説明

アクリル酸の精製方法

【課題】プロトアネモニンを含有するアクリル酸に、アルカリ金属の水酸化物水溶液を混合する方法において、原料アクリル酸に対して追加の精製処理を行なうことなく、プロトアネモニンの含有量を低減する方法を提供する。
【解決手段】プロトアネモニンを含有するアクリル酸に、アルカリ金属の水酸化物水溶液を混合し、該混合液のpHを9以上とし該pH以上で保持するか、または、該混合液のpHを6以上にした後、該混合液を加熱することにより、プロトアネモニン含有量を低減させてアクリル酸を精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロトアネモニンを含有するアクリル酸の精製方法に関する。詳しくは、本発明は、プロトアネモニンを含有するアクリル酸にアルカリ金属の水酸化物水溶液を添加混合処理することにより、プロトアネモニン含有量を低減させるアクリル酸の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロパン、プロピレン、アクロレイン(以下、「プロピレン等」ということがある)からなる群から選択されるすくなくとも一種以上のアクリル酸出発原料を酸化触媒の存在下に分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化すると、目的物であるアクリル酸の他、酢酸、ホルムアルデヒド、アクロレイン、プロピオン酸、マレイン酸、アセトン、フルフラール、ベンズアルデヒド、プロトアネモニン等の副生成物を含む混合ガスが反応生成物として得られる。次に、この反応生成物を種々の精製方法により精製することによってこれらの副生成物や不純物を除去して精製アクリル酸を得ている。
【0003】
例えば、プロピレン等を分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してアクリル酸を工業的に製造する方法においては、この接触気相酸化して得た混合ガスをアクリル酸捕集塔に導いて水と接触させて冷却、吸収捕集し、アクリル酸と酢酸等の副生物を含む水溶液を得、この水溶液から蒸留などによりアクリル酸を分離、精製して精製アクリル酸を得る方法がある。
【0004】
さらに具体的には、上記水溶液等のアクリル酸含有液から製品として高純度のアクリル酸を得る方法として、共沸分離塔において難水溶性の溶剤を用いて蒸留し、塔底から実質的に酢酸、水および難水溶性の溶剤を含まない高純度のアクリル酸を回収する方法(特許文献1参照)、捕集工程より得たアクリル酸含有液を結晶化工程に導くことにより比較的簡便な工程で高純度の精製アクリル酸を得る方法などがある(特許文献2参照)。
【0005】
ところが、上記方法などによって得られる精製アクリル酸には蒸留および/または晶析によって完全に除去することが困難な微量の不純物が依然として存在する。この不純物はアクリル酸を単独重合またはこれと共重合可能な単量体と共重合させたときに重合反応の誘導時間を長くしたり、また、低重合度ポリマーの生成原因となる連鎖停止剤的な働きをするなどという欠点を有していることが知られている(特許文献3参照)。種々の不純物の中でも特にプロトアネモニンによる重合遅延を防止する目的で精製アクリル酸中のこのプロトアネモニンを除去する、あるいは濃度を低減するための手段が多く提案されている。なお、プロトアネモニンはアクリル酸水溶液に対して重合防止効果を有することも知られている(特許文献4参照)。
【0006】
上記プロトアネモニン処理に関する方法として、具体的には次に示すものなどが提案されている。(1)プロピレンやアクロレインの接触気相酸化反応により得られる粗製アクリル酸中の不純物(プロトアネモニン)をその精製工程において重亜硫酸塩水溶液で処理したのちに、さらにヒドラジン類化合物で処理する方法(特許文献3参照)。(2)イソブチレンなどの接触気相酸化反応により得られる粗製メタクリル酸中の不純物質(プロトアネモニン)をその精製工程において重亜硫酸塩水溶液で処理する方法(特許文献5参照)。(3)パラフェニレンジアミンおよびその塩の有効量をメタクリル酸水溶液中添加する方法(特許文献6参照)。(4)蒸留塔の理論段数の増加、還流比の増加、および、晶析回数の増加という追加の精製処理を行なうなどして、精製アクリル酸から更にプロトアネモニンを低減した超精製アクリル酸を得るか、あるいはこのものをさらに強アルカリ処理して超精製アクリル酸を得る方法(特許文献7参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平5−246941号公報
【特許文献2】特開2005−15478号公報
【特許文献3】特開昭61−218556号公報
【特許文献4】特開昭47−17714号公報
【特許文献5】特開昭59−93027号公報
【特許文献6】特許第3359368号公報
【特許文献7】国際公開番号 WO01/098382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、上記従来のプロトアネモニン低減方法はいずれも高価な薬剤を必要とし、またその使用後に薬剤処理を行う必要があり、かたや、蒸留や晶析による超精製もまた設備費やエネルギーなどにコストがかかりすぎるという点である。すなわち、本発明の目的は特殊な薬剤などを使用することなく、低コストで簡便な方法でプロトアネモニンを低減させるアクリル酸の精製方法を提供することにある。詳しくは、プロトアネモニンを含有するアクリル酸に、アルカリ金属の水酸化物水溶液を混合する方法において、原料アクリル酸に対して追加の精製処理を行なうことなく、プロトアネモニンの含有量を低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記のとおり、特定される。
