説明

アセトンとアセチル−COAから酵素によって3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を製造する方法

アセトンと活性化されたアセチル基を提供する化合物とを酵素によって3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸に変換することを含む、アセトンと活性化されたアセチル基を提供する化合物とから3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸(あるいはベータ−ヒドロキシイソバレレートまたはHIVとも称される)を製造する方法を説明する。上記変換は、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素を利用する。好ましくは、本方法で用いられる酵素は、HMGCoAシンターゼの活性を有する酵素(EC2.3.3.10)、および/または、PksGタンパク質、および/または、例えばHMGCoAリアーゼ(EC4.1.3.4)のようなC−C結合を切断/縮合するリアーゼの活性を有する酵素である。また、アセトンと活性化されたアセチル基を提供する化合物とから3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産することができる生物、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するための上述した酵素および生物の使用、加えて3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するためのアセトンの使用も説明される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトンと活性化されたアセチル基を提供する化合物とを酵素によって3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸に変換することを含む、アセトンと活性化されたアセチル基を提供する化合物とから3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸(あるいはベータ−ヒドロキシイソバレレートまたはHIVとも称される)を製造する方法に関する。上記変換は、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素を利用するものである。好ましくは、本方法で用いられる酵素は、HMGCoAシンターゼ(EC2.3.3.10)の活性を有する酵素、および/または、PksGタンパク質、および/または、例えばHMGCoAリアーゼ(EC4.1.3.4)のようなC−C結合を切断/縮合するリアーゼの活性を有する酵素である。本発明はまた、アセトン、および、活性化されたアセチル基を提供する化合物から3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産することができる生物、および、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するための上記酵素および生物の使用にも関する。最後に、本発明は、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するためのアセトンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸(あるいはベータ−ヒドロキシイソバレレートまたはHIVとも称される;図1を参照)は、必須アミノ酸であるロイシンの代謝産物であり、ヒトの体内で合成される。これはグレープフルーツ、アルファルファおよびナマズで少量見出すことができる。これはまた、ある種のロイシン代謝の代謝性疾患、すなわち高吉草酸血症(hypovaleric acidemia)で生じることも知られている。3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸は、筋肉の量と強度の増加に対して作用を有する可能性があることが示されている(Nissen et al., J. Appl.Physiol. 81 (1996), 2095-2104)。Wilsonらは、は、作用機序として以下を提唱している(Nutrition & Metabolism 5 (2008))。
−HMGCoA還元酵素での変換による筋細胞膜に傷がない状態の増強
−mTOR経路を介したタンパク質合成の強化
−ユビキチン経路の阻害を介したタンパク質分解の抑制
3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸は、筋肉がタンパク質の破壊と闘い、筋肉の修復を助け高い耐久性を維持するように作用するものと仮定されている。これまでに、病院の集中治療室内にいる慢性閉塞性肺疾患を有する患者、HIVおよび癌に伴う筋肉の衰弱、および、外傷を受けた重傷被害者の役に立つことが説明されている。従ってこれは、ボディービルのための筋肉増強剤として、および、筋肉の衰弱を回避するための医薬品としての用途のために商業的に注目されている。米国特許第7026507号は、固形状のナトリウム3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の製造方法を説明しており、その方法において、第一の処理工程で、4,4−ジメチルオキセタン−2−オンを水酸化ナトリウム水溶液と反応させ、ナトリウム3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の溶液を形成し、続いて適切な場合に濃縮した後、この溶液を次の処理工程で合成シリカに適用するが、ここで得られた生成物を適切な場合に乾燥させる。
【0003】
無機生成工程を含まず、生物中で実行することができるために環境に優しく廉価な3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の製造方法を提供することが望ましいと思われる。これに関連して、Lee et al., Appl. Environ. Microbiol.63 (1997), 4191-4195には、微生物のガラクトマイセス・リーシー(Galactomyces reessii)を用いて3−メチル酪酸を3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸に変換することによる3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の製造方法が記載されている。しかしながら、この方法で3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩を生産できるが、それでもなお、代替の効率的で費用効率が高い、特に生物学的プロセスを用いた3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩を生産する方法を提供する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nissen et al., J. Appl.Physiol. 81 (1996), 2095-2104
【非特許文献2】Wilson et al., Nutrition & Metabolism 5 (2008)
【非特許文献3】Lee et al., Appl. Environ. Microbiol.63 (1997), 4191-4195
【発明の概要】
【0005】
本発明は、このような3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩を生産する代替法に対する要求を満たすものであり、さらに生物資源に基づく方法を提供し、微生物やその他の種でインビトロまたはインビボでの3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩を生産することを可能にするものである。
【0006】
具体的には、本発明は、アセトンと活性化されたアセチル基を提供する化合物とを酵素によって3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸に変換することを含む、アセトンと活性化されたアセチル基を提供する化合物とから3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸(あるいはベータ−ヒドロキシイソバレレートまたはHIVとも称される)を製造する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸(また、ベータ−ヒドロキシイソバレレートとも称される)の化学構造である。
【図2】図2は、HMG−CoAシンターゼによって触媒される反応の反応スキームである。
【図3】図3は、HMG−CoAリアーゼによって触媒される反応の反応スキームである。
【図4】図4は、PksGタンパク質によって触媒される反応を含むpksX経路反応の反応スキームである。
【図5】図5は、アセトンと活性化されたアセチル基を含む化合物との3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸への変換反応の反応スキームである。
【図6】図6は、市販の3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩のマススペクトルである。
【図7】図7は、ニワトリ(Gallus gallus)(P23228)由来のHMGCoAシンターゼの存在下におけ。アセチル−CoAおよびアセトンからの3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の形成のマススペクトルである。
【図8】図8は、酵素を用いないコントロール分析のマススペクトルである。
【図9】図9は、実施例7におけるスタフィロコッカス・エピデルミディス(S. epidermidis)のHMGCoAシンターゼの反応に関するミカエリス−メンテンプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
アセトンは、以下の式;CH−(C=O)−CH示される。好ましい実施態様において、活性化されたアセチル基を提供する化合物は、以下の式(I)で示されることを特徴とする:
【0009】
【化1】

【0010】
式中、Xは、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−O−POH−C1013P(補酵素A)、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−O−POH−ポリペプチド(アシルキャリアータンパク質)、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−OH(パンテテイン)、S−CH−CH−NH−CO−CH(N−アセチル−システアミン)、S−CH(メタンチオール)、S−CH−CH(NH)−COH(システイン)、S−CH−CH−CH(NH)−COH(ホモシステイン)、S−CH−CH(NH−CNO)−CO−NH−CH−COH(グルタチオン)、S−CH−CH−SOH(補酵素M)、および、OH(酢酸)からなる群より選択される。
【0011】
この変換は、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、式(I)に従って活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素を利用する。この反応スキームによれば、アセトンのオキソ基は、求電子剤として反応し、式(I)に従って活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基は、求核剤として反応する。図5に、アセトンと式(I)に従って活性化されたアセチル基を提供する化合物とを変換する一般的な反応を示す。
【0012】
この反応は、一つの工程で起こすことができ、すなわち3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩を、上記で説明した酵素で触媒された反応の直接的な生成物とすることが可能である。あるいは、この反応は、特に活性化されたアセチル基を提供する化合物としてアセチルCoAが用いられるケースにおいて、まず3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩と活性化されたアセチル基を提供する化合物との付加物、例えば3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAを生産し、その後これを例えば3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩とCoAとに加水分解するという意味で、二工程で構成することもできる。従って、第一の代替法において、上記酵素は、図5で示されるように完全な反応を触媒する。第二の代替物において、上記酵素は、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒するが、Xは分子中に保持されたままである。続いてXはこの分子から加水分解によって除去される。
【0013】
本発明は、初めて、活性化されたアセチル基をアセトンに移動させることができる酵素を利用することによって3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩を生産することが可能であることをを示すものである。従来技術でも、真菌のガラクトマイセス・リーシー(Galactomyces reessii)を用いた生物変換反応を介したイソ吉草酸からの3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の生産が報告されている。しかしながら、イソ吉草酸は脱炭酸反応を介してロイシンから得られること、加えてロイシンそれ自身が代謝において2分子のピルビン酸塩と1分子のアセチルCoAとの総体的な縮合で生成することを考慮すると、この製造法はエネルギー的に都合の悪い。本発明の方法はこの不利点を回避するものである。
【0014】
一般的に、本発明の環境において、基質の一種として上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物、加えて構成要素としてアセトン基を含む基質を受容するあらゆる酵素を使用することができる。1つの好ましい実施態様において、このような酵素は、基質としてアセチルCoAを受容する酵素である。このような酵素の例は、HMGCoAシンターゼ、HMGCoAリアーゼ、または、その他のC−C結合を切断/縮合するリアーゼである。しかしながら、以下で説明するように、本来アセチルCoAとは異なるアセチル供与体を実際に触媒する反応で一般的に用いられる酵素も、アセチルCoAまたはそれらの類似体、例えばPksGタンパク質を使用することが可能である。
【0015】
その他の好ましい実施態様において、このような酵素は、基質として式(I)に従って活性化されたアセチル基を提供する化合物(式中Xは、アシルキャリアータンパク質である)を受容する酵素であり、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)においてバシラエン(bacillaene)を生産するためのpksX遺伝子クラスターによってコードされたアセチル−S−AcpKタンパク質である。このような酵素の例は、PksGタンパク質である。PksGタンパク質は、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)由来のpksX遺伝子クラスターによってコードされたタンパク質の一種である。PksGタンパク質は、アセチル−S−AcpKから、PksLタンパク質のチオール化ドメインの1つに連結したβ−ケトチオエステルポリケチド中間体へのカルボキシメチル基−CH−COHの移動を、HMGCoAシンターゼによって触媒される反応に類似した反応で触媒することができる。しかしながら、本発明の環境において、PksGタンパク質は、活性化されたアセチル基の供与体としてアセチル−S−AcpKタンパク質の代わりにアセチルCoAも利用できることが示された。
【0016】
一つの好ましい実施態様において、活性化されたアセチル基を提供する化合物は、アセチルCoAである。化学構造におけるアセチルCoA(また、アセチル補酵素Aとして知られている)は、補酵素A(チオール)と酢酸との間のチオエステルである。
【0017】
その他の好ましい実施態様において、活性化されたアセチル基を提供する化合物は、式(I)で示され(式中Xは、アシルキャリアータンパク質である)、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)においてバシラエンを生産するためのpksX遺伝子クラスターによってコードされたアセチル−S−AcpKタンパク質である。
【0018】
好ましくは、本方法で用いられる酵素は、HMGCoAシンターゼの活性を有する酵素(EC2.3.3.10)、および/または、PksGタンパク質、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼの活性を有する酵素、例えばHMGCoAリアーゼ(EC4.1.3.4)である。一つの好ましい実施態様において、本発明に係る方法は、式(I)に従って、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子とアセチルCoAの炭素原子C2との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素を用いた、酵素によるアセトンとアセチルCoAとの3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩への変換を含む。
【0019】
