説明

アスベストの再利用化方法及び再利用化物質

【課題】 除去したアスベストを廃棄することなく、建築部材等として容易かつ低コストで再利用化するアスベストの再利用化方法及び再利用化物質を提供する。
【解決手段】 アスベストの再利用化方法は、建築物等に使用されているアスベスト及びそのアスベスト吹き付けの際の結合剤であるセメントに対して、珪酸アルカリ性水溶液やフッ化カルシウムを加えて無害化した後に剥離し、その剥離したアスベスト及びセメントを粉砕した後に再度、珪酸アルカリ性水溶液を加えて、建築材料等に再利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストの再利用化方法及び再利用化物質に関し、特に、除去したアスベストを廃棄することなく再利用するアスベストの再利用化方法及び再利用化物質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然の鉱物繊維であるアスベストは、耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に非常に優れ安価であるため、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等、様々な用途に広く使用されてきた。
しかしながら、空中に飛散したアスベスト繊維を肺に吸入すると約20年から40年の潜伏期間を経た後に肺がんや中皮腫の病気を引き起こす確率が高いため、現在では、その製造、輸入、譲渡及び使用が禁止されている。
【0003】
このようなアスベストが引き起こす健康被害や環境問題に対し、建築物等でアスベストが外気に露出している部分に樹脂を吹き付けてアスベスト表面を覆って飛散を防止し、アスベストを無害化するといった処置が行われている。
【0004】
しかし、この飛散防止処置の場合、樹脂の吹き付け時におけるアスベストの飛散の問題があったり、樹脂を用いるため、仮に何らかの原因でこの樹脂部分が燃焼した場合には有害物質が発生し人体に悪影響を与えたりといった問題がある。
【0005】
このような樹脂吹き付け時によるアスベストの飛散防止処置における問題に対し、特許文献1が開示するところの粉塵飛散防止方法が提案されている。
特許文献1の粉塵飛散防止方法では、アスベストに対し保水剤及び増粘剤に加え、水ガラス(珪酸ナトリウム水溶液)等の固化剤を塗布することでアスベストを固化し、飛散することなくアスベストの剥離除去を行うことができるようになっている。
【0006】
また、アスベスト除去時の飛散防止のための他の方法として、特許文献2が開示するところのアスベスト改質硬化剤及びそれを使用したアスベスト処理法が提案されている。
特許文献2のアスベスト処理法では、珪酸塩類を主成分とするアルカリ性水溶液とガラス微粒子の混合物からなる硬化剤をアスベストに噴霧することで、アスベストを固化させて飛散を防止しアスベストの解体を容易にしている。
【0007】
また、一般に、建築物等から剥離除去したアスベストを焼却して溶融処理を行い、アスベストを無害化する処理が行われている。
この溶融処理に関するものとしては、特許文献3が開示するところのアスベスト廃棄物の溶融処理方法が提案されている。
特許文献3のアスベストの溶融処理方法では、剥離除去したアスベストにフッ化カルシウムを加え、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ナトリウムの量を調整して高熱で溶融し、アスベスト廃棄物を無害なガラスにしている。
【特許文献1】特開平10−323614
【特許文献2】特開2002−137976
【特許文献3】特開平6−170352
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の特許文献1〜3には、以下のような問題がある。
【0009】
特許文献1,2のアスベストを固化する方法では、アスベストを固化して無害化する方法については開示されているものの、大量発生したアスベスト廃棄物をどう処理するかについて何ら有効な提案がなされておらず、そのアスベスト廃棄物を放棄するしかないという問題がある。
【0010】
