説明

アクリル系樹脂組成物及びそれを成形してなるアクリルフィルム

【課題】反射素子等を熱転写する際にも安定して加工でき、かつ透明性、フィルム加工性、耐候性に優れたフィルムを与えうるアクリル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】アクリル系重合体(A)を含有する(メタ)アクリル系樹脂および下記滑剤(C)を含有するアクリル系樹脂組成物であり、アクリル系重合体(A)は、アクリル系単量体と、アクリル系単量体と共重合し得る1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体とを含む単量体成分からなる、少なくとも1層の構造を有する架橋アクリル系重合体の存在下に、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび共重合可能な他のビニル単量体からなる群から選択される少なくとも一種の単量体成分を共重合して得られ、重量平均粒子径が300〜3000Åであり、滑剤(C)は水酸基価が30〜185mg/gである、水酸基含有化合物およびカルボシキル基含有化合物のエステル化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂組成物、それを成形してなるアクリルフィルムおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な再帰反射シートは、表面保護層、必要に応じて中間層、および反射素子層から構成される複数層からなる積層構造を有する。
【0003】
反射素子層の一面にプリズム形成される形態においては、反射素子層には熱転写性(プリズム成形性)が要求される。そこで、熱転写性の観点から、ポリカーボネート樹脂が従来から使用されている。ただし、ポリカーボネート樹脂は耐候性が劣る。そのため、ポリカーボネート樹脂の反射素子層上に、アクリル樹脂を表面保護層として積層化して製品化されている。
【0004】
一方、再帰反射シートに要求される透明性の観点から、反射素子層にアクリル樹脂を使用しれている。一般的には、アクリル樹脂からなる反射素子層に、アクリル樹脂からなる表面保護層が積層された形態で製品化されている。上記表面保護層に使用されるとおり、アクリル樹脂は耐候性にも優れる利点がある。しかし、反射素子層にアクリル樹脂を使用した、従来の再帰反射シートでは、起伏の有る基材への装着あるいは貼付けを行うと曲面部に白化、割れが生じ易かったり、再帰反射シートの薄層化が容易でなかったりといった問題がある。透明性を有しながら、耐白化性といった加工性に優れるシートやフィルムとして、例えば、特許文献1や特許文献2などのような、架橋弾性重合体を含むアクリル樹脂組成物を成形してなるものが知られている。しかし、これら架橋弾性重合体を含むアクリル樹脂組成物からなるフィルムは、専らインモールド成形を目的にしているため、熱転写性に関する検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2001−138614号
【特許文献2】特願平9−238910号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、反射素子等を熱転写する際にも安定して加工できるアクリル系樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の粒径を有するアクリル系重合体を含有する(メタ)アクリル系樹脂と特定の滑剤とを使用すると、透明性、フィルム加工性、および耐候性に優れる上、優れた熱転写性をも奏するフィルムを成形できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に記載の(メタ)アクリル系樹脂と滑剤(C)とを含有するアクリル系樹脂組成物である。
アクリル系重合体(A):
アクリル系単量体と、アクリル系単量体と共重合し得る1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体とを含む単量体成分(a―1)からなる、少なくとも1層の構造を有する架橋アクリル系重合体(A−1)の存在下に、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび共重合可能な他のビニル単量体からなる群から選択される少なくとも一種の単量体成分(a−2)を共重合して得られる、
重量平均粒子径が300〜3000Åである、アクリル系重合体。
滑剤(C):
水酸基価が30〜185mg/gである、水酸基含有化合物およびカルボシキル基含有化合物のエステル化合物。
【0009】
上記水酸基含有化合物は、グリセリンおよび/またはペンタエリスリトールが好ましい。上記カルボシキル基含有化合物は、脂肪酸および/または飽和ジカルボン酸が好ましい。脂肪酸はアルキル基の炭素数が13〜25であるものが好ましい。
【0010】
上記(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび共重合可能な他のビニル単量体からなる群から選択される少なくとも一種からなる熱可塑性重合体(B)を含んでもよい。
【0011】
上記滑剤(C)は(メタ)アクリル系樹脂100重量部に対して0.1〜7重量部含有されることが好ましい。
【0012】
上記アクリル系樹脂組成物には、着色剤を含有することができる。
【0013】
本発明のアクリルフィルムは、上記アクリル系樹脂組成物を成形されてなる。
【0014】
上記アクリルフィルムは、厚さが10〜500μmであることが好ましい。
【0015】
上記アクリルフィルムは、片面にプリズム型再帰反射素子が形成されてもよい。
【0016】
本発明の再帰反射シートは、本発明のアクリルフィルムが使用されてなる。
【0017】
