説明

アクリル系ポリマーの製造方法

【課題】透明性、耐熱性に優れ、光学用部材の原料として好適に用いることのできるアクリル系ポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと、不飽和カルボン酸単位bとを含む共重合体Aを、温度150℃以上200℃未満、圧力1,000Pa以上20,000Pa未満の条件下で2時間以上20時間未満、環化処理することにより、単位a、単位bおよび環化構造単位cを含むアクリル系ポリマーBを得るアクリル系ポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明性、耐熱性に優れ、光学用部材の原料として好適に用いることのできるアクリル系ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂成型品は、透明性や表面光沢性および耐光性に優れているため、液晶ディスプレイ用シートまたはフィルム、導光板などの光学材料、車両用内装材および外装材、自動販売機の外装材、電化製品、建材用内装および外装材等の表面表皮、およびポリカーボネート、塩化ビニルなどの表皮保護等の広範な分野で使用されている。
【0003】
近年これらのアクリル樹脂は、例えば、自動車のナビゲーションシステム、ハンディカメラなどの普及により、使用範囲が屋外や自動車の車内などの耐候性、耐熱性が要求される過酷な使用環境条件下へ拡大してきている。このような過酷な環境条件下で使用する場合、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂を基板とするシートまたはフィルムは、優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が低いために変形が生じるという問題があった。
【0004】
そのため、アクリル樹脂の耐熱性を改良する目的で、特定の環化構造単位を有するアクリル系ポリマーの製造方法が検討されている。
【0005】
例えば、アクリル樹脂を200〜300℃に昇温したベントを有する押出機に通して加熱脱気することにより、環化構造単位を生成させる方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。しかし、この方法では、アクリル樹脂を200〜300℃の高温で処理すると、ポリマーが着色し、アクリル樹脂最大の特徴である高い透明性が低下するという問題があった。
【0006】
また、アクリル樹脂を溶剤の存在下で押出機に導入し、加熱脱気することにより、環化構造単位を生成させる方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかし、この方法では、押出機中でポリマーを250℃の高温下で処理している上、溶媒が残存する状態でポリマーが高温下に曝されるため、着色が生じる問題があった。
【0007】
さらに、アクリル樹脂と共に有機リン化合物を触媒として押出機に導入し、加熱脱気することにより、環化構造単位を生成させる方法(例えば、特許文献3参照)が提案されている。しかし、この方法では、押出機中でポリマーを250℃の高温下で処理していることからポリマーに着色が生じるばかりか、有機リン化合物の屈折率とポリマーの屈折率が異なるため、成型品を作製したときに成型品が白化するか、あるいはヘイズが高くなり、透明性が失われるという問題があった。
【特許文献1】特開2002−284816号公報
【特許文献2】特開2000−230016号公報
【特許文献3】特開2001−151814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、透明性、耐熱性に優れ、光学用部材の原料として好適に用いることのできるアクリル系ポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明によれば、
構造式(a)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと、構造式(b)で表される不飽和カルボン酸単位bとを含む共重合体Aを、温度150℃以上200℃未満、圧力1,000Pa以上20,000Pa未満の条件下で2時間以上20時間未満、環化処理することにより、前記単位a、単位bおよび構造式(c)で表される環化構造単位cを含むアクリル系ポリマーBを得るアクリル系ポリマーの製造方法(第1発明)、および
構造式(a)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと、構造式(b)で表される不飽和カルボン酸単位bとを含む共重合体Aを、温度200℃以上250℃未満、圧力1,000Pa以上10,000Pa未満の条件下で0.5時間以上5時間未満、環化処理することにより、前記単位a、単位bおよび、構造式(c)で表される環化構造単位cを含むアクリル系ポリマーBを得るアクリル系ポリマーの製造方法(第2発明)が提供される。
【0011】
【化1】

