説明

アクリル系合成繊維およびその製造方法

【課題】
初期制電性と耐久制電性に優れるばかりか、帯電防止剤による審美性変化の影響が少ないアクリル系合成繊維および織編物を提供する。
【解決手段】
アクリル酸エステル共重合物およびアクリル系ポリマーが、帯電防止剤として繊維重量当り0.1〜2重量%付着しており、トウ形状での電気比抵抗が1.0×10Ω・cm以下であるアクリル系合成繊維およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性を有するアクリル系合成繊維に関するものであり、更に詳しくは、初期制電性と耐久制電性に優れるばかりか、帯電防止剤による審美性変化の少ない特長を活用して、衣料用途を中心に好適に使用されるアクリル系合成繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、アクリル系合成繊維は、その高い電気抵抗から、静電気の問題がつきまとう。アクリル系合成繊維の静電気発生を低減するための解決策として、電気抵抗を下げる導電性物質を加える技術が従来最も効果的だが、通常、導電性物質はカーボン等、有色物質であり、色展開に制約が多く、衣料用途のアクリル系合成繊維への展開は限定的である。
また、有色の導電性物質を使用せず、色調変化が少なく電気抵抗を低減させる制電性アクリル系合成繊維も、現在まで様々に開発されており、一般的には、審美性変化が少なく帯電防止効果のある無色または白色の物質を、アクリル系合成繊維の原液に添加させたり、繊維表面を覆う技術が知られている。
大別されたこれら2つの技術は、それぞれ長所と短所を併せ持っており、それぞれの技術について改良が重ねられてきた。この内、アクリル系合成繊維の原液に帯電防止効果のある物質(以下、帯電防止剤)を添加させる技術では、帯電防止剤として、比較的電気抵抗が低いポリマーが用いられている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1で開示される技術では、帯電防止剤が繊維表面に露出しにくいため、繊維の摩擦や洗濯などの薬剤による影響が受けにくく、耐久性には優れる反面、繊維表面の電気抵抗低減させる効果は低くなってしまう欠点がある。
また、かかる欠点を補うべく、不溶化剤を用いて繊維表面に帯電防止剤を露出させる技術も提案されている(特許文献2参照)。しかし、特許文献2に開示される技術では、帯電防止剤が繊維表面に現れるため、繊維表面の制電効果は大きいものの、洗濯時を始めとする摩擦や洗剤の影響により、帯電防止剤が繊維から脱落しやすいという欠点が解消できていない。更に、特許文献2では、帯電防止剤の種類についても検討され、洗濯耐久性に優れるカチオン系官能基を有する帯電防止剤が提案されているが、帯電防止効果を有する成分であるカチオン系官能基と、不溶化剤であるグリシジル基とが必ずしも化学結合しておらず、帯電防止剤が繊維表面に付着しても、その被膜強度が後述する特許文献4よりも劣るという欠点がある。
【0003】
その他、吸湿剤を用いて繊維の吸湿性を改善し、吸着した水分で電気抵抗を低減させる方法も提案されている(特許文献3参照)。しかし、電気抵抗の低減効果は、吸湿された水分に依存し、かつ吸湿剤自身は電気抵抗を低減させる効果が高くないため、大きな制電効果は期待できない。また、温度や湿度など、使用環境の変化により制電性効果に大小が生じるという欠点も有する。
更に、本発明と同様に、アクリル酸エステル共重合物を帯電防止剤として付着させたアクリル系合成繊維も提案されている(特許文献4参照)。しかし、特許文献4では、帯電防止剤は、アクリル系合成繊維の製造工程において、緻密化処理工程以降に行うことが必須とされており、従って、帯電防止剤が繊維表面に露出するため、特許文献4で開示される技術では、帯電防止剤の対薬剤耐久性は確保できたとしても、摩擦耐久性が期待できない。
また、他の帯電防止剤として、特許文献5〜7が提案されている(特許文献5〜7参照)。
このうち特許文献5では、帯電防止成分であるカチオン性の変成アクリル系ポリマー化合物と、繊維との架橋成分であるエポキシ化合物という、2種類の固形分を主としているが、それぞれが結合しておらず、1成分に帯電防止成分と架橋成分を有する特許文献4に対し、耐久制電性に劣る。