上記再帰反射シートは、再帰反射シート表層に、上記片面にプリズム型再帰反射素子が形成されたアクリルフィルムが使用されてよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアクリル系樹脂組成物によれば、熱転写性(プリズム成形性)に優れ、かつ透明性、フィルム加工性および耐候性に優れたフィルムを得ることができる。本発明のフィルムを再帰反射シートに使用すれば、再帰反射シートの薄層化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】再帰性反射シートの構成図である。
【図2】単層化した再帰反射シートの構成図である。
【図3】プリズム型再帰反射素子を熱転写したアクリルフィルムの断面図である。
【図4】JIS Z8714による再帰性反射係数の測定方法の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のアクリル系樹脂組成物には、滑剤(C)として、水酸基価が30〜185mg/gである、水酸基含有化合物とカルボシキル基含有化合物をエステル化した化合物を使用する。
【0021】
水酸基含有化合物としては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールジヒドロキシプロピルエーテル、トリメチロールエタン、トリメリロールプロパン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。中でも、安価に入手可能な工業品の観点から、グリセリン、ペンタエリスリトールが好ましい。これら化合物は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0022】
カルボシキル基含有化合物としては、特に限定されないが、耐光性と高反応性の観点から、一級カルボキシル基を有する化合物が好ましく、脂肪酸および/または飽和ジカルボン酸が好ましい。
【0023】
脂肪酸は、酸化劣化の観点から飽和モノカルボン酸が好ましい。エステル化未反応物によるガス発生の観点から、アルキル基の炭素数が13〜25のものが好ましく、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸などが挙げられる。より好ましくは、アルキル基の炭素数が15〜25、更に好ましくは17〜25である。
【0024】
飽和ジカルボン酸は、鎖式であってもよいし、分子内に環式構造をもっていてもよい。分子内脱水縮合反応抑制の観点から、炭素数が3〜8のものが好ましい。例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。
【0025】
カルボシキル基含有化合物としては、上記化合物を単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0026】
滑剤(C)のエステル化合物の水酸基価は、30〜185mg/gであるが、好ましくは60〜160mg/gである。水酸基価が30〜185mg/gのエステル化合物であれば、フィルム製膜性、透明性とプリズム成形性が良好になる。ここで、水酸基価とはJIS K 0070−1992に準拠して求められる値であり、具体的には、後述に記載のとおりである。
【0027】
滑剤(C)のエステル化合物は、エステル化未反応物の低減の観点から、酸価が25mg/g以下が好ましく、より好ましくは20mg/g以下、さらに好ましくは15mg/g以下である。ここで、酸価とはJIS K 2501−2003に準拠して求められる値であり、具体的には、後述に記載のとおりである。
【0028】
上記滑剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂100重量部に対して0.1〜7重量部含有されることが好ましく、0.5〜5重量部がより好ましい。0.1重量部未満であれば、プリズム成形性が良好でない場合があり、一方、7重量部を超えると、フィルム製膜性、透明性が良好でない場合がある。
【0029】
本発明のアクリル系樹脂組成物に使用される(メタ)アクリル系樹脂は、次のアクリル系重合体(A)を含有する。
【0030】
本発明のアクリル系重合体(A)は、架橋アクリル系重合体(A−1)の存在下に、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび共重合可能な他のビニル単量体からなる群から選択される少なくとも一種の単量体成分(a−2)を共重合して得られるものである。
【0031】
架橋アクリル系重合体(A−1)は、アクリル系単量体と、アクリル系単量体と共重合し得る1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体とを含む単量体成分(a―1)からなる、少なくとも1層の構造を有する架橋アクリル系重合体である。
【0032】
本発明においてアクリル系単量体とは、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルおよびエチレン系不飽和単量体を含む意味である。
【0033】
アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−n−オクチルなどが挙げられる。中でも、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数が1〜8のものがより好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0034】
メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられる。中でも、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数は1〜4であるものがより好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0035】
エチレン系不飽和単量体としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メアクリル酸ナトリウム、メタアクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等があげられる。中でも、高屈折率単量体による屈折率調整の観点から芳香族ビニル誘導体が好ましい。これら共重合可能なエチレン系不飽和単量体は単独でもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0036】
