説明

アクリル系樹脂の熱分解方法

【課題】流動層による不活性ガス雰囲気下でのアクリル系樹脂の熱分解を長時間連続して安定かつ簡便に実施できる熱分解方法の提供。
【解決手段】流動媒体が充填された分解槽に、該分解槽の下部から不活性ガスを含む流動化ガスを連続的に供給して流動媒体を流動させ、流動層を形成する工程(a)、該流動層に、アクリル系樹脂を連続的に供給して熱分解させ、生じるガス状の分解生成物を冷却し、液体として回収する工程(b)、分解槽内の流動媒体を、アクリル系樹脂の供給位置の高さよりも下側の位置から連続的に排出し、加熱した後、分解槽に連続的に供給する工程(c)を並行して行う。このとき、分解槽に供給する流動化ガスの供給速度、アクリル系樹脂の供給速度、流動媒体の供給速度およびその温度をそれぞれ一定とし、工程(c)で分解槽から排出する流動媒体の排出速度のみの制御によって熱分解時の流動層高さを一定の高さに制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂を、不活性ガス雰囲気下、流動層により熱分解し、生成するガス状の分解生成物を冷却し、液体として回収するアクリル系樹脂の熱分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃プラスチック用の樹脂を不活性ガス雰囲気下で熱分解し、生成したガス状の分解生成物(モノマー、油等)を冷却し、液体として回収する方法が知られている。特に樹脂がアクリル系樹脂である場合、該方法を用いることで、モノマーを液体として回収でき、アクリル系樹脂の製造にリサイクルできるため、樹脂製造時の使用原油量や環境負荷を低減できるため、工業的に有用とされている。
樹脂の熱分解方法の一つとして、流動層を利用する方法がある。該方法は、分解槽内にて、樹脂の熱分解温度以上の温度に加熱した高温の流動媒体(砂等の固体粒子)を流動させ、そこに樹脂を投入するもので、樹脂の熱分解に必要な熱量が流動媒体の顕熱により供給される。そのため、分解槽の壁面だけで加熱する場合に比べて効率よく熱分解を実施でき、分解槽のスケールアップが容易であること、加熱した流動媒体を分解槽に連続的に供給するとともに該分解槽下部から流動媒体を連続的に排出することで連続的な熱分解処理が可能であること、樹脂の熱分解残渣を流動媒体に付着させて分解槽下部から排出できること、排出した流動媒体を加熱等により再生して再利用できること、等の利点があり、工業的に有利な方法である。たとえば特許文献1には、分解槽に加熱した流動媒体、流動化ガスおよび樹脂をそれぞれ連続的に供給し、かつ該分解槽下部から流動媒体を連続的に排出し、その排出した流動媒体を加熱装置に導入して加熱した後、再度分解槽に供給する方法が記載されている。
【0003】
しかし、上記特許文献1に記載されているような、不活性ガス雰囲気下、流動層による熱分解を連続的に行う方法においては、樹脂としてアクリル系樹脂を使用する場合、24時間程度の比較的短時間の運転は可能であるが、熱分解を数日間以上の長時間連続して安定に行うことは難しい傾向にある。たとえば、該方法では、通常、分解槽内の流動媒体の滞在量が一定となるように、分解槽に供給する流動媒体の供給速度と、分解槽下部から排出する流動媒体の排出速度を同じにして運転している。しかし熱分解時、流動媒体の一部が、流動化ガスとともに流動層から分解槽上部の気相部に飛び出して分解槽上部から排出されてしまい、長時間運転を行う場合、徐々に分解槽の流動媒体高さが減少する問題がある。このように分解槽の流動層高さが変化すると、分解槽の反応条件が変化して、回収されるモノマーの量や品質が不安定になりやすい。また、アクリル系樹脂を不活性雰囲気下にて熱分解する反応は吸熱反応であるため、流動層内で樹脂が適正に分散しない場合、流動層の温度に振れが生じる問題がある。具体的には、流動層内で樹脂同士が融着し、樹脂が完全に分解するまでの反応時間が大きくなったり、また、局部的に分解のための熱量が多く必要になって、流動層の局部的温度低下が生じてしまう。その温度低下が限界を超えると、局部的に樹脂が分解できない温度までに低下して分解効率が低下したり、流動層が固化して熱分解反応が行われなくなるおそれもある。
流動層高さや流動層温度の振れは、高品質なモノマーを得るために、回収した液体を蒸留して精製する場合に、その圧力、温度等に振れが生じ、得られるモノマーの品質が安定しない原因ともなるため、その改善が求められる。
【0004】
一方、不活性ガス雰囲気下にて流動媒体の顕熱を利用して樹脂を熱分解する方法ではないが、空気雰囲気下にて、石炭、コークス、廃プラスチック、RDF、シュレッダーダスト等の各種固体燃料、固体廃棄物等を熱分解する際に、分解槽(流動層炉)内の流動層高さを一定にする方法として、以下に示す特許文献2〜4に記載の方法が提案されている。
特許文献2、3では、流動層高さを検出器の値(圧力)や、チルトスイッチで検知し、分解槽への流動媒体の入量と出量を共に制御する方法が開示されている。
特許文献4では、可燃物の供給量、炉底灰の排出量及びガス化空気(流動化ガス)の供給量を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−214320号公報
【特許文献2】実開57−10639号公報
【特許文献3】特開2006−68656号公報
【特許文献4】特開2003−165982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2〜4に記載の方法を、不活性ガス雰囲気下にて流動媒体の顕熱を利用して樹脂を熱分解する方法に利用しても、アクリル系樹脂の熱分解を長時間連続して安定に行うことが難しい。たとえば特許文献2、3の方法では、アクリル系樹脂を不活性雰囲気下にて熱分解する場合においては、流動層の温度に振れが生じてしまう。また、制御方法や制御パラメーターの設定が複雑になるという問題もある。特許文献4の方法では、分解槽内の樹脂の分散状況が不安定になり、上記と同様、流動層の温度に振れが生じてしまう。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、流動層による不活性ガス雰囲気下でのアクリル系樹脂の熱分解を長時間連続して安定かつ簡便に実施できる熱分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、流動層高さに影響を与える条件である、分解槽に供給する流動化ガスの供給速度、アクリル系樹脂の供給速度、流動媒体の供給速度およびその温度、分解槽下部から排出する流動媒体の排出速度のうち、流動媒体の排出速度以外の条件の変動は、アクリル系樹脂の熱分解に必要な熱量の不足、流動層内でのアクリル系樹脂および流動媒体の分散性の悪化、回収される液体(特に、精製処理により回収される、アクリル系樹脂の原料であるモノマー)の品質不安定等に繋がることを見出した。この知見に基づきさらに検討を重ねた結果、流動層高さやその温度に影響を与えるそれらの条件は一定とし、流動媒体の排出速度のみで熱分解時の流動層高さを一定に制御することで上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
上記課題を解決する本発明は、以下の態様を有する。
[1]下記工程(a)〜(c)を並行して行うアクリル系樹脂の熱分解方法であって、前記分解槽に供給する流動化ガスの供給速度、アクリル系樹脂の供給速度、流動媒体の供給速度およびその温度をそれぞれ一定とし、前記工程(c)で分解槽から排出する流動媒体の排出速度のみの制御によって、前記熱分解時の流動層高さを一定の高さに制御する熱分解方法。
工程(a):流動媒体が充填された分解槽に、該分解槽の下部から不活性ガスを含む流動化ガスを連続的に供給して該流動媒体を流動させ、流動層を形成する工程。
