説明

アゾメチン化合物およびアゾメチン化合物からなる色素ならびに熱転写シート

【課題】カップリング反応を良好に行うことができるとともに、得られるアゾメチン化合物の製造コストも大幅に低減できる、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環に窒素原子を介してピリジン環を結合させたアゾメチン化合物を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表されるアゾメチン化合物。


(式中、Rは、フェニル基またはナフチル基であるが、該フェニル基またはナフチル基は、アルキル基もしくはハロゲンにより置換されていてもよく、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアゾメチン化合物に関し、さらに詳細には、耐光性に優れかつ安価に製造できるとともに、マゼンタ色素として使用した場合に色調に優れる、新規アゾメチン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱昇華転写方式は、昇華性染料 をバインダー樹脂に溶解又は分散させた染料層を基材に担持した熱転写フィルムを使用し、この熱転写フィルムを受像フィルムに重ねてサーマルヘッド等の加熱デバイスに画像情報に応じたエネルギーを印加することにより、熱転写フィルム上の染料層中に含まれる昇華性染料を受像フィルムに移行させて画像を形成する方法である。
【0003】
この感熱昇華転写方式は、熱転写フィルムに印加するエネルギー量によってドット単位で染料の移行量を制御できるため、階調性画像の形成に優れるとともに、文字や記号等の形成が簡便である等の利点を有している。
このような熱転写方式において得られる画像は銀塩写真と同様に高画質なものが形成可能となっており、それにつれて、画像の光・熱・湿度などの因子による画質劣化防止への要求が極めて高くなってきており、画像保存性を改良するための種々の昇華性染料の開発が行われている。
【0004】
例えば、転写性や保存性に優れる感熱転写用の色素として、特許第3013137号(特許文献1)や特許第3078308号(特許文献2)には、1H−ピラゾロ〔5,1−C〕〔1,2,4〕トリアゾール環をカプラーとし、ピリジル基が窒素原子を介してカプラーと結合した構造のアゾメチン化合物が開示されている。また、特許第2840901号(特許文献3)には、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環をカプラーとし、フェニルアミノ基が窒素原子を介してカプラーに結合した構造のアゾメチン化合物が開示されている。さらに、特開平5−239367号公報(特許文献4)には、両者を組み合わせた構造である、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環カプラーに、ピリジル基が窒素原子を介してカプラーと結合した構造のアゾメチン化合物が開示されている。
【0005】
上記の特許第3013137号や特許第3078308号に開示されているアゾメチン色素は、耐光性に優れるものの、1H−ピラゾロ〔5,1−C〕〔1,2,4〕トリアゾール環をカプラーとするため、コスト上の問題がある。また、原料カプラーとして1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環化合物を用いる特許第2840901号に記載のアゾメチン色素は、比較的安価に製造できるメリットはあるものの、耐光性が不十分な場合がある。
【0006】
一方、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環カプラーとピリジル基とを組み合わせた特開平5−239367号公報に記載の色素は、安価に製造でき、かつ耐光性にも優れるという利点がある。特に、特開平5−239367号公報中で提案されている、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環の置換基Rとしてフェニル基を導入したもの(9,10,11,22,112の化合物)は、その色素の色調が要求される色再現域に近くなるという点において優れるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3013137号
【特許文献2】特許第3078308号
【特許文献3】特許第2840901号
【特許文献4】特開平5−239367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特開平5−239367号公報に記載の化合物、とりわけトリアゾール環の置換基Rとして無置換のピリジル基を導入した化合物は、製造コストや耐光性の点で優れるものの、カップリング反応の反応率が低く、特開平5−239367号公報にも記載のように、概ね20%程度の収率である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは今般、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環に窒素原子を介してピリジン環を結合させたアゾメチン化合物において、特定の置換基を有するアゾメチン化合物は、耐光性と製造コストの観点から優れるとともに、収率も高く、かつ溶解性や色素とした場合の感度にも優れる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、耐光性と製造コストの観点から優れるとともに、収率も高く、かつ溶解性や色素とした場合の感度にも優れる新規なアゾメチン化合物を提供することにある。
【0011】
また、本発明の別の目的は、上記のアゾメチン化合物の製造方法を提供することである。
【0012】
そして、本発明によるアゾメチン化合物は、下記式(I)で表されるものである。
【化1】

(式中、
は、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基であり、
およびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)。
【0013】
また、本発明の別の態様によるアゾメチン化合物の製造方法は、下記式IIで表される化合物と下記式IIIで表される化合物とを、塩基の存在下、酸化剤で反応させることを含んでなる。
【化2】

【化3】

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、式Iで表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環に窒素原子を介してピリジン環を結合させたアゾメチン化合物は、上記式IIと式IIIとのカップリング反応を良好に行うことができるとともに、得られるアゾメチン化合物の製造コストも大幅に低減できる。また、ピラゾロトリアゾール母核の6位にC1〜C3のアルコキシフェニル基を有する上記式Iの化合物は耐光性に優れるため、フェニル基を結合させたアゾメチン化合物にように、耐光性を向上させるための種々の置換基を導入する必要がない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<アゾメチン化合物>
以下、本発明によるアゾメチン化合物を説明する。
本発明によるアゾメチン化合物は、下記式Iで表されるものである。
【0016】
【化4】

