説明

アスコルビン酸を取り込んだ層状複水酸化物を含む繊維材料

【課題】 アスコルビン酸またはその同効誘導体を含む徐放性のアスコルビン酸含有繊維材料を提供する。
【解決手段】 アスコルビン酸またはその同効誘導体をインターカレーションによって層状複水酸化物に取り込み、繊維材料へ固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸又はその同効物誘導体を取り込んだ層状複水酸化物を含有した繊維およびそれを用いた布、不織布から作られる加工品に関する。繊維加工品からのアスコルビン酸(ビタミンC)の徐放、アスコルビン酸(ビタミンC)の耐熱性、耐洗濯性等の安定性の向上が期待される。
【背景技術】
【0002】
L−アスコルビン酸は、ビタミンCとも呼ばれ、薬理作用があることから壊血病の予防や治療に使用され、また免疫増強作用を有していることから感染の予防や治療にも用いられている。さらに、必須ビタミンの一つとして生体に有用な物質であり、しかも美白作用や皺(しわ)防止などにも効果があるとされて、ビタミン剤やサプリメントを始めとして、美白剤や抗酸化剤などとして化粧品等に使用されている。
【0003】
繊維製品においてもビタミンCを処理し、使用することが試みられているが、L−アスコルビン酸自体は経時安定性が悪く、酸化分解されやすい。また水溶性であるため、繊維にそのまま処理しても洗濯時に全て溶出してしまうといった使用における欠点があった。
【0004】
特開2002−61073号公報では、水に難溶のアスコルビン酸誘導体を乳化液にて繊維に処理しており、特開2003−278077号公報においては、脂溶性のアスコルビン酸前駆体をシリカ等の多孔質体に担持させ、繊維処理に使用している。又、特開2003−328274号公報においては、アスコルビン酸誘導体をマイクロカプセルに内包させ、繊維処理に使用、特開2003−52138号公報においては包接化合物であるシクロデキストリンでアスコルビン酸誘導体を安定化させ、繊維処理に使用している。
【0005】
ただし、これらは全て水に難溶性の高価なアスコルビン酸誘導体を用いたものであり、アスコルビン酸自体に比べれば安定性は向上しているものの、特に熱安定性については十分とはいえず、その用途について限られてしまう。樹脂繊維への練り込み等を想定した場合、高温を必要とする樹脂・繊維などへの練り込みや配合などは、上記有機化合物が分解するおそれがあり、また長期持続性、徐放性にも問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−61073号公報
【特許文献2】特開2003−278077号公報
【特許文献3】特開2003−328274号公報
【特許文献4】特開2003−52138号公報
【発明の開示】
【0007】
L−アスコルビン酸自体は、そのままでは不安定で熱や酸化に弱く、繊維に処理することが非常に難しい。又、水溶性であるため繊維に処理しても洗濯時に全て溶出してしまうという欠点がある。
【0008】
本発明は、上記欠点を改善し、特に熱安定性、徐放性に優れた今までにないアスコルビン酸を含有した繊維材料を提供する。
【0009】
すなわち本発明は、アスコルビン酸またはその生理活性を有する誘導体(同効物誘導体)、具体的にはアスコルビン酸2−リン酸、アスコルビン酸2−硫酸およびアスコルビン酸2−グルコシド等がインターカレーションによって取り込まれた層状複水酸化物を含有した繊維材料を提供する。取り込まれたアスコルビン酸またはその同効物誘導体は、熱を含む外部環境の変化に対して安定に保たれる為、樹脂バインダー等を用いた添着以外に、直接繊維樹脂に練り込むことも可能である。一方、イオン交換によってアスコルビン酸などを容易に放出するので、アスコルビン酸生理活性を利用する目的の繊維加工品への使用に適している。
【0010】
本発明で使用する、アスコルビン酸またはその同効物誘導体を取り込んだ層状複水酸化物は、次の一般式で表わすことができる。
【0011】
〔M2+1−x3+(OH)x+〔An−x/n・yHO〕x−
【0012】
ここで各記号は以下の意味を有する。