フィルム加工性の観点から、前記単量体成分(a―1)には、アクリル酸エステルがアクリル系単量体100重量%中において、40重量%以上含有されることが好ましく、より好ましくは50重量%以上である。
【0037】
前記単量体成分(a―1)に用いられるメタクリル酸エステルの使用割合は、アクリル系単量体100重量%中において、好ましく0〜40重量%、より好ましくは0〜20重量%である。
【0038】
前記単量体成分(a―1)に用いられるエチレン系不飽和単量体は、アクリル系単量体100重量%中において、好ましく0〜20重量%、より好ましくは0〜10重量%である。
【0039】
アクリル系単量体と共重合しうる1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体(以下、単に「多官能性単量体」と称することがある。)は、架橋アクリル系重合体のゲル含有率、および、架橋アクリル系重合体へのグラフト率に影響を及ぼし、架橋剤、グラフト交叉剤等として使用する成分である。例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートまたはこれらのメタクリレートをアクリレートにしたもの、ジビニルベンゼン、ジビニルアジペートなどのビニル基含有多官能性単量体、ジアリルフタレート、ジアリルマレエート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどのアリル基含有多官能性単量体などが挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
多官能性単量体の使用量は、アクリル系単量体100重量部に対して0.2〜2重量部であることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.5量部である。使用量が0.2重量部より少ない場合には、透明性が低下する場合があり、2重量部を超える場合はプリズム成形性が低下する場合があるため好ましくない。
【0041】
本発明における架橋アクリル系重合体(A−1)の製造方法は特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化−懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法が適用可能であるが、乳化重合法が特に好ましい。
【0042】
架橋アクリル系重合体(A−1)の乳化重合法では、単量体成分(a―1)、あるいは、多官能性単量体の種類、比率を変化させ多層化することができ、各層に使用する単量体成分(a―1)の屈折率差が小さいほど好ましく、その差が大きいと透明性が低下し易くなる。
【0043】
架橋アクリル系重合体(A−1)は、各層におけるガラス転移温度(Tg)は0℃未満が好ましく、より好ましくは−5℃未満である。Tgが0℃以上になるとフィルム加工性が低下する場合がある。ここでのTgは、「ポリマー・ハンドブック〔Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience,1989〕」に記載されている値をフオックス(Fox)の式を用いて算出した。但し、多官能性単量体、開始剤、界面活性剤は含めないで算出するものとする。
【0044】
単量体成分(a−2)は、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび共重合可能な他のビニル単量体からなる群から選択される少なくとも一種からなるものであればよい。透明性の観点から、メタクリル酸エステルを含有することが好ましく、必要に応じてアクリル酸エステルおよび/または共重合可能な他のビニル単量体を併用させてもよい。
【0045】
単量体成分(a−2)に使用できるメタクリル酸エステルとしては、上記架橋アクリル系重合体(A−1)に使用されるメタクリル酸エステルと同様のものが挙げられる。中でも、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数が1〜4のものがより好ましい。これらメタクリル酸エステルは、単独または2種以上組み合わせて用いられてよい。
【0046】
単量体成分(a−2)に使用できるアクリル酸エステルとしては、上記架橋アクリル系重合体(A−1)に使用されるアクリル酸エステルと同様のものが挙げられる。中でも、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数1〜8のものがより好ましい。これらアクリル酸エステルは、単独または2種以上組み合わせて用いられてよい。
【0047】
単量体成分(a−2)に使用できる共重合可能な他のビニル単量体としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、弗化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウム等のアクリル酸およびその塩、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸グリシジル、アクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド等のアクリル酸アルキルエステル誘導体、メタクリル酸、メアクリル酸ナトリウム、メタアクリル酸カルシウム等のメタクリル酸およびその塩、メタクリルアミド、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル等のメタクリル酸アルキルエステル誘導体等があげられる。中でも、経済性と屈折率調整の観点から芳香族ビニル誘導体が好ましく、スチレンが特に好ましい。これら共重合可能な他のビニル単量体は単独でもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0048】
