説明

アクリロニトリルの重合抑制剤および重合抑制方法

【課題】 アクリロニトリルの製造時、精製時におけるアクリロニトリルの重合を抑制し、さらに重合によって生じる汚れの発生を効果的に抑制するアクリロニトリルの重合抑制剤および重合抑制方法を提供する。
【解決手段】 (A)グリシン誘導体と、(B)ハイドロキノン及び/又はニトロキシルラジカル化合物を有効成分として含むアクリロニトリルの重合抑制剤組成物、及びアクリロニトリルあるいはアクリロニトリルを含む工程液に(A)成分と(B)成分を同時に用いるアクリロニトリルの重合抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリルの製造時、精製時におけるアクリロニトリルの重合を抑制し、さらに重合によって生じる汚れの発生を効果的に抑制するアクリロニトリルの重合抑制剤および重合抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリルは、熱、光、その他の要因により極めて重合しやすく、製造、精製工程において、しばしば重合により関連設備内でファウリング(汚れ)が発生しトラブルを起こすことが知られている。汚れが、アクリロニトリルの製造工程、精製工程の製造タンク、蒸留塔(精留塔)、液送配管に付着すると、アクリロニトリルの製造・精製が制御できなくなり、操業に支障を来す。さらに製品品質の低下の原因ともなる。また、関連設備内に付着した重合反応物(汚れ)の除去は、人力による作業で行なわざるを得ないために、作業効率が悪く、その結果、長期間の運転停止を余儀なくされ、経済的損失が大きい。また、そこで、アクリロニトリル関連設備内での汚れを抑制する重合抑制剤および重合抑制方法が数多く提案・実施されてきた。
【0003】
一般に重合抑制剤としては、従来、ハイドロキノンやピロガロール(例えば、特許文献1参照)が用いられてきたが、十分な効果を示さず、これに替わる重合抑制剤としてヒドロキシアミン、フェニレンジアミン(例えば、特許文献2参照)、ニトロシルラジカル(例えば、特許文献3参照)の利用が提案されてきた。しかし、依然として十分な重合抑制効果を得るには至っていない。そのため、より優れたアクリロニトリルの重合抑制剤および効果的な重合抑制方法が強く望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−34267号公報
【特許文献2】米国特許第4,720,566号明細書(1988年)
【特許文献3】米国特許第3,747,988号明細書(1973年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アクリロニトリルの製造時、精製時におけるアクリロニトリルの重合を抑制し、さらに重合によって生じる汚れの発生を効果的に抑制するアクリロニトリルの重合抑制剤および重合抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アクリロニトリルの重合特性を詳細に検討した結果、特定のグリシン誘導体と、ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物の併用がアクリロニトリルの重合抑制に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、請求項1に係る発明は、(A)一般式(1)で表されるグリシン誘導体と、(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を有効成分として含むことを特徴とするアクリロニトリル重合抑制剤組成物である。
【0008】
【化1】

〔式中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、アセチル基、アミノアセチル基、N−(アミノアセチル)アミノアセチル基、フェニルアセチル基、カルバモイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、ヒドロキシル基を含んでいてもよい炭素数1〜8のアルキル基、ヒドロキシル基を含んでいてもよい炭素数6〜19のアルキルフェニル基、1〜3個のカルボキシル基を含んでいてもよい炭素数2〜6のカルボキシアルキル基、1〜2個のカルボキシメチル基及び/又はヒドロキシエチル基を含む炭素数4〜7のアミノアルキル基、1〜3個のカルボキシメチル基及び/又はヒドロキシエチル基を含むアルキレン(炭素数2〜3)ジアミノアルキル(炭素数2〜3)基、1〜4個のカルボキシメチル基及び/又はヒドロキシエチル基を含むジアルキレン(炭素数2〜3)トリアミノアルキル(炭素数2〜3)基である。Xは水素原子、ナトリウム、カリウムであり、その完全中和塩あるいは部分中和塩である。〕
請求項2に係る発明は、請求項1記載のアクリロニトリル重合抑制剤組成物であり、(A)グリシン誘導体が、グリシン、N−メチルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、N−アセチルグリシン、N、N−ジヒドロキシエチルグリシン、エチレン−N、N´−ジグリシン、エチレン−N、N´−ビスカルボキシメチル−N、N´−ジグリシン(エチレンジアミン四酢酸)、ニトリロトリ酢酸、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、N、N−ジカルボキシメチルグルタミン酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸及び1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸及びそれらのナトリウム塩、カリウム塩の完全中和塩または部分中和塩から選ばれた少なくとも1種であることを特徴としている。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載のアクリロニトリル重合抑制剤組成物であり、前記ニトロキシルラジカル化合物が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンオキシルから選ばれた少なくとも1種であることを特徴としている。