式中、Rは、Rは、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。
【0017】
式Iで表される化合物のように、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環カプラーとピリジル基とが窒素原子を介して結合したアゾメチン化合物は、耐光性に優れるとともに、安価に製造できるという利点を有している。しかしながら、特開平5−239367号に記載のアゾメチン化合物のように、置換基を有さないピリジル基がカプラーに結合した化合物は、その製造工程において、カプラーとピリジン環との反応収率が1〜20%と低いものである。本発明においては、このピリジン環に着目し、ピリジン環のオルト位にメチル基を導入することにより、カップリングの反応率が著しく向上し、反応収率は40%以上となる。
【0018】
本発明においては、上記式Iにおいて、RおよびRが、いずれも同じアルキル基であることが好ましく、より好ましくは、RおよびRの両方がプロピル基(C3)またはブチル基(C4)である。このように、RおよびRがいずれもプロピル基またはブチル基であるアゾメチン化合物は、製造コストや耐光性の観点で優れるだけでなく、色相感度や溶解性の観点からも優れるものである。
【0019】
また、本発明においては、式I中のRはエチル基(C2)またはプロピル基(C3)であることが好ましい。ピラゾロトリアゾール母核の6位がエトキシフェニル基またはプロポキシフェニル基であることにより、溶解性および耐光性がより一層優れる。
【0020】
本発明によるアゾメチン化合物は、下記の合成スキームに示されるように、下記式IIで表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーと、式IIIで表されるピリジルジアミノ誘導体とを、塩基の存在下、酸化剤で反応させることにより得ることができる。
【0021】
【化5】

【0022】
カプラーである式IIで表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール誘導体は、特開平5−239367号公報に記載の方法と類似の方法を用いて合成することができる。例えば、上記式IIおよび式IIIの化合物は、以下のようにして得ることができる。
【0023】
先ず、下記合成スキームのように、出発物質として安息香酸エステル化合物に、カリウム−t−ブトキシドの存在下でアセトニトリルを反応させて化合物aを得た後、化合物aにヒドラジンを反応させて化合物bを得る。次いで、化合物bに、イミデート塩酸塩を作用させてアミジン化合物とした後、これにヒドロキシルアミンを作用させて化合物cを得る。
【0024】
【化6】

【0025】
次いで、下記のように、化合物cにp−トルエンスルホン酸クロライドを反応させ。ピリジンの存在下で加熱還流することにより、式IIの化合物を得ることができる。
【0026】
【化7】

【0027】
また、式IIIの化合物であるピリジルジアミン誘導体は、例えば、6−クロロ−3−ニトロ−2−ピコリンと炭酸カリウムとをアセトニトリルに溶解させた溶液にジアルキルアミンを滴下して攪拌し、油層を分離することにより、化合物dを得る。次いで、得られた化合物dのエタノール溶液中にパラジウム−炭素を加え、1気圧下で水素ガスと反応させた後、反応液をろ過し、ろ液に塩酸ジオキサンを加えて攪拌することにより式IIIの化合物を得ることができる。
【0028】
【化8】