単量体成分(a−2)は、メタクリル酸エステルを単量体成分(a−2)100重量%において80重量%以上含むものであることが好ましく、耐溶剤性の観点から、85重量%以上が好ましく、90重量%以上が更に好ましい。上限値は100重量%になってもよい。
【0049】
単量体成分(a−2)は、アクリル酸エステルを単量体成分(a−2)100重量%において20〜0重量%以下含むものであることが好ましく、耐溶剤性の観点から、15〜0重量%以下が好ましく、10〜0重量%以下が更に好ましい。
【0050】
単量体成分(a−2)は、共重合可能な他のビニル単量体の使用量は、単量体成分(a−2)100重量%において0〜20重量%の範囲内で使用することが可能である。
【0051】
アクリル系重合体(A)の製造方法は懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられるが、乳化重合法で製造するのが好ましい。
【0052】
乳化重合法においては、通常の重合開始剤、とくに遊離基を発生する重合開始剤を使用するのが好ましい。このような重合開始剤の具体例としては、たとえば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物などが挙げられる。さらに、アゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤も使用される。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0053】
これら重合開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、硫酸第一鉄などの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0054】
乳化重合法に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。例えば、アルキル硫酸ソーダ、アルキルベンゼンスルフォン酸ソーダ、ラウリン酸ソーダなどの陰イオン性界面活性剤やアルキルフェノール類とエチレンオキサイドとの反応生成物などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。さらに必要に応じて、アルキルアミン塩酸塩などの陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
【0055】
乳化重合法により得られる重合体ラテックスから、通常の凝固(たとえば、塩を用いた凝固)と洗浄により、または噴霧、凍結乾燥などによる処理により分離、回収される。
【0056】
単量体成分(a−2)の共重合は、連鎖移動剤を加えて共重合させてもよい。連鎖移動剤は通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いるのが好ましく、具体例としては、たとえば、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素などが挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0057】
架橋アクリル系重合体(A−1)に対する、単量体成分(a−2)のグラフト率は50〜140重量%であることが好ましく、より好ましくは60〜120重量%である。グラフト率が50〜140重量%ではプリズム成形性とフィルム加工性がともに良好である。ここで、グラフト率とは、乳化重合等により得られたアクリル系重合体(A)の乾燥樹脂粉末1gをメチルエチルケトン50mlに分散溶解させ、遠心分離器(30,000rpm×2Hrs)で不溶分と可溶分とを分離し、不溶分を真空乾燥により充分に乾燥させたものをゴム・グラフト分として重量を測定し、次式により算出した値をいう。
グラフト率(%)
=((ゴム・グラフト分の重量−架橋アクリル系重合体(A−1)の重量)/架橋アクリル系重合体(A−1)の重量)×100
アクリル系重合体(A)の重量平均粒子径は300〜3000Åであるが、好ましくは500〜2000Å、より好ましくは600〜1800Å、最も好ましくは700〜1500Åである。重量平均粒子径が300〜3000Åでは、透明性とフィルム加工性がともに良好である。ここで、アクリル系重合体(A)の重量平均粒子径は、アクリル系重合体(A)ラテックスを固形分濃度0.02%に希釈したものを試料として、温度23℃±2℃、湿度50%±5%にて、分光光度計(HITACHI製、Spectrophotometer U−2000)を用いて546nmの波長での光線透過率より測定した値である。
【0058】
アクリル系重合体(A)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度は0.35dl/g以下が好ましく、より好ましくは0.32dl/g以下である。0.35dl/gを超える場合はプリズム成形性が低下する場合がある。ここでの還元粘度はメチルエチルケトン可溶分を0.3%N,N'−ジメチルホルムアミド溶液を30℃で測定した値である。
【0059】
本発明のアクリル系樹脂組成物に使用される(メタ)アクリル系樹脂には、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび共重合可能な他のビニル単量体から選択される少なくとも一種の単量体成分からなる熱可塑性樹脂(B)を含有させてもよい。
【0060】
熱可塑性重合体(B)としては、メタクリル酸エステル80重量%以上と、アクリル酸エステルおよび/または共重合可能な他のビニル単量体を0〜20重量%とを含む単量体成分からなることが好ましい。
【0061】
メタクリル酸エステルとしては、上記架橋アクリル系重合体(A−1)に使用されるメタクリル酸エステルと同様のものが使用でき、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数1〜4であるものがより好ましい。メタクリル酸エステルは1種のみまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
