説明

アスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置及びアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理方法

【課題】特殊な試薬及び装置を必要とすることなく、アスベスト針状結晶を無毒化することができる装置及び方法を提供する。
【解決手段】アスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置1は、密閉可能なタンク2と、タンク2内を外気に対して負圧状態とする真空ポンプ3と、タンク2に連結されるエンジン4とを備える。エンジン4は、自動車等に一般的に用いられる走行駆動用の内燃機関であり、タンク2内に積み込まれたアスベスト含有廃材Sより生じたアスベスト針状結晶Cを含む空気と燃料との混合気を燃焼させ、アスベスト針状結晶Cを溶融する。これにより、特殊な試薬及び装置を必要とすることなく、アスベスト針状結晶Cを無毒化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト含有廃材より生じたアスベスト針状結晶を溶融して無毒化するアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置及びアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然の鉱物繊維であるアスベストは、安価で耐熱性等に優れることから、主に建築材料として用いられてきた。しかし、近年、アスベスト材そのものには毒性はないが、飛散したアスベスト繊維(アスベスト針状結晶)が、肺がんや悪性中皮種等を引き起こし得ることが明らかとなった。そのため、アスベストが使用されている建築物を解体する際には、その解体時に生じるアスベスト針状結晶を無毒化する必要がある。
【0003】
現在までに、アスベスト針状結晶を無毒化する種々の装置及び方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に示される処理装置においては、アスベスト針状結晶は、無機酸と含フッ素化合物を含む処理剤で処理されることによって無毒化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−253856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に示される処理装置においては、アスベスト針状結晶の無毒化に特殊な試薬及び装置を必要とする。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであって、特殊な試薬及び装置を必要とすることなくアスベスト針状結晶を無毒化することができる装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アスベスト含有廃材より生じたアスベスト針状結晶を燃焼溶融するアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置であって、密閉可能なタンクと、前記タンク内を外気に対して負圧状態とする真空ポンプと、前記タンクに連結され、空気と燃料との混合気を燃焼させるエンジンと、を備え、前記エンジンが、前記タンク内に積み込まれたアスベスト含有廃材より生じたアスベスト針状結晶を含む空気と燃料との混合気を燃焼させることを特徴とする。
【0008】
上記装置は、前記タンクと前記エンジンとの間に、前記エンジンへ吸気される空気から粉塵を除去する粉塵除去装置を備えることが好ましい。
【0009】
また、上記装置は、前記エンジンが車両の走行駆動用のものである場合、前記タンクと前記エンジンとの間に、前記エンジンへ吸気される空気を、前記タンク内で生じた空気と外界から取り入れた空気との間で切り替える走行・作業切り替えバルブを備えることが好ましい。
【0010】
また、上記装置は、前記エンジンから排気された空気を浄化する排気浄化マフラを備えることが好ましい。
【0011】
また、上記装置は、移動可能な車両上に搭載されることが好ましい。
【0012】
また、上記装置は、粉砕機と、前記粉砕機と前記タンクとの間をつなぐ吸引ホースとを備え、前記粉砕機が粉砕したアスベスト含有廃材を前記吸引ホースを通じて前記タンク内へ空気搬送することが好ましい。
【0013】