好ましい実施態様において、本発明に係るプロセスで用いられる酵素は、HMGCoAシンターゼ(EC2.3.3.10)の活性を有する酵素、または、PksGタンパク質の活性を有する酵素、または、例えばHMGCoAリアーゼ(EC4.1.3.4)のようなC−C結合を切断/縮合するリアーゼの活性を有する酵素である。
【0020】
具体的に言えば、本発明の環境において、HMGCoAシンターゼは、その通常の基質アセトアセチル−CoAの代わりにアセトンを受容することによって、アセチル−CoA(または式(I)で示される化合物)およびアセトンを3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩に変換できることが示された。
【0021】
さらに、本発明の環境において、PksGタンパク質は、基質としてAc−S−AcpKタンパク質の代わりにアセチルCoAを使用できること、加えて、一般的にはHMGCoAシンターゼによって触媒される反応を触媒できることが示された。従って、HMGCoAシンターゼの反応に類似した反応を触媒するPksGタンパク質は、アセトンと式(I)で示される化合物との3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩への変換を触媒することができると予想されることも考えられる。さらに、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼは、アセチル−CoAおよびアセトンの3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAへの変換を触媒することができ、続いて3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩およびCoAに加水分解できることも考えられる。
【0022】
本願に関して、用語「HMGCoAシンターゼ」または「HMGCoAシンターゼの活性を有するタンパク質/酵素」は、EC番号EC2.3.3.10(以前は、HMG−CoAシンターゼはEC4.1.3.5として分類されていたが、EC2.3.3.10に移されている)に分類されるあらゆる酵素を意味し、具体的には、アセチル−CoAとアセトアセチル−CoAとを縮合して3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−CoA(HMG−CoA)を形成する反応(図2を参照)を触媒することができるあらゆる酵素を意味し、さらにこの用語はまた、このようなHMGCoAシンターゼから誘導され、アセトンと、上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物、好ましくはアセチルCoAとの3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩への変換を触媒することができるあらゆる酵素も意味する。
【0023】
アセチル−CoAとアセトアセチル−CoAとを縮合して3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−CoA(HMG−CoA)を形成する酵素の活性は、当業界公知の方法によって測定することができる。一つの可能性のある好ましく使用される分析は、例えばClinkenbeard et al.(J. Biol. Chem. 250 (1975), 3108-3116)で説明されている。この分析において、HMG−CoAシンターゼ活性は、アセトアセチル−CoAのエノラートの形態のアセチル−CoA依存性の消失に付随する303nmにおける吸光度の減少をモニターすることによって測定される。好ましくは、HMGCoAシンターゼ活性は、実施例3で説明されているようにして分析される。
【0024】
HMGCoAシンターゼは、メバロン酸経路の一部である。イソペンテニルピロリン酸(IPP)の合成、すなわちメバロン酸経路、および、グリセルアルデヒド−3−リン酸−ピルビン酸経路に関して、2つの経路が同定されている。HMGCoAシンターゼは、アセチル−CoAとアセトアセチル−CoAとの生物学的なクライゼン縮合を触媒するものであり、これは、ベータ−ケトチオラーゼ、脂肪酸シンターゼ(ベータ−ケトアシルキャリアータンパク質シンターゼ)、および、ポリケチドシンターゼなどを含む、アシル縮合酵素のスーパーファミリーの一員である。
【0025】
HMGCoAシンターゼは、様々な生物に関して説明されている。また、様々な源に由来するHMGCoAシンターゼをコードするアミノ酸および核酸配列も利用可能である。一般的に、このような配列は、全体の配列とわずかしか同一性を有さない。例えば、ブドウ球菌属(Staphylococcus)または連鎖球菌属(Streptococcus)由来の酵素は、ヒトおよび鳥類のHMGCoAシンターゼとわずか約20%の同一性しか示さない。いくつかの源において、細菌のHMGCoAシンターゼおよび動物においてそれらに相当するものは、全体の配列のわずかの約10%同一性しか示さないことが報告されている(Sutherlin et al., J. Bacteriol. 184 (2002), 4065-4070)。しかしながら、細菌および真核生物のHMGCoAシンターゼ間では、アセチル化および縮合反応に関与するアミノ酸残基は保存されている(Campobasso et al., J. Biol. Chem, 279 (2004), 44883-44888)。3種のHMGCoAシンターゼ酵素の三次元構造が決定されており、酵素反応重要なアミノ酸がおおむねよく特徴付けられている(上記で引用したCampobasso et al.; Chun et al., J. Biol. Chem. 275 (2000), 17946-17953; Nagegowda et al., Biochem, J. 383 (2004), 517-527; Hegardt, Biochem. J, 338 (1999), 569-582)。真核生物において、HMGCoAシンターゼの2種の形態が存在し、すなわち細胞質中の形態とミトコンドリア中の形態とが存在する。細胞質中の形態は、コレステロールおよびその他のイソプレノイドの生産において主要な役割を果たし、一方ミトコンドリア中の形態は、ケトン体の生産に関与する。
【0026】
本発明の環境において、原理的に、あらゆるHMGCoAシンターゼ酵素が使用でき、特に原核性生物原、または、真核性の生物原由来のHMGCoAシンターゼ酵素が使用できる。
【0027】
原核生物のHMGCoAシンターゼとしては、例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(上記で引用したCampobasso et al.;ユニプロット(Uniprot)受託番号Q9FD87)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)(ユニプロット受託番号Q9FD76)、スタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus haemolyticus)(ユニプロット受託番号Q9FD82)、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)(上記で引用したSutherlin et al.;ユニプロット受託番号Q9FD7)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)(ユニプロット受託番号Q9FD66)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumonia)(ユニプロット受託番号Q9FD56)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)(ユニプロット受託番号Q9FD61)、および、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)(受託番号AE000857)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)(NCBI受託番号BB0683)由来のものが挙げられる。
【0028】
さらに、以下の表Aに原核生物由来の既知のHMGCoAシンターゼのうち数種を列挙した:
【0029】
【表1−1】

【0030】
【表1−2】

【0031】
真核生物のHMGCoAシンターゼとして、例えば、菌類、例えばシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)(受託番号U32187およびP54874)、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)(受託番号P54839)、植物、例えばシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(受託番号X83882、および、P54873)、オウシュウアカマツ(Pinus sylvestris)(受託番号X96386)、および、動物、例えばカエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)(受託番号P54871)、ハツカネズミ(Mus musculus)(ミトコンドリア中の形態:受託番号P54869、および、Hegardt, Biochem. J. 338 (1999), 569-582)、ドブネズミ(Rattus norvegicus)(ミトコンドリア中の形態:受託番号P22791、および、Hegardt, Biochem. J. 338 (1999);細胞質由来:受託番号P17425),569−582)、チャイニーズハムスター(Cricetulus griseus:受託番号P13704)、イノシシ(Sus scrofa)(ミトコンドリア中の形態:受託番号U90884、および、Hegardt, Biochem. J. 338 (1999), 569-582)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)(ミトコンドリア中の形態:受託番号P54868、および、Hegardt Biochem. J. 338 (1999), 569-582;細胞質中の形態:受託番号Q01581)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)(細胞質中の形態1;受託番号P54961)、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)(細胞質中の形態2;受託番号P54870)、および、ニワトリ(Gallus gallus)(細胞質中の形態;受託番号P23228)由来のHMGCoAシンターゼが挙げられる。
【0032】
配列番号1〜14に様々な生物由来のHMGCoAシンターゼの例を示す。配列番号1は、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)(P54871,遺伝子バンクF25B4.6)の細胞質内のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号2は、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)(分裂酵母;P54874)の細胞質内のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号3は、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)(パン屋で用いる酵母;P54839,遺伝子バンクCAA65437.1)の細胞質内のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号4は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(シロイヌナズナ(Mouse-ear cress);P54873)の細胞質内のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号5は、細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)(変形菌類;P54872,遺伝子バンクL2114)の細胞質内のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号6はチャバネゴキブリ(Blattella germanica)(ドイツのゴキブリ;P54961,遺伝子バンクX73679)の細胞質内のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号7は、ニワトリ(Gallus galius)(ニワトリ;P23228,遺伝子バンクCHKHMGCOAS)の細胞質内のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号8は、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)(ヒト;Q01581,遺伝子バンクX66435)の細胞質内のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号9は、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)(ヒト;P54868,遺伝子バンクX83618)のミトコンドリアHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号10は、細胞性粘菌(変形菌類;Q86HL5,遺伝子バンクXM_638984)のミトコンドリアHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号11は、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)(Q9FD76)のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号12は、発酵乳酸杆菌(Lactobacillus fermentum)(B2GBL1)のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号13は、ハイパーサーマス・ブチリカス(Hyperthermus butylicus)(A2BMY8)のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号14は、クロロフレクサス・アグレガンス(Chloroflexus aggregans)(B8G795)のHMGCoAシンターゼの配列を示し、配列番号24は、ラクトバチルス・デルブリュッキイ(Lactobacillus delbrueckii)(Q1GAH5)のHMGCoAシンターゼの配列を示し、および、配列番号25は、スタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus haemolyticus)Q4L958のHMGCoAシンターゼの配列を示す(I98>野生型タンパク質と比較した差V)。
【0033】
好ましい本発明の実施態様において、HMGCoAシンターゼは、配列番号1〜14、または、配列番号1〜14のいずれか一種と少なくともn%同一な配列(ここでnは、10〜100の整数であり、好ましくは10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または、99である)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、さらにHMGCoAシンターゼの活性を有する酵素である。
【0034】
好ましくは、同一性の程度は、それぞれの配列を上述した配列番号のいずれか一つのアミノ酸配列と比較することによって決定される。比較される配列が同じ長さではない場合、同一性の程度は、好ましくは、短いほうの配列における、長いほうの配列におけるアミノ酸残基と同一のアミノ酸残基のパーセンテージ、または、長いほうの配列における、短いほうの配列におけるアミノ酸残基と同一のアミノ酸残基のパーセンテージのいずれかを意味する。配列同一性の程度は、当業界公知の方法に従って、好ましくはクラスタル(CLUSTAL)のような適切なコンピューターアルゴリズムを用いて決定することができる。
【0035】
クラスタル(Clustal)解析法を用いて特定の配列が例えば参考配列と80%同一かどうかを決定する場合、デフォルト設定を使用してもよいし、または、好ましくは以下のように設定される:マトリックス:blosum30;オープンギャップペナルティー;10.0;伸張ギャップペナルティー;0.05;ディレイ・ダイバージェント(Delay divergent):40;ギャップ分離距離:アミノ酸配列比較の場合は8。ヌクレオチド配列比較の場合、伸張ギャップペナルティーは、好ましくは5.0に設定される。
【0036】
好ましくは、同一性の程度は、配列の長さ全体にわたり計算される。
本発明に係るプロセスで用いられるHMGCoAシンターゼは、天然に存在するHMGCoAシンターゼでもよいし、または、天然に存在するHMGCoAシンターゼから誘導されるHMGCoAシンターゼであってもよく、このような誘導は、例えば突然変異導入によってなされるものでもよいし、または、例えば酵素活性、安定性などを改変または改善するその他の改変によってなされるものでもよい。
【0037】
本願に関して、用語「HMGCoAシンターゼ」または「HMGCoAシンターゼの活性を有するタンパク質/酵素」はまた、HMGCoAシンターゼから誘導されたものであり、アセトンと、上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物、好ましくはアセチル−CoAとの酵素による変換によって3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩を生産することができるが、基質としてアセトアセチル−CoAに低い親和性しか有さないか、または、基質としてアセトアセチル−CoAを受容しない酵素も包含する。このようなHMGCoAシンターゼの好ましい基質の改変は、アセトンの3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩への変換を改善し、例えばHMG−CoAのような副産物生成を減少させることができる。タンパク質の望ましい酵素活性を改変および/または改善する方法は当業者にはよく知られており、例えば、ランダム変異誘発、または、部位特異的変異誘発、およびそれに続く望ましい特性を有する酵素の選択、または、いわゆる「定向進化」法が挙げられる。
