説明

アザピリミジン骨格を有する光応答性核酸類

【課題】予期しない収率の減少を生じることなく、光連結が可能な光応答性核酸類の提供。
【解決手段】塩基部分として、式I(式中、Xは、O、S又はNHを示し、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基等を示す。)を代表例として表される核酸類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アザピリミジン骨格を有する光応答性核酸類に関する。
【背景技術】
【0002】
分子生物学の分野の基本的な技術に、核酸の連結がある。核酸の連結は、例えば、ハイブリダイゼーションと組みあわせて、遺伝子の導入や、塩基配列の検出のために使用される。そのために、核酸の連結は、分子生物学の基礎研究だけではなく、例えば、医療分野における診断や治療、あるいは治療薬や診断薬等の開発や製造、工業及び農業分野における酵素や微生物等の開発や製造に使用される極めて重要な技術である。
【0003】
核酸の連結は、例えば、DNAリガーゼ等を使用して従来から行われている。しかし、このような生体内の酵素反応を取り出した反応は、特別な条件設定を行わなければならず、さらに、使用される酵素類が比較的高価で、安定性に乏しい等の欠点を有する。このような欠点を克服するために、酵素類を使用しない核酸の連結の技術が研究されてきた。
【0004】
酵素類を使用しない核酸の連結の技術として、核酸と反応性のある有機化合物を使用する方法がある。近年、光反応を利用した核酸連結技術が、反応の時間的空間的な制御が自由であること、一般的な有機化学反応よりも緩和な条件で反応可能であること等の利点から、注目されるようになってきた。
【0005】
このような光連結技術として、5−シアノビニルデオキシウリジン及びその誘導体(光連結性核酸類、又は光応答性核酸類)を使用した光連結技術(特許文献1:特許第3753938号公報、特許文献2:特許第3753942号公報)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3753938号公報
【特許文献2】特許第3753942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、自ら開発した光応答性核酸類の5−シアノビニルデオキシウリジン構造をもとにして、シアノ基に代わる種々の置換基をビニル基に付加して、さらに新規な光応答性核酸類(光連結性核酸類)の開発研究を行ってきた。
【0008】
従来の光連結に使用されている短波長の光は、高いエネルギーを有するために光化学反応の開始に適している。一方で、短波長の光は、光応答性核酸類を生きた細胞に導入して光照射をする場合には、細胞に悪影響を与えないようにするために、光照射の態様に制約が生じる。このような場合に、細胞に対して安心して光照射するためには、より長波長の光の照射によって光連結が可能であることが望ましい。そこで、本発明者等は、従来よりも長波長の光の照射によって光連結が可能な光応答性核酸類の開発研究を行ってきた。
【0009】
ところが、上記構造をもとに、長波長の光照射で光連結が可能となることを意図して、種々の置換基をビニル基に付加して、光応答性の化合物を合成した場合に、実験の条件下で、光連結反応の収率(効率)が、期待されるよりも非常に低くなる場合があることを見出した。置換基によって所望の特性を付与したとしても、光連結反応の収率(効率)低下の現象が予期せずに生じるとなれば、不都合である。
【0010】
すなわち、予期しない収率の減少を生じることなく、光連結が可能である光応答性核酸類が求められていた。特に、長波長の光照射によって光連結が可能である置換基をビニル基に付加した場合であっても、予期しない収率の減少が生じない光応答性核酸類が求められていた。
【0011】
従って、本発明の目的は、予期しない収率の減少を生じることなく、光連結が可能な光応答性核酸類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記のような予期しない収率の減少を防ぐために、様々な化合物を合成し、光応答性核酸類としての特性を検討してきた。その結果、ビニル基に付加する置換基の構造を改変するのではなく、ビニル基が付加しているピリミジン骨格を6−アザピリミジン骨格とすることによって、上記のような予期しない収率の減少が劇的に抑制されることを見出して、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は、ピリミジン骨格の6位が炭素から窒素に置換された、5−ビニル−6−アザピリミジン構造を有する、光応答性核酸類に関する。
【0014】
従って、本発明は、次の[1]から[10]にある。
[1]
塩基部分として、次の式I又は式II:

(式I)
【化1】

(式中、Xは、O、S又はNHを示し、
R1及びR2は、それぞれ独立して、
水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

(式II)
【化2】

(式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、
水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

