説明

アクリル酸およびメタクリル酸の製造方法

化学式(i)


(式中、R=HまたはCHである)の化合物の製造方法であって、化学式(ii)


(式中、Rが上で定義されるとおりである)の化合物源を温度および圧力の反応条件に曝す工程を含み、R=CHであるとき、式(ii)の化合物源が、液相の状態で温度および圧力の反応条件に曝される方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸およびメタクリル酸の製造方法に関し、その範囲は、その方法によって製造されるアクリル酸およびメタクリル酸ならびにそれらのアルキルエステル、特にメチルメタクリレートまで及ぶ。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸(プロパ−2−エン酸、AA)およびメタクリル酸(2−メチルプロパ−2−エン酸、MAA)は、主に、例えばメチルアクリレート(MA)およびメチルメタクリレート(MMA)などのそれらのエステルの前駆体としての重要な工業用化学物質である。それらの主な用途は、様々な用途向けのプラスチックの製造への利用である。最も重要な重合用途は、光学的透明度の高いプラスチックを製造するための、ポリメチルメタクリレート(PMMA)の鋳造、成形または押出しである。さらに、多くのコポリマーが使用され、重要なコポリマーは、メチルメタクリレートと、α−メチルスチレン、エチルアクリレートおよびブチルアクリレートとのコポリマーである。現在、MMA、MAAおよびAAが、石油化学原料からもっぱら製造される。
【0003】
MAAおよびMMAは、様々な方法によって、工業的に大規模で製造される。例えば、アセトンシアンヒドリン(ACH)経路では、反応剤としてアセトンおよびシアン化水素を使用し、中間体であるシアンヒドリンを、硫酸を用いてメタクリルアミドの硫酸エステルに転化し、それをメタノリシス処理することで、重硫酸アンモニウムおよびMMAが生成される。しかしながら、この方法はコストが高いだけでなく、反応剤、特にシアン化水素が、大きな健康上および安全性のリスクを示す上に、このプロセスにより、副生成物として大量の不要な硫酸アンモニウムが生成される。あるいは、他のプロセスにおいて、イソブチレンまたは、同じように、tert−ブタノール反応剤から出発して、それを酸化してメタクロレインに、次にメタクリル酸にすることが知られている。
【0004】
より最近では、エチレンのカルボニル化により、プロピオン酸メチルを形成し、その後、ホルムアルデヒドと反応させてMMAを得ることによる2段階プロセスによってMMAを直接製造することが知られてきた。このプロセスは、αプロセスとして知られている。段階Iは、特許文献1に記載されており、高い収率および選択性でのエチレンからプロピオン酸メチルへのパラジウム触媒によるカルボニル化における1,2−ビス−(ジ−t−ブチルホスフィノメチル)ベンゼンリガンドの使用に関する。出願人は、ホルムアルデヒドを用いてプロピオン酸メチル(MEP)をMMAへと触媒転化するためのプロセスも開発した。これに適した触媒は、担体、例えば、シリカ上に担持されたセシウム触媒である。しかしながら、MMAへのこの経路は、優れた生成物選択性を与え、比較的低コストであるが、反応剤、特にエチレンは、天然の原油の留分として調達される。
【0005】
長年の間、バイオマスは、潜在的な代替エネルギー資源および化学プロセス原料の代替資源の両方として化石燃料の代替として提供されてきた。したがって、化石燃料への依存に対する1つの明白な解決策は、バイオマス由来原料を用いて、MMAまたはメタクリル酸を製造するための公知のプロセスのいずれかを行うことである。
【0006】
これに関して、合成ガス(一酸化炭素および水素)が、バイオマスから誘導され得ることおよびメタノールが合成ガスから作製され得ることが周知である。いくつかの工業プラントでは、これに基づいて、例えば、非特許文献1において、合成ガスからメタノールを生成している。非特許文献2には、直接の原料としてまたはホルムアルデヒドなどの他の原料の製造のために、合成ガスから製造されるメタノールを使用することの実行可能性が
教示されている。バイオマスから化学物質を製造するのに適した合成ガスの製造についての多くの特許公報および非特許刊行物もある。
【0007】
バイオマス由来のエタノールの脱水によるエチレンの製造も、特にブラジルの製造プラントによって十分に確立されている。
エタノールのカルボニル化ならびにバイオマス由来のグリセロールの、アクロレインおよびアクリル酸などの分子への転化からのプロピオン酸の製造も、特許文献において十分に確立されている。
【0008】
したがって、エチレン、一酸化炭素およびメタノールは、バイオマスからの製造経路が十分に確立されている。このプロセスによって製造される化学物質は、油/ガス由来の材料と同じ仕様で販売されるか、または同じ純度が必要とされるプロセスで使用される。
【0009】
したがって、原理的に、バイオマス由来原料からプロピオン酸メチルを製造するための上記のいわゆるαプロセスの操作に対する障壁はない。むしろ、実際に、エチレン、一酸化炭素およびメタノールなどの簡素な原料を使用することで、理想的な候補として際立っている。
【0010】
アクリル酸は、プロペンからまたはアセチレンのヒドロカルボキシル化によって製造され得る。これらの方法は両方とも、原油の留分として最も容易に入手可能な出発材料を必要とする。
【0011】
これに関して、特許文献2は、明白に、上記のαプロセスのため、およびホルムアルデヒドを用いて、生成されるプロピオン酸メチル(MEP)をMMAへと触媒転化するためのバイオマス原料の使用に関する。これらのMEPおよびホルムアルデヒド原料は、上述したバイオマス源に由来し得る。しかしながら、このような解決策はなお、原料を得るためにバイオマス資源のかなりの処理および精製を必要とし、その処理工程自体が、化石燃料のかなりの使用を必要とする。
【0012】
さらに、αプロセスは、一箇所に複数の原料を必要とするため、入手可能性(availability)の問題につながり得る。したがって、何らかの生化学的経路により、複数の原料が避けられるかまたは原料の数が減少されれば有利であろう。
【0013】
したがって、メチルメタクリレートなどのアクリレートモノマー、アクリル酸およびメタクリル酸への化石燃料以外の燃料に基づく改良された代替的な経路が依然として必要とされている。
【0014】
原油の存在量(abundance)および入手可能性の低下、および原油を回収することの環境への有害な影響に伴い、この経路をたどるための原料のコストが上昇することになる。
【0015】
したがって、安価かつ効率的で、反応剤としての原油の留分を全く用いない、アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート、あるいはアクリル酸およびメタクリル酸などのそれらの直接前駆体を製造するための経路を発見することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第96/19434号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2010/058119号パンフレット
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Lausitzer Analytik GmbH Laboratorium fuer Umwelt und Brennstoffe(Schwarze Pumpe,Germany)、Biomethanol Chemie Holdings(Delfzijl,Netherlands)
【非特許文献2】Nouri and Tillman,Evaluating synthesis gas based biomass to plastics(BTP)technologies(ESA−Report 2005:8 ISSN 1404−8167)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の態様の目的は、上記の問題または他の問題に対処し、1つ以上の解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の態様によれば、式(i):
【0020】
【化1】