【0010】
請求項4に係る発明は、アクリロニトリルの製造時、精製時において、(A)一般式(1)で表されるグリシン誘導体と、(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を、アクリロニトリルを含む工程液に同時に用いることを特徴とするアクリロニトリル重合抑制方法である。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項4記載のアクリロニトリル重合抑制方法であり、アクリルニトリルを含む工程液に、(A)グリシン誘導体と、(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を重量比0.1:99.9〜90:10で用いることを特徴としている。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項4又は5記載のアクリロニトリル重合抑制方法であり、
アクリルニトリルを含む工程液に、(A)グリシン誘導体と、(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を合計でアクリロニトリルに対して0.05〜1000ppm添加することを特徴としている。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項4乃至6のいずれか記載のアクリロニトリル重合抑制方法であり、(A)水溶性のグリシン誘導体が、グリシン、N−メチルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、N−アセチルグリシン、N、N−ジヒドロキシエチルグリシン、エチレン−N、N´−ジグリシン、エチレン−N、N´−ビスカルボキシメチル−N、N´−ジグリシン(エチレンジアミン四酢酸)、ニトリロトリ酢酸、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、N、N−ジカルボキシメチルグルタミン酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸及び1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸及びそれらのナトリウム塩、カリウム塩の完全中和塩または部分中和塩から選ばれた少なくとも1種であることを特徴としている。
【0014】
請求項8に係る発明は、請求項4乃至7のいずれか記載のアクリロニトリル重合抑制方法であり、前記ニトロキシルラジカル化合物が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンオキシルから選ばれた少なくとも1種であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアクリロニトリルの重合抑制剤およびアクリロニトリルの重合抑制方法により、アクリロニトリルの製造、精製時におけるアクリロニトリルの重合を効果的に抑制することができ、特にアクリロニトリル製造・精製時の操業の安定化、アクリロニトリルの品質の向上に大きく寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、アクリロニトリルの製造時、精製時において、特定の(A)グリシン誘導体と、特定の(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を含むアクリロニトリル重合抑制剤、および、アクリロニトリルを含む工程に特定の(A)グリシン誘導体と、特定の(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を同時に用いることによって、アクリロニトリルの重合を抑制し、さらにアクリロニトリルの重合によって生じる汚れの発生抑制を効果的に達成し得るアクリロニトリル重合抑制方法である。
【0017】
本発明において重合抑制の対象となるアクリロニトリルは、特に限定されるものではなく、通常のアクリロニトリルの製造方法により得られるアクリロニトリルであり、具体的には次の方法により得られるアクリロニトリルである。
(1)プロピレンをアンモ酸化してアクリロニトリルを製造する方法(例えばソハイオ法、SNAM法)、
(2)エチレンクロロヒドリンにシアン化ナトリウムを作用させ、エチレンシアンヒドリンとして脱水してアクリロニトリルを得る方法、
(3)エチレンオキサイドを原料としてシアン化水素をアルカリ性触媒下で液相反応させてエチレンシアンヒドリンとし、これを脱水してアクリロニトリルを得る方法、
(4)アセトアルデヒドとシアン化水素を触媒の存在下で反応させラクトニトリルを得、これを脱水してアクリロニトリルを製造する方法(ラクトニトリル法)
等があげられる。
【0018】
本発明における(A)グリシン誘導体(以下「(A)成分」とする)は、一般式(1)で表されるグリシル化合物およびその塩である。式中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、アセチル基、アミノアセチル基、N−(アミノアセチル)アミノアセチル基、フェニルアセチル基、カルバモイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、ヒドロキシル基を含んでいてもよい炭素数1〜8のアルキル基、ヒドロキシル基を含んでいてもよい炭素数6〜19のアルキルフェニル基、1〜3個のカルボキシル基を含んでいてもよい炭素数2〜6のカルボキシアルキル基、1〜2個のカルボキシメチル基及び/又はヒドロキシエチル基を含む炭素数4〜7のアミノアルキル基、1〜3個のカルボキシメチル基及び/又はヒドロキシエチル基を含むアルキレン(炭素数2〜3)ジアミノアルキル(炭素数2〜3)基、1〜4個のカルボキシメチル基及び/又はヒドロキシエチル基を含むジアルキレン(炭素数2〜3)トリアミノアルキル(炭素数2〜3)基である。Xは水素原子、ナトリウム、カリウムであり、(A)グリシン誘導体は酸あるいはその中和塩のナトリウム塩、カリウム塩中和塩でもよく、さらにその中和塩は完全中和塩、部分中和塩、さらに複合完全中和塩、複合部分中和塩であっても良い。
