説明

アスベスト粉塵の除塵方法および除塵装置

【課題】本発明は、フィルタを容易に再使用可能とすることにより、フィルタの長寿命化およびコスト削減を図りつつ、アスベスト粉塵を確実に除塵することが可能なアスベスト粉塵の除塵方法および除塵装置を提供することを目的としている。
【解決手段】 本発明にかかるアスベスト粉塵の除塵方法の代表的な構成は、水を貯留した水槽120内の上方にセラミックフィルタ130を配置し、アスベスト粉塵102を含有した気体を水槽外から水槽内へ吸引し、吸引した気体をセラミックフィルタに通過させることにより、気体が含有するアスベスト粉塵をセラミックフィルタに捕捉し、吸引を停止することにより、アスベスト粉塵を水槽に貯留した水に落下させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解体工事現場等で発生するアスベスト粉塵を捕集し、空間内から除塵するアスベスト粉塵の除塵方法および除塵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中皮腫や肺がん等のアスベストによる健康被害が各地で報告されており、アスベストを使用した製品の撤去、処理および処分が進められている。かかる撤去に際しては、撤去現場周辺にアスベストを飛散させないよう、撤去現場は外部と隔離された空間とされ、負圧に保持された環境で撤去工事を実施できるよう負圧除塵装置が設置される。
【0003】
負圧除塵装置は通常、プライマリーフィルタ、セカンダリーフィルタおよびHEPAフィルタの3段のフィルタが設けられている。プライマリーフィルタおよびセカンダリーフィルタは、負圧除塵装置が吸引した粉塵のうち、粗い粒子を順次捕集するプレフィルタであり、HEPAフィルタの寿命を延命するために設けられている。最終段に設けられているHEPAフィルタは、粒径が極めて小さい微細な粉塵も捕集可能である。
【0004】
上述したような装置を用いた従来のアスベスト粉塵の除塵技術として、例えば特許文献1には、吸引ホース先端からの吸引力によってアスベストを剥離し、剥離されたアスベストをレシーバタンク内のバグフィルタおよびHEPAフィルタ装置へと導いて捕捉する技術が開示されている。かかる技術により、アスベスト回収作業の作業効率及び作業環境を向上させるとともに、外部へのアスベストの飛散を確実に防止して、捕集効率を高めることができるとしている。
【0005】
また例えば特許文献2には、気体中の水分及び油分を除去する液分離装置と、液分離装置からの気体が導入される集塵装置とを有し、かかる集塵装置に筒状に形成されたフィルタと、フィルタの内側に摺接する粉塵除去具とを備える粉塵除去装置が開示されている。これによれば、0.3μm程度以下の粉塵を長期間効率よく捕獲することができるとしている。
【特許文献1】特開2008−029942号公報
【特許文献2】特開平11−128644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の特許文献1および2に記載の技術も含め、従来におけるフィルタを用いた装置では、除塵を行うにつれてフィルタの目詰まりが生じるため、吸引圧力の差圧、すなわち圧力損失が上昇してしまう。したがって、圧力損失が上昇した際には、適宜フィルタの交換を行わなくてはならない。
【0007】
通常、交換された使用後のフィルタは逆洗(逆方向に流体を通す操作)等の処理を施すことによって再生され、再使用される。しかし極めて細い繊維状結晶であるアスベストはフィルタの繊維間にからまってしまうため、アスベストを吸着したフィルタの場合は逆洗等の処理による再生は困難であった。このため、フィルタ交換時は新品のフィルタを使用せざるを得ず、フィルタに要するコストの削減が課題となっている。中でもHEPAフィルタは高額であるため、同等の除塵性能を有し、かつ容易な再生処理にて再使用できるものが求められている。
【0008】
また、アスベストを吸着した使用後のフィルタは、2重のビニール袋に梱包され、特別管理産業廃棄物として埋立処分場に埋入することにより処分されている。上記の負圧除塵装置以外にも、アスベスト粉塵の飛散防止手段としてフィルタは多く用いられており、かかるフィルタも上述のように処分される。
【0009】