【0038】
例えば原核細胞における遺伝子工学で、HMGCoAシンターゼをコードする核酸分子を、DNA配列の組換えにより変異誘発または配列の改変を許容するプラスミドに導入することができる。
【0039】
標準的な方法(Sambrook and Russell (2001), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, CSHプレス(CSH Press), コールドスプリングハーバー(Cold Spring Harbor), 米国ニューヨーク州を参照)では、塩基を変換させたり、または、天然または合成配列を付加したりすることができる。DNAフラグメントは、フラグメントにアダプターおよびリンカーを適用することによって互いに連結させることができる。さらに、適切な制限部位を提供したり、または、余分なDNAまたは制限部位を除去したりする工学的手段を用いてもよい。挿入、欠失または置換が可能なケースにおいては、インビトロでの変異誘発、「プライマー修復」、制限またはライゲーションを用いてもよい。一般的に、解析方法として、配列解析、制限分析およびその他の生化学および分子生物学的な方法が行われる。続いて、その結果得られたHMGCoAシンターゼ変異体を、それらの酵素活性に関して、および、具体的には基質としてアセトアセチルCoAではなくアセトンを選択するそれらの能力に関して試験する。実施例5において、HMGCoAシンターゼの基質としてアセトンを利用する能力を測定するための分析を説明する。3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の形成は、例えばそれらを誘導体化した後に薄層クロマトグラフィー、LC/MSおよび比色分析によって、または、マススペクトロメトリーによって分離した後に標準化合物と比較することによって、検出が可能である。
【0040】
具体的に言えば、反応は、40mMのトリスHCl(pH8)、5〜50mMのアセチル−CoA、100〜500mMのアセトン、1MgCl(ただしミトコンドリアHMG−CoAシンターゼを除く)、0.5mMのDTT、および、0.2〜8mg/mlの範囲の様々な濃度の酵素を含む反応混合物中で行われる。コントロール反応は、酵素およびいずれかの基質の非存在下で行われる。
【0041】
合成を進行させ、それに続いて30または37℃でのインキュベート期間を延長した後に採取されたアリコートを解析する。典型的には、48時間インキュベートした後に50μlのアリコートを取り、タンパク質を除去するために100℃で1分間加熱し、遠心分離し、上清をマススペクトロメトリーによるHIV検出のために清潔なバイアルに移す。40mMのトリスHCl(pH8)、1mMのMgCl、0.5mMのDTT中で3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の溶液を調製し、上述のようにして加熱して、これを参照としてとして用いる。
【0042】
サンプルの解析は、PE SCIEX API2000トリプル四重極型質量分析計で、陰イオンモードで、移動相として0.1%トリエチルアミンを含むHO/アセトニトリル(60/40)を用いて行われ、流速は40μl/分とする。10μlの各上清を等量の移動相と混合し、マススペクトロメーターに直接注入する。[3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩−H]イオンの存在をモニターする。3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の合成はまた、放射標識した[2−14C]アセトンの存在下で行ってもよい。TLCまたはHPLCで反応混合物を分離した後、生成物の形成を解析する。
【0043】
好ましい実施態様において、本発明で用いられるHMGCoAシンターゼは、アセトンに関して300mMまたはそれより低い、好ましくは250mMまたはそれより低い、さらにより好ましくは200mMまたはそれより低い、特に好ましくは150mMまたはそれより低いK値を有する酵素である。好ましくは、K値は、実施例7で説明されている条件下で決定される。その他の好ましい実施態様において、本発明で用いられるHMGCoAシンターゼは、上述の反応に関して、少なくとも0.1×10−4−1、好ましくは少なくとも0.2×10−4−1、さらにより好ましくは少なくとも0,5×10−4−1、および、特に好ましくは少なくとも1×10−4−1、少なくとも2×10−4−1、少なくとも3×10−4−1、または、少なくとも5×10−4−1のkcat値を有する。好ましくは、kcat値は、実施例7で説明されている条件下で決定される。
【0044】
当業界では、鳥類のHMGCoAシンターゼのHis264は、酵素とアセトアセチル−CoAとの相互作用において役割を果たすものであり、Ala264変異体は、アセトアセチル−CoAのチオエステル部分の酸素と相互作用しないことがよく知られている(Misraa et al., Biochem.35 (1996), 9610-9616)。従って、基質として比較的低いアセトアセチル−CoAの受容しか示さないが、基質としてアセトンを受容するHMGCoAシンターゼの変異体を開発するために、HMGCoAシンターゼにおいて、基質としてアセトアセチル−CoAの受容を低減させるか、または、受容できなくなるように、Misraa et al.(上記で引用した)で説明されている鳥類のHMGCoAシンターゼのHis264に相当するヒスチジン残基を計画的に突然変異させることが考えられる。
【0045】
加えて、高められた活性を示すHMGCoAシンターゼ変異体は、提供することができる。例えば、Steussy et al. (Biochemistry 45 (2006), 14407-14414)は、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)のHMGCoAシンターゼのの突然変異体を説明しており、これは、Ala110をGly110に変化させたものであり、総体的な反応速度の140倍の増加を示す。
【0046】
また3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の生産に関して改善された酵素特性を有する変異体を同定する方法は、補因子の存在下で行うこともでき、それにより、基質のアセトンはHMGCoAシンターゼの天然の基質のアセトアセチル−CoAよりも短いということに基づき、酵素/酵素触媒部位における立体的および/または電子的な相補を可能にすることができる。このような補因子の一例としては、補酵素A、または、構造的に十分な関連性を有する分子、例えばS−ニトロソ−CoAが挙げられる。
【0047】
基質としてアセトンを受容するが基質としてアセトアセチル−CoAに対して低い親和性しか有さないかまたは基質としてアセトアセチル−CoAを受容しなくなったHMGCoAシンターゼの改変型は、天然に存在するHMGCoAシンターゼから誘導することもできるし、または、すでに改変された、最適化された、または、計画的に合成されたHMGCoAシンターゼから誘導することもできる。
【0048】
本発明に係る方法で使用することができるタンパク質のその他の例は、PksGタンパク質である。本願に関して、用語「PksGタンパク質」または「PksGタンパク質の活性を有するタンパク質/酵素」は、本来PksGタンパク質によって触媒される反応、すなわちアセチル−S−AcpK(Ac−S−AcpK)からPksLタンパク質のチオール化ドメインの1つに連結したβ−ケトチオエステルポリケチド中間体への−CHCOOの移動を触媒することができるあらゆる酵素を意味する。これはHMGCoAシンターゼによって触媒される反応と類似した反応であり、その違いは、ホスホパンテテイル部分のアセチル−チオエステルが、補酵素Aの一部ではなくキャリアータンパク質に結合することである。PksGタンパク質は、本来触媒する反応においてアセチル−S−AcpKのアセチル基をアクセプターへ移動させるが、本発明の環境において、PksGタンパク質はまた、本来HMGCoAシンターゼによって触媒される反応、すなわちアセトアセチルCoAおよびアセチルCoAから開始するHMGCoAの合成を行うこともできることが示された(表1に示されるように、マイコバクテリウム・マリヌム(Mycobacterium marinum)(B2HGT6)由来の酵素がアセトアセチルCoAおよびアセチルCoAに作用することができる実施例3を参照)。
【0049】
PksGタンパク質の酵素活性は、当業界公知の方法によって測定することができる。一つの可能性のある好ましく使用される分析は、例えばCalderone et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103 (2006), 8977-8982)で説明されている。この分析において、モデル基質としてアセトアセチル(Acac)−S−PksL−T2が用いられ、これは、Ac−S−AcpKおよびPksGタンパク質と共にインキュベートされる。HMG−S−PksL−T2の形成は、PksGタンパク質が、カルボキシメチル基−CH−COHをAc−S−AcpKから(Acac)−3−PksL−T2に移動させることができることを示す。HMG−S−PksL−T2の形成は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)−FTMS、または、オートラジオグラフィーのいずれかによって決定することができる。好ましい実施態様において、これに相当する対応する分析は、Calderone et al. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103 (2006), 8977-8982)第8982頁で説明されているように行う。
【0050】
PksGタンパク質は、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)におけるpksX経路の一部であり、バシラエン生合成に関与する酵素をコードする(Butcher et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104 (2007), 1506-1509)、コードされたタンパク質は、AcpK、PksC、PksL、PksF、PksG、PksH、および、Pkslである。Calderone et al. (Proc. Natl. Acad. Sci, USA 103 (2006), 8977-8982)によれば、これらの酵素は、アセトアセチル−S−キャリアータンパク質上の酢酸部分から誘導されたβ−メチル分枝を取り込むように作用する。
【0051】
本発明の好ましい実施態様において、PksGタンパク質は、配列番号15または16、または、配列番号15または16に少なくともn%同一であり(ここでnは10〜100の整数であり、好ましくは10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または、99である)、PksGタンパク質の活性を有する配列で示されるアミノ酸配列を含む酵素である。配列番号15は、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)(P40830)のPksGタンパク質のアミノ酸配列を示し、配列番号16は、マイコバクテリウム・マリヌム(Mycobacteriummarinum)(B2HGT6)のPksGタンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0052】
配列同一性の程度の決定に関して、上記でHMGCoAシンターゼに関して述べられたことと同じことが適用される。
本発明に係るプロセスで用いられるPksGタンパク質は、天然に存在するPksGタンパク質であってもよいし、または、例えば酵素活性、安定性などを変更または改善する突然変異またはその他の変更の導入によって天然に存在するPksGタンパク質から誘導されるPksGタンパク質であってもよい。
【0053】
本願に関して、用語「PksGタンパク質」または「PksGタンパク質の活性を有するタンパク質/酵素」はまた、PksGタンパク質から誘導されたものであり、アセトンと、上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物、好ましくはアセチル−CoAとの酵素による変換によって3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩を生産することができるが、それらの天然の基質に対して低い親和性しか有さないかまたはそれらの天然の基質を受容しなくなった酵素も包含する。このようなPksGタンパク質の好ましい基質の改変は、アセトンの3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩への変換を改善し、不要な副産物の生産を低減させることを可能にする。タンパク質の望ましい酵素活性を改変および/または改善する方法は当業者によく知られており、上述した通りである。続いて結果得られたPksGタンパク質変異体を、それらの酵素活性に関して、具体的には基質としてアセトンを選択するそれらの能力に関して試験する。基質としてアセトンを使用するPksGタンパク質の能力を測定するための分析は、HMGCoAシンターゼに関して実施例5で説明した分析である。3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の形成は、上述したように検出することができる。
【0054】
また、このような3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の生産に関して改善された酵素特性を有する変異体を同定する方法は、補因子の存在下で行うこともでき、それにより、基質のアセトンはPksGタンパク質の天然の基質よりも短いということに基づき、酵素/酵素触媒部位における立体的および/または電子的な相補性を考慮することができる。
【0055】
基質としてアセトンを受容するがその天然の基質に対して低い親和性しか有さないかまたは親和性を失ったPksGタンパク質の改変型は、天然に存在するPksGタンパク質から誘導することもできるし、または、すでに改変された、最適化された、または、計画的に合成されたPksGタンパク質から誘導することもできる。
【0056】
本発明の環境において、用語「C−C結合を切断/縮合するリアーゼ」または「C−C結合を切断/縮合するリアーゼの活性を有するタンパク質/酵素」は、縮合によってC−C結合を切断または形成することができ、加えていわゆるTIM(トリオース−リン酸イソメラーゼ)バレルドメインを含む酵素を意味する。このTIMバレルドメインは、多数のピルビン酸結合酵素、および、アセチル−CoA依存性酵素で見出される(Forouhar et al. J. Biol. Chem. 281 (2006), 7533-7545)。TIMバレルドメインは、CATHタンパク質分類データベースにおいて分類系統3,20.20.150を有する(www.cathdb.info/cathnode/3.20.20.150)。
【0057】
用語「C−C結合を切断/縮合するリアーゼ」は、具体的には、イソプロピルリンゴ酸シンターゼ(EC2.3.3.13)として、ホモクエン酸シンターゼ(EC2.3.3.14)として、または、4−ヒドロキシN2−ケト吉草酸アルドラーゼ(EC4.1.3.39)として分類される酵素を含む。イソプロピルリンゴ酸シンターゼは、以下の反応を触媒する:アセチル−CoA+3−メチル−2−オキソブタノエート+HO⇔(2S)−2−イソプロピルリンゴ酸塩+CoA。このような酵素に関する例は、ブルセラ・アボルタス(Brucella abortus)(2308株;Q2YRT1)由来のそれに相当する酵素、および、ハヘラ・チェジュエンシス(Hahella chejuensis)(KCTC2396株;Q2SFA7)由来のそれに相当する酵素である。
【0058】
ホモクエン酸シンターゼ(EC2.3.3.14)は、アセチル−CoA+HO+2−オキソグルタレート←→(R)−2−ヒドロキシブタン−1,2,4−トリカルボキシレート+CoAという化学反応を触媒する酵素である。4−ヒドロキシ−2−ケト吉草酸アルドラーゼは、4−ヒドロキシ−2−オキソペンタノエート←→アセトアルデヒド+ピルビン酸塩という化学反応を触媒する。
【0059】
本発明の環境において、用語「HMGCoAリアーゼ」または「HMGCoAリアーゼの活性を有するタンパク質/酵素」は、EC番号EC4.1.3.4に分類されるあらゆる酵素を意味し、具体的には、HMGCoAのアセチルCoAおよびアセトアセテートへの切断(図3を参照)、または、この逆の反応、すなわちアセチルCoAとアセトアセテートとを縮合することによるHMGCoAの生産を触媒することができるあらゆる酵素を意味し、さらにこの用語はまた、このようなHMGCoAリアーゼから誘導され、アセトンと上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物、好ましくはアセチルCoAとの3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAへの変換を触媒することができるあらゆる酵素も意味する。本発明の環境において、生産された3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAを続いて加水分解し、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩を生産してもよい。これは、当業者によく知られている手段によって達成することができ、例えばアシル−CoA加水分解酵素(EC3.1.2.20)、または、アシル−CoAトランスフェラーゼ(EC2.8.3.8)を利用することによって達成することができる。