【0019】
グリシル化合物としては、具体的にはグリシン、N−メチルグリシン、N−エチルグリシン、N−プロピルグリシン、N−ヒドロキシメチルグリシン、N−カルボキシメチルグリシン、N−フェニルグリシン、N−ベンジルグリシン、N−アセチルグリシン、N−フェニルアセチルグリシン、N−カルバモイルグリシン、N−ベンゾイルグリシン、N−トルイルグリシン、N−トリフェニルメチルグリシン、N−(4−ヒドロキシフェニル)グリシン、N−フタロイルグリシン、N−(グリシルグリシン、グリシルグリシルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジプロピルグリシン、N,N−ジヒドロキシエチルグリシン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)グリシン、N−ジヒドロキシブチルグリシン、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、エチレン−N、N’−ジグリシン、ニトリロ三酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸等がある。好ましくは、グリシン、N−メチルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、N,N−ジヒドロキシエチルグリシン、ジヒドロキシブチルグリシン、N−アセチルグリシン、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、エチレン−N、N’−ジグリシン、ニトリロ三酢酸、N,N−ジカルボキシメチルグルタミン酸、N−カルボキシメチル−N‘−(2−ヒドロキシエチル)−N,N’−エチレングリシン、エチレンジアミン四酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、より好ましくはエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸等がある。これらの酸及びそのナトリウム塩、カリウム塩の完全中和塩または部分中和塩、さらに複合完全中和塩、複合部分中和塩の1種あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0020】
本発明で用いる(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物(以下「(B)成分」とする)におけるハイドロキノンは、特に限定されるものではなく通常、工業的に入手できるハイドロキノンが用いられる。
【0021】
また、(B)成分のニトロキシルラジカル化合物は、室温で安定に存在しうるフリーラジカル化合物であって、ジ−t−ブチルニトロキサイド、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル化合物、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル化合物があげられる。また、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル化合物としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルがあり、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル化合物としては2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシルであり、好ましくは2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンオキシル、より好ましくは4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルである。
【0022】
本発明のアクリロニトリルの重合抑制剤は、(A)成分と(B)成分を含む重合抑制剤であり、通常、両成分を溶剤に溶解させて用いられる。用いる溶剤は、(A)成分と(B)成分を溶解し、適用するアクリロニトリルの工程の状況を考慮して適宜選択されれば良く、特に限定されるものではないが、通常、水、低級アルコール類のメタノール、エタノール、エチレングリコール、セルソルブ類のメチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等が挙げられる。これらの中でも水が好適である。
【0023】
アクリロニトリルの重合抑制剤における(A)成分と(B)成分の濃度は、特に限定されるものではなく、使用状況を考慮して適宜選択されれば良く、通常、両者の合計で1〜80重量%である。(A)成分と(B)成分の濃度が1重量%未満では、本発明の効果を十分に発揮できない場合がある。また、(A)成分と(B)成分の濃度が80重量%を超えると、溶液の粘度が高くなり、取扱性の低下や当該重合抑制剤中の(A)成分と(B)成分の析出が生じて製品安定性が損なわれる場合があり、好ましくない。
【0024】
本発明のアクリロニトリル重合抑制剤の製造は、特に限定されるものではなく、撹拌下、溶剤に(A)成分と(B)成分を添加して均一溶液として調製して得られる。
【0025】
本発明のアクリロニトリル重合抑制方法は、アクリロニトリルの製造時、精製時において、(A)グリシン誘導体と、(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を、アクリロニトリルを含む工程液に同時に用いることによって、アクリロニトリルの重合抑制および重合によって生じる汚れの発生を効果的に抑制し得るアクリロニトリル重合抑制方法である。
