説明

アセナピン・マレイン酸塩の結晶形

本発明は、化合物トランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール・(Z)−2−ブテン二酸塩の斜方晶系結晶、該結晶の製造方法および斜方晶系結晶を含む医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセナピンの新規結晶形、この結晶形の製造方法および該結晶形を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アセナピンは、中枢神経系疾患、特に統合失調症の治療において使用するための化合物である。アセナピンの化学名は、トランス−5−クロロ−2−メチル−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロールであり、その製造方法は、USP No.4,145,434に開示されている。
【0003】
アセナピンはそのマレイン酸塩として開発中である。この塩は、実施例1に従って、アセナピンのエタノール溶液に1モル当量のマレイン酸のエタノール溶液を加えることにより製造される。さらに精製するために、こうして得られたアセナピン・マレイン酸塩は、エタノールから再結晶され得る。
【0004】
【化1】

【0005】
トランス−5−クロロ−2−メチル−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロールの薬理学的プロフィール、そのキネティクスおよび代謝、ならびにヒトボランティアおよび統合失調症患者における最初の安全性および有効性の試験は、De Boerら(Drugs of the Future 1993,18(12),1117−1123)によって概説された。アセナピンが抗精神病作用を有する非常に強力なドーパミンおよびセロトニン拮抗薬であることが、証明されている。
【0006】
Funkeら(Arzneim.−Forsch./Drug Res.40(1999), 536−539)は、アセナピン・マレイン酸塩の物理化学的性質を記載している。この公知の結晶性アセナピン・マレイン酸塩(H型または単斜晶系結晶)は融点141から145℃を有し、顕微鏡写真で観察する場合、100μmを超えるサイズの結晶性粒子から一般に成る。
【0007】
舌下または頬側投与のためのアセナピン・マレイン酸塩を含む医薬組成物は、WO95/23600に記載されていた。舌下調合物の開発のために、小さな粒子径を有する原薬が望ましい。従って、結晶の粒子径を小さくするために、微粉化工程が適用される。しかしながら、下記のように、アセナピンの単斜晶系結晶の微粉化により高い多形純度を有する原薬を得ることは困難である。
【0008】
原薬の粒子径は、製剤の生物薬剤学的特性に影響を与える。例えば、原薬の粒子径は、製剤製造および溶解に影響を与え、従ってその生物学的利用能に影響を与える。アセナピンが唾液に溶解するため、その粒子径は、重要である。原薬粒子が小さい場合、高い濃度を得るために短時間しか必要としない。この観点から、小粒子が好ましい。さらに、より小さい粒子径は粉末混合物の均一性の改善に役立ち、これにより製剤含量の均一性の改善をもたらすことができる。アセナピン・マレイン酸塩に関して、d95として、粒子径は、好ましくは約100μm以下であり、より好ましくは約50μm以下であり、および最も好ましくは約30μm以下である。本開示において、用語d95は、粒子の95%(容量に基づいて)が表示されたサイズ以下であることを意味する。
【0009】
より小さい原薬の粒子は、微粉化により得ることができる。しかしながら、単斜晶系結晶をこのような工程に供した場合、微粉化工程の結果は大変予測が困難であると思われた。微粉化後に結晶を分析することにより、出発物質中の公知の単斜晶系結晶に加えて第2の多形体(斜方晶系結晶L)の存在が明らかになった。単斜晶系結晶から出発して、微粉化後に、単斜晶系結晶または斜方晶系結晶または多形体混合物のいずれかが得られた。出発物質がアセナピン・マレイン酸塩の単斜晶系結晶の同じバッチ由来であっても、微粉化により、再現性のない生成物が得られた(実施例9および10参照)。さらに、アセナピン・マレイン酸塩の単斜晶系結晶の微粉化により高い多形純度を有する原薬は得られなかった。
【0010】
均一で明確な組成の治療剤を製造することが、一般に望ましい。医薬として多形体混合物が用いられる場合、純粋な多形体と比較して大きな欠点を伴う。結晶構造における差異は、安定性、溶解の速度、生物学的利用能などの物理化学的パラメーターにおける差異をもたらし得る。従って、化合物の多形体の混合物は、混合物を構成している純粋な多形体よりも異なる物理化学的パラメーターを多くの場合有する。組成の同一な化合物の多形体混合物の各バッチを製造することは実際に困難であるので、このことは、一層重要である。これらの差異の結果として、多形体の1つのみが使用されることを一般に望む医薬において、化合物の多形体の混合物を組み込むことは多くの場合望ましくない。
