説明

アスベストの分解処理方法

【課題】 簡素な装置により安価に構成することができ、しかも簡単なプロセスにより短時間でアスベストを分解して無害化することができるアスベストの分解処理方法を提供すること。
【解決手段】 マグネシウム(Mg)を少なくとも含有するアスベスト粉末と放電媒体とを混合した状態で耐熱性容器に収容する一方、
当該混合物にマイクロ波を照射することによって、前記放電媒体を電子励起せしめて放電したプラズマにより、アスベスト粉末を組成するMgおよびSiの化学結合を切断分離するという技術的手段を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストの処理方法の改良、更に詳しくは、簡素な装置により安価に構成することができ、しかも簡単なプロセスにより短時間でアスベストを分解して無害化することができるアスベストの分解処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、アスベストは、石綿とも呼ばれる天然鉱物の繊維であり、主にクリソタイル(白石綿:Mg3Si25(OH)4)、クロシドライト(青石綿:Na2(Fe
2+>Mg)3(Fe3+2Si822(OH)2)、アンモサイト(茶石綿:(Mg<F
2+7Si822(OH)2)の3種類がある。そして、アスベストは、耐熱性、耐薬
品性、絶縁性等の特徴を持つことから、経済的な工業材料として、建設資材や工業原料等、3000種を超える製品となっている。
【0003】
ところで、アスベスト繊維1本の直径は、0.01〜1μm程度と非常に細いため浮遊しやすく、吸入されやすい特徴がある。アスベスト素材そのものに毒性はないものの、丈夫で変化しにくいため、飛散したアスベスト繊維を吸入することで繊維が肺中に溜まり、肺癌や中皮種の原因となり、アスベストによる健康被害はアスベストを扱ってから長い年月を経て現れる。
【0004】
このため、現在ではアスベストに対する規制が確立されつつあり、さらには現在までに消費されてきたアスベストの削減技術の開発も進められている。
【0005】
従来、アスベスト削減技術のキーポイントは、アスベストの“飛散防止”と“無害化”であり、アスベストの飛散防止技術に関しては、「ガラス固化処理」、「塗料による封じ込め」等があげられ(例えば、特許文献1参照)、また、アスベストの無害化技術に関しては、「溶融法」、「水熱合成処理法」、「銅精錬スラグ法」等があげられる(例えば、特許文献2、3参照)。
【0006】
しかしながら、これらの方法は装置が高価で複雑であり、処理時間が長いといった問題点がある。また、これらの問題点を解決する手法に「フロン分解物等による無害化」が報告されているが(例えば、特許文献4参照)、この手法はプロセスが複雑であることが問題とされている。
【特許文献1】特開2002−137976号公報(第2−3頁)
【特許文献2】特開2007−160235号公報(第5−10頁、図1−3)
【特許文献3】特開2007−117977号公報(第2−3頁、図1)
【特許文献4】特開2007−105552号公報(第5−12頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のアスベストの処理方法に上記問題があったことに鑑みて為されたものであり、簡素な装置により安価に構成することができ、しかも簡単なプロセスにより短時間でアスベストを分解して無害化することができるアスベストの分解処理方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0009】
即ち、本発明は、マグネシウム(Mg)を少なくとも含有するアスベスト粉末と放電媒体とを混合した状態で耐熱性容器に収容する一方、
当該混合物にマイクロ波を照射することによって、前記放電媒体を電子励起せしめて放電したプラズマにより、アスベスト粉末を組成するMgおよびSiの化学結合を切断分離するという技術的手段を採用したことによって、アスベストの分解処理方法を完成させた。
【0010】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、マイクロ波を照射せしめることによって、前記放電媒体を電子励起せしめて放電したプラズマにより、アスベスト粉末を組成するMgおよびSiの化学結合を切断分離して、電荷を有するMgおよびSiの気体を空気中あるいはアスベスト粉末自体に含有していた酸素によってそれぞれ酸化せしめてMgOおよびSiO2をそれぞれ独立的に生成するという技術的手段を採用することができる。
【0011】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、アスベスト粉末として、クリソタイル(白石綿:Mg3Si25(OH)4)、クロシドラ
イト(青石綿:Na2(Fe2+>Mg)3(Fe3+2Si822(OH)2)、アンモ
サイト(茶石綿:(Mg<Fe2+7Si822(OH)2)のうちから選択される何れ
かを用いるという技術的手段を採用することができる。
【0012】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、放電媒体として、マグネシウムチップ、スチールウール、ステンレスウールのうちから選択される何れかを用いるという技術的手段を採用することができる。