また、特許文献3の粉塵飛散防止方法では、アスベストの廃棄処理方法を開示しているものの、剥離除去したアスベストを1000℃以上の高熱で溶融しなければならないなど、その溶融処理のための施設の建設、運営、メンテナンス等に莫大な経費がかかるといった問題が生じる。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、除去したアスベストを廃棄することなく、常温非加熱で無害化し、それを建築部材等として容易かつ低コストで再利用化するアスベストの再利用化方法及び再利用化物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、本発明は、建築物等に付着したアスベストを再利用する方法であって、付着したアスベスト及びアスベストの結合材であるセメントを剥離除去し、剥離除去したアスベスト及びセメントを粉砕して再利用する。
【0013】
また、本発明は、建築物等に付着したアスベストを再利用する方法であって、付着したアスベスト及びアスベストの結合材であるセメントに珪酸アルカリ性水溶液を噴霧又は塗布する珪酸アルカリ付加工程と、噴霧又は塗布されたアスベスト及びセメントを剥離除去する剥離除去工程と、剥離除去したアスベスト及びセメントを粉砕する粉砕工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明におけるアスベストの再利用化方法は、粉砕したアスベスト及びセメントに珪酸アルカリ性水溶液を加えて撹拌し、再利用化物質を生成する再利用化物質生成工程をさらに有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明におけるアスベストの再利用化方法は、付着したアスベスト及びセメントにフッ化カルシウム水溶液を噴霧又は塗布するフッ化カルシウム付加工程をさらに有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、建築物等に付着したアスベストを再利用した物質であって、付着したアスベスト及びアスベストの結合材であるセメントを剥離除去し、剥離除去したアスベスト及びセメントを粉砕して珪酸アルカリ性水溶液を加えて生成されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、建築物等に付着したアスベストを再利用した物質であって、付着したアスベスト及びアスベストの結合材であるセメントに珪酸アルカリ性水溶液を噴霧又は塗布して剥離除去し、剥離除去したアスベスト及びセメントを粉砕して珪酸アルカリ性水溶液を加えて生成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、建築物等に使用されているアスベストを常温非加熱で無害化した後に剥離除去し、その剥離除去したアスベストを粉砕することで、除去したアスベストを廃棄することなく、建築材料、セメント原料又は窯業原料等として容易かつ低コストで再利用化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施の形態におけるアスベストの再利用化方法は、建築物等に使用されているアスベスト及びそのアスベスト吹き付けの際の結合剤であるセメントに対して、珪酸アルカリ性水溶液やフッ化カルシウムを加えて無害化した後に剥離し、その剥離したアスベスト及びセメントを粉砕した後に再度、珪酸アルカリ性水溶液を加えて、建築材料等に再利用するというものである。
【0020】
図1は、このアスベストの再利用化方法における処理の流れを示すフローチャートである。
以下、図を用いて、このアスベストの再利用化方法について詳細に説明する。
【0021】
まず、建築物等において露出しているアスベストに対し、珪酸アルカリ性水溶液を噴霧又は塗布する(ステップS1)。
このとき、珪酸アルカリ性水溶液の成分である珪酸ナトリウムや珪酸カリウムが、アスベスト自体やそのアスベスト吹き付けの際の結合剤であるセメントに含まれるカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオンと反応し、アスベスト表面に珪酸塩及びコロイド珪酸(ガラス物質)を生成する。
このように珪酸塩及びコロイド珪酸がアスベスト表面に付着することにより、アスベスト特有の針状結晶の形状が変化して棒状に固化し、以降、飛散のおそれがなくなり安全にアスベストを取り扱うことができるようになる。
【0022】
また、このとき、珪酸アルカリ性水溶液とともに、フッ化カルシウム水溶液を適宜アスベスト及びセメントに噴霧又は塗布してもよい(ステップS2)。
このように、フッ化カルシウムを加えることにより、アスベスト及びセメントの固化がさらに促進し、後述のアスベスト及びセメントの粉砕を容易にすることができる。