更に特許文献6〜7では、帯電防止剤にアクリロニトリルは必ずしも含まれなくて良く、帯電防止剤とアクリル系合成繊維との親和性は特許文献4よりも劣る。
【特許文献1】特開平7−238422号公報
【特許文献2】特開2003−64580号公報
【特許文献3】特許第3196577号公報
【特許文献4】特許第3778529号公報
【特許文献5】特開2001−159076号公報
【特許文献6】特開2005−213676号公報
【特許文献7】特開2005−298560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記した従来の技術が有する種々の問題を解決し、初期制電性と耐久制電性に優れるばかりか、帯電防止剤による審美性変化の影響が少ないアクリル系合成繊維および織編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明のアクリル系合成繊維は、次の構成を有する。すなわち、アクリル酸エステル共重合物が、帯電防止剤として繊維重量当り0.1〜2重量%付着しており、トウ形状での電気比抵抗が1.0×10Ω・cm以下であるアクリル系合成繊維である。
【0006】
また、前記目的を達成するため、本発明の織編物は、次の構成を有する。すなわち、前記したアクリル系合成繊維を30重量%以上含み、次の(1)および(2)の特性を有する織編物である。
(1)洗濯10回後の摩擦帯電圧が5kv以下である。
(2)洗濯前の摩擦帯電圧と洗濯10回後の摩擦帯電圧との差が2kv以下である。
また、前記目的を達成するため、本発明の織編物は、次の構成を有する。すなわち、アクリル系重合体を紡糸して得られる緻密化処理前の糸条に、アクリル酸エステル共重合物を含有する帯電防止剤を0.1〜2重量%付与し、130℃以上180℃以下の温度で緻密化処理を行う、アクリル系合成繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、初期制電性と耐久制電性、および帯電防止剤による審美性変化の少ない特長を有し、衣料用途を中心に好適に使用できるアクリル系合成繊維および織編物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のアクリル系合成繊維は、特定の帯電防止剤を、アクリル系合成繊維の製造工程の一つである緻密化処理前に特定量付与し、特定の温度で緻密化処理することにより初めて、得られたものである。帯電防止剤を緻密化前に付与する事で、帯電防止剤を繊維表面に近い繊維内部に閉じこめる事ができ、制電性の発現と耐久性という従来の技術では相反する特性を両立させることができた。
【0009】
本発明で使用するアクリル系繊維は、その原料となるアクリル系重合体から構成させており、アクリル系重合体としては、アクリロニトリルを35重量%以上含んで重合されたものであれば他の共重合成分が共重合されていても良い。他の共重合成分としては、アルキレングリコールや不飽和ビニル化合物が挙げられる。
【0010】
本発明のアクリル系繊維では、帯電防止剤として、アクリル酸エステル共重合物が繊維重量当り0.1〜2重量%付着している。この帯電防止剤は、特許文献4で詳しく開示されている。アクリル酸エステル共重合物としては、具体的には、メトキシポリオキシエチレンメタクリレート・アクリロニトリル・2,3−エポキシプロピルメタクリレート共重合物(化審法番号:6−620)が用いられるが、特許文献4で開示されるアクリル酸エステル共重合物であれば、特に限定されるものではない。この帯電防止剤は、繊維重量当り0.1〜2重量%付着しているが、後述する特定の製造方法を用いたことにより、繊維表面に近い繊維内部に閉じこめられているので、トウ形状での電気比抵抗が1.0×10Ω・cm以下という優れた特性を有する。
【0011】
このような本発明のアクリル系合成繊維は、つぎのような方法により、好適に製造することができる。
【0012】