【0013】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、マイクロ波の波長を2.45GHzにするという技術的手段を採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にあっては、マグネシウム(Mg)を少なくとも含有するアスベスト粉末と放電媒体とを混合した状態で耐熱性容器に収容する一方、当該混合物にマイクロ波を照射することによって、前記放電媒体を電子励起せしめて放電したプラズマにより、アスベスト粉末を組成するMgおよびSiの化学結合を切断分離することによって、アスベストを分解することができる。
【0015】
したがって、本発明によれば、簡素な装置により安価に構成することができて、しかも簡単なプロセスにより短時間でアスベストを分解して無害化することができることから、実用的利用価値は頗る高いと云える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0017】
本発明の実施形態を図1から図10に基づいて説明する。本実施形態では、まず、図1に示すように、マグネシウムを少なくとも含有するアスベスト粉末と放電媒体とを混合した状態で耐熱性容器(ルツボ)に収容する。本実施形態では、放電媒体として、マグネシウムチップを用いる。
【0018】
また、本実施形態では、アスベスト粉末として、クリソタイル(白石綿:Mg3Si2
5(OH)4)、クロシドライト(青石綿:Na2(Fe2+>Mg)3(Fe3+2Si822(OH)2)、アンモサイト(茶石綿:(Mg<Fe2+7Si822(OH)
2)のうちから選択される何れかを用いることができるが、最も多く用いられているクリソタイルを採用する。
【0019】
そして、当該混合物にマイクロ波を照射することによって、前記放電媒体を電子励起せしめてプラズマ放電させる。本実施形態では、このマイクロ波の波長を2.45GHzにする。マイクロ波とは、波長1cm以上1m以下(30GHzから0.3GHz)の帯域電波をいうが、2.45GHzは、特に熱源として適しているからである。
【0020】
そして、放電媒体から放出した電子が高エネルギー状態(電子励起状態)で、アスベストに衝突することによって、アスベスト粉末を組成するMgおよびSiの化学結合を切断分離することができる。
【0021】
なお、本実施形態では、マイクロ波を照射せしめることによって、前記放電媒体を電子励起せしめて放電したプラズマにより、アスベスト粉末を組成するMgおよびSiの化学結合を切断分離して、電荷を有するMgおよびSiの気体を空気中あるいはアスベスト粉末自体に含有していた酸素によってそれぞれ酸化せしめてMgOおよびSiO2をそれぞれ独立的に生成することができる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。アスベストの分解には、市販されている家庭用電子レンジ(SHARPオーブンレンジ,RE−WD30:レンジ定格消費電力1460W,電子レンジ出力1000Wインバーター加熱(庫内灯消灯時))を用い、放電媒体にはMg、スチールウール、ステンレスウール等の金属を用いることができる。また、アスベストと放電媒体にマイクロ波を照射する際に必要となる耐熱性の容器としてアルミナセラミックス製の耐熱性ルツボを用いた。
【0023】
以下に放電媒体としてMgを用いた場合の分解プロセスを記述する。まず、アスベストとマグネシウム(Mg)チップを重量比(Mg/アスベスト)=0.05〜1.00の範囲で計り取り、耐熱性容器に入れる。
【0024】
次いで、耐熱性容器の上面開口部が半開きになるようにして容器の蓋を縁にのせる。
【0025】
そして、容器を電子レンジのスポットゾーンに設置し、出力200〜1000Wでマイクロ波を1分〜10分照射する。
【0026】
上記のように、簡便な方法でアスベストを短時間で分解させた。分解した粉体についてX線回折、SEM(Scanning-Electron-Microscope)観察を行った。以下に重量比(Mg/アスベスト)=0.05〜1.00、マイクロ波出力1000Wで処理した結果について記述する。
【0027】
〔結果と考察〕
図2にアスベストと分解処理を施したアスベストの実物写真を示す。アスベストの主成分は、クリソタイル(白石綿:Mg3Si25(OH)4)であるため、アスベストは
白色粉体である。一方、分解処理を施したアスベストは灰色粉体であった。粉体の色合いからも大きな変化がわかる。
【0028】
前記の手順でアスベストを分解するに当たり、マグネシウムにマイクロ波を照射することで励起されて放電(電子放出)が起こり、この電子がアスベスト粉末に衝突したものと考えられる。
【0029】
電子は大きなエネルギーを持っており(熱10000K相当)、アスベスト粉末に電子が衝突することでアスベスト中のMgとSiとの化学結合が切れ、MgとSiの電荷を持ったものが生成される。
【0030】
そして、これら電荷を有するMgおよびSiの気体が、空気中あるいはアスベスト粉末自体に含有していた酸素(O2)と結合することによって酸化マグネシウム(MgO)および二酸化硅素(SiO2)になると考えられる。
【0031】
図3および図4に、アスベストと分解処理を施したアスベストのX線回折パターンを示
す。アスベストのX線回折パターンからは主成分であるクリソタイル(白石綿:Mg3
25(OH)4)を示す回折ピークが2θ=10°〜30°にかけて確認された。