工程(b):前記流動層に、アクリル系樹脂を連続的に供給して熱分解させ、該熱分解により生じるガス状の分解生成物を冷却し、液体として回収する工程。
工程(c):前記分解槽内の流動媒体を、前記アクリル系樹脂の供給位置の高さよりも下側の位置から連続的に排出し、加熱装置に導入し、加熱した後、前記分解槽に連続的に供給する工程。
[2]前記工程(b)において、さらに、回収した液体を精製し、該液体中に含まれる前記アクリル系樹脂の原料のモノマーを回収する、[1]に記載の熱分解方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱分解方法によれば、流動層による不活性ガス雰囲気下でのアクリル系樹脂の熱分解を長時間連続して安定かつ簡便に実施できる熱分解方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の熱分解方法に用いられる熱分解装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱分解方法は、アクリル系樹脂(以下、単に「樹脂」ということがある。)を、不活性ガス雰囲気下、流動層により熱分解し、該熱分解により生じるガス状の分解生成物を冷却し、液体として回収する方法である。
以下、本発明の熱分解方法について、その実施形態例を示して説明する。ただし本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の熱分解方法に用いられる熱分解装置の一実施形態(以下、第一実施形態ということがある。)を示す概略図である。
本実施形態の熱分解装置100は、樹脂の熱分解を行う分解槽1と、分解槽1に不活性ガスを含む流動化ガスを供給する流動化ガス供給流路2と、分解槽1に樹脂を供給する樹脂供給スクリュー3と、分解槽1に流動媒体を供給する流動媒体供給スクリュー4と、分解槽1の下方に配置された、分解槽1内の流動媒体を排出する流動媒体排出スクリュー5と、流動媒体排出スクリュー5から排出される流動媒体を貯留するホッパー6と、ホッパー6から排出される流動媒体を加熱する加熱装置7と、加熱装置7にて加熱された流動媒体を流動媒体供給スクリュー4に供給する流動媒体供給流路8と、分解槽1内のガスを排出するガス排出流路9と、ガス排出流路9の下流に設置され、分解槽1から排出されたガスを冷却し、凝縮液を回収する冷却装置10と、冷却装置10から排出されたガス中のミストを回収するミスト回収装置11と、冷却装置10およびミスト回収装置11で回収された液体を精製する精製装置12と、を具備する。
流動化ガス供給流路2にはブロワー13が設置されて、流動化ガスの供給速度を制御できるようになっている。
樹脂供給スクリュー3は、スクリュー部3aと、スクリュー部3aの上流側上方に設置されたホッパー部3bとから構成され、スクリュー部3aの出口が分解槽1に接続されている。
流動媒体供給スクリュー4は、スクリュー部4aと、スクリュー部4aの上流側上方に設置されたホッパー部4bとから構成され、スクリュー部4aの出口が分解槽1に接続されている。
流動媒体排出スクリュー5は、スクリュー部5aと、スクリュー部5aの上流側上方に設置されたホッパー部5bとから構成され、スクリュー部5aの出口がホッパー6に接続されている。
樹脂供給スクリュー3、流動媒体供給スクリュー4、流動媒体排出スクリュー5のスクリューには、それぞれ、スクリュー回転数を制御する回転数制御装置3c、4c、5c(たとえばインバーター)が取り付けられている。
【0011】
分解槽1は、本体1aと、流動化ガス供給流路2により流動化ガスが供給される位置よりも上方に設置されて本体1a内を上下に区分する分散装置1bと、分散装置1b上に充填された流動媒体からなる流動媒体層1cと、一端が流動媒体層1cの最下層内に開口し、他端が流動媒体排出スクリュー5の入口に接続された流動媒体排出流路1dと、分散装置1b下に配置され、供給された流動化ガスを分散装置1bの全面に均一に送るための流動化ガス室1eと、を備える。
分散装置1bとしては、多孔板、スリット板、メッシュ板、焼結フィルタ、ノズル、キャップ付きノズル等が挙げられる。
【0012】
流動媒体層1cの高さ(流動層高さ)には特に制限は無いが、静置状態の流動層高さ/分解槽1の代表長さの比が0.5〜3.5となる範囲内であることが好ましい。
ここで、静置状態とは、樹脂を供給する前の状態であって、流動化ガスの供給および撹拌装置による撹拌を行っていない状態をいう。
流動層高さは、流動媒体層1cの最下端から流動媒体層1cの最上面の高さまでの距離を意味する。「流動媒体層1cの最下端」とは、流動媒体層1cの最下面が図1に示すように平坦である場合には該最下面の位置であり、流動媒体層1cの最下面が、頂点が下側にある円錐状である場合には該円錐の頂点相当位置である。
分解槽1の代表長さは、分解槽1の水平断面形状が円の場合にはその円の直径とし、分解槽1の水平断面形状が正方形の場合にはその一辺の長さとし、分解槽1の水平断面形状が長方形の場合には短辺と長辺の和の2分の1の長さとする。それ以外の断面形状の場合にはまず断面積を算出し、その断面積と同じ面積を有する円の直径とする。
静置状態の流動層高さ/分解槽1の代表長さの比を0.5以上とすることにより、流動媒体の流動の斑が小さくなる。また。静置状態の流動層高さ/分解槽の代表長さの比を3.5以下とすることにより、流動層の圧力損失が小さくなり、流動化ガスの供給に必要な動力を小さくすることができる。
【0013】
分解槽1内、流動媒体層1cの上部には、空間部を設けることが好ましい。
静置状態での空間部の長さは、静置状態での空間部の長さ/分解槽1の代表長さの比が0.5〜5となる範囲内であることが好ましい。
ここで空間部の長さとは、静置状態での流動媒体層1cの最上面の高さから分解槽1の最上面の高さまでの距離をいう。
分解槽の代表長さは、上記の通りである。
静置状態での空間部の長さ/分解槽1の代表長さの比を0.5以上とすることにより、分解槽1から排出されたガス(流動化ガスと樹脂の分解生成物との混合ガス)を冷却装置10に送る際、該ガスに同伴して排出される流動媒体の量を減少させることができる。また、静置状態での空間部の長さ/分解槽1の代表長さの比を5以下とすることにより、分解槽1の全高を低くすることができ、分解槽1の設備コストを低減できる。
【0014】
分解槽1の全高は、分解槽1の全高/分解槽1の代表長さの比が1〜8.5となる範囲内であることが好ましい。
分解槽1の全高は、分解槽1の最下端から分解槽1の最上面の高さまでの距離を意味する。「分解槽1の最下端」とは、分解槽1の最下面が図1に示すように平坦である場合には該最下面の位置であり、分解槽1の最下面が、頂点が下側にある円錐状である場合には該円錐の頂点相当位置である。
分解槽1の全高/分解槽1の代表長さの比を1以上とすることにより、流動媒体の流動の斑が小さくなり、また充分な空間部を確保しやすい。分解槽1の全高/分解槽の代表長さの比を8.5以下とすることにより、流動層の圧力損失を小さくでき、また分解槽1の全高が低くなり、分解槽1の設備コストを低減できる。
【0015】
分解槽1内には、図示しない撹拌装置が設置されており、流動媒体層1cを撹拌できるようになっている。流動化ガスを供給する際、並行して、撹拌装置を用いた撹拌を行うことで、分解槽内における流動媒体や樹脂の水平方向及び鉛直方向の流動が良好になる。
撹拌機の撹拌軸の数に制限はなく、1本であっても良いし、2本以上であっても良い。撹拌軸の本数が2本以上の場合、分解槽内の水平方向、及び鉛直方向の流動がさらに向上する。
撹拌機の攪拌翼の形状は特に限定されず、パドル翼、アンカー翼、リボン翼、ヘリカル翼、プロペラ翼、タービン翼、等が例示される。