で表される基を有する核酸類(ただし、核酸類には、核酸、モノヌクレオチド及びペプチド核酸が含まれる)。
【0015】
[2]
式Iにおいて、
R1が、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基であり、
R2が、水素原子、又はメチル基である、[1]に記載の核酸類。
[3]
式IIにおいて、
R3が、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基であり、
R4が、水素原子、又はメチル基である、[1]に記載の核酸類。
【0016】
[4]
式Iにおいて、
R1が、アルコキシカルボニル基、又は、
ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、ビフェニレン、as−インダセン、s−インダセン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、アセフェナントリレン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、テトラセン、プレイアデン、ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、テトラフェニレン、ビフェニル、1,1’:2’,1”−terフェニル、1,1’:3’,1”−terフェニル、1,1’:4’,1”−terフェニル、1−フェニルナフタレン、2−フェニルナフタレン、1,1’−ビナフチル、1,2’−ビナフチル、2,1’−ビナフチル、2,2’−ビナフチル、
チオフェン、チアントレン、フラン、2H−ピラン、1−ベンゾフラン、2−ベンゾフラン(イソベンゾフラン)、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、1,3−ベンゾチアゾール、イソクロメン、4H−クロメン、キサンテン、フェノキサチイン、ピロール、2Hピロール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1H−ピロリジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、4H−キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、ブテリジン、カルバゾール、β−カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェノチアジン、及びフェノキサジン、ジフェニルジアゼン、フェニル(1−ナフチル)ジアゼン、フェニル(2−ナフチル)ジアゼン、(1−ナフチル)(1−ナフチル)ジアゼン、(1−ナフチル)(2−ナフチル)ジアゼン、(2−ナフチル)(2−ナフチル)ジアゼン、からなる群より選択された芳香族化合物の一価基、若しくは置換基を有するこれらの一価基であり、
R2が、水素原子である、[1]に記載の核酸類。
【0017】
[5]
式IIにおいて、
R3が、アルコキシカルボニル基、又は、
ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、ビフェニレン、as−インダセン、s−インダセン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、アセフェナントリレン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、テトラセン、プレイアデン、ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、テトラフェニレン、ビフェニル、1,1’:2’,1”−terフェニル、1,1’:3’,1”−terフェニル、1,1’:4’,1”−terフェニル、1−フェニルナフタレン、2−フェニルナフタレン、1,1’−ビナフチル、1,2’−ビナフチル、2,1’−ビナフチル、2,2’−ビナフチル、
チオフェン、チアントレン、フラン、2H−ピラン、1−ベンゾフラン、2−ベンゾフラン(イソベンゾフラン)、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、1,3−ベンゾチアゾール、イソクロメン、4H−クロメン、キサンテン、フェノキサチイン、ピロール、2Hピロール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1H−ピロリジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、4H−キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、ブテリジン、カルバゾール、β−カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェノチアジン、及びフェノキサジン、ジフェニルジアゼン、フェニル(1−ナフチル)ジアゼン、フェニル(2−ナフチル)ジアゼン、(1−ナフチル)(1−ナフチル)ジアゼン、(1−ナフチル)(2−ナフチル)ジアゼン、(2−ナフチル)(2−ナフチル)ジアゼン、からなる群より選択された芳香族化合物の一価基、若しくは置換基を有するこれらの一価基であり、
R4が、水素原子である、[1]に記載の核酸類。
【0018】
本発明の核酸類は、光反応によって他の核酸類と光連結が可能な光応答性核酸類であり、光連結性核酸類である。従って本発明は次の[6]にもある。
[6]
[1]から[5]の何れかに記載の核酸類からなる、光連結剤。
【0019】
さらに、本発明は、次の[7]〜[9]にもある。
[7]
[1]から[5]の何れかに記載の核酸類を使用して、光連結を行う方法。
[8]
[1]から[5]の何れかに記載の核酸類と、被連結核酸類とを配置する工程、
光を照射する工程、
を含んでなる、光連結の方法。
[9]
[1]から[5]の何れかに記載の核酸類と、被連結核酸類とを、鋳型核酸類とハイブリッド形成させる工程、
光を照射する工程、
を含んでなる、光連結の方法。
[10]
[1]から[5]の何れかに記載の核酸類の、光連結のための使用。
【0020】
さらに、本発明は、6−アザピリミジン骨格を塩基として有するヌクレオシド化合物にもある。この化合物は、上記光応答性核酸類の合成のための中間体として有用であり、また、これ自体が好適な光応答性を有している。すなわち、本発明は、次の[11]にもある。
[11]
塩基部分として、次の式I又は式II:

(式I)
【化3】

(式中、Xは、O、S又はNHを示し、
R1及びR2は、それぞれ独立して、
水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

(式II)
【化4】

(式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、
水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

で表される基が、リボース部分として、次の式III又は式IV:

(式III)
【化5】


(式IV)
【化6】

で表される基と結合してなるヌクレオシド。
【0021】
[10]の光応答性ヌクレオシドにおいても、式IのR1及びR2、式IIのR3及びR4として、好適に使用可能な基は、本発明の核酸類において述べた基と同様である。従って、本発明は、次の[12]〜[13]にもある。
[12]
式Iにおいて、
R1が、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基であり、
R2が、水素原子、又はメチル基である、[11]に記載の核酸類。
[13]
式IIにおいて、
R3が、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基であり、
R4が、水素原子、又はメチル基である、[11]に記載の核酸類。
【0022】
好適な実施の一態様において、[11]の光応答性ヌクレオシド化合物は、式Iと式IIIとからなる化合物、又は式Iと式IVとからなる化合物であり、好ましくは式Iと式IIIとからなる化合物である。好適な実施の一態様において、式IにおいてR2が水素原子である。
【0023】
従って、本発明は、次の[14]にもある。
[14]
次の式V:

(式V)
【化7】

(式中、R1は、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

で表されるヌクレオシド。
【0024】
本発明に係る6−アザピリミジン骨格を塩基部分に有する光応答性核酸類では、上記のような予期しない収率の減少が劇的に抑制されたものとなっている。この事実から、本発明者等は、従来のピリミジン骨格を塩基部分に有する光応答性核酸類で生じていた予期しない収率の減少を生じていた原因が、置換基を有するビニル基がピリミジン骨格の6位の炭素原子を含む分子内環化にあるのではないかと考えている。例えば、ビニル基の置換基としてフェニル基が付加した場合に、従来のピリミジン骨格では、ピリミジン環の5位の炭素原子と6位の炭素原子、ビニル基の2個の炭素原子、ビニル基と結合したフェニル基の一辺に含まれる2個の炭素原子を含んでなる6員環構造を分子内環化によって取り得る一方で、6−アザピリミジン骨格ではこのような構造をとり得ない。すなわち、本発明は、6−アザピリミジン骨格を塩基部分に有することによって、分子内環化が抑制された光応答性核酸類にもある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、新規な骨格を有する光応答性核酸類(光連結性核酸類)を提供することができる。本発明による光応答性核酸類(光連結性核酸類)は、6−アザピリミジン骨格を有し、これによって多様な置換基をビニル基に結合させた場合であっても、予期しない収率の減少が生じることがない。
【0026】
本発明によれば、このように多様な置換基を使用することができるために、多様な性質を光応答性核酸類に付与することができる。特に、ピリミジン骨格と相互作用して、ピリミジン骨格のπ(パイ)共役系を拡張可能な置換基(例えば、1、2又は3以上の芳香環を有する置換基)を導入した場合でも、予期しない収率の減少が生じることがないために、長波長の光の照射によって光連結が可能となる性質を光応答性核酸類に付与することができる。従って、本発明による光応答性核酸類は、短波長から長波長までの幅広い光の波長のなかから、応答する光の波長を自由に選んで、光応答性が付与されたものとすることができる。
【0027】
本発明によれば、長波長の光の照射によって、光連結が可能となるために、生きた細胞に対して光応答性核酸類を導入した場合であっても、安心して光照射を行うことができる。また、本発明によれば、幅広い波長のなかから、応答する光の波長を自由に選んで、光応答性を付与することができるために、応答波長の異なる光応答性核酸類を同時に使用して、光照射の波長を順に変化させることによって、所望の光連結を順に行うことができる。
【0028】
本発明によれば、従来のピリミジン骨格による光応答性核酸類では予期しない収率の減少が生じていたような置換基を使用して、多様な性質を光応答性核酸類に付与することができるために、酵素による構築が不可能であって光応答性核酸類によって初めて構築可能となった枝分かれ核酸構造や、R型構造などの特殊な核酸構造を、さらに制約無く構築すると同時に、新しい機能性を付与することができる。これによって、新しいナノ構造体の構築や遺伝子診断に途を拓くものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は本発明に係るCVAU 含有ODNの光連結反応実験の結果を示すHPLCのチャートである。
【図2】図2は本発明に係るBPVAU含有ODNの光連結反応実験の結果を示すHPLCのチャートである。
【図3】図3は本発明に係るBPVAU含有ODNの光連結反応実験の結果を示すHPLCのチャートである。
【図4】図4は本発明に係るBPVAU含有ODNの光連結反応実験の結果をまとめたグラフである。
【図5】図5は比較例であるBPVU含有ODNと、本発明に係るBPVAU含有ODNの光連結反応実験の結果を対比した表である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に挙げる実施の形態によって好適に実施することができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明は、塩基部分として、次の式I又は式II:

(式I)
【化8】

(式中、Xは、O、S又はNHを示し、
R1及びR2は、それぞれ独立して、
水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

(式II)
【化9】

(式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、
水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