【0021】
(式中、R=HまたはCHである)
の化合物の製造方法であって、式(ii):
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、Rが上で定義されるとおりである)
の化合物源を温度および圧力の反応条件に曝す工程を含み、
R=CHであるとき、式(ii)の化合物源が、液相の状態で温度および圧力の反応条件に曝される方法が提供される。
【0024】
有利なことに、温度および圧力の特定の条件下で、式(ii)の化合物が分解して様々な成分になり、そのうちの1つが、式(i)の化合物であることが分かった。R=Hであ
る場合、式(i)の化合物はアクリル酸を表し、R=CHである場合、式(i)の化合物はメタクリル酸を表すことが理解されるであろう。したがって、本発明は、アクリル酸およびメタクリル酸への代替的な経路を表す。
【0025】
式(ii)の化合物は、化石燃料以外の燃料源から入手可能である。例えば、R=CHである場合の化合物は、好適には高温での脱カルボキシル化によってクエン酸から製造され得る。クエン酸は、公知の発酵プロセスから製造され得る。したがって、本発明の方法は、化石燃料への依存を最小限に抑えつつ、アクリレートを直接生成するための生物学的なまたは部分的に生物学的な経路を提供するのにいくらか役立つ。
【0026】
好ましくは、反応条件は、少なくとも100℃、より好ましくは少なくとも150℃、より好ましくは少なくとも175℃、より好ましくは少なくとも200℃、さらにより好ましくは少なくとも225℃の温度を含む。
【0027】
好ましくは、反応条件は、約550℃未満、より好ましくは約500℃未満、より好ましくは約475℃未満、より好ましくは約450℃未満、さらにより好ましくは約425℃未満の温度を含む。
【0028】
好ましくは、反応条件は、約200〜450℃、より好ましくは約225℃〜および425℃、最も好ましくは約250℃〜および400℃の温度を含む。
好ましくは、反応条件は、反応媒体が液相状態にある温度を含む。
【0029】
上記の温度条件下で反応剤を液相状態に保つために、反応は、大気圧を超える好適な圧力で行われる。上記の温度範囲で反応剤を液相状態に保つであろう好適な圧力は、200psi超、より好適には300psi超、最も好適には450psi超であり、いずれの場合も、その圧力を下回ると反応剤媒体が沸騰する圧力より高い圧力である。圧力の上限はないが、当業者は、実用限界の範囲内および装置の許容誤差の範囲内で、例えば、10,000psi未満、より典型的に5,000psi未満、最も典型的に4000psi未満で操作するであろう。
【0030】
好ましくは、反応は、約200〜10000psiの圧力で行われる。より好ましくは、反応は、約300〜5000psi、さらにより好ましくは約450〜3000psiの圧力で行われる。
【0031】
好ましい実施形態において、反応は、反応媒体が液相状態にある圧力で行われる。
好ましくは、反応条件は、反応媒体が液相状態にある温度および圧力を含む。
好ましくは、式(ii)の化合物源は、触媒の存在下で、温度および圧力の反応条件に曝される。
【0032】
触媒は、塩基触媒、酸触媒または酸および塩基触媒であり得る。
好ましくは、触媒が塩基触媒を含む場合、触媒は、OHイオン源を含む。好ましくは、塩基触媒は、金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩(エタン酸塩)、アルコキシドまたは炭酸水素塩、または分解性のジ−もしくはトリ−カルボン酸の金属塩、または上記のうちの1つの第四級アンモニウム化合物;より好ましくは第I族もしくは第II族金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、アルコキシド、炭酸水素塩、またはジ−もしくはトリ−カルボン酸の金属塩を含む。塩基は、1種以上のアミンを含み得る。好ましくは、塩基は、以下のもの:LiOH、NaOH、KOH Mg(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、CsOH、Sr(OH)、RbOH、NHOH、LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO、MgCO、CaCO、SrCO、BaCO、(NHCO、LiHCO、NaHCO、KHCO、Rb
