説明

アシルオキシメチルビニルケトン類の製造方法

【課題】有毒な水銀塩および/または高価な試薬を利用することなく、工業的に有利にアシルオキシメチルビニルケトン類を製造する方法を提供する。
【解決手段】共役ジエン系化合物、カルボン酸及び分子状酸素を、白金族金属及びヘテロポリ酸又はその塩を無機担体に担持してなる触媒を用いて反応させることを特徴とするアシルオキシメチルビニルケトン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成上有用なビルディング・ブロックであるアシルオキシメチルビニルケトン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アシルオキシメチルビニルケトン類は、典型的には、下記一般式(1)で示され、エステル、ケトン、およびオレフィンの3つの異なる官能基をもつ分子であり、有機合成上有用なビルディング・ブロックである。
【0003】
【化1】

【0004】
(上記式中、R、R、R及びRは水素原子又は任意の有機基であり、Rはカルボン酸残基を表す。)
【0005】
アシルオキシメチルビニルケトン類の三つの異なる官能基は、各々他の官能基へ転換されることが可能である。例えば、オレフィンは、アルカン、エポキシド、ジオール、アルデヒドまたはケトンへの転換、ケトンはアルコール、イミン、アミン又はメチレンへの転換、エステルはアルコール、アルデヒドまたはカルボン酸への転換が可能であり、これらの変換により種々の有用な化合物への変換ができ、それ故、有機合成の出発原料として有用な化合物である。
【0006】
また、アルファ−ベータ不飽和カルボニル化合物であるアシルオキシメチルビニルケトン類は、ディールス・アルダー反応における非常に良好なジエノフィルである。この反応でジエン酸化生成物は、広く多様な有用化学物質のためのビルディング・ブロックとして機能する。アシルオキシメチルビニルケトン類を原料として合成可能な生成物としては、ポリマー合成または溶媒用の多価アルコール、ビタミン合成用の中間体、界面活性剤、医薬品、加硫促進剤、および乳化剤としての、2−アミノ−1−ブタノールであることも可能である。
【0007】
従来、アシルオキシメチルビニルケトン類は、例えば、水銀塩の存在下における1,4−ブチンジオールジアセテートの転換(特許文献1参照)による方法、水銀塩の存在下における1−アセトキシ−4−ヒドロキシブチンの転換(特許文献2参照)による方法、または無水酢酸溶液中で1,4−ジヒドロキシ−2−ブタノンを加熱する方法により合成されている。(特許文献3および特許文献4)。
【0008】
しかしながら、上記いずれの方法も有毒な水銀塩および/または高価な試薬を利用すること、収率が不十分なため、その合成は実験室スケールにおいて適用可能であるに過ぎず、その工業的な合成方法は見出されていない。
一方、ジエン化合物、カルボン酸及び分子状酸素の反応によるアシルオキシメチルビニルケトン類の合成が考えられるが、この場合、3,4位の二重結合はそのまま保持し、1,2位の二重結合のみ選択的に酸化され、しかも、その1,2位の酸化により生成する官能基が異なるという非常に選択的な酸化を行わなければならない。従来、ブタジエン、酢酸及び酸素を担体にパラジウム及びテルルを担持してなる触媒を用いて反応する方法が知られているが、この反応の生成物は、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンであり、アシルオキシメチルビニルケトン類の化合物であるアセトキシメチルビニルケトンの製造は知られていない。
【特許文献1】米国特許第2834792号
【特許文献2】米国特許第2524025号
【特許文献3】米国特許第2585067号
【特許文献4】西独国特許第800664号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、有毒な水銀塩および/または高価な試薬を利用することなく、工業的に有利にアシルオキシメチルビニルケトン類を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、共役ジエン系化合物、カルボン酸及び分子状酸素を、特定の触媒を用いて反応させることにより、3,4位の二重結合はそのまま保持し、1,2位の二重結合のみ選択的に酸化し、結果としてアシルオキシメチルビニルケトン類を高収率で製造可能であることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の第一の要旨は、共役ジエン系化合物、カルボン酸及び分子状酸素を、白金族金属及びヘテロポリ酸又はその塩を無機担体に担持してなる触媒を用いて反応させることを特徴とするアシルオキシメチルビニルケトン類の製造方法に存する。