【発明の開示】
【0011】
本発明はアセナピン・マレイン酸塩の斜方晶系結晶を提供し、特定の結晶化技術を用いることにより、これを高い多形純度で製造することができる。さらにまた、粉砕されていないアセナピン・マレイン酸塩の斜方晶系結晶は、粉砕されていないアセナピン・マレイン酸塩の単斜晶系結晶よりも比較的より小さな粒子径(d95に基づいて)を有する。さらに、アセナピン・マレイン酸塩の斜方晶系結晶の微粉化により、再現性よく斜方晶系結晶の微晶質アセナピン・マレイン酸塩が得られることが見いだされた。
【0012】
従って、本発明の一態様は、もう1つの結晶形の10%以下、もう1つの結晶形の5%以下、またはもう1つの結晶形の検出されない量をそれぞれ含有する、アセナピン・マレイン酸塩の斜方晶系結晶を提供する。
【0013】
本発明のもう1つの態様は、微晶質であるアセナピン・マレイン酸塩の斜方晶系結晶を提供する。本明細書において、用語「微晶質」は、30μm以下のd95を特徴とする粒径分布を有する粒子を含む結晶形を意味する。
【0014】
本発明のさらにもう1つの態様は、アセナピン・マレイン酸塩の斜方晶系結晶の製造方法を提供する。この方法は、溶解したアセナピン・マレイン酸塩を含有するエタノール/水混合物から冷却することにより、アセナピン・マレイン酸塩を結晶化することを含む。この混合物は、好ましくは、9:1(v/v)のエタノール/水である。斜方晶系結晶が得られる場合、アセナピン・マレイン酸塩のエタノール/水混合物中の溶液にこれらの種結晶を加えることができる。この結晶化原料は、さらに分割してまたはふるいにかけて、微結晶のクラスターを取り除くことができる。
【0015】
本発明に従って製造されるアセナピン・マレイン酸塩結晶は特定の多形体であり、この多形体は138から142℃の範囲の融点を有する。
【0016】
本発明の斜方晶系結晶は、赤外分光法、ラマン分光法、固体核磁気共鳴分光法、示差走査熱量計、X線粉末回折パターン(XPRD)などの当分野で公知のいくつかの分析技術により特徴づけることができ、それにより単斜晶系結晶と区別できる。これらの方法は個別または組み合わせで適用され得る。
【0017】
図1に、アセナピン・マレイン酸塩の単斜晶系結晶(上部のパターン)および斜方晶系結晶(下部のパターン)のXRPDパターンを示す。それぞれのパターンは、回折角2シータ(θ)のある特定値における強度ピークにより特徴付けられる。単斜晶系結晶は、2シータ=9.6°、20.4°、22.0°、23.4°、25.2°、26.1°、26.7°、26.8、29.1°および30.0°に特徴的なピークを有し、9.6°、20.4°、22.0°、23.4°、25.2°および26.8°においてより特徴的なピークを有する。最も特徴的なピークは、9.6°および26.8°に存在する。
【0018】
斜方晶系結晶は、2シータ=10.5°、15.7°、18.3°、19.0°、20.3°、20.8°、22.2°、23.2°、25.6°および27.5°におけるピークにより特徴付けられ、10.5°、15.7°、18.3°、19.0°、22.2°、23.2°および27.5°においてより特徴的なピークを有する。最も特徴的なピークは10.5°および15.7°に存在する。
【0019】
上記の2シータ値は、一般に特定値±0.2を意味する。
【0020】
斜方晶系結晶はまた、その結晶学的データにより特徴づけることもできる。単結晶X線回折により得られた斜方晶系結晶および単斜晶系結晶の結晶学的データを相互比較した。単斜晶系結晶に属する結晶構造が、単位胞中の空間群P2/nおよび4分子から成るのに対して、斜方晶系結晶に属する結晶構造は、単位胞中の空間群Pca2および8分子から成ることが証明された。このデータを表1aおよび1bに示す。表1aにおける軸長は、特定値±0.2Åを一般に意味する。表1aにおける軸角は、値±0.2Åを一般に意味する。表1bにおける原子位置(x,y,z)は、これらの値±0.002を一般に意味する。
【0021】
【表1】

【0022】
表1Aおよび1Bの結晶学的データを用いて、アセナピン・マレイン酸塩の単斜晶系結晶および斜方晶系結晶のX線粉末回折パターン(XRPDパターン)を算出することができる。これらの算出されたアセナピン・マレイン酸塩の単斜晶系結晶および斜方晶系結晶のXRPDパターンを用いて、実験に基づくパターンと比較することができる。さらにまた、表1aからのデータは、Pawley Fit法に用いて、アセナピン・マレイン酸塩の単斜晶系結晶および斜方晶系結晶の結晶学的データと、実験に基づくXRPDパターンとを比較することができる。さらに、表1bからのデータは、リートベルト法(Rietveld Refinement)に用いて、アセナピン・マレイン酸塩の単斜晶系結晶および斜方晶系結晶の結晶学的データと、実験に基づくXRPDパターンとを比較することができる。