2+:Mg,Fe,Zn,CuおよびCoから選ばれた1種以上の2価金属イオン、
3+:Al,Fe,CoおよびTiから選ばれた1種以上の3価金属イオン、そして、
n−:OH,F,Cl,NO,CO2−およびアスコルビン酸またはその同効物誘導体から選ばれた1種以上のアニオンであって、その少なくとも1部はアスコルビン酸またはその同効物誘導体である。
xは、通常0.2≦x≦0.33の範囲にある。
【0013】
層状複水酸化物にアニオンを取り込む方法としては、共沈法、イオン交換法、再構築法等がある。
【0014】
特にアスコルビン酸に関しては、共沈法と再構築法が適している。
【0015】
特開2004−91421号公報では、再構築法の一例として、一般式:〔M2+1−x3+(OH)x+〔An−x/n・yHO〕x−で示され、An− の全部が CO2− である炭酸型層状複水酸化物について、300〜800℃の温度で焼成して得られる酸化物固溶体を、水溶性塩のアスコルビン酸またはその同効物誘導体の水溶液と反応させることにより、アスコルビン酸またはその同効物誘導体をインターカレーションで取り込んだ層状複水酸化物の製造方法が記載されている。
【0016】
【特許文献5】特開2004−91421号公報
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における層状複水酸化物とは、一般式:〔M2+1−x3+(OH)x+〔An−x/n・yHO〕x−で表される陰イオン交換能を有する層状化合物である。その結晶構造は、2価金属イオンと3価金属イオンとが配位した正八面体の水酸化物層、ならびに陰イオンと層間水からなる中間層からできている。これら層状複水酸化物の特徴は、水酸化物層における金属イオンの種類とその比、および中間陰イオンの種類の組み合わせを多様に設定できることにある(粘土科学、第40巻第3号、173−8(2001))。したがって、水酸化物層に対し上記条件を適正に設定すれば、特異的な陰イオンを選択的に担持させ、種々の用途に用いることが可能となる。
【0018】
本発明で用いる層状複水酸化物を製造するための原料として、まず2価金属成分と3価金属成分とが必要である。これらの金属成分は、反応させて本発明の複合体を形成させることができれば、(アルコキシド等の有機金属などを含め)どのような化合物であっても構わないが、価格等の原料供給の利便性から、塩化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの無機塩の形で供給するのが好ましい。
【0019】
また、後述する製造方法に対する利便性から、水溶性もしくは溶媒可溶性の塩の方が好ましい。
【0020】
2価金属成分を含む2価金属塩としては、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、コバルト塩から1種以上を選択して使用することができる。
【0021】
また、3価金属成分を含む3価金属塩としては、アルミニウム塩、鉄塩、コバルト塩、チタン塩から1種以上を選択して使用することができる。
【0022】
2価金属(M2+)塩と3価金属(M3+)塩の配合比率は、金属成分のモル比換算で、3価金属が全体の10〜50%、好ましくは20〜35%である。すなわち、両者の合計モル数を1とした場合、0.2≦x≦0.33が通常である。
【0023】
上記金属成分を含む塩は、水あるいは有機溶媒中で混合され、例えば塩基性雰囲気下で炭酸成分と化合させて、次の一般式を有する層状複水酸化物の炭酸塩、すなわち炭酸型層状複水酸化物を形成することができる。
【0024】
〔M2+1−x3+(OH)x+〔(COx/2・yHO〕x−
【0025】
上記のような層状複水酸化物は、天然においてもハイドロタルサイト(MgAl(OH)15CO・4HO)あるいは該鉱物における金属種Mg,Alが他の2価、3価金属イオンに置換したり、COが他の陰イオンに置換したりしたハイドロタルサイト類似の鉱物として産出することが知られている。
【0026】
また、これら化合物は化学的にも容易に合成でき、たとえば市販の協和化学社製「キョーワードシリーズ」などは、いずれの材料も本発明における原料として使用できる。