【0060】
HMGCoAリアーゼの酵素活性は、当業界公知の方法によって測定することができる。一つの可能性のある分析が、例えば、Mellanby et al. (Methods of Enzymatic Analysis; Bergmeyer Ed. (1963), 454-458)で説明されている。具体的に言えば、3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼによるNADH依存性のアセトアセテート還元を用いた分光光度分析によって酵素活性を測定する。
【0061】
好ましくは、HMGCoAリアーゼ活性は、実施例4で説明されているようにして分析される。このような分析において、反応混合物(1ml)は、40mMのトリスHCl(pH8)、1mMのMgCl、0.5mMのDTT、0.4mMのHMG−CoA、0.2mMのNADH、5ユニットの3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼを含み、これを5分間インキュベートし、その後0.005mg/mlのHMG−CoAリアーゼを添加し、続いて反応の進行を340nmにおける吸光度の減少でモニターする。
【0062】
HMGCoAリアーゼによって触媒される反応は、場合によっては例えばMg2+またはMn2+のような2価カチオンの存在を必要とすると言われている。従って、HMGCoAリアーゼの活性を決定する分析はこのような2価カチオンを含むことが好ましく、さらに、本発明に係る3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するための方法が、HMGCoAリアーゼを利用する場合、このようなカチオンの存在下で行われることが好ましい。
【0063】
HMGCoAリアーゼは、肝臓のケトン体生成の一部である。これは、肝臓のケトン体生成において、この経路の主要な工程である最後の反応を触媒する。またこの反応は、ロイシン代謝における重要な工程でもある。
【0064】
HMGCoAリアーゼは、様々な生物に関して説明されてきた。HMGCoAリアーゼをコードするアミノ酸および核酸配列は、多数のソースから入手可能である。一般的に、それらの配列は、配列全体において中程度の配列同一性しか有さない。例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)またはブルセラ・メリテンシス(Brucella melitensis)由来の酵素は、ヒトHMGCoAリアーゼの配列に対して約45%の同一性しか示さない(Forouhar et al., J. Biol. Chem. 281 (2006), 7533-7545)。様々なHMGCoAリアーゼ酵素の三次元構造が決定されており、酵素反応に重要なアミノ酸が概してよく特徴付けられている(上記で引用したForouhar et al.; Fu et al., J. Biol. Chem. 281 (2006), 7526-7532)。真核生物において、HMGCoAリアーゼは、ミトコンドリアマトリックス中に存在する。
【0065】
本発明の環境において、原則的にあらゆるHMGCoAリアーゼ酵素を使用することができ、具体的には原核または真核生物由来の酵素を使用することができる。
原核生物のHMGCoAリアーゼとしては、例えば、ブルセラ・アボルタス(Brucella abortus)(ユニプロット受託番号Q2YPL0およびB2S7S2)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)(ユニプロット受託番号O34873)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)(上記で引用したFu et al.)、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)(ユニプロット受託番号Q4ZTL2、および、Q4ZRW6)、シュードモナス・メバロニイ(Pseudomonas mevalonii)(ユニプロット受託番号P137Q3)、シュワネラ・ピエゾトレランス(Shewanella piezotolerans)(ユニプロット受託番号B8CRY9)、セルビブリオ・ジャポニカス(Cellvibrio japonicus)(ユニプロット受託番号B3PCQ7)、アゾトバクター・ビネランジ(Azotobacter vinelandii)(ユニプロット受託番号C1DJK8、および、C1DL53)、ヘルミニモナス・アルセニコキシダンス(Herminiimonas arsenicoxydans)(ユニプロット受託番号A4G1F2)、および、ブルクホルデリア・セノセパシア(Burkholderia cenocepacia)(ユニプロット受託番号A2VUW7)由来のものが挙げられる。
【0066】
さらに、以下の表Bにいくつかの既知の原核生物由来のHMGCoAリアーゼを列挙する。
【0067】
【表2−1】

【0068】
【表2−2】

【0069】
真核生物のHMGCoAリアーゼは、説明される、例えばラディッシュ(Raphanus sativus)、および、トウモロコシ(Zea mays)(受託番号B6U7B9,遺伝子バンクACG45252)のような植物由来のもの、ならびに、例えばヒト(Homo sapiens;ユニプロット受託番号P35914)、カニクイザル(ユニプロット受託番号Q8XZ6)、スマトラオランウータン(Pongo abelii;ユニプロット受託番号Q5R9E1)、ラット(Rattus norvegicus;ユニプロット受託番号P97519;上記で引用したFu et al.)、ハツカネズミ(ユニプロット受託番号P38060)、アヒル(Anas spec)、ウシ(Bos taurus;ユニプロット受託番号Q29448)、ヤギ(Capra hircus)、ハト(Columba livia)、ニワトリ(Gallus galius;ユニプロット受託番号P35915)、ヒツジ(Ovis aries)、ブタ(Sus scrota)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)(Brachydanio rerio;A8WG57,遺伝子バンクBC154587)動物のような植物由来のもの、ならびに、原生動物のテトラヒメナ(Tetrahymena pyriformis)由来のものが挙げられる。
【0070】
配列番号17〜23に、様々な生物由来のHMGCoAリアーゼの例を示す。配列番号17は、トウモロコシ(Zea mays)(受託番号B6U7B9,遺伝子バンクACG45252)のHMGCoAリアーゼの配列を示し、配列番号18は、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)(Brachydanio rerio;A8WG57,遺伝子バンクBC154587)のHMGCoAリアーゼの配列を示し、配列番号19は、ウシ(Bos taurus)(ユニプロット受託番号Q29448)のHMGCoAリアーゼの配列を示し、および、配列番号20は、ヒト(ミトコンドリア,ユニプロット受託番号P35914,遺伝子バンクHUMHYMEGLA)のHMGCoAリアーゼの配列を示し、配列番号21は、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)(Q88H25)のHMGCoAリアーゼの配列を示し、配列番号22は、アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)(B7H4C6)のHMGCoAリアーゼの配列を示し、および、配列番号23は、サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)(Q72IH0)のHMGCoAリアーゼの配列を示す。
【0071】
本発明の好ましい実施態様において、HMGCoAリアーゼは、配列番号17〜23、または、配列番号17〜23のいずれか一種と少なくともn%同一である配列(ここでnは、10〜100の整数であり、好ましくは10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93,94、95、96,97、98、または、99である)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、HMGCoAリアーゼの活性を有する酵素である。
【0072】
配列同一性の程度の決定に関して、上記でHMGCoAシンターゼに関して述べられたことと同じことが適用される。
本発明に係るプロセスで用いられるHMGCoAリアーゼは、天然に存在するHMGCoAリアーゼであってもよいし、または、例えば酵素活性、安定性などを変更または改善する突然変異またはその他の変更の導入によって天然に存在するHMGCoAリアーゼから誘導されるHMGCoAリアーゼであってもよい。
【0073】
また、本願に関して、用語「HMGCoAリアーゼ」または「HMGCoAリアーゼの活性を有するタンパク質/酵素」は、HMGCoAリアーゼから誘導されたものであり、アセトンと、上記で定義されたように活性化されたアセチル基を提供する化合物、好ましくはアセチル−CoAとの縮合によって3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAを生産することができるが、基質としてアセトアセテートに対して低い親和性しか有さないかまたは基質としてアセトアセテートを受容しなくなった酵素も包含する。このようなHMGCoAリアーゼの好ましい基質の改変は、アセトンの3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAへの変換を改善し、副産物であるHMG−CoAの生産を低減させることを可能にする。タンパク質の望ましい酵素活性を改変および/または改善する方法は当業者によく知られており、上述した通りである。
【0074】
3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAの生産を触媒する特定の酵素の能力は、実施例6で説明されているような分析で決定することができる。
基質としてアセトンを受容するが基質としてアセトアセテートに対して低い親和性しか有さないかまたは基質としてアセトアセテートを受容しなくなったHMGCoAリアーゼの改変型は、天然に存在するHMGCoAリアーゼから誘導することもできるし、または、すでに改変された、最適化された、または、計画的に合成されたHMGCoAリアーゼから誘導することもできる。
【0075】
本発明に係るプロセスにおいて、上記で定義されたように1種のみの酵素を用いてもよく、例えばHMGCoAシンターゼのみ、または、HMGCoAリアーゼのみ、または、PksGタンパク質のみを用いてもよい。しかしながら、当然のことながら1種より多くの活性、すなわち様々な酵素を用いてもよく、具体的にはHMGCoAシンターゼ、HMGCoAリアーゼ、および、PksGタンパク質のあらゆる組み合わせを用いることができる。例えばインビトロでの方法の場合、反応混合物に1種より多くの酵素活性を、同時に添加してもよいし、または、あらゆる可能性な順番で順次添加してもよい。生物、具体的には微生物を用いるインビボでの方法において、例えば、上記で定義されたような酵素を発現する生物、具体的には微生物を用いてもよい。しかしながら、上述した酵素のあらゆる可能性のある組み合わせを発現する生物/微生物を用いることも考えられる。さらに、2種またはそれより多くのタイプの生物/微生物の混合物(そのうち1つのタイプは1種の酵素を発現し、その他のタイプがその他の酵素を発現する)を用いることも可能である。続いてこれらの異なるタイプを共に培養してもよい。
【0076】
本発明に係るプロセスで用いられる酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、PksGタンパク質、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼは、タンパク質の野生型でもよいし、または、合成タンパク質でもよいし、加えて化学合成された、または、生物系で、または、組換え法によって生産されたタンパク質でもよい。またこのような酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、PksGタンパク質、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼは、その/それらの精製またはその支持体への固定を容易にするために、例えばその/それらの安定性、耐性(例えば温度耐性)を改善するために化学修飾されていてもよい。このような酵素/酵素(複数)は、単離した形態で、精製した形態で、固定された形態で、酵素/酵素(複数)を合成する細胞から得られた粗生成物または一部精製した抽出物として、化学合成された酵素として、組換え生産された酵素として、それらを生産する微生物の形態などの状態で使用してもよい。
【0077】
本発明に係るプロセスは、インビトロで行ってもよいし、または、インビボで行ってもよい。
インビトロでの反応は、細胞を用いない反応、すなわち無細胞反応のことと理解されている。インビトロでの方法を行うことに関して、この反応のための基質および酵素/酵素(複数)を、酵素/酵素(複数)を活性化して酵素による変換を引き起こすような条件(緩衝液、温度、補因子など)下でインキュベートする。このような反応は、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩が生産されるのに十分な時間進行させることができる。3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩および/または3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAの生産は、それらを誘導体化した後に薄層クロマトグラフィー、LC/MS、および、比色分析によって分離した後に標準化合物と比較することによって検出が可能である。
【0078】
酵素/酵素(複数)は、酵素反応を起こすことができるあらゆる適切な形態が可能である。これらは、精製または一部精製されていてもよいし、または、未精製の細胞抽出物、または、一部精製した抽出物の形態であってもよい。また、酵素/酵素(複数)を適切なキャリアーに固定させてもよい。
【0079】
基質のアセトンは、一般的には、酵素によって利用される天然の基質、例えばHMGCoAシンターゼおよびHMGCoAリアーゼそれぞれによって利用されるアセトアセチル−CoA/アセトアセテートよりも短いために、反応混合物に酵素/酵素(複数)触媒部位における立体的/または電子的な相補を可能にする補因子を添加することが有利な場合がある。このような補因子の一例としては、HMGCoAシンターゼの場合において、補酵素A、または、構造的に十分な関連性を有する分子、例えばS−ニトロソ−CoAが挙げられる。
【0080】
このような方法を行うために、インビボでの使用は、基質、すなわちアセトン、および、上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物、ならびに、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素を提供することができる適切な生物/微生物で構成される。好ましい実施態様において、前記酵素は、HMGCoAシンターゼ、および/または、PksGタンパク質、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼである。
【0081】
従って、この実施態様の場合において、本発明に係る方法は、アセトンを生産し、さらに、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合を形成することができる酵素を発現すること、好ましくはHMGCoAシンターゼの活性を有する酵素(EC2.3.3.10)を発現すること、および/または、PksGタンパク質を発現すること、および/または、例えばHMGCoAリアーゼ(EC4.1.3.4)のようなC−C結合を切断/縮合するリアーゼの活性を有する酵素を発現することができる生物、好ましくは微生物の存在下で、アセトンと活性化されたアセチル基を提供する化合物との変換が認識されることを特徴とする。
【0082】
本発明の環境において、用語「アセトンを生産することができる〜」は、その生物/微生物が、代謝前駆体からアセトン生産を可能にする酵素活性を提供する酵素の存在によって細胞内でアセトンを生産する能力を有することを意味する。
【0083】
アセトンは、所定の微生物、例えばクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)、バチルス・ポリミクサ(Bacillus polymyxa)、および、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)によって生産される。アセトンの合成は、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)で最もよく特徴付けられている。これは、2分子のアセチル−CoAがアセトアセチル−CoAに縮合される反応(反応工程1)から開始される。この反応は、アセチル−CoAアセチルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.9)によって触媒される。続いてアセトアセチル−CoAを酢酸または酪酸と反応させることによってアセトアセテートに変換すると、アセチル−CoA、または、ブチリル−CoAが生産される(反応工程2)。この反応は、例えばアセトアセチルCoAトランスフェラーゼ(EC2.8.3.8)によって触媒される。アセトアセチルCoAトランスフェラーゼは、様々な生物由来のものが知られており、例えば大腸菌(E. coli)由来のもの(ここで上記トランスフェラーゼは、atoAD遺伝子によってコードされている)、または、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来のもの(ここで上記トランスフェラーゼは、ctfAB遺伝子によってコードされている)が挙げられる。しかしながら、その他の酵素でもこの反応を触媒することができ、例えば3−オキソ酸CoAトランスフェラーゼ(EC2.8.3.5)、または、コハク酸塩CoAリガーゼ(EC6.2.1.5)が挙げられる。