本発明のアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理方法は、密閉可能なタンク内にアスベスト含有廃材を積み込むステップと、前記タンクに連結され、空気と燃料との混合気を燃焼させるエンジンへ、前記タンク内で生じた空気と燃料との混合気を吸気するステップと、を備え、前記エンジンが、前記タンク内に積み込まれたアスベスト含有廃材より生じたアスベスト針状結晶を含む空気と燃料との混合気を燃焼させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アスベスト含有廃材より生じたアスベスト針状結晶を、自動車等に一般的に用いられる走行駆動用のエンジン中で燃焼して溶融するため、特殊な試薬及び装置を必要とすることなくアスベスト針状結晶を無毒化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係るアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置の構成を示す図。
【図2】上記装置を構成するエンジンの構造を示す図。
【図3】上記装置が係るアスベスト含有材除去作業場を示す図。
【図4】(a)乃至(d)は、上記エンジンによるアスベスト針状結晶の燃焼溶融過程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置(以下、処理装置という)及びアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理方法について、図面を参照して説明する。図1に示されるように、処理装置1は、密閉可能なタンク2と、タンク2内を外気に対して負圧状態とする真空ポンプ3と、タンク2に連結されるエンジン4とを備える。
【0017】
タンク2は、コンテナ21と、コンテナ21の表面に設けられる扉22と、コンテナ21の内側上面に設けられ、コンテナ21内の空気を排気する排気孔23と、排気孔23より排気された空気を通す排気パイプ24とを備える。コンテナ21は、扉22から搬入されたアスベスト含有廃材Sを収容する。
【0018】
エンジン4は、空気と燃料との混合気を燃焼させる内燃機関である。図2に示されるように、エンジン4は、この混合気を燃焼させる燃焼室41と、燃焼室41内へ混合気を吸気する吸気パイプ42と、燃焼室41内で燃焼された混合気を外界へ排気する排気パイプ43とを備える。燃焼室41は、その内部に上下に摺動するピストン44を備える。ピストン44の上下運動は、ピストン44と連結されるクランク機構45によって制御される。クランク機構45は、クランク軸45aと、クランク軸45aに一端を固定され、回転可能に保持されるクランクシャフト45bと、クランクシャフト45bとピストン44とを連結するコンロッド45cとを含む。クランク機構45は、クランクシャフト45bの回転運動を調節することにより、ピストン44の上下運動を制御する。ピストン44の上下運動に連動して、燃焼室41への吸気及び燃焼室41からの排気が行われる。燃焼室41への吸気は、吸気弁46の開閉により制御される。吸気弁46は、燃焼室41と吸気パイプ42との接合部に、燃焼室41を密閉可能に設置される。燃焼室41からの排気は、排気弁47の開閉により制御される。排気弁47は、燃焼室41と排気パイプ43との接合部に、燃焼室41を密閉可能に設置される。燃焼室41へ吸気された混合気は、点火プラグ48の点火により着火される。点火プラグ48は、その点火部48aを燃焼室41に臨ませた状態で配置される。
【0019】
エンジン4は、例えば、自動車等に一般的に利用されるエンジンから構成される。なお、エンジン4は、上述の空気と燃料との混合気が吸気される火花点火エンジンに限定されず、例えば、点火プラグ48を持たない圧縮着火エンジンや、燃焼室41に燃料が直接噴射される直噴エンジンであってもよい。
【0020】
本実施形態においては、タンク2とエンジン4との間に、エンジン4へ吸気される空気から粉塵を除去する粉塵除去装置5が設けられる。粉塵除去装置5は、粉塵分離タンク51と空気清浄機52とから構成される。粉塵分離タンク51は、排気パイプ24と連結されるタンク51aと、タンク51aの内部にタンク51aの底面を貫通した状態で立設される通気パイプ51bと、通気パイプ51bの上端開口部を覆うカバー51cとを備える。ここで、カバー51cは、通気パイプ51bの上端開口部から距離を置いて配置されるため、空気は、この間隙を通って通気パイプ51b内へ流入することができる。通気パイプ51bは、空気清浄機52と連結される。空気清浄機52は、例えば、不織布等の濾材から構成されるエアフィルタ52aを備える。エアフィルタ52aを通過した空気は、吸気パイプ42を通ってエンジン4へ吸気される。
【0021】
エンジン4が車両の走行駆動用のものである場合、タンク2とエンジン4との間に、走行・作業切り替えバルブ6が設けられてもよい。走行・作業切り替えバルブ6は、エンジン4へ吸気される空気を、タンク2内で生じた空気と外界から取り入れた空気との間で切り替えるものであって、本実施形態においては、吸気パイプ42上に設けられる。走行・作業切り替えバルブ6は、吸気パイプ42を閉じると共に外界へとつながる吸気パイプ(図示せず)を開く、又は逆に、吸気パイプ42を開くと共に外界へとつながる吸気パイプを閉じることにより、エンジン4へ吸気される空気を切り替える。