【0029】
そして、上記のようにして得られた式IIの化合物と式IIIの化合物とを、塩基の存在下、酸化剤で反応させることにより、本発明のアゾメチン化合物を得ることができる。この反応は、例えば水冷下40℃以内で、約1時間行う。
【0030】
<マゼンタ色素および熱転写シート>
本発明によるアゾメチン化合物は、感熱熱転写材料として有用である。例えば、上記式Iで表されるアゾメチン化合物は、昇華型熱転写用のマゼンタ色素として使用でき、他の公知のイエロー色素、シアン色素、その他の色素等と組み合わせて、好適に使用できる。このマゼンタ色素に加えイエロー、シアン、ブラック等複数の染料層を面順次に基材上に設けて熱転写シートとすることができる。また、上記複数の染料層に加え転写性保護層を面順次に設けたもの等であってもよい。なお、さらに熱溶融性インキ層のブラックを設けてもよい。イエロー、シアン、ブラック等の昇華型熱転写用色素や熱溶融性色素としては、従来公知のものを使用することができる。
【0031】
各染料層は、それぞれ上記特定の染料に加え、バインダー樹脂をも含有するものである。バインダー樹脂としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができ、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂;ポリエステル系樹脂;フェノキシ樹脂、等が挙げられる。
【0032】
バインダー樹脂としては、更に、離型性グラフトコポリマーも挙げられる。上記離型性グラフトコポリマーは、離型剤として配合することもできる。離型性グラフトコポリマーは、ポリシロキサンセグメント、フッ化炭素セグメント、フッ化炭化水素セグメント及び長鎖アルキルセグメントから選択された少なくとも1種の離型性セグメントを、上述のバインダー樹脂を構成するポリマー主鎖にグラフト重合させてなるものである。離型性グラフトコポリマーとしては、なかでも、ポリビニルアセタールからなる主鎖にポリシロキサンセグメントをグラフトさせて得られるグラフトコポリマーが好ましい。
【0033】
各染料層は、所望により、離型剤、無機微粒子、有機微粒子等の添加剤を使用してもよい。離型剤としては、上述の離型性グラフトコポリマー、シリコーンオイル、リン酸エステル等が挙げられる。無機微粒子としては、カーボンブラック、アルミニウム、二硫化モリブデン等が挙げられる。有機微粒子としては、ポリエチレンワックス等が挙げられる。
【0034】
各染料層は、それぞれ各特定の染料、バインダー樹脂及び所望により添加する添加剤と、溶剤とを含有する染料インキから形成されるものである。溶剤としては、染料インキの材料として従来公知のものであれば特に限定されず、例えば、アセトン、メタノール、水、メチルエチルケトン、トルエン、エタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド〔DMF〕、酢酸エチル、これらの溶剤の混合溶剤等が使用でき、なかでも、メチルエチルケトンとトルエンとの混合溶剤が好ましい。
【0035】
各染料インキは、例えば、ペイントシェーカー、プロペラ型攪拌機、ディゾルバー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、2本ロールミル、3本ロールミル、超音波分散機、ニーダー、ラインミキサー、2軸押出機等の従来公知の製造方法を用いて調製することができる。
【0036】
各染料層は、例えば、ワイヤーバーコーティング、グラビア印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の従来公知の方法で上述の各染料インキを上記基材に塗工することにより形成することができる。
【0037】
塗工方法としては、グラビアコーティングが好ましい。また、塗工においては、特に限定されないが、60〜120℃の温度にて1秒〜5分程度乾燥することが好ましい。各染料インキの乾燥が不充分であると、地汚れや巻取りにした際に染料インキが裏移りし、更にその裏移りした染料インキが巻き返した際に異なる色相である染料層に再移転する、いわゆるキックバックが生じることがある。
【0038】
各染料インキは、乾燥塗布量が好ましくは0.2〜3.0g/m程度、より好ましくは0.4〜1.0g/m程度となるよう塗布すればよい。
【0039】
熱転写シートを構成する基材は、後記する染料層を支持するためのものであり、公知の材料を使用することができる。具体的には、従来公知のある程度の耐熱性と強度を有するものであれば何れのものでもよく、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルフィドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリサルホンフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、セロハン、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム、ポリイミドフィルム、アイオノマーフィルム等の樹脂フィルム等が挙げられる。
【0040】
上記基材は、厚さが一般に約0.5〜50μmであり、好ましくは約3〜10μmである。
【0041】
基材は、必要に応じ、その一方の面又は両面に接着処理を施していてもよい。基材上に染料層を形成するための染料インキを塗布して形成する場合、塗工液の濡れ性、接着性等が不足しやすいので、接着処理を施すことが好ましい。上記接着処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、低温プラズマ処理、プライマー処理、グラフト化処理等、公知の樹脂表面改質技術をそのまま適用することができる。また、それらの処理を二種以上併用することもできる。
【0042】
さらに、上記基材の接着処理として、基材上に接着層を塗工して形成することも可能である。接着層は、例えば、以下の有機材料及び無機材料から形成することができる。上記有機材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレンアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂やポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン及びその変性体等のビニル系樹脂、ポリビニルアセトアセタールやポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール系樹脂等が挙げられる。上記無機材料としては、シリカ(コロイダルシリカ)、アルミナあるいはアルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、カチオン性アルミニウム酸化物又はその水和物、疑ベークマイト等)、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン等のコロイド状無機顔料超微粒子等が挙げられる。
【0043】
プライマー処理は、プラスチックフィルムを延伸処理して製造する場合、未延伸フィルムにプライマー液を塗布し、その後に延伸処理して行うこともできる。
【0044】
<その他の層>
本発明による熱転写シートは、上述の各染料層を形成する面と反対側の基材面上に、耐熱滑性層が形成されていてもよい。耐熱滑性層は、ステッキングや印画しわ等、熱転写時にサーマルヘッドの熱が原因で生じる問題を防止するために設けるものである。
【0045】
耐熱滑性層は、主に耐熱性樹脂からなるものである。耐熱性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン又はエポキシのプレポリマー、ニトロセルロース樹脂、セルロースナイトレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテート−ヒドロジエンフタレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0046】
耐熱滑性層は、上記耐熱性樹脂に加え、滑り性付与剤、架橋剤、離型剤、有機粉末、無機粉末等の添加剤を配合してなるものであってもよい。
【0047】
耐熱滑性層は、一般に、上述の耐熱性樹脂、並びに、所望により添加する上記滑り性付与剤及び添加剤を溶剤中に加えて、各成分を溶解又は分散させて耐熱滑性層塗工液を調製した後、該耐熱滑性層塗工液を基材の上に塗工し、乾燥させて形成することができる。
上記耐熱滑性層塗工液における溶剤としては、上述の染料インキにおける溶剤と同様のものを使用することができる。
【0048】
耐熱滑性層塗工液の塗工法としては、例えば、ワイヤーバーコーティング、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等が挙げられるが、なかでもグラビアコーティングが好ましい。耐熱滑性層塗工液は、乾燥塗布量が好ましくは0.1〜3g/m、より好ましくは1.5g/m以下となるよう塗布すればよい。
【0049】
本発明の熱転写シートは、基材上に上述の染料層を有するものであれば、上記基材と染料層との間に下引き層等が設けられていてもよい。下引き層は、特に限定されず、基材と染料層との接着性を向上させる組成を適宜選択して設けることができる。
【0050】
本発明による熱転写シートは、画像形成後に画像面を保護する保護層を転写できるよう、更に、上述の染料層と面順次に転写保護層を形成したものであってもよい。転写保護層の構成及び調製は、特に限定されず、使用する基材シート、染料層等の特徴に応じて、従来公知の技術より選択することができる。また、転写保護層は、基材フィルムが離型性でない場合、基材フィルムと転写保護層との間に剥離層を設けて、転写保護層の転写性を向上させることが好ましい。
【0051】
本発明による熱転写シートは、基材の染料層を設けた側と反対側にサーマルヘッド等により所定箇所を加熱・加圧し、染料層のうち印字部に相当する箇所の染料を被転写材に転写させて印画することができる。
【0052】
被転写材として熱転写受像シート等を使用することができる。熱転写受像シートとしては、記録面が染料受容性を有するものであれば特に限定されず、例えば、紙、金属、ガラス、合成樹脂等の基材の少なくとも一方の面に染料受容層を形成したものを挙げることができる。熱転写を行う際に使用するプリンターとしては、特に限定されず、公知の熱転写プリンターを使用することができる。
【実施例】
【0053】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明が実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1
1000ml4頭フラスコに、100gの2−エトキシ安息香酸エチル(0.52mol)とトルエン500mlと21.1gのアセトニトリル(0.52mol)とを加え、氷浴中で攪拌した。その後、57.7gのカリウム−t−ブトキシド(0.52mol)を約10分かけて投入した。反応液は白色のスラリー状態であった。その後、反応系を室温に戻し1時間攪拌した。水浴中反応系に水100mlを3分かけて滴下したところ、反応液が2層に分離した。水層を回収し、油層を50mlの水で2回洗浄し、洗浄水も水層として回収した。
得られた水層に、11.1Mの濃塩酸50ml(0.55mol)を用いて水浴中でpH1程度まで中和すると結晶が析出した。これをろ過し結晶を60℃で一晩乾燥させて目的の化合物A1を57.2g(0.32mol)得た。収率は59%であり、純度はHPLC単純面積比94%であった。合成スキームを以下に示す。
【0055】
【化9】