【0084】
最終的に、アセトアセテートは、アセトアセテート脱炭酸酵素(EC4.1.1.4)によって触媒される脱炭酸反応工程(反応工程3)によってアセトンに変換される。
上記で説明した反応工程1および2、ならびにそれらを触媒する酵素はアセトン合成に固有のものではなく、様々な生物で見出すことができる。それに対して、アセトアセテート脱炭酸酵素(EC4.1.1.4)によって触媒される反応工程3は、アセトンを生産することができる生物でしか見出されない。
【0085】
一つの好ましい実施態様において、本発明に係る方法で用いられる生物 は、もともとアセトンを生産する能力を有する生物、好ましくは微生物である。従って、このような微生物は、好ましくは、クロストリジウム属、バチルス属、または、シュードモナス属に属しており、より好ましくは、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)種、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)種、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)種、バチルス・ポリミクサ(Bacillus polymyxa)種、または、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)種である。
【0086】
さらに好ましい実施態様において、本発明に係る方法で用いられる生物は、もともとアセトンを生産する能力を有し、さらに組換えされた、すなわち上記で定義されたような酵素が発現されるようにさらに遺伝子組換えされたという意味で組換えされた生物、好ましくは微生物である。一実施態様において、用語「組換え」は、その生物が、上記で定義されたような酵素をコードする外来の核酸分子を含むように遺伝子組換えされていることを意味する。好ましい実施態様において、このような生物が、上記で定義されたような酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、または、PksGタンパク質をコードする外来の核酸分子、または、このようなタンパク質のあらゆる可能性のある組み合わせをコードする外来の核酸配列を含むように遺伝子組換えされている。このような場合において、用語「外来」は、前記生物/微生物中に本来存在しない核酸分子を意味する。これは、生物/微生物中で同じ構造で存在しないか、または、同じ位置に存在しないことを意味する。一つの好ましい実施態様において、外来の核酸分子は、プロモーターと、それぞれの酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質をコードするコード配列とを含む組換え分子であり、ここで上記プロモーターによって駆動されるこれらのコード配列の発現は、そのコード配列にとって異種である。このような場合において、異種は、そのプロモーターが、本来前記コード配列の発現を稼働させるプロモーターではないが、本来異なるコード配列の発現を駆動させるプロモーターであることを意味し、すなわち上記プロモーターは、その他の遺伝子から誘導されたものか、または、合成プロモーター、または、キメラプロモーターであることを意味する。好ましくは、プロモーターは、生物/微生物にとって異種のプロモーター、すなわちそれぞれの生物/微生物中に本来存在しないプロモーターである。さらにより好ましくは、プロモーターは、誘導性プロモーターである。異なるタイプの生物、具体的には微生物中で発現を駆動させるためのプロモーターは、当業者によく知られている。
【0087】
その他の好ましい実施態様において、核酸分子が、それによってコードされた酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、コードされたC−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質がその生物/微生物にとって内因性ではない、すなわち、それが遺伝子組換えされていない場合、本来その生物/微生物によって発現されないという点で、生物/微生物にとって外来である。言い換えれば、その生物/微生物にとって、コードされたHMGCoAシンターゼ、および/または、コードされたC−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質は、異種である。
【0088】
その他の実施態様において、用語「組換え」は、生物が、それぞれの酵素の発現が、それに相当する非遺伝子組換え生物と比較して増加するように、上記で定義されたような本来その生物中に存在する酵素の発現を制御する調節領域で遺伝子組換えされていることを意味する。高いという用語における「より高い発現」の意味は、以下でさらに説明されている。
【0089】
このような調節領域の改変は、当業者によく知られた方法によって達成できる。その例としては、天然に存在するプロモーターをより高い発現を可能にするプロモーターと交換すること、または、より高い発現を示すように天然に存在するプロモーターを改変することが挙げられる。従って、この実施態様において、生物は、上記で定義されたような酵素をコードする遺伝子の調節領域中に、本来生物中には存在するものではなく、それに相当する非遺伝子組換え生物と比較してより高い酵素発現を起こす外来の核酸分子を含む。
【0090】
このような外来の核酸分子は、生物/微生物中で、例えばプラスミドのように染色体外の形態で存在する可能性があり、または、染色体中に安定して統合されている可能性もある。安定に統合されていることが好ましい。
【0091】
さらに好ましい実施態様において、生物/微生物は、上記で定義されたような酵素の発現/活性、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質の発現/活性が、外来の核酸分子で遺伝子組換えされた生物/微生物において、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物と比較してより高いことを特徴とする。「より高い」発現/活性は、遺伝子組換え微生物における酵素の発現/活性、具体的にはHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質の発現/活性が、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物における発現/活性よりも少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、または、50%、さらにより好ましくは少なくとも70%、または、80%、および、特に好ましい少なくとも90%、または、100%高いことを意味する。さらにより好ましい実施態様において、発現/活性の増加は、少なくとも150%、少なくとも200%、または、少なくとも500%であり得る。特に好ましい実施態様において、上記発現が、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物における発現よりも少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも100倍、および、さらにより好ましくは少なくとも1000倍高い。
【0092】
用語「より高い」発現/活性はまた、非遺伝子組換え生物/微生物におけるそれに相当する発現/活性がゼロになるように、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物が、それに相当する酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質を発現しない状況も包含する。
【0093】
細胞中の所定のタンパク質の発現レベルを測定する方法は、当業者によく知られている。一つの実施態様において、発現レベルの測定は、それに相当するタンパク質の量を測定することによってなされる。
【0094】
それに相当する方法は当業者によく知られており、例えば、ウェスタンブロット、ELISAなどが挙げられる。その他の実施態様において、発現レベルの測定は、それに対応するRNAの量を測定することによってなされる。
【0095】
それに相当する方法は当業者によく知られており、例えばノーザンブロットが挙げられる。
上述した酵素の酵素活性、具体的にはHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質の酵素活性を測定する方法はそれぞれ当業界でよく知られており、上述した通りである。
【0096】
その他の好ましい実施態様において、本発明に係る方法で用いられる生物は、遺伝子組換え生物、好ましくは本来アセトンを生産しないが、アセトンを生産するように遺伝子組換えされている、すなわちその生物/微生物においてアセトン生産を可能にするのに必要な遺伝子を導入することによって遺伝子組換えされている生物/微生物から誘導された微生物である。原則的にあらゆる微生物をこの方法で遺伝子組換えすることができる。アセトンの合成に関与する酵素は上述した通りである。それに相当する酵素をコードする遺伝子は当業界でよく知られており、所定の微生物をアセトンを生産するように遺伝学的に改変するために使用することができる。
【0097】
上述したように、アセトン合成の反応工程1および2は、ほとんどの生物において自然に起こるものである。しかしながら反応工程3はアセトン合成に特徴的で重要なものであるため、好ましい実施態様において、本来アセトンを生産しない生物/微生物から誘導された遺伝子組換え生物/微生物は、脱炭酸反応によってアセトアセテートのアセトンへの変換を触媒する酵素、例えばアセトアセテート脱炭酸酵素(EC4.1.1.4)をコードするヌクレオチド配列を含むように改変される。この酵素をコードする数種の生物由来のヌクレオチド配列が当業界でよく知られており、例えば、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)(ユニプロット受託番号P23670、および、P23673)、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)(クロストリジウムMP;Q9RPK1)、クロストリジウム・パストウリアヌム(Clostridium pasteurianum)(ユニプロット受託番号P81336)、ブラディリゾビウム種(Bradyrhizobium)(BTAi1/ATCC BAA−1182株;ユニプロット受託番号A5EBU7)、ブルクホルデリア・マレイ(Burkholderia mallei)(ATCC10399A9LBS0)、ブルクホルデリア・マレイ(Burkholderia mallei)(ユニプロット受託番号A3MAE3)、ブルクホルデリア・マレイ(Burkholderia mallei)FMH A5XJB2、ブルクホルデリア・セノセパシア(Burkholderia cenocepacia)(ユニプロット受託番号A0B471)、ブルクホルデリア・アンビファリア(Burkholderia ambifaria)(ユニプロット受託番号Q0b5P1)、ブルクホルデリア・フィトフィルマンス(Burkholderia phytofirmans)(ユニプロット受託番号B2T319)、ブルクホルデリア種(ユニプロット受託番号Q38ZU0)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)(ユニプロット受託番号B2TLN8)、ラルストニア・ピケッティ(Ralstonia pickettii)(ユニプロット受託番号B2UIG7)、ストレプトマイセス・ノガレーター(Streptomyces nogalater)(ユニプロット受託番号Q9EYI7)、ストレプトマイセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)(ユニプロット受託番号Q82NF4)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)(ユニプロット受託番号Q5ZXQ9)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)(ユニプロット受託番号Q1WVG5)、ロドコッカス種(ユニプロット受託番号Q0S7W4)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)(ユニプロット受託番号Q890G0)、リゾビウム・レグミノサルム(Rhizobium leguminosarum)(ユニプロット受託番号Q1M911)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)(ユニプロット受託番号Q03B66)、野兎病菌(Francisella tularensis)(ユニプロット受託番号Q0BLC9)、サッカロポリスポラ・エリトリア(Saccharopolyspora erythreae)(ユニプロット受託番号A4FKR9)、コラルカエウム・クリュプトフィルム(Korarchaeum cryptofilum)(ユニプロット受託番号B1L3N6)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)(ユニプロット受託番号A7Z8K8)、コクリオボルス・ヘテロストロフス(Cochliobolus heterostrophus)(ユニプロット受託番号Q8NJQ3)、スルフォロブス・アイランディカス(Sulfolobus islandicus)(ユニプロット受託番号C3ML22)、および、野兎病菌(Francisella tularensis)の亜種のホラークティカ(holarctica)(OSU18株)由来のadc遺伝子が挙げられる。
【0098】
より好ましくは、生物(好ましくは微生物)は、上述したアセトン合成の反応工程2、すなわちアセトアセチルCoAのアセトアセテートへの変換を触媒することができる酵素をコードする核酸分子で形質転換されるように遺伝子組換えされる。
【0099】
さらにより好ましくは、生物(好ましくは微生物)は、上述したアセトン合成の反応工程1、すなわち2分子のアセチルCoAのアセトアセチルCoAへの縮合を触媒することができる酵素をコードする核酸分子で形質転換されるように遺伝子組換えされる。
【0100】
特に好ましい実施態様において、生物/微生物は、上述したアセトン合成の反応工程1を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、および、上述したアセトン合成の反応工程2を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、または、上述したアセトン合成の反応工程1を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、および、上述したアセトン合成の反応工程3を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、または、上述したアセトン合成の反応工程2を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、および、上述したアセトン合成の反応工程3を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、または、上述したアセトン合成の反応工程1を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、および、上述したアセトン合成の反応工程2を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、および、上述したアセトン合成の反応工程3を触媒することができる酵素をコードする核酸分子で形質転換されるように遺伝子組換えされる。
【0101】
上述した遺伝子組換え生物、好ましくは微生物を製造する方法は当業界公知である。従って、一般的には、生物/微生物は、微生物中でそれぞれの酵素の発現を可能にするDNAコンストラクトで形質転換される。このようなコンストラクトは通常、それぞれの宿主細胞中で転写および翻訳を可能にする調節配列、例えばプロモーターおよび/エンハンサー、および/または、転写ターミネーター、および/または、リボソーム結合部位などに連結された対象のコード配列を含む。従来技術ではすでに、アセトンを生産できるように遺伝子組換えされた微生物が説明されている。具体的に言えば、例えばクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来の遺伝子を大腸菌(E. coli)に導入することによって、本来アセトンを生産しない細菌である大腸菌(E. coli)中でアセトンの合成を可能にしている(Bermejo et al., Appl. Environ. Microbiol. 64 (1998); 1079-1085; Hanai et al., Appl. Environ. Microbiol. 73 (2007), 7814-7818)。具体的に言えば、Hanai et al. (上記で引用した)は、大腸菌(E. coli)中でアセトンの生産を達成するためには、アセトアセテート脱炭酸酵素(例えばクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来のもの)をコードする核酸配列を導入すれば十分であることを示しており、これはすなわち、上述した反応工程1および2を触媒する大腸菌(E. coli)の内因性の酵素(すなわち大腸菌(E. coli)のatoBおよびatoAD遺伝子の発現産物)は、アセトン生産のための基質を提供するのに十分であることを示す。
