽Aといった比較的厚いアクリル樹脂成形品であっても、樹脂型による常温成形が可能となって温度制御が容易となり成形し易い。しかも、簡便な真空成形型と樹脂型で済むことから大きな設備を必要とすることがなく、設備コストが大幅に軽減でき製品コストも低廉になし得る。
【0019】
また、浴槽Aは総てアクリル樹脂により成形されているので、長年使用して古くなった場合は、そのままアクリル樹脂としてリサイクルすることができ、分別の必要がなく廃棄処分が極めて容易である。
【0020】
更に、表側成形板1又は裏側成形板2に着色顔料を少し混ぜ、所望の色に着色するようにしても良い。他に、図5に示すように、裏側成形板2の裏面2bに着色されたゲルコート樹脂層6を塗布して形成するようにすれば、多様な風合いを表現することができ、デザイン性を向上させることもできる。更にまた、必要に応じては、裏側成形板2の裏面2bをガラス繊維を用いたFRP成形することにより強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0021】
1 表面成形板
1a 表面
1b 裏面
2 裏面成形板
2a 表面
2b 裏面
3 樹脂型
4 隙間
5 アクリル樹脂層
6 ゲルコート樹脂層
A 成形品(浴槽)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂板を用いて表面が成形しようとする成形品の表面と同じ形状をなす表側成形板を成形する工程と、
アクリル樹脂板を用いて裏面が成形しようとする成形品の裏面と同じ形状をなす裏側成形板を成形する工程と、
雄型内と雌型内にそれぞれ前記表側成形板と裏側成形板を配置し、前記雄型及び雌型を合致させ互いに合わさる前記表側成形板と裏側成形板とにより囲まれるように形成される隙間にアクリル樹脂を注入し、これらを重合し一体化させる工程と、
を備えてなることを特徴とするアクリル樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
前記裏側成形板の裏面に着色されたゲルコート樹脂層を形成するようにした請求項1記載のアクリル樹脂成形品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−230318(P2011−230318A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100652(P2010−100652)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(508145632)株式会社エムビー工舎 (3)
【Fターム(参考)】