HCO、CsHCO、Mg(HCO、Ca(HCO、Sr(HCO、Ba(HCO、NHHCO、LiO、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、Li(OR)、Na(OR)、K(OR)、Rb(OR)、Cs(OR)、Mg(OR、Ca(OR、Sr(OR、Ba(OR、NH(OR)のうちの1つ以上から選択され、ここで、Rは、任意のC〜Cの分枝状、非分枝状または環状アルキル基であり、1つ以上の以下の官能基;Li(RCO)、Na(RCO)、K(RCO)、Rb(RCO)、Cs(RCO)、Mg(RCO、Ca(RCO、Sr(RCOまたはBa(RCOで任意選択的に置換されており、ここで、RCOは、イタコン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩または酢酸塩;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、またはRNOHから選択され、ここで、Rは、メチル、エチルプロピルまたはブチルから選択される。より好ましくは、塩基は、以下のもの:LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、CsOH、Sr(OH)、RbOH、NHOH、LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO、MgCO、CaCO、(NHCO、LiHCO、NaHCO、KHCO、RbHCO、CsHCO、Mg(HCO、Ca(HCO、Sr(HCO、Ba(HCO、NHHCO、LiO、NaO、KO、RbO、CsO;Li(RCO)、Na(RCO)、K(RCO)、Rb(RCO)、Cs(RCO)、Mg(RCO、Ca(RCO、Sr(RCOまたはBa(RCOのうちの1つ以上から選択され、ここで、RCOは、イタコン酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩または酢酸塩;水酸化テトラメチルアンモニウム、または水酸化テトラエチルアンモニウムから選択される。最も好ましくは、塩基は、以下のもの:NaOH、KOH、Ca(OH)、CsOH、RbOH、NHOH、NaCO、KCO、RbCO、CsCO、MgCO、CaCO、(NHCO、Na(RCO)、K(RCO)、Rb(RCO)、Cs(RCO)、Mg(RCO、Ca(RCO、Sr(RCOまたはBa(RCOのうちの1つ以上から選択され、ここで、RCOは、イタコン酸塩、クエン酸塩またはシュウ酸塩;または水酸化テトラメチルアンモニウムから選択される。
【0033】
酸触媒の例としては、プロトン酸触媒およびルイス酸触媒が挙げられる。好ましい実施形態において、本発明の方法に使用するのに適したプロトン酸触媒としては、限定はされないが、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸が挙げられる。前記酸触媒は、スルホン酸型の強酸性イオン交換樹脂などの酸の不均一系の(heterogeneous)源を含んでもよい。市販のスルホン酸型の強酸性イオン交換樹脂の例は、商標AMBERLYST A15、AMBERLYST 38 W、AMBERLYST 36、AMBERJET 1500H、AMBERJET 1200H、(AMBERJET は、Rohm and Haas Companyの商標である)DOWEX MSC−1、DOWEX 50W(DOWEXは、Dow Chemical Companyの商標である)、DELOXAN ASP I/9(DELOXANは、Evonikの商標である)、ダイヤイオン(DIAION)SK1 B(ダイヤイオン(DIAION)は、三菱(Mitsubushi)の商標である)、LEWATIT VP OC 1812、LEWATIT S 100 MB、LEWATIT S 100 G1(LEWATITは、Bayerの商標である)、NAFION SAC13、NAFION NR50(NAFIONは、DuPontの商標である)およびCT275(Purliteから入手可能な、600〜750の範囲の平均孔径を有するマクロ多孔性樹脂)によって知られているものである。別の実施形態において、好適なルイス酸触媒としては、限定はされないが、ZnCl、BeCl、TiCl、SnCl、FeCl、FeCl、SbCl、AlClおよび他の金属ハロゲン化物が挙げられる。酢酸などの共触媒も、本発明に係る方法に使用されてもよい。
【0034】
酸および塩基触媒の例としては、1〜10重量%のアルカリ金属(金属として表される)を含有する多孔質の高表面積シリカが挙げられ、ここで、触媒は、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウムおよびハフニウムから選択される少なくとも1種の調整元素(modifier element)を含有する。このような触媒の例が、国際公開第99/52628号パンフレットに詳細に説明されており、その詳細が参照により本明細書に援用される。
