説明

アサガオ類の選択的防除方法

【課題】アサガオ類の選択的防除方法を提供すること。
【解決手段】
グルホシネート、L−グルホシネート、ビアラホス、パラコート及びジクワットから選ばれる一種の化合物又は二種以上の化合物組み合わせをアサガオ類の株の下位部に処理することにより、アサガオ類を選択的に防除する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アサガオ類の選択的防除方法に関する。詳しくは、アサガオ類の下位部にある種の活性成分を処理することによるアサガオ類の選択的防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、全国各地では、従来見られなかった雑草が数多く見られるようになり、それらの防除が課題になっている。これらの雑草の発生は、輸入穀類中に種子が混入し、これを食した家畜の糞が堆肥となり畑にまかれた結果によるものと考えられている。この中の一つのアサガオ類は、つる性で作物や樹木などに絡みつき、場合によっては数メートルに達するという強害雑草である。
【0003】
アサガオ類は、石川県・愛知県・三重県・岐阜県・静岡県・東京都・千葉県等のダイズ畑・水田畦畔・果樹園・畑地・農道・道端などでよく見ることができる。
【0004】
例えば、東海地方において、アサガオ類の発生が最も深刻な問題となっているダイズ畑や一部果樹園では、アメリカアサガオ、マルバアメリカアサガオ、ホシアサガオ、マメアサガオ、マルバルコウ、マルバアサガオ、アサガオの発生が確認されている。そして、東海地方のダイズ栽培は、営農組合や大型農家による大規模栽培が多く、ダイズ畑にアサガオ類が蔓延しダイズに絡みつくと、その防除は極めて困難となり、収穫を放棄せざるをえない場合もある。また、果樹園の場合、アサガオ類が樹に絡みつき、人の手の届かない所まで伸長すると、その防除は非常に難しくなる。
【0005】
このようなアサガオ類の発生による様々な問題の背景には、(i)アサガオ類の発芽期間が長期に渡り一旦防除しても新発生が見られる、(ii)土壌処理除草剤や選択性広葉用茎葉処理除草剤のアサガオ類に対する効果が低い、(iii)非選択性茎葉処理除草剤のアサガオ類に対する除草効果に薬剤間差がある、(iv)非選択性茎葉処理除草剤のダイズ生育期畦間散布技術の普及が遅れていることなどがある。
【発明の開示】
【0006】
本発明者らは、上記課題を検討してきた結果、下記に示す防除方法がアサガオ類を選択的に防除することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明は、
グルホシネート、L−グルホシネート、ビアラホス、パラコート及びジクワットから選ばれる一種の化合物又は二種以上の化合物組み合わせをアサガオ類の株の下位部に処理することによりアサガオ類を選択的に防除する方法を提供するものである。
【0008】
本発明によれば、驚くべきことに、例えば、茎葉処理用除草剤として知られているグリホシネートは、その特性から通常は雑草の処理部分のみ枯殺され、薬剤の移行性は見られないと考えられてきたが、アサガオ類に対して、その株の下位部にグリホシネートを処理すると、特異的に求頂的(上方)移行性を現し、アサガオ類の処理されていない茎の先端部まで枯殺することができる。
【0009】
このような特有の効果は、これまで見られなかった驚くべきことであり、アサガオ類の株の下位部処理という防除方法からして、作物・雑草間差の選択的防除をする際の作物への薬害を抑える上で、本発明の防除方法は、極めて合目的的且つ有用なものである。
【0010】
本発明で用いられる有効成分としての化合物の例としては、グルホシネート、L−グルホシネート、ビアラホス、パラコート及びジクワットから選ばれる一種又は二種以上を挙げることができ、二種の組み合わせ例としては、パラコートとジクワットを挙げることができる。
【0011】
そして、化合物の好例としては、グルホシネート(ラセミ)、L−グルホシネートを挙げることができる。
【0012】
上記化合物は、すべて公知のものである(The Pesticide Manual 13版、2003年、British Crop Protection Council発行参照)。
【0013】
本発明において、防除対象のアサガオ類の例としては、下記のものを挙げることができる。
アメリカアサガオ(Ipomoea hederacea Jacq.)
マルバアメリカアサガオ(Ipomoea hederecea Jacq. var.
integriuscula A. Gray)
マメアサガオ(Ipomoea lacunosa L.)