で表される基を有する核酸類(ただし、核酸類には、核酸、モノヌクレオチド及びペプチド核酸が含まれる)にある。
【0032】
上記核酸類は、5−ビニル−6−アザピリミジン骨格を有することによって、5−ビニル−ピリミジン骨格の場合に生じていた、予期しない収率の低下が解消されたものとなっている。
【0033】
式Iにおいて、Xは、一般に、O(酸素原子)、S(イオウ原子)、又はNH(イミノ基)であり、好ましくは、O(酸素原子)、又はNH(イミノ基)であり、特に好ましくは、NH(イミノ基)である。
【0034】
式Iにおいて、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基(カルバモイル基)、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基である。
【0035】
アルキル基は、一般にC1〜C6の炭素原子数、好ましくはC1〜C3の炭素原子数、さらに好ましくはC1〜C2の炭素原子数とすることができる。
【0036】
アルコキシ基は、一般にC1〜C6の炭素原子数、好ましくはC1〜C3の炭素原子数、さらに好ましくはC1〜C2の炭素原子数とすることができる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基を例示することができ、特にメトキシ基及びエトキシ基が好ましい。
【0037】
アシル基は、一般にC1〜C6の炭素原子数、好ましくはC1〜C3の炭素原子数、さらに好ましくはC1〜C2の炭素原子数とすることができる。
【0038】
アルコキシカルボニル基としては、一般にC2〜C6、好ましくはC2〜C4のアルコキシカルボニル基を使用することができる。具体的にはメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基を例示することができ、特にメトキシカルボニル基及びエトキシカルボニル基が好ましい。
【0039】
好適な実施の一態様において、R1及びR2は、何れか一方を水素原子とし、もう一方を上述した水素原子以外の基とすることができる。好適な実施の一態様において、R1を、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基とし、且つ、R2を水素原子とすることができる。好適な実施の一態様において、R1を、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基とし、且つ、R2を水素原子とすることができる。
【0040】
好適な実施の態様において、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基は、一般に1〜10個、好ましくは1〜8個、さらに好ましくは1〜6個、さらに好ましくは1〜4個、特に好ましくは1〜3個の範囲にある環を含んでおり、これらは、複素環式化合物の一価基であってもよい。
【0041】
好適な実施の態様において、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基は、一般には4〜8員環、好ましくは4〜7員環、さらに好ましくは4〜6員環、さらに好ましくは5〜6員環から形成されており、これらは、複素環式化合物の一価基であってもよい。好適な実施の態様において、複素環は、N(窒素原子)、O(酸素原子)、及び/又はS(イオウ原子)を含む複素環とすることができる。
【0042】
好適な実施の態様において、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基として、6−アザピリミジン骨格に結合したビニル基とπ(パイ)共役系を形成可能な基を挙げることができる。従って、好適な実施の態様において、置換基を有する芳香族化合物の一価基の置換基として、芳香環と一体となって共役系を形成可能な基を挙げることができる。
【0043】
好適な実施の態様において、置換基を有する芳香族化合物の一価基の置換基として、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、及びアルコキシカルボニル基を挙げることができ、好ましくは、ハロゲン原子、アルコキシ基、及びアルコキシカルボニル基を挙げることができる。ハロゲン原子としては、好ましくはフッ素原子、塩素原子を挙げることができ、さらに好ましくはフッ素原子を挙げることができる。アルキル基としては、上述したアルキル基を好適に使用することができる。アルコキシ基としては、上述したアルコキシ基を好適に使用することができる。アルコキシカルボニル基としては、上述したアルコキシカルボニル基を好適に使用することができる。
【0044】
好適な実施の態様において、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基として、ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、ヘプタレン、ビフェニレン、as−インダセン、s−インダセン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、アセフェナントリレン、アセアントリレン、トリフェニレン、ピレン、クリセン、テトラセン、プレイアデン、ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、テトラフェニレン、ビフェニル、1,1’:2’,1”−terフェニル、1,1’:3’,1”−terフェニル、1,1’:4’,1”−terフェニル、1−フェニルナフタレン、2−フェニルナフタレン、1,1’−ビナフチル、1,2’−ビナフチル、2,1’−ビナフチル、2,2’−ビナフチルの一価基、及び置換基を有するそれらの一価基を例示することができる。
【0045】
好適な実施の態様において、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基として、例えば、チオフェン、チアントレン、フラン、2H−ピラン、1−ベンゾフラン、2−ベンゾフラン(イソベンゾフラン)、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、1,3−ベンゾチアゾール、イソクロメン、4H−クロメン、キサンテン、フェノキサチイン、ピロール、2Hピロール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、1H−ピロリジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、4H−キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、ブテリジン、カルバゾール、β−カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フェノチアジン、及びフェノキサジン、ジフェニルジアゼン、フェニル(1−ナフチル)ジアゼン、フェニル(2−ナフチル)ジアゼン、(1−ナフチル)(1−ナフチル)ジアゼン、(1−ナフチル)(2−ナフチル)ジアゼン、(2−ナフチル)(2−ナフチル)ジアゼンの一価基、及びさらに置換基を有するそれらの一価基を例示することができる。
【0046】
好適な実施の態様において、特に好適な置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基として、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、terフェニル、フェニルナフタレン、チオフェン、フラン、チアゾール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾチアゾール、インドール、ジフェニルジアゼンの一価基、及び置換基を有するそれらの一価基を例示することができる。さらに、特に好適な置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基として、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、terフェニル、フェニルナフタレンの一価基、及び置換基を有するこれらの一価基を例示することができる。
【0047】
好適な実施の態様において、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基として、フェニル基、ナフタレン−1−イル、ナフタレン−2−イル、アントラセン−1−イル、アントラセン−2−イル、アントラセン−9−イル、ピレン−1−イル、ピレン−2−イル、ピレン−4−イル、チオフェン−2−イル、チオフェン−3−イル、フラン−2−イル、フラン−3−イル、ピロール−2−イル、ピロール−3−イル、ベンゾフラン−2-イル、ベンゾフラン−3−イル、イソベンゾフラン−1−イル、イソベンゾフラン−3−イル、ベンゾチオフェン−2-イル、ベンゾチオフェン−3−イル、イソベンゾチオフェン−1−イル、イソベンゾチオフェンン−3−イル、1,3−ベンゾチアゾール−2−イル、1,3−チアゾール−2−イル、1,3−チアゾール−4−イル、1,3−チアゾール−5−イル、インドール−2−イル、インドール−3−イル、イソインドール−1−イル、イソインドール−3−イル、カルバゾール−1−イル、カルバゾール−2−イル、カルバゾール−3−イル、カルバゾール−4−イル、ビフェニル−2−イル、ビフェニル−3−イル、ビフェニル−4−イル、ジフェニルジアゼン−2−イル、ジフェニルジアゼン−3−イル、ジフェニルジアゼン−4−イル、及びさらに置換基を有するこれらの一価基を例示することができる。
【0048】
好適な実施の態様において、特に好適な置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基として、フェニル基、ナフタレン−2−イル、チオフェン−2−イル、フラン−2−イル、ベンゾフラン−2-イル、ベンゾチオフェン−2-イル、1,3−ベンゾチアゾール−2−イル、1,3−チアゾール−4−イル、1,3−チアゾール−5−イル、インドール−2−イル、カルバゾール−2−イル、ビフェニル−4−イル、ジフェニルジアゼン−4−イル、及びさらに置換基を有するこれらの一価基を例示することができる。
【0049】
好適な実施の態様において、使用可能な置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基の構造式を、次に例示する。次に例示した構造式では、上記R2が水素原子であり、上記R1をRと記載している。メチル基と区別するために、ビニル基との結合部分に、波線を付した。
【0050】
【化10】

【0051】
好適な実施の態様において、使用可能な置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基の構造式を、次に例示する。次に示した構造式では、ビニル基との結合部分を明示するために、結合したビニル基を含めて示しているが、例示されている一価基は、ビニル基を含まない一価基である。
【0052】
【化11】