まず、前記したアクリル系重合体が溶媒に溶解した原液を得る。かかる原液は、アクリロニトリルなどの単量体を溶媒中で重合して得るのが簡便でよい。この原液を湿式紡糸法にて繊維化し、通常、紡糸後に延伸と水洗を行なう。また、水洗後に延伸を行っても構わない。そして、アクリル系重合体を紡糸して得られる緻密化処理前の糸条、たとえば水洗後の膨潤糸条に、アクリル酸エステル共重合物を帯電防止剤として0.1〜2重量%付与し、130℃以上180℃以下の温度で緻密化処理を行うことが重要である。通常、帯電防止剤の付与は、帯電防止剤を溶媒に溶解して帯電防止剤の溶液とし、その溶液を付与することにより行なう。この場合の溶媒としては、通常、水が用いられる。
【0013】
緻密化処理は、通常、熱ドラムやスチームなどで行なわれるが、その温度を130℃以上180℃以下とすることが必要である。なお、緻密化処理の処理時間は20秒以上であればよいが、30秒以上60秒以下とするのが好ましい。なお、後述する実施例では、緻密化処理に、熱ドラムの一種であるスチームドラム乾燥機を使用しており、この乾燥機は熱ドラムの熱源にスチームが使用されている。
【0014】
帯電防止剤の付与方法としては、特に限定されず、一般的な浸漬法やスプレー法を用いることができるが、帯電防止剤の付着率および付与状態を均一且つ正確に制御する観点から、スプレー法を採用するのが良い。帯電防止剤の付着率が少ない場合、浸漬法では過剰に付着した帯電防止剤を除去して正確に制御する事が困難であることがある。また、帯電防止剤溶液を糸条に付与する際の溶液の温度は5〜45℃が好ましく、更には常温である10〜20℃が好ましい。
【0015】
前記帯電防止剤の付着率は、繊維重量当り0.1〜2重量%であれば良いが、好ましくは、0.1〜1重量%、更に好ましくは0.1〜0.5重量%が好ましい。0.5重量%を超えると、初期制電性と耐久制電性に優れるものの、繊維表面に露出する帯電防止剤の量が多くなりがちであり、2重量%を超えると紡績工程での擦過で帯電防止剤が脱落し、紡績での工程通過性が損なわれ製造が困難となる。
【0016】
帯電防止剤の付着量の測定は、実施例で記載する方法で製品から測定できるが、本発明で用いる帯電防止剤は耐薬品性が高く、後述する特殊な抽出法でも完全に脱落させることが困難であることがある。そのような場合、予備試験で得られた結果を用いて、補正を行う。
【0017】
本発明では、帯電防止剤の付与を緻密化処理工程の直前で行うのが好ましいが、帯電防止剤を付与した後、緻密化処理する前に延伸を行っても構わない。但し、湿熱処理を始め、付与した帯電防止剤の脱落が懸念される工程は行わない方が良い。
【0018】
また、特許文献4では緻密化処理工程の後に帯電防止剤を付与しており、緻密化工程前で膨潤糸条への帯電防止剤の付与は、帯電防止剤が繊維の内部にもぐり込んで十分な帯電防止効果が発現されず、また帯電防止性の洗濯耐久性が劣り好ましくないとされているが、驚くことに、前記帯電防止剤の付着率を0.1〜2重量%と少なくすると、十分な初期制電性を発揮できるばかりか、帯電防止剤を緻密化工程前に付与しているため、帯電防止剤が繊維表面近傍の繊維内部にもぐり込んで存在し、洗濯時の擦れ・摩擦による帯電防止剤の脱落は抑えられ、帯電防止性の洗濯耐久性は、大幅に向上することが見出された。また、緻密化処理工程以降、必要に応じて捲縮処理と熱処理を行なって本発明のアクリル系合成繊維を得るが、緻密化処理工程以降の繊維では、帯電防止剤が強固に付着しているため、従来のアクリル系合成繊維の製造方法で用いられる条件と同様の条件を採用して構わない。
【0019】
本発明のアクリル系合成繊維は、通常、紡績糸に加工され、その紡績糸を製織または製編することによって、織物や編物(織物と編物を総称して織編物という)を形成する。織編物には、本発明のアクリル系合成繊維が30重量%以上、好ましくは50重量%以上含まれているようにする。アクリル系合成繊維を含ませるには、紡績糸の段階で混綿させたり、製織・製編時に混合させても構わないが、織編物の段階で、本発明のアクリル系合成繊維を30重量%以上含むことが重要である。且つ織編物の全体に対し、均一に本発明のアクリル系合成繊維が分布していることが好ましい。このような織編物は、次の(1)および(2)の特性を発現するようになり、衣料用途を中心として好適に使用できるようになる。