【0027】
一般的に、層状複水酸化物の複合化方法は、(1)イオン交換法、(2)共沈法および(3)再構築法が知られており、ホスト材料(層状複水酸化物)とゲスト材料(インターカレーションされる材料)の組み合わせに応じて、より適切な手法が選択される。イオン交換法とは、層状複水酸化物とアニオン性のゲスト材料とを水中で混合することにより、層間にインターカレートする方法である。共沈法は、ゲスト材料を水中に溶解または懸濁させた液中に、層状複水酸化物の原料である2価金属イオン塩の溶液と3価金属イオン塩の溶液を滴下することにより、ゲスト物質を包含した層状複水酸化物を同時に合成する方法である。また再構築法とは、層状複水酸化物を前もって高温焼成し、脱炭酸および層間水を全部あるいは一部脱離させた熱分解物を、水等の溶媒中でゲスト物質と共存させ、熱分解物が層状複水酸化物に戻る際にゲスト物質を層間に取り込ませる手法である。
【0028】
本発明では、繊維材料に含有させて用いる場合の、アスコルビン酸またはその同効物誘導体をインターカレーションによって取り込んだ層状複水酸化物として、再構築法によって製造する場合の方法について、一例として少し詳細に説明する。
【0029】
上述した炭酸塩型層状複水酸化物(一般式:〔M2+1−x3+(OH)x+〔(COx/2・yHO〕x−)を、300〜800℃、好ましくは500〜700℃で焼成すると、該炭酸塩の結晶水および炭酸成分が脱離した熱分解物が得られる。
【0030】
この熱分解物と、アスコルビン酸あるいはその同効物誘導体もしくはそれらの金属塩とを水中で反応(再構築反応)させると、熱分解物は水溶液中の陰イオン成分を取り込み、さらに有機成分をその層間にインターカレートして、次の一般式で示される、層状複水酸化物の層間にアスコルビン酸あるいはその同効物誘導体をインターカレートした複合体組成物が得られる。
【0031】
〔M2+1−x 3+(OH)x+〔An−x/n ・yHO〕x−
【0032】
(ただし、An− は、OH,F,Cl,NO,CO2−,SO2− から選ばれる1種以上のn価アニオンを示す。アスコルビン酸あるいはその同効物誘導体は、上記アニオンと一部置換していると考えられる。)
【0033】
ここでいうアスコルビン酸あるいはその同効物誘導体とは、ビタミンCであるL−アスコルビン酸およびその鏡像体であるD−体、ならびにこれらアスコルビン酸にリン酸基や硫酸基を付加したアスコルビン酸2−リン酸やアスコルビン酸2−硫酸、ならびにアスコルビン酸2−グルコシド、もしくはアスコルビン酸の脂肪酸エステル誘導体等のアスコルビン酸誘導体をいい、更には、これら化合物の金属塩(特にナトリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましい)およびこれら金属塩を含めた化合物群(化合物単独であっても混合物であっても構わない)をいう。
【0034】
上述した本発明で使用する複合体組成物は、その層間にアスコルビン酸あるいはその同効物誘導体を含有している。
【0035】
また上記複合体組成物は、層間にアスコルビン酸あるいはその同効物誘導体を含有している層状複水酸化物、と考えることもできる。このことは、いわゆる内部に含有されたアスコルビン酸あるいはその同効物誘導体が、その化合物構造を変えることなく、層状化合物の層構造中に安定に存在していることを意味し、また、炭酸イオンなどにより容易に層状化合物中から取り出すことができるので、薬理作用を有していても熱や酸化には弱いビタミンCを、より安定に保持しておくことが可能である。
【0036】
このため、層間に存在している有機化合物(ここではビタミンC等)は、炭酸イオン等のアニオンによりその層間から徐々に放出されていく、という性質を有する。このことは、上記複合体組成物を化粧料などに配合した場合、汗、皮脂老廃物中の塩分、炭酸イオン等の影響により、複合体組成物から徐々にビタミンC成分を放出することができる。
【0037】
本発明者は、上記知見を基にさらに考えを進め、徐放性を必要とする繊維加工品やその関連製品を製造する際に、上記複合体組成物を含有させれば、種々の繊維製品に、薬理作用を有する成分を徐々に放出させていく機能を適用させることが可能であることを見いだし、本発明に到達した。