【0012】
(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【0013】
【化2】

【0014】
(上記式中、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【0015】
【化3】

【0016】
(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。上記式中、X、XはC=OまたはCH−R11を表す。R11は水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
なお、上記第1および第2発明においては、
前記環化構造単位cが下記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位であること、
【0017】
【化4】

【0018】
(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
前記アクリル系ポリマーBに含まれる前記環化構造単位cの割合が10wt%以上50wt%未満であること、および
環化処理時の触媒として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種類を用いること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下に説明するとおり、透明性、耐熱性に優れ、光学用部材の原料として好適に用いることのできるアクリル系ポリマーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0021】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーは、構造式(c)に示す環化構造単位cを有する。
【0022】
【化5】

【0023】
(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。具体的には、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシエチル基、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基などがあげられる。なお、R、Rは同一でも異なってもよい。上記式中、X、XはC=OまたはCH−R11を表す。なお、X、Xは同一でも異なってもよい。また、R11は水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。具体的には、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシエチル基、2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基などがあげられる。)
なお、環化構造単位cにおいては、特に耐熱性の点からは、R,Rは水素またはメチル基が好ましく、とりわけメチル基が好ましい。
【0024】
次に、上記構造式(c)で表される環化構造単位cを含有するアクリル系ポリマーBの製造方法の例を説明する。
【0025】
すなわち、後の加熱工程により上記構造式(c)で表される環化構造単位cを与える不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体dとを重合させ、共重合体Aとした後、かかる共重合体Aを後述する製法により、脱アルコールおよび/または脱水による分子内環化反応を行わせることにより、アクリル系ポリマーBを製造することができる。
【0026】
この場合、典型的には共重合体Aを加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位bのカルボキシル基が脱水されて、あるいは隣接する不飽和カルボン酸単位bと不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aからアルコールの脱離により1単位の前記環化構造単位cが生成される。この際用いられる不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定はなく、他のビニル化合物dと共重合させることが可能な、構造式(e)の不飽和カルボン酸単量体が使用できる。
【0027】
【化6】

【0028】
(上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の有機残基を表す。なお、有機残基には酸素原子を含んでもよい。)
特に、熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種、または2種以上用いることができる。なお、上記構造式(e)で表される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると上記構造式(c)で表される構造環化構造単位を与える。
【0029】
また、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては特に制限はないが、好ましい例として、下記構造式(f)で表されるものを挙げることができる。
【0030】
【化7】

【0031】
(上記式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の有機残基を表す。なお、有機残基には酸素原子を含んでも良い。R10は水素原子または炭素数1〜6の脂肪族、もしくは脂環式炭化水素基を示す。)
これらのうち、炭素数1〜6の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基または置換基を有する該炭化水素基をもつアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが、熱安定性が優れる点で特に好適である。なお、上記構造式(f)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると上記構造式(a)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0032】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、中でもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0033】
また、上記構造式(c)で表される環化構造単位は、特に下記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位とすると、透明性に優れるため好ましい。
【0034】
【化8】