(1)洗濯10回後の摩擦帯電圧が5kv以下。
(2)上記織物において、洗濯前と洗濯10回後の摩擦帯電圧差が2kv以下。
【0020】
織編物に本発明のアクリル系合成繊維が30%未満含まれる場合には、帯電防止剤による制電性効果が織編物において発現しにくい。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。組成で使用する重量比(重量%)は、定常生産時での設定条件とした。なお、本実施例で用いる特性は次のようにして測定される。
[繊度]
JIS L 1015に基づいて測定する。
[電気抵抗]
次に示す手順にしたがって測定する。
(1)温度20±2℃、湿度65±2%R.H.の環境下にある試験室内に一昼夜放置した試料から10mの間隔で長さ20cmのフィラメントを3個採取する。
(2)抵抗測定台に試料を固定し、デジタル超高抵抗計(ADVAN TEST:R8340A)を用いて印加電圧10vをかけて電気抵抗を測定する。
(3)所定の計算式にて電気比抵抗を求める。
[帯電防止剤の付着率]
次に示す手順にしたがって求める。
(1)試料約5グラムの絶乾質量を求め、ソックスレー抽出器に円筒濾紙を用いずに軽く入れる。
(2)付属フラスコに100〜150mLの混合液を入れる(メタノール2:クロロホルム1)
(3)水浴上に載せて抽出液が弱く沸騰を保つ程度に2時間加熱後、試料部にたまった溶剤をフラスコに戻し、フラスコ内容物を5mL以下に濃縮した後、予め105±2℃で恒量を求めたはかり瓶に移す。
(4)抽出フラスコは混合液で洗浄し、洗液をはかり瓶に合わせ、水浴上で溶剤を揮散させた後、105±2℃の恒温乾燥器中に10分間放置し、デシケータ中で冷却し、質量を量る。
(5)抽出後、試料の絶乾質量を求める。
(6)抽出分は、混合液の抽出後絶乾試料質量に対する百分率で表し、2回の平均値をJIS Z 8401によって小数点以下2けたに丸める。
帯電防止剤が、メタノール・クロロホルム混合液でも完全に脱落させることができない場合には、次に示す手順で予備試験を行った結果を基に補正する。
(1)試験紡糸機にて油剤、その他薬品類を付与しない単糸繊度約3.3dtex、トータル繊度約330dtexのトウを約100g採取し、絶乾後、重量(A)を測定する。
(2)前記トウの片方を、帯電防止剤を入れたビーカーに浸積させた後、150℃×30秒乾熱処理する。
(3)絶乾後、重量(B)を測定する。
(4)前記抽出法で抽出し、絶乾後、重量(C)を測定する。
(5)下式で補正率を求める。
【0022】
補正率=(B−C)/(B−A)=0.7
本実施例では、補正率0.7が得られた。補正後の付着率は、下式で求める。
【0023】
補正後付着率=実測付着率÷0.7 ・・・・・式(4)
[摩擦帯電圧]
JIS L 1094に従い、ロータリースタティックテスターを使用して、綿布で摩擦した。測定環境は温度20℃、湿度40%であった。
なお、洗濯は、JIS L 1094に記載の家庭用洗濯を10回行った。
(実施例1)
アクリロニトリル/アクリル酸メチル/アリルスルホン酸ソーダ(93.6重量%/6.0重量%/0.4重量%)をジメチルスルホキシドに溶解し溶液重合することによってアクリロニトリル系重合体がジメチルスルホキシドに溶解した原液を得た。この原液を脱泡後、孔径0.055mm、70000ホールの口金を使用し、吐出量1114cc/分でジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴中で湿式紡糸し、その後、延伸、水洗、スチーム処理、工程油剤付与、帯電防止剤付与、緻密化処理、仕上げ油剤付与、スチーム処理、および捲縮処理のそれぞれの工程を順に経てアクリル系合成繊維のトウを得た。なお、凝固浴槽は4槽使用し、各凝固浴は、温度/ジメチルスルホキシドの濃度が、第1槽:38℃/59重量%、第2槽:72℃/30重量%、第3槽:85℃/15重量%、第4槽:95℃/5重量%であり、水洗は3槽用い、温度はそれぞれ45±5℃とし、スチーム処理におけるスチーム圧は50kPaとし、工程油剤の温度は35±5℃とし、緻密化処理は6個の熱ドラム(第1ドラム:167℃、第2ドラム:150℃、第3ドラム:144℃、第4ドラム:148℃、第5ドラム:140℃、第6ドラム:134℃)を用い処理時間40秒間とし、仕上げ油剤の付着量は2重量%とし、捲縮処理はクリンパーを用いてニップ圧69kPaとした。