【0038】
なお、上記複合体組成物は、その適用において複合体組成物自身が有する特性を大幅に損なわない範囲内で、表面をシリコーン系の撥水処理剤にて撥水処理しても構わない。特に耐水性を上げようとする場合、撥水処理を施した方が好ましい。シリコーン系撥水処理剤には、様々なものがあるが、例えばメチルハイドロジェンポリシロキサン、ポリシロキサン等が適している。
【0039】
本発明で用いることのできる繊維材料としては、天然繊維、化学繊維のいずれでも使用できる。綿、麻、亜麻、羊毛、絹等が天然繊維の例としてあげられる。化学繊維には、再生繊維、半合成繊維、合成繊維、無機繊維がある。再生繊維とは木材パルプ等の天然物を原料とし、セルロース成分を溶解、紡出するもので、例としてビスコースレーヨン、キュプラ等が挙げられる。半合成繊維とは、パルプ原料を酢酸セルロースとした後、アセトン溶液から紡出させて得られるもので、アセテートに代表される。合成繊維は、石油原料から作られるもので、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリオレフィン系、等が挙げられる。
【0040】
アスコルビン酸またはその同効物誘導体をインターカレーションによって取り込んだ層状複水酸化物の繊維への処理方法としては、特に限定しないが、繊維への樹脂バインダーによる添着、吸尽加工、樹脂繊維への練り込み、不織布等の繊維加工品への印刷、塗装等のいずれにも適用可能である。
【0041】
また本発明において、これら繊維材料から作られる加工品としては特に制限はなく、例えば、肌着、靴下、スポーツウエア等の衣類、カーテン、カーペット等の調度用、オムツ等の衛生材料、さらに不織布製品等に使用可能である。
【実施例1】
【0042】
(Mg:Al系 モル比3:1)
試薬は特に言及のない限り、和光純薬工業社製の特級グレードの試薬を用いた。
【0043】
1−1.炭酸型層状複水酸化物の製造
1M塩化マグネシウム(MgCl)水溶液、300cmと、1M塩化アルミニウム(AlCl)水溶液、100cmとを撹拌混合した(M2+/M3+=3)。
恒温水槽中のビーカーに1M炭酸ナトリウム(NaCO)水溶液200cmを入れ、マグネティックスターラーで撹拌しつつ、上記混合液を、2M水酸化ナトリウム水溶液で系中をpH10に保ちながら、滴下して反応させた。
反応温度は40℃とし、滴下終了後、さらに一時間撹拌を続けて熟成を行った。
生成した懸濁液にデカンテーションを行うことにより、液中の塩素イオンを除去し、そこに1M炭酸ナトリウム水溶液200cmを加えて加熱し、5時間還流を行った。還流後得られた固体生成物を水洗し、60℃で24時間減圧乾燥を行った。
【0044】
1−2.炭酸型層状複水酸化物の特定
上記1−1.で得た化合物に対し、以下の機器分析を行うことより組成を決定した。
金属成分の測定は、島津製作所社製、島津原子吸光/フレーム分光光度計(AA−640−12)を用い、サンプル0.2gを1mol/LのHCl、10cmで溶解し、純水で所定量に希釈した溶液について行った。
炭酸塩分の測定は、サンプル0.2gを1mol/LのHCl、10cmで溶解させた際に発生する二酸化炭素の体積を、ガスビュレットで測定し、換算して求めた。
層間水量の測定(熱的特性評価)は、セイコー電子社製、示差熱熱量同時測定装置 SSC5200型の熱分析装置を用い、空気雰囲気中、測定温度30〜800℃、昇温速度10℃/分の条件により、得られた重量減少曲線から求めた。
結晶性および層間距離の評価は、粉末X線回折装置(理学電機社製X線回折装置2013A型およびRINT−2200V型)を用い、対陰極Cu(Niフィルター)、管球電圧40kV、電流20mAの条件で測定し、得られた回折図から評価した。
また、日本分光社製WS/IR−7300型のフーリエ変換赤外線分光光度計を用い、KBr錠剤法にて得られたスペクトル図から、化合物における官能基の評価を行った。
これらの測定・分析結果から、上記化合物は、炭酸型層状複水酸化物であり、その面間隔dは7.8Åであり、そしてその組成式は、
