説明

アスベストの無害化処理方法及び炭酸マグネシウムの生成方法

【課題】 高温での処理を要することなく、低コストかつ安全にアスベストを無害化することができるアスベストの処理方法、並びに産業廃棄物であるアスベストを用いて炭酸マグネシウムを生成する方法を提供する。
【解決手段】 アスベストを添加した水中に二酸化炭素を供給しつつ、メカノ化学反応を生じさせることによりアスベストを無害化するとともに、有用物質である炭酸マグネシウムを生成することができる。二酸化炭素の供給をバブリングにより行うことでアスベストの無害化効率を上昇させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温処理が可能であり、安全性に優れるアスベストの無害化処理方法、及び産業廃棄物であるアスベストを利用して有用物質である炭酸マグネシウムを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は天然の鉱物繊維であり、種類としてはクリソタイル(白石綿)やアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)などがある。アスベストは耐熱性、耐薬品性、絶縁性などの諸特性に優れているため、建設資材、電気製品、自動車および家庭用品などの分野で幅広く利用されている。我が国で1930年から2002年の間に消費されたアスベストは1000万トンにも及び、その9割以上は建築資材(スレート板、屋根瓦、耐火被覆材等)として使用されたと言われている。
【0003】
アスベストは上述の優れた特性を有するものの、疾病との因果関係が指摘されている。即ち、アスベストは太さが人間の髪の毛の1/5000という非常に微細な針状結晶構造を有しており、アスベストの粉塵を人が吸い込むと、この針状結晶が肺細胞に刺さることにより、石綿肺、肺癌、悪性中皮腫などの重大な疾病が引き起こされる。
【0004】
上記アスベストの危険性に鑑み、世界各国においてアスベストの使用に対する規制が行われているが、過去に使用された大量のアスベストをいかに処理するかが問題となっている。特にアスベストを含む建築資材が使用された建造物の解体は今後ピークを迎えることから、アスベスト暴露とアスベスト処理の問題の深刻化が予測されている。
【0005】
現在、アスベストおよびアスベスト含有物質は産業廃棄物として最終処分場に埋め立てられているが、これには限度がある。そのため、従来より種々のアスベストの無害化処理技術が提案されている。
【0006】
例えば特許文献1は、密閉型電気炉によりシュートを介して袋中に収容されたアスベストを高温(1500℃)で溶解する無害化処理方法を開示している。また非特許文献1には、よりエネルギー消費量の少ない処理方法として、フロン分解物を加えて600〜700℃程度の加熱処理を行う無害化処理方法が提案されている。
【特許文献1】特許第3085959号公報
【特許文献2】金子憲治“600〜700℃での無害化に成功 溶融処理に比べてコストを半減”2005年11月18日公開、日経BP社SAFETY JAPAN2005[2006年2月13日検索]、インターネット<URL: http://nikkeibp.jp/sj2005/report/39/>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来のアスベストの処理方法は、いずれも高温での処理を必要とするために処理コストが大きくなる問題があり、更には乾式での処理であるために、処理中に飛散するアスベストによる2次被害への対策が必要となる問題がある。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、以下のいずれか一以上の目的を達成するものである。
【0009】
即ち本発明の目的は、高温での処理を要することなく、アスベストを無害化することができるアスベストの処理方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、低コストでアスベストを無害化することができるアスベストの処理方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、処理中のアスベストの飛散による2次被害を効果的に防止することができるアスベストの処理方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、有用物質である炭酸マグネシウムを、アスベストを用いた処理によって生成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、アスベストを添加した水中に二酸化炭素を供給しつつ、メカノ化学反応を生じさせることを特徴とするアスベストの無害化処理方法(請求項1)により上記課題を達成したものである。
【0014】
即ち、アスベストを水中に添加し、メカノ化学反応を生じさせることによりアスベストの無害化が可能であることは、既に本発明者らにより明らかとされている(特願2006−037295号)が、本発明者らは、更に、上記メカノ化学反応を生じさせるに際して、アスベストを添加した水中に二酸化炭素を供給することにより、アスベストの無害化の速度乃至効率が高められることを実験的に確認することにより本発明を完成させたものである。