【0010】
(1)プロトアネモニンを含有するアクリル酸に、アルカリ金属の水酸化物水溶液を混合し、該混合液のpHを9以上にすることにより、プロトアネモニン含有量を低減させることを特徴とするアクリル酸の精製方法。
【0011】
(2)前記混合は混合液の液温が70℃以下で行われる上記1記載の方法。
【0012】
(3)プロトアネモニンを含有するアクリル酸に、アルカリ金属の水酸化物水溶液を混合し、該混合液のpHを6以上にした後、該混合液を加熱することにより、プロトアネモニン含有量を低減させることを特徴とするアクリル酸の精製方法。
【0013】
(4)前記混合液を70℃を超える温度に加熱する上記1〜3記載の方法。
【0014】
(5)2〜100ppmのプロトアネモニンを含有するアクリル酸を用いる上記1〜4のいずれかに記載の方法。
【0015】
(6)10〜50ppmのプロトアネモニンを含有するアクリル酸を用いる上記5に記載の方法。
【0016】
(7)アルカリ金属がナトリウム、カリウム、リチウムから選択される少なくとも一種である上記1〜6のいずれかに記載の方法。
【0017】
(8)プロトアネモニンを含有するアクリル酸がプロパン、プロピレン、アクロレインのいずれかを接触気相酸化して得られたアクリル酸である上記1〜7のいずれかに記載の方法
【発明の効果】
【0018】
本発明の特定の方法を用いることによって、アクリル酸中のプロトアネモニンを低減することができる。従って、従来は精製アクリル酸の製造工程に対し、蒸留塔の理論段数の増加、還流比の増加、および、晶析回数の増加という追加の精製処理によりアクリル酸中のプロトアネモニンを除去して超精製アクリル酸を得ていたのが、本発明の方法ではこれら追加の精製処理が不要となりアクリル酸の製造工程を簡略化できる。また、使用する薬剤はアルカリ金属の水酸化物という汎用の廉価なものであるので、精製コストが低減される。本発明を適用して精製されたアクリル酸はプロトアネモニン含有量が低減されているのでポリマー原料として用いた場合、重合遅延問題などを引き起こすことなく、安定した重合操作が可能となる。また、アクリル酸のアルカリ金属の水酸化物塩および精製後のアクリル酸はそのまま共重合用モノマーとして、例えば、吸水性樹脂製造用などに使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の第一の方法(上記(1)記載の方法)においてプロトアネモニンを含有するアクリル酸とアルカリ金属の水酸物水溶液を混合する方法については種々の混合方法を用いることができる。アクリル酸とアルカリ金属の水酸化物水溶液とを同時に同じ容器に投入してもよい。この時、容器中にはあらかじめ水を仕込んでおいてもよい。また、アルカリ金属の水酸化物水溶液を仕込んだ容器にアクリル酸を添加してもよいし、このアクリル酸の添加後にアルカリ金属の水酸化物水溶液を容器に追加投入してもよい。
【0020】
前記のアクリル酸とアルカリ金属の水酸化物水溶液との混合においては混合液のpHが9以上になる様に混合すればよいが、pHが11以上になる様に混合するのが好ましく、pHが13以上になる様に混合するのがより好ましい。pHが9未満の場合はプロトアネモニンの低減量が不十分となる。
【0021】
前記のアクリル酸とアルカリ金属の水酸化物水溶液との混合中においては、液の温度を70℃以下に保てば良いが、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。混合中の液の温度が70℃を超えるとアクリル酸の重合が起きる可能性があるため好ましくない。ただし、アクリル酸の中和が完了した後は液の温度を70℃を越える温度に加熱しても良い。
【0022】
本発明の第二の方法(上記(3)記載の方法)においても、前記本発明の第一の方法と同様に、プロトアネモニンを含有するアクリル酸に、アルカリ金属の水酸化物水溶液を混合すれば良い。本発明の第二の方法においては、アクリル酸とアルカリ金属の水酸化物水溶液との混合液のpHが6以上、8以下になった時点で混合を終了し、その後、該混合液を加熱すれば良い。pHが6以上になるまでは、液の温度を70℃以下に保てば良いが、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。pHが6以上、8以下における加熱温度は70℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上にするのが良い。ただし、該加熱はアクリル酸モノマーが重合しない範囲で行なうものである。
【0023】
本発明において用いられるアクリル酸に含まれるプロトアネモンの量としては1〜1000ppmの範囲であればよいが、1〜200ppmが好ましく、2〜100ppmがより好ましく、10〜50ppmが特に好ましい。プロトアネモニンの量が1000ppmを越える場合は、本発明の精製方法において副生するアセチルアクリル酸の量が無視できなくなるため好ましくない。
【0024】
本発明において用いられるアルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムがあるが、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