【0023】
次に、その固化したアスベスト及びその結合材であるセメントを建築物等から剥離除去する(ステップS3)。
【0024】
次に、その剥離除去したアスベスト及びセメントを粉砕し粉状にする(ステップS4)。この粉状の物質(以下、再利用化物質という)には針状結晶が見られず、飛散による肺の疾病等のおそれがなくなり、その取り扱いが容易となる。
この再利用化物質は、再度珪酸アルカリ性水溶液を加えて撹拌して、ペースト状の物質にし(ステップS5)、建築物の壁等に塗着して保温材や耐熱材として使用することができる。
この再利用化物質は、約24時間で完全に硬化し、所定以上の硬度及び1200℃程度の耐熱性を備えた物資になり、従来のアスベスト材の代用として利用することができる。
その他、この再利用化物質をセメントに混入し、建築材料等として利用するようにしてもよい。また、この再利用化物質を窯業原料に混入して使用することもできる。
また、乾燥し埃っぽい土壌に対して、水分とともにこの再利用化物質を混入することで、一定の粘性を与えることもできる。
なお、用途に応じて、この再利用化物質に増粘剤等を適宜加えてもよい。、
【0025】
なお、このアスベストの再利用化方法では、クリソタイル、クロシドライト、アモサイト、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライト等のあらゆるアスベストを建築材料、セメント原料又は窯業原料として再利用することができる。
【0026】
また、これらアスベストを建築物等に吹き付ける際に用いたセメントには、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等のうちの少なくとも一種の酸化物が含有される。
【0027】
また、このアスベストの再利用化方法に使用される珪酸アルカリ性水溶液は、珪酸ナトリウム及び珪酸カリウムのうちの少なくとも一方を主成分とした水溶液である。
下記の式(1)に示すように、この珪酸アルカリ性水溶液では、主成分の珪酸ナトリウムや珪酸カリウムが加水分解し、強アルカリ性となる。
2X2SiO3+H2O→X2SiO5+2XOH ・・・(1)
ただし、X2SiO3=X2O・SiO2,X2SiO5=X2O・2SiO2
なお、上記の式(1)におけるXは、K又はNaを示すものとする。
【0028】
そして、アスベスト及びセメントに珪酸アルカリ性水溶液を噴霧又は塗布すると、イオン化傾向により、下記の式(2),(3)に示すように、アスベスト及びセメントに含有されるカルシウム、マグネシウム、アルミニウムイオンと、珪酸アルカリ性水溶液内のナトリウム、カリウムとの間で置換反応が起きる。
Na(未解離)+Mg,Al(イオン)→Na(イオン)+Mg,Al(未解離)
・・・(2)
K(未解離)+Ca,Mg,Al(イオン)
→K(イオン)+Ca,Mg,Al(未解離) ・・・(3)
【0029】
この置換反応から、以下の式(4),(5)に示すように、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムの珪酸塩Y・SiO3及びコロイド珪酸SiO2+Si(OH)4が生成される。
Na2SiO5+Y・O+H2O→Y・SiO3+SiO2+Si(OH)4+NaOH
・・・(4)
2SiO5+Y・O+H2O→Y・SiO3+SiO2+Si(OH)4+KOH
・・・(5)
ただし、上記の式(4)におけるYはMg又はAlを示し、式(5)におけるYはCa、Mg又はAlを示す。
【0030】
このように、珪酸塩及びコロイド珪酸が生成されると、これら珪酸塩及びコロイド珪酸は、アスベストの針状結晶に付着する。
図2は、それら珪酸塩及びコロイド珪酸がアスベスト及びセメントに付着した様子を示すモデル図である。
また、図3は、それら珪酸塩及びコロイド珪酸が付着したアスベスト及びセメント同士が結合した様子を示すモデル図である。
また、図4の(a)は針状結晶のアスベストを示す図であり、(b)はその針状結晶のアスベストに珪酸塩及びコロイド珪酸が付着し無害化したものを示すイメージ図である。
図に示すように、セメントが結合したアスベストには、生成された珪酸塩及びコロイド珪酸が付着し、アスベストの針状結晶が肥大化し、棒状化する。