【0023】
本発明の斜方晶系結晶はまた、そのラマンスペクトルにより特徴付けられ得、それにより単斜晶系結晶と区別され得る。
【0024】
図2は、アセナピン・マレイン酸塩の単斜晶系結晶(上部のスペクトル)および斜方晶系結晶(下部のスペクトル)のラマンスペクトルを示す。
【0025】
【表2】

【0026】
各スペクトルは、波数(cm−1)のある特定値における強度ピークにより特徴付けられる。単斜晶系結晶は、3070cm−1、3020cm−1、2900cm−1、2871cm−1、2829cm−1、1253cm−1、1238cm−1、849cm−1、743cm−1および711cm−1に特徴的なピークを有し、3070cm−1、3020cm−1、2871cm−1、849cm−1および711cm−1にさらに特徴的なピークを有する。最も特徴的なピークは、2871cm−1および849cm−1に存在する。
【0027】
斜方晶系結晶は、3072cm−1、3051cm−1、3029cm−1、3011cm−1、2909cm−1、2888cm−1、1245cm−1、824cm−1、747cm−1、717cm−1および194cm−1におけるピークにより特徴付けられ、3051cm−1、3029cm−1、3011cm−1、2888cm−1、824cm−1および717cm−1においてより特徴的なピークを有する。最も特徴的なピークは、2888cm−1および824cm−1に存在する。
【0028】
前述の波数値は、特定値±2cm−1であることを一般に意味する。
【0029】
本発明のさらなる態様において、新規に見いだされた有利な特性は、微細結晶懸濁液の調製のための、斜方晶系結晶におけるアセナピン・マレイン酸塩の使用を提供する。
【0030】
本発明のさらなる態様は、1以上の薬学的に許容される添加剤または賦形剤を加えたアセナピン・マレイン酸塩の斜方晶系結晶を含む医薬製剤を提供する。斜方晶系結晶に加えて、非晶質アセナピン・マレイン酸塩が存在し得る。
【0031】
このような医薬製剤は、錠剤、カプセルまたは座剤などの投与単位の形態を一般にとるが、他の固体または乾燥医薬製剤が含まれる。好ましい医薬製剤は、錠剤の形態である。錠剤は、斜方晶系結晶における有効成分アセナピン・マレイン酸塩に加えて、希釈剤、結合剤、流動促進剤および滑沢剤(これらは、錠剤に満足な加工特性および圧縮特性を付与するのに役立つ。)並びに崩壊剤および風味剤(これらは、完成錠剤に追加の望ましい物理的特性を付与する。)などの特定の賦形剤を含有することができる。
【0032】
このような投与単位の製造方法は公知であり、例えば、標準的な参考文献であるGennaroら:Remington’s Pharmaceutical Sciences(第18版、Mack Publishing Company、1990、特に第8章:医薬製剤およびその製造方法)に記載されている標準法などに準拠している。
【0033】
精神病、双極性障害および統合失調症などの精神障害の治療に適したアセナピン・マレイン酸塩の投与単位は、有効成分の約0.005から500mgを含有することができる。好ましい投与単位は、斜方晶系結晶におけるアセナピン・マレイン酸塩の1から50mgを含有することができる。
【0034】
本発明は、以下の実施例により例示されるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0035】
一般法
X線粉末回析(XRPD)スペクトルは、Bragg−Brantano光学系、Cu−Kα放射線、45kV、40mAで、X’celerator検出器と一緒にXPert pro Panalytical Reflection回折装置を用いて得た。使用スリット:散乱線除去用スリット1°、発散スリット1/2°、ソーラースリット0.02ラジアン。測定条件:走査範囲5から40°(2シータ)、ステップサイズ0.0167°(2シータ)。Siの回転試料台上で、15rpmの速度で試料を測定した。純粋な単斜晶系結晶および純粋な斜方晶系結晶のXRPDスペクトルを図1に示す。
【0036】
単結晶構造測定。測定される結晶は、Lindemannガラスキャピラリーの先端に不活性なパーフルオロオイルを用いて固定し、回転型対陰極を用いるNonius Kappa CCD上の冷窒素気流中に移した。構造を直接法(SHELX 86)により解析し、完全行列の最小2乗法(SHELXL−97−2)によりF精密化を行い、精密化中に順守規準を適用しなかった。中性原子散乱因子および異常分散の補正には、結晶学テーブル(International Tables for Crystallography)を用いた。幾何学的計算および図解を、PLATONを用いて行った。全ての計算を、Transtec 3.0 GHz Xeon PC under Debian Linuxで行った。