【0102】
特に好ましい実施態様において、本発明に係る方法で用いられる生物、好ましくは微生物は、上述したように本来アセトンを生産しないが、アセトンを生産するように遺伝子組換えされており、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素を発現する生物/微生物から誘導された組換え生物/微生物である。このような場合において、用語「組換え」は、好ましくは、その生物が、上記で定義されたような酵素が発現されるようにさらに遺伝子組換えされたという意味で組換えされていることを意味する。一実施態様において、用語「組換え」は、その生物が、上記で定義されたような酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、または、PksGタンパク質をコードする外来の核酸分子か、または、上記で定義された酵素のあらゆる可能性のある組み合わせをコードする外来の核酸分子を含むように遺伝子組換えされていることを意味する。
【0103】
用語「外来の核酸分子」に関して、その定義はすでに上述された定義と同じである。
その他の実施態様において、用語「組換え」は、生物が、それぞれの酵素の発現が、それに相当する非遺伝子組換え生物と比較して増加するように、上記で定義されたような本来その生物中に存在する酵素の発現を制御する調節領域で遺伝子組換えされていることを意味する。高いという用語における「より高い発現」の意味を、以下でさらに説明する。
【0104】
このような調節領域の改変は、当業者によく知られた方法によって達成できる。その例としては、天然に存在するプロモーターをより高い発現を可能にするプロモーターと交換すること、または、より高い発現を示すように天然に存在するプロモーターを改変することが挙げられる。従って、この実施態様において、生物は、上記で定義されたような酵素をコードする遺伝子の調節領域中に、本来生物中には存在するものではなく、それに相当する非遺伝子組換え生物と比較してより高い酵素発現を起こす外来の核酸分子を含む。
【0105】
好ましくは、このような生物/微生物は、前記酵素の発現/活性、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質の発現/活性が、組換え生物/微生物において、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物と比較してより高いことを特徴とする。「より高い」発現/活性は、遺伝子組換え生物/微生物における酵素の発現/活性、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質の発現/活性が、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物における発現/活性よりも少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、または、50%、さらにより好ましくは少なくとも70%、または、80%、特に好ましくは少なくとも90%、または、100%高いことを意味する。さらにより好ましい実施態様において、発現/活性の増加は、少なくとも150%、少なくとも200%、または、少なくとも500%であり得る。特に好ましい実施態様において、上記発現が、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物における発現よりも少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも100倍、および、さらにより好ましくは少なくとも1000倍高い。
【0106】
用語「より高い」発現/活性はまた、非遺伝子組換え生物/微生物におけるそれに相当する発現/活性がゼロになるように、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物が、前記酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質を発現しない状況も包含する。発現または活性のレベルを測定する方法に関しても、その方法はすでに上述された定義と同じである。
【0107】
用語「生物」は、本発明の環境において用いられているように、一般的には、あらゆる可能性のあるタイプの生物、具体的には真核生物、原核生物、および、古細菌を意味する。この用語は、動物、植物、菌類、細菌、および、古細菌を含む。この用語はまた、単離された細胞、または、組織またはカルス(calli)などの上記生物の細胞の集合体も含む。
【0108】
一つの好ましい実施態様において、生物は、微生物である。本発明の環境において、用語「微生物」は、原核細胞、具体的には細菌、加えて酵母のような菌類を意味し、さらには藻類および古細菌も意味する。一つの好ましい実施態様において、このような微生物は、細菌である。原則的に、あらゆる細菌を使用することができる。本発明に係るプロセスで用いることができる好ましい細菌は、バチルス属、クロストリジウム属、シュードモナス属、または、エシェリキア属の細菌である。特に好ましい実施態様において、このような細菌は、エシェリキア属に属するものであり、さらにより好ましくは大腸菌(Escherichia coli)種に属するものである。
【0109】
その他の好ましい実施態様において、上記微生物は、真菌であり、より好ましくはサッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、アスペルギルス属、または、トリコデルマ属の真菌であり、さらにより好ましくはサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)種、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)種、アスぺルギルス・ニガー(Aspergillus niger)種、または、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)種の真菌である。
【0110】
さらにその他の好ましい実施態様において、上記微生物は、光合成活性を有する微生物、例えば光合成を行うことができる細菌、または、微小藻類(micro-algae)である。
特に好ましい実施態様において、上記微生物は、藻類であり、より好ましくは珪藻に属する藻類である。
【0111】
本発明の方法の環境で微生物が用いられる場合、本発明に係る方法を2種の微生物を用いる方式で実施することも考えられ、すなわちそのうちの1種はアセトンを生産するものであり、残りの1種は、第一のタイプの微生物によって生産されたアセトンを用いて、それを上記で定義されたような酵素によって変換するものである。
【0112】
本発明に係るプロセスがそれぞれの酵素活性/活性を提供する微生物を用いることによってインビボで行われる場合、その微生物は、酵素反応を起こすことができるような適切な培養条件下で培養される。具体的な培養条件は、用いられる具体的な微生物によって様々であるが、このような条件は当業者によく知られている。培養条件は、一般的に、それによってそれぞれの反応に関する酵素をコードする遺伝子の発現が可能になるように選択される。特定の培養段階で特定の遺伝子の発現を改善および調節するための様々な方法が当業者に知られており、例えば化学的な誘導物質または温度変化による遺伝子発現の誘導が挙げられる。
【0113】
その他の好ましい実施態様において、本発明に係る方法で用いられる生物は、光合成できる生物、例えば植物または微小藻類である。原則的に、あらゆる可能性のある植物を使用することができ、すなわち単子葉植物または双子葉植物を使用することができる。好ましくは、農業的に有意義な規模で培養することができ、さらに大量のバイオマスを生産することを可能にする植物を使用することである。例としては、イネ科植物、例えばライグラス(lolium)、穀草、例えばライ、大麦、オートムギ、キビ、トウモロコシ、その他のでんぷんを貯蔵する植物、例えばジャガイモ、または、糖を貯蔵する植物、例えば蔗糖、または、砂糖大根が挙げられる。さらに、タバコの使用、または、野菜植物、例えばトマト、トウガラシ、キュウリ、ナスなどの使用も考えられる。その他の可能性は、油を貯蔵する植物、例えばセイヨウアブラナ種、オリーブなどの使用である。さらに、樹木、具体的には早生樹、例えばユーカリ、ポプラ、または、ゴムの木(Hevea brasiliensis)の使用も考えられる。
【0114】
本発明はまた、以下の特性を特徴とする生物、好ましくは微生物にも関する。
(a) アセトンを生産できる特性
(b) アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、上記で定義されたように活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素、好ましくはHMGCoAシンターゼ(EC2.3.3.10)の活性を有する酵素、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼの活性を有する酵素、例えばHMGCoAリアーゼ(EC4.1.3.4)、および/または、PksGタンパク質を発現する特性
本発明に係る生物中で発現される酵素、具体的にはHMGCoAシンターゼ、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質の源、性質、特性、配列などに関しては、本発明に係る方法に関してすでに上述したことと同じものが適用される。
【0115】
一つの好ましい実施態様において、本発明に係る生物は、もともとアセトンを生産する能力を有する生物、好ましくは微生物である、すなわち上述の特性(a)は、その生物、好ましくは微生物が自然状態で示す特性である。従って、このような生物は、好ましくはクロストリジウム属、バチルス属、または、シュードモナス属に属する微生物であり、より好ましくはクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)種、クロストリジウム・ベイジェリンキ((Ciostridium beijerinckii)種、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)種、バチルス・ポリミクサ(Bacillus polymyxa)種、または、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)種に属する微生物である。
【0116】
その他の好ましい実施態様において、本発明に係る生物、好ましくは微生物は、本来アセトンを生産しないが、アセトンを生産するように遺伝子組換えされている、すなわちその生物/微生物においてアセトン生産を可能にするのに必要な遺伝子を導入することによって遺伝子組換えされている生物/微生物から誘導された遺伝子組換え生物/微生物である。原則的にあらゆる生物/微生物をこの方法で遺伝子組換えすることができる。アセトンの合成に関与する酵素は上述した通りである。それに相当する酵素をコードする遺伝子は当業界でよく知られており、所定の生物、好ましくは微生物がアセトンを生産するようにそれらを遺伝学的に改変するのに使用することができる。
【0117】
好ましい実施態様において、本来アセトンを生産しない生物/微生物から誘導された遺伝子組換え生物/微生物は、脱炭酸反応によってアセトアセテートのアセトンへの変換を触媒する酵素、例えばアセトアセテート脱炭酸酵素(EC4.1.1.4)をコードするヌクレオチド配列を含むように改変される。この酵素をコードする数種の生物由来のヌクレオチド配列が当業界でよく知られており、例えば、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来のadc遺伝子が挙げられる。より好ましくは、このような生物/微生物は、上述したアセトン合成の反応工程2、すなわちアセトアセチルCoAのアセトアセテートへの変換を触媒することができる酵素をコードする核酸分子で形質転換されるように遺伝子組換えされる。
【0118】
さらにより好ましくは、このような生物/微生物は、上述したアセトン合成の反応工程1、すなわち2分子のアセチルCoAのアセトアセチルCoAへの縮合を触媒することができる酵素をコードする核酸分子で形質転換されるように遺伝子組換えされる。
【0119】
特に好ましい実施態様において、生物/微生物は、上述したアセトン合成の反応工程1を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、および、上述したアセトン合成の反応工程2を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、または、上述したアセトン合成の反応工程1を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、および、上述したアセトン合成の反応工程3を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、または、上述したアセトン合成の反応工程2を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、および、上述したアセトン合成の反応工程3を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、または、上述したアセトン合成の反応工程1を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、および、上述したアセトン合成の反応工程2を触媒することができる酵素をコードする核酸分子、および、上述したアセトン合成の反応工程3を触媒することができる酵素をコードする核酸分子で形質転換されるように遺伝子組換えされる。
【0120】
上述した遺伝子組換え生物/微生物を製造する方法は当業界公知である。従って、一般的には、生物/微生物は、生物/微生物中でそれぞれの酵素の発現を可能にするDNAコンストラクトで形質転換される。このようなコンストラクトは通常、それぞれの宿主細胞中で転写および翻訳を可能にする調節配列、例えばプロモーターおよび/エンハンサー、および/または、転写ターミネーター、および/または、リボソーム結合部位などに連結された対象のコード配列を含む。従来技術ではすでに、アセトンを生産できるように遺伝子組換えされた生物、具体的には微生物が説明されている。具体的に言えば、例えばクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来の遺伝子を大腸菌(E. coli)に導入することによって、本来アセトンを生産しない細菌である大腸菌(E. coli)中でアセトンの合成を可能にしている(Bermejo et al., Appl. Environ. Microbiol. 64 (1998); 1079-1085; Hanai et at., Appl. Environ. Microbiol 73 (2007), 7814-7818)。具体的に言えば、Hanai et al.(上記で引用した)は、大腸菌(E. coli)中でアセトンの生産を達成するためには、アセトアセテート脱炭酸酵素(例えばクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)由来のもの)をコードする核酸配列を導入すれば十分であることを示しており、これはすなわち、上述した反応工程1および2を触媒する大腸菌(E. coli)の内因性の酵素(すなわち大腸菌(E. coli)のatoBおよびatoAD遺伝子の発現産物)は、アセトン生産のための基質を提供するのに十分であることを示す。
【0121】
さらに好ましい実施態様において、本発明に係る生物、好ましくは微生物は、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素を発現するように遺伝子組換えされている。このような状況において、用語「組換え」は、第一の形態において、生物が、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素をコードする外来の核酸分子、好ましくはHMGCoAシンターゼをコードする外来の核酸分子、または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼをコードする外来の核酸分子、または、PksGタンパク質をコードする外来の核酸分子、または、上述した特性を有する酵素のあらゆる可能性のある組み合わせをコードする外来の核酸分子を含むことを意味する。このような場合において、用語「外来の」は、その核酸分子が、前記生物/微生物中に本来存在しないことを意味する。これは、生物/微生物中で同じ構造で存在しないか、または、同じ位置に存在しないことを意味する。一つの好ましい実施態様において、このような外来の核酸分子は、プロモーターと、前記酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質をコードするコード配列とを含む組換え分子であり、ここで上記プロモーターによって駆動されるコード配列の発現は、そのコード配列にとって異種である。このような場合において、異種は、そのプロモーターが、本来前記コード配列の発現を稼働させるプロモーターではないが、本来異なるコード配列の発現を駆動させるプロモーターであることを意味し、すなわち上記プロモーターは、その他の遺伝子から誘導されたものか、または、合成プロモーター、または、キメラプロモーターであることを意味する。好ましくは、プロモーターは、生物/微生物にとって異種のプロモーター、すなわちそれぞれの生物/微生物中に本来存在しないプロモーターである。さらにより好ましくは、プロモーターは、誘導性プロモーターである異なるタイプの生物、具体的には微生物中で発現を駆動させるためのプロモーターは、当業者によく知られている。
【0122】