また、珪酸塩ガラス物質であるアスベストの表面に、同様に珪酸塩ガラス物質の珪酸塩及びコロイド珪酸を付着させることで、これらアスベスト、珪酸塩及びコロイド珪酸は同化し、アスベストの結晶同士が結合する。この結果、図に示すように、アスベストの結晶の形状が人体に有害な針状ではなくなる。
【0031】
以上説明したように、本実施の形態によれば、建築物等に使用されているアスベストやセメントに珪酸アルカリ性水溶液やフッ化カルシウムを加えて無害化した後に剥離除去し、その剥離除去したアスベストを粉砕した後に再度、珪酸アルカリ性水溶液を加えたりすることで、所定の硬度及び耐火性を備えた建材等として有効に再利用することでき、その剥離除去したアスベストを地中に埋めたりして廃棄処理する必要がなくなる。
また、その他、セメント材、窯業原料又は土壌に混入したりすることも可能である。
【0032】
さらに、建築物等に付着しているアスベストやセメントにフッ化カルシウム水溶液を噴霧又は塗布することで、アスベスト及びセメントの硬化を促進し、剥離除去後にそれらアスベスト及びセメントを容易に粉砕することが可能となる。
【0033】
また、本実施の形態では、珪酸アルカリ性水溶液を噴霧又は塗布してアスベスト及びセメントを固化した後、剥離除去するが、アスベストの飛散を防止し、安全に剥離除去する方法であれば、これに限定されないものとする。
【0034】
なお、上記の実施例は本発明の好適な実施の一例であり、本発明の実施例は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態におけるアスベストの再利用化方法における処理の流れを示すフローチャートである。
【図2】本発明の一実施の形態において、珪酸塩及びコロイド珪酸がアスベスト及びセメントに付着した様子を示すモデル図である。
【図3】本発明の一実施の形態において、珪酸塩及びコロイド珪酸が付着したアスベスト及びセメント同士が結合した様子を示すモデル図である。
【図4】(a)は針状結晶のアスベストを示す図であり、(b)はその針状結晶のアスベストに珪酸塩及びコロイド珪酸が付着し無害化したものを示すイメージ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物等に付着したアスベストを再利用する方法であって、
前記付着したアスベスト及び該アスベストの結合材であるセメントを剥離除去し、該剥離除去したアスベスト及びセメントを粉砕して再利用するアスベストの再利用化方法。
【請求項2】
建築物等に付着したアスベストを再利用する方法であって、
前記付着したアスベスト及び該アスベストの結合材であるセメントに珪酸アルカリ性水溶液を噴霧又は塗布する珪酸アルカリ付加工程と、
前記噴霧又は塗布されたアスベスト及びセメントを剥離除去する剥離除去工程と、
前記剥離除去したアスベスト及びセメントを粉砕する粉砕工程と、
を有することを特徴とするアスベストの再利用化方法。
【請求項3】
前記アスベストの再利用化方法は、前記粉砕したアスベスト及びセメントに前記珪酸アルカリ性水溶液を加えて撹拌し、再利用化物質を生成する再利用化物質生成工程をさらに有することを特徴とする請求項記載のアスベストの再利用化方法。
【請求項4】
前記アスベストの再利用化方法は、前記付着したアスベスト及びセメントにフッ化カルシウム水溶液を噴霧又は塗布するフッ化カルシウム付加工程をさらに有することを特徴とする請求項2または3記載のアスベストの再利用化方法。
【請求項5】
建築物等に付着したアスベストを再利用した物質であって、
前記付着したアスベスト及び該アスベストの結合材であるセメントを剥離除去し、該剥離除去したアスベスト及びセメントを粉砕して珪酸アルカリ性水溶液を加えて生成されることを特徴とする再利用化物質。
【請求項6】
建築物等に付着したアスベストを再利用した物質であって、
前記付着したアスベスト及び該アスベストの結合材であるセメントに珪酸アルカリ性水溶液を噴霧又は塗布して剥離除去し、該剥離除去したアスベスト及びセメントを粉砕して珪酸アルカリ性水溶液を加えて生成されることを特徴とする再利用化物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−216073(P2007−216073A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320953(P2005−320953)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(302058358)
【Fターム(参考)】