【0056】
500ml4頭フラスコ中に、89.0gの化合物A1(0.47 mol)とメタノール90mlとを投入し攪拌した。反応液は褐色のスラリー状態であった。その後、水浴中で反応液にヒドラジン一水和物23.5g(0.47mol)を約3分かけて滴下した。この後、2.5時間加熱還流を行った。反応液を、ロータリーエバポレーターを用いて約50℃で濃縮し、オイルを得た。得られたオイルを酢酸エチル400mlで溶解し、飽和重曹水100mlを用いて分液した。その後、飽和食塩水100mlを用いて乾燥し、油層をロータリーエバポレーターを用いて40℃で濃縮することにより、目的の化合物A2を90g得た。収率は94%であり、純度はHPLC単純面積比93%であった。合成スキームを以下に示す。
【0057】
【化10】

【0058】
続いて、5000ml4頭フラスコ中に、94gの化合物A2(0.46mol)と、メタノール500mlとを投入した。その後、水浴中でアセトニトリルとメタノールとから得られるイミデート塩酸塩(化合物A3)を50.39g(0.46mol)加え、室温で1時間反応させて化合物A4を得た。この化合物A4を含む反応系に、別途調整した34.5gの塩酸ヒドロキシルアミン(0.46mol)と、44.4gの28%ソジウムメチラートメタノール溶液(0.23mol)と、メタノール350mlとからなる溶液をろ過したものを、水浴中で約5分かけて滴下した。その後、反応系を加熱還流(65 ℃)下5時間攪拌した。反応液をそのまま室温まで冷却し1晩(12.5時間)攪拌を続けた。その後、反応液に2.4Lの水を加えると反応液から固体が析出し、スラリー状態となった。このスラリーをろ過し、得られた結晶をメタノール40mlにて1時間加熱環流中懸濁した。その後、攪拌を続けながら放冷した。室温まで冷えたところで、氷浴中にて冷却しながら攪拌した。その後、ろ過を行い目的の化合物A5を24.3g得た。収率は20%であり、純度はHPLC単純面積比96%であった。合成スキームを以下に示す。
【0059】
【化11】

【0060】
次に、500ml4頭フラスコに、9.8gの化合物A5(38mmol)と、アセトニトリル10mlと、ジメチルアセトアミド10mlとを加え攪拌した。反応液は褐色のスラリー状態であった。その後、水浴中で7.2gの塩化p−トルエンスルホニルクロライド(38mmol) を約10分かけて投入した。続いて水浴中に3.0gのピリジン(38mmol)を3分かけて滴下した。このときも反応液は褐色のスラリー状態であった。室温で30分攪拌後、TLC(クロロホルム/メタノール6/1)により化合物A5が消失したことを確認した。その後、反応系にメタノール70mlを加え、3.0gのピリジン(38mmol)を3分かけて滴下した。次いで、加熱還流下(温度65℃)2.5時間攪拌した。TLCにより化合物A6が消失したのを確認した。その後、反応液に酢酸エチル300mlを加えて、これを水300mlで3回洗浄した。油層を回収し、ロータリーエバポレーターを用いて約50℃で濃縮し、オイルを得た。得られたオイルをメタノール10mlにて加熱還流(65℃)下で20分間懸濁した。冷却後、反応系をろ過して得られた結晶を、0℃に冷やしたメタノールで洗浄することにより目的の化合物A7を3.76g得た。収率は41%であり、純度はHPLC単純面積比91%であった。合成スキームを以下に示す。
【0061】
【化12】