他の要旨は、ヘテロポリ酸及びヘテロポリ酸を構成する金属元素を還元可能な金属を用いて調製された還元状態のヘテロポリ酸と、白金族金属化合物とを無機担体と混合して得られる触媒を用いて、共役ジエン系化合物、カルボン酸及び分子状酸素を反応させることを特徴とするアシルオキシメチルビニルケトン類の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有毒な水銀塩および/または高価な試薬を利用することなく、工業的に有利にアシルオキシメチルビニルケトン類を製造することができる。又、反応は不均一触媒を用いて行うことから、生成物、未反応原料、溶媒と触媒の分離が容易になるという効果を奏する。また、無機塩は何ら形成されず、この反応において形成される副生物にもまた産業上の適用可能性があるという点で有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
<共役ジエン系化合物>
本発明において、共役ジエン系化合物とは、互いに共役する炭素−炭素二重結合を少なくとも2つ有する化合物であり、カルボン酸及び分子状酸素との反応により、一方の二重結合が酸化されてカルボニル基を生成するとともに、カルボン酸のエステルを形成しうる化合物である。共役ジエン系化合物の炭素数は特に限定されないが、通常4以上30以下であり、鎖状、環状のどちらでもよく、鎖状の場合は直鎖、分岐鎖のいずれでもよく、その中に含まれる二重結合は末端にあっても内部にあってもよい。又、共役ジエン系化合物は、互いに共役する炭素−炭素二重結合を少なくとも2つ有し、上記カルボニル基及びエステル結合の形成を阻害しない限り、その構造中に置換基を有していても良い。置換基の例としては、フェニル、ナフチル等の芳香環基等の共役する上記の炭素−炭素二重結合とは独立した炭素−炭素二重結合を有する炭化水素基、シクロヘキシル、シクロペンチル等の脂肪族環基、フッ素、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン、メトキシ、エトキシ等のアルコキシ基、カルボニル基、アミノ基、メトキシカルボニル、イソポロポキシカルボニル等のエステルを形成する基、アミド基等がある。
【0013】
共役ジエン系化合物の具体例としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2,6-ジメチル-2,4,6-オクタトリエン、ミルセン等の鎖状共役ジエン系化合物、及び、シクロペンタジエン、アルファ-テルピネン等の環状共役ジエン系化合物等が挙げられる。また、置換基を有するジエン類としては2-フェニル-1,3-ブタジエン、2-クロロメチル-1,3-ブタジエン、1−メトキシ-1,3−ブタジエン、ソルビン酸メチル、1-アセトキシ-1,3−ブタジエン等が挙げられる。
【0014】
<カルボン酸>
カルボン酸としては、通常、炭素数1以上20以下の直鎖、分枝鎖、又は環状の脂肪族カルボン酸及び芳香族カルボン酸が挙げられ、これらのカルボン酸はアルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していても良い。具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−およびi−酪酸、メトキシ酢酸、クロロ−、ブロモ−、またはフルオロ酢酸等の鎖状カルボン酸、シクロブタンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の環状脂肪族カルボン酸、及び安息香酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。
【0015】
<分子状酸素>
分子状酸素としては、通常、純酸素ガス、空気など酸素を含むガス、又は、これら酸素を含むガスを不活性ガスで希釈されたものとして使用される。又、原料ジエン系化合物との混合物として用いても良い。
【0016】
<使用割合>
カルボン酸は、共役ジエン系化合物1モルに対して、通常、1モル以上であり、一方、1000モル以下、好ましくは 250モル以下である。
又、分子状酸素は、共役ジエン系化合物1モルに対して通常、0.1 モル以上、好ましくは0.5モル以上であり、一方、1000モル以下、好ましくは 100モル以下である。また、反応器中の酸素分圧は、0.001MPa〜20MPaであり、より好ましくは0.01MPa〜10MPaである。
【0017】
<触媒>
本発明では、白金族金属及びヘテロポリ酸又はその塩を無機担体に担持してなる触媒を用いて反応を行う。