なお、撹拌装置は必須ではなく、分散装置1bを介して供給される流動化ガスのみによって流動媒体層1cが充分に流動する場合は、必ずしも撹拌装置を設ける必要はない。
【0016】
分解槽1の本体1aの下部には流動化ガス供給流路2が接続されている。
ここで、分解槽1の「下部」とは、分解槽1の最下端から樹脂供給スクリュー3の接続位置(樹脂の供給位置)の高さまでの間を意味する。「分解槽1の最下端」とは、上述したとおり、分解槽1の最下面が図1に示すように平坦である場合には該最下面の位置であり、分解槽1の最下面が、頂点が下側にある円錐状である場合には該円錐の頂点相当位置である。
流動化ガス供給流路2がこの位置に接続されていることにより、流動化ガス供給流路2を通じて流動化ガスを分解槽1に供給した際に、流動媒体層1cを流動させやすく、また、該層内に供給された樹脂を均一に分散させることができるようになっている。
【0017】
分解槽1の本体1a上面にはガス排出流路9が接続され、分解槽1の上部の空間から、該分解槽1内に存在するガス(流動化ガスと、樹脂の熱分解により生じたガス状の分解生成物との混合物)を取り出すことができるようになっている。該空間からガスを取り出すことで、該ガスに同伴して排出される流動媒体の量を低減でき、好ましい。
ここで、分解槽1の「上部」とは、流動媒体層1cの最上面から分解槽1の最上端までの間を意味する。「分解槽1の最上端」とは、分解槽1の最上面が図1に示すように平坦である場合には該最上面の位置であり、分解槽1の最上面が、頂点が上側にある円錐状の場合には該円錐の頂点相当位置である。
なお、ここでは本体1a上面にガス排出流路9を接続しているが本発明はこれに限定されず、たとえば分解槽1の上部の側面に接続してもよい。
【0018】
樹脂供給スクリュー3、流動媒体供給スクリュー4は、それぞれ、分解槽1の本体1aの中間部の下部に接続され、流動媒体層1cの下部から樹脂、流動媒体を供給するようになっている。
ここで、分解槽1の「中間部」とは、静置状態における流動媒体層1cの最下端から最上面までの間を意味する。「流動媒体層1cの最下端」とは、上述したとおり、流動媒体層1cの最下面が図1に示すように平坦である場合には該最下面の位置であり、流動媒体層1cの最下面が、頂点が下側にある円錐状である場合には該円錐の頂点相当位置である。
「中間部の下部」は、静置状態における流動媒体層1cの最下端の位置と最上面の位置との中間の位置の高さよりも下側を意味する。
樹脂供給スクリュー3の接続位置、つまり樹脂の供給位置は、必ずしも流動媒体層1cの下部には限定されないが、流動媒体層1cの下部から樹脂、流動媒体を供給することは、樹脂の熱分解効率、樹脂と流動媒体の流動層での分散性等の点で有利である。
流動媒体供給スクリュー4の接続位置、つまり流動媒体の供給位置は、必ずしも流動媒体層1cの下部には限定されない。分解槽1内にて、流動媒体は、流動化ガスの供給、またはそれに加えて撹拌装置での撹拌により流動化されているので、流動媒体はどこから供給しても分解槽1内で均一に流動し得る。
樹脂供給スクリュー3、流動媒体供給スクリュー4として用いられるスクリューは、特に限定されず、粉体の供給、排出等に使用されている公知のスクリューを使用できる。定量供給の観点から、一軸スクリューまたは二軸スクリューが好ましい。一軸スクリューの方が、装置コストを低減できる点で好ましい。
【0019】
流動媒体排出スクリュー5は、分解槽1の下方に設置され、その入口に流動媒体排出流路1dが接続されており、該流動媒体排出流路1dを介して、流動媒体層1cの最下層から流動媒体を排出できるようになっている。
なお、ここでは流動媒体層1cの最下層に流動媒体排出流路1dを接続しているが本発明はこれに限定されず、たとえば分解槽1の下部の側面に接続してもよい。ただしこの場合においても、流動媒体排出流路1dの接続位置は、樹脂供給スクリュー3の接続位置(樹脂の供給位置)の高さよりも下側であることが好ましい。
樹脂の供給位置の高さよりも下側から排出される流動媒体中には樹脂は殆ど含まれず、流動媒体の流動性が確保でき、また、最終的に回収される、アクリル系樹脂の原料であるモノマーの量が増加する。一方、流動媒体を樹脂の供給位置と同じ高さ、あるいはそれよりも上側から排出すると、排出される流動媒体中に樹脂が多く混合されているので、その流動性が悪く、流動媒体の排出性に問題がある。また、回収されるモノマーの量が低減する。
流動媒体排出スクリュー5として用いられるスクリューは、特に限定されず、粉体の供給、排出等に使用されている公知のスクリューを使用できる。定量供給の観点から、一軸スクリューまたは二軸スクリューが好ましい。
【0020】
分解槽1には、流動層高さ検知手段(図示略)が設置されて、分解槽1内の流動層高さを検知できるようになっている。
流動層高さ検知手段としては、スイッチ等の接触式、流動層の下部と上部との差圧から計算する非接触式のものがあり、いずれの方式のものも使用できる。熱分解が高温条件下で行われること、制御幅を容易に変更できる観点から、流動層の下部と上部との差圧から計算する非接触式が好ましい。流動層の下部と上部との差圧は、流動層高さに比例するため、使用する分解槽1について予め流動層高さと差圧との関係を示す検量線を作成しておくことで、熱分解時の流動層高さをその差圧から求めることができる。
非接触式の流動層高さ検知手段として、より具体的には、分解槽1内の、流動状態の固体粒子層1cの最上面の位置よりも高い位置(第一の圧力測定部)と、流動化ガス室1e内など、固体粒子層1cの最下面よりも低い位置(第二の圧力測定部)との圧力差を計測する差圧計が挙げられる。
該検知手段においては、流動媒体が圧力計に混入し、正確に測定できない問題が発生しないように、第一、第二の圧力計測定部付近を不活性ガスでパージできるようになっていることが好ましい。
【0021】
熱分解装置100は、さらに、分解槽1の流動層高さ検知手段(図示略)および流動媒体排出スクリュー5の回転数制御装置5cに電気的に接続する制御装置(図示略)を具備する。
制御装置は、流動層高さ検知手段からの情報によって、流動媒体排出スクリュー5のスクリュー回転数を制御し、流動媒体の排出速度を制御するものである。流動媒体の排出速度を制御することで、流動層高さを一定の高さに制御できる。
該制御装置において、流動層高さを流動媒体の排出速度で制御する制御方式としては、たとえばPID制御、カスケード制御、フィードフォワード制御等が挙げられる。これらの中でも、PID制御が、設計、制御パラメーターの設定が簡易である点で好ましい。
PID制御は、フィードバック制御の一種であり、入力値の制御を出力値と目標値との偏差、その積分、および微分の3つの要素によって行う方法のことである。PID制御のパラメーターは、オートチューニングでも良いし、予め、熱分解装置100の試運転により、応答時間や振れ幅を調整し、設定しても良い。試運転によりPID制御のパラメーターを決定する方が、応答性、安定性の面で好ましい。
【0022】
冷却装置10は、ガス排出流路9を介して分解槽1から排出されたガスを冷却するものである。該ガスを冷却すると、該ガス中に含まれるガス状の分解生成物が凝縮(液化)し、液体として回収される。
冷却装置10としては、気体状の熱分解生成物を冷却し、液体として凝縮させ得るものであれば特に制限はなく、たとえば管式熱交換器、プレート式熱交換器、スクラバー、スプレー塔、等が挙げられる。
冷却装置10の下には容器が設置され、生じた凝縮液(分解生成物を含む液体)を収容できるようになっている。該容器の大きさ、形状には制限はない。
【0023】
ミスト回収装置11は、冷却装置10から排出されるガス中のミストを回収するものである。冷却装置10から排出されるガス中には、冷却装置10で凝縮しなかった分解生成物がミストとして存在していることがある。そのために、該ガスをミスト回収装置11に導入し、ミストを回収することで、モノマーの収率をさらに高めることができる。