【0062】
500ml4頭フラスコに、10gの6−クロロ−3−ニトロ−2−ピコリン(58mmol)と、アセトニトリル100mlと、5.1gの炭酸カリウム(30mmol)とを投入し水冷下で攪拌した。その後、反応系に5.9gのジ−n−プロピルアミン(0.58mmol)を滴下した。その後、加熱還流下(温度65℃)8時間攪拌した。HPLCにより6−クロロ−3−ニトロ−2−ピコリンが消失したことを確認した。その後、反応液をろ過し、ろ液を水100mlで分液した。回収した油層を、ロータリーエバポレーターを用いて約50℃で濃縮し、12.1gのオイルを得た。得られたオイルをESIMSにて測定し、目的の化合物A8であることを確認した。収率は88%であり、純度はHPLC単純面積比96%であった。合成スキームを以下に示す。
【0063】
【化13】

【0064】
次に、500ml4頭フラスコに、10gの化合物A8(47mmol)と、エタノール100mlと、3.0gのパラジウム−炭素(5wt%)とを投入し、1気圧の水素ガスと反応させた。そのまま室温で3時間攪拌し、TLC(クロロホルム/メタノール6/1)により化合物A8の消失を確認した。反応液をろ過後、ろ液に4N塩酸ジオキサン100mlを加えて室温で20分間攪拌後、反応液から固体が析出し、スラリー状態となった。そのまま1時間氷浴中で攪拌し、このスラリーをろ過して目的の化合物A9を9.32g得た。収率は96%であった。合成スキームを以下に示す。
【0065】
【化14】

【0066】
上記で得られた1.8gの化合物A7(7.4mmol)にメタノール20mlを加え、2.07gの水酸化ナトリウムと、4.15gの化合物A9(14.8mmol)と加えた。その後、反応液に、水9mlに4.40gの過硫酸ソーダ(18.5mmol)を溶かした水溶液を滴下した。1時間攪拌後、反応液をろ過し、得られた固体を40℃の温水で1時間懸濁した。懸濁液をろ過後、得られた固体をトルエンに溶解させてシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、目的の化合物Aを2.12g得た。収率は64%であった。得られた化合物をH HNRにより同定した。分析結果は以下の通りであった。
1H NMR、δ(ppm) (多重度、積分値) (CDCl3) 9.23(d, 1H), 7.58(dd, 1H), 7.43(m,1H), 7.02(m,2H), 6.62(d,1H), 4.07(q, 4H), 3.55(q, 4H), 2.58(s, 3H), 2.42(s, 3H), 1.69(m, 4H), 1.28(t, 3H), 0.95(t, 3H)
【0067】
【化15】

【0068】
実施例2
実施例1の化合物の合成工程において、化合物A9に代えてPYCD(PIインドスタリアル社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして下記化合物Bを得た。得られた化合物をH NMRにより同定した。分析結果は以下の通りであった。
1H NMR、δ(ppm) (多重度、積分値) (CDCl3) 9.23(d,1H), 7.59(dd,1H), 7.41(dt,1H), 7.01(m,2H), 7.63(d,1H), 4.05(q,2H), 3.64(q,4H), 2.56(s,1H), 2.41(s,1H), 1.24(m,9H)
【0069】
【化16】

【0070】
実施例3
実施例1で用いた化合物A7に代えて化合物C7を使用した以外は実施例1と同様にして下記化合物Cを得た。得られた化合物をH NMRにより同定した。分析結果は以下の通りであった。
1H NMR、δ(ppm) (多重度、積分値) (CDCl3) 9.25 (d,1H), 7.59(ss,1H), 7.43(dt,1H), 7.03(m,2H), 6.64(d,1H), 4.96(t,2H), 3.56(q,4H), 2.60(s,3H), 2.43(s,3H), 1.69(m,6H), 0.97(t,3H), 0.89(t,3H)
【0071】
【化17】

【0072】
上記で使用した化合物C7は以下のようにして合成した。先ず、1000ml4頭フラスコに、100gの2−n−プロポキシ安息香酸メチル(0.52mol)と、トルエン300mlと、21.1gのアセトニトリル(0.52mol)とを投入し、氷浴中で攪拌した。その後、57.8gのカリウム−t−ブトキシド(0.52mol)を約10分かけて加えた。反応液は白色のスラリー状態であった。その後、反応系を室温に戻し1時間攪拌した。HPLCにより反応が完結したことを確認した。水浴中で反応系に水100mlを3分かけて滴下したところ、反応液が2層に分離したので、水層を回収し、油層は水100mlで洗浄し、洗浄水も水層として回収した。得られた水層に、濃塩酸を用いて水浴中でpH2程度まで中和すると水層から結晶が析出した。この結晶を酢酸エチル300mlで溶かし再び分液し、水層を酢酸エチル200mlで2回抽出した。油層をロータリーエバポレーターを用いて約50℃で濃縮し、オイルを得た。得られたオイルは常温で固体であった。このようにしてオイル状の化合物C1を73.9g得た。収率は71%であり、純度はHPLC単純面積比90%であった。合成スキームを以下に示す。
【0073】
【化18】