該触媒は、通常、ヘテロポリ酸及びヘテロポリ酸を構成する金属元素を還元可能な金属を用いて調製された還元状態のヘテロポリ酸、白金族金属化合物及び無機担体を混合して得られる。より詳しくは、通常、ヘテロポリ酸を水などヘテロポリ酸が可溶な溶媒に溶解した溶液に、ヘテロポリ酸を構成する金属元素を還元可能な金属を混合し、必要であれば過剰の金属をろ過して得られた溶液、白金族金属化合物を水、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン等の水に混和し、かつ白金族金属化合物が可溶な溶媒に溶解した溶液及び無機担体を混合、乾燥することにより得られる。
従って、白金族金属及びヘテロポリ酸又はその塩を無機担体に担持してなる本発明の触媒は、好ましくは、ヘテロポリ酸を構成する金属元素を還元可能な金属を含む。
【0018】
(白金族金属化合物)
白金族金属化合物を構成する白金族金属としては、ヘテロポリ酸との相互作用で本発明の酸化反応の触媒として機能するものであり、具体的には、パラジウム、白金等が挙げられ、好ましくはパラジウムである。触媒調製に使用される白金族金属化合物としては、触媒調製溶液中に溶解する任意の白金族金属の無機酸塩及び有機酸塩、水酸化物、複合体、または酸化物等の白金族金属化合物が挙げられ、白金族金属がパラジウムである場合の具体例としては、PdCl、Pd(NO、Pd(CHCN)Cl、NaPdCl、Pd(DMSO)Cl、Pd(OCOCH、Pd(acac)、およびPdOが挙げられる。但し、上記において、DMSOはジメチルスルホキシドを、acacはアセチルアセトナートを表す。
【0019】
(ヘテロポリ酸)
触媒調整に使用されるヘテロポリ酸としては、一般式[XM1240n−(Xはヘテロ元素でSi、P、As、S、Fe、Co等を、Mはポリ元素でMo、W、V等を表わし、nはヘテロ元素とポリ元素の価数、両者の割合に応じて決定されるアニオンの価数を表わす。)で表わされ、対カチオンとしてプロトン(H)、NaやKなどのアルカリ金属イオン、Ca2+、Sr2+などのアルカリ土類金属イオン、アルキルアンモニウムイオン(R4−n)等の有機カチオンなどを有しているヘテロポリ酸、及びその塩である。その具体例としては、[PMo1240n−のリンモリブデン酸、リンモリブデン酸ナトリウム、[PW1240n−のリンタングステン酸、リンタングステン酸アンモニウム、[SiW1240n−のケイタングステン酸や、モリブデン、タングステンが一部バナジウムに置換したモリブドバナドリン酸[PMo12−m40n−(但し、m=1〜12の整数)、タングストバナドリン酸[PW12−m40n−(但し、m=1〜12の整数)、モリブドバナドケイ酸[SiMo12−m40n−(但し、m=1〜12の整数)、タングストバナドケイ酸[SiW12−m40n−(但し、m=1〜12の整数)等のポリ元素が2種以上混合したものなどが挙げられる。中でも、HPMo1040、HPMo40等のモリブドバナドリン酸、タングストバナドリン酸が好ましい。
【0020】
(ヘテロポリ酸を構成する金属元素を還元可能な金属)
ヘテロポリ酸を構成する金属元素を還元可能な金属としては、例えば亜鉛、マグネシウム及び鉄等が挙げられる。
(無機担体)
無機担体としては、炭素、シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ、ゼオライト及び粘土鉱物等が挙げられ、好ましくは、炭素であり、特に活性炭が好ましい。
【0021】
(触媒成分担持量)
無機担体に対する白金族金属の担持量は、通常、0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上であり、一方、15重量%以下、好ましくは10重量%以下である。又、無機担体に対するヘテロポリ酸の担持量はヘテロポリ酸として、0.4重量%以上、より好ましくは1%以上であり、一方、120重量%以下、より好ましくは40%以下である。
白金族金属に対するヘテロポリ酸の割合は、モル比で、通常0.1以上、好ましくは1以上であり、一方、100以下、好ましくは10以下である
【0022】
(触媒調製)
本発明の反応に用いられる触媒の調製は、通常、ヘテロポリ酸の溶液に、ヘテロポリ酸を構成する金属元素を還元可能な金属を混合して得られる溶液、白金族金属化合物の溶液及び無機担体とを混合し、通常、0〜100℃程度で好ましくは0〜60℃で、10〜120分 より好ましくは20〜60分程度撹拌した後、触媒を分離し、通常、80〜200℃、より好ましくは90〜150℃で通常常圧(場合によっては減圧してもよい)で、乾燥することにより得られる。尚、ヘテロポリ酸の溶液、白金族金属化合物の溶液及び無機担体の混合の順序は特に限定されないが、好ましくは、撹拌された担体へ、白金族金属化合物の溶液とヘテロポリ酸の溶液を同時に添加する。又、上記混合は、超音波浴で行っても良い。
【0023】
本発明の触媒の機能の詳細は不明であるが、無機担体上で、還元状態にあるヘテロポリ酸が白金族金属に対して還元剤として機能し、触媒調製に使用された白金族金属化合物が白金族金属となり、白金族金属とヘテロポリ酸の相互作用により、本発明の酸化反応の触媒として機能すると考えられる。