【0015】
本発明のアスベスト処理に要するエネルギーは、メカノ化学反応を生じさせるための機械的エネルギーのみであり、従来必要とされてきた高温での加熱処理が不要となるため、低コストで経済性に優れるアスベストの無害化処理を実現することができる。
【0016】
また、本発明では、水中での湿式処理によりアスベストが無害化されるため、アスベストの飛散による二次被害を防止することが容易である。
【0017】
更に本発明では、アスベストの無害化処理の副生成物として炭酸マグネシウムが生成されることが確認されている。炭酸マグネシウムは、ゴム、プラスチックなどの充填剤や医薬の担体として使用されるなど、様々な分野における資材として使用することができる有用物質であり、また、炭酸マグネシウムから金属マグネシウムを単離することも可能であることから、本発明において生成される炭酸マグネシウムを有効利用することで、アスベスト処理に係るトータルコストを一層低減できる可能性がある。
【0018】
また、上記炭酸マグネシウムは、アスベストと二酸化炭素が反応することにより生成されるものであり、本発明を大規模に実施することにより、大気中の二酸化炭素量の低減を図ることも可能である。
【0019】
なお、本発明におけるメカノ化学反応は、摩擦などの機械的エネルギーを与えることにより生じる物質の酸化、還元、分解、合成などの反応をいう。
【0020】
本発明における二酸化炭素の供給は、単に二酸化炭素雰囲気下においてアスベスト添加水を攪拌することによって行うことも可能であるが、バブリングの手法を用いることで二酸化炭素の供給効率を上昇させ、アスベストの無害化効果を増大させることが可能である。
【0021】
本発明における処理対象物であるアスベストは、建材等における使用比率の高いクリソタイルとすること(請求項4)が好ましい。
【0022】
本発明は、アスベストを添加した水中に二酸化炭素を供給しつつ、メカノ化学反応を生じさせる第1の処理と、前記第1の処理により生成された炭酸マグネシウムを回収する第2の処理とを有することを特徴とする炭酸マグネシウムの生成方法(請求項4)によっても上記課題が解決される。
【0023】
即ち、アスベストを添加した水中に二酸化炭素を供給しつつ、メカノ化学反応を生じさせる第1の処理により、良質の炭酸マグネシウムを生成することが可能であり、生成した炭酸マグネシウムは、ゴム、プラスチック等の充填剤、医薬の担体などとして利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
【0025】
図1は、本発明に係るアスベストの無害化処理方法の原理を示す説明図である。
【0026】
図示のように、所定の処理器(図では底面がフラットな反応容器)1に、水(好ましくは純水)100mlに対して乳鉢やボールミルなどの適当な粉砕混合手段により調整されたアスベスト(この例では、クリソタイル)1.00gを添加したアスベスト懸濁水2が貯留されている。
【0027】
処理器1は、処理器1の内容物を攪拌することで内容物に機械的エネルギーを加えるための攪拌手段(図の例ではスターラー3及び攪拌子4)を備えており、この攪拌手段により攪拌されることで、アスベストにメカノ化学反応が生じせしめられる。
【0028】
また、処理器1は、容器蓋5により密閉可能とされ、当該容器蓋5に取り付けられたガス供給管6及びガス排出管7により、アスベスト懸濁水2に二酸化炭素の供給が可能となっている。即ち、ガス供給管6からの二酸化炭素は、バブリングによりアスベスト懸濁水2に供給された後、ガス排出管7から装置外に排出される。
【0029】
図2には、図1に示す装置を用いて行ったアスベスト処理の実験の結果が示されている。図中、(A)は、上記実験の処理時間(反応時間)毎におけるサンプルのX線回折装置(XRD)による測定結果であり、(B)は、(A)中の12.20°に位置する第1回折ピークα及び24.50°に位置する第2回折ピークβのピーク強度であり、(C)は、(B)の結果をグラフ化したものである。また、図3には、処理前(A)及び20時間処理後(B)のSEM画像が示されている。
【0030】
なお、上記処理実験においては、処理器1内の純水量を100ml、アスベスト量を1.00gとし、ガス供給管6から20ml/minの二酸化炭素を供給しつつ、径39mmの円柱型テフロン(登録商標)製の攪拌子4を用いて回転速度1000rpmの攪拌条件で処理を行った。またXRDによる分析においては、処理前後に処理器1内の懸濁水2を採取し、これに減圧濾過及び減圧乾燥を施したものをサンプルとした。
【0031】
図2からアスベストの第1回折ピーク(12.20°)、第2回折ピーク(24.50°)が処理時間とともに顕著に低下することを確認することができ、図3からアスベストに特有の針状結晶の消失を確認することができる。また、比較実験として、ヘリウム及びアルゴン雰囲気下において二酸化炭素を供給せずに、上記と同一の条件でアスベストの処理実験を行ったが、二酸化炭素を供給した上記実験における第1回折ピーク及び第2回折ピークの低下速度がいずれの比較実験よりも顕著に大きいことが確認された。