【0074】
次いで、水浴にした500ml4頭フラスコ中の72gの化合物C1(0.35mol)にメタノール70mlを加えた。その後、水浴中で反応系に、17.7gのヒドラジン1水和物(0.35mol)を5分かけて滴下した。この後、2.5時間加熱還流を行った。反応液をロータリーエバポレーターを用いて50℃で濃縮し、オイルを得た。得られたオイルを、酢酸エチル300mlで溶解し、これに飽和重曹水100mlを加えて分液した。その後、飽和食塩水を用いて乾燥し、油層をロータリーエバポレーターを用いて50℃で濃縮した。得られたオイルをトルエン300ml中に溶かしヘキサン2000mlを滴下して、目的の化合物C2を51.2g得た。収率は67%であった。
【0075】
【化19】

【0076】
続いて、1000ml4頭フラスコ中に、50gの化合物C2(0.23mol)と、メタノール250mlとを投入した。その後、水浴中で反応系に、25.2gの化合物A3(0.23mol)を加え、室温で1時間反応させて、化合物C4を得た。化合物C4を含む反応系に、別途調整した16.0gの塩酸ヒドロキシルアミン(0.23mol)と、36.8gの28%ソジウムメチラート(0.23mol)と、メタノール150mlとからなる溶液をろ過したものを、水浴中で反応系に約5分かけて滴下した。その後、反応系を加熱還流(65℃)下3時間攪拌した後、反応系をろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターを用いて約50℃で濃縮し、オイルを得た。得られたオイルにMeOH32mlを加え再結晶を行い、目的の化合物C5を16.8g得た。収率は27%であり、純度はHPLC単純面積比で94%であった。合成スキームを以下に示す。
【0077】
【化20】

【0078】
500ml4頭フラスコに、16.0gの化合物C5(58mmol)と、アセトニトリル16mlと、ジメチルアセトアミド16mlとを投入し攪拌した。反応液は褐色のスラリー状態であった。その後、水浴中で反応系に、11.0gの塩化p−トルエンスルホニルクロライド(58mmol)を約10分かけて投入した。続いて水浴中で反応系に4.6gのピリジン(58mmol)を3分かけて滴下した。このときも反応液は褐色のスラリー状態となった。室温で30分攪拌後、TLC(クロロホルム/メタノール6/1)により化合物C5が消失したことを確認した。その後、反応系にメタノール128mlを加えて、4.6gのピリジン(58mmol)を3分かけて滴下した。その後、加熱還流下(温度65℃)2.5時間攪拌した。TLCにより化合物C5が消失したのを確認した。その後、反応系に酢酸エチル300mlを加え、反応液を水300mlで3回洗浄した。油層をロータリーエバポレーターを用いて約50℃で濃縮し、オイルを得た。得られたオイルにメタノール10mlを加え、加熱還流(65℃)下で20分間懸濁した。冷却後ろ過により得られた結晶を、0℃に冷やしたメタノールで洗浄して目的の化合物C7を6.8g得た。収率は41%であり、純度はHPLC単純面積比98%であった。合成スキームを以下に示す。
【0079】
【化21】

【0080】
実施例4
実施例3において用いた化合物A9に代えて実施例2で用いたPYCD(PIインドスタリアル社製)を用いた以外は、実施例3と同様にして下記化合物Dを得た。得られた化合物をH NMRにより同定した。分析結果は以下の通りであった。
1H NMR、δ(ppm) (多重度、積分値) (CDCl3) 9.26(d,1H), 7.60(d,1H), 7.45(t,1H), 7.04(m,2H), 6.66(d,1H), 3.96(t,2H), 3.67(q,4H), 2.59(s,3H), 2.44(s,3H), 1.69(q,2H), 1.26(t,6H), 0,89(t,3H)
【0081】
【化22】

【0082】
実施例5
実施例3で用いた化合物A9に代えて、化合物A10を使用した以外は実施例3と同様にして下記化合物Eを得た。化合物A10は、実施例1における化合物A8の合成の際に、ジプロピルアミンに代えてジブチルアミンを作用させ、化合物A9の合成と同様の反応を行うことにより得た。
得られた化合物EをH NMRより同定した。分析結果は以下の通りであった。
1H NMR、δ(ppm) (多重度、積分値) (CDCl3) 9.23(d,1H), 7.58(d,1H), 7.43(t,1H), 7.02(m,2H), 6.62(d,2H), 3.95(t,2H), 3.58(q,4H), 2.59(s,3H), 2.41(s,3H), 1.65(m,6H), 1.37(m,4H), 0.97(t,6H), 0.88(t,3H)
【0083】
【化23】

