説明

アクロレインまたはアクリル酸の製造法、およびそれに使用する触媒

【目的】 プロパンからアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する。
【構成】 プロパンを分子状酸素で酸化してアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造するに際し、リンおよびモリブデンを必須成分として含むヘテロポリ酸またはその塩を含んでなる触媒を使用する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、プロパンを原料とするアクロレインおよび/またはアクリル酸の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】アクリル酸は近年吸水性樹脂、紙加工剤、繊維加工剤、凝集剤等の原料として需要が増大している。現在、アクリル酸あるいはその中間体であるアクロレインはプロピレンを原料として製造されているが、さらに安価な原料であるプロパンから製造する方法が検討されている。プロパンからアクロレインまたはアクリル酸の製造については、今までにいくつかの報告がなされている。
【0003】M.Ai, Chem.Commun. 786 (1986) には、Teで修飾した燐酸バナジル系触媒上でプロパンから一段でアクリル酸が生成する事が示されている。燐酸バナジル系に関しては、本発明者らが特願平3-344667において金および/または銀で修飾した触媒を開示している。また、特開平2- 83348には、Bi−V−Mo−Ag系触媒、特開平2- 67236には、B−P系触媒が開示されている。さらに、Y.Takita,Chem.Lett. 1733 (1989) には、種々の燐酸塩触媒上でプロパンからアクロレインへの反応が進行する事が報告されている。しかしながら、本発明者らの知見によれば、これらの触媒は工業的にプロパンからアクロレインまたはアクリル酸を製造する触媒としては活性、選択性、耐久性等に改良すべき点が多く、さらに性能の良い触媒が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本願発明は、プロパンと分子状酸素とを反応させてアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造するための、活性および選択性に優れた触媒を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、リンおよびモリブデンを必須成分として含むヘテロポリ酸またはその塩を含んでなるプロパンからアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造するための触媒である。また、本発明は、プロパンと分子状酸素とを反応させてアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造するに際し、リンおよびモリブデンを必須成分として含むヘテロポリ酸またはその塩を含んでなる触媒を使用することを特徴とするアクロレインおよび/またはアクリル酸の製造方法である。
【0006】本発明によれば、プロパンから高収率でアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する事が出来る。本発明の触媒は、リンおよびモリブデンを必須成分として含むヘテロポリ酸またはその塩であり、さらに、必要に応じて他の成分が添加されたものである。好ましい触媒は一般式 Pa Mob Vc Ad Xe Oxで表されるものである。ここにPはリン、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Aはヒ素および/またはアンチモン、Xはスズ、鉛、セリウム、コバルト、鉄、ジルコニウム、トリウム、タングステン、ゲルマニウム、ニッケル、レニウム、ビスマス、クロム、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、セレン、テルル、銀、アルミニウム、亜鉛、銅、チタン、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種以上の元素、Oは酸素を表し、b=12のとき、a=0.5 〜 3、c=0.01〜 3、d=0〜 3、e=0 〜3 、xはそれぞれの構成元素の酸化状態によって決まる数を表す。本発明の触媒の基本構造はリンモリブデン酸またはその塩であり、本発明の好ましい触媒では基本構造の結晶中のリンおよび/またはモリブデンの一部が他の元素によって置換されていると考えられる。
【0007】本発明の触媒の調製には公知のヘテロポリ酸の製造法が適用できる。例えば、燐酸水溶液中に所定量の金属酸化物、硝酸塩等を加えて加熱溶解する事によりヘテロポリ酸または可溶性ヘテロポリ酸塩の溶液を調製し、乾燥、焼成、成型等の工程を経て製造することができる。あるいは、ヘテロポリ酸の溶液を調製し、これに不溶性ヘテロポリ酸塩を形成するような対カチオンを添加して沈澱を生成させ、濾過により溶液を分離し、あるいは分離せずに、乾燥、焼成、成型等の工程を経て製造することができる。
【0008】乾燥方法としては、箱型乾燥器中で溶液を蒸発乾固する方法、あるいは噴霧乾燥法等、公知の方法が使用できる。乾燥温度は、通常50〜200℃である。乾燥工程を経た触媒中間体は、成型後、あるいは成型せずに焼成を行う。最終的な焼成温度は200〜500℃、好ましくは250〜400℃である。焼成雰囲気としては、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、空気、酸素、酸素富化空気等の含酸素ガス、水素、炭化水素等の還元性ガス、水蒸気およびこれらの混合ガスが使用できる。また、乾燥工程と焼成工程を連続、あるいは一体化して実施する事もできる。
【0009】触媒の成型は押出し成型、圧縮成型、噴霧乾燥造粒(流動床触媒)、転動造粒等、公知の方法が使用できる。触媒形状は、球状、円筒状、リング状、微小粒状(流動床触媒)など、特に制限はない。また、あらかじめ成型したアルミナ、シリカアルミナ、シリカ、チタニア、炭化ケイ素、コージライト、ムライト、ケイソウ土等の担体に本発明の触媒組成物を担持したものも、本発明の範囲に含まれる。