【0032】
また、本発明により処理が行われたアスベスト懸濁水には、炭酸水素マグネシウムが溶解しており、処理後のアスベスト懸濁水を濾過することで固形物を除去した濾液に水酸化ナトリウムを加えるなどによりこの濾液をアルカリ性にすることで、炭酸マグネシウムの沈殿を単離することが可能である。
【0033】
図4は、上記処理実験後のアスベスト懸濁水2から固形物を除去した濾液に水酸化ナトリウムを加えることにより生じた沈殿物のXRDによる測定結果であり、マッチングによる解析から、上記沈殿物に炭酸マグネシウムの存在を確認することができる。
【0034】
図5は、本発明によるアスベストの無害化処理及び炭酸マグネシウムの生成処理における反応スキームを示す説明図である。図示のように、本発明は、温暖化効果が指摘される二酸化炭素を用いてアスベストの無害化を行うとともに、有用物質である炭酸マグネシウムの生成をも行うものであり、極めて有益性に優れる技術であるということができる。
【0035】
以上、好ましい実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内において種々の改変が可能である。
【0036】
例えば、上記実施形態では、処理対象のアスベストとしてクリソタイル(白石綿)を使用した場合のデータを示したが、クリソタイルに代えてアモサイト(茶石綿)やクロシドライト(青石綿)を使用した場合も同様の効果が達成されるのであり、その場合も本発明の範囲に含まれる。
【0037】
また、上記実施形態では、水中にアスベストのみを混入したアスベスト懸濁水に二酸化炭素を供給しつつメカノ化学反応を生じさせる場合について説明したが、アスベスト懸濁水にアスベスト以外の第2成分を混入し、これに二酸化炭素を供給しつつメカノ化学反応を生じさせることも可能であり、そのような処理方法もまた、本発明の範囲に含まれる。この場合の第2成分としては、アルミニウム粉末、チタン粉末、マンガン粉末、鉄粉末、フッ化ナトリウム粉末及びフッ化カルシウム粉末からなる群より選ばれる1の粉末又は複数の粉末の混合物を例示することができ、かかる第2成分を添加することにより、アスベストの無害化効率を一層高めることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のアスベストの無害化処理方法は、産業廃棄物の処理等において利用することができ、本発明の炭酸マグネシウムの生成方法は、種々の技術分野における資材として使用される炭酸マグネシウムの生産おいて使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るアスベストの無害化処理方法の原理を示す説明図。
【図2】本発明に係る無害化処理を行ったアスベストのXRDによる測定結果を示す説明図。
【図3】本発明に係る無害化処理を行う前(A)及び後(B)のアスベストのSEM画像
【図4】本発明に係る無害化処理に用いたアスベスト懸濁水に水酸化ナトリウムを加えることにより生じる沈殿物のXRDによる測定結果を示す説明図。
【図5】本発明によるアスベストの無害化処理及び炭酸マグネシウムの生成処理における反応スキームを示す説明図
【符号の説明】
【0040】
1 処理器
2 アスベスト懸濁水
3 スターラー
4 攪拌子
5 容器蓋
6 ガス供給管
7 ガス排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベストを添加した水中に二酸化炭素を供給しつつ、メカノ化学反応を生じさせることを特徴とするアスベストの無害化処理方法。
【請求項2】
前記メカノ化学反応が、前記アスベストを水中に添加したアスベスト水を攪拌することにより生じるものであることを特徴とする請求項1に記載のアスベストの無害化処理方法。
【請求項3】
前記メカノ化学反応が、前記アスベストと二酸化炭素との反応により炭酸マグネシウムを生成する反応を伴うことを特徴とする請求項1又は2に記載のアスベストの無害化処理方法。
【請求項4】
前記アスベストがクリソタイルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のアスベストの無害化処理方法。
【請求項5】
アスベストを添加した水中に二酸化炭素を供給しつつ、メカノ化学反応を生じさせる第1の処理と、
前記第1の処理により生成された炭酸マグネシウムを回収する第2の処理とを有することを特徴とする炭酸マグネシウムの生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−272582(P2008−272582A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31285(P2007−31285)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(597040902)学校法人東京工芸大学 (28)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】