ミスト回収装置11としては、サイクロン式ミスト回収装置、メッシュ式ミスト回収装置、等が例示される。
ミスト回収装置11の下には容器が設置され、回収したミスト(分解生成物を含む液体)を収容できるようになっている。該容器の大きさ、形状には制限はない。
【0024】
冷却装置10、ミスト回収装置11で回収された液体は、アクリル系樹脂の原料のモノマーのほか、不純物や、混入した流動媒体を含むことがある。
精製装置12は、冷却装置10やミスト回収装置11で回収された液体中のそれらの不純物や流動媒体を除去するためのものである。
精製装置12としては、除去対象に応じて公知の精製装置を利用できる。具体的には、たとえばフィルタ、蒸留塔が挙げられ、たとえばアクリル系樹脂の原料のモノマーを回収する場合には、蒸留塔が好ましく用いられる。
精製装置12として複数の精製装置を併用してもよい。
【0025】
図1に示す熱分解装置100を用いたアクリル系樹脂の熱分解およびその分解生成物の回収は、下記工程(a’)〜(c’)を並行して行うことにより実施できる。
工程(a’):流動媒体が充填されて流動媒体層1cが形成された分解槽1に、流動化ガス供給流路2を介して流動化ガスを連続的に供給して該流動媒体を流動させ、流動層を形成する工程。
工程(b’):該流動媒体層1cに、樹脂を、樹脂供給スクリュー3により連続的に供給して熱分解させ、該熱分解により生じるガス状の分解生成物を、ガス排出流路9を介して冷却装置5に送り、冷却して液体として回収する工程。
工程(c’):分解槽1内の流動媒体を、流動媒体排出流路1dおよび流動媒体排出スクリュー5を介して連続的に排出し、加熱装置7に導入し、加熱した後、流動媒体供給流路8を介して流動媒体供給スクリュー4に送り、該流動媒体供給スクリュー4から再度分解槽1に連続的に供給する工程。
【0026】
上記工程(a’)において、流動化ガス供給流路2から流動化ガスを供給すると、流動化ガス室1e内を拡散した流動化ガスが分散装置1bを通って吹き上がり、流動媒体層1cが流動する。そこに、上記工程(b’)により樹脂を供給すると、樹脂は、比重が流動媒体よりも小さいため、流動化ガスと共に流動媒体層1c内を上昇する。この際、樹脂は、高温の流動媒体と接触し、熱分解される。
樹脂の熱分解によって生成したガス状の分解生成物は、流動化ガスとともに分解槽1から排出され、ガス排出流路9を経由して冷却装置5に送られる。分解槽1から冷却装置5送られたガス(流動化ガスと、熱分解により生じたガス状の分解生成物との混合ガス)を冷却すると、それらのガス中に含まれるガス状の分解生成物が凝縮し、液体として回収される。
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0027】
[工程(a’)]
流動媒体としては、たとえば、砂、セラミックス粒子、金属粒子、金属水酸化物粒子、金属ハロゲン化物粒子等が挙げられる。特に、低価格で、取り扱いが容易で、熱分解による副反応が起こりにくく、プロセス全体の収率低下が起こりにくいことから、砂が好ましい。該砂の種類に特に制限はなく、川砂、山砂、海砂等が使用できる。その中でも流動性の良い点から、川砂が好ましい。
流動媒体の大きさは特に制限はないが、その取り扱い性の観点から、平均粒径が0.01mm〜1mmが好ましく、0.05mm〜0.8mmがより好ましい。
【0028】
流動化ガスは不活性ガスを含む。
不活性ガスとしては、窒素、二酸化炭素、アルゴン等が挙げられる。これらの中でも、低価格、取り扱い容易、熱分解による副反応が起こりにくく、プロセス全体の収率低下が起こりにくい等の理由から、窒素が好ましい。
流動化ガスは、本発明の効果を損なわない範囲で、不活性ガス以外のガスを含有してもよい。たとえば後述する工程(b’)で冷却装置10から排出される混合ガスや、冷却装置10の下流に任意に設けられるミスト回収装置11から排出される混合ガスを再利用してもよい。
【0029】
流動化ガスの供給速度(kg/時間(hr))は、流動媒体層1cの流動化が可能な範囲内であればよい。
本実施形態において、流動化ガスは、ブロワー13を使用して供給される。ブロワー13の使用は、定量供給の観点から好ましい。ただし本発明はこれに限定されず、ブロワー13以外にも、各種送風装置が使用できる。
流動化ガスの供給速度の計測及び制御は、たとえば、渦式流量計等のガス用流量制御計により行うことができる。この場合、流量制御計の現在値と、流量設定値との差から、ブロワーの回転数をPID制御することができる。
本工程では、分解槽1への流動化ガスの供給速度を一定とする必要がある。
流動化ガスの供給速度の「一定」とは、ブロワー等の送風装置の送風量の設定値(たとえばブロワーの回転数の設定値)を変更せず、かつ、実際の供給速度とその設定値との差が、該設定値(100%)に対して0.1%未満であることを意味する。
【0030】
分解槽1に供給する流動化ガスの温度(以下、供給温度ということがある。)は、工程(b’)で分解槽1に供給する樹脂の温度以上、500℃以下が好ましい。流動化ガスの温度が樹脂の温度以上であれば、流動媒体層1cの過度の温度低下が抑えられる。流動化ガスの供給温度が500℃以下であれば、回収される液体の品質が向上する。
流動化ガスの供給温度の制御は、ブロワー等の送風装置と分解槽1までに流動化ガスを加熱又は冷却できる熱交換器を設置し、その熱交換器から排出される温度を計測し、熱交換器の加熱や冷却のための流体温度や、流体流量をPID等の制御をすることにより行うことができる。
流動化ガスの供給温度の計測は、流動化ガス室1e中に設置した熱電対等の温度計により行うことができる。
流動化ガスの供給温度は、一定とすることが好ましい。
流動化ガスの供給温度の「一定」とは熱交換器の加熱や冷却のための流体温度や、流体流量の設定値を変更せず、かつ、実際の供給温度とその設定値との差が、±0.5℃以内であることを意味する。
【0031】
流動媒体層1cの流動化は、流動化ガスの供給のみにより行ってもよく、流動化ガスの供給および分解槽1内に配設された攪拌装置(図示略)を用いた撹拌によって行ってもよい。攪拌装置を用いた撹拌を併用する方法の方が、分解槽1内における流動媒体やアクリル系樹脂の水平方向及び鉛直方向の流動が良好になる点で好ましい。
【0032】
[工程(b’)]
工程(b’)では、まず、工程(a’)で流動化させた流動媒体層1cに、樹脂を、樹脂供給スクリュー3により連続的に供給する。
本発明において、該樹脂としてはアクリル系樹脂が用いられる。
「アクリル系樹脂」は、モノマー単位(重合体を構成する繰り返し単位)として、(メタ)アクリル酸エステル単位を有する重合体である。ここで「(メタ)アクリル」は、「アクリル」または「メタクリル」のことをいう。(メタ)アクリル酸エステルは、一般式:CH=C(R)−CO−O−R[式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rは有機基である。]で表される化合物である。
としては、メチル基が好ましい。すなわち、(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸エステルが好ましい。
の有機基としては、たとえば、アルキル基が挙げられる。すなわち、(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルとして具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。
アクリル系樹脂は、少なくともメタクリル酸メチル単位を含むことが好ましい。特に、モノマーを高収率で回収する点から、全構成単位100質量%中、メタクリル酸メチル単位を50質量%以上含んでいることが好ましく、メタクリル酸メチル単位を70質量%以上含んでいることがより好ましい。