【0035】
触媒は、均一触媒であってもまたは不均一触媒であってもよい。一実施形態において、触媒は、液体反応相に溶解され得る。しかしながら、触媒は、反応相が通過し得る固体担体上に懸濁され得る。この場合、反応相は、好ましくは液相、より好ましくは水相状態に保たれる。
【0036】
本発明の方法は、バッチプロセスまたは連続プロセスであり得る。
有利には、1つの副生成物は、生成物であるMAAと平衡状態で存在する2−ヒドロキシイソ酪酸(HIB)であり得る。したがって、MAAの抽出により、HIB側からMAA側へと平衡が移動するため、プロセス中にさらなるMAAが生成される。
【0037】
本発明において、R=CHである場合、式(ii)の化合物はシトラマル酸であり、R=Hである場合、式(ii)の化合物はリンゴ酸である。
好ましくは、式(ii)の化合物源は、式(ii)のジカルボン酸を含むが、それに加えてまたはその代わりに、任意の第I族または第II族金属塩である塩も1種以上含んでもよい。
【0038】
好ましくは、式(ii)の化合物源は、少なくとも0.01秒間、より好ましくは少なくとも約0.05秒間、さらにより好ましくは少なくとも約0.1秒間、最も好ましくは少なくとも約1秒間の期間にわたって反応条件に曝される。
【0039】
好ましくは、式(ii)の化合物源は、約1000秒未満、より好ましくは約500秒未満、さらにより好ましくは約300秒未満の期間にわたって反応条件に曝される。
好ましくは、式(ii)の化合物源は、約0.1秒間〜300秒間、より好ましくは約0.5秒間〜250秒間、最も好ましくは約1秒間〜200秒間の期間にわたって反応条件に曝される。
【0040】
好ましくは、式(ii)の化合物源は、水をさらに含む。好ましくは、式(ii)の化合物源は水性である。好ましくは、反応は、水性条件下で行われる。
好ましくは、式(ii)の化合物源の濃度は、(好ましくはその水性源中で)少なくとも0.001M;より好ましくは、(好ましくはその水性源中で)少なくとも約0.005M;より好ましくは、(好ましくはその水性源中で)少なくとも約0.01Mである。
【0041】
好ましくは、式(ii)の化合物源の濃度は、(好ましくはその水性源中で)約10M未満;より好ましくは、(好ましくはその水性源中で)約5M未満;より好ましくは、(好ましくはその水性源中で)約1M未満である。
【0042】
好ましくは、式(ii)の化合物源の濃度は、(好ましくはその水性源中で)0.001M〜10M、より好ましくは0.005M〜5M、最も好ましくは0.01M〜1Mの範囲にある。
【0043】
触媒は、液体媒体に溶解可能であってもよく、液体媒体は水であってもよい。触媒は、反応混合物に溶解可能であってもよい。触媒は、水溶液に溶解されていてもよい。好まし
くは、反応混合物中の触媒の濃度は、少なくとも約0.0001M、より好ましくは少なくとも約0.0005M、より好ましくは少なくとも約0.001Mである。
【0044】
好ましくは、反応混合物中の触媒の濃度は、約5M未満、より好ましくは約1M未満、より好ましくは約0.5M未満である。
好ましくは、反応混合物中の触媒の濃度は、(好ましくはその水性源中で)0.0001M〜5M、より好ましくは0.0005M〜1M、最も好ましくは0.001M〜0.5Mの範囲にある。いずれの場合も、反応が水溶液中で行われる場合、触媒濃度は、反応の温度および圧力における飽和溶液に相当し得る濃度以下であるのが好ましい。
【0045】
好ましくは、触媒の濃度に対する、式(ii)の化合物源の相対濃度は、約100:1〜1:100、より好ましくは約10:1〜1:10、さらにより好ましくは約5:1〜1:5である。
【0046】
最も好ましい実施形態において、触媒の濃度に対する、式(ii)の化合物源の相対濃度は、約3:1〜1:1、例えば、好ましくは約2:1である。
好ましくは、反応条件は概して酸性である。好ましくは、反応条件は、約1〜約6、より好ましくは約2〜約5のpHを含む。
【0047】
本発明の他の態様によれば、リンゴ酸をアクリル酸に転化する方法であって、リンゴ酸源を圧力および温度の反応条件に曝す工程を含む方法が提供される。
本発明の他の態様によれば、シトラマル酸をメタクリル酸に転化する方法であって、液相状態にあるシトラマル酸源を圧力および温度の反応条件に曝す工程を含む方法が提供される。
【0048】