Mg0.75Al0.25(OH)(CO0.15・0.62H
であることがわかった。
【0045】
1−3.アスコルビン酸のインターカレーション
上記で得られた炭酸型層状複水酸化物0.2gについて、500℃で2時間熱処理を行った。
得られた熱処理物について、上記粉末X線回折装置でもって評価したところ、層間のHO、COが脱離し、層間距離が短くなっており、層状化合物に見られる特有のシャープなピークが消失していた。
別途、50mmol/Lのアスコルビン酸ナトリウム水溶液50cmを、内容積100cmの栓付きフラスコに入れ、これに上述の熱処理した炭酸型層状複水酸化物を添加し、窒素雰囲気下、25℃で72時間振とうした。振とう後のスラリーを濾過、洗浄し、固体生成物を得、これを60℃で24時間減圧乾燥した。さらに乳鉢にて粉砕し、粉末状の複合体組成物を得た。
【0046】
1−4.インターカレーションの確認および複合体組成物の特定
上記1−3.で得た複合体組成物について、結晶性および層間距離の評価、官能基の評価、熱的特性評価は、炭酸型層状複水酸化物を特定する際(1−2.)と同様の手法で行った。
アスコルビン酸の複合体組成物への取り込み量は、複合体をメタリン酸溶液で溶解し、食品分析法のヒドラジン比色法により測定
した。
粉末X線回折装置による評価から、上記で得られた固体生成物は層状複水酸化物で、その面間隔dは8.7Åと炭酸型層状複水酸化物であった時より増大しており、そして赤外線分光測定による評価から、該酸化物はその層間にアスコルビン酸をインターカレートしており、またヒドラジン比色法を用いた濃度測定値から、その含有量は上記複合体組成物1g当たりおおよそ0.24gであった。
【0047】
1−5.繊維への加工
水30gにノニオン界面活性剤ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王社製エマルゲン911)を5g添加し、十分に攪拌した。
1−3.で得た粉末状の複合体組成物50gを徐々に加え、ハイスピードディスパーにて20分間攪拌した。この分散スラリーに、自己架橋型エマルジョン、アクリル酸エステル樹脂(昭和高分子社製 AT−130、NV=45%)を30g加え、さらに水を加えて全体を1000gに調整し、処理溶液とした。
この処理溶液に染色試験用白布 綿100%(色染社製 目付100g/m)5cm×5cmを5分間浸漬させた後、しぼり率80%で処理し、60℃にて一晩乾燥させた。
【実施例2】
【0048】
加工する繊維の種類を、染色試験用白布・ポリエステル(帝人社製、目付137g/m)とした以外は、実施例1−5.と同様の操作で繊維への加工を行った。
【実施例3】
【0049】
加工する繊維の種類を、染色試験用白布・レーヨン(色染社製、目付76g/m)とした以外は、実施例1−5.と同様の操作で繊維への加工を行った。
【実施例4】
【0050】
加工する繊維の種類を、ポリプロピレン不織布(ダイワボウポリテック社製、 目付79g/m)とした以外は、実施例1−5.と同様の操作で繊維への加工を行った。
【実施例5】
【0051】
ポリプロピレン樹脂粉末(林純薬)と実施例1−3.で得た粉末状の複合体組成物を、重量比95/5にてエクストルーダーにて230℃、滞留時間5分の条件で溶融混練することにより、マスターバッチを得た。
【比較例1】
【0052】
水30gにノニオン界面活性剤ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王社製エマルゲン911)を5g添加し、十分に攪拌した。L−アスコルビン酸10gを徐々に加え、ハイスピードディスパーにて20分間攪拌した。
この分散スラリーに、自己架橋型エマルジョン アクリル酸エステル樹脂(昭和高分子社製 AT−130、NV=45%)を30g加え、さらに水を加え全体を1000gに調整し、処理溶液とした。
この処理溶液にポリプロピレン不織布(ダイワボウポリテック社製 目付79g/m)5cm×5cmを5分間浸漬させた後、しぼり率80%で処理し、60℃にて一晩乾燥させた。
【比較例2】
【0053】
ポリプロピレン樹脂粉末(林純薬)とL−アスコルビン酸を、重量比99/1にてエクストルーダーにて230℃、滞留時間5分の条件で溶融混練することにより、マスターバッチを得た。