プロピレンを分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化して得た混合ガスをアクリル酸捕集塔に導いて水と接触させて得た水溶液をアクロレイン放散塔に導いてアクロレインを放散させ、アクリル酸水溶液を得た。ついで、このアクリル酸水溶液を共沸蒸留塔に供給し、共沸溶剤を用いて水と酢酸等の低沸点不純物とを蒸留除去し、プロトアネモニン含有量250ppmの粗製アクリル酸を得た。この粗製アクリル酸を高沸点不純物分離塔に供給して、マレイン酸やアクリル酸ダイマーなどの高沸点不純物を除去し、塔頂からアクリル酸を得た。このアクリル酸にアルデヒド処理剤としてヒドラジンヒドラートを添加しておいて、単蒸留装置で蒸留することにより、プロトアネモニン50ppmを含むアクリル酸を得た。
【0026】
つぎに、撹拌機を備えたフラスコに水500gを仕込んだ。このフラスコ内の温度を30℃に保ち撹拌し、フラスコ内のpH値を測定しながら、前記プロトアネモニン50ppmを含むアクリル酸300gと48質量%水酸化ナトリウム水容液とを同時に35分間かけてフラスコに滴下した。フラスコ内のpHが 5.3の時にアクリル酸の滴下を終え、さらにフラスコ内のpH13になるまで48質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。滴下した48質量%水酸化ナトリウム水溶液の総量は272gであった。また、この滴下中にフラスコ内の各pH下においてフラスコ内の溶液を少量採取し、分析用サンプルとした。この各サンプル中のプロトアネモニン濃度を分析した結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1より、単にアクリル酸とアルカリ水溶液を混合してもpHが酸性域(pH5.3)および中性域付近(pH6.7)にあるとアクリル酸中のプロトアネモニンは残存することが分かる。これに対し表1よりpHを9以上(pH10とpH13の場合)にするとアクリル酸中に含まれていたプロトアネモニンを消滅させ得ることがわかる。
【0029】
(実施例2)
実施例1において、プロトアネモニン50ppmを含むアクリル酸の代わりに、プロトアネモニン500ppmを含むアクリル酸を用いた以外は実施例1と同様にして該アクリル酸と水酸化ナトリウム水容液の混合を行なった。各サンプル中のプロトアネモニン濃度を分析した結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2よりアクリル酸に含まれるプロトアネモニンが500ppmと多い場合(実施例2)は、アクリル酸に含まれるプロトアネモニンが50ppmに場合(実施例1)に比べて
プロトアネモニンの減少割合が劣ることがわかる。
【0032】
(実施例3)
実施例1においてpH6.7の時にフラスコ内より採取したサンプルを150℃、1時間の条件で加熱した。その結果、加熱前は10ppm含まれていたプロトアネモニンが、加熱後には検出されなかった。なお、この加熱後も該サンプルは重合せず、そのままアクリル酸モノマーを含有する溶液として使用することが可能であった。
【0033】
(実施例4)
実施例3において加熱温度を110℃にした以外は実施例3と同様にしてサンプルの加熱を行なった。その結果、加熱後のプロトアネモニンは1ppmであった。
【0034】
(実施例5)
実施例3において加熱温度を85℃にした以外は実施例3と同様にしてサンプルの加熱を行なった。その結果、加熱後のプロトアネモニンは3ppmであった。
【0035】
(比較例1)
実施例3において加熱温度を50℃にした以外は実施例3と同様にしてサンプルの加熱を行なった。その結果、加熱後のプロトアネモニンは10ppmのままであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトアネモニンを含有するアクリル酸に、アルカリ金属の水酸化物水溶液を混合し、該混合液のpHを9以上にすることにより、プロトアネモニン含有量を低減させることを特徴とするアクリル酸の精製方法。
【請求項2】
前記混合は混合液の液温が70℃以下で行われる請求項1記載の方法。
【請求項3】
プロトアネモニンを含有するアクリル酸に、アルカリ金属の水酸化物水溶液を混合し、該混合液のpHを6以上にした後、該混合液を加熱することにより、プロトアネモニン含有量を低減させることを特徴とするアクリル酸の精製方法。
【請求項4】
前記混合液を70℃を超える温度に加熱する請求項1〜3記載の方法。
【請求項5】
2〜100ppmのプロトアネモニンを含有するアクリル酸を用いる請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
10〜50ppmのプロトアネモニンを含有するアクリル酸を用いる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アルカリ金属がナトリウム、カリウム、リチウムから選択される少なくとも一種である請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
プロトアネモニンを含有するアクリル酸がプロパン、プロピレン、アクロレインのいずれかを接触気相酸化して得られたアクリル酸である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2009−263293(P2009−263293A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116503(P2008−116503)
【出願日】平成20年4月27日(2008.4.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】