本発明の他の態様によれば、上記の態様のいずれかによって製造される式(i)の化合物が提供される。
本発明の他の態様によれば、図(i)の化合物のアルキルエステルの製造方法であって、上記の態様のいずれかによって形成される式(i)の化合物をエステル化する工程を含む方法が提供される。
【0049】
本発明の他の態様によれば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)の製造方法であって、上記の態様のいずれかによって形成されるメタクリル酸をエステル化してメチルメタクリレートを形成した後、前記メチルメタクリレートを重合する工程を含む方法が提供される。
【0050】
本発明の他の態様によれば、上記の態様の方法から形成されるポリメチルメタクリレート(PMMA)が提供される。
上述したように、メタクリル酸またはアクリル酸生成物は、エステル化されて、メタクリル酸またはアクリル酸のエステルが生成され得る。可能性のあるエステルは、C〜C12アルキルまたはC〜C12ヒドロキシアルキル、グリシジル、イソボルニル、ジメチルアミノエチル、トリプロピレングリコールエステルから選択され得る。
【0051】
本発明の他の態様によれば、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーの調製方法であって、
(i)本発明の第1の態様にしたがって式(i)の化合物を調製する工程と;
(ii)工程(i)で調製された化合物を任意選択的にエステル化して、対応するエステルを生成する工程と;
(iii)工程(i)で調製された化合物および/または工程(ii)で調製されたエステルを、任意選択的に1種以上のコモノマーとともに重合して、そのポリマーまたはコ
ポリマーを生成する工程と
を含む方法が提供される。
【0052】
好ましくは、上記の(ii)のエステルは、C1〜C12アルキルまたはC2〜C12ヒドロキシアルキル、グリシジル、イソボルニル、ジメチルアミノエチル、トリプロピレングリコールのアクリル酸およびメタクリル酸エステル、より好ましくは、エチル、n−ブチル、i−ブチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシプロピルまたはメチルアクリレートおよびメタクリレート、最も好ましくは、メチルメタクリレートから選択される。
【0053】
有利には、このようなポリマーは、化石燃料以外の源に由来するモノマー残渣を、全てではないがかなりの割合で有することになる。
いずれの場合も、好ましいコモノマーとしては、例えば、モノエチレン性不飽和カルボン酸およびジカルボン酸ならびにそれらの誘導体(エステル、アミドおよび無水物など)が挙げられる。
【0054】
特に好ましいコモノマーは、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソ−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、イソ−ボルニルアクリレート、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソ−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、イソ−ボルニルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、ブタジエン、ブタジエンおよびスチレン(MBS)およびABSであり、ただし、上記のコモノマーのいずれも、1種以上のコモノマーによる(i)の前記酸モノマーまたは(ii)の前記エステルモノマーの任意の所与の共重合における上記の(i)または(ii)のメタクリル酸またはメタクリル酸エステルから選択されるモノマーでないことを条件とする。
【0055】
異なるコモノマーの混合物を使用することも当然ながら可能である。コモノマー自体は、上記の(i)または(ii)のモノマーと同じプロセスによって調製されても調製されなくてもよい。
【0056】
本発明の範囲は、任意選択的なコモノマーおよび1種以上の初期ポリマーまたはコポリマーブロックおよび/または追加される重合または共重合ブロックとともに、上記の(i)または(ii)の他の態様のモノマーから調製されるブロックコポリマーにも及ぶ。
【0057】
本発明の他の態様によれば、上記の態様の方法から形成されるポリメチルメタクリレート(PMMA)ホモポリマーまたはコポリマーが提供される。
不明確さを避けるために記載すると、用語「シトラマル酸」とは、式(iii)の以下の化合物を意味する。
【0058】
【化3】