【0053】
式IIにおいて、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基(カルバモイル基)、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基である。
【0054】
R3及びR4において好適に使用可能な水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基(カルバモイル基)、アルコキシカルボニル基、及び置換又は無置換の芳香族化合物の一価基としては、R1及びR2において上述したものと同様であり、上述して例示した構造式も含まれる。
【0055】
好適な実施の一態様において、R3及びR4は、何れか一方を水素原子とし、もう一方を上述した水素原子以外の基とすることができる。好適な実施の一態様において、R3を、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基とし、且つ、R4を水素原子とすることができる。好適な実施の一態様において、R3を、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基とし、且つ、R4を水素原子とすることができる。
【0056】
本発明における核酸類とは、核酸及びペプチド核酸(PNA)を含み、さらにモノヌクレオチドを含む。核酸としては、天然の核酸であるDNA及びRNAが含まれ、さらに、非天然(人工)の核酸であるLNA(BNA)等の修飾核酸が含まれる。好ましい核酸類として、DNAを挙げることができる。
【0057】
本発明において、光連結(光ライゲーション)とは、光照射を行って、光反応を生じさせて、核酸類等を光反応によって連結することである。このような光連結反応を生じる能力を光連結性又は光連結能と呼び、あるいは光応答性と呼ぶ。本発明において、光反応によって生じた連結(結合)は可逆的である。
【0058】
光連結のための光照射に使用される光の波長は、ビニル基に付加する置換基を選択することによって短波長から長波長までの間から、例えば330nm〜400nmの範囲から、選択することができる。ビニル基に付加する置換基として、ビニル基を含めてπ(パイ)共役系を形成可能な置換基を選択することで、より長波長の光、例えば360〜400nmの範囲、例えば370〜400nmの範囲、例えば380〜400nmの範囲、例えば380〜390nmの範囲の波長の光によって、光連結可能な光応答性核酸類を得ることができる。光照射に好適に使用される光として、上記範囲から選択された単波長のレーザー光を挙げることができる。長波長の光は、短波長の光よりもエネルギーが低いために、生きた細胞に対しても安心して照射することができる。このような長波長の光の照射によって光連結可能であって、予期しない収率の減少が生じるおそれのない光応答性核酸類は、本発明によって初めて得られたものである。
【0059】
好適な実施の態様において、光照射の照射時間は、1秒以上、10秒以上、30秒以上、1分間以上、5分間以上、10分間以上、又は15分間以上の時間とすることができ、60分間以下、45分間以下、又は30分間以下の時間とすることができる。好適な実施の一態様において、光照射の照射時間は、1分間〜60分間、好ましくは1分間〜45分間、さらに好ましくは5分間〜45分間、さらに好ましくは5分間〜30分間、さらに好ましくは10分間〜30分間、さらに好ましくは15分間〜30分間の時間とすることができる。照射時間は操作上の観点からは短時間であるほうが好ましく、光反応の完全な進行の観点からは長時間であるほうが好ましい。本発明によれば、長波長の光の照射によっても、予期しない収率の減少が生じるおそれなく、光連結可能な光応答性核酸類を得ることができるので、生きた細胞などに対しても、長時間の光照射を安心して行うことができる。
【0060】
好適な実施の一態様において、光連結は、鋳型核酸類の存在下で行われる。例えば、光応答性核酸類、これと光連結される被連結核酸類、及び鋳型核酸類とのハイブリッド形成(ハイブリダイズ)をいったん行い、次いで、形成されたハイブリッドに対して光照射を行って、光連結を行う。ハイブリッド形成は、通常の温度、pH、塩濃度、緩衝液等の条件下で行うことができるが、光連結反応を行う溶液と同一の溶液で行うことが好ましい。ハイブリッド形成は、緩衝作用のある塩を含む反応溶液の中で行われることが好ましい。反応溶液のpHが6.5〜8.5の範囲、特にpH6.7〜7.7の範囲にあることが好ましい。緩衝作用のある塩の濃度が5〜250mMの範囲にあることが好ましく、特に10〜100mMの範囲に有ることが好ましい。緩衝作用のある塩としては、カコジル酸塩、リン酸塩、トリス塩をあげることができるが、カコジル酸塩であることが好ましい。アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩を含むことが好ましく、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩として、例えば塩化ナトリウム及び/又は塩化マグネシウムを含むことが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0062】
[5−ヨード−6−アザ−2’−デオキシウリジンの合成]
次のスキーム1に従って、5−ヨード−6−アザ−2’−デオキシウリジンの合成を行った。
【0063】
(スキーム1)
【化12】

【0064】
[5-Iodo-6-azauracil (2)合成]
6-azauracil (8.0 g, 70.8 mmol)をDMF (150 mL)に溶かし、Iodine (36 g, 142 mmol)、KOH (16 g, 285 mmol)を加え、40 ℃ で24時間撹拌した。反応の進行をTLC (CHCl3: MeOH=9:1)で確認し、(新たなピーク:原料=6: 4)、ろ過によりKOHを取り除いた。シリカゲルカラム ( 300 ml)で精製(CHCl3: MeOH=100: 0- 95:5)し、目的化合物を(5.56 g, 23.4 mmol, 収率 33%)得た。更に同様の反応で4.55 g, を得た。
【0065】
[5-Iodo-6-aza-2’-deoxy-3’, 5’-bis-O-p-toluoyl-uridine (3)合成]
5-ヨード-6-アザウラシル (4.76 g, 20 mmol)をヘキサメチルジシラザン (HMDS) (75 ml)に懸濁させた後、トリメチルシリルクロライド (7.5 ml, 40.5 mmol)を添加して、オイルバスにて125 ℃, 4時間撹拌した。反応終了後、エバポレーターでHMDSを除去し、更に真空ポンプで3時間乾燥させた。真空引きを終えてからクロロホルム (120 ml)に溶かし込み1′−クロロ−3′,5′−O−p−ジトリオイルデオキシリボース(クロロシュガー)(10 g, 25.8 mmol)とヨウ化銅 (4.19 g, 25.8 mmol)を添加し室温で24時間撹拌した。反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (240 ml)加えて反応を終了させた。セライトを用いたろ過でヨウ化銅の粉末を除去し、得られた溶液の水層を塩化メチレンで分液した。有機相を合わせた後、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて展開溶媒をCHCl3: MeOH=10: 0から98: 2に変化させて精製し白色固体の目的化合物 (5.4 g 9.1 mmol, 収率 35%)を得た。
【0066】
[5-Iodo-6-aza-2’-deoxyuridine (4)合成]
5-Iodo-6-aza-2’-deoxy-3’,5’-bis-O-toluoyl-uridine (3.0 g, 5.07 mmol)を0.6 M ナトリウムメトキシド/ メタノール溶液 (150 ml)に懸濁させた。室温で24時間撹拌した。TLC (CHCl3: MeOH=9:1)にて原料消失を確認した後、イオン交換樹脂(Dawex 50)をpH試験紙で確認しながら中性になるまで加えた。イオン交換樹脂を桐山ろ過で取り除いた後、 シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて展開溶媒をCHCl3: MeOH=9:1で精製し白色固体の目的化合物 (1.26 g, 3.55 mmol, 収率 75%)を得た。
【0067】
[6−アザウラシル骨格を有する光応答性核酸の合成]
次のスキーム2に従って、6−アザウラシル骨格を有する光応答性核酸の合成を行った。
【0068】
(スキーム2)
【化13】