【0022】
外界へ連なる排気パイプ43の先端には、排気浄化マフラ7が設けられてもよい。排気浄化マフラ7は、有害物質を除去する触媒層71を備え、エンジン4から排気された空気を浄化する。触媒層71は、例えば、一酸化窒素・炭化水素・窒素化合物を浄化する三元触媒から構成される。
【0023】
本実施形態の処理装置1は、走行用の車輪V1を備え、移動可能な車両V上に搭載されている。
【0024】
処理装置1は更に、図3に示されるように、粉砕機8と、粉砕機8とタンク2のコンテナ21との間をつなぐ吸引ホース9とを備えていてもよい。粉砕機8は、その内部に回転刃81を備え、投入されたアスベスト含有廃材Sを粉砕して空気搬送可能な形状へ加工する。粉砕機8によって粉砕されたアスベスト含有廃材Sは、吸引ホース9を通じてタンク2のコンテナ21内へ空気搬送される。
【0025】
次に、以上のような構成を備える処理装置1の動作過程について説明する。図3に示されるように、アスベスト含有材除去作業場W(以下、作業場Wという)において、剥離除去作業者L1が、ケレン棒Pを用いて壁等からアスベスト含有廃材Sを剥離する。剥離されたアスベスト含有廃材Sは、手動でコンテナ21へ移動されてもよいし、圧送作業者L2によって粉砕機8で粉砕された後コンテナ21へ空気搬送されてもよい。このとき、作業場Wは、作業場W内に存在する窓枠F等に外気飛散防止めっちMを施すことによって閉鎖空間とされ、真空ポンプ(図示せず)による吸引によって負圧状態とされる。これにより、アスベスト含有廃材Sより生じたアスベスト針状結晶Cが、作業場Wの外側へ飛散することを防ぐことができる。
【0026】
図1に示されるように、コンテナ21内へ搬送されたアスベスト含有廃材Sは、空気中を飛散するアスベスト針状結晶Cを発生させる。アスベスト針状結晶Cを含む空気は、真空ポンプ3がコンテナ21内を負圧状態としているため、アスベスト含有廃材Sの搬入の際に扉22を開放したとしても外界へ飛散しない。アスベスト針状結晶Cを含む空気は、排気孔23及び排気パイプ24を通って粉塵分離タンク51へ達する。粉塵分離タンク51は、アスベスト針状結晶Cを含む空気と、空気中に含まれる比較的大きくて重い粉塵とを分離する。粉塵分離タンク51内において、空気中に含まれる比較的大きくて重い粉塵は沈降するが、アスベスト針状結晶Cは沈降しない。そのため、アスベスト針状結晶Cを含む空気は、通気パイプ51bとカバー51cとの間の間隙を通って通気パイプ51bへ入り、空気清浄機52へ達する。空気清浄機52は、エンジン4へ吸気される空気中から粉塵分離タンク51では除去しきれなかった比較的小さくて軽い粉塵を除去するものであるが、アスベスト針状結晶Cは、その大きさがミクロン単位であるため空気清浄機52に捕捉されない。空気清浄機52を通過したアスベスト針状結晶Cを含む空気は、吸気パイプ42を通って、燃料噴射装置(図示せず)から噴射された燃料と混合された後、エンジン4へ吸気される。
【0027】
エンジン4へ吸気されたアスベスト針状結晶Cを含む空気がエンジン4内で燃焼される過程について、図4を参照して説明する。図4(a)に示されるように、エンジン4は、吸気弁46を開弁し、排気弁47を閉弁した状態でピストン44を下方へ移動させ、アスベスト針状結晶Cを含む空気と燃料との混合気を吸気パイプ42から燃焼室41内へ流入させる(破線矢印で示す)。次いで、図4(b)に示されるように、エンジン4は、吸気弁46と排気弁47とを閉弁した状態でピストン44を上方へ移動させ、この混合気を圧縮加熱すると共に点火プラグ48を点火させる。これにより、図4(c)に示されるように、混合気は着火され、その燃焼に伴って体積を膨張させ、ピストン44を下方へ押し下げる。このとき、燃焼室41内の温度は、1500度から2000度に達する。この温度は、国土交通省が定めるアスベスト針状結晶溶融温度である1300度から1500度よりも高いため、アスベスト針状結晶Cは、効率良く燃焼溶融される。この燃焼の終了後、図4(d)に示されるように、エンジン4は、吸気弁46を閉弁し、排気弁47を開弁した状態でピストン44を上方へ移動させ、燃焼された混合気を燃焼室41から排気パイプ43へ排気する(破線矢印で示す)。
【0028】
エンジン4から排気パイプ43を通じて排気された空気は、排気浄化マフラ7を経て外界へ放出される。排気浄化マフラ7は、エンジン4から排気された空気中に含まれ得る一酸化窒素、炭化水素、及び窒素化合物等の有害物質を浄化するため、外界へ放出される空気は、有害物質を含まない清浄なものとなる。
【0029】
以上の工程を以て、アスベスト含有廃材Sから生じたアスベスト針状結晶Cは溶融される。コンテナ2内に残されたアスベスト含有廃材Sは、移動可能な車両Vによってコンテナ2ごとアスベスト最終処理場へ搬送される。このとき、外界から取り入れた空気がエンジン4に吸気されるよう走行・作業切り替えバルブ6を設定することにより、車両Vは、アスベスト針状結晶Cを含まない空気を利用した通常走行を行うことができる。