【0024】
<反応溶媒>
本発明の反応は、必要により溶媒の存在下で行われる。溶媒としては、極性、基質および酸素溶解度、沸点および融点、安定性、および所望の反応における反応性/選択性の面で好適である任意の溶媒が可能である。適用可能な典型的な溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、メタノール、イソプロパノール等のアルコール、ヘキサン、オクタン等の飽和脂肪族炭化水素、無水酢酸等の無水物、ジメチルカーボネートなどの炭酸塩、およびジメチルスルホキシド等が挙げられるが、反応後のカルボン酸と溶媒の分離が不要なことから反応原料であるカルボン酸を溶媒として使用するのが好ましい。
【0025】
<反応式>
本発明の反応式は、以下に示される(但し、R〜Rは前記と同義を示す)。R〜Rが水素であり、かつRがメチルである場合、生成物はアセトキシメチルビニルケトンである。
【0026】
【化2】

【0027】
また、本反応では、主たる生成物であるアシルオキシメチルビニルケトン類の他に、副生物として、以下のような化合物が、それぞれ単独、もしくはこれらの混合物として生じる。
【0028】
【化3】

【0029】
〜Rが水素であり、かつRがメチルである場合、副生物1はモノアセトキシブタジエン、副生物2は1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、副生物3は3,4−ジアセトキシ−1−ブテンである。
【0030】
<反応条件・方式>
本発明の反応は、バッチ式でも連続式でも可能である。触媒の状態としては、固定床方式、流動床方式、懸濁槽式等任意の方法が可能である。バッチ式においては、触媒及びカルボン酸が充填された反応器に共役ジエン系化合物及び酸素含有ガスを夫々、又は混合して供給し反応する方法が挙げられる。連続式の場合、触媒が固定床が適用可能となるよう担体上に固定されており、触媒が充填された反応器に、共役ジエン系化合物、カルボン酸及び酸素含有ガスを連続的に供給して反応する方法等が挙げられる。カルボン酸、ジエンの供給形態は、気体でも、液体でも可能である。
【0031】
本発明の反応は、酸素を含んだガス雰囲気下、通常、25℃以上、好ましくは、30℃以上、一方、250℃以下、好ましくは100℃以下で行われる。反応温度が低すぎると、反応速度が遅くなり工業的に不利となることとなり、一方、高すぎると、過剰酸化および副反応が優勢となる怖れがある。反応は、常圧で可能であるが、必要により、他の圧力、例えば、0.01〜20MPaの範囲において行われることも可能である。但し、酸素と有機化合物とは、ある温度および圧力では爆発性混合物を形成する可能性があることから、原料に応じて、安全性の観点から上記の範囲で圧力を選択するのが好ましい。
【0032】
<生成物分離・触媒リサイクル>
本発明においては、酸化反応後の反応生成物の溶液は、通常、目的生成物の他、未反応の共役ジエン系化合物、カルボン酸、反応溶媒、触媒及び副生物を含有する。目的生成物が溶媒およびカルボン酸よりも低い沸点をもつ場合には、溶媒およびカルボン酸からの生成物および原料共役ジエン系化合物の分離は、蒸留によって達成されることが可能である。触媒及びカルボン酸を含有する残留物は、酸化段階へリサイクルしても良い。
【0033】
一方、生成物の沸点が溶媒およびカルボン酸よりも高い場合には、触媒が最初に濾過などにより分離されるべきであり、溶媒およびカルボン酸は蒸発され、残渣が生成物として得られる。溶媒、カルボン酸及び触媒は、酸化段階へリサイクルしても良い。
又、反応生成液にカルボン酸と二相系を形成する抽出溶媒を添加して抽出分離し、カルボン酸及び触媒を酸化段階へリサイクルし、一方、生成物は抽出溶媒から取得可能である。
【0034】
尚、モノアシルオキシビニルケトンは、特に、蒸留後に重合化に感受性があることから、重合化阻害剤の存在下に反応を行うことが有利である。水、酸、または塩基のような他の添加物は、本発明において有益な効果をもつことも可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれら実施例に限定されるものではない。
<参考例1>(炭素上のPd−ZnHPMo1040の調製)
30mlの水に0.69gのHPMo1040・32HOを溶解し、これに2gのZn粉末を添加し、10分間撹拌した後、過剰のZnを濾過して分離した。還元されたZnHPMo1040を含む残液を、30mlのアセトニトリル中に0.15gのPd(CHCN)Clを溶解した溶液と同時に、5gの活性炭へ撹拌しながら添加し、30分間の撹拌後、溶媒をロータリーエバポレータにおいて蒸発除去した。残部を真空オーブン内で130℃において一晩乾燥した。活性炭へのパラジウムの担持量は1.4重量%であった。