【0037】
FT−ラマンスペクトルを、1550mWの最大パワーを有する1064nm Adlas DPY 421 Nd:YAGレーザーおよび液体窒素で冷却したGe検出器を備えたBruker RFS 100/S FT−ラマンスペクトロメーターを用いて記録した。各試料について、150mWのレーザーパワー、分解能2cm−1の集束ビーム(レーザースポット100μm)を用いて、128回の走査を行った。
【0038】
LDS法。アセナピン・マレイン酸塩で飽和したイソオクタン中のレシチン(0.7mg/ml)(界面活性剤として使用)からなる分散液を調製した。溶液を終夜撹拌する。ついで、溶液を0.22μmフィルターで濾過する。遠心管中におおよそ30mgのアセナピン・マレイン酸塩を計量し、分散液の2mlを加えて試料を調製した。超音波槽(Transsonic 310)で試料の超音波処理を2分間行った。ついで試料の粒子径分布をレーザー回折装置(Malvern Mastersizer S,UK)を用いて行った。Fraunhoferアルゴリズムを用いて粒子径分布を算出した。
【0039】
DSC法。アセナピン・マレイン酸塩の融点(開始温度(℃))の測定のために示差走査熱量計(DSC)を用いた。このDSC装置は、0から300℃の範囲の温度で使用できるセラミックセンサおよび炉電源を備えた、熱流束原理に基づく測定室を有していた。加熱速度は、少なくとも1から20℃/分であった。パージガスは、50mL/分に制御された流量の窒素(N)であった。アルミニウム試料皿にアセナピン・マレイン酸塩の原薬(2から5mg)を正確に測った。5℃/分の加熱速度を用い、0から250℃の直線の温度プログラムを用いた。
【0040】
(実施例1)
アセナピンおよびマレイン酸からのアセナピン・マレイン酸塩の合成
遊離塩基化合物()(トランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール)(30kg)をエタノール60Lに溶解し、真空下65℃で留去した。残渣にエタノール(90L)を加え、溶液に60℃で木炭1.8kgを加えた。60℃で30分間撹拌を続け、溶液をフィルターで濾過し、粉末を除いた。フィルターを60℃、エタノール30Lで洗浄した。合わせた濾液に、60℃でマレイン酸(13.5kg)のエタノール(90L)中の溶液を加え、撹拌を30分間続けた。反応混合物を20℃に冷却し、2時間撹拌した。ついで反応混合物を−10℃(±2℃)に冷却し、2時間撹拌し、結晶を濾過した。結晶をエタノール(−10℃)5Lで洗浄し、収集した。湿った結晶を再結晶(実施例2から8に記載)に直接用いる。
【0041】
(実施例2)
バッチC1の結晶化(単斜晶系多形体)
実施例1記載の手順に従って調製したアセナピン・マレイン酸塩(10kg)をエタノール24Lに沸点で溶解した。20℃に冷却後、溶液を1時間撹拌し、−10℃(±2℃)に冷却した。撹拌を2時間続け、結晶を収集し、冷(−10℃)エタノール3.5Lで2度洗浄した。生成物の不純物プロフィールをGLC分析により測定した。結晶を真空下60℃で乾燥した。
収量:10kg=100%(m/m)のトランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール(Z)−2−ブテン二酸塩(1:1)(アセナピン・マレイン酸塩)。
DSC:140.6℃
XRPD:単斜晶系多形体の基準物質に対応
多形純度:〜90%単斜晶系結晶および10%斜方晶系結晶
LDSによる粒子径:d95<199μm
【0042】
(実施例3)
斜方晶系多形体の結晶化
実施例1に従って調製したアセナピン・マレイン酸塩(260g)をエタノール(480ml)と水(50ml)との混合物中に57℃に加熱することにより溶解した。ついで溶液をゆっくり冷却し、結晶化が開始した。72時間撹拌後、反応混合物を−10℃に冷却し、さらに撹拌を続けた。ついで結晶を濾過により収集した。これにより、アセナピン・マレイン酸塩斜方晶系結晶(224g,86%)を得た。
XRPD:>95%斜方晶系結晶
【0043】
(実施例4)
バッチC2の結晶化(単斜晶系多形体)
実施例2に従って、もう1つのバッチを調製した。
収量:10kg=100%(m/m)アセナピン・マレイン酸塩
DSC:141.0℃
XRPD:単斜晶系多形体の基準物質に対応
多形純度:>95%単斜晶系結晶
LDSによる粒子径:d95<221μm
【0044】
(実施例5)
バッチC3の結晶化(斜方晶系多形体)
実施例1記載の手順に従って調製したアセナピン・マレイン酸塩(〜30kg)を、55℃でエタノール57Lおよび脱塩水6.5Lに溶解した。溶液を濾過して粉末を除き、濾液をゆっくり20±5℃に冷却する。濾液に30gのOrg 5222(斜方晶系多形体)の種結晶を加え、20±5℃で48±6時間冷却した。結晶を集め、真空下60℃で乾燥した。