その他の好ましい実施態様において、核酸分子は、それによってコードされた酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、コードされたC−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、コードされたPksGタンパク質がその生物/微生物にとって内因性ではない、すなわち、それが遺伝子組換えされていない場合、本来その生物/微生物によって発現されないという点で、生物/微生物にとって外来である。言い換えれば、その生物/微生物にとって、コードされた酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、コードされたC−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、コードされたPksGタンパク質は、異種である。
【0123】
その他の形態において、用語「組換え」は、生物が、それぞれの酵素の発現が、それに相当する非遺伝子組換え生物と比較して増加するように、上記で定義されたような本来その生物中に存在する酵素の発現を制御する調節領域で遺伝子組換えされていることを意味する。高いという用語における「より高い発現」の意味を、以下でさらに説明する。
【0124】
このような調節領域の改変は、当業者によく知られた方法によって達成できる。その例としては、天然に存在するプロモーターをより高い発現を可能にするプロモーターと交換すること、または、より高い発現を示すように天然に存在するプロモーターを改変することが挙げられる。従って、この実施態様において、生物は、上記で定義されたような酵素をコードする遺伝子の調節領域中に、本来生物中には存在するものではなく、それに相当する非遺伝子組換え生物と比較してより高い酵素発現を起こす外来の核酸分子を含む。
【0125】
さらに好ましい実施態様において、生物/微生物は、前記酵素の発現/活性、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質の発現/活性は、外来の核酸分子で遺伝子組換えされた生物/微生物において、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物と比較してより高いことを特徴とする。「より高い」発現/活性は、遺伝子組換え生物/微生物における酵素の発現/活性、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質の発現/活性が、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物における発現/活性よりも少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、または、50%、さらにより好ましくは少なくとも70%、または、80%、および、特に好ましい少なくとも90%、または、100%高いことを意味する。さらにより好ましい実施態様において、発現/活性の増加は、少なくとも150%、少なくとも200%、または、少なくとも500%であり得る。特に好ましい実施態様において、上記発現が、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物における発現よりも少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも100倍、および、さらにより好ましくは少なくとも1000倍高い。
【0126】
用語「より高い」発現/活性はまた、非遺伝子組換え生物/微生物におけるそれに相当する発現/活性がゼロになるように、それに相当する非遺伝子組換え生物/微生物が、それに相当する酵素、例えばHMGCoAシンターゼ、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質を発現しない状況も包含する。
【0127】
細胞中の所定のタンパク質の発現レベルを測定する方法は、当業者によく知られている。一実施態様において、発現レベルの測定は、それに相当するタンパク質の量を測定することによってなされる。それに相当する方法は当業者によく知られており、例えば、ウェスタンブロット、ELISAなどが挙げられる。その他の実施態様において、発現レベルの測定は、それに対応するRNAの量を測定することによってなされる。それに相当する方法は当業者によく知られており、例えばノーザンブロットが挙げられる。
【0128】
上述した酵素、具体的にはHMGCoAシンターゼ、および/または、HMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質の酵素活性を測定する方法はそれぞれ当業界でよく知られており、上述した通りである。
【0129】
用語「生物」は、本発明の環境において用いられているように、一般的には、あらゆる可能性のあるタイプの生物、具体的には真核生物、原核生物、および、古細菌を意味する。この用語は、動物、植物、菌類、細菌、および、古細菌を含む。この用語はまた、単離された細胞、または、組織またはカルス(calli)などの上記生物の細胞の集合体も含む。
【0130】
一つの好ましい実施態様において、上記生物は、微生物である。本発明の環境において、用語「微生物」は、原核細胞、具体的には細菌、加えて酵母のような菌類を意味し、さらには藻類および古細菌も意味する。一つの好ましい実施態様において、このような微生物は、細菌である。原則的に、あらゆる細菌を使用することができる、本発明に係るプロセスで用いることができる好ましい細菌は、バチルス属、クロストリジウム属、シュードモナス属、または、エシェリキア属の細菌である。特に好ましい実施態様において、このような細菌は、エシェリキア属に属するものであり、さらにより好ましくは大腸菌(Escherichia coli)種に属するものである。
【0131】
その他の好ましい実施態様において、上記微生物は、真菌であり、より好ましくはサッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、アスペルギルス属、または、トリコデルマ属の真菌であり、さらにより好ましくはサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)種、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)種、アスぺルギルス・ニガー(Aspergillus niger)種、または、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)種の真菌である。
【0132】
さらにその他の好ましい実施態様において、上記微生物は、光合成活性を有する微生物、例えば光合成を行うことができる細菌、または、微小藻類である。
特に好ましい実施態様において、上記微生物は、藻類であり、より好ましくは珪藻に属する属に由来する藻類である。
【0133】
その他の好ましい実施態様において、本発明に係る生物は、光合成できる生物、例えば植物または微小藻類である。原則的に、このような生物は、あらゆる可能性のある植物であってもよく、すなわち単子葉植物または双子葉植物であってもよい。好ましくは、農業的に有意義な規模で培養することができ、さらに大量のバイオマスを生産することを可能にする植物である。例としては、イネ科植物、例えばライグラス(lolium)、穀草、例えばライ、大麦、オートムギ、キビ、トウモロコシ、その他のでんぷんを貯蔵する植物、例えばジャガイモ、または、糖を貯蔵する植物、例えば蔗糖、または、砂糖大根が挙げられる。さらに、タバコの使用、または、野菜植物、例えばトマト、トウガラシ、キュウリ、ナスなどの使用も考えられる。その他の好ましい実施態様において、このような植物は、油を貯蔵する植物、例えばセイヨウアブラナ種、オリーブなどである。さらに、樹木、具体的には早生樹、例えばユーカリ、ポプラ、または、ゴムの木(Hevea brasiliensis)の使用も考えられる。
【0134】
本発明はまた、以下の特性を特徴とする生物、好ましくは微生物の使用にも関する。
(a) アセトンを生産できる特性
(b) アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素、好ましくはHMGCoAシンターゼ(EC2.3.3.10)の活性を有する酵素、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼの活性を有する酵素、例えばHMGCoAリアーゼ(EC4.1.3.4)、および/または、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するためのPksGタンパク質を発現する特性
すなわち、本発明はまた、本発明に係る生物/微生物の3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するための使用にも関する。
【0135】
本発明はまた、本発明に係る生物を含む組成物にも関する。
さらに本発明はまた、(i)アセトン;および、(ii)上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物;および、(iii)アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素を含む組成物にも関する。
【0136】
酵素の好ましい実施態様に関して、本発明に係る方法および生物に関してすでに上述したことと同じものが適用される。
さらに本発明はまた、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するために、アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、上記で定義されたような活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素の使用にも関する。
【0137】
このような酵素の好ましい実施態様に関しては、本発明に係る方法および生物に関してすでに上述したことと同じものが適用される。
最終的に、本発明はまた、上記で定義されたようなアセトンと活性化されたアセチル基を提供する化合物との酵素による変換を含む、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するためのアセトンの使用にも関する。好ましい実施態様において、酵素による変換は、本発明に係る方法に関して上述したような酵素、より好ましくはHMGCoAシンターゼの酵素活性を有する酵素、および/または、C−C結合を切断/縮合するリアーゼの酵素活性を有する酵素、例えばHMGCoAリアーゼ、および/または、PksGタンパク質によって達成され、最も好ましくは本発明に係る生物の使用によって達成される。
【0138】
図1:3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸(また、ベータ−ヒドロキシイソバレレートとも称される)の化学構造である。
図2:HMG−CoAシンターゼによって触媒される反応の反応スキームである。
【0139】
図3:HMG−CoAリアーゼによって触媒される反応の反応スキームである。
図4:PksGタンパク質によって触媒される反応を含むpksX経路反応の反応スキームである。
【0140】
図5:アセトンと活性化されたアセチル基を含む化合物との3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸への変換反応の反応スキームであり、
式中、Xは、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−O−POH−C1013P(補酵素A)、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−O−POH−ポリペプチド(アシルキャリアータンパク質)、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−OH(パンテテイン)、S−CH−CH−NH−CO−CH(N−アセチル−システアミン)、S−CH(メタンチオール)、S−CH−CH(NH)−COH(システイン)、S−CH−CH−CH(NH)−COH(ホモシステイン)、S−CH−CH(NH−CNO)−CO−NH−CH−COH(グルタチオン)、S−CH−CH−SOH(補酵素M)、および、OH(酢酸)を意味する。
【0141】
図6:市販の3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩のマススペクトルである。
図7:ニワトリ(Gallus gallus)(P23228)由来のHMGCoAシンターゼの存在下におけ。アセチル−CoAおよびアセトンからの3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の形成のマススペクトルである。
【0142】
図8:酵素を用いないコントロール分析のマススペクトルである。
図9:実施例7におけるスタフィロコッカス・エピデルミディス(S. epidermidis)のHMGCoAシンターゼの反応に関するミカエリス−メンテンプロットである。
【0143】
以下の実施例は、本発明を説明するのに有用である。
【実施例】
【0144】
実施例1:生物情報学による方法を利用したHMG−CoA合成およびHMG−CoAリアーゼのデータベースの作製
これらの酵素クラスが、真核生物全体にわたりどの程度の多様性がみられるかを示すために、12のHMG−CoAシンターゼおよび8のHMG−CoAリアーゼのパネルを選択して重複のないタンパク質セットを作製した。ユニバーサル・プロテイン・リソース・データベース・ユニプロット(Universal Protein Resource Database Uniprot)(http://www.uniprot.org/)で複数回の配列ベースおよびテキストベースの検索を行うことによってこれらのタンパク質を同定した。これらははいずれも、対象の酵素クラスに特徴的な保存されたタンパク質ドメインおよびモチーフのような固有の特徴を含む。大量のタンパク質セットをスクリーニングしなくても配列多様性を効果的に調べるために、最初の酵素プールを85%よりも高い相同性を有する配列のクラスターにグループ分けし、続いて各クラスターの代表となる単一の候補配列を選択することにより、最初の酵素プールの範囲を限定した。HMG−CoAシンターゼパネルおよびリアーゼパネルそれぞれからのいずれか2種のタンパク質間におけるタンパク質の配列同一性は、30%〜80%、および、50%〜80%であった。
【0145】
同じアプローチを適用して、原核生物由来のHMG−CoAシンターゼ、および、HMG−CoAリアーゼを選択した。作製されたセットは、PksGタンパク質などのHMG−CoAシンターゼに対するタンパク質相同体を50種、および、HMG−CoAリアーゼに相同なタンパク質を59種含む。
【0146】
実施例2:回収されたHMG−CoAリアーゼ、および、HMG−CoAシンターゼのクローニング、発現および精製
遺伝子クローニング
真核生物由来のHMG−CoAシンターゼおよびリアーゼをコードする核酸配列を大腸菌(E. coli)のコドンに適合するようにし、化学合成(GeneArt)によって遺伝子を得た。
【0147】
原核生物由来のHMG−CoAシンターゼおよびリアーゼをコードする遺伝子を、慣例的な組換え技術によって、異なる源のゲノムDNAからクローニングした。続いてこれらの遺伝子を、それぞれ真核生物および原核生物用のPET25bおよびPET22bベクター(ノバジェン(Novagen))を含むHis−タグに挿入した。
【0148】
大腸菌(E. coli)での過剰発現
プラスミドを大腸菌(E. coli)BL21細菌(ノバジェン(Novagen))にエレクトロポレーションし、続いてこれをアンピシリンを含むLB寒天のペトリ皿上に塗り広げた。その培養物を、30℃で、0.5Mのソルビトール、5mMのベタイン、100μg/mlのアンピシリンを含むTB培地上で、穏やかに振盪しながら増殖させた。OD(600nm)が0.8に達したら、IPTGを最終濃度が1mMになるまで添加し、穏やかに振盪しながら20℃で16時間発現させ続けた。続いて細菌の細胞を4℃、10,000rpm、20分の遠心分離で回収し、これを−80℃で凍結させた。
【0149】
細胞抽出物の製造
1.6gの細胞ペレットを300mMのNaCl、5mMのMgCl、1mMのDTT(pH8)を含む50mMのNaHPO緩衝液5mlに再懸濁することによって細胞抽出物を製造した。続いてこの調製物に20μlのリソナーゼ(lysonase)(ノバジェン(Novagen))を添加し、これを室温で10分間、および、氷上で20分間インキュベートした。細胞の溶解を、氷上の超音波の水槽中で5分間の超音波破砕処理を3回行うことによって達成し、パルスとパルスとの間に抽出物をホモジナイズした。続いて未精製抽出物を4℃、10,000rpm、20分間の遠心分離で透明化した。
【0150】
タンパク質精製
透明な上清を、6−ヒスチジンの尾部を有するタンパク質の特異的な固定が可能なPROTINO−1000NMDAカラム(マッハライ・ナーゲル(Macherey-Nagel))にローディングした。このカラムを洗浄し、酵素を、300mMのNaCl、5mMのMgCl、1mMのDTT、250mMのイミダゾール(pH8)を含む50mMのNaHPO緩衝液4mlで溶出させた。続いて酵素を含む分画を濃縮し、アミコン(Amicon)のウルトラ−410kDaフィルターユニット(ミリポア(Millipore))で脱塩し、0.5mMのDTTを含む40mMのトリスHCl(pH8)250μlに再懸濁した。タンパク質濃度はブラッドフォード法によって測定した。
【0151】
精製した酵素の等質性は、20%〜75%の範囲で様々であった。
実施例3:天然の基質のアセトアセチル−CoAおよびアセチル−CoAを用いたHMG−CoAシンターゼ活性の測定