しかし、フィルタは体積が大きいため、埋立処分場のスペースを大量に消費してしまう。このため、現状の処分方法では埋立処分場の容量が不足するのは時間の問題である。また、体積の大きさ故にフィルタの処分費が高額となり、コスト増大の一因となっている。したがって、埋立処分場の延命とコスト削減の観点から、新たな除塵システムの構築が求められている。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑み、フィルタを容易に再使用可能とすることにより、フィルタの長寿命化およびコスト削減を図りつつ、アスベスト粉塵を確実に除塵することが可能なアスベスト粉塵の除塵方法および除塵装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明にかかるアスベスト粉塵の除塵方法の代表的な構成は、水を貯留した水槽内の上方にセラミックフィルタを配置し、アスベスト粉塵を含有した気体を水槽外から水槽内へ吸引し、吸引した気体をセラミックフィルタに通過させることにより、気体が含有するアスベスト粉塵をセラミックフィルタに捕捉し、吸引を停止することにより、アスベスト粉塵を水槽に貯留した水に落下させることを特徴とする。
【0012】
上記の構成により、吸引を停止するだけで、捕捉されたアスベスト粉塵をセラミックフィルタから除去することができ、逆洗等の煩雑な処理を施すことなく容易にセラミックフィルタを再使用することが可能となる。したがって、フィルタを長寿命化し、フィルタに要するコストを削減することができる。また、処分するフィルタの数も低減できるため、フィルタの処分に要するコストの削減、および埋立処分場の延命への寄与が可能となる。
【0013】
上記のセラミックフィルタの捕捉面は、水平面に対して90°以下の角度となるように配置されるとよい。これにより、吸引を停止した際に、セラミックフィルタに捕捉されたアスベスト粉塵を重力によって自然落下させることが可能となる。
【0014】
上記の水の中に落下したアスベスト粉塵を、粉塵回収フィルタによって水と分離するとよい。これにより、アスベスト粉塵の回収に使用した水を、有害物質であるアスベスト粉塵を排除した水として排水することが可能となる。
【0015】
上記の吸引された気体を、水の水面に向けて放出するとよい。
【0016】
気体に含有されるアスベスト粉塵は無機質からなる鉱物であり、親水性が高いため、水に回収されやすい(水面に浮かばずに、沈降する)。したがって、上記の構成によれば、放出された気体に含有されるアスベスト粉塵の大部分を水によって回収することができる。その結果、フィルタの目詰まりの発生およびこれに起因する圧力損失の増大を遅延することが可能となる。
【0017】
上記の吸引された気体を、水の中に放出するとよい。これにより、放出された気体に含有されるアスベスト粉塵の大部分を水によって回収することができ、フィルタの目詰まりの発生および圧力損失の増大を更に遅延することが可能となる。
【0018】
本発明にかかるアスベスト粉塵の除塵装置の代表的な構成は、水を貯留する水槽と、アスベスト粉塵を含有した気体が水槽外から水槽内へ流入する入気部と、アスベスト粉塵を捕捉するセラミックフィルタとを備え、セラミックフィルタは水槽内の上方に配置され、且つセラミックフィルタの捕捉面は水平面に対して90°以下の角度となるように配置されることを特徴とする。
【0019】
上述したアスベスト粉塵の除塵方法における技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該アスベスト粉塵の除塵装置にも適用可能である。
【0020】
上記の水槽の底面は、漏斗状であるとよい。これにより、水の中に落下したおよび水の中で回収されたアスベスト粉塵が水中を沈降した際に一箇所に集積しやすくなるため、アスベスト粉塵の回収を容易に行うことができる。
【0021】
上記の入気部の末端は、水の水面に向けて設置されるとよい。これにより、気体が放出される方向は水面が存在する方向となる。したがって、かかる水によって気体に含有されるアスベスト粉塵の一部を回収し、フィルタの目詰まりの発生および圧力損失の増大を遅延することができる。
【0022】
上記の入気部の末端は、水の中に設置されるとよい。これにより、気体は水の中に放出されるため、気体に含有されるアスベスト粉塵の大部分を水によって回収し、フィルタの目詰まりの発生および圧力損失の増大を更に遅延することができる。
【0023】
当該除塵装置は更に、水の水面とセラミックフィルタとの間にミストセパレータを備えるとよい。これにより、気体に含まれる水分や水滴を分離することができるため、セラミックフィルタの吸湿や水滴の付着を防止し、圧力損失の増大を防ぐことが可能となる。
【0024】
当該除塵装置は更に、セラミックフィルタの前後の差圧を検出する圧力計と、圧力計の値が所定値以上であった場合に当該除塵装置の吸引を停止する制御部とを備えるとよい。