【0035】
(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。なお、R、Rは同一でも異なっても良い。また、有機残基には酸素原子を含んでもよい。)
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBの製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミドなどの他のビニル系単量体を用いてもかまわないが、透明性、複屈折、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0036】
共重合体Aの重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の重合方法を用いることができるが、不純物がより少ない点では溶液重合、塊状重合、懸濁重合が特に好ましい。
【0037】
重合温度については、特に制限はないが、色調の観点から、不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を95℃以下の重合温度で重合することが好ましい。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上である。重合収率あるいは重合速度を向上させる目的で、重合進行に従い重合温度を昇温することも可能である。また、重合時間は、必要な重合度を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましい。
【0038】
本発明において、共重合体Aの製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100重量部として、不飽和カルボン酸単量体が5〜50重量部、より好ましくは9〜33重量部、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は好ましくは50〜95重量部、より好ましくは67〜91重量部、これらに共重合可能な他のビニル系単量体を用いる場合、その好ましい割合は0〜5重量部であり、より好ましい割合は0〜3重量部である。
【0039】
不飽和カルボン酸単量体量が5重量部未満の場合には、共重合体Aの加熱などによる上記構造式(c)で表される環化構造単位の生成量が少なくなり、ポリマーの耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸単量体量が50重量部を超える場合には、共重合体Aの加熱による環化反応後に、不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0040】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBは、質量平均分子量が8万〜20万であることが好ましい。このような分子量を有するアクリル系ポリマーBは、共重合体Aの製造時に、共重合体Aを所望の分子量、すなわち質量平均分子量で5万〜20万に予め制御しておくことにより達成することができる。質量平均分子量が20万を越える場合には、後工程の環化時に着色する傾向が見られる。一方、質量平均分子量が5万未満の場合にはアクリル系フィルムの機械的強度が低下する傾向見られる。
【0041】
次に、本発明の製造方法における共重合体Aを加熱し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応を行い、環化構造単位を含有する熱可塑性重合体を製造する方法について説明する。
【0042】
環化時の温度は、150℃以上250℃未満である。温度が150℃未満であると環化反応が進行しなかったり、進行しても反応速度が遅く生産性が著しく低下したりする場合がある。250℃以上であるとポリマーが着色し、光学部材として使用できない場合がある。第1発明においては、着色を抑制する観点から、環化時の温度は150℃以上200℃未満であることが好ましく、より好ましくは160℃以上200℃未満、さらに好ましくは、160℃以上180℃未満である。また、第2発明においては、生産性を向上する観点から、反応温度は200℃以上250℃未満であることが好ましく、より好ましくは200℃以上230℃未満である。
【0043】
また、環化時の圧力条件は1,000Pa以上20,000Pa未満である。圧力条件が20,000Pa以上の場合は、減圧度が足りないため、ポリマーが環化時の温度により劣化し、着色する場合がある。また、不活性ガスの雰囲気下で反応を行ったとしても、環化時に発生する水やアルコール等の揮発分が着色の原因となる場合があるため、減圧下で環化を行うことが望ましい。より好ましくは、原料である共重合体Aを不活性ガスの雰囲気下においたあと、上記減圧下で環化反応を行うと、ポリマーの着色を低減させることができる。また、減圧下では環化反応がより進みやすくなるため生産性の観点からも好ましい。また、環化時の温度が200℃以上の場合、ポリマーの劣化や着色がより進行しやすくなるため、
第2発明においては、圧力条件を1,000Pa以上10,000Pa未満とし、より減圧下で環化することが好ましい。圧力は低いほど好ましいが、1,000Pa程度が下限である。より着色を低減できることから、さらに好ましくは1,000Pa以上5,000Pa未満である。
【0044】
環化反応に要する処理時間は、上記環化温度および圧力条件下でポリマーの環化反応が目的の環化反応率に到達すれば特に限定はないが、通常、環化温度が150℃以上200℃未満の第1発明の場合は、2時間以上20時間未満であり、環化温度が200℃以上250℃未満のの第2発明の場合は、0.5時間以上5時間未満である。処理時間が短いと、環化反応率が低く、アクリル系ポリマーの共重合組成を本発明の範囲内とすることが困難であり、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる場合がある。
【0045】
環化反応に使用する装置は、上記温度、圧力、時間の条件を満たすことができれば特に限定はなく、バッチ式では昇温、減圧、撹拌が可能な重合槽やニーダーを用いることができる。製品の品質が安定することから環化反応は連続式で行うことがより好ましく、横型の連続式重合装置を用いることができる。また、バッチ式の反応器を多段で設置して、多段槽型反応器として使用してもよい。
【0046】