【0069】
[5-Carbomehoxyvinyl -6-aza-2’-deoxyuridine (CVAU) (5)の合成]
パラジウムアセテイト (40 mg, 0.16 mmol)をDMF (1000 ml)に溶かし込み、そこへ粉末のままの5-ヨード-6-アザ-2’-デオキシウリジン (600 mg, 1.66 mmol)を加え懸濁させた。更にトリブチルアミン (400 μl, 1.68 mmol)、 メチルアクリレート (440 μl, 5.08 mmol)を加え、マイクロウェーブによる加熱で100 ℃、4分間の反応を行った。反応後、TLC (CH3Cl: MeOH= 9: 1)より原料消失を確認した。ろ過によりパラジウム粉を除去し、シリカゲルカラムにより精製を行い、目的化合物 (210 mg, 0.66 mmol, 收率40%)を得た。
【0070】
[5-Carbomehoxyvinyl -6-aza-2’-deoxy-5’-O-DMTr-uridine(6) 合成]
CVAU (200 mg, 0.65 mmol)をピリジンで3回共沸した。そこへ脱水ピリジン (0.5 ml)を加え、4, 4’- dimethoxytritylchloride (300 mg , 0.72 mmol) 、DMAP (26 mg, 0.21 mmol) を添加した後に、TEA (90 μl, 0.72 mmol)を加えて室温で18時間撹拌した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて展開溶媒をCHCl3: MeOH=98: 2から95: 5に変化させて精製し薄黄色い固体 (320 mg, 0.52 mmol, 72%)を得た。
【0071】
[5-Carbomehoxyvinyl -6-aza-2’-deoxy-5’-O-DMTr-uridine phosphoramidite(7)合成]
アセトニトリル (0.5 mL)で共沸した5’-O-DMTr-CVAU (200 mg, 0. 32 mmol)をアセトニトリル(1.0 ml)に溶解させた後、反応溶液に2-cyanoethyl-N,N,N’,N’-tetraisopropylphosphorodiamidite (104 mL, 0.32 mmol)と0.25 M 5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール(5-Benzylthio-1H-tetrazole)(BTT)の(1.5 mL, 0.36 mmol)を加えて、反応溶液を室温で2時間撹拌した。反応溶液を脱酢酸処理した酢酸エチル (40 ml )で3回抽出し、Sat. NaHCO3 aq. (40 ml)とsat. NaCl aq.(40 ml)で洗浄した。有機相をMgSO4で乾燥し、溶媒を除去した。ゴムシールボトルにアセトニトリルで移し3回共沸し、目的化合物 (収量 195 mg, 0.24 mmol、收率 75%)を得た。
【0072】
CVAU含有ODNの合成]
得られたCVAUアミダイト (7)を脱水のアセトニトリル (2.4 ml)に溶解させ、ABI3400にてODN(CVAU ): 5’-d(CVAUGCGTG)-3’ を合成した。合成後、28%アンモニア水を用いて55 ℃で8時間の脱保護を行った。脱保護後、HPLCにて精製を行い目的配列であるODN(CVAU )を得た。また、このときMALDI-TOF MSによる質量分析を行い同定した。(elution with a solvent mixture of 50 mM ammonium formate, pH 7.0, linear gradient over 30 min from 3% to 20% acetonitrile, 1.0 ml/ min)。
calcd. for ODN(CVAU): [(M+H)+] 1879.35, found 1879.39.
【0073】
CVAU含有ODNを用いた光連結反応]
次のスキーム3に従いCVAU 含有ODNを用いた光照射実験を行った。
【0074】
(スキーム3)
【化14】

【0075】
ODN(T) (5’-TGTGCT-3’, 10 μM)とODN(CVAU) (5’-CVAUGCGTG-3’, 10 μM)の光連結反応をODN(6A) (5’-CACGCAAGCACA-3’, 12 μM)を鋳型核酸に用いて50 mMカコジル酸ナトリウム、100 mM NaCl存在下で行った(total volume: 20 μl)。UV-LED照射器を用いて366 nm光を0 ℃で0, 15, 30分間照射した光反応物のHPLCの分析結果を図1に示す。このとき。HPLCにおける移動相の条件はギ酸アンモニウム:アセトニトリルで3〜10%/ 0〜20 min, 10〜30%/ 20〜30 minと二段階に変化させたものである。30分間の光照射で新しく生成したピークを確認した。反応効率は13%であった。
【0076】
[6−アザウラシル骨格を有する光応答性核酸の合成]
次のスキーム4に従って、6−アザウラシル骨格を有する光応答性核酸の合成を行った。
【0077】
(スキーム4)
【化15】