【0059】
シトラマル酸は、本発明の目的のために「」においてキラル中心を有するが、「R」シトラマル酸または「S」シトラマル酸のどちらが使用されるかは重要でない。
不明確さを避けるために記載すると、用語「リンゴ酸」とは、式(iv)の以下の化合物を意味する。
【0060】
【化4】

【0061】
リンゴ酸は、本発明の目的のために「」においてキラル中心を有するが、「R」リンゴ酸または「S」リンゴ酸のどちらが使用されるかは重要でない。
本明細書において含まれる特徴の全ては、上記の態様のいずれかと、任意の組合せで組み合わされてもよい。
【0062】
本発明の理解を深めるために、および本発明の実施形態を実施し得る方法を示すために、これより、例として以下の図および実施例に言及する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】考えられる反応器の線図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0064】
図1を参照すると、反応スキーム102の線図が示されている。大まかに見ると、容器104からの反応混合物が、反応器106を通って流れ、容器108からの急冷水の流れによって急冷され、収集容器110中に溜められる。
【0065】
より詳細には、ある量の触媒を含むシトラマル酸水溶液の反応混合物が、容器104から、ポンプ112によって、弁114、圧力監視装置116(圧力トリップ(pressure trip)118に連結されている)および圧力逃し弁120を介して、反応器容器106へと送られる。反応器容器106は、内部の温度条件を変更するために温度制御装置119および加熱器121に連結される。生成物が反応剤から出て、容器108からの冷水の流れ(急冷ポンプ122によって、弁124を介して送られる)によって急冷される。急冷された生成物は、第1のフィルタ126、熱交換器128および第2のフィ
ルタ130を介して、背圧調節装置132、そして収集容器110中へと進む。
【0066】
反応容器106内の反応条件および反応器容器106内の滞留時間を変更するために、ポンプ112および122の速度は変更され、反応器の温度は厳重に制御され得る。
【実施例】
【0067】
以下の実施例を、以下のように行った。固体(R)−(−)−シトラマル酸(VWR Internationalから市販されている)を、水酸化ナトリウム触媒を用いてナノ純水に所要の濃度まで溶解させることによって、前駆体溶液を調製した。
【0068】
前駆体溶液を、Gilson analytical HPLCポンプを用いてシステムに送る。溶液を、加熱器ユニット(加熱コアおよびジャケットを備えたパイプコイル)に送り、それ自体をオーブンに収容する。オーブンは、高められた周囲環境温度を提供することによって加熱器ユニットの温度変化を軽減する働きをする。以下の実施例のオーブン温度を200℃の温度に固定するが、加熱器ユニットは所望の反応温度に設定する。
【0069】
加熱器を出た後、得られた生成物流れをオーブンの外に送り出し、さらなる反応物を急冷するために水の第2の流れと(室温で)混合する。急冷水を、第2のGilson HPLCポンプを介してシステムに投入する。反応器体積は、加熱器の開始(start)と急冷点との間の体積であると考えられる。
【0070】
次に、収集および分析のために背圧調節装置を通ってシステムから出る前に、急冷された生成物溶液を熱交換器に通過させて、温度をさらに低下させる。
液相中の生成物の分析を、高圧液体クロマトグラフィーを用いて行う。発生することが知られている全ての生成物を、HPLCシステムで予め測定し、各化合物の線形濃度応答範囲を確立する。試料の分析では、これらの線形応答範囲内にある濃度を得るためにさらなる希釈が通常必要とされる。HPLC分析の際の化合物の分解を、Phenomex RHM−単糖カラムおよび0.0005MのHSO移動相を用いて行った。
【0071】
気体生成物(二酸化炭素に限定されない)が、この反応の際に形成されることも知られている。これらの生成物の定性的検出を、Varian CP−4900 microGCを用いたガスクロマトグラフィーによって行う。しかしながら、これらの生成物は、現在、定量的に説明されておらず、したがって、これらの結果に報告されていない。これは、報告される物質収支の値に影響し得ることが認められている。
【0072】
生成物の収率は、絶対モルパーセント(100×生成物のモル/供給される反応剤のモル)として表される。
実験1
250℃におけるシトラマル酸の分解
条件:
前駆体:0.01Mのシトラマル酸
触媒:0.005Mの水酸化ナトリウム
温度:250℃
圧力:5070psi
異なる滞留時間における実験1の結果が、以下の表1に示される。
【0073】
【表1】