さらに本発明では、共重合体(A)を上記方法等により加熱する際に、環化構造単位への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリおよび塩化合物から選ばれた1種以上を添加することができる。その添加量は、共重合体(A)100重量部に対し、0.01〜1重量部程度が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類等が挙げられる。さらに、塩化合物触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩、各種アルキルアンモニウム塩を含むアンモニウム塩等が挙げられる。ただし、その触媒が熱可塑性重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。中でも、アルカリ金属を含有する化合物が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられる。とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、および酢酸ナトリウムを好ましく使用することができる。これらを少なくとも1種、あるいは必要に応じて2種以上使用してもよい。
【0047】
アクリル系ポリマーBは、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上であることが耐熱性の面で好ましい。ガラス転移温度を上げる方法としては、特に限定されないが、アクリル系ポリマーB中の、例えば、前記構造式(c)で表されるような環化構造単位の含有量を増やすことが効果的である。
【0048】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBとしては、上記構造式(c)で表される環化構造単位と、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位とを含む共重合体を好ましく使用することができる。不飽和カルボン酸アルキルエステル単位と環化構造単位の含有量は、特に制限はないが、耐熱性が向上することから、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位と環化構造単位の合計を100wt%としたときに、好ましくは不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜90wt%および環化構造単位10〜50wt%からなり、より好ましくは、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位55〜80wt%および環化構造単位20〜45wt%からなる。環化構造単位が10wt%未満である場合は、耐熱性向上効果が小さくなるばかりか、十分な低複屈折性(光学等方性)や耐薬品性が得られない場合がある。ここで、構造単位の含有量(wt%)とは、構造単位を構成する原子の原子量の総和をその構造単位の重量としたときに計算される割合の値である。
【0049】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBにおける各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、環化構造単位cは、1,800cm-1及び1,760cm-1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、H−NMR法では、例えば、環化構造単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよび環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合には、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0050】
また、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBは、アクリル系ポリマーB中に他の不飽和カルボン酸単位および/または、共重合可能な他のビニル系単量体単位を含有することができる。
【0051】
上記の熱可塑性重合体100重量部中に含有される他の不飽和カルボン酸単位量は10重量部以下、すなわち0〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0〜5重量部、最も好ましくは0〜1重量部である。不飽和カルボン酸単位が10重量部を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0052】
また、共重合可能な他のビニル系単量体単位量は、上記熱可塑性重合体100重量部中、5重量部以下、すなわち0〜5重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0〜3重量部である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が上記範囲を超えると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0053】
なお、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBには、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなど)、熱硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂など)の一種以上をさらに含有させることができ、また、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤が有する色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。
【0054】
次に、本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBを光学用フィルムとして用いる場合を例にとって、その製膜方法を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
アクリル系フィルムの製膜方法としては、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法等の製造法が使用できるが、ここでは流延法による溶液製膜を例にとって説明する。また、溶液製膜には乾湿式法、乾式法、湿式法などがありいずれの方法で製膜されても差し支えないが、ここでは乾式法を例にとって説明する。
【0056】
製膜原液としては、溶液重合などによりポリマーを重合した場合は、ポリマー溶液をそのまま用いてもよいし、一旦単離したポリマーを、溶媒に溶解したものを用いてもよい。
【0057】