【0033】
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の他のモノマー単位を含んでいてもよい。
該他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能なものであればよく、たとえば(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、多官能モノマー等が挙げられる。
多官能モノマーとしては、たとえば、多官能(メタ)アクリル酸エステルが例示される。多官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえばエチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、1,4ブタンジオールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,4ブタンジオールジメタクリレート、1,6ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、等が挙げられる。
多官能モノマー単位を含むアクリル系樹脂として、架橋したアクリル系樹脂が挙げられる。
アクリル系樹脂は、他の樹脂と混合されていてもよい。
【0034】
アクリル系樹脂は、充填剤を含んでいてもよい。充填剤としては、水酸化アルミニウム、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、タルク、クレイ等が挙げられる。
アクリル系樹脂は、充填剤以外の添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、たとえば顔料、染料、補強剤、酸化防止剤、安定剤等が挙げられる。
【0035】
供給するアクリル系樹脂の大きさは、平均粒子径として、1〜20mmが好ましく、3〜10mmがより好ましい。該平均粒子径が1mm以上であると、樹脂同士の付着、融着を抑えることができる。樹脂の粉砕片の平均粒子径が20mm以下であれば、樹脂および流動媒体の分散性が良好となる。該平均粒子径は、破砕片が球状であるとして、100個の樹脂の粉砕片を取って求めた樹脂の粉砕片の平均重量と、樹脂の密度とから計算した重量平均径である。
【0036】
分解槽1への樹脂の供給速度(kg/hr)は、分解槽1への流動化ガスの供給速度(kg/hr)と分解槽1への樹脂の供給速度(kg/hr)との比(流動化ガス/樹脂比)が0.4〜3.0の範囲内となる速度であることが好ましい。流動化ガス/樹脂比が0.4以上であれば、流動媒体層1cの流動性を保つことができる。流動化ガス/樹脂比が3.0以下であれば、冷却装置10の負荷を低減できる。
分解槽1への樹脂の供給速度の計測は、樹脂供給スクリュー3のホッパー部3bに取り付けたロードセル等の質量計測機(図示せず)を用いることにより実施できる。また、該供給速度の制御は、樹脂供給スクリュー3のスクリュー回転数を回転数制御装置3cにより制御することにより実施できる。
本工程では、流動媒体層1cへの樹脂の供給速度(分解槽1への樹脂の供給速度)を一定とする必要がある。
樹脂の供給速度の「一定」とは、樹脂供給スクリュー3のスクリューの回転数の設定値等の、樹脂供給手段における供給量制御のための設定値を変更せず、かつ、実際の供給速度とその設定値との差が、該設定値(100%)に対して0.1%未満であることを意味する。
【0037】
分解槽1に供給する樹脂の温度(以下、供給温度ということがある。)は、0℃以上、(樹脂のガラス転移温度または融点−50℃)以下が好ましい。樹脂の供給温度が0℃以上であれば、流動媒体層1cの温度低下が抑えられ、また、流動媒体層1cの流動性が良好となる。樹脂の供給温度が(樹脂のガラス転移温度または融点−50℃)以下であれば、樹脂同士の付着が抑えられ、また、樹脂と流動媒体との混合が良好となる。
樹脂の供給温度の制御は、樹脂供給スクリュー上流に樹脂を加熱または冷却できる機構を設置することにより行うことができる。
樹脂の供給温度の計測は、樹脂供給ライン中に設置した熱電対等の温度計により行うことができる。
樹脂の供給温度は、一定とすることが好ましい。
樹脂の供給温度の「一定」とは、樹脂を加熱または冷却できる機構における電気出力や、加熱や冷却流体の温度や流量の設定値を変更せず、かつ、実際の供給温度とその設定値との差が、±0.5℃以内であることを意味する。
【0038】
樹脂を供給する際(熱分解を行う際)の流動媒体層1cの温度(流動層の温度)は、350℃以上が好ましく、350〜500℃がより好ましい。該温度が350℃以上であれば、樹脂の熱分解速度が速くなる。該温度が500℃以下であれば、回収される液体の品質が向上する。該流動層の温度は、該流動層に供給する流動媒体や流動化ガスの温度を調節することにより調節できる。
流動媒体層1cの温度は、分解槽1内の流動媒体が存在するところに熱電対(図示略)に設置することにより測定できる。
流動媒体層1cの温度は、工程(c’)で当該分解槽1に供給する流動媒体の温度を調節することにより制御でき、該流動媒体の温度は、加熱装置7に設置された流動媒体温度の制御装置により制御できる。具体的には、加熱装置7の流動媒体が存在するところに熱電対を設置して温度測定を行いつつ、その温度が所定の温度になるように燃料の供給量を調節することで制御できる。
【0039】
上記のようにして樹脂を分解槽1に供給すると、流動媒体の熱により樹脂が熱分解し、ガス状の分解生成物(たとえば(メタ)アクリルエステル等のモノマー)が生じる。そのため、分解槽1内のガス(流動化ガスと、熱分解により生じたガス状の分解生成物との混合ガス)を、ガス排出流路9を介して冷却装置10に送り、冷却すると、該ガス中に含まれるガス状の分解生成物が凝縮し、液体として回収される。
【0040】
冷却装置10からは、流動化ガスと、液化しなかった分解生成物との混合ガスが排出される。この混合ガスは、燃焼処理等の除害処理後、系外に排気してもよいし、分解槽1に再度供給してもよい。
この混合ガスを、再度分解槽1に供給することにより、アクリル系樹脂の原料のモノマーの回収量を増加させることができる。
除害処理は、たとえば該混合ガスを加熱装置7に送り、燃焼させることにより実施できる。
【0041】
本発明においては、冷却装置10から排出される混合ガス中の分解生成物を回収するために、該混合ガスを、冷却装置10の下流に設置されたミスト回収装置11に導入することが好ましい。これにより、冷却装置10から排出される混合ガス中にミストとして存在する分解生成物を回収し、モノマーの収率をさらに高めることができる。
ミスト回収装置11からは、流動化ガスと、液化しなかった分解生成物と、分離ガスとの混合ガスが排出される。この混合ガスは、前記冷却装置10から排出される混合ガスと同様、除害処理後、系外に排気してもよいし、分解槽1に再度供給してもよい。
【0042】
冷却装置10またはミスト回収装置11から排出される混合ガスを分解槽1に再度供給する場合には、該混合ガスに、不活性ガスを混合してもよい。
混合ガスに混合する不活性ガスとしては、前記流動化ガスとして挙げた不活性ガスと同様のものが挙げられる。
冷却装置10またはミスト回収装置11から出てくる混合ガスに対して混合する不活性ガスの質量比は、不活性ガス/混合ガス=0〜5とするのが好ましく、0.01〜5とするのがより好ましい。この比が0とは、樹脂の分解生成物のうち、冷却装置10で液化しなかったガスのみを、分解槽1の流動化ガスとして使用することである。この比を5以下とすることにより、別の工程から供給するガスの量を低減することができ、ガスの使用に伴う費用を削減できるため好ましい。