収量:20.06kg=69%(m/m)のアセナピン・マレイン酸塩
DSC:139.1℃
XRPD:斜方晶系多形体(>純度95%)の基準物質に対応
【0045】
(実施例6)
バッチC4の結晶化(斜方晶系多形体)
アセナピン遊離塩基28.9kgを用い、実施例5記載の手順に従った。
収量:20.88kg=72%(m/m)のアセナピン・マレイン酸塩(、斜方晶系結晶)
DSC:139.2℃
XRPD:斜方晶系多形体(>純度95%)の基準物質に対応
【0046】
(実施例7)
バッチC5の結晶化(斜方晶系多形体)
アセナピン遊離塩基26.9kgを用い、実施例4記載の手順に従った。
収量:22.85kg=85%(m/m)のアセナピン・マレイン酸塩(、斜方晶系結晶)
DSC:139.9℃
XRPD:斜方晶系多形体(>純度95%)の基準物質に対応
LDS:平均粒子径〜30μm
顕微鏡写真:100μmまでの粒子
【0047】
(実施例8)
バッチC6の結晶化(斜方晶系多形体)
アセナピン遊離塩基28.9kgを用い、実施例5記載の手順に従った。
収量:24.2kg=84%(m/m)のアセナピン・マレイン酸塩
DSC:139.2℃
XRPD:斜方晶系多形体(>純度95%)の基準物質に対応
【0048】
(実施例9から15)
バッチC1からC6の微粉化によるM1からM6の製造
実施例2、および4から8記載のバッチC1からC6の純粋な生成物を、窒素をキャリアガスとして用い、7バールの微粉化圧力を用いてChrispro MC200ステンレススチールJet Millで微粉化した。結果を表2に示す。
【0049】
斜方晶系多形体のアセナピン・マレイン酸塩の結晶の微粉化により、多形体の保持が一貫して起こることが実証された。このことは、バッチC3からC5の微粉化(これは、微粉化バッチM4、M5、M6、およびM7を提供した(実施例12から15)。)の結果から明らかである。表2に示されるように、微粉化バッチM4からM7は全て、小さな粒子(すなわちd95<30μm)を有する斜方晶系多形体として特徴付けられた。さらに、XRPDにより単斜晶系多形体が検出できなかったので、この生成物の多形純度は大変高い(>95%斜方晶系結晶)。
【0050】
(実施例16)
医薬組成物
原理
斜方晶系結晶のアセナピン・マレイン酸塩をゼラチン/マンニトールマトリックスに混合し、特定重量を予備成形ポケットに入れた。このマトリックスを凍結トンネルに通過させてポケット内で凍結させた。ついで凍結した錠剤を、凍結乾燥機内で氷を昇華させることにより乾燥した。
【0051】
製造手順
真空ミキサー中で撹拌し混合しながら、ゼラチン2000gおよびマンニトール1500gを精製水45.01kg中に分散した。溶解後、マトリックスを濾過し、トランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール・(Z)−2−ブテン二酸塩斜方晶系結晶1406gを加え混合した。この混合物を、予備成形ブリスターポケット内に注入ポンプを用いて分注した(各ポケットに250mg)。この充填ポケットを、液体窒素凍結トンネルに通過させて凍結させた。この凍結錠剤を、事前にプログラムされた乾燥サイクルを用いて凍結乾燥機内で乾燥した。各ポケットには、トランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール・(Z)−2−ブテン二酸塩7.03mg、ゼラチン10.0mgおよびマンニトール7.5mgを含む医薬投薬単位を含んでいた。
【0052】
(実施例17)
斜方晶系結晶を得るための再結晶
粗製アセナピン・マレイン酸塩単斜晶系結晶(20kg)をアセトン(87.6kg)に溶解し、55℃に加熱した。この溶液をフィルターに通過させて未溶解の物質を取り除いた。ヘプタン(25.5kg)を加え、温度を55℃に戻した。アセナピン・マレイン酸塩斜方晶系結晶の種結晶(おおよそ100g)を加え、1時間撹拌した。その後、ヘプタン(62.8kg)を2時間にわたって一定速度で加えた。混合物を57℃で2時間撹拌した後、6時間かけて温度を10℃にした。濾過によりアセナピン・マレイン酸塩を単離し、10℃に冷却したアセトンおよびヘプタンの1:1混合物(30kg)で洗浄した。ついで物質を乾燥した。収率は90から96%であった。XPRD分析は、>95%斜方晶系結晶が得られたことを示した。
【0053】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】反射率測定法により測定した、トランス−5−クロロ−2−メチル−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール(Z)−2−ブテン二酸塩の単斜晶系結晶(上の図)および斜方晶系結晶(下の図)のXRPDパターンを示す図である。