【0026】
本発明のアクリロニトリル重合抑制方法は、(A)成分、(B)成分を同時に用いることにより優れた重合抑制効果を発揮するものであり、その効果は(A)成分と(B)成分の合計量に対して低比率の(A)成分を(B)成分と同時に用いることによっても優れた重合抑制効果を発揮する。(A)成分と(B)成分の添加比率は、通常、0.1:99.9〜90:10を目安として添加され、好ましくは0.5:99.5〜80:20、より好ましくは1:99〜70:30である。(A)成分と(B)成分の添加比率の範囲は、本発明を実施した結果から見出されたものであり、この範囲外では本発明の充分な効果を得ることができない場合がある。
【0027】
(A)成分、(B)成分の添加量は、適用するアクリロニトリルの工程と必要とする重合抑制の程度を考慮して決定され、通常は(A)成分、(B)成分のそれぞれが、工程液中に含まれるアクリロニトリルに対して0.05〜1000ppm、好ましくは、0.1〜500ppm、より好ましくは0.5〜100ppmである。また、(A)成分、(B)成分の合計添加量として、0.1〜2000ppm、好ましくは、0.2〜1000ppm、より好ましくは1〜200ppmである。(A)成分、(B)成分のそれぞれの添加量が0.05ppm未満では、本発明の効果を発揮することができない場合がある。(A)成分、(B)成分のそれぞれの添加量が1000ppmを超えて用いることは、なんら妨げるものではないが、添加量に見合った効果の向上がみられず、経済的な見地から不利なことがある。
【0028】
(A)成分、(B)成分の添加は、(A)成分、(B)成分をそのまま添加する方法と、それぞれを溶剤に溶解して添加する方法があり、いずれを用いても良い。使用される溶剤は、適用するアクリロニトリルの工程の状況および各成分の溶解性を考慮して適宜選択されれば良く、特に限定されるものではないが、通常、水、低級アルコール類のメタノール、エタノール、エチレングリコール、セルソルブ類のメチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等が挙げられ、これらの中でも水が好適である。溶剤に溶解して使用する場合の各成分の濃度は、適用するアクリロニトリルの工程の状況および各成分の溶解性を考慮して適宜選択されれば良く、特に限定されるものではないが、通常、1〜60重量%である。
【0029】
(A)成分、(B)成分の添加箇所は、アクリロニトリルの製造工程内においては、アクリロニトリルを含む工程液の一部が重合し、その重合物が付着し汚れとなる箇所の手前であり、具体的にはプロピレンをアンモ酸化してアクリロニトリルを製造するソハイオ法、SNAM法、エチレンシアンヒドリンとして脱水してアクリロニトリルを得る方法、エチレンシアンヒドリンを脱水してアクリロニトリルを得る方法、ラクトニトリルを脱水してアクリロニトリルを製造するラクトニトリル法等の脱水塔あるいはそのフィード液、アクリロニトリル精製塔あるいはそのフィード液、およびその周辺の工程に添加される。また、貯蔵時や輸送時には保管タンク、貯蔵タンク、移送タンク等の貯蔵設備に添加される。
【0030】
(A)成分、(B)成分の添加方法は、特に限定されるものではなく、通常の薬液注入ポンプを用いて、連続添加方法あるいは間歇添加方法によって添加される。
【実施例】
【0031】
本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(グリシン誘導体)
G−1:グリシン
G−2:N−メチルグリシン
G−3:N,N−ジメチルグリシン
G−4:N−アセチルグリシン
G−5:N,N−ジヒドロキシエチルグリシン
G−6:エチレン−N,N’−ジグリシン
G−7:エチレン−N,N’−ビスカルボキシメチル−N,N’−ジグリシン(エチレンジアミン四酢酸)4Na塩
G−8:ニトリロトリ酢酸・3Na塩
G−9:ヒドロキシエチルイミノジ酢酸・2Na塩
G−10:ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸・3Na塩
G−11:ジエチレントリアミン五酢酸・5Na塩
G−12:トリエチレンテトラアミン六酢酸・6Na塩
G−13:N,N−ジカルボキシメチルグルタミン酸・4Na塩
G−14:1,3−プロパンジアミン四酢酸
G−15:1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸
【0033】
(ハイドロキノン)
HQ:ハイドロキノン
【0034】
(ニトロキシラジカル化合物)
H−TEMPO:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル
O−TEMPO:4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル
【0035】
(その他)
DEHA:N,N−ジエチルヒドロキシルアミン
PDA:N,N’−ジ−第二−ブチル−p−フェニレンジアミン
【0036】
(重合抑制試験)
窒素ガス導入バルブとサンプル抜き出しバルブを備えた100mLのステンレス製オートクレーブにアクリロニトリル100gと表1記載の所定量の(A)グリシン誘導体と(B)ハイドロキノンあるいは/又はニトロキシラジカル化合物を添加し、窒素ガスを50mL/分の割合で導入しながら、系内の酸素を除去した後、窒素ガスで0.1MPaに加圧して両方のバルブを閉じ、100℃のオイルバスに浸漬し、2時間加熱した。2時間後、反応液約5gを採取し、正確に秤量した後、1μmガラス繊維瀘紙〔ミリポア社(Millipore Corp.)製〕にて瀘別し、生成したポリマーを分離した。分離したポリマーを50℃で6時間乾燥した後、秤量し、反応液中の生成ポリマー量(重量ppm)を算出した。生成ポリマー量が少ないほど、アクリロニトリルの重合抑制効果が高く、好ましい。結果を表1に示した。
【0037】
【表1】