【0078】
[5-Biphenylvinyl -6-aza-2’-deoxyuridine (BPVAU) (8)合成]
5-ヨード-6-アザ-2’-デオキシウリジン (1.2 g, 3.38 mmol)をDME (2.5 ml)に溶かし込み、Pd(PPh3)4 (390 mg, 0.36 mmol)と2.0 mlのH2Oに溶かした K2CO3 (468 mg, 3.38 mmol)を7.0 mL マイクロウェーブバイアルに順に加えた後、室温で10分間撹拌した。そこへBiphenylvinyl-boronic acid (760 mg, 3.6 mmol)と DME (3 ml)を加えてマイクロウェーブを用いて100 ℃で2分間加熱した。TLC (CHCl3: MeOH= 9: 1)で原料消失を確認した後シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて展開溶媒をCHCl3: MeOH= 9: 1で精製し薄黄色い固体の目的化合物 (506 mg , 1.24 mmol, 収率 38%)を得た。
【0079】
[5- Biphenylvinyl -6-aza-2’-deoxy-5’-O-DMTr-uridine (9)合成]
BPVAU (480 mg, 1.18 mmol)をピリジンで3回共沸した。そこへ脱水ピリジン (1.5 ml)を加え、4, 4’- dimethoxytritylchloride (470 mg , 1.42 mmol) 、DMAP (43 mg, 0.35 mmol) を添加した後に、TEA (200 μl, 1.42 mmol)を加えて室温で18時間撹拌した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて展開溶媒をCHCl3: MeOH=98: 2から95: 5に変化させて精製し薄黄色い固体 (500 mg, 0.71 mmol, 60%)を得た。
【0080】
[5- Biphenylvinyl -6-aza-2’-deoxy-5’-O-DMTr-uridine phosphoramidite (10)合成]
アセトニトリル (0.5 mL)で共沸した5’-O-DMTr-BPVAU (500 mg, 0. 71 mmol)をアセトニトリル(1.5 ml)に溶解させた後、反応溶液に2-cyanoethyl-N,N,N’,N’-tetraisopropylphosphorodiamidite (220 μL, 0.71 mmol)と0.45 M tetrazoleのアセトニトリル溶液 (1.58 ml, 0.71 mmol)を加えて、反応溶液を室温で2時間撹拌した。反応溶液を脱酢酸処理した酢酸エチル (10 ml )で3回抽出し、Sat. NaHCO3 aq. (10 ml)とsat. NaCl aq.(10 ml)で洗浄した。有機相をMgSO4で乾燥し、溶媒を除去した。ゴムシールボトルにアセトニトリルで移し3回共沸し、目的化合物 (収量 645 mg, 0.71 mmol、收率 quant.)を得た。
【0081】
BPVAU含有ODNの合成]
得られたBPVAUアミダイト (320 mg)を脱水のジクロロメタン (3.6 ml)に溶解させ、ABI3400にてODN(BPVAU ): 5’-d(BPVAUGCGTG)-3’ を合成した。合成後、28%アンモニア水を用いて55 ℃で8時間の脱保護を行った。脱保護後、HPLCにて精製を行い目的配列であるODN(BPVAU )を得た。また、このときMALDI-TOF MSによる質量分析を行い同定した。(elution with a solvent mixture of 50 mM ammonium formate, pH 7.0, linear gradient over 30 min from 3% to 20% acetonitrile, 1.0 ml/ min)。
calcd. 1988.41 for ODN(BPVAU ) [(M + H)+] found 1988.88
【0082】
BPVAU含有ODNを用いた光連結反応]
次のスキーム5に従って、DNA光連結反応を行なった。
【0083】
(スキーム5)
【化16】

【0084】
ODN(T) (5’-TGTGCT-3’, 10 μM)とODN(BPVAU) (5’-BPVAUGCGTG-3’, 10 μM)の光連結反応をODN(6A) (5’-CACGCAAGCACA-3’, 12 μM)を鋳型核酸に用いて50 mMカコジル酸ナトリウム、100 mM NaCl存在下で行った(total volume: 40 μl)。UV-LED照射器を用いて366 nm光を0 ℃で1, 5, 20秒間照射したときの分析結果を図2に示す。HPLCにおける移動相の条件はギ酸アンモニウム:アセトニトリルで3〜10%/ 0〜20 min, 10〜50%/ 20〜40 minと二段階に変化させたものである。UV-LEDによる光照射では新しく生成したピークを確認したが、ODN(T)の減少から反応効率は33%であった。
【0085】
調整した水溶液をそれぞれ100 μlずつを用いて、照射分光器で366 nm, 384 nm, 397 nmの光を20000カウント照射した。図3にHPLC分析の結果を示す。また各波長におけるODN(T)の減少率を図4に示す。このとき、HPLCにおける移動相の条件はギ酸アンモニウム:アセトニトリルで3〜10%/ 0〜20 min, 10〜50%/ 20〜40 minと二段階に変化させたものである。
【0086】
366 nmでのconversionが一番高く33%であった。また、光連結の為の励起波長が397 nmという長波長であっても連結が可能であるというこれまでの光応答性核酸にない性能を有していることが分かった。
【0087】
[ウラシル骨格を有する光応答性核酸の合成]
次のスキーム6に従って、ウラシル骨格を有する光応答性核酸の合成を行った。
【0088】
(スキーム6)
【化17】