メタクリル酸エステルの含有量は、単量体成分100重量%において80重量%以上であることが好ましく、より好ましくは85重量%である。80重量%未満になると、耐溶剤性が低下する場合がある。
【0063】
共重合可能な他のビニル単量体としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル、o−クロルエチレン、m−クロルエチレンなどの芳香族ビニル誘導体、塩化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸ナトリウムなどのアクリル酸やその塩、アクリルアミドなどのアクリル酸エステル誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウムなどのメタクリル酸あるいはその塩、メタクリルアミドなどのメタクリル酸エステル誘導体などが挙げられる。中でも、経済性と屈折率調整の観点から、スチレンが好ましい。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0064】
アクリル酸エステルとしては、上記架橋アクリル系重合体(A−1)に使用されるアクリル酸エステルと同様のものを使用でき、中でも、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル基の炭素数1〜8のものがより好ましい。これらアクリル酸エステルは、単独または2種以上組み合わせて用いられる。
【0065】
アクリル酸エステルおよび/または共重合可能な他のビニル単量体の総含有量は、単量体成分100重量%において0〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0〜10重量%である。
【0066】
熱可塑性重合体(B)のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度は0.35dl/g以下が好ましく、より好ましくは0.34dl/g以下であり、更に好ましくは0.32dl/g以下である。0.35dl/gを超える場合はプリズム成形性が低下する場合がある。ここでの還元粘度の測定は、上記アクリル系重合体(A)の還元粘度測定と同様である。
【0067】
熱可塑性重合体(B)は、これらの単量体成分を重合して成るものである。その重合方法は特に限定されず、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等により行なうことができる。重合体の還元粘度を上記範囲内にするには、連鎖移動剤を使用するとよい。連鎖移動剤としては、従来知られる各種のものが使用できるが、特にメルカプタン類が好ましい。連鎖移動剤の使用量は、単量体の種類および組成により適宜決める必要がある。
【0068】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、(メタ)アクリル系樹脂100重量%に対してゲル分率が25〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは30〜50重量%であり、さらに好ましくは30〜45重量%である。ゲル分率が25〜50重量%であれば、割れ性、耐折曲げ白化性、プリズム成形性が良好になる利点がある。
【0069】
アクリル系樹脂組成物中のゲル含有率(%)は、アクリル系重合体(A)のゲル含有率(%)にアクリル系重合体(A)の配合比率を乗じて算出される。
【0070】
アクリル系重合体(A)のゲル含有率は、アクリル系重合体(A)の乾燥樹脂粉末を100メッシュ金網上に所定量採取し、メチルエチルケトンに48時間浸漬し、減圧乾燥してメチルエチルケトンを除去した後、恒量になった重量を読み取り、次式(1)により算出される。
アクリル系重合体(A)のゲル含有率(%)
=(再乾燥後の重量/採取サンプルの重量)×100 (1)
アクリル系樹脂組成物中のゲル含有率(%)は、アクリル系重合体(A)のゲル含有率(%)にアクリル系重合体(A)の配合比率を乗じて、次式(2)より算出される。ここでの、アクリル系重合体(A)の配合比率とは、アクリル系樹脂組成物に対するアクリル系重合体(A)の配合比率を指す。アクリル系樹脂組成物中のゲル含有率(%)
=(アクリル系重合体(A)のゲル含有率(%))×(アクリル系重合体(A)の配合比率) (2)
本発明のアクリル系樹脂組成物には、目的に応じて、熱や光に対する安定性を増すための抗酸化剤、紫外線吸収剤などの添加剤を1種又は2種以上組み合わせて添加してもよい。着色の目的で必要に応じ着色剤を添加してもよく、例えば、チオキサンテン系、クマリン系、ペリレン系、メチン系、ベンゾピラン系、チオインジゴ系、アンスラキノン系等の有機染料やフタロシアニン等の有機顔料を添加することができる。さらに、アクリル系樹脂以外のポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂等を組み合わせても良い。
【0071】
本発明のアクリル系樹脂組成物は特にフィルムとして有用であり、例えば、通常の溶融押出法であるインフレーション法やT型ダイ押出法あるいはカレンダー法などにより、透明性、耐溶剤性、プリズム成形性、割れ性、フィルム加工性等に優れたアクリルフィルムが得られる。
【0072】
フィルムの厚みは10〜500μm程度が適当であり、30〜300μmの厚みが好ましく、75〜200μmの厚みが更に好ましい。
【0073】
本発明のアクリルフィルムは、再帰反射シート、反射防止フィルム、偏光フィルム、拡散フィルム、導光板、表面保護フィルムなどの用途に用いることが可能である。
【0074】
本発明のアクリルフィルムは、片面に反射素子を熱転写することに適し、例えば図3に示す三角錐プリズムのようなプリズム型再帰反射素子が形成されることができる。反射素子の形状としては半球、四角錐、三角錐台などが挙げられ、素子の高さは100μm以下が好ましい。
