説明

アコヤ貝貝殻等の真珠層と稜柱層の剥離方法および真珠粉の製造方法

【課題】アコヤ貝貝殻の利用法を検討されているが、実験的な利用法や、処理過程で異臭が発生する問題があり、大半の貝殻を産業廃棄物として廃棄しているのが現状である。真珠層と稜柱層を一緒に粉砕すると、稜柱層に含まれているコンタミネーションの影響で美白と光沢が損なわれてしまう。したがって、(1)美白と光沢が損なわれずに,(2)異臭が発生しない、真珠層を比較的簡単な手法で安定して製造できることが望まれる。また,アコヤ貝貝殻の真珠層と稜柱層を分離し真珠層は固形で収集し、稜柱層はスラッジ状で沈殿させて回収する事で大量のアコヤ貝貝殻を有効活用を図る必要がある。
【解決手段】60Kg程の水洗したアコヤ貝貝殻を次亜塩素酸ソーダ6%水溶液に浸し、72時間程放置し、真珠層と稜柱層を剥離させる。真珠層は形状を保ち、稜柱層はスラッジ状で沈殿するので剥離後の回収を容易になる様メッシュ状の容器に貝殻を入れて水溶液に浸した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にアコヤ貝貝殻から真珠層と稜柱層を化学的に分離し、真珠層は主に化粧品の顔料に、稜柱層は土壌改良の原料(肥料)等に利用するための化学的な剥離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からアコヤ貝貝殻を食品、医薬品、食品添加物、化粧品の原料に利用するために貝殻の真珠層を得るための処理方法が提案されており、アコヤ貝貝殻から真珠層を採取することで利用価値が高い、また、アコヤ貝貝殻は真珠層と稜柱層とに分かれており、この真珠層は真珠と化学的並びに物理的に同一の構造を持つことが知られている。
【0003】
アコヤ貝貝殻から真珠層を採取する方法として、従来は水洗いやブラシ等で貝殻に付いた付着物を取り除くのみで貝殻の利用価値も低くまた時間も多くかかっている。このためアコヤ貝貝殻は真珠養殖の副産物として多く発生しているが、その利用について少量で残りの大部分の貝殻は破棄されていいる。
【0004】
以上の状況でアコヤ貝貝殻から真珠層粉末を取り出す方法が、特公平6−43320号及び特開2002−338430号公報などに記載されている。これらは主に、貝殻を粉砕してから真珠層と稜柱層の剥離法を提示している。例えば公知の回転式可傾型バレル式研磨機と5%から20%の塩酸を用いた事例などが報告されている
【0005】
公知例に記載されているような手法でアコヤ貝貝殻の真珠層と稜柱層を一緒に粉砕したところ,粉砕された粉体は稜柱層に含まれているコンタミネーションの影響により美白と光沢が損なわれてしまった。又、アコヤ貝貝殻特有の異臭が発生してしまい、匂い消しを酢酸で行ったが、結果的に酢酸臭が強くなり、化粧品への顔料には適さなかった。
【特許文献1】特公平06−043320号公報、特開平2002−338430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって,(1)美白と光沢が損なわれずに,(2)異臭が発生しない、真珠層を比較的簡単な手法で安定して製造できることが望まれる。例えば、アコヤ貝貝殻から20Kg/月で粒子サイズ500nmのパール顔料を製造する。製造した結果のパール顔料が「美白と光沢と無臭」であること。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、アコヤ貝貝殻適量収納するメッシュ状の容器と、濃度が約6%の次亜塩素酸ソーダ水溶液容器とを用い、次亜塩素酸ソーダ水溶液容器にメッシュ状の容器に収納されたアコヤ貝貝殻を浸漬し,凡そ72時間程放置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアコヤ貝貝殻の真珠層と稜柱層の剥離方法は、真珠層の美白と光沢が損なわれず、かつ異臭がない真珠層を粉砕機で約500nmの粒子に粉砕して真珠粉を製造することができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
アコヤ貝貝殻を適量収納するメッシュ状の容器と、濃度が約6%の次亜塩素酸ソーダ水溶液容器とを用い、次亜塩素酸ソーダ水溶液容器にメッシュ状の容器に収納されたアコヤ貝貝殻を浸漬し,凡そ72時間程放置し、アコヤ貝貝殻を真珠層と稜柱層とに剥離する。上記方法で得られた真珠層は十分に水洗及び乾燥させた後、粉砕機で約500nmの粒子に粉砕して真珠粉を製造する。
【0010】
アコヤ貝貝殻を真珠層と稜柱層とに剥離された稜柱層はスラッジ状で沈殿した次亜塩素酸ソーダの水溶液中を亜硫酸ソーダで中和させた後、乾燥し消石灰として回収する。
【0011】
濃度6%の次亜塩素酸ソーダは、アコヤ貝貝殻の稜柱層を崩壊させる力が強く、真珠層の漂白力と殺菌力を兼ね揃えている。次亜塩素酸ソーダの濃度は、5%以上であれば剥離能力は変わらないが、濃度が高い場合は塩素ガスの発生及び生産工コストが割高になるため、安全性を重視と安価で市販されている6%濃度の次亜塩素酸ソーダを採用した。
【0012】
なお、次亜塩素酸ソーダによる漂白と外殻(稜柱層)剥離の化学式は次の通りである。
2NaClO+H2O →Cl2+2NaOH (Cl2は漂白作用)