【0025】
かかる構成により、セラミックフィルタの目詰まり等により差圧が増大した場合、制御部が除塵装置の吸引を停止し、捕捉されたアスベスト粉塵をセラミックフィルタから除去することができる。したがって、除塵装置の制御に人手を割く必要がないため、人件費等のコストを削減することができる。
【0026】
当該除塵装置は更に、セラミックフィルタの下流側にHEPAフィルタを備えてもよい。これにより、万が一セラミックフィルタの破損等によりセラミックフィルタを通過してしまったアスベスト粉塵をHEPAフィルタによって捕捉することが可能となる。したがって、当該除塵装置の除塵性能の確実性が向上する。
【0027】
当該除塵装置は更に、入気部の上流側にサイクロンセパレータを備えてもよい。これにより、気体に含有される粗い粉塵を、水槽内に吸引する前に予め除去することが可能となり、フィルタの目詰まりの発生および圧力損失の増大を防止できる。
【0028】
本発明にかかるアスベスト粉塵の除塵装置の他の構成は、上記のアスベスト粉塵の除塵装置を2以上併設し、アスベスト粉塵を含有した気体を吸引する除塵装置を選択的に切替可能であることを特徴とする。
【0029】
上記の構成により、気体を吸引している除塵装置がセラミックフィルタの目詰まり等によって吸引を停止した場合、停止した除塵装置以外の他の除塵装置を選択し吸引を開始することが可能となる。したがって、除塵装置の停止によっても撤去工事を中断することなく、効率よく作業を進行することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、フィルタを容易に再使用可能とすることができ、フィルタの長寿命化およびコスト削減を図りつつ、アスベスト粉塵を確実に除塵することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[実施形態]
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0032】
(第1実施形態)
図1は、アスベストの除塵装置の全体構成を説明する図である。以下、アスベストの除塵装置を「除塵装置」と称する。図1(a)は気体吸引前の除塵装置を説明する図であり、図1(b)は気体吸引中の除塵装置を説明する図であり、図1(c)は気体吸引停止後の除塵装置を説明する図である。
【0033】
図1(a)に示すように、除塵装置100は、入気部110と、水槽120と、セラミックフィルタ130と、粉塵回収フィルタ140と、圧力計150と、制御部160と、排気部170とを含んで構成される。
【0034】
入気部110は、アスベストを使用した製品の撤去工事現場において発生する、アスベスト粉塵を含有した気体を水槽120外から水槽120内へ流入する。本実施形態において、入気部110から流入した気体はセラミックフィルタ130と水面との間に放出されているが、これに限定されるものではなく、後述する他の実施形態の如く、水面付近または水槽120に貯留される水の中に気体を放出することも可能である。
【0035】
水槽120は、アスベスト粉塵を回収するための水を貯留する。これにより、吸引の停止時にセラミックフィルタ130から落下したアスベスト粉塵を、水槽120に貯留されている水によって回収することが可能となる。
【0036】
セラミックフィルタ130は、入気部110から流入した気体が含有するアスベスト粉塵を捕捉する。セラミックフィルタ130は従来の除塵装置に使用される繊維状のフィルタと異なり、アスベスト等の繊維状物質が絡まりにくい構造となっている。
【0037】
上記のセラミックフィルタ130は、HEPAフィルタと同等以上の捕集性能、すなわち「0.3μmの粒子の捕集効率99.97%以上」の性能を有するフィルタを用いることが好ましく、例えば炭化珪素系セラミックフィルタやコージェライト系セラミックフィルタを好適に用いることができる。これにより、当該除塵装置100は、再生処理が困難であり且つ高額であるHEPAフィルタを用いることなく、容易に再生処理が可能であり且つHEPAフィルタを用いた場合と同等以上の除塵性能を有することが可能になる。
【0038】
また、セラミックフィルタ130は水槽120内の上方に配置されており、その捕捉面は水平面に対して平行、すなわち水平面に対して90°以下の角度となっている。上記の構成により、除塵装置100の吸引停止時に、セラミックフィルタ130に捕捉されたアスベスト粉塵を重力により自然落下させることができる。なお、セラミックフィルタ130の設置角度は、捕捉されたアスベスト粉塵が重力によってセラミックフィルタ130から自然落下または滑落することが可能な角度であればよい。特に、水平面に対して90°以下の角度であれば、捕捉されたアスベスト粉塵をセラミックフィルタ130から確実に自然落下または滑落させることができる。