【0036】
<実施例1>
マグネチックスターラー、気体導入管及び還流冷却器が具備された2口フラスコに、参考例1で調製した触媒1g、酢酸25ml、及びドデカン(内部標準)100mgを導入した。該フラスコを80℃の水浴にセットし、撹拌しながら1,3−ブタジエン/酸素混合物(体積比 1/1)を30ml/分で供給した。1時間後、反応生成液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、モノアセトキシビニルケトン 74mg(回転頻度5.7/時間)、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン 2mg(回転頻度0.1/時間)、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン 2mg(回転頻度0.1/時間)が形成された。モノアセトキシブタジエンの形成量は検出限界以下であった。尚、回転頻度は、単位時間・パラジウムモル数当たりの生成物のモル数を表す。
【0037】
<実施例2>
実施例1の反応終了後、触媒を濾過し、濾別した触媒を酢酸で洗浄した後、風乾してリサイクル触媒を得た。参考例1で調製した触媒1gの代わりに、リサイクル触媒を用いること以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。分析の結果、モノアセトキシビニルケトン 76.5mg(回転頻度5.9/時間)が形成された。極モノアセトキシブタジエン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの形成量は検出限界以下であった。
【0038】
<実施例3>
酢酸25mlに、1,3−ブタジエンを室温で1時間バブリングして得られた酢酸溶液をオートクレーブに入れ、これに参考例1で調整した触媒1gを添加し、攪拌しながら80℃、0.7MPaで1時間保持した。生成物を分析した結果、モノアセトキシビニルケトン 76.5mg(回転頻度9.4/時間)が形成された。モノアセトキシブタジエン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの形成量は検出限界以下であった。
【0039】
<実施例4>
酢酸の代わりにプロピオン酸を用いること以外は実施例1と同様の方法で反応を行った。分析の結果、モノプロピオンオキシビニルケトン 91mg(回転頻度6.3/時間)が形成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系化合物、カルボン酸及び分子状酸素を、白金族金属及びヘテロポリ酸又はその塩を無機担体に担持してなる触媒を用いて反応させることを特徴とするアシルオキシメチルビニルケトン類の製造方法。
【請求項2】
触媒が、ヘテロポリ酸を構成する金属元素を還元可能な金属を含むことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ヘテロポリ酸及びヘテロポリ酸を構成する金属元素を還元可能な金属を用いて調製された還元状態のヘテロポリ酸、白金族金属化合物及び無機担体を混合して得られる触媒を用いて、共役ジエン系化合物、カルボン酸及び分子状酸素を反応させることを特徴とするアシルオキシメチルビニルケトン類の製造方法。
【請求項4】
白金族金属が、パラジウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
ヘテロポリ酸が、タングストバナドリン酸又はモリブドバナドリン酸である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
無機担体が、炭素、シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ、ゼオライト及び粘土鉱物からなる群から選ばれる請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
共役ジエン系化合物の炭素数が4以上30以下である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
カルボン酸の炭素数が1以上20以下である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−37805(P2008−37805A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214934(P2006−214934)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】