【0010】本発明の方法では、触媒の存在下酸素含有ガスとプロパンとを反応させてアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する。酸素含有ガスとしては、経済的な理由から空気の使用が望ましいが、純酸素、あるいは逆に窒素等で希釈した空気を用いる事もできる。特に、未反応プロパンのリサイクルが必要になるようなプロセスでは、不活性ガスの蓄積を防ぐ意味で、純酸素の使用が好ましい。希釈ガスとして水蒸気や二酸化炭素を用いる事も本発明の範囲に含まれる。
【0011】反応温度は、250〜500℃、好ましくは300〜450℃である。250℃以下では反応が遅く、500℃以上ではヘテロポリ酸が分解してしまうのでアクロレインやアクリル酸が得られなくなる。反応圧力は減圧、常圧、加圧のいずれでも良い。好ましくは1〜5Kg/cm2 abs.である。反応の空間速度は100〜10,000[1/hr]、好ましくは500〜5,000[1/hr]の範囲である。プロパンに対する酸素のモル比は、0.1〜10である。反応は量論比に対して酸素過剰側でもプロパン過剰側でも実施できるが、安全上の理由から爆発範囲を避けて反応条件を設定する事が望ましい。
【0012】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明する。調製した触媒の組成(原子比)は表1にまとめた。
実施例1水600mlを攪拌加熱しつつ、85%燐酸9.4g、三酸化モリブデン100g、五酸化バナジウム6.3g、酸化銅1.1g、三酸化砒素1.3gを加え、3時間加熱還流した。得られた原料溶液に、硝酸セシウム2.3gを水100mlに溶解した第2溶液と、28%アンモニア水13.5gを水70mlに溶解した第3溶液とを同時に混合した。得られた混合溶液をそのまま噴霧乾燥し、直径と高さがそれぞれ3mmのタブレットに成型した。次いで空気中で350℃、10時間焼成し、44〜149μmに粉砕して、P/Mo/V/As/Cu/Csの原子比が1.4/12/1.2/0.22/0.24/0.2である複合酸化物触媒を得た。得られた触媒0.1mlを内径3mmのガラス製反応管に充填し、窒素流通下に400℃まで昇温した。次いで、プロパン5容量%、空気95容量%からなる混合ガス2mlを接触時間0.3秒で反応させ、生成物を直接ガスクロマトグラフで分析した。反応成績を表2に示した。
【0013】実施例2水600mlを攪拌加熱しつつ、85%燐酸18.7g、三酸化モリブデン100g、五酸化バナジウム12.6g、酸化銅1.0g、酸化コバルト1.0gを加え、3時間加熱還流した。得られた原料溶液に、28%アンモニア水13.5gを水70mlに溶解した第2溶液を混合した。それ以降は実施例1と同様にしてP/Mo/V/Cu/Coの原子比が2.8/12/2.4/0.22/0.22である複合酸化物触媒を得た。実施例1と同じように活性試験を行った。結果を表2に示した。
【0014】実施例3酸化コバルトの代わりに酸化ニッケルを使用した他は実施例2と同様にしてP/Mo/V/Cu/Niの原子比が1.4/12/1.2/0.24/0.22である複合酸化物触媒を得た。実施例1と同じように活性試験を行った。結果を表2に示した。
【0015】実施例4酸化銅と酸化コバルトを使用せず、三酸化砒素と酸化亜鉛を用いた他は実施例2と同様の方法で、P/Mo/V/As/Znの原子比が1.4/12/1.2/0.22/0.44である複合酸化物触媒を得た。実施例1と同じように活性試験を行った。結果を表2に示した。
【0016】実施例5硝酸セシウムの代わりに硝酸カリウムを使用し、その他は対応する酸化物を原料にして実施例1と同様の方法でP/Mo/V/Sb/Cu/Se/Kの原子比が1.5/12/0.6/1.0/0.30/1.09/0.05 である複合酸化物触媒を得た。実施例1と同じように活性試験を行った。結果を表2に示した。
【0017】実施例6実施例5と同様の方法でP/Mo/V/Cu/Ba/Te/Fe/Ce/Ag/Kの原子比が1.5/12/0.5/0.1/1.0/0.1/0.1/0.05/0.1/0.05である複合酸化物触媒を得た。実施例1と同じように活性試験を行った。結果を表2に示した。
【0018】実施例7日本無機化学工業(株)製リンモリブデン酸、H3 PMo12O40を用い、実施例1と同じように活性試験を行った。結果を表2に示した。
【0019】実施例8日本無機化学工業(株)製11−モリブド−1−バナドリン酸、H4 PMo11VO40を用い、実施例1と同じように活性試験を行った。結果を表2に示した。
【0020】比較例1特願平3-344667の方法に従って金を含有するピロ燐酸ジバナジル触媒を製造した。コンデンサーおよび水分離器を備えた反応器に、五酸化バナジウム15.0g、ベンジルアルコール60ml、イソブタノール90mlを入れ、還流下で2時間加熱した後室温に冷却し、これに塩化金酸4水和物1.00g、85%燐酸20.1g、イソブタノール20mlの順で添加し、再び還流下で2時間加熱した。得られたスラリーを濾過し、130℃、7時間乾燥した。再度水を加えてペースト状にし、窒素雰囲気下で500℃、2時間熱処理し、冷却後44〜149μmに粉砕した。実施例1と同じように活性試験を行った。結果を表2に示した。
【0021】比較例2金を添加しない他は比較例1と同様にしてピロ燐酸ジバナジル触媒を製造した。活性試験結果を表2に示した。ピロ燐酸ジバナジル系触媒はプロパン転化率は本願発明の触媒より高いが、反応温度400℃の条件ではアクロレイン、アクリル酸への選択率が低くなってしまう。
【0022】比較例3還流器付き500ml四ツ口フラスコ中でオキシ硝酸ジルコニウム水溶液(固形分として20g)と85%燐酸200gを攪拌混合し、続いて昇温して24時間加熱還流した。生成した沈澱を濾過、乾燥し、500℃、2時間空気中で焼成してP/Zr原子比が3.7の燐酸塩を得た。実施例1と同じように活性試験を行った。結果を表2に示した。
【0023】
【表1】