【0075】
本発明のアクリルフィルムは、図1に示されるような、表面保護層と反射素子層、あるいは中間層といった複数層で形成された積層構造を有する、一般的な再帰反射シートの反射素子層として使用してもよい。また、図2のように、表面保護層と反射阻止層を一体化した再帰反射シート表層として用いることができる。このような単層化したものは、一般的な再帰反射シートに比較して安価に製造できる上に、薄層化が可能となる。
【0076】
本発明の再帰性反射シートは、道路標識、工事標識等の標識類、自動車やオートバイ等の車輛のナンバープレートや追突防止板類、衣料、救命具等の安全資材類に好適に使用されうる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。尚、以下の記載において、「部」又は「%」は、特に断らない限り、それぞれ「重量部」、「重量%」を表す。
【0078】
実施例及び比較例中の測定、評価は次の条件および方法を用いて行った。
【0079】
(1)重合転化率
得られたアクリル系重合体(A)ラテックスを、熱風乾燥機内にて120℃で1時間乾燥して固形成分量を求め、100×固形成分量/仕込み単量体により重合転化率(%)を算出した。
【0080】
(2)アクリル系樹脂組成物のゲル含有率
アクリル系樹脂組成物中のゲル含有率は、アクリル系重合体(A)のゲル含有率(%)にアクリル系重合体(A)の配合比率を乗じて算出した。
【0081】
アクリル系重合体(A)のゲル含有率は、アクリル系重合体(A)の乾燥樹脂粉末を100メッシュ金網上に所定量採取し、メチルエチルケトンに48時間浸漬し、減圧乾燥してメチルエチルケトンを除去した後、恒量になった重量を読み取り、次式(1)により算出した。
アクリル系重合体(A)のゲル含有率(%)
=(再乾燥後の重量/採取サンプルの重量)×100 (1)
アクリル系樹脂組成物中のゲル含有率(%)は、アクリル系重合体(A)のゲル含有率(%)にアクリル系重合体(A)の配合比率を乗じて、次式(2)より算出される。
アクリル系樹脂組成物中のゲル含有率(%)
=(アクリル系重合体(A)のゲル含有率(%))×(アクリル系樹脂組成物中のアクリル系重合体(A)の比率)) (2)
(3)ガラス転移温度
「ポリマー・ハンドブック〔Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience,1989〕」に記載されている値(MMA;105℃、BA;−54℃、ST;100℃)をフオックス(Fox)の式を用いて算出した。但し、多官能性単量体、開始剤、界面活性剤は含めずに算出した。
【0082】
(4)グラフト率
アクリル系重合体(A)の乾燥樹脂粉末1gをメチルエチルケトン(MEK)50mlに分散溶解させ、遠心分離器(30,000rpm×2Hrs)で不溶分と可溶分とを分離し、不溶分を真空乾燥により充分に乾燥させたものをゴム・グラフト分として重量を測定し、次式により算出した。
グラフト率(%)
=((ゴム・グラフト分の重量−架橋アクリル系重合体(A−1)の重量)/架橋アクリル系重合体(A−1)の重量)×100
(5)アクリル系重合体(A)の重量平均粒子径
得られたアクリル系重合体(A)ラテックスを固形分濃度0.02%に希釈したものを試料として、温度23℃±2℃、湿度50%±5%にて、分光光度計(HITACHI製、Spectrophotometer U−2000)を用いて546nmの波長での光線透過率より、重量平均粒子径を求めた。
【0083】
(6)還元粘度
メチルエチルケトン(MEK)可溶分を0.3%N,N’−ジメチルホルムアミド溶液を30℃で測定した。単位はdl/gである。
【0084】
(7)水酸基価の測定
JIS K 0070−1992 に準拠して、以下の分析手順で測定を行い、下記式により算出した。
―前処理―
1) 酢酸エチル400mLに、過塩素酸4.0g(2.35mL)を加えた。
2) 無水酢酸8mLを加えて、室温で30分間放置した。
3) 5℃まで冷却し、冷却した無水酢酸42mLを加え、5℃で1時間放置した。
4) 室温にまでもどしたものを無水酢酸溶液とした。
5) ピリジン300mLに水100mLを加え、ピリジン+水(3+1)を調製した。
―測定―
1) 試料3gを100mLビーカに採取した。
2) 無水酢酸溶液10.0mLを加え、15分間かくはんした。
3) 水2mL、ピリジン+水(3+1)10.0mLを加え、5分間かくはんした。
4) ピリジン10.0mLを加えた。
5) 0.5mol/L 水酸化カリウム・エタノール溶液で滴定を行い、水酸基価を求めた。
6) 同様の操作で空試験を行った。
滴定液 : 0.5mo1/L 水酸化カリウム・エタノール溶液 (f=1.00)
試薬 : 純水、ピリジン、酢酸エチル、過塩素酸(78%)、無水酢酸
―計算式―
水酸基価(mg/g)=(BLl−EPl)×TF×Cl×K1/SIZE
EPl:滴定量(mL)
BLl:ブランク値(56.1542mL)
TF:滴定液のファクター(1.00)
Cl:濃度換算係数(28.05mg/mL)
(水酸化カリウムの式量56.11×1/2)
Kl:単位換算係数(1)
SIZE:試料採取量(g)
(8)酸価の測定
JIS K 2501−2003に準拠して、以下の分析手順で測定を行い、下記式により算出した。
―測定―
1) 試料を約0.05g量りとり、200mLトールビーカに投入した。
2) 滴定溶剤150mLを添加した。
3) ビーカ加熱装置にて液温を80℃に加熱し、試料を溶解させた。
4) 液温が80℃で一定になった後、0.1mol/L 水酸化カリウム・エタノール溶液を用いて滴定を行い、酸価を求めた。
滴定液 :0.1mol/L 水酸化カリウム・エタノール溶液 (f=1.00)
滴定溶剤:キシレン+ジメチルホルムアミド(1+1)
―計算式―
酸価(mg/g)=EP1×FA1×C1×K1/SIZE
EP1:滴定量(mL)
FA1:滴定液のファクター(1.00)
C1:濃度換算値(5.611mg/mL)
(0.1mo1/L KOH 1mLの水酸化カリウム相当量)
Kl:係数(1)
SIZE:試料採取量(g)
(9)透明性