溶媒としては、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶剤が使用可能であり、好ましくはアセトン、メチルエチルケトンあるいはN−メチルピロリドン等が使用できる。溶媒は1種類の溶媒を用いてもよいし、2種類以上の溶媒を混合して用いてもよい。また、溶媒の乾燥促進や基材からの剥離性向上を目的に乾燥助剤や剥離剤などを添加してもよい。製膜原液中のポリマー濃度は2〜50質量%程度が好ましい。濃度が低いとフィルムの表面性が悪化したり、溶媒乾燥に長時間を要したりするため好ましくない。濃度が高いとポリマー溶液の流動性が低下したり、溶解性が悪化したりする。ポリマー濃度は、より好ましくは10〜45質量%、さらに好ましくは15〜40質量%である。
【0058】
濃度調整後のポリマー溶液は、濾過を行い、異物やゲル状物を取り除くことが好ましい。異物を除去することにより、欠点が減少し光学用途フィルムとして有用に使用できる。濾過精度は50μm以上の異物を除去できることが好ましい。さらに好ましくは10μm、最も好ましくは1μmである。濾過精度の異なる複数のフィルターにより段階的に濾過を行うと濾過寿命が延長されるため好ましい。濾過は、25℃以上100℃以下の温度で適宜フィルター、例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網等で濾過することができる。
【0059】
乾式法で製膜する場合は、原液を口金からドラム、エンドレスベルト、工程フィルム等の支持体上に押し出して膜を形成し、続く乾燥工程でかかる膜層から溶媒を飛散させ膜が自己保持性をもつまで乾燥し、支持体から剥離可能なフィルムを得る。
【0060】
乾燥工程の温度条件は、例えば、室温〜220℃の範囲で行うことができる。効率よく溶媒を除去するため、段階的に乾燥温度を上昇させることが好ましい。初期の乾燥温度は使用する溶媒の沸点をbpとすると、(bp−40℃)〜bpの範囲にあることが好ましい。より好ましくは(bp−40℃)〜(bp−20℃)である。初期乾燥温度が低すぎると溶媒乾燥に時間がかかり生産性が悪化する。初期乾燥温度が溶媒の沸点より高いと、発泡欠点が生じる場合がある。初期乾燥後のフィルム中の溶媒濃度は10〜30質量%であることが好ましく、通常初期乾燥に要する時間は、30秒〜5分程度である。次に、初期乾燥を終えたフィルムは、ポリマーのガラス転移温度をTgとすると、(Tg−50℃)〜Tgの温度範囲で2次乾燥を行うことが好ましい。2次乾燥の温度が低すぎると、溶媒乾燥に時間がかかり生産性が悪化する。温度がTg以上であると、フィルム中の残存溶媒が揮発する際に発泡欠点を生じる場合がある。2次乾燥後のフィルム中の溶媒濃度は2〜15質量%であることが好ましく、通常2次乾燥に要する時間は5〜60分程度である。2次乾燥を終えたフィルムは、ポリマーの分解温度以下の温度で最終乾燥を行い、フィルム中の溶媒濃度を2質量%未満に低減させることが好ましい。溶媒濃度が2質量%以上であると、製品として使用したときに溶媒が溶出する場合がある。
【0061】
得られたフィルムは、例えば工程フィルムを基材として製膜した場合は、積層したまま巻き取ってもよいし、乾燥工程の途中または最後で基材から剥離してもよい。基材から剥離する場合は、保護フィルムを積層して巻き取ることが、傷が抑制されるため好ましい。
【0062】
また、この乾燥工程で用いられるドラム、エンドレスベルト、工程フィルム等の表面は、できるだけ平滑であるほど、表面の平滑なフィルムが得られる。
【0063】
得られたフィルムは、後工程で延伸、ハードコート層や反射防止層の積層などの処理を行ってもよい。
【0064】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBからなるフィルムは、ヘイズが1%未満であることが好ましい。ヘイズが1%以上であると、目視でもフィルムの白化が確認できるため光学用部材として好ましくない。ヘイズはより好ましくは0.9%未満、さらに好ましくは0.8%未満である。上記ヘイズの範囲を達成するためには、触媒や可塑剤などの添加物の添加量を減らすこと、アクリル系ポリマーと添加物の屈折率差を低減させることが重要である。また、環化構造単位の生成工程を低温で行い、ポリマー劣化物などの副生成物を発生させないことが重要である。
【0065】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBからなるフィルムは、黄色度(YI値)が1.5未満であることが好ましい。YI値が1.5以上であると、目視でもフィルムの着色が確認できるため光学用部材として好ましくない。YI値はより好ましくは1.3未満、さらに好ましくは1.0未満である。上記YI値の範囲を達成するためには、触媒や可塑剤などの添加物の添加量を減らすこと、環化構造単位の生成工程を低温で行いポリマーや添加物の劣化を防止することが重要である。
【0066】
本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーBからなるフィルムは、150℃〜300℃での水およびアルコールの合計発生量が5wt%未満であることが好ましい。好ましくは3wt%未満、さらに好ましくは2wt%未満である。水およびアルコールの合計発生量を低減させるには、上述した本発明の製法により環化工程を十分に行うことが有効である。環化が不十分であると、水およびアルコールの合計発生量が5wt%以上となり、加熱成形加工時に環化反応が起こり、ガスが発生して成形品にシルバーや気泡が見られる場合がある。
【0067】
本発明のアクリル系ポリマーは、その優れた透明性、耐熱性、耐光性、靱性を活かして、電気・電子部品、光学フィルター、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0068】
上記成形品の具体的用途としては、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等、これら各種の用途にとって極めて有用である。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0070】
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0071】
1.ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。サンプル量は5mgとした。
【0072】
なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0073】
2.透明性(全光線透過率、ヘイズ値)