【0039】
粉塵回収フィルタ140は、水槽120中の水に落下したアスベスト粉塵と水とを分離する。これにより、回収に使用した水を、アスベスト粉塵を排除した水として排水することが可能となる。本実施形態では、かかる粉塵回収フィルタ140としてメンブランフィルタを用いた。メンブランフィルタはアスベスト粉塵が通過しない孔径のものを利用することができ、最終処理のろ過に用いるのに適している。
【0040】
圧力計150は、セラミックフィルタ130の前後の差圧を検出する。制御部160は、圧力計150の値が所定値以上であった場合に除塵装置100の吸引を停止する。かかる吸引の停止は、本実施形態の如く制御部160が真空ポンプの制御を行っている場合であれば、真空ポンプの停止でもよいし、入気部110の吸引弁(図示せず)の閉鎖でもよい。これにより、目詰まり等によりセラミックフィルタ130前後の差圧が所定値以上となった場合に、除塵装置100の吸引を停止し、セラミックフィルタ130からアスベスト粉塵を除去する(落下させる)ことができる。
【0041】
また、制御部160にタイマー等の計時装置を備えることにより、所定時間や所定時刻の設定が可能になる。これにより、圧力計150の値が所定値以上に達しなくても、所定時間経過時や所定時刻到達時に除塵装置100の吸引を停止し、セラミックフィルタ130からのアスベスト粉塵の除去を行うことにより差圧の回復を図ることができる。
【0042】
排気部170は、入気部110から流入し、セラミックフィルタ130によってアスベスト粉塵を除去された気体を排気する。かかる排気部170は真空ポンプに接続されており、真空ポンプが吸引を行うことにより、除塵装置100内の圧力は負圧に保たれている。
【0043】
図1(b)に示すように、除塵装置100が気体の吸引を開始すると、入気部110から流入した気体に含有されるアスベスト粉塵102はセラミックフィルタ130によって捕捉される。これにより、アスベスト粉塵102を除塵された気体は、排気部170から排気される。そして、圧力計150によって検出される、セラミックフィルタ130の前後の差圧が所定値以上となると、制御部160は除塵装置100の吸引を停止する。
【0044】
除塵装置100の吸引が停止すると、図1(c)に示すように、セラミックフィルタ130に捕捉されていたアスベスト粉塵102は重力によって水槽120中の水に落下する。落下したアスベスト粉塵102を含む水は、粉塵回収フィルタ140によってアスベスト粉塵と水とに分離される。したがって、除塵装置100の吸引を停止するだけで、捕捉されたアスベスト粉塵102をセラミックフィルタ130から除去することができ、容易にセラミックフィルタ130を再使用することができる。
【0045】
ここで、セラミックフィルタ130は流体が通過可能な多孔質であるが、HEPAフィルタのように繊維状となっていないため、繊維状結晶であるアスベストであっても内部に入り込むことがなく、セラミックフィルタ130の表面(捕捉面)において移動を阻止される。これにより、吸引が継続している間はその負圧によって表面に保持されているが、吸引を停止すると重力によって落下する。
【0046】
したがって、セラミックフィルタの捕捉面(上流側の面)を水平面に対して90°以下の角度となるように配置することにより、吸引を停止すると堆積したアスベストをセラミックフィルタ130の表面から除去することができる。そして、セラミックフィルタ130の下方に水槽を配置することにより、アスベストを確実に捕集することができる。
【0047】
なお、上記のように除塵装置100の吸引を停止することによりセラミックフィルタ130の再使用は可能になるが、セラミックフィルタ130からのアスベスト粉塵102の除去の完璧を期するために、除塵装置100の吸引停止後に、セラミックフィルタ130のシャワー洗浄やパルスジェットによる逆洗を行ってもよい。また、セラミックフィルタ130の上部に、シャワー洗浄後の急速乾燥用のヒータ(図示せず)を設置してもよい。
【0048】
図2は、他の実施形態にかかる除塵装置の構成を説明する図である。図2(a)は第2実施形態にかかる除塵装置の構成を説明する図であり、図2(b)は第3実施形態にかかる除塵装置の構成を説明する図である。なお、以下の第2実施形態および第3実施形態の説明において、上述した第1実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