日本電色工業株式会社製のヘイズメーター(HAZE METER)を用いて、常法により、150μm厚のフィルムの全光線透過率、曇価を測定した。23℃で測定し、単位は%である。
【0085】
(10)フィルム製膜性
Tダイ押出成形法にて、150μm厚のフィルムを押出しして下記の基準により評価した。
〇;フィルム切れ、フィルム表面にスジなどの外観的な欠陥がなく、厚みが均一で安定に押し出すことができる。
×;フィルム切れ、フィルム表面にスジなどの外観的な欠陥があり、押し出しが不安定である。
【0086】
(11)プリズム成形性
三角錐プリズムが最密充填状に配列された雌型金型(100mm×100mm)を用い、アクリルフィルム(透明、厚さ150μm)を重ね合わせ、三角錐プリズムを熱プレスし、フィルムを図3のように加工した。熱プレス条件は樹脂温度が230℃、20kg/cm2圧で2秒間プレスし、樹脂温度を90℃まで冷却後に金型からプリズムフィルムを剥離した。得られたプリズムフィルムを下記の評価に供した。
【0087】
この雌型金型作製について説明する。この金型の三角錐プリズム形状は、下記に示す各寸法から計算される下底面と各側面の成す角度に従って、該先端角度を有するダイアモンドバイト(刃)を製作し、以下の工程により、高さ100μmの凸形状である多数の三角錐プリズムが、最密充填状に配置された銅製雄型を作製した。この銅製雄型を用いて、電鋳法によりニッケル製の形状が反転された凹形状の雌型金型を作製した。先端角度が64.24°、64.54°、82.18°の3種類のダイアモンドバイトを用意し、表面を平坦に研削した100mm×100mmの銅板上に、先端角度が64.24°のダイアモンドバイトを用いて、繰り返しピッチが222μm、溝の深さが100μmとなるように、断面形状がV字の平行溝を、繰り返しパターンで切削した。その後、先端角度が64.54°のダイアモンドバイトを用いて、繰り返しピッチが221μm、深さ100μmであって、辺a1との交差角度が66.64°となるように、断面形状がV字の平行溝を、繰り返しパターンで切削した。さらに、先端角度が82.18°のダイアモンドバイトを用いて、繰り返しピッチが202μm、深さ100μmであって、辺a1との交差角度が56.81°、辺a3との交差角度が56.56°となるように、断面形状がV字の平行溝を、繰り返しパターンで切削した。
【0088】
得られたプリズムフィルムを用い、下記の条件に基づき、再帰反射性を評価した。
【0089】
JIS Z8714に準拠し、図4に示す配置図にて次の各項目を測定し、式1および式2に従い、再帰反射係数を算出した(単位:Cd/Lx・m2)。具体的には、スガ試験機株式会社製 再帰反射性能測定器 NS−1を用いた。
I = Er*L2 (1)
R’= I/(En*A) (2)
R’:再帰反射係数
I :受光位置から観測する試料の光度(単位:Cd)
Er:図4の配置(入射角α:−4°、観測角β:0.2°)における、受光器上での照度(単位:Lx)
En:試料中心位置における、入射光に垂直な平面上の照度(単位:Lx)
L:試料表面中心から受光器間の距離(単位:m)
A :試料面の面積(単位:m2
(12)カッター試験(割れ性)
23℃で得られたフィルムをカッターでMD方向に10cm長さのキズを入れ、切断部の割れ状態を下記の基準により評価した。カッターによる切断は、カッター刃先がフィルムに対して45°に傾け、2秒で10cm長さを切断した。
○:切断部に割れがない。
×:切断部に割れがある。
【0090】
(13)耐折曲げ白化性
23℃で得られたフィルムを1回180度折り曲げて、折り曲げ部の変化を目視で下記の基準により評価した。
○:割れ(白化)が認められない。
×:割れ(白化)が認められる。
【0091】
(合成例1)架橋アクリル系重合体(A)の合成:P−1
攪拌器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー供給管、還流冷却器を備えた8リットル重合器に水200重量部およびOSAを表1に示す配合量で仕込み、器内を窒素ガスで充分に置換して実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表1に示す混合物(a−1−1)を5重量部一括添加し、10分間攪拌後に、以下の物質
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.11重量部
硫酸第一鉄・2水塩 0.004重量部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.001重量部
を仕込み、表1に示す混合物(a−1−2)を10重量部/時間の割合で連続的に添加し、重合させた後、更に0.5時間重合を継続し、表1に示す混合物(a−1−3)を12.7重量部/時間の割合で連続的に添加し、重合させた後、更に1.0時間重合を継続後に重合転化率を98%以上にし、内温を60℃にし、表1に示す混合物(a−2−1)を16.7重量部/時間の割合で連続的に添加し重合させた後、更に1.0時間重合を継続後に重合転化率を98%以上にして重合を終了させ、アクリル系重合体(A)のラテックスを得た。
【0092】
得られたラテックスを塩化カルシウムで塩析し、水洗、乾燥を行い、アクリル系重合(A)の乾燥粉末(P−1)を得た。
【0093】
(合成例3)架橋アクリル系重合体(A)の合成:P−2
攪拌器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー供給管、還流冷却器を備えた8リットル重合器に以下の物質:
水 200重量部
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.15重量部
硫酸第一鉄・2水塩 0.006重量部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.0015重量部