【0074】
実験2
300℃におけるシトラマル酸の分解
条件:
前駆体:0.01Mのシトラマル酸
触媒:0.005Mの水酸化ナトリウム
温度:300℃
圧力:5070psi
異なる滞留時間における実験2の結果が、以下の表2に示される。
【0075】
【表2】

【0076】
上記の実験結果に示されるように、シトラマル酸が、それを塩基性触媒の存在下で過剰の熱および圧力に曝すことによる1段階プロセスでメタクリル酸に転化される。
実験3
実験3において、実施例1および2の方法を用いてリンゴ酸の分解を行ったが、アクリル酸生成のレベルに対するpHの影響を評価するために、pHは様々であった。
条件:
前駆体:0.1Mのリンゴ酸
触媒:[NaOH]−様々
温度:260℃
滞留時間:350秒間
圧力:5070psi
異なるpHレベル(NaOH触媒の濃度を変更することによる)における実験3の結果が、以下の表3に示される。
【0077】
【表3】

【0078】
実験4
実験4において、実施例1および2の方法を用いてリンゴ酸の分解を行ったが、アクリル酸生成のレベルに対する温度の影響を評価するために、温度は様々であった。
条件:
前駆体:0.1Mのリンゴ酸
触媒:[NaOH]−0.05M
pH:3.17
温度:様々
滞留時間:100秒間
圧力:2500psi
実験4の結果が、以下の表4に示される。
【0079】
【表4】