図2(a)に示すように、第2実施形態にかかる除塵装置200は、入気部210と、水槽220と、セラミックフィルタ230と、HEPAフィルタ240と、サイクロンセパレータ250と、ミストセパレータ260と、圧力計150と、制御部160と、排気部170とを含んで構成される。
【0050】
入気部210は、その末端210aが水の水面に向けて設置されており、流入した気体は水の水面に向けて放出される。無機物であるアスベストは水に回収されやすいため、上記の構成によれば、末端210aから放出された気体に含有されるアスベスト粉塵の一部を水によって回収することができる。これにより、セラミックフィルタ230の目詰まりの発生およびこれに起因する圧力損失の増大を遅延することが可能となる。
【0051】
水槽220は、底面220aが漏斗状である。これにより、水の中で回収されたアスベスト粉塵が沈降した際に一箇所に集積しやすくなり、アスベスト粉塵の回収を容易に行うことができ、水を全て回収する必要がなくなる。アスベストの回収に使用した水は、埋立処分場においてアスベスト廃棄物の埋立て処分に用いるコンクリートの混合に使用することができる。これにより、かかる水を安全に処理することが可能である。
【0052】
セラミックフィルタ230は、その捕捉面が水平面に対して90°以下の角度、すなわち鋭角に設置されている。これにより、除塵装置200の吸引を停止した際に、アスベスト粉塵を重力によって自然落下させることが可能となる。
【0053】
HEPAフィルタ240は、セラミックフィルタ230の下流側に備えられている。HEPAフィルタ240とは、JIS Z 8122による「定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」の規定を満たすフィルタである。これにより、万が一セラミックフィルタ230を通過してしまったアスベスト粉塵を、HEPAフィルタ240によって捕捉することができ、除塵性能の確実性を向上することが可能となる。
【0054】
サイクロンセパレータ250は入気部210の上流側に備えられている。これにより、気体に粗い粉塵が多く含有される場合に、粗い粉塵を水槽220内に吸引する前に予め除去し、圧力損失の増大を防止できる。
【0055】
ミストセパレータ260は、水槽220に貯留される水の水面とセラミックフィルタ230との間に備えられている。これにより、気体の放出時に生じる飛沫や気体に含まれる水分をミストセパレータ260で気体から分離し、セラミックフィルタ230への水滴の付着を防止し、圧力損失の増大を防ぐことができる。
【0056】
図2(b)に示すように、第3実施形態にかかる除塵装置300は、水槽120と、入気部310と、セラミックフィルタ330と、粉塵回収フィルタ140と、圧力計150と、制御部160と、排気部170とを含んで構成される。
【0057】
入気部310は、末端310aが水槽120に貯留されている水の中に設置されており、流入した気体は水の中に放出される。これにより、放出された気体に含有されるアスベスト粉塵の大部分を水によって回収し、セラミックフィルタ330の目詰まりの発生および圧力損失の増大を更に遅延することが可能となる。
【0058】
セラミックフィルタ330は、水槽120に貯留されている水の中に設置されている。上述の如く、入気部310から流入した気体が水中に放出されている場合、アスベスト粉塵を回収した水の飛沫が生じることが考えられる。このとき、セラミックフィルタ330が水面上方の空気中に設置されていると、セラミックフィルタ330に飛沫が付着し、飛沫の水分が乾燥後にアスベスト粉塵がセラミックフィルタ330に強固に付着してしまうおそれがある。
【0059】
したがって、セラミックフィルタ330を水の中に設置することにより、セラミックフィルタ330が常に水に浸漬されている状態を保ち、セラミックフィルタ330へのアスベスト粉塵の強固な付着を防止することができる。なお、第3の実施形態のように吸引された気体が水の中に放出される場合において、セラミックフィルタを水面上方の空気中に設置する際には、上述の付着防止のために水面とセラミックフィルタ330の間にミストセパレータ(図2(a)参照)を設置することが好ましい。
【0060】