【0032】
一方、分解処理を施したアスベストのX線回折パターンにおいては、クリソタイルを示
す回折ピークは観察されなかった。X線回折ピークの同様な傾向は、他の分解処理法で得
られたアスベスト粉体からも観察されている。この結果より、放電媒体を用いることで迅速にアスベストを分解できることが確認された。
【0033】
次に、図5および図6に、アスベストと分解処理を施したアスベストのSEM像を示す。アスベストでは繊維状の構造が確認されたが、分解処理を施したアスベストからは繊維状ものは観察されず、粒子状のものが観察された。この結果より、浮遊しやすく、人に吸入されやすいアスベスト繊維の構造が、放電媒体を用いる分解により破壊されることがわかった。
【0034】
また、図7から図10に、分解処理を施したアスベストの面分析画像を示す。図7は処理後アスベスト全体を示すものである。また、図8は酸素原子(O)を示すものであり、図9はマグネシウム原子(Mg)を示すものであり、図10は硅素原子(Si)を示すものである。
【0035】
ここで、図の写真を比較してみると、これらは酸化物として存在しているため、図8に示すように酸素原子の分布は全体に見られるが、図9に示すマグネシウム原子の分布と図10に示す硅素原子の分布とは、存在位置が重複していない。このことは、これらの酸化物(MgOおよびSiO2)がそれぞれ独立して存在していることを意味するのであり、アスベストは完全に分解したと考えられる。
【0036】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、放電媒体は、マグネシウムに限らず、鉄(Fe)を主とするスチールウールまたはステンレスウールなどを用いることができ、本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明の新しいアスベスト分解プロセスは、今後年間100万トン排出されるアスベストの迅速な処理に貢献できると思われる。また、この技術により無害化された粉体を他のセラミックス製品に循環させることで、有効再利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態の実験装置を表わす概略図である。
【図2】本発明の実施形態の処理前アスベストと処理後アスベストの外観を表す写真である。
【図3】本発明の実施形態の処理前アスベストのX線回折パターンを表すグラフである。
【図4】本発明の実施形態の処理後アスベストのX線回折パターンを表すグラフである。
【図5】本発明の実施形態の処理前アスベストのSEM像を表す写真である。
【図6】本発明の実施形態の処理後アスベストのSEM像を表す写真である。
【図7】本発明の実施形態の処理後アスベストの面分析の結果を表す写真である。
【図8】本発明の実施形態の処理後アスベストの面分析(O)の結果を表す写真である。
【図9】本発明の実施形態の処理後アスベストの面分析(Mg)の結果を表す写真である。
【図10】本発明の実施形態の処理後アスベストの面分析(Si)の結果を表す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム(Mg)を少なくとも含有するアスベスト粉末と放電媒体とを混合した状態で耐熱性容器に収容する一方、
当該混合物にマイクロ波を照射することによって、前記放電媒体を電子励起せしめて放電したプラズマにより、アスベスト粉末を組成するMgおよびSiの化学結合を切断分離することを特徴とするアスベストの分解処理方法。
【請求項2】
マイクロ波を照射せしめることによって、前記放電媒体を電子励起せしめて放電したプラズマにより、アスベスト粉末を組成するMgおよびSiの化学結合を切断分離して、電荷を有するMgおよびSiの気体を空気中あるいはアスベスト粉末自体に含有していた酸素によってそれぞれ酸化せしめてMgOおよびSiO2をそれぞれ独立的に生成することを特徴とする請求項1記載のアスベストの分解処理方法。
【請求項3】
アスベスト粉末として、クリソタイル(白石綿:Mg3Si25(OH)4)、クロ
シドライト(青石綿:Na2(Fe2+>Mg)3(Fe3+2Si822(OH)2)、
アンモサイト(茶石綿:(Mg<Fe2+7Si822(OH)2)のうちから選択され
る何れかを用いることを特徴とする請求項1または2記載のアスベストの分解処理方法。
【請求項4】
放電媒体として、マグネシウムチップ、スチールウール、ステンレスウールのうちから選択される何れかを用いることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載のアスベストの分解処理方法。
【請求項5】
マイクロ波の波長を2.45GHzにすることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載のアスベストの分解処理方法。


【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−34651(P2009−34651A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203587(P2007−203587)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(390013815)学校法人金井学園 (20)
【Fターム(参考)】