このように不活性ガスが混合されたガス(以下、希釈ガスということがある。)は、流量制御装置やコントロールバルブ等により、分解槽1に供給されるガスと、除害処理後に系外に排気するガスとに分けられる。
該希釈ガスの一部を流量制御装置から除害処理後、系外に排出することにより、分解槽に供給するガスに含まれる酸素濃度を低減することができる。
分解槽1に供給する混合ガスまたはその希釈ガス中の酸素濃度は、樹脂分解の安定性確保や回収する液量の増加、その液の品質向上の観点から、3体積%以下とすることが好ましく、1体積%以下とするのが特に好ましい。
分解槽1に供給する混合ガスまたはその希釈ガスの温度は、前述した流動化ガスの温度と同様とする。
【0043】
工程(b’)においては、さらに、冷却装置10、ミスト回収装置11でそれぞれ回収した液体を精製装置12に導入し、精製処理を行うことが好ましい。
冷却装置10やミスト回収装置11で回収された液体中には、不純物や、分解槽1からガスと共に排出された流動媒体が混入していることがある。これらを除去することで、回収される液体がより高品質なものとなる。
精製処理としては、たとえばフィルタによるろ過、蒸留等が挙げられる。
本発明においては、特に、該液体中に含まれるアクリル系樹脂の原料のモノマーを回収するための精製処理を行うことが好ましい。このような精製処理は、たとえば精製装置13として蒸留塔等の蒸留装置を使用し、蒸留を行うことにより実施できる。
たとえば精製処理として蒸留を行う場合、精製装置として、アクリル系樹脂の原料であるモノマーより低沸点の成分を分離する蒸留塔と、該モノマーより高沸点の成分を分離する2以上の蒸留塔と組み合わせることが、回収されるモノマーの純度を高めるために好ましい。
なお、冷却装置10の上流に、分解槽1からガスに同伴して排出される流動媒体を捕集するための装置を設置し、予め該流動媒体を除去してもよい。該装置の例としてサイクロンが例示される。
【0044】
[工程(c’)]
工程(c’)では、分解槽1内の流動媒体を、流動媒体排出流路1dおよび流動媒体排出スクリュー5を介して連続的に排出し、ホッパー6に貯留した後、加熱装置7に導入し、加熱した後、流動媒体供給流路8を介して流動媒体供給スクリュー4に送り、該流動媒体供給スクリュー4から再度分解槽1に連続的に供給する。
流動媒体層1c内に樹脂の未分解物がある場合、該未分解物は、流動媒体とともに分解槽1から排出される。排出された流動媒体に該未分解物が同伴していても、加熱装置7にて該流動媒体を加熱することで、該未分解物を熱分解または燃焼させて流動媒体から除去し、樹脂の熱分解に利用することができる。
【0045】
分解槽1からの流動媒体の排出速度(kg/hr)には、特に制限はない。樹脂の種類/処理速度、および、分解槽1に供給される固体粒子の温度によって決まる。
流動媒体の排出速度は、流動媒体排出スクリュー5のホッパー部5bに取り付けたロードセル等の質量計測機を用いることにより、単位時間当たりの重量変化を求め算出することができる。
該流動媒体の排出速度の制御は、流動媒体排出スクリュー5のスクリュー回転数を回転数制御装置5cにより制御することにより実施できる。
【0046】
本工程においては該流動媒体の排出速度を、熱分解時の流動層高さ、つまり工程(b’)実施時における流動媒体層1cの高さが一定の高さになるように制御する必要がある。このような制御を行わず、その排出速度を一定とした場合、本発明の効果は得られない。ここで流動媒体の排出速度の「一定」とは、流動媒体排出スクリュー5のスクリュー回転数の設定値を変更せず、かつ、実際の排出速度とその設定値との差が、該設定値(100%)に対して0.1%未満であることを意味する。
該制御は、上述したように、分解槽1の流動層高さ検知手段(図示略)および流動媒体排出スクリュー5の回転数制御装置5cに電気的に接続する制御装置(図示略)により実施できる。
【0047】
加熱装置7としては、たとえば流動層炉、ロータリキルン等が挙げられる。
流動層炉を用いる場合、たとえば、該流動層炉に流動媒体を供給するとともに、空気、燃料の燃焼ガスまたはその混合物を流動化ガスとして供給して該流動媒体を流動化させながら、流動媒体の温度を上昇させる。ロータリキルンを用いる場合、空気、燃料の燃焼ガスまたはその混合物を供給しながら、装置自体を回転させ、その内部の流動媒体を流動させながら、流動媒体の温度を上昇させる。このようにして流動媒体の温度を上昇させることにより、流動媒体に同伴して排出された樹脂の未分解物を熱分解または燃焼させることができる。
【0048】
加熱装置7で使用する燃料に特に制限はないが、たとえば、重油、軽油、灯油、前記工程(b’)で回収した回収液(分解生成物を含む液体)等が挙げられる。特に、該回収液を使用することにより、新たに燃料を購入する必要がないので、環境的、コスト的な観点から好ましい。また、該回収液を使用することは、樹脂分解に必要な熱量をその回収液で賄うことになるので、クローズドシステムとなり、環境負荷の小さいプロセスとなる。
加熱装置7における加熱温度は、分解槽1に供給する流動媒体の温度等を考慮して適宜設定すればよい。
加熱装置7における加熱温度(流動媒体温度)の制御は、加熱装置7に供給する燃料量を制御することにより実施できる。
【0049】
加熱装置7で加熱された流動媒体は、流動媒体供給スクリュー4を経由して分解槽1に供給される。
分解槽1に供給される流動媒体の温度(以下、供給温度ということがある。)は、(流動層の温度+50℃)以上、(流動層の温度+250℃)以下が好ましい。該流動媒体の供給温度が該範囲の下限値以上であると、樹脂の熱分解速度が速くなり、上限値以下であると、回収される液体の品質が向上する。
該流動媒体の供給温度の計測は、流動媒体供給流路8中の流動媒体が存在するところに熱電対等の温度計を設置することにより行うことができる。
該流動媒体の供給温度の制御は、加熱装置7での温度設定、つまり加熱装置7に供給する燃料量を制御し、該加熱装置7での流動媒体の温度を制御すること、により行うことができる。
本工程では、流動媒体の供給温度を一定とする必要がある。
流動媒体の供給温度の「一定」とは、所定の供給温度とするために設定した、加熱装置7に供給する燃料量の設定値を変更せず、かつ、実際の供給温度と所定の供給温度との差が±0.5℃以内であることを意味する。
【0050】
工程(c’)における流動媒体供給スクリュー4から分解槽1への流動媒体の供給速度(kg/hr)には、特に制限はない。樹脂の種類/処理速度、および、分解槽1に供給される流動媒体の温度によって決まる。
分解槽1への流動媒体の供給速度(kg/時間)は、樹脂の供給速度(kg/時間)との比(流動媒体/樹脂)が、1〜20の範囲内であることが好ましい。流動媒体/樹脂が1以上であれば、樹脂を効率よく熱分解できる。流動媒体/樹脂が20以下であれば、分解槽1と流動媒体加熱装置12との間の流動媒体の循環量が抑えられ、加熱装置12の大型化によるコストの上昇が抑えられる。
流動媒体の供給速度の計測は、流動媒体供給スクリュー4のホッパー部4bに取り付けたロードセル等の質量計測機(図示せず)を用いることにより行うことができる。
また、流動媒体の供給速度の制御は、流動媒体供給スクリュー4のスクリュー回転数を回転数制御装置4cにより制御する方法、ホッパー部4bにロータリーバルブ等の定量供給手段を取り付け、その回転数を制御する方法等により行うことができる。
本工程では、分解槽1への流動媒体の供給速度を一定とする必要がある。
流動媒体の供給速度の「一定」とは、流動媒体供給スクリュー4のスクリューの回転数の設定値等の、流動媒体供給手段における供給量制御のための設定値を変更せず、かつ、実際の供給速度とその設定値との差が、該設定値(100%)に対して0.1%未満であることを意味する。