図3は、更に他の実施形態にかかる除塵装置の構成を説明する図である。図3に示すように、第4実施形態にかかる除塵装置400は、除塵装置400aおよび400bと、入気部410と、制御部460と、排気部470とを含んで構成される。なお、第4実施形態において除塵装置400は、除塵装置400aおよび400bの2台の除塵装置を併設しているが、これに限定されるものではなく、2台以上の除塵装置を併設することも可能である。以下、第4実施形態の説明において、上述した第1実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
除塵装置400aは、水槽120と、セラミックフィルタ130と、粉塵回収フィルタ140と、圧力計450aとを含んで構成される。圧力計450aは、除塵装置400aのセラミックフィルタ130の前後の差圧を検出する。
【0062】
除塵装置400bは、水槽120と、セラミックフィルタ130と、粉塵回収フィルタ140と、圧力計450bとを含んで構成される。圧力計450bは、除塵装置400bのセラミックフィルタ130の前後の差圧を検出する。
【0063】
入気部410はアスベスト粉塵を含有した気体を水槽120外から水槽120内へ流入する。また、入気部410は吸気弁410aおよび410bを備えており、かかる吸気弁410aおよび410bを開閉することにより、吸気を行う除塵装置を選択的に切り替えることができる。
【0064】
制御部460は、圧力計450aまたは450bの値が所定値以上であった場合に、気体を吸引する除塵装置を選択的に切り替える。すなわち、除塵装置400aまたは400bのうち、吸引を行っている一方の除塵装置の吸引を停止し、吸引を行っていなかった他方の除塵装置による吸引を開始する。
【0065】
排気部470はセラミックフィルタ130によってアスベスト粉塵を除去された気体を排気する。また、排気部470は排気弁470aおよび470bを備えており、かかる排気弁470aおよび470bを開閉することにより、排気を行う除塵装置を選択的に切り替えることができる。
【0066】
例えば、除塵装置400の2台の除塵装置のうち、除塵装置400aが気体の吸引を行っている場合、入気部410の吸気弁410aは開放状態であり、吸気弁410bは閉鎖状態となっている。また、排気部470の排気弁470aは開放状態であり、排気弁470bは閉鎖状態である。
【0067】
圧力計450aは除塵装置400aのセラミックフィルタ130の前後の差圧を検出し、その値が所定値以上になった場合、制御部460は吸気弁470aおよび排気弁410aを閉鎖することにより除塵装置400aの吸引を停止し、吸気弁410bおよび排気弁470bを開放することにより除塵装置400bの吸引を開始する。
【0068】
上記の構成により、目詰まり等により除塵装置400aのセラミックフィルタ130前後の差圧が所定値以上となった場合においても、除塵装置400bにより引き続き気体の吸引を継続して行うことが可能となる。したがって、長時間運転に亘る撤去工事においても、除塵装置の停止によって撤去工事を中断することなく、効率よく作業を進行することができる。
【0069】
また、第1実施形態と同様に、制御部460にタイマー等の計時装置を備えることにより、所定時間や所定時刻を設定することができる。これにより、圧力計450aまたは450bの値が所定値以上に達しなくても、所定時間経過時や所定時刻到達時に除塵装置100の吸引を停止し、セラミックフィルタ130からのアスベスト粉塵の除去を行うことにより差圧の回復を図ることが可能となる。
【0070】
なお、上述した制御部460の動作は、除塵装置400aおよび400bが同一のポンプ(図示せず)に接続されている場合の例であり、これに限定されるものではない。例えば、除塵装置400aおよび400bが異なる真空ポンプに接続されている場合には、制御部460によって、吸引を行っている除塵装置400aに接続されている真空ポンプを停止し、除塵装置400bに接続されている真空ポンプを作動させてもよい。
【0071】
以下に、アスベスト粉塵の吸引試験の結果を用いて、本発明の効果を説明する。かかる吸引試験では、実施例1として炭化珪素系セラミックフィルタ(平均孔径2.0μm、厚さ1mm)を用い、その背面(捕捉面でない面)にメンブランフィルタ(環境庁告示93号「石綿に係る特定粉じんの濃度の測定法」に準拠した、平均孔径0.8μmの市販の円形セルロースエステル製のろ紙)を設置した。また実施例2としてコージェライト系セラミックフィルタ(平均孔径1.5μm、厚さ1mm)を用い、その背面にメンブランフィルタ(同上)を設置した。比較例には、メンブランフィルタ(同上)のみを用いた。なお、実施例の平均孔径については水銀ポロシメータを用いて計測した。