【0054】
実施例1〜4および比較例1の試験布を、通常の洗濯機で一般洗濯用洗剤(商品名アリエール・ピュアクリーン P&G社製)を用いて10回洗濯した。
【0055】
洗濯前後での還元型アスコルビン酸含有量をヒドラジン比色法にて測定した。又、1%NaCl溶液500cmに、これらの試験布を1時間浸積し、アスコルビン酸の放出量をヒドラジン比色法にて測定した。
結果を表1に示す。
【0056】
上記測定の結果、実施例1〜4は、10回洗濯後も十分なアスコルビン酸量を保持しており、又、NaCl溶液での放出性も確認され、汗等による徐放性が証明された。比較例1は、アスコルビン酸の初期付着量が低く、10回洗濯後は全く残っていなかった。
【0057】
実施例5および比較例2のマスターバッチについて、色の観察、還元型アスコルビン酸含有量および1%NaCl溶液500cm、1時間浸積後の放出量のヒドラジン比色法による測定を行った。
結果を表2に示す。
【0058】
比較例2のマスターバッチは、焦げ茶色に変色しているのに対し、実施例5のマスターバッチでは粉末状の複合体組成物の色(肌色)を保持しており、熱による変色は認められなかった。又、実施例5のマスターバッチは、十分なアスコルビン酸量を保持しており、更に、NaCl溶液での放出性も確認され、汗等による徐放性が証明されたのに対し、比較例2のマスターバッチでは、熱によるアスコルビン酸の分解が起こっており、練り込みには不適であった。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
本発明のアスコルビン酸またはその同効物誘導体をインターカレーションによって取り込んだ層状複水酸化物を含有した繊維材料は、アスコルビン酸またはその誘導体の安定性、特に耐熱性が著しく向上しており、上記に示したように加熱工程がある為困難であった樹脂繊維への練り込みをはじめ、あらゆる繊維加工方法に対応できる利点がある。又、層状複水酸化物の層間に保持したアニオンは、炭酸などのアニオンとイオン交換することによって容易に放出させることができるので、本発明品を例えば肌着等の皮膚に密着して使用するような用途に利用した場合、汗、皮脂老廃物中の炭酸イオン、塩素イオン等のアニオンを取り込み、代わりにアスコルビン酸を放出するよう徐放させることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸又はその同効物誘導体を取り込んだ層状複水酸化物を含有した繊維材料。
【請求項2】
アスコルビン酸を取り込んだ層状複水酸化物の主要構造が、
一般式:〔M2+1−x3+(OH)x+〔An−x/n・yHO〕x− である請求項1の繊維材料。
(但し、式中 0.2≦x≦0.33、y>0、であり、
2+は、Mg,Fe,Zn,CuおよびCoから選ばれた1種以上の2価金属イオン;
3+は、Al,Fe,CoおよびTiから選ばれた1種以上の3価金属イオン;
n−は、OH,F,Cl,NO,CO2−,SO2− およびアスコルビン酸又はその同効物誘導体から選ばれた1種以上のn価アニオンであり、An−の少なくとも一部は、アスコルビン酸又はその同効物誘導体である)
【請求項3】
アスコルビン酸の同効物誘導体が、アスコルビン酸2−リン酸、アスコルビン酸2−硫酸またはアスコルビン酸2−グルコシドである請求項1または2の繊維材料。
【請求項4】
アスコルビン酸又はその同効物誘導体を取り込んだ層状複水酸化物が、その表面をシリコーン系処理剤にて撥水処理を施したものである請求項1〜3記載の繊維材料。
【請求項5】
アスコルビン酸又はその同効物誘導体を取り込んだ層状複水酸化物が、平均粒径50μm以下の微粉体である請求項1〜4記載の層状複水酸化物を含有した繊維材料。

【公開番号】特開2006−70406(P2006−70406A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257826(P2004−257826)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】