【0051】
なお、本実施形態では、加熱した流動媒体の分解槽1への供給方法としてスクリューを用いる例を示したが、本発明はこれに限定されず、たとえば流動媒体の自重落下による方法を利用してもよい。流動媒体の自重落下による方法は簡便な方法であり、設備費が安いという利点がある。ただし定量供給の観点ではスクリューによる方法が有利である。
【0052】
以上、説明したように、上記工程(a’)〜(c’)を並行して行うとともに、工程(a’)にて分解槽1に供給する流動化ガスの供給速度、工程(b’)にて分解槽1に供給する樹脂の供給速度、工程(c’)にて分解槽1に供給する流動媒体の供給速度およびその温度をそれぞれ一定とし、工程(c’)にて分解槽1から排出する流動媒体の排出速度のみの制御によって熱分解時の流動層高さ(流動媒体層1cの高さ)を一定の高さに制御することにより、流動層による不活性ガス雰囲気下でのアクリル系樹脂の熱分解を長時間連続して安定かつ簡便に実施できる。
これは、熱分解時の流動層高さだけでなく、流動層内での局所的な温度の振れの発生が抑制され、分解槽内での熱分解反応条件が一定となること、樹脂供給量が一定であること等により、熱分解反応の安定性が高く、アクリル系樹脂が良好にその原料のモノマーに分解するためと考えられる。
また、これにより、分解槽から排出されるガス中の該モノマーの濃度が向上し、またその濃度も安定していることで、冷却装置で回収される液体(凝縮液)の量が安定し、該液体中のモノマー純度も向上する。
そのため、工程(b’)で、さらに、回収した液体を精製装置13に送り、該液体中に含まれる、樹脂の原料のモノマーを回収するために蒸留等の精製処理を行った際の負荷が低減され、その精製条件(蒸留塔内の温度、圧力等)の振れも抑制される。
以上、本発明を、第一実施形態を示して説明したが本発明は該実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
以下の各例で使用した流動媒体、樹脂、連続運転時の制御可能項目およびその制御方法、ならびに評価方法(運転安定性)は下記のとおりである。
(流動媒体)
流動媒体としては、砂(天然川砂、株式会社昌栄マテリアル製、商品名:エバラロズナ、平均粒子径(直径)0.3mm、かさ密度1600kg/m)を使用した。
【0054】
(樹脂)
樹脂1:メタクリル酸メチル(以下、「MMA」と略記する。)100質量%からなる樹脂(ポリメタクリル酸メチル)。該樹脂1の重量平均分子量は40万であり、ガラス転移温度は100℃であった。目開き5.6mmの篩いを通過し、目開き4.75mmの篩いを通過しない大きさのものを使用した。
【0055】
(流動層高さ)
予め、所定の量の流動媒体を分解槽1に投入して固体粒子層1cを形成し、その高さ(流動層高さ)を測定した。熱分解条件と同じ温度で、分解槽1内の空間部(固体粒子層1cの最上面よりも上の位置)の圧力と流動化ガス室1e内の圧力との差圧を測定した。流動媒体の量を変えて同様の操作を繰り返し、差圧に対する流動層高さの検量線を得た。
熱分解時の差圧から、該検量線により、熱分解時の流動層高さを求めた。
【0056】
測定箇所は、板状の分散装置1bの流動層側の表面から上方に250mm、500mm、750mm、1000mm離れた高さで、流動媒体層1cの中央と、分解槽1内壁面から水平方向に3cm、30cm離れた位置の計12箇所とした。
【0057】
(連続運転時の制御可能項目およびその制御方法)
・分解槽1への樹脂1の供給速度(kg/hr):樹脂供給スクリュー3のスクリュー回転数により制御した。
・分解槽1への流動化ガスの供給速度(kg/hr):ブロワー13の回転数により制御した。
・分解槽1への流動媒体の供給速度(kg/hr):流動媒体供給スクリュー4のスクリュー回転数により制御した。
・分解槽1への流動媒体の供給温度(℃):加熱装置7の設定温度により制御した。
・分解槽1からの流動媒体の排出速度(kg/hr):流動媒体排出スクリュー5のスクリュー回転数により制御した。
【0058】
(運転安定性)
100時間運転時の流動層高さ、流動層温度、冷却装置10で回収された凝縮液量、精製装置13における精製時の条件振れを、それぞれ下記判定基準で判定した。
[流動層高さ]熱分解時の差圧を5分置きに計測し、すべての値を合計して流動層高さの平均値を求めた。平均値に対して±1%以下の状態を○、それ以外の場合を×と判断した。
[流動層温度]上記手順での流動媒体層1c内の局部温度の測定の結果、全ての測定箇所の温度が平均値に対して±1%以内であった場合を○、それ以外の場合を×と判断した。該平均値は、全測定箇所の温度の平均値である。
[凝縮液量]凝縮装置出側に液の流量計を設置し、その値を5分置きに計測し、すべての値を合計して凝縮液量の平均値を求めた。平均値に対して±1%以下の状態を○、それ以外の場合を×と判断した。
[精製時の条件振れ]蒸留塔内での圧力は、塔底に圧力計を設置し計測した。蒸留塔内での温度は、塔頂並びに塔底に温度計を設置して計測した。圧力の塔頂は蒸留塔では減圧運転するので真空ポンプにより塔頂圧力は一定になるように制御した。平均値は圧力、温度とも5分置きに計測し、すべての値を合計して圧力や温度の平均値を求めた。蒸留塔内の圧力および温度がそれぞれ平均値に対して±1%以下の状態を○、それ以外の場合を×と判断した。
【0059】
[実施例1]
図1に示す構成の熱分解装置100を用いて実施した。
分解槽1の直径は350mmで、高さは1400mmであった。
流動媒体層1cの流動のために、流動化ガスと、撹拌翼を備えた撹拌装置とを使用した。流動化ガスとしては窒素ガスを使用した。撹拌翼は二枚の傾斜パドル翼を5段にしたものを使用し、パドル二枚の直径は310mm、幅20mm、傾斜角度45度、パドル間のピッチ(上下の段のパドル翼の中心間距離)は140mmとした。上下の段のパドル翼は直交するようにした。撹拌速度は毎分25回転(25rpm)とした。
分解槽1の下部には、分散装置1bとして、流動化ガスを分散させるために焼結金属フィルター(富士フィルター工業株式会社)からなる分散器(厚さ1.6mm、ステンレス製、以下、単に「分散板」ということがある。)を配置した。分散装置1bの下部に、砂の排出用の配管(流動媒体排出流路1d)を設置した。
【0060】
まず、分解槽1内に、流動媒体を70kg入れ、流動媒体層1cを形成した。静置状態での砂層の高さは520mmであった。その後、分解槽1内を窒素置換した。
流動媒体排出スクリュー5により、分解槽1から流動媒体を連続的に排出し、加熱装置7に送った。流動媒体排出スクリュー5として一軸スクリューを使用し、その排出速度は、分解槽1と流動媒体排出スクリュー5との間に設置したホッパー5bのロードセルにより計測した。
加熱装置7としては、熱風で砂を流動化させる流動層炉を使用した。加熱装置7内には流動媒体として上記と同じ砂を600kg入れておいた。加熱装置7では、熱風の温度を制御することにより砂の温度が所定の温度になるようにした。
該加熱装置7の設定温度を400℃として、加熱された流動媒体を、流動媒体供給スクリュー4により、供給速度120kg/hrで連続的に分解槽1へ供給した。流動媒体供給スクリュー4としては一軸スクリューを使用した。その供給位置は、分散板の円錐の頂点から850mm上とした。その供給速度は、加熱装置7と分解槽1の間に設置したホッパー6のロードセルにより重量を計測し、算出した。
上記分解槽1内に、流動化ガス供給流路2から窒素ガス(20℃)を供給速度20kg/hrで連続的に供給した。流動化ガスの供給速度は、図1におけるブロワー12と分解槽1の分散室1eとの間に設置した渦式流量計により計測した。