【0072】
上記の吸引試験は、環境庁告示93号「石綿に係る特定粉じんの濃度の測定法」に準拠して行った。実施例および比較例の各フィルタを直径47mmの円形に整形し、整形した各フィルタを有効ろ過面の直径が35mmとなるよう、環境庁告示93号に規定されるホルダに装着する。そして、密閉容器に封入したアスベスト粉塵(クロシドライト・アモサイト混合粉塵)を含有した気体を流量10L/minで20分間各フィルタに通気(吸引)させた。なお、環境庁告示93号では、通気時間は4時間と規定されているが、本試験に使用した気体はアスベスト粉塵の含有濃度が高いため、通気時間を20分間とした。
【0073】
次に、通気を行った実施例および比較例に用いたメンブランフィルタを、環境庁告示93号に規定される手順に従ってアセトン蒸気で透明化し、トリアセチンを滴下し、顕微鏡標本を作製した。そして、かかる顕微鏡標本を位相差顕微鏡で観察し、長さが5μm以上且つアスペクト比(長さと幅の比)が3以上となる繊維状物質(アスベスト粉塵)を計数した。
【0074】
なお、上記の顕微鏡標本の作製において、実施例に用いたセラミックフィルタは透明化されないため、顕微鏡を用いてのアスベストの観察が困難である。したがって、上述の如く、実施例においては各セラミックフィルタの背面にメンブランフィルタを設置することにより、アスベスト粉塵が各セラミックフィルタを通過した場合、背面に設置されているメンブランフィルタでアスベスト粉塵を捕捉する。そして、かかるメンブランフィルタを顕微鏡標本とし、そのアスベスト粉塵の捕捉状態を観察することにより、実施例に用いた各セラミックフィルタのアスベスト粉塵の通過状態を把握することが可能となる。
【0075】
図4は、実施例および比較例における顕微鏡標本を示す図である。図4(a)は実施例1にかかる顕微鏡標本を、図4(b)は実施例2にかかる顕微鏡標本を、図4(c)は比較例にかかる顕微鏡標本を示す図である。図4(a)および(b)に示すように、実施例1および2の各セラミックフィルタの背面に設置したメンブランフィルタを用いて作製した顕微鏡標本において、繊維状物質(アスベスト)の付着は確認されなかった。これに対し、比較例においては、図4(c)に示すように多数の繊維状物質の付着が確認された。
【0076】
上記の結果から、通気されたアスベスト粉塵は、実施例1および2の各セラミックフィルタによって捕捉され、各セラミックフィルタを通過していないことがわかる。このことから、アスベスト粉塵の除塵にはセラミックフィルタが有効であることが理解できる。
【0077】
次に、アスベスト粉塵吸引試験中および試験後における、実施例のセラミックフィルタへのアスベスト粉塵の付着状態を確認した。図5は、アスベスト粉塵吸引試験中および試験後の実施例の状態を説明する図である。図5(a)は吸引試験中の実施例2のセラミックフィルタへのアスベスト粉塵の付着状態を説明する図であり、吸引試験中の実施例2のセラミックフィルタに粘着テープを貼付することにより、アスベスト粉塵を転移させた粘着テープの状態を示している。図5(b)は吸引試験後の実施例2のセラミックフィルタの状態を示す図である。
【0078】
図5(a)に示すように、粘着テープにアスベスト粉塵が付着(転移)していることから、吸引試験中はセラミックフィルタにアスベスト粉塵が捕捉されていることがわかる。しかし、図5(b)に示すように、吸引試験後の実施例2のセラミックフィルタには繊維状物質は確認されない。このことから、アスベスト粉塵は、吸引中はセラミックフィルタに捕捉されているが、吸引停止後はセラミックフィルタから脱離していると考えられる。
【0079】
以上の結果から、アスベスト粉塵の除塵方法および除塵装置にセラミックフィルタを適用することにより、高効率でアスベスト粉塵を除塵可能であることがわかる。また、セラミックフィルタに捕捉されたアスベスト粉塵は、吸引を停止するだけでセラミックフィルタから脱離するため、逆洗等の煩雑な処理を施すことなくアスベスト粉塵を除去し、容易にセラミックフィルタを再使用可能であることが理解できる。
【0080】
したがって、本発明によれば、フィルタの長寿命化を図り、フィルタに要するコストを削減することができる。また、処分するフィルタの数も低減できるため、フィルタの処分に要するコストの削減、および埋立処分場の延命への寄与が可能となる。