本発明の重合抑制剤は、従来のアクリロニトリル重合抑制剤であるハイドロキノン(HQ)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(MQ)、フェノチアジン(PTZ)、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン(DEHA)、N,N’−ジ−第二−ブチル−p−フェニレンジアミン(PDA)のいずれと比較しても同一添加量では、圧倒的に少ないポリマー生成量であり、優れた重合防止効果を発揮していることが分かる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(1)で表されるグリシン誘導体と、(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を有効成分として含むことを特徴とするアクリロニトリル重合抑制剤組成物。
【化1】

〔式中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、アセチル基、アミノアセチル基、N−(アミノアセチル)アミノアセチル基、フェニルアセチル基、カルバモイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、ヒドロキシル基を含んでいてもよい炭素数1〜8のアルキル基、ヒドロキシル基を含んでいてもよい炭素数6〜19のアルキルフェニル基、1〜3個のカルボキシル基を含んでいてもよい炭素数2〜6のカルボキシアルキル基、1〜2個のカルボキシメチル基及び/又はヒドロキシエチル基を含む炭素数4〜7のアミノアルキル基、1〜3個のカルボキシメチル基及び/又はヒドロキシエチル基を含むアルキレン(炭素数2〜3)ジアミノアルキル(炭素数2〜3)基、1〜4個のカルボキシメチル基及び/又はヒドロキシエチル基を含むジアルキレン(炭素数2〜3)トリアミノアルキル(炭素数2〜3)基である。Xは水素原子、ナトリウム、カリウムであり、その完全中和塩あるいは部分中和塩である。〕
【請求項2】
(A)グリシン誘導体が、グリシン、N−メチルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、N−アセチルグリシン、N、N−ジヒドロキシエチルグリシン、エチレン−N、N´−ジグリシン、エチレン−N、N´−ビスカルボキシメチル−N、N´−ジグリシン(エチレンジアミン四酢酸)、ニトリロトリ酢酸、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、N、N−ジカルボキシメチルグルタミン酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸及び1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸及びそれらのナトリウム塩、カリウム塩の完全中和塩または部分中和塩から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載のアクリロニトリル重合抑制剤組成物。
【請求項3】
前記ニトロキシルラジカル化合物が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンオキシルから選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2記載のアクリロニトリル重合抑制剤組成物。
【請求項4】
アクリロニトリルの製造時、精製時において、(A)一般式(1)で表されるグリシン誘導体と、(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を、アクリロニトリルを含む工程液に同時に用いることを特徴とするアクリロニトリル重合抑制方法。
【請求項5】
アクリロニトリルを含む工程液に、(A)グリシン誘導体と、(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を重量比0.1:99.9〜90:10で用いる請求項4記載のアクリロニトリル重合抑制方法。
【請求項6】
アクリロニトリルを含む工程液に、(A)グリシン誘導体と、(B)ハイドロキノンおよび/又はニトロキシルラジカル化合物を合計でアクリロニトリルに対して0.05〜1000ppm添加する請求項4又は5記載のアクリロニトリル重合抑制方法。
【請求項7】
前記(A)グリシン誘導体が、グリシン、N−メチルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、N−アセチルグリシン、N、N−ジヒドロキシエチルグリシン、エチレン−N、N´−ジグリシン、エチレン−N、N´−ビスカルボキシメチル−N、N´−ジグリシン(エチレンジアミン四酢酸)、ニトリロトリ酢酸、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、N、N−ジカルボキシメチルグルタミン酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸及び1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸及びそれらのナトリウム塩、カリウム塩の完全中和塩または部分中和塩から選ばれた少なくとも1種である請求項4乃至6のいずれか記載のアクリロニトリル重合抑制方法。
【請求項8】
前記ニトロキシルラジカル化合物が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンオキシルから選ばれた少なくとも1種である請求項4乃至7のいずれか記載のアクリロニトリル重合抑制方法。

【公開番号】特開2006−273746(P2006−273746A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94256(P2005−94256)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】