また、樹脂供給スクリュー3から分解槽1に樹脂1を、20℃にて、供給速度10kg/hrで連続的に供給した。その供給位置は、分散装置1bから0.7m上とした。樹脂1の供給速度は、樹脂供給スクリュー3上に設置したホッパー3bのロードセルにより重量を計測し、算出した。
【0061】
樹脂1の供給開始後、分解槽1から出てくる樹脂1の分解生成物と窒素ガスを含むガスの混合ガスを冷却装置10へ送った。冷却装置10に送られてきたガス状の分解生成物を冷却して液体として回収した。冷却装置10は多管式コンデンサーであり、そのジャケットに−10℃の冷媒を流した。該多管式コンデンサーから出てくるガスの温度は3℃であり、それをミスト回収装置11に送り、該ガス中に含まれる液体ミストを回収した。ミスト回収装置11としてはサイクロン式のものを使用した。冷却装置10及びミスト回収装置11の下にそれぞれ液体を回収するための容器を設置し、各装置で回収された液体を収容した。
冷却装置10及びミスト回収装置11から回収した液体を、精製装置12に送り、精製処理を行った。精製装置12としては、蒸留塔を使用した。
【0062】
実施例1で一定とした項目および制御した項目は以下のとおりである。
・分解槽1への樹脂1の供給速度:10kg/hr
・分解槽1への流動化ガスの供給速度:20kg/hr
・分解槽1への流動媒体の供給速度:120kg/hr
・分解槽1への流動媒体の供給温度:400℃
・分解槽1からの流動媒体の排出速度:制御(パラメーターはオートチューニングにより決定)
なお、実施例1および以下の比較例1〜4において、「制御」は、流動層高さの測定値が一定となるように、PID制御により行った。
【0063】
上記条件にて100時間の連続運転を行ったところ、流動層高さ、流動層温度、冷却装置10で回収された凝縮液量はいずれも非常に安定であり、精製時の条件振れも発生しなかった。
【0064】
[比較例1]
以下に示すとおり、分解槽1からの流動媒体の排出速度を一定(120kg/hr)としたこと以外は実施例1と同様な操作を実施した。
・分解槽1への樹脂1の供給速度:10kg/hr
・分解槽1への流動化ガスの供給速度:20kg/hr
・分解槽1への流動媒体の供給速度:120kg/hr
・分解槽1への流動媒体の供給温度:400℃
・分解槽1からの流動媒体の排出速度:120kg/hr
【0065】
上記条件にて連続運転を行ったところ、徐々に分解槽1内で流動層高さが減少していった。そのため、100時間の連続運転を行う間、度々、分解槽1からの流動媒体の排出速度を減少させる方向で、流動媒体排出スクリュー5のスクリュー回転数を調整する必要があった。
【0066】
[比較例2]
以下に示すとおり、分解槽1への流動媒体供給速度を制御したこと以外は実施例1と同様な操作を実施した。
・分解槽1への樹脂1の供給速度:10kg/hr
・分解槽1への流動化ガスの供給速度:20kg/hr
・分解槽1への流動媒体の供給速度:制御(パラメーターはオートチューニングにより決定)
・分解槽1への流動媒体の供給温度:400℃
・分解槽1からの流動媒体の排出速度:制御(パラメーターはオートチューニングにより決定)
【0067】
上記条件にて100時間の連続運転を行ったところ、流動媒体の供給速度が低下した際に流動層の温度が下がり、樹脂1の分解反応が遅くなり、分解層1内での樹脂1の滞在量が増え、流動層温度が上がるのに時間がかかり、流動層温度が安定しなかった。
【0068】
[比較例3]
以下に示すとおり、分解槽1からの流動媒体の排出速度を一定(120kg/hr)とし、分解槽1へのアクリル樹脂供給速度を制御したこと以外は実施例1と同様な操作を実施した。
・分解槽1への樹脂1の供給速度:制御(パラメーターはオートチューニングにより決定)
・分解槽1への流動化ガスの供給速度:20kg/hr
・分解槽1への流動媒体の供給速度:120kg/hr
・分解槽1への流動媒体の供給温度:400℃
・分解槽1からの流動媒体の排出速度:120kg/hr
【0069】
上記条件にて100時間の連続運転を行ったところ、樹脂1の供給速度が変わるため、流動層温度が安定しなかった。また、冷却装置10で得られる凝縮液も樹脂1の供給速度に依存して変化し、これに伴い、精製装置13での精製時の条件振れも発生した。
【0070】
[比較例4]
以下に示すとおり、分解槽1からの流動媒体の排出速度を一定(120kg/hr)とし、分解槽1への流動化ガス供給速度を制御したこと以外は実施例1と同様な操作を実施した。
・分解槽1への樹脂1の供給速度:10kg/hr
・分解槽1への流動化ガスの供給速度:制御(パラメーターはオートチューニングにより決定)
・分解槽1への流動媒体の供給速度:120kg/hr
・分解槽1への流動媒体の供給温度:400℃
・分解槽1からの流動媒体の排出速度:120kg/hr
【0071】
上記条件にて連続運転を行ったところ、流動化ガス供給速度が低下した際に、樹脂の流動層中での分散状態が悪化し、樹脂同士が溶融することで反応時間が大幅に増える状態が起こり、流動層温度が局部的に低下し、10時間経過時点で運転を停止した。
【0072】
上記実施例1および比較例1〜4で分解槽に供給したアクリル系樹脂、流動化ガスおよび流動媒体の供給速度、流動媒体の供給温度、分解槽から排出した流動媒体の供給速度の制御条件、ならびに評価結果を表1に示す。これらの結果に示すとおり、分解槽に供給する樹脂1(アクリル系樹脂)、流動化ガスおよび流動媒体の供給速度、流動媒体の供給温度をそれぞれ一定とし、流動媒体の供給速度のみ制御することで、熱分解装置100の安定な長時間運転が可能であった。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
以上、説明したように、本発明によれば、流動層による不活性ガス雰囲気下でのアクリル系樹脂の熱分解を長時間連続して安定かつ簡便に実施できる。
【符号の説明】
【0075】
1…分解槽、2…流動化ガス供給流路、3…樹脂供給スクリュー、4…流動媒体供給スクリュー、5…流動媒体排出スクリュー、6…ホッパー、7…加熱装置、8…流動媒体供給流路、9…ガス排出流路、10…冷却装置、11…ミスト回収装置、12…精製装置、13…ブロワー、100…熱分解装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)〜(c)を並行して行うアクリル系樹脂の熱分解方法であって、前記分解槽に供給する流動化ガスの供給速度、アクリル系樹脂の供給速度、流動媒体の供給速度およびその温度をそれぞれ一定とし、前記工程(c)で分解槽から排出する流動媒体の排出速度のみの制御によって、前記熱分解時の流動層高さを一定の高さに制御する熱分解方法。
工程(a):流動媒体が充填された分解槽に、該分解槽の下部から不活性ガスを含む流動化ガスを連続的に供給して該流動媒体を流動させ、流動層を形成する工程。
工程(b):前記流動層に、アクリル系樹脂を連続的に供給して熱分解させ、該熱分解により生じるガス状の分解生成物を冷却し、液体として回収する工程。
工程(c):前記分解槽内の流動媒体を、前記アクリル系樹脂の供給位置の高さよりも下側の位置から連続的に排出し、加熱装置に導入し、加熱した後、前記分解槽に連続的に供給する工程。
【請求項2】
前記工程(b)において、さらに、回収した液体を精製し、該液体中に含まれる前記アクリル系樹脂の原料のモノマーを回収する、請求項1に記載の熱分解方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−236342(P2011−236342A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109456(P2010−109456)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】