ホシアサガオ(Ipomoea triloba L.)
マルバルコウ(Ipomoea coccinea L.)
マルバアサガオ(Ipomoea purpurea Roth)
アサガオ(Ipomoea nil Roth)。
【0014】
本発明の方法は、ダイズ栽培、果樹栽培、綿花栽培等の有用作物栽培の場面におけるアサガオ類の防除はもちろんのこと、非農耕地等に広く生育するアサガオ類の防除に対しても、的確に用いることができる。
【0015】
本発明の防除方法で用いる有効成分としての前記化合物は、通常の製剤形態にすることができる。その製剤形態としては、例えば、乳剤、液剤、エマルジョン、水和剤、懸濁剤、顆粒水和剤等を挙げることができる。
【0016】
これらの製剤はそれ自体既知の方法によって調製することができる。例えば、前記の有効成分を、拡展剤、即ち、液体希釈剤及び/又は固体希釈剤、必要な場合には、界面活性剤、即ち、乳化剤及び/又は分散剤及び/又は泡沫形成剤を用いて混合することによって、本発明に従う製剤を調製することができる。
【0017】
拡展剤として水を用いる場合には、例えば有機溶媒を補助溶媒として使用することができる。液体希釈剤としては、例えば、芳香族炭化水素類(例えば、キシレン、トルエン、アルキルナフタレン等)、クロル化芳香族又はクロル化脂肪族炭化水素類(例えば、クロロベンゼン類、塩化エチレン類、塩化メチレン等)、脂肪族炭化水素類[例えば、シクロヘキサン等又はパラフィン類(例えば、鉱油留分、鉱物及び植物油等)]、アルコール類(例えば、ブタノール、グリコール及びそれらのエーテル又はエステル等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、強極性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等)などの有機溶媒及び水を挙げることができる。
【0018】
固体希釈剤としては、例えば、アンモニウム塩及び粉砕天然鉱物(例えば、カオリン、クレー、タルク、チョーク、石英、アタパルガイト、モンモリロナイト、珪藻土等)、粉砕合成鉱物(例えば、高分散ケイ酸、アルミナ、ケイ酸塩等)などを挙げることができる。また、粉剤のための固体担体としては、例えば、粉砕且つ分別された岩石(例えば、方解石、大理石、軽石、海泡石、白雲石等)、無機及び有機物粉の合成粒、有機物質細粒体(例えば、おがくず、ココやしの実のから、とうもろこしの穂軸、タバコの茎等)などを使用することができる。
【0019】
乳化剤としては、非イオン性又は陰イオン性界面活性剤を挙げることができ、適当な非イオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコールにエチレンオキシドを重合付加させた化合物;イソオクチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノールにエチレンオキシドを重合付加させた化合物;ブチルナフトール、オクチルナフトール等のアルキルナフトールにエチレンオキシドを重合付加させた化合物;パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸にエチレンオキシドを重合付加させた化合物;ドデシルアミン、ステアリン酸アミン等のアミンにエチレンオキシドを重合付加させた化合物;ソルビタン等の多価アルコールの高級脂肪酸エステル及びそれにエチレンオキシドを重合付加させた化合物;エチレンオキシドとプロピレンオキシドをブロック重合付加させた化合物等が挙げられる。適当な陰イオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、オレインアルコール硫酸エステルアミン塩等のアルキル硫酸エステル塩;スルホコハク酸ジオクチルエステルナトリウム、2−エチルヘキセンスルホン酸ナトリウム等のアルキルスルホン酸塩;イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム、メチレンビスナフタレンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアリールスルホン酸塩等が挙げられる。
【0020】
分散剤としては、例えば、リグニンサルファイト廃液又はメチルセルロールが適当である。
【0021】
固着剤も製剤(乳剤)に使用することができ、該固着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、天然又は合成ポリマー(例えば、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート等)、天然燐脂質類(例えば、セファリン類、レシチン類)、合成燐脂質類等を挙げることができる。更に、添加剤として鉱物油又は植物油類も使用することができる。