CaCO3+NaClO→ NaCl+CaCO4 (炭酸カルシュウムが消石灰に変化)
【0013】
図1はアコヤ貝貝殻の真珠層と真珠の成分分析(EDX;エネルギー分散X線析)を示し,(A)はアコヤ貝貝殻の真珠層を、(B)は真珠の分析結果をそれぞれ示す。どちらも炭酸カルシュウム成分であることが裏付けされた。
【実施例1】
【0014】
図2は、本発明の一実施例であるアコヤ貝貝殻を真珠層と稜柱層とに剥離する基本構成図を示し、1は次亜塩素酸ソーダ水溶液を、2は次亜塩素酸ソーダ水溶液を入れる容器を、3はアコヤ貝貝殻を、4はアコヤ貝貝殻を収納するメッシュ状の容器を、5は稜柱層が剥離したスラッジ状の沈殿物をそれぞれ示す。
【0015】
図3は、本発明の一実施例であるアコヤ貝貝殻を真珠層と稜柱層とに剥離する手順を示したものである。図中 A)からH)で示した手順はアコヤ貝貝殻を真珠層と稜柱層とに剥離し、真珠粉の生成までの手順を示した。J)からL)はアコヤ貝貝殻から稜柱層の剥離され,次亜塩素酸ソーダ水溶液中にスラッジ状に沈殿物の回収手順を示している。
【0016】
以下、図3に示した手順を参照し、アコヤ貝貝殻を真珠層と稜柱層とに剥離する概要を説明する。
【0017】
真珠粉の生成までの手順はアコヤ貝貝殻から真珠層を回収する事前の検討結果から、アコヤ貝貝殻から真珠層を回収する歩留りは凡そ30%であった、したがって、20Kgの真珠層を回収するには60Kgのアコヤ貝貝殻が必要となる。したがって、アコヤ貝貝殻60Kgを水洗し;図3(A)、メッシュ状の容器にアコヤ貝貝殻を約10Kg毎に収納する;図3(B)、次亜塩素酸ソーダ120リットルの水溶液を入れる容積500リットルの樹脂製容器にアコヤ貝貝殻が約10Kg収納されメッシュ状の容器を入れ72時間放置する;図3(C)。
【0018】
72時間後メッシュ状の容器を取り出し;図3(D)、 十分に流水で水洗し、アコヤ貝貝殻への稜柱層残渣が無いかを調べる ;図3(E)、 残渣が無ければ;図3(F)yes 、アコヤ貝貝殻の真珠層を自然乾燥させ;図3(G)、自然乾燥したアコヤ貝貝殻の真珠層をジェットミル粉砕機で平均粒子径500nmに粉砕する;図3(H)。ここで生成された真珠粉の美白と光沢及び悪臭が無い事を確認して,真珠粉の生成が完了する。
【0019】
前記した手順において図3(F)の判定で残渣があれば;図3(F)no 次亜塩素酸ソーダの水溶液槽に3〜4時間放置して;図3(I)メッシュ状の容器を取り出し;図3(D)、十分に流水で水洗し、アコヤ貝貝殻への稜柱層残渣が無いかを調べる;図3(E)、 残渣が無ければ図3(G)(H)の手順で真珠粉の生成される。
【0020】
次亜塩素酸ソーダ水溶液中にスラッジ状に沈殿物の回収手順は、真珠層を取り除いた水溶液中に稜柱層が消石灰に変化してスラッジ状に沈殿しているので亜硫酸ソーダを次亜塩素酸ソーダ水溶液に混ぜて中和させる、;図3(J) 次亜塩素酸ソーダ水溶液中の沈殿物をフィルターで濾し回収する;図3(K)、回収した沈殿物を乾燥させ肥料として生成する。;図3(L) 。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上のように、アコヤ貝の貝殻から真珠層と外殻を化学的に分離し、真珠層は主に化粧品の顔料に、稜柱層は土壌改良の原料(肥料)等に利用するため廃棄物として処理されていたアコヤ貝の有効利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】アコヤ貝貝殻の真珠層と真珠の成分分析(EDX;エネルギー分散X線析)
【図2】本発明の一実施例であるアコヤ貝貝殻を真珠層と稜柱層とに剥離する基本構成図を示す
【図3】本発明の一実施例であるアコヤ貝貝殻を真珠層と稜柱層とに剥離する手順を示す
【符号の説明】
【0023】
1 次亜塩素酸ソーダ水溶液
2 次亜塩素酸ソーダ水溶液を入れる容器
3 アコヤ貝貝殻
4 アコヤ貝貝殻を収納するメッシュ状の容器
5 剥離された稜柱層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アコヤ貝貝殻(アコヤ貝貝殻成分と同等品の貝殻など)を、充分水洗後メッシュ状の容器に収納し、次亜塩素酸ソーダの濃度が約6%の水溶液中に凡そ72時間程放置し、前記アコヤ貝貝殻を真珠層と稜柱層(スラッジ状の沈殿物)とに分離し、1)前記アコヤ貝貝殻から稜柱層が剥離された真珠層を十分に水洗及び乾燥させた後、粉砕機で約500nmの粒子に粉砕して真珠粉を製造する、2)前記剥離された稜柱層がスラッジ状で沈殿した次亜塩素酸ソーダの水溶液を亜硫酸ソーダで中和させた後、スラッジ状の沈殿を回収し乾燥する、3)メッシュ状の容器にアコヤ貝貝殻を収納することで真珠層と稜柱層の回収を容易にしたことを特徴としたアコヤ貝貝殻の剥離方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−52183(P2006−52183A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236259(P2004−236259)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(300050367)日立計測器サービス株式会社 (11)
【Fターム(参考)】