【0024】
【表2】


【0025】
【発明の効果】実施例から明らかなように、本発明の触媒はアクロレインとアクリル酸の合計の選択率が高く、プロパンからアクリル酸を工業的に製造するための触媒として優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 リンおよびモリブデンを必須成分として含むヘテロポリ酸またはその塩を含んでなるプロパンからアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造するための触媒。
【請求項2】 触媒が、一般式Pa Mob Vc Ad Xe Ox(式中、Pはリン、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Aはヒ素および/またはアンチモン、Xはスズ、鉛、セリウム、コバルト、鉄、ジルコニウム、トリウム、タングステン、ゲルマニウム、ニッケル、レニウム、ビスマス、クロム、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、セレン、テルル、銀、アルミニウム、亜鉛、銅、チタン、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種以上の元素、Oは酸素を表し、b=12のとき、a=0.5 〜 3、c=0.01〜 3、d=0 〜 3、e=0 〜3 、xはそれぞれの構成元素の酸化状態によって決まる数)で表されるものである請求項1記載の触媒。
【請求項3】 プロパンと分子状酸素とを反応させてアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造するに際し、リンおよびモリブデンを必須成分として含むヘテロポリ酸またはその塩を含んでなる触媒を使用することを特徴とするアクロレインおよび/またはアクリル酸の製造方法。
【請求項4】 触媒が、一般式Pa Mob Vc Ad Xe Ox(式中、Pはリン、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Aはヒ素および/またはアンチモン、Xはスズ、鉛、セリウム、コバルト、鉄、ジルコニウム、トリウム、タングステン、ゲルマニウム、ニッケル、レニウム、ビスマス、クロム、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、セレン、テルル、銀、アルミニウム、亜鉛、銅、チタン、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種以上の元素、Oは酸素を表し、b=12のとき、a=0.5 〜 3、c=0.01〜 3、d=0 〜 3、e=0 〜3 、xはそれぞれの構成元素の酸化状態によって決まる数)で表されるものである請求項3記載の製造方法。

【公開番号】特開平6−218286
【公開日】平成6年(1994)8月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−340143
【出願日】平成4年(1992)12月21日
【出願人】(000003126)三井東圧化学株式会社 (49)