【0084】
実施例6
実施例1において使用した化合物A7に代えて、下記化合物E7を使用した以外は実施例1と同様にして下記化合物Fを得た。得られた化合物をH NMRにより同定した。分析結果は以下の通りであった。
1H NMR、δ(ppm) (多重度、積分値) (CDCl3) 9.24(d,1H), 7.60(t,1H), 7.47(m,1H), 7.05(m,2H), 6.63(d,1H), 3.83(s,3H), 3.56(m,4H), 2.58(s,3H), 2.43(s,3H), 1.70(m,4H), 0.96(t,6H)
【0085】
【化24】

【0086】
上記で使用した化合物E7は以下のようにして合成した。先ず、1000ml4頭フラスコに、86.4gの2−アニス酸メチル(0.52mol)と、トルエン300mlと、21.1gのアセトニトリル(0.52mol)とを投入し、氷浴中で攪拌した。その後、反応系に57.8gのカリウム−t−ブトキシド(0.52mol)を約10分かけて加えた。反応液は白色のスラリー状態であった。その後、反応系を室温に戻し1時間攪拌した。HPLCにより反応が完結したことを確認し、水浴中で反応系に水100mlを3分かけて滴下した。そのまま攪拌すると反応系の結晶が溶解し反応液は2層に分離した。反応液を分液して水層を回収し、油層は水100mlで洗浄し、洗浄水も水層として回収した。得られた水層に、濃塩酸を用いて水浴中でpH2程度まで中和すると結晶が析出した。この結晶を酢酸エチル300mlで溶かし再び分液し、水層を酢酸エチル200mlで2回抽出した。油層をロータリーエバポレーターを用いて約50℃で濃縮し、化合物E1を56.5g得た。収率は62%であり、純度はHPLC単純面積比93%であった。合成スキームを以下に示す。
【0087】
【化25】

【0088】
次いで、水浴にした500ml4頭フラスコ中の55gの化合物E1(0.31mol)にメタノール55mlを加えた。その後、水浴中で反応系に、15.5gのヒドラジン一水和物(0.31mol)を5分かけて滴下した。この後、2.5時間加熱還流を行った。反応液をロータリーエバポレーターを用いて50℃で濃縮し、オイルを得た。得られたオイルを酢酸エチル300mlで溶解後、飽和重曹水100mlを用いて分液した。その後、飽和食塩水を用いて乾燥し、油層をロータリーエバポレーターを用いて50℃で濃縮し、目的の化合物E2を58.0g得た。収率は99%であった。
【0089】
【化26】

【0090】
続いて、1000ml4頭フラスコに、43.5gの化合物E2(0.23mol)と、メタノール200mlとを投入した。その後、水浴中で反応系に、25.2gの化合物A3(0.23mol)を加え、室温で1時間反応させて化合物E4を得た。化合物E4を含む反応系に、別途調整した16.0gの塩酸ヒドロキシルアミン(0.23mol)と、36.8gの28%ソジウムメチラート(0.23mol)と、メタノール150mlとからなる溶液をろ過したものを、水浴中で反応系に約5分かけて滴下した。その後、反応系を加熱還流(65℃)下3時間攪拌した後、ロータリーエバポレーターを用いて約50℃で濃縮し、オイルを得た。得られたオイルにMeOH22mlを加え再結晶を行い、目的の化合物E5を16.4g得た。収率は29%であり、純度はHPLC単純面積比で94%であった。合成スキームを以下に示す。
【0091】
【化27】

【0092】
500ml4頭フラスコに、15.0gの化合物E5(61mmol)と、アセトニトリル15mlと、ジメチルアセトアミド15mlとを投入し攪拌した。反応液は褐色のスラリー状態であった。その後、水浴中で反応系に、11.0gの塩化p−トルエンスルホニルクロライド(58mmol)を約10分かけて加えた。続いて、水浴中で反応系に、4.6gのピリジン(58mmol)を3分かけて滴下した。このときも反応液は褐色のスラリー状態となった。室温で30分攪拌後、TLC(クロロホルム/メタノール6/1)により化合物E5が消失したことを確認した。その後、反応系にメタノール128mlを加え、4.6gのピリジン(58mmol)を3分かけて滴下した。その後、加熱還流下(温度65℃)2.5時間攪拌した。TLCにより化合物E6が消失したのを確認した。その後、反応系に酢酸エチル300mlを加え反応系を水300mlで3回洗浄した。油層をロータリーエバポレーターを用いて約50℃で濃縮し、オイルを得た。得られたオイルにメタノール10mlを加え、加熱還流(65 ℃)下で20分間懸濁した。冷却後、ろ過を行い得られた結晶を0℃に冷やしたメタノールで洗浄し、目的の化合物E7を10.4g得た。収率は75%であり、純度はHPLC単純面積比96%であった。合成スキームを以下に示す。
【0093】
【化28】

【0094】
実施例7
実施例6で用いた化合物A9に代えて、実施例5で用いた化合物A10を用いた以外は実施例6と同様にして下記化合物Gを得た。得られた化合物をH NMRにより同定した。分析結果は以下の通りであった。
1H NMR、δ(ppm) (多重度、積分値) (CDCl3) 9.39(d,1H), 7.60(m,1H), 7.46(t,1H), 7.06(m,2H), 6.63(d,1H), 3.83(s,1H), 3.58(m,4H), 2.58(s,3H), 1.63(m,4H), 1.37(m,4H), 0.97(t,6H)
【0095】
【化29】