Clinkenbeard et al. (J. Biol. Chem. 250 (1975), 3108-3116に従ってHMG−CoAシンターゼ活性を測定した。HMG−CoA合成のための標準的な分析培地混合物は、合計体積1ml中に40mMのトリスHCl(pH8)、1mMのMgCl、100μMのアセトアセチル−CoA、200μMのアセチル−CoA、0.5mMのDTTを含む。ミトコンドリアHMG−CoAシンターゼは、この酵素で観察された阻害を回避するためにMgClの非存在下で分析した(Reed et al., J. Biol. Chem. 250 (1975), 3117-3123)。0.02mg/mLの酵素を添加することによって反応を開始させた。
【0152】
コントロール分析を酵素の非存在下で行った。アセトアセチル−CoAのエノラートの形態のアセチル−CoA依存性の消失に付随する303nmにおける吸光度の減少をモニターすることによって、HMG−CoAシンターゼ活性を測定した。アセトアセチル−CoAの非特異的な消失を明らかにするために、試験サンプルで得られた結果から、酵素を用いていないコントロール分析で得られた結果を差し引いた。分析条件下におけるアセトアセチル−CoAの見かけの吸収係数は5600M−1であった。
【0153】
【表3】

【0154】
実施例4:天然の基質HMG−CoAを用いたHMG−CoAリアーゼ活性の測定
HMG−CoAリアーゼ活性を、Mellanby J et al. (Methods of Enzymatic Analysis; Bergmeyer Ed. (1963), 454-458)に従って測定した。40mMのトリスHCl(pH8)、1mMのMgCl、0.5mMのDTT、0.4mMのHMG−GoA、0.2mMのNADH、5ユニットの3−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼを含む完全な反応混合物(1ml)を5分間インキュベートし、その後0.005mg/mlのHMG−CoAリアーゼを添加し、続いて反応の進行を340nmにおける吸光度の減少でモニターした。コントロール分析を酵素の非存在下で行った。
【0155】
NADHの非特異的な消失を明らかにするために、試験サンプルで得られた結果から酵素を用いていないコントロール分析で得られた結果を差し引いた。特異的な活性をΔμmol(NADH)/分・mg(タンパク質)として計算した。
【0156】
【表4】

【0157】
実施例5:3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の生産
3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の合成の完全な反応液は、40mMのトリスHCl(pH8)、5〜50mMのアセチル−CoA、100〜500mMのアセトン、1MgCl(ただしミトコンドリアHMG−CoAシンターゼを除く)、0.5mMのDTT、および、0.2〜8mg/mlの範囲で様々な濃度の酵素を含む。コントロール反応を酵素およびいずれか1種の基質の非存在下で行った。
【0158】
合成を進行させ、それに続いてそれに続いて30または37℃でのインキュベート期間を延長した後に採取されたアリコートを解析した。典型的には、48時間インキュベートした後に50μlのアリコートを採取し、タンパク質を除去するために100℃で1分間加熱し、遠心分離し、上清をマススペクトロメトリーによるHIV検出のための清潔なバイアルに移した。40mMのトリスHCl(pH8)、1mMのMgCl、0.5mMのDTT中で3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の溶液を調製し、上記で説明したように加熱し、これを参照として用いた。
【0159】
サンプルの解析は、PE SCIEX API2000トリプル四重極型質量分析計で、陰イオンモードで、移動相として0.1%トリエチルアミンを含むHO/アセトニトリル(60/40)を用いて行われ、流速は40μl/分とした。10μlの各上清を等量の移動相と混合し、直接マススペクトロメーターに注入した。[3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩−H]イオンの存在をモニターした。3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩に相当するピークを以下の酵素に関して観察した:
チャバネゴキブリ(Blattella germanica)(ドイツのゴキブリ)P54961(配列番号6)、
ガルス・ガルス(Gallus gallus)(ニワトリ)P23228(配列番号7)、
ホモ・サピエンス(Homo sapiens)(ヒト)Q01581(配列番号8)、
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)P54873(CAA58763)(配列番号4)、
カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)P54871(配列番号1)、
シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)(分裂酵母)P54874(配列番号2)、
サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)(パン屋で用いる酵母)P54839(配列番号3)、
細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)(変形菌類)Q86HL5(配列番号10)、
ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)Q03WZ0(配列番号)、
スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)Q8CN06(配列番号11)、
ラクトバチルス・デルブリュッキイ(Lactobacillus delbrueckii)Q1GAH5(配列番号24)、
スタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus haemolyticus)Q4L958(I98>野生型タンパク質と比較した差V)(配列番号25)。
【0160】
図6〜8は、市販の3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩、ニワトリ(Gallusgallus)(P23228)由来のHMGCoAシンターゼを用いた反応、および、酵素を用いないコントロール分析の代表的な結果を示す。
【0161】
実施例6:リアーゼを用いた3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAの生産
3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoA合成は、放射標識した[2−14C]アセトンの存在下で行った。3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoA合成のための完全な反応液は、40mMのトリスHCl(pH8)、5〜50mMのアセチル−CoA、100〜500mMのアセトン、1〜10mMのMgCl、0.5mMのDTT、および、0.5〜7mg/mlの範囲で様々な濃度の酵素を含む。TLCまたはHPLCで反応混合物を分離した後に生成物の形成を解析した。
【0162】
さらに3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAもTLC法で解析した(Stadtman E.R., J. Biol. Chem. 196 (1952), 535-546)。反応液のアリコートをセルロースプレートに載せて、以下の溶媒システム:エタノール/0.1Mの酢酸ナトリウム(pH4.5)(1/1)でクロマトグラフィーで処理した。内部標準としてCoAおよびアセチル−CoAを用いた。3−ヒドロキシ−3−メチルブチリル−CoAに関して報告されたRfは、0.88であった。
【0163】
実施例7:HMGシンターゼの場合におけるアセチル−CoAとアセトンとの酵素反応に関する反応速度パラメーター
以下の条件で、可変のアセトン濃度および一定のアセチル−CoA濃度(10mM)を用いて反応速度パラメーターを測定した:
40mMのトリスHCl(pH8)、
2mMのMgCl
0〜1Mのアセトン。
【0164】
最終的なpHを8に調節した。
1mlの反応混合物に3mgの精製した酵素を添加することによって反応を開始させた。続いて混合物を振盪しないで37℃で40時間インキュベートした。
【0165】
3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩生産の解析
3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩のイソブテンへの分解を起こす熱化学条件を適用した(Pressman et al., JACS, 1940, 2069-2080):まず反応混合物のpHを6NのHClを用いてpH4に調節し、続いてサンプルをガスクロマトグラフィーバイアル(インターキム(Interchim))に移した。バイアルを密封し、110℃で4時間インキュベートしたところ、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩のイソブテンへの分解が起こった。
【0166】
同じ条件で市販の3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩を用いて検量線を作製した。
上部空間のガスを1ミリリットル回収し、FID検出器およびCPシリカプロット(SilicaPlot)カラム(バリアン(Varian))を備えたHP5890ガスクロマトグラフ(HP)に注入した。参照として市販のイソブテンを用いた。イソブテンシグナルから初めにサンプル中に存在する3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸塩の量を計算した。
【0167】
以下の表に、実験された数種のHMG−CoAシンターゼに関する反応速度パラメーターを示す。
【0168】
【表5】

【0169】
S.エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)由来の酵素に関して、図9は、それに相当するミカエリス−メンテンプロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、式(I):
【化1】

[式中、Xは、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−O−POH−C1013P(補酵素A)、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−O−POH−ポリペプチド(アシルキャリアータンパク質)、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−OH(パンテテイン)、S−CH−CH−NH−CO−CH(N−アセチル−システアミン)、S−CH(メタンチオール)、S−CH−CH(NH)−COH(システイン)、S−CH−CH−CH(NH)−COH(ホモシステイン)、S−CH−CH(NH−CNO)−CO−NH−CH−COH(グルタチオン)、S−CH−CH−SOH(補酵素M)、および、OH(酢酸)からなる群より選択される]
で示される活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素を用いた、アセトンと、式(I)で示される活性化されたアセチル基を提供する化合物との酵素による変換を含む3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸の製造方法。
【請求項2】
Xが補酵素Aである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Xがアシルキャリアータンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素が、HMGCoAシンターゼ(EC2.3.3.10)の活性を有する酵素であるか、または、前記酵素が、C−C結合を切断/縮合するリアーゼ、例えばHMGCoAリアーゼ(EC4.1.3.4)の活性を有する酵素であるか、または、前記酵素が、PksGタンパク質である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記変換が、アセトンを生産して請求項1に記載の酵素を発現することができる生物の存在下で認識されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(a)アセトンを生産できる特性;および、
(b)アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、式(1)で示される活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素を発現する特性;
を特徴とする組換え生物。
【請求項7】
前記酵素が、HMGCoAシンターゼ(EC2.3.3.10)の酵素活性、および/または、例えばHMGCoAリアーゼ(EC4.1.3.4)、および/または、PksGタンパク質のようなC−C結合を切断/縮合するリアーゼの酵素活性を有する酵素である、請求項6に記載の生物。
【請求項8】
前記生物が、もともとアセトンを生産する能力を有する生物であり、好ましくはクロストリジウム属、バチルス属、または、シュードモナス属に属する微生物、より好ましくはクロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)種、クロストリジウム・ベイジェリンキ(Clostridium beijerinckii)種、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)種、バチルス・ポリミクサ(Bacillus polymyxa)種、または、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)種に属する微生物である、請求項6または7に記載の生物。
【請求項9】
前記生物が、本来アセトンを生産しないが、(a)生物中でアセトン生産を可能にするのに必要な遺伝子を導入することによってアセトンを生産できるように遺伝子組換えされている生物から誘導される、請求項6または7に記載の生物。
【請求項10】
前記生物が、光合成することができる生物である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するための請求項7〜10のいずれか一項に記載の生物の使用。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の生物を含む組成物。
【請求項13】
(i)アセトン;および、
(ii)式(I);
【化2】

[式中、Xは、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−O−POH−C1013P(補酵素A)、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−O−POH−ポリペプチド(アシルキャリアータンパク質)、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−OH(パンテテイン)、S−CH−CH−NH−CO−CH(N−アセチル−システアミン)、S−CH(メタンチオール)、S−CH−CH(NH)−COH(システイン)、S−CH−CH−CH(NH)−COH(ホモシステイン)、S−CH−CH(NH−CNO)−CO−NH−CH−COH(グルタチオン)、S−CH−CH−SOH(補酵素M)、および、OH(酢酸)からなる群より選択される]
で示される活性化されたアセチル基を提供する化合物;および、
(iii)アセトンのオキソ(すなわちC=O)基の炭素原子と、式(I)で示される活性化されたアセチル基を提供する化合物のメチル基に相当する炭素原子(C)との間の共有結合の形成を触媒することができる酵素、
を含む組成物。
【請求項14】
3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するための請求項1に記載の酵素の使用。
【請求項15】
アセトンと、以下の式(I):
【化3】

[式中、Xは、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−O−POH−C1013P(補酵素A)、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−O−POH−ポリペプチド(アシルキャリアータンパク質)、S−CH−CH−NH−CO−CH−CH−NH−CO−CH(OH)−C(CH−CH−OH(パンテテイン)、S−CH−CH−NH−CO−CH(N−アセチル−システアミン)、S−CH(メタンチオール)、S−CH−CH(NH)−COH(システイン)、S−CH−CH−CH(NH)−COH(ホモシステイン)、S−CH−CH(NH−CNO)−CO−NH−CH−COH(グルタチオン)、S−CH−CH−SOH(補酵素M)、および、OH(酢酸)からなる群より選択される]
で示される活性化されたアセチル基を提供する化合物との酵素による変換を含む、3−ヒドロキシ−3−メチル酪酸を生産するためのアセトンの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−504312(P2013−504312A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528390(P2012−528390)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063460
【国際公開番号】WO2011/032934
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(512054229)
【Fターム(参考)】