【0022】
着色剤を使用することもでき、該着色剤としては、無機顔料類(例えば、酸化鉄、酸化チタン、プルシアンブルー等)、アリザリン染料、アゾ染料又は金属フタロシアニン染料のような有機染料類、そして更に、鉄、マンガン、ボロン、銅、コバルト、モリブデン、亜鉛などの金属の塩のような微量要素を挙げることができる。
【0023】
製剤は、一般に、有効成分としての前記化合物を0.1乃至95重量%、好ましくは0.5乃至90重量%の範囲内の濃度で含有することができる。
【0024】
本発明の防除方法において有効成分の前記化合物は、前記製剤形態で使用することができ、これらは、例えば、液体製剤散布(watering)、噴霧(spraying)の方法で施用することができる。
【0025】
本発明の方法において用いられる化合物又は化合物組み合わせの施用量は、有効成分の種類、アサガオ類の成長(繁茂)状態、施用時期、気象条件等に応じて実質的な範囲で適宜変えることができる。そして、その施用量は、概して、有効成分量として、0.05kg〜2.0kg/ha、好ましくは、0.1kg〜1.5kg/haの範囲内とすることができる。
【0026】
本発明の優れた効果を以下の実施例により、更に具体的に説明するが、本発明は、これら例示のみにより限定されるべきものではない。
【実施例】
【0027】
生物試験例:
試験例1及び2の供試薬剤
グルホシネート:有効成分を18.5%含有するグルホシネート液剤(市販品)
【0028】
<試験例1 アサガオ類の防除試験>
アサガオ類に対するグルホシネートの殺草特性:
アサガオ類の株の下半分のみにグルホシネートを散布した場合:愛知県安城市内のダイズ圃のへりの部分に発生した匍匐状のアメリカアサガオとホシアサガオを供試した。グルホシネート200倍液を、株の上半分にかからないようにビニールで覆い、下半分のみに散布した。その後、下半部と上半部への影響を観察した。
【0029】
アサガオ類の上位部のみにグルホシネートを散布した場合:ポット中のマメアサガオ(本葉8葉)を供試した。グルホシネート200倍液を茎の下位部にかからないようにしながら上位部のみに散布した。その後、各々への影響を観察した。
【0030】
結果及び考察:
1.グルホシネートは、供試したすべてのアサガオ類、イチビ、アメリカキンゴジカ、ヒロハフウリンホズキ、クサネム、ワルナスビに対して高い効果を示した。特に、アサガオ類に対しては、低薬量の100mL/10aでも高い効果を示した。尚、対照剤のベンタゾンは既報告通りアサガオ類に対しては効果が低かったが、イチビに対しては高かった。また、グリホサートは、これらに対しては、効果発現が特異的に遅く、特に、本試験範囲の圃場レベルのアサガオ類に対しては効果が不十分であった。
【0031】
2.アサガオ類の株下半分のみにグルホシネートを散布した場合、その効果は下半分のみならず、株の先端まで現れた(第1表)。尚、その現象は、まず最初に株の先端部に現れ、その後、それより下に順次現れた。逆に、茎の上部のみに散布された場合は、散布された部位より下の1〜2枚の葉へは影響が見られたが、それ以下の葉や根への影響は見られなかった(第2表)。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
<試験例2 グルホシネートの管理機散布によるダイズ生育期畦間除草の実際とその優位性>
東海地方のダイズ栽培は、営農組合や大型農家による大規模栽培であることが多い。このような状況の中、ダイズ畑では生育期のアサガオ類が大きな問題となっており、その防除方法の確立が急務になっている。アサガオ類が問題となっている愛知県安城市のダイズ畑において、省力化を目指したグルホシネートの管理機散布によるアサガオ類防除の実用性実証試験を行った。
【0035】
1.耕種概要と実験方法
耕種概要と実験方法については、第3表に示した通りである。
【0036】
【表3】

【0037】
2.結果及び考察
1)散布ノズル、散布の原理、散布の実際
散布状況を第1図及び第2図に示した。乗用管理機の前方に市販の散布機を取り付け、地際近くからグルホシネートを散布した。ノズル位置は畦幅やダイズの草高に合わせて変えられる。原理は、薬剤タンクからホースなどを通して畦間の下部に薬剤が散布できるように導き(吊り下げ方式)薬剤を散布することである。一部の農家では、自分自身でこの散布装置を考案しているものもある。今回の散布時間は45分/30aで、大幅な除草時間の短縮が見られた。
【0038】
2)散布後の殺草効果と飛散薬害