【0081】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、解体工事現場等で発生するアスベスト粉塵を捕集し、空間内から除塵するアスベスト粉塵の除塵方法および除塵装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】アスベストの除塵装置の全体構成を説明する図である。
【図2】他の実施形態にかかる除塵装置の構成を説明する図である。
【図3】更に他の実施形態にかかる除塵装置の構成を説明する図である。
【図4】実施例および比較例における顕微鏡標本を示す図である。
【図5】アスベスト粉塵吸引試験中および試験後の実施例の状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0084】
100、200、300、400、400a、400b …除塵装置
102 …アスベスト粉塵
110、210、310、410 …入気部
210a、310a …末端
120、220 …水槽
220a …底面
130、230、330 …セラミックフィルタ
140 …粉塵回収フィルタ
150、450a、450b …圧力計
160、460 …制御部
170、470 …排気部
240 …HEPAフィルタ
250 …サイクロンセパレータ
260 …ミストセパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を貯留した水槽内の上方にセラミックフィルタを配置し、
アスベスト粉塵を含有した気体を前記水槽外から該水槽内へ吸引し、
前記吸引した気体を前記セラミックフィルタに通過させることにより、該気体が含有するアスベスト粉塵を該セラミックフィルタに捕捉し、
吸引を停止することにより、前記アスベスト粉塵を前記水槽に貯留した水に落下させることを特徴とするアスベスト粉塵の除塵方法。
【請求項2】
前記セラミックフィルタの捕捉面は、水平面に対して90°以下の角度となるように配置されることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト粉塵の除塵方法。
【請求項3】
前記水の中に落下したアスベスト粉塵を、粉塵回収フィルタによって該水と分離することを特徴とする請求項1または2に記載のアスベスト粉塵の除塵方法。
【請求項4】
前記吸引された気体を、前記水の水面に向けて放出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のアスベスト粉塵の除塵方法。
【請求項5】
前記吸引された気体を、前記水の中に放出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のアスベスト粉塵の除塵方法。
【請求項6】
水を貯留する水槽と、
アスベスト粉塵を含有した気体が前記水槽外から該水槽内へ流入する入気部と、
前記アスベスト粉塵を捕捉するセラミックフィルタとを備え、
前記セラミックフィルタは水槽内の上方に配置され、且つ該セラミックフィルタの捕捉面は水平面に対して90°以下の角度となるように配置されることを特徴とするアスベスト粉塵の除塵装置。
【請求項7】
前記水槽の底面は、漏斗状であることを特徴とする請求項6に記載のアスベスト粉塵の除塵装置。
【請求項8】
前記入気部の末端は、前記水の水面に向けて設置されることを特徴とする請求項6または7に記載のアスベスト粉塵の除塵装置。
【請求項9】
前記入気部の末端は、前記水の中に設置されることを特徴とする請求項6または7に記載のアスベスト粉塵の除塵装置。
【請求項10】
当該除塵装置は更に、前記水の水面と前記セラミックフィルタとの間にミストセパレータを備えることを特徴とする請求項8または9に記載のアスベスト粉塵の除塵装置。
【請求項11】
当該除塵装置は更に、
前記セラミックフィルタの前後の差圧を検出する圧力計と、
前記圧力計の値が所定値以上であった場合に当該除塵装置の吸引を停止する制御部とを備えることを特徴とする請求項6から10のいずれか1項に記載のアスベスト粉塵の除塵装置。
【請求項12】
請求項6から11のいずれか1項に記載のアスベスト粉塵の除塵装置を2以上併設し、 アスベスト粉塵を含有した気体を吸引する除塵装置を選択的に切替可能であることを特徴とするアスベスト粉塵の除塵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−273995(P2009−273995A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126458(P2008−126458)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】