【0030】
本実施形態に係る処理装置1によれば、アスベスト含有廃材Sから生じたアスベスト針状結晶Cを、自動車等に一般的に利用されるエンジン4内で燃焼溶融させることにより無毒化することができる。また、処理装置1は、移動可能な車両V上に搭載することができるため、作業場Wの近傍に移動して、その場でアスベスト針状結晶Cを無毒化することができる。
【0031】
なお、本発明に係るアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置及びアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理方法は、上記実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、エンジン内で燃焼溶融される有害物質は、アスベストに限定されず、ダイオキシン、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物等であってもよい。また、本実施形態では、処理装置1は、車両V上に搭載されたものを示したが、これに限られず、走行移動しない台等に搭載されてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 アスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置
2 タンク
3 真空ポンプ
4 エンジン
5 粉塵除去装置
6 走行・作業切り替えバルブ
7 排気浄化マフラ
8 粉砕機
9 吸引ホース
S アスベスト含有廃材
C アスベスト針状結晶
V 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト含有廃材より生じたアスベスト針状結晶を燃焼溶融するアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置であって、
密閉可能なタンクと、
前記タンク内を外気に対して負圧状態とする真空ポンプと、
前記タンクに連結され、空気と燃料との混合気を燃焼させるエンジンと、を備え、
前記エンジンが、前記タンク内に積み込まれたアスベスト含有廃材より生じたアスベスト針状結晶を含む空気と燃料との混合気を燃焼させることを特徴とするアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置。
【請求項2】
前記タンクと前記エンジンとの間に、前記エンジンへ吸気される空気から粉塵を除去する粉塵除去装置を備えたことを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置。
【請求項3】
前記エンジンは、車両の走行駆動用のものであり、前記タンクと前記エンジンとの間に、前記エンジンへ吸気される空気を、前記タンク内で生じた空気と外界から取り入れた空気との間で切り替える走行・作業切り替えバルブを備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置。
【請求項4】
前記エンジンから排気された空気を浄化する排気浄化マフラを備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置。
【請求項5】
移動可能な車両上に搭載されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置。
【請求項6】
粉砕機と、前記粉砕機と前記タンクとの間をつなぐ吸引ホースとを備え、前記粉砕機が粉砕したアスベスト含有廃材を前記吸引ホースを通じて前記タンク内へ空気搬送することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理装置。
【請求項7】
密閉可能なタンク内にアスベスト含有廃材を積み込むステップと、
前記タンクに連結され、空気と燃料との混合気を燃焼させるエンジンへ、前記タンク内で生じた空気と燃料との混合気を吸気するステップと、を備え、
前記エンジンが、前記タンク内に積み込まれたアスベスト含有廃材より生じたアスベスト針状結晶を含む空気と燃料との混合気を燃焼させることを特徴とするアスベスト含有浮遊物燃焼溶融処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−96155(P2012−96155A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245350(P2010−245350)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(596070216)中特建機株式会社 (4)
【Fターム(参考)】