散布時(図1、2、3)、ほぼ圃場全面にアサガオ類は発生し、一部はダイズに絡みつき、先端部がダイズの頭上にまで伸長していた。図1にグルホシネートの散布全景写真を示す。図2にグルホシネートの散布部分の写真を示す。図3にグルホシネートの殺草過程の写真を示す。図3中、上段は散布直前(8月9日)、中段は散布4日後(8月13日)、下段は散布後14日(8月23日)の写真である。図4にホシアサガオの茎の先端部(矢印)にまで及んだグルホシネートの枯殺効果(散布14日後、8月23日)を表す写真を示す。上記写真から明らかなように、グルホシネートの除草効果は散布翌日から見られ、4日後、アサガオ類の匍匐部の葉はほとんど枯れた。また、その効果はダイズの頭上まで伸びた茎の先端部まで現れ、この部分では葉や茎が黄変していた。散布14日後、一部、完全に枯れきらなかったものもあったが、大部分のアサガオ類は茎の先端部まで枯れた(図3、4)。尚、ダイズに飛散した場合の薬害は、初生葉と第1葉に見られたが、それ以上の葉位ではほとんど見られなかった。これらの現象より、アサガオ類はダイズよりもグルホシネートに対する感受性が非常に高いものと考えられた。
【0039】
3)ダイズ子実重への影響
グルホシネート無散布区では、アサガオ類が圃場全体に覆いかぶさるように伸長し、ダイズでは倒伏・折れ曲・ねじれなど、形状異常株が多数見られた。その結果、子実重はグルホシネート散布区が193kg/10aであったのに対し、無散布区は96kg/10aと著しく減少し、除草効果が顕著に現れた(第4表)。
【0040】
以上の諸結果、ダイズ生育期圃場におけるグルホシネートの管理機散布は、普及性の高い雑草防除技術であり、今後の普及が期待できる。また、グルホシネートはアサガオ類の茎の下位部のみに散布されることで、ダイズにはほとんど薬害を発生させることなく、茎の先端部まで枯殺する作用のあることが判明した。
【0041】
【表4】

【0042】
<試験例3 ジクワット・パラコート混合液剤によるアサガオ類の防除試験>
試験方法:ポット栽培した市販の草高70cmから100cmのアサガオを供試し、植物体の下部の20cmまでにジクワット・パラコート液剤(有効成分量ジクワット:パラコート=7%:5%)を、ハンドスプレーヤーを用いて散布した(混合液剤量:1000mL/10a、水:100L/10a)。尚、その際、それ以上に薬液が飛散しないように袋がけを行い、飛散を防止した。その後、1週間後及び2週間後に影響を観察した。
結果:1、2週間後の調査でアサガオは先端まで枯れた。
尚、散布直後及び2週間後の状態の写真を添付する(図5及び同6)。
【0043】
<試験例4 ビアラホス液剤によるアサガオ類の防除試験>
試験方法:2005年8月9日に、ダイズ畑の畦間に発生しダイズに絡みついたホシアサガオやアメリカアサガオなどのアサガオ類(草高55cm〜70cm)に対して、地表から地上20cmの高さまでにビアラホス液剤(有効成分量18%)を散布し(液剤量:500〜1500mL/10a、水量:100L/10a)、その後の影響を観察した。
結果:処理翌日より影響が見られ、1週間後には各試験区(液剤量500mL/10a、1000mL/10a、1500mL/10a)で、アサガオ類のつるの先端まで枯れた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、グルホシネートの散布全景を示す写真である。
【図2】図2は、グルホシネートの散布部分を示す写真である。
【図3】図3は、グルホシネートの殺草経過を示す写真である。
【図4】図4は、グルホシネートの枯殺効果を示す写真である。
【図5】図5は、ジクワット及びパラコート混液の故殺効果(散布直後)を示す写真である。
【図6】図6は、ジクワット及びパラコート混液の故殺効果(散布2週間後)を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルホシネート、L−グルホシネート、ビアラホス、パラコート及びジクワットから選ばれる一種の化合物又は二種以上の化合物組み合わせをアサガオ類の株の下位部に処理することにより、アサガオ類を選択的に防除する方法。
【請求項2】
処理する化合物がグルホシネート又はL−グルホシネートである請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−31075(P2008−31075A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205683(P2006−205683)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:日本雑草学会第45回大会 主催者名 :日本雑草学会 開催日 :平成18年4月5日
【出願人】(000232564)バイエルクロップサイエンス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】