【0024】
帯電防止剤には、メトキシポリオキシエチレンメタクリレート・アクリロニトリル・2,3−エポキシプロピルメタクリレート共重合物20重量%とイソプロピルアルコール2重量%とを含有する水溶液を使用した。帯電防止剤の付与方法についてはスプレー法を選択した。このときの帯電防止剤の付着率は、実測付着率0.20%を補正係数0.7で割って補正後付着率として0.3重量%であった。また、得られたトウでの電気比抵抗は3.2×10Ω・cmであった。
【0025】
得られたトウを100%使いした紡績糸1/52を得た後、両面丸編機にてインターロック組織にて編成し、通常の晒し加工を行って編物を得た。得られた編物は、摩擦帯電圧が洗濯前で2.5kv、洗濯10回後の摩擦帯電圧が2.9kvであり、それらの差が0.4kvと良好な耐久制電性が得られた。その他の物性とともに表1に物性をまとめて示す。
【0026】
(実施例2)
帯電防止剤を、メトキシポリエチレングリコールアクリレート・アクリロニトリル・2,3−エポキシプロピルメタクリレート共重合物20重量%とイソプロピルアルコール2重量%とを含有する水溶液に変更し、緻密化処理における6個の熱ドラムの温度をそれぞれ、第1ドラム:167℃、第2ドラム:165℃、第3ドラム:163℃、第4ドラム:163℃、第5ドラム:155℃、第6ドラム:153℃に、緻密化処理の処理時間を25秒間に変更した以外は実施例1と同様にしてトウおよび編物を得た。
【0027】
得られたトウの電気比抵抗は3.4×10Ω・cmであった。また、得られた編物の摩擦帯電圧は洗濯前で2.8kv、洗濯10回後の摩擦帯電圧が3.1kvであり、それらの差が0.3kvと良好な耐久制電性が得られた。その他の物性とともに表1に物性をまとめて示す。
【0028】
(比較例1)
帯電防止剤付与を行なわなかった以外は、実施例1と同様にしてトウおよび編物を得た。その結果、初期制電性は優れるものの、耐久制電性に劣る結果であった。表1に物性をまとめて示す。
【0029】
(実施例3)
帯電防止剤付与の工程を、緻密化処理の工程後で仕上油剤付与の工程前に変更し、帯電防止剤の付与方法を浸漬法に変更するとともに、帯電防止剤の付着率が0.3重量%になるよう浸漬浴濃度を調整した以外は、実施例1と同様にしてトウおよび編物を得た。得られた織物は、初期制電性は優れるが耐久制電性に劣るものであった。表1に物性をまとめて示す。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のアクリル系合成繊維は衣料用途を中心に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステル共重合物が、帯電防止剤として繊維重量当り0.1〜2重量%付着しており、トウ形状での電気比抵抗が1.0×10Ω・cm以下であるアクリル系合成繊維。
【請求項2】
請求項1に記載のアクリル系合成繊維を30重量%以上含み、次の(1)および(2)の特性を有する織編物。
(1)洗濯10回後の摩擦帯電圧が5kv以下である。
(2)洗濯前の摩擦帯電圧と洗濯10回後の摩擦帯電圧との差が2kv以下である。
【請求項3】
アクリル系重合体を紡糸して得られる緻密化処理前の糸条に、アクリル酸エステル共重合物を帯電防止剤として0.1〜2重量%付与し、130℃以上180℃以下の温度で緻密化処理を行う、アクリル系合成繊維の製造方法。

【公開番号】特開2009−1956(P2009−1956A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131649(P2008−131649)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】