東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて、23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ値(%)を評価した。光源にはハロゲンランプ(12V50W)を用い、全光線透過率はJIS−K7361−1997、ヘイズはJIS−K7136−2000に準じて測定を行った。測定は実施例に示す方法で、アクリル系ポリマーをフィルム化し、厚み50μmの部分を3カ所測定して平均値を求めた。
【0074】
3.黄色度(YI値)
日本電色株式会社製の分光式色差計SE2000で測定した。測定は実施例に示す方法で、アクリル系ポリマーをフィルム化し、厚み50μmの部分を3カ所測定して平均値を求めた。
【0075】
4.ガス発生量
TPD−MS(Temperature Programmed Desorption - Mass Spectrometry)法により、加熱した試料から発生するガスの定量を行い、150℃〜300℃の温度範囲における水およびアルコールの発生量を求めた。ここで、アルコールとは本発明における共重合体Aを分子内環化させ環化構造単位を生成する際に発生するアルコールを示す。表1には水およびアルコールの合計発生量を示した。
【0076】
5.フィルム厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて5点測定し、平均値を求めた。
【0077】
6.質量平均分子量(絶対分子量)
ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて測定した。
【0078】
7.各成分組成
アクリル系ポリマーにアセトンを加え、4時間還流し、この溶液を9,000rpmで30分間、遠心分離し、アセトン可溶成分とアセトン不溶成分とに分離した。アセトン可溶成分を60℃で5時間減圧乾燥し、各成分単位定量を行って、アクリル系ポリマーの各成分組成とした。
【0079】
各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、環化構造単位cは、1,800cm−1及び1,760cm−1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、H−NMR法では、例えば、環化構造単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよび環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0080】
[実施例1]
(1)アクリル系ポリマーの調製
<共重合体>
先ず、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を、次の様にして調整した。
【0081】
メタクリル酸メチル20重量部、
アクリルアミド80重量部、
過硫酸カリウム0.3重量部、
イオン交換水1,500重量部
を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら、単量体が完全に重合体に転化するまで、70℃に保ち反応を進行させた。得られた水溶液を懸濁剤とした。
【0082】
容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、上記懸濁剤0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を供給し、系内を窒素ガスで置換しながら400rpmで撹拌した。
【0083】
次に、下記仕込み組成の混合物質を、反応系を撹拌しながら添加した。
【0084】
メタクリル酸 :27重量部
メタクリル酸メチル :73重量部
t−ドデシルメルカプタン :1.2重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル:0.4重量部
添加後、70℃まで昇温し、内温が70℃に達した時点を重合開始時点として、180分間保ち、重合を進行させた。
【0085】
その後、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い共重合体Aを得た。この共重合体の重合率は97%であり、質量平均分子量は13万であった。
【0086】
<アクリル系ポリマー>
上記共重合体に、触媒(NaOCH3)を0.2質量%配合し、ホッパー部に窒素を10L/分の量でパージしながら、2軸撹拌式の横型反応装置[(株)日立製作所製「日立メガネ翼重合機」(商品名)]に連続的に供給して、温度170℃で撹拌混合した。圧力は1,500Paの減圧下で撹拌し、分子内環化反応で生成する水およびアルコールは系外に除去した。上記条件下、平均滞留時間15時間でペレット状のアクリル系ポリマーを得た。アクリル系ポリマーの分子量は13万、Tgは140℃であった。
【0087】
アクリル系ポリマーを80℃で8時間減圧乾燥した後、メチルエチルケトンに固形分濃度30質量%となるように溶解させ、1μmカットフィルターを用いて濾過を行い、ビーカーで24時間静置して溶液中の泡を除去してポリマー溶液aを得た。このポリマー溶液aを、バーコーターでPETフィルム上に流延し、熱風オーブンで50℃で5分、100℃で5分、130℃で10分の3段階で加熱して溶媒を蒸発させ、自己支持性を発現した重合体シートを支持体から剥離した。続いて剥離したフィルムを、金枠に固定し170℃で10分間熱処理し、厚み50μmのアクリル系フィルムを得た。
【0088】
[実施例2]
実施例1において、2軸撹拌式の横型反応装置での環化条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0089】
[比較例1〜4]
実施例1において、2軸撹拌式の横型反応装置での環化条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0090】
比較例1では環化処理時間が短いため、環化が十分に進行せず、ガス発生量が大きくなった。比較例2では環化時の温度が高いため、ポリマーが着色し、YI値が高くなった。比較例3では環化時の温度が低いため、環化が十分に進行せず、ガス発生量が大きくなった。比較例4では環化時の圧力が高いため、ポリマーが着色し、YI値が高くなった。
【0091】
[比較例5]
実施例1において、2軸撹拌式の横型反応装置での環化条件を表1に示すように変更し、さらに、反応装置内を窒素ガスで満たした以外は、実施例1と同様の方法でアクリル系ポリマーおよびフィルムを作製した。
【0092】
得られたポリマーおよびフィルムの物性、評価結果を表1に併せて示す。
【0093】
環化時の圧力が高いため、ポリマーが着色し、YI値が高くなった。
【0094】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0095】