とOSAを表1に示した配合量で仕込み、器内を窒素ガスで充分に置換して実質的に酸素のない状態とした後、内温を60℃にし、表1に示す混合物(a−1−1)を12.0重量部/時間の割合で連続的に添加し、重合させた後に重合転化率を98%以上にし、更に0.5時間重合を継続し、表1に示す混合物(a−2−1)を15.6重量部/時間の割合で連続的に添加し、重合させた後、更に1.0時間重合を継続後に重合転化率を98%以上にして重合を終了させ、ラテックスを得た。
【0094】
得られたラテックスを塩化カルシウムで塩析し、水洗、乾燥を行い、アクリル系重合(A)の乾燥粉末(P−2)を得た。
【0095】
【表1】

【0096】
表1中の各略号は、それぞれ下記の物質を示す。
OSA;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
BA;アクリル酸ブチル
MMA;メタクリル酸メチル
ST;スチレン
CHP;クメンハイドロパーオキサイド
AMA;メタクリル酸アリル
tDM;ターシャリードデシルメルカプタン
(実施例1〜11、比較例1〜5)
アクリル系重合体(A)として得られたP−1〜2の乾燥粉末、および熱可塑性重合体(B)としてメタクリル系樹脂(MMA/MA=94/6、還元粘度0.29dl/g、商品名:スミペックスLG6−A、住友化学社製)を表3、4に示す配合割合でブレンドした後に、滑剤(C)として表2に示すエステル化合物(商品名:リケマールS200等;理研ビタミン社製)を表3、4に示す配合割合でブレンドした後に、さらに、(メタ)アクリル系樹脂100重量部に対して紫外線吸収剤:TINUVIN234(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)を1重量部、酸化防止剤:AO60(株式会社ADEKA製)を0.4重量部の配合割合でブレンドした後に、ベント式押出機の210℃設定で押し出し、ペレット化し、更に、Tダイ押出成形機で押出し機210℃、ダイス240℃設定でフィルム化(厚さ 150μm)した。得られたフィルムの各種物性を上記方法で評価した。その結果を表3〜4に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
【表4】

【0100】
表3および4に示されるとおり、本発明のアクリル系樹脂組成物で成形したフィルムは、フィルム加工性、透明性、およびフィルム成形性に優れる上、高い再帰反射係数を有しプリズム成形性に優れることは明らかである。よって、本発明のアクリルフィルムは、再帰反射シートに好適である。本発明のアクリルフィルムによれば、表面保護層と反射素子層とを単層化した形態の再帰反射シートも可能である。
【符号の説明】
【0101】
10:表面保護層
11:反射素子層(三角錐プリズム層)
12:プリズム含有層
13:裏打ちフィルム
14:接合箇所(凸状支持部)
15:空気層
21:光源
22:再帰性反射体試料(再帰性反射シート)
23:受光開口
24:分光測光器
α: 観測角
β: 照射角(入射角)
L: 観測距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記アクリル系重合体(A)を含有する(メタ)アクリル系樹脂、および、下記滑剤(C)を含有する、アクリル系樹脂組成物。
アクリル系重合体(A):
アクリル系単量体と、アクリル系単量体と共重合し得る1分子あたり2個以上の非共役二重結合を有する多官能性単量体とを含む単量体成分(a―1)からなる、少なくとも1層の構造を有する架橋アクリル系重合体(A−1)の存在下に、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび共重合可能な他のビニル単量体からなる群から選択される少なくとも一種の単量体成分(a−2)を共重合して得られる、
重量平均粒子径が300〜3000Åである、アクリル系重合体。
滑剤(C):
水酸基価が30〜185mg/gである、水酸基含有化合物およびカルボシキル基含有化合物のエステル化合物。
【請求項2】
前記水酸基含有化合物が、グリセリンおよび/またはペンタエリスリトールである、請求項1に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有化合物が、脂肪酸および/または飽和ジカルボン酸である、請求項1または2に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪酸は、アルキル基の炭素数が13〜25である、請求項3に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび共重合可能な他のビニル単量体からなる群から選択される少なくとも一種の単量体成分からなる熱可塑性樹脂(B)を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記滑剤(C)は、(メタ)アクリル系樹脂100重量部に対して0.1〜7重量部含有される、請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、着色剤を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物を成形されてなる、アクリルフィルム。
【請求項9】
厚さが10〜500μmである、請求項8に記載のアクリルフィルム。
【請求項10】
片面にプリズム型再帰反射素子が形成されてなる、請求項8または9に記載のアクリルフィルム。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載のアクリルフィルムが使用された再帰反射シート。
【請求項12】
再帰反射シート表層が請求項10に記載のアクリルフィルムである、再帰反射シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−46862(P2011−46862A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198063(P2009−198063)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】