【0089】
[5-ビフェニルビニル-2’-デオキシウリジン (2) 合成]
5-ヨード-2’-デオキシウリジン (280 mg, 0.8 mmol)をDMF (30 mL)、超純水 (30 mL)の混合溶媒に溶かし、トランス-2-(4-ビフェニル)-ビニル ボロン酸 (180 mg, 0.8 mmol)、Pd(PPh3) (92 mg, 0.08 mmol)、NaOH (860 mg, 16 mmol) を順に加えた後、マイクロウェーブを用いて反応溶液を100 ℃で10分間加熱した。原料消失を確認し、溶媒を除去後にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製 (CHCl3: MeOH= 9: 1)を行い、2 (120 mg, 0.30 mmol、収率37%)を得た。
1H-NMR (300 MHz,DMSO): 11.6 (br.s, 1H, NH); 8.24 (s, 1H, H-C(6)); 7.69-7.32 (m, 10H, arom. H, CH=CH); 6.93 (d, 1H, J= 16.5, CH=CH); 6.18 (d, 1H, J= 6.3, H-C(1’)); 5.27 (d, 1H, J= 4.5, H-C(3’-OH));5.22 (t, 1H, J= 5.1, H-C(5’-OH)) 4.30 (m, 1H, H-C(3’)); 3.81 (m, 1H, H-C(4’)); 3.72-3.59 (m, 2H, , H-C(5’)); 2.26-2.15 (m, 2H, Ha-C(2’)).
【0090】
[5-ビフェニルビニル-2’-デオキシ-5’-O-ジメトキシトリチル-ウリジン (3) 合成]
1 (110 mg 0.27 mmol)にピリジン(1 mL) を加えジメトキシトリチルクロリド (110 mg, 0.32 mmol)、DMAP (10 mg, 0.08 mmol)、トリエチルアミン (50 μL, 0.35 mmol)を加えて一昼夜撹拌した。反応終了後にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製 (CHCl3: MeOH= 95: 5)を行い、3 (110 g, 0.15 mmol、収率57%) を得た。
【0091】
[5- ビフェニルビニル- 2’- デオキシ- 5’- O- ジメトキシトリチル-ウリジン シアノエチルフォスフォロアミダイト (4) 合成]
3を (110 mg , 0.15 mmol) をアセトニトリル (1.0 ml)で共沸した後アセトニトリル(1.0 ml)、2- シアノエチル-N,N,N’,N’- テトライソプロピルフォスフォロアミダイト (50 μL, 0,15 mmol)と0.25 M 5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール (0.95 ml)を加えて2時間撹拌した。反応終了後にアセトニトリルをエバポレーターで蒸発させ、脱酢酸した酢酸エチル (10 ml、3回)と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液 (15 ml)で分液し硫酸マグネシウムを用いて脱水した。硫酸マグネシウムを濾過で取り除いた後、溶媒を除去し4 (120 mg, 0.12 mmol、収率81%)を得た。
【0092】
BPVU含有ODNを用いた光連結反応]
比較例として、BPVU含有ODNを用いた光連結反応を、BPVAU含有ODNを用いた光連結反応と同様に行った。その結果を比較して、図5に示す。図5の表において、Nは6位が窒素原子で置換されているBPVAU含有ODNの結果を示し、CHは6位が炭素原子のままであるBPVU含有ODNの結果を示している。同じ実験条件下において、BPVAU含有ODNでは表に示した収率で光連結された目的物を得ることができたのに対して、BPVU含有ODNは光連結された目的物をほとんど得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、新規な骨格を有する光応答性核酸類(光連結性核酸類)を提供することができる。本発明の光応答性核酸類は、置換基導入の自由度が高いために、多様な性質を有する一方で、予期しない収率の減少が生じることがない。特に、長波長の光の照射によって光連結が可能な光応答性核酸類とすることができる。従って、本発明は、産業上有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基部分として、次の式I又は式II:

(式I)
【化18】

(式中、Xは、O、S又はNHを示し、
R1及びR2は、それぞれ独立して、
水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

(式II)
【化19】

(式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、
水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

で表される基を有する核酸類(ただし、核酸類には、核酸、モノヌクレオチド及びペプチド核酸が含まれる)。
【請求項2】
式Iにおいて、
R1が、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基であり、
R2が、水素原子、又はメチル基である、請求項1に記載の核酸類。
【請求項3】
式IIにおいて、
R3が、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基であり、
R4が、水素原子、又はメチル基である、請求項1に記載の核酸類。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の核酸類からなる、光連結剤。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載の核酸類を使用して、光連結を行う方法。
【請求項6】
塩基部分として、次の式I又は式II:

(式I)
【化20】

(式中、Xは、O、S又はNHを示し、
R1及びR2は、それぞれ独立して、
水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

(式II)
【化21】

(式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、
水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基を示す。)

で表される基が、リボース部分として、次の式III又は式IV:

(式III)
【化22】


(式IV)
【化23】


で表される基と結合してなるヌクレオシド。
【請求項7】
式Iにおいて、
R1が、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基であり、
R2が、水素原子、又はメチル基である、請求項6に記載のヌクレオシド。
【請求項8】
式IIにおいて、
R3が、アルコキシ基、アシル基、シアノ基、カルボキサミド基、アルコキシカルボニル基、又は、置換若しくは無置換の芳香族化合物の一価基であり、
R4が、水素原子、又はメチル基である、請求項6に記載のヌクレオシド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−241754(P2010−241754A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93943(P2009−93943)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】