【0080】
実験5
実験5は、実験4と同様である−実施例1および2の方法を用いてリンゴ酸の分解を行ったが、アクリル酸生成のレベルに対する温度の影響を評価するために、温度は様々であった。
条件:
前駆体:0.1Mのリンゴ酸
触媒:[NaOH]−0.05M
pH:3.31
温度:様々
滞留時間:100秒間
圧力:3500psi
実験5の結果が、以下の表5に示される。
【0081】
【表5】

【0082】
実験3〜5に示されるように、塩基触媒の存在下でリンゴ酸を熱分解することによって、アクリル酸を生成することができる。
有利には、本発明は、アクリル酸およびメタクリル酸への代替的な経路を提供する。
【0083】
本出願に関連して本明細書と同時にまたは本明細書より前に出願され、本明細書とともに公開された全ての論文および文献に注意が向けられ、全てのこのような論文および文献の内容は、参照により本明細書に援用される。
【0084】
本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示される特徴の全て、および/またはそのように開示されるあらゆる方法またはプロセスの工程の全ては、このような特徴および/または工程の少なくとも一部が互いに矛盾する場合の組合せを除いて、任意の組合せで組み合わせられ得る。
【0085】
特に明記されない限り、本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示される各特徴の代わりに、これらの機能、均等または同様の目的を果たす別の特徴が用いられてもよい。したがって、特に明記されない限り、開示される各特徴は、一般的な一連の均等または同様の特徴の一例に過ぎない。
【0086】
本発明は、上記の実施形態の詳細に限定されない。本発明の範囲は、本明細書(あらゆる添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示される特徴の任意の新規なもの、または任意の新規な組合せ、あるいはそのように開示されるあらゆる方法またはプロセスの工程の任意の新規なもの、または任意の新規な組合せに及ぶ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(i):
【化1】

(式中、R=HまたはCHである)
の化合物の製造方法であって、式(ii):
【化2】

(式中、Rが上で定義されるとおりである)
の化合物源を温度および圧力の反応条件に曝す工程を含み、
R=CHであるとき、式(ii)の化合物源が、液相、任意選択的に水相の状態で温度および圧力の反応条件に曝される方法。
【請求項2】
前記反応条件が、約200〜450℃の温度を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応条件が、約200〜10,000psiの圧力を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応条件が、前記反応媒体が前記液相状態にある温度および圧力を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
式(ii)の前記化合物源が、触媒の存在下で温度および圧力の反応条件に曝される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒が、塩基触媒、酸触媒または酸および塩基触媒である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
式(ii)の前記化合物源が、約0.1秒間〜300秒間の期間にわたって前記反応条件に曝される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応条件が概して酸性である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
リンゴ酸をアクリル酸に転化する方法であって、リンゴ酸源を圧力および温度の反応条
件に曝す工程を含む方法。
【請求項10】
シトラマル酸をメタクリル酸に転化する方法であって、液相状態にあるシトラマル酸源を圧力および温度の反応条件に曝す工程を含む方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって製造される式(i)の化合物。
【請求項12】
図(i)
【化3】

の化合物のアルキルエステルの製造方法であって、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって形成される式(i)の化合物をエステル化する工程を含む方法。
【請求項13】
ポリメチルメタクリレート(PMMA)の製造方法であって、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって形成されるメタクリル酸をエステル化して、メチルメタクリレートを形成した後、前記メチルメタクリレートを重合する工程を含む方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法から形成されるポリメチルメタクリレート(PMMA)。
【請求項15】
メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステルおよび/またはアクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーの調製方法であって、
(i)請求項1にしたがって式(i)の化合物を調製する工程と;
(ii)工程(i)で調製された前記化合物を任意選択的にエステル化して、対応するエステルを生成する工程と;
(iii)工程(i)で調製された前記化合物および/または工程(ii)で調製された前記エステルを、任意選択的に1種以上のコモノマーとともに重合して、そのポリマーまたはコポリマーを生成する工程と
を含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−515046(P2013−515046A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545445(P2012−545445)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【国際出願番号】PCT/GB2010/052176
【国際公開番号】WO2011/077140
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(500460209)ルーサイト インターナショナル ユーケー リミテッド (30)
【Fターム(参考)】