本発明の製造方法により得られるアクリル系ポリマーは透明性、耐熱性に優れるため、例えば、各種カバー、各種端子板、プリント配線板、スピーカー、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、また、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等のファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板保護フィルム、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、カバー等の光学用部材の原料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(a)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと、構造式(b)で表される不飽和カルボン酸単位bとを含む共重合体Aを、温度150℃以上200℃未満、圧力1,000Pa以上20,000Pa未満の条件下で2時間以上20時間未満、環化処理することにより、前記単位a、単位bおよび構造式(c)で表される環化構造単位cを含むアクリル系ポリマーBを得るアクリル系ポリマーの製造方法。
【化1】

(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【化2】

(上記式中、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【化3】

(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。上記式中、X、XはC=OまたはCH−R11を表す。R11は水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【請求項2】
前記構造式(a)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位aと、前記構造式(b)で表される不飽和カルボン酸単位bとを含む共重合体Aを、温度200℃以上250℃未満、圧力1,000Pa以上10,000Pa未満の条件下で0.5時間以上5時間未満、環化処理することにより、前記単位a、単位bおよび、前記構造式(c)で表される環化構造単位cを含むアクリル系ポリマーBを得るアクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記環化構造単位cが下記構造式(d)で表されるグルタル酸無水物単位である請求項1または2に記載のアクリル系ポリマーの製造方法。
【化4】

(上記式中、R、Rは水素または炭素数1〜5の有機残基を表す。)
【請求項4】
前記アクリル系ポリマーBに含まれる前記環化構造単位cの割合が10wt%以上50wt%未満である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項5】
環化処理時の触媒として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウムから選ばれる少なくとも1種類を用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル系ポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2008−37977(P2008−37977A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212893(P2006−212893)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】