【図2】トランス−5−クロロ−2−メチル−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール(Z)−2−ブテン二酸塩の単斜晶系結晶(上の図)および斜方晶系結晶(下の図)のラマンスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜方晶系トランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール(Z)−2−ブテン二酸塩。
【請求項2】
化合物が、もう1つの結晶形の10%以下、もう1つの結晶形の5%以下、またはもう1つの結晶形の検出されない量を含有する斜方晶系結晶であることを特徴とする、化合物トランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール(Z)−2−ブテン二酸塩。
【請求項3】
CuKα線を用いて得られる、10.5°および15.7°の2シータ(2θ)の値にピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
CuKα線を用いて得られる、10.5°、15.7°、18.3°、19.0°、22.2°、23.2°および27.5°の2シータ(2θ)の値にピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
CuKα線を用いて得られる、10.5°、15.7°、18.3°、19.0°、20.3°、20.8°、22.2°、23.2°、25.6°および27.5°の2シータ(2θ)の値にピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項6】
2888cm−1および824cm−1の値にピークを有するラマンスペクトルパターンを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項7】
3051cm−1、3029cm−1、3011cm−1、2888cm−1、824cm−1および717cm−1の値にピークを有するラマンスペクトルパターンを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項8】
3072cm−1、3051cm−1、3029cm−1、3011cm−1、2909cm−1、2888cm−1、1245cm−1、824cm−1、747cm−1、717cm−1および194cm−1の値にピークを有するラマンスペクトルパターンを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項9】
トランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール(Z)−2−ブテン二酸塩が、エタノール/水混合物から結晶化されることを特徴とする、請求項1から8に記載の化合物の製造方法。
【請求項10】
エタノール/水混合物が9:1容量比であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
統合失調症または双極性障害治療用医薬調合物の製造における、請求項1から8に記載のトランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール(Z)−2−ブテン二酸塩の使用。
【請求項12】
薬学的に許容される賦形剤、および斜方晶系結晶におけるトランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール(Z)−2−ブテン二酸塩を含む、医薬組成物。
【請求項13】
斜方晶系結晶における化合物トランス−5−クロロ−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−2−メチル−1H−ジベンズ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロール(Z)−2−ブテン二酸塩の治療的有効量を投与することを含む、ヒトを含む哺乳動物における精神障害の治療方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−534656(P2008−534656A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504776(P2008−504776)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061408
【国際公開番号】WO2006/106135
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Linux
【出願人】(398057282)ナームローゼ・フエンノートチヤツプ・オルガノン (93)
【Fターム(参考)】