【0096】
実施例8
実施例6で用いた化合物A9に代えて、実施例2で用いたPYCD(PIインドスタリアル社製)を用いた以外は、実施例6と同様にして下記化合物Fを得た。得られた化合物をH NMRにより同定した。分析結果は以下の通りであった。
1H NMR、δ(ppm) (多重度、積分値) (CDCl3) 9.26(d,1H), 7.60(m,1H), 7.47(t,1H), 7.05(m,2H), 6.65(d,1H), 3.83(s,1H), 3.69(m,4H), 2.57(s,3H), 2.44(s,3H), 1.25(t,6H)
【0097】
【化30】

【0098】
比較例1
特許第3013137号公報に記載の下記化合物D−9を準備した。
【0099】
【化31】

【0100】
比較例2
マゼンタ色素であるC.I.ディスパースバイオレット26を準備した。
【0101】
比較例3
特許第3013137号公報に記載の下記比較色素Aを準備した。
【0102】
【化32】

【0103】
<染料リボンの作製>
上記で得られた各アゾメチン化合物A〜Gを2.5質量部と、バインダーとしてポリビニルアセタール樹脂(KS-5、5%ワニス、積水化学製)を70重量部と、溶剤(トルエン/メチルエチルケトン=1/1)を21.7質量部とを混合攪拌してマゼンタインキを調製した。得られた各インキを厚さ4μmの基材(4WF597、東レ製)上にバーコーターを用いて、塗布量が0.5g/mとなるように塗布し、80℃で2分間乾燥させてマゼンタ染料リボンを作製した。
【0104】
<染料の評価>
OLYMPUS社製P−400プリンター専用のA4サイズスタンダードペーパーを被転写体として用いた。各染料リボンからなる熱転写シートの染料層と上記被転写体の染料受容面とを対向させて重ね合わせ、熱転写シートの裏面からサーマルヘッドを用いて熱転写記録を行い、印画エネルギーが等間隔となるマゼンタの階調画像を形成した。また、画像形成後上記P−400プリンター専用リボンのオーバーコートを熱転写した。なお、印画条件は以下の通りとした。
【0105】
印字条件
サーマルヘッド:F3598(東芝ホクト電子株式会社製)
発熱体平均抵抗値:5176(Ω)
主走査方向印字密度:300dpi
副走査方向印字密度:300dpi
印字電力:0.12(W/dot)
1ライン周期:2(msec.)
パルスDuty:85%
印字開始温度:35.5(℃)
【0106】
得られたマゼンタ画像をキセノンウェザオメター(アトラス社製、Ci4000:ブラックパネル温度45℃、フィルター:内側:CIRA、外側:ソーダライム、試験機内30℃、30%、照射制御420nmの紫外線を1.2W/mに固定)にて96時間照射(400kJ)を行い、照射前後の濃度変化(濃度残存率(%)=試験後濃度/初期濃度×100)および色相変化(照射前OD=1付近のΔEab=((照射後L−照射前L+(照射後a−照射前a+(照射後b−照射前b1/2(式中、L、a及びbは、CIE1976L表色系に基づくものであり、Lは明度を、a及びbは、知覚色度指数を表す。)を確認した。なお、側色条件は以下の通りとした。
【0107】
測色条件
測色器:分光測定器SpectroLino(Gretag Macbeth社製)
光源:D65
視野角:2°
濃度測定用フィルター:ANSI Status A
【0108】
得られた最大感度および最大ΔE*abは下記表1に示す通りであった。
【0109】
また、マゼンタインキを調製する際の各化合物の溶解性について、下記の評価基準により溶解性の評価を行った。
○:インキ調製後、10℃で24時間放置した後、色素が溶解していない
△:インキ調製後、25℃で24時間放置した後、色素は溶解しているが、10℃で24時間放置した後、色素の結晶が析出する
×:インキ調製後、20℃で24時間放置した後、色素の結晶が析出する
結果は下記表1に示される通りであった。
【0110】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される、アゾメチン化合物:
【化1】

(式中、
は、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基であり、
およびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)。
【請求項2】
およびRが、いずれもプロピル基またはブチル基である、請求項1に記載のアゾメチン化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアゾメチン化合物を製造する方法であって、下記式IIで表される化合物と下記式IIIで表される化合物とを、塩基の存在下、酸化剤で反応させることを含んでなる、方法。
【化2】

【化3】

【請求項4】
請求項1または2に記載のアゾメチン化合物からなる感熱転写記録用色素。
【請求項5】
イエロー染料層とマゼンタ染料層と、シアン染料層とを少なくとも含んでなる熱転写シートであって、
前記イエロー染料層、マゼンタ染料層およびシアン染料層の各層は、基材上に、染料色素とバインダー樹脂とを含んでなる染料層が設けられたものであり、マゼンタ色素が請求項4に記載の色素である、熱転写シート。

【公開番号】特開2010−235